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参考人(
松尾和子君)
弁護士・
弁理士の
松尾和子でございます。
知的財産戦略会議の
委員も務めましたので、そのときの議論も踏まえまして
意見を述べさせていただきます。
お手元にレジュメを配らせていただきましたけれ
ども、この
知的財産戦略会議は、この三月、春に設置されたわけです。七月には
知的財産戦略大綱が公表され、十一月には、はや
知的財産基本法案が
国会で
審議されることになりまして、
停滞気味の
日本社会においては異例の速さだろうと思っております。しかし、このような迅速な
対応というのは
知的財産の特質、
我が国の
国際競争力が低下している
現状、それからこれから山積みされた
解決課題を
考えますと、当然に必要なことであるというふうに思います。
基本法の第二条を見ますと、
知的財産あるいは
知的財産権とはという定義がございます。広く
技術、デザイン、ブランドあるいは音楽、映像などのコンテンツ、
ノウハウ等、
付加価値の高い
無形財産、
情報というものを包含しております。
戦略大綱は、このような
無体財産を
経済社会の再
活性化の
基礎に据えることを
目的としているわけです。このような
目的にふさわしい
知的財産創造の
環境整備また
知的財産活用のための
経済社会基盤、またこの作られた
知的財産を
保護し、この
権利を実現するためには、それに相応した
関連法規の
整備、
司法制度の
構造改革が必要であると思います。このような新境地を築くような
改革というのは、
国家として
集中的に、計画的に、総合的に実施していただく必要がありますので、是非この
知的財産基本法の
早期成立をお願いしたいと思います。
また、既にこの
戦略大綱に具体的な
施策、
改革の項目、期限が付けられておりますので、これに向けた
審議や
検討が進められております。したがいまして、それとの
関係におきましても、この
知的財産基本法の
早期成立が必要であろうと思います。
基本法の第一章は、今言いましたような
目的とか基本的な理念、それから国、
大学、
産業界の
責任及びその
連携の
必要性というのを説いております。第二章に行きまして、
基本的施策になります。
研究開発とか
産業界との
関係というのは、今までお二人の
参考人が述べられると思っておりましたらやはり述べていただきましたので、私はこの中の
法的措置に
関係するものにつきまして、私自身、
戦略大綱の下で
産構審が行っておりますいろいろな今までの
検討事項につきまして御説明いたしまして、
意見を述べたいと思います。
産構審の下に
紛争処理小委員会、
特許制度小委員会、
不正競争小委員会というのがございます。私、いずれもこれに出ておりますので、その
ポイントを次のところに、二ページに述べておきました。問題は、まず
基本法の十四条
関係ですが、ここでは
特許等知的財産権付与の
迅速化ということで、まず迅速的確な
審査制度が問題になります。
今、
野間口参考人が言われましたように、これは国際的な
状況ですが、
出願・
審査請求というのが増加しております。
特許の
内容は
技術の進歩に伴い複雑かつ高度化しておりますので、
審査にも時間が掛かります。ということで、ここにおきましたように、
出願してから待つ時間、
審査まで待つ時間でも二十二か月掛かっているというような
状況です。また、
国際出願がなされますと、その調査や
国際予備審査のために
特許庁で
作業が必要になります。ということで、迅速かつ国際的に
調和の取れた的確な
審査制度というのが
要求されると思います。そのために、どうしても人員の増加というのを
考えざるを得ないかと思います。
また、先行
技術文献調査につきましては、どうやって外注を拡大し民間の
知的財産の調査機関を育てるか、それをどう利用するかという問題もございます。
審査基準の国際的
調和というのもあります。また、日米、三極等の国際機関との調査
協力の
推進も必要です。
審査結果を共同で利用するということも必要です。そのほか、今まで行えなかった官じゃなくて官民の意思疎通によって
審査を有効に
促進するということも必要であり、法制面、それから運用面の双方からの
改革が
要求されると思います。
出願人の方も、この
基本法の十四条の二に書いてありますように、発明の
内容を高める、それから
出願を厳選する、あるいは現在ある早期
審査制度を利用する等、
審査に
協力する必要があろうかと思います。
また現在、これらと
関係しまして、
出願料や登録料の値下げ、
審査請求の値上げというようなことが議論されております。発明は、先願主義の
日本の下では早く
出願されなければなりませんけれ
ども、
出願だけではなく
権利を取らなければならないと思います。その
出願から
権利取得までの全体の流れの中で、この
知的財産立国にふさわしいような
特許行政というものを根本的に
考え直す必要があろうかと思います。
ちょっと飛びますが、この十八条に、「新
分野における
知的財産の
保護等」というのが
基本法の十八条にあります。これに
関連しまして、現在、医療行為と
特許権等の
検討もなされております。
それから、これらが
特許制度小委員会で
検討していることですが、紛争処理
委員会の方では、
特許が、
権利付与の過程、あるいは
権利付与後の
権利の有効性の早期確立というところで、審判
制度を議論しております。その結果、例えば異議申立てと無効審判
制度を一本化するとか、新無効審判
制度をどういう構造にするかとか、裁判所に対して
特許庁の審決の取消し訴訟がありますが、それとの
関係をどうやって行い、裁判所と
特許庁の
連携をどのようにして
促進していくかということも
検討されております。
ここでは、訂正審判
制度の廃止、これを民間の仲裁センター、ADRに移行するようなことも議論されておりますが、ADRにつきましては、
基本法、知的
戦略大綱ですね、そこにも規定されておりますけれ
ども、なかなかADRに対する一般の認識といいますか、あるいは
