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2001-11-28 第153回国会 参議院 国民生活・経済に関する調査会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十三年十一月二十八日(水曜日)    午後一時一分開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         勝木 健司君     理 事                 魚住 汎英君                 北岡 秀二君                 鶴保 庸介君                 内藤 正光君                 松 あきら君                 西山登紀子君     委 員                 加治屋義人君                 小斉平敏文君                 山東 昭子君                 鈴木 政二君                 伊達 忠一君                 中島 啓雄君                 藤井 基之君                 松山 政司君                 朝日 俊弘君                 榛葉賀津也君                 辻  泰弘君                 本田 良一君                 日笠 勝之君                 畑野 君枝君                 山本 正和君                 森 ゆうこ君                 松岡滿壽男君    事務局側        第二特別調査室        長        白石 勝美君    参考人        株式会社野村総        合研究所上席エ        コノミスト    植草 一秀君        株式会社日本総        合研究所調査部        長        高橋  進君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国民生活経済に関する調査  (「真に豊かな社会構築」のうち日本経済の  活性化に向けた課題について)     ─────────────
  2. 勝木健司

    会長勝木健司君) ただいまから国民生活経済に関する調査会を開会いたします。  国民生活経済に関する調査を議題とし、「真に豊かな社会構築」のうち、日本経済活性化に向けた課題について参考人から意見を聴取いたします。  本日は、お手元に配付の参考人名簿のとおり、株式会社野村総合研究所上席エコノミスト植草一秀君及び株式会社日本総合研究所調査部長高橋進君に御出席いただき、御意見を承ることといたします。  この際、植草参考人及び高橋参考人一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多用のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、本調査会が現在調査を進めております「真に豊かな社会構築」のうち、日本経済活性化に向けた課題につきまして忌憚のない御意見をお聞かせいただき、調査参考にさせていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。  議事の進め方でございますが、まず植草参考人、続きまして高橋参考人の順にお一人三十分程度で御意見をお述べいただきました後、二時間程度、午後四時ごろまでの間、各委員皆さん方からの質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じます。  質疑につきましては、あらかじめ質疑者を定めず、自由に質疑を行いたいと存じますので、質疑を希望される方は、挙手の上、会長の指名を待って質疑を行われますようお願いいたします。  また、時間が限られておりますので、質疑答弁とも簡潔に行っていただくようお願いいたします。  なお、参考人からの意見陳述、各委員からの質疑及びこれに対する答弁とも着席のままで結構でございます。  それでは、植草参考人からお願いいたします。
  3. 植草一秀

