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2003-02-19 第156回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十五年二月十九日(水曜日)    午後一時開会     ─────────────    委員異動  二月十八日     辞任         補欠選任      入澤  肇君     泉  信也君      榛葉賀津也君     神本美恵子君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         関谷 勝嗣君     理 事                 加納 時男君                 世耕 弘成君                 今泉  昭君                 沢 たまき君                 緒方 靖夫君                 田村 秀昭君     委 員                 泉  信也君                 小林  温君                 椎名 一保君                 西銘順志郎君                 野上浩太郎君                 舛添 要一君                 森元 恒雄君                 吉田 博美君                 海野  徹君                 大塚 耕平君                 神本美恵子君                 佐藤 雄平君                 藤原 正司君                 藁科 滿治君                 井上 哲士君                 大田 昌秀君    事務局側        第一特別調査室        長        渋川 文隆君    参考人        日本貿易振興会        アジア経済研究        所開発研究部研        究員       国宗 浩三君        国際通貨研究所        理事長      行天 豊雄君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「新しい共存時代における日本役割」の  うち、東アジア経済現状展望東アジアに  おける通貨金融危機教訓再発防止)につ  いて)     ─────────────
  2. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  昨十八日、入澤肇君及び榛葉賀津也君委員を辞任され、その補欠として泉信也君及び神本美恵子君が選任されました。     ─────────────
  3. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会調査テーマである「新しい共存時代における日本役割」のうち、東アジア経済現状展望に関し、東アジアにおける通貨金融危機教訓再発防止について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、日本貿易振興会アジア経済研究所開発研究部研究員国宗浩三参考人及び国際通貨研究所理事長行天豊雄参考人に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多忙中のところ本調査会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。  本調査会では、東アジア経済現状展望につきまして重点的かつ多角的な調査を進めておりますが、本日は、東アジアにおける通貨金融危機教訓再発防止についてお二方から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず国宗参考人行天参考人の順でお一人三十分程度で御意見をお述べいただいた後、午後四時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いをいたします。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、国宗参考人から御意見をお述べいただきます。国宗参考人、よろしくお願いします。
  4. 国宗浩三

    参考人国宗浩三君) ありがとうございます。  それでは、私の方から御報告申し上げる内容に関してなのですが、私の方からは割と大きなお話になるかと思いますが、東アジアの、東アジアと申しましてもいろいろ多様ではございますが、そこをあえて東アジアのというふうに大くくりにいたしまして、東アジア諸国、多くの国が共通して取ってきたような成長戦略経済成長在り方ですね、戦略と言うとちょっと大げさですが、在り方と、その関連アジア通貨危機あるいは金融危機教訓を考えていきたいと。その上で、今後どのようにやっていったらいいのかということに関する私の意見を申し上げたいというふうに思います。  まず最初に、非常に何かやや教科書的で恐縮なのではありますが、まず改めて経済成長というものはどのような形でなされるのかというところからお話し申し上げたいと思いますが、極めて教科書的ではありますが、経済成長の基になるのは財及びサービス生産ということになりまして、これも極めて教科書的でありますが、そのためにはまず労働、それから資本、この場合は工場だとか機械設備などを指すわけですが、そういったもの、プラスやはり何といっても技術が必要である、この三つが相まって生産が行われるのであると。  このように考えますと、経済成長要因というのはこの三つ要素それぞれが増大する、あるいは進歩していくということが必要でありまして、労働増加すること、資本増加すること、それから最後技術進歩することというふうに語られております。ですが、現実的には、更に私は付け加えたいと思いますが、現実的には次の点も非常に重要でありまして、それは生産された財あるいはサービスへの需要があることということが非常に重要であります。  これは更に考えていきますと、一つは全く新しい生産物、かつ有用なものでなければなりませんが、そういうものが生み出されると。そうであれば、それに対する需要というのは非常に約束されているということであります。実は、これは技術進歩の一形態でありますので、そういう意味もあってわざわざ語られることは少ない場合もあるんですが、実際には非常に重要なポイントであると。  それから、これは二番目には、他国から、ちょっと言葉は悪いんですが、競争を通じて需要を奪い取るということであります。これはいろんな要素があると思いますが、一番分かりやすいのは低賃金であること。というのは、一つ生産コスト上の非常に優位性を持つ要因でありますので、そういった形で、競争を通じてですが、需要を、既にある需要マーケットシェアということですね、マーケットシェアを取るという形で対応することができる。  ですが、さらに、これはもう一つは、製造技術の面で低コスト製造技術開発するというような形での対応も有効であると。後者はやはり技術進歩の一形態であるということになって、現実的に見ていきますと、実は技術進歩の中にやや含まれるということで、なかなか細かく語られることはないんですが、現実的には非常に重要な、この需要に対する対応というのは非常に重要なポイントであると。これが一般的な経済成長に関するお話、ストーリーかなと思われます。  ここで、東アジアの場合、最初に申し上げましたように、なかなか一般化するのは少し乱暴ではありますが、あえて一般化させていただきますと、東アジアの場合、これらの経済成長要因というのがどのように関連して、そしてうまく経済成長軌道に乗ることができたかということをまず考えていきたいと思いますが、出発点としては、すべての開発途上国に共通であろうと思われますが、低賃金であり、かつ労働は豊富であるというような時点から出発しております。これはすべての開発途上国に共通することだろうと思います。そうした特徴をうまく生かして、先ほどの経済成長要因というのをそれぞれのポイントを押さえてうまく経済成長につなげていくことができたというのが東アジアの経験だろうと思います。  まず第一に、労働増加という側面から考えますと、これは当然のことながら、開発初期には制約となるのではなくて、むしろ有利なポイントということになるんですけれども、これはただし、経済発展が順調に進むにつれ労働不足に悩む国というのも東アジアでも実際にもう出てきておりますし、それに対する対応というのも必要になってきていると考えられます。特に、例を挙げるとすれば、例えばマレーシアなどはもう既に労働力不足に悩んでおりまして、外国人労働者を導入するなどといったような対応によって対策を取っていると。  もう一つポイントは、単に労働者の数だけを増やせばいいというわけではなくて、ここは労働者の質を高めると。教育であるだとか技術トレーニングであるだとか、そういったものも実は非常に重要なポイントになってくるものだと思います。  二番目の、成長要因から東アジア成長経済発展在り方を振り返ってみますと、二番目の要因としては資本増加ということがあります。これは、先ほど申し上げましたように、資本といっても、実際に生産にかかわるのは工場であるだとか、それから機械設備だとか、そういう物的な資本ではありますが、そうした物的な資本の蓄積を進めるためには投資を盛んにやっていかなくてはいけないと。その投資を行うための資金というのは大本は何かというと、まず第一に国内貯蓄ということになります。  ですから、これはあらゆる発展途上国に共通することでありますが、国内貯蓄を奨励するということが非常に重要になってまいります。しかし、それでも足りないことが往々にしてあるというか、経済が順調に伸びているときにはそれでも足りなくなってくると。そういうときには外国からの資金流入に頼るということが非常に多く行われております。  東アジアではそもそも国内貯蓄率というのは非常に高い、ほとんどの国で非常に高くて、そういう意味では国内での貯蓄の動員というのには成功したのでありますが、それ以上に旺盛な資金需要が存在いたしました。そのため、外国からの借入れに対してもかなり寛容な政策を、すべての国ではないですけれども、寛容な政策を取った国が非常に多くございました。特に、ASEAN諸国はそういう国際的な金融取引自由化に積極的に九〇年代取り組んだということであります。  三番目に、技術進歩という観点からでございますが、これは実は東アジアと申しましても、いわゆる比較的先に経済成長を達成したNIES諸国韓国だとか台湾だとか香港だとかシンガポールだとか、そういった国と、それからやや後から経済成長軌道に乗ったASEAN諸国では随分趣が異なるポイントでありまして、NIES諸国の場合はかなり先進国技術を模倣して、ある程度独自に技術開発を行う力を付けてきております。  一方、ASEAN諸国の場合は、これはかなり程度先進国、特に日本などからの直接投資依存すると。直接投資で招き入れた外資系企業技術力依存して技術を高めていったという側面がありまして、この辺りは非常に同じ東アジアと申し上げましても様相が先行組後発組とでは違っているということが言えるかと思われます。  最後に、生産された財への需要側面から考えますと、当然、いずれの国も発展初期段階では周りの国あるいはほかの先進国と比べて賃金が低い、製造コストが低いというようなところの利点を生かしてマーケットシェアを高めるということが可能でありましたので、そんなに大きな障害ではなかったと思われます。  ところが、やはりこれはそういう形で経済発展に成功すればするほどだんだん障害になってくるということでありまして、最も理想的には先ほど要因で申し上げました四番の一の新製品開発力というのを付けられればそれにこしたことはないということなのでありますが、これがなかなかやはり先進国でもそれぞれの国で努力しておるところでありまして、非常に難しい問題であると。ただし、NIES諸国などではそういう形でも対応していかなくてはいけないというような段階に差し掛かっているというふうに思われます。  なお、この点に関しては非常に重要なポイントは、ほとんどの国が小国であり、中国だとかそういうのは除外して考えておりますけれども、小国であり国内需要がそんなに大きくはない東アジア諸国にとっては自由貿易環境というのは非常に大切でありまして、と申し上げますのは、国内で作ったものを売りさばこうと思ってもなかなかそんなに大きなマーケットではないということでありますから、そういう自由貿易環境が維持される中で順調に経済発展を進めてきたと。こういう、大体整理いたしますとこのような形で東アジア経済発展というのは見ることができるのではないかというふうに考えております。  こうした観点から見ると、東アジアの場合、これは利点というか、いい点と悪い点というのは裏腹になっておるわけですけれども、やっぱり特徴として外国に対する依存というのがいろんな側面で大きいというところがあるのではないかということでありまして、次にそれを三つ依存という形でまとめさせていただきました。  その三つ依存関係と今回のアジア通貨危機金融危機関係という観点から次にお話しさせていただきたいと思いますが、第一点目は外国資本への依存というふうにまとめさせていただきました。  これは、特に危機の直前には一部の国で非常に問題になっておりました。具体的にはタイなどで非常に大きな問題になっておりましたが、いわゆる純輸出、これは輸出から輸入を引いた値なんですけれども、それは非常に大きなマイナスになっておりまして、もっとありていに言えば輸入が超過していると。結局、そうなりますと、その輸入代金ファイナンス、国全体で考えた場合にはファイナンスをどこかで付けなくてはいけないと。それを結果としては巨額の資本流入に頼っているという形になっておりました。このために、資本流れが急激に逆転したことが原因で、原因というかアジア通貨危機の主なメカニズムということで申し上げますと、資本流れの急激な逆転というのが極めて大きな影響を持ったというふうに考えることができます。  しかも、先ほど申し上げましたように、金融取引自由化にも非常に寛容でありましたので、多くの企業外貨建てで借金を行っていると。そうなりますと、通貨価値が下落したことによって借入れの実質的な負担というのが到底返せないような形で膨れ上がると。それが結局は金融危機を引き起こすまで深刻化するというような形で、今回のアジア通貨危機及び金融危機というのは起こってきているというふうに考えられます。  しかしながら、危機の後五年、六年とたちまして、その間に為替レートが切り下がったことなどが非常に大きな要因ではありますけれども、そういう対外収支の面でも非常に現在では改善してきている。その結果、外貨準備各国非常に十分な、十分過ぎるぐらいの外貨準備を既に蓄えるにまで至っておりまして、少なくとも当面ということでありますが、同様の通貨危機というものが東アジア地域を襲うということは、その当面というのはどのぐらいに見るか、ちょっとなかなか申し上げにくいんですけれども、少なくとも現状ではおそれは非常に低いのではないかというふうに考えております。これが一つ目依存、特に通貨危機原因というかメカニズムに非常に関連している依存関係であります。  それから、二つ目依存関係として貿易への依存というふうにまとめさせていただいたのですが、これはこの赤表紙参考資料の方の私の論文最初の二本、印刷していただいているのですが、一本目の「変化への対応能力 問われるアジア成長戦略」という論文の中の、論文のページで言うと九ページになっておりますが、その表の一というのをごらんになっていただきたいのですが、ここで財・サービス輸出GDPに対する、国内生産に対する比率というのを掲載させていただいているのですが、一九九〇年と二〇〇〇年の値をそれぞれ挙げております。  それで、二〇〇〇年の方を見ていただくと、マレーシアが一二五・七%、香港が一五〇%、一・五倍ということです。それからシンガポールに至っては一七九・五%というような、それぞれ国内規模が非常に小さいということもあるんですけれども、財・サービス輸出というのがGDPと比べて非常に大きな額になっております。  これら三か国は非常に極端ですが、それ以外の諸国も五〇%とか四〇%ぐらいの大きさがあります。ちなみに、その表の下の方を見ていただきますと、日本はたったの一〇%、それに対してどれだけ輸出というのが各国経済に、小国の多い東アジア各国経済に大きなインパクトを持っているかということがお分かりになるかと思われます。中国に関しては、これは中間に相当するわけですね。かなり国規模自体が大きいですので、それほどほかの諸国ほど値は大きくないんですが、もちろん日本よりは貿易に対する依存というのは大きいと考えられます。  それからもう一つは、一九九〇年と二〇〇〇年の数字を挙げておりますが、シンガポールを例外として、シンガポールは横ばいなんですが、それ以外の国はこの十年間で非常に輸出GDP比率を上げてきている。こういったところから見ても、貿易への依存というのはますます大きくなってきているというふうに考えることができます。このため、悪い点としては、当然、貿易相手国景気動向に大きく影響されることになります。要するに、世界の全体の景気に非常に大きく影響を受けるという構造的な問題を抱えているということが言えます。  ですが、逆に悪いことばかりではなく、アジア通貨危機金融危機というのは非常に深刻な、勃発した当初は非常に深刻に見られておりまして、十年ぐらいはアジアはもう駄目だろう、東アジアは駄目だろうというような悲観論さえあったんですが、三年ほどで急激に経済の方は回復してきている。これは主に何かというと、輸出の伸びが非常に貢献しているということでありまして、そういう面では悪い点ばかりではなく、アジア通貨危機からの回復の過程では非常にプラスの面が出たというふうに言えるかと思います。  最後に、外国技術への依存という形でまとめさせていただきましたが、これは先ほども申し上げましたが、特にASEAN諸国の場合に非常に大きな問題かもしれないというふうに思われます。  と申しますのは、これは繰り返しになりますが、外資系企業技術かなり大きく依存をしているということであります。例として、何かマレーシアばかり多くて恐縮なのですが、マレーシアが特に極端でありまして、よく取り上げられる例でありますが、一九九五年時点数字で申し上げますと、マレーシア企業数の二割、売上高の三割、輸出の六五%が外資系企業により行われていたという数字がございます。  したがって、そういった外国技術への依存、特に直接投資への依存ということを考えますと、直接投資減少というのは、普通、一つは、直ちに関係するのは国際収支の問題と若干関係するんですけれども、それだけではなくて、これらの国の中長期的な経済成長影響を与える可能性が非常に大きいということが言えると思います。  この点では、非常に近年やはり懸念される点というのは、先進国からの直接投資対象国として中国が非常に魅力的であるということが最近特に言われております。そうなってきますと、東アジアのほかの諸国というのはその割を食う可能性がありまして、非常に重要な技術大本である直接投資減少傾向にあるのではないかと危惧されております。  以上、三つ依存という形で、東アジア成長の、経済発展在り方と、それと絡めた形で、なぜ通貨金融危機というものが起こったのかということとの関連で簡単にまとめさせていただきました。  最後に、こういった観点から、通貨金融危機教訓と残された課題という形で若干私の私見を申し上げたいと思いますが、三点にまとめさせていただきました。  まず第一に、第一にというか、これは全体に係るわけですが、以上申し上げましたように、東アジア開発戦略あるいは経済発展在り方というのは、基本的に、いい意味でも悪い意味でも対外依存というのが非常に大きいものであった。そこから、まず通貨危機というのは外国資本への依存というのが主因となった、あるいは主なメカニズムとなって、その問題点の表れとして発生したものだと考えられます。ですが、少なくとも現時点では、なくなっているというのは私、ちょっとこれ、言い過ぎたと思うんですけれども、現時点ではそれほど大きな脅威にはなっていない。将来的には、しかしながら、対応していく必要が当然ありまして、まず言えることは、開発資金を海外の資金に頼り過ぎたということが教訓として言えるのではないかと。幸いにして東アジアはほとんどの国で貯蓄率も高く、その国内貯蓄というのをいかに有効に利用するかということを今後考えていけば、外国資金依存し過ぎるというその問題に対してはある程度対応していくことができるのではないかというのが私の考えであります。  それから、第二点として、貿易への依存という傾向に関してなんですが、これは今後も大きくなることが考えられますし、それから、東アジア経済発展を考える上では非常に重要な点であります。  ですが、この点に関しては一国レベル対応できることではないのですが、やはり世界的な自由貿易体制が今後もしっかりと維持されていくということが、これは東アジアにとっても非常に重要なことであります。ですから、自由貿易体制が継続されるような国際環境の維持に対して、東アジア各国がそれぞれ各国のできる範囲でコミットしていくということが非常に重要な今後の課題であるだろう、これが二点目であります。  最後に、これも非常に懸念される点であるのですが、外国技術への依存の問題であります。  これは先ほど申し上げましたように、ASEAN諸国において最も重要な問題になっていると思われますが、直接投資減少ということは、それがそのまま外資系企業が持ち込む技術の総量を低下させ、経済開発に中長期的な影響を与えるというふうに懸念されますので、ただ、これは相手のあることでありますからどうしてもできることは間接的ではあるんですが、少なくとも直接投資にかかわる規制の自由化であるだとか投資環境の整備などの政策に関して、特にASEAN諸国は力を注ぐ必要があるのではないかと。さらに、良質の労働力を供給できるような人材育成も必要となってくる。これはやはり直接投資を行う場合の企業の選択に影響を与える一つの重要なポイントであると思われますので、そういった課題を解決しながら今後の更なる経済発展を図っていく必要があると。  一方、NIES諸国なんですが、こちらは独自に技術開発を進めることがある程度可能になってきております。直接投資への依存というのもASEAN諸国ほどは高くはありません。ただし、その能力をどういった方向に伸ばしていくか。もちろん、コストを低減させるための技術開発というのは非常に重要な技術開発なのですが、それだけでは非常に限界がある。  例えば、韓国などはDRAMを作る。メモリーですね、コンピューターのメモリーを作る。それに対して、日本よりもずっと低いコストで作れるということで世界を席巻することはできたわけですが、ところが、ある程度までは、例えば日本のお得意様を奪うことによって大きくなることはできるんですけれども、自分世界のトップのシェアを占めるようになってしまうと、コストを低減させればさせるほどどんどんメモリーの値段が下がってしまうということで、自分自分の首を絞めるような状態になってくるというわけでありまして、そうなってきますと、より付加価値の高い製品開発することでないと需要限界に対して対応することができなくなってまいります。  そういった意味でも、NIES諸国の場合は自前の技術開発能力は高まってきてはいるんですけれども、更に、できることならばより付加価値の高い製品を、新しいものを作り出すというような技術開発あるいは技術力を付けていくというような、それが大きな課題になっているというふうに言うことができると思います。  以上、まとめさせていただきますと、東アジア経済発展戦略は、金融を含む国際取引が比較的自由に行われる環境を利用したものでありました。特にそれはASEAN諸国に顕著でありました。しかし、通貨危機の経験によって、金融面で余りにも自由過ぎることは危険であるし、外国資金に頼り過ぎることは危険であるということを学んだと思われます。  一方、貿易面での自由な国際的な取引環境というのは今後も重要であり、それを維持する努力というのは必要であります。  最後に、直接投資環境整備、技術力の向上というのが最大の課題ではないだろうかというのが私の報告の要旨ということでございます。  どうもありがとうございました。
  5. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、行天参考人から御意見をお述べいただきます。行天参考人
  6. 行天豊雄

