○
井上参考人 東京都
再生支援協議会の副
会長をいたしております
井上でございます。
私は、
東京商工
会議所の
中小企業担当の副会頭をいたしております。本日は、このような
機会をお与えいただきまして、まことにありがとうございます。
それでは、早速でございますが、
中小企業再生支援協議会の現状等につきまして御説明をさせていただきます。
バブル崩壊以降、
日本経済はデフレが進行し、大変厳しい
状態が続いております。このような状況下、
日本経済の活力を
回復させるためには
地域経済の立て直しが不可欠であり、そのためには、
地域経済を担っている
中小企業の
再生が極めて重要であります。このような
役割を担って全国に設立されたのが
中小企業再生支援協議会であります。
最近になって、ようやく株価も上昇し、
日本経済には明るい兆しが見え始めてきたとはいうものの、一方で、鋼材等原材料費の上昇による仕入れ価格の上昇を販売価格に転嫁できず、また新たな苦しみが始まりつつある
中小企業も多く、
中小企業にとっては引き続き厳しい状況が続いており、
中小企業再生支援協議会の
役割はさらに重要になってきておると考えております。
中小企業再生支援協議会は、全国の商工
会議所等認定
機関の支援のもと、
中小企業の
再生に関する経験の豊富な常駐
専門家により運営されております。既に全国で四十七都道府県に順次設置をされまして、
平成十六年の五月十日現在では、三千五百八十五社からの相談に応じている状況であります。そのうち、三百十二社については
再生計画の策定支援に取り組んでおり、既に百三十七社の
再生計画が完了をいたしております。
東京の協議会では、百三十社からの相談に応じ、そのうち三十四社について
再生計画の策定支援に取り組みました。八社につきましては
再生計画が完了をいたしております。
ここで申し上げておきたいことは、
再生計画策定完了とは、単に計画が完了したということではなく、その計画に基づく
金融機関の支援もまとまっているという点でございます。実は、この
金融機関調整というのが
中小企業再生支援協議会の重要な
役割の
一つであります。
さて、ここで、
中小企業再生支援協議会の特徴について、三点、御説明をさせていただきます。
まず
一つ目は、守秘義務という点でございます。
中小企業の場合、その
事業基盤も弱いケースが多く、
企業名が公表された場合、今後の
事業の存続に
支障を来すような事態となってしまうことを懸念している
経営者が極めて多いということが現状であります。その点、
中小企業再生支援協議会の場合には、
再生計画がまとまり
金融機関の支援取りつけが完了した場合でも
企業名が公表されないという点が、
経営者には大きな安心感につながっているということであります。
二つ目は、
中小企業再生支援協議会は公正中立な立場の第三者
機関であるという点でございます。すなわち、
債権者、
債務者のどちらの立場にも立たず、公正中立な立場からさまざまなアドバイスや提案を行うということであります。提案を受け入れるか否かの判断は、あくまで当事者、すなわち
企業と
金融機関が行うということであります。
この点は、何か無
責任で、
中小企業には冷たいように思われるかもしれませんが、現実には極めて適切に
機能をいたしております。それは、
中小企業再生支援協議会が親身になって徹底的に
経営者の相談に乗り、さまざまな客観的アドバイスを実施しているからにほかならないからであります。現実に、全国で相談件数が増加し続けているのが何よりの証明かというふうに思います。
一方、公正中立な立場という点は、
金融機関サイドにとっても大きな安心感を与えているようであります。実際、
再生計画策定
作業は、
企業、
金融機関、
再生支援協議会、そしてアドバイザーたちが一体となって進めているわけですから、透明感もあり、
債務者、
債権者双方に安心感を与えるようであります。
三つ目の点といたしまして、
中小企業診断士の存在、すなわち
事業自体の改善提案、指導を行うという点でございます。
金融機関といたしましては、どうしても
事業のことがわからないというのが現状であります。例えば、工場の生産性を上げるためには具体的にどのようにすればよいのか等々、このような問題を解決するのが
中小企業診断士の役目であるというふうに考えます。
以上、要約いたしますと、
中小企業再生支援協議会は、
企業側にとっては、秘密保持が確保され、かつ公正中立な立場から
金融機関対応等に関するアドバイスがもらえ、さらに
事業の
専門家から
事業に関するさまざまな改善提案をしてもらえ、最終的には
