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参考人(
原田恵理子君)
全国婦人相談員連絡
協議会の原田と申します。今日はこういう機会を作っていただきまして、ありがとうございます。
早速ですが、お
手元にあります
DV防止法の
見直しに向けてという
レジュメに沿って
お話をさせていただきたいというふうに思います。
全国婦人相談員連絡
協議会というのは大変古い
団体でして、一九六〇年に発足をしました。
全国の
婦人相談員のネットワーク組織です。各
都道府県に
婦人相談員の会があります。
今日はお
手元にないようですが、一月十日付けで、
DV法の
見直しに向けての提案、
中間報告というものを配らせていただきました。これは各県からの
相談員から出ました要望をまとめたものです。
それで、
婦人相談員がどういう
相談を受けているのかということなんですけれども、今日お
手元に配らせていただきました
婦人相談員の専門性に関する
調査報告書、この黄色い冊子を是非ごらんください。この
報告書の十一ページから十六ページ、図の5から図の10というのが
相談員がどのような
相談を受けているのかというものです。特に図7ですね、十三ページです。図7をごらんください。これ、見ていただきますと分かりますように、
婦人相談員が大変多様な
相談を受けております。ドメスティック・バイオレンスだけではなく、夫以外の
家族からの
暴力、それから子ども時代に様々な虐待を受けて大人になって
相談に見える方とか、それから望まない妊娠で居どころがない、あるいは出産費用がないというような
相談というようなことも受けております。
この
調査は
DV法ができる前に行いましたけれども、婦人
保護事業で受けている
相談というのは、こういうふうに直接的にあるいは間接的に
女性に対する
暴力という問題に
関係している
相談が大変多くなっております。こういう傾向というのは
DV法ができた後も変わっておりません。
今日の
レジュメに三つほど出させていただきました例がありますが、これは、昨年の十月に群馬で
厚生労働省主催の
研修が行われました。これは毎年開催されているものですが、
全国婦人相談員・心理判定員
研究協議会という
研修で、
婦人相談員からの
報告として上がったものです。たくさんありますので、取りあえず三つ出しました。
一つは、売春、覚せい剤の経験があって、両親が
DVであって、それの影響を受けている
女性、それからもう一つは、目の前で母親がレイプをされた、そういう経験を持つ子どもをどのように
援助していったらいいのかということですね。それから三つ目が、売春を強要され傷害事件の
被害者になった
女性が大変重いPTSDを抱えているというような、こういう例が出ました。
この
研修会で、助言者の方が来ていただいていたんですけれども、このような
相談員の
報告を聞いて余りにも知らな過ぎた領域であるというふうに感想を漏らしておられたんですけれども、こういう婦人
保護事業が、
女性に対する様々な
暴力の
相談を長い間受けてきたということがほとんど知られてきませんでしたので、
DV防止法によって
社会の関心が集まるようになったのは良かったというふうに思っております。ただ、
DVにだけ焦点が当たり過ぎて、
相談の受入れが狭くなったという問題があるというふうに感じております。
それはどういうことかといいますと、
DVのケースとそれ以外のケースを選別するというところが出てきたということです。
DV法の前は、売春
防止法を根拠としているという理由で、いろんな
相談を受けてはきたけれども積極的ではなかった、だから窓口で断るということもあったわけです。ですから、
暴力の
被害を受けた
女性が困らないように
DV法ができたというふうに理解をしておりますが、現実には
相談内容を選別をするという傾向が出てきているというふうに感じております。
ですから、今回
見直しに際しましては、
DVだけではなくて
女性に対する様々な
暴力、図にあったようなそういう
暴力の
被害をやはり
援助の
対象として盛り込んでいただきたい。で、どういう問題であっても
相談というのは広く受け入れて、その中から
DVを発見し
援助をしていくというようなことが求められているのではないかというふうに思います。
それでは、なぜこういう選別という問題が生じるのかということなんですけれども、その一つに、
配偶者暴力相談支援センターの
機能が不明確であるということがあるのではないかと私は感じております。
婦人相談所に
配偶者暴力相談支援センターの
機能を持たせるというふうに決まったわけですけれども、このことが
相談を二つのカテゴリー、
DVと
DV以外というふうに分けるということにつながっているのではないかというふうに感じます。ですから、売春
防止法に基づいた仕事をしてきたわけですけれども、
DV法ができる前から現場は既に売防法では対応できない状態になっておりましたので、現場からの要望に基づいて
厚生労働省から何回も通知が出ておりまして、
援助対象は拡大をされてきたという
経過があります。ですから、
DV防止法に合わせて、むしろ売春
防止法をすべての
女性を
対象とするというふうに変えていただきたいというふうに思います。
それから、
DV法の第七条で、
配偶者暴力相談支援センターは「必要な
保護を受けることを勧奨するものとする。」というふうにあります。これが、
DVの
被害者については
保護を断れないというふうに理解をされて、
DVの
被害者を優先をするという傾向につながっているのではないかというふうにも感じております。
それからもう一つは、
