○西村
参考人 西村でございます。
まず、基本的な考え方としまして、大きな
地域整備の流れというのが量の充足から質の向上へと非常に大きく変わってきていて、この
景観法案はそれの非常に大きなメルクマールになるのではないかと思います。
また、それは一方、平等しかし画一的な
整備のあり方から、
地域ごとの多様性や個性を尊重し重視するという
整備のあり方へと変わっているということも
一つの基本的な考え方としてあると思います。そのことは、
地方分権の中で、国による
規制から、
地方の
主体性を尊重していくような
制度のあり方が求められているということになると思います。
そしてまた、今回の
景観法案では、
景観重要建造物に指定されたものに関して
相続税の
適正評価などが検討されておられるわけなんですけれども、こういうことは、今までの、ストックの保持がなかなかそれに見合うインセンティブを持ち得なかった、結果的に貧しい
景観をつくり出してしまったということに対して新たなインセンティブを与える方向として非常に重要ではないかと思います。
また、最近、さまざまなところで
景観裁判が行われているわけですけれども、その判例がいろいろ分かれているわけですね。その分かれている
一つは、やはり
景観に対して
基本法制がないということはそれだけ世論が熟していないのではないかというふうに考える裁判官の方もいらっしゃいまして、非常に大きく裁判の結果が分かれている現実があると思います。これはどちら側にとっても不幸なことでありますから、
一つ大きな流れをつくっていただいて、全体としてこうした
景観裁判がもう少し集結するような方向を目指すということは非常に重要なことではないかというふうに思います。
今回の
景観法案に関する特色を私なりにまとめますと、非常に大きいのは、
地方公共団体の
景観条例、これはもう五百を超えていると思うんですけれども、これに法的根拠を与えるという意味で、
地方分権を後押しする形の
法律になっているということだと思います。
また、
景観計画がすべての基本になっておりますので、ある意味、非常にしっかりとした
景観計画を立てないといけないということが
地方に求められるわけで、これは非常に大きな、
計画立案能力や、そのための人的資源をふやしていくというようなことにつながっていくのではないかと思います。
また、
景観地区という地区
制度が
提案されておりまして、ここで形態意匠の
規制というのが初めて導入されることになるわけですけれども、新しく、先ほど申し上げましたように、量の充足や画一的な
規制ではなくて、質を高める、
建物の形や色までコントロールしようというわけですから、そういうことができるようになるということは、非常に一歩進んだ方向だというふうに思います。
また、それに伴って、こうした質的なものをチェックするためには、数値
基準があって、それを満たせばいいということになかなかならないものですから、その判定の仕方が難しいわけです。それに対処するために今回は認定
制度という
制度が
提案されておりまして、これは、今までの、とかく
建築の確認
制度にすべてを連動させなければすべてのコントロールがきかなかった開発許可のシステムに、新しい、質の評価を与えるようなシステムを導入することになるという意味では非常に重要な一歩だというふうに思います。
また、
景観重要建造物の指定
制度が盛り込まれているわけですけれども、今までこうした
景観に重要な、もしくは
文化財となる
建物は、
文化行政といいますか
文化財行政の中で取り組まれてきていたわけですけれども、これを建設行政、
都市計画行政の中で位置づけるということはなかなか国法レベルではなかったですね。ですから、その意味でも非常に重要な一歩ではないかというふうに思います。
また、既成
市街地だけではなくて、
景観農振のように農地まで
対象になるということで、広く農地や山のフリンジの部分まで
土地利用のコントロールができるということは、今まで、
都市計画区域の中と外でさまざま所轄官庁が違うというようなこともあって、なかなかうまい全体的な
景観や
環境のコントロールができなかったものを一歩前進させる
仕組みというふうに評価できるんじゃないかと思います。
ただ、
景観法だけで、もしくはその関連法だけですべての
景観が今一挙によくなるわけではなくて、やはりこれはさまざまな一連の施策の中の
一つとして考えられる必要があるのではないか。その意味でいうとやはり
課題というものは残されておりまして、それもさまざまな形で今後議論される必要があるのではないかと思います。
