○市田忠義君 私は、
日本共産党を代表して、
小泉総理に
質問いたします。
去る九月十一日に
アメリカで起こった
同時多発テロは、いかなる
政治的
見解や宗教的信条によっても正当化できない憎むべき蛮行であります。野蛮きわまる
テロ行為を深い憤りを持って糾弾するとともに、
テロの
犠牲者、負傷者と御家族、
関係者の皆さんに心からの哀悼とお見舞いを申し上げるものであります。
今問われている大事な問題は、
テロを根絶するためにどのような
手段が有効で、法と道理にかなっているかということであります。
日本共産党は、九月十七日、不破哲三
議長と志位和夫
委員長の連名で、
テロ根絶のためには、軍事力による報復でなく法に基づく裁きが必要であること、すなわち
国連が
中心になり、
国連憲章と
国際法に基づいて
テロ犯罪の容疑者、
犯罪行為を
組織し
支援した者を逮捕し、裁判にかけ、法に照らして厳正に処罰することを求める書簡を百二十七カ国首脳あてに送りました。
ところが、今
アメリカは軍事力による大規模な報復の準備を進めています。これが実際に行われたらどうなるでしょうか。何よりも多くの罪なき
人々に
犠牲をもたらすことになります。今、
アメリカによって
攻撃対象とされているアフガニスタンは、空前の干ばつのもとで百万人が餓死の危険にさらされ、その上、今回の事態で
国際的援助がなくなり、新たに数百万人が飢餓状態にあると言われています。
国連食糧農業機関は、軍事
攻撃があれば新たに六百万人が飢餓に直面すると警告しています。
国連難民高等弁務官事務所のルベルス高等弁務官は、九月十八日、
アメリカ政府に対して、何百万人ものアフガン人の現在までの絶望的な苦境や一般市民への人道上の影響を配慮すべきで、罪のない難民や避難民をこれ以上ふやさないためにあらゆる尽力をしなければならないと強く要請しました。
無差別に多くの市民を殺害した
テロは絶対に許すことはできません。同時に、軍事力による報復が、地球上に新しい
戦争と巨大な惨害をもたらすとともに
テロと軍事報復の際限のない悪循環をもたらすことになることは、パレスチナとイスラエルの
関係を見ても明らかであります。それは
テロ根絶にとって、有害ではあっても決して有効ではありません。
総理、あなたは、軍事力による報復により罪なき市民や子供の命が奪われることがあってはならないと
考えますか、それともやむを得ないというのですか。昨日の志位
委員長の
質問に、
総理は、
テロに対する
世界の
取り組みには外交
努力や医療、
難民支援などさまざまな
取り組みがあると述べるだけで、軍事力行使がもたらす危険については一切答えませんでした。きょうこそはっきりと答えてください。
今、
世界じゅうのほとんどの国から
テロ批判の声が上がっています。
これまで数々の
テロがありました。しかし、西側とアラブ諸国の対立など、
国際世論が今ほど
テロ反対で一致することはかつてありませんでした。このときに、報復
戦争が行われればどうなるか。せっかく
テロ反対で
国際社会が一致しているとき、
戦争に賛成か反対かという亀裂を生み、
テロ勢力に有利な
状況さえつくり出しかねないのであります。
法に基づく裁判による
犯罪の処罰は、人類の生み出した英知の
一つです。武力行使を伴う復仇、かたき討ちは、一九七〇年の
国連総会の宣言で明確に
禁止されています。裁判を通じてこそ、事実に即して
事件の真相を徹底的に究明することが可能となります。
今回の
事件の翌日、全会一致で採択された
国連安保理決議も、すべての国に対し、これらの
攻撃の実行犯と
組織者、後援者に法の裁きを受けさせるために緊急に
協力を求めると述べ、二十八日に採択された
決議も、
テロの準備、計画、資金
提供に加担するすべての人や
組織を法のもとに処罰するために協調することを求めました。
国際社会が
テロ反対で一致している今、性急に報復
戦争に訴えるのではなく、
テロ犯罪の容疑者と
支援者を事実と証拠によって明らかにし、それを
国連と
国際社会の共通の
認識にし、容疑者を引き渡させるなど、
事件解決と
テロ根絶に有効な
行動にこそ
日本政府のイニシアチブの発揮が求められています。
こうした
努力を尽くさず、
国際法上の根拠を持たない軍事力による報復を行うなら、
テロ根絶の大義を失わせ、
テロ勢力の思うつぼの事態を招く危険があります。
日本共産党は、無法者に対しては、法の根拠を持たない
対応ではなく、法に基づく裁きこそ最も有効な
対応だと確信しますが、
総理の
認識はいかがですか。
総理は、武力行使の準備を進めている
アメリカを強く支持し、
自衛隊の参加を可能にする
新規立法を制定する
