○北川れん子君 私は、
社会民主党・市民連合を代表しまして、ただいま
議題となりました、
内閣提出、
個人情報の
保護に関する
法律案を初めとする
個人情報保護関連四
法案につきまして、小泉
総理並びに
関係閣僚に
質問いたします。(
拍手)
本日、四月二十五日、新聞協会が、
メディア規制
法案と位置づけ、緊急声明を出しました。
読売にはこう書いてあります。「
表現の自由に介入」。産経「強い反対の意思表明」、東京「断固反対」、朝日「
報道の自由、不当に制約」、毎日「「
表現の自由」介入に道」。一九八七年五月三日の朝日新聞阪神支局襲撃事件以来、十五年ぶりの緊急声明だというふうに、産経以外は一面に出しておりました。
本日、二十五日、
個人情報保護法案の
審議入り迎えと
報道した新聞もありましたが、マスコミの
皆さん、この五
法案を押しつけられようとしている
内閣委員会では、まだ
審議入りを認めていません。どうか、
報道の先行だけはやめてください。私たちは断固廃案を求めてまいります。
では、
質問に入らせていただきます。
高度
情報社会の
進展、
住民基本台帳法の改正、警察を初め各種機関からの
情報流出、漏えい事件等、
個人情報の
保護の
必要性が高まっており、私たちも
個人情報保護法を早く制定すべきと考えています。
かのJ・S・ミルが「人は、
自分自身、その身体、そしてその精神の主権者である」としながら、
行政の能率の追求や経済利益の追求、便利さの追求が優先され、
個人の尊厳が極めて弱い位置づけに置かれてきたのが現実の世界です。ここに光を照らし、
個人情報の本来の持ち主の
権利を保障するのが本来の
個人情報保護法案であると私は思います。ところが、
政府案は、
個人情報の
保護を求める
国民の期待を逆手にとり、企業が
個人情報を自由に使えるようにするとともに、国家がマスコミに介入するための
法案にすりかえられたものとなっています。
このような立場から、まず、
個人情報の
保護に関する
法律案についてお伺いいたします。
政府案は、あらゆる者に
適用される
基本原則と
民間事業者への規制法が一体となる、複雑な法体系をとっています。そのため、
表現の自由への不当な介入など、過度の規制を招かざるを得ない問題を生じさせています。しかも、本当に必要な
分野には規制が甘く、私的自治にゆだねるべき
分野にも一律の規制が投網のようにかかるという問題も引き起こしています。
なぜ、
基本法と
民間事業者に対する規制法を分けなかったのか、どうしてこのような複雑な法体系になっているのかにつきまして、竹中担当大臣の御見解を
お尋ねいたします。
さて、
法案では、「
個人情報の
有用性に
配慮しつつ、
個人の
権利利益を
保護する」ことを
目的としていますが、これでは、
個人情報保護の
目的があいまいであると言わざるを得ません。
個人は
保護される
対象ではなく、自己
情報をコントロールする
権利の主体です。
国民の不安は、知らないところでみずからの
情報が
取得され、
利用されていることへの不安、みずからの尊厳が傷つけられることへの不安も多いのです。単に「
個人の
権利利益を
保護する」というのではなく、
個人の自己
情報コントロール権として明確に位置づけるべきであったと考えます。
自己
情報コントロール権について、
総理の所見を伺います。
法案は、
地方公共団体の責務を定めていますが、実際は、多くの地方自治体が制定している
個人情報保護条例の方が、
開示請求権や
訂正請求権などを具体的に明示して、
個人情報保護制度における
個人イコール本人の重要性をはっきりと指摘しており、
政府案は自治体の条例より後退していると考えますが、
総務大臣はどのように
評価されるのでしょうか。
また、
個人情報には、死者の
個人情報は含まれていません。しかし、コンピューターに蓄積された
個人情報は数十年後に
利用することが可能です。本人が生きている間に何も
利用されなくても、何年か後に、子孫に関連して
利用され、その子孫に重大な不利益をもたらす危険性があります。また、死者であっても知られたくなかった
情報があります。
死者の
個人情報の
保護についてどのように考えておられるのか、竹中大臣の御見解を
お尋ねいたします。(
拍手)
政府案は、
事業を所管する大臣を
主務大臣としていることから、業界ごとに
個人情報保護を名目とした各省の権限を強めることになるとともに、
主務大臣ごとの異なる
取り扱いがなされるなど、縦割り
行政の弊害の懸念があります。
何よりも、
政府機関への
情報の過度の集中や大臣、官僚の恣意的運用への懸念を払拭できません。
報道や弁護士のように、だれが
主務大臣となるのか、はっきりしないものもあります。竹中大臣、この辺はいかがですか。
本来、刑罰の制裁の
必要性があるのは、医療や金融、信用
情報などの領域であるにもかかわらず、
政府案では、日常的な
個人事業者にまで広範に
関与、介入するおそれがあります。したがって、欧米諸国のように、
行政から独立した第三者による
個人情報保護を統一的かつ専門的に扱う機関として、
個人情報保護委員会を
設置すべきではないかと考えますが、
総理の見解を伺います。
