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参考人(
門田至弘君) それでは、お手元の資料に基づきまして、私は、
阪神・
淡路大震災の
マンション復興に絡めて、経験いたしました現場の立場から
参考意見を申し上げたい、そのように思います。
まず、一ページ目の上でございますが、
被災マンションの
実情を数量的に表しております。
半壊以上の
被災マンションが百七十二棟ございました。その中で、
建て替え決議に至ったものが百八棟でございます。私どもではこの約三分の一、三十五棟を
建て替え、
再建をさせていただきました。
総じて、その下に書いてございますように、
既存不
適格、これは
建築基準法上のいろんな
法令等に適合していないと。
容積がはみ出しておるとか、
日影規制に引っ掛かっているとか、
斜線制限に引っ掛かっているとか、そういった
既存不
適格が非常に多かったということでございます。約半数ぐらいがそのようなことでございました。さらに、四十年代の
マンション建て替えが多かったわけでございますが、
高齢者が非常に多かった。大体四割から五割ぐらいはございまして、場合によっては、
団地によっては六割に近いような、そういうふうなものもございました。四十年代に
マンションを購入をして、三分の一ぐらいはそのまま残っておられて高齢化してきておって、その他はいろいろ入れ替わっておりますけれども、実際にはそういった
規模も小さいということもございまして、
高齢者の割合が非常に多かったなと、そういうふうに思います。それから、さらに、
建て替えをする場合に
建て替え費用が必要になってございますから、
ダブルローンになった方もかなりおられたように思います。
被災再建に当たりまして、当時非常に問題になったことをその次に列挙してございます。
当然のものもございますが、
合意形成の
円滑化。
年齢も違う、
家族構成も違う、財産の
状況も違う、あるいはまた
価値観も違う。もっと
お金を出してもいいものに
建て替えたいという方もあれば、いや、このままでもいいんだというふうに、
価値観の多様な
皆さん方がおられたわけでございますから、それの
合意形成をするというのは並大抵ではないということでございます。平均的には大体一棟が七、八十戸はございますから、七、八十世帯の
皆さんの
合意形成をしていかにゃいかぬ。そういうことがございました。
さらに、先ほど
丸山先生の方でありましたように、
抵当権というのがほとんど付いておりました。これをどうやって
解消をしていくのかというのは、当時、本当にできるのかという
議論になったのは事実でございました。
それから、さらには、
建て替えに際して大きな
建物、七、八十戸、大きいものでは三百戸を超えるものもございました。こういう
建物を
再建をしていきますのに、もちろん
計画を作り、
実施設計を行い、あるいは
建物を建てというのは相当大きな
資金が必要でございます。ほとんどの組合というのが
任意の
団体でございますから、そんな
お金の
調達力もないという
状況の中でどうやってそれを
調達していくのか。もちろん
補助制度も充実はいたしておりますけれども、
補助金は
工事をやって金を払って、実際払った中で後で戻ってくるみたいな形になりますから、その間、
調達が必要なわけです。それをどうやって
調達するのかと、こういったことが大きな課題になってございました。
さらに、
工事の
請負、平均七、八十戸、場合によっては三百戸を超える
マンションをだれが請け負ってくれるのかと。
任意団体がそんな大きな
工事をやるのに何の
保証もない中で
請負業者さんが引き受けるかと。当初いろいろ
意見調整した中ではほとんど引き受けないと。小さな
マンションで二、三十戸で
自分のところが手掛けたから引き受けようかというところもございましたけれども、その点が非常に大きな問題になったのは事実でございます。
こういう大きな大
事業を行っていくのにだれが
事業の
主体になるのかということも、これも大きな問題になりました。
こういったようなことが
被災当時いろいろ問題にされたわけでございます。
あわせまして、これは次の三番でございますが、
区分所有に関する
法律についてもややあやふやなところがあるということで、現在これは
法制審議会で
議論をされておりますけれども、簡単に触れさせていただきます。
費用の
過分性というのがございますが、これは
区分所有法で、「
建物がその効用を維持し、又は回復するのに