方針を明らかにしています。
〔
議長退席、副
議長着席〕
しかし、それは、
テロ対策といいながら、
テロ根絶の具体策は何
一つなく、あるのは、
アメリカの軍事報復を無条件に支持し、
協力するためにいかにして
自衛隊を出動させるかだけの報復
戦争協力法案とも言うべきものであります。
日本国憲法第九条は、「武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する
手段としては、永久にこれを放棄する。」と明記しています。どのような形であれ、
アメリカの報復
戦争に参加、
協力することが、
国際紛争を解決する
手段としての武力による威嚇または武力の行使に当たることは言うまでもなく、憲法の原則に違反することは明白であります。
首相は、憲法の範囲内で米軍の武力行使と一体とならない
支援を行うと言っています。しかし、輸送、補給などの米軍
支援・兵たん
活動は、どこで行われようと、
戦争の不可欠で不可分の構成部分であります。兵たんなしに
戦争遂行は不可能です。これは
国際法上も、軍事的にも常識であります。ガイドライン法の
国会審議の際にも、
政府は、後方
地域支援が相手国の軍事目標に該当するのは当然と認めました。軍事目標に当たるということは、それが武力行使と一体の
活動だからにほかなりません。
また、新法では、これまで建前上は
日本周辺の公海とその上空としていた
自衛隊の
活動範囲についての一定の制約すら取り払い、報復
戦争に
協力、参加する
自衛隊が他国領域内や事実上の戦闘状態にある
地域にまで乗り込み、米軍に医療や補給、輸送などの兵たん
活動を行うことを想定しています。
これがどうして憲法の範囲内と言えるのか。明確な答弁を求めるとともに、憲法を踏みにじる報復
戦争法案の中止を強く求めるものであります。
総理は、所信表明で、「いづれの
国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という憲法前文を引用しました。
この一節の真の意味は、戦前の軍国主義、侵略
戦争が
日本を
国際的孤立に導いた反省の上に立ち、それを徹底的に打破することを誓ったものです。孤立が
戦争の原因ではなく、
戦争が
日本を孤立に導いたのであります。もし憲法前文のこの文言を報復
戦争への
協力の根拠にするというのなら、それは憲法と歴史を冒涜するものにほかなりません。
戦後五十数年たってなお、侵略
戦争に対する根本的反省をせず、
自衛隊の海外派兵を強行しようとする小泉内閣こそ、自国のことのみに専念して他国を無視してはばからなかった戦前のあなた
たちの先輩の
立場から少しも本質的進歩がない
立場であると言わざるを得ません。
人類は二度にわたる
世界大戦から、他国を武力で侵略したり
国際紛争を軍事力で解決しようとすることが諸国にどんな悲惨で取り返しのつかない結果を招くかという痛切な教訓を学び取りました。この教訓に立ってつくられたのが
国連と
国連憲章であり、
戦争放棄をうたった
日本国憲法です。
国連憲章と憲法の平和原則に立った法と理性に基づく解決のために、
日本が
世界に率先して
国連と
国際社会に呼びかけてこそ、
世界の諸
国民の本当の信頼と尊敬を得ることができると確信いたします。
次に、
国民の暮らしの問題についてであります。
小泉内閣が発足して五カ月、
日本経済と
国民生活にとって
一つでもよいことがあったでしょうか。
完全失業率は史上最悪の五%になりました。仕事につきたいがとても無理とあきらめている人を含めると一〇%を超えています。
日本経済の六割を占める個人消費は四カ月連続マイナス、勤労者世帯の実収入も六月を除いて連続マイナスが続いています。その結果、鉱工業生産は五カ月連続のマイナスであります。実体
経済を映し出す鏡である株価も、小泉内閣発足時には一万四千円であったものが、今では約三割も暴落しています。
あなたは、こうした事態を目の当たりにしながら、「目先の動きに一喜一憂するような態度と決別しなければなりません。」と平然と述べられました。
総理、
国民にとってどこに一喜できる中身があるのですか。一憂どころか憂えることばかりではありませんか。
すべての
経済指標が最悪の事態になっているときに、
総理は、暮らしと家計を応援し個人消費を拡大する
施策を何らとろうとせず、
経済・
財政分野の第一の
課題は
不良債権の最終処理だと強調しました。しかしそれは、数十万社と言われる倒産、廃業と百万人規模の失業という激痛を
中小企業と
国民に与えることになります。
倒産、廃業と一言で言いますが、
中小企業にとって倒産や廃業は、個人保証が常識となっている