    参考人行天豊雄君) 行天でございます。  本日は、こういう機会を与えていただきまして大変ありがとうございます。  東アジアの将来というのは、当然のことながら日本の将来にとりまして、現在でもそうでございますけれども、これからはますます重要なことになってくると思います。  御承知のとおり、西半球は米国を中心にいたしましていわゆるNAFTAという経済同盟ができておりますし、これが今着実に南アメリカにも拡大をされておるわけでございます。一方、ヨーロッパは、これも御承知のとおり、EUが着々と拡大をされてまいりまして、恐らく十年、十五年後には中近東近くまでこれが広がっていくということになるでございましょう。  そうなりますと、残されたこのアジアで何とかこの西半球並びに欧州という二大経済圏に対抗できるようなものがないと、この二大経済圏につまみ食いをされてしまうということになりかねないわけでございます。  その意味で、東アジアの中でどうやったら経済面での協力関係を固めていくか、しかもその中で日本がどうやったら日本の国力にふさわしいような指導力を発揮できるかということは、正に今後の日本の国際的な経済外交の最重点課題でなければならないわけでございます。  一九九七年のアジア経済危機というのは、東アジア諸国にとりましては大変なショックであったわけでございますね。御承知のとおり、それまで東アジア諸国は大変な高度成長を続けておりまして、東アジアの奇跡と言われて、二十一世紀は我々のものだという感じが満溢しておったわけでございます。それがこの九七年の危機で、少なくとも当座は全く目の前が真っ暗という感じになったわけでございます。  当然のことながら、一体何であんなことになっちゃったんだろうという反省が非常に行われました。いろいろ事情はあったわけでございますけれども、やはり多くの国が感じたのは、どうも自分たちは今まで余りにもアメリカ、特に米ドルに依存し過ぎていたんじゃないだろうかということだったろうと思います。  この米ドルへの依存というのは、実は二つの面がございます。一つは為替相場の側面、それからもう一つは金の調達の面でございます。  この相場の面からまず申しますと、御承知のとおり、このアジア危機が起こりますまでは、東アジアのほとんど、事実上すべての国が自分の国の通貨を米ドルにペッグしておった。ペッグというのは、一定の相場でもう固定しておったわけでございますね。日本も、御承知のとおり、一九七一年のニクソン・ショックの前までは一ドル三百六十円ということで円をドルにペッグしておったわけでございます。東アジア諸国は、危機が起こるまではほとんどの国が自分の国の通貨をドルにペッグしておったと。一ドルがタイでございますと何バーツであるとか、マレーシアだと何リンギットだということで、相場を固定しておったわけでございますね。  この固定しておったということは非常にメリットもあったわけです。というのは、そういう国にいろいろ金を貸したり投資をしたりする立場にある人、これはアメリカとか日本であったわけですけれども、そういう立場から申しますと、今投資をする、今金を貸す、何年か後にそれを取り戻したいときに、相場は変わらないわけでございますから、その間に相場が動いてしまって損をするということがない、それが保証されておるわけですから、もうこれほど楽な話はないわけで、そういう意味では東アジアの国は外部からの投資を非常に積極的に受け入れることができたわけです。  それと、ドルにペッグをしておるということは、ドルが上がれば自分通貨も上がるし、ドルが下がれば自分通貨も下がるというわけですね。ですから、一九八五年のいわゆるプラザ合意から十年後の九五年までの間、御承知のとおり日本の円が米ドルに対しましてずっと切り上がってまいりましたね。九五年には御承知のとおり七十九円七十五銭という史上最高の相場になったわけですけれども、こういうふうに円がドルに対して切り上がっていくということは、アジア通貨が円に対して切り下がっていくということになったわけで、これは非常にそういう国の輸出にとってはプラスになったわけです。  危機に至る前、東アジアの国が非常に高度成長を遂げたということは、一つには、当時の円高ドル安というものはこういう国に恩恵を与えたということは間違いないわけでございますけれども、今度逆に、東アジアの国の経済の前途に対して、どうもこのままじゃやっていけそうもないなということになりますと、一斉に今まで入ってきていた外貨が国を出ていくと。そのときに相場が固定されておりますと、これはどんどんどんどんと外貨が流出してしまうことになるわけです。  それと、もう一つは九五年以降、御承知のとおり円安ドル高になりましたから、こういう東アジアの国にとっては円に対して非常に競争力がなくなってしまったということもございまして、いずれにしても、実際の貿易とか投資という経済活動がアメリカ一国とではなくて、あるいは日本と、あるいはヨーロッパの国とやっているにもかかわらず、自分の国の通貨をドルという一つ通貨にだけペッグしてしまうというのは非常に良くないということに気が付いたというわけでございます。  それと、もう一つ資金の調達の方でございますけれども、これも今申しましたように、ドルとペッグしておりましたから、東アジアの国には大量の外資、ほとんどがドル建てでございましたけれども、が入ってまいりまして、その入ってきたドルはそれぞれの国の通貨に交換されて、国内投資をされて、これがいろんな形でブームを作ったわけでございます。  ところが、いったんそれぞれの国の経済状態について不安が起こってきますと、一斉にそういう外資が外に出ていくと。ところが、その外資を借りた国内企業の立場からいたしますと、その国の通貨は価値が暴落しておるわけでございますから、昔は例えば二十バーツ返せば一ドル返せたというのが、いつの間にか四十バーツだ、八十バーツだということになってしまって、これはもう当時はそういう外貨建ての債務を負った企業がばたばたと倒産をしていって、これが経済不況を異様に深刻化したわけでございます。  そういう反省から、何とかドル依存を少しでも和らげられないだろうかということがアジア諸国の共通の非常に強い関心になりました。  そのとき、日本もある意味ではチャンス到来ということで、大いに主導権を握ってこのアジア諸国のドル依存脱却の手伝いをしようということでいろいろ実は努力をしたわけでございます。御記憶の方も多いと思いますけれども、当時は日本も、何とか日本通貨、つまり円というものをドルとかヨーロッパの通貨並みに国際的に使われる通貨にしようと、国際通貨化ということに熱心でございました。なかんずく、特に東アジアという国は当然のことながらその三分の二が日本でございますし、東アジア経済力の三分の二は日本のものでございますし、日本貿易あるいは投資が非常に多いものですから、世界のドル並みの基軸通貨になる前に、少なくともアジアで基軸通貨に円をしようじゃないか、何とかならぬかということで努力をいたしたわけです。  この円の国際化につきましては、当時から政府でも、あるいは国会の方でもいろいろと勉強がなされまして、どうしたらいいかということが検討されておったわけでございます。特に、日本輸出企業が何とかしてもっと外国との取引に円を使うようにしようじゃないかと。おかしな話なんですけれども、日本という国は世界第二の経済大国でありながら、自分が行っている外国との取引は実はほとんど米ドルで行われておる。日本からの輸出のうち円で決済をされているものは現在わずか三分の一でございますし、輸入に至っては四分の一、その他の資金取引、銀行の貸付けであるとかあるいは債券の発行などに至ってはほとんどがドル建て。こんな国はほかにないわけですね。世界第二の経済大国でありながら外国との取引に自分の国の通貨を使っていない、あるいは使われていない。何とかこれをしようじゃないかということで、民間の方たちも含めていろいろ検討が行われました。  それと、資金の調達の分野では、今までは余りにもドル建ての融資に依存をし過ぎておったから、何とか自分たちの間で、つまり東アジアの国の間でお互いに資金が融通し合えるような仕組みが作れないものだろうかと。御承知のとおり、世界的な規模にはIMFというのがございまして、これが国際収支の困った国などに資金の融資をしておるわけですけれども、率直に言ってIMFという国際機関は米国を中心とする欧米諸国の発言権が非常に多い、アジアの発言権というのは相対的に非常に小さい。  そこで、何とか自分たちで決められるようなそういう機関を作ろうじゃないかと。これは実は日本が言い出しまして、アジア通貨基金、AMF、エイジアン・マネタリー・ファンドというものを作ろうという構想をぶち上げました。これが九八年のことでございましたが、これは当時タイとかマレーシア、インドネシア等からは非常に強く支持されました。IMFは当然のことながら非常に強く反対、米国も自分影響力が減るということで反対、当時中国はアメリカに脅かされてこれも反対に回っておったわけでございます。しかし、そういう何とかドル依存を脱却して自前でやっていこうという動きが当時はかなり強くなったわけでございます。  ところが、率直に申しまして、その後のこういうアジアの金融自立化への動きは非常に難航しております。うまくいっていないわけでございます。なぜうまくいっていないのかということになりますと、これはいろいろと原因がございます。何しろ、先ほど申しましたように、何とか円をもっと国際的に使われるようにしようという努力は日本としてはやったんですけれども、成果が実はほとんど上がっていない。これは、いろんな面で円が今どのくらい世界的に使われておるかという数字を見てみますと歴然としておるわけでございますけれども、むしろ最近は円の国際的な利用というのは向上するどころか逆に若干低下ぎみになっております。  それから、アジア通貨基金についての動きも、その後いよいよ具体化しようということでいろいろ勉強をしてまいりますといろいろと難しい問題が出てきます。一体だれが金を出すんだ、それから、一体金を出す条件をどうやって決めるんだというようないろんな難問が次々に出てまいりまして、具体化に向けての詰めの進捗というのが率直に言って余りない。むしろ最近は、アジア諸国の間では、そういう資金の融通というよりも、いわゆる自由貿易協定、お互いに物とかサービスが関税その他の障壁なしに自由に動けるような、そういう取決めを作った方が先決じゃないか、むしろ貿易の面で域内の動きを活発にした方が早道じゃないかというような感じが若干出てきておるわけでございます。  こういうふうに、円のアジア基軸通貨化、あるいはこのアジア通貨基金構想というものが難航しております背景には、一つには、確かにアジア危機で非常にショックを受けた諸国経済かなり回復をしてきた。つまり、ひところの大変な危機感というものがその意味では若干薄れたということもございます。例えば、相場の問題につきましても、危機の後、中国香港を除いたその他のアジアの国はドルとのペッグをやめまして、一応建前としては現在変動相場制ということになっておる。ですから、ドルの動きとそういう国の通貨の動きは一応切り離されて市場での需給関係で動くようになってきておりますから、昔のようにドルペッグの弊害というものがなくなってきておる。  それから、東アジア経済が特にアメリカのITブームのおかげで大変早く回復をしたわけでございますけれども、その結果、東アジアに対する投資とか融資なんかもひところ非常に落ち込んだんですけれども、若干持ち直してきておりますし、それからアジア諸国自身がやっぱり自分たちの経済の中の自己改革を非常に熱心にやっておる。これはお隣の韓国なんかが特に金融改革とかあるいは財閥改革で非常に勇気のある思い切った改革をして大きな成果を上げておることは御承知のとおりでございますけれども、いずれの国もそれぞれ努力をしておるということで、かなり危機の当座と比べますと危機感が減ってきたことは事実でございます。  それともう一つは、やっぱり非常に残念なことなんですけれども、ドル依存を脱しようと、あわよくば今度は日本の円主導だということだったのでありますけれども、肝心の日本と米国の経済のパフォーマンスが特に九〇年代後半に非常に大きな差が開いてしまった。アメリカは、御承知のとおりIT技術の積極的な活用による生産性の向上でもってすさまじい高度成長時代に入ったのに対しまして、日本は、バブル崩壊後の停滞がせっかく九六、七年ごろ若干戻ったかと思ったんですけれども、更に二番底に深く沈んでいってしまったということで、日米経済のパフォーマンスに非常に大きな明暗が生じてしまったと。ですから、一時のアメリカよさようなら、日本よこんにちはという感じが全くなくなってしまったわけでございます。  具体的に言えば、日本の金融機関が全くその力を失ってしまったと。かつては円高と巨額な黒字を背景にいたしまして、日本の金融機関というのは正に世界を席巻する勢いであったわけでございますね。ニューヨークへ行ってもロンドンへ行っても最大の貸手は日本の金融機関という時代が八〇年代後半に出現しておったわけでございますけれども、これが正に様変わりになってしまって、今は、御承知のとおり日本の金融機関は一斉に海外活動から撤退を競っておりますし、本体の方も、御承知のとおり不良債権の問題で全く弱体化をしてしまっておると。規制緩和の方も、九六年のビッグバンというのはありましたけれども、必ずしも十分ではないと。  その結果、どうも東京の金融市場、資本市場は少なくとも海外の人にとっては魅力がないと、少なくともニューヨークとかロンドンと比べた場合に全く比較にならない。ニューヨーク、ロンドンのみならず、香港とか上海とかと比べても見劣りがするということになってきておるわけでございます。  それと、やはり忘れてはいけないのは、御承知のとおり九九年からヨーロッパでいよいよ単一通貨ユーロが誕生いたしまして、これが正に米ドルに拮抗する世界の基軸通貨、第二番目の基軸通貨になろうとしておる。  それやこれやございまして、残念なことながら、せっかく、アジア危機の直後、アジアでもって沸き起こっておりました日本を指導者として域内の金融経済の結び付きを強化しようという動きは非常に目下難航をしておるわけでございます。  ただ、若干悲観的な感じで申し上げましたけれども、このアジアの金融協力、経済協力に向けての動きがなくなったわけでは決してありません。冒頭に申しましたように、アジアが何とか自分たちで西半球やヨーロッパと対等にやっていけるようにならなきゃならないというその気持ちは非常に強いし、恐らく着実に高まっているだろうと思います。現に、現在でもいろんな形でアジアの域内の金融協力を進めようという動きは進んでおります。ただ、アジア危機の直後のころと比べますと、いい意味で非常に現実的になってきてはおると思います。  一つ、今着実に進んでおりますのは、先ほど申しましたこのアジア通貨基金に向けた動きといたしまして、アジアの国の中央銀行、これは日本銀行も入っておりますけれども、この中央銀行の間で、二つの中央銀行の間でお互いの通貨の貸し借りの予約、これはスワップと呼んでおりますけれども、この取決めをしようということでございまして、これはそういう貸し借りの予約をしておきますと、仮に片っ方の国が何かの事情で金が必要になったときには、その予約を実行して相手の国の通貨を借りるという制度でございます。日本銀行も既に七つのほかの国の中央銀行とこのスワップ協定を結んでおりまして、言うなれば、アジアのいろんな国の中央銀行の間でこういう網の目のようなスワップ協定の仕組みが現在着々と構築されておるわけでございます。  これが将来どう展開するかはまだ必ずしも楽観は許しませんけれども、もしこういう形で各国中央銀行の間の取引関係が密接になってまいりますと、いずれは何かこれを制度化してどこかに資金をプールして、必要に応じてそれを域内の国に貸すという、正に当初のアジア通貨基金構想に似たようなものができる可能性は確かにあるんだろうと思います。  それから二番目は、相場の方の関係なんでございますけれども、要するにアジアの国のジレンマというのは、先ほど申しましたけれども、実際の取引というのはアメリカともやっておるし、日本ともやっておるし、ヨーロッパともやっておると。ところが、使う通貨というのがある場合にはドルであったり、円であったり、ユーロであったりと。困るのは、この三つの主要通貨の間の相場が、これは全く今変動相場でございますから自由に動くわけでございますね、マーケットの需給関係で。特に、円ドル相場というのは非常に動きが荒いことはもうよく御承知のとおりでございますし、最近ではユーロとドルの間の相場も非常に大きく動くようになっておると。そうすると、アジアの国にとると、自分が使っておる通貨がほかの通貨との間で非常に大きく動いてしまう、しかし実際の取引の関係はいろんな国ともあるということで、何とか円、ドル、ユーロの三大通貨の間の相場の変動の影響が小さくなるような手だてはないだろうかということをだれでも考えるわけでございます。  今、その点で一つのアイデアとしてみんなが勉強を始めておりますのがアジア通貨単位という話でございます。これは、簡単に申しますと、頭の中での話なんですけれども、一ドルとか一ユーロとか一円というものの代わりに、このアジア通貨単位、エイジアン・カレンシー・ユニット、ACUと呼んでおりますけれども、このACUというお金の単位を一つ考える。その単位というのは、例えばドルのうち六十セントに相当する分のドル、それからユーロについていえば二十セントに相当するユーロ、それから円についていえば二十円に相当する円というものが三つ一緒になっておるというふうに考えるわけでございますね。  この結果、バスケットと呼んでおりますけれども、このバスケットの通貨というのは一つの単位になるわけですけれども、実際のマーケットでドルが上がって円が下がるということが起こったとしますと、この一ACUの価値というものは、その中にあるドルの価値は上がるけれども、円の価値は下がるということですから、一ACUとするとその価値はドルほどにあるいは円ほどには動かないという、そういう仕組みになるわけでございます。こういうバスケット通貨というものをアジアの中に作って、みんながそれを使うようにすれば、この主要通貨の相場の変動の悪影響というものが相当程度緩和されるのではないかということで、今その勉強が国際的にアジアの中で始まっております。  それから三番目は、これはこの資金の調達とかかわる話でありますけれども、外から金を借りるばかりじゃなくて、自分の国にたくさん貯金があるんだから、その貯蓄を何とか活用できないかと。そのためには、やっぱり国内で債券、ボンドでございますね、債券市場を作って、国内資金がそこで活用されて投資に向かうようにしたらいいじゃないかということで、アジア域内の債券市場を作ろうというのが三番目の今動きだろうと思います。  そんなことで、このアジアの域内の金融協力というのは、これが遅々としてと見るか、着実にと見るかはいろいろ見方があると思いますけれども、一時バラ色の夢が描かれたような簡単な話ではないけれども、少しずつ進んでおるということでございます。  最後に申し上げたいことは、今申し上げたことでお分かりいただいたように、日本とすると、東アジアの将来、特にそれとの経済協力というのは非常に大事なことだと思います。ただ、その場合に、日本が単独の言わば指導者として、ちょうど西半球における米国のような立場でアジア経済を引っ張っていけるのか、円という日本通貨がちょうど世界におけるドルのように主要な基軸通貨になれるのかということを考えますと、非常に率直に申しまして、私はそれは全くの幻想にすぎないだろうと。我々はそういうふうに覚悟しなきゃならないだろうと思います。  現在の日本経済状態、それから将来の成長のスピード等を考えまして、日本アジアにおいてアメリカ並みの単一の指導国家になれる、あるいは円がアジアの単一の基軸通貨になるというのは幻想にすぎない。やはり日本は、その他と協力をして、相対的な意味で力があるという形でのパートナーになっていくことになるんだろうと思います。  日本として何をしなきゃいけないかということは、これはもう非常に明確でございます。すべては国内体制の整備という一言に尽きます。これはかつて、円をどうやったらもっと国際的に利用される通貨にできるかということを検討しました場合も、結局はやっぱり国内の体制の問題でございます。  その国内の体制というのは何かといいますと、具体的にはまず、何はともかく日本の金融機関が体力それから能力を回復するということだろうと思います。つまり、日本の金融機関が十分な資本を持ち海外でもリスクを取る能力が付く、その結果として海外活動が活発にできる、それから様々な金融手法、これはもう世界的にすさまじい勢いで今進歩しているわけでございますけれども、そういう金融技術というものを日本の金融機関がマスターをし、更に前進をさせることによって世界の市場で競争力を蓄えるという、これが第一に大事なことであろうかと思います。  それから、それと同じように大事なことは、やはり日本マーケット、これは長期の資本市場も短期の金融市場も含めてでございますけれども、これをもっともっと外国の人も含めて自由に使える、そこで自由に資金の運用や調達ができる。それから、そういう運用や調達が非常に効率的にできる。それからまた、ほかと比べて日本でそういう取引をすると有利だという、この自由、効率、有利という三つの点において、日本のこのマーケットがニューヨーク、ロンドン、香港、上海、シンガポールというものと匹敵できるようなものにしなければならないということでございます。  具体的に言えば、まだまだ日本では規制が非常に多うございます。これはいろいろと努力はされておりますけれども、いかんともし難い面もございます。  私事になりますけれども、今から十六年前、一九八六年に、私がまだ役人をしておりましたころ、東京にオフショア市場というのを作ったんでございます。この当時から、このオフショア市場では、これはオフショアで国内の市場とは遮断されておるんだから、単に貿易決済だけじゃなくて社債の発行等々資本取引も自由にできるようにしたいとみんなが思ってはおったんでございますけれども、様々な国内の反対で実現をせず、ごく最近やっと社債の発行が自由化されたと。十六年掛かったわけですね、十六年。  それと、税金の問題も非常にございます。  税制のことに関しましては、もうこれは皆様方の問題でございますけれども、何しろ、様々な税制を考える場合に、どうやったら日本経済の国際的な競争力が増すかということがまず判断の大きな基準にならないと、私は日本経済の再生というのは難しいんじゃないかと思っております。余り税制のことについては申しませんけれども、何しろ、どういう税制を作ったら日本経済の国際的競争力が増すかということを是非考えていただきたいと私は思っております。  それから、いわゆるインフラ、いろんな資金の取引を決済する制度であるとか、会計の制度であるとか監査の制度であるとか、そういう金融にかかわります様々なインフラというものの整備も早くやらなきゃいけない。早い話が、先ほど申しましたアジアの域内の債券市場を作ろうというときに当然まず問題になってくるのは、どうやってその債券の売買の決済をするんだと、現物と代金の引渡しをどういう形でするんだという、その決済制度の問題が当然まず重要になるわけでございます。残念なことに、日本ではまだ国債、社債、株式、この三つの債券についての決済制度がばらばらでございまして、統一されたものがない。統一しようという動きはあるわけでございますけれども、全く難航をしております。  会計制度とか監査制度については申すまでもございませんし、それからやはりこの金融の分野というのは、いわゆるITの技術が最も先端的に導入されている分野でございまして、欧米の先進的な金融機関はいかにしてITを金融に取り込むかという努力も大変この十年間やってまいっております。その点でも日本の金融機関はまだまだなすべきことが多いと思います。  それから、最後になりますけれども、何事も人間でございますから、そういう競争力のある人間を育てていって、それをこの金融の分野でも活用するということが大変大事だということでございまして、結論としてはアジア金融協力は進んではおると、日本は恐らくその中で中国と並んで大きな役割を果たすことが期待されていると思いますが、それを実現するためにはなすべきことが非常に多いということを申し上げて、終わりたいと思います。  どうもありがとうございました。
  7. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  これより質疑を行います。  本日は、あらかじめ質疑者を定めず質疑応答を行います。  質疑を希望される方は、挙手の上、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  できるだけ多くの委員の方々が質疑を行うことができますよう、委員の一回の発言時間は五分程度でお願いいたします。  また、質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  なお、理事会協議の結果ではございますが、まず大会派順に各会派一人一巡するよう指名いたしたいと存じますので、よろしく御協力のほどお願いいたします。  それでは、まず森元恒雄君。
  8. 森元恒雄

