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飯島参考人 私の
意見陳述ですが、このかっぱのマークのついている
資料と、それからきょうお配りしました「
自然再生推進法案に対する
意見」、各
議員の方々のお
手元に配られていると思います、これに沿って御説明をしたいと思います。
このかっぱの
資料の一番後ろの二十九ページにありますが、私
どものアサザプロジェクトという
事業ですが、
市民による
公共事業、
NPO主導の
公共事業を目指そうということで、霞ケ浦とその
流域全域を
対象とした
環境再生、
自然再生事業を行っています。ことしの夏までに、延べ六万人を超える
市民、それから百七十の小学校、さらに中学、高校と、さまざまな教育機関、それから
企業であるとか農林水
産業、そのほか各種
団体、そういった多様な主体によって進められる広域の
自然再生事業を私
たちは行っています。その
ネットワークですけれ
ども、その
ネットワークをコーディネートしているのが私
たちNPOという位置づけになっています。
私
たちは、単なる
環境保護の枠組みを超えて、実際に自然保護を実現するためには、そういう今までの
既存の枠組みを超えて、みずからも
環境という枠を超えて、
産業であるとか
地域のいろいろな教育
活動、福祉であるとか、さまざまな分野にこの
環境保全のシステムを浸透させていこうという取り組みを行っています。今回は時間がありませんので、私
たちの取り組み自身については細かく説明はできませんが、この新聞記事等を御
参考にしてください。
私
たちは、今、霞ケ浦で、
国土交通省と
連携して、恐らく国内で
最大規模の
自然再生事業を全国に先駆けて実施しております。その中で、さまざまな問題点それから
課題が今浮き彫りになっておりまして、私
たちはこれを乗り越えなければならないという立場にあるんですけれ
ども、この
自然再生推進法案、これが果たしてこの私
たちが抱えている
課題を乗り越えるために役立つのか、あるいはそれをさらに大きな壁として私
たちの前に存在させてしまうものになってしまうのか、私
たちは今後の
法案の
審議については非常に注目しております。
この
法案に対する
意見ですけれ
ども、まず第一に、この
法案第六条について述べたいと思います。
自然再生事業に必要なのは、いわゆる公益というものの見直しではないか。霞ケ浦の
自然再生事業は、従来の公益、霞ケ浦の場合は
水位管理であるとか逆水門の管理といったものがありますが、その見直し抜きには実現できないという実情があります。
今までも、公益の名の
もとに行われた
開発行為によって
自然環境が破壊され、損なわれてきました。また、
開発が行われた後も、公益の名の
もとに行われる管理や利用によって自然の
再生が妨げられている状況が全国にあるわけです。この公益のあり方を見直すということがなければ、本来の
自然再生というものはあり得ないのではないかというふうに考えております。
実際に霞ケ浦で起きている状況についてお話ししたいと思います。
先ほどお話ししたように、霞ケ浦では、
NPOと住民、
行政が一体となって、過去に大規模に損なわれてしまった
自然環境の
再生をする
事業、
国土交通省と
連携して行っておる
事業ですね、湖岸植生帯
復元事業と申しますけれ
ども、それが行われております。
この
国土交通省と
連携している
自然再生事業は、昨年度までに
基盤整備が終了しています。浅瀬を造成するなど、コンクリート護岸を植生が成立するような形に直していくという
事業です。今年度から、地元の小中学生や住民を中心に、水生植物、
もともと霞ケ浦に自生していた植物の植えつけ作業が
部分的に始まっております。さらに、来年度から本格的な植えつけをするということで、地元の
流域の小学校が一丸となってこの準備を進めているという
段階です。
今回の植生
復元事業は、一九九六年秋から二〇〇〇年までに
国土交通省が行った、冬の間、湖の
水位を上げる管理、これは水
資源開発事業に伴って行われるものですけれ
ども、それによって損なわれたアサザなどの植生帯、アサザの群落の場合は、この管理が行われてから十分の一に減少しました。そうやって損なわれたものを
