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片山参考人 おはようございます。
ただいま御紹介をいただきました
鳥取県知事の
片山でございます。本日は、こういう席で私
どもの体験、実践についてお聞き取りをいただく
機会を与えていただきましたことを大変感謝いたしております。せっかくの
機会でございますので、
鳥取県で、
災害対策、とりわけ
被災者の
住宅再建にどういう
取り組みをしているのかという点を
中心にお聞きをいただければと思います。
私
どもの
鳥取県では、一昨年の十月の六日に思いも寄らない大
地震に見舞われました。マグニチュード七・三、
最大震度六強という大変大きな
地震でございました。幸い人命に対する
被害はございませんでしたけれ
ども、本当に無数の
住宅が壊滅的な
被害を受けたり倒壊をしたり、傾いたり
損壊をしたりということでございました。しかも、一番大きな
被害に見舞われた
地域といいますのは、
鳥取県の中で
もとりわけ
過疎化が進行し、
高齢化が進行している
地域でありました。勢い、
被災者の
皆さんも
高齢者が
中心ということになりました。
私も、
地震の次の日から連日
被災地に出向きまして、
被害者の
皆さんとお会いをして、今どういうことが問題か、これからの
課題は何かということを探ったのでありますけれ
ども、私は、そのときに直観いたしましたのは、やはり
住宅問題が一番のポイントだろうと思いました。
といいますのは、確かに、
道路や橋や
がけ崩れ、そういう
被害がありまして、それらを直すということが大きな
課題なんでありますが、それらは幸いなことに
政府の方の手厚い助成もありますので、時間と労力をかければ復旧することはできます。しかし、一番
被災者にとって不安の種であります
住宅については、実は何らの
支援制度もないわけであります。
住宅は
個人の
財産でありますから、その
個人の
財産が
滅失、毀損したものを回復するのは、確かに
個人の才覚と力量によるべきものでありますが、先ほど申しましたように、
被災地は
高齢化が進行しているところでありますので、お
年寄りがみずから
住宅を再建するというのは限りがございます。特にもう
高齢になりますと、新たにローンを仕組むこともできませんので、直そうにも直せないということです。
実際に話を聞いてみましても、この
地域にまだまだ住みたい、一生住みたいけれ
ども、家がこういうありさまではもう住むことができない、直そうにも資力もない、気力もない。そういうところに、都会に出ている
息子さんなんかから、もうお父さん、お母さん、自分のところにいらっしゃいという声がかかってくるわけでありまして、本当は行きたくないけれ
ども、しかし、家がこんなありさまだと、もう住むところもないので行かざるを得ない、こういう声がしきりに出てくるわけであります。一人、二人、そういう話をし出しますと、周りの人もみんな
連鎖反応で、あなたが出ていくんならもう私もやはり子供のところへ行こうか、こういう話になるわけであります。
私は、やはり
住宅再建にめどを立てるということがこの
被災地の
復興の一番の眼目であると思いました。そこで、何とか
住宅再建支援をしたいと思いましたのが、
被災直後の私の実感でありました。
それからいろいろな
制度を調べたのでありますが、さっき言いましたように、我が国には
住宅再建を手助けする手だては何もありません。唯一ありましたのは、
住宅金融公庫の
低利融資がありますけれ
ども、これとて借りられた人だけへの
低利融資でありまして、そもそも借りることのできない人には
低利融資というのは何の
意味もないわけであります。したがって、お
年寄りの
被災者には、
住宅について手を何ら差し伸べることができないということでありました。
そこで、それならばもう
単独ででもやろうということに決めたのでありますが、それからが大変でありました。それは、専ら
政府との
関係でありますが、当時、
中央政府は
住宅再建に
公的資金をつぎ込んではいけないということを非常に厳しく言われておりました。
個人の
住宅というのはプライベートな
財産だから、パブリックなものにしか使うべきでない税金をそういうプライベートな
財産につぎ込んではいけない、これが
財政上の
ルールであるということ、これをしきりに強調されておりまして、私も実はそれはそうだろうと思うのでありますが、しかし、幾らパブリックなものにしか投入できないからといって、
道路や橋を一生懸命直しても、
肝心かなめの
被災者の
皆さん方が
住宅が再建できないということでその土地を去ってしまったら、その
道路や橋に投じたパブリックな
お金というのは一体何になるんだろうかと思いました。
財政上の
ルールを守っても、しかし、
地域を守れなかったということになってしまいかねないわけで、あえて、
政府の方針には当時反したのでありますけれ
ども、
鳥取県では
住宅再建支援に乗り出すことにいたしました。
具体的にどういうことをやったかといいますと、
資料の方にもつけておりますけれ
ども、家が壊れて建てかえる人、しかもそれは
もとの
場所に、
もとの
場所というのは、
もとの