金融事情のもとで、預貯金は言うに及ばず、文字どおりすべてを失うことを意味します。自営業主、家族従業者が十九カ月連続で減り続け、一年前と比べて六十一万人も減りました。あなたが
構造改革を唱えるだけで、現に進んでいる消費不況に何の手も打たない間に、すべてを失い、失業手当も受けられずに
経済的困窮を強いられている人がこれだけ生まれているのです。
期限を切って無理やり
不良債権を処理しようとする政策では、ますます所得と消費が落ち込み、新たな
不良債権をつくり出して、
日本経済を破局に導くことは明らかではありませんか。
小泉内閣の骨太の
方針は、
構造改革のデフレ圧力は短期的なものであり、
アメリカの景気回復が明らかになっていけば、輸出、生産が次第に回復に転じ、やがて設備投資も改善していくと見込まれると述べていました。しかし、そのシナリオも、
アメリカ経済の停滞が避けがたい現実となった今、破綻は明白であります。
中小企業の営業と
雇用を守り、景気をよくして
不良債権問題を解決する道理ある政策に
政府が転換することを強く求めるものであります。答弁を求めます。
総理は、失業率が史上最高の五%を超えたことについて所信では一言も触れませんでした。逆に、求職者を上回る
年間七百万人もの求人があるなどと労働力の需給実態を反映しない統計数字を意図的に使って、まるで
雇用危機など存在しないかのような
認識を示しました。
ところが、
厚生労働省が九月二十八日に
発表した統計では、八月の有効求人倍率は〇・五九でした。二百五十五万人の人が職を求めているのに、求人は百四十七万人分しかない、これが現実であります。それを、あたかも求人数が求職者数を上回っているかのごとき発言をし、深刻な
雇用情勢を意図的に過小に見せようという
総理の態度は到底許されるものではありません。撤回を求めます。
総理、もともと資源の乏しい
日本にとって、まじめに働く
国民こそが最大の宝であったはずであります。それを粗末にしてどうして将来の安定的な発展があるでしょう。こういう
認識がないからこそ、まともなリストラ・
雇用対策を講じることができないのではありませんか。明確な答弁を求めます。
日本共産党は、大企業のリストラを抑え
雇用を守るため、次の三つの緊急
対策が今求められていると
考えます。
その第一は、大企業の横暴勝手なリストラをやめさせて、新たな失業を生み出さないことであります。
最近、相次いで明らかにされた
日本を代表する自動車や電機・情報機器
産業における大リストラ計画は、わずか三十社で十六万人にも及ぶ大規模なものであります。しかし、これほど横暴勝手なことはありません。その中の多くの企業は、ことし三月の決算では数千億円にも上る経常利益を上げ、例外なく膨大な内部留保をため込んでいます。危機が目前に迫っているようなところは
一つもありません。大企業に
社会的
責任を果たさせるため、
政府として、身勝手なリストラ計画を規制するために何らかの
行動をとるべきだとは
考えないのですか。そのための法的根拠がないというなら、それこそ解雇制限法などの
新規立法をつくるべきではありませんか。
フランスでは、ことし春、マークス・アンド・スペンサー社の店舗閉鎖による千七百人のリストラ計画を初め、十六社、一万九千七百人のリストラ計画が
発表されました。そのときフランス
政府は、従来の厳しい解雇制限規定に加えて、
地域経済に与える影響を考慮して
地域振興基金を自治体に拠出させる、再就職先が決まる前には労働契約を終了させないなどの
立法措置を講じました。しかも、こうした厳しい規制のあるフランスに日立やソニーなど
日本を代表する企業は進んで出ていって操業しているのであります。個々の企業任せでなく、
社会的
ルールを確立すれば企業も従うのです。
我が国で解雇規制の
立法措置がとれないわけはありません。明確な答弁を求めます。
第二は、労働時間を短縮して新たな
雇用を生み出すことであります。
総理、あなたは、一方で過労死におびえて長時間過密労働を強いられる労働者がおり、他方で職にあぶれた人がいるという事態を当たり前だと思いますか。
サービス残業をなくせば九十万人の
雇用が生まれると言われています。サービス残業の解消や年次有給休暇の完全消化は労働基準法に定められた最小限の労働条件です。少なくとも、これらのことを完全に実施できる要員を確保できるようにリストラ計画の見直しを求めるのは、法律の施行に
責任を持つ
政府の最低限の義務ではありませんか。答弁を求めます。
第三は、現に失業している人の
生活を守り、新たな職を
提供することであります。特に
雇用保険の失業給付期間の延長は急務です。八月の完全
