○中山
参考人 奈良女子大学の中山です。
早速ですが、
意見を述べさせていただきます。
まず、今回の
高速道路など、こういった
公共事業をめぐる論点というもの、私自身は、恐らく
二つあるのではないかと思っています。
一つは、特別会計とか
公団もしくは第三セクター等で実施されてきて、破綻に直面している、もしくは破綻した
公共事業を今後どう
見直していくのかという論点です。もう
一つは、今後の
高速道路計画、そういったものも含め、
公共事業の
あり方をどう考えるべきなのか、この
二つの大きな論点があるかと思います。
まず一点目ですけれども、破綻した
公共事業をどう
見直していくのか。そもそも、なぜこういったことが大きな問題になっているかと申しますと、特別会計にしろ、
公団にしろ、第三セクターにしろ、本来、独立採算で
事業が進むはずだったんです。ところが、大半の
国民にはそのように
説明していたと思うんですが、それが困難となり、このまま放置すると
国民、市民に多額の財政負担が発生する、そういう
事業が少なからず存在してきたこと、これがこういった独立採算性の
公共事業もしくは公的
事業の
見直しに関する大きな背景であったと思います。
この間、
全国でそうした
事業の
見直しに取り組まれてきました。そういった中から、幾つかの破綻処理の
原則、そういったものが浮かび上がってきているのではないかと思います。
まず一点目は、そのようにして取り組まれてきた
事業にそもそも
公共性があったのかどうか。
事業に
公共性があるかないかというのは、
公共事業や
公共的な
事業を処理していく場合、非常に大きなポイントになると思います。残念ながら、この間、
全国で破綻してきた第三セクターのかなりの部分はそういった
公共性に欠けていた面が少なからずあったように思います。
また、その中で
議論されてきたことは、できる限り
国民、市民の負担をゼロもしくは最小にするということであったと思います。
それと同時に、こういった破綻処理については極力
国民に開かれた形で
議論をしていく、こういった三点が
原則として考えられてきたのではないかと思います。
そういったことを踏まえてこの
道路公団のことを考えますと、
高速道路というのは極めて社会資本としての
公共性の高い分野だと思います。もちろん、社会資本として疑問性のあるような
高速道路もあるかもしれませんが、大半の
高速道路というのは
公共性の非常に高いものではないかと思います。
かつて、日にちは忘れましたが、
道路公団の
関係で
国会で
参考人として
意見を述べましたが、そのときも、
道路公団のように非常に社会資本として
公共性の高い分野には
民営化はなじまないのではないかという
発言をいたしました。この考えは今も変わっておりません。大半の第三セクターなんかと比べると、
高速道路というのはインフラとしては非常に社会資本としての
公共性が高い、そういった分野は
民営化には基本的になじまないのではないかと思っています。
ただし、従来どおりの
道路建設を今後も進めていっていいのかというと、それは違うと思います。少なくとも今までのような形での
道路建設はストップして、
料金収入等についてはすべて借金
返済に充てていく、そういった対応が要るのではないかと思います。
それと同時に、徹底したむだの排除を行っていく必要があると思うんですが、ただ、むだの排除という場合、それを
民営化によって
実現することも可能でしょうが、同時に、公的な分野のままで置いておいて、情報を
公開する、
国民に開かれた組織にしていく、そういった
国民監視のもとでむだを排除していくという方法ももう一方であるのではないか、そのように考えております。
二点目ですが、
高速道路建設などをそもそもどう考えたらいいのかということです。
特に
高速道路建設については、地方経済との
関係を抜きには
議論できないと思います。今の日本の地方は非常に経済的に厳しい
状況に置かれています。ただし、問題なのは、
高速道路などの
整備が不十分だから地方経済が衰退しているのかどうか、その点を考えることが重要だと思います。
とりわけ、この間、地方経済を支えてきた産業、第一次産業、製造業、商店街、そういったものが非常に厳しい
状況に置かれています。九〇年代、こういった地方経済を支えてきた産業が厳しくなるにつれて、景気対策ということで
公共事業費が拡大されました。地方は、本来であれば自立的な産業を育成していくのが望ましいのでしょうが、そういう中で
公共事業に依存するような経済体制になってきたのではないかと思います。それが、この二、三年、
公共事業費の削減とともに、
公共事業にかわる新たな産業が見出せないというところで地方経済の深刻さが見られると思います。
問題は、そういった
状況の中で、
高速道路建設や、二〇〇四年度に新たにつくられますまちづくり交付金、もしくは、この間進められている市町村合併に伴う合併特例債、そういった主に
公共事業に関するものを続けていくことが地方経済の自立的な再生につながるのかというと、私自身は、残念ながら、一時的な効果しか持ち得ないのではないかと思います。
その一方で、この間進められてきた構造