    ○森元恒雄君 今日は、お二人の参考人の方々には大変ありがとうございました。簡潔に分かりやすく御説明いただきましたので、大分理解が深められたような気がいたしますが、せっかくの機会ですので、二、三お聞きしたいと思います。  まず、国宗参考人にお聞きしますが、ASEAN諸国経済的にテークオフできた要因はいろいろあるかと思いますけれども、例えば円高によって日本からの外資、投資が進んだというふうな条件が非常にタイミングが良かったというふうな点が言われるわけですが、仮にそういうような状況が例えばアフリカ諸国であったとしたらアフリカ諸国もASEAN同様に成長するのかどうかと、そういうような点を検証することによって、更にこのASEANの、何といいますか、特性というか共通性というか、そういうようなものが浮かび上がってくるんじゃないかなと思いますので、そういう点どうお考えかというのを一点お聞きしたい。  それからもう一点は、中国との関係ですけれども、むしろ外資は中国の方に選好する傾向があって、その台頭が脅威となっているというふうにおっしゃったわけですが、その一方で、ASEANは今中国からの積極的な働き掛けもあってFTA構想を具体化しつつあるわけですが、そういう脅威となる相手方と進んでASEANがFTAを結ぼうということが、ASEANにとってそれはどういう効果、影響をもたらすのかと。  これは、別の参考人お話ですと、競合関係ではうまくなかなかいきにくい面があるのじゃないか、むしろ補完関係にある国との間でFTAを結ぶ方が双方にメリットが大きいのじゃないかという話もあったりいたしましたので、ちょっとそういう点についてどうお考えか、お聞かせいただければと思います。  それから、行天参考人の方にお伺いしたいと思いますが、今の日本経済的な混迷の遠因はアメリカとのマネー戦争に日本が敗れたからだと、こういう見方もあるわけですが、単にアジア諸国だけではなく、我が国自体が米ドル依存が非常に強い、専らもうそこに偏重していると言ってもいい状態かと思うんですね。ですから、そういう中からどうして日本自身が抜け出すかということは人ごとでないという感じがするわけですけれども、そういう中で、AMFがアメリカを始めとした国の抵抗、反対で日の目を見ていないわけですけれども、お話しのように、日本の国としてやろうと思ったらできることでさえ十分まだできていないという現状お話しいただいたとおりでありますが、それがなぜできないのかという点を、もう一度そこら辺の障害となっている本当のところの要因は何かという点をお聞かせいただきたい。  一つは、商社、要するに輸出入をやっておるそういう事業者自らが円建てでやらないでドル建てでその決済をしがちなのは何が原因なのかという点が一つと、それから、世界一の債権国である日本が、わざわざアメリカなんかにドル建てで融資をしているというか米国債を買っていると。これは国内の金融市場が魅力的でないからだというお話であったわけですが、それがなぜ規制改革するにしても様々な抵抗に遭って進まないのか。そこら辺を国内資本市場、金融市場を世界に通用するものに改めていくために改善していくに当たって、それが改善することがだれにとってマイナスに作用して抵抗を受けるのかと。そこら辺をもう少し分かりやすくお話しいただければ大変有り難いなと思います。  以上。
  9. 国宗浩三

