○中村敦夫君 先日の農水
委員会の視察で四か所回りまして、大変勉強になりました。私にとって特に印象に残ったのはクローン牛の育成現場という場所なんですね。やはり見ると聞くでは大違いで、現場に立つと様々な疑問とか想像というのがわいてくるわけですけれ
ども。本当に驚いたのは、四頭一組、六頭一組のクローン牛の非常に精密な外形的類似性なんですね。肉も部位まで非常に同質であるという話を聞いてびっくりしました。
しかし、私が直感的に恐れを抱いたのは、これはもう牛でできるわけですから、人間にも当然のことながら技術的にはもう可能だという段階に来たと。
世界的合意でそういうことはしないということになっていますけれ
ども、それは何の保証もないような話だと思うんですよね。こんなことをやったら、麻原彰晃が十人も出てきたらこれどうするのかと。もちろん人間の性格、思考、行動様式というのは後天的なものだといいますけれ
ども、同じ環境で同じことをマインドコントロールすればかなり同質の人間というのは複数できるわけですよね。
利便性ということを考えたら、私だって忙しいですから、あと三人ぐらい欲しい。
質問に立つ前まではここにだれかもう一人の人に座っていてもらったら楽だとか、いろいろありますよ。しかし、そういう考えでどんどん行っていいのかどうかということは大変な問題だと思うんですね。これは、効率性とか生産性とか経済性とかと考えていけば、そういう発想はどんどん合理的じゃないかというふうに進んでしまうという恐ろしさがありますね。
一九三〇年代に既にオールダス・ハックスリーという有名な未来小説家が「すばらしい新
世界」という名作を発表して大変な問題になっていますし、今でもこれがいろいろなケースで例に引かれる小説なんですね。これはこういうクローン牛のような技術じゃないけれ
ども、試験管ベビーということをモチーフにして作って、要するに、生産性効率のためにもう人間もあるパターンに整理しちゃえばいいということなんですね。例えば鉱山労働者を作るためには、大きい穴を掘ってやるんじゃ効率悪いから、小さな穴でいくためには背の低い腰の曲がった人たちを何千人も作っちゃうと。もう同じ顔して同じ体しているわけですね。それをやってしまうということを、社会で全部それをやっていくと非常に効率性が上がるという、非常にブラックユーモアですけれ
ども怖い話ですよね。
正に彼が一九三〇年代に予想していたような事柄がある程度、今、現実化してきているという時代に入ったと思うんですね。しかしながら、科学技術的にはもう可能なんだから、無制限に何でもやってもよいというふうに進んでいいのかどうかという疑問がありますよね。
BSEの
発生なんて正にそうなんですよ、あれは。牛に牛の肉を食わせるというような話から始まってきて、やっていいことと悪いことというのがあるんじゃないかと。
人間も生態系の一部にしかすぎませんから、生き残るために自然に働き掛けて何とか工夫するということは必要だと思いますけれ
ども、物には限度があるのではないかなと。要するに、本来、人間にもほどほどという重要な本能というのは実際あるんだと。しかし、そういうものを超えて生産性だというところへ突っ走っていくということになると、逆に非常に大きな危険というものが我々を待っているんじゃないかなという、そういう感想を私は持ったんですね。クローン牛にしても、わざわざこれまでしてこの種の特定の肉を食わなきゃ人間幸せになれないのかどうかという本質的な疑問を感じたわけですね。
質問に入る前に重要な問題提起をしたいと思うんですよ。四月十一日に、体細胞クローン牛の
食品としての
安全性を
検討していた
厚生労働省の研究班、ここが、体細胞クローン牛特有の要因によって
食品としての
安全性が損なわれることは考え難いという
報告書を作ってしまったんですね。
状況から考えてみても、そんなにはっきり結論を出すのはちょっと早過ぎるんじゃないかというふうに感じますが、しかし報道によりますと、
厚生労働省はこの
報告書の
内容を新設した
食品安全委員会へ諮問する方針だということなんですね。どんどん進んでいくわけですよ。
しかし、これ、そもそもクローン牛の開発を始めたのは
農林水産省だし、その流れの中で、
食品の
安全性を
検討しているのは厚生省なわけで、この二省で
一つの流れを作ってしまったその方針というものを
食品安全委員会が押し付けられるというような形になっていくと、
食品安全委員会というのは他省庁の結論を追認するだけの形式的な追認機関になりかねない、もはやそういう危惧が出てきたと、このことを強く警告しておきたいんです。
ところで、今日は、体細胞クローン牛開発の目的と整合性について若干お聞きしたいと思いますが、最初は
農林水産技術会議事務局長に
お願いいたします。
これまで
農水省が体細胞クローン牛のために投じてきた研究開発費の累計の総額というのはどのぐらいになりますか。簡単にお答えください。