金融機関調整までしてくれるという
機関であり、一方、
金融機関側にとっては、公正中立な立場から
企業の実態分析、
事業分析等を実施し、
報告してもらえ、さらに
企業再生に関する新しい手法等についてアドバイスをしてもらえ、最終的には複数の
金融機関調整までしてくれる
機関であるということであります。
何か、メリットばかり申し上げているようでありますけれ
ども、
企業側、
金融機関側双方からの相談が増加し続けている現状は、そのあかし、もしくは、そのように期待されているというあかしでありましょう。
ここで、全国協議会の完了
案件の事例をパターン化して御
紹介させていただきたいというふうに思います。
まず、
企業再生に当たって、
基本的な
考え方として、主に負債の圧縮を
中心としたBSの
再生である財政面の
再生と、利益及びそれに基づくキャッシュフローの改善に伴うPLの
再生である
事業面の
再生という二本柱があります。いかに一時的に財務面をきれいに改善したとしても、将来的に
企業が存続していくためには利益を生み出す核となる
事業が必要であり、そのための本格的な手当てが必要なのであります。つまり、
中小企業の
再生においては、
事業面の
再生に重点を置くことが真の
中小企業の
再生支援であると言っても過言ではないと思います。
この
事業再生という切り口から見れば、完了
案件の約半数が製品別や
取引先別の管理会計の手法を導入し、収益
構造の具体的な分析を行うことで
経営資源を集中する部門を明確にした上、売り上げ増加のためのきめ細かな提案と収益性の向上のための具体的処方せんを示しているパターンであります。特に、この
事業面の改善提案は、リレーションバンキングの具体的取り組みの支援として、
金融機関の
補完機能を果たす
意味で、協議会の役目として今後も極めて重要であると考えます。また、
事業面の
再生の出口として、MアンドA、営業譲渡や
会社分割など、多様な手法を活用しているケースもあります。
それでは、ここで、
事業面の
再生をポイントにした
東京都の協議会における二つの具体的事例に即して御説明をさせていただきます。
まず
一つ目に、地場の土木
事業を営む
中小企業の例であります。
この
会社は、大手ゼネコンの下請体質からの脱却を目指して
努力を重ねてきたわけでありますが、道半ばで大手ゼネコンの
破綻に遭遇し、自力
再生が危ぶまれる事態となった
企業であります。
再生計画の中では、利益率の低い下請から利益率の高い小口工事へのシフトを行うとともに、経費削減等徹底的なコスト削減を図ることで収益アップさせることといたしました。
このポイントは、協議会が
取引金融機関を集め、協議会のアドバイザーが実施した
企業分析結果と
事業分析結果を
報告し、さらに、
経営責任として私財提供等を実施させることを説明した上で金融支援を
要請したという点であります。結果として、商工中金、
中小企業金融公庫の政府系
金融機関の積極的支援表明が呼び水となりまして、無事、新規
資金調達を含め、金融支援が固まったという
案件でございます。
次に、金属加工を営む
中小企業の例でございます。
このケースでは、社長が長年の自分のやり方に絶対の自信があり、メーンバンクからの指導にも耳を傾けず、結果として、なかなか収益が上がらず、じり貧
状態であったという
案件でございます。
協議会としては、何度も社長と話をし、やっとのことで
中小企業診断士との面談セットにこぎつけました。そして、診断士が
現場に何度も足を運び、工場の非効率部門の指摘をするにとどまらず、管理会計を導入し、
取引先別、製品別の採算分析等を実施し、徹底的に社長、工場長との話し合いを実施したことにより、社長も大きく目覚め、結果として、大幅に収益改善が図られることになったケースであります。
要約すれば、
事業面の改善、すなわち自助
努力という側面を、
金融機関にかわって協議会が指導、実施したということであります。
次に、車の両輪とも言える財務面の
再生という切り口から見てみますと、現状、複数の
金融機関の協調によるリスケジュール
案件が
中心となっております。しかし、単なるリスケジュールではなく、政府系
金融機関による特別融資や
信用保証協会の
資金繰りの円滑化借りかえ保証
制度等、公的金融支援ツールを有効に活用しているのが特徴かと思います。また、RCCやサービサーによる
債権放棄とセットで
地域金融機関と政府系
金融機関が肩がわりした
案件等、抜本的な財務面の
再生に取り組んだ事例もあります。
さて、財務面の
再生の手段として
債権放棄が代表的な道具として挙げられますが、これには、