産業界の要望といいますか、そういうものがまだつかみ切れない、あるいは形成され切っていないということで、なかなかこういうADRの
活用というのは難しい
状況ではないかと思いますので、こういうものは一般に裁判とADRの
関係として
検討する必要があろうかと思います。
また、戻りますけれ
ども、
特許制度小委員会の方では職務発明についても
検討することになっております。しかし、これにつきましては、現在、アンケート調査その他、
外国法制及びその運用、問題点というのを調査中なので、こういう資料が集まりましてから早急に
制度の確立のために
検討を始めることになり、その必要があろうと思います。
次に、
基本法の十五条ですが、ここでは「訴訟手続の充実及び
迅速化等」というのが問題になっております。
知的財産訴訟の
迅速化につきましては、早くから
産業界からも法曹からも
要求がありました。それで、裁判官や調査官の増員等行われてきましたが、現在、東京、大阪の裁判所で見る限り、一般の民事訴訟よりも下回る
審査の期間というのを示しております。
司法制度改革推進本部では、一般の訴訟事件について、裁判所、訴訟当事者に二年以内に第一審判決をということを
努力義務として課すると言っておりますが、
知的財産訴訟につきましては、東京では十五か月、大阪地裁でも十八・五か月というように
努力の結果が見られております。
しかし、この
知的財産訴訟につきましては、迅速だけではなくて充実と信頼性の向上というのがもちろん必要となります。これにつきましては、
技術専門家の関与というのをどういう形で認めていくか、それから訴訟の管轄の
集中化ということが問題になろうと思います。また、証拠収集の充実化、拡大というのも重要な
ポイントでございますけれ
ども、これにつきましては、現在、憲法の下に裁判公開の原則というのがございます。それとの
関係で、どういう範囲でどのようにして非公開のインカメラ手続を認め、一部は認められておりますが、あるいはこれを今以上に有効にして、どのようにして相手方から証拠の提出の
促進をするかということが議論中であります。これにつきましては、新しく設けられました
司法制度改革推進本部知的財産訴訟
検討会が担当しております。
日弁連でも、八月になりましてようやく
知的財産政策
推進本部というものを設置しまして、こういうところに代表を送りまして、また、その
推進本部におきましても、それから従来からある知的所有権
委員会におきましても、すべて今問題に挙げましたような
課題について
検討しているところでございます。
次に、
戦略大綱にも盛られました営業秘密の
保護の問題です。
まず、これは不正
競争防止法に規定がございます。不正
競争防止法というところに、まず、今問題になっておりますのは、営業秘密について刑事的制裁を設ける規定を置こうということです。大分議論されておりますけれ
ども、まだいろいろ、民事救済で今までの
制度で補えないところといいますか、新しく
競争秩序に反するものとして問題になるようなところに刑事的制裁を課すべきであるという
観点から、どの範囲で刑事的制裁を課するか、あるいは裁判の公開の原則、それから刑事被告人の
権利の
保護との
関係でどのようにバランスを取っていくべきかが
検討されております。
また、不正
競争防止法の民事的救済規定には、これは
特許法よりもその損害賠償とか証拠収集についての規定が後れているといいますか弱かったわけなので、こういうものを少なくとも
特許法並みに拡充しようということがほぼ決まっております。同じような問題は著作権法についてもあると思います。
次に、第十六条にあります
権利侵害への
措置ということで、先ほど
野間口委員も言及されたところです。
これにつきまして、まず国内では水際
措置と言われる
措置で、関税定率法に規定はございます。しかし、この
知的財産侵害品や輸入禁制品につきましては、輸入差止めの認定手続を取るべく税関長に申請する
権利というのは、現在のところ商標権者、著作権者、著作隣接権者に限られております。商標権という、ブランドですね、見れば分かると思うんですけれ
ども、しかしその侵害の有無の判断になりますと法律的判断が必要になりまして、簡単ではございません。
現在、
特許権者や種苗法による育成権者、あるいは意匠権者についてもこの申立て権を認める提案というのがなされておりますけれ
ども、そうなりますと商標権の場合以上に法律的判断が必要となります。そういうことで、私は是非、準司法的な組織というものを税関に設けていただきたいと思っております。
それから、
海外における模造品や侵害品の排除のためには、今のところ民間で模倣対策
措置というのを盛んに行っておりますけれ
ども、これを民間だけではなく国が
支援していただきたく思います。また、
外国の法制の後れたところにつきましては、これは民間ではどうにもなりませんので、是非国の方でバックアップしていただきたいと思います。
二十二条に人材の確保というのがあります。日弁連
関係だけで申しますと、法科
大学院の中で教える
知的財産法の問題、それから今、
弁理士に対して
知的財産訴訟が一定範囲で認められておりますが、その
支援につきましてカリキュラムを組んだりいろいろ
努力をしております。
最後に、この
基本法ですが、第三章は戦略
本部が置かれたときの問題ですが、戦略
本部につきましては是非強力な
本部を作っていただきまして、この
知的財産戦略の司令塔になっていただきたいと思います。
それに
関連しまして、三点だけ挙げておきましたが、八ページですが、この一は読んでいただいたとおりですが、二番目に、達成
状況を適切に調査の上公表し、各界の
意見を吸収して効果的に
推進していただきたいと思います。
目的が具体的に決まっており時間も決められますので小さくまとまりがちですが、そういうことがなく、
戦略大綱にのっとって、あるいは
基本法にのっとって大きな
改革を遂げていただきたいと思います。
そして、この
改革が終局的には
国民を文化的に精神的に豊かにし、
国民が喜ぶものにしていただきたいと思います。日弁連としましても、私個人としましてもいろいろ
本部の
活動にも
協力したいと思います。よろしくお願いいたします。
以上です。