○城島正光君
民主党の城島正光でございます。
ただいま
議題となりました
労働基準法の一部を改正する
法律案につきまして、
民主党・
無所属クラブを代表いたしまして、小泉総理大臣並びに厚生労働大臣、法務大臣に質問をいたします。(
拍手)
我が国は、バブル崩壊後、十年以上にわたって景気の低迷が続き、これに伴う解雇と失業者の増大はますます深刻な問題となっております。
発足して二年たつ小泉
内閣が
国民にもたらしたものは、雇用不安、
個人消費の冷え込み、景気の落ち込みという悪循環であり、雇用に関して申し上げれば、新規雇用創出五百三十万人といった看板とは裏腹に、何の成果もなく時が浪費されてまいりました。
史上最悪の完全失業率五・四%、フリーターを象徴とする若年失業者問題はますます深刻化し、自殺者は年三万人を超え、
リストラが進み、長期失業者がふえる一方、残された社員は長時間労働を強いられるというのが現状であります。
国民、勤労者が痛みに耐えて苦境を克服しようと必死の努力をしているにもかかわらず、小泉総理は、そこから抜け出すための方向性さえ示しておりません。
総理の現下の雇用失業情勢に対する御認識と、一体いつになったらせめて総理就任時の完全失業率四・八%に戻す見通しをお持ちなのか、冒頭お伺いしたいと思います。(
拍手)
さて、景気が低迷する時代に、解雇にかかわる問題をいかに扱うかは、国の政策の根幹にかかわる事柄であります。
諸外国の例を見ますと、フランスでは、一九七三年、正当な
理由のない解雇の規制が行われました。七五年には、経営上の
理由による解雇を規制する国内法の整備に関するEC指令が出され、全EC加盟国で解雇規制の法整備がされております。まさに、オイルショックによる景気低迷の時期のことであります。
また、お隣の韓国では、一九九六年に、勤労基準法に解雇ルールが盛り込まれ、九八年の大改正では、正当な
理由のない解雇は違法とされ、整理解雇四要件が盛り込まれました。これもまた、アジア通貨危機によりウォンが暴落、IMFの管理下に置かれるなど、経済危機に見舞われたときのことであります。
さらに、アメリカ合衆国は、成文法ではなく判例法の支配する国でありますが、人種、性、障害、年齢などの差別が
法律によって禁止されております。
このアメリカでは、多数の労働
事件が裁判所で救済されております。九九年に合衆国連邦
地方裁判所に新しく提訴された民事
事件のうち、実に一八・四%が労働契約
関係であります。日本で民事
訴訟に占める労働
事件はわずか〇・五%にすぎませんから、単純に比較しても三十七倍もの格差があるわけであります。その中で解雇
事件は大きな割合を占めていると言われております。アメリカは解雇が自由な国であるという俗論は、完全な誤りであります。
こうした実例に照らしても、また、雇用不安、
個人消費の冷え込み、景気の落ち込みという悪循環を断ち切り、日本経済を再生させるためにも、国の
施策として、解雇を規制する
法律を整備する必要があります。いわんや、解雇しやすくする政策は、雇用不安を増大させ、この悪循環に拍車をかけるものであり、論外であります。この点についての総理大臣の認識と見解をお尋ねいたします。
次に、景気低迷時における経営者のあり方と国家政策の
関係についてお尋ねいたします。
財界の総理大臣とも呼ぶべき日本経団連の奥田会長は、七〇年代以降、最高裁判所が形成してきた解雇法理について、これを緩和することがあってはならないと繰り返し主張しているわけであります。その
理由について、奥田会長は、一昨年、日経連経営トップセミナーにおいてこう述べております。
すなわち、「不良債権の最終処理では、離職者がなるべく少なくなる方法を採用するとともに、仮に過剰感があっても雇用に手をつけるのは
最後の手段だという共通認識のもとで、それを回避するために労使で最大限の努力をしなければならない。万が一、経営者のモラルハザードが広がれば、便乗解雇が横行し、社会全体が崩壊しかねないと心配している。今、一部の論者からは解雇規制の緩和を求める声が出ているが、これは最もやってはいけないことだ。」と述べているわけであります。
私も、現在の日本で便乗解雇が横行すれば、社会の底が抜け、社会全体が崩壊し、経営者のモラル崩壊にも直結するとの、この奥田会長の指摘に同感するものであります。
特に、解雇法理のルールは中小企業経営者にほとんど知られておらず、解雇をめぐる紛争を誘発する原因の一つとなっているわけであります。
京都大学の村中孝史教授らの調査によりますと、
労働基準法二十条の解雇予告
義務について知っているとの回答は九二%もあるのに、裁判所が解雇権に
制限を加えていると回答したのはわずか七%、
法律の
制限さえ守ればよしと答えた人が七〇%も占めているわけであります。
解雇をめぐる紛争は、労働者だけではなく、中小企業経営者にも、経済的・精神的負担が大きくのしかかります。ルール無視に起因する無用な解雇紛争を極力防ぐことは、国の
施策としても重要であります。ましてや、国の
法律によって、正当な
理由がなくても解雇は自由にできるという誤解を誘発するようなことは断じてあってはならないと思います。
こうした点につきまして、総理の認識と御見解をお尋ねいたします。
次に、厚生労働大臣にお尋ねいたします。
今回の労基法改正案の第十八条の二には、「使用者は、この
法律又は他の
法律の
規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が
制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な
理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあります。
この条文では、使用者が解雇できるのが
原則であり、例外的に、労働者の側が解雇権濫用の証明に成功した場合だけ解雇が無効になると解釈されます。
