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松浦参考人 防衛大学校の
松浦でございます。
本日は、お招きいただきましてありがとうございます。
私に課せられたテーマでございますが、諸外国の
国民保護法制ということでテーマをいただいております。諸外国と非常に広い範囲を指定されましたのですが、私も、いろいろな国について新しいところまですべてフォローしているわけでございませんで、特にドイツのことを中心に勉強してまいりました。そういうことで、諸外国とありますが、特にドイツの
国民保護法制、これを中心に、これまでの制定の経緯と、それから、特に九・一一の米国テロ
事件以降の新しい動向、こうしたものを踏まえましてお話をさせていただきたいと思います。
レジュメをお配りしてありますが、おおむねこれに従ってお話をいたします。
各国
国民保護法制の概説ということで最初にございますが、衆憲資料第四十五号ということで、こちらでつくられた資料がございまして、これが非常によくできておりまして、これ以上のことをお話しする
ようなこともないのでありますが、後半述べますドイツの
法制の特徴を際立たせる
意味で、ほかの国についても若干御説明をいたしたいと思います。
よく、
緊急事態法制を分類する場合に、英米法系と、それから大陸法系という
ような区別をされる論者が多いわけでありますが、これは、一般的に
二つに分けられるということは確かに類型として言えるのかもしれません。
先ほど
小針参考人の方からも言及がありました英国に関しましては、成文
憲法を持たず、またコモンローの国ということで、この
緊急事態法制に関しましても、いわゆる
マーシャルロー、マーシャルルールというものに基づきまして、必要性の原則に従って緊急時に必要な対処
権限というものを広く国王に授権するという方法をとる。その際、法に仮に反した場合に、違法な
措置であっても
免責法という形でこれを事後的に合法化するという
ような手続をとるということがあります。
ただ、これも、第一次大戦のころから第二次大戦にかけまして幾つかの成文法ができております。これらは、一九一四年の国土
防衛法であるとか、あるいは
緊急権法、こういった
法律がそれであります。これらは、今日我々が、あるいは日本において、あるいはドイツの
法制に照らしてみて、いずれもいわゆる授権法というものでありまして、緊急
措置権を包括的に授権できる分野を列挙したにすぎない程度のものでありまして、
内容的には、要するに授権を行政
立法に委任するための
法律という
ような側面を持っております。とはいえ、こうした
実定法上の枠組みというものができ始めたのが第一次大戦のころからということになります。
国民保護法制といいますものは、やはり第一次大戦のころから戦争の形態というものが変わってきまして、一般の非
戦闘員を巻き込む非常に大きな戦争災害を招く
ようになったのがこのころからでありました。
国家総力戦の中で非常に多くの一般市民の犠牲者が出るということが前提にあったわけでありまして、これにどう対処するかということでさまざまな
法律ができてまいります。
イギリスでも、空襲警報法、あるいは民間
防衛法といった
ようなものがさまざまできてまいります。
また、戦後になりまして、一九六四年に
国家緊急権法というものができております。これに基づき、広く民間
防衛に関しましてもカバーできるという体制をとっております。さらに、
イギリスの場合には特にテロ対策というものにつきましてもかなり前から
立法がなされておりまして、二〇〇〇年にテロ対策法というものができております。
それから、フランスに関しましても、これもやはり第一次大戦のころから、消極的
防衛という名称、分類でありますが、工業力や建造物の保全であるとか、あるいは
国民に対する毒ガス攻撃などに対処する
法制という
ようなものができてまいります。一九四四年、第二次大戦の終わりのころに国防省から内務省に移管して、現在は民間
防衛・
安全保障局というところが、内務省の中でこれを担当しているということであります。
それから、スイスに関しましては、民間
防衛と申しますのはスイスは非常に発達しておることは御承知のとおりであります。スイスは永世中立国でありますから、これは自国の国土を戦闘の場にせざるを得ない
状況にあるわけでありまして、そういう中で、
国民保護をどう考えるかということは特に、ほかの国以上に重要な問題であります。民間
防衛、これはドイツと共通するところがあるのですが、総合
防衛という原則のもとに、軍事
防衛、精神的国防、これとともに民間
防衛という柱、この三本柱によって総合
防衛というものを構築しているわけであります。
民間
防衛に関しましては、特に一九九九年の
憲法の六十一条にその明文
