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峯本参考人 峯本です。どうぞよろしくお願いいたします。きょうは、どうもお招きありがとうございます。
私は、きょうは
弁護士ということで来ていますが、
大阪から来ました。
それで、
大阪で、今回
岸和田の
ケースというのは、
児童相談所、それから教育関係者にとっても非常にショッキングな
事件だったわけです。
私たち
弁護士にとっても、実は
大阪では、
児童相談所との公的な
弁護士との
連携制度がありまして、
児童虐待等危機
介入援助チームというのが
大阪府知事の委嘱でありまして、そこに
弁護士が就任しています。
大阪弁護士会で約三十名の
弁護士がその
委員に就任していまして、絶えず、常時、
児童相談所から
相談を受け、
ケース会議に
出席をし、
分離のときの代理人になるというような活動で
協働してやらせていただいています。ですから、私たちにとっても非常にショッキングな
事件で、ある種、ちょっと心の中にトラウマ、先ほど
西澤さんのお話にもありましたように、
大阪は一番先進的だと言われていましたので、正直言って大変ショックを受けています。
ただ、やはりあの子自身が乗り越えて、あの子自身が何とか回復してくれたらという思いがありますが、私たちは、やはりそこから教訓を導き出して
制度改革につなげていけたらというふうに思っていますので、ぜひよろしくお願いいたします。
私がまず最初に申し上げたいのは、今回、
岸和田の
ケースでは、不登校の背景のネグレクト、
虐待が問題になりましたが、不登校だけではなくて、
子供たちの問題行動、非行であるとか
学校における問題行動の背景にあるネグレクト、
虐待、それから
DVですね、
家庭内暴力の問題が実に深刻な
状況にあるということをお伝えしたいというふうに思います。
これは、もう
一般的に想像されているよりも、理解されているよりも激しく、大きく深刻な
状況にありまして、むしろ、
子供の非行の問題、問題行動の問題とかを突っ込んで、きちっと一個一個の
ケースをアセスメントしていきますと、ほぼ確実に、原則として、そういう不適切な養育環境の問題が見えてくると言っても過言ではないと思います。
大阪府の教育
委員会に、今、
子どもサポートグループというのが設置されていまして、どういうことをしているかといいますと、
学校で、
子供たちの問題行動になかなか
学校だけで対応できない重要な状態、
状況になったときに、
学校からの
支援要請を受けて、例えば、
子どもサポートグループがアドバイスを与える。それから、学生サポーターを派遣して、実際にクラスに入ってサポートをしてもらう。それから、私たち
弁護士とか臨床心理士が実際に
学校現場に行って、そこで
ケース会議を持って、個々のアセスメントをして、対応プランを
学校の
先生と一緒に考えるというようなことをやっています。
そこに参加して、実際に
ケース会議をやって、一個一個の情報を共有して、なぜこの子がこういうあれを示しているのか、この
学校はこういう問題を抱えているのかを見たときに、必ず家族の問題が見えてきます。
典型的なもので言えば、例えば、十五人、学年で非常にしんどい
子供がいる。授業をエスケープする、校内
暴力をするというような、非常にしんどい子がいるときに、その中で、キーになる子が五人ぐらいいてるとしましょう。それで、その五人の
子供たちのバックグラウンドをきちっとアセスメントしていったときには、ほぼ確実と言ってもいいぐらいにネグレクトであるとか
虐待、
DVの問題が見えてくる。それぐらい厳しい
状況にあります。
それから、不登校の問題につきましても、
文部科学省の統計では、家族に起因する不登校というのが、大体二〇%ぐらいの
数字が上がっていると思うんですけれども、実感としては、やはりもう少し高い。特に、遊び・非行型と無気力型で、全国平均で三分の一、
大阪は二分の一近い割合を占めているんですけれども、
大阪が多いのは、多分経済的なしんどさが反映していると思うんですが、遊び・非行型、無気力型のかなりの割合を家族の問題が占めていると考えていいだろうと思います。
これは、実際にある
学校の
ケースですが、一生懸命
虐待の問題にも取り組んで、マスコミでも取り上げられていた
学校ですけれども、そこの
学校で、不登校になった
子供たちの、まあ何とか頑張って別室登校、別室で登校させるというようなところまで持ってきている
ケースで、八名の