そもそも、最高裁の日本食塩製造
事件判決で確立された解雇権濫用法理では、解雇に客観的に合理的な
理由があることについて、形式的な証明責任は労働者が負いますが、実質的な証明責任は使用者に負担させております。今回の条文では、実質的な証明責任を使用者が負担することは全く明らかにされておらず、解雇権濫用法理を大きく後退させるものと言わざるを得ません。
条文が使用者に主張立証を促すことが明らかでなければ、判例において確立している解雇権濫用法理を足しも引きもせず、そっくりそのまま
法律上に明記するという厚生労働省の
説明と全くもって矛盾することになるわけであります。
それだけではありません。労働
関係において契約自由の
原則は
修正されなければならないという憲法第二十七条第二項の理念をなし崩しにし、
労働基準法において、まさに、契約自由の
原則、自由競争原理がむき出しのまま労働
関係に持ち込まれんとするおそれがあるものであります。
政府案は大いに問題があり、このままでは解雇促進法になりかねず、抜本
修正が何としても必要であります。厚生労働大臣の見解を伺います。(
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また、改正案第十八条の二について、厚生労働省は、立法者意思により、今の裁判の
取り扱いを変えるものではないことを明確にすると私どもに
説明しております。
そこで、法務大臣にお尋ね申し上げます。
行政法の場合、
行政に対する
国会の優位性を背景に、立法者意思で
行政を拘束することが可能でありますが、刑事、民事の
法律の場合、これと全く異なり、刑事、民事の
法律の運用をつかさどる裁判官は、憲法七十六条により憲法と
法律のみに拘束されます。すなわち、裁判官は立法者意思に拘束されず、立法者意思は条文解釈をする際の判断材料の一つにすぎないと考えられますが、いかがでしょうか。
また、
国会での
質疑や
国会決議などの立法者意思で条文を補充しなければならないような前例は存在しないと考えますが、いかがでしょうか。お答え願いたいと思います。
従前、最高裁が形成した解雇法理は、大きく分けて二種類あります。一つは、解雇権濫用法理であり、もう一つが、就業規則の解雇条項による解雇規制であります。解雇についての法整備がおくれている日本では、裁判実務において、就業規則に掲げる解雇事由を限定列挙と解することにより、使用者に解雇の
理由とその正当性などの証明責任を負わせてまいりました。
しかるに、三十一回にもわたって
法案審議をした厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会では、解雇法制と就業規則の
関係という最も
基本的かつ初歩的な論点が完全に抜け落ち、議論も皆無なのであります。
そこで、厚生労働大臣にお尋ねいたします。
就業規則の解雇条項について、審議会で検討が一切なされなかった結果、第十八条の二の前段部分を根拠に、就業規則の解雇条項による解雇規制は事実上機能しなくなり、これまで形成された最高裁判例がことごとく覆されることになると解さざるを得ません。かかる致命的な欠陥を持つ
法案は、直ちに取り下げるか、審議会に差し戻すか、あるいは抜本
修正、すなわち、就業規則の解雇事由に該当する事実の証明責任について、使用者が負担している旨明らかにする必要があると考えますが、厚生労働大臣の見解をお聞かせください。(
拍手)
次に、有期雇用の
原則一年を
原則三年にする上限延長についてお伺いいたします。
民法六百二十八条は、有期雇用の契約期間途中での解約に関して、労働者の退職の自由を
制限する一方、労基法第十四条は、長期労働契約による人身拘束の弊害を排除するため、契約期間の最長期間を
原則一年に
制限しているわけであります。
ところが、今回の上限延長により、最長三年間、専門職は五年間の有期雇用を締結した場合、その間、退職の自由が認められず、使用者に拘束されることになるわけであります。
有期労働契約については、これまでも、契約途中でやめたいが、募集費用や教育訓練費用の賠償を
請求するとおどされているといった労働相談が多数寄せられているわけであります。上限延長は、使用者側にとっては、まことに使い勝手のよい道具となりますが、働く側にとっては、再雇用の保障がない不安定雇用であるばかりでなく、退職の自由が認められない期間が単に延長されるだけであり、転職の機会あるいは職業選択の自由が狭められることになります。
本来、有期雇用の契約期間中であっても労働者には退職の自由が認められるべきであると考えますが、厚生労働大臣の御見解を承りたいと思います。(
拍手)
「労働は、商品ではない。」この言葉は、一九四四年、ILO総会のフィラデルフィア宣言でうたわれた有名な
基本原則であります。労働とは、その人の人格や尊厳と切り離すことのできないものであり、この精神は時代と国境を超えて変えることなくはぐくんでいかなければならないものであると考えます。
労働基準法は、その第一条に、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき」水準、すなわち、働く人たちが健康でしかも自己の創造性を主体的に展開し、かつ、生き生きとして個性を発揮しながら、一人一人が社会の主役になることができる生活水準を労働条件の
原則としてうたっているわけであります。
その意味においても、本改正案は、まさに先人の幾多の努力と英知の結晶である
労働基準法の
基本理念を根本から否定し、雇用不安、社会不安を増大させ、日本の雇用
関係、ひいては日本社会を根底から壊しかねないものであることを強く指摘し、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小泉純一郎君
登壇〕