○伊藤基隆君 私は、
民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました郵政公社関連四
法案に対して
質問いたします。
本
法案は、明治以来百三十年間にわたって国が直接
運営してきた郵便、郵便貯金、簡易保険の郵政三
事業を来年から新たに発足する国営の公社が行い、併せて郵便
事業に
民間企業の参入を図ろうというものであります。
御承知のように、郵便局は、全国津々浦々に二万四千七百局に及ぶネットワークを通じて、離島や山間へき地を含めた全国のどこでも、
国民のだれでも利用することができます。しかも、独立採算の下、一円の補助金も受けることなく、健全な
経営を維持し、
国民生活と地域社会で大きな役割を果たしてまいりました。
郵便は毎日欠かすことなく確実に配達され、郵便貯金、簡易保険は身近な庶民の
金融機関として
国民からの信頼を集めております。
この
国民の財産とも言える郵便局が、時代の変化に適応した効率的な
経営と、より良いサービスの提供を目指した郵政公社化への道は、中央省庁
改革の一環として計画的に実行されつつあるものであります。
この間の経緯を振り返れば、第二次橋本
内閣の発足とともに設置された
行政改革会議は、一年余りの
国民的大
議論を経て、
平成九年暮れに最終報告をまとめ、郵政三
事業を一体とし、五年後に新たな郵政公社に移行することとし、独立採算制の下、自律的、弾力的な
経営を可能にすること、そして郵便
事業への
民間参入について具体的条件の検討に入ること等を決定しました。
この
行政改革会議最終報告に基づいて、
平成十年に中央省庁等
改革基本法が成立して、昨年一月より一府十二省制がスタートし、郵政公社については
平成十五年中に国営の新たな公社を
設立するため、所要の
法律案を本年の通常国会に提出することとなったのであります。
この経過を踏まえれば、過去の
議論の上に
法律に基づき郵政公社を発足させるという、純粋に
技術的な
法律案であったはずの郵政公社関連四
法案がこれほどまでに政治的に注目を集めるに至った理由は、ひとえに郵政
民営化論を政治的信念とする小泉首相の存在によるものであります。
以下、この一年余りの小泉政治をも振り返りながら、本
法案についてお伺いします。
発足当初八割を超える高支持率を誇った
小泉内閣ですが、最近の世論調査では逆転して、不支持が支持を上回る傾向が顕著となっています。
まず、この
内閣支持率の大幅な低下の原因は何だと総理は
考えていますか。
六月下旬に行われた読売新聞の世論調査によれば、支持する理由で一番多いのは、「これまでの
内閣より良い」であり、次いで「政治姿勢が評価できる」で、肝心の「政策が評価できる」は一二%にすぎません。逆に、「政策が評価できない」との回答は三五%で、「評価できる」とした人の倍に達しています。
小泉内閣の政策は
国民から評価されていないという結果なのです。
世論調査は、
小泉内閣で優先的に取り組んでほしいものについて多い順に、「景気対策」の七六%を始め、「雇用対策」、「社会保障
制度改革」、「税制
改革」と続き、「郵政三
事業の
民営化」は一一%にすぎません。今、多くの
国民が望んでいるのは、総理がこれを突破口とすればあらゆる
改革が進むと喧伝する郵政
事業ではなく、景気や雇用対策、更には社会保障
制度や税制の
改革なのです。
国民の気持ちから外れた
政策課題の選択が大幅な支持率低下の
背景にあるのではありませんか。
総理は、失われた
国民の信頼を回復するためには何が必要だと
考えていますか。
この一年、総理
自身の懸命な取組にもかかわらず、
小泉内閣は具体的な成果を上げることができませんでした。当初、多くの
国民が歯切れの良い小泉総理の言葉を歓迎しました。しばらくの間痛みに耐えれば、きっと経済は回復し、雇用も持ち直し、日々の生活も改善されると期待したのです。しかしながら、この期待は急速にしぼんでいます。小泉政治というのは、実は独り善がりで、情報が偏り、民意の把握も不十分なため、取り組んでいる
内容が的外れになっているのではありませんか。
