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参考人(
川名紀美君) 朝日新聞の論説
委員をしております
川名と申します。
私は、ふだん
社会福祉全般、
高齢者の問題、
子ども、女性をめぐる問題の社説を書いております。社説は普通、論説
委員がみんなで議論をして、筆者は一人であっても議論の中で主張や
提言をまとめていくということをいたします。けれども、今日ここで
意見を述べさせていただくのは、八〇年代の終わりから
子どもの
虐待の問題を取材してきた一記者としての個人的な考えであるというふうに受け止めていただければ幸いです。
取材を始めた当時は、本当に日本には
子どもの
虐待なんてありませんよと取材先で言われることもしばしばで、当時の
厚生省には統計さえもないような
状態でした。それが
児童虐待防止法が成立し、更にそれを良いものにしようとしてこうやって
調査や議論が重ねられているというのは本当に感無量です。しなければいけないこと、言いたいことはたくさんあるのですが、短い限られた時間なので、
一つだけ今日は申し上げたいと思います。
それは、具体的に
虐待などで親と一緒に暮らせなくなった
子どもたちがどこで暮らしているかという、その
受皿になっている一番具体的に取り組んでいる
児童養護施設の問題です。
私も、最近は介護保険の成立以来ちょっと
高齢者の問題に力を入れてきて、こちらの方はすっかりお留守になっていたと自分自身の反省も込めて
現状を是非知っていただき、何とか変えていければというふうに思っています。
御存じのように、いろんな事情で親と暮らせなくなった
子どもたちは、
児童養護施設が重要な
役割を担って養育をしているわけです。
戦後すぐには戦災孤児のような本当に物理的に親がいないという
子どもが多かったわけですが、今は様相が変わって実際に両親がいないというのは多分一割
程度になっていると思います。ほとんどが親がいながら一緒に暮らせないというわけですので、主訴、主な訴えとして、
児童養護施設に措置されなくても、ほとんどの
子どもが、聞いていくと何らかの形で
虐待を受けているというふうに考えたらいいのではないかと思います。そういう
現状で、もうすっかりただ衣食住を満たせばいいというような
役割から大きく変わっているのにもかかわらず、様々なことが変わらないまま来ているので、そこの中にいる
子どもたち、それから職員の人
たちももう
限界のような
状況で養育を担っているということなので、そのことを是非知っていただきたいと思います。
現状をちょっと触れておりますが、お手元のレジュメに書いてあるんですけれども、今
全国で五百五十か所ぐらい
施設があります。うち公立は六十六、私立、
社会福祉法人が営んでいるものが四百八十四で、ほとんどが民間の手にゆだねられているということです。そこに三万人余りの
子どもたちがいます。
充足率九〇%と書いておりますが、これは
全国平均するとそうなるということでして、
都市部ではもう本当に空きがなくて、一人二人出ていくとすぐにという
状態で、一杯、むしろ入る
子どもたちが待っているというような
状況です。
施設の
在り方なんですが、二十人以上の
子どもたちがともに暮らしている、これ養護
施設側の方で大舎制、大きな校舎の舎と書きまして大舎制なんて呼んでいるんですけれども、比較的大きな集団で暮らしているところが七〇%を占めています。そして中くらいのところが一五%、それから小さな、十二人までの集団で暮らしているところが一六・一%ということなので、大半が集団
生活を営んでいるというふうに考えていただければいいかと思います。
二〇〇一年度に新しく
入所した
子ども五千四百二十五人のうち、
虐待を受けていた
子どもが半数を占めております。これも
虐待を受けていたということで入ってきた子が半数ということで、
施設に来てからいろいろ聞いていくと、それがあったというような例が少なくないわけです。
そういう
施設に対して職員の配置基準というものがあるわけですけれども、三歳未満の
子どもは
子ども二人に対して一人、それから三歳以上小学校に入るまでが四人に一人、小学生以上になりますと六人に一人ということになります。実際に
生活をともにするわけですから、職員の方の労働条件も守らなくてはいけませんし、そう考えると、六人に一人となっていましても、実際には
子ども十数人を一人で見ている場面も少なくないわけです。この基準は一九七六年、もう二十五年も前に設けられたそのままです。その後、新しくこういう
虐待のような問題なんかが明らかになってからも、その当時のままやっていると。幾分、専門職員の加配なども行われるようになっていますが、基本的には四半世紀変わらない
状況であるということです。
それで、こんな
状態で本当にこの
子どもたちの養育を担っていけるのだろうかということを考えた場合、やはり今ある
施設を大きく転換していく必要があるのではないかというふうに思います。
その
提言の
一つはグループホームの推進です。
厚生労働省も、先ほどの
説明にありましたように、数年前からそのようなことの
重要性を
認識して少しずつ、
小規模な、
地域で
子どもたちが育つような
仕組みを作っていこうということで補助金を出すようになってきています。
けれども、
高齢者の分野なんかは、もう今グループホームは二千五百を超えています。特別養護老人ホームも大事だけれども、
在宅で住み慣れた
地域でなるべく暮らしていけるようにということで、介護保険によって
在宅サービスの
整備が進んだり、グループホームの
整備が進んでいるわけです。
そしてまた、
障害者の分野でも、去年打ち出されました、この四月から、新年度からの新しい五か年の
施策の
中心になります新
障害者プランで、もう
入所の
施設は造らないということを明確にしているわけです。なるべく自分
たちの住み慣れた
地域で住んでいけるように、ノーマライゼーションの精神に沿って
施策を進めていこうということが合意になっております。
にもかかわらず、
子どもの分野では全くと言っていいぐらいそのことが置き去りになっていて、ずっと戦後変わらないような
状態である。これは余りにもおかしいのではないかと。今の
