○阿部
委員 私は、かかる
法案を提案するに際して、このテーマは
触法精神障害者でございます、片や
医療刑務所で、あるいは刑務所の中にも約千人
精神障害ということをあわせ持った方が受刑しておられます。そして、
医療刑務所には五百数十人だと
思います。こうした方
たちの
治療の実態、
処遇の実態、受けておられるいろいろな心の問題、ぜひとも
大臣の責任においてお訪ねいただきたいと
思います。
なぜ私がこうしたことを申し上げるかといいますと、実は、私はきょう、これもぜひとも
森山大臣にお願いしたいのですが、私の古い友人で、もう昭和四十八年に亡くなられた小林美代子さんという作家がおられます。この方は、三十八歳から精神
病院に五
年間入院歴をお持ちで、五十四歳、ちょうど今の私の年ですが、そのときに群像の新人賞を受けられ、その受賞理由は、精神
病院の御
自身の
入院経験を書かれた「髪の花」という御本が受賞の
対象でございました。精神を病みながら、自分の顔も忘れてしまったお母さんに対してつづられたこの本は、以降、長く精神
病院で
入院しておられる他の
患者さん
たちに読み継がれて、今も隠れたベストセラーでございます。
その彼女の言葉から、私は、あえてきょう、ここで本来は精神を病む方
たちの御
本人が御発言いただければいいのですが、私が代読する形で彼女の言葉の幾つかを引かせていただきます。「看護者は正常な人間の代弁者として、私達に人間に価しない屑、動物にも劣る自分を認識せよと、ことあるごとに明らかにその証を
指摘する」。「正常な人間が書けば、何事も、それが真実の重みを持って、誰からも信じられる。」しかし、この裏は、
患者であれば、
精神障害であれば、例えば文学作品を書いたとて、それは
一つの本当の作品としての評価を得ることがない。
実は、私は彼女が自殺する二日前に井の頭公園で彼女と散歩をした後、吉祥寺駅で別れました。八月のお盆のことでした。昭和四十八年でございます。その十日後、彼女が自殺されて腐乱死体でお部屋で発見されたという記事が載りました。彼女は井の頭公園を歩きながら何度も私に、私が精神
病院で
経験したことを幾ら書いても、それは
精神障害のことを書いて、
精神障害者の声としてしか受け入れられない。私は文学者、文学をきわめたい、そう
思いながら、決して、この一たび張られた
精神障害というレッテルゆえに、私
自身の作品は本当の
意味では認めてもらえないということを繰り返し言っておられました。私はその言葉を聞きながら、そして彼女の自殺の報に接しながら、なぜ私がそのとき彼女が発していたそのメッセージを、恐らく私が彼女に会った最後の人間だと思うのです、そう思ったときに、自殺も予測できなかった自分、自傷他害の自傷です、私はそのことをもって実は
精神科医になることをあきらめましたが、今でも忘れられない。そして、私は三十年ぶりの
松沢病院で、私がまだ学生のころ診た
患者さんが今もってそこにおられるのもお目にかかりました、向こうが認識してくださっていたかどうかわからないので、お目にかかったとは言えませんが。
せめてこの
法案の
審議に先立って、
森山大臣には、彼女が群像の新人賞を受けた「髪の花」という本です、今の
精神医療の現状をただ声高に指弾するだけでなく、彼女は、どのようにその
精神障害の方
たちの心が入り組み、悲しみにとらわれ、縛られているかということを綿密に述べておられますので、お読みくださいますようにお願いします。
そして、その彼女が言っていたことです。「一人の異常者の為に、私達全員の精神病
患者が裁かれる。
患者以外の人間が千人に一人罪を犯しても、九百九十九人は罪に問われないが、私達は全員直ちに裁かれる」。しかしながら、彼女は同時に言っていました。そのことをもって、自分だけが例えば受賞したからといって、精神病という集団を抜け出して違う評価を受けたいのではない、精神病という病を病む
人たち全体のことを理解してほしいと。
私は、今つくられている
法案が、本当にこの一部の手のかかる人を取り分けることによって、逆にさらにこの世に存在する
精神障害への差別を助長する、危険な病棟に入り、殺人まで犯したあの病棟に入った人よと社会は見ます。そのことの方が恐ろしくて、多少の改善面はこの
法案にもあると
思いますが、大きく見れば
患者さんのこの社会に受け入れられる枠を否定することになると思って反対の
立場をとっています。
そして、きょうの
審議の中で、
森山法務大臣が、たとえ数は少なくてもこの
法律は必要なんだとおっしゃったときに、きょう金田
委員はなぜこの
質問をされたか。二千三十七名の他害のうち約一一%
再犯があると。であれば、
坂口厚生
労働大臣が言われる三百人から四百人のこの病棟の
患者さんのうち、本当に他害、簡単に率で算出しませば三十人から四十人の方の
再犯行為に対して、残る三百数十名は強制的にその
治療を受けさせられていくわけです。
もしもこの比率をきちんとせずしてこの
法案を進めた場合、私はしても問題はあると
思いますが、ここに生じてくる大きな人権侵害、強制
治療による人権侵害に、
法務省として認識が余りにもない御発言ではないか。
もう一度伺います。この
法案の提案者お二人に、果たしてこの
法律によって
対象となる方の数、これはどの
委員もきょう聞かれました。どなたも聞かれたのに、お二人とも明確ではございません。まず
森山大臣から、もう一度御答弁をお願いいたします。