市町村に建てかえる人には三百万円を援助しようということにいたしました。それから、壊れたり屋根が飛んだりという家が多かったものですから、そういう家については、修繕をされる方は、百五十万円を基本にして、それの三分の二を
限度にして
支援しましょうということにしたわけであります。
その際には、全壊だとか半壊、一部
損壊だとか、もうそういう区分は一切なしで、とにかく
地震がきっかけで建てかえる人は三百万円、修繕する人は百五十万円を
限度にその三分の二ということにしたわけであります。これは、県が専ら
中心になってやりましたけれ
ども、該当の
市町村とも協力をして
支援を行いました。
正直言いまして、全く新しい
制度への挑戦でありますし、この
制度を発表いたしましたのが
地震が起きてから十一日後でありましたので、まだ
被害の
程度もわかりませんから、一体どれぐらい
お金がかかるか、正直、不明でありました。大変不安の中で滑り出したのでありますけれ
ども、
鳥取県ではそういうことをやりました。
おかげさまで、いろいろないいことがありまして、
一つは、そこにもちょっと書いておりますけれ
ども、
住宅再建支援を発表した段階から、
被災地における不安というものがどんどん解消していきました。後で
精神科のお医者さんに伺いますと、
住宅再建支援を発表したそのアナウンスメントが
被災者にとっては
最大のメンタルケアになったという話も伺いました。
確かに、私も連日
被災地に赴きまして、
被災者の
皆さんとお会いしていますと、あるときから本当に見る見る
皆さんが元気になられまして、やはり不安というのが一番大きいわけで、その不安をどうやって解消していくのか、その不安をどうやって希望に変えていくのかということが
災害のときには重要なんだなということを痛感した次第であります。
その後、順調に
復興は進みまして、
公共施設の
復興も順調に進みましたし、それから
住宅も、この
再建支援を利用していただいて、
被災者の
皆さんが建てかえたり修繕したりということをやられまして、今日、まだ完全ではありませんが、ほぼ回復をしております。当初恐れました、人口がぐんと減るんではないか、大きなダメージを受けて、したがって、もうその
地域を捨てて、例えば遠方にいる
息子さんとかそういうところに行ってしまう、そういうことが予想されたものですから、この
住宅再建支援をやったんですけれ
ども、結果として、
住宅が壊れたそのことによって
地域を去らなければならなかったという人はほとんどおられませんでした。
皆無かというと、やはりそれはそうではなくて、いろいろな事情があって、数軒の方は近郊の都市とか大都市に移った方はおられますけれ
ども、しかし、それは本当に数軒でありまして、他の大部分の
皆さんは、元気を出して、元気を取り戻して、その
地域で
住宅を再建し、
住宅を修繕し、これからも住み続けてみんなと一緒に
地域を守っていこうということを選択されました。
私は、大変ありがたかったと思いますし、今にして思えば、多少背伸びをしたかもしれませんけれ
ども、
住宅再建支援という新たな
政策を打ち出したことが、
地域の崩壊を免れ、
地域を守ることにつながったと思っております。
そのときの経験にかんがみまして、
鳥取県では、これからもひょっとしたら大
災害があるかもしれない。これは決してあってほしくはないわけでありますけれ
ども、
災害というのはいつ何どきあるかわかりませんので、そのときにまた同じような問題が多分生じてくるでありましょう。
一昨年の
地震のときには、まだ
鳥取県も
財政に余力がありました。もちろん、
鳥取県は台所が豊かではありませんで、大変苦しい状況ではありますが、それでも、当時の
地震を
復興させるのに必要な
財源的余裕はまだあったわけであります。これから
財政が大変厳しくなって、そういうときに
地震があって、
住宅再建支援をやろうにも
財政の問題でやれないということもあるかもしれない。そのときのために、それでは今から蓄えをしておきましょうということで、早速検討を加えまして、県と
市町村とで相談をいたしまして、
鳥取県では、そこの
レジュメにもありますけれ
ども、
被災者住宅再建支援基金という
制度を設けました。
これは、県と
市町村が共同して県に
設置をした
基金でありますが、すべての
市町村が参加をしてくれまして、
もともとこれは、
制度としては
任意の
加入ということにしております。したがって、
市町村の中で、私のところはそんなものに
加入しないということがあれば、それはそれで結構なんですが、結果としては、
任意加入でありながら、
市町村が全部この
制度に参加してくれました。
毎年二億円ずつためていこうということにしておりまして、昨年度から、県が一億円、それから全
市町村が
一定の
案分比率で負担を分け合いながら、
市町村で一億円、合計二億円を積み立てていくということにしております。これを当面、二十五年間続けていこうと。そうしますと、現ナマとして五十億円がたまるわけであります。五十億円では賄い切れない大きな
災害というのは当然起こるでありましょうけれ
ども、まあ、元金としてとりあえず五十億円
程度はそろえておこうということを
目標にしてスタートをいたしました。不幸にしてまた大
地震のようなものが起きた場合には、一昨年行った
住宅再建支援政策とほぼ同じような