まず、疑問に感ずることは、総理の郵政
事業への尋常ならぬこだわりです。
国民が切実に求めている景気や雇用対策ではなく、本丸は郵政
改革であり最優先だと言われることが私には理解できません。総理は、過去の経験や感情にとらわれる余りバランス感覚を失っているのではないかと心配です。
総理は、景気対策や雇用対策として何をされたのですか。その実績は表れているのですか。
国民はいつまで痛みに耐えろというのでしょうか。具体的に
お答えをお願いします。
国民は痛みに耐えていますが、銀行はどうですか。バブル期の行き過ぎた
融資やその後の努力不足から景気をここまで悪化させながら、自ら痛みを負うことなく、むしろ、ゼロに等しい預金金利や貸し渋り、更には貸しはがし等の問題行動によって痛みを
国民に転嫁しているではありませんか。しかも、この間、銀行には不良債権
処理などのため公的
資金が三十九兆円も投入され、うち九兆円は
国民負担が確定しているのです。
総理は、郵政
事業に言及されることは度々ですが、銀行の問題には関心が薄いように感じられます。バランス感覚を失った取組では、
国民の心が離れるばかりなのではありませんか。
総理のバランス感覚の欠如は、郵便の
民間参入の問題にも典型的に表れています。
郵便分野の自由化は欧米諸国でも進められていますが、ほとんどの国では、部分的、段階的に
民間参入を認めてきました。郵便局に従来同様ユニバーサルサービス提供の役割を担わせながら、同時に、競争を徐々に
導入し、刺激を与え、
効率化を進めていくのが現実的な政策なのです。唯一スウェーデンが一挙に全面自由化を行いましたが、変革が急激であっただけに副作用も深刻でした。大口利用者の料金は安くなったものの、
個人や小口利用者の料金は大幅に値上げされたのです。労働力依存度の高い郵便分野では、自由化は部分的、段階的に進めるというのが世界の常識なのです。
郵便
事業の特性として、大都市部では必ず大きな利益が期待できる反面、地方や過疎地域では厳しい
経営を覚悟しなくてはなりません。一例を挙げれば、東京中央郵便局たった一局の年間の売上げと北海道の全郵便局の売上高はほぼ同額なのです。また、大都市から大量に発送する郵便物のコストに比べて、全国のポストから郵便物を収集する費用は大きな
負担となるのです。都市部での利益を過疎地で平準化するという微妙なバランスが成り立つことで全国一律の、封書は八十円、はがきは五十円の料金が維持されているわけで、もしこの均衡が崩れたとき、そのしわ寄せは郵便局の閉鎖やサービスの低下という形で一方的に地方に押し寄せることになるのです。
今回の
民間参入についても、総理は当初より明確に全面参入を求め、自らの
責任において全面参入を
内容とする
信書便
法案を提出しました。しかし、総理が参入候補として念頭に置いていたと思われる宅配
会社は、
信書便
事業への参入を見合わせる意向を明らかにしています。
今回の郵便の
民間参入については、総理が全面参入にこだわったために混乱しましたが、この原因は、現実を直視することなく、自分と異なる
意見を持つ者を抵抗勢力と決め付け、しかも最終調整は他人に任せてしまうという、独善的な総理の政治手法にあったのではありませんか。総理御
自身の認識をお聞かせください。
総理は非常にリーダーシップが強く、意表をついた発言をされますが、逆に大切な情報が耳に入っていないのではないかと心配です。郵便貯金や簡易保険の問題についても、事実に相違する発言が続いており、気になっています。それは、郵貯
改革が特殊
法人改革の突破口、郵貯
改革なくして特殊
法人改革なしという主張であります。
事実は、既に昨年の四月から郵貯
資金は
資金運用部への預託
義務が
廃止されています。もはや自動的に財投に郵貯
資金が流れる仕組みはないのです。問題の本質は、いわゆる財投の出口と言われる特殊
法人側の問題で、今なお一部の特殊
法人では漫然と
経営が行われていることです。総理が意図的に
議論をすり替えたとは思いませんが、総理の主張には首を傾けざるを得ません。
今日、喫緊の
課題は特殊
法人改革であり、財政支出本体の
改革であります。相変わらず後ろ向きの分野に惰性的に
