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参考人(
暉峻淑子君)
暉峻でございます。
この
調査会に招かれましたのはこれで二度目で、この
調査会がとても政党のいかんを問わず
国民生活のために大変まじめにいろんな勉強や議論をしていらっしゃるというのはよく承っております。お招きいただいてありがとうございました。
私は、
失業者の
生活保障の問題をここで取り上げたいと思います。
といいますのは、
日本は
失業率というのがこれまで大変低くて、例えば一九六〇年から七四年のオイルショックまではほぼ一%前後しか
失業率はなかったんですね。七四年のオイルショックの後もほぼ二%前後で推移してきまして、九四年に三%になり、そこからがもう雪崩のように多くなってきて、九八年四%、現在は五・五とか五・三というところですけれども、
失業者の状態は全然よくなっていく状態にありません。
不況の中で大体
日本の
社会の下支えになっている
部分が、もろかったところが表に今出てきているところだと思うんですけれども、例えばその
一つが、
日本の
社会は大変平等な
社会だという神話があります。しかし、この神話は既に一九八〇年の真ん中ごろから崩れてきていまして、
所得分布から見ても上下の格差が非常に開いてきているんです。
それで、例えば親が管理職であった子供はどういう職業に就くかというと、子供は割合いい職に就いていて、親が
余り階層の上で上の方にいなかったところの子供がまた上に上れないという
状況になっています。それは、六〇年から八〇年ぐらいまでは親の職業いかんにかかわらず子供は勉強をしていい職業にも就けたというところが、
日本の
社会の階層移動が非常に自由であるというところがいいと考えられて、
日本の
社会は平等化に向けて進んでいっているというふうにいい評価を受けていたんですけれども、八〇年の半ばごろからこれが止まっています。階層移動というのが止まってきたということなんです。
国民生活基礎調査、これを見ましても、第一分位と第四分位、これは七〇年代には大体三倍とか三・五倍ぐらいだったんですね。これが九〇年を見ますと六・七五倍に開いてしまって、九五年で六・九五倍、九九年で七・八六倍というところまで格差が開いてしまっているんです。これは、
社会的なやっぱり不安定な要素が表にどんどん出てきているわけで、それから
皆様も例えば国債がもう六百兆円以上あるといっても、ああ
国民の貯金は千四百兆円もあるんだからという神話を信じていられると思いますけれども、これも貯蓄動向
調査で見ますとせいぜい八百兆円ぐらいしかないんです。こういう
日本の
社会に何かちゃんとした根拠もないのに信じられていたことが、
一つの神話的なものが今どんどん崩れていっている。その根幹になっているのがやっぱり
失業問題であると思います。
それで、
失業者が増えても、これは構造
改革の途中なんだから
労働が自由に移動するのはいいことだというふうに思われる方もいらっしゃると思いますけれども、しかし現在もう働いている人の三分の一が非正社員として働いています。それで、リストラされなかった人も今までより一・五倍ぐらい働かされているんですね。その
失業者が一体どういう
生活をしているのか。例えば
障害者の
生活調査、老人の家庭の
生活調査というのはありますけれども、
失業者の本格的な
生活調査というのは行われたことがありません。
一体どういうことをしたら
失業者にとって本当の政策ができるのかということは、
日本の
失業者の歴史というのが、戦前は別として戦後
余りなかったので、その対策も大きく遅れてしまっているということです。例えば、ホームレスが今把握されているだけで三万人ぐらいいると言われますけれども、この七割が職場を追われた三年以内の
失業者ですね。それから、自殺者がここ三年連続三万人と言われていますけれども、これも
社会的に孤立して
経済的にも破綻して、自分はもう
社会的に無用な人間になったんだ、自分は人生の敗者だというふうに思って自殺する
人たちが大変多い。
それで、
世帯主が
失業していますと子供は、今高校中退している子供たちがどんどん増えています。勉強したいのに高校も出られないということになると、これは
労働市場に出ていくときにいよいよ就職先がないわけですね。家庭の崩壊というのも
失業をきっかけに次々に広がってきています。それから、高校卒業生が半分ぐらいしか就職できないということになると、高校生たちは、じゃ何で自分たちは勉強するんだ、今まで勉強してきたことはみんな無意味になったんじゃないかというふうに大変希望を失うわけですね。
これは、就職している人が