子どもたちにも、やはりノーマライゼーションの精神に伴って
地域で
自立した
生活をできるように、そういう方向に
援助の転換をしていくべきではないかというふうに考えています。毎年十戸とか十八戸とか、今予算が付きつつあるわけですけれども、そんなことで済むようなことではないなというふうに思っています。
アメリカで取材をしたことがあるんですが、アメリカは基本的には、親の元で暮らせなくなった
子どもを入居させるような
施設というのはありません。問題別に、例えば麻薬に染まってしまったとか
虐待を受けたとかアルコール依存とか、その問題別にグループホームを
中心として養育を
支援したり、あるいは
里親の元に預けられるということが多いです。
全国的な統計というのはなかなかないのですが、
里親の元で育っている
子どもは六十万人くらい、それからグループホームも十万人から十二万人ぐらいがというような
状態です。
私が見たグループホームも、幾つか見たんですけれども、町の中に、住宅街に全く普通の民家を借り上げて、そして五人か六人の
子どもが職員と
生活するというようなやり方です。食事も五、六人ですから当番を決めて職員と一緒に作ります。そうすると、買物に行く、そこでお金の使い方ですとか良い商品の見分け方も学びます。銀行とかそういうところとどう付き合ったらいいか、カードの使い方はどうかというふうなことをきちんと学んでいけるわけです。そのようにして、少人数ですと、深い心の傷を持っていてもある特定の大人に自分がきちんと見守られている、愛されているという感じを
子どもは持つことができます。
大きな集団で職員の方は頑張っているわけですけれども、職員という集団が
子どもの集団を見るという形ですと、どうしてもローテーションになってしまうので、本当に自分は一体だれにその自分の気持ちを打ち明けていったらいいのかと、
子どももそういうふうに戸惑いを感じるし、職員の側でも、この子のことをもう少しと思っても、なかなかそれは難しいというような
状態です。なので、是非、
小規模化、そして
地域で生きていく
仕組みを作っていくような方向で
検討をしていかなければいけないと思います。
それに伴って、
二つ目は、職員の配置基準の
見直しです。
ここに緑色の冊子があるんですが、
児童養護施設における親及び処遇困難児等の
対応に関する実態
調査という、今年一月にまとまったばかりで、
日本子どもの
虐待防止研究会が出したものです。こんなに薄くて、そして職員の生の声がたくさん書かれています。是非、手に入れて、お忙しいでしょうが、お読みいただきたいと思います。これは、
都市部の、主として都会にある
児童養護施設の実態
調査で、そこでどのような困難を抱えているかというのがよく分かります。
私が取材に行ったある
施設では、
地域の学校にその
施設の
子どもが通うのに、職員が毎日一名付き添って、その子の隣に座って授業を受けているというような例がありました。大きな七十人とか百人の
施設ですと、どうしてもまとまった数の
子どもたちが
一つの
地域の学校に行くということになります。そして、その子
たちは十分に心の傷がいやせない
状態なので、例えばいじめを起こしたり暴力的な行為をしたりということもあります。それを学校側から見ると、授業が成立しないとか、そういうことになるわけです。
施設の規模を小さくして
地域に分散していくと同時に、職員の配置も増やしていくと、これは雇用にもつながって、今雇用問題も大変なわけですが、雇用にもつながっていいのではないかと考えます。
それからもう
一つは
里親、せっかくのこの
里親制度を何とか
充実していく方向はないものだろうかということです。登録数も年々減っておりますし、どうしても
養子縁組が日本の場合は
中心になっています。この
里親をバックアップするような
仕組みをもっと手厚くして、
子どもを育てることに、そのことに喜びを感じるような
里親を育てていければというふうに思います。
最近は、十人のお子さんを育てられた方が「ぶどうの木」という本を書いて、大変にたくさんの人に読まれているということですけれども、今は寿命も長くなって、自分の
子育てが終わっても元気な人もたくさんいるものですから、なかなか自分の孫は直接育てることができないという、そういう人
たちもいるので、うまくそういう力を生かし、
研修などで専門的な知識を身に付けてもらって、
子育ての一翼を担ってもらえるように、そういうふうに
里親制度を持っていければと思います。
そして最後に、今までの、従来のこの
児童養護施設を大きく変えていくことも必要かと思います。今はここに措置されて入居してくる
子どもの養育で精一杯なんですけれども、それではやはり
地域にそういう
施設がある意味が半分しかないんだろうと思われます。その
施設で持っているノウハウですとか知識、何といってもたくさんの
子どもを育ててきた歴史とノウハウがあるわけですから、それをもっともっと
子どもを育てあぐねている
地域の人
たちのために生かしてもらいたいということです。
実際にそのような
サービスをしているところもあるんですけれども、
子どもの定員を減らして、外に、
地域に分散したら、空いたスペースで疲れたお母さんのために
子どもを預かるデイ
サービスとかショートステイの
サービスをするとか、それから相談に乗るとか、いろんなことでもっともっと
地域に知識を還元し、また
地域とつながっていくようなこともできるのではないかと思います。
そのようなことで、
地域の中での
子育てのセンターとして活躍できるような新しい
施設の
在り方を模索していくような、そういう方向になっていけばいいなというふうに願っています。
では以上で、ただ
一つのことでしたが、緊急のこととして
児童養護施設を見直すこと、そして、たった三万人、たったとあえて申し上げますが、この子
たちが
施設にいる間に大人に対する信頼感ですとか
社会に対する信頼感をもう一度持つことができたら、この子
たちの人権という点でまず何よりいいし、それから、将来大人になってから様々な問題やつまずきを起こすことを防ぐことができるのではないかという、そのような
観点からも、是非
児童養護施設の
在り方を
見直していきたいというふうに思っています。
終わります。