    参考人国宗浩三君) ありがとうございます。  二点ほど御質問いただきましたが、順番に、完全にお答えできるかどうかはちょっと分かりませんが、お答えしたいと思います。  まず最初に、アフリカ等のほかの途上国においても東アジアあるいはASEANの経験というのはそのまま適用できるのかどうかという、これは非常に難しい御質問というか、非常に私としても完全に答えられるかどうか少し自信はないところではありますが。  まず、実は、今日お話し申し上げたような要因以外に、主に経済成長に対する阻害するような要因というのが場合によっては国ごとに存在する場合があるかと思います。  私は、実はアフリカに関しては余り詳しく調べたことはないのですが、数年前に、何年間かインドの経済改革に関して少し調査させていただいたことがございまして、御存じのように、インドも一九九〇年初頭に、九〇年代初頭にちょっと経済危機の状況に陥りまして、その後、経済をできるだけ開放的にしていこうという自由化政策を取りました。その後、かなり九〇年代通じて経済成長率高まってきておるわけですが、そのインドの経験なんかを見ますと、やっぱり非常に自ら、特にその改革以前は非常に政府がいろんなところに全部介入する、あるいは国営企業なんかを中心にしてすべて経済を運営していこうというような志向が非常に強くて、その辺りがかなり大きな弊害になっていた、これはインドの場合ということでありますが。何かしら経済発展障害になるような、自国ではそういうふうには気が付いてはいないんだろうと思うんですけれども、ものがあってなかなか成長できないということが幾つかの国ではあったんではないか。アフリカに関しても、アフリカといっても様々な国があると思いますので、それぞれそういう弊害を抱えているのではないか。  それから、これも私は経済の面からばかり見ておりますのでどうも不案内なんですが、やはり、例えば内戦が起こっちゃっているような国で経済成長ができるかだとか、あるいは、もっと、これはある程度経済にも関係してくるんですが、経済活動が適切に行われるためには最低限行政がしっかりしていないといけないだとかというようなことがあるんですけれども、そういうものさえなかなか十分にマネージすることができないだとか、これは今日お話し申し上げた経済成長要因の更に前提になるようなことだろうと思うんですけれども、そういったようなことさえ国によっては前提が整っていないというような話も、これも私、アフリカを具体的に自分調査して回ったわけではないんですけれども、よく私どもの研究所の中のアフリカの研究者などから聞いたりするようなことがあるかと思います。その辺りの、あるいは、人材の質が非常になかなかよろしくない、そもそもよろしくないと。  そういうことから考えますと、東アジアの場合は、今日はお話しできなかったというのはもう当たり前のような前提になっているだろうと思うんですが、ある程度の、何というか、制度的なもの、それから人材に関しても日本だとか先進国に比べれば当然劣るわけですけれども、途上国一般で考えればある程度の人材の質みたいなものがそもそも整っていたという前提条件は、これはもうお話の前提として完全にもう私も説明するのも忘れてしまったぐらいの前提としてあったのかなと。そういうことからいくと、なかなかアフリカにも同様に適用できるのかというと、そういった前提条件が満たされれば多分適用できるのではないかというようなお答えになるかなと思います。  それから、二番目の御質問ですが、これも非常に難しいというか、今非常に問題になっているポイントの御質問だったと思うんですけれども、中国がある意味で脅威であると私は申し上げましたが、そうした脅威であるような中国とFTAだとかそういうような協定をどうして結ぶのかという御質問ですが、まず第一に、これは中国側からのイニチアチブが非常に強かったという点が挙げられると思います。それから、第二に、私の申し上げたかった点というのは、中国が脅威であるのはむしろ貿易関係というよりは直接投資の受入先として中国は魅力的であると、そのあおりを受けたのかどうかですが、ここ最近、この数年、ASEAN諸国に対する直接投資というのは横ばいないしは減りつつあるという、そういう意味では脅威であります。しかしながら、逆に、貿易面で言いますと、中国というのは、今後経済がある程度発展するということであれば、そこが一つの大きな需要を吸収、需要というか、輸出を吸収してくれる市場としての魅力というのは非常に高い。これは別にASEAN諸国に限らず、世界じゅうがやっぱりそういう形で中国に対して注目していると思われます。ですから、そういう意味ではASEAN諸国も、単に中国から提案されたからそれに対して対応しているというわけではなくて、やっぱり積極的に中国の市場というのはねらっていこうという思惑でFTAに対して対応しているのではないかと思われます。  以上、完全なお答えはできなかったと思うんですけれども、以上お答えさせていただきます。
  10. 行天豊雄

    参考人行天豊雄君) どうして円がもっと国際的に利用されないんだ、何が原因でできないんだという、これは大変重要な御質問だと思います。正に原因は無数と言っていいほどあると思います。ただ、非常に大ざっぱに考えますと、私は二つあると思います。  一つは、何といっても、この円という通貨に対する信頼とかあるいは好みというものがないと、これは日本人、外国人を含めて円を使おうという気にはならないわけであります。この場合、円の信認というのは正に日本経済に対する信認と同じ意味になります。それから、円の通貨としての魅力、使いやすいというところは、先ほどもちょっと触れました、要するに日本の金融市場、資本市場がどれだけ自由、効率的かつ有利になっているかという話で、この問題がある程度改善されないと、どんなに政府が旗を振ってもみんな自発的に円を使おうという気にはならないんだろうと思います。  というのは、現状は、世界じゅうの人が少なくとも観念的にはドルが一番信用できる、ドルが一番便利だと思い込んでおるわけですね。これはもう長年のそういうドルの信認と、それから有利性によって生まれたもので、御承知のとおり、どんな商売でもいったんそういう商慣行みたいなのができますと、これをあえて変えようというのは、よっぽどドルより円の方がいいなということをみんなが納得いたしませんとそれは変わらないわけでございますね。これはよく経済学では慣性と言っておりますけれども、今明らかにドルに対する世界的な慣性が非常に強いわけなんで、この慣性に逆らって、それを打ち破って円に引っ張ってくるというのは、これはそれだけでも相当大きな努力が要るわけで、率直に言って今までその成果が十分に上がっていなかったというのが一つだろうと思います。  それからもう一つは、これは貿易なり資金取引にかかわっておる企業の中の問題だろうと思います。日本企業もおしなべて、長年にわたってドルを使うことに慣れております。その理由としてはいろいろあると思います。日本輸出入業者のように海外の拠点がたくさんございますと、いろいろな通貨で商売をしたときにいわゆる為替リスクというのは一体だれが取るんだと。本社が取るのか、それとも現地法人が取るのか、支店が取るのか、そういうようなこと等々から、今までは結局、そんな面倒くさいことをするよりはドルで一本化した方が便利だよ、こういうことがかなり日本企業の中には考え方として浸透をしておると。  ですから、実際に現場でやっておる人に、あんた、これから日本の将来のために円建て化を進めなきゃいけないんだよ、だから今あなたがやっているドル建てを円建てに変えなさいと言っても、これは現場の人は絶対動きませんね。どうしたらいいかというと、もしそこの会社の社長さんあるいは銀行の頭取さんが、本当に国益やら自分企業の利益を考えて円建てを増やした方がいいと確信なさったならば、彼は社内で厳命を発するべきなんですよ、これからはもう全部円建てでやれと。どっちがいいかと聞いておったんじゃ絶対動きませんから、やれという命令を出さなきゃいけないんだろうと思いますね。  ただ、こういうことを申し上げた一番の根っこにあるのは、どういう通貨を使うかというのは法律で決めるわけにもいきませんし、国が言ったとおりになるわけでもないんで、この資本主義の市場経済の世の中でありますから、それぞれの会社なり個人というのは、あくまでどれが一番便利か、どれが一番有利かという観点から判断をして使うわけで、そういう判断が生まれるような環境をどうやったら早くできるかということを考えるのが私は一番大事だろうと思います。  何が障害なんだと言われると、要するにそういう環境づくりがなかなか進まない、はっきり言っていろいろ既得権益の問題がございます、これは。それから、役所とか企業の中の縦割りの権限争いの問題もあるでしょうし、いろいろあると思いますけれども、何しろみんなが自発的に円を使いたい、使った方がいいだろうなと思うような環境にするということが私は一番大事なんだろうと思います。  それから、日本がアメリカとの金融戦争に敗れたか敗れなかったかというのは、私はそもそも余り、何か日本の抱えているいろんな問題がアメリカの陰謀にしてやられた結果だという議論にはくみしないんでございますけれども、ただ現在の日本経済が、先ほど申しましたように異常なくらい米国経済あるいは米ドルに依存をしてしまっておるということは、これは否定できない事実がありまして、これは申すまでもなく第二次大戦それからその後の日本経済復興の歴史にゆえんするところが非常に多いわけでございます。  事の善悪は別といたしまして、現在の日本経済が非常に輸出、特に対米輸出に今までは、しかも特定の工業製品輸出依存をするような形になっておるということは、これは事実でございますね。日本貿易自体は国の経済の規模に比べますと大きくはないわけでございますよ、輸出もせいぜい一〇%程度ですから。ですから、本来、対外経済関係というのがそれほど国の経済全体の中で大きな役割を占めなくてもいいはずなんでありますけれども、日本の場合はどうも輸出ということ、またその輸出に非常に関連いたします米ドルと円の為替相場というものに私はある意味では関心が集まり過ぎちゃっているんじゃないかと。ですから、やれ円安になった、やれ円高になったといってメディアを始めとしてみんなが一喜一憂をして、だから経済政策をこうしなきゃいかぬ、ああしなきゃいかぬという議論に非常になりがちでございますわね。そういう状態も私はちょっと考え直してみる必要があるのではないかという気がいたします。  こういうふうに、非常に特定の工業製品輸出に少なくとも金融的に依存をしておる日本の状態は確かに異常でございますね。御承知のとおり、今、日本は国民総生産が四百数十兆に対しまして十兆円ぐらいの黒字を毎年出しておる、要するに輸出超過という格好で。しかも、その七割ぐらいは工業製品なわけですけれども、その結果生まれた黒字はほとんどが米国の国債とか財務省証券に投資という格好でアメリカへ戻っていっているわけなんですね。これはおかしくないのかと。  つまり、片っ方ではそうやって十兆円にも及ぶ黒字を稼いで、それで米国の国債を買っておるわけですから、これはどんどんドル高を進めておるわけでございますね。片っ方じゃ、いや、景気が悪いから円安にしろと。全く精神分裂以外の何物でもないことが今行われているわけでございますよ。
  11. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、大塚耕平君。
  12. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 民主党の大塚でございます。  今日は、両参考人から貴重なお話をお伺いしまして、大変勉強になりました。  まず、ちょっと細かい点で恐縮なんですが、それぞれに二つずつ事実確認というか、更に勉強させていただきたいんですが、まず、国宗参考人におかれましては、レジュメをいただいていますが、この三ページ目に、最後の方で結論として、技術等の「能力コスト低減のための技術開発にのみ注ぎ込むのは危険である。」と、こういうくだりがあるわけなんですけれども、それは私もおっしゃるとおりだと思いまして、具体的に、じゃ、どういうふうにしてそういう状況を回避するのかと。例えば、企業経営において、資本の一定割合をRアンドDに投入するための何かそういうガバナンスルールを決めるとか、何かそういうアイデアがあれば聞かせていただきたいというのが一点。  それから、「まとめ」のところにございますように、「金融面であまりに自由すぎることは危険である」という御指摘なわけですが、そうはいっても、なかなかこういう御時世で規制をするというのも難しいわけですが、じゃ、どういう状態が望ましいと、特に金融面で、思っておられるのかということを御教示いただきたいということであります。  それから、行天参考人におかれましては、やはりいただいたレジュメの二ページ目で、現状のところの御説明で、二国間の中央銀行のスワップ網が整備されますと当初のアジア通貨基金構想に似てくるという御表現があったんですけれども、ちょっと私の理解では中央銀行間のスワップ網とアジア通貨基金というものは機能が違うような気がするものですから、もう少しそこのところを詳しく御説明いただきたいというのが一点。  それから、その下に、アジア通貨単位でACUの御説明をしていただいたんですけれども、その際に、ドルもこのバスケット通貨の対象として入っているという御説明だったんですが、かつてのヨーロッパのECUなんかは、これはドルは入っていないわけでありまして、地域通貨単位ということであればドルは入ってこないような気もするんですが、現実の議論としてドルを入れる方向で議論されているのかどうかということを御教示いただきたいということであります。  それぞれ二点ずつ細かい質問をさせていただいたんですが、あと、ちょっと大きな話としてお伺いしたいのが、これは、次の問題は両参考人にお伺いしたいんですが、先ほど森元先生から、なぜ貿易決済の円建て化が進まないのかというような、そのなぜの理由を聞きたいというお話があったんですが、私も同様に、行天参考人からるる、こうするべきであったけれどもいろいろできなかったので日本はこうなってしまったという御説明があったんですが、なぜそうなってしまったのかということについて御説明いただきたい。これは両方にお伺いしたいです。  御承知のように、経済学でアンチコモンズの悲劇とかアンタイコモンズの悲劇というコンセプトがありますけれども、利害関係者が多過ぎて、言ってみれば公共財、ここでは例えば決済システムとか通貨とかいうものが公共財だと思いますが、余りに利害関係者が多いために、その改革をしようにも、あるいは利用方法を効率的に決めたいと思っても全然身動き取れないという、こういう例を示すコンセプトで、御承知のようにアダム・スミスが言い始めた話ですけれども、どうもこの資本市場の整備とか円を国際通貨にするということにおいては、何か日本は行政や政治あるいは財界も含めて構造的な問題があるような気がして、そこについて是非御見解をお伺いしたい。  とりわけ、今日は高名な行天参考人にお会いできて私は光栄なんですけれども、長く大蔵行政の中枢におられたわけでありまして、大蔵省の、言ってみればこの間の光と影という点について是非忌憚のない御意見をお伺いしたいと、こう思っております。  最後にもう一つ、これは行天参考人にお伺いしたいんですけれども、これもできれば国宗参考人にもお伺いできればと思うんですが、当面の課題展望として、邦銀の体力・能力の回復と、こういうことを御指摘になっておられるわけですが、プロフィールを拝見すると、現時点でも東京三菱銀行の相談役であられて、長く東京銀行にも、経営にも関係しておられたわけですから、一体どうすればいいのかと。今日の本題と少しずれるかもしれませんが、この今の金融問題について、どうすればおっしゃるように邦銀の体力・能力の回復になるのかということについて、これは今、当事者であられるお立場と、あと研究者としての国宗さんにもお伺いしたいと思います。  以上であります。
  13. 国宗浩三