それは
一つには、まず、認定
制度と関連するわけですけれども、実際に裁量の幅のある質のコントロールというのを現在の行政の
仕組みの中でうまくできるだろうか、それだけの判断ができるマンパワーや情報開示の
仕組みがあるだろうか。そういうことと一緒に考えないと、なかなか質のコントロールというのはうまくいかないのではないかという問題があると思います。
それからもう
一つは、そこに恐らくは、行政担当者だけではなくて、市民やNPO団体などのさまざまな方が意思決定に
参加したり、もしくは公開された情報を利用する、そういう
仕組みが必要になってくると思うんですね。ですから、その
仕組みをどういう形でうまくつくっていくか。これは各
景観行政団体に課せられた
課題だと思いますけれども、その展望がないとなかなかうまく機能しないのかもしれない。ですから、その意味では、こうした展望が必要になってくるのではないかと思います。
また、市民やNPO団体がここで何らかの判断を下そうとすると、ある開発
行為が起きたときに、一体、
景観がどういうふうに変わるのかということに関して、アセスメントのようなものがないと判断ができないわけですね。その意味では、さまざまな場合によって一体どうなるのかという議論ができる判断の材料を示すように、アセスメントが何らかの形で必要になってくるのではないか。それをどういう形で入れていくかということが
課題としてあるのではないかと思います。
また、今回の
法案は、先ほども申し上げましたように、
地方自治体に法的根拠を与えるという後押しするような
法案だということですから、逆に言うと、熱心な
自治体は大変頑張られるかもしれないけれども、熱心じゃないところは何もしないでも済むかもしれない。そうすると、
自治体間の差がつきかねないということがあるわけです。その問題をどうするか。その問題は、恐らく、
法律だけではなくて、さまざまな
事業制度も一緒に考えていかないといけないと思うんですけれども、そういう議論が同時に必要になってくるのではないかと思います。
また、この
法案は建設
行為が行われたときに発動されるわけですから、何も事が起こらないとなかなか物が動かないわけですね。一部、農地の改善に関しては
景観農振の中でもう少し能動的なコントロールが可能ですけれども、大半の場合はそうではない。
都市計画のコントロールはすべてそういう形になっているわけですけれども、しかし、それですと、今ある望ましくない
景観をどうやって変えていくかということに関して、どこまでいけるかというなかなか難しい問題を抱えていると思うんですね。
その意味では、これは
法案だけではないのかもしれませんが、さまざまな
事業制度と並行して、そうした今の当たり前な風景、とりたてて非常にいいというものじゃないところをよくしていくための工夫というのも同時に必要になってくるんではないかというふうに思います。ですから、それは恐らくは、
景観計画という、ここで掲げられている
計画をどうつくっていくかということにかかわってくるわけでありまして、そのことが非常に重要な問題になってくるんじゃないかというふうに思います。
一番最後に、
都市計画の
制度の中には、
規制を緩和していくような
仕組みの
制度も並行してあるわけなんですけれども、こうした
制度の場合は、そうした
制度が使われる段階でかなりの部分の
建物のボリュームやスカイラインが決まってしまうので、後で
景観上いろいろ議論が出てきても、もう既に
都市計画の決定をした段階で大半のものは決まってしまっているという問題があるわけです。
ですから、その意味でいうと、現行の
都市計画の
制度とこの
景観の
仕組みとをどういうふうに整合させるかということをきちんと議論しておかないと、
景観地区だけはうまくいくけれども、そうじゃないところは別の
事業制度で、別の
仕組みで別の容積の
建物ができてしまって、後から
景観で議論しようとしても、そもそも容積が認められているものを削ることができないというような問題が起きてくるんではないかと思うんですね。
その意味でいうと、全体的な
都市計画の
仕組みとどういうふうに絡めるのかという議論が必要でしょうし、ここだけではなくて、大きく
都市計画の
仕組みを、今後、
景観の
観点からどういうふうに変えていくかという議論を並行して進めないと、なかなか、全市域また全
都市の
整備、
景観上の改善というふうにいくには、少し、あと一歩議論が必要かなという気がしております。
以上です。(拍手)