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中山会長 本日は、来る五月三日に本
憲法調査会が設置されましてから四回目の
憲法記念日を迎えるに当たって、
委員各位の活発な御
議論をちょうだいしてまいりましたが、
最後に、
会長として、一言ごあいさつを申し上げたいと思います。
これまでの
調査の経緯についてでありますが、本
調査会は、平成十二年一月二十日に設置されて以降、
日本国憲法の
制定経緯、二十一世紀の
日本のあるべき姿など、
日本国憲法について広範かつ総合的な
調査を進めてまいりました。
また、昨年からは、四つの小
委員会を設置し、個別の
議論についての専門的かつ効果的な
調査に入るとともに、地方公聴会、海外
調査も順調に進めてまいりました。地方公聴会は、本日議決をいただいた高松での地方公聴会で全国八カ所の実施となり、中国地方での開催を残すだけとなりましたし、また、海外
調査も、平成十二年、十三年の、ロシア、東欧を含む欧州各国及びイスラエルの首相公選制の
憲法上の問題、昨年は、英国及びアジア各国の
憲法事情に関する
調査を行い、ほとんどの国に
憲法裁判所があったことも事実でございます。
これらを踏まえて、昨年十一月には中間
報告書を取りまとめたわけでありますが、今
国会になってから、残された
調査期間も考慮しつつ、
日本国憲法百三条の全条章について網羅的な
調査ができるよう小
委員会を改組するとともに、それぞれの
調査テーマをあらかじめ設定し、同時に、本
調査会においても、小
委員会での
調査経過について定期的に小
委員長から
報告を受け、
委員間の
討議に付するなど、より充実した
調査を行ったところでございます。
さらには、
幹事会での協議に基づきまして、先般の三月二十日の緊急総会のように、
国民が重大な
関心を抱いておりますイラク問題、北朝鮮問題のような時事的な問題についても、
憲法的見地から
自由討議を行うなど、
調査の実を上げてまいったと自負しております。
現在、
日本の国力の衰亡、また国内においては、少子高齢化の問題、
社会保障の財政の問題、あるいは家庭教育の問題、いろいろな問題が世間で騒がれておりますが、これらの問題も含めて、これからの
議論の中で浮かび上がってきますのは、我が国と国連とのかかわりをどのように
考えていくかという問題であるように思いますので、この機会をかりて、この点に関して所見を申し上げたいと存じます。
そもそも、サンフランシスコ平和条約の前文は、国連憲章との
関係について言及しておりますし、また、
日本国憲法は、国連憲章を念頭に置いて
制定されたものであります。
日本国憲法、サンフランシスコ平和条約及び国連憲章は、いわば三位一体の
関係にあり、我が国の外交は、それらの定める原則にのっとり進められてまいりました。我が国は、国連
安全保障理事会の非常任理事国を八回務め、PKOを初めとする人的
協力もさまざまな分野で行っておりますし、また、国連大学本部を初め、多数の国連機関が国内に存在することも御存じのとおりであり、七つの在日米軍施設・区域においては、国連軍地位協定のもとで朝鮮国連軍に対してもその使用が認められており、国連軍後方司令部要員や連絡将校が我が国においても駐在をしております。
しかしながら、国連は、長期にわたる冷戦のもとで、安保理におけるソ連などの常任理事国による拒否権行使によりその機能を十分果たすことができませんでした。冷戦終結後は、湾岸戦争において一連の安保理決議が行われ、その中で停戦協定が成立し、国連の機能回復が期待された時期もございましたが、その後十二年間にわたり、イラクにより国連決議が尊重されることもなく、今回の事態に至ったわけであります。しかも、今回のイラク攻撃に当たって、フランスの拒否権行使の表明などによって事実上国連安保理の決議が不可能となるという見通しが立った段階で、武力行使の容認の新たな決議がなされないなど、再び国連の機能不全が露呈してまいったと言わざるを得ません。このようなことについて、
委員各位も同様の
認識を持っておられると思います。
第二次世界大戦後の世界秩序の再構築のために設けられた国際連合でありますが、その創設時には五十一カ国であった加盟国が、現在では百九十一カ国と四倍近い規模となっております。しかし、その基本的仕組みは、第二次世界大戦の戦勝国である米英仏中ロがそのまま常任理事国となり拒否権を持つなど、当時の国際情勢の影響を色濃く残しており、複雑化が進む現在の国際情勢の中においては対応は困難になってきております。その中で、国連予算の約二〇%を拠出している我が国としては、機会のあるたびに国連
改革の
必要性を
主張してまいりましたが、十分な
改革が行われないまま現在に至っております。この点については、国連憲章第百八条及び第百九条を読めば一目瞭然でありますが、その
改正には極めて厳格な
手続が
規定されていることも十分考慮する必要があります。
このような国連が置かれたこのような状況を踏まえて、我が国が自国の
安全保障の
あり方を