規定が置かれておりまして、
憲法上も詳しくこれが
規定されているというところに特徴があります。
韓国に関しましては、これは言うまでもなく北の脅威というものを前提にいたしまして、早い時期から、これは朝鮮戦争のころからでありますけれども、
国民保護というものについては非常に重きを置いてまいりました。
憲法上、大統領に緊急
措置権、
緊急命令権でありますとか緊急財政・経済命令権あるいは
戒厳宣布権といった
ようなものが
憲法上の
規定として置かれております。
民間
防衛に関しましても、一九五一年の三月に防空法というものが制定されております。また、七五年の八月には民
防衛基本法というものが制定されました。現在、この
法律が民間
防衛の基本法ということになっております。同年十二月には民
防衛隊というものが組織されまして、二十歳から四十五歳までの男子あるいは志願した女子というものから、非常に大規模な民
防衛隊の組織というものが維持されておるということでございます。
アメリカに関しましては、これは、特に九・一一以降、こうした分野について省庁の再編等がございまして、最近の動きというものがかなり活発でありますが、当初は、一九五〇年のころから民間
防衛法というものが制定されてはおりましたが、これは特に、米ソの対立が厳しい時代、核攻撃の危機というもの、これを前提にした
法制がまず構築されていったわけであります。
災害に関しましても
法律がございますが、これは一次的には各州が対応するものであります。これが一九七九年の三月にFEMA、連邦
緊急事態管理庁というものによりまして、連邦一元的な危機管理体制というものが確立してまいります。州知事の
要請とFEMAの長官の勧告によって大統領が
緊急事態宣言、これは大規模なテロであるとか核攻撃などの場合は
要請は必要ございませんけれども、大統領の
緊急事態宣言というものを行うという形になっております。これが、二〇〇三年の一月に国土
安全保障省の設置に伴って、その一局として統合されるという経緯をたどっております。
いずれにしましても、こうした諸外国の民間
防衛あるいは
国民保護法制というものを見てまいりますと、軍事的な
防衛というものとそれから
平時の災害救助、こうした
法制とを結びつける
一つの法分野という
ようなことが言えるかと思います。
さて、本題の方のドイツの
国民保護法制に関してここから御説明をいたしますが、ドイツの
緊急事態法制、これにつきましては、この小
委員会の中でも
参考人が何度か触れられております。それについてまた改めて説明する必要もなかろうと思いますので、
憲法上、市民
保護、
国民保護というものがどの
ような形で
規定されているかということだけを御説明いたしたいと思います。
ドイツの
条文を見ますと、
防衛に関する
規定というのが幾つかございます。その中で、特に
防衛という言葉を単独で用いることなく、一般住民、一般市民の
保護を含む
防衛という言葉がたびたび使われております。
レジュメに列記いたしました
ように、基本法の十二a条三項、これは兵役あるいは代替役務に徴用されない
防衛役務
義務者の非軍事的役務に関する
規定でありますけれども、ここにおきましても、
防衛という言葉がこう書いてあります。国防
義務者に対しては、
防衛事態において、
法律によってまたは
法律の
根拠に基づいて、一般住民の
保護を含む
防衛の
目的のため、非軍事的役務の
義務を課すことができるというふうな
条文を置いておるわけであります。
これ以外にも、十七a条の二項、これは、
防衛に関する
法律による移転、居住移転の自由であるとか居住の不可侵の
制限でありますが、ここで言う
防衛に関する
法律というものの中にも、一般住民を含む
防衛という言葉が使われております。
さらには、七十三条の一号、これは連邦の専属的
立法権限に関する
規定でありますけれども、これも、一般住民を含む
防衛に関して連邦が
立法権限を有するという
条文になっております。
つまり、ドイツの
憲法の中では、
防衛、
通常我々が想定しますのは軍事的な
防衛を
意味するわけでありますが、それとワンセットで
国民の
保護、一般住民の
保護というものを常に考えるという姿勢がこの
憲法の
条文の中からも読み取れるということが言えると思います。
つまり、国防の任務というものがもちろん国の役割であることは間違いございませんが、
国民に多くの被害を与えて、あるいは
国民の安全というものをないがしろにして国防というのはあり得ないわけでありますから、国を守るということと
国民の安全を守るということが常にワンセットであるということを意識する
意味で、こうした
条文の
規定の
あり方というのは有意義であろうと思います。
そうしたことで、
憲法上、軍事的
防衛と
国民保護というもの、これが常に並列関係で