過分の
費用を要する」と、これどういうこっちゃというのが正直言って明確ではございません。こういう
過分性があって初めて五分の四の多数
決議で
建て替え決議ができる、こうなっておりますが、
過分性とは何やねんと随分
議論になりました。
ただ、この
資金に関しては、もうごちゃごちゃ言わずに
再建が先だということで、
皆さん方、そういう
意味では
平時と違いますので、早く回復をしなくちゃならないというふうに気がそっちの方に行っておって、余りこの辺は
議論にならずに通過いたしました。ただし、その後
裁判四件ほどが
訴訟提起をされまして、その中で問題になっておるのがこの
過分性の
議論が争点で
裁判が行われておるという
実情にございます。
建て替え決議でも、こういう
決議内容の四項目を
決議しなきゃならないとございますが、その中で特にこの
費用の分担とか
区分所有権の
帰属とか、こういうことが単にその衡平を害しないようにと定めておるだけでございますから、これ何やねんというその辺が非常に不明確で、
議論の対象になったものでございます。ほとんどの
建物が
既存不
適格でございますから、
空地を取って、例えば横にびょうぶのように長い
マンションが
既存不
適格であって
空地をたくさん取らんがために縦に長くなる、そういたしますと形が全く異なる、それを
帰属を衡平にというのはどういうこっちゃねんというのが大いに
議論になったところでございます。
それから、
建て替え決議賛成転出者の取扱いでございますが、二ページにまたがりますが、
皆さんが
建て替えを
決議しようと、こういうことには
自分としては
賛成をするんだけれども、いろんな事情があってこの際出ていかないかぬと、そういう
人たちはこれは
反対の
決議にカウントをされるわけでございます。特に、
既存不
適格なんかである
部分を減らさないといけないという、
容積が一杯であってもっと
建物を減らさないと物が建たないという場合にある
部分出ていかざるを得ない場合があるんですが、そういう場合にやっぱり
反対者にカウントされたのではその辺はいろいろ問題ではないかと、こういうことが
議論されました。
それから、
敷地の
同一性とか
使用目的の
同一性、同じ
敷地に
建て替えなきゃいけない、それから主たる
目的を同じに、
住宅は
住宅に、
店舗は
店舗にというふうにしなきゃいけないと、この辺もどうかというのが
議論はされたところでございます。
それから、
隠れ反対者という
言葉を使っておりますが、
建て替え決議には
賛成するんだけれども、その後いろいろとごちゃごちゃごちゃごちゃ
意見を言われて
建て替えの
推進に協力をしないという
方たちがおればこれはどうするか、こういったことが問題になってございます。
それから、
売渡し請求権を行使する
時価の扱い、これも
時価はどないして定めんねんというのが分かっておるようではっきりしておらない。
それから、一棟の範囲の
明確化、これはコの字型とか
いろいろ建物がエレベーターや階段やいろいろなものでつながっておる場合にどこまでが一棟かというのが、これも明確であるようで余り明確でないというのが当初いろいろ
議論がされたところでございます。
それから、先ほど
丸山先生のおっしゃった
団地の定めがないと、こういうことが
区分所有法上問題とされたところでございます。
それから、実際に、じゃこういったいろんな制約の中でどんなやり方で
建て替えをしていったのかということを次に列記してございます。
事業の
手法としては、
自分たちで
建て替える、それから
ディベロッパー等に
参画をしてもらって
建て替える、大きくはこういった
二つの流れでございます。
自主建て替えというのは、先ほど言ったような
資金の
調達の問題あるいは
工事の
請負の問題、こういうふうなことがいろいろあって、実際には戸数の多い大きな
マンションでは
自主建て替えというのはなかなかできないと。小さな
規模の
マンションでは
自主建て替えは
現実に、これは
統計データでも二割弱ほどは
自主建て替えが行われております。
ディベロッパー等参画による
建て替えというのが七割強でございますけれども、これはいろんなやり方ございますが、これまで行ってきた
方法というのは全部
譲渡方式あるいは一部
譲渡方式、あるいは
地上権設定方式あるいは
定期借地権方式、ちょっと次元が違いますが、このような
方法でやってまいりました。
ちなみに、全部
譲渡方式というのは、いったんは
事業主体である
ディベロッパーに従前の