考えるとき、国連中心主義は重要な原則ではありますが、同時に国連中心主義だけでは、現実の外交を展開することは限界があるのではないか、これまでの
調査会での
議論の中から、このような問題点がはしなくも明らかになってきたのではないかと存じます。
現在、イラク問題の焦点は復興支援、暫定政権機構と
憲法の
制定の問題が
議論になろうと思いますが、この点に関しまして、戦後イラク問題の処理と第二次世界大戦後の占領下の
日本とを対比させて論じたものが、今月五日付のアエラに、長
谷川熙氏執筆の興味深い記事が掲載されておりますので、御紹介をしたいと思います。
第二次大戦に敗北したドイツのポツダム市内で四五年七月二十六日に米、英、中華民国の三首脳が
日本に降伏を迫った十三項目がいわゆるポツダム宣言でした。
最終的に
日本政府はこれを受諾して
日本軍は無条件降伏をし、米進駐軍の先遣隊が到着した四五年八月二十八日から対日平和条約が発効して独立が回復する五二年四月二十八日までの六年八カ月の間、
日本は、ポツダム宣言に基づいて連合国側に占領されました。
日本の主権はダグラス・マッカーサー連合軍司令官に移りました。マッカーサー総司令官の連合軍総司令部は事実上、
日本打倒を一手に引き受けた米軍の司令部に等しい実体でありました。
日本占領を開始するや、マッカーサー総司令官みずから、そしてGHQは矢継ぎ早に口頭、文書で、また命令、指令、覚書の類を
日本政府に発し、
日本という
国家の換骨奪胎を断行する。そのほんの幾つかを時系列的に追っただけでも、陸海軍の解体、東条英機元首相など戦争犯罪人容疑者の逮捕、
政治的、公民的、宗教的自由に対する制限の撤廃、財閥の解体、教育勅語の廃止、学校からの奉安殿の撤去、修身、地理、歴史科目の授業停止、農地
改革、
国家と神道の分離、好ましくない人物の公職からの追放、
日本国憲法草案の交付といったぐあいであります。新聞の事前検閲も始まる。好ましくない人物の公職からの追放とは、戦犯容疑者の訴追、裁判と並行して、職業軍人などAからG項の七分野にわたる計二十万六千人が一切の公職から追放されたことをいいます。
さらにこの記事は次のように続きます。
憲法とは、諸
外国のそれを参考にしつつも、その国の人々がみずからの頭で知恵を絞り、甲論乙駁しながら練り上げて完成し、直し続けなければならないものと記者は
考える。そうしてこそ、少なからざる国々の
憲法に
共通する普遍的な要素とその国の歴史、
伝統、美風を吸収したものをつくり出せる
可能性があるのではないか。
この記事にもありますような我が国の占領下における
憲法制定の事実は、イラクにおける戦後復興の
あり方を
考えるに当たって極めて参考になると
考えますとともに、我が国の
憲法制定の
経過をこの機会に客観的に振り返りながら、イラクの暫定政権への
日本政府の関与の
あり方の参考にすべきものと
考えております。
今後の
調査の方向性については、
日本国憲法の
制定、施行から五十六年の歳月を経ようとしている今日、少子高齢化の進行や世界的な自由貿易協定締結の流れなど、国内外の情勢は、
制定当時には想像もできなかったほどの変貌を遂げてまいります。このような状況の中、
憲法について広範かつ総合的な
調査を行い、その結果を
国民に提示することは、国権の最高機関たる
国会の使命であります。本
調査会の
調査期間は、議院運営
委員会理事会の申し合わせによりおおむね五年程度を旨とすることになっておりますので、残された期間はほぼ一年半であり、
調査をより一層充実させていく必要があると痛切に感ずる次第でございます。
この常会の会期も残すところ三分の一ほどになりましたが、今会期中において、各小
委員会において、さらに、明治
憲法と
日本国憲法、国際機関と
憲法、情報アクセス権とプライバシー権、司
法制度及び
憲法裁判所等について
調査をそれぞれ行うこととなっております。
もちろん、今後の課題といたしましては、
国民にとって最も身近な問題の
一つである医療、年金の問題につきましても、少子高齢化が進む中で、その財政基盤は危機的状況にある。
憲法第二十五条の
規定をどのように
具現化していくべきか、より深い
議論を積み重ねていく必要があろうかと存じます。国と地方との
関係、そして、それを踏まえた両院制の
あり方といった
統治機構の問題や、私学助成の問題と
憲法八十九条、裁判官報酬の引き下げと
憲法第七十九条、第八十条といった、
憲法との
関係について問題があるのではないかと言われている事項も多々ございますので、これまで同様に、
憲法は
国民のものであり、その
議論も
国民から乖離したところにあってはならないとの
認識のもとで、人権の尊重、主権在民、再び侵略
国家とはならないという三つの原則を堅持しつつ、
日本国憲法に関する広範かつ総合的な
調査を行ってまいりたいと存じます。
改めまして、
会長代理初め、
幹事、オ
ブザーバーの皆様、そして
委員各位の御
協力をいただきますようお願い申し上げまして、
憲法記念日を迎えるに当たっての私のあいさつとさせていただきます。