もとに戻すという
目的で実施されています。それに伴い、この
事業の期間中、冬期の
水位上昇は凍結されております。これは、
資料の二ページにあるものを見ていただければと思います。これは、私
たちと
国土交通省、水
資源開発公団が共同で記者会見をしまして、この
自然再生事業を行うために
水位を上げずに管理しましょうという合意をしたわけです。
現在、実は霞ケ浦では水余りが生じています。過剰な水
資源開発によって水が余っている
状態があります。ですから、この間、
水位を上げない管理をしていましたが、特に水が足りない、あるいはいろいろな利水上の問題が生じたということは起きておりません。
また、霞ケ浦の植生帯
復元事業では、植生帯の衰退の原因究明が、私も参加しています
検討会の中で実施されまして、この
事業とともにその究明が進められました。それによって、
水位上昇が大きな原因であるということも明らかになっております。
ところが、ことしの十月になりまして、霞ケ浦
工事事務所が、水
資源管理という公益の
もとに、冬の
水位上昇を前提とした管理実験をもう一回再開したいという発表を、これは私
たちには全く相談もなく、一方的に記者会見をするという形で発表されました。これは
資料の三ページ、四ページ、十三ページに示されております。現在、まだ植生の
復元作業が始まったばかりで、
基盤整備が終わってようやく
部分的に水草を植えるという作業が始まり、来年に向けて、
子供たちが一生懸命水草をふやす、植えつけようという準備をしているそのさなかに、しかもその植えつけが終わった直後に、植生帯に明らかに影響を及ぼすことがわかっている
水位管理を再び再開しようという決定を一方的に
国土交通省霞ケ浦
工事事務所が実施したわけです。
このような実験が行われれば、植生帯が再び衰退して、せっかくたくさんのお金、税金を費やして、また何万人もの人々がこの
再生事業に参加して、この植生帯、
自然再生を行ってきた
事業が台なしになってしまう。このようなことを繰り返していけば、まさにマッチポンプになってしまうのではないか。自然を破壊し、またそれを取り戻すために
自然再生事業をやる、またその自然を破壊するために、公益の名の
もとに破壊が行われる、このようなことが行われていいのだろうかというふうに考えます。実際に、その
水位上昇によって大きな影響が出るということは、
資料の二十三ページから二十五ページ、これは私も参加しております
国土交通省の
委員会の中でも明らかになっているものです。
霞ケ浦の
水位管理は、湖の
自然再生を進める上で最も重要な
要素であると同時に、水
資源管理という公益とも深くかかわる
要素であるわけです。霞ケ浦の事例で明らかなことは、過去に決められた公益性、要するに基準ですね、これが優先されることで、過去に失われた
自然環境の
再生が妨げられているという実態であると思います。
水位管理という公益の見直しがない限り、霞ケ浦の
自然再生は不可能であるということはもう明らかなんです。
このことは、霞ケ浦に限らず、多くの
地域で言えることだと思います。
自然再生事業を成功させるには、
水位管理などの従来の公益のあり方の見直しが不可欠だというふうに考えます。さらに、
自然再生事業は、公益の見直しを伴うことで
社会の側にインパクトを与えることにもなる、それによって、この
法案が目指している自然と共生する
社会の構築の実現に結びつくものになるのではないかというふうに考えます。
自然と共生する
社会の構築ということは、現在の
社会の変革なくしてはあり得ないことですし、
社会の再構築というものを伴わなければならないものです。その中では当然、公益というもののあり方も変わってくるというふうに思います。ですから、公益というものを
行政の枠の中で固定して、その枠の中で
自然再生を続けていこうということは絶対に見直さなければならない、その枠組みを超えなければ真の
自然再生はあり得ないというふうに考えています。
ちょうど百年前、田中正造が、治水はつくるものにあらずという言葉を残しておりますけれ
ども、これはまさに、この
自然再生事業についても言えるのではないかというふうに思っております。
以上の理由から、私は、同