規定されているということでありますが、ここから、では実際、
国民保護というものがどの
ような形でドイツの
防衛構想の中に位置づけられているかということを御説明したいと思います。
これは、先ほどスイスのところでも申しましたが、総合
防衛という考え方をドイツはとっております。これはきょう
参考資料としてお分けしました私の論文の中でも図式化しておりますけれども、「総合
防衛のための一般指針 総合
防衛ガイドライン」というものがドイツにはございます。これは一九八九年の一月十日に決定されたガイドライン文書であります。
ここではどういうことが書かれておるかといいますと、NATOとそれからドイツの
国家機関、ドイツはNATO加盟国であります。特に冷戦時代、東西ドイツに分かれまして、西ドイツはワルシャワ条約軍に対して前線にあったわけでありまして、非常に
有事というものを常に想定した
安全保障政策というものをする。そういう中で、この
防衛構想というもの、これはNATOとドイツの
国家機関との関係というものが問題になります。さらに、ドイツは連邦
国家でありますから、連邦政府と州政府、地方機関、こうしたものとの関係がどうあるべきか、あるいは民間の災害救助団体、こうしたものとの関係がどうあるべきかということで、非常に複雑な関係の中で
有事法制というものを運用しなければいけないという立場にございました。そういうことから、
有事法制、これはドイツの場合には
実定法としてたくさんございますが、これを統一的にそごなく運用するための一般指針として書かれたものであります。
この総合
防衛といいますものは、軍事
防衛、それから非軍事
防衛という
二つの分野に分けられております。軍事
防衛というのは、国防省、連邦軍が担当する
防衛分野であります。これに対しまして非軍事
防衛といいますものは、軍事
防衛以外の
防衛に関係する分野、つまり文民機関が担当する
防衛分野ということであります。こういう中で、
国民保護、ドイツの場合には市民
保護と言っておりますが、市民
保護というものが非軍事
防衛の中に含まれる。連邦内務省、それから各州の内務省の管轄で行われております。
この市民
保護のために、ドイツはさまざまな連邦法をこれまで制定してきたわけでありますが、現行法は一九九七年の三月二十五日の
法律であります。この九七年三月二十五日の
法律というものは、正式名称は市民
保護再編法という
法律でありまして、それまで多く制定されてきた市民
保護関係の連邦法を再構成するという
意味を持っておりました。
この市民
保護に関しての
法律というものをたどってまいりますと、再軍備直後の一九五七年の十月九日に市民
保護のための
措置に関する第一
法律というものがございます。
これが市民
保護関係の
法律の先駆けとなったものでありますが、この中には既に、市民
保護、これは民防空と言っておりますが、連邦の任務であるということ、それから、この民防空に関する費用というものは連邦が負担するということが定められております。また、防空を担当する機関として、連邦防空警戒庁というものを内務省の中に置くという
ようなことも定められておりましたし、また、空襲時に発生する人的、物的災害、こういったものを予防しまたは除去する任務を持ちます防空救助隊というものの設置、これもこの段階でもう既に行われております。これ以外にも、例えば工業、食糧産業、ガス、水道、電気、こうした生活上重要な施設、防空施設を整備する
措置、こういうものを定めておりますし、さらには、文化財の
保護あるいは医療品の備蓄等の
規定もこの段階でもう既に
規定されております。
これが基本法になりまして、個々の分野につきまして個別法ができてまいります。
一九六五年の八月十二日に市民防護隊に関する
法律というものができまして、
武力攻撃の危機や被害から住民を守るための組織としまして、国際法上、救済団体としての地位を有する組織が設置されます。これは、招集された兵役
義務者あるいは職業隊員、志願による任期採用隊員から構成される点で、連邦軍、軍隊と同じ
ような組織をとっております。
さらに、一九六五年の九月九日になりますと、防護建築法という
法律ができます。この防護建築法というのはシェルターの建設にかかわる
法律でありまして、先ほど申しました第一
法律の中の第五章に防護
措置に関する
規定がありました。これを補充する
法律であります。建築物を新築する場合、その住民やそこで働く労働者の安全のためにシェルターの建設を
義務づけるという
規定が置かれましたり、あるいは病院、学校、宿泊施設、こうしたものに収容人員に見合ったシェルターを建設するという
ようなことがこれに書かれております。
それから、六五年の九月九日、同じ日でありますが、
自己防護法というものもできております。
有事の際の
国民保護といいますものは、確かに、公的な機関、国や自治体の住民の