金融機関による直接の
債権放棄のみならず、
先ほど御説明いたしましたように、RCC、サービサー、
再生ファンド等による間接的な
債権放棄があります。現状、協議会での事例として、後者、すなわちRCC等による間接的な
債権放棄案件が
中心であります。
私的整理ガイドラインを活用した
金融機関による直接の
債権放棄案件も現在進行していると聞いております。
また、
債権放棄に準じる財務面の
再生手段として、DES、
債務の株式化があります。これにつきましては、従来、
中小企業には活用できない手法と思われがちでしたが、そんなことはなく、
中小企業でも十分活用できる手法であり、実際に、協議会においても、償還条件つき無議決権の種類株を活用したDESを実施する予定もあると聞いております。また、先般の金融検査マニュアル・
中小企業融資編でありますが、そこでも認められましたDDS、
資本的劣後ローンも財務面の
再生手段として大いに期待されているところであります。
先般、
東京都の協議会におきまして、DDSの第一号を実施いたしたところでございます。そこで、その事例を説明させていただきます。金属加工の
中小企業の例でございます。
この
案件は、本業はしっかりしておりますが、過去の負債が大きく、
早期の
債務超過の解消と過剰
債務の圧縮を必要としているというケースでありました。経過としては、協議会アドバイザーチームと
再生計画を策定している経過で、商工中金より初めてDDS対応を検討したいとの提案がありました。協議会としても、実現に向け動いた次第であります。
具体的には、アドバイザーである公認会計士分析により実質自己
資本の把握、同じくアドバイザーである
中小企業診断士指導分析に基づく
事業計画を踏まえ、DDSを織り込んだ計画書を仕上げ、最終段階として、アドバイザーである
弁護士により、合理的かつ実現
可能性の高い計画であり、またDDSという支援も相当性があり、妥当であるとの
意見もいただきました。実現までこぎつけたという
案件であります。その結果、
企業の
債務者区分も無事にアップいたしました。
このDDSという手法は、
企業の正確な資産価値の把握と合理的かつ実現
可能性の高い
再生計画に基づき実施される必要があり、その
意味では、
中小企業再生支援協議会の果たす
役割は極めて大きいものと認識しております。このDDSについては商工中金が積極的に協力していただいた
案件ですが、これに限らず、全国の協議会
案件に関して、政府系
金融機関の積極的な御支援が協議会にとって大きな力となっており、大変に感謝をいたしておるところであります。
さて、いろいろと申し上げてまいりましたが、
最後に、少し違った側面から協議会について申し上げたいと思います。
それは、
中小企業の
再生は、とりもなおさず、
地域金融機関の
再生にも直結し、ひいては、
地域経済の活力を取り戻すことにもつながるという点でございます。
現在、
地域金融機関は、
取引先企業の
再生に向け、さまざまな取り組みを開始されている段階ですが、
再生は決して一人のプロによって実現できるものではありません。
弁護士、公認会計士、税理士、
中小企業診断士ほか、多くの人たちの力をかり、
企業と
金融機関が一体となって初めて実現できるものであります。
したがって、今後、さらに
中小企業再生支援協議会が果たす
役割は極めて重要なものになると確信をいたしております。協議会は、引き続き、
企業からの相談には親身になって対応することを心がけ、
企業にとってベストの
再生プランを提案し、一社でも多くの
中小企業の
再生と、一人でも多くの
雇用が守られるよう努めることが最大の
役割であると認識しております。二年目に入り、相談
案件も着実に増加傾向にあり、人員の増強等、予算面の御配慮もいただいておりますが、今後、さらに相談
案件及び
再生計画策定支援
案件が増加することも予想されますので、その際には、さらなる予算面での御配慮をいただければというふうに思います。
私
ども東京都
中小企業再生支援協議会においては、
東京商工
会議所を初め、
地域の各方面から総力を挙げてバックアップをしていただいておりますが、全国各協議会においても、同じように
地域を挙げてバックアップをしていただいております。今後とも、関係各方面の多くの皆様方のさらなる御支援をいただきながら、できる限り多くの
中小企業の皆様方のお役に立つように、日々
努力してまいりたいと存じております。
以上、私からの発言をさせていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)