    参考人国宗浩三君) ありがとうございます。  では、順番にお答えしていきたいと思います。  まず、技術力の向上、特に新製品開発するような能力に関してどのように進めていくか、そのアイデアをと。  非常に今日はやはり難しい御質問が多くて、非常に高度な質問が多くて困っておるんですけれども、まず、ここはもう非常にありきたりな回答になってしまうかと思うんですが、やはり教育、あるいは技術教育、こういったものが、地道ではあるんですが、どうしても時間の掛かる、そして地道な方策ではあるんですけれども、これを政府の政策としてはやっていくしかないということが第一点言えると思います。  それから、実は第二点は、むしろその逆の、何というか、インセンティブを付けないようにすると。これはどういうことかというと、私が今念頭にしているのは韓国でしかないんですけれども、やはり政府がかなり主導して特定の産業に物すごく国の資源を投入してくるというようなことを今まで開発戦略としてやってきた。これは確かに、国の規模が小さくて、それで何か一つの産業に特化して一点突破で経済成長を進めると、これは最初は非常に有効な戦略だったんですけれども、先ほど申し上げましたように、例えばDRAMばっかりに特化してしまうというような変な、やっぱりこれは自然にそういうふうになったのではなくて、国がやはりかなりそちらに全体の力を集中させるような政策をちょっとやり過ぎてしまった。  あるいは、今まではよかったんだけれども、これからは、そんな形で余りにも一つの分野に官民の力を挙げてそこばっかりやりましょうというようなやり方ではなくて、もっと多様化したような産業政策というものをやっていく必要があるんじゃないかと。これは主に韓国なんかを念頭に置いたようなことでありますけれども、そのようなことがお答えになるかなというふうに思います。  それから、二番目の御質問に関して、金融面での自由化の行き過ぎというのはどういうことかということなんですが、これは、実は通貨危機の後に、対応策としてマレーシア資本取引の、一時的ではありますけれども規制というのを行いました。その政策が導入された当初はかなり問題ではないかというふうにいろんなところから指摘はされていたのですが、結果から見るとある程度の成功を収めたというふうに言えるのではないかと思います。  そういうような形で、緊急回避的なことではありますけれども、特に急激に資金が流出するような場合の何らかのセーフガードみたいなものはあってもいいかもしれない、れはかなり国によりますが。マレーシアはそれはマネージすることできたんですけれども、インドネシアとかだと非常にちょっと、逆に汚職の原因になったりだとかする可能性もあり、非常に難しいんですが、すべての国に関してそういうことを進められるということではないんですが、少なくともマレーシアに関しては成功であったというふうに言うことができるのではないかというふうに思います。完全なお答えではないんですけれども。  それからもう一つは、余りにも自由化されていたというのは、これもマレーシアの例ですが、隣接するシンガポールマレーシア通貨のリンギが非常に自由に取引されていたと。それから、マレーシア企業の株式だとかいろんなものがシンガポールで非常に自由に取引されていたんですけれども、それを、資本取引の規制と同時にそこで取引するなと禁止するような措置を取ったわけですね。これはある意味では自由化の逆さまだったんですが、逆に言うと、そこまで自由化していたのかということでありまして、ある意味では妥当な措置ではないかと。マレーシアのような小国で、非常に資金の流出入に影響を受けるような国がそこまで国をオープンにしてしまうというのは、やっぱり明らかに行き過ぎた面があったわけでありまして、それを元に戻す、その程度の、これはだから逆行と言うよりは非常に、小国としてはそのぐらいの程度に取りあえずはとどめておいた方がいいのではないかということであります。  それから、共通しての御質問ということに関して、私は余り、十分こちらに関してもお答えできないと思うんですけれども、簡潔にそれぞれお答えしたいと思いますが、一点目の貿易決済の円建て化が進まないのはなぜか。これは私も非常によく分かりませんというのがまず大まかなお答えなんですけれども、もう一つは、やっぱり我々が例えばドルをなぜ個人でも結構、海外旅行だとか結構行くようになるとドルを手元に持つようになったりだとかするんですけれども、それはやっぱり使えるかどうかという点も大きいと思います。  例えばアメリカは非常に赤字を垂れ流しているわけですが、逆に言うと、その赤字の反対側でドルがたくさんみんなのところに既に持たれていると。そのドルをどうするのといったら、アメリカの財務省証券に投資しようかだとかというようなこともひょっとしたらあるかもしれないと。これは行天参考人の方からもう御指摘があったと思うんですけれども、そういう金融市場が対外的に非常に使いやすい形で開放されていればお金が使えるということでありますから、じゃやっぱりドルは欲しいでしょうということになります。  ところが、円を例えば外国人が持ったとしても、その円をどうやって使うんですかというような側面かなり大きいのではないかと。これは一つ側面にすぎないと思いますけれども、簡単な、今思い付く限りのお答えとしてそういうことが挙げられるのではないかと思います。  最後に、邦銀の体力強化に関してどうすればよいかということですが、これも私、もう何か一般論的なお答えしかできないんですが、私の印象では、これは日本の状況を見た印象というよりは、最近、通貨危機以後の金融改革に関しても東アジアの状況を少しフォローしておりまして、これを見る限りでは、やっぱり景気の回復に伴ってかなり不良債権問題が楽になっているというのは東アジアの場合もう明らかであります。そこからいくと、やはり銀行自身の努力というのも非常に重要なんですけれども、日本の場合もやはり景気が回復しないことにはなかなか不良債権の問題自身解決するのは、自力で解決するのは非常に困難ではないかと。これはちょっと日本の問題に関しては外野席に立っている者としての、何というか第三者的な意見ではありますけれども、そういうのを非常に実感いたします。  以上であります。
  14. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 共通質問に関して、行天参考人には、特に共通質問の一番目、何が問題だったかというのは、円建て化が進まなかったということだけではなくて、その背景にある御指摘になったような規制緩和とか決済制度とか税制改正とか、そういうもろもろの改革がなぜ進まなかったのかという、そういう観点で是非御回答いただければ助かります。
  15. 行天豊雄

    参考人行天豊雄君) 最初の中央銀行間のスワップ網とそれからアジア通貨基金が、直接すぐに前者が後者に発展できるとは思いません。まだ具体的な構想というのはどこからも出ておりませんけれども、一つのアイデアとしては、まず中央銀行間のスワップ網で特定の金額がお互いに自由に使えるようになると。その次に、例えば各国自分の持っておる外貨準備の一定の割合をそういう目的のために別勘定に置くとかいうことがあり、それから更にそれが進むと、それじゃその分をプールしようじゃないかと、それを域内の資金援助のために使おうということになりますと、それが一つの基金と呼ぶものに発展できるかもしれないと。そういうふうにまだ非常に厳密でない、進化、発展の過程として考えているということを申し上げておきたいと思います。  それから、二番目のバスケット通貨でありますけれども、これも今勉強されているのは、実を申しますと、ドル、ユーロ、円、三主要通貨だけでできておるバスケットでございます。なぜかと申しますと、今、結局アジア各国にとって一番関心があるのは、この三通貨の間の為替の変動の悪影響をいかに緩和できるかということなんでございまして、そのためには、何しろこの三通貨のバスケット通貨を作ってそれをみんなが使うようにしたらいいんじゃないかという発想で、正におっしゃるとおり、もしアジア経済協力、経済統合がだんだんと進んでまいりまして、ちょうどヨーロッパで行われたように、最終的には通貨も共通通貨にしようじゃないかというふうな話になるといたしますと、その前段階として、当然、御承知のとおりヨーロッパの場合はECUというのがございましたですね。これは八〇年代からだんだんだんだん発達してまいりまして、それが最終的にはユーロになったわけでありますけれども、あのECUと同じように、これは域内の通貨だけを集めたバスケットというものが必要になってくると思います。  ただ、現在は、非常に率直に申しまして、アジアの国というのはほとんどの国がまだ為替管理を何らかの格好でやっている。特に中国なんかは資本勘定は全く自由化しておりませんから、そういう通貨というのは中に入らないわけです、相場が要するに動かないわけですから。ですから、現段階では、アジア通貨日本を除くアジア通貨をこういうバスケットに入れるということは事実上意味がないし、恐らくみんな嫌がるんだろうと思います。  ですから、考え方とすると、まずはアジアの国が為替相場の安定、それから金融協力の前進ということから、この三通貨のバスケットを作って、それがみんなに受け入れられて、みんながもうその使い方に慣れたりした段階で、かつそれぞれの国の自由化が相当進んだと、あるいは国力の違いもかなり均質化したという段階で初めて域内通貨のバスケットという構想が生まれ得るんじゃないかと思います。ヨーロッパでも五十年掛かりましたから、アジアの場合は私は恐らくもっと掛かるんだろうと思います。ですから、こういうアイデアを申し上げると、往々にしてすぐにもできるように思われがちなんでありますけれども、これは決してそんな話ではなくて、少なくとも我々が生きている間には絶対できない話だろうと思いますけれどもね。  それから、その次の円の国際化の問題で、やっぱりこういう話というのは、まずは円の国際化という、円の国際的な利用の向上ということが国の経済全体にとって、しかもすぐあしたの問題じゃなくて、多少中長期的な将来を考えた場合に非常に国益にかなうという判断がまずなければならない。それは、私、今あると思うんです、日本にも。そういう判断が個々の企業のレベルに浸透して、先ほどお話ししましたように、個々の銀行なり企業が、そのとおりだと、だからおれのところも円の国際化のために努力をしようと、たとえ当面のいろいろ不便さとか何とかいうことはあるにしても、その上の国益なり中長期的な見通しを考えてやろうというふうになれば、これは非常に動きやすいと思います。  ただ、今までのところはその間が完全につながっていない。なぜかと申しますと、やはり、例えば円の国際化のために東京の市場へもっと競争が導入されて、はっきり申しまして、銀行にしても証券会社にしても、保険会社にしても整理淘汰が行われる必要があるというような話になりますと、これは当然でありますけれども、それに対する反発は起こるわけであります。  ですから、国益としての円の国際化ということをどうやって個別の企業のレベルにまで一つの同意として生み出すことができるかというのは、これはやっぱり私はかなり政府というか、為政者の側の責任もあるだろうと思いますし、それから企業の方のトップがやっぱりそういうものを理解できるような立場になっていくということも必要でしょう。  今までどうしてできなかったかと言われれば、これは、やっぱりそういう規制の撤廃とか、あるいは税制の改正とか、あるいは基準の統一化といったようなことに関連して、企業間の既得権の問題、それから税当局の税というものについての理念の問題、あるいはその業態間の、これも既得権の話になりますけれども、争いというか、既得権を守るための抵抗という様々な形での抵抗があったことは事実であります。  恐らく、少しずつは進んでおりますよ、これは私誤解のないように申し上げますけれども、少しずつは進んでおると思いますけれども、ほかの国の一九八〇年代以降の変化に比べて我が国の場合は余りにも変化が遅かったと。なぜかと言われますと、やはりこれも非常に一般的な話になりますけれども、日本の場合は、五〇年代から七〇年代にかけてのサクセスストーリーといいますか、成功の体験の印象というか、これがもう全く日本の政治家、官僚、経営者の頭の中に完全に染み込んでしまっておって、やっぱりこの成功体験を一遍忘れてみるということが、これ実に難しいんだと思います。ですから、それができないためにどうしても、既得権というのはいつまでも頑張れば守れるものだと思うし、それから先ほど申しました国益と個別企業の利益というものがすぐに結び付かないという状況になっておるんじゃないかと思います。  それから、日本の金融機関の体力の問題でございますけれども、これは極めて簡単と言っちゃなんですけれども、要するに、第一にバランスシートの質を良くするということと、それから二番目に収益力を高める、この二つに尽きると思います。  このバランスシートの改善の話というのは、申すまでもなく不良債権処理の問題であるし、資本の増強の問題であると思います。それから、収益力の改善というのは、これは銀行の経営戦略の問題でもあるし、それから、要するにいかに魅力のある商品なりサービスが作り出せるかという、そういう能力の問題であるし、それからまた、それをいかにうまくマーケティングできるかという、これは組織の問題でもあると思います。ですから、私はいずれもできない話じゃないんだろうと思います。  現に、数年前と比べれば、私が見る限り、日本の金融機関というのは、恐らく最近初めて本当の危機感を持つようになってきておると思いますね。今までは、率直に言って、危機感があるあると言いながら、実は余りなかったんじゃないかと思いますけれども、ここへ来てかなり真剣にその危機感を持つようになってきていると思いますので、これが言わばきっかけになって、ばねになって、今お話ししましたバランスシートの健全化とそれから収益力の向上という、最も基本的な二つの路線が追求されることを願ってやまない一人ではございます。
  16. 大塚耕平