予算を付けてはいませんか。既得権にとらわれた
予算の硬直性こそ小泉
改革の真髄のはずです。財政の硬直的な縦割り構造の
改革について総理はどう
考えているのですか。
しばしば郵便貯金の規模が問題とされています。しかし、私は、将来、郵貯は縮小するものと見ています。現在のゼロ金利政策は、いずれ正常化して名目金利が上昇する局面を迎えるでしょう。
巨額の低利国債を保有する郵貯は、
民間の
金融機関の運用利回りの回復に後れを取り、郵便貯金の利率は
民間よりも低くなると見込まれます。郵便貯金は解約、流出し、郵貯残高の減少が国債市場に悪影響を与えないよう気を遣うぐらいの
事業運営になるでしょう。
こうした予測以上に、私は、
国民生活にとっての貯蓄の意義が失われていることを心配しています。貯蓄は悪であり消費が善という風潮は、特に若い人たちに影響を与えているのではないでしょうか。その極みがバブルでした。まじめに働くことが愚かのように言われた時期です。やはり、人生の王道は勤勉です。自分の努力で蓄え、自らの将来を切り開くことが基本です。
マクロ的な貯蓄過剰を経済政策の中で
議論することがあっても、
個人の貯蓄を否定するような事態となっては取り返しが付きません。
国民にとって勤勉さと貯蓄の大切さについて、総理はどのようにお
考えですか。
郵便局は、全国で人々に親しまれ、日常的に利用されています。
かつて
行政改革の中心的役割を担われた瀬島龍三氏が、
平成九年の行革
会議の中間報告が郵政
事業の一部
民営化を提言した際の論評で、気掛かりな点を挙げると、郵政三
事業、特に簡易保険の
民営化と郵便貯金の
民営化方針に対する評価が一三%と低いことだ、郵貯の
民営化については離れ小島や山村の人々などに強い不安感があるのではなかろうか、銀行は経済効率で支店を設置しており、離れ小島などは見捨てられるおそれがあると述べた上で、郵便局の存廃と医療、介護、年金などの改正については、民意に配慮し
改革を進めてもらいたいと記されています。
郵政
事業の
経営形態については、正に民意を踏まえることが大切です。総理
自身も衆議院で、まずは公社を
設立すること、その上で
民間参入等によりどのような効果、影響が出てくるのか見ていくとの
考えを示しています。
総理は、公社という形態についてどのように評価されていますか。新たに
設立すべき意義ある形態とお
考えですか。それとも、欠陥のあるものと
考えていますか。
郵政公社
法案にある公社は、かつての電電公社や国鉄と名称や
経営形態は一緒でも、
予算や国会との
関係など、自律的な弾力的な
経営を行えるという点で格段に違うものです。どこまで
民間的な手法を取り入れ、
責任を負える
経営を行い、公共的な役割を効率的に達成できるのか。私は、
設立された後もじっくり見守り、改善すべき問題が生ずれば厳しく追求していきたいと
考えております。
現在、
国民の関心は、郵政三
事業の
民営化ではなく、景気対策であり、雇用対策にあります。本丸は景気と雇用です。これは、幾ら郵政
民営化を唱えても決して良くなるものではありません。過去の主張を何度も繰り返しても
国民から飽きられます。まして、事実に相違する主張は信頼を失います。
意見の異なる者の話にもよく耳を傾け、大局的な
観点から
考えていただきたい。
小泉総理、あなたには、
国民が日本の将来に希望と自信の持てるよう、
国民のバランス感覚で
国民のための郵政公社を推進し、
国民のための本当の仕事をしていただきたいと思うものであります。
さて、議題の
法案につきまして、衆議院においては、国会論議を踏まえ一部修正が行われました。すなわち、郵政公社
法案に関して、
出資規定を新設し、郵便局規定と国庫納付金規定の一部修正を経て、
政府原案が参議院に送付されたものであります。
本
法律案が与党の事前承認手続を経ることなく国会に提出された異例の経緯に特段の注意を払いながら、これらの修正項目に対する総務
大臣の見解を
最後にお伺いして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小泉純一郎君
登壇、
拍手〕