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政府参考人(房村
精一君) 現在の商法における取締役の会社に対する責任、これは
一般的には過失責任が原則でございますが、例外として、違法配当、それから株主に対する利益供与、それから利益相反取引、この三つの場合については無過失責任を負うということを定めております。今回の法改正に伴いまして、監督体制を
整備したということに伴ってこの取締役の責任についても見直しをいたしまして、株主に対する利益供与を除く違法配当と利益相反取引については過失責任としたわけでございます。
その
理由でございますが、まず違法配当で見ますと、
委員会等設置会社における計算書類の確定の手続でございます。これは、執行役が計算書類を作成いたしまして、それから会計監査人、監査
委員会が監査をいたします。その後、取締役会にかけられてその承認を受けると、こういうことになるわけでございますが、そうなりますと、この計算書類の作成に関与していない取締役、これは、専門家である会計監査人と監査
委員会の監査の結果の
報告を受けてこれに基づいて決議をするということになるわけでありまして、従来の会社における監査をする会計監査人とか監査役会と同様の役割を担うということになるわけでございまして、監査をした会計監査人あるいは監査役が過失責任、任務懈怠責任しか負わないということと比較いたしますと、
委員会等設置会社になった取締役について見ましても同様の任務懈怠責任ということで十分ではないかということを
考えたわけでございます。
執行役につきましては、取締役と異なりまして自ら計算書類の作成を行うわけでございますので、特別の責任を課す合理性は認められるわけでございますが、ただ、
委員会等設置会社におきましては、指名、報酬、監査の三
委員会を設けまして全体的に監督機能が強化されておりますので、責任についての近代私法の過失責任主義の例外として無過失責任までも負わせる必要性は乏しいのではないかと。そこで、執行役の責任については、その執行役が違法配当を行ったことにつき過失がないということを証明した場合には責任を負わせないということでよろしいのではないかということを
考えたわけでございます。
次に、利益相反行為につきましては、現行の商法では、会社とその取締役の利益が相反するような取引について取締役会が安易に承認を行うということによって会社に損害が生ずることを防止する趣旨で無過失責任を負わせることとしたわけでございますが、
委員会等設置会社においては、社外取締役が過半数を占める指名
委員会によって決定された取締役候補者の中から取締役が選任される上、執行役という新たな役員を設けて監督と執行を分離しておりますので、利益相反取引についても、取締役会が承認をするについて責任がない、十分
注意を払ってその承認をしたという
事情がある場合にまで責任を負わせる合理的
理由はないのではないかということでやったわけでございますが、ただ、その取締役が利益相反をする場合に、取締役相互の緊密な
関係から承認が安易に行われるおそれは否定できない点もありますので、過失のなかったことの証明責任を取締役に負わせることによって十分な
注意を払ったということが立証されれば責任を免除する、それができなければ責任を負わせる、こういう
考え方にしたものでございます。
委員会等設置会社でない従来型の場合に無過失責任を維持しているわけでございますが、これにつきましては、ただいま申し上げましたように、
委員会等設置会社において取締役の役割が変化したということ、そのことによって業務執行行為に従事しないということで会社に損害を与える可能性が非常に減ったというようなこと、そして取締役会による監督体制が格段に強化される、こういった背景を踏まえて無過失責任を過失責任に転換したわけでございますが、このような手当てがなされていない
通常の会社における取締役の責任について、現行法上の無過失責任を直ちに過失責任に変更するというのは時期尚早と
考えたわけでございますが、ただ、現行法上の無過失責任規定につきましても厳格に過ぎるという指摘もございますので、今後更に検討をしていきたいと
考えております。