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2003-04-22 第156回国会 参議院 財政金融委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十五年四月二十二日(火曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  四月十七日     辞任         補欠選任      池田 幹幸君     市田 忠義君  四月十八日     辞任         補欠選任      市田 忠義君     池田 幹幸君  四月二十一日     辞任         補欠選任      櫻井  充君     角田 義一君  四月二十二日     辞任         補欠選任      角田 義一君     櫻井  充君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         柳田  稔君     理 事                 入澤  肇君                 尾辻 秀久君                 林  芳正君                 円 より子君                 浜田卓二郎君     委 員                 佐藤 泰三君                 清水 達雄君                 田村耕太郎君                 中島 啓雄君                 西田 吉宏君                 溝手 顕正君                 森山  裕君                 若林 正俊君                 大塚 耕平君                 勝木 健司君                 櫻井  充君                 角田 義一君                 峰崎 直樹君                 山本  保君                 池田 幹幸君                 大門実紀史君                 平野 達男君                 大渕 絹子君                 椎名 素夫君    衆議院議員        発議者      谷津 義男君        発議者      佐藤 剛男君        発議者      滝   実君        発議者      赤羽 一嘉君        発議者      上田  勇君        修正案提出者   七条  明君        修正案提出者   江崎洋一郎君    国務大臣        財務大臣     塩川正十郎君        国務大臣        (金融担当大臣) 竹中 平蔵君    副大臣        内閣府副大臣   伊藤 達也君        財務大臣    小林 興起君    事務局側        常任委員会専門        員        石田 祐幸君    政府参考人        公正取引委員会        事務総局経済取        引局取引部長   楢崎 憲安君        公正取引委員会        事務総局審査局        長        鈴木 孝之君        警察庁生活安全        局長       瀬川 勝久君        法務大臣官房審        議官       河村  博君        財務省主税局長  大武健一郎君        国税庁次長        兼国税庁長官官        房審議官事務代        理        福田  進君        厚生労働省雇用        均等・児童家庭        局長       岩田喜美枝君    参考人        日本銀行総裁   福井 俊彦君        日本銀行総裁  武藤 敏郎君        日本銀行総裁  岩田 一政君        日本銀行理事   三谷 隆博君        日本銀行理事   小林 英三君        日本銀行理事   白川 方明君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○政府参考人出席要求に関する件 ○酒税法及び酒税保全及び酒類業組合等に関す  る法律の一部を改正する法律案内閣提出、衆  議院送付) ○酒類小売業者経営改善等に関する緊急措置  法案衆議院提出) ○参考人出席要求に関する件 ○財政及び金融等に関する調査  (日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づく  通貨及び金融の調節に関する報告書に関する件  ) ○保険業法の一部を改正する法律案内閣提出、  衆議院送付)     ─────────────
  2. 柳田稔

    委員長柳田稔君) ただいまから財政金融委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  昨二十一日、櫻井充君が委員辞任され、その補欠として角田義一君が選任されました。     ─────────────
  3. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 政府参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  酒税法及び酒税保全及び酒類業組合等に関する法律の一部を改正する法律案及び酒類小売業者経営改善等に関する緊急措置法案審査のため、本日の委員会に、理事会協議のとおり、政府参考人として公正取引委員会事務総局経済取引局取引部長楢崎憲安君外六名の出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  5. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 酒税法及び酒税保全及び酒類業組合等に関する法律の一部を改正する法律案及び酒類小売業者経営改善等に関する緊急措置法案、両案を一括して議題といたします。  両案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  6. 円より子

    円より子君 おはようございます。民主党・新緑風会の円より子でございます。  酒類関係二法に対する質疑をこれから行わせていただきますが、酒類小売業免許に係る規制緩和といいますのは、平成十年三月の規制緩和推進計画閣議決定に基づきまして、平成十三年一月にまず距離基準が廃止されました。  また、その後、この規制緩和だけではございませんけれども、様々な要因によって酒小売業者倒産とか、倒産といいますか廃業店舗数が大変多くなっておりますことや、自殺者数また行方不明者が多いと聞いておりますが、この現状はどういうふうになっているか、財務省の方では御存じでいらっしゃいますでしょうか。
  7. 福田進

    政府参考人福田進君) お答え申し上げます。  酒類小売業者転廃業店舗数自殺者数等の実態についての御質問でございますが、全国小売酒販組合中央会による実態調査によりますと、距離基準撤廃直後の平成十三年四月一日以降、平成十五年二月二十八日までの間におきまして、酒類小売業者転廃業倒産店舗数は一万二千八百九十五件、自殺者数は五十人、失踪行方不明者数は二千四百四十一人となっていると聞いております。
  8. 円より子

    円より子君 今おっしゃってくださった廃業とかまた失踪行方不明者自殺者数状況なんですけれども、このまず廃業倒産等理由といいますのが、やはりその商圏内及び近隣に免許が付与され出店が集中したためということや、価格競争で売上げが激減したというのが大変多くなっているわけですね。  こういった現状の中で自殺者また行方不明者も出ているわけですけれども、こういった酒屋さんの大変な状況考えた上で、また本年九月には人口基準も完全撤廃されることになっておりますけれども規制緩和推進計画閣議決定に基づいて仕方がないのか、それとも閣議決定、仕方がないといいますか、その決定に基づいてこれは当然のことなのか、この辺の人口基準を外すことになった理由をまずお伺いしたいと思います。
  9. 福田進

    政府参考人福田進君) お答えいたします。  酒類小売業免許に係る人口基準につきましては、先生今御指摘のように、平成十年三月に閣議決定されました規制緩和推進三か年計画におきまして、平成十年九月から段階的な緩和を着実に行い、十五年九月一日をもって廃止する旨定められております。  私ども国税庁といたしましては、これまでこの閣議決定で定められましたスケジュールあるいは引下げ幅にのっとりまして人口基準引下げを実施してきたところでございまして、また、その定めに従い、本年九月をもって人口基準の廃止を行うこととしております。
  10. 円より子

    円より子君 今のお答えですと、当然、私が先ほど申しましたように、規制緩和推進計画閣議決定に基づいてということでございますけれども、こういった酒屋さんの今の現状倒産が多く、また先ほど申しましたような理由によってほとんどが倒産自殺、行方不明になっているという、こういう状況については、財務省大臣又は副大臣、どのようにお考えでいらっしゃいますか。──次長さんでしたら先ほどと同じお答えだと思いますので、大臣にお願いしたいと思います。
  11. 塩川正十郎

    国務大臣塩川正十郎君) やっぱり過当競争原因になっていると思いますけれども、それと同時に、やっぱりいろんな社会的また家庭的な理由ども非常にお酒屋さんなんかでもいろいろと問題があるんじゃないかと思いまして、過当競争だけが原因でもないような感じもいたしますけれども、ちょっと定かには私は把握しておりません。
  12. 円より子

    円より子君 社会的理由又は家庭的理由というのはどういうものなんでしょうか。
  13. 塩川正十郎

    国務大臣塩川正十郎君) 最近、私らの方で見まして、お酒屋さんの後継ぎがなくなってきたんです。これは相当やっぱり従来のお酒屋さんなんかの経営とちょっと違うような感じが私いたすんですけれども、しかし、まあこれは私の近所のことの話であって、全国的なことじゃないかも分かりませんけれども
  14. 円より子

    円より子君 私は逆に、規制緩和のせいだけではなくて、この十年来の不況に対する政府の失政といいますか、そういうものが大きな影響をやはり与えているのではないかという気がする、ただ空き地のような問題だけではなくてですね。  それからまた、商店街活性化ですとか町づくり全体の都市計画みたいなものがおろそかになってきたとか様々な原因があると思いますが、例えば竹中さんがお進めになっている言ってみれば経済政策にしても、手術の途中で、手術を始めたのはいいけれども手術室でメスを入れたけれども、それをそのまま今ほうり出したまま、きちんと後をやっていないというそういう状況で、失血死してしまっているような状況がありまして、そうした、今、昨日の株価も七千九百円台でしたでしょうか、とにかく橋本元総理も、こんな状況では三十分以内に内閣が崩壊するだろうと、自分のもし内閣だったらとおっしゃっているような、もう王道なんということではなくて、ありとあらゆる政策を駆使してでも今の状況を何とかしなきゃいけない。この手術をきちんとやらなきゃいけないと与党内でもおっしゃっているにもかかわらずこのずっとていたらくで、イラクの方々大変市民の方が亡くなられてもう本当に心痛みますけれども、言ってみれば、大変悪い言い方かもしれませんが、戦争があったおかげでこのひどい経済状況から人々の目がそらされているのではないかというそういう状況下で、一番戦争にしても経済不況にしても痛みを被るのは弱い方々であって、その一つがこの酒屋さんにも表れている。そして、自殺行方不明者まで出て、不況のせいで廃業が起きている。  私は、規制緩和だけではなくて、そういう状況はこの十年来続いておりますから、先ほど申し上げました平成十三年の距離基準が廃止されてからではなくて、もっと以前から廃業やいろいろ起きてきているわけですね。そして、一応、大手スーパーコンビニエンスストア等の積極的な参入によりまして酒販店は増加の一途をたどっております。平成八年から平成十三年の五年間で、コンビニエンスストアは約一万軒、スーパーマーケットは約四千軒増加いたしました。それは、ある意味では消費者の立場の利便性というものは大変大きくなったということも言えます。  で、もう一方、何でも明暗がございますから、先ほどから申し上げていますように既存の中小零細小売業者は本当、倒産に直面しているわけですけれども、例えば酒屋さんからコンビニエンスストアに転換していったり、又は廃業した人たちがほかの業種に起業なさっているのかどうか。そういった、新しくしたり、又は今の酒屋さんでも特性を生かして、周りに例えば大きなスーパーコンビニエンスストアができてもそれなりに頑張っていらっしゃるとか、そういった起業、新しい起業や転業、又は個性を生かして酒屋さんとして頑張っている、そういうことがなかなか日本ではできにくい、もし起業ができにくいとしたらどういったところに原因があるか、財務省の方でつかんでいらっしゃいますでしょうか。
  15. 福田進

    政府参考人福田進君) 今、先生指摘のように、社団法人日本フランチャイズチェーン協会によりますと、平成十四年八月末現在で、傘下のコンビニエンスストア酒類を取り扱っている店舗数約二万四千三百店舗でございまして、そのうち約一万七千三百店舗、全体の七割ちょっとでございますが、七割程度酒販店からコンビニエンスストアに業態転換したものであると、こういうふうに聞いております。
  16. 円より子

    円より子君 私の質問の半分もお答えになっていないんですけれども、例えば今、中小企業零細企業、一番銀行の貸し渋りや貸しはがしの影響を受けまして倒産、大変なんですけれども一つにはそういった銀行融資の問題もありますけれども日本では個人保証というのがありまして、倒産廃業した後になかなか、自己破産とかしますから、何というんでしょうか、その後、家も何もかもなくなって新しくやり直すということが大変難しいという状況があります。  例えば、アメリカなどでは個人保証というものがもう事実上なくなっておりますけれども日本では個人保証があるがためにすべてのものを失い、そして新しくやり直すことができなくて、先ほどのような保険金目当て自殺のようなことも起きてくる。交通事故死が一年間一万人を切って八千人ぐらいになっている現状の中で、この数年来ずっと三万人以上の自殺がある。そして、それもほとんどが五十代、六十代の会社などを経営しているような方々、男性の方の自殺が増えているというこの事実を私たちはやはり大変重く受け止めなければいけないんじゃないかというときに、この個人保証のシステムをやめるというようなことも考えられると思うんですね。酒屋さんにだってそういったことで自殺をしている方だっているかもしれません。このことについては大臣はどういうふうに思われますでしょうか。
  17. 小林興起

    ○副大臣小林興起君) 日本は、御承知のとおりプロジェクトに貸すというよりはその企業者に貸すという、こういう形の中で、貸す金額に応じてある担保はすべて出すということになりますと、担保の中に個人の家とか土地が入ってきてしまう。そういう企業会社経営が、個人との境が明確になされていないということがあるわけでございますが、金融の方でも、プロジェクトに収益が出てくるわけですから、それに対して貸す。プロジェクトが成功すれば返ってきますけれども失敗した場合は返ってこない、そのリスクをいろんな形で、金利とか何かで金融機関考えて負うということになればプロジェクト融資ができますれば、今言いましたような個人にまであこぎに取り立てるということはなくて済むわけでございますが、今までの慣習とちょっと違うものですから、しかしこれだけ不況が続いて非常に気の毒な例が多くなっている中に、政府としても、今言いましたプロジェクト融資のような形で個人の資産は切り離して貸すことができないかどうか、そういうことを中小企業政策として検討すべきではないかという、そういう検討が始まったと聞いております。
  18. 円より子

    円より子君 もう少し法案の方に戻りましてお話しさせていただきますと、この酒類小売業における過当競争といいますのは地域間によって格差があるように思いますけれども免許枠過当競争地域格差については財務省はどのようにお考えでしょうか。
  19. 福田進

    政府参考人福田進君) お答えいたします。  平成十四免許年度について申し上げますと、新規参入の前提となります免許枠発生状況、これを見てみますと、大都市部では七割の地域免許枠が発生しております。その一方で、町村部におきましては約五割の地域にとどまっております。さらに、申請状況について見ますと、大都市部では合計で約四千五百件の免許枠に対しまして約八千七百件の申請提出されており、これに対しまして町村部では三千六百件の免許枠に対しまして申請は千二百件にとどまっておりまして、免許枠に対し参入希望者の数が満たない町村部地域の割合は七割以上となっております。  このように、先生今御指摘のとおり、地域によりまして酒類小売業への新規参入状況は異なるものとなっていること、事実でございまして、したがって、新規参入により生じる競争程度も異なっているものと私ども考えております。
  20. 円より子

    円より子君 次に、緊急措置法案提出理由についてお伺いしたいんですけれども先ほどから不況に対する政府の対策の欠如といいますか、そういったものや規制緩和等が輪を掛けまして、酒類販売業者には大変な厳しい現状となっているわけでございますけれども、でもまあこれからの時代考えますと、この法案がかなり評判が悪いといいますか、新聞記事等御存じだと思いますけれども、いろいろこれはやり過ぎではないかと、特区の逆ではないかということも書いてございますし、例えばチェーンストアなどからは、これはちょうど衆議院財務金融委員会でこの法案が可決されたときのものでございますけれども、「本日、衆議院財務金融委員会において上記法案が可決されましたことは当協会としては誠に遺憾であります。」というような、こういった要望書も出ております。  「予てから本議員立法については、規制改革推進に関する閣議決定趣旨に反すると思われる「緊急調整地域指定等免許制限条項」を基本としていることから、活力ある自由な事業活動生活者の利益を阻害しかねないものとして強く反対してまいりました。 特に、「構造改革特別区域法」を制定し、規制改革を強力に推進しようとしているこの時に当たり、緊急調整地域は「逆特区」というべきもので理解しがたいものがあります。」というような、こういう要望書が出ていること、よく御存じのことと思いますが、こういった意見がある中で、今回、私も事情はよく分かるんですが、この法案を出されました理由目的等についてお伺いしたいと思います。
  21. 谷津義男

    衆議院議員谷津義男君) 先ほど先生の御質問の中にありましたけれども、この酒類小売免許に関しましては、平成十年の三月の閣議において決定されまして、十年度から順次需給調整が行われてきたところであります。これによりましてその規制撤廃あるいは緩和が行われてきたわけでありますけれども、私どもは、この緩和は、規制緩和時代の流れでもありますし、これに逆行するつもりは全くございませんで、ただ、この法律趣旨は、階段でいうならば踊り場といいましょうか、そういうところが必要ではないかということで、余りにも急激な緩和によりまして、先ほどお話がありましたように、約一割近い方たち倒産に追い込まれた、あるいは自殺者も出ている、あるいは二千名を超える人たちが行方不明になっておるというふうなこういう状況を見ますと、この急激な規制緩和というものがいいのかどうかということも考えなければならぬというふうに考えたわけであります。  そういうことによりまして、困窮するこの小売業者人たちに対しましても、今までいろんな距離規制とかあるいはまた人口規制とかありまして、はっきり申し上げてしまえば、酒税の収入の面というのもかなりあってそういうものも考えられてきたんだろうと思いますけれども、そういうものが一挙に緩和をされましていろいろと、特に今申請出しているのは、先ほどお話がありましたように、量販店といいましょうか、そういうところがありますから、なかなかそういうものに対して対抗できるだけのものが今までの既成の小売業者にはないという面もありますし、またもう一つは、お酒屋さんというのは大体町の中心といいましょうか、そういうところに多くあるわけでありますが、駐車場がなかなか確保できないとかなんとかというようなこともありまして、どうしても量販店に押される、言うならば同じ土俵の中で競争ができる状況にはないということもありまして、こうした急激な規制緩和に対する、いろんな申請が出てくるのをすべてそれを許可していくというようなものが果たして良いのかどうかということも考えまして、こうした法案提出になったわけであります。
  22. 円より子

    円より子君 先ほど財務省の方がお答えくださったように、本当に免許枠過当競争地域格差というものが随分あります。そうしますと、その地域の実情に応じた措置を図るという観点からは、正しくその核となりますのは緊急調整地域指定及びそれに応じた免許付与制限であると思うんですが、まず、この緊急調整地域指定要件についてお尋ねしたいと思います。  この場合に、指定範囲でございますけれども、先般の衆議院の議論では、同趣旨質問に対して、地域によっては小学校中学校区域を持ってくるという旨の答弁がございました。その一方で、状況によっては広範囲に及ぶ市町村全域緊急調整地域として指定するということも考えられ得ると思うと。こう考えますと、税務署長指定すべき地域範囲、広さといいますのは非常に区々によって異なるということが思われますが、一方では所轄の一部について、他方では隣接税務署所轄をまたぐ地域全体というように、緊急調整地域をどのような範囲指定するかによってその運営形態も異なると思いますけれども、その見解を伺いたいと思います。
  23. 滝実

    衆議院議員滝実君) お答えいたします。  御指摘のように、税務署所管区域というのは、その地域によって市町村区域の中に限定される場合もありますし、市町村区域を超える場合もある、こういうことでございますので、この法案におきましては、最大の区域法案に示しておりますように一つ市町村区域と、こういうふうに限定をいたしておるわけでございますけれども、その区域が、市町村が余りにも広いという場合もございますものですから、一つの指標としては小学校区域あるいは中学校区域と、こういうふうなことを予定をさせていただいているわけでございます。  これは衆議院で申し上げましたのでございますけれども学校教育法施行令第五条の二項にきちんとしてそういう地域指定を定める条文があるものですから、それを引用させていただいて、市町村の中ではその区域がよろしいんじゃないだろうかなと、こういうことを想定をさせていただいているわけでございます。
  24. 円より子

    円より子君 また、この緊急調整地域指定要件に、競争が厳しく小売業者販売量が急減していることや過半数の小売業者経営改善計画提出していることを挙げておりますが、いずれにせよ税務署長は、所轄内の小売業販売数量販売場数推移等需給動向あるいは経営状況等を継続的にモニタリングすることが求められるわけです。  そこで、現行税務署体制はどうなっているのか、現行体制でこうした対応が可能なのかどうか、体制を充実する必要があるのか、この辺については財務省にお伺いしたいと思いますが。
  25. 福田進

    政府参考人福田進君) お答え申し上げます。  私どもの現在の税務署体制で、今御提案の施策は実施可能であるというふうに認識しております。
  26. 円より子

    円より子君 今度は小売業者に対して講じる支援措置ということについてお伺いしたいんですけれども酒類小売業者経営改善計画の実施や転廃業円滑化のために国が必要な措置を講じることとしておりますけれども、原案ではまず、「必要な財政上の措置」となっていたんですが、これは当初どういった支援措置を想定しておられたのか。また、それがなぜ「必要な財政上の措置」の財政上を削除なさって「必要な措置」と修正されたのか。この修正した場合の内容をお教えいただきたいんですが。
  27. 七条明

    衆議院議員(七条明君) 今、円先生いろいろな形で、今お酒の業界、特に町の小売店が厳しい状況にあるということは、先ほど来からいろいろ御指摘をいただいて、もう本当にそのとおりだと思っております。  本来、酒税法というのは、所管をするのが税務署であったり、小売店を所管するんですね、大蔵省、いわゆる国税当局であるわけでありましたけれども、本来酒税法は、税金、お酒の税金をうまく取る、適正に、公正に酒税保全ということが、主にやるということが前提であったと思うんです。ところが、今こういう厳しい状況になったときに、経営指導だとか、いわゆる販売の小売店ですね、小売店を、業者の育成をしていくという観点がどちらかといえば私は希薄であったんじゃないかと。どちらかというと税金を取るばかりのことを考えてきて、それができてこなかった、そういう状況にあったというふうに考えられるものですから、私たちは修正をする中で、財政上の支援として考えるだけではなくして、もっと大きな範囲で、財政支援でない部分まで考えていこうというふうにやるべきではないかと実は思い掛けました。  今財政支援と経営指導とかあるいは業者の育成という観点からいきますと、その窓口的なことになってくるのであれば、例えば財政が必要なもを申し上げますと、これは酒類小売業者に対する研修の実施だとかマニュアルの作成に対する予算措置等が考えられる。少なくとも小売店の皆さん方が何かをしてほしい、経営指導だとかあるいは業者を育成してほしいというようなアピールがあったときには、それに応じる窓口を作って財政支援をしていけることができないか、そういう観点に立とうと思います。  もう一つ財政がないようなものでもやっていかなきゃならないということがあるというのは、例えば今酒屋さん、町の小売店が一番困っておられるのは、大量仕入れ、大量販売、これが町の小さい小売店ではできない。今コンビニという話がさっき出てきましたし、量販店という話も出てまいりました。全国展開をしたり二十四時間やるようなところと違って、どうしても大量に仕入れて大量に販売ができなくなると、そこに一つの難しい、小売店の苦しい現状が出てまいりますから、そういうことをきちっとした形で共同で、小売店同士が共同で仕入れていく、あるいは共同で配送をしていくというようなことができてくるということができれば、よりそれらが少しでも経営指導の立場では育成をしていくことになろうと思いますが、それをしようとしてみても、例えばその蔵置場だとかあるいは小売の免許や卸の免許というところで、なかなか今現状のものだけで業者の、小売店業者が考えておられることができないことが起こってくるんじゃないかと。  そういう意味では、規制をもう少し緩和してやれという意味では、これは財政支援措置ではない部分も入っていますから、その他必要な措置という形でもっと大きく考えたと、こういうふうに考えていただければと思って、御理解いただきたいと思います。
  28. 円より子

    円より子君 財政上の措置というのはどういうのかと思っておりましたら、研修ですとかマニュアルの実施のための予算措置などというふうにおっしゃっていましたが、私は、共同で仕入れたりというようなところの規制緩和って大変重要だと思いますし、小売業者方々が大きなスーパー等に対抗して競争活性化していくというのは大変重要だと思いますが、財政上の措置というよりは、例えば、先ほどから申し上げておりますように、既存の中小零細小売業者、これは酒販店だけじゃなくて、言ってみれば、魚屋さん、八百屋さん、肉屋さん、もう私の周りの商店街でも随分この間倒産して廃業なさった方々もたくさんいらっしゃいます。  確かに、酒税という税の面からのいろいろな面で酒屋さんというのが特別措置を取られているということもあるかもしれませんが、同じように、資金繰り、そういったものに苦しんでいる商店、自営業者が多いことを考えますと、例えば経営改善計画期間内の短期の運転資金について低金利の融資制度等を措置するような、そんなことも私は検討した方がいいんじゃないかというふうに思うんですが、修正案といいますか、発議者の方、その辺はいかが思われますか。
  29. 七条明

    衆議院議員(七条明君) 今、円先生言われるとおり、私たちもそういうことができないかということを検討してまいりましたし、当然そういうことまでやっていけるぐらい範囲を広げていくことができないかと思っておる一人であります。  ただ、今の、現酒税法あるいは小売の団体のこういうような法律の中でできる範囲というのはやはり限られてくるのではないかと。特に、私たち考えますときに、今不当廉売がある、あるいは差別対価があると、こういう形で町の小売店が非常に苦しんでおられるというようなときのことを考えてみますと、当然これは独禁法の考え方の中で整理をして今回提出させていただきましたけれども、不正な行為が起こったと思料されるときには公正取引委員会に対してその事実を報告したり適切な措置を取ってくださいというようなことをする、そして何とかそれをみんなで考えましょうということしか今の現状の中ではできないのではないかと。  あるいは、リベートだとかあるいは販売促進費と言われるものですね。そういうリベートのようなものについては、これは金銭の供与その他、酒類販売業者としての酒類の取引の条件について基準を定めていくようなことをやりながら、取引関係その他に対する関係者の酒類販売業者に対する指示をきちっといく、生販三層がきちっと位置付けてやっていくというようなことを、ともかくそこからでも始めてみないとしようがないんじゃないかと。私たちはそういうことも含めてこの修正案の中に入れさせていただいたつもりであります。
  30. 円より子

    円より子君 ちょうど今お話のありました不当廉売等、リベートや透明性、そうした問題の透明性の確保について公正取引委員会にお伺いしたいんですが、実態調査で是正を指導なさっているようですが、実効性が弱いのではないかと。また、実効性確保の観点から、独禁法違反に対するペナルティーの在り方等、必要な手当てを検討すべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。
  31. 楢崎憲安

    政府参考人楢崎憲安君) 御説明いたします。  お酒の販売につきましては、公正取引委員会としても、不公正な取引が行われないようにという観点から平成十三年にガイドラインを作りまして、不当廉売とか差別対価についての考え方を明確にするとともに、この方針に沿って審査を行ってきたところでございますし、またメーカー等に対しまして、不透明なリベート、差別性のあるような形のリベートの供与といったことにつきまして、透明性のあるような形で明確な基準を作ってそれをしっかり守っていただきたいというふうな取組を要請したところでございますし、またメーカー等におきましても、基準を作ってそれを遵守しようという動きがあるところでございますし、我々自身もその動きをフォローアップあるいはチェックをするというふうなことをやってきているところでございます。  ただ、実効性の問題になりますと、独占禁止法上、不公正な取引方法というものにつきまして、課徴金制度とかあるいは罰則を掛けるというふうな制度にはなっていないわけでございまして、迅速に調査をして、きちんとして再発防止策を取るといったことが重要でございますので、今後とも国税庁とも連携を取ってしっかりやっていきたいというふうに思っております。
  32. 円より子

    円より子君 案外時間がないものでございまして、あと七分かそこいらしか私に残されてなくなりましたので、ちょっとはしょって質問させていただきますけれども。  まず、未成年者の飲酒、それからまたかなり悪らつな飲酒運転等様々増えてきておりまして、私は、結構私もお酒好きでございますから、たばこの取締りよりはお酒はそんなにきつくしたくないなんて、こんな勝手なことを思ったりもいたしますけれども、やはり未成年者がお酒を飲むということや飲酒運転等は是非とも取り締まっていかなきゃいけないという観点で、未成年者飲酒禁止法との兼ね合い等を考えながら、ちょっと質問させていただきたいと思いますけれども。  まず、罰則、今まで未成年者に対して販売をした人に対する取締りは結構件数としてあるんですが、現実に罰金刑になったとかということ大変少ないんですね。そうしますと、結局は、販売者に対して年齢確認の義務付けですとかいろいろございますけれども、ざる法みたいな形で余り効果がないのではないかという気もするんですが、この辺りはいかがなものか。  それからもう一つは、販売管理者というのを今度設けるそうですが、責任者との違いはどうなっているのか。  そして、お酒の最近チューハイ、缶チューハイなんか見ますと、ジュースなどと見間違うような大変かわいい、きれいなパッケージになっております。そういったところで誤飲を結構起こしているのではないかということもあります。こういったことを考えますと、自動販売機の撤廃もいずれされるということですが、未成年者に対してどのように販売しないで済むようになるのか、二十四時間営業のときに販売管理者がいないということなども問題になっておりますけれども、この辺りをひっくるめて御答弁いただけたらと思います。
  33. 福田進

    政府参考人福田進君) お答えいたします。  まず、未成年者飲酒防止でございますが、御指摘のようなことを踏まえまして、今回の法改正におきましては、未成年者飲酒防止を始めとした酒類小売業者に対する酒類の適正な販売管理の確保について、より実効性のある体系とする観点から、酒類小売販売場において、致酔性を有する酒類の特性に配慮した販売方法と、酒類の販売業務を行うに当たって適用される法令を遵守した適正な販売管理を確保させるために、酒類小売業者に対しまして販売場ごとに酒類販売管理者の選任を求めることとしているところでございます。  それでは、その酒類販売管理者と、先生指摘なのは、従来置かれておりました、置くように私どもが指導しておりました販売責任者とどういうふうに違うかということでございますが、販売責任者はこれまで言わば国税庁の行政指導により配置を指導してきたものでございまして、現在のところ、ほとんどの酒類小売販売場に配置されてはいますものの、配置されていない場合であっても罰則は適用されません。今回の酒類販売管理者は、先ほど申し上げましたような観点から、酒類小売業者に選任を言わば法的に義務付けまして、選任しなかった場合等には罰則等を科することとしております。また、こういったお酒を販売する方の資質を高める観点から、酒類販売管理者に研修を受講させることを法的に明確化しております。  それから、言わばお酒というんですか、お酒もどきというんでしょうか、そういうものでございますけれども消費者ニーズの多様化に伴いまして、酒類メーカーは様々な商品を製造、販売しております。中には御指摘のようにデザイン等が、お酒と見間違うんじゃなしに、逆に清涼飲料と見まがうような酒類が見られることも事実でございまして、例えばでございますが、日本洋酒酒造組合におきましては、消費者がこのような酒類を清涼飲料と誤飲、誤認することを防止するために、低アルコール度リキュール類等の酒のマークの表示に関する自主基準というのを、こういったものを定めておりまして、言わば缶チューハイなどの容器にいわゆるお酒のマークを付けると、こういったことを表示しているところでございます。私どもといたしましては、こうした取組の実施につきまして、酒類業界に対し引き続き指導をしてまいりたいと考えております。  それから、自販機のことがお話がございましたが、自販機につきましては、対面販売の趣旨の徹底が困難な屋外の酒類自動販売機は撤廃の方向で検討がなされるべきである、それから酒類の自動販売機に技術的改良がなされて未成年者のアクセス防止が可能となる場合には設置が認められるべきであると、こういった答申が平成六年十月に中央酒類審議会から提出されました。さらに、全国小売酒販組合中央会平成七年の五月に、従来型の自動販売機の撤廃等、こういったものを決議しております。  私どもといたしましては、これらを踏まえまして、平成七年の七月に自販機の取扱い指針を発出いたしまして、新規に酒類の自動販売機を設置する場合には改良型の酒類自動販売機以外の酒類自動販売機は設置しないというふうに指導するなど、こういった小売中央会の取組を支援してきているところでございます。さらに、十二年、平成十三年には、未成年者飲酒防止法の一部改正を受けまして、警察庁、厚生省、労働省と共同いたしまして、酒類小売にかかわる業界団体に対しまして、未成年者のアクセスを防止するよう改良された自動販売機以外の酒類自動販売機の撤廃、設置した改良型自動販売機の適切な管理等について、傘下の組合員に周知徹底するよう改めて指導したところでございます。  こういった関係省庁あるいは関係業界と一体となった取組によりまして、従来型のいわゆる酒類自動販売機の設置台数は、平成八年、この中央会の撤廃決議がなされました直後の平成八年三月三十一日現在では十八万六千件ございましたが、平成十四年四月一日には六万四千台にまで減少してきておりまして、従来型機の残存率は三分の一程度、三五%程度となっているということでございます。今後ともこういった取組を進めてまいりたいと考えております。
  34. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 警察庁瀬川生活安全局長、飲酒運転について。
  35. 瀬川勝久