保護ということが重要であることは言うまでもありません。そのための
法律でありますが、それ以前に、被害が発生した初期の段階でだれが自分を助けるかといえば、自分
自身あるいは隣人であるわけであります。こうした住民の
自己防護あるいは隣保救助というものの
義務、これを定めたのがこの
法律でありました。
ドイツでは、現行法でも、この
自己防護というものに非常に重きを置いております。戦時においては、各地で同時多発的に被害が生じますから、国や自治体の機関がこれを救助するといいましても、無理が生じます。やはり、その初期の段階でこれを救うためには、自分で自分の身を守る、あるいは隣人を助けるということが重要になってまいりまして、この
自己防護ということについて
法律を設けたのが六五年でありました。
ただ、こうした
法律、幾つかできておりますが、これは、当初は西ドイツの財政難から施行が大分延期されまして、十分にこれが効果を発揮したとまでは言えない部分がございました。とはいえ、この
法律によって
国民保護法制が一応完備したということが言えると思います。
その後、災害防護の拡張に関する
法律というものができております、六八年の七月九日であります。この
法律というのは、
平時の自然災害や大事故に対する救助活動を行う組織、これはドイツの場合には連邦技術救助団というものがございます、あるいは連邦技術支援隊という
ように訳しているものもあります。これは内務省管轄の連邦機関でありますが、ボランティアが中心で組織されております。あるいは地方の消防隊でありますとか赤十字機関、あるいは、これはドイツ特有であるかもしれませんが、修道会、教会、こういったところが救済団を組織いたしまして、事故の救助などに当たっております。
こうした
平時の災害救助組織というものと
有事の市民防護組織、これが別々に運用されていたということから、組織上合理的でない、また、隊員も両方に重複して登録しているという
ケースが多くありまして、これを一本化する必要があるということで、
平時の災害救助組織が
有事の際にも活動するということで、組織的な一体化がなされたのがこの
法律であります。
その後、そこに書かれております
ように、七六年に、第一
法律が改正されて、市民
保護に関する
法律というものができました。最終的には、九七年、これは冷戦が終わった後でありますが、市民
保護の再編に関する
法律という現行法ができまして、それまでの
法律がこの
法律に一本化されて、非常に簡素かつ非常に合理的な
法律にまとめられております。
時間がございませんので、現在の市民
保護法に関して、簡単にその項目を列記いたしますが、市民
保護に関しては七つの柱、分野がございます。先ほど申しました
自己防護というのがその第一に書かれております。第二が、住民への警報に関する
規定であります。三番目が、防護建築、先ほど言ったシェルターの維持管理。第四としまして、滞在規制。第五番目に、市民
保護における防災組織の位置づけ。六番目に、健康
保護措置。それから七番目に、文化財の
保護措置というものがございます。
これらはいずれも、この市民
保護再編法、現行法ができる前に幾つかの
法律の中で既に定まっていたものでありますが、
自己防護、これがその第一条に掲げられております。先ほど申しました
ように、災害救助における
自己防護というものの重要性をまずうたっておりました。
自己防護というのは市民
保護の基礎である、官庁による市民
保護措置はこの
自己防護というものを補完するものであるという位置づけがなされておりました。
それから、住民への警報に関しましては、危険の把握といいますものは連邦の責務であるということになっておりまして、ドイツでは各地に市民
保護連絡所というものが設けられておりまして、防空に関する危険情報はここから上げられます。それから、放射能に関しては、全国に観測所が設けられておりまして、連邦放射能防護庁本部というものが設けられて、ここで情報収集、分析がなされることになっております。連邦レベルでこうした危険の把握を行うわけであります。
警報の発令というものも連邦が指示を出すわけでありますが、連邦の委任によって、ラント、各州の防災警報を担当する機関がこれを行うということになります。防災の器材等に不備がある、不足がある場合には、これは連邦の予算によって警報器材等の補充をするということになっております。
防護建築、シェルターの建築に関しましては、冷戦時代、もう既に多くのシェルターが建造されております。その維持というのは市町村に任されております。市町村は、
平時、維持管理するかわりに、
平時にはシェルターとして利用されておりませんで、ほかの別
目的、例えば地下駐車場でありますとか、こうしたものに利用されておるわけですけれども、そこから得られた収入というものも市町村に帰属するということで、維持管理の