失業したというそこだけでも、その働いている人が持っていた知識とか技能というのはみんな捨てられてしまうわけで、これは国富の、国の富の大きな損失であると思います。だから、
労働者が流動化していくのはいいという一面的な見方でなくて、その背後に何があるかということをやっぱり知っていただきたいんですね。
それで、短期
雇用、不安定
雇用というのは今非常に多くなっています。これは派遣
労働でもパートでもそうなんですが、それが一体何を意味するかというと、今さっき
城戸先生がおっしゃったような、人生の
生活設計ができないということなんですね。二十歳代から六十歳代まで自分の
生活設計もできないということが一体どういう結果になるか。つまり、場当たり的な生き方になります。そうすると、これはモラルの問題としても問題ですね。しかも、
社会が、
社会不安というのが出てくるということは、テロ事件までは起きないと思いますけれども、
社会が非常に不安な状態になって
生活設計もできないという状態になってくると、これは
企業にとっても最悪のシナリオで、政治にとっても、もちろん私たちにとってもこういう不安定な不安な
社会というのはやっぱり好ましいことではない。その不安な中で必死に生き残ろうとして馬車馬のように働くという人もいるのかもしれないけれども、そうでないマイナスの面が非常に多いと思います。
特に
失業保険がもらえない人というのが大変多いんですね。これは
事業主が
雇用保険に未加入、加入していないという
事業がほぼ五〇%あります。それから、
失業保険をもらうまで保険の掛金の期間が少ない、あるいは掛金がもうない、つまり
事業主が
雇用保険未加入だとこれは掛金も、
労働者も掛金を払っていないわけで、それからパートとか短期
雇用の場合はなおさらそうですね。そうすると、一体そういう
人たちは
社会の中で今どうやって生きているんだろうかということを考えてほしいわけです。
よく、若い人はパラサイトシングルと言ってせっせと貯金をした親にお世話になって、
部屋代も払わず食費も払わず、一応お小遣いぐらいあればいいという形で生きているという人もいますけれども、親にすがれない若者というのもあるんですね。この
人たちは一体、学卒者も、大学の卒業者も半分近くは就職今できていないという、内定ができていないという
状況もありますし、それから
世帯主の
世代でリストラされた人は一体どうするんだということがあります。
私は、二年にわたってちょっと
ドイツの
失業対策について
調査をしましたので、簡単にここでそれを御紹介したいと思います。
例えば
ドイツの場合は、これは
失業保険その他
社会保険すべてはパートであろうと何であろうと同じように掛けることになっていますので、
失業保険がもらえないというのは六か月も働かなかった人ですね。最低六か月働けば何らかの保険が付きますので、うんと短期の人というのはないんですけれども、六か月以上働いた人には何らかの形で必ず
失業保険が付いています。
失業しますと、
社会保険、つまり
医療保険と
年金の掛金と
介護保険、この掛金は
失業した人には全部国が代わって
社会保険の掛金を払っています。
それから、自治体によって違うんですけれども、
失業している人は仕事を探すというので交通費が非常に掛かる。それで定期券を一般の六割引き、つまり四割の定期券を与えているという自治体がかなり多いんですね。ベルリンなどは全部そういうふうにしています。
それから、
高齢者には東京都でも優待のパスというのがあるわけですけれども、その他、
失業しているから
社会から疎外されてもう孤立感を持って文化的な催しにも参加できないというのは良くないというので、入場料についても
失業者の場合は恩典があります。これは半額とか六割引きとかただとか、そういうのがあります。
それから、
日本でホームレスが
失業と結び付きやすいというのは家賃補助がないという、これは
高齢者も同じなんですけれども、家賃補助がないということですね。
それから、公営住宅も非常に少ないということなんですが、
ドイツの場合はもう直ちに家賃補助がありますし、それから子供の、元々
ドイツは御承知のように、フランスもそうだと思いますが、大学まで授業料というのがないんです。勉強したい人間はどこまでも勉強してよろしいという、教育に投資するということほど私は効果がある投資はないと思うんですけれども。ですから、親が
失業していても
児童手当というのは子供が学校に行っている間は付きますから、二十七歳、大学院に至るまでこの
児童手当がずっと連続して付けられます。ですから、
失業者の子供で、
日本のように高校も中退しなきゃいけないというのじゃなくて、大学院まで堂々と子供たちは行っている。つまり、親の運命とは
関係なく子供自身は自分の道を切り開くということがあります。