    参考人植草一秀君) 植草でございます。よろしくお願いいたします。  それでは、私から初めに、日本経済活性化に向けた課題というテーマにつきまして思うところを幾つか述べさせていただきます。  お手元に「日本経済活性化に向けた課題」という表題をつけた資料を配付していただいていると思います。こちらを御参照いただきながら話を聞いていただければと思います。  日本経済は非常に今低迷した状況にありますが、二十一世紀という新しい時代に入りまして、この日本経済の再活性化というのが非常に重要な課題になっていると思います。経済活動の低迷というのも深刻化しておりますし、そのもとで失業増加企業倒産増加、ひいては自殺者増加といったことも生じております。こうした低迷した状況を改善させるとともに、その質的な内容も大きく変えていく必要があると思います。これは単に経済問題にとどまらず、これまでの戦後日本社会のいろいろな仕組みそのものを大きく変えるという必要性も高くなっていると感じております。  現在、日本では改革あるいは構造改革といったことが多く指摘されておりますけれども、私も、日本のさまざまな仕組みを、この二〇〇〇年という新しい時代節目である現在、大きく変えていく必要が高いという点においては現在の動きに共感を感じている一人であります。ただ、改革とか構造改革という言葉は非常に抽象的な言葉でありますので、具体的に何をどのように変えるかということにつきましては、それぞれの人がそれぞれの人の中でさまざまな考えを持っておりますので、必ずしも一致した見解が確立されているということではないと思います。  変えるべき課題というのはさまざまあるかと思いますけれども、この一番に書いておりますのは改革課題ということで、とりわけ重要な論点をここに三点掲示させていただいております。  一言で言いますと、私は、戦後日本体制を刷新する、こういうことが求められていると思います。日本は戦後の世界経済において最も成功をおさめた国と言って過言ではないと思います。しかしながら、戦後日本経済発展というもののピークバブル経済ピークとともに過ぎ去り、日本が新しい経済環境の中に置かれる中で新しい時代に対応した姿を十分にはまだつくり出せていない、そういう意味で、この戦後の日本体制根本から変えるということが必要になっていると思います。  ここに三点挙げておりますのは、まず一番目に、官と民の関係をやはり根本から変えるべき時期に来ていると思います。  戦後の日本国憲法におきましては公務員国民に対する奉仕者と、こういう位置づけであります。あくまで主役は国民公務員国民サービスを提供する存在、こういう位置づけになっておりますけれども、現実には戦前来の、お上としての官、下々としての民、この上下の関係あるいは垂直の権力構造というものが色濃く残って現在に至っていると思います。これは戦後のGHQによります日本占領政策のもとで日本占領政策を進める実行部隊として戦前官僚機構を基本的にはそのまま温存して用いたというところが淵源になっているというふうに思いますけれども、その結果としまして、この日本国憲法の規定とは裏腹に、依然としてお上としての官、下々としての民と、こういう権力構造が色濃く残ってきたと思います。  二〇〇〇年という大きな時代節目を迎えまして、日本におきましても本当意味での水平権力構造、官と民というものは水平関係に本来あるべきでありますが、それをつくる、そういう必要に迫られていると思います。このお上としての官と下々としての民、この関係を象徴している問題が天下りという問題であります。これは決して現在天下りでさまざまな役職についている方の問題ではありません。これまでの日本はあくまでそういう仕組み運営してまいりましたので、それらの方々に責任があるということではありませんが、この二〇〇〇年という節目を迎えて、こうした天下りということに象徴されている官と民の関係根本から変える、これがまた特殊法人改革といったようなことにも通じていく問題だと思います。  それから二番目に、経済運営基本原理を、これまでの日本における規制を張りめぐらして、そのもとで護送船団という方式でやるやり方を原則自由にする、自由化とそのもとでの自己責任をベースにした運営に切りかえる、こういうことが重要になっていると思います。  それから三番目に、財政の問題でありますけれども、財政支出のむだといったことが多く指摘されておりますけれども、この機会に財政支出の中身を一から全面的に見直す、財政支出構造を見直すということが重要であると思います。  