改革をどう見るのか、これも非常に重要な問題だと思います。
御承知のように、構造
改革の中で徹底した規制緩和が行われてきました。また、都市再生ということで、全体として
公共事業費は削減しますけれども、二〇〇四年度予算を見ても明らかなように、都市再生
関係の
公共事業については、厳しい予算の中で重点的に予算配分が行われています。
ただ、そうした規制緩和、都市への重点化、そういうことをこの間行ってきた中でどういうことが社会的に生じているかといいますと、バブル経済のときに問題になった東京への一極集中、これが今再び起こってきています。
幾つかのデータを示しますと、例えば、二〇〇一年の十月から二〇〇二年の十月、この一年間で
全国では十四万人の人口がふえています。十四万人の人口がふえていますけれども、そのうち八万人は東京都でふえています。
また、二〇〇二年の都道府県間の人口移動を見ます。転入超過の県が
全国で九つあります。一位は東京都で七万三千二百七十五人。二位が神奈川県で二万九千七十六人。都道府県間の人口移動を見ても、東京への人口の集中は極めて顕著です。
また、人口だけに限りません。経済活動を見てもそのとおりです。二〇〇〇年から二〇〇二年で、
全国で、資本金が百億円以上の株式
会社が六十二社ふえています。二年間で六十二社ふえましたが、そのうち四十八社は東京都内でふえています。率にすると七七%です。
また、一九九九年から二〇〇一年にかけて、
全国で、
事業所、株式
会社が一万二千九百八社ふえています。そのうち六千五百三十社は東京都内でふえています。ざっと、ふえた株式
会社の五〇%は東京都内に立地しています。
また、この間、雇用問題が深刻になっています。同じ二年間に
全国で百十万人の従業員がふえていますが、そのうち四十五万人は東京都内でふえています。
また、産業構造が変わってくる中で、IT産業等が非常に重視されています。この間、情報通信業に従事する人が
全国で二十四万人、二年間でふえています。ところが、そのうち十二万人は東京でふえています。
バブル経済のときも東京への一極集中が非常に問題になりました。ところが、この間、東京への一極集中は、バブル経済のときと同様、もしくはそれ以上にすごい勢いで進んでいます。徹底した規制緩和や、税金を都市部に重点的に投入していく、そういうことを行えば、東京への一極集中が進むのは明らかです。一方で東京への一極集中が起こりながら、地方で
高速道路を一生懸命つくっても、なかなか地方経済の自立的な再生というのは難しいと思います。
では、一体どうすればいいのかということですが、地方経済の再生を考える場合は、
公共事業に依存しないような地域経済をどうつくっていくのか、ここが大きなポイントになると思います。もちろん、そのためには、今進められているような規制緩和や都市再生、市町村合併、三位一体の
改革、こういったものについてはもう一度
国土の均衡な発展という点から
検討し直す、
国土の均衡な発展を保障するような行財政制度の確立、この辺が非常に重要になるのではないかと思います。
もちろん、従来のように、地方経済を
公共事業によって立ち直らせていく、そういう政策も望ましくないと思います。むしろ、
公共事業には依存せずに地域経済の再生をどう立て直していくのか。
とりわけ重要なのは第一次産業だと思います。御承知のように、カロリーベースでの自給率はもう既に四割です。木材に至っては二割を切っています。日本は決して農業や林業に不適切な国ではありません。そういった、
公共事業に依存しない地域経済の再生を図っていくということがまず重要ではないかと思います。
同時に、
公共事業の
内容も
見直していく必要があると思います。
今、三位一体の
改革等で一般財源化が
議論されています。二〇〇四年度については公立保育所の運営費、今後は義務教育、そういったものが大きな争点になると思います。ただ、最も地域の
自主性を発揮できるような分野というのは、むしろ社会資本
整備だと思います。社会資本
整備については、一般財源化を進めて地域の
自主性を生かす、そういう中で社会資本
整備の効率性がむしろ図られていくのではないかと思います。
同時に、
高速道路のような広域的な
公共事業の
必要性というのも当然あります。ただし、一度決めたからそれを何が何でもやるというのではなく、もう一度、時代の
変化とともに、財政再建との整合性、社会的な
必要性を含めて、こういう
国会の場できちっと
議論し、広域的な
公共事業については再度
検討していく必要があるのではないかと思います。
それと同時に、
高速道路との
関係でいいますと、交通政策をやはり見直す必要があるのではないかと思っております。二十世紀は確かにモータリゼーションの時代でした。でも、二十一世紀、ヨーロッパでは既に、モータリゼーションの時代から
公共交通
優先の交通体系へと変わってきています。別にヨーロッパには限りません。隣のソウルでも、
高速道路を撤去して河川を再生するという
事業が町の中で進んでいます。二十一世紀の
公共交通の
優先、そういったことも含めて
高速道路整備については考えていく必要があるのではないかと思います。
以上です。(拍手)