失業者は三百三十六万人、このうち失業給付を受けているのはその三分の一にすぎません。ほとんどの
失業者が給付を受けているドイツや、七割が給付を受けているフランスやイギリスなどと比べても、余りにもお粗末と言わなければなりません。最低でも、現行法に規定する全国延長給付の発動を求めるものであります。
失業給付は、受給者の最低
生活を保障するものであり、この最低
生活を保障することは憲法二十五条において
社会的使命として明らかにされているものであります。それを
総理は、給付期間の延長は
失業者を滞留させることになると衆議院本
会議で答弁しました。
総理、あなたの発言は、
世界のどの国の
人たちと比べても勤勉な
我が国の
国民を侮べつするものであります。どこに失業に甘んじる勤労者がいるというのですか。それともあなたは、どんなにひどい労働条件でも文句を言うなと言うのでしょうか。あわせて答弁を求めます。
総理、この大リストラは、失業を生み出すだけではなく
社会保障の支え手を失うという点で、医療や年金など
社会保障の基盤をも損なうものであります。今、
政府が医療
改革と言うのなら、まず制度の基盤を掘り崩すこのような大リストラをやめさせることこそ緊急の
対策ではありませんか。それを、新たな収入の期待できない老人や所得の減少で
生活を切り詰めざるを得ないサラリーマンに新たな負担を押しつけるなどの制度改悪は、言語道断と言わなければなりません。答弁を求めます。
我が国における
狂牛病の発生は、安全でおいしいとされてきた
国産牛肉に対する不信と、
安全性に大きな不安を巻き起こしました。
我が国が
狂牛病の感染源とされる
肉骨粉の輸入を続けてきたことから、
国連食糧農業機関やEUの
関係機関は、早くから汚染の可能性を
指摘していました。ところが農水省は、まともな
対策をとらないばかりか、
日本の場合には
狂牛病の発生というのは全くないとして真っ向から反論してきたのです。そのことが今日の重大な事態を招いたのです。
政府はその
責任をどう
考えているのですか。
総理の答弁を求めます。
こうした
姿勢だから、
狂牛病に感染した疑いのある牛が
肉骨粉として処理されていながら、焼却したと
発表するなどの失態が相次いだのであります。
世界的に権威がある科学雑誌ネイチャーは、人の健康に対する
日本政府のこれまでの
対応を見ると、適切な予防
措置がとられると信頼できる基盤はほとんどないと
指摘し、水俣病や薬害エイズと同じだと述べています。
総理、
国民の不安を取り除くためには、
肉骨粉の輸入から消費までの量と
使用実態の全容を
解明することが必要ではありませんか。答弁を求めます。
重視しなければならないのは、草食で植物の茎や葉などの飼料をたんぱく質に変える能力を持つ牛に
肉骨粉などの動物性飼料を与えたこと、その背景には、牛の健康より効率性を最優先する安全無視の畜産政策があったことです。
狂牛病の危険を取り除き
国民の信頼を取り戻すために、
政府の決めた緊急
対策の徹底と、と畜検査員と家畜防疫員の増員を含む検査
体制の確立、農家への補償や
関係者に対する
支援、正確な情報の
提供などの総合的な安全
対策の確立を急ぐべきであります。
そして、より根本的には、飼料を輸入に依存し、規模拡大政策を
推進してきた
我が国の農業・畜産政策を見直すことが必要であります。酪農・肉牛の特性と
地域の条件に合った経営を
基本にし、それが成り立つ価格政策と飼料の自給
対策を要求するものであります。
総理の答弁を求めます。
最後に、参議院
選挙で当選し、先日辞職した高祖氏にかかわる問題であります。
高祖派の
選挙違反
事件は、現職の近畿郵政局長、歴代の総務部長、特定郵便局長らの公務員が公費で自民党の
選挙運動を行っていたという、自民党の企業・団体ぐるみ
選挙の典型的なあらわれでありました。
ところが、この問題で
総理は、まるで人ごとのような態度に終始し、まことに遺憾と言うだけで、一度も
国民に謝罪したこともなければ、こうした典型的な企業・団体ぐるみ
選挙への反省も述べておられません。しかし、あなたは、自民党の総裁として高祖氏を公認し、高祖氏と宣伝カーに同乗し、支持を訴え、テレビの政見放送でも、コウソパワーで新
世紀維新に挑戦する若き志士ですと、
国民に支持を訴えられたのです。
総理自身の
責任を問うものであります。
今
国会は、
世界と
日本の平和、
国民の暮らしと健康、安全などをめぐって重大な岐路ともなる
国会であります。私は、本院が真に
国民の負託にこたえ、徹底的な審議を行うことを強く求めて、
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小泉純一郎君
登壇、
拍手〕