改革テーマは山積しておりますので決してこの三つに限ったものではありませんけれども、とりわけ重要な課題としてこの三つの問題、非常に抽象的な内容ではありますけれども、重要であるということで取り出しております。  二番目に書いておりますのは、外部環境の激変ということであります。  戦後日本は最も成功をおさめた国でありますが、日本を取り巻く環境が激変した、この現実を直視するということがこれからの日本をどう変えていくかということを考える際の重要な視点だと思います。  三点書いておりますけれども、冷戦が終わりまして世界は新しい時代を迎えたと思います。サミュエル・ハンティントンが「文明の衝突」という論文で明らかにしましたように、冷戦終えん後、世界情勢は大きく変質を遂げております。  その一つ側面としては、社会主義資本主義といったイデオロギーの対立が終えんし、新たに文明文明あるいは民族民族あるいは宗教宗教、こういう対立が表面化している、これが一つ側面であります。  同時に重要な指摘をハンティントン氏はしておりますけれども、それは冷戦時代、国の優位を決定する最重要の要件は軍事力であった、これが新たに冷戦後の世界においては経済力が最も重要なファクターになるという指摘であります。  この経済力競争時代に入る中で、米国はこの経済力強化に九〇年代、国を挙げて取り組んだと言っていいかと思いますが、残念ながら日本バブル崩壊後の混乱の中でこの米国戦略の結果、さまざまな戦略的産業部門においてかなりアメリカなどの諸外国に水をあけられる、こういう状況を生んでおります。経済が非常に重要な意味を持っているという時代認識がまず第一に重要かと思います。  それから二番目に、本格的な価格競争時代への突入ということであります。  中国中心としましたアジア諸国地域経済力の台頭ということが際立っておりますけれども、そうした中で日本経済にもさまざまな影響が生じております。価格競争激化ということで言いますと、製造業においては三歩も四歩も先行して激しい価格競争が展開されてまいりましたが、いよいよこれが国内の非製造業部門に確実に波及しております。その代表例流通産業外食産業そして金融産業といったところであります。  ここ一、二年、本当意味での価格競争激化というものが国内を覆い始めております。今後を考えてまいりますと、これまで比較的競争が行われていなかったと考えられてきた産業部門、ゼネコンであるとか、会計士の仕事であるとか、税理士の仕事であるとか、あるいは病院の仕事、さらには電力会社仕事といったようなことを含めて本格的な価格競争日本を覆っていく、こういう現実を見詰める必要があると思います。  三番目の視点としまして、IT発達が著しいという点であります。  いかなる企業、個人といえどもこのIT発達にキャッチアップする必要に迫られております。こうした形で日本経済を取り巻く環境がまさに激変している。この現実を直視するということが求められていると思います。  そうした中で、経済構造変化ということでとりわけ重要な点を三点ここに挙げておりますけれども、最近になりましてしばしば指摘されますのは中国の脅威、中国製の製品がまさに雪崩を打って日本に押し寄せてくる、安くて質のよい品物が日本に流入し、その結果、国内産業がさまざまな形で影響を受けております。  製造業の立地がこうした状況の中で順次中国などのアジア地域へシフトしております。これを最近空洞化というふうに表現されることが多いわけですけれども、もしこの空洞化という言葉がそういう事態は避けられる、あるいは避けるべきだというニュアンスを含むとすれば、私は用語法としては適切ではないと感じております。  つまり、今起きておりますような産業海外への移動は避けられる流れではなく不可避の流れと。私はこれを国際分業体制構造変化というふうに表現しております。かつて日本海外製造業を順次奪う形で国内産業強化してまいりましたが、これと同じ現象が今度は立場を変えて日本アジア諸国の間で起きているわけで、これは歴史の必然といいますか、それぞれの国の発展段階の相違に伴う現象でありまして、避けることは難しい。  こうした国際分業体制構造変化が進むという前提のもとで、その中で日本産業の安定的な発展をいかに確保するかという視点が重要だと思います。  産業構造の変革ということを書いておりますけれども、労働集約的でかつ要求される技術水準の低い産業は順次生産の拠点を海外に移すということになると思います。日本製造業がそれでは消失するかというと、それはないと思います。