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水野参考人 御紹介いただきました
水野でございます。
私は、
弁護士といたしまして
行政訴訟を何件か担当しております。それから
行政訴訟検討会の
委員を務めておりましたので、そういった
立場から
意見を申し上げたいと思います。
まず最初に、
行政訴訟の現状はどうかということでございます。これは、ある
意味では、今回の
改正法の立法事実、なぜこういう
改正ということが問題になるのかということにつながるわけでございますが、これは、我々
弁護士の
立場からいいますと、現在の
行政訴訟はもう絶望的であると言うしかないわけでございます。
まず最初に、
訴えを起こすときに何に悩むかといいますと、まずだれを
訴えるのかという被告の選定ですね。そして、どういう内容の
訴えをするのかということについてまず悩むわけであります。
実を言いますと、これは
弁護士の
先生方は御経験だと思いますけれども、訴状を出しまして、答弁書というのが参ります。答弁書が来るまでは、もうびくびくとしていますね。何か私が知らないことがあって、こういう
法律がある、こういう条例がある、こういう規則がある、そういう規則からすると、例えば権限が委任されておって、あなた被告を間違っているよというようなことを言われないかどうかということをびくびくしながら答弁書を待っている、これが実情でございます。プロでも間違えるというのが、
行政訴訟の
訴えの提起なんですね。
それから、訴状を出しまして、それじゃすぐに本格的な
裁判をやっていただけるかというと、それはそうはいかない。まず土俵に上げてもらうまでが大変なんですね。そもそもこれは
訴訟にならぬじゃないかという抗弁というのは、必ず被告の方から出てまいります。やれ
原告適格がない、やれ
処分性がないといったふうなことが出てまいりまして、いわゆる本案といいまして、中身の答弁というのは出てこない。
裁判になるかならないかで実は何カ月もやるわけであります。
裁判になるかならぬかということについて、例えば一審では
裁判になると言っておった、高裁へ行きますと、いや、そもそもこんなものは
裁判にならないよというようなことを言って、逆転をするといったふうなことがございます。
私は大阪国際空港の事件を担当いたしましたが、あれは実は民事
訴訟なんですけれども、これは
行政訴訟とも
関係があるので紹介いたしますが、要するに、人格権に基づいて、夜間の九時から十時まで一時間の飛行を
差しとめてほしい、こういう請求をしたんですね。一審、二審は、
訴え自体は適法だということで認めた。最高裁へ行きまして、三回も弁論をやりました。第一小法廷で一回、大法廷で一回、またさらに大法廷で一回。三回も最高裁で弁論を重ねた結果、そのあげくに、これはそもそも
訴え自体が間違っている、
訴えができないというんですね。こういう判断になったわけであります。
こういったのは、本当に、
日本の
行政に関する
訴訟の
制度がいかに貧困であるか、貧弱であるかということを示すものであります。つまり、
裁判ができるかできないかということについて十何年もかかって、最高裁の判決でも
意見が分かれるというふうなのは、
制度としてはおかしいですね。中身の勝ち負けなら別なんです。
裁判ができるかできないかについて、十何年もかかってようやく結論が出る。こういった
制度は、もう
制度としてはおかしい、欠陥があるということでございます。ですから、まず土俵に上げてもらうまでが大変だということが
一つ。
その次に、いよいよ土俵に上がって相撲が始まった。これは、大体が力が違うんですね。いわば横綱と幕下が相撲をしているみたいなものです。それは、横綱の側にはいろいろな財力もそれから情報量も与えられておる。一方、幕下の方はそういうものがない。なかなか勝負にならない。そして、いよいよ判決ということで、今度は珍しく相撲に勝ったというふうに思ってそして判決を待ちますと、実は判決には負けておった。つまり、相撲に勝って勝負に負けた、こういった例が幾つもあるわけでございます。
こういった
行政訴訟の欠陥というのはどこから来ておるのかということでございますけれども、これはまず第一に、何といっても現在の
行政事件訴訟法自体に、
法律自体に欠陥がある、これを変えなければならない、これが今回の
改正の
一つの目的でございます。
もう
一つはやはり、
行政に対する
司法が、最高
裁判所を頂点としまして余りにも消極的であった。つまり、