法案の第六条については削除されることを強く求めます。
あわせて、第二条になりますが、「「
自然再生」とは、」といった本文の中に、自然の
再生を妨げている要因を取り除きという、まさにこれは公益というものとかかわる
部分ですが、これを加えることを求めます。
次に第二点、第八条についてですが、
NPOと
行政は本当に対等な立場で実施者になれるのかということです。これは
資料の十一ページを見ていただきたいと思います。
自然再生事業のモデルとされている
事業が
二つあります。釧路湿原と霞ケ浦ですけれ
ども、この
二つの
事業の大きな違いは、
行政主導で進められているか、
NPO主導で進められているかということだと私は思います。
釧路湿原では、全体計画を
行政主導で進め、その中に含まれる
特定の
地域あるいは分野を
NPOが担当するという手法で進められております。一方、霞ケ浦では、湖と
流域全体を覆う全体計画、これは
行政ではなかなかできないものだと思います。
行政の縦割りを超えることは
NPOの
一つの大きな役割だと思いますが、
NPOをうまく
行政側も使っていただいて、
流域全体を覆う
自然再生事業というものが今進められています。個々の
地域や分野について、個々の
行政と私
たちNPOが組んで全体を調整していくという役割を持っているわけです。
ところが、この
自然再生推進法案について、
河川局及び霞ケ浦
工事事務所と話し合っておるんですけれ
ども、その中では、例えば霞ケ浦全域にかかわる
再生事業、これはアサザプロジェクトそのものなんですが、これについては
協議会を
NPOで呼びかけることはできない、これは
行政が呼びかけさせていただくというような見解を聞いております。このような
NPOが
部分的な
事業について呼びかけることができるという見解に基づいてこの
自然再生推進法が実際に
施行されますと、アサザプロジェクト、私
たちが非常に多様な主体を
NPOの柔軟な
ネットワークの中でうまくつなぎ合わせている、その
ネットワークが崩壊してしまうおそれがあるというふうに考えています。
NPOとの
連携というものについて、
NPOの位置づけというものが、
行政が今のような認識であった場合、アサザプロジェクトにこの
法案が適用されると、
NPO主導から
行政主導に変わってしまう。さらには、
行政が持っている縦割り、
地域割り、年度割りのそういったばらばらにされてしまうシステムによって、プロジェクト全体計画が分断され、全体をつなぐ
NPOの役割が阻害され、プロジェクト全体が崩壊するおそれがあるのではないかという大きな危惧を持っております。このような事態を生じさせないためには、この
法案の見直しも当然あると思いますけれ
ども、何よりも
行政側がきちっとした姿勢を示すこと、それから、
NPOの位置づけというものを、単に
行政の下請あるいはお手伝いをする主体というような見方ではなく、私
たちが今進めているような新しい
社会システムをつくり上げていく主体としてきちっと位置づけていただく必要があると思います。
行政の誤った認識については、
アサザ基金の申し入れ、これは、円卓
会議をぜひ開こう、開いてくださいという申し入れを
国土交通省にしたわけですけれ
ども、これは
資料五ページ、六ページにあります。この申し入れを受けまして、
国土交通大臣が参議院の決算
委員会で、円卓
会議を開きましょうということを明言していただきました。ところが、現場におりてきますと、今度はこの円卓
会議が全く違うものに変質してしまう。円卓
会議が全く覆されて、
意見交換会にすりかえられてしまったわけです。
資料の十二、十五ページを見ていただきたいと思います。
この円卓
会議は、多様な利害
関係があって合意形成がなかなか難しい、そういった公益にかかわる
事業あるいはその管理、それについて、
行政だけでは合意形成できない
部分を、円卓
会議という形で、
行政が意思決定しやすい形で
行政に受け渡せるような、そういうシステムとして私
たちは提案しました。ところが、その円卓
会議に対して非常に大きな拒絶反応がその現場から生じているということです。
意見交換会というのは、まさに今まで行われていたさまざまな
意見を聞く会、
行政が
意見を