国内に残り得る製造業は、合理化を進めた製造業か高付加価値戦略を進めた製造業、したがいまして国内製造業部門におきましては省力化中心とした合理化をいかに進展させるか、あるいは高付加価値化をいかに目指すかという点が重要だと思います。  ただ、全体としては製造業雇用吸収力が低下する傾向は回避し得ないと考えます。その際に重要な点は、非製造業部門がいかに拡大するかという点でありますが、この非製造業部門拡大の核となるのが二と三であります。  二は戦略産業部門と書いておりますけれども、先ほど申しました九〇年代のアメリカがとりわけ強化した産業部門、すなわち以下の五部門であります。ハイテク部門知的所有権部門、バイオテクノロジー、金融環境関連ビジネス、それ以外にも重要な産業部門は当然存在しますけれども、代表的なところで今申しましたような戦略的部門国内でいかに強化するか、これが日本産業政策上の最も重要な課題であるというふうに思います。  他方、こうした部門雇用を吸収し得る規模には限度があります。したがいまして、こうした産業で吸収し得ない労働力をどのような産業で吸収するかと考えますと、それはこのサービス化の進展、衣食住にかかわる身近なサービス産業拡大するということになろうかと思います。  現実アメリカにおきましても製造業で減少した雇用がどうした部門で吸収されたかといいますと、その中心情報通信産業でありましたが、それ以外に小売業外食産業及びヘルスケア、こうした衣食住にかかわるサービス部門雇用を吸収いたしました。  こうした衣食住にかかわるサービス部門特徴は、必ず消費地生産地が同一であるという特徴であります。製造業は国際的に有利な地点に立地し生産物を運ぶ、つまり交易できるわけでありますが、非交易産業は必ず消費地生産地が一致してまいりますので、製造業海外に移動する先進国においては必ずこの衣食住にかかわるサービス産業雇用を吸収していかざるを得ない、これを国としてどのように強化支援していくかということも大きな課題だと思います。  四番目に労働市場変化ということを書いておりますけれども、これまでの日本労働市場の大きな特徴であります年功制長期雇用が崩壊していくことになると思います。そうした状況を私は理不尽な時代というふうにここに表現しております。  端的に言いますと、団塊世代が現在ちょうど五十歳前後というところでありますが、企業の中におきましては最も所得水準が上がるところにこの最も人口の多い層が現在位置しております。そうした中で、先ほど申しましたような激しい競争が展開されていきますと、企業としては現状年功制を維持し得ない、こういう事情に直面しております。こうした必然的な事情によりまして、年功制は崩壊し能力制に移行することになると考えられるわけでありますけれども、そうなりますと、この団塊世代にとっては受験戦争も厳しく、会社に入っての競争も厳しく、そして家庭を忘れて仕事に専念してきてやっとこれからよい思いをするという時期にリストラと、こういう理不尽な運命をたどるわけでありまして、そうしたことを踏まえて政策としてそれを補完する施策が必要だと思います。  そこで、この二に書いておりますのは離職者を支援する体制整備する、例えば失業補償給付期間給付水準の拡充などを中心とした方策を私は十年程度時限措置として講じていくということも重要だと思います。  同時に、これと反対に位置する内容でありますけれども、企業に対しては賃金の引き下げあるいは雇用削減といったようなことに関する企業合理化をある程度容認する制度変更、これも私は必要になってきていると。順序としては、まず離職者を支援する体制をしっかり整備した上で、企業競争力を維持し得るための合理化措置をある程度容認する、こういう方策が必要になっているのではないかと思います。  五番目に不良債権問題でありますけれども、現在、日本では不良債権問題が非常に深刻化しております。そうした中で、この二と三を先に申し上げたいと思いますけれども、問題企業処理あるいは問題金融機関処理につきましては、その企業状況を客観的に明らかにした上で客観的に合理性を持つ措置を進めていくと。非常に抽象的な言い方でありますけれども、客観的に見て破綻していると認定せざるを得ない企業破綻整理といった措置を講じていく必要があると思います。その部分を安易に救済するという措置を施すことはモラルハザードといった問題を生んでいくというふうに思います。  しかしながら、私がこの問題について特に強調しておきたい点は一番でありまして、現在のように、景気悪化が進行し、株価地価下落が進行しておりますと、いかに企業を整理したとしても、それは事態を改善する手だてにはならない。