    政府参考人(瀬川勝久君) 飲酒運転の問題につきましては、ちょっと私、所掌でございませんのでお答えをいたしかねますけれども、未成年者の飲酒の問題につきましては、これは警察といたしましても、青少年の非行の前兆となり得る不良行為だということで、未成年者に酒類を販売する行為は少年の健全育成を阻害する行為であるという認識をしておりまして、各種取締りを強化をしておりますし、また広報、啓発活動等、酒類販売業者の方への指導等も関係省庁と協力して行っているところでございます。
  36. 山本保

    ○山本保君 公明党の山本保です。  それでは、私も最初に提案者の方に、この今回の緊急措置法案の方を、また、修正されましたけれども、いわゆる規制改革の流れに逆行するのではないか、逆特区であるというような批判があるようでございます。これについての見解をまず総合的に最初にお聞きしたいと思います。
  37. 赤羽一嘉

    衆議院議員(赤羽一嘉君) 山本議員の御質問お答えをいたします。  本法案衆議院通過した直後に、一部マスコミ報道で、今回の議員立法規制緩和に逆行する、又は逆特区といった御批判があったことは承知しておりますが、私はこの批判は当たらないものだというふうに考えております。なぜならば、酒類小売業を取り巻く環境が、酒類小売業免許規制緩和人口基準ですとか距離基準規制緩和がなされたことによって劇的に変化しているということは、先ほどの御答弁にもあったような具体的な数字として現れているわけでございます。  二年間で転廃業が一万二千八百九十五件、自殺が五十名、また失踪者が二千数百名と、こういった状況を私は大変異常な状況であるというふうに思っておりますので、今回の規制緩和措置がスムースに推進していくといった意味でも、激変緩和措置が取られるのは当然であるというふうに考えております。  類似の規制緩和措置、例えばタクシー免許に関する需給要件の緩和につきましても、道路運送法の八条によって緊急調整措置の制度が取られているところでございまして、今回のこの法案は特別なものであるというふうには考えておりません。また、一方的な保護政策であるわけではなくて、本法案の中には、既存の酒類小売業者につきましても、自らが経営改善の努力、また経営改善計画提出を求めていることであって、酒類小売業者の体質強化のためにも大いに努力をしなければいけないという内容になっております。また、加えまして、本法は恒久法ではなくて二〇〇五年八月三十一日までの時限立法であるということ、こういった点からも、今回の我が議員立法規制緩和に逆行するものではないというふうに考えます。  加えて、なぜ酒類小売業者だけにこういったものが掛かるのか、こういった御批判もあるようですが、私は、やはり酒類小売業者が扱っている商品、これは致酔性の飲料であるとか依存症があるという極めて特殊な商品であって、このアルコール類が二十四時間だれでも扱って売れるという、こういった状況というのは世界の例を見ても極めてまれなケースであって、私はそういったものは、社会的な規制というものはなされるべきだというふうに、そう考えております。  以上の点から、今回の議員立法規制緩和に逆行するようなとか、何か恣意的な法案だというマスコミの報道は、私は的外れな御批判だというふうに認識をしております。  以上でございます。
  38. 山本保

    ○山本保君 大変分かりやすいと思います。私も最初は、この法案を読みましたときにどうかなという気も最初したんです、実のところは。しかし、いろいろ検討しますと、今のようなお話、特に修正された部分で、私などが担当、今までやってまいりました子供や家庭の福祉という面から見て、必要な社会的な規制というものが、その内容がもっとまたはっきりしたのかなという気もしておりますので、それについて少し、もう少し詳しくじゃお聞きしたいと思っておるんです。  この修正案の方にですか、青少年の健全育成の重要性を勘案することということが付け加えられましたですね。これについて、この趣旨について簡単にお聞きしたいし、私は、この理念、この考え方というのは、今最後に言われた時限立法ではなくて、正に酒税法第十条の免許要件にでもきちんと入れて恒久的に置くべきものではないかぐらいの気がしているんですけれども、この辺はどうでしょうか。
  39. 七条明

    衆議院議員(七条明君) 今、今回の問題につきまして青少年育成ということを入れたのはどういうことだということでありますが、本来、酒屋さんの免許というのは、普通のお魚屋さんだとか肉屋さんとかいうことと違って、これは酒税というものを保全していく、適正に公平に取っていくという観点と、もう一つ、いわゆる二十歳になってからでないとお酒は飲んではいけない、それを売ってはいけないという青少年の飲酒防止、保護という関係もあるんだろうと思うわけです。  由緒正しき人できちっとこういう法律を守っていただける人でなかったらば免許は与えません、そして税金をきちっと取ってくださいと、こういう一つの大きな原点があったと思うんでありますけれども、今どちらかというと、これは税務署がこう所管をしていきますと、税金を取ることばっかりに集中してしまって、青少年ということを本当に考えて保護をしていくんだという観点が随分希薄なんですね。先ほど来、円先生のお話にもお答えさせていただきましたけれども、小売店を育成するとか、それを経営指導をしていくとかいう観点にもこれも希薄である。同じように、この青少年も希薄なところがありますから、これを青少年を見守っていくという立場からいきますと、当然のことながら、これから何かの形で政府酒類の販売業免許の制度の在り方について検討するときには、こういう青少年の健全な育成の重要性を勘案する旨のことをきちっと入れてくださいよと。  もう一つ酒税法の中に入れろ、入れるまいと、こういう話が出てくると思いますが、私は、今酒税法できちっと罰則をどうするか、こうするかということになってきますと、こういうような罰則をしてしまいますと、今免許の取消しというのがあるんではありますが、いきなり免許証を取り消してしまうということになると余りにも厳し過ぎるということがあって、監督する側の方の行政の方もどちらかといったら、そこまでできないという思い、気持ちで、よほど寛容になってしまおうとする部分がある。ですから、もし酒税法の中で改正するとするならば、イエローカードが出てからレッドカードが来るように、営業停止を一度、二度やった人に対して免許の取消しをするというような観点をきちっと入れてやっていかなければならないと。  そういう意味では、酒税法の中に位置付けていくということも、罰則をきちっとやっておかないとできないことがありますから、そういう意味で位置付けていく必要があるのじゃないのかなと、私は個人的にそう思っている一人であります。
  40. 佐藤剛男

    衆議院議員佐藤剛男君) 山本先生の御指摘、恒久的に考えるべきじゃないかということは非常に重要な点だと私は思います。そして、山本先生は厚生省においてそういう子供の、児童の問題、福祉の問題を重点的に推進されました先生でございますから、そういうことは我々国会の議員も進めていかなきゃいかぬ。  ちょっと歴史を申し上げますと、実は私は、この未成年飲酒禁止法と、それからそれに関連する酒税法ということの議員立法に、平成十二年十二月、それから平成十三年十二月、その議員立法を提案いたしました。そして御審議を賜った一人でございますので、ちょっといきさつを申し上げまして改めまして確認を申し上げさせていただきますが、先生指摘のように、この飲酒法との橋渡しをいたしましたのが平成十二年の未成年飲酒法の改正でございました。  それまでは、過ち料と違いましてとがめ料ですね、未成年に酒飲ました、法律の体系は、酒飲んだ方は罰則受けるわけじゃない、未成年は。没収されるだけだ。それで、酒を飲ました方が刑罰を受けるシステムなわけでありますが、そういう中で、平成十二年までは、ずっとこの大正時代からの法律でありましたので、これ議員立法でありますが、とがめ料ですね、刑罰で一番低い料だったわけです。それを御審議いただきまして、五十万円以下の罰金に上げたわけであります。  それと同時に、酒税法の一部改正というのを一緒に出しました。それで、未成年に対して、未成年というのは二十歳未満でありますが、それに対しまして酒を売った者については、今度酒税法の体系で、先生がおっしゃられるように酒税法の体系で取消しをできるという規定を入れたわけであります。これは、たばこの関係というのは、明治でたばこ法というのは未成年にもたばこ吸っちゃいかぬというのがありましたんですが、これも議員立法で、一人の先生が猛烈なる生涯を懸けて、たばこ、酒について未成年の問題に取り組んで、この二つの法案を出したわけなんですね。同じように片仮名の法案で、ずっと遅くなって、今日まで至ったわけであります。ですから、この未成年のときに、明治の法律と一緒に警察庁の方はたばこも直してくれという話があって、たばこですね、未成年者のたばこ禁止法というものを、及び未成年飲酒防止法の一部改正並びに酒税法の一部改正というふうな経緯をやりました。  それから、平成十三年にさらに、未成年者かどうかが分からない、買う方が。買う方のが体力が大きくて、売っている方がアルバイトの関係のようなあれで、夜中に来ておれは未成年じゃないと言われると、これできなくなっちゃう。それで、確認をする、未成年者を。そういう確認措置をこの法律に同じように、たばこもそれから酒についても入れまして、そしてその確認措置を講ずるということで、IDカード等々を出させるという形の法律の根拠を置いたわけでありまして、少々長くなりましたが、平成十二年、平成十三年のそれぞれ十二月に改正して、そして今回、議員立法としましては第三回目の議員立法であるわけでございます。
  41. 山本保

    ○山本保君 ありがとうございます。そういう考え方でやっぱり進められてきたということで、大変私も心強く思います。是非ここは財務省においても検討していただきたいと思っております。  それで、児童家庭局から、今日、家庭・均等局から来ていただいておりますので、これはちょっと時間のこともありますので簡単に。まず前提で、子供の福祉また家庭の福祉、特にドメスティック・バイオレンスですか、こういう問題とか、又は健全育成、非行問題等があるわけですけれども、この辺についての影響があるということについて簡単に述べていただいて、加えて、私先に申し上げますが、例えば児童虐待防止法では、ある特定の専門家は、そういうものを発見した場合にはすぐに通告しなければならない、またその通告を受けたときは当然その秘密を守りながら対応をすぐに取ると、こういうのがございますね。こういうところにこの今回の管理者という方も位置付けたらいいんじゃないかなという気がしているんですけれども、まず岩田局長、いかがでございましょう。
  42. 岩田喜美枝

    政府参考人岩田喜美枝君) 我が国の家庭問題で、今、ドメスティック・バイオレンス、そして児童虐待が大変大きな問題になっております。こういった家庭問題の原因といいましょうか要因は、加害者の生育歴であったりその家庭の経済問題であったり夫婦間の不和の問題であったり、複雑な要因が絡み合っているわけでございますので、アルコールだけの要因を取り出して述べるというのはなかなか難しい面もございます。  しかしながら、アルコールの問題が例えばドメスティック・バイオレンスにどういう影響を与えているかということにつきましては、内閣府がドメスティック・バイオレンスの被害経験者六十二名の方に詳細に面談ヒアリングをいたしておりますけれども、六十二名の中で二十名の方は暴力を振るう理由としてアルコールの影響があるというふうに答えておられます。また、アルコールと子供の虐待の関係ですけれども平成十三年度の厚生労働科学研究のテーマの一つ地域保健における子ども虐待の予防・早期発見・援助に係る研究というものがございますけれども、この中で、子供虐待の事例の中で、親がアルコールや薬物の依存ではないかと疑われる、あるいは現にそういうふうに診断されているというようなケースが指摘されていることでございます。このように、アルコールの問題というのはDVや児童虐待などの家族問題の背景因子の一つになっているというふうに認識いたしております。  それから二番目の、通告、通報の問題でございますけれども、児童虐待につきましては児童福祉法に規定がございまして、虐待を受けた児童を発見した者は速やかに児童相談所などに通告しなければならないという通告の義務が規定されております。また、ドメスティック・バイオレンスにつきましては、DV防止法の規定に基づきまして、速やかに配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう、これは努力義務でございますが、努めなければならないという規定になっております。  そして、これらの規定に基づいて通報をされた通報先になる児童相談所の職員あるいは警察官でございますけれども、地方公務員法の規定に基づきまして職務上知り得た秘密を漏らしてはならないということになっておりますので、通告を行った者の秘密は保持をされるということが大原則でございます。さらに、児童虐待防止法については、入念的でございますけれども、通告を受けた関係職員はだれが通告したかといったようなことについては情報を漏らしてはいけないということも規定してございます。  こういうことを考えますと、今後とも、小売酒販売業者も含めまして、広く国民がこういう児童虐待あるいはドメスティック・バイオレンスの被害者を発見したときには通告していただけるよう啓発をしてまいりたいというふうに思いますし、通告者がそのことで後で困ったことにならないように、通告をしたことについての秘密については関係職員の守秘義務を引き続き徹底してまいりたいというふうに思います。
  43. 山本保

    ○山本保君 警察関係にもお聞きしようと思いましたが、大体今の言葉で、御返事でありましたので、ドメスティック・バイオレンスの場合についてもやはりいわゆる女性、婦人相談所ということも関係ありますので、今ので結構だと思いますが。  財務省にちょっと確認だけしたいんです。それで、今度、販売管理者の研修を行うと。この中に、今、厚生労働省の方から話がありましたけれども、こういうことをきちんと入れていただくということが必要かと思うんですが、どうでしょうか。
  44. 福田進

    政府参考人福田進君) 今回の法改正におきまして規定されております酒類販売管理研修は、小売販売場における販売業務の適正な管理を担っております酒類販売管理者について、先ほどからお話ししていますように、致酔性を有する酒類の特性あるいは酒類小売業者が遵守すべき関係法令の知識の向上を図ることによりまして資質を高めていただく、そして酒類の適正な販売管理の確保についてより実効性を高めることを目的としております。  この研修におきまして、未成年者飲酒の防止を図るといった社会的な要請にこたえますとともに、飲酒した本人にとどまらないでその周辺の者、あるいは今お話しのように全く関係のない第三者にまで影響を与える場合がある、こういった酒の特性にかんがみまして、酒類の特性あるいは注意すべき点についても販売管理者に周知して、飲酒運転の予防あるいは適正飲酒の推進、そういったことについてもその内容に盛り込むことを考えております。  端的に、今先生おっしゃいました研修の中身について、児童虐待あるいはドメスティック・バイオレンス、こういった防止といった観点をどうするかということでございますが、関係省庁の御意見も伺いながら検討してまいりたいと考えております。
  45. 山本保

    ○山本保君 よろしくじゃお願いいたします。  それで次に、ちょっとはしょりますけれども先ほど先生質問されましたので、言わばこういう特に未成年の飲酒禁止関連について一つだけ追加でお聞きしたいんです。  今日は法務省からも来ていただいていると思うんですが、いろいろ警察の方で挙げるというか、その問題をしてもなかなか起訴をされないというふうにも聞いておるわけですよ。この辺は、やはり法というものがあって守りなさいと言っている以上きちんと起訴をすべきではないかという気もするんですが、簡単で結構なんですけれども、どういうふうに思われますか。
  46. 河村博

    政府参考人(河村博君) 御説明いたします。  未成年者飲酒禁止法違反につきまして、平成十三年の起訴状況で見てまいりますと、受理人員百四十二名に対しまして、起訴人員は七名となっております。確かに起訴人員はその意味で少ないわけではございますけれども、検察当局におきましては、具体的事案に応じまして、犯罪の軽重はもとよりのこと、情状でございますとか犯罪後の状況などを総合勘案して適正に処分を決定しておるということでございまして、例えば、この法律違反の事犯について見ますと、酒類を販売等いたしました経緯、状況、未成年者に与えた害悪の有無、程度、事後的な違反防止措置の有無、前科の有無、改悛の状況等々を勘案いたしまして、なおかつ、平成十二年の法改正により営業者の違反行為について罰金刑が導入されたという趣旨も踏まえまして、刑事罰を科すべき事犯については起訴をしているものと承知いたしております。
  47. 山本保

    ○山本保君 確かに今のお話で個別に判断すべきことだとは思いますけれども、しかし、罰金刑というのがあってそれがほとんど、今の百四十二名中たった七人というのも、実際そういう事件がなければ問題ないわけですけれども、そうも思われないんですね。先ほど少しお話ありましたように、今回罰金刑以上としてありますが、実際上そこに、先ほどありました取消しの前の注意とか、何かそういうものがワンクッション要るのかなという気もします。これはまた実際に動かすときに少し考えた方がいいのかなという気がしております。  じゃ、次にもう一つ、今度は経営に関してなんですが、これも先ほどお話がありましたので、結論のところだけお聞きしたいと思います。  公正取引委員会が取締りといいますかいろいろ注意をしていると、調査、注意をしているというわけですが、例えばその場合の注意とか警告の基準というのはあるんでしょうか。ここだけちょっとお聞きしたいんですが。
  48. 鈴木孝之

    政府参考人(鈴木孝之君) お答え申し上げます。  不当廉売につきましては構成要件ございまして、三つございます。一つは原価割れしていると、次にそれを継続して行っている、そしてほかの事業者などの事業活動を困難にするというところがございます。  それで、不当廉売につきましては、これは迅速性を要するものでございますので、私どもとしては、最初の原価割れ、価格要件の該当性をまず最初に調査しておりまして、この迅速な処置を取るという注意等の基準といたしましては、個別の業者ごとに、実質的卸売価格の値引きと認められるリベートの状況を考慮に入れた当該事業者の実質的仕入れ価格、それから販売価格の状況等を見ながら、販売に要する経費を賄えているか否かを中心に判断を行っておりまして、賄えていなければ当然ながら注意ということになります。  しかしながら、大規模な事業者による事案でございまして繰り返し行われているもので、実質的仕入れ価格と販売価格の関係を踏まえて、周辺の酒類販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては厳正に対処することとしておりまして、具体的には、去る三月二十五日に行った秋田市等の四事業者に対するものを含め、平成十三年度以降で十三事業者に対して警告を行っているところでございます。  さらに、この注意や警告を行った事業者に対しては、再発防止、違反行為の未然防止等の観点から、その後の価格動向についてフォローアップを行っているところであり、今後とも、酒類販売業における不当廉売の問題については迅速、厳正に対処をしてまいりたいと存じております。
  49. 山本保

    ○山本保君 今お聞きしていて、大変抽象的で、この辺に問題があるのかなとは思うんですが、その一つ、じゃ、もう一つ前に、今お話も出ましたように、実際にいろいろ資料を見せていただきますと、卸売の値段よりも安い値段で売られていると。こうなりますと、もうそれは確かに一般の方が勝てっこないわけですね、公正な取引、競争とはとても言えないような気がするんです。  これについて少し踏み込んでみますと、リベートということもありましたですね。これが今までの商慣行としてあるということだそうですから、このこと自体はまあいいのかもしれませんが、今度は公開と、それについての基準を示せというようなこともあるようですけれども先ほどお話もちょっと出たんですけれども、最後に、つまり、卸売というものについてどうも規制緩和がされていないんじゃないかという気がしてしようがないんです。  財務省にお聞きしたいんです、ここは。卸売免許の、どういうふうに免許が下りるのか。今、一般小売業については規制緩和ということを言っているけれども、卸売業についてはどうなのか。実際には一軒のお店ではとても無理だとしたら、皆さんが一緒になって卸売を作って、そこでもっと、じゃ今までよりも安い値段で仕入れて売ろう、こういうことを当然これはやれてこそ公平な競争と言えるわけですね。それはできるんですか、どうなっておりますか、財務省にお聞きします。
  50. 福田進

    政府参考人福田進君) お答えいたします。  卸売業免許を受けるためには、卸売業免許というのは実は販売業免許のうちでございますが、この卸売業免許を受けるためには、人的要件あるいは経営の基礎等の要件のほか、原則として地域内の卸売免許場数と小売又は卸売数量を勘案する要件を満たす必要がございます。  ただ、酒類小売業者が事業協同組合を組織して酒類の共同購入をしようとする場合には、人的要件と経営の基礎要件を満たせばこの卸売業の、いわゆる卸売業の免許を付与することとしておりまして、小売業者方々が共同仕入れ、共同配送をこの事業協同組合の組織を活用してやっていただく場合には障害にはならないんじゃないかというふうに私どもは認識しております。
  51. 山本保

    ○山本保君 その小売業の方にお聞きしますと、そうはいうものの、なかなか蔵置というんですか、その場所ですとか、いろんなことで実際にはほとんど進んでいないというふうにも聞いておりますので、この辺はまた改めてもう少し追及していきたいと思っております。  最後に、もう時間がありませんので、済みません、まとめてお聞きします。  財務省大臣にも一つお聞きしたいんですが、一つは、今度税務署長がいわゆる緊急地域指定するというんですか、そのときに、税務署長というのははっきり言っていろんな細かいことを知っておられるわけですが、これが、言わば情報の漏れるというようなことにならないんじゃないかというちょっと心配があります。  この辺はどのように運用されるのかということを、これは念のためにお聞きしたいことと、もう一点、これは大臣に是非お聞きしたいんですが、今までお話がありまして、私も考えますに、お酒を財務省が売っているということが、管轄していることが、どうも私、一般消費者としては納得、何だろうなという気がするんですよ。外国の例を聞きましても、お聞きしても、財務省が絡んではいるんでしょうが、他の関係する、今日も出たような経済産業省も含めて、いろんなところが一緒になって委員会作っているとか、又は最低限、共管とか連携ということをきちんとやっていかなければならないんじゃないかなと思いますが、この辺について大臣のお考えをお聞きして、質問を終わりたいと思います。
  52. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 時間が過ぎていますので、簡単にお願いします。
  53. 福田進

    政府参考人福田進君) 税務署長先生指摘のように今回のことについていろいろデータ等を集めることになろうかと思いますが、そのデータ等につきましては、私どもの守秘義務あるいはプライバシーの問題にも配意して対応していきたいと考えております。  それからもう一つでございますが、大臣の御答弁の前に申し上げますが、お酒について様々な観点がございますので、関係省庁と私どもは有機的な連携協力体制を組んでおりまして、例えば平成十二年の四月には、国税庁を始めといたしまして、内閣府、警察庁、総務省、公正取引委員会財務省、文部科学省、厚生労働省の関係省庁で構成する酒類に係る社会的規制等の関係省庁等連絡協議会を設置いたしまして、例えば今いろいろ御議論ございました未成年者飲酒防止等のこういった社会的な問題につきましても、連携を取りつつ取り組んでいるということだけ御説明させていただきます。
  54. 小林興起

    ○副大臣小林興起君) 今事務当局からも説明いたしましたとおり、元々、税という観点から財務省、大蔵省がやってきたと思うわけですけれども、しかし酒の問題は、教育問題あるいは社会問題、いろいろと多岐に、公正取引の問題わたるわけでございますから、あくまでも今では、今日は各省庁協議会を作って連携を取りまして、そして遺漏なきようにしているところでございます。
  55. 池田幹幸

    池田幹幸君 日本共産党の池田幹幸です。  二法について質問いたします。  酒類小売免許制度というのは、酒類がアルコール飲料であるという、そういった特性を持っているということと、それから課税物資だという、こういったところから設けられたもので、私どもは、日本共産党は、この免許制度については非常に必要なものだということで評価してきておったんですけれども、そういった立場からこの規制緩和については反対してまいりました。特に、消費者がいつでもどこでもだれでも買えるといったようなものにしてはならないものをいわゆる利便性といった観点から規制緩和していく、こういうことはあってはならないということを主張してまいりました。ですから、九八年の規制緩和三か年計画にも反対してきたわけなんですが、このとき私どもは、こんなことやったら一般酒販店、いわゆる酒屋さんがばたばたつぶれるだけじゃないかといったことを主張してきたわけですが、そういったことが私たちは正しかったと思っております。その証明が、今度この二法を出さざるを得なかったというところに表れているというふうに思うんです。  そこで、したがって私たちは、この政府提出法案と、それから、これについては、社会問題になっている未成年者飲酒防止などに対する、それに資する販売管理体制の整備といったようなものがありますし、最低限の社会的規制が設けられているという意味で賛成です。それからまた、与党提案というんですか、衆法ですけれども、これにつきましては、過当競争の中で一定の中小小売店、酒屋さんですね、それが保護されると、そういった方向にありますので、これも賛成いたします。  そういう立場から質問するんですけれども、やはりその点では大分不十分なものじゃないかなという面も考えています。そういった点でのより良いものにしていきたいという立場から質問させていただきたいと思いますが、私、そういうことで、今るるマクロ的な話も数字も伺いました。それについてはもう重複しない形で伺っていきたいと思うんです。  具体的にこの問題を私するに当たって町の酒屋さんと話合いをちょっと持ってまいりました。江戸川区の酒屋さんと話し合ってきたんですけれども、そういう点で大分問題があるなというふうに感じました。  まず、財務省が昨年十月、九月でしたか、九月ですね、報告書を出しておられます。酒類販売等に関する懇談会報告書。ここでは、「規制緩和に伴い新業態店が大幅に増加する一方で市場の変化が激しいため、一般酒販店は大幅に退出している。」と。つぶれているということですね。それからまた、別に、「競争に敗れ、あるいは競争に参加もできずに退出する一般酒販店が増大する等、小売業者経営状況からみて急激・過度の参入による乱売等の競争の弊害が目立ってきている。」と、こう言っておられますね。正にそのとおりで、具体的な話聞きますとやっぱりすさまじいんですね。  全部は紹介できませんから特徴的なものを紹介するんですけれども、ある酒販店の方はこんなことを言っています。  江戸川北税務署管内なんですけれども、そこでは規制緩和が始まって毎年三十件程度の新規免許が出ている、発行されている。ほとんどがスーパーやドラッグストアなど、酒の専売業者ではないところだと。そこでは考えられないぐらい安い価格の酒を、酒類を目玉商品として売っているわけです。結局、そこでほかの高い商品を販売するという、マグネット効果と言われているんですか、そういうことをねらってやられておるということです。  問題は価格なんですけれども、驚きました。安い安いといっても、もうすごいんですね。百四十円の缶チューハイ、これ九十八円で売っているんです。これはジュースよりも水よりも安いというふうにその酒屋さん表現しておられましたけれども、そんな状態ですね。ですから、普通の酒屋さん、問屋から仕入れるよりもこっちから買った方が安いと言っているんですね。  これは大臣、このことは御存じかどうかと思うんですけれども、一体それじゃ酒屋さん、問屋さんから幾らでこの缶チューハイ仕入れているか御存じでしょうか。──まあ御存じないと思うんですけれども、百八円なんです。スーパー、九十八円で売っているんですよ。小売しているんですよ。問屋さんから買うのは百八円。だから、スーパーに買いに行った方が安いんですよ、そこから買ってきて売った方が。それでも損しますけれどもね。そういう実態だそうです。  という状況ですから、この方は言っているんですよ。努力といっても自分の努力ではできないところに来ていると。自分ではどうしようもないところに来ているんだということなんです。全くそのとおりで、これじゃ酒屋が酒を売っていてはもうやっていけないという時代になってきたと、こういう表現なんですよ。  まあすさまじいというふうに私は思うんですけれども、結局、こういった事態に置かれている酒販店、これは守っていかなければならないだろうと私は思います。商店街から酒屋が消えるというふうな実態も生まれてきているんです。これは商店街にお住まいだというふうに何か衆議院では答弁しておられましたけれども大臣、こういった事態、ともかく今つぶしていってはいけない、少なくとも酒販店がつぶれるようなことを促進するあるいは放置する、そういったことがあってはならないというふうに思うんですが、その政治姿勢について大臣のお立場を伺いたいと思います。
  56. 塩川正十郎

    国務大臣塩川正十郎君) もちろん、お酒屋さんがせっかく家業に励んでおられるのに、不当廉売のあおりを受けて閉店されるというのはそれはもう残念でならぬのですが、私はずっと近くでおりまして見ておりますと、そんなにお酒屋さんが店閉めているというような状況はないんで、田舎の方へ行きますと大分ありますよね。町の中ではそんなに私は顕著なものを見ない。それぞれお酒屋さんが努力されて、ちょっとした飲食店を併用でするとか、あるいは他の物品を売るとかして結構お酒屋さん残っておるように思うんですけれども、全国的に見ましたら非常に激減しておるということはこれはもう非常に残念で、適当なやはり対策が講じられるならば、それやっていくべきだと思っております。
  57. 池田幹幸

    池田幹幸君 大変な勢いでつぶれていっているということは既に先ほどの答弁でもありましたし、大臣先ほどの答弁でも後継ぎがいないんだというお話もありました。この後継ぎがいないという話も、私、懇談会の中で聞かされました。要するに、もう子供にはこんなもの継がせられないんだというんですよね。いないというよりも、こんな状態で継がせることができますかと。実際にこんな状態ですよ。  ともかく酒屋さんは、そうはいっても営業を守ろうということで必死なんですよ。どういうことをやっているかといいますと、売上げの減少を少しでも食い止めようとして、家族と相談して元日以外の休みをなくしたと。一日に十三時間、朝の八時半から夜の九時半まで店を開けている。家族が一緒に休みを取ることなどもう全くできなくなったというんですね。それでも売上げが落ち続けていると。これは当然ですよね。マクロの酒の販売量はほとんど横ばい、それに比べてどんどんどんどん酒販店は増えているわけですから当然のことなんですけれども、そういうことになっていました。  政府経営努力が足りないと言うけれども、また経営近代化しろと言うけれども中小企業診断士呼んで勉強しろと、そういうことも言われると。しかし、一体何勉強したらいいんだと、こういう状態で。価格で全く太刀打ちできないという現状で、衆議院の論議の中で塩川大臣答弁しておられますけれども駐車場を整備したりして努力しているところもあると言うけれども、しかし今申し上げたような、ともかく価格で太刀打ちできない、競争に参加する前に、参加すらできない段階でもうやられてしまうという状況の下で、たとえ駐車場を造って商店街整備しても、酒類小売店、酒販店酒屋さんの場合は、これやっていけないんじゃないかと。  ですから、そういった意味での手だてというものを考えていかなきゃいかぬ。はっきり言って、規制緩和、こういった方向についてもう一回考え直していかなければいけないというふうに思うんですが、いかがでしょう。
  58. 小林興起

    ○副大臣小林興起君) 物事には必ずプラスとやっぱりマイナスがあるということの中に、消費者から見ればあるいは一円でも安い方がいい、そういう店を好むのであれば、大量に安く仕入れて安く売るという方法が善ということになるかもしれませんけれども、しかし別に、地域社会はまた商店街でも構成されていると。そこには商店街のおかげで防犯が成り立ったり防火が成り立ったり、いろんな地域社会の営みが行われているわけでありまして、そういう意味では、非常に日本地域社会にとっては、先生おっしゃるとおり商店街というものは大事な役割を果たしているわけであります。  そういう中で、単に規制緩和規制緩和という流れで、今のように何でも安いものがいいんだという流れだけでは、私は日本の社会が健全に発展すると政府としても思っていないというふうに考えているわけでございまして、やはり適正に健全に商店街が発達するために中小企業対策あるいは、酒屋さんだけじゃありませんけれども、そういう中小企業に向けて適正な施策を講じていくことが総合的に地域を守るために大事であるというふうに考えているところでございます。
  59. 池田幹幸

