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市川参考人 御紹介にあずかりました明治大学の
市川でございます。
本日は、
発言の
機会をいただきましてありがとうございます。
きょうお話しいたします議題は、そこにございますように、レジュメ一枚、それから図表がございますが、まずタイトルでございます
首都機能移転論議の
問題点と今後の方向ということで、大きく
二つ申し上げます。
一つは、
首都機能移転の
意義と
効果に関する疑義であります。これは四点ございます。それから、
二つ目に、これからの方向、これは二点ございます。
まず、
首都機能移転の
意義と
効果に関する疑義でございますが、
首都機能移転の
意義と
効果には、
東京一極集中の
是正の
効果、
災害対応力の
強化、
国政全般の
改革の
三つがあるとされてきました。しかし、私は、そのすべてについて疑問を感じております。
まず
一つ目に、
東京一極集中の
是正です。
バブル
経済のピークとも言える時代になされました
国会等の
移転に関する決議には、
移転理由として幾つかの文言がちりばめられていました。しかし、実体としては、当時急速に進行しておりました
東京への諸
機能の
一極集中をとめることにその主点が置かれていたと思われます。
このときの
議論のポイントは二点ございまして、
一つは、
一極集中によって
地方の衰退が引き起こされたという点、それからもう一点は、
東京では渋滞や
混雑などが悪化したという大
都市問題の深刻化です。
国会等の
移転によってこれらを解決しようという論理なわけですけれ
ども、しかし、残念ながら、
国会決議以来の長期にわたる
議論の中で、その
考え方の妥当性が立証されたとはとても思えません。
しかも、こうした物理的な
一極集中現象は、
首都機能移転ではほとんど解消されないということが既に判明しております。まず、図表の一ページをごらんください。これは
東京圏におきます鉄道
混雑率の
状況でございます。既に、
移転決議がなされた時期から見ますと、大幅に
混雑率は下がっております。これは
東京圏の鉄道整備による
効果でございます。これを仮に、かわりに
首都移転をやった場合の
効果は、右にございますが、ほとんどないという結果でございます。冷静に
考えましても、
東京圏の
人口が三千三百万人、
首都圏が四千万人でございますから、このうちで最大ケース、五十六万人の減少では非常に微弱であるということがわかるわけです。
決議から既に十二年が経過し、
社会経済状況は激変をしつつあります。そうした中で、二〇〇六年には、
日本全体で
人口の増加がとまります。そして減少に向かいます。また、
東京圏でも、二〇一〇年から一五年ころには
人口減少が始まります。これは、きょうお手元の図の二番でございます。このように、ピークを打って下がっていくということが現在言われております。
すなわち、バブルのさなかに
考えました、
集中は悪、
集中は悪いという論理は既に破綻しつつあると思われます。これからの時代は、いかに既存のストックを活用してその
集積を生かしていくのか、それによってグローバリゼーションの中でいかにサバイバルができるのか否か、これが大きな
課題となっていくと思われます。
一極集中の
弊害ばかりを声高に叫ばずに、
世界にたぐいまれな
東京における多様な
機能の
集積と、
政治と
経済、すなわち
霞が関と丸の内の近接性を再評価しなければならないと思います。
図の三を見ていただきますと、これは
東京の場合と今回の候補地であります岐阜・愛知を比べたものでございます。同じ縮尺で書いてありますので、いかに今回の計画が大きいものであるか。さらに、この
クラスター間を新
交通システムで結ぶということが言われておりますが、その利用の
状況を
考えても、採算が立つめどは立っていないと思われます。かつて
政治と
経済の癒着が問われたバブルの時代は、確かに過去の悪夢ではありました。しかし、現在、国際社会での競争を
考えれば、これからは
政治と
経済の緊密な連携が改めて必要と思われます。特に
経済の最先端をつかさどる
東京に
政治と
行政があってこそ、国の活力の回復が望めることとなります。
二つ目に、
災害対応力の
強化についてです。
九五年に
阪神・淡路大
震災が起きましたときに、殊さらに大
都市の
災害に対する
脆弱性が強調されました。そして、それが
移転の理由の大きなポイントになりました。ところが、
移転先候補地には、活断層の巣に位置するものや周囲を活断層に囲まれるものなどがあります。
移転すれば
首都が安全に
機能するとの保証がありません。
これにつきましては、図の四をごらんください。これは、今回の三候補地についての活断層についての
状況を見たものです。この図中の黒い線が全部これは活断層であります。
こういう
状況を
考えれば、むしろ、
東京に
災害が
発生した場合の
バックアップをまずつくることが先である、すなわち、同時
被災しないでしかも短時間に
移動できる
場所にそれを準備しておくことが重要であるということが
考えられます。一万三千五百平方キロメートルもあります
東京圏内には、そうした候補は幾つもあるわけです。お手元の図の五番をごらんください。これは
東京圏におきます現状での
バックアップの
状況でありまして、さいたまと立川にこれは国の防災拠点があります。
こういう形で、
霞が関との
関係で
考えますと、例えばさいたまアリーナを使って臨時
国会をするという話もあるようでございまして、具体的に現状ですぐできることがあるわけです。
しかし、それでもさらに足りなければ、第二、第三の
バックアップをネットワークして
東京圏外に置くことで解決されるかと思います。この場合も、