子供たちがいて、そのうちの四名は
虐待、ネグレクトが原因になっている、そういう例も報告されています。
ですから、一個一個の
ケースを本当に真剣に見ていったときには、そういう家族の問題が非常に深刻であるということがわかってきます。もちろん、これは、例えば中
学校で突然始まる問題ではありません。乳幼児期、それから小
学校期からずっと始まっている問題です。ですから、できるだけ早期に深くかかわってあげる、
支援をしてあげる。ですから、もちろん
介入が必要な
ケースもありますが、そこにどう早い段階で
支援できるかというのが、本当に問題がエスカレートしていくことを防ぐ上では
最大の
ポイントになってくると思います。
典型的なパターンとして、やはり家族の中の、簡単に言うと愛情不足といいますか、愛情を十分に受けられていない、それゆえに自尊心も十分に持てていない
子供たちが、
学校で、愛情要求の裏返しといいますか、居場所探しをするんですね。いびつな居場所探しが問題行動としてあらわれ、それに対して、
学校がうまくボタンをかけられなかったら、
学校の中でも居場所が見出せず、それらがいろいろな問題行動としてあらわれてくるし、さらに、外での非行につながっていく。
小
学校時代は問題がまだ小さいですけれども、それがだんだん思春期を迎えるにつれて大きくなってきて、中
学校になったときには、例えば、
学校不信であるとか教師不信とかも重なって、それが激しい問題行動としてあらわれるというのが、今の中
学校が抱えている典型的な問題のパターンだというふうに考えていただいていいと思います。ですから、そういう
意味では、数としては非常に深刻な
状況にあるんですね。
二番目に申し上げたいのが、では、そういう、例えば
学校が
福祉的な視点をきちっと持てるようになって、こういう
ケース、心配な
ケースを
児童相談所に
通告していったときに、それにたえられる体制には全くないということです。これまで繰り返しお話に出ていますが、あえて私の方からも申し上げたいというふうに思います。
イギリスでは、年間、大体十五万件ぐらいの
通告が行われています。その中で、いろいろな
調査が行われて、最終的に二万件から三万件の
子供たちが、毎年、
虐待の現実的な危険性がある
子供として登録されていく、そういう
状況にあります。そこで絞り込みが行われるわけですが、
日本の場合も、もし本当に今の
子供たちが抱えている問題をきちっとアセスメントしてそれに対応していく、
学校が心配に感じている
ケース、
地域が心配に感じている
ケースを
児童相談所に
通告したら、その数というのは決して非現実的な
数字ではないんですね。
イギリスと言いましたが、イングランドですけれども、イングランドは五千五百万の人口ですから、
日本の半分です。ですから、年間十五万件というと、単純に当てはめると、三十万件の
通告があっても不思議ではない。私の実感としては五万件とか十万件ぐらいに、もし本当に本格的に取り組んで、心配な
ケースを送ってくださいということになると、それぐらいふえても不思議ではないというふうに思います。
実際に、
岸和田の
事件以降、
大阪府では
通告件数がもう三倍になっているんですね。三倍から四倍に近い状態になっていますから、
学校の方も、ちょっと心配な
ケースがあったら送っておかないと後で
自分たちが責められると。これはもう当然、各
機関の心理なんですね。ですから、そういうことが起こってきたときには、本当に
児童相談所は絶対対応できない
状況にあります。
例えば、私は今、吹田市の
虐待防止ネットワーク、今考えたら、こんなことを引き受けていていいのかなと思うのですが、その座長をやっているんですが、吹田市で見ましても、吹田の
子ども家庭センターというのは、
虐待対応課のメンバーは三人で、カバーしている
地域は吹田市と高槻市と茨木市と摂津市で、人口合計が百万人を超えるんですね。
虐待対応課のメンバーというのは三人です。これは到底対応できないですし、
児童相談所全体を見ても、約二十名程度の
ソーシャルワーカーしかいない。
この現実がある限りは、ここはやはり今財政難、非常に厳しい
状況だというのを私も理解しています。その中で、何とかみんながやりくりをしてやってきているという
状況なんですけれども、やはり中長期的な計画に基づいて、確実に
ソーシャルワーカーの数をふやしていただきたいという思いがあります。
できましたらといいますか、できましたらという言い方をするよりも、