    池田幹幸君 ともかく、そういったところで今回の法改正も出されたわけですから、酒屋さんを守っていこうという立場から何らかの方向で改善していかなければいかぬわけです。  また、政府提案でも販売管理人というものを設けるということでやられているわけなんですが、それじゃ、この販売管理人を設けたから、私たちの、私の立場からいえば、いつでもどこでもだれでも買えるようにしちゃいけないような、そういった酒の販売、それをうまくコントロールできるのかというと、そうじゃないと思うんですよ。  それから、新聞見ますと、ピザ宅配業ですか、そういったところとかガソリンスタンドとか、そういったところがもう参入するということで表明しています。このピザとかすしなどの宅配業者、これ参入した場合、一体どうなるのかと。販売管理人がちゃんと置かれているということにしても、さあ注文受けた、持っていくと、ビールや発泡酒、一緒にピザ販売持っていきますと、そこで子供が出てきたというときにどうするのかという問題だってあるんですよ。これ、販売管理人設けた程度じゃこういった問題は解決できませんよね。そうじゃないですか。  ここまでやっぱり考えられたかと。それは考えていないんじゃ──まあ笑っておられるけれども、これ深刻な問題なんですよね。酒屋さんにしてみれば、こういったところにどんどんどんどんお客を奪われるという深刻な問題なんです。  それから、もう一つ併せてお伺いしたいんですが、ガソリンスタンド、これ参入するというんですよ。飲酒運転駄目だと、これだれだって言います。しかし、飲酒運転駄目だと言いながらガソリンスタンドの参入を許しますと。これはもう飲酒運転を促進するような土壌を作りながら、片っ方で土壌を作りながら飲酒運転はするなと言うんでしょう。これはやっぱりどうしようもないですよ。未成年者飲酒駄目だと言いながら、ピザ宅配でやります、確認の方法もありませんと。こういうのは、要するにやってはならないような土壌を作りながら片っ方でそれを何とか補正しようとする。これは無駄な努力なんですよね。最初からそういうふうなことが起こらないような、そういうふうな規制緩和はやらなければいい。  大臣、いかがですか。
  60. 福田進

    政府参考人福田進君) 私の方からお答えさせていただきます。  まず、宅配ピザでございますが、すべての事例を把握しているわけでございませんので、部分的な例としてお話しさせていただきますと、例えば幾つかの業者の方におかれましては、電話の注文時並びに実際の配達時におきまして購入者が成人かどうかの年齢確認を実施している、そういうふうにしているというふうに聞いております。  こういった対応も含めまして、今回、選任を義務付けております酒類販売管理者には、その販売場において酒類の販売業務に従事する従業員等に対しまして、未成年者飲酒禁止法等の酒類の販売業務に関する法令の規定を遵守してその業務が実施されるように、社内研修等を通じて必要な指導を行うよう私どもの方から指導したいと考えております。  それから、ガソリンスタンドでございます。  ガソリンスタンドに免許を付与するのは適当ではないという御指摘かと存じますが、昨今のように経営の多角化が進みまして、多種多様なものが参入してきております。そういった中で、ガソリンスタンドといった特定の業態における酒類販売を一律に制限することにつきまして、営業の制限を行うという手段と飲酒運転等の政策の効果とのバランスについてなかなか合理的な説明が難しいんじゃないかと。ガソリンスタンドと駐車場のある酒販店との関係をどう考えるかといった問題、いろいろございまして、よく検討する必要があるというふうに考えております。  当面、ガソリンスタンドにつきましては、売場での注意表示等、適切な販売管理の実施を指導していきたいというふうに考えております。
  61. 池田幹幸

    池田幹幸君 そんなことを聞いているんじゃないんですよね。私は政治的な態度を聞いているんですよ。こんな土壌を片っ方で作りながらこれをやろうとしても無理でしょうが。そんな幾ら、ごちょごちょごちょごちょ答弁したけれども、そんなことを言ったって駄目なんですよ。全く、これ、大臣にも、それから発議者の方にもお伺いしたいんだけれども、これを伺っていると時間がなくなってしまうので、発議者の方に改めて別の問題について伺っていきたいと思うんです。  一つは、修正された中で、八月三十一日というやつを公布後三か月以内というふうにされたんですが、これはもうできるだけ早い方がいいと思うんですけれども、どれぐらいの、いつごろということを想定しておられますか。
  62. 江崎洋一郎

    衆議院議員江崎洋一郎君) 池田議員の質問お答えしますが、これはできるだけ早く施行するということが必要だと大前提で考えているわけでございます。この法文上はあくまで三か月以内の政令で定めるということではございますが、これは緊急調整地域指定要件の詳細を詰めるという意味で必要だという期間でございます。しかし、この法案が成立して直ちにという思いで進めていきたいというふうに考えている次第でございます。
  63. 池田幹幸

    池田幹幸君 それで、法案によりますと、緊急調整地域指定、これを受けるためには、過半数の販売場が経営改善計画を作成しているということが一つの条件ですよね。それから、それを作成して税務署提出しなければならないと、こうなっています。  そうしますと、この作業というのはそう簡単じゃないと思うんですよ、自分のところだけでやるんじゃないですからね。その地域、過半数の酒屋さんが同意してやらなければいかぬわけですから。そうしますと、そう簡単には、経営形態の緩和とか設備の近代化とかということを全部書かなきゃいかぬわけでしょう。そう簡単じゃないと。  そうしますと、九月からもう自由化するということになる、完全自由化になるわけですから、相当急いでこれやらなければいかぬわけですがね。酒屋さんは過半数一生懸命集めようとする。酒販組合があるからその点でそう難しいことはないかも分かりませんけれども計画を作っていくということになりますと、利害得失も絡んでくるわけですから一緒にそれを作るということになる。  そうすると、ごちょごちょやっているうちに、もうどんどんどんどん免許は下ろされていくというふうな事態になりかねないと思うんですけれども、その辺については発議者の方はいかがお考えでしょうか。
  64. 佐藤剛男

    衆議院議員佐藤剛男君) 池田委員の御指摘は非常に重要なことなんですね。  それで、私は分かりやすい例でいいますと、酒の小売酒販業界は地震でいえば横波地震と縦波地震に追われている。それで、横波地震は、先生指摘のように、後継者不足の問題だとか、それから家族だけでやらなきゃいけないだとか、あるいは差別対価というようなことで、同じ卸売業者が、Aという小売店だ、B小売店において差が違ってくる、仕入れ原価が違ってくると。そういうふうな根本問題を持っているので、これは公正取引委員会の問題であるし、そういうことで、今度の我々の法律には、第三章として公正取引委員会への措置要求ということで、八条、九条というのが入っておりますね。これは画期的なことなんであります。  縦型の地震というのが距離基準撤廃とそして今度の九月の人口基準撤廃と。だから、縦と横でぼかんとやられたら、ここに今の小売酒販のつらさがあるんですね。それは、免許の件数で見ましても、平成八年に比べまして、コンビニエンスストアだとかこういうものは一万件も増えている。スーパーも四千件増えている。ところが、小売酒販の状況といったら、なくなっちゃった、取り消されたとか、取消しというよりももう廃業ですよ、これがもう約一万四千あるのです。こういうことは需要が増えているときはいいんですよ、需要が今横ばいなんです、これ。一人当たり酒飲まないんだ、余計に。米の場合は半分になっちゃったけれども。こういう状況にあるから、需要が横波のときに、状況で、人口は増えているんですよ、成年人口は。平成八年から十二年の間に四百万人ぐらい増えておる。飲まなくなったんだけれども、そういう中でまた酒類が変わっちゃっている、酒間の競争が。今や発泡酒が増えちゃっている。ビールの方は、これよりもそっちへ行く。それから酒と果実酒、ワインが飲める。  こういう酒類間があるので、そういう面を含めた格好の経営改善計画をきちんとやっていかなきゃいかぬということで、先生のような国際性のある流通関係の先生の御指摘は、私は、それを考えながら経営改善計画をきちんとやって、そしてこれは、この業種は一応やっているんですよ、中小企業近代化促進法だとかやってきていますから、そういう意味では、短くしますが、そういうことでは経験がありますから、そういうような運用を、我々は立法はあれだけれども、ちゃんと運用させるのはこれは国税庁の方だから、きちんとさせるように我々は監視していたいと思います。
  65. 池田幹幸

    池田幹幸君 それで、税務署がこの指定をするわけですね、税務署長が。それで、その際、これは常に税務署長がウオッチしているわけじゃありません。やっぱり業者の方から訴えがあってやることになると思うんですね、指定地域指定については。  その際に、小売酒販組合、当然これ訴えてくる一つの主体になると思うんですけれども、それからの要請は扱いはどういうふうにすべきだというふうに考えておられるんでしょうか。短く。
  66. 佐藤剛男

    衆議院議員佐藤剛男君) 当然、この全国の酒販組合というのは全部を網羅しているわけじゃないが、しっかりした、会長を中心にしていろいろな未成年飲酒運動もやっているし、しっかりやっていますよ、これは。それで、それぞれの地域において、私は福島ですが、福島なら福島のところで各単位ごとに支部を作っている。そういうふうなことで、そういうことが騒ぎ出しますよ、必ず、おかしくなってくれば。そういうふうな声は当然そちらの方から上がってきます。消費者の方は上がってきませんよ、消費者の方は便利な方がいいわけだから。だから、そういう面では、この小売酒販の組合がしっかりしてやっていく活動の場がこれからは必要だろうと思っています。
  67. 池田幹幸

    池田幹幸君 ということで、そういたしますと、酒販組合の方々とか一定の地域酒屋さんが一致結束して計画書を作るとしますよね、経営改善計画を。それを持ってくると、持ってきたときに、例えば江戸川の場合は、北税務署管内の場合は酒屋さんの八割が組合員ですよ。そういった方々が持ってきたやつについては、売上げの減少がどうだこうだということでまた一から戻って精査してと。精査しないでいいと言っているんじゃないですよ。時間を掛けてとかね、そんなことやらないで、基本的にはそういった方々から上がってきたやつは基本的にはもう認めるんだという発議者の、立法者の立法提案の趣旨ということをここではっきり言っておいていただいて、当然、運用がそうなされるようにすべきだと思うんですが、いかがですか。
  68. 佐藤剛男

    衆議院議員佐藤剛男君) だら幹になっちゃいかぬですけれども、しかしこういう形で、一種のセーフガードですから、WTOでいえばネギとかシイタケとか入ってきた、そのときに緊急輸入制限措置すると。こういうのと同じように地域のセーフガードなんですよ。  だから、地域のセーフガードというのは、必ずセーフガードというのは、国際的に言えば輸入量を止める、関税を上げる。こちらの方は停止する、輸入余り増やさせない、免許を増やさせないと。こういうことをやる、しかし期間が要る。永遠ではない。その間の間に経営改善事業をやる。WTOではインダストリアルアジャストメントって、産業調整の問題をやると。これと同じことをやっぱりやるのが経営改善事業であって、言わば世界的なWTOにおけるセーフガードと同じものが、この日本における地域において地域ごとのセーフガードとして出てくる、議員立法として初めてのものではないかなと、自負というか、我々は提案者みんなの一致であります。よろしくお願いいたします。
  69. 池田幹幸

    池田幹幸君 本当にセーフガードとしての役割が果たせればそれにこしたことないんですけれども、なかなかこれ、今申し上げたように難しい面があるので、立法者の趣旨としてそういうことなんだということをきちっと言って、税務署長がちゃんと運用するようにという意味だということで理解したいと思うんです。  そこで、もう時間がなくなってまいりましたので、最後、結びにしたいと思うんですが、最初に申し上げましたように、これ、免許制度を取った意味、それがなくなるような方向に行ったんじゃ駄目なので、免許制度は確かにこうやって残ってはいます。今度の法改正でも残すわけですけれども、しかしその実態はというと、免許制度をなくすに等しい方向に私は向かっているというふうに言わざるを得ないと思うんですね。  そこで、何といってもあれですよ、例えば睡眠薬なんかは勝手に買えないわけですからね。睡眠薬と同じじゃないけれども、そういった致酔性といったような意味を持つものですから、そんなのがどんどんコンビニとか町のスーパーとかそういったところの企業グループによって席巻されてしまうと、地域がですね、といったような状況になれば、これは非常に良くない状態だというふうに思います。  私、先ほど申し上げました懇談会での酒屋さんの言葉を申し上げて、大臣にちょっと御感想を伺いたい、最後に伺いたいと思うんですが、こう言っておられるんですよ。まじめな酒屋がいじめられて不当な廉売をするところが生き残る、こんなことを政治が許していいのかというふうに言っておられました。それについて大臣の感想を伺って、所見を伺って終わりにしたいと思います。
  70. 小林興起

    ○副大臣小林興起君) 今度、今立派な法律が議員提案、議員立法で出てこようとしているわけでございますが、おっしゃるとおり、それが通らせていただいた後、運用するのは役所でございますから、役所の方は出てきた申請を、税務署長がぴしっとやらなければ何の意味もないということの中に、皆様方のこの御意思を踏まえて、政府としてはその運用に当たらせていただきたいと、それが大臣趣旨でございます。
  71. 池田幹幸

    池田幹幸君 終わります。
  72. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 要請をした質問がほとんど同僚議員によって明らかになっておりまして非常にやりづらいわけですけれども大臣にお聞きをしたいんですが、平成十四年九月六日の酒類販売業に関する懇談会の答申を受けて今回法律改正がされたわけですね。だから、より現実に今の状況に合わせて法律改正がなされたというふうに思いますが、今、小林大臣議員立法がすばらしいものができてというふうにおっしゃったんですけれども、そうすると、閣法の中で議員立法を作っていただかなければ補えないというような不備なものだったのかどうかというところをお聞きをしたいんですよ。  私は、非常に今日の議論を聞いていて、矛盾で全然納得がいかないという、ますますそこが大きくなってきているんですよね。大臣どうなんですか。今までの答申を踏まえてより理想的な、今の時代にマッチをした法案を閣法として提出なさったんじゃないんですか。そこをちょっとお聞きいただき……。
  73. 小林興起

    ○副大臣小林興起君) 今度の議員提案は各省にまたがるような事実上内容を持って出てきているわけでございまして、政府として統一見解をまとめる前に議員の方からいい案が出てきたということの中でそちらに、政府としてはその法案に、同じものを出しても仕方ないわけでございますから、いい案が出ているわけでございますから、そちらはそちらで出していただいて、それが通った後はこれを処理することに全力を挙げようと、こういう考え方でございます。
  74. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 議員提案の立法を作るときによくあるんですけれども、整合性が保てないようなときには議員立法で、そして総員で賛成をして通していくという、こうしたことがよく手法として行われるんですね。  特に、この酒類の販売組合は特定の政党に対して非常に強力にバックアップをする組合だというふうに私は思っていて、そうした人たちに対して何らかの手当てをするということは、これは政治的な手法としてよくあることなんですけれども、これが議員立法で提案をされて全会一致で通っていった場合には、それは犯罪にはならなくて、一定、特定の議員が立法をして、そして便宜を、特定業者に便宜を図った場合には犯罪者として逮捕されるというようなこともあったわけでございますけれども、そうしたことと、(「違う」と呼ぶ者あり)「違う」というふうにおっしゃっていますけれども、私はそういう危険性のはらんでいる内容ではないかなというふうに議員立法の中身をとらえさせていただいているわけなんですね。  私はずっと野党の立場で選挙をやってきましたので、酒類小売業者人たちのところにもごあいさつには行くのですけれども、組合の決定ですからというようなことをよく言われていて、非常に強力なバック体制があるんだなというのは分かっているんですけれども、それは政権を執っている人たちに対してということであるならば、政権交代が起こったときには必ずまたその現政権に対してバックアップをしてくるということで、ほかの政党の皆さん方も反対はできないというか、賛成に回っていくということなのかなというふうに自分自身は納得させて、この場所に入って今日は質疑をしているわけなんですけれども、こんな私の考え方というのは間違っているんでしょうか。
  75. 谷津義男

    衆議院議員谷津義男君) それは大変な誤解だと思いますね。私はこの法案を、議員立法を出すに当たりましても、この辺のところについては十分注意をして出したつもりなんですけれども、少なくともこの問題については、例えば、小売をなさっている方たちに対しても私どもはかなりきついことを言っています。例えば自動販売機はやめるようにとか、あるいはまた自ら合理化を図るとか、そういう中でやらなきゃ駄目ですよと。  ただし、急激なこういった規制緩和によりまして、いろいろと今免許をもらっている方たちが、量販店に類するところ、例えばコンビニだとかあるいはスーパーだとかというところがみんな許可をもらっている。それがために、許可件数が出ただけ今度は小売業者がつぶれていく、あるいは自殺をする方が出てくる、行方不明になる方が出てくる。そういうのを見たときに、急激なこういう規制緩和というのが果たしていいのかどうか。  ですから、先ほど私は説明をしたように、これは階段で言えば踊り場が必要ではないかということで、やはり規制緩和そのものに逆行するようなことは全く考えておりませんから、スムースにこの規制緩和がいけるように考えている中でやっているんですから、今の問題は全く誤解だろうというふうに思います。
  76. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 それほどの激変緩和が必要な法律を、じゃなぜ出すんですか、政府が。そうでしょう。そうですよ、閣法として過度な規制緩和をやったために、この激変緩和をしなきゃならない議員立法は必要だというならば、閣法に不備があるということになるのではありませんか。大臣、いかがですか。そうでしょう。大臣が出されている法案ですよ。どうぞ。
  77. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 大渕先生、だれに。
  78. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 大臣です。
  79. 柳田稔

    委員長柳田稔君) では、塩川大臣
  80. 塩川正十郎

    国務大臣塩川正十郎君) そうはおっしゃいますけれども、やっぱり政治の段階というのは、こっち側も全面的に支持する、こっちはどうするということは決められない、結局、規制緩和しなきゃいかぬという政治の流れがありまして、それで規制緩和したんです。中途半端な規制緩和できないものだから、ですから、思い切った規制緩和免許緩和をしました。そうしたら、現実の問題として、やっぱりそういう非常なそごが出てきたということは事実です。それは過当廉売競争が起こってきたということ、これは、これも事実なんですね。  そうしますと、この二つの間のどこに谷間を作って緩和施策を講じるかというのがいろいろ政治家としてはお考えになったことだと私は思っておりまして、私は、この議員立法が出されたということに対しましては、これは正当な私は政治行動だと思っております。
  81. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 私も酒類小売業者が非常に状況的には大変なところに置かれているのはよく分かります。私は大変山村部に住んでおりまして、そこの地域にはお酒屋さんは一軒しかございません。そこのお酒屋さんも非常に努力をされています。しかし、車で十分ほど行ったところには大量な量販店があって、価格もすごく安い。だから、車で行って買ってこれる、そういう人たちはそこに行って買ってくる人たちもおりますけれども、しかし、酒屋さんに電話一本で玄関の先、自分のうちの、頼めば台所まで持ってきて置いていってくださる、こうしたサービスは非常に私は大事だというふうに思っているんですよ。これから特に高齢化社会になってきますし、農村部は特に高齢化率が非常に高くて、重いものを自分で量販店に行って買って持ってくることができない状況に私たちもおいおいなっていきますよね。  そうしたときに、近くの酒屋さんがもう商売が成り立たなくて閉じざるを得ないというような状況になっていくということは、これからの高齢化社会を生きていくというのに非常に不便になってくると思うので、そういう酒屋さんをきちっと守っていくという手法というのは私は大事だということは分かりますよ。  ですから、そこは利用者の側も、消費者の側も価格だけではとらえられないサービス、小売業者との協力、連帯関係というようなのはやっぱり築いていける、そういう時代に入ってきているというふうに思うんですけれども、そういう中で、激変緩和策でこうした法律が出されてくることは今の段階ではやむを得ないのかなという思いはしておりますので理解はいたしますけれども、しかし、これが意図的に、余りにも意図的に政治的に使われ、こうした法律を作る手法が使われるということに対しては、やっぱり苦言を呈しておかなければならないと思いまして、一言言わせていただきました。  以上、終わります。
  82. 柳田稔

    委員長柳田稔君) ほかに御発言もないようですから、両案に対する質疑は終局したものと認めます。  これより両案について討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより順次両案の採決に入ります。  まず、酒税法及び酒税保全及び酒類業組合等に関する法律の一部を改正する法律案について採決を行います。  本案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  83. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  次に、酒類小売業者経営改善等に関する緊急措置法案について採決を行います。  本案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  84. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  この際、尾辻君から発言を求められておりますので、これを許します。尾辻秀久君。
  85. 尾辻秀久

    ○尾辻秀久君 私は、ただいま可決されました酒類小売業者経営改善等に関する緊急措置法案に対し、自由民主党・保守新党、民主党・新緑風会、公明党及び国会改革連絡会(自由党・無所属の会)並びに各派に属しない議員椎名素夫君の共同提案による附帯決議案を提出いたします。  案文を朗読いたします。     酒類小売業者経営改善等に関する緊急措置法案に対する附帯決議(案)   政府は、次の事項について、十分配慮すべきである。  一 緊急調整地域指定要件については、当該地域における酒類の小売販売数量や小売販売場数推移等需給動向及び酒類小売販売業に係る経営状況等を適正に反映するものとなるよう十分に配意するとともに、透明性・公平性が確保されるよう適切な運用を図ること。  一 酒類小売販売業者の経営の改善については、酒類小売販売業者において自主的な経営の改善のための取組みが円滑に行われるよう、積極的な助言・啓発に努めること。    また、経営の改善のための計画の実施及び転廃業円滑化に関し、酒類小売業者の自主的な取組みを促進していくため、適切な支援のための措置をとること。    右決議する。  以上でございます。  何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
  86. 柳田稔

    委員長柳田稔君) ただいま尾辻君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。  本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  87. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 全会一致と認めます。よって、尾辻君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。  ただいまの決議に対し、塩川財務大臣から発言を求められておりますので、この際、これを許します。塩川財務大臣
  88. 塩川正十郎

    国務大臣塩川正十郎君) ただいま決議のありました事項につきましては、政府といたしましても御趣旨を踏んまえまして十分に配慮してまいりたいと存じます。ありがとうございました。
  89. 柳田稔

    委員長柳田稔君) なお、両案の審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  90. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  午後一時に再開することとし、休憩いたします。    午前十一時五十一分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  91. 柳田稔

    委員長柳田稔君) ただいまから財政金融委員会を再開いたします。  委員異動について御報告いたします。  本日、角田義一君が委員辞任され、その補欠として櫻井充君が選任されました。     ─────────────
  92. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  財政及び金融等に関する調査のため、本日の委員会に、理事会協議のとおり、参考人として日本銀行総裁福井俊彦君外五名の出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  93. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  94. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 財政及び金融等に関する調査を議題とし、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づく通貨及び金融の調整に関する報告書に関する件について質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  95. 中島啓雄

    ○中島啓雄君 自由民主党の中島啓雄でございます。  今日は、福井総裁にわざわざ御出席いただきましてありがとうございます。  総裁、御就任以来、銀行保有株の購入の拡大であるとか、資産担保証券の買取りスキームの検討開始とか、自己資本の増強の問題とか、いろいろ新しいことに手を付けておられまして、昨日の支店長会議でも、日銀による資金供給を経済活動の活性化やデフレ克服に結び付けていくことが重要な課題だというように言っておられると、こう聞いております。  それから、四月の十七日の中原審議委員の鳥取における講演でもいろいろ新しい提案のようなものが出ておりまして、日銀のスタンスもかなり柔軟になってきたのかなと評価をいたしておりますが、当面の経済対策として、やっぱり何といってもデフレの克服が大事であるということで、いわゆるデフレ克服の手段としてインフレーションターゲティング、私は、むしろ物価安定数値目標というか、物価を安定させるんだという目標だというふうに言った方がいいと思うんですが、それについて現時点でどういうふうにお考えになっておられるのか。  四月の十八日の衆議院財務金融委員会では、重要な道具立ての一つということをおっしゃいましたけれども、なお慎重な姿勢なのかなと、こう拝察をしておりますが、どういう理由で慎重な御姿勢なのか、その辺をお聞かせいただければと思います。
  96. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) お答え申し上げます。  ただいま中島委員から御指摘のとおり、私自身、インフレターゲットと申しますか、今、物価安定目標とおっしゃいました。これは中央銀行にとっては大変重要な道具立ての一つだというふうに信じております。幾つも理由がありますけれども、最大の理由は、やっぱり中央銀行が明確に目標とする物価安定というのはどういうものだということを掲げることは政策の透明性向上に通ずると、こういうふうに考えるからでございます。  金融政策の透明性向上というのは、独立性を付与された中央銀行としては、その説明責任を十分果たしていく上に非常に重要だという面がありますが、それだけではなくて、政策の内容や考え方が国民の皆様に明らかに伝わると申しますか、明確に伝わっていれば、皆様方の反応というとおかしいんですけれども、動きが金融政策に呼応していい方向に動いていただけるというふうな意味で政策の有効性が高まると、そういう効果が期待されるからでございます。  ただ、なお慎重かと、こういうお尋ねでございますけれども、インフレターゲット、あるいは物価安定目標というものを掲げた場合に、それが本当にその良さがきちんと発揮されることが大事でありまして、私自身は、目標値の良さがきちんと発揮されるには前提がある、それは、日本銀行の有する政策手段が物価安定に及ぼしていく効果、その効果が伝わっていく経路とかメカニズムが明確になっているということが一番大切じゃないかというふうに考えています。  その点から見ますと、現状、甚だ遺憾なことなんでございますけれども、金利機能が作動しなくなっている、それから、お金の運び屋の役割を果たしていただくはずの金融機関がまだ健全性回復が不十分ということで、新しいリスクテークをなさる能力が落ちているというふうなことがございまして、なかなかいわゆる信用の仲介ルートが円滑に機能しない状態になっています。日本銀行がせっかく潤沢な流動性を市場に供給いたしましても、それが経済の隅々において新しい需要喚起につながっていくというふうになっていないわけでございます。  したがいまして、私どもとしては、従来からもやっておりますが、更に努力をして金融緩和の波及メカニズムを強くしていきたい、むしろこれが喫緊の課題だということでございまして、これに全力を挙げて今取り組んでいると。  御指摘のありましたような資産担保証券の買入れの検討というのも、これは中央銀行としては極めて異例に、クレジットリスクを中央銀行自身が取るという世界に足を踏み込みながらそういう新しいチャレンジをしてみようというふうなことをやっている段階でございます。
  97. 中島啓雄

    ○中島啓雄君 ありがとうございました。  金融緩和の波及メカニズムを強化していくというのはおっしゃるとおりで、それは大いに検討をしていただきたいと思いますが。  ただ、信用仲介機能がなかなか機能していないと。言ってみれば、マネタリーベースを増やしてもなかなかマネーサプライにまで及ばないということなのではないかと思いますが、これは要するに、デフレだから機能していないのか、機能しないからデフレになるのか、鶏が先か卵が先かというような議論もあると思いますので、余り経路を確立ということを追求されますと、確立できればそれにこしたことはないんですが、そもそも今のデフレ状態というのは、GDPデフレーターで見れば五年連続してマイナスというようなことが続いておりますから、戦後の経験としては初の経験であると。それに対して処方せんがあればもう五年もうろうろしていることはないんで、多少処方せんの効果が不透明であっても、ある程度効きそうだということならばやっていくというような姿勢も必要なのではないかと思いますが、その辺についてもう少し思い切った施策というものがあっていいんじゃないかと思いますが、いかがでございましょうか。
  98. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 金融政策のポイントを金利の操作から量的ターゲットへの切替えと申しますか、流動性を多く供給することによって緩和効果の浸透を図っていこうと、この方針に切り替えて以降の金融政策の効果が全くなかったというふうに私どもは思っておりません。  やはり市場にたくさんの流動性を供給することによりまして、日本経済に対して外から様々なショックが降り掛かってきたときに金融市場で不安感が増幅される、それを防ぐというふうな面では非常な効果を持ってきていると思っておりますし、もう一つは、実体経済そのものに対しましても、御指摘のとおり、ここ何年か物価上昇率がマイナスの状況が続いていてデフレという定義に当てはまるような状況にはなっておりますけれども、物価下落幅がどんどん大きくなり経済の循環をますます悪い方に巻き込んでいくというふうな状況にはならないで、ぎりぎり経済を下支えする力は結構強く持ってきているというふうに評価しているわけでございます。  しかし、私どもは、それでは金融緩和政策の目的としている効果がまだ道半ばだと、より積極的にマネーサプライが増え、あるいは実体経済の活動をより活発にするという方向にもう一歩効果を踏み出したいと。ここに焦点を実は移しているわけでございますけれども、このときに、物価安定目標を掲げて、それを達成する手段というものがやっぱり磨かれていないとかえって国民の皆様方から失望を呼ぶんではないかと、そういうふうに心配いたしております。  私どもは、効果の波及ルートを丹念に、地道ではありますけれども探し求め、それを磨き上げていくという地道な努力が結構通ずるところがあるんではないかという、この点については確信を持ちながら今努力を続けさせていただいているというところでございます。
  99. 中島啓雄

    ○中島啓雄君 ありがとうございました。  おっしゃるとおりだと思いますが、インフレーションターゲットのような目標を持つということは、言ってみれば市場に対するアナウンスメント効果というのも非常に大きいのではないか。日銀が確固たる意思でもって、とにかくデフレを克服していくんだということなんでしょうが、残念ながら、二〇〇一年三月に金融調節方式を量的調節に変えて、五兆円から始まって、今二十兆円といいますか、郵貯の問題入れると二十二兆となっておりますが、その間、確かに下支えは効果はあったんでしょうが、残念ながら小出しで、効き目がどうも余りいいとは言えないのではないかと。  例えば、十五兆ベースに日銀残高、当座預金残高を増やされたのが二〇〇一年の十二月からでございますが、これが十か月続いております。それから二十兆円ベースに増やされて、今までで七か月ぐらい経過していると思いますが、そういうことでなくて、例えば毎月二兆円ずつ長期国債を買い増しをしていくとか、そういったことである程度デフレといいますか、物価指数がマイナスからプラスへ転ずるようなきっかけになるまでは、強力に日銀の意思を表示していくということも大事ではないかと思いますが、その辺のアナウンスメント効果ということについてどうお考えか、お聞かせいただければと思います。
  100. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 流動性の供給の仕方とそれからアナウンスメント効果と、二つの点でお尋ねをちょうだいいたしました。  流動性の供給の仕方につきまして、今、委員が御指摘のように、一定のインターバルで機械的に供給を増やしていくというやり方、あるいは私どものように、経済に対してショックが起こってきたとき、あるいはショックが予見されるとき、あるいは経済実態の情勢判断が悪い方向に修正されようとするときというふうに節目をとらえながらやっていく行き方と、確かに二通りのやり方があると思っておりますけれども、私どもは、やはりマーケットとの対話を通じてお互いにその効果を感じ合える政策というふうなことになりますと、そういう節目節目と申しますか、市場に及んでくるショックあるいは経済実態の変化というふうなものに合わせて流動性を供給していく方が有効ではないかという考え方を取り続けているわけでございます。  それから、アナウンスメント効果の方につきましては、日本銀行説明の仕方もあるいは必ずしも十分ではないのかもしれませんが、私どもとしては、消費者物価が安定的にプラスになるまで今の、何といいますか、この超緩和を続けるという明確なコミットメントをしているつもりでございます。これは、少し分かりにくい印象を与えているのは非常に残念なんでございますけれども、ある意味でかなり強いお約束だというふうに思っておりまして、実は、この先、仮にある時点から経済の動きが少し良くなってくる、人々のインフレ期待というのも少しずつ上がり始めていく、しかし現実の物価指数の上昇の動きが極めて鈍いといったような場合に、現実の消費者物価がきちんとプラスの世界になって安定的な姿になるまでは、その前にインフレ期待がそれを追い越してどんどん高まっていっても、日本銀行としては我慢して超緩和を続けますというコミットをしているわけです。  普通、金融政策の姿としては、現実の物価が動く前に期待インフレ率が上がり始めますと、予防的に引締めと言うとおかしいんですが、超緩和緩和にしたり、さらに少し厳しめの政策にしたりというステップを踏んでいくのが普通ですが、それを一切しないというかなり中央銀行としてはリスクを取ったコミットメントをしています。  少しコミットメントの仕方が複雑だから、国民の皆様方によく御理解いただけていない点もあって少し残念に思っているんですが、それも含めて、少し私ども政策措置そのものについての説明の仕方、そして透明性向上の方法について、もう少し幅広い観点からうまい方法を検討していきたい、政策委員会が開かれる都度、その議論の成果を上げていきたいというふうに考えています。
  101. 中島啓雄