住宅再建支援の手当てができるように、その
財源基盤をつくろうというものであります。
その際、県も一億円、
市町村も一億円をそれぞれ捻出して
基金に
拠出するわけでありますが、そのときの
財源はそれぞれ自由にいたしまして、県もそれなりに見つけるし、
市町村も自由にその
財源調達はしてください。
ということはどういうことかといいますと、
一般財源で
財源を調達していただいても結構だし、それから、
市町村によっては、例えば家屋の
所有者から
固定資産税に若干上乗せをしながら
拠出金を徴収する、そういう選択をしていただいても結構でありますし、それはそれぞれの
市町村の判断でやってくださいということに今しております。
なお、先ほど二十五年間で二億円ずつで五十億円、五十億円では必ずしも十分でないということを申し上げましたが、私
どもの考え方としては、これは
全国で
鳥取県が初めてこういう試みをやったわけでありまして、できればこういう
制度というのを他の
地方団体、さらにできれば
全国でこういう
制度を設けることになれば、よりいい
制度ができるんではないか。
要するに、大
地震とかがあった場合に
地域を守るために、その
手段として
住宅再建をお手伝いする。決してその
滅失財産の
補てんとかそういう
意味ではなくて、
地域が崩壊するのを防ぐために、その
地域を守るために
住宅再建を
支援する、そういう
仕組みを
全国的なレベルでぜひつくっていただいたらと思っております。まず
鳥取県から先鞭を切って始めましたけれ
ども、これが
全国的な
制度に広がることを期待しております。
そうなりますと、もしそうなった暁には、
政府の方も恐らくは何がしかの
財源をそういうものに
拠出をされるはずでありますから、
鳥取県としては、将来的に
全国的なそういう
制度ができれば、まあ我々が積み立てたと同額ぐらいのことを
拠出していただけるんではないかと思ってひそかに期待はしておりますけれ
ども、当面は、県と
市町村とで五十億円を
目標にということにしております。
なお、これは差し出口かもしれませんが、私
どもは、先ほど言いましたように、
鳥取県から始めたこの
住宅再建支援の
基金制度を
全国に広めたいと思っているのでありますが、別途、超党派の
国会議員の
先生方の方から、
被災者住宅再建支援法案というものが出されているというふうに伺っております。それについて若干コメントをさせていただきますと、大変失礼でありますけれ
ども、私は率直に申し上げて、あの
法案には
反対であります。
何でかといいますと、あの
法案を見ますと、
地震等に起因して
住宅を失った方みんなに
補てんをするという
仕組みになっているようであります。
滅失財産の
補てんをするというのは、私は
地方団体の
仕事とは少し異なると思うのであります。
滅失財産の
補てんをするというのは、やはり
保険制度にゆだねるべきであって、我々がやるべきは、私がやりましたことは、
滅失財産の
補てんではなくて、あくまでも
地域を守る。
住宅再建のお手伝いをすることによって、その
地域にこれからも住み続けていただいて、
地域を守っていただく、そのための
手段として
住宅再建の後押しをしたわけでありまして、決してその
滅失財産の
補てんをしたわけではないのであります。
滅失財産の
補てんは、やはり公の
仕事ではないと私は思います。特に
地方団体の
仕事ではないと思います。
それからもう
一つは、私
どもがやりましたのは、
当該地域に
住宅を再建する、そのことに着目したわけでありますが、その新しい
法案によりますと、仮に
住宅を再建される方でも、
全国どこに再建するかわからないわけでありまして、例えば
鳥取県で
被災をして
補てん金をもらって東京の方で家を建てるといったときに、
鳥取県や
鳥取県内の
市町村がそういう方に公金を支出する
根拠というのは何もないわけであります。そういうものを含んだ
法案である以上は、私は、
地方団体が巻き込まれるということは
反対であります。もしやられるのならば国だけで、
国家政府だけでやるべきではないかと思います。
大変失礼ではありますけれ
ども、実際に大きな
地震の
被害を体験し、そして、本当に苦慮しながら
地域を守るために
住宅再建支援制度を発動させた者といたしましては、今出されております
法案にはやはり強い違和感を抱かざるを得ないということを、この際申し上げさせていただきたいと思います。
あと、その
レジュメの後に、「
鳥取県の
災害対策住宅施策の
概要」ということで、一ページから、一昨年の
被害に対応した
住宅支援策、これは
住宅再建支援だけではなくて、
公営住宅の
充実でありますとか
民間住宅の借り上げでありますとか、そんなことも含めた内容のものを出しておりますし、二ページの後半からは、今申し上げました
鳥取県
被災者住宅再建支援制度、これは
基金でありますが、
単独で設けました
基金についての
概要を記しております。それからその後に、その
基金の
根拠となります
鳥取県
被災者住宅再建支援条例も全文をつけておりますので、ぜひ
先生方に御
参考にしていただいて、できますればこういう
制度を、私
どもがつくったような
制度を
全国的に展開していただくと、大変ありがたいと考えております。
ありがとうございました。(拍手)