最も重要な点は、マクロ経済状況の改善を促進し、事態悪化に歯どめをかける、株価下落地価下落に歯どめをかける、これがまず最優先されるべき事項と。この優先順位設定において、現在の施策は大きな誤りを犯しているというふうに私は判断しております。  それから二ページでありますけれども、財政構造改革について簡単に触れさせていただきたいと思います。  九〇年代の米国は見事に財政再建を実現しました。その手法を見ますと、時間の関係もありますので端的に申しますが、まず景気回復を優先し、循環的な財政赤字削減を実現しております。第二段階として思い切った構造改革を実施し、見事に財政再建を実現しました。  これに対し、九七年度の橋本政権政策は、構造改革、つまり構造的な赤字を減らすことを優先したために経済そのもの悪化し、結果としては財政赤字拡大という結果をもたらしております。したがいまして、まず重要な点は、景気回復を第一に優先し、その上で構造改革に取り組むという手順の設定が重要だと思います。景気回復が実現した段階財政支出構造改革を断行すべきと思います。  財政支出構造改革課題としましては、一般財政、それから公共事業、そして特殊法人公益法人、さらに年金制度、大きなテーマ幾つか存在するかと思います。これらの支出改革をやり遂げた後に負担の引き上げといった増税措置も検討すべきだと思います。重要な点は、十年かけていかにして財政を立て直すか、そのときの国民負担給付水準がどのような形になるか、これを説得力を持って国民の前に提示をすると、こういうことが重要かと思います。  それから、七番に土地政策と書いておりますけれども、地価下落が進行し、これが不良債権問題と直接的にかかわる重要な問題となっております。そういう視点から、地価中心とした総合政策の策定の必要度が上昇していると思います。地価下落に歯どめをかける最も重要な施策は、景気回復を実現させるということであります。景気回復株価上昇をもたらしますが、恐らく、株価下げどまりますと一年から一年半後に地価も下げどまるという結果になると思います。  それから二番目に、税制の見直しでありますけれども、土地取得保有譲渡に係る課税を時限的にでも大幅に軽減すべきであると考えます。現状におきましては、地価大幅下落によりまして、例えば固定資産税負担率が非常に上昇しており、これが新規の不動産所有のインセンティブを大幅に引き下げております。こうした保有に係る課税及び土地取得した際に発生いたします取得税登録税の軽減、さらに土地譲渡した場合の譲渡所得に係る課税、こうしたものの見直しが重要であると思います。  三番目に、都市機能活性化といったことを考えたときに、私権の制限についても何らかの措置が必要になってくるかと思います。私権を重視するのは当然でありますけれども、ただ、それは公共性とのバランスの上で考えられるべき事項でありまして、非常に高い公共性を有する事業の場合に、私権を制限していくことについてのさまざまな取り決めを検討することも重要になっていると思います。  八番に国土の有効利用ということを書いておりますけれども、北海道にしましても沖縄にしましても、地域経済の停滞ということも大きな問題になっておりますが、国際的な視点に立ちますと、例えば北海道にしましても沖縄にしましても、極めてすぐれた観光資源の付与された地域であります。しかしながら、現状日本におきましては、こうした国際水準に照らしましても非常に価値ある観光資源が十分に生かし切れていないという実情があろうかと思います。こうした地域経済活性化という視点を踏まえ、観光資源価値向上価値強化に取り組むということが非常に重要であろうかと思います。  具体的に言えば、アメリカにしましてもカナダにしましても、国公立公園等における民間経済活動については、日本以上に規制が張りめぐらされております。一般的に、経済的規制は撤廃することが望ましいわけでありますけれども、観光地規制につきましては、むしろ民間経済活動に対する規制強化し、公共財である観光資源価値を高めるための施策ということも重要であろうと思いますし、米国などに見られますように、さまざまなキャンプグラウンドの整備といったようなことを通じて広く一般国民レクリエーション施設整備するということも、国民福祉向上にとりましては重要な施策だと思います。  そういう意味で、こうした観光資源がすぐれた地域観光資源価値強化するための施策ということを検討すべきだと思います。  二番目に書いておりますのは市街化調整区域利用についてであります。