    ○大塚耕平君 ありがとうございました。
  17. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、沢たまき君。
  18. 沢たまき

    ○沢たまき君 公明党の沢でございます。  両参考人の先生方は、本当に今日はありがとうございました。  興味深く伺って、私は、今、諸先生が質問なさったので、円の国際化というのは幻想と書いていらっしゃるので駄目なのかなと思いつつも、ちょっと伺わせていただきたいんですが、円の国際化について。  一月、今年、財務省が円の国際化推進協議会というのを立ち上げて、その最終報告というのがまとまったわけなんですが、その中で、円をアジアの基軸の通貨として定着させるために、アジアを中心に海外の投資家に国債だとか、それから円建てで資産を持ってもらうようにして、貿易とか資本取引で円を使う機会を増やすことによって日本の市場を活性化しようという、そういう報告だったと思うんですが、これを報じた新聞によりますと、座長をお務めになった吉野慶応大学の教授は、市場が活性化すれば雇用とかオフィスの需要も出てくる、日本経済の起爆剤にもなると強調したとありました。  確かに、円の国際化というのはドル相場に振り回されなくて済むわけで、長年のテーマですけれども、これについては、行天参考人は幻想、この二十三ページには、円がドルとかユーロと実質的な三極通貨となることは不可能と書いていらっしゃいますし、こちらのレジュメでも幻想とお書きになりましたけれども、しかし、るるいろんな原因を今まで伺いましたけれども、もし筋道を立てて円の国際化というのを進めるとすると、その順番といいましょうか、そういうのがどういう筋道で進められるものであるならば進められるのか、これを両参考人に伺わせていただきたいのと、もう一つは、FTAの推進について伺いたいんですが。  世界的な潮流として地域経済統合が進んでおりますよね、ASEANがあって、EUがあって、NAFTAがあって、南米共同市場、ほかに二国間のFTAも百五十以上あると伺っていますけれども。日本シンガポールとFTAを提携したわけですけれども、これは、特に農業問題というのがネックになって進んでいないというのが現状だろうと思っているんですが、この点、既に中国には出遅れているし、また韓国からも追い越されるかもしれないと思うんです。特に中国は、二〇〇一年の十一月のブルネイで開かれたASEANと日中韓サミットで、ASEANとの間で十年以内に特別優遇関税の適用も提案しているわけでありますから、対照的なのは我が国だと思うんです。  ネックはやっぱり日本経済の構造改革であって、最大のものは農業問題だと思っているんですが、先日、日本で開かれたWTOの会議でも農業問題での対立がすごく鮮明になってきていますが、私は、農業を含めた日本の構造改革というのは、国内で解決してからFTAの締結というのではなくて、先にFTA締結という、先に外部からの改革も考えるべきじゃないかなと考えているんです。  ASEANと日中韓を含めた東アジアでの域内経済圏が構築されれば、日本経済もその恩恵を受けることができるだろうと思っているわけで、そのイニシアチブを日本は握るべきだろうと思っていますし、そのためにも日本は、この二十九ページでしょうか、「三度目の開国とも言うべき対外開放」と書いていらっしゃいますが、これをすることで積極的にFTAの推進に取り組んでいくことが大事だと思っているんですけれども、この点について両参考人の御意見を伺わせていただきたいと思います。
  19. 国宗浩三

    参考人国宗浩三君) ありがとうございます。  ただ、一点目の円の国際化に関しては、円の国際化の筋道に関しては、これはできれば私はちょっと御容赦させていただいて、行天参考人の方にお譲りいたしたいかなと思います。
  20. 沢たまき

    ○沢たまき君 はい、結構です。
  21. 国宗浩三

    参考人国宗浩三君) 二点目のFTAに関してなんですが、これは私も、うちの研究所にはFTAだとかに関してかなり研究している者がおりますので、時々雑談程度で話を伺う程度で、私自身がそんなに確固としたFTAに関する意見を持っているというわけではないんですが、ちょっと言い訳がましいですけれども、そういう前提の下で、私の何というか、私的な感想ということでお答えしたいんですけれども。  まず第一に、やっぱり日本は今までFTAのような形で貿易自由化をやってくるという方向性は取ってこなかったということであります。実はFTAの形成ということ自身も、本当にそれが自由な貿易環境につながるのかどうかというのは若干疑問がありまして、むしろWTOであるだとかガットであるだとか、昔の大きな世界的な協議の中で自由貿易体制を広げていこうというのがそもそも本筋だったはずなんですけれども、それが余りうまく進まないという不満、あるいは逆に、FTAを隠れみのにして、世界的な自由貿易の枠組みは、できるだけそっちの方は横に置いておこうというような思惑だとか、いろんな思惑が絡んでいますので、必ずしもFTAに日本がどんどん参加していくということ自身が日本自由貿易体制に貢献する道なのかどうなのか。これは私、ちょっと専門でないので確固とした見解を持っていないんですけれども、やはりその辺のところも一応日本の方向性としてはきちっと考えた上でFTAに対する取組というのをやった方がいいんじゃないかと、感想で申し訳ないんですけれども。  つまり、FTAに乗り遅れているから、だから日本自由貿易体制に貢献できないというふうに考えるべきなのか、それとも本当にFTAを進めていくことによって最終的に自由貿易が達成できるのかどうか、その辺のところから、まず日本の大きな方針というのを定めた上でやっていけばいいわけで、中国に追い越されているから慌てて何とかするというのは、済みません、私、別にそちらの問題にすごく詳しいわけではないので私的な感想ということになりますけれども、まず順番としては、大きな自由貿易体制をどういうふうにやっていくかということに対するストラテジーがあって、そこからFTAに対してどう対応するかという順番ではないかという、申し訳ないですが、余り整理されたというか、全然結論的な御回答ではないんですけれども、という感想を持っております。  以上です。
  22. 行天豊雄

    参考人行天豊雄君) 私は円の国際化は幻想だとは申しておりません。ここをごらんになりますと、「円の国際基軸通貨化は幻想」というふうに書いておきましたけれども、円がもっともっと国際的に利用されるようになるということは、私は、しなきゃいけないし、また可能なことだと思っております。ただし、一部の方が考えておられるように、円がドルとかユーロと並んだ世界の基軸通貨になるかどうか、あるいはアジアの中で円がドル以上に基軸的な通貨になるかどうかという話になりますと、私は予見し得る将来には難しいんじゃないかなというふうに思っておるわけでございます。  なぜ国際化しないのかということは、今までも御質問がございまして、私も感じていることを申し上げましたけれども、結局、繰り返しになりますけれども、みんなが円を使いたいなと思うようにするということが、これは唯一最大の環境づくりというか条件でございまして、そのためにどうしたらいいかということを考える必要があると思います。  吉野さんが座長をされた円の国際化の報告を私も読みました。あそこに書いてあることはすべて正しいと言っていいと思います。私があれを読んで感じたのは、正に、あそこで一番あの研究会が強調されていることは、いかに環境を作るということが大事かと。環境というのは日本国内の様々な制度とかインフラの問題であって、それを整備するということがいかに大事かということを強調されていたと思います。もしそういうことがうまくいきますと、私は、確かに円というのは特にアジアの中で現在以上に相当広範に利用される可能性は十分あると思います。ただ、ドルを凌駕してということになりますと、これは私ちょっと頭をひねりますけれども、少なくとも現状に比べてかなり円の利用が進むだろうということは私は十分可能だと思っております。  貿易の面での円の利用、つまり円建てで取引をして円で決済をするというところは、先ほどお話ししましたけれども、特に円建ての債券の問題は若干それとは違った視点も必要かと思います。  先ほどお話ししましたように、アジア諸国、今何とかして自分の国の中にある貯蓄自分の国の発展のためにもっと有効に使えないだろうかということを一生懸命考えておる。最大のその障害になっておりますのは、国内に債券市場がないんでございますね。つまり、タイならタイの企業がバーツ建てで国内で起債をしてバーツを調達して、それでもって長期の投資を行うという体制が今できていない。それから、国債を出します場合も、国内のそういう債券市場がございませんから、タイの政府が国内で、ちょうど日本の政府がやっておるように、バーツ建ての国債を発行して、それを国民がみんな買って、それで国の財政に貢献するということも実は債券市場という一つのこれもインフラでございますけれども、ができていない。ですから、御承知のとおり、開発途上国の場合は国債を出すといっても全部国外で出すわけでございますね、ドル建てで。その結果、南米の国のように利払いができなくなって破産だという大騒ぎになるということになっております。  ですから、ああいう状態を避けて何とか自分の国の中の貯蓄自分たちで使えるようにしようというのがこの債券市場育成の話でございまして、その場合にやっぱり非常に大事なことがいろいろございます。まず、その国の中だけでやるのか、それともアジアの国で、例えばタイの会社が東京へ来て、東京でバーツ建てなりあるいは円建てなりで資金を調達することができないか。それから、タイの政府も別にドルでなくて円でもって外債が出せないか。これは既に出しているところもございますけれども。  そういう域内での長期の資金の貸し借りがもっと大規模に、かつ効率的にできるようになるためにはどうしたらいいかと。その点で、日本の債券市場というのはアジアの中では非常に発達しておるわけでございますね。それは、一に掛かって大量の国債が出ているということになっておるわけで、何しろこの百四十兆の国債のために非常に日本の債券市場というのは大規模なものになっておって、その意味では日本かなりそのノウハウを持っております。  ですから、そういう意味日本アジア諸国の債券市場を立ち上げる、それを発展させるためにいろいろと技術援助なりあるいは東京市場をアジア諸国の政府や企業に使ってもらうというような形でアジア全体の債券市場発展のために重要な先達になる可能性は私十分あると思います。ですから、それは大いにやるべきだと思いますし、またそういうことが成功いたしますと、恐らく円のその面での国際的な利用、円の国際化でございますね、それは、が進展するだろうと思います。  それから、FTAの話でございますけれども、確かに、片っ方じゃWTOという多国間の話合いが行われておるにもかかわらず、二国間のFTAが非常に最近関心を浴びておるというのは、いろいろ背景はあると思いますけれども、やっぱり多国間の話というのは、前回の東京ラウンド、ウルグアイ・ラウンドの例を引くまでもなく、非常に時間が掛かるし大変なわけですね。  ですから、現在のこのFTAの一種のブームというのは、私は決して、多国間の話は駄目だと、だからそれはもう捨てちゃって、その代わりにFTAだということではないと思います。やっぱり、WTOのような多国間の話がいろいろ時間が掛かるし、面倒も多いんであれば、まずはできるところから始めていこうというのが本当の本音だろうと思いますよ。  ですから、私は、その意味で、FTAというのは決してWTOの多国間の話に、何というか、対立するものではないと思います。というのは、FTAの一番いいところというのは、要するに自由化競争になるわけですね、お互いに、少しずつでも。お互いが少しずつでも、おれはこれ自由化したよと、おまえ何やってくれるのという、その競争がFTAの本質だと思いますから、そういうものがいろんな二国間でできてくれば全体としての自由化のレベルが上がることは私は間違いないだろうと思います。  日本の場合、御指摘のとおり、まだシンガポールだけで、ほかとの話もまだ始まったばかりというところで、シンガポールの場合は、幸か不幸か、一番肝心の農業産品というのはランの花と金魚だけだそうでありますから余り問題がなかったわけでありますけれども、これがほかの国となるとやっぱり問題が起こるかもしれないことはおっしゃるとおりだと思います。  農業の問題というのはこれはどこの国にとっても大変な話でありまして、そう輸出国が言うほど事は簡単ではないと思いますけれども、やっぱり最後のところは、どうやったら日本の農業あるいは農産品というものが国内、国外で競争力が付くようになるかということから考えるのが、これは抽象的でありますけれども、一番基本的だろうと思います。  私は、日本の農産品というのは確かにこれは非常に高いわけですけれども、高いものは売れないかというと決してそうじゃないわけですね。現に、米にしても野菜にしてもいいものは売れているわけですし、それから他のすべての商品についても同じでありますけれども、あるものを作ったらそれが万人に使われなきゃ駄目だということじゃなくて、マーケットにはたくさんのニッチがあるわけですから、そういうニッチをねらった生産というものも当然これからの生きる道として考えなきゃならないわけで、いずれにしても、生産性の向上あるいはニッチ化という形で、日本の農業あるいは農産品というものが少なくともそういう形での競争力を持つようにどうやったらなるかということをやっぱり考えることが恐らくこれからのFTA交渉でも大事になってくるんだろうと思います。  ただ、農業のノの字が出たらもう駄目だという話では、恐らくだんだんと孤立をするんだろうと思いますね。今はアメリカを中心とする輸出国とそれから他方では欧州と日本という図式になっておりますけれども、EUの場合は、これも大変な話ではあると思いますけれども、彼ら自身も農業問題については、特に補助金の問題で非常に深刻な話になっていますから、やっぱりかなりこれからECの農業政策というものは変わってこざるを得ないんだろうと思います。  だから、そうなった場合に、日本もやっぱりそれを無視するわけにいかなくなるんじゃないかという気がしておりますけれどもね。
  23. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、緒方靖夫君。
  24. 緒方靖夫