裁判所の姿勢を変えてもらわなければならない。先ほど
藤川さんが、世の中が変わっておる、それに応じて
行政訴訟も変わってもらわぬと困る、こうおっしゃいましたけれども、まさにこれは、
裁判官がそういった実情をよく認識して、そして
行政訴訟を変えていくという
意識がなければ困る。今回の
行政事件訴訟法の
改正の中では、
裁判所に対するそういったメッセージを強く出す、これが必要だろうと思うんですね。つまり、その
二つが必要ではないかというふうに思うわけでございます。
今回のこの
行政事件訴訟法の
改正は、
先生方を前に釈迦に説法のようでございますけれども、
行政改革を初めとする一連の構造
改革が行われてまいりました。事前規制から事後規制へという、事後
救済制度が
整備されていなければならないと。これが
行政改革に伴う当然の結論なんですね。したがいまして、今回の
行政訴訟の
改革というのは、ある
意味では
行政改革を初めとする
日本の構造
改革のいわば仕上げに当たると言っても過言ではないのではないか。そういう極めて重要な問題であるというふうに私は認識しているところでございます。
今回の
改正案につきましては、もうこの
委員会でもかなり御議論なさっておるようでございますので、時間の
関係もありますので余り詳しくは申し上げませんが、まず第一には、
取り消し訴訟中心主義が見直されるということになった。これは先ほど
塩野先生もおっしゃいましたけれども、その点は評価できると思います。これは、義務づけ
訴訟、
差しとめ
訴訟といった新しい
訴訟類型を明文で決めたということ、それから
確認訴訟を活用するということを条文の中に取り込んだということ、これが
一つでございます。
二番目は、
被告適格を変えるということにいたしました。これは先ほど言いましたように、被告の選定については大変
弁護士が悩むところでございまして、そういった技術的な困難性といいますか、そういったツケを、いわばそのリスクを
国民に負担させておったのがこれまでの状況であったわけなんですけれども、それを
改正する、これは大変大きなことだと思います。
それから、
原告適格を
拡大するという方向が打ち出されました。これも結構なことだと思っております。
さらには、仮の
救済制度を
整備した。これは、今まで
執行停止だけでしたけれども、いわゆる仮の義務づけ、仮の
差しとめといった
制度も設けることになったといったようなこと。
それから、
処分の根拠となった
資料、裁決の記録を
提出するということが
釈明処分として認められた。
こういったことで、今回の
改正については私としては、
検討会の
委員としては手前みその感じがするかもわかりませんが、それなりの
改革が
提案できているのではないかというふうに思っているところでございます。
そこで、この
法律案が成立した暁のことでございますが、まず
一つは、この
法律がやはり実際に、この国会で審議された意思に従って、実効のあるものとして活用されなければならないというふうに思います。そのためには、この
法律がどういう
趣旨で制定されたものかといったふうなことについて十分周知する必要があるだろう。この周知の
方法ということについて考えていただく必要があるのではなかろうかというふうに思うわけでございます。
もちろん、立法というのは、
法律が成立した後、ひとり歩きするわけでございます。
裁判官が自分の独立の判断で、解釈でこれを判断するわけでございますけれども、やはりそうはいっても、立法者の意思、立法をして社会の方向をある一定の方向に導こうというのは、これは立法府である国会の
役割でありますから、国会がどういう意図でこの
法律をつくったのかということを十分に知らしめるというのは極めて重要なことだろうというふうに思うわけでございます。
そのためには、例えばこういった
委員会での議論、これが十分に伝わることが重要でございますし、さらには、例えば附帯決議といったふうな形で立法者の意思を十分にお伝えいただくということが極めて重要になってくるのではないかというふうに考えているところでございます。
もう
一つは、
藤川さんもおっしゃいましたけれども、積み残し課題でございます。
検討会では、今回の
改正案に盛り込まれた
事項以外に、いろいろな問題について幅広く
検討をいたしました。しかし、今回の
改正案の段階までには、残念ながら時間切れで十分な成案を、
意見の一致を見るところまでいかなかったものが幾つもございます。そういった
行政訴訟の根本的な