配偶者暴力相談支援センターの役割の混乱があるのではないかということです。
配偶者暴力相談支援センターが
全国各地にできましたけれども、それは
保護命令の申立てのためだというふうに思うんですね。ですから、
DV相談すなわち
保護命令というふうになっている傾向があるのではないかということです。大体、
配偶者暴力相談支援センターだけが
DV相談を受けるというのは元々おかしいというふうに私は思います。
配偶者暴力相談支援センター以外の
相談機関、例えば
福祉事務所などでは、自分のところは
DVの専門の
相談機関ではないというふうに受け止めているところが大変多い。
DV相談というのは、
配偶者暴力相談支援センターの仕事なんだというふうに思われている傾向がある。だから、うちは
関係ないと言ってくる、そういう態度を取るところもあるのではないかというふうに感じます。私は
DVですと言って
相談に来る人というのはむしろ少ないわけです。
ですから、
相談というのは、先ほども言いましたが、まずすべて受け入れて、その中から問題を発見をして適切な
援助をしていく、それが
相談機関の役割であるということが忘れられている。
DVにばかり焦点化されているというのは大変問題であるというふうに思っております。
こういう現状がありますので、
配偶者暴力相談支援センターというのはただの
相談窓口ではなくて、文字どおりのセンターとしてやっぱりきちんとした
機能を
法律に明記をしていただきたい。その一つは、
関係機関との連絡調整ということです。それからもう一つは、広域利用の促進ということです。この二つは是非法に書いていただきたいと思います。
関係機関との連絡調整ということなんですが、現実に様々な障壁があります。
レジュメに
生活保護と
母子生活支援施設、それから
児童相談所、家庭裁判所の例を出しましたが、これは昨年の群馬の
研究協議会で
報告をされたものです。
生活保護については、地域格差、これはいつも言われていることですが、東京でできることが
地方ではできないということがあります。それから
母子生活支援施設については、
DVであるということが分かると入所を断られる、これはもう
相談員から繰り返し出ております。それから
児童相談所については、
児童相談所の側に
DVの
認識が足りない、夫の言い分を聞いて
女性を責めるというようなことが大変多いということが言われております。それから、家庭裁判所については調停
委員、特に男性の調停
委員の方の無理解、
女性べっ視の発言が目立つというようなことが群馬では出ておりました。
それから、次の広域利用ということなんですけれども、これは
母子生活支援施設の広域利用なんですが、受入れの
施設が大変少ない。受け入れるという
協力体制が欲しい。先ほど
戒能さんも
お話がありましたが、
全国どこに住もうと同じような
援助を受けることができるように
基準を決めていただきたい。
それから、広域利用というのは
都道府県同士の広域利用だけではなくて、
都道府県内の広域利用というのも進めていただきたいです。やはり追及があると地元では
相談できないという方が大変多いですので、どこの地域で
相談をしても受け入れてもらえるような、市区町村の枠を越えたシステム作りということを
お願いをしたいというふうに思います。
次に、
民間団体との対等な
関係ということを是非考えていただきたい。
保護委託という現在の
制度は、民間の財政基盤の確立につながっていないというふうに思います。
委託をするということになっておりますので、公的な機関が主導です。ですから、対等とはやっぱり言い難い状態です。私は行政でなくてはできないことというのがやっぱりあるというふうに思っておりますが、それ以外のこと、特に具体的で直接的な
援助については
民間団体に積極的に任せていくというような姿勢が必要ではないかというふうに思います。公的な機関はむしろ、複合的な問題を抱えて専門的な
援助が必要な人、あるいは追及があって危険な人を積極的に受け入れていくべきだというふうに思います。
それから、
暴力の
被害を受けた
女性が主体的に
援助を求めることができるようなシステムが今ないですね。
民間シェルターも含めて、どこも
福祉事務所からの経由で
保護を受けるというふうになっている。それは
生活保護との調整がうまくいっていないからなんですね。受けた後で
生活保護を申請するのが大変難しくなるので、
福祉事務所からの依頼で受けるという傾向が断然強くなってきている。これはやっぱり問題だと思います。ですから、
女性が主体的に直接利用できるようなシステムを作っていただきたいというふうに思います。
次に、
DVの
防止委員会、仮称なんですけれども、それと第三者機関というものを作っていただきたい。
DVの
防止委員会というのは、簡単に言いますと、
DVの対応の
施策とか
被害者支援策を、国、
内閣府レベルですね、それから
都道府県、そして政令指定都市レベルで
設置をして、そこで
全国共通の
被害者支援策というものを話し合って決めていただきたい。その
構成メンバーというのは、
研究者だけではなくて、NGOの代表とか
DVの
被害を受けた人とか、あるいは実務をしている専門家とかが
一定の
割合で参加できるようにしていただきたい。
それから、第三者機関というのは二次
被害の
防止のための機関ということですので、
被害者や
関係者からの苦情を受けて
DVの
防止委員会に提言をしたり、改善命令を出すというようなことをやっていただけると大変現場は変わるのではないかというふうに思います。ですから、二次
被害の実態を明らかにして、それを基に
研修をやっていただきたい。漠然とした
研修よりはずっと効果的な