    ○中島啓雄君 今、機械的に増やしていくという方法とおっしゃいましたが、私は機械的ということを申し上げたつもりはないんで、訂正をいたしておきます。  それから、コミットメントの件で、二〇〇一年三月のは、ゼロ%以上というのは相当思い切ったリスクを取ったコミットメントなんだと、こうおっしゃいましたが、むしろ、物価安定目標というようなことでこれは幅を持ってやることで、幅の上限に向かっていきそうになればインフレをコントロールするという意味で、インフレをコントロールする手段というのは、金利政策、オペレーション、いろいろ今まで道具の積み重ねがありますから比較的理性を持ってやれば簡単だと思うんですね。ですから、そういう意味では、私はむしろ数値的に幅のある指標の方がいいのではないかというふうに思っておりますが、時間もありませんから、次の議論に移らせていただきますが。  日銀法の二条では、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」ということで日銀の理念がはっきりと書いてあるわけでございますが、五年以上デフレ状態が続いているというのは、どうも少しこの理念に違反をしているのではないかなと。もし中央銀行でコントロールの範囲を超えていたんだと言うんだったら、どうもちょっと責任放棄ではないかなという気もいたしますんですが、この日銀法二条の存在についてどういうふうに考えておられるのか。  それから、三条で独立性の問題があって、四条で政府との協力関係というようなことが述べられているわけですが、そういう意味でも、物価安定目標というようなことを幅を持って、かつ政府とアコードを結んでやっていくというようなことも、当然、経済の問題というのは日銀ひとりで操作できる話ではありませんから、一つの有効な施策ではないかと思いますが、二条の関係と政府との協調関係というのをどういうふうに考えておられるか、お考えを聞かせていただければと思います。
  102. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 経済現象の様々な複雑な要因に対処していきますために、望ましい経済の姿を実現していくためには、申すまでもなく民間経済部門の動きと政府それから日銀の政策とが平仄が合っていなければなかなか所期の効果を上げにくい、あるいは期待される一定の期間内に望ましい成果を上げにくいということは事実でございますけれども日本銀行としては、しかしながら自分の持っている金融政策をそのときの状況に合わせて最大限有効に駆使するという責任がある、そのことが日銀法第二条の「通貨及び金融の調節の理念」という条文の中に明記されている。したがいまして、私どもは、その責任は非常に重い。他の政策が不十分であるとか、民間の動きが鈍いとかいうふうなことを口実にしないで、中央銀行としてできることはもうフルにやっていくという立場で貫いているつもりでございます。  最近の状況につきましても、かねがね御説明申し上げておりますとおり、本来ならば中央銀行が踏み込んではならないリスクテークの部分にまで足を踏み込みながら、この目的を何とか完遂していきたい、こう考えているところでございます。
  103. 中島啓雄

    ○中島啓雄君 力強い御答弁をありがとうございました。  先ごろ、スティグリッツ教授が日経のインタビューに応じたという中で、何かするリスクよりも何もしないリスクの方がずっと大きいということを言われておりますが、私も同感でございますので、今の福井総裁の前向きな御姿勢を続けていただいて、是非この危機的な経済問題、デフレ問題というのを解消に御努力いただければ大変有り難いと思います。  ありがとうございました。
  104. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 今日は、日銀副総裁にもお見えいただいて、本来であれば、就任前に総裁候補及び副総裁候補お三方をこの場にお呼びしていろいろと質疑をしたかったなというふうに今思っておりますが、もう衆議院で一度やられていますので、その衆議院の議事録なども読ませていただきながら質問をさせていただきたいと思いますが。  最初に武藤副総裁にお尋ねしたいと思うんですが、今も中島委員の方からありました日銀の独立性の問題、そして政府との意思疎通の問題ということなんですが、特に私どもは、たったこの間まで財務省の事務次官をやっておられて、急遽、今度副総裁になられると。かねてから、この日銀と旧大蔵省の関係とか、今日も比較的過去の問題について少し触れていきたいと思っていますので、まず、いわゆる日銀法の改正というのが、一九九八年四月から改正されたわけでありますが、この改正というのは非常に重大な改正だったと思うんでありますけれども、この点について、旧大蔵省におられて、そして今度副総裁になられたと。なられる前に、いわゆる日銀の独立性が与えられたいわゆる法律について財務省におられた当時考えておられていたと思うんでありますけれども、その後、日銀法の改正についての現時点でどういう評価をされているか、まずお聞きしたいと思います。
  105. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) 九八年に現在の日銀法が制定されますときに各界の様々な御議論がありました。私どもも多少そういう議論の中で意見を申し述べた記憶があるんでございますけれども、最終的には中央銀行の独立性、法律上は自主性という言葉ではありますけれども、それが明確に与えられたわけでございます。  それに伴いまして、日本銀行政策決定のメカニズムもそれに沿ったような形できちっと体系付けられたわけでございます。同時に、そういう自主性、独立性が担保されるがゆえにと言うべきかもしれませんけれども政策運営の過程をオープンにする、透明性を確保するということがまた明確にうたわれておるわけでございます。こういう全体の体系といいますのは世界的な流れに沿ったものであると私は理解しておりまして、先進国の中央銀行にふさわしい体系ができ上がっていると、そのように理解をいたしております。
  106. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 過去、過去といってももちろん終戦直後からという意味ではないんですけれども、バブルを起こしていく大きな要因として、やはり大蔵省が、これはまた後でちょっと議論、振り返っていきたいと思うんですが、やはり旧大蔵省が日銀の金融政策財政のコントロールの下に置いたんではないかなと、こういう批判があって、そして、やはり日銀に独立性を与えるべきじゃないかと、こういう実は、たしか論理展開でこの改正というものの動きあったと思うんですけれども、そのことについては、旧、財務省におられて、大蔵省におられて、しかも枢要な地位におられたわけですから、その点はどういうふうに評価をされているのかということです。
  107. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) バブルの生成と崩壊の過程につきましてはいろいろな現時点における反省といいますか検討がなされていると思いますけれども、私は、バブルの生成の過程で、やはり当時、プラザ合意後の円高あるいは国際収支黒字といったような状況の中で内需拡大策を取るべきだというのが一般的な理解であったと思います。  もちろん、金融政策の上でも未曾有の低金利政策が取られたわけでございますけれども、同時に、当時から既にあった財政構造改革という議論の中でも何とか財政出動というのができないかということで、まあこれは前の立場では財政出動も行ったということも私は言えるというふうに思っております。  ただ、当時、一方で資産価格が上昇しているということに対して物価が一方で安定していたということもあって、その認識が必ずしもきちっとしていなかったという反省はあるわけでございますけれども、それが一たび、マーケットの一種のこれは何というんでしょうか、まあいわゆるマーケットフェイラーということでございますから、一方で期待がしぼみますと御承知のようなバブルの崩壊ということになったわけでございます。  そういう意味ではいろいろ、後から考えますと反省すべき点がいろいろありますけれども、それがもちろんその後の我が国経済の大きな基調となって今日のデフレの状況があるというふうに理解しておりますが、ただいま御指摘のような日銀法の改正というのは、もちろん、それが何らかの形で影響を与えたということはあるとはもちろん思いますけれども、もっと大きな流れの中で日銀法改正ということが行われたのではないかなというふうに私は思っております。
  108. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 もっと大きなというのは国際的な流れだと、先ほどおっしゃった点なんですが。  私どもは、どうもそこのところは、正に日銀の今度副総裁に入られていくわけですが、財政とそれから金融との関係で、例えば一九八七年に、たしか十月だと思いますが、ブラックマンデーがありましたですね。そのブラックマンデーのときに、もうその直後だったでしょうか、やはりその当時の経済政策政府の取っていった政策の中で、増税なき財政再建というトーンがずっとございましたですね。そして内需を拡大しようと。もうそろそろ、ドイツの連銀ももう公定歩合を下げたぞと。そうすると、こちらも引き締めたいというときに、実は一九八七年の十月の段階で、その引締めが遅れていくと。  一般的には、バブルの生成の段階における要因としてはよくそういうことが挙げられるわけですね。そのときに、日銀のその公定歩合の決定とか、そのいわゆる決定に対する旧大蔵省の、あるいは政治のというふうに申し上げていいかと思うんですが、そのやはり介入というのがやっぱりあったんではないのかと。やはりそのことによって今日のバブル、もう相当前の話でありますが、いまだに傷を負っているというふうに言ってもいいと思うんですけれども、そういう問題を起こしたというその責任というものはやはり、これはちょっと日銀法改正を離れて、副総裁、どうですか。どういう反省をされていますか、その点。
  109. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) 先ほどちょっと申し上げましたとおり、これは一つ一つきちんと検証されるべき問題だというふうに思っております。  私は、それぞれ、あの円高の状況の中で一方で内需拡大を展開しなければならないというときに、金融政策財政政策がどのような役割分担をするかという議論があって、その上で、これはちょっと遅れた財政出動なんて当時言われましたけれども、最終的には財政出動もなされておるわけでございます。  今から思えば、その政策発動のタイミングとかそういうことについてはいろいろ反省すべき点はあろうかと思いますけれども、当時の政策運営に携わった方々は、やはりその時々において最善を尽くされたのではないかなというふうに私は思っております。
  110. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 またちょっとこれ以上その点ばかり言ってもあれなんで。  ちょっと日銀総裁、これは質問していなかったんですが、最近、リチャード・ヴェルナーという方が、「円の支配者」とか、あるいは最近はPHPからも二冊同時に発行されて、お読みになったろうと思うんですが、その中で、彼は日銀の窓口指導の問題を触れているんですね。  一九八一年に窓口指導はなくなったというふうに一般的に言われているけれども、本人はたしか日銀の研究所にもおられたという話ですが、いろんなヒアリングをしていくに及んで、間違いなく八〇年代においても、八一年以降もこの窓口指導が残っていたんじゃないのか、こういうふうに言われます。  それと同時に、それは四半期ごとに、この窓口指導によって各業態別に資金をどのぐらい下ろしていくべきかと、こういうようなことがあったというふうに本人はいろんなところに書かれているし、現実にいろんな資料を出されていますが、それは現実にあったんでしょうか。
  111. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 当時のある時期、私は日本銀行の営業局長としてその仕事に携わっていた経験もございます。その記憶を少し呼び起こしながらお答え申し上げますと、委員指摘のとおり、いわゆる窓口指導と申しましても、日本銀行が各銀行別に毎期毎期の貸出し増加額について、きちんと日本銀行の方から数字を示して一種の規制をするというやり方の窓口指導は非常に早い時期に廃止になったわけでございますけれども日本におきましては、御承知のとおり、金利の自由化が一方で非常に遅れていたということがございます。  したがいまして、日本銀行としては金利機能をフルに発揮して金融の調整がまだできない段階であった。つまり、人為的な、一方的な数字のお仕着せによる規制はやめたけれども、一方、金利機能はフルに使えないということで、その間のつなぎとしては、日本銀行から各金融機関に対しまして節度ある融資をお願いするという形でそこを補ってきていました。というのは、各金融機関から毎期、自ら自主的な貸出し計画を立ててもらって、それを守っていただくようにという形に、少し緩やかな形の窓口指導に変質させながら、金利自由化が完成するのを待っていたというふうな段階がございました。  私が営業局長として仕事をしておりましたのもそのころでございます。当時の総裁から、再三にわたり節度ある融資態度を守っていただくようにということを国会でもお話しいただき、記者会見でもお話しいただき、そして現場の私ども金融機関から自主的な貸出し計画を受けてそれを守っていただくように見守っていたと、そういうやり方でございました。
  112. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 そうすると、そのときのマイルドな窓口指導といいましょうか、そうすると、そのときにおいては絶えず、金融機関がどういう分野に融資をしているな、どういうところに量的に増えていっているなということはつかんでおられたわけですね。  そうしますと、一九八〇年代の、たしか八六年ぐらいから始まるんでしょうか、不動産融資とか、あるいはあの当時で言いますといわゆる不動産、それから流通とかですね、今言うところのバブルを引き起こした土地担保融資といいましょうか、そういうところに急速に伸びていくというのはやっぱりつかんでおられたわけですか。
  113. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) これは、個々の金融機関の貸出し計画、それから貸出し実績についてヒアリングを行いますときにある程度分かったということでございます。  日本銀行の対応といたしましては、あくまでマクロの金融政策をやっているという立場でございますので、貸出しの総量が幾ら伸びるか、したがってマネーサプライがトータルとして幾ら伸びるかというところに最大のポイントを置いて融資の態度の節度を保っていただくということを言っておったわけでございまして、貸出しの中身について、いわゆる質的なコントロールはなるべく避けると。それは、窓口指導をかつてやめた以上は、極力貸出しの中身には手を突っ込まないという姿勢は貫いていたわけでございます。しかしながら、やはり量だけを見ていても、貸出しの中身の変質が伴っていくということは非常に危険な要素がはらんでまいりますので、個々のどこの会社にということはもちろんございませんでしたけれども、大まかな業種別の貸出しの動きの変化ということはいつも聞きながら対応しておりました。  その中では、当時は確かに不動産関連のバブルという問題が始まったころでございますけれども、しかしそれだけではなくて、今、過剰設備の問題が引き続きありますように、すべての業種において非常に旺盛な設備投資関連の資金需要も強かったわけでございます。加えて、そういう不動産関連等の新しい貸出しが、当時は御承知のとおり東京が新しい国際金融市場になると、世界の三大マーケットとして大きく飛躍するんだ、したがって不動産関連需要というものが強くて当然なんで、それは昭和四十年代後半の列島改造のときのような土地の投機とは違うんだという世間の説明の下に銀行貸出しがそういう方向にかなり伸び始めたということは感知しておりました。
  114. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 そうすると、一般物価は非常に落ち着いていたというふうに、ただし資産の、地価だとか、あるいは株価も後半そうなんですが、非常に上昇し始めた。その上昇に対しては、これは当時は、土地というのは下がらないものだ、土地神話もあったのかもしれませんが、今で言う収益還元価格のような考え方を見て、これはやはりちょっと異常じゃないかと、こういう認識は持たれなかったんですか。
  115. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 土地の値段の上がり方につきましては、金融緩和の副作用として行き過ぎがあるかないかということはいつも関心を持って見ておりました。  収益還元価格で土地の値段を洗い直して、それと現実の価格との対比が大きいという見方も当然しておりましたけれども、実は日本の場合は急に収益還元価格からあのとき離れたというのではなくて、高度成長時代、過去四十年余り一貫して離れているものですから、更にどれだけ余計に異常に離れたかということの分別がなかなか付きにくい状況だったというふうに思います。
  116. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 また、バブルの生成発展の問題はこれからもまだ続くだろうと思いますが、そこで武藤副総裁に、衆議院でいわゆる政府と日銀との関係でこのように発言をされていますよね。それは、政府と日銀との間の意思疎通の更なる充実を図るために私なりに貢献をしていきたいということをおっしゃっているんですが、これは今のシステムの中でも、日銀と政府との関係で言えば、日銀法の中にもちゃんと明記されている経済財政担当大臣出席、それから財務大臣出席、そして意見を述べることできますよね。そして、決定しようとすることに対して、それについて待ったを、もう一回延期請求もできる。そういうこともできるし、もう一つ経済財政諮問会議の中に日銀総裁が正式のメンバーとして入っておられますよね。  そういうことがありながら、更なる充実というふうにおっしゃっているんですが、これはどういう意味で更なる充実ということを、そして私なりに貢献というのは、それはどういう意味で私なりの貢献なのか。これは財務次官ということを務められたことがあるがゆえに何らかの貢献ができるというふうにお考えなのか、それは具体的にどんなことを考えておられるのか、それをお聞きしたいと思うんですが。
  117. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) 御指摘のように、政府代表、政策決定会合に政府代表の御出席をいただいておりますし、また事実上経済財政諮問会議に総裁出席するというのはもう御指摘のとおりでございますけれども、日銀法四条では、今御指摘があったとおり、「政府経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」というふうにわざわざ規定をされておるわけでございます。  これは、独立性、自主性と同時に、政府全体として政策展開は整合的であることが望ましいというごく当然のことが書かれているものと思っておりますけれども、これは、イギリスとかアメリカとかの中央銀行におきましても、日々の意見交換といいますか、日々といいますか、そういう何というんですか、政策決定会合や何かでの議論ばかりでなくて、いろんな形で実際には意見交換が必要になってくるということがありますし、また現にそういうことが行われているわけでございます。  日本銀行政府の間においても従来もあったと私は思っております。そんなに不自然な形でやったわけではないので適宜の意見交換があったわけでございますけれども、そういう連絡を密にしなければならないということについては十分念頭に置いて、日本銀行としても政府とのそういう関係を大事にしていかなければならない、それがひいては独立性というものがきちんと評価される基になるというふうに私自身は考えておるわけでございます。  別に私だけがそういうことができるというふうに思っているわけでは決してございませんで、むしろ総裁がそういうことに対応されるのが通常のことだと思いますけれども総裁を補佐する立場といたしまして、政府側の経験がありますので、何らかのお役に立てるということもあるかなという、ごく一般的な意味でそのように申し上げた次第でございます。
  118. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 今の言葉の中にもありました日銀の独立性の問題について、じゃちょっとお聞きしたいと思いますが、総裁日本銀行に独立性が付与されていると。我々思うのは、マクロ経済考えたときに、金融政策財政政策という二つの柱があるわけですね。財政は、当然これは財政民主主義で、国会を通じて予算や税制やいろんな議論をしていくわけでありますが、このいわゆる金融に独立性が与えられているということの意味というのはどういうふうに考えておられるのでしょうか。
  119. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) お答え申し上げます。  それは、日銀法、今の日銀法が国会で議論されました五年前に、なぜ中央銀行に独立性の付与が必要かという議論を大いにさせていただきました。そのときの答えと今とは変わっていないということでございますが、物価の安定というものは時として国民の皆さんにとっては苦い薬を飲んでいただかなきゃいけないような政策を講じる必要があるかもしれない。現に、歴史上はどこの国においてもそういう苦しい経験をしてきていて、物価の安定を貫くということの難しさということは、何といいますか、そういう歴史の中に刻み込まれているということと、それから、他の経済政策、なかんずく財政政策金融政策とのうまいポリシーミックスというものも、結局のところ、長い目で見て物価の安定を確保するという基盤の上に財政政策もその他の経済政策もよりよき成果が出る。これも歴史的な教訓の中から出てくる答えが非常に多いというふうなことで、中央銀行の独立性というのは、非常に理論的な裏付けというよりは、そういう歴史的な教訓に基づく一つの知恵としてどこの国においても確立してきている。それが法律のレベルでも保障されたのが中央銀行の独立性ということではないかと思います。  日本の場合には、法律のレベルで中央銀行の独立性が保障されたというのが諸外国に比べて少しタイミングが遅かった、今から五年前だと、こういうふうになっているということだと思います。
  120. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 もう一つ、独立性の問題についての少しまた議論はあるんですが、信頼性の問題なんですけれども、この信頼性というのは、私は、やはり言っていることとやっていること、これが一致することだというふうに思うんですが、さきの速水総裁時代の言動なりあるいは日銀の行動を見ていると、これまではやらないと言ったことを簡単に、いや、実はやるようになりますという形で、例えば銀行の株の買取りといったような問題もそうだったというふうに私は思いますし、あるいは、たしか二〇〇一年でしょうか、八月だったでしょうか、二〇〇〇年の八月だったでしょうか、ちょっと私も定かではありませんが、公定歩合をまた引き上げるというか金利を少し上げるようなことをやられて、随分反対がありながらやられて、またすぐそれを引っ込められるといったような、そういう意味でのやっぱり信頼といった点は、これについて総裁自身、やっぱり過去の自分の言動なり、今日、早速、私、実は金融ビジネスという本に大塚委員がちゃんとトレースをしていただいて、いろんな過去の言動とそして最近の言動を対比されておりますが、そういう意味で、過去の言動あるいはこれから日銀総裁になられての言と動の、それについての信頼性について改めて確認をしたいと思いますが。
  121. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 委員お尋ねの独立性という問題と今おっしゃいました信頼性確立の問題というのは、私は表裏一体の問題であるというふうに思っています。  中央銀行の独立性というのは、法律担保されるということは歴史のある段階で非常に重要なことでありますし、日本銀行もそれが保障されているということは、日本経済の将来にとって非常に重要なステップが既に踏まれているということだと思いますが、以後、真にこの独立性の良さというものを実現して国民にお返ししていくのは我々の責任でありますし、そのためには、我々の言動について国民の皆様から信頼を置いていただく必要がある。逆に言いますと、我々は十分信頼を得られる言動を続けていかなければいけないというふうに思っております。  その中身は、結局のところ、日本銀行として常に正しい情勢判断をするということ、そして先見性のある政策行動をするということ、そしてその政策行動についてきちんと分かりやすく説明していく、中身としてはそういうことに尽きるのではないかというふうに考えています。
  122. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 引き続きその点をこれからもしていきたいと思いますが、先ほど日銀法の改正というちょっとバブルの発生のところをお話ししましたけれども、もう一つ歴史の中でこの点だけは是非国会の中でも、あるいは国会の内外で明らかにしてもらいたいというのは、一九九七年に今の金融不安が始まったときに、一九九七年の三洋証券、これがコール市場でデフォルトを起こしました。このことについて、過去の金融の大きな事件の中でこれぐらい大きいショッキングなことはないと、こういうふうに言う方がおられるんですね。  私、余り金融それほど専門ではありませんので、それがどういう、どの程度の深刻さを持ったのかというのは分からないんですが、ただ間違いなく言えることは、あのいわゆる三洋証券の破綻、そしてコール市場が機能しなくなる。その後、実は私、北海道でございますが、北海道拓殖銀行がつぶれました。これはもう各大蔵大臣が都市銀行は一行たりともつぶさないというふうに言っておったんです。それから山一証券がつぶれる。あるいは徳陽シティ銀行ですか、これは仙台なんですが、これはたしか破綻だったと思いますけれども、一連のずっともうコール市場が凍り付いていくわけですね。  そういう意味で、正に銀行間の間の信用がなくなってしまうという状態を起こしたこの責任というのは、これは総裁、どのようにお考えなんでしょうか。
  123. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) これは、一連のバブルの崩壊のある意味で後遺症だというふうになってくるんじゃないかというふうに思います。  つまり、八〇年代後半以降、日本経済を構造変化前の古い経済モデルのまま、円高抑制、貿易摩擦回避等の命題のためにかなり思い切った内需拡大をやり、その中に金融緩和、大幅な金融緩和も含まれていた。結果的に、不動産投資はもちろんですけれども、通常の意味での設備投資も企業はかなり過大にやり、その後、振り返ってみると、バブル崩壊の後では過剰設備を大きく抱えた。過剰設備の裏付けとなっている過剰借入れというものが焦げ付いて金融機関の不良債権という形で沈殿した。それが、その問題処理に時間が掛かって、御指摘のとおり、九七年以降様々な金融不安現象に至ったということだと思います。  したがいまして、その源は、八〇年代後半、本当はそのときに大きな構造変化が必要であった。そのころからもう既に日本におきまして、規制緩和あるいは日本の市場開放ですね、市場の一層の開放という構造変化につながる大きな声は既に上がっていたわけなんですけれども、それを大きく打ち消すほど更に大きな声が、円高抑制、そして貿易摩擦解消、そのための思い切った内需の拡大と、この国民的な選択がいま一度大きく旧モデルのまま内需拡大の方向に傾いたと。政策がすべてそれに加担したというところに政策の責任があるというふうに私は思っています。
  124. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 一般的な話じゃないんですよね。コール市場が事実上機能しなくなったんですね。その責任はどうあるかということを聞いているんです。  実は、これはたしかエコノミストではなくて、実際新聞記者の方でございますが、この当時において、これ、要するに、その一九九七年の段階において様々な、特に住専の問題が最初あったわけですけれども、要するに、一つ企業で支払不能が発生した場合に、他の問題企業の資金繰りに波及して金融システム全体が問題になるんではないかというふうに、当時のこれ、日銀の信用機構局は不安を募らせたと。  これ、実は「検証 経済失政」という岩波で出た本なんですが、そこに書いてあることをちょっと引用させていただいているんですがね。要するに、当時の一九九七年の信用機構局は非常に不安に思った、ところが日銀の営業局の考え方は違っていた、三洋証券はインターバンク市場での資金の大きな取り手ではない、仮にデフォルトが起きても少額で済んで、混乱を封じ込めるのは難しくない、日銀としてもビッグバンを支持しており、市場に一定の自己責任を持つのは当然ではないかと、こういうやり取りがあったというふうに聞いているんです。  その後の、これはマスコミの方が取材に基づいて一方的に書いているわけでありますから、私は、一つはお願いしたいことは、この間の日銀内におけるこの問題について、つまりデフォルトの問題が起きたときに、信用局とそれから営業局で、こういう内部矛盾、内部のやり取りが議事録として残っているのかどうか。そして、残っているんだったら私は是非それを出していただきたい。  そして、こういうことを含めて、非常にある意味では、こういうやり取り、しかし結果的には、要するに三洋証券の処理には日銀特融を使う考え方がないということを大蔵省に伝えていたから、ある意味ではそれはもう余り問題にならないんじゃないかと、こういうことで最終的にはそれを折れたという感じを受けているんですが、私が受けているんではなくて、その取材したマスコミの方ですね。たしかこれ、軽部さんだったでしょうか、何と言うんでしょうか、名前ちょっと忘れましたが。そういうことを、これはもう当時たしか、大塚耕平さんの作ってくれた年表を見ますと、一九九七年には副総裁でおられたと思いますが、その辺りはもし、白川さんでも理事の方でも構いませんが、分かっておれば、本当にここはどうなったんだろうかということを是非究明してもらいたいと。だれがこれは責任があるんだろうかということを非常に厳しく言われていますので、先ほどのような一般的な、バブルがどう起きてどうなったという、そういうことではなくて、そういういわゆるぎりぎりにおけるやり取りというものですか、そこはどういうところが問題があったのか、その点、分かれば教えていただきたいんですが。
  125. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) コール市場というのは日本の決済システムの中で中枢的な位置を占めている金融市場でございます。したがいまして、ここの市場で破綻的な現象を起こさないようにということは、非常時あるいは平常時を問わず、日本銀行の営業局においては一番神経を使って毎日マーケットの運営をしているところでございます。新しい市場参加者等が、全く事務的なミスででも、そういう資金繰り的なそごを起こしてマーケットの機能を害しないようにというところにまで気を配って日常運営しているぐらい、神経をとがらしている場面でございます。  九七年のころはいろいろと金融面で難しい問題が起こってきたわけでございますので、おっしゃいましたとおり、営業局と信用機構局とは毎日のように密な連絡を取りながら、市場運営の安定性を保つために非常に神経を研ぎ澄ました運営を続けてきていたというふうに私は記憶をしておりまして、三洋証券の問題をめぐっても営業局と信用機構局との間で物の考え方の相違があったというふうに私の記憶には残っておりません。  私の記憶に残っていないところでそういう記録があるかどうかということですが、恐らく私の想像では記録は残っていないと思いますが、よく調べてみます。多分残っていないというふうに思っています。
  126. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 是非、残っていれば、もうあれから六年たちますですか、是非資料としてまた我々の閲覧にも供して、検討させていただきたいと思いますが。  そこで、財務省の当時、たしかこれでいきますと官房長をやられておったんでしょうか、九七年の。いや、大臣官房総務審議官なのか、ちょうど端境期だろうと思いますが、このときに大蔵省としてこの三洋証券のデフォルト問題というのは何らかの議論があったんでしょうかね。御記憶にないでしょうか。
  127. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) 御指摘のとおり、当時、私、官房長だったと思います。したがって、そういう検討が続けられているというのは十分に承知をしておりました。  当時の証券局の責任者なり銀行局の責任者なり、あるいは大臣、次官と、相当いろいろな報告、大臣に相談がなされていたというふうな記憶がありますけれども、今申し上げたような立場でございましたので、具体的なことに私が絡んだということではございません。  当然、その前後における状況から考えましても、その後の事態の推移から見ましても、金融市場の安定を維持するということがいかに重要なことかというのは痛感した次第でございます。
  128. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 たしか当時は証券局長は長野厖士さんだというふうに私も記憶しているんですが、この証券局業務課が、九七年十月二十五、二十六日の休日を返上して、いわゆる三洋証券の問題に会社更生法を適用するとき、どうも入念にシミュレーションしているらしいんです。  ここでもデフォルトの波及効果はこの議題に上らなかった。証券局のある幹部が一度、日銀証券課に本当に大丈夫かと念を押したら、ビッグバンの時代は自己責任が当たり前なんじゃないですかと逆にやり込められたと、こういうふうにおっしゃっていますね。  恐らく、もう日銀の副総裁になられていますから財務省のことをあれこれというふうに言いませんが、一体全体、このときに、旧日銀法の段階において、これはどっち、いわゆるデフォルト問題というのは、いわゆる日銀の側にももちろん責任がないとも思わないんですが、しかし、そういうものを全部監督していたのが当時の大蔵省ですよね。そうすると、このいわゆるデフォルト問題の責任というのは一体、それは大蔵省の方に主要な責任があるのか日銀の方にあるのか、これは副総裁、どういうふうに考えられますか。
  129. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) 私、実は今最初に申し上げたようなことで具体的な中身に立ち入っておりませんので、責任がどちらにあるかということについてちょっと判断するだけの材料がございません。  確かに、当時金融ビッグバンの下で、これは行政当局ばかりじゃなくて世間一般にもあったというふうに思うんですけれども、いろいろ金融機関といえども破綻ということがあり得るんだと、証券会社といえどもそういうことがあり得るんだというような考え方も一部あったというそういう、そのときの状況はそういうことであったと思うんですね。その後、いろいろ議論は発展していったと思いますけれども、当時はそんな雰囲気の中で作業が行われたと思いますけれども、詳細についてはちょっとそこを判断するまでの私自身情報がございません。
  130. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 ここで、実際そのときの責任とか問題がどこにあったのかということをこれ以上ちょっと追及する材料を私も持っていないんですが、その間、例えば日銀と銀行局証券課、証券課ですか、証券局のあれですかね、当時でいえば。そういったところがやり取りした交換記録みたいなのは残っていないものですかね。これは、どうですか、財務省の方にお聞きしたいですが、そういうのは資料残っていますか。総裁、もし、こういうのは、そういう記録は残さないものなんですか、お互いのやり取りは。
  131. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 金融機関ないし証券会社経営が厳しくなったときの相談事、それは日本銀行と大蔵省の銀行局ないし、当時ですね、証券局、もう日常のように会話を交わしていることは事実でございますが、恐らくそれを一々記録にとどめるというふうな時間的余裕がなく推移してきているんではないかというふうに想像されます。
  132. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 ということは、恐らくなかなか資料としては残っておらぬだろうなというふうに思いますが、また引き続きこの問題も継続して議論していきたいと思いますが。  そこで、もう時間もあと二十分余りになってまいりましたけれども先ほど中島委員が最後に質問されたスティグリッツさんという人が日経新聞にたしか論評を載せてありました。これ、質問をしていないんですが、ちょっと時間不足になってきたのでずばりお聞きするんですが、たしか政府紙幣を発行しろと、こういう提案をされていますね、スティグリッツという教授がですね。これは事前に質問しておりませんでしたので、もしかしたらまた検討は後で結構、構わないんですが、これはどういうふうに考えたらいいんだろうかなと。  もう一人の副総裁岩田さんはですね、それはまるで日銀の、国債を日銀が完全に引き受けることじゃないか、直接引受けと同じじゃないかと、こういうような話をされているんですが、この点は日銀総裁も同じような認識でございましょうか。
  133. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 政府が直接言ってみれば紙幣を発行すると。これは中央銀行が発行いたします銀行券とは、全く同じ通貨であっても、質が全く異なるものだということだと思います。  政府紙幣の発行によって様々な国が厳しいインフレを経験した結果、その学習効果としてそれぞれの国が中央銀行を持つようになったと。法律的な概念である通貨高権というのは政府に残したまま、しかし現実の通貨を発行する権限を中央銀行に譲ることによって健全な通貨の基礎を作ると、これが近代的な資本主義の仕組みの一番根幹のところだと。スティグリッツさんの意見は、そこをまた歴史を大きく元に戻そうというふうな発想になりかねないというふうに私も思います。
  134. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 というのは、そこが実は、もうこの間何年、ゼロ金利に持っていってたつんだろうかと。速水総裁時代に、ゼロ以上に物価上昇を持っていくためにずっと量的金融緩和を続けていきますよと。それでもうずっと続けてきているわけです。もう二年以上たっていると思いますね。依然としてデフレから解消できていない。そうすると、これはいろいろな理屈があって、デフレが解消しないから不良債権が終わらないとか、あるいは不良債権が解消しないからデフレが終わらないとか、いろいろまたここにも理屈とへ理屈があるんですが。  そうすると、もう日銀の進めている方法では、要するにデフレは終わらないんじゃないかと。それならば政府紙幣を発行して、要するに、もうかつてやってはいけないという禁じ手だったけれども、日銀の直接引受けみたいなものですが、これと同じようなことをやらざるを得ないところまで日本経済というのは来ているんじゃないですかと。それぐらいデフレの問題というのは深刻な問題じゃないですかという問題提起を受けて、だとすると、いやいや、それは伝統的な方法で、かつてそれで失敗して今のこういう独立性やいわゆる財政法のきちんとした条令もできているんだよと。  そういう意味で、そういう観点からしてそれはとんでもないというふうにおっしゃられたんだろうと思うんですが、確かにとんでもないということなんだけれども、とんでもないところにもう実は我が日本経済あるいはデフレの問題というのはそんな深刻まで来ているんじゃないかというふうに。これは、今お話ししたのは、スティグリッツさんの提案は、日本の中でも榊原さんとかいろんな人がこれは支持していますよね。一回限りならいいとか、何回もやっちゃいけないとかいろいろ言っております。  さらに、先ほど言ったリチャード・ヴェルナーさんも、実はこれは何を言っているかというと、大蔵省が国債を発行して、そしてそれを、何といいましょうか、銀行が買って、それをまた後で日銀がそれを買ったりするとか、そういうことは別にして、そういうのはやめなさいと。要するに、国が必要なお金は銀行から融資させなさいと、こういうふうにして問題提起をしている。ありますよね、今週号のエコノミストにそれ書いてありますよ。  そうすると、だんだんとそのインフレターゲット論というのも一つあるけれども、もうインフレターゲット論じゃなくて、実際問題そうやってインフレを起こさせると。それがもしかしたらハイパーになるのかもしれない。しかしいずれにしても、上がったものを下げる技術はあるんだから、取りあえず一回それをやってみなさいと、こういう問題提起じゃないかと思うんですが、これは財政も絡んでまいりますので、総裁ともし武藤副総裁、どういうふうにお考えか、ちょっとお聞きしたいと思いますが。
  135. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) 政府紙幣の発行ということについては、確かに最近いろいろな方がおっしゃっているんですが、詳細を必ずしも存じ上げないので余り立ち入ったコメントができないんですが、政府紙幣が永遠に流通するということでは多分ないのであろうと。そうすると、それを償還するときの財源は、結局、税金があればともかく、国債発行で調達することになるのではないかなと。そういうことについての、どうもちょっとよく分からぬなというのが正直な感想でございます。
  136. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 日本銀行金融政策の運営をいたしております場合に、理論的な裏付け、根拠ということもしっかり勉強しながらやらせていただいておりますけれども、同時に、経済を本当に担っているのは民間の家計部門の方々そして企業経営者、これが本当の日本経済の担い手でございます。こういう方々がどういう気持ちで今の困難を乗り越えようとしているか、将来規律ある日本経済にどうやってつなげていくかということで大変苦労しながら毎日の経営をしておられて、日本銀行金融政策とどこでどういうふうに平仄が合ってくるのかということを真剣に考えながら努力しておられる。我々もできるだけ早くそこに焦点が合うように努力をしていくと、こういう道程だと認識しております。  民間の経営者も恐らく、それをバイパスのように通り越して、苦痛なき安易な道があるというふうに今のところは恐らく心の底では考えておられないんじゃないかというふうに私どもは信じております。
  137. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 要するに、この二年間、速水総裁が、もうゼロ金利で、後はこれからは量的なリザーブを増やしていこうという方向に変えられたわけですよね。そのときも我々は質問したわけです、いつまでやるんですか、ゼロ以上というのはどのぐらいなんですかと。いろいろ聞いて、実質上これはインフレターゲット論に近くなるから、いやそれは云々という余りぱっとした答えなかったわけです。そのときに、リザーブを増やし続けていけばそれは本当にゼロ以上になるんですよという道筋があってじゃそのとき提起されたのか。ただ私は、それ提起されないんですよね、されていないですよね。されないで提起されて、しかし実際は、それは日銀それを取っていったわけですよ。  そうすると、筋道が立ってそこに行くようにというふうに説明ができないで実は取っておられるという、そこが私は非常によく分からないなという気がしてならないところなんで。これは、新しい総裁になっていろんなそういう中小企業のところにお金が直接行くようにということで努力をこれからされるんだろうと思いますが、まだそこのところが非常に理解しにくいなというふうに思っていますが、ちょっと先にまた進めたいと思います。  本当はバブルの原因や責任の問題について聞きたいんですが、ちょっと時間がありませんので、今度は新手のバブルだと思うんですが、今の国債価格が、十年物の金利で一%切ってしまうような非常に低金利になっていますね。これ、国債のバブルというふうにとらえていいのかどうか。  これは総裁、あるいは財政を担当されておられた武藤さんも是非御見解があれば、一致しているんだったらまた、一致したことしかもう言いようがないのかもしれませんけれども、是非その点お聞きしたいと思います。
  138. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) 確かに、長期金利はこのところ一%を切るといいますか、もう〇・六%台というような状況で推移しております。これはどうしてこういうことになっているのかということになれば、まず基本的には金融機関の資金余剰という状況と、市場の景気の先行きに対する不透明感というんでしょうか、そういうものが反映されているということだろうと思います。  ただ、今バブルという言葉でこれを表現するのがいいかどうかは、私はちょっと必ずしも適切な言葉ではないんじゃないかなというふうに思います。土地や株のように償還期限のないものはバブルということは考えられるのでございますけれども、国債のように償還期限があるものは一定期間が来れば値段が決まっているわけでございますので、厳密な意味でバブルというのは適切な表現ではないのではないかというふうに私は思います。  いずれにいたしましても、御指摘のように、やがてこれが金利が上昇するというような、景気が回復して金利が上昇するというような局面になったときに価格の下落という問題が起こるではないかということについては、それはそのとおりでございまして、十分にこれをウオッチしていく必要があるだろうというふうに思っております。
  139. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 今ちょっと何か私聞いていてあれと思ったのは、土地だとか証券は別にして国債の場合は、いや、いつかは返さなきゃいかぬ、償還期限があるんだと。いや、それはあったとしても、今十年物が〇・六%ですか。そうすると、これが一・六になり、二・六になり長期金利が上がっていくと、実際上これは、価格は下落しますよね、今おっしゃられたように。そうしたらこれは、ああ、高かったけれどもあれは非常にバブルだったんだなというふうに思えるんじゃないのか。多くの、最近、エコノミストの人たちはみんなこれはバブルになっているよと、こうおっしゃっているので、ちょっと今の副総裁の発言というのは余り理解できないんですが。  そこで、ちょっとお尋ねするんですが、インフレターゲットという話が先ほどありました。恐らくいろんな人たちもそういう話、これから出てくるだろうと思うんですが、長期金利が上昇し始めた際に、今お話のあった国債価格の下落のリスクに対して、ある人はこう言っているんですね。国債にプットオプションを付けて額面価格で政府がいつでも買い取る。あるいは、物価インデックス国債といういつでも交換可能とするオプションを付ける。こういうことで、ある意味ではこの下落リスクに対応できるんだという意見があるんですが、武藤副総裁、ずっとこれまで発行し続けた側から、今はどういうふうにお考えになっていますか。
  140. 武藤敏郎