東京から遠くては
意味がありませんので、大体百キロ圏ぐらいに
考える。それから、さらに、バーチャルであれば、これは仙台でも金沢でもいいと思います。この場合も、平常時には他の用途に使用しておいて、緊急時にだけ使用できる施設があれば足りるということです。新たに
首都機能を移す移さないという
議論にはならないと思います。
第三点の、
国政全般の
改革でございます。
首都機能移転と
国政の諸
改革とは車の両輪として一体的に推進されるべきだとされています。しかしながら、どうも現状では、諸
改革の進行がままならない
状況下で、
移転こそがその契機となるとして、
移転を先行して行おうとの雰囲気になりつつあります。私は、これこそ本末転倒だと言わなければなりません。
そもそも今回の
移転論議で模範とされましたのは、
移転調査会の最終報告書で示されたように、アメリカのワシントンと
ニューヨークの例をもとにした政経分離の方式です。しかし、忘れてならないのは、アメリカは各州が強い
権限を持つ連邦
国家であることです。また、よく成功例として出されるキャンベラを
首都とするオーストラリアも連邦制です。
こうした例を見るならば、両輪のもう一方は、明らかに完全な
地方分権のもとでの道州制などの
政治の仕組みの実現が
前提になければならないことになります。そうしたシステムができ上がらなければ小さな政府は現実のものにはなりませんし、その担保がなければ
首都機能移転の論議をそもそも進めるべきではないと思っております。
そして、以上の三点を
考えまして、四番目として、
移転の論拠の説得力です。
バブル
経済の時代には、
日本の国土計画の大
前提でありました均衡ある発展という
考えが存在しました。しかし現在、二十一世紀に入りまして、
国内的には成熟社会への移行が始まり、対外的には国際的な競争力が必要とされています。こういう中で、均衡ある発展の
考え方はその役割を終えつつありまして、新たな
考え方を求める時期だと思います。これにつきましては、国土
審議会でもそういった
議論をしているというふうに聞いております。その
意味では、二十世紀におきまして設定されました均衡ある発展という
考え方から生まれた
首都機能移転の論議はここで終止符を打って、次のステップへ向かう必要があると思っております。
先ほどの図二にありましたように、二〇五〇年には
日本の
人口は現在より二割以上減少すると言われております。
東京圏でも一割
程度減少するでしょう。そうすれば
集中圧力からは解放されることになりまして、もはや、
一極集中は罪悪であるという構図だけを追っていては、これから起きる
議論はすべて不毛で、何も生まないことになります。必要なのは、既存の
集積を生かして、いかにして国の活力を回復するかにあると思います。
続きまして、これからの方向を申し上げたいと思います。
一つは、まず、
審議の信頼性でございます。
国会等移転法の第二十二条では、
移転の検討は、
国民の合意形成の
状況、社会
経済情勢の諸事情に配慮し、
東京との
比較考量をするということになっております。
国民の合意形成につきましては、各種のアンケート結果を見ても、長きにわたる
議論で
移転賛成の
意見は高まることもなく低下していると思われます。また、社会
経済情勢を
考えてみれば、
効果の明らかでないものに極力費用をかけないということは現在常識になっております。さらには、
東京との
比較考量については、比較対象としての
移転候補地を一カ所に絞り込むということができずに、最近では
分散して分都する案まで浮上してきています。
そもそも、
審議会で候補地の重みづけ手法による総合評価で上位となった候補地が、なぜそのまま選定されないのでしょうか。あるいは、選考過程における不十分な
情報公開の
状況や、二十人の専門家の評価も
決定打にならないというのであれば、今後行われる
比較考量についても不安が残ります。
比較考量では、その評価に当たって信頼に足る第三者を多く入れて、しかも十分な
情報公開をして、最後の結果を尊重するなどの大
前提が必要かと思われます。
また、
移転費用の試算についても、算出
根拠のわからないものがあるのではないか、あるいは第三セクターの事業を
民間投資として公的負担を避けているのではないか、あるいは多額の費用のかかる周辺の整備、すなわち広域
インフラの試算はこの中に入っていないのではないかといった、とかく費用に関する過少見積もりに対する疑念が消えておりません。少なくとも、
国民の合意を目指すのであれば、公平かつ透明な
決定がなされなければならないことは自明の理と
考えております。
最後に、今後の進め方を申し述べます。
移転の
審議が長引く中で、
移転を決めた
国会決議の
意味は重いとの指摘がされることがあります。しかし、決議から十二年たち、法律の第二十二条をまつまでもなく、
移転の
意義が失われたとわかったのであれば、
国会で
移転中止を再度決議すればいいと思います。
しかし、
移転をやめたにしても、長きにわたった
審議の過程で判明した
課題もあります。これからはその
課題解決について、
首都機能移転ではない
国家プロジェクトを次に進行させればよいのではないでしょうか。もちろん、小さな政府を実現するための大胆な
権限と財源の
地方への移譲は実現しなければなりません。しかし同時に、すぐにでも実行に移さねばならないのが、
首都の
バックアップ都市を至急に準備しておくことだと思います。そしてさらに、低迷する
日本の活力を回復するために、
東京を初めとした大
都市圏での当面の
集中的な整備が不可欠です。そうすれば、それが結果的に国の活力の回復を促し、そして豊かな
地方を生み出す早道だと
考えております。
御清聴ありがとうございました。