責任と同時に、そうした収益にも結びつくという
ような合理的なシステムになっている
ようであります。
また、自家シェルター、これは
個人あるいは企業などが設けたシェルターでありますけれども、これも連邦予算から補助金が出たり、あるいは税制上の優遇
措置がとられておりまして、一定の
義務を伴います。例えば、自分だけではなくて、ほかの人も同時にここに収容しなければいけないという
ような
義務でありますとか、シェルターとしての機能に支障になる
ような改造、こういったものをしてはならないとか、こういった
義務も同時に
規定をされております。
それから、四番の滞在規制です。
滞在規制、これは日本では
避難誘導という
ような言い方がされておりますけれども、必ずしも
避難誘導というだけではございませんで、これはドイツだけではなくてNATO諸国すべて共通していると思いますが、滞在規制、つまり動いてはならないという指示もこの中に含まれます。
戦時においては、特に、いろいろな情報が錯綜しまして、一般住民が右往左往するということも考えられます。そうした場合に、住民が無秩序に移動するということになりますと、交通の障害にもなりますし、特に戦闘地域に近い地域では、部隊の移動とこの住民の
避難というものの
調整をどうするかというのは非常に難しい問題がございます。そういったことから、特に危険度が少ない地域におきましては、一般住民はそこにとどまれ、滞在
場所を許可なく退去することが許されないという指示を出すこともできる
ようになっております。ただ、戦闘地域に近いところでありますとか、
防衛上の重要施設があるところに居住している住民に関しましては、やはり
避難誘導あるいはシェルターへの収容といった
ようなものがなされることになっております。
それから、市民
保護における防災組織ということでありますが、先ほど申しました
ように、
平時の防災組織が
有事においても市民
保護に当たります。
これはドイツの特徴でありますが、これは後の方で説明するつもりでございましたが、ついでに説明いたしますと、ドイツでは、非常にボランティア組織というものが重要な役割を果たしております。消防団の志願隊員というのは全国で百三十万人おります。それから、そのほかにも代表的なボランティア組織が五つございまして、ドイツ赤十字社、それから労働者サマリア人連盟というのがありまして、これは労働組合系の救済団体、救助団体であります。それからドイツ
救命社、それからヨハネ騎士修道会事故救済団、マルタ騎士修道会救助団といった
ようなものがございまして、これらに五十万人のボランティアが登録されております。こうしたボランティア組織あるいは消防団といった
ようなものが、連邦やラント、州の
国民保護措置、これを助けることになっているわけであります。
これに加えまして、連邦技術救助団、これにも七万五千人が登録しておりまして、これは
平時の災害救助のみならず、
有事においても連邦やラント機関と連携をとりながら
国民保護に当たる形になっております。
日本におきましても、これは、ボランティア団体との連携というものを、一応、
国民保護法制、
国民保護法の中に
規定しております。第四条だったと思いますが。ただ、それの関係につきましては、ボランティア団体を支援する、
協力関係をとるといいましても、具体的にどの
ような形になるのかということにつきましては、はっきりとはしておりません。この辺のところ、ドイツの連携の
あり方、これが
参考になるのではないかと考えております。
それから、六番目の健康
保護措置というものですが、これは、特に
有事の際には医療、衛生物資、これが不足いたします。これを
平時から備蓄しておくということを、薬品会社でありますとか卸売業者、あるいは薬局、こうしたところに命じるという制度を整えております。
それから、文化財
保護措置に関しましては、ドイツは、武力
紛争における文化財の
保護に関するハーグ条約に加入しております。六七年の四月十一日に、その批准法の中で、外務省、内務省それから国防省の所管分野に関しまして、この
規定を置いております。
日本でも、文化財の
保護に関しましては、
国民保護法制の中で幾つか
規定が置かれております。
時間がございませんので、最近の動向につきまして、若干御説明をいたします。
九・一一のテロ
事件まで、特に冷戦下の、つまりドイツに対する
武力攻撃というものを前提にした
武力攻撃事態における
国民保護ということが中心で検討されてまいりましたが、特に九・一一テロ
事件以降、こうしたテロに対する対処というものも考えていかなければいけないということで、二〇〇二年の六月に、内務大臣
会議、これは連邦内務大臣と各州の内務大臣の