参考人としてははっきりと言った方がいいと思うんですが、法令の中にそういう人口増、中長期的な計画で
ソーシャルワーカーの数をふやしていける、何かそれなりに縛りのあるものを入れていただきたいというのが、今の強い希望としてあります。
それからもう
一つ。次に、
地域関係
機関の
ネットワークの拡充についてお話ししたいと思います。
これは
児童福祉法の
改正の中でも言われていますし、恐らく、市町村が中心となった
ネットワークの確立ということが考えられているのだと思いますが、現実に、先ほど言いましたように、
大阪でも各自治体で
ネットワークがつくられていっています。
岸和田で
ネットワークがなかったことも今回の原因になっているんじゃないかというふうに言われていて、それは恐らくそういう面はあったんだろうと思います。
ですから、
ネットワークの充実というのが不可欠な
状況で、特に、
児童相談所の機能を重大
ケースに限定するという方向が片一方でありますので、もしそうであれば、本当に、それをどこでどういう形で補っていくのか、さらに積極的なものにしていくのかというのは、非常に大きな
ポイントになると思います。
ただ、
地域ネットワークも、形だけをつくっても、結局、機能しないものになる可能性があります。不可欠な条件がやはり
幾つかあるというふうに思います。
一つは、まず、
虐待防止の取り組みというのは、ある
意味、単純なところがあると私は思っています。
通告をきちっと集中させて、そこでちゃんと
ケースの見きわめといいますか、
ケースの重大性を
評価して、例えば緊急の
保護が必要なのか、
ケース会議を開く必要があるのか、当面、関係
機関でしばらく経過観察をすべきなのか、そのときどういうことをしたらいいのかというような最初のアセスメントをして、それから仕分け、振り分けをしていく。そういうコーディネートする
機関がしっかりしているかどうかということが一点目。
もう一点目は、そのコーディネートに基づいて、実際に
課題を抱えた家族に対して、具体的にかかわっていける
ソーシャルワーカーを確保できるかどうかというところが
ポイントになると思います。やはり、これは
枠組みの問題ではなくて、
虐待の
防止のためには、その家族に真剣にかかわる、責任を持ってかかわる
人間が要るんですね。その
人間をどうやって確保できるのかということが非常に大きな
ポイントです。
これを、今の市町村を中心とする
虐待ネットワークを考えると、恐らく、どこか
児童福祉関係の課の中にそういう事務局が置かれることになりますが、今までの
仕事にぽんとそれがつけ加えられる形で、
仕事がふえるんですね。多くの自治体では
専門職採用がされていませんから、そのコーディネートする
機関のところには
専門職がいないということがあります。では、どこでコーディネートするんだ、アセスメントするんだという問題が生じてきます。
それから、今のままでぽんと
ネットワークの事務局を置いてくださいよということを言っても、絶対これは機能しない。ほとんどのところでは機能しないです。ですから、やはりコーディネートする
機関のところにきちっと
専門性を持ったスタッフを一定人数確保して、かつ、ある程度、すべてその
仕事と言わないまでも、かなり専従できるような体制を組まないと、今の期待している効果というのはあらわれてこないと思います。
もう一点は、
ソーシャルワーカーの確保の問題です。
これは、今の状態でいくと、やはり、市町村自体に
ソーシャルワーカーが
配置される必要があると思います。今、唯一使える資源としては、
福祉事務所内の
家庭児童相談室の
相談員さんが
ソーシャルワーカー的役割を果たすことができます。ただ、
家庭児童相談室も任意設置なんですね。ですから、すべての自治体にあるわけではなくて、
大阪でもあるところとないところがあります。しかも、非常勤の問題であるとか
専門性の問題とか、いろいろな問題を抱えています。
ですから、そこに
家庭児童相談室を義務的な設置にして、それからそこに
専門職をきちっと確保していくということが、
一つ、現実的な
課題としてあるのではないかなと思います。
三点目に、
学校のサポート
システムが大切だということです。
これは、
虐待、今回の
岸和田の
ケースでいえば、
学校として
通告していないんじゃないか、
相談はしたかもしれないけれども
通告になっていないんじゃないか、危機感が足りないんじゃないか、もっと責任を持って最後まで揺さぶって
児童相談所を動かすべきだったんじゃないかという批判が当然あると思います。