    ○緒方靖夫君 日本共産党の緒方靖夫です。  最初に両先生に共通してお伺いしたいんですけれども、それはアジア通貨危機の問題です。これはやはり、これをどうとらえてどう今見るかということは、これからの問題、非常に大事な問題だと思うんですけれども、そのさなかに、ちょうど対応案としてはマレーシアのような方式があった、それからタイのような方式があったと言えると思います、ちょっと類型的にはですね。タイの場合には、IMFの処方せんをそっくり受け入れるということをやったわけですね。  この間タイに行ってみると、今のタクシン政権はそのツケを、どうやってその負の遺産を是正するかということが非常に大きな力点になっていて、例えば農村が非常に大きな影響を受けたわけですけれども、そこをどう復興するかと、そんなことに力を入れているということを見てきて、改めてその点では、やはりIMFのそれをすんなり受け入れたということがやはりいろんな問題を起こしているなということを感じたわけですね。  それで、マレーシアとの関係でも、IMFは、そういうやり方については論争があって自己批判をしたという経緯があったと思います。ですから、その点でこの問題についての、何といいますか、IMFなりの教訓、あるいはまたそれぞれの国の教訓といいますか、その点についてお伺いしたいと思います。  それから、今、行天参考人から大変面白い話、興味ある話がありました。それは、結局、貯蓄アジアのためにどう使うかという、その点ですね。これは本当に大きな問題で、結局、アジアで作った富はほかにどんどん持っていかれちゃうということが非常にアジア各国の共通した問題意識としてあると思うんですね。  それで、ちょうどタイのタクシン政権がアジア・ボンド構想というのを提唱しているわけです。そして、それについては、昨年一月に小泉首相が訪問したときにも、検討するというふうに述べたということが報道されていますけれども、これがどういう現実性を持つかということもあると思いますけれども、考え方として、マレーシアのEAEC構想がアメリカを排除するというのに対して、アメリカを含めてやりたいと。APECの首脳会議がタイで今年開かれるわけですけれども、そこで提起するとか、そんなことも報道されていますが、その点について行天参考人に、このアジア・ボンド構想ということの、何といいますか、をどう見るかということについてお伺いしたいと思います。  それからもう一つ、大変小さなエピソードみたいな話になるんですけれども、日本円が基軸通貨になかなかならないという問題について随分議論があったんですけれども、私、一つ経験したのは、中国元ですね、これはもう話にはならないわけですけれども、例えば中国で、カンボジアとの間でもっと観光に来てくれと。今は中国人がどんどん観光に来ていますからね。アンコールワットに来てくれという話を中国政府とカンボジア政府がしたときに、それならば、アンコールワットの地域で中国元が通用できるようにしてくれという条件を中国側が出す。それを受け入れて、アンコールワットでは中国元が流通するという、部分的ですが、局地的ですけれども、そういうふうになっているわけですね。  それから、例えばFTAの問題でも、例えば可能なところからやると。僕もちょっと、この間も少し言いましたけれども、タイと中国との間では全部やらないで、例えば果物のところで、可能なところについては結んでしまうという、そういうやり方をしていると。そうすると、日本の円の力と中国元の力は本当にもう非常にその差は歴然としているわけですけれども、そういう中でも中国かなり、何といいますか、執念を持って自分たちの力を広めるためのことをやる。ところが、日本はそれだけのことがあるのかどうかということをその二つのエピソードから感じるわけですね。  ですから、その点について中国の執念が強過ぎるのか、日本がそれが余りにも弱過ぎるのか、その辺はよく分かりませんけれども、そういう問題についてどうかということ、これについても行天参考人にお伺いしたいと思います。  以上です。
  25. 国宗浩三

    参考人国宗浩三君) では、私がお答えするのは一点だけかと思いますが、通貨危機への対処としてIMFの処方せんはどうだったのかという点に関してお答えしたいと思います。  これに関してはやっぱり専門家の間ではもう相当意見が分かれている、今でも分かれている問題だと思いますので、これは私の個人的な感想だということをお断りした上で、必ずしもほかの専門家は賛同しないだろうという上でお答えいたしますが、基本的にIMFの処方せんは誤りが含まれていたのではないか。  それはやはり、これはよく言われる批判ですけれども、中南米の通貨危機の経験を念頭に置きながら対処してしまった。中南米の通貨危機のパターンというのは、やっぱり国内的に財政赤字が非常に大きかったりだとか、無理な経済運営があって、それが原因経済危機に陥ると。ですので、財政的にもっと引き締めろだとかというような処方せんがIMFの場合中心になってきたと。  ところが、アジアの場合はそういうことではなくて、やっぱりちょっとバブル化していた経済がはじけたりだとか少し金融面の脆弱性が見えたりだとか、そういうのを見て、国際的に非常に簡単に動けるような資金が、特に外国から流れ込んでいた資金が一斉に引き揚げ始めた、ちょっとパニック的に引き揚げ始めたというのがアジア通貨危機の場合の状況だったわけです。  ところが、それに対してIMFが、とにかく財政支出を減らせだとか、国内経済を萎縮させるような処方せんを書いてしまった。これは非常に批判されており、それからIMF自身も実はこの点に関してはほぼ認めているわけです。誤りを認めておりまして、それは当初の経済の落ち込み具合をちょっと楽観視し過ぎたと、IMFとしても、という反省はIMF自身もしておるようであります。実際に政策の修正でも、結構、ちょっと時間掛かりましたけれども、財政支出に関しては緩めていく方向で通貨危機以後対応いたしました。なので、この点に関しては、当初の誤りはあったにしろ、IMFの対応はまあ許せるんではないかというのが私の意見であります。  ところが、私がやっぱりどうしてもIMFの処方せんでずっと疑問だと思っておりますのは高金利の維持という政策であります。  これは、この点が例えばマレーシア方式、今御指摘があったように、マレーシアの方式というのが少しユニークであったのはこの点だと思うんですが、つまり、なぜ高金利が必要かと。高金利というのは、御存じのように、これ自身経済に対しては非常にマイナスの影響があるわけなんですけれども、それをやらざるを得ないのはなぜかというと、これはもう通貨の価値の下落をとどめる方法がないと。それは何でないかというと、資金がどんどん流れ出ていくというような状況になってしまっている。外国から流れ込んできた資金がどんどん流れ出るというような状況になっている。それにふたをするためには金利を高くしてやって資金を引き止める必要がある。金利が高ければ戻ってくるだろうという非常に単純な発想なわけです。  ところが、パニック的な形で出ていこうとしているような資金に対して、あるいは投資家に対して、少々金利を上げたからといって戻ってくるだろうかという問題があるわけです。IMFとしてはやはり、何というか、考え方としてはそこでレギュレートすればいいじゃないかという考え方はどうしても出てこないんですね。やっぱり資金の取引も自由であるべきであるというところから出発しておりますから、パニック的に流出している資金マレーシアのようにある意味で規制して外へ流れ出ないように何とかしようという、そういう処方せんははなから選択肢にないんですね。そうすると、何かというと金利を高くしてやるしかないんじゃないかと。  ところが、結果を見ますと、幾ら金利を高くしても、結局、アジア通貨というのは切り下がっております。通貨危機以前と以後で見ると、インドネシアはひどかったですけれども、それ以外の国でも何十%という形で切り下がっておるわけです。ですから、結局、金利を高くして何を得ることができたかと。通貨の切下げは防ぐことはできなかった、切下がりは防ぐことはできなかったし、結局、国内経済に悪影響を与えただけで終わったというふうに見ておりますので、この点に関しては、ただ、IMFはやっぱりこれしか選択肢はないんだといまだに主張しておりまして、高金利政策に対して批判する論者もおりますけれども、そこに関してはIMFとIMFに対する批判の論点とは相変わらず擦れ違ったままだという状況であります。  まとめますと、IMFの政策のうち二つ、一つは財政引締めということに関してはIMF自身ももう反省しているし、それに関してはやっぱり問題があったと認識している。しかし、金利の引上げという政策に関しては、IMF自身は、いや、それは問題はなかったというふうに認識しているし、その点では批判する立場と相変わらず食い違っているというのが現状かと思います。  以上です。
  26. 行天豊雄

    参考人行天豊雄君) アジア危機関連いたしまして、IMFの特定の国に対する処方せんといいますか、勧告が適切でなかったということはかなり受け入れられるようになったと思います。  確かに、IMFというのがすぐれてアングロサクソン系の、具体的に言うと米国の財務省とかあるいは米国の大手の金融機関の考え方に同調して、結果的にはそれを支援するような政策を取っていたことは間違いないだろうと思います。ただ、そうは言っても、それじゃそれがすべて間違いだったかというと、そうは言えないと思いますね。やはりIMFが原則としておる資本市場の発展自由化ということは、これは基本的にかつ長期的に見れば正しいことであるのは間違いないだろうと思います。  ただ今回の、今回というか九七年のアジア危機とIMFの対応関係で非常にはっきりしてきたことは、やはり資本取引の自由化ということについては国内の体制整備というのがまず大事であると。それは要するに、具体的に言えば金融機関がしっかりしておるとか、いろいろな制度が整備されておるとかいうことでありますけれども、要するに国内の体制がある程度できていないといけないねということと、それから自由化をする場合にも、一遍に何もかもということじゃなくて、ちゃんとプログラムを作って順序立ててやらなきゃいけないねということだろうと思います。この二点に関しては現在ではIMFは一〇〇%同意しております。ですから、その点についてもう議論はないと思いますけれども、当初は確かにこの問題についてIMFが何か一方的にしゃにむに自由化をしようとしておるというふうに見られましたものですから混乱が起こったんだろうと思います。  それから、アジア・ボンドの話でございますけれども、タクシン首相がこの問題について非常に熱心であります。彼が今言っておりますのは、アジア諸国が御承知のスイスのバーゼルにございます国際決済銀行に外貨準備の一部を預ける、それで国際決済銀行、BISと呼ばれておりますけれども、このBISがそれを一つ投資ファンドとして運用をいたしまして、アジアで発行された債券に投資をすると、こういう構想でございまして、BISの方は非常にこれを歓迎しておりますし、アジアの域内でも賛成する意見もあるようでございます。まだ、それほど具体的になっているとは思いませんけれども、ただ、確かにそういう構想が動いておることは間違いございません。  タクシンのねらいがどこにあるか分かりませんけれども、やっぱり今まではアジアの国の外貨準備、これはもう今恐らく一兆数千億ドルになると思います、がほとんど米国の国債あるいは財務省証券、TBに投資をされておるという状態をもうちょっと何とかならぬかと。考えられるのは、正に何らかの方法でそれをアジアの域内で再投資をするということと、それからもう一つは、ドルからユーロ、ヨーロッパのユーロ建ての資産にシフトをさせると。ねらいとしては、アジアの域内の投資資金の増大ということと、それからドルへの依存減少という二つが考えられるわけでございますね。  今のところアメリカは、最初の、つまりアジアの国が稼いだ金がBISを通じてアジア投資されるということについては反対はしていないだろうと思います。ただ、将来、もしアジアの国がドルからユーロへのシフトということを大っぴらに言い出しますと、これは若干問題が起こるかもしれません。中国なんかは多少それを武器にし掛かっているようなところもございますけれども。  これは、しかし、アジアの国にとってはかなり危険なかけである部分もあるわけで、これだけ大量のドル資産を持っておりますアジアの国が、日本はその中でも断トツでございますけれども、御承知のとおり、これがドル資産を売ってユーロ資産に替えるということになりますと、当然のことながらドルの暴落が起こるわけで、それを一体どう考えるの、自分の財産を減らすようなことを自分でするんですかという話になってしまうわけでありますけれども、日本にとってはこれは円の高騰という、暴騰ということになるわけで、ですから、その辺いろいろ利害錯綜しておりますけれども、第一段階の、アジアの金はできるだけアジアで使おうという構想は、これは恐らく私は大方の賛同を得るんじゃないかと思います。  BISを使うのが一番いいのかどうか、それとも、もっとアジアの中にそういうことができる仕組みを作った方がいいのか。先ほど申しましたアジアの中に債券市場を作るというのは、正にBISなんかを通さないでアジアの中で金が回るようにしようという話でございますから、そういうことだろうと思います。  それから、元の国際化の話でありますけれども、今、元は完全に資本取引の管理下にありますから、全然交換性がその意味じゃないわけでございます。  御指摘のような、隣の国で、中国の観光客が行かないと食っていけないようなところへ行って、元が使えるようにしろと言って、カンボジアがはいと言ったかどうか私知りませんけれども、しかし、そういう話は現にどこでも起こっているわけですよ。御承知のとおり、世界じゅうどこへ行っても、子供が群がってきてダラー、ダラーと言うわけですね。みんな一ドル札を欲しがって、これはアフガニスタンへ行ってもペルーへ行ってもどこへ行っても同じ現象で、だからカンボジアの子供が、中国の観光客が来たのでレンミンビー、レンミンビーと言って手を出しておるかどうか知りませんけれども、もしおっしゃるとおり、中国が何か外交的な圧力でもって、おれのところの通貨を使えと言って使わしておるとしても、私はおよそ意味のない話だろうと思います。  問題は、仮にそうやって人民元をもらった人たちがその人民元がどう使えるかという話でありまして、もしそれが自由にほかの通貨にも替えられる、あるいはそれでもって何でも物が買えるというような状態ができれば、そこで初めて人民元の国際化が生まれるわけだろうと思いますので、日本が、例えばハワイは日本の観光客でもっているんだからハワイは円だと言ってもこれは始まらないんですけれども、実際にはホノルルのお土産屋へ行けば円で幾らでも受け取ってくれるわけですね。  ですから、国際化というのは正に、私繰り返して申し上げているように、もらった人がこれでいいんだ、これで助かるんだと思うかどうかの話だろうと思いますよ。
  27. 緒方靖夫

