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阪口参考人 公益通報支援センターの事務局長をしています
弁護士の
阪口といいます。
この団体は、一昨年の十月の二十九日に、大阪の
弁護士を中心として、
公益通報者に対するアドバイスをする団体として発足いたしました。具体的には、
公益通報者からメールなりファクスなりでいただいて、その上で、
弁護士が必要とすれば、その人に対するメールのやりとりをしたり手紙のやりとりをしたり、そして面談をして、この場合はここに行ってはどうでしょうか、あなたの場合はやめたらどうでしょうか、こういうような形でアドバイスをしているわけです。
現在のところ、大体二百二十件から三十件のいわゆる
通報があります。きょうの
資料の中に別表で、
通報内容として、平成十四年の十月二十四日から平成十五年の五月二十三日、これは去年までの分です。後は忙しくて我々の方は整理ができていない現状ですけれども、これで大体百何十件が来ています。その後、この一年の間で百件ぐらい来ています。大体、皆さんが見ているのは、我々の
公益通報センター、PISAという団体のホームページをつくっているんですけれども、それを見て
通報してきています。
私どもは、それを見ていろいろ
相談に乗った結果、この
法案についての
意見は、まず感想としては、この
法案ができた段階では私たちのアドバイスはやめようと思っています。なぜなれば、この
法案が極めてわからない、難し過ぎる。これを我々が下手にアドバイスしたら
弁護士の弁護過誤が
発生する。このような危険性のある、私が危険性と言うのも、難し過ぎてわからない
法律なんです。だから、私どもの方は、これは中止しようと思っています。
結論から言いますと、余りにも
通報内容が広いんです。二百二十件も三十件もありますと、これがどの
法律に当たるのかというのは全くわからないわけです。それを勉強しようと思ったら、これはもう我々がボランティアでやれる限界を逸しています。
この
法案の
内容、まず結論から言いますと、刑罰でもって罰せられる
犯罪行為に対してなぜ二重三重の足かせをしなければならないのか。私どもは、
弁護士としてだけではなくて市民の感覚からして、
犯罪行為をしている人が悪いじゃないですか、なぜそれを
通報するのに、ああだこうだ、あっちの道に行きなさい、こっちの道に行きなさい、それは
保護しませんよ、そんな道があるのですか。これはもう私どもの
弁護士の率直な感想です。
なぜなれば、
犯罪行為を行ってはならないというのは最低限のこの社会の
ルールなんです。もっと高度なレベルのことを
要求しているのではないんです。
犯罪なんです。それに対する
通報の制限ということに関しては、我々も、アドバイスも先ほどできないと言いましたけれども、いろんな意味で難し過ぎるということでの非常に不安を持っています。
同時に、この
外部通報に関しては、今までの判例で
一定程度を勝訴しているとか敗訴しているとかいう事例よりもかなり大幅に
後退するだろうというふうな
意見を持っています。
では、
内部告発というのは
濫用されているのか。
非常に
濫用されやすいということを言われます。だけれども私どもは、まず
濫用以前の問題として、やはり
犯罪行為の事実があるわけです。ないのにあるというのは、これはまさに
濫用です。そうすると、それを受け取った側はそんなことは相手にしないわけですね、
証拠がなければだれも相手にしないんです。だから、
濫用濫用とおっしゃるけれども、客観的な
犯罪事実がある。単に
犯罪があっただけではなくて、その
企業風土の中に、だれでも一回二回は上司に、これはおかしいんじゃないですかと言っているわけですね。何にもなしにぽんと外へは行かないわけです。だけれども、言ってもなかなか改善されない。だから我々のところに
相談が来るわけです、またマスコミに行くわけです。
という意味で、
濫用ということ自体は私はそれほど、むしろ
犯罪行為を行っていることをやめることの方が先決であって、
濫用濫用ということで
法律を制限する
理由にはならない、こう思います。
私は、この
法案の中で修正していただきたい点は、まず一つは、
行政機関に対する
通報。これは極めて難しいのです。なぜなれば、
犯罪行為に対する規制権限を持っている者に対してのみ
通報するわけです。ところが実際は、その
