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三木参考人 毎日新聞論説
委員の
三木賢治と申します。今回の一括
法案について、
司法や
事件を担当してまいった新聞記者として、私見を申し述べさせていただきます。
このたび政府が進めております
司法制度改革の眼目は、閉鎖的とのそしりを免れず、法曹
資格を持つ者だけが特権的、専横的に牛耳ってきた
裁判制度を、一般の
市民に大きくあけ放とうとするところにございます。
その意味で、一括
法案にあります民事調停法、家事審判法などの一部
改正は、
弁護士を非常勤
裁判官として民事調停と家事調停の一翼を担わせようとするものでありまして、従来は
職業裁判官にほぼ独占されていた
裁判所の世界に新風を吹き込むものとして歓迎してよいと思います。
最高裁と
日弁連との間では、別途、
弁護士任官制度の推進が図られているところでありますが、これとともに
裁判官の給源を多様化するものとして期待するところ大というわけであります。ぜひとも普及させ、将来的には
市民が選んだ人を
裁判所に送り込むようなシステムへと道筋をつけていただければ幸いかと思います。
しかしながら、
裁判所の閉ざされた扉を開く
役割を
弁護士に期待すると申しましても、その
弁護士の
社会もまた、開放性、透明性に富んでいるとは言えないのが実情であります。一般の
市民には、
弁護士の
法律事務所もまた、
裁判所同様に敷居が高く感じられているのです。
多くの
弁護士の方々が、弱者救済や
社会正義の
実現のために手弁当をもいとわず、献身的な活動を続けていらっしゃることを承知した上で申し上げますが、本来の
社会的使命を忘れ、既得権を守ることにきゅうきゅうとしている
弁護士が少なくありません。法曹人口を大幅にふやす今回の
改革をめぐって
日弁連が真っ二つに割れたことは御記憶に新しいところと存じますが、これも潜在的な法的
紛争による被害者を救済しようとするよりも、パイの配分を減らすまいとの意識のあらわれとの見方ができようかと思います。
無弁地帯とかゼロワン地域と呼ばれる、
弁護士が一人もいないような、いわゆる
弁護士過疎地が
全国に広がっているのも、
弁護士に所得偏重主義が蔓延している影響が潜んでいるからにほかなりません。
心ある
弁護士の皆さんは、消費者金融の支店が何店もある町に
弁護士がいないのはどう考えてもおかしいと口をそろえておっしゃいます。消費者金融があれば、そこには必ず
民事紛争があるものだからですが、多くの
弁護士は、
紛争の陰で泣き寝入りを強いられている
市民を救済するよりも、東京を初めとする大
企業が集中する大都市で割がよい仕事を探そうとする傾向が顕著だと思われます。
幸か不幸か、最近は長引く不況の影響で、
報酬額が限られている国選弁護人や
法律扶助事業による個人破産
手続の引き受け手にも
弁護士が殺到しているようですが、一般的に、
弁護士は
紹介者のいない依頼を積極的には受け付けようとせず、多額の
報酬が見込まれる
事件ばかりを選ぶ性向が認められると言わざるを得ません。
その結果、知り合いに
弁護士がいない一般の
市民にとっては
裁判所や
裁判がいよいよ縁遠い存在になってしまい、
紛争解決手段として
訴訟が敬遠されてしまったと言えようかと思います。極論すれば、これまで、
社会経済活動の発展に比して増加する
紛争に対して限られた法曹人口で曲がりなりにも対応してこれたのは、
弁護士界が
裁判所で扱う
事件数を
現状で対応できるように前さばきをしていたからとも言えましょう。
以上を踏まえますと、
司法書士法の
改正によって、
簡易裁判所では
司法書士が
弁護士と同様に代理人を務められるようになったのは歓迎すべきことと考えます。
裁判所で非常勤
裁判官として
弁護士が初めて調停を主宰するのと同様に、
司法書士が初めて、これまで
弁護士が独占していた代理人業務を担当することによって、法曹界の閉鎖体質に風穴をあける効果が期待できると考えるからです。
その流れを加速させるためには、
民事訴訟について
簡易裁判所の
管轄を
拡大させる
裁判所法等の一部
改正などの法整備を進めるのは至極妥当だと考えます。