皆さんの土地
建物の
権利をいったん全部移しまして、移すときに全部
抵当権を抹消いたしまして
再建建物を作ってまた
皆さんに売り戻す、そのときに従前に付いておった
抵当権はまた付け直すと、こういうやり方で全部
譲渡方式を行いました。これはやはり
事業の安定性といいますか、
ディベロッパーに所有権もいったん全部移して、そうやっていかないとそれを引き受ける
ディベロッパーがまずないという、こういうこともございました。ただし、先ほどございましたように、
ディベロッパーがつぶれたらどうなるかという
議論はもちろんございましたけれども、こういう
方法が一般的に行われたところでございます。
それから、一部
譲渡方式というのはその一
部分だけを移転するというやり方でございます。
地上権設定方式というのは、土地の所有権を移転せずに
ディベロッパーの権原を第一とする地上権を設定いたしまして、その地上権を権原として
再建の
建物を建てて、完成したら
建物を従前の
皆さんに所有権を移転をいたしまして地上権は抹消する。これは
建て替え期間中の
ディベロッパーの権原を安全に保つという
意味合いで、このようなやり方もやったということでございます。
定期借地権方式はちょっと違いますが、これは
資金のない方などに土地をこれは
事業主体が買い取りまして、それで
建物を建てて、売り戻すときに
建物代だけで売り戻す、借地にすると、こういったやり方でございました。
このようなやり方で実際は
事業を進めてまいりました。
次に、課題等とございますが、安定的な
事業を
推進する
仕組みということでちょっと書いてございます。これは今回の法案の中にもいろんな
問題点が
相当部分盛り込まれておりまして、既に法案等にも明記されておりますが、当時実際に
事業を経験した者として、重なりますけれども、ちょっと参考に述べております。
この四角い白角でございますが、
建て替え参加者が自ら安定的に
建て替えを行える
仕組みの確立ということで、
建て替え参加者の
団体的性格、要は
法律上の位置付けや、
法人格を与えたら、例えば
請負契約をしようと思っても
法人格があれば
契約はできるとか、あるいは
法人格があればそれを元に銀行の貸出し姿勢にもよりますけれども融資も受けることができる。再
開発組合等が金融機関等から融資を受けておるように、そのように融資が受けることができるということで
資金の
調達が容易になるとか、そういう法人としての、
法人格の付与ということが必要であったなと、このように思っております。
それから、
建て替え事業施行者(代行者)が安定的に
建て替えが行える
仕組みの整備というふうなことでございますが、これも今回の法案に盛り込まれております。
それから、
抵当権等の処理につきましては、これも非常に、本当に
抵当権が外れるのかと。例えば、
建物に
抵当権が付いておって除却をしようと思っても担保権者が
同意しないと除却もできないと、こういうことでございましたが、これは従前の
権利を
建て替え後に置き換えるという
権利変換が今回の法案で入っておりますので、この辺も解決できるかと思いますが、いったん消すのに大変苦労をいたしたところでございました。
それから、
既存不
適格マンションの取扱いということで、これはかなりの割合で存在しておると思いますが、特に
容積が非常に上回っておる場合でだれかが出ていかないとなかなか回復できないと、こういうことに関連して、やはり柔軟な対応が必要かなと、こういうふうに考えております。
それから最後に、五番目でございますが、
建て替え事業の実施に際して併せて必要となる対策等ということで、やはり築後三十年、四十年たってまいりますと、賃貸化も増えてまいりますし、お年寄りも増えてまいりますし、そういう零細者に対する
借家人対策、あるいは
高齢者、零細者に対する
資金の対策、そういうようなことがいろいろ必要かなと、こういうふうに考えております。
それから、各種支援対策の充実ということでございますが、現行でもいろいろ支援する、例えば建設費の補助でありますとか、あるいは融資の充実であるとか、あるいは
ダブルローンになる方もおられましょうし、そういった対策が必要となるなと。
現実に個々の
権利者の
皆さんと協議をする中で解決をしなきゃいけませんけれども、包括的に今回も法案の中でもこういったことがかなり盛り込まれておりますので、その点は非常に喜んでおりますけれども、そういうことが必要であるなと、そういうように思っております。
以上でございます。