    ○緒方靖夫君 ありがとうございました。
  28. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、田村秀昭君。
  29. 田村秀昭

    ○田村秀昭君 自由党の田村でございます。  お二人の参考人の貴重な御意見、ありがとうございました。  行天参考人に質問をいたします。先ほどからおっしゃっているように、日本東アジアで指導的国家になるために国内の体制を整備すべきだというふうに行天参考人はおっしゃっておられますが、私は、行天参考人がおっしゃっておられるようなことをやれば良くなるとは思いますけれども、指導的国家にはならないと私は思います。大体これから七百年から八百年先までは、今から申し上げる四つの条件を備えない限り、東アジアで我が国が指導的国家にはならないと思います。  一つは、東アジアでは冠たる軍事力を持つということが一つ、最小限度の防衛力を整備するということでは駄目だと。二番目に、我が国の通貨アジアで通用すること、三番目に、我が国の言葉がアジアで通用すること、四番目に、我が国の国家意思をアジア各国に理解させる放送のネットワークを確立すること、以上四点に努力をしない限り、日本アジアの指導的国家にはなれないと私は思っておりますが、間違いでしょうか。
  30. 行天豊雄

    参考人行天豊雄君) おっしゃるとおりだと思います。私も今のままで日本アジアの指導的国家になれるとは思いません。  七百年、八百年先とおっしゃいましたけれども、私はちょっとそこまで先のことはよう分かりませんけれども、差し当たって二十一世紀前半ぐらいの次元で考えてみましても、既にもう国際的な影響力という意味では中国が第一番目になっております。しかし、それ以外の点でも、今のままだと日本はなかなか指導国家にはなれないだろうと。やっぱり軍事力とか文化力とか経済力とか外交力とか、いろいろな諸力の総和によって国の国際的指導性というのは決まるわけでございますから、日本の場合もそういうことを考えなきゃいけないわけです。  軍事力とかほかの話は一応差しおきまして、経済だけについて考えてみますと、現在はまだアジアの中で日本経済が圧倒的に大きいことは間違いない。つい最近までは全アジアの三分の二を占めておりましたし、今でも半分ぐらいだと思いますが、アジアで断トツの経済力を持っているということは間違いないのでございます。  ただ、日本の場合の最も深刻な問題は、労働力人口の問題とそれから生産性の問題だろうと思います。  申すまでもありませんけれども、国の経済成長率というのは、労働力人口の増加率とそれから生産性の向上の率の和でございます。毎年人口が一%増え生産性が二%向上していけば、その国の経済は一プラス二、三%の成長をするわけでありまして、米国が九〇年代になぜ平均三%以上の成長が遂げられたかといえば、米国は九〇年代を通じて毎年百万人労働力人口が増えたわけでございますね。この大半は移民でございますけれども、自然増もございました。それと、IT技術の物すごい活用によって労働生産性が増加をした。したがって、その和としての成長率が高まったわけであります。  日本がこれからどのくらい成長率を維持できるかというのは、正にこの二つの要素がこれからどうなるだろうかと。今の状況では、日本労働力人口に関しては、自然人口は頭打ちになって減少するということでございますし、移民に対しては依然として全く閉鎖的でありますから、日本労働力人口はこれからは増えない、むしろ減るでしょうと。そうすると、その減少を補って余りあるような生産性の向上ができるかどうか。これは結局、技術の問題と資本の効率性の問題でありまして、私は決して不可能なことではないと思いますけれども、非常に難しいことは間違いない。  それと比べますと、中国は、御承知のとおり労働力人口の方は着実に増えておりますし、労働生産性も、少なくとも今までのところは外国技術の導入と自前の努力によって、それでもって七%とかいう高い成長率を維持しておるわけでございますけれども、この格差がやっぱりしばらくは続かざるを得ないんでしょうね。  じゃ、二十年後になるとどうなるのということですけれども、今は、御承知のとおり日本のGNPが恐らくドルに換算しますとアバウト五兆ドル、それに対して中国の方はそろそろ一兆ドルに近づいておるわけで、全体の規模としてはまだ日本の四分の一とか五分の一。人口が十倍向こうはございますから、一人当たりにすると四十分の一とか五十分の一になるわけでありますけれども、この差は非常に大きいわけで、そう簡単に中国経済日本経済を追い抜くということはないと思いますけれども、今申しましたような成長率格差が続いていきますと、これはやっぱり経済の面でも中国の力というのは相対的に非常に大きくなってくると。  現状は、御承知のとおり、ほとんどゼロから出発した中国が、一方では世界最大の生産力、特定の分野についてでありますけれども、を持つ国になっておるし、それからマーケットという意味では、頭数に関する限りはもう断トツに世界一でございますから、そういう経済の将来性というのはこれは確かに非常に大きいわけで、その意味日本はやっぱりよっぽど考えないと相対的な地位というものは下がらざるを得ない。これ、ある意味じゃしようがない面もあるわけですね、それは十倍も向こうは人間がおるんですから。これは、十倍も人間が多い国の経済が大きくなるのはある意味じゃ当たり前でありまして、それはいかぬというわけにもいかないでしょう。  だから、問題はこういうトレンドがあとどのくらい続くのかという話で、これは相当日本の努力によるところがあると思います。中国だけを取れば、もうこれは申すまでもありませんけれども、恐らくあと十年や二十年は高度成長は続くと思いますけれども、その先どうなるかというのは全く現状では分からないと。七百年、八百年先というお話がございましたけれども、そんなに先まで行かなくてもまだいろいろ問題点はあるんじゃないかと思います。  私、最近、有名な中国の研究家の竹内実さんの御本を読みましたところ、大変面白いことを言っておられた。中国の王朝というのは、殷、周、漢、唐、宋、元、明、清、これを見ると、驚くほど一王朝三百年というサイクルがあると。確かにそうなんですな、見てみると。大体中国の王朝というのは、興隆し頂点に達し衰亡していく、その全プロセスが三百年だったと。  そうすると、じゃ今の王朝はどうなのという話になるわけでありますけれども、今の王朝というのは決して一九四九年にできたわけじゃないと。竹内先生によると、あへん戦争、一八四〇年が現中国王朝の始まりであると。そうすると大体今までに百六十年ぐらいたっておるわけで、ということは中国帝国は今や絶頂期に差し掛かっておると。そう言われると、なるほど、そうかなと思わないでもないわけですけれども。したがって、これがしばらくたつとそろそろ衰退の時期に向かって、三百年後には滅亡すると、こういうことになるわけでありますけれども、これもとてもそこまでは我々も生きていられませんから。  恐らく、これから十年二十年というのは中国の、アジアのみならず世界における存在感、発言権、役割影響力というのは非常に強くなってくることは間違いないと思いますので、それを前提にした日本政策を考える必要があるだろうと思います。
  31. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、大田昌秀君。
  32. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 社民党の大田でございます。  お二人の参考人にごく簡単な質問をさせていただきます。  まず国宗参考人でございますが、昨年の十二月号のアジ研「ワールド・トレンド」の方に論文をお寄せになって、その中で、金融取引の面でもグローバル化が進み、資本取引を自由化する途上国も増えてきているので、資本収支の変動が引き起こす通貨危機の危険性は増大していると思われるということを御指摘になっておられますが、通貨危機がまた来るとお考えでしょうか。  それから、行天参考人にお伺いしたいのは、グローバリゼーションというのが不可避だという説と、先ほど来お話が出ております、農業問題も含めて、グローバリゼーションに反対する意見というのも非常に強くなっておりますが、二十一世紀の中期から後半にかけてグローバリゼーションはどのように展開すると御認識しておられるか、その点をお聞かせいただけたら有り難いと思います。  よろしくお願いします。
  33. 国宗浩三

    参考人国宗浩三君) 通貨危機はまた来るのだろうかという御質問なんですが、これは、世界全体を見渡せば、通貨危機は何かもう二年に一回ぐらいのペースで起こっているというふうに言う人もいるぐらいですね。確かに、アジア通貨危機以降、アジア地域では通貨危機に類するようなことはなかったんですが、ロシアであるだとか、それからアルゼンチン、ブラジルと、順番としてはブラジル、アルゼンチンですか、というような形で、確かに二年に一回よりはもっと短いペースで通貨危機は繰り返しているように思われます。  アジアに関して言えば、少なくとも大きいやつが一つありましたし、その後、マレーシアとか一部の国を除いては固定レート制度ではなく今変動レート制度を取っているということもありまして、変動レート制度の場合にはなかなか通貨危機という形では表面化してこないということもありますので、少なくともアジア地域に関してはしばらくは平穏期が続くのではないかと。そのぐらいまでしかちょっと申し上げることは今の段階ではできないかなという感じでございます。  以上です。
  34. 行天豊雄

    参考人行天豊雄君) グローバリゼーションという言葉は非常によく使われるんですけれども、余り統一した定義がないんですね。みんな勝手にそれぞれの考えでグローバリゼーションということを言っているようにも思えます。  ただ、恐らく共通して言えることは、一つは、金とそれから情報の動きが全く世界的になったということと、それからもう一つは、何と言ったらいいんでしょう、価値観がかなり均質化したという、恐らくこの二つが最近言われておるグローバリゼーションの一番大きな要素ではないかと私は思うのでございます。  最初の情報と金のグローバリゼーションというのは、アジア危機に絡んで正に話題になっておるように、特に八〇年代以降、世界的に規制緩和が行われて金が自由に動くようになったということと、それから、これは昔からありましたけれども、特にやはり八〇年代以降、IT技術の発達によって情報の国際伝播が非常に均質かつ即時に行われるようになった。  これは、やっぱりこの二つのことが何をもたらしたかというと、やはり競争ということが本当に国際的になった。今までは競争というのはそれぞれの国の中で行われることが多かったわけで、もちろん国際競争はありましたけれども、しかし、金と情報が完全に国際化した結果、競争の国際化というのがすべての分野で起こるようになった。昔は、例えば不動産が国際的な競争にさらされているとはだれも思わなかったわけですね。しかし、もう現在では確実に不動産も国際競争の下にあるわけで、人間についても同じ。今は日本におっても資格さえあれば外国からどんどん引き合いが来る時代でございますから。競争というもののグローバリゼーションというのがグローバリゼーションの非常に大きな柱の一つだと思います。  それから、もう一つの価値観の均質化というのは、これはすぐれてアメリカ主導の、更に具体的に申せば、政治的にはいわゆるデモクラシー、それから経済的に言えば市場経済という、この二つの価値観というものが少なくとも現状では完全に世界を覆っておるわけでございますね。これは、かつての共産主義、それから中央統制経済が完全に敗北をして、その結果として生まれたものでありますけれども、少なくとも現在ではこのデモクラシーとマーケットエコノミーという価値観が世界を覆っておる。  今世紀の後半どうなるかという御質問で、私は死んだ後のことは余り考えないようにしておるんですけれども、私は、グローバリゼーションの最初の柱、つまり情報とか金の国際的に自由な流れというのは、これは止めようがないと思いますね。これはいかなる政策を取ってみても、必ず抜け穴というかが出てきて、恐らく止めようがないんだろうと思います。ですから、その意味でのグローバリゼーションというのは、どうも私は、もう逆行させるあるいは止めるということは不可能なんではないかという気がいたします。  問題なのは、この二番目の価値観の均質化ということが一体このままずっと続くんだろうかというところでございます。  数年前から反グローバリゼーションということで様々な形でのデモが行われたり、最近ではアングロサクソン的な価値観に対する反発というのがいろんな形で世界じゅうに起こっておるわけで、結局、どうしてそういうことが起こってきたかを考えますと、一方で情報が完全に万人によって共有されるようになっておる。それから、金も自由に動くようになっておる。みんなが何か同じ価値観を持っていると言われるようになっておる。しかし現実は、にもかかわらず、世界の中であるいはそれぞれの社会の中で、やっぱり決定権を持っておる人とそうでない人のグループというのが分かれてしまっておるわけですね。ですから、決定権を持っていない人の立場からしますと、情報がグローバライズした結果、あらゆることはもうみんな分かっておるわけです。知っておるわけですね、世界のどこで何が起こっているか。にもかかわらず、そういう出来事は自分たちの意見とか立場とか感情を全然反映しない。だれかがどこかでやっておるという。私は、何というか、情報は共有されておるけれども決定権は共有されていないという、そのギャップがアンチグローバリゼーションのやっぱり最大の背景にある原因だと思いますね。  ですから、このギャップというのがこれから何十年かを経て一体どうなっていくんだろうかと。新しい均質の価値観というのが生まれてくるのか、それともこの均質な価値観というのが崩壊してしまって、価値観の分裂が起こってくる。それが、じゃどういう政治的、経済的、軍事的な影響を持つのかという辺りがやっぱりグローバリゼーションの今後の問題だろうと思います。まあ、五十年先は分かりませんね。
  35. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 ありがとうございました。
  36. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  これで各会派お一人一巡はしたわけでございまして、本来でございますとこれから自由質疑に入るわけでございますが、すばらしいお二人の充実した御答弁をいただきました。また、三百年サイクルとか、七百年、八百年先の話に行き渡りましたので、四時にもう二分前でございますので、今日の質疑はこの程度といたしたいと思っております。  一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、長時間にわたりまして大変貴重な御意見をお述べいただき、おかげさまで大変有意義な調査を行うことができました。  お二方のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十八分散会