それで、小泉首相は二、三年痛みを我慢するということを私たちに言われるわけですけれども、二、三年の痛みとこの
失業手当の受給期間が
余りにも離れ過ぎているとお考えにならないでしょうか。
例えば
日本ですと、三十歳
未満の人は一年
未満この
失業保険を掛けた人はわずか三か月ですね。四十五歳
未満も同じく三か月です。それで、一年
未満働いた人は六十歳
未満の人も三か月しかもらえません。一年以上五年
未満になると、四十五歳までの人は相変わらず三か月で、四十五歳以上になるとやっと六か月です。五年以上十年
未満被保険期間があった人は、三十歳以上で六か月、四十五歳以上で八か月です。
ところが、私が差し上げているこの
ドイツの
失業保険についてのちっちゃな
調査報告がありますが、これを見ますと、四十五歳以上になるとこれは十四か月、一年二か月もらえます。それで、四十五歳は一年二か月から一年半もらえるんですね。それから、四十七歳になりますと一年八か月あるいは一年十か月。それから、五十二歳以上になりますと、これは二年あるいは二年四か月。それから、五十七歳以上になりますと、二年六か月から三十二か月ですから、ほぼ三年間もらえるということです。
ですから、この
日本の
失業保険の受給期間が
余りにも短い。四十五歳から六十歳
未満の人で二十年以上働いていても、この
人たちは十一か月でおしまいなんですね。しかも
ドイツの場合は、
失業保険が切れた後も、その後
失業扶助というのがあります。就職できていないということは国家の責任であるというふうに考えられて、
日本でも憲法に
労働の権利ということがうたわれていますけれども、
ドイツの場合も
労働ということは人間が生きていく上で最も大事なことで、これがないということは国の責任であると考えられていますので、
失業保険が切れた後、六十五歳の
年金受給
年齢まで
失業扶助が続きます。
失業扶助というのは、
失業保険よりもレベルがかなり下がって五七%、子供がなければ五三%、従前の
給与のネットの
給与、つまり手取り
給与の五七%から五三%まで下がりますので、実際に受給している人は十五万円から十万円ぐらいのところに七割ぐらいの人が固まっているということですけれども、
失業保険と
失業扶助が
年金受給
年齢までともかくずっと続いていくということは
国民にとってはすごく安心なことなんですね。
それで、
失業扶助の場合は、
配偶者が働いていて、大体
配偶者が四十万円以上ぐらいの
収入をもらっている場合は
失業扶助は受けられません。
失業保険は無条件に受けられますけれども、
失業扶助には多少の条件があります。例えば、すごく大きな豪邸に住んでいる人は、その部屋を人に貸したらどうですかというようなことは言われます。しかし、
生活保護とは違うので、
生活保護のような厳重ないろいろな審査とか条件がない。そして、
失業扶助を受けている間に皆何度でも挑戦できるということがあります。
それで、
ドイツの場合、今年の一月から職業安定所の職員の数を一挙に二倍に増やしました。こういう思い切ったことをしなければ
失業者というのはなくなりません。大体、今
ドイツの
失業者の数と
日本の
失業者の数は、数からいうと
余り変わりません。パーセントからいうと
ドイツは九%、西だと、昔の西
ドイツだと六%から三%、東独が入って九%ぐらいですけれども、それでも
失業に対して国がどれだけ大きな力を注いでいるのかということが分かります。
それから、時間がもう
余りないんですけれども、職安の下にトレーガーという
制度がありまして、これは連邦
雇用庁がこのトレーガーに大きな予算を注いでいて、
失業している人が自立していけるようにいろんな指導をしたりお世話をしたりしているんですね。
例えば、
失業者が七人以上集まって、
社会福祉又は環境又は青少年問題についての何か自立した
事業を始めると、ここで働いている人の
給与は、ほぼ十万円ちょっとですけれども、完全に国及び地方自治体から支払われて、その
人たちの働く事務所も設備もコンピューターの設備なども全部これは公的に補助される。そして、そこの
事業が
発展して新たに人を雇うときは必ず職安を通して人を雇うということになっていて、小規模な、まだ国や自治体として抜けているいろいろな
事業を
失業者たちが始めるときには大きな援助が受けられるということがあります。
あと、まだいろいろ具体的に
日本として学ばなければならない、例えば職業訓練の
制度、これはもう非常によく
機能しているんですね。
日本のように民間委託はたった四割しか、職業訓練を受けた後、四割しか就職できないというような、こういう無駄がないということ、こういうことはまた後ほど御質問があればお答えしたいと思います。