    参考人(武藤敏郎君) もちろん、この国債価格が、これだけ国債発行残高が増大した上に金融機関が大量に保有しているという状況の下で、価格の変動リスクというのが大変重大なことであるというのはそのとおりでございます。私どももそれは十分に認識しておるわけでございます。  今御指摘の物価連動債とかいういろんなお話あるのかもしれませんけれども、私の理解では確かに今度は物価連動の国債を今年度から財務省は発行することになったというふうに思います。いろんな国債管理政策上の観点から、保有構造の多様化とか、そういうことも議論になっておりまして、そういう一連の国債の管理政策の中でそういう物価連動債ということが課題になり、それが量的にはまだわずかなものでございますけれども、今年度から具体化するということでございます。  ただ、更にそこから踏み込んで、今のような物価連動債に乗り換えるようなことについては、ちょっと今私の立場からは、そういうことに対して直接的に発言を申し上げるというのはちょっとそういう立場にありませんので、恐らく財政当局、国債発行当局においていろんな議論が行われるのではないかと、行われるとすればそういう当局において検討されるのではないかというふうに思っております。
  141. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 これは実はもう一人の副総裁の方がおっしゃっていることなんですよね。実は、これで本当にじゃリスクが、いや、それは国債保有者が例えば物価連動国債に振り替えてもらったと、その振り替えてもらった本人はリスクがなくなったかもしらぬけれども、受け取った、じゃこれは例えば国なら国がもし受け取ったら、これは当然そのリスクをかぶっちゃうわけですね。ということは、リスクを分散をするというか薄めていくということは作用はもちろんあるだろうと思うんですが、リスクそのものはなくならないわけですよ、これだけのね。その意味でいうと、やはり長期金利が上昇し始めたときの国債下落リスクの危険性というのは非常に高いというふうに私はやはり言わざるを得ないと思っているんですよね。  そうすると、これは日銀、今度は総裁の方にお聞きするんですが、いわゆる国債買入れの上限、つまりここまでは限度、もうこれ以上は買えませんよというのが、今まではたしか貨幣の発行残高、紙幣の流通残高ですよと、これは原則は守られるんでしょうか。
  142. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) ただいままでのところは、銀行券の発行残高を上限として長期国債の買入れをしていくというふうな方針を保ってきております。これは、日本銀行が長期国債の買いオペレーションをいたしましてもこれは直接国に対するファイナンスではない、財政ファイナンスを目的としたものではないということを明確にするための一つの工夫だということでございますし、現実の運営を見ておりますと、この歯止めの中で日本銀行が国債を買い続けている、大量に買い続けているけれどもこの枠内で買い続けているということで、マーケットの中では国債に対する信認維持にもこれが副次的に役立っているというふうに考えています。  そういう意味で、この歯止めというのは余り安易に撤廃すべきではないというふうに考えております。
  143. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 余り安易にとおっしゃったんですが、この間ずっと政府が発行する国債、もちろん新発債も借換債ももちろんあるわけですけれども、そのいわゆる国債を発行したものは事実上もう次々と日銀が買い入れていくと、実際上その財政法第四条のある意味では尻抜け的になっちゃって、これはもうある意味ではキャッシュディスペンサーになって、実質上、先ほど言ったいわゆる日銀の直接引受けと、これに変わらないものになってしまう危険性があるので、今の考え方は相当やはり厳格に対応していただく必要があるのかなというふうに思っておりますので、その点は指摘しておきたいと思いますが。  そこで、今の国債買入れのいわゆるオペに対する政策で、総裁はこういうふうにおっしゃっているんですね。今後とも長期的にはイールドカーブはなるべく中立的にオペをしたいと、こうおっしゃっている。これ、中立的とおっしゃっている意味がどういう意味なのかなというのを、ちょっともし分かれば教えていただきたいと思います。
  144. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 中立的という言葉をどういう場面で使ったかなんでございますけれども、御承知のとおり、日本銀行は、普通の金利が全部ワークしているときには、短期の金融市場の金利をコントロールすることによって金融調節の効果を及ぼしていく。逆に言いますと、長い金利についてはマーケットの中で自然に形成されることにゆだねると、その方が市場参加者が現在及び将来の経済を見通しながら適切な資金配分を金利機能を通じて実現していくことができると、こういう考え方に基づいているものでございます。  現在は量的緩和がかなり極端な姿で進められておりますので、金利の一番短いところはほぼゼロということでございます。なおかつその上に多量の流動性を供給し続けておりますので、金利を押し下げる力が非常に短い金利からだんだんとより長い金利に及んできていて、したがってイールドカーブがだんだん横に出てきていると、こういう状況でございます。  しかし、そういう状況にあっても、より長い金利のところで資源再配分機能を市場の中できちんと担って活動しておられる方がたくさんいらっしゃるわけでして、そういう意味では金利機能が全面的に死んでいるわけではない。この金利機能はやはり生かしながら、しかし量的緩和の効果も浸透していきたいという大変欲張った目標を持っているわけでございまして、先ほど委員が国債バブルじゃないかというお言葉でお尋ねになったこととかなり重なってお答えをすることになるわけでございますけれども、我々としては量的な緩和は十分進めたいと。しかし、イールドカーブを市場参加者の将来の経済の見通しから懸け離れて余りゆがみのある姿に持っていきたくない。この二律背反の気持ちの中で日々のオペレーションを市場の感覚を探りながら、したがって長期の債券、短期の債券織り交ぜて、これを道具として使いながら慎重に市場運営をしていると、こういうふうなことを申し上げたつもりでございます。
  145. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 そうすると、ちょっと私が誤解しているのかもしれませんが、インフレターゲットという政策は取ってはいけないんじゃないかと。取ってはいけないというのは変な言い方なんですが、そうすると、いわゆる期待インフレ率を上げていくと、当然それ長期金利に反映してまいりますね。そうすると、長期金利が上がることに伴って、当然先ほどの国債の価格が暴落する危険性がある。そうすると、財政当局からすればこれは取ってほしくない。一方で、しかしそうはいってもデフレから脱却するためにはそのいわゆるインフレ期待が起きる、インフレ期待が起きれば長期金利の上昇というものがそれは自然に起きてくる、この二律背反に追い込まれるんじゃないんですか。矛盾を起こすんじゃないですか。
  146. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) おっしゃいましたとおり、イールドカーブがいずれ立ってくる、つまり期待インフレ率がいずれ上がってくるということ自身は避けられない。避けられないどころか、経済が立ち上がりを始める、つまりいい方向に経済が動き始めてイールドカーブが立ってくるということはむしろ我々の期待するところなんでございますけれども、冒頭に申し上げましたとおり、単純にインフレターゲットを設けて、経済実態が十分付いてこない、お金も十分必要なところに行き渡る前に期待インフレ率だけ高めますと、おっしゃるような弊害の面だけが表に出てくると、こういうことを私どもは本当は心配しているということでございます。
  147. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 そうすると、世の中でインフレターゲット論、先ほど中島委員もおっしゃいましたけれども、これ予想インフレ率を高めようという政策だとおっしゃっているんですよね。そういう考え方には立脚しないと、こういうことでしょうか。
  148. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 実態が整う前に期待インフレ率だけを刺激する政策は非常に危険な要素が秘められているというふうに考えております。
  149. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 実に微妙なところだろうというふうに思いますが、本当はいろいろ株の買入れの問題とかたくさんあるんですが、一つだけ最後にお聞きしたいと思うんですが、総裁に。  銀行の不良債権処理の問題なんですが、不良債権の処理の問題です。どうもさいの河原の石積みで、毎年毎年こう積み上げていくんだけれども、次々また増えてくるような感じなんですけれども総裁自身は、金融界からはデフレ脱却なくして不良債権は処理できないと。一方で、不良債権の処理をしなきゃやはりデフレも解決できませんよと。先ほどのお金が企業に回っていかないという要因の大きな原因は、やはり銀行が、与信機能を持たなきゃいかぬ銀行が、不良債権を抱えてとてもそういう能力なくなっちゃっていると。過少資本の性格も弱いということなんですが、総裁自身はその点はどういう道筋でこの不良債権問題の処理を考えておられるのか、その点をお伺いして私の質問を終わりたいと思います。
  150. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) これはなかなか、デフレ脱却が先か不良債権問題の処理が先かと、この議論が延々と続いていて、日本銀行としてもこの問題は本当に頭が痛いと思っています。と申しますのは、いずれが先でもない、やはりこれは同時解決でなければ真に解決の道に通じないからでございます。  私どもは、民間部門において、企業においては過去の過剰債務の処理、つまり過剰設備の処理、金融機関においてはやはり不良債権の処理の努力が、やはり大変きついけれども引き続き続けられているということを前提に、金融政策の面でデフレ脱却の道筋を早く付けたいというふうに努力をしているということでありまして、このお互いの努力が息が合って、やっぱりある時期からいい成果を生み出せるようにということをひたすら願いながら、この一筋道しかないと、つまり同時脱却しか道はないというふうに信じて行動しているということでございます。
  151. 峰崎直樹

    峰崎直樹君 ありがとうございました。  終わります。
  152. 浜田卓二郎

    浜田卓二郎君 福井総裁、それから武藤副総裁、御就任を心から歓迎をしたいと思います。と同時に、大変なときへの登板でありまして、言わば火中のクリを拾うような、そういうお立場だと思いますが、頑張っていただきたいと思います。  武藤副総裁は──ちょっと待ってね、もう帰っていいんですけれども、その前に一言だけ申し上げておきますと、私、この委員会でいろいろ言いたい放題言わせていただきましたけれども、結論としていえば、今の小泉内閣経済政策財政政策、そして金融行政というものを余り信用しておりません。注文を付けてもなかなか言うとおりになさらないという、大変そういう不安と危惧を持っているわけでありまして、どうかひとつ、エース登板だとお二人についてはそう思っておりますので、従来の日銀の枠にとらわれずに、内閣にも政府にもきちんと注文を付けて、いい今の日本に必要な政策展開をひとつ一体になって進めるという意気込みで頑張っていただきたいということをまず申し上げたいと思います。  どうぞ副総裁、お帰りください。  総裁にお伺いをしていきますけれども、デフレ対策、私、デフレ対策だけが独立して存在するとは思わないわけでありまして、景気対策といいますか、経済活性化策とデフレへの取組というのは、今、総裁の最後の御答弁でおっしゃっておられたように、同時並行的に進められなければならないというふうに思っております。  その中で、私は、速水総裁は、前総裁は、日銀の金融政策、かなり思い切ったところまで積極的に展開をしてこられたということで評価をさせていただいてまいりました。しかし、新総裁からごらんになって、今の政府経済政策、そして金融庁を中心とする金融行政、これについてもっと、何といいますか、現下の状況に必要な積極的な、あるいはまた実態に応じた政策の展開が必要だというふうにお考えではないかと拝察をしているわけでありますけれども、こういう状況の中で、金融政策として日銀が果たすべき役割と、政府内閣が果たすべき役割についてのお考えを聞かせていただきたいと思います。
  153. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) かつて世界経済の中で非常に成功を収めた日本経済とそれからドイツの経済が今大変難しい状況に陥って、なかなか将来への経路を今のところうまく見いだし得ていないというふうな状況になってきていると思いますけれども、一方、アメリカ経済の方は、七〇年代、八〇年代はドイツ、日本にかなり負けていた。ところが、その後元気になったと。ITバブル崩壊とかいろんなことで今少しまた問題含みになっていますけれども、とにかく九〇年代以降は、ドイツ、日本よりもアメリカ経済の方が優位に立っているというふうな判定が一つできているような状況でございますが、その間何があったかといいますと、やはり経済のグローバル化とか情報通信革命の進展とか、エマージングマーケットというか、エマージング諸国の経済の台頭とか、それ以前にはなかった新しい条件が出てきた。  アメリカ経済についてグリーンスパン議長がいつも言っておられますのは、アメリカの強みというのは、結局のところ、経済の方も金融の方も非常にフレキシビリティーに富んだシステムになっているんだと。つまり、環境変化があったときに比較的新しい環境に即応しやすい構造になっている、それが強みだと。ところが、ドイツ、日本というのは、そういう仕組みがかなり硬構造にできていて、柔軟に新しい局面に対応できない。かつてはそれが長所だったけれども、今のような大きな局面変化のときには少しこれがお荷物になっているねと、こういうふうな話をしょっちゅうしておられます。  私は、やっぱりこの話は比較的よく当たっているというふうに思っておりまして、日本も今大事なことは、結構新しい仕事を担っていこうという人々がこの世の中、日本にはさすがにたくさんいらっしゃるんですけれども、そういう方向に資源がスムーズにまだシフトしにくい状況を抱え続けているというふうに思っています。したがって、資源の移動を早く促すというところにすべての政策の焦点を当てて、政策体系をもう少しきちんと整備するということが一番大事なポイントじゃないかと。  財政にいたしましても、やはり歳出構造の見直しということは議論としては非常に盛んに行われていますし、現に、新年度の予算の中身なんかを見ますと、そういう方向で努力が以前に比べれば相当払われてきていると思いますけれども、やっぱりもっとこの方向性を明確にしていくような努力が今後要るだろうというふうに思いますし、規制緩和撤廃というふうなことも、やはり資源を新しい方向に移すということに明確に通ずるというふうに思いますし、今おっしゃいました不良債権問題の処理にいたしましても、やっぱりこれは余り長い時間を掛けないで、そしてかつ金融機関経営の自主性が早く取り戻せるような方向で、何と申しましょうか、処理の時間的スピードというものをもう少し考えて対処していくというふうなことがあった方がいいんではないかと。そういたしますと、私どもが供給いたしますお金も、おのずと将来性のある部門を担う方々に使っていただけるようにお金の流れ方がそちらに行くと。  私どもも、金融政策手段、調節手段というものを次から次へと新しいものを見いだしていきたいと思っているんですけれども、机の上で勝手に考えるよりも、実際にお金が自然に流れる方向というのが現実に見えれば、より良くそういった設計作業はやりやすくなると、そういうふうに考えています。
  154. 浜田卓二郎

    浜田卓二郎君 例えば財政の立場からは、財政は財源不足で手足を縛られておって、特に小泉さんは守れもしない三十兆というような枠にこだわり過ぎて、結局機動性のない対応に終始してきた。我々はここでいろいろ責め立ててきましたから、デフレ阻止までは言い始めて、今回の予算、税制も含めてデフレ阻止という政策目標は掲げてはいるわけですけれども、結局は小出しに終わっているわけでありまして、いわゆる呼び水といいますか、ポンププライミングポリシーと言いますけれども、あるいは刺激策、スティミュレーティングポリシーといいますか、そういう頭を切り替える、もう少し積極的に消費に向かうようなマインドに切り替えさせていくというようなインパクトを与えるほどの財政政策というのが取られていない。結局、小出し小出しにしていけば、それはもう、やった方がましだというぐらいの話で、決して政策としての有効性、先ほど中島さんがアナウンスメントエフェクトと言われましたけれども政策にはそういう要素が大きいわけですから、そういう面で非常に私は不足を感ずるんですね。  実は、速水前総裁もこの席でそこに対するいら立ちをよくおっしゃっておられたというふうに私は受け止めてまいりましたけれども、まずこの点について新総裁のお考えを承りたいのと、もう一つあわせて、今不良債権処理に触れられましたけれども、不良債権、いわゆる資金の流れをより生産性の高いところに向けていくという意味の不良債権処理は急がなければなりません。しかし、バブル崩壊後、九十兆あるいはそれ以上の不良債権の処理というのが現実に進められてきたわけでありますし、それの積み残し分の不良債権処理というのは、これは急がなければいけない。しかし同時に、またこの不況やデフレによって新規に発生している不良債権処理、これはまた違った取組も私は必要だと思うんですね。それは、最近よく分かったような分からぬようなリレーション何とか、リレーション何とかバンキングとか、英語で言うともっともらしく聞こえるから、私は一体何のことかよく分からないわけですけれども、そういう形で少しずつ修正されようとはしていると思うんですよ。  でも、私が恐れているのは、またここで指摘し続けてきているのは、そういう本来の資金の流れを効率化していくための、より生産性の高い分野へ資金をシフトさせていくための不良債権処理と、間接金融を中心に、つまり銀行を中心にしてきて成立してきた企業経営を理不尽に脅かすような形での不良債権の定義とか、あるいはその定義に基づく機械的処理とかいうのが一緒くたに行われている。だから、言葉は汚いですけれども、みそもくそも一緒にするなということを竹中さんには私は申し上げておりまして、その結果、総裁、何が起きているかといいますと、もう確実に貸しはがしとか貸し渋りが起きているわけですよ。  特に貸しはがしというのが問題でありまして、これは間接金融で、しかもコマーシャルバンクといいますか短期金融が中心になっていますから、切替え時期があるわけですね。でも、それをほとんど自動的に切り替えながら、つまりこの短期の金融日本では投資の代わりをして企業経営が成り立ってきた。それを不良債権処理の大命題の下に突然それを更新をストップされたら、本来生きていけるべき企業も生きていけない、そういう現象が起き始めているわけです。  それが同時に、マクロ的に言えば、日銀と金融機関の間の資金はじゃぼじゃぼであっても、それは国債の購入に向かう。まあ国債を買ってもらえば国の財政が成り立つからしめたものだといえばそれだけですけれども、結局、一生懸命じゃぼじゃぼにしても、その先の金融が続いていかない。だから、おっしゃる本来の、後でインフレターゲティング政策についてもちょっと伺いますけれども、本来、そういうことがねらいにするべき資金供給というものになっていないという現状が実はこの金融行政の中で起きている。それが、竹中金融行政では更に私に言わせれば加速されていると言わざるを得ないんで、そういう論旨をここでは何度も展開をしてきているんですけれども。  今申し上げました、財政の役割が余りにも小出しで本来の活性化策になっていないという点と、それから金融行政の現状が、せっかく日銀がやろうとしているこのマクロ的な金融政策を阻害しているんではないか、この二点についてのお考えを承りたいと思います。
  155. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 財政につきましては、めり張りの利く財政政策という場合に、従来の考え方からいきますと、かなり難しい問題はらんでいることは事実だと思います。  既に国の借金残高が非常に大きくなって、公的部門というとらえ方をいたしますと、公的部門の借金がGDPの一四〇%、それを超えていくという状況ですので、これを日本経済の将来につなげて考えますと、やっぱり経済が立ち直っていったときに、日本の長期金利の水準はどうしてもほかの国に比べて高くならざるを得ないと。将来の日本経済のエンジンにとっては大変なエンジンブレーキを今用意しつつあるということですので、したがって、財政政策に当面デフレ脱却のためにめり張りを利かすといった場合に、単純に支出の量を増やすという政策には限界があるということは、これはやはり認めざるを得ないんじゃないか。  しかし、財政政策というのは、本来、国民から国の権力でお金を集めてこれを再配分すると。つまり、国が上手にお金を使ってくれるという信頼の下に国民は税金を納めるわけですので、国の手によるお金の再配分機能という意味では、一定の量の財政資金であっても違ったお金の使い方ができると。  浜田先生指摘のとおり、やっぱり資源を新しい方向に流すというふうな意味で、歳出構造の大幅な見直しを伴いながらの財政政策、その場合には、幾らかやっぱり支出のボリュームの拡大ということも伴っていても、そのわずかな支出の拡大が大きな意味を持つというふうなデザインの仕方ができるんじゃないかと。少なくとも、日本銀行から見ますと、そういう財政政策を強く希望したいと、こう思っています。  それから、不良債権の処理につきましては、一言で言いますと、金融機関の不良債権問題の処理というんですが、私どもの方から言いますと、金融機関のリスクテーク能力の回復を早く実現してくれということでございます。  満身創痍のままではなかなか身動きならないとすれば、根幹の部分についての不良債権問題の処理を早くして、まだ全身を身体検査をすればかなりの傷が残っていても、大抵のプロのスポーツのプレーヤーは満身創痍とまではいかなくても結構けが人が優秀なプレーをしているわけですから、その意気込みで日本金融市場で金融機関が頑張ってくれれば新しいリスクを取ってくれる、したがって金融の面からも資源再配分機能が強まっていくと、この姿を望んでいます。  したがって、今度は産業再生機構というのもできて、ある種のまとまった不良債権についての処理は促進されるだろうと、あの機構がうまく活用されればされるだろうと。ああいった新しい道具も使いながら、金融機関が身動きならなくなっている大きな部分についての手術を早く施して、早くマーケットに戻してほしいと。そうでなければ、我々は中央銀行としてプレーをしていく場合にパートナーがいないということですが、そこを是非お願いしたいと。  先ほどリレーションシップバンキングという新しい概念についてのお尋ねもございましたけれども、これは恐らく、中堅・中小企業に対する金融機関融資というのは、もう昔からずっとそうですけれども、大企業に対する融資とは随分違った角度から見れる部面があるんじゃないかと。大企業に対する融資の場合には、言ってみりゃ世界共通の尺度でこれを評価していかないと、このグローバルなマーケットの中ではおかしな扱いになるということなんですが、中堅・中小企業、特に地方の企業に対しては、大企業に適用するような財務オンリーの見方というだけではなくて、時間軸、将来にわたる時間軸の置き方の長さも違うでしょうし、それから財務指標だけでは見ないで、経営者本人の人物も含めて経営者の力量そのもののウエートを大きく量らなければ本当の企業診断ができないとかいうふうな面も多分あるんだろうと思います。  そういった点も含めて、リレーションシップバンキングという概念の中で新しく銀行の債権というものを見ていく場合に、少なくとも大企業と一律には見ないという新しい切り口をこれから作っていこうということじゃないかと思っていまして、金融庁がどういう対応をされるか私どもは分かりませんが、日本銀行の考査の面では少し工夫を凝らしていきたいと、そういうふうに思っているところなんです。
  156. 浜田卓二郎