研修になるというふうに思います。この第三者機関というのは、行政の内部機関としてではなくて、やはり行政から距離を持ったものとして
設置をしていただきたいというふうに思います。
次に、
保護命令の改善なんですが、もう
戒能さんのところで
お話が出ましたので、私は一言、
援助者にも
保護命令が使えるようにしていただきたいと思います。この専門性の
調査報告書の二十一ページの図14というのを見ていただきたいんですが、実際に
援助にかかわる
相談員も大変危険にさらされておりますので、そのことを御
配慮いただきまして、先ほど
弁護士の例も出ましたが、
援助者にも
保護命令が使えるように考えていただきたいというふうに思います。
それから、関連法というところで精神障害者の
施策と
連携をしていただきたいというふうに思います。
群馬の
研究協議会での
意見として、先ほどPTSDが重くなって精神病院に緊急入院をした方の例というのを挙げましたが、
男女の混合の閉鎖病棟なので、入院はしたんだけれども違う問題が生じたというような話がありました。このとき助言者の方から、精神病院というのは
男女混合病棟というのが時代の流れなんだけれども、現実には、PTSDの
女性が入院患者さんの男性を見て大変不安定になるというようなことがあるというような
お話もありまして、病院を作るときにはそういうPTSDの人たちが入院をしてくるというような事態は想定をしていなかったというようなことも言っていらっしゃいました。
それから、先ほども言いました母親がレイプされた経験を持つ子どもがPTSDを抱えているんだけれども、その
ケアをやってくれる精神科医が見付からないということがあります。現場ではこういう状態というのは大変大きな問題ですので、精神障害者
施策との
連携というのを是非
お願いをしたい。
被害者の
自立支援ということも必要なんですけれども、現実には
暴力の
被害のために働けない方が大変多いです。ですから、仕事ができなくても安心して長期に暮らせる場所、名前はステップハウスでも何でもいいんですけれども、やっぱり安心して暮らせる場所を是非作っていただきたいというふうに思います。
精神障害者の
施策の中にグループホームというのがあるんですね。これを
DVの
被害を受けた
女性が利用できるようにしていただけないでしょうか。現在は
男女混合ですので、
DVの
被害を受けた人は利用できない。
DVの
支援策としてまた別にグループホームを作ると、今度はまた、この人は
DVか
DVじゃないかという選別が始まるおそれがありますので、私は現在ある
施策を
DV被害者も使えるように、使って有効にしていただきたいというふうに思います。
時間がありませんので、最後、ちょっと飛ばさせていただきまして、最後の「よりよい
援助のために」というところです。
今度の
法律に、是非
被害者の権利というのを書いていただきたい。
現在は、
DVの
被害を受けるということは、心の傷、PTSDになる、だから治療が必要なんだというとらえ方が大変強いというふうに感じております。
暴力の影響というのは確かに深刻なんですけれども、そういう中でも暮らして、子どもを育てて、そういうたくましく生きている人というのがやっぱりいらっしゃるわけなので、そういう
被害者のたくましさにやっぱりもっと焦点を当てていただきたいというふうに思います。
被害者はいつも
援助を受ける側ではなくて、様々な権利があって、それを守るのが
援助だということを法の中に明記をしていただきたい。
それから、現在の
法律というのは、具体的な
支援策としては
保護命令と
被害者の
保護だけなんですね。だから、シェルターの前とシェルターの後の
施策がない。シェルターを出た後は突然
自立支援というふうになってしまっているんですね。
この
自立支援ということは、先ほども言いましたが、
暴力の影響を受けた
被害者にとっては大変重たい言葉でもあります。ですから、
被害者の
実情に合わせた多面的な
援助というものを地域に密着した形で作っていただきたい。今のように、
都道府県に一つ
配偶者暴力相談支援センターがあっても地域ではなかなか
援助が難しい。ですから、市区町村で具体的な
援助ができるような仕組みを、そしてそれを
民間団体が担っていくような財政基盤の確立ということも是非
お願いをしたいというふうに思います。
それから最後に、
婦人相談員の活用を
お願いしたい。
レジュメに書きましたが、群馬の
研究協議会でも、
DV法ができて、仕事が
電話相談だけになってしまったというのが大変多く出ました。私たちの会には、
相談員が、非常勤がいるところなどは非常勤の
相談員に任せておくわけにはいかないというふうに言われて、ひどいところでは首だと言われたというような声も聞いております。私個人は、非常勤である方が多様な人材を確保できる、それから経験を積めるというふうに考えておりますので、
婦人相談員の有効な活用ということで考えていただきたいというふうに思います。
被害者には長期にわたるサポートが必要です。そのためには、単に
保護だけではなくて、いろいろな
社会資源をコーディネートしていく、そういう役割を果たす人が絶対に必要なんですね。そういう人がいなければ、いろんな
制度を作っても生かされないわけです。やっぱりそういう役割を果たすものとして
婦人相談員を是非活用していただきたい。そして、できれば、今
婦人相談員は
都道府県にだけ義務
設置なんですけれども、市区町村にも義務
設置をしていただきたい。そして、
生活保護の部署に配置をしていただきたい。そうすれば
生活保護との
連携ということはもっとうまくいくというふうに感じております。
以上です。