法律を探していくのは非常に大変なんですね。
私のレジュメの中に書きましたけれども、四ページです。例えば、補助金の不正受給といっても、いわゆる経済産業省所管の補助金もあるし、そして厚生労働省所管の補助金もあるし、地方自治体の補助金もあるし、独立
行政法人の補助金もあるわけです。そのときに、そういう
通報は、実はうちの
会社でこんなことをしているんですと。現場で詳しい人は別にして、
内部の経理をやっている人なんか結構
通報がある。こんなインチキしていますよ、本当はやっていないのにこんなことをやっていますといったときに、じゃ、どこへ行ったらいいんでしょうかと必ず
相談が来るわけです。
私どもはそれはわからないんですね、率直に言って。じゃ、どんな助成金ですか、
法律はどうなっているんですかと聞いても、経理の人はわからないです。そうなると、
弁護士はもともとそんなに業法については詳しくはありませんので、我々もわからない。結局、二時間ぐらいかけて、
法律を一生懸命めくって、ああ、ひょっとしたらこれらしいな、大体この辺に行ってはどうでしょうか、こういうことをやらなければ
通報先がわからないんです。
私の方はむしろ、通常の、じゃ、
行政機関に行きなさい、例えば国土交通省所管だったら、まず国土交通省に行ったらどうですかと大幅に言えたらいいわけです。ところが、その中の規制権限のある
行政機関と言われてしまいますと、これは極めて難しいです。素人の人もわからないし、
弁護士もわからない。恐らく国
会議員の皆さんでも、そんなばあっと二百件もある
相談になったら、どれがどこへ行っていいのかわからないのが率直じゃないかと思います。
そういう面では、私は、この「規制権限のある
行政機関」というのは「
行政機関」にしていただきたい。そうすれば、まあここへ行ったらどうでしょうかというアドバイスは楽にできるわけです。それを受け取った側は、規制権限のあるところに回付してくれたらいいわけです。その
法案の修正を最低限まずやっていただきたい。
もう一つは、規制権限があるのかないのかという問題、この五ページのところに書いています。
防衛庁と航空機の仕事を受注している
関係の告発などは、私どもに二件ほどありましたけれども、これは取引契約に基づく請負契約なんですね。規制権限がある
行政機関には防衛庁は当たらないと思います。契約上の規制権限があるだけなんですね。そうすると、防衛庁の工数を改ざんしているということに関しては、これはどこに行くかというと、規制権限がある
行政機関というのはどこかといったら
警察になる、
検察庁になるんですね、詐欺罪ですから。防衛庁に行ったらいかぬのです、これは
外部通報になるわけです。こんなばかな、ばかなと言ったらあれですが、こういう難しい
法律は私はおかしいと思います。
例えば、地方自治体が入札して請負契約をした。少なくとも、請負契約
関係については、これは公法上の
関係ですから自治体は規制権限を持っています。ただ、一たん契約をしてしまうと、今度は自治体は、その規制権限、契約上の権限しか持っていないわけです。だから、公法上の規制権限がある
行政機関と言われてくると、非常にまた難しい。もっと広く「
行政機関」としていただければ、これは非常に、改善はしやすいし、使いやすい、そしてわかりやすい
法律になると思います。
次は、
外部通報の問題。
これは
田中弁護士が言いましたけれども、私どもは
外部通報の件では、私のレジュメの中に、堺の地裁、大阪いずみ生協
事件と奈良地裁の判決を引用しておきました。
全部が全部、日本の社会の判例はまだできていませんけれども、どういう
考え方をするかというと、まず
基本的には、事実であるかどうか、これは今の
法案と同じなんですね。そしてその次には、その
犯罪事実がどれだけの重みを持つのかということを考慮するわけです。
犯罪事実の重みと、そして
通報者が行った
行為とをバランスにかけるわけです。ところが、この
法案の場合は、
外部通報の場合には、あなたは手続を踏みましたか、こんなことを言われましたかと、この形式論で切っていくわけです。
実は、奈良地裁のように、もともと
事業者が悪いことをしているんじゃないですか。それをすぐマスコミに言った。これは確かにおかしいといえばおかしいですよ、今の
法案では
保護されないわけです。だけれども、
事業者が悪いことをしているのに、
通報者も一部落ち度があったからといって
