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参考人(
藤原邦達君) このたびは非常に貴重な場でこういう
発言の
機会を与えられたことを本当に感謝いたします。
私は、長年にわたって
食品衛生化学の研究に従事してまいりました。定年後は技術顧問という肩書で
消費者団体の身近にいることを許されて今日に至っています。
この
機会に私は、この非常に重要な
法案及び安全
委員会の設置に関して若干の
意見を申し上げたいと思います。
最初に、私が本日の陳述の
参考資料として幾つかの資料を、
参考資料を持参しております。その
一つは本日の陳述の要旨であり、
二つ目は私自身の政府案に対する対案でございます。
三つ目は政府案と私の案の相違点に関したもの、四つ目は私が提案したい安全
委員会の
組織図です。五つ目は諸外国の
参考事例を若干付加させていただきました。
今日申し上げたいのは二点ございまして、第一点は、政府原案の
作成のプロセスについて、私はもっと時間を掛けて慎重を期すべきではなかったかということを申し上げます。これは、仮にいったんこの
法案が成立したとしても、その後についても大変重要なことかと思っています。第二点は、この時点で
法案ができるとすれば、せめて最低限政府原案に修正を加える、あるいは追加する
部分が必要だという点についてでございます。
この陳述の時間は非常に限られてございますので、
最初はまず第一点の
作成プロセスの在り方について申し上げることにいたします。第二点につきましては、以下の質疑の中で触れることができればと期待しております。
ちなみに、私が主張したい修正あるいは追加の
部分でございますが、一点は、
消費者の権利の明文化ということです。二点は、ハードウエアに当たる
行政の
体制の整備についての明文化でございます。第三点は、いわゆる予防原則の明文化でございます。第四点は、
食品安全委員会の
組織体制の確立についてでございます。
さて、第一点の政府原案の
作成プロセスに関しての私の
意見でございますが、御存じのように、
EUでは二〇〇〇年一月に安全白書を発表しました。二〇〇二年の二月になって規則ができ、
食品安全委員会等々が具体的に
動き出すという形になっております。もっとも、九〇年代の後半を掛けて慎重な議論が行われてこういったことになってきたということでございますが、我が国の場合は、
BSE委員会で、今日私申しますが、
BSE委員会での議論の中で、これは本来
BSE問題について行われた
委員会であったわけですが、その第Ⅲ部のところに
リスクアセスメント方式の問題が登場する、もちろん、それ以前からの
意見等々あったわけですけれ
ども。この中で六か月以内に成案提出ということがうたわれておりまして、実際に六か月後に政府原案ができ上がったと。つまり、非常に短
期間に作られたということはやっぱり否定できないんではないか。諸外国では現在に至るまで
世界の各国での取組が行われている中で
日本が非常に早くこういう取組をした。これを高く
評価すべきなのか、いやもっと慎重であるべきであったのかという二つの見方が可能ではないかと思います。
御存じのように、
EUではGLP、GMPの制度があり、またHACCPという
考え方が定着し、その前提の中で
リスクアナリシス方式というものが生み出されている。これは歴史的な経過です。あるいは歴史的な背景であると言ってもいいと思うんですが、その中で慎重論、慎重論の形として予防原則というような
考え方も盛り込まれている、こういう経過がある。第二点は、
EUと
日本とはこの被害の体験を異にしている。第三点は、食風土とか食環境も全く違う。特に、輸入大国としての特徴を持っている。第四点は、国民性ももちろん違う。民族性と申しますか、農耕民族と狩猟民族というような違いもあるのではないか。第五点は、法体系も全く異なっているわけですね。そういう意味では極めて慎重に
日本独特の
法案を作る、あるいは
システムを作るということが必要であったというふうに私は思います。
実際に一例があるわけですけれ
ども、HACCPの場合ですが、私は衆議院の雪印の特別
委員会での
参考人の中でも申し上げたわけですけれ
ども、慎重にHACCPの
システムを
日本に定着させていく必要があるんではないか。この雪印事件の現場であった大阪の雪印の大阪工場でございますが、代表的なHACCPの指定、承認工場であった、この承認工場が大
食中毒事件を起こしまして、ふたを開けてみると極めて乱脈であった。これは、監視とか指導の
行政側の
体制が問題を
一つ持っていた、それからHACCPの
システムを規定する
法律の在り方が不完全であった、あるいは
企業のモラル、これにかかわる罰則等々も極めてルーズであった、そういったことがあったから、せっかくHACCPというものを持ち込んでも大失敗をしてしまった。つまり、HACCPを定着させるためにも一定の慎重論、根固めの
期間が必要ではなかったか、議論をきちっとしていくことが大切ではなかったか、私はそんなふうに思っております。
拙速ということ、これはやっぱりあらゆる場合に気を付けなければならないことだと思うんです。今回の
リスクアナリシスの方式について、私はもちろん賛成の
立場でございますし、この方式にのっとった様々な取組をしていらしたことを高く
評価するわけですけれ
ども、これを実際の
法律としてあるいは
行政の制度として我が国に定着させるために幾つか是非ともすべきことがあったんではないか。それは、この取組にかかわる関係者の
見解をよく聞くことであったと思います。
一つは、
リスクアセスメントを行う当事者は
科学者でございますが、研究者でございますが、本当に研究者の
意見を正確に聞き取ったんだろうか。
リスクアナリシスあるいは特に
リスクアセスメントの難しさ、限界性、そのときの歯止め、様々な問題が残ってくるわけですけれ
ども、本当にこの短い