    浜田卓二郎君 私は、ちょっと今の最後の、前半の議論はもう大賛成ですから、ひとつそういう観点で政府に対してもきちんと物を申していっていただきたいと思います。  ただ、リレーションバンキングというのは、私分からないのは、結局は金融の行政の中にダブルスタンダードを持ち込むことになっちゃうんだと思うんですね。つまり、大銀行であろうと大企業であろうと、今の総裁のおっしゃったことは事業本位金融という言葉で言ってもいいぐらいのもので、経営者の資質とか先見性とか、あるいはまた事業の将来性とか、そういうもので見ていけということに私は尽きるんだと思うんですよ。中小なるゆえに、あるいはまたこのリスクテークがプライベート、民間銀行ではし切れないというような部分は、もっと私は政策金融の出番であって、今の時代政策金融が生きる道というのはほとんどそこに尽きてしまうんじゃないかというふうに私は思っているんですね。  ですから、今は、今の金融庁の下における銀行の姿を見ていきますと、かつて私も護送船団行政を批判してまいりましたけれども、護送船団を解体したはずなのに護送船団以上の一種の保護行政、恐怖行政が行われておって、その結果、金融機関そのものが萎縮して、そしてリスクテーク機能を放棄している、より放棄している、そういう悪循環になっている気がしてしようがないんですよ。  ですから、私は、このリレーションシップバンキングとか妙な言葉なぞ使わないで、やっぱり金融機関の自主判断を重視する、そして金融機関の事業審査能力を高める、その代わり自己責任の原則をもっと強くしてペナルティーを科するところは科する、それが護送船団を解体するときのこれからの金融行政の私どもが期待していた姿であったはずでありまして、どうも今の状況はそうなっていない。今過渡的な状況だといいながら既にもう長い時間が経過しているわけですから、私はそういう観点から、金融の、日銀の所掌分野はここだけだということだけでなくて、今日本の、間接金融で進んできた国の金融全体がどういう状況に陥っているかというのをよく見極めて、積極的な発言なり指導力の発揮なりをひとつ私は日銀にも期待したいというふうに思うんですね。これは御答弁は要りません。  最後に、全く同じ質問を私は速水前総裁には申し上げたんですけれども、量的緩和の目指すものは何かということなんですね。  峰崎委員がいみじくも言われて、国債の金利上昇に絡めて言えばそれはやらぬ方がいいという結論を、これは質問のための言い方だろうというふうに思いますけれども、私は、日銀は量的緩和まで踏み込んだということは、やっぱり量的緩和を通じて物価水準を適正な規模に戻していくことが可能だと、またそういう政策目標で出発されたと思うんですね。ですから、それは大いに結構だというふうに思って、そう申し上げてまいりました。  それと同時に、あの決定は既に実質的にはインフレターゲット政策にも踏み込んでいますよということを申し上げてきたんですよ。というのは、物価水準を安定的にゼロないしプラスにいたします、そこまでは超緩慢に金融の量的調整をやっていきますとおっしゃっているわけですね。ですから、それとインフレターゲット政策とどこが違うんですかということなんですね。  ちょっと同じ質問で議事録が重複すると思うんですが、ゼロないし安定的にプラスというのは、総裁、どのぐらいの物価水準を考えていらっしゃるんですか。
  157. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 要するに、安定的にプラスということでございますから、ゼロ以上と言うしか今のところはお答えしようがございません。つまり、はっきり上限を設けていないという意味では、何%から何%ということは申し上げておりませんので、少なくとも早くマイナスの物価変化率を脱却したいと。しかしそれも、一時的にプラスになってもまたすぐ下に落っこちてくるようでは安定的とは言えないと、そういう話だと思います。
  158. 浜田卓二郎

    浜田卓二郎君 じゃ、もっと具体的に伺いますと、じゃ六、七%まで物価上昇はいいと思っていらっしゃいますか。
  159. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 今のところ、そういう定義をしていません。したがいまして、そこのところがもしかしたら日本銀行のコミットメントが明確でないというふうに理解されている部分ではないかというふうに思っています。
  160. 浜田卓二郎

    浜田卓二郎君 ですから先ほど中島委員はアナウンスメントエフェクトとおっしゃったんだと思うんですよ。あいまいなんですよね。でも、私思いますよ、総裁の頭に、まあ六、七%と穏やかに言いましたけれども、じゃ七、八%はどうですか、一〇%以上はどうですか。それは入っていらっしゃらないはずですよ。ですから、我々の常識としてあるのは二%か三%ですよ。  去年の暮れの質疑の中で、私は、前財務官の黒田君のフィナンシャル・タイムズに連載した、じゃなくて発表した論文を引用して質問をさせていただいたんですけれども、彼は三%と言っていますよね。ですから、だれが考えても七、八%じゃあるまい、二、三%でしょうと。ですから、七、八%になったら今度は大騒ぎして物価を抑えようとされるわけでしょう。だから、今はゼロないし安定的にプラスとおっしゃっているんだから、せっかくなら、同じ言っているんなら三%とおっしゃったらいいじゃないですか。それを、二%か三%、大いに議論していただいて結構だと思うんですよ。だけれども、それを明確に言われることが、さっき財政について総裁も御同意いただいたと思うんですけれども、やっぱり政策というのは、誘導する、あるいはインパクトを与えるというところに要諦があるんじゃないですか。経済のすべてを日銀や政府が仕切れるなんて思ったらとんでもない間違いでありまして、ちょこっと何かをやる、それが効果的に、心理的な影響も含めてインパクトを与えていくということでしょう。  ですから私は、二%か三%、御議論になったらいかがかと思うんですけれども、どうでしょうか。
  161. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 物価安定について、日本銀行だけが飛び離れて変な数字を頭に置いているということは確かにおっしゃるとおりございません。と申しますのは、日本銀行が求めていくところは国民の皆様方がすべてが求めておられる一番理想的な姿を求めていくわけですので、最終的にその数字にそごがありようがないというふうに私は思っております。ただ、日本銀行としては、そういう数字を堂々と掲げてこれを必ず達成しますというお約束ができる状況の前提条件をもう少し整えたいと。大変つらいんですけれども、ここのところで大変今苦戦をしていまして、しかしこれは是非やり遂げたいと、こういう段階なんでございます。
  162. 浜田卓二郎

    浜田卓二郎君 もう一つは期限なんですね、一年で達成しますとか二年で達成しますとか。だから、それは決断ですよ。それは政策ですよ。ですから私は前段であえて、政府にも注文をお付けくださいと、財政もやるべきことをやりなさいと。それから、金融行政も、銀行が自主的にリスクテークをやって、そして自主的に貸出しをきちんとやれる、必要な流動性を供給できる、そういう体制を作るために、これ一体にならなきゃ駄目ですよ。だから、政府にも注文を付ける、そして政府の中の金融行政にもきちんと注文をお付けになって、その上で、ここまで踏み込まれたんだから、私は、日銀がもう一歩踏み込まれて、期限を決めて、そして目標率を定められたらいいと思うんです。それ失敗したから総裁辞めろという議論にはなりませんよ。それは政策目標ですから、そんなことを言ったらもう大蔵大臣経済企画庁長官もしょっちゅう辞めてなきゃならないわけですから。  今、しかし私は、財政の問題、私はもう今増税すべきだということを言っております。景気が悪いから増税できないというのは言い訳です。行政改革を先にやるから増税をしませんというのも言い訳です。増税論が嫌だからしていないだけであって、私は、行政改革も景気対策も増税も、これは並行して工夫して組み合わせていく方法はあると思うんですね。やっぱり国の財政が破綻している、国債がこれだけ毎年発行されていいはずがない、みんな心の底でそう思っていますよ。それが将来に対する不安につながるから、消費抑制にも心理的にはつながってくるわけですから、そこを一体として解いていかなきゃいけないと思うんですね。  ですから、私は、どうかひとつ、日銀がよくやってこられたということを認めた上で、ここまで踏み込まれたんだからもう一歩踏み込まれて、そして踏み込むことを前提に、もっと内閣に、そして政府各部署にきちんとした歩調の政策を取らせるように日銀から発信をしておやりになっていただきたい。それが我々、日銀総裁が新しく、しかもエース登場だということを考える際の最も期待している点であります。そのことについて御答弁をお願いをして、私の質問を終わります。
  163. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 私どもも、その最終的な目標ということを明確にできなければ、本当に透明性が一〇〇%達成できるというふうには思っておりません。その点はお言葉のとおりでございますが、最終目標とそれを達成していく道筋、この両方が整わなければ中央銀行の信認がやっぱり得られないということもまた事実でございます。ここのところで今大変悩んでいるということを取りあえず申し上げさせていただきたいと思います。
  164. 浜田卓二郎

    浜田卓二郎君 じゃ、終わります。
  165. 大門実紀史

    大門実紀史君 日本共産党の大門です。  福井総裁に初めて質問いたしますが、じっくりお考えを聞きたいと思いますけれども、今、日銀はここまで踏み込んだんだからもう一歩というお話ありましたが、私は、むしろ戻ってもらいたい、このまま行くと日銀はどこへ行ってしまうのかと。はっきり言ってもう、まともな日銀に早く立ち直ってもらいたいという立場で幾つかお聞きしたいというふうに思います。  まず、ちょっと原理的といいますか、素朴な質問なんですが、量的緩和と金利との関係なんですが、七九年に米国で量的ターゲットをやりましたけれども、それを話しすると長くなりますので、申し上げたいことの結論は、一定の金利が、ゼロじゃなくて一定の数値が、金利の水準があるときに量を調節すれば何らかの市場効果が出るというふうに、私はこう理解しているといいますか、だから実体経済にとっては、はっきり言って、金利がすべてとは言いませんけれども、金利があってこそ量が付いてくると、通常ですね、出てくる。ところが、今、日本はほぼゼロですから、このときに量をこういろいろいじっても、私は、金融政策としてそもそも限界があるというか、効果が出るのか出ないかということさえ原理的になかなか見通せないものがあると思うんですけれども。  何かその辺、そもそも最初の出発点が何か間違った方向に来ているような気がするんですが、金利がゼロの状況で量だけ動かして何か出るのか、効果が出るというのは何か確証があるのかどうか、ちょっと原理的な話ですけれども
  166. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 今、委員お尋ねの、アメリカが一九七九年、ボルカー総裁のときに、金融政策のターゲットを金利ターゲットから量的ターゲットに変えたことがございます。当時は、アメリカのインフレ抑制のために、裁量的に金利水準を引き上げていってもなかなかインフレが抑制できない、つまり人間が頭で判断してインフレを抑えるためにこれが適正な判断だと思ってもなかなか手が届かないというときに、ターゲットを切り替えて量にしたんです。量を一定のものを与えて、あとは金利はマーケットの中で自由に形成させたわけです。そうしましたら、金利はインフレを抑制な水準にまで駆け上がったわけですね。つまり、人間の頭でなくてマーケットがそのとき必要な金利水準を発見したと。これがアメリカの量的ターゲティング金融政策です。  今、同じ言葉で量的ターゲティングの金融政策日本銀行の場合言われておりますけれども、アメリカの場合と違いまして、当時は金利が生きていた、今は、金利が死んでいるというのは言葉は悪いんですけれども、ゼロに、ほぼゼロに張り付いていて、金利機能が十分発揮できないと。したがって、同じ量的ターゲティングといっても、アメリカのやったやり方と日本の場合とは違うということでございます。向こうはインフレ抑制、こちらはデフレ脱却ということで、方向が違うということはありますが、それとは別に金利が使えないと。したがって、量を固定して金利を動かすというのではなくて、量的ターゲティングといいながら、量を変えながら、つまり増やしながらこれで緩和効果を浸透させようと、こういうことでございます。  この考え方は、必ずしも過去の、どこかの中央銀行で経験値があって、こういう原理の下でこういうふうにうまくいきますという過去の遺産はないわけでございまして、そういう意味では、新しい領域を日本銀行はチャレンジしているということでございますが、一応の筋書としては、金融市場に流動性をたくさん供給いたしますと、そのお金の持ち手がやっぱり単純な流動性のままたくさん持たないで、いろんな形でこの資産の持ち方を変えるだろうと。つまり、資産の持ち方を置き換える、ハイカラに言う人はポートフォリオ・リバランシング効果と、こう言うんですが、お金の持ち方を変えることによって経済に対して間接的に刺激効果が及んでいくんではないかと、こういう理屈に立っているわけです。  しかし実際には、これまでのところ、このお金が十分そういうふうに経済の隅々まで行き渡らなかったと。狭い意味の金融市場の中で言わば空回りしている部分が非常に多いということなので、もうちょっとこのお金を末端にまで運んでいくための追加的な工夫が要るんじゃないかということで、今、新しい工夫に今苦慮していると。ついこの間の、資産を担保とする証券の流動化、その中で日本銀行が新しいオペレーションを行っていこうという考え方は、その一つの工夫として出てきたものでございまして、これはまず、せっかく出てきた工夫ですから是非実現して相応の効果を出していきたいと思っておりますが、まあどんなものがほかに工夫ができましょうか、これからももっと工夫をしていきたいというふうに思っています。
  167. 大門実紀史

    大門実紀史君 ありがとうございます。  ただ私は、そのお金の持ち方といいますか、それはもう後で触れますけれども、要するにゆがんだ持ち方になってきていると思うんですね。ですから、先ほどからインフレターゲット論あるいは政府紙幣ですか、もう荒唐無稽な話がどんどん出てきているんですけれども、インフレターゲット論、今もう浜田先生言われたように、私もそう思うんです、そのインフレターゲット論と日銀が進めてきている量的緩和政策というのは何が違うか分からないんですね。ただアナウンスしていないだけなのか、手段の問題なのか、何を日銀が買い取るか、何を買い取るかの問題なのか、それだけの違いのようで、結局、私余り、基本的に、先ほど言いました量と金利の関係とかそういうものでいくと何も変わらないと思うんですが、もし違いがあれば教えてもらえますか。
  168. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 形の上の違いは、恐らく最終的な物価安定の目標というものを、恐らく上限幾ら下限幾らというふうな形で、最終目標を今の日本銀行が、安定的に物価がプラスになるまでというふうな、つまり上限を示さない形でなくて上限も示した形というようなのが一つ。それから、厳格に期限を限るということではないにしても、おおむねどれぐらいの期間でそれを達成するというコミットメント、恐らくこの二つの要素ではないかというふうに思っています。  そういうコミットメントを明確に今、日本銀行がしていないということが違いで、もう一つの違いは、もし仮にそういう上限付きの明確なターゲットを設け、かつ期限も設けた場合に、今度は何が何でもそれを達成する方法があるのかという部分が問題になってまいりまして、日本銀行が確信持てなくとも、何が何でもとにかくそれを達成するために、考えてみれば考えられるありとあらゆることをやってみないかという議論に通じるか通じないかと、この部分がもう一つの相違だと。  我々はやはり、こういうことをやれば確実に、ほぼ確実にこういうことは達成できるという確信を持って、そういう意味では責任の持てるやり方でこれを進めたいと、こう思っているわけですけれども、そこにジャンプがあるかないか、ここのところは明確でないんですが、可能性としてはそこにもう一つの違いがあるということだと思います。
  169. 大門実紀史

    大門実紀史君 総裁衆議院の議論でも、需要の問題もあると、資金需要の低迷の問題もあると。実際、改めて数字申し上げるつもりなかったんですけれども、日銀の当座預金というのは、この三月末でいえば三十四兆、直近の四月十八日現在で二十七兆まで当座預金が増えていると。これは実は、小泉内閣発足のちょっと前からですけれども、要するにこの二年で五倍の水準に、当座預金五倍になっているんですね。この間に大手行の貸出し平均残高というのは三十六兆円も減っていると。もう全然違うギャップが生まれているわけですね。これは総裁もお認めになっているとおり、資金需要がやっぱり減少していることも大きいんだということだと思います。  そうすると、それはちょっと確認の意味で、そういうこと、そういう御認識でよろしいですか。いいですか。  そうしたら、私、申し上げたいのは、インフレターゲット論も量的緩和も、ちょっと、そもそも理屈の履き違えが私はあるような気がしているのは、例えば、一言で言えば、竹中大臣とよく議論をするんですが、どうもサプライサイドに、供給側に偏った、そこばかりを一生懸命考えている政策ではないかと。例えば量的緩和も、供給側ですね、資金の供給する側、銀行、日銀、こればかり考えていて、資金の需要の方が低迷しているのに一方通行でそちらばかり考えていると。  インフレターゲット論者の方々の本、読ましてもらうと、企業側でいきますと、大体共通しているのがデフレで、このデフレで債務が膨らんでいると。もう一つは、デフレですから実質賃金が高まると。つまり利潤が、利潤率が下がっていると。これ、インフレにすれば両方解決するからという、要するに企業の予想利潤率を上げれば投資が促進されるから良くなるんだと、こういう理屈ですよね。これもやっぱり企業サイドから見過ぎだと。  やっぱり今、需要不足のこの景気全体状況を見ないで、銀行側からとか企業側から見ると極端な話が出てきて、この点ではインフレターゲット論も、日銀が進めておられる量的緩和論も余り方向として変わらないと。そこばかり無理しても、私がさっき言った量と金利の関係から言っても、やらないよりはましの何か出るかも分かりませんけれども、一生懸命こんな方向をやってもほとんど効果はないというふうに思うんですよね。やっぱり需要の方をきちっとやらないと、両面必要ですよね。私は需要だけとは言いません、もちろん企業も大事だし、供給も大事ですけれども、そんな一面的に見ないで、両方をやっぱり良くしていくと。  だから私は、何でもかんでも日銀に、何かもう政府の方も、財政支出が限界に来た、もうこれ以上景気対策はできない、だから金融政策だ、だから日銀だと、すべて日銀のせいのようになっていることそのものが非常にゆがんでいると思いますし、ちょっと全体で何か全然違った方向に今行っているんじゃないかなというふうな気がしますが、総裁のちょっと認識を、その辺伺いたいと思います。
  170. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) おっしゃるとおり、経済は、供給の面、需要の面、両方ともやっぱり将来に対するある種の展望を持って人々が行動するという大きなバックグラウンドがなければ、あるいはそういうバックグラウンドを用意しなければ円滑に動かない。金融政策もそういうバックグラウンドの下では非常に有効に作動するということだと思いますけれども日本経済の場合には非常に需要の大きな転換の局面にあって、高度成長時代のように需要を追加すれば供給面がうまくマッチしていくとかいうふうに、需要と供給を別々に考えにくい局面にまで既に達したのではないかと。  つまり、いろんな要素がありますけれども、一番典型的なのは、経済が余りにも成熟化して、通常の物とかサービスは日本人たちはもう余り食欲がわかなくなっていて、やっぱり需要と供給の問題が同時に解決できるような新しい動きがなければ、結局需要も出てこない。例えば、携帯電話でも写メールというふうな新しいものを供給すれば需要も一緒に付いてくる。あるいは、最近だとデジタルカメラというふうに、始めから需要サイドにそんな希望があったわけじゃないけれども、供給の方でそういう潜在的需要を探り当てて提供していけば、やっぱりこれが顕在的需要となって出てくるというふうに、需要と供給両面から新しいものを開発しながら経済を発展していくという段階に変わってきているということだと思います。  したがいまして、金融政策の方は専らサプライサイドまで行っているじゃないかと、こういうことなんでございますけれども、しかし、そのお金の伝達の仕方に工夫を凝らすと、こういうふうに申し上げました意味は、そういう新しい創造活動をする企業の手元にお金を届ければ、需要と供給が同時開発される可能性があると。それは大企業中小企業を問わないので、日本中小企業の場合にも結構新しい仕事をこれからどんどんなさっていかれる企業があるわけで、そういう企業については、多くの人が見る目として、銀行もお金を貸し出すけれども、やはりある時間的距離を置けばマーケットからもお金が調達できる人であるかもしれないというふうに見始める、そういう企業もこれからやっぱり増えていくんじゃないかというふうに思っていまして、そういうふうに将来性のあるところに早くお金を届けたい。これは需要と供給の両面の問題解決を同時セットする方向に恐らくつながるんではないかというふうに考えているわけでございます。
  171. 大門実紀史

    大門実紀史君 需要をどう起こすかというところはちょっと総裁考え方違うんですが、いずれにせよ、今ずっと与党の方々の一部ですかね、一部かどうか分かりませんが、あるいはちょっとヒステリックな学者の方々がインフレターゲット、ターゲットと言うのをもし進めていきますと、本当にそのとおりどんどんどんどん土地から何から全部買っていきますと、それはもういずれ物価は上がると思いますよ。だけれども、さっき言った需要がこういう状況の中でもしそんなことをやったら、本当にもうスタグフレーションというか、全然違う話になってしまって、これはもう結局大変なことになってしまうというふうに私は思うんですよね。  それともう一つは、さっき言ったサプライサイドからやっぱり総裁考えておられるのかと思うのは、さっき言われましたね、波及メカニズムがはっきりしないし、詰まっているから、それをもうちょっと磨きたいんだと。磨いたらそういう道もある。やれば効果が出るかも分からないと。  私は、幾ら磨いても磨きようがないと思うんですよ。一方通行のところで幾らその道だけ磨いても、その先が、需要がなかったら、受け手がなかったら、例えば中小企業の売り掛け債権の担保証券ですか、あれも大体正常先だと言われているし、売り掛け債権だって、優良企業の、中小企業でも優良企業の売り掛け債権になると思うんですよね、今の枠組みでいくと、リスクの少ないところでいくと。そんなところはあんなもの使いませんよ。ほとんどあれ、私は使われないと思っていますけれども。  だから、幾ら波及メカニズムといいますか、一方通行の道を磨いても、あるいは、その道はもう詰まっているからといってヘリコプターからその先にお金を投げても、受け手が今そういう状況じゃないというふうに思うんですよね。やっぱり波及メカニズム云々じゃなくて、今の量的緩和の方向そのものにやっぱり私は無理があるというふうに思うんですが、どうでしょうかね。
  172. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 売り掛け債権のところにつきましては、優良な債権だけを我々は対象にするのか。  少し厳密に申し上げますと、例えば中小企業が相手先企業に物を売ってまだお金を受け取っていない。この物を売ってお金を受け取っていない企業は信用度が仮に低いといたします。つまり、おっしゃるような優良先でないと。しかし、物を売って、まだお金を払っていない人が優良先、これは結構あるわけですね。つまり、信用度の低い企業が信用度の高い企業にたくさん物を売って、まだしかしお金を受け取っていないと。これは私どものフレームワークでは、お金をこれから払わなきゃいけない人たちが信用力のある人ですから、きちんと対象になってくるわけです。  つまり、売り掛け債権をこのまま今までの流儀でファイナンスを受けようと思うと、あなたは信用度が低いからと金が借りられない人ですけれども、新しいフレームワークでは払い手が信用度があるんだから、これはフレームワークに乗せましょうという話なので、やはり従来とはちょっと違った側面を出しています。  新しい事業をこれからやっていく人で、当初は信用がそんなに十分確立していなくても、ファイナンスを付けていきたいという我々の希望の一端はこの中からすくっていけるんじゃないかと、そういう大変地道なところから考え始めておりまして、優良先だけ相手にするという、そういう単純な話ではございません。
  173. 大門実紀史

    大門実紀史君 今日はその議論をするつもりはなかったんですが、こういうことだと思うんですよ。  例えば、トヨタの下請、松下の下請、これは相手先は優良企業ですから、売り掛け債権も優良だと。これは当然対象になるかも分かりません、その企業そのものは小さな町工場であっても。ところが、そういう企業はわざわざ、松下からお金をもらえるのがはっきりしているのに、間違いないお金なのに、それをわざわざ証券化するということは余り考えられませんよという意味で、実体経済の中で私は余り使われないんじゃないかと。日銀がもちろん中小企業のことを考えていただくのは非常に結構なんですけれども、そういう意味で申し上げているわけです。  先ほど、資金がどこに使われるか、どこに動いているかというところの話に移りたいと思うんですけれども、私は、先ほど冒頭に言いました、心配しておりますのは、日銀が非伝統的手法といいますか、国債、株の買取りまで踏み込んできたと。これがどういう意味を持つかなんですけれども、一言で言いますと、一遍こういうことに手を染めると、一遍ここに踏み込むとなかなか抜け出せませんよと。一遍道を踏み外すとなかなかまともな道といいますか、戻りにくくなりますよということをちょっと具体的に指摘したいと思うんですけれども指摘したいといいますか、そういう不安がある、懸念があるということなんですけれども。  例えば日銀の国債購入ですけれども、これ、少し数字を幾つか述べさせてもらいますが、国債発行残高、先ほどもお話がありましたが、もう四百五十兆ぐらいになっていますね。これは十年間で二倍になっています。これは財務省の試算によりますと、十年後にはもう八百兆を超えるんじゃないかという試算まで出ています。要するに、日本は国債をこれからも大量に発行していかないとやっていけないような状況にあるというのは、これは共通の認識だと思います。  このことは、何が起きているかといいますと、これは御存じのとおり、国債の流通市場、大量に発行される国債を消化しなければいけない状況ですね。これは消化していかないと大変なことになります。結局は長期金利が上がってしまうというようなことにつながりますよね。だから消化しなきゃいけないと。だから、今、国債をどう消化するかというのが財務省なんかでは一番、一番といいますか、かなりこれからの戦略を考えているところだと思うんですけれども、この国債の保有高ですが、もう時間の関係で結論だけ申し上げますと、日銀の資料にもありますけれども、大体公的部門がもう半分、残高の半分を保有しているという段階ですね。ですから、民間よりももう半分になってきていると。その中で、これも資料を日銀からいただきましたけれども、日銀の国債購入はずっと増加してきています。更に言えば、財投のことも申し上げようと思ったんですが、財投のことでいえば縮小の方向になりますし、民間の方もこの間引いていますから、要するに日銀の、日銀が国債を消化するという役割が徐々に今高まってきていると。これは間違いないと思います。  こういうような、全体として国債を発行していかないと日本がやっていけないと。その引受け手の役割が日銀がだんだん増してきていると。僕はこれは非常に怖いことだと思っているんですね。これで日銀がどこかで、もう国債これ以上買いませんとか増やしませんと言うだけでもかなりの、それこそアナウンス、マイナスのアナウンスメント効果出ると思いますけれども、こういう圧力というのは強まっていく方向になりませんか。日銀が国債を買っていかなきゃいけない、減らすわけにいかなくなってくると。その辺の認識はいかがですか。
  174. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) かれこれ明確に区別することがなかなか難しいんですけれども日本銀行が国債をマーケットから買い入れておりますのは、必要な流動性の供給という判断基準でやっております。財政に対してファイナンスをするという観点からは、そういう買入れの仕方はしないと。物の考え方としてそこは峻別いたしております。  したがって、そこに対して明確な基準を設けることはなかなか難しいんですが、現在設けているのは、銀行券の発行残高の範囲内と、こういう歯止めを設けているわけですね。これはずっと以前から、長期国債のオペレーションというのは、いわゆる成長通貨、通貨の底だまり部分の増加部分を供給する場合に、その範囲内では国債のオペレーションを対象にするという考え方の一つのバリエーションのような形になっていると思いますが、そこに歯止めを設けていると。この歯止めを外したらどうかという御要請がございますけれども、そう軽々に外せないというふうにお答えしているのはそういう趣旨でございます。
  175. 大門実紀史

    大門実紀史君 その歯止めが、健全な歯止め、基準なのかどうかというのは意見が分かれるところ、そもそも意見が分かれるところなんですけれども、それはもう絶対、最低限そこは外すべきじゃないと思います。  もう一つ、国債の利回りの関係も調べてみたんですけれども、もう国債、先ほどありました、もう〇・六だとか何かになってきていますね。これは、実は四大銀行グループの資金調達コストがもう〇・八六ぐらいですから、四大銀行以外のところが国債を買うとなるともう逆ざやが生まれつつあるという状況ですね。つまり、例えば三十年国債なんか利回りが一・三ぐらいまで下がったことございますけれども、これは生保が新規契約の平均予定利率が一・五ですから、生命保険会社にとってももう逆ざやに国債なるということも一時生まれたと。今そういう状況ですよね、国債利回りというのが。  そうしますと、民間のそういう国債を受けてたところが、なかなか国債が、調達コストの方が高く掛かって、これから引き受けていくということが実際上しにくくなると。そういう面からもまた日銀の役割といいますか、期待されるといいますか、日銀、外してもっと買えという圧力が私は強まる方向にこそなれ弱まることはないんじゃないかと思うので心配しているところです。ですから、これ以上触れませんが、きちっとした基準を設けてそういう圧力には屈しないでもらいたいというふうに思います。  もう一つ心配なのは、銀行株の買取りの方もそうなんですけれども、これもなかなかいったん踏み込めば抜けるに抜けられない、今の株価ですと、そういう状況が生まれつつあるんじゃないかというふうに思います。  これはこの財政金融委員会でも議論いたしましたけれども政府の方の銀行株の保有株式取得機構、株の買取り機構ですね、これが去年設立されたんですけれども、我が党はそんなばかなもの作るなと言って反対したんですけれども作られました。で、やっと二千二百億ですか、買取りをやって、これは買取り予定が二兆円とかいうことですから十分の一ぐらいしか使われていないということですね。それで、使われていない理由が、これはこの委員会でも議論になりましたけれども、売却時に八%の拠出金を取られるとか、あるいは、買取り機構に売ってもBIS基準からすると分母から外されない、つまり自己資本比率が改善しない、これがネックになって買取り進んでいません。そういう中でこれだけの株価下落してきますと、日銀にもっと株買ってもらえと、この圧力も弱まることはないと、強まっていく方向になると思うんですよね。  これは、二兆円を今三兆円ですか、されましたけれども、これは三兆円というのは守られますか。
  176. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 銀行株とおっしゃいましたけれども、厳密には銀行保有株ということでございますね。  そもそも日本銀行銀行の保有している株式を買い入れる目的が、株価の買い支えということではないと。株価の変動が銀行経営に対する影響をやっぱり遮断したい、そういうことでなければ金融システムが余りにも脆弱なのでそこにショックが及び過ぎるという、そこを防圧するために日本銀行としてはやむを得ずある程度身を挺してそこをカバーしたい、つまり金融システムを守るためにカバーしたいと、こういう買い出動なんでございます。わけても金融機関は自己資本のうちのティア1相当額を超えて持っている株については一定の期間内に売却しなきゃいけないということでありますので、その売却を促進するために、マーケットで売りにくい部分もありますので日本銀行が吸収しようと。  当初は、昨年の秋に、私が着任する前ですが、日本銀行がこの措置に最初に踏み切ったときには、マーケットでの消化分、それからおっしゃいました政府での買取り機構による対象分、そして日銀の分と、どういう割り振りになるか実際の推移が分かりませんから、大体三分の一ずつというふうに考えた場合に、日本銀行は二兆円ぐらいの枠を用意しておけば十分な受皿になるのかなと、こう思ってスタートしたわけですが、現実には政府の方の買取り機構への売却が余り進んでいないということでありますし、市場での売却もなかなか難しいという状況でありまして、かなり日本銀行の方の買取り枠については球を投げ込んでくる金融機関が多いと。で、イラクの戦争が起こってその後の予想されたショック等も考えますと、場合によってはティア1を超える金融機関の保有株についてはそのかなりの部分を日本銀行が吸い取るというぐらいの覚悟を持つ必要があるのかなという判断に立って一兆円追加いたしました。  現在三兆円という枠は、今の時点で考えましても、金融機関が持っていますティア1を超える保有株の部分はほとんどすべて日本銀行が吸収し得るというふうに思っていまして、それ以上に日本銀行が踏み込んで株式を買い入れる必要性を感じていないということでございます。
  177. 大門実紀史