ただ、私も
学校と一緒に、教育
委員会と一緒に
仕事をしていく中で、実際にはなかなか、
学校の
先生方は日々の問題行動に追われる。不登校でかつネグレクト、
虐待の問題というのは、家族が積極的に
学校に対して要請してきたりすることもありませんから、自分の目の前から
子供たちが消えていくわけですね。
介入しようとしても拒否されてしまうというようなことがある。
かつ、ネグレクト、
虐待の問題というのは、心配だけれども、じゃ、この
ケースは一体どれぐらい重大なことなの、これはどうなるの、もし
通告したら一体どんなことが起こってくるの、そういうことが
学校の
先生はわからないわけですね。しかも、もし
通告したときとかいうのは、親の反応がどうか、親が非常に攻撃的になるだろうとか、いろいろなことを考えると、なかなか
通告するということに踏み切れないわけです。
ただ、そのときに、ある程度
専門的知識を持った
人間が、いや、これは
先生、非常に重大な、深刻な危険性があるから、このときには必ず
児童相談所に連絡して
ケース会議はまず持ってくださいとか、兄弟がいるのであればほかの関係
機関からも情報を収集してくださいとかいうようなことをアドバイスしてあげることによって、これはもう非常に簡単なことになるわけです。ですから、そういう
意味での
学校のサポーターが大変大切だ。
それからもう
一つ、
学校にはある程度、
学校の
ケースにかかわっているとわかるんですけれども、やはり最後、極端な言い方をしますと、家で毎日たたかれている子が
学校で
暴力的になったりするのはしようがないことなんですね。それが、家でたたかれる回数が、今まで毎日たたかれていた子が週に一回とか二回しかたたかれへんようになったとか、今まで褒められたことが一度もない子が親から優しい言葉を投げかけてもらったということだけで
学校の状態も少し落ちつく、こういう傾向がやはりあるんですね。
そうなると、
家庭に何とかかかわりたいと思うのですが、では、親に対して、あなたがやっているのは
虐待ですよというようなことをなかなか
学校としては言えない。
先生はそういうスキルを持っていないわけですよね。中には、さあっと、お母さん、あんまりたたかんようになとか、大変やけどなということで、すうっと入っていく、そういう人もいますけれども、このスキルというのは、非常に高いスキルなんです。ですから、それを
一般的に、
家庭の指導とかということを
先生方に求めるのは、やはり無理があります。ここにも、
家庭にかかわる上でも
学校へのサポーターが必ず必要なんですね。
そういう
意味では、
学校サポート
システムというのが非常に重要だというふうに考えています。その一番の特効薬は、スクール
ソーシャルワーカーの導入だと私は思います。これは欧米では当たり前の
制度になっています。今、スクールカウンセラーが導入されて
配置されていっていますが、同じような形で、モデル事業的なものから始めていただいてということになるんだと思いますけれども、やはり五年とか十年ぐらいの計画の中で、スクール
ソーシャルワーカーをぜひ導入していただきたいと思います。
大阪ではちょっとずつ、私も、教育
委員会とか
学校の
先生、スクールカウンセラーの方とか
児童相談所とかと一緒に
研究会をやったりしながら、それをモデル的に取り入れることができないかということで動き始めています。
大阪の大東市というところでは、
弁護士との
連携事業ということで、スクールローヤー、スクール
ソーシャルワーカーもある程度やりたいというふうに思っているんですが、今、
弁護士との
連携事業ということでスクールローヤー、それは、いわゆる顧問的なかかわり合いではなくて、
子供の最善の利益を実現するための
学校のアドバイザー、コンサルタントという形で、そういう
制度をモデル的にやり始めたりしています。
今、なかなか
予算が大変だということはわかっていますが、何とか頑張って国の方でも考えていただいて、スクール
ソーシャルワーカー制度を導入していただきたいと思います。
あと、少し
弁護士らしいお話を
幾つか言わなあかん
部分がありまして、先ほど
岩城先生の方からお話が出ていましたので簡単に言いますが、立ち入り拒否、拒絶の場合に——もう終わります。済みません。
では、あと、質問のところでまたしていただければ、
幾つか具体的なことでお話しさせていただけるだろうと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)