九十万円という現行の
訴額の
上限は二十一年前から
引き上げられていないのですから、
引き上げは当然でしょうし、その
引き上げ額が百四十万円というのも各種の
経済指標などからはじき出した数字ですから、それなりの説得力があると思います。しかし、私個人としては、この際、金額だけ考えれば、一挙に二百万円近くまで
引き上げても差し支えがないのではないかとさえ考えております。
と申しますのも、
簡易裁判所での代理人業務は、もともと
弁護士が熱心にかかわってきた分野とは言えません。現在も、原告側、被告側の双方が
弁護士を代理人として立てない、いわゆる
本人訴訟が九割を占めているとの統計もございます。それはそのはずでございます。今どき百万円にも満たぬ争いでせっかく勝訴しても、
弁護士に高い
報酬を請求されたのでは提訴する意味がなくなってしまうからです。
今後、
市民のニーズにこたえる形で
司法書士がリーズナブルな
報酬で代理人を引き受けるようになれば、情勢が変わってくるかもしれません。
弁護士会には
弁護士と
司法書士との
法律知識の差異などを懸念する声があるようでございますが、
簡易裁判所は性質上、黒白をつけること以上に円満で早急な
解決が求められている
裁判所でもあり、
法律解釈をめぐる複雑な論争が生じる余地はそれほどあるとは思えません。
そもそも
司法書士が代理人業務を手がけて不都合が相次げば、やはり
弁護士でなければだめだといった話にもなるでしょう。高い
報酬を要求する
弁護士以上に、優秀な
司法書士が割安な
報酬でばりばりと仕事をこなしていけば、
利用者はそちらに殺到するでありましょう。自由競争の時代なのでありますから、代理人の選択も市場原理に任せればよいと考えます。
先ほど申した
弁護士過疎地での
司法書士の活躍も大いに期待されるところです。一部の
弁護士らによる限度額を低く抑えようとの主張の中には、いたずらに既得権益の保持にこだわるばかりで、
市民の利益を軽視する考えが潜んでいると思わざるを得ません。
同様に、
弁護士法の一部
改正によって異質な人材を
弁護士に登用しようとする
改革にも賛成です。いわゆる
特任検事というのは、テレビドラマのあの赤かぶ検事の主人公のような方だと思いますが、しかるべき
手続を経て
弁護士資格を取得すれば、市井の人の訴えに真剣に耳を傾けて、生え抜きの
弁護士にまさる人権救済活動を展開してくれるかもしれません。だめな人ならば、
利用客が見限っていけばよいのだと思います。
司法試験に
合格後、
法律関係事務に
従事していた公務員らに
資格を付与することについても、妨げる
理由はないと思います。
国会議員の
先生方も、本来、
法律に最も精通しているべきお
立場なのですし、自信がおありならばどんどん
弁護士業務に転じられればよい。有能かどうか、役に立つ
弁護士かどうかは
利用客が判断すべきことなのです。
問題は、
市民が多種多様な
弁護士の中から自分に最もふさわしい人材を選ぶことができるように、個々の
弁護士についての
情報を幅広く公開していくシステムをつくり上げねばなりません。現在の
弁護士広告には事実上制約がいろいろとあるようですが、
市民が選択する際の
参考となるように、経歴や得意とする分野、
報酬の見積もりなど、すべてを明らかにしてほしいと思っております。広告を自由にする以上は、
弁護士会としても、過去の懲戒処分などが一目でわかる告知法も考え出していってもらいたいと思います。
個人的には、法曹分野を得意とするNGOが、あのミシュランのレストランの格付のように、
弁護士の資質や人となりを星印で示してくれるような案内でもつくってくれれば、真に
市民の味方となる
弁護士に依頼者が集まっていくようなシステムができ上がるかと思っております。
こうした観点に立てば、
弁護士の綱紀、懲戒の
手続も一段と透明性を増す方向で
改正されるべきは言うまでもありません。
弁護士法の一部
改正を初めとする
司法改革が
市民の使い勝手をよくする方向で進むことを祈念して、私の
意見陳述とさせていただきます。
ありがとうございました。(
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