    大門実紀史君 私は、ともかくこのデフレ克服は民間主導でやるのが本筋だと思うんで、そういう変な圧力は来たら跳ね返してもらいたいし、それでずるずるやっていくともう日銀が、何というんですか、財政機関化してしまうといいますか、中央銀行じゃなくなってしまうと思いますので、頑張ってもらいたいというふうに思います。  もう一つは、ところが日銀がじゃぶじゃぶに供給したお金がどこに使われてきたかという話で、資料をお配りさせていただきました。  これはアメリカとの、米国経済との関係なんですけれども、要するに今、米国の財政というのは大変な状況になっています。双子の赤字と言われていますが、経常収支も含めて財政も両方とも大変です。その財政の方のお話だけいたしますと、とにかく税収が減ったり株価バブルが崩壊する、それと、お手元の表の一にありますとおり、この間、対テロ戦争ということで軍事費がずっと伸びているということで、これはアメリカの財政ですけれども、とにかく急速に米国財政が赤字になってきております。  ところが、米国は貯蓄率が低いということと経常収支赤字ですから、海外から資金を調達するしかないわけなんですが、ではどこから調達しているかと。これは主な調達先は日本です。表の二番にありますけれども、断トツに日本がアメリカの国債を保有していると。この間ずっと買い増やしております。例えば、ドイツ、フランス、イギリスというのは、これはユーロ発足したり、あるいは一定の景気持ち直し、あるいはドル安見込んでといういろんな要素はありますが、とにかく引き揚げています、今ヨーロッパは。ところが日本は一生懸命米国債を買って、先ほど言いましたアメリカの財政を支えてきているということがお分かりになると思います。  二枚目に、もう少し具体的な中身ですけれども、これは米国の、アメリカの二〇〇二年の会計年度、一年間のアメリカの赤字、一番左が赤字ですけれども、差引き千五百七十七億ドル、前会計年度で赤字を生んだと。その間に日本は米国債を四百七十億ドル買っています。つまり、アメリカが出した赤字の約三割ですね、三割を日本が一生懸命米国債買って赤字を埋める手伝いをしているということです。一番左に外貨準備、これは外貨預金も入りますので、それも五百五十億ドル増えていると。  つまり、私申し上げたいのは、日本の中ではじゃぶじゃぶに供給して、民間に回らないと、お金が回らない、中小企業には銀行は貸し渋りをすると。ところがそのお金は、もちろん一つ先ほど申し上げました国債に回るわけですが、もう一つはこうやってアメリカの財政を支えるところに回っていると。そのアメリカは今度大減税をやるとか、日本国民も七割が反対いたしましたけれども、イラク戦争をどんどんお金使ってやると。何でそんなことに、回りめぐってかも分かりませんけれども、日銀が一生懸命実体経済を良くしようと思ったお金が回っていかなきゃいけないのかと。これは国民感情からいっても何かしっくりこないといいますか、非常に異常な形になっていると思います。  もちろん、お金というのは投資効率の高い方、利息の高い方に流れますから、結果としてこうなったといえばそのとおりなんですけれども、私は、日米の資金循環、ずっとこの間ちょっと調べているんですが、非常に今異常な形になっていると。外貨準備が、もう必要以上の外貨準備、日本持っておりますけれども、それはほとんど米国債、ほとんどといいますか大部分米国債ですが、それが、このアメリカがこういうことをやっていると。日米の資金循環が非常に異様な形ではないかと、諸外国に比べて。それが、この間の日銀の量的緩和でじゃぶじゃぶに供給したお金がこんなところに回っていると。  こういうことについて、総裁はどういうふうにお考えですか。
  178. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 米国に対するこういう形での資金の流入、つまり米国債の日本からの買入れの増加という傾向が続いているということは、もう御指摘のとおりだというふうに思います。  いろいろなバックグラウンドがあると思いますけれども、私は、一番大きなのは、日本の経常黒字が、大きな経常黒字がなお続いている、特に対米の黒字が続いていて、黒字の結果受け取った外貨を、つまり米ドルをそのままアメリカに運用している。これは民間部門においても運用している。その中身に米国国債のウエートが高いというふうな状況を反映しているんではないかと。  当局はともかく、民間部門が引き続きアメリカにこういう形で証券投資をし続けているということのまた背後には、米国経済は再び双子の赤字を大きくしつつあるとか、ハイテクバブルの崩壊の後、アメリカ経済がどれぐらい強く立ち上がるかまだ不透明であるとかいうふうな問題が出てきている中にあっても、まだ基本的な信認を米国経済は失っていないという大きな背景があるのかなと。したがってこういう資金循環の流れができているというふうに思っていますが、それに加えまして、恐らく、日本は今金融の超緩和をやっております。米国の金利もかなり下がってきておりますけれども日本の超緩和の方が大幅だということで、米国と日本の間の金利差、結構大きいと。したがって、そういう金利差の違いから資金がアウトフローしている部分がやっぱりあるかもしれない。  もう一つは、日米の実体経済の先行き感、景況感の相違ということも、やはりまだ日本の景気の先行きが米国に比べて心配の種が多いというふうなことから米国の方に資金が少し流れているという部分が、国際収支要因をベースにしながらも、上乗せ要因としてそれが加わってきているであろうというふうに考えています。
  179. 大門実紀史

    大門実紀史君 もう時間なくなりましたので最後にいたしますが、金利の問題でいえば、この前、G7の前に、テーラー財務次官ですか、日本の一層の金融緩和を求めるという発言をされておりますが、もちろん日本の景気良くしてくれという意味もあるんでしょうが、今総裁おっしゃいました米国との金利差といいますか、カントリーリスクの問題考えると、日本の方が金利が低い方がアメリカにお金が流れるからと。これはもちろんそういう意味もあったと思いますけれども。ですから、これはもうプラザ合意から始まっているんでしょうけれども、そういう、金融緩和してくれしてくれというアメリカの長い間の要求というのがやっぱりこの資金循環にも現れていると。アメリカに資金を引き込みたいという結果ですから、必ずしも自然になってきたというわけじゃなくて、非常に政治的なバックグラウンドがあるというふうに私思います。  その中で心配されるのが、先ほど言いました国債の利回り下がりますと、民間の機関投資家が米国債に流れて、国債を売るかどうかは別として、一遍にたくさん売るかどうかは別として、日本国債から米国債にもっと切り替えていこうという流れが強まれば、日本国債を支えるためにまた日銀が国債をもっと買えという圧力が強まりかねませんし、日銀そのものが直接米国債を買ってほしいというふうな要求、今まではなかったと思いますが、そういうことが強まる可能性も、日米経済、日米間の関係でいくと要請は強まってくる方向になると思うんですけれども、そういうことにおこたえになっていくことはないと思いますが、ちょっと確認の意味で、どうお考えかお聞かせください。
  180. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 根幹はやはり日本経済に対する信認ということだと思います。日本経済に対する信認が損なわれれば、やっぱりそういう資金の流れもどうしてもゆがみを、ひずみを伴うような資金の流れが起こってしまうということですので、そういうことがないように、少なくとも日本経済の基本的なところでの信認維持ということだけは、これは死守しなきゃいけない。  今、我々が金融緩和を進めて、必死になって経済の持続的成長パスへの回帰、デフレ脱却というのを進めているのもそういう意味であって、そのやり方がまずくて、かえって信認を損なうというふうなことになってはならない。大変そういう意味では狭い道、脆弱な道を歩んでいくことになっているわけですけれども、したがって日本銀行も普通では取らないリスクまで取りながら進んでいるということで、極めて危険な道を歩んでいるということは十分承知しながら、しかしやっぱりこの道は渡り切らないと日本経済の信認は回復しないと、こういうふうに思ってやっております。
  181. 平野達男

    ○平野達男君 国会改革連絡会の平野です。  総裁に何点かお尋ねをしたいと思います。  量的緩和をしているんだけれども市場にマネーが十分に行き渡らない、その理由として金融システムの機能不全ということが挙げられております。先般の日銀総裁のこの中での概要説明報告書の概要説明の中で、その機能が十分果たされていないという最大の要因として不良債権問題があるというふうに挙げられておりました。  私は、不良債権問題につきましては、これは大きな要因であると思っていますが、最近不良債権の性格というのは随分変わってきているという認識を持っています。今回、ここで最大の要因として不良債権問題があると言われたその総裁の認識の背景を冒頭ちょっとお聞きしたいと思うんですが。
  182. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 不良債権問題という言葉で申し上げました意味合いは、不良債権を大きく抱えて、引き続きこの問題の処理に苦慮している金融機関のリスクテーク能力が衰えていると。つまり、日本銀行の供給した流動性をきちんと必要な使い手のところに運んでいって、リスクを取ってこのお金を手渡すというその機能が衰えているということを申し上げたわけでございます。
  183. 平野達男

    ○平野達男君 私は、そのリスクテーク能力ということだという御説明だったと思うんですけれども、最近の不良債権問題を考えたときに、私はよく根雪と新雪というふうに言ってきた。根雪と新雪と言ってきたんですが、いわゆる今まで不良債権だったものが、実は、金融機関のいろんな認識能力の問題とか、それからあと、先送りということはなかったと思うんですが、とにかく能力の不足の問題で不良債権ということで認定をしてこなかったと。  ところが、金融検査マニュアルができたり金融検査が入りまして、金融当局と銀行との中でのいろんなやり取りの中でその査定の能力がどんどん上がってきたということで、今まで不良債権だったものを認識しないものが、きちっきちっと査定されてきて、それで整理をされてきたというふうなことがまず、必ずしも十分ではないですけれども、一方で進んできていると思います。  最近の金融再生法開示債権の増減要因ということで、これは半期ごとに金融庁が公表しているんですけれども、今までは、増減の要因の中では、いわゆる貸出し条件緩和債権の判定基準の厳格化ということで、これが厳格となったために不良債権が出てきましたという案件が多かったんですが、平成十四年九月期ではこれはぐんと減ってしまうんですね。その代わり、債務者の業況悪化等ということで、つまり景気の悪化に伴って不良債権が増えたということを言ってきているわけです。  そうしますと、この不良債権問題というのは、確かに抱えているからリスクテーク能力が落ちているということはあるんですけれども、従来と違って、要するに景気の問題、景気と連動して不良債権が出てきているんですよという面が強くなってきたという面においては大きく様変わりしていると思うんです。  したがって、ここの信用機能、仲介能力の機能不全というのは、実は景気の悪化に伴うむしろ、先ほどの大門先生のお話、大門委員のお話からございましたけれども、資金需要がないというのが最大の理由じゃないかと思うんですが、この資金需要がないということを前回の説明の中では総裁はほとんど触れられていなかったんではないかと思うんです。これはどういうことで、背景でなったんですか、そういう説明になったんでしょうか。
  184. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 不良債権の局面変化というお話をなさいました。  これは、バブルが破裂した瞬間に、その瞬間にあらわになる過去の過剰投資、それに見合った借金がその不良債権になっている、このことと、その後経済の停滞が長引いている中で新規に不良債権が出てきているということの違いというふうにおっしゃったわけで、現象的にそのとおりだと思いますが、その後はもう少し、つまり新規に出てきている不良債権について私の理解を申し上げさせていただきますと、私はこれは、単に不景気だからだということではなくて、不景気であることには変わりがないんですが、つまり、その間も世の中のイノベーションは進展している。しかし、企業行動がその間鈍っていると、新規の投資が行われていないと、結局、既存のもの、バブルが破裂した瞬間ではまだそんなに陳腐化した設備でなかったとしても、その後新規の投資が行われないうち、バブル崩壊直後の設備というのは時の経過とともにどんどん陳腐化してしまうわけです。したがって、これは新しいキャッシュフローを生むような資本財ではなくなってきていて、結果的に、キャッシュフローを生まなければ、この設備の裏付けとなっている借入金についても返却はできなくなってきている、これが新しい不良債権の本質だというふうに思います。  つまり、バブル崩壊後、新しい投資が呼び起こせるような経済環境を早く用意できなかった、言ってみれば経済モデルの変換ができなかった、経済の新陳代謝のメカニズムというものが早く作動させることに今までのところ成功していないということからきている不良債権というふうに理解していまして、したがってそういう意味では、いわゆる構造改革を早く進めなきゃいけない、不良債権問題を早く進めなきゃいけない、そして新しい事業を起こす人たちを勇気付けるようなやはり全体の経済の構図というのを早く用意しなきゃいけない、そういうところへ早くお金を届けなきゃいけない、すべての問題の焦点はそういう方向に合っているんじゃないかと、そういう意味で申し上げたつもりでございます。  そういった新陳代謝のメカニズムを早く作動させるフレームワークを作らなければ資金需要というのはなかなか出てこない、資金需要というのは待っていて出てくるもんじゃないんじゃないかというふうに思うわけでございます。
  185. 平野達男

    ○平野達男君 今のような説明ならば納得するような説明になると思うんですが、前回の説明では最大の要因として不良債権だという説明で終わっていましたので、ちょっと今のような質問をさせていただきました。  そこで、ちょっと次の質問に移らせていただきますけれども、今回、資産担保証券の時限的改良の検討をやるんだということで今検討を進めているというふうに聞いておりますが、まず一般論で、資産担保証券というのはこれは余り今市場では大きなマーケットになっていないんじゃないかと思うんですが、これが大きな市場で拡大しない理由というのはどこにあるというふうにお考えでしょうか。
  186. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 制度的あるいは技術的な要因については白川理事から補足をしていただきますけれども、やはりこういった債権のあるいは証券の流動化市場というのはこれまで日本では余りなじみのなかったものでございまして、やはり二十一世紀の新しい金融市場の姿として展望し得るものとして、しかもそれが具体的に展望し得るものとして最近ようやく人々が関心を寄せ、実際にそういうマーケットを作ろうという動きが始まったばかりでございます。  したがって、売り掛け債権にいたしましても、こういった流動化の対象になる銀行の貸付債権にしましても、種は一杯あると。これを市場化していくための動機付けと、制度的ないし技術的なインフラの用意と、これを整えれば可能性は非常に大きな市場だというふうに思っています。  少し担当理事から補足をさせていただきたいと思います。
  187. 白川方明

    参考人(白川方明君) お答えします。  資産担保証券のメリットは、一つはプールによってリスクを削減するということでございます。その際、例えば中小企業の場合ですと、データベースが十分に整備されていませんとなかなかその実態が把握しにくいという問題がございます。あるいは、権利を移転するときに債務者が嫌がってくるという問題も実態的にはございます。そのほか、投資家が十分にいないとかいろんな要因はございますけれども、こうした要因一個一個が常に決定的ということじゃございませんけれども、全部が重なり合ってなかなかマーケットが発達していないというのが現状でございます。
  188. 平野達男

    ○平野達男君 それは、そうしますと、そのマーケットの育成というのは日銀の役割でしょうか。
  189. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) マーケットは、やっぱり市場参加者が自律的にマーケットを開拓していいマーケットに整備していく、それが本来の市場作りの在り方でございます。  ただ、日本銀行の立場からいたしますと、これは金融政策の効果浸透、あるいは金融政策を行うプレーグラウンドそのものであったりする場合が非常に多いわけでして、どこの国の中央銀行でも市場の円滑なあるいは健全な発展については最大の関心を払っています。必要な場合にはアドバイスを行い、また必要な場合には必要な手をかしということをやっておりまして、マーケットを作ることが全面的に日本銀行の役割とか責任ではございませんけれども、やはり将来につながるマーケットの発展のために知恵と手をかすというのは中央銀行の役割だというふうに考えています。
  190. 平野達男

    ○平野達男君 今回の資産担保証券の中で議論になっているのが、いわゆる売り掛け債権、これを裏打ちとした証券化だろうと思います。  この売り掛け債権につきましては、もう御存じのように売掛債権担保融資保証制度というのが既に出ておって、これは、売り掛け債権というのは市場の中では七十五兆とか何かあるという、これは中小企業庁の方の御説明でしたが、実際にこの保証制度を利用しているのがたかだか二千二百億ぐらいということで非常に小さいという現実はあります。ありますけれども、この売掛債権担保融資保証制度というこの措置でなぜ不十分なのか。  それからもう一つ。リスクテークをしないということであれば、政策金融、これは先ほどのどなたかの委員にも御指摘がありましたけれども政策金融というのがあるわけです。こういったものの活用というのをなぜ考えられないのか、なぜ日銀が出ていくのかということになりますと、恐らくそれはマネーサプライの道具だったという答えになってくるかと思うんですが、この売掛債権担保融資保証制度でなぜ不十分なのか、あるいは政策金融ということの活用がなぜできないのか。これに対しての日銀のお考え方はちょっとお聞かせ願いたいと思うんですが。
  191. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 同じく売り掛け債権を対象といたしましても、これに対する扱い方の角度が違うと。この保証制度の方、今委員指摘の制度は、やっぱりこれを担保とする融資に信用補完することによって一本一本金融を付ける、そのパイプをしっかりさせようというやり方でございますけれども、私どもの方の売り掛け債権担保証券を裏付けとした証券の市場作り、あるいはそこに日本銀行も買いオペをしようかという話は、まずこういった売り掛け債権をプールしてリスクを平準化することによってトータルとしてのリスクを削減するという新しい手法を使っているということと、これをマーケットで流動化するということですから、銀行以外に非常に多くの投資家を呼び込むという、ここに大きな違いがございます。  これから先、将来の日本考えますと、中小企業も一本一本銀行あるいは金融機関から金を借り入れるというやり方だけでなくて、こういう間接的に市場からも金融を受けるというパイプを広く用意していく方が中小企業の健全な発展のためにきっと役立つだろうというふうに、かなり視点の違うアプローチをしている。こういった信用保証協会がサポートしながらの新しいファイナンスと私どものマーケットを通ずるファイナンスと、両々相まって中小企業に太い資金調達パイプが用意できるんではないかと、こういうふうに考えているわけでございます。
  192. 平野達男

    ○平野達男君 その資金調達パイプができるということが本当に日銀さんの仕事なのかどうかというのはちょっと私はまだよく分からないんですが、やはりその日銀、太いパイプを作ることによってマネーを供給するということがやっぱり最大の眼目じゃないんですか。  例えば、今担保融資保証制度という政策金融というのがあると言いましたけれども、これはまあいろんな、今例えば譲渡禁止特約の制約だとか金融機関のノウハウの問題だとか商慣行の問題とかということで、特に融資保証制度というのはまだ発展途上にあります。ただ、今中小企業庁も一生懸命努力してこれを今拡充しようとしている。あともう一つ政策金融もある。これは何が違うかというと、お金を市場から調達してくるということで、別に新しくお金を刷ったやつを出すわけじゃない。ところが、日銀さんが買いますと、これは出すお金は刷ったお金ですね。その違いなんですね。だから、その違いということに着目しますと、結局やっぱりマネーサプライのための手段ですよということがやっぱり前面に出てくるんじゃないかと思うんです。前面に出てくるんじゃないかと思うんですが、そこはどうでしょうか。
  193. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) この信用保証協会がサポートしながらこの種の中小企業に対する融資制度を充実させていこうというのは、恐らく永続的な措置じゃないかと思います。つまり、ずっと先々まで見通しましても信用度の低い企業の存在ということを前提にした制度じゃないかというふうに思いますが、私どもの方は、取りあえずマーケットがこれからでき上がっていく出発点に、そのマーケットが本当に円滑にでき上がっていくための口火を付けようという意味で時限的措置でございます。これに永久に関与しようということではない。  それから、このマーケットで我々が資金供給のためのオペレーションをしようということを考えているわけですけれども、これも永久に考えているわけではない。つまり、マーケットが整備されてこの種のフィールドでお金が円滑に流れるようになれば、我々としてはその後はここに直接手を出さなくても、我々が金融市場に供給したお金が自然とこちらの方に円滑に流れるようになるので、それは私どもは直接この市場に関与して買いオペをするということもお役御免になると。ともに時限的措置というところに我々のタッチの仕方の相違というものが明確に出ているというふうに思います。
  194. 平野達男

    ○平野達男君 しかしいずれにせよ、これに対しては非常にリスクをまず抱えるということで、プール制にしてリスクを分散するという話がございましたけれども、これは今までの銀行の保有株を買うのと同じように、まず大きなリスクを取るよということで、リスクを取る代償としてマネーを供給する。それからもう一つは、市場の育成をするということなんだろうと思います。  じゃ、しからば、このリスクを取るという歯止めというのは一体どこに掛けるんだろうかということで、この間から議論になっているETF、それからREITでしたか、そういったもののこれは当面は考えないよという総裁のお考えだったんですが、こういったものに対して日銀が購入対象としないという歯止めというのはどうやって掛けていくんでしょうか。
  195. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 先ほども申し上げましたとおり、まずフレームワークの設計として、プール化してリスクを、本来あるリスクよりも仕組みによってリスクを削減するということが一つあります。  もう一つは、無制限に買えない、私どもは自己資本の限度内でしか買えないわけですので、十分我々の自己資本の割り振りというものを考えながら、ある限度内で買っていくということにならざるを得ないというふうに思っています。
  196. 平野達男

    ○平野達男君 そうしますと、私が心配する、心配というか懸念するのは、今回は日銀さんがまた新しいリスクを取ろうとしていると。要するに今、先ほど第一ステップはやっぱり銀行の保有株だったと思うんですが、今度は資産担保証券ということで、今度は銀行から買うんじゃなくて直接市場から買いますよということで、そういった意味でまた別なステップが取るわけですね。そうすると、それは市場育成ということ、という一つの歯止めはあるんですが、片っ方でやっぱりマネーサプライというのがやっぱりありまして、じゃそのマネーサプライをすることによって、じゃデフレの脱却に結び付くかということについては必ずしもきちんとした理論的な整理がなされているわけでもない。  そうしますと、今回の中では、今回の措置というのはどうも理念がもう一つはっきりしない。本当の単なる市場育成なのか、要するに新たな資金パイプを用意してそこにマネーを供給するということなのかというその力点の置き方がいま一つはっきりしないんですが、そこはどうなんでしょうか。
  197. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 市場の育成といいましても、これは本当にマネーマーケット、ある種のマネーマーケットの育成でございますので、おのずとお金が円滑に流れやすい場面が広がるということですから、金融政策の効果がそれだけで大きくなるというふうに、これは理屈の上でも緩和効果をより強く出していくというところに結び付いていくというふうに私ども考えています。  ですから、市場の育成ということと直接お金を流すということとの差というものは余りない。つまり、一件一件の、つまり信用保証協会がこういうルートで直接中小企業にお金の流れるルートをしっかりさせられるということも我々にとってはプラスですし、このマーケットを大きくして自然にお金が流れやすくするというのも我々にとって金融緩和効果を浸透させる上にプラスだと、いずれの方法もこれはプラスの方向に動いているというふうに考えています。
  198. 平野達男

    ○平野達男君 であれば、いずれにせよ、マネーサプライを拡充するために、日銀は要するに、ある意味によっては、取り方によってはリスクをどんどん取っていきますと、従来の手法によりませんというような、これは宣言をやっぱりばしっと一番最初にすべきじゃないでしょうか。何か今のお話を聞いていますと、理念がはっきりしないんじゃないかというのが一つ。  それから、こういう措置を取れば、次にじゃ別な、これがもし利かなかったとすればまた新たなリスクを取るような別な資産の購入に走るんじゃないかという意味においては、理念なき戦力の逐次投入みたいな、そういった方向に走るんじゃないかという気がするんですが、そこは総裁、大丈夫ですか。
  199. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) クレジットリスクに日本銀行が足を踏み入れるということ自身大変異例な措置だということを再三申し上げております。したがいまして、異例の措置については明確に限度があるわけでして、これを無限に範囲を広げたり、あるいは一つのルートであっても無限に深入りするということはできないということは明確でございます。
  200. 平野達男

    ○平野達男君 そろそろ時間になりましたからあれなんですが、もう一度じゃその限度というものをもう一回明確に最後にお尋ねして私の質問を終わりたいと思います。限度をどこに設定しているか、自己資本の範囲内ということで限度なのか、どこにおいて限度なのかということをお聞きして、私の質問を終わりたいと思うんですが。
  201. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) もうリスクをやみくもに取らないと。同じリスクを取るにしても、そういう仕組みに工夫を凝らしてリスクをなるべく小さくして取るというそのまず工夫を凝らすということが第一ですし、それでもやはり異例なリスクを、リスクテークに日本銀行が踏み込むという場合であれば、それは最終的には自己資本の範囲内ということになると思います。
  202. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 福井日銀総裁、御就任おめでとうございます。  質疑を、オーソドックスな形の質疑になりますが、よろしくお願いします。  四月十七日のこれ朝日新聞なんですけれども、「ETFの購入 日銀側に要請」として、自民党幹部という形になりまして、自民党の麻生太郎政調会長と相沢英之デフレ対策特命委員長は十六日夜、竹中金融経済財政担当相とともに日本銀行の武藤、岩田両副総裁と都内で会談し、今後市場拡大が見込まれるETFの購入を直接要請をしたと、日銀側に三兆円程度との上限を示してその買入れを決断するように求めたという報道がなされていますけれども、この副総裁お二人がこうした竹中金融担当大臣と会談がされて、そしてそういう要請を受けられたことは、直ちに福井総裁の下には上がってくる仕組みになっているんでしょうか。
  203. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 両副総裁に限りませんで、私ども銀行の責任者がやはり政府あるいは自民党の幹部の方々とお話をしたときには、どういうお話があったかということは私は必ず承るようにいたしております。
  204. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 それでは、この件についても直ちに上告があって、三兆円程度要請があってそれにこたえていくというような判断をなさったわけでございましょうか。
  205. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) ただいまお話しのETFというふうな話に限った会話があったというふうには聞いておりません。このことも含め、いろいろと日本経済の運営の仕方について幅広い意見交換があったというふうに私は伺っております。  仮に具体的な話が幾つかあったといたしましても、日本銀行においてこの問題をどう処理していくかということになりますと、やはり政策委員会できちんと議論して、一定の物の考え方で新しい政策として作り上げていくというプロセスを経ない限りこれは実現しないわけでございまして、したがって、副総裁のお話あるいは私ども銀行の幹部が外の方といろいろお話をされた場合、あるいは場合によっては私自身が直接そういう話をいたしましても、その場ですぐそれが政策に直結するということは一切ございません。
  206. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 それでは、こういう直接に要請されるようなことは日銀側にとっては極めて不愉快なことということになるわけでしょうか。
  207. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) それぞれのお立場で日本経済の将来のために真剣に考えられているお話であれば、日本銀行にとって非常に難しい課題だから即不愉快というふうなわけにはいかないと思います。  これは、我々の方は常に冷静にこれ判断させていただきたい。力の強い方の御要請だから我々はひるむということは一切ないということでございます。
  208. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 その姿勢をずっと貫いていただきたいなというふうに思います。  それでは、福井新総裁が発足してからちょうど一か月たちました。日銀にとってはかつて経験したことのない危機的な状況の中での船出となりましたが、この一か月の新総裁としてのまず感想から聞かせていただきたいというふうに思います。
  209. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) ちょうど私が就任しましたその日からイラクとの戦争が始まったということで、実際にもう相当緊張感を持って就任いたしましたけれども戦争という要因、つまりいきなり戦時モードに入ったということで想像以上の緊張感を持って一か月を過ごしたというふうに思っています。  それから、冷静に考えまして、私はかつても日本銀行にいたわけですけれども、かつて日本銀行にいました長い期間でございますが、私の仕事ぶりは一貫して、日本のこの経済社会において金利機能をしっかり生かす、市場メカニズムを十分生かした金融政策の姿を実現するということにかなり焦点を絞って仕事をさせていただきました。  今回、日本銀行で新しい職を得て着任してみますと、その金利機能が使えないということでございますので、その点では大変戸惑っている、これは率直なところでございます。
  210. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 その金利機能が使えないということでなかなか、多分、当初考えていて、こうもやりたい、ああもやりたいと思っていたことが、実際に新総裁に着任をしてみるとなかなかそれがうまく自分の思うようにはならないというようなことになったんだろうというふうに思いますけれども、改めて自分の考えと違っていたということも、二問目で聞こうと思ったことも今答えていただいたと思ってよろしゅうございますね。そうですね。分かりました。  それでは、速水前総裁は、非常に円高はいいことだ、日本の円が強くなることはいいことだということで、この委員会でも何度も御発言をなさっておられて、いわゆる円高論者ということでございましたけれども、新総裁は為替レートについてはどのような見解を持っておられるのかなというのをちょっとお聞きをしたいのですよ。もちろん、今の為替の水準についてどうこうということを聞いているのではなくて、円安に持っていくことによって今の日本経済を立ち直らせることができるというような学者の先生方の御発言もございますし、アメリカの経済学者等々もそうした円安誘導をすべきだというような御発言もあるわけですけれども、福井総裁はその為替レートについてどんな考え方を持っておられるのかというのをちょっとお聞かせいただきたいと思います。
  211. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 前任の速水さんとはもう随分若いときから為替をめぐってはずっと議論をしてまいりました。大変な速水さんは円高という方向でタカ派だと言われておられて、私自身も若いときから速水先輩と議論していて、本当に速水さんはタカ派だというふうに私も思っています。  私自身は、やはり日本経済が強くなって、最終的に円の価値が上がるということはすばらしいことだし、みんな日本経済を良くするために頑張っている人たちの努力は、最終的にやっぱり強い円ということで結実するんだろうと。特に日本銀行のような通貨の面で仕事をさせていただいていますと、やはり金融政策よろしきを得れば最終的には円は強くなるんだと、この点は速水さんと私もそんなに変わっていないと思います。  しかし同時に、私は現実の円相場についてはかなりフレキシブルな考え方を持っていまして、経済実態に即してやっぱり為替相場はマーケットで形成されるものだというふうに考えておりまして、経済実態に即さない円高というのはやっぱり経済にひずみをもたらすし、経済実態に即さない円安というのは、仮にそれは一時的に人々は心地よいと思っても決してこの為替相場は長続きしない。したがって、為替市場において日本経済の実力に合った円相場が絶えず形成されていくというのが一番いいんだろうというふうに思っています。  そういう意味では、もし日本経済実態が為替市場の目で見て弱いということであり、その方向で円安の相場が形成されるとすれば、それを自然に受け入れていくという姿勢がやっぱり正しいんだろう。相場に対しては柔軟な対応ということが経済をうまく運営していく上には必要だろう。しかし、常に円安の方がいいというのではなくて、最終的にはやはり経済を強くして円高を実現するということが我々の将来の目標でなければいけない。そうでなければ円というのは国際的に通用する通貨にやっぱりならないということですので、そこは、最終目標は速水前任とちっとも私は変わっておりません。
  212. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 経済実態に即して為替レートが決まってくるというのはそのとおりだろうというふうに思いますけれども、しかし、日本経済が今こういう状況に置かれているときに、もし円安誘導することでこうした脱却、デフレ脱却できていくようなことが可能であるとすれば、それはやっぱり試みてみる必要というのはあるのではないかというふうに思うのですけれども、積極的にそれでは円安に誘導していくような政策はあえて取るべきではないというふうにお考えでしょうか。
  213. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 日本が単独で円の相場を実態以下に円安に持っていけるかどうかという点については、非常に難しい課題だというふうに思います。  一部の論者は、意図的に為替相場を円安の方に誘導し、その状況をある期間保つことによって経済に対して刺激効果をもたらすようにと。理論的なフレームワークとしては、もし本当にそういう相場の実現が可能であれば一つの筋の通った考え方だろうというふうに思うんですけれども、現実の問題といたしましては、為替相場は、日本にとって都合が良ければ相手の国にとっては都合の悪いケースの方が多いということでありますので、これは国際的にやはり合意が得られないと申しますか、国際的にも、あるそういう為替相場についての是認する空気というものが形成されない限り、意図的に大幅な円安を実現して、それを政策のてこにしていくというふうに考えることは、余り現実的でない部分がございます。  しかし、局面によっては、世界経済全体の運営の見地から、ある相場水準について国際的なコンセンサスが得られるという局面も場合によってはあり得るわけですね。そういう場合には、そういう合意の形成に対して我々も国際的な努力をしなければいけないというふうに思いますが、現時点において日本の為替相場だけが極端な円安に持っていくということについて国際的な合意を得るということはかなり難しいんじゃないかというふうに考えています。
  214. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 デフレ克服の対策も、今までもずっと国会でも議論がされてまいりました。様々な政策が打ち出されてきているわけですけれども、この「改革と展望」、十五年一月に出されました「改革と展望」の中で、二年間でデフレ克服をすると、そういう期間を設けて集中的にその改革をするというふうに打ち出されているわけですけれども、特に、福井総裁がこの政策でデフレ克服をやってみたいというような政策があるのかどうかというところを教えていただきたいんですよ。  例えば今までの議論ですと、国債買入れの限度額は日銀の発行額以下にするというような歯止めを廃止をするというようなことも出てきたこともございます。あるいは、外債やETFなどの証券の買入れ、あるいは株式、土地の買入れ、国債の直接買入れとか、あるいはインフレターゲット論なども出てまいりました。それと併せて、不良債権の即時処理の促進というようなことも言われてきました。  それぞれの総合的な中でのデフレ克服論しかあり得ないのか、あるいは総裁が着任をしたことによって、これらに加えて、更にこうしたことがやられたらいいのではないかというようなものがあるのかどうかということをお聞かせいただきたいと思います。
  215. 福井俊彦