法案では、病歴や思想、信条、門地のような、いわゆるセンシティブ
情報に対する特別の規制が盛り込まれていません。
個人情報の
保護で問題になっているのは、これら差別的な
取り扱いを生み出しかねない
情報ではないですか。第五条の「適法かつ適正な方法で
取得」は緩過ぎると言わざるを得ません。いわゆる部落地名総鑑や名簿業者の持つ差別的データについてきちんと規制できるのかにつきまして、竹中大臣の
答弁を求めます。
報道や
学術研究目的等の
個人情報について、
義務規定を
適用除外とするものの、
法案の
基本原則は
適用することとしています。しかし、取材源の秘匿が守られるのか、公権力の介入を招かないのかなど、運用によっては
個人情報保護を口実とした
報道規制につながるという懸念も払拭できません。
報道なのか中傷なのかについては、だれが判断するのですか。また、例えば中川元官房長官のビデオテープや森前首相の売買春疑惑
報道は、
報道であり、問題ないのですか。いや、ゴシップであるから法の
対象なのですか。これらについても竹中大臣にお伺いいたします。
言論、
表現の自由、出版、
報道の自由は、民主主義にとって不可欠の前提です。本
法案を初めとする
メディア規制
法案について、新聞協会等も先ほど申しましたように緊急声明を出しましたが、
政府のスポークスマンである官房長官はどのように受けとめていますか。
総理、私は、公権力による
メディア規制につながることがあっては断じてならないと考えます。あわせて、
総理の明快な
答弁を求めます。
次に、
行政機関の保有する
個人情報保護法案について
お尋ねします。
現行法については、制定当時から、マニュアル
処理の
個人情報に
適用されないことを初めとする、さまざまな問題が指摘されていました。確かに、今回の
法案は
一定の
配慮がなされていますが、問題は、住民
基本台帳ネットワークシステムの不安にどうこたえることができるのかということにあります。
例えば、
総務大臣、住民の
プライバシーを一元的に管理する重要な機関である地方自治
情報センターに対して、この
行政機関個人情報保護法は
適用されるのですか。また、
行政機関側がネットワーク結合の形態で地方自治
情報センターから本人確認
情報の
提供を受ける場合、
保有個人情報に該当するのですか。お答えください。
さらに、同法第八条二項二号は、
行政機関が
保有個人情報を内部で
利用することを広く認めており、加えて、同条二項三号では、
行政機関相互間の
個人情報の
提供が禁止されていません。
これでは、
行政機関の一部門である警察庁が各
行政機関とネットワークを結合させ、犯罪捜査を理由として、住民票コードを手がかりに、あらゆる
行政機関の
個人情報データベースを検索することも可能となるのではないですか。これこそ、
国民総背番号制への道を開く暴挙ではないですか。
行政機関内での
利用及び
行政機関相互間の
個人情報データベースの
提供は厳格に
制限すべきであり、特に警察庁との連携は明確に禁止すべきではないかと考えますが、
総務大臣、いかがお考えでしょうか。
この
法案は八月五日
施行予定でありますが、住基ネットの稼働が大きなきっかけとなっていると思います。今のままでは、セキュリティーの問題もあり、住民
基本台帳ネットワークシステムを実施する条件が満たされていないと言わざるを得ません。
そこで、
総務大臣、住基ネットの実施を延期する考えはありませんか。また、
法案も改めて検討し直すのが妥当ではないかと思いますが、官房長官、いかがお考えでしょうか。
以上指摘しましたように、
政府提出五
法案は、多くの
国民の期待とは裏腹に、
個人情報に関する自己決定権を何ら保障するものとはなっておらず、言論や
表現の自由を大きく制約するものとなっています。
政府が
設置した検討部会のメンバーでさえ、修正意見を出されています。また、麻生太郎自民党政調会長も、四月二十三日に、修正を認識する空気が与党にあるとの発言をしています。これらは、
法案に大きな問題と欠陥があることを示していると思いますが、官房長官はどのように受けとめていらっしゃるのでしょうか。
政府案はさまざまな問題があり、この際、改めて
法案を出し直すことを強く要求します。
総理の御決断をお願いします。
総理、城山三郎さんも、とんでもない言論弾圧、自由主義国家に例を見ない悪法、
法案が成立したら取り返しのつかないことになると、強く憂慮されています。
城山さんは、本年、沖縄の
個人情報反対の集会でのメッセージで、次のように言われました。
戦後、辛うじて得たものがさまざまな自由でした。それら自由の中で絶対に失ってはならぬものが言論の自由です。言論の自由を失えば、ほかの自由のすべてが吹き飛ばされ、再び戦時体制へと向かいかねません。
個人情報保護法案は、その大事な大事な自由をつぶそうという、とんでもない
法律です。さきの戦争での大きな犠牲をせせら笑うような
法律です。
城山さんの心からの警鐘を
総理初め
政府・与党の皆様に訴え、
質問を終わります。どうもありがとうございました。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小泉純一郎君
登壇〕