NPOや住民から聞いて、その
意見を
行政が集約するという場であって、私
たちが望んでいるものでは全くありません。このような
行政の誤った認識、これをまず変えていただかないと、この
自然再生事業は正しい方向には行かないのではないかというふうに思っております。何よりも、
NPOを主体として参画させるという強い意思を持って、
行政はこの法律に臨んでいただきたいというふうに思っております。
第三にですけれ
ども、これは第二条になります。
事業の
対象地域を研究実績に基づいて選定すること、それから第三者機関として科学
委員会の設置は不可欠であるということです。
第二条は「過去に損なわれた生態系その他の
自然環境を取り戻す」としていますが、同
法案による
事業の
対象地域の選定に当たっては、過去に生態系や
自然環境を損ない、自然の
再生を妨げている、または
野生生物の生息を妨げている要因についての科学的な調査や研究が実施された実績のある
地域に限定すべきだと思っています。
そもそも、
自然再生事業を行うに当たって、この法律にも示されているように、自然を損なう、あるいは
再生を妨げている要因というものが果たして明確に把握されているのかどうか。これを把握するという作業は、実は大変なことです。非常に高度な科学的な調査や研究が必要です。これは、
保全生態学という新しい学問分野ができ、そのパイオニア的な研究者が今一生懸命研究を進めておりますが、これをきちっとしたレベルの高い研究としてまとめ、その要因を科学的にきちっと把握した上での
事業でなければ、まずこの
自然再生事業そのものが成り立たないのではないかというふうに考えております。この法律では、事前にそのような科学的な研究あるいは調査が行われているかどうかということを把握する、あるいはそれをきちっと
審査するというシステムは全く入っておりません。
私は、この
対象地域は厳しくこの科学的なレベルを達した
地域に限定すべきである。そうでなければ、多くの
場所で、思いつき、思い込みで始まった
自然再生事業、しかもそこに
NPOの方々、住民の方々が善意で参加するわけです。一度始まったらとめるのは大変だと思います。地元の方々を傷つけることにもなりますし、多くの混乱を生じさせると思います。そういう
意味でも、科学的な厳密さ、そのきちっとした水準を保つということは、この法律にとって最も重要な点ではないかというふうに考えております。
なおかつ、それを
審査する機関として第三者機関、私は科学
委員会と呼んでいますが、例えば生態学会、あるいは
NPO、
NGOの中でそれだけの
能力のある
団体、これが参加して、第三者としてきちっと
審査をしていくことが不可欠だというふうに考えております。
そもそも、新
生物多様性国家戦略、この第二章の四のイでは、その要因を科学的に把握することを前提としているとこの
自然再生事業について定義しています。これらの要因が科学的に検証された実績がない
地域で
自然再生事業を立案することは、私は何度も申し上げますが、不可能であるというふうに思います。
さらに、
事業計画が
提出された後に縦覧期間を設け、
意見を持つ人や学会などの
意見を集約した後に
事業の是非や内容を決めるような手続が必要ではないかと考えております。
最後に、この
法案の作成
段階で、残念なんですけれ
ども、モデルというふうにされております私
たちのアサザプロジェクトに関して実態調査が行われていない、これは非常に私
どもは残念に思っています。私
たちが今いろいろな問題に、これまでもそうですけれ
ども、直面し、それを乗り越え、もちろん、地元、現場の
行政関係の人
たちともいろいろと悩みながら、相談しながら、ようやく何とか折り合いをつけながら今この
事業を進めてきています。でも、乗り越えなければならないいろいろな限界があります。そういうものがきちっと把握された上でこの法律がつくられていれば、もっと私
たちにとってもいいものになったのではないかなというふうに思っております。
しかし、今後の
審議を通して、この
法案が
NPO主導の私
たちのような
事業を阻害することなく、その発展に寄与するものになるように十分に
検討されるようお願いしたいと思います。
以上です。(
拍手)