通報者だけを責めるというのは一体どういうことなんだ、これは極めて常識論なんです。ところが、この
法案の場合はそうではないのです、残念ながら。
私どもは、
外部通報の
要件の中に、
田中弁護士が言いましたけれども、一行入れてくれたらいいのです。「その他
外部通報するに当たって
相当な
理由がある場合」と。だから、「
相当な
理由」がなければもちろんだめですね。変な団体のところへ行かれて迷惑を受けるということもありますけれども、その
通報先とかその手段に
相当性がある場合。
例えば、私どもに
通報がありましたけれども、下請の
企業の社員が、親
企業に納入している商品についていろいろ隠匿を、ごまかしている事例があった。
内部で、彼はそこで言ったわけですね。そのときに、言ったけれども、常務の人らはそんなものは信用しなかった。そんなものはほっとけ、こんなものはまあこんなものなんだということで言った。仕方がないから、彼は良心にとがめて元請の部長に
相談したわけです。ところが、これは
内部の
情報を
外部に漏らしたと。その結果、彼は解雇されそうになった。
弁護士を頼んでやっと解雇が撤回できました、裁判までして。
これなどもまた、親
企業に行くというのは言うなら当たり前の話。一〇〇%子
会社ですから、そこへ納入するのは当たり前なんです。これも
外部通報に当たるわけです。こういうのは準
内部的な
立場なんですね。それから、粉飾決算における監査法人、これも一種の準
内部的な当事者です。しかし、現行の
法律では、これは
外部者、
外部の人間になる、
外部になるわけです。そうすると、第三条のイロハニホ、この
要件があるかないかという
審査になるわけです。
そんなことはないでしょう。日本の社会の一般の常識は、子
会社が不正
行為をしていたら、親
企業に
相談したからといってどうってことないじゃないですか。ところが、親
企業は
通報先に定めていない。じゃ、この人は
保護しない、こうなるわけです。これはやっぱり余りにも使いにくい
法律だし、市民の常識に反するという感じを私は持ちました。
もう一つ、
行政機関が今回この
法案の中では非常に重要な役割を果たすことになります。
行政機関が受け付けた段階で、それはやっぱり適切に処理してくれるのだ、
法律は表向きはそうなっています。だけれども、一番皆さん方が心配しているのは、本当は、
行政機関に言ったら、その秘密、自分の
情報が
企業に対して開示されてしまうのではないか。
これは、受け取った側は、
行政機関は当然守秘義務を持っていますから漏らしてはならないのは当然なんですけれども、私のレジュメにも書いたように、実際は漏らすわけです。なぜなれば、
行政機関としては、
内部告発があったからあなたの
会社に
調査に来ているんです、こう言わざるを得ないわけです。そうなると、本当に完璧な
資料があって行くんだったら別です、三菱自工のような
内部告発があって、あそことあそことあそこを回りなさいというんだったら別だ。だけれども、告発者というのはある断片の知識しか持っていないわけです。そういうときに
行政機関は
調査に行くわけです。そのときの説明として、
内部告発があったということは言わざるを得ない面があったにしても、どの部署からどういうものが、こう言っちゃうと、もう個人
情報が特定されちゃうわけです。
私どもに
通報があった件で、自衛隊のジェット機とかいろんなものを納入している業者の
会社が、中で工数を改ざんしているという
通報がありました。本来は防衛庁に出す
資料と
内部の実態は違うんです、数人でその
資料を書きかえているんです、こんなことをやっていたら自分も嫌だし、残業は多いしということでの
通報があったんです。
そのときに私どもは、では告発しましょうかどうしましょうかという
相談をしました。だけれども、その
通報を、防衛庁、今回
行政機関ではないですけれども防衛庁に言ったら、だれが
通報したかというのはおおよそわかっちゃうわけですね。そういうときに、やはり
行政機関が、少なくとも本人が希望するときは
情報を漏らさないというのを絶対に条文の中に入れるか、必ず附帯条項に入れていただきたい。そうでなければ、
行政機関に対する
通報は市民は恐らくしないでしょう。こういうことです。
最後に、大幅とは言いませんけれども、今言ったような修正をぜひ入れて、その上で
法案を成立させていただきたいと思います。
以上です。(拍手)