期間に聞くことができたか、これが第一点でございます。
第二点は、
リスクアセスメントの受け手である
リスクマネジメントの当事者、例えば
行政のスペシャリストたちの
意見を本当に聞いたんだろうか。
食品衛生監視員あるいは
検査員あるいは検疫所の職員の皆さん、保健所の関係者あるいは中央、地方の本庁の
行政の先端にいらっしゃるスペシャリスト、そういう
方々の御
意見、受け手としての御
意見をよく聞くべきであった。分離すればいいというのではありません。どうつなぐかということが重要でもあるわけですね。ですから、私は是非ともそういう
方々の
意見も十分聞くべきであったと思う。
第三点は、実際に被害が起こる現場は地方公共団体、地方自治体でございます。地方自治体には地方の
衛生研究所、保健所あるいは
食品衛生部とかそういう
セクションがある、その当事者の
意見を本当に聞いたんだろうか。聞かねばならなかったと私は思います。
第四点は、
食品被害者の体験を聞くべきであった。あのときこうしていただいたらこういう被害は起こらなかったという体験がたくさん今日までに残されている、そういう中で予防原則というものを位置付けよという
意見も出てくるわけですが、そういう
意見を本当に聞いたんだろうか。
第五点は、
消費者の
組織の
見解を聞くということです。
消費者の
組織にも様々な
意見がございます。日
生協以外にもたくさんの
消費者団体があるわけですが、その
意見を本当に聞くことができたか、公聴会をやったか、本当にそういう点、満足な取組ができたんだろうか。
第七点は、法曹関係者、つまり
日本のPL法とか、あるいは
消費者保護
基本法とか、様々な
法律との整合性という観点からいいますと、
法律の
専門家の
意見ももっと聞くべきではなかったか。
そして最後に、これは政府原案ができた後六か月という短
期間に、本当に野党の皆さん方の御
意見も反映できたんだろうか、率直に私は疑問を持っております。
いずれにしろ、諸外国ではこの
システムあるいは
行政の具体的な
組織作りというのは今始まったばかりです。英、独、仏あるいは
EU含めて二〇〇〇年前後から始まった。試行錯誤の段階にある。たくさんの
情報を我々は期待せねばならない。
日本独自の在り方を検討する、そのための大事な時間、これが本当に充実したものであったかどうか、私はその点を特に主張しておきたいと思うんです。そうした取組であるための、あるいは抽象的な、概念的な取組でないための在り方ということが大変注意しなければならない点だと思います。
それから、
リスクアナリシスというものが本当にいいものとして、誤りのないものとして、問題のないものとして取り扱われることも警戒しないといけないと思うんですね。
リスクアナリシス
自体についての検討の
必要性も大いにあったんではないか。理論的に、実際的に
リスクアナリシスの到達点はどうなのか。御存じのように、環境アセスメント
自体についても様々な議論があるんです。
食品のアセスメントについても様々な問題が残されている。そういう問題点の把握についての在り方がこれで十分なのか、私は疑問を持っています。
例えば、今はやりの
SARSでございますけれ
ども、
データがほとんどないような初期の状態でどのようにアセスするか、このことが問われてくるわけですね。それほど簡単なものではない。私は資料三の中に、私の経験したたくさんの
食品被害事例を挙げておきました。PCB、GMO、これは
遺伝子組換え食品です。
環境ホルモン、あるいは
食品添加物、
農薬、あるいは様々な
O157等々の
食中毒、初期の段階にはアセスメントは不可能の
状況が生まれてくるわけですね。そういう段階ではどう
対応するか、こういうことも問われてくる。これは
現実問題であるということです。こういう現場に立ち会った研究者の
意見ももっと聞かれるべきではなかったでしょうか。
第二点は、
リスクアセスメントの結論に至る論理形成のプロセスをどうするか。これは慎重な論理形成が必要であると思います。相手によって、
ウイルス、細菌、非生物の様々な化学物質等々についてそれぞれの論理形成のプロセスが必要である。
第三は、対立
意見の処理の在り方です。現在の
法案では多数決で決めるというふうにございますけれ
ども、科学的な議論について多数決という原則が適用できるんだろうか。一名でも異議のある場合の処理というものが必要ではないんだろうか。
第四点は、保留措置ですね。科学的な根拠が不完全ではあるけれ
ども、もしそれがあり得たとすれば大変なことになる。ここで予防原則の
考え方というものがどうしても登場せざるを得ない。
EUではこれを明文化しているんですが、今回の
法律では明文化していない。
第五点は、
専門家の養成です。聞くところによれば、
日本では
リスクアナリシスの
専門家はいないなんてことのようでございますけれ
ども、
専門家の養成にも一定の時間が必要であろうと思います。
それから第六点は、テーマのリクエスト主体はだれなのか、どうするのか。テーマの設定あるいはその取り上げる順序をどうするのか。こういう手続問題があります。
それから第七点は、勧告された側の、つまり指示された側のマネジメントを行う受容体である
行政側の準備態勢はこれで十分なのか。実効性を上げようと思ったらそこのところが非常に重要な意味を持つわけですね。
最後に申し上げたい八点は、国民的なコンセンサスの構成のためにどのような取組があるのかということです。あるいはあったのかということでございます。
私は、以上のように申し上げますと、これはまだまだやるべきことがたくさん残されていた、いたずらに早かったからいいというような
考え方をしてはならない。もっとそういう根締めをしっかりやった上で、本当に国民の命と暮らしを預けるに足るような
食品安全基本法とし、あるいはそのための安全
委員会を作るというふうな慎重な
考え方が大事ではなかったか、そのようなことを申し上げておきたいと思います。