    参考人(福井俊彦君) 政府の「改革と展望」に示されておりますようなデフレ経済からの脱却のプロセスというのが円滑に実現していくように、日本銀行金融政策もできる限り相乗効果を出せるようにしていければというふうに、その点はそういうふうに考えています。  恐らく政府の意図しておられるところも、単に表面的な姿でデフレから脱却したというふうな経済の姿を希望されているわけではないと。やっぱり次の局面の日本経済というのは、余り極端に高い経済成長率でなくても、やっぱりしんの強い経済といいますか、その中で企業が着実に競争力を築いていく、国民生活も派手でなくてもきちんと健全な規律のある生活を国民が安心してやっていけるというふうなことを恐らく希求しておられるんだろうと、こういうふうに思います。  そういうふうなことを考えますと、日本銀行金融政策というのも、あれですね、将来の姿がどうでもいいと、人々が単純にインフレ心理を大きく抱いて、実体から懸け離れてとにかく将来へジャンプアップするというふうな飛躍のある金融政策ということが本当にいいかどうかというふうな点については我々は非常に悩むところでございます。それよりも手前に、今我々がやり始めておりますように、流動性を供給すれば、金利機能は十分働いていなくても、きちんとお金が末端に届いて金融緩和政策の効果がやっぱり着実に上がっていくというふうな、かなり地道に見えても本当に効果が上がるような政策ルートというのを開拓しながら前進していきたいと。少し迂遠に聞こえるようかもしれませんけれども、その方が最終的には健全な日本経済の姿につながるんではないかと、このルートで頑張っていきたいというふうに思っています。
  216. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 ありがとうございました。
  217. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 民主党の大塚でございます。  総裁外御同行の皆様方ももう丸三時間座り続けで、総裁は立ったり座ったりで本当にお疲れさまでございます。しばらくお座りいただいて、岩田総裁においでいただきましたので、岩田総裁を中心にお伺いをさせていただきたいと思います。  岩田総裁には内閣府の時代にも二度ほど本席においでいただいて、またお目にかかれて大変光栄でございます。  三時間近くずっと総裁の御発言も聞いていて、ここでも二年近くいろいろ議論さしていただいているわけでございますが、本当に金融政策、この局面でどなたがやっても大変難しいということはよく分かりますので皆様方の御苦労はお察し申し上げるわけでありますが、当委員会で仕事をさしていただくようになって以来もうずっと申し上げていることでございますが、やはり、この日銀の半期報告に限らず、法案の審議でも、ここで審議をさしていただいて、なるほどなと政府の皆さんやあるいは与党の皆さんが思われたり、あるいは日銀の皆様方もそう思われるような質疑があったときには是非お持ち帰りいただいて真摯に御検討をいただくということをやりませんと、もう本当にこの委員会審議に大勢の人間が時間を割いていることが大変もったいないなというふうに思いますので、是非そういう視点で、我々質疑をさしていただく議員の方も意味のある議論をさしていただきたいなというふうに思っております。  といいますのは、とりわけ金融政策はやはり非常に、だれがやっても難しいとも申し上げましたが、中身が、何といいますか、分かりにくい世界でありますので、ともすると言葉の議論になってしまって、レトリックを話し合っていると何かすごい立派な議論をしているような気になってしまうんですが、じゃ、その結果としてどういう政策が行われるのかということになかなか結び付いていかない場面もあるのではないかなと思います。  例えば、今日ずっとお話を拝聴していて、総裁は今ちょっと席を立たれておられますけれども、中島先生の一番最初の御質問のときに、普通はインフレ期待が出てきたときに予防的な政策を行うのが金融政策だというふうに御発言になったんですけれども峰崎先生との質疑の最後の方では、期待インフレ率だけを基準にした政策は良くないんだというようなこともおっしゃられて、これはよく聞いてみるとレトリックとしては矛盾したことを言っておられて、これは話の流れでそういうことになったと思うんですけれども、是非、議事録をよくお読みいただいて、この場の議論が何となく進めばいいということではなくて、きちっとした理論体系を整理、構築していただいて議論をしていただくことが必要だなということを改めて感じたということを冒頭申し上げさしていただきます。  さて、今日はお手元に岩田総裁の、ちょっと字が細かくて恐縮なんですけれども、「デフレと中国問題」というタイトルの御寄稿されたものを配らせていただきました。昨日の夜、随分、副総裁が書かれたものを読ましていただきまして、このところ統一地方選挙で体ばかり使っておりましたので、久しぶりに頭の体操をさしていただきましたが。  お配りした資料は大変よくまとまっていらっしゃるなという気がいたしまして、そのアンダーラインを引かしていただいたところを中心にちょっと副総裁のお考えを聞かしていただきたいと思っております。  この頭の方で、不良債権とデフレがやはり問題だということで、今日の一連の福井総裁の御発言と同じ御発言をここでもしておられるわけですが、一番冒頭に、「デフレが定着したという事実認識を政府が示したのは、遅ればせながら昨年三月の月例経済報告である。」というふうに書いておられて、その右側のアンダーラインのところにも、デフレが持つリスクに対する認識の遅れこそが、政策対応を遅らせ、デフレを定着させた大きな要因であると、こういうふうに書いておられるんですが、副総裁内閣府の政策統括官に御就任した時期はいつでございましたでしょうか。
  218. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 私、内閣府に参りましたのは二〇〇一年の一月からということでございまして、私、月例経済報告の担当をそのときからいたしました。それが三月であったということであります。
  219. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 ということは、副総裁が統括官に就任されてすぐ、初めて遅ればせながら月例経済報告でデフレに対する事実認識を政府が示したということですが、実際に内閣府でお仕事をされていろんな方と議論されたと思うんですが、なぜそこまで政府はデフレに対する事実認識ができなかったというふうにお感じになられましたでしょうか。
  220. 岩田一政

    参考人岩田一政君) その当時の御議論といいますのは、デフレというのは、ちょうど一九三〇年代に起こったような大不況、失業率でいうと一〇%あるいは二〇%、国によりましてはですね、そういうイメージでデフレーションというのを皆さん抱いておられて、それで政府の方も、私の記憶が正しければ、不況と共存する物価下落というふうにはなっていないという認識で、デフレではないという判断でそのときまで来たんだというふうに思います。
  221. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 私は、副総裁は一月に御就任されて三月にこうやって事実認識を改められておられるわけですから、大変いいお仕事をしていただいたと思うんですが、ここまで事実認識が遅れたということは、やはり政府経済運営において大きな失敗だったと思うわけですが、なぜ、どの段階の判断でやはりこの判断が遅れたのかということについて、余り内閣府の中では厳しい議論は行われなかったのでしょうか。
  222. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そうですね、私、二〇〇一年一月に就任いたしましてからは内閣府の方々とこういう判断でいいかどうかということは随分熱心に議論いたしましたが、それ以前は私、大学の方におりましたので、内部でどのくらい議論されていたか十分承知しておりません。
  223. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 先ほど総裁がいらっしゃる前に峰崎先生の方から総裁に九七年当時の金融危機の話も聞かせていただいて、その当時の経緯はどうだったのかというやり取りがあったんですが、私は何も、だれがどの時点でどういう責任があったのかということをここで明らかにしたいわけではなくて、やはり九〇年代、今日に至るまで様々な経済政策運営の失敗がいろんな要因で起きているわけですから、その事実関係はできるだけ明らかにして、今後の失敗を未然に防ぐということをしていただきたいなという意味で、峰崎委員と同じようなひょっとすると考え方での質問になっているのかもしれませんが、是非岩田総裁にはそういう観点でも、なぜデフレが定着したという事実認識が遅れたのかということについて、内閣府でのお仕事の御経験を踏まえて問題点を整理していただいて、今後の日銀でのお仕事に生かしていただきたいなというふうに思っております。  さて、今お配りした資料とは別に、昨年、小宮隆太郎先生がおまとめになった「金融政策論議の争点」という中の第三章を副総裁が書いておられて、これも読ませていただきました。  これは、ちょっとこの場でお配りするには余りにもマニアックなので皆さんのお手元には配っておりませんけれども、その中で副総裁は、ヴィクセル・クヌートに非常に着目して、そのことを書かれて、それ以来ヴィクセルの理論をベースにしたいろんな御発言をしておられて、この「デフレと中国問題」という紙の中にも、裏側の方ですけれども、ヴィクセルが出てまいりますけれども、なぜこのヴィクセルの著作に急に注目されるようになったんでしょうか。
  224. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 私がヴィクセルの理論が現代でも通用するかというふうに思うようになりましたのは、やはり日本におけますデフレ克服の処方せん、いろいろ試されているんですが、それがなかなか思ったような成果をこれまで上げてきていないということを考え、かつ、過去いわゆる貨幣数量説というのがございまして、マネーを増やせばそれに比例して物価は上がっていきますというそういう議論があったんですが、日本現状を見ますと、言わば二〇〇一年三月から量的緩和に踏み切ってマネタリーベース等は随分伸びているんですけれども、それでもまだデフレが克服できないのはなぜなのかということを考えているうちに、ちょうどこれは貨幣数量説が限界があると言われたのが一八九〇年代、ヴィクセルとかあるいはケインズの理論が出た時期でありますが、そのときもやはり貨幣数量説そのままはうまく当てはまらないという反省から生まれたもので、現代でもそのヴィクセルの考えというのは基本的には正しいのではないかというふうに思っております。
  225. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 このお手元の資料のそれぞれ、小さい字で恐縮ですが、百四十七ページのところに、下の方のアンダーラインのところに、「資本収益率(自然利子率)が低下したために、低い市場利子率の下であってもデフレが定着し、ゼロ金利の下でデフレ均衡に陥っていると考えている。」というこういう御指摘があって、このこと、つまり資本収益率が非常に低下したために、低い市場利子率の下であってもそれが定着してしまった。もうちょっと違う言葉で申し上げますと、市場金利より企業の収益性が低いことが問題なんだということを再三再四おっしゃっておられるわけですけれども、そうすると、この資本収益率のヴィクセルの言うところの自然利子率を上昇させるために、産業再生のために副総裁はどういう政策が必要だとお考えになっておられるんでしょうか。
  226. 岩田一政

    参考人岩田一政君) これにも幾らか書いてございますが、資本の収益率を高めるのは、これはヴィクセル自身もそういうことを言っているんですが、技術革新、科学的な発見とか、それを商業ベースといいますかマーケットでもって売れるようなイノベーションを、成果をマーケットで生かしているような、それが生まれてくるということによって収益率というのは基本的には高まるということでありまして、政策でいうと、例えば今般、政府の方で取られました設備投資減税あるいはRアンドD投資に対する税額控除、こういうような政策は、民間部門のイノベーション活動を促進するという意味では、この資本の収益率を高めるために有益な方策であったんではないかと思います。それから、もちろん規制改革も、これも新しいビジネスチャンスを開くという意味で、これも収益率を高める。さらに、不良債権の解決というのは実は経済全体の資本収益率を高めるというところにあるというふうに思っております。  以上でございます。
  227. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 ということは、基本的に今政府がいろいろ取り組んでおられる産業再生のための政策パッケージに過不足はないというお考えでよろしいですか。それとも、こういうことはもう少しやるべきだと、日銀副総裁として今後総裁やあるいは政府に対して意見具申をされていかれるような点があれば是非聞かせてください。
  228. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そうですね、方向としては私正しいというふうに、これまで取られてきた政策ですね。更にそれを大胆に進めると。ですから、規制改革、今回、経済特区というのがございましたけれども、ああいった試みをもっと大規模に推し進める。あるいは税制改革につきましても、限界税率といいますか、人々がもっと働く意欲を持ちたくなる、あるいは企業がもっと一生懸命利潤を上げて、それを働いている人たちに分配するというような意欲がわくような税制の仕組みというようなものが必要だというふうに思っております。
  229. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 そうすると、例えば、例えばの話ですけれども、税制改正も行われて株式譲渡益課税なんかも税率が下がったんですが、御承知のようにあれなんかは、平成元年まではゼロ税率だったのが、バブルに対する株価の抑制のために若干税率を設けたわけでありますが、こういうような状況考えたら、産業再生のためにも個人投資家の資金が株式市場に向かうためには、元々もう株式市場は平成元年のころとは比べ物にならないわけですから、元々のゼロ税率に戻すなんということなんかについてはどんな印象を持たれますですか。
  230. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そうですね、証券税制につきましてはいろいろな提案があって、基本的には私は、資本の収益率が税引き後でもやはり確保できるというようなことは意味がある。これは投資家のレベルでもそうですし、あるいは企業のレベルでもそういう政策は必要だというふうに考えております。
  231. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 産業再生については何となくお考えの一端を聞かせていただいたんですが、産業再生を成功させて資本収益率を上げていかなくてはならないわけですが、その資本収益率が市場利子率とどういう関係にあるかということが問題だということがもう一つの論点でありまして、これも百四十七ページの上の方にアンダーラインが引いてありますところをごらんいただきたいんですが、「日本銀行が、このテーラー・ルールで示される金利水準よりも高めに金利を維持したことに、デフレの基本的な原因がある」と、こうはっきり述べておられるわけでありますが、そうすると、いつごろからいつごろ、日本銀行の金利運営がやや、ヴィクセルの考えに当てはめると高過ぎたとお考えであったのか、そして現在は高いと考えておられるのかどうか、この二点についてお答えください。
  232. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 最初にテーラー・ルールについてでございますが、これは、市場の短期金利ですね、をどういう水準に置くことが望ましいかということについての一種のルール、政策手段のルールでありまして、需給ギャップが拡大したときは金利を下げる、あるいはインフレが高進したら金利を上げるという極めて基本的なルールだというふうに思いますが、それで見ますと、これは、ここでは連邦準備制度理事会、アメリカが昨年だったと思いますがワーキングペーパーを発表しまして、日本のデフレということで論文を出しておりますが、それで計算をしておりまして、それを見ますと、やはり九〇年代の前半ですね、のところでもう少し早めに金利を下げておくべきであったのではないかという結論を出しております。それから、私、内閣府で経済財政白書というのをやっておりまして、二年目の経済財政白書でも、これは参考図表ということなんですが、そこでもやはり計算しております。結果は同じであります。  それから、もう一つの後半の方の御質問なんですが、自然利子率といいますか、資本の収益率と比べて今の長期の実質金利がどうなのかという、ここの点なんですけれども、これはなかなか自然利子率というのは測るのが極めて難しい、いろいろその測り方がございます。  一つの、私、分かりやすい例は、上場会社の一株当たりの収益というのを、例えば九八年以降ですね、取っていただきますと、これは株価収益率の実は逆数なわけですね、一株当たり収益の逆数であります。これ取りますと、大体平均して一%程度なんですね。ほかのいろいろな自然利子率の計測例というのがございますが、まあ一%程度と、足下ですね。これは実は潜在成長率とかあるいは企業の期待成長率とくすしくもほぼ近いんですが、またそれ近いだけの実は経済学的理由がありますが、それに比べて長期実質金利は幾らかということなんですが、今は名目の長期金利というのは〇・六五%とか、〇・七を切っておりますが、消費者物価の下落率というのはやはり〇・七%下落しておりまして、一・四%あるということなんですね。  さらに、少し強い例を挙げますと、設備投資をしようとする人にとっては設備投資のデフレーターの方が問題だという考えもあり得て、それ取りますと、実は設備投資のデフレーターは十—十二月期に四%、四・一%ほど下落をしております。そうしますと、実は、名目では〇・六五%でも実質では実は五%に近い、あるいは四%に近いという極めて高い実質金利になってしまっていると。そうすると、なかなかデフレからは、このままですとなかなか出られないということかと思います。
  233. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 今の数字をお伺いすると、その実質金利を下げるためには相当大胆なことをやらなくてはいけないというふうに聞こえるわけですが、そういう理解でよろしいでしょうか。
  234. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そこのところを実質金利に、取り方はどの実質金利を取るかということでかなり違いがありまして、仮に消費者物価あるいは企業の物価指数とかそういったものを取りますと、設備投資デフレーターほどは下がっているわけではありませんので、そうしますと実質金利は一・五%とか、差はそんなに大きくないということかと思います。
  235. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 この質問をさせていただいた際の冒頭に、自然利子率というのは測るのが非常に難しいという御発言があって、私もそのとおりだと思うんですよ。だから、その自然利子率を基準にしたヴィクセルの話を持ち出して去年からずっと理論展開をしておられることにちょっと不思議な感じもしておりまして、つまり、測る、計測することが難しいものを基準に政策論議をするということも、これもまた難しいことであろうなと。  それで、ヴィクセルというのは、これはもう学者でもあられる岩田総裁ですから、何か申し上げるのが気恥ずかしい感じがしますが、ヴィクセルは御承知のように、新経済学の三大学派のように、市場原理に基づいて金利をコントロールするだけでは物価というのは決まらないんだと。むしろ財政側とか税制の要因が重要なんだということをどちらかというと指摘した学者だという認識が私にはあって、そのヴィクセルの貨幣と利子のこの本を取り上げられて、しかもその計測がなかなか難しい自然利子率の話でいろいろ理論を組み立てておられるのは、何となく初めに結論ありきのような気がいたしております。  というのも、私が読んだ、過去に僕も読んだことがあるんですけれども、記憶の範囲では、結局、自然利子率が市場金利よりも高いときには、市場金利が自然利子率よりも低いときには累積的にインフレが起きるという、そのインフレのときの話をしているわけですけれども、それと対照的にデフレの話はヴィクセルは論じていないような気がするんですが、それはそういう理解でよろしいでしょうか。
  236. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そうですね、ヴィクセルの理論がどういうところから出てきたかということなんですが、私の理解では、一八七〇年代から九〇年代、イギリスのビクトリア王朝の、帝国のイギリスの華の時代なんですが、同時に没落の時代でもあったと言われておりまして、キンドルバーガー教授はイギリス大不況時代と言っておりまして、二十年間。  それはなぜかといいますと、消費者物価が今日の日本と全く同じように、二十年以上一%程度消費者物価が下がり続けました。その後に、実は金の供給が技術的理由で増えまして、マネタリーベースに当たるものが急に増えたんですが、増えるまでに実は六、七年遅れがありまして、その間に私はヴィクセルの理論とかケインズの考え方が出てきたというふうに理解しております。
  237. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 私が申し上げたいのは、こういう大学者の古典は行間を読んで、書いてあること以外に何を読み取るかというのが大事だというふうによく言われておりますので、書いていないからどうだこうだと申し上げるつもりはありませんが、副総裁が取り上げたヴィクセルにしても、それから先ほど申し上げました小宮先生の本の中でも、金融学会会長としてのフリードマン教授の一九六八年でしたか、会長講演の話も取り上げておられますけれども、そこでもインフレのときの話はしていますけれども、デフレのときの話はしていないんですよね。ようやくその辺の理論とデフレのときの理論が対照的なものとして理論構築をしたのは、クルーグマンのモデルが出てきてからなんですよね。  クルーグマンさんというのは、御承知のとおり、何となく初めに結論ありきの理論構築をしているような気がしますので、私が、これから五年間お仕事をされる岩田総裁に是非より慎重な御検討をいただきたいのは、そのヴィクセル、フリードマン、クルーグマンというのを同じ延長線上で議論をされると、ちょっと違うような気もして、初めに結論ありきの理論構築をしないでいただきたいなというふうに思っております。  その点について、これは要望ですので特にコメントは必要ありませんが、もし御意見があれば聞かしていただきたいと思いますが。
  238. 岩田一政

    参考人岩田一政君) それでは、一言だけ付け加えさせていただきますと、戦前はむしろデフレが経済政策の主な問題でありまして、インフレは戦後の問題だって大まかに言ってもいいと思うんですね。  ヴィクセルも、ですから最終的なところは、デフレと危機の、クライシスというのが実はデフレと張り合わせの問題だというふうに認識していたというふうに思います。その危機をどうやったら脱出できるのか。それは、でも同時に、デフレをどうやって脱出するのかという問題意識だったと思います。  それから、現実にヴィクセルの理論を使ってデフレ脱出といいますかを試みたのが実は一九三一年のスウェーデンの中央銀行であります。これはヴィクセルのお弟子さんたちがそのとき中央銀行に残っておりまして、正にこの理論に基づいて物価水準を一定にするという金融政策を取りまして、それでデフレの時代、世界が一〇%以上のデフレで悩んでいるときに、小国のスウェーデンがほとんどゼロインフレで乗り切ったということがございます。そういう点からも私は注目をいたしております。
  239. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 今後もいろいろと議論をさせていただきたいと思いますが、岩田総裁は、先ほど来申し上げていますこの小宮先生の本の中でも、日銀としてどういう政策パッケージを行うべきかということは明確に述べておられて、そういう意味ではスタンスがはっきりしておられていいなと思うんですけれども、その中でやはり国債の購入を増やすべきだということも言っておられて、一つ確認をさせていただきたいんですが、これ副総裁でも理事でも結構でございますが、先般ここで質問させていただいたときの質問の繰り返しでありますが、やはりこれから長期国債だけでなくて短期国債の保有残高を見ていかなければならないと思いますので、日銀が保有する短期国債の残高が昨年度一年間の平均残高としてお幾らであったかということを、一応数字を確認させてください。
  240. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 二〇〇二年度中の平均残高で申しますと、短期国債保有残高三十一兆円ということになっております。  以上でございます。
  241. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 峰崎先生のところでも御質問がありましたが、銀行券の発行残高との比較で長期国債の保有残高だけ見ればいいのか、あるいはこれも加えて考えた方がいいのか、その辺も今後の大きな論点だと思いますので、議論させていただきたいと思います。  時間も迫っておりますので、先ほどの副総裁のお示しになっている政策パッケージの話でありますが、副総裁は、まあ細かいことは申し上げませんが、井上準之助とか高橋是清大蔵大臣時代の様々な政策パッケージをやれば日本は良くなるということを結論的には申しておられるわけですけれども、おっしゃっておられるわけですけれども、そうすると、そこまではっきり政策の方向性を示しておられれば、今後例えば国債の保有残高を増やすというようなこともひょっとしたら政策決定会合で徐々に決まっていくかもしれないわけですが、仮に副総裁がお示しになっておられる政策パッケージを全部採用しても思うようにならなかった場合はどうされるおつもりでございましょうか。
  242. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 極めて難しい、お答えするのが難しい御質問なのですが、私は基本的には、一九三〇年代に世界の主要国はデフレ一〇%以上に悩んでいて、これはアメリカもそうですし日本もそうですが、きちんと克服できたと。もちろんそのときに副作用がいろいろございまして、今日それを克服する上では、できる限り副作用は最小限にとどめて、それで克服するということが必要なんじゃないかというふうに思っておりますので、そういうことをやるためには、やはり日本銀行政府が力を合わせて、日本銀行だけで全部やりなさいと言われますと、実は私、いつも自然利子率と実質利子率と言ってるんですが、自然利子率の方はやっぱり、民間部門の努力ですとか、あるいは政府がもう少し規制改革とか税制改革で後ろ押しするということがないとなかなか、金融政策で直接動かすことはほとんど不可能。実質金利の方は、多少余地が、金利メカニズムまだ多少残っているので、それを何とか生かせる範囲で生かしてと。波及メカニズムを強化するということもその一つだというふうに思いますけれども。  以上でございます。
  243. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 私が申し上げたいのは、岩田総裁が非常に明確に政策パッケージをお示しになっておられるので、そのとおりの政策が今後行われれば、確かに日銀だけではどうにもならない面はありますが、しかしそのとおりのパッケージが行われた場合に、それでもうまくいかなかった場合はやはりいろいろ議論が起きるということと、もし副総裁のおっしゃったパッケージを採用しないということになれば、それはボードにおいて副総裁の御提案になっている政策手段を、幾つかはそれは効かないだろうという御意見が勝るということになりますので、それはそれで今度そういう判断をされた結果が問われるわけでありまして、実験はできないわけでありますから、たらればの議論は難しいと思いますが、そういうロジックのベンチマークに岩田総裁がお示しになっている政策パッケージがなっているということを是非御理解いただきたいなというふうに思います。  今日は大変長い時間やっていますので、最後にちょっと若干違う話を一言させていただいて終わりにしたいんですが、副総裁は古武道の達人と伺っておりまして、香取神道流というのでよろしいでしょうか。──よろしいですか。何段でいらっしゃるんでしょうか。
  244. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 私事にわたることで恐縮ですが、七段をいただいております。
  245. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 東大の合気道部の監督もしておられて、いや、私はホームページ、インターネットを検索していましたら、副総裁が香取神道流のあの杉野さんという大師範の何か追悼文を書いておられるのをたまたま目にしたんですが、その中にこういうくだりがございました。非常に金融政策にも相通ずるところがあるなと思って是非御紹介をしたかったわけでありますが、体が小さく、体重もないので襟を取れば引き寄せられて重心を失うからである。相手が技を掛けてきたときに、それをくくり抜け返して技を掛けるのであると、こう書いておられて、私はこれ今金融財政の関係に極めて当てはまる話だと思っておりまして、日銀の体が小さいとは思いませんが、日銀だけで日本経済の襟を取って何とかしようと思うのはどだい無理な話でありまして、やはり産業再生とか財政政策とか、政府がやるべきことをやって効果が出てきたところのタイミングをうまくとらえて金融が技を掛ければ一本取れると、こういうことではないかなと思いますが、最後に古武道の達人である副総裁の御所感をお伺いして終わりにしたいと思います。一言聞かせてください。
  246. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 大変、何ですか過分のお褒めのお言葉をいただいて大変ありがとうございます。何とか、私も非力でありまして知恵も十分でございませんが、全力を尽くしてデフレ克服に努めたいというふうに思っております。
  247. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 ありがとうございました。
  248. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 本件に対する質疑はこの程度にとどめます。  どうも長い時間ありがとうございました。     ─────────────
  249. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 次に、保険業法の一部を改正する法律案を議題といたします。  政府から趣旨説明を聴取いたします。竹中金融担当大臣
  250. 竹中平蔵

    国務大臣竹中平蔵君) ただいま議題となりました保険業法の一部を改正する法律案につきまして、提案の理由及びその内容を御説明申し上げます。  我が国の保険業を取り巻く環境は引き続き厳しいものとなっており、各保険会社にあっては、競争力の強化、事業の効率化と同時に、一層の経営の健全性の確保が必要な状況にあります。  このような状況の下、保険業に対する信頼性を維持する観点から、生命保険契約者保護のための資金援助制度の整備を行うとともに、保険会社経営手段の多様化等を図る観点から、保険相互会社への委員会等設置会社制度の導入、保険会社の業務範囲の見直し等の措置を講ずるため、この法律案提出することとした次第であります。  以下、この法律案の内容につきまして御説明申し上げます。  第一に、保険会社が破綻した場合に生命保険契約者保護機構が行う資金援助に関しては、本年三月までの破綻に対応した政府補助の特例措置が整備されておりましたが、現下の生命保険を取り巻く環境にかんがみ、本年四月以降三年間の破綻に対応するため、改めて、政府補助の特例措置を整備することとしております。  第二に、昨年の商法等の改正により株式会社に導入されました委員会等設置会社制度等について相互会社にも導入することとするとともに、相互会社から株式会社への組織変更に関する規定を見直し、組織変更に際して増資を行う場合に基金の現物出資を可能とするなどの措置を講ずることとしております。また、保険会社の付随業務として他の金融業を行う者の業務の代理等を規定するとともに、中間業務報告書の作成、提出の義務付けや生命保険募集人の登録手続の見直し等の措置を講ずることとしております。  以上が、保険業法の一部を改正する法律案の提案理由及びその内容であります。  何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。
  251. 柳田稔

    委員長柳田稔君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。  本件に対する質疑は後日に譲ることといたします。  次回は来る二十四日午前十時に開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後四時四十分散会