会議でありますが、新戦略というものが決定されまして、これに従いましてさまざまな改善がなされております。
幾つか項目がございますが、連邦市民
保護・災害救助庁というものが新設されまして、それまで市民
保護本部というものが担当しておりました部分をこれが引き継ぎまして、特に連邦、ラント、それから民間団体の連携というものに意を用いております。
それから、連邦・ラント合同通報・対策本部というものも設けられました。これが、特に不足物資の管理や要員、機材の
調整などを行う対策本部として機能をいたします。
それから、deNISと言っておりますが、ドイツ
緊急事態準備情報システムというインターネットを利用したデータバンクを立ち上げております。これは既に二〇〇二年の五月から運用が始まっておりますけれども、これは一般
国民向けと関係者の内部のネットと
二つございまして、一般向けのサイトにおいては、防災関係について二千以上のリンクが張られておりまして、市民
保護に関するさまざまな情報の提供に充てられております。また、内部のネットに関しましては、防災関係機関、連邦、州、それから民間団体の間の情報交換でありますとか要員の融通、あるいは物資の配給、こういったものについての
調整を行う情報データバンクとなっております。
これ以外にもさまざまな改善がなされておりますが、時間の関係上、省略をさせていただきます。
最後にもう
一つ、テロと市民
保護という
視点から注目すべき動きといたしましては、航空保安法という
法律ができつつあります。これはまだ、今現在、連邦議会の第一読会を通過したところまで確認しておりますが、日本でも若干、報道がなされております。これは、九・一一のテロの場合に、民間航空機をハイジャックしてこれを
武器として使用するという
ような非常に残忍な
行為が行われたのですが、こういったことがもしドイツであったらどうするんだということから話が始まりました。
さらに、二〇〇三年の一月五日でありますが、フランクフルトでちょっとした
事件がございました。小型航空機を操縦する、ちょっと精神病を患った経緯のある者が高層ビルの
あたりを飛び回っておるということで、これは危険であるということで、九・一一のテロの記憶がよみがえったという
ような
事件がございました。こうしたことを反映いたしまして、民間航空機の
ようなものが乗っ取られて、例えば原子力発電所に突っ込むであるとか高層ビルに突っ込む、こういったことがなされた場合にどう対処するかということで、制定されつつある
法律であります。
特に問題になりましたのは、この十四条の中で連邦軍の出動を
規定していることであります。空軍機によって、強制着陸とか排除に従わない場合、威嚇射撃をしてもさらにこれに従わないということになりますと、最終的に
武器の使用を認めているという点であります。民間航空機でありますから、当然これは一般の乗客も乗っているわけでありまして、これに対して
武器を使用するということは、撃墜を
意味するということになる。そうした一般住民を巻き込んだ
ような
措置が許されるのか、仮に二千人の人命を救うために二十人の人間を殺していいのかという
ような議論もございます。
これに関しましては、現在
法案審議中でありますし、どうなるかはわかりませんが、一部には、基本法三十五条、災害時における連邦軍の出動
規定、あるいは第二条、生命身体を害されない
権利というものが
規定されておりまして、こうしたものとの関連から、違憲の疑いありということで、批判も出ております。
ただ、連邦政府がそれを承知でこういった
法律を出したといいますのは、やはり、自爆テロというのは自分の命をもう捨てるつもりでやっておるわけでありまして、そうした
テロリストに対して絶対にそれを成功させないという決意を示すためには、これぐらいのことは連邦政府は考えておるんだぞというところを示したかったのではないかと思います。
実際のところ、先ほども申しました
ような、極限
状況において連邦国防大臣がこの決断をする、つまり民間航空機を撃墜するという
ような決断ができるかといえば、非常に難しい。政治的に非常に大きな
責任を伴いますから、決断は難しいだろうと思います。実際、オットー・シリー内務大臣は、この
法案の説明の中でも、具体的にどういう
状況でこうした
武器使用を行うかということについての
要件をはっきりしないということも言っております。ですので、実際には撃墜命令を出すというふうなことは難しいとは思いますが、ただ、
法制上、そういうことも含めて政府は考えておるんだという決然たる態度を示すということで、自爆テロの
ようなものを防ぐという姿勢のあらわれではないかと私は考えております。
もう時間が過ぎておりますので、このぐらいにいたしまして、甚だ雑駁な発表になってしまいましたけれども、御不明な点がございましたら、また質疑応答の中でお答えしたいと思います。(拍手)