改革についての議論を、さらに今後続けていく必要があるだろうというふうに思っているわけでございます。
これは、
一つには、そもそも
行政訴訟の目的というのは何なのか、民事
訴訟とは別に
行政訴訟というのを設けるのはどこにその必要性があるのか、どこに
理由があるのかという、
行政訴訟の目的ということを根本的に考える必要があるだろうというふうに思いますし、現在もなお
取り消し訴訟というのが
一つの大きな核になっているというこの
行政訴訟制度のあり方自体を根本的に考えていく必要があるだろう。これはかなり根本的な議論でございますが、そういったところから議論をしていく必要があるだろうというふうに思います。
それから、
藤川さんもおっしゃいましたように、裁量
審査の基準といったふうなことについても、これは何らかの明確な規定を設ける必要があるのではないかというふうに思いますし、団体が
訴えを起こせるという団体
訴訟の導入、そういったことも
検討する必要があるだろうと思います。
それから、これは今すぐにでもやろうと思ったらやれることでございまして、今回の
改正案に盛り込むべきだと私なんかも主張したわけでございますが、
一つは
訴え提起の手数料の問題でございます。
これは現在、民事
訴訟費用法に準じておりまして、
訴訟物の価額に応じて印紙を張るということになっておるわけでございまして、例えば一億円の課税
処分の
取り消し訴訟ということになりますと、それに応じた印紙を張れということになっております。しかしながら、
行政事件というのは、これはいわば個人の
権利救済の面もございますが、ある
意味では
行政の違法をただすという面もあるわけでございまして、そういった面からいたしますと、これは特別に一律の低額の印紙でいいという
制度にするべきではないかというふうに思うわけでございます。
これは、例えば国税でいいますと、国税不服審判所というのがございまして、そこで不服審判をやる。この場合には印紙も何も要らないんですね。同じ国がやっておる、
裁判所に準じたような国税不服審判所では印紙はただだ。ところが、
裁判所に行きますと何百万も印紙を張らないかぬというのはおかしい。
あるいは、例えば大型のダムだとか道路だとか、何百億もかかるような事業についての
裁判をやるときには、これは算定不能ということで何千円の印紙でよろしい。ところが、今言いましたように、金額のあるものについては何百万といった大きな印紙を張らなければならない。これもまたバランス上おかしいわけでございまして、そういう
意味からいたしますと、
行政事件の手数料というのはやはり一律低額にすべきではないかというふうに思います。
それから、
弁護士費用の片面的敗訴者負担
制度の導入ということでございます。これは、
原告が
裁判に勝ったという場合、これは
裁判所によって
行政の違法がただされたということになるわけでありまして、そもそも
裁判まで起こして
行政の違法をただした、これはもともと
行政が違法な行為をしたからということになるわけであります。その場合に、やはり
原告が負担した
弁護士費用というのは、これは
行政側で負担すべきではないかということでございます。こういった
制度は、私はすぐにでも実現可能な
制度だというふうに思っておるわけでありまして、こういったものについても実現していく必要があるだろうというふうに思います。
さらには、
藤川さんも御
指摘がありました納税者
訴訟、こういったものも
検討していく必要があると思っております。
こういったことを
検討するための新たな組織というのをきちっとつくる必要があるだろう。附則には五年後の
見直しというのがございますが、これは、今回の
改正がどこまで実効的なものになっているかということの
見直しだと思います。しかし、私が今申しました、残された積み残しのテーマというのは、これとは別でございますから、やはり引き続きこれを
検討していく必要があるだろうというふうに思います。
最後に、今回の
改正案につきましては、極めて不十分じゃないかという御
意見もちょうだいしております。しかしながら、私は、やはりかなりの部分が
改革できるのではないかというふうに考えておるわけでございまして、
改革の第一歩として、この
法律、
改正案をぜひこの国会で通していただきたいということを
お願いいたしまして、
意見陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
〔
塩崎委員長代理退席、
委員長着席〕