日本では、地価が高く、すぐれた住環境取得することが経済的に非常に難しい情勢にありますけれども、一方におきまして、都市近郊に広大な市街化調整区域設定され、未利用のまま放置された状態にあります。都市近郊市街化調整区域を有効に活用する施策ということが非常に重要になっていると思います。  この点に関連しまして三に書いておりますのは、特に優良な田園都市住宅整備にとりましても、またロードサイド中心とした流通産業の振興という視点にとりましても、市街化調整区域の積極的な活用を検討すべきと思います。既存商店街活性化に向けまして町づくり三法などが整備されてきたところでありますけれども、中長期的な日本流通機構のあり方を考えますと、こうした既存商店街財政資金を投下するよりは、むしろロードサイド流通産業を振興するために、既存商店街の人々をそちらに移動していただいて流通産業を振興するといったことも検討していくべきではないかと考えております。  それから、九番に国と地方ということでありますけれども、分権社会構築ということがいろいろな意味で重要性を帯びていると思います。  それぞれの地域の歴史や伝統を生かす、また地域施策地域の人々が決める、また教育という点に関係しましても、さまざまな価値観を併存させるという点からしましても、それぞれの地域の自治権を拡大させていくという方向は基本的に望ましい方向と考えます。そういう視点から、この各地方自治体の自治権を拡大する、基本的には予算編成に係る自由を拡大させることが重要であると思います。  さらに一歩進んで考えますと、道州制のようなものを検討していくということも有効ではないかと思います。ただ、その際に重要な視点は、同じ日本というアイデンティティーを維持するために、日本においていかなる地域に生まれても一定水準の公的サービスを受けられる状況の確保が重要であり、そのために財源調整制度は依然として重要性を持っている、この点の認識を再確認することが求められるかと思います。  最後に、公務員制度について一言触れさせていただきますけれども、一番最初に申し上げました官と民の関係の再構築という点におきまして、この公務員制度の問題は非常に重要な意味を持ってくると思います。  国民主権を再確立するという視点から、とりわけお上と民という、お上をつくり出す最も重要な要素になっておりますのが第Ⅰ種公務員制度であります。私は、第Ⅰ種公務員制度を廃止し、民間の会社でもそうでありますけれども、入社した時点で役員になることを保障されているような採用方式をとっている企業はほとんど存在しておりません。したがいまして、公務員におきましても、ある省庁で二百人なり三百人なり採用し、その中から人事を行っていくということによりまして、一部の特権階級をつくるということを回避していくことが今後の公務員制度においては重要であるというふうに思います。  また、天下りというものを中期的に廃止していく方向で制度変更を設計していくことも重要であります。その際に、現状における天下りの問題は公務員が早期に退職を迫られるという実情があるという指摘がありますので、公務員の定年までの身分保障、この制度を確立するということとセットで天下り問題の論議をしていくことが重要ではないかと思います。  いろいろ多岐にわたりまして、少しまとまりのない御説明になりましたが、二〇〇〇年を迎えました日本、新しい国の仕組みをつくるという点から、私なりに考えられるところを述べさせていただきました。  ありがとうございます。
  4. 勝木健司

    会長勝木健司君) ありがとうございました。  次に、高橋参考人にお願いいたします。
  5. 高橋進

    参考人高橋進君) 日本総研の高橋でございます。よろしくお願いいたします。  それでは、お手元のA4横の資料に沿いましてお話をさせていただきたいと思います。  私は、少しアプローチの仕方を変えまして、足元の景気情勢からということで入らせていただきたいと思います。  まず、一ページ目をごらんいただきたいと思います。  足元の景気の情勢でございますけれども、もう皆様よく御承知のように、輸出が急激に落ち込むということをきっかけとしまして企業部門の激しい落ち込みが続いております。私は、年度内はマイナス成長はもちろんのことでございますけれども、来年度につきましてもかなり厳しい状況が続くだろうというふうに見ております。  と申しますのも、アメリカの景気の回復がテロの影響もございましておくれるであろうということ、あるいは国内要因で見ましても、小泉改革の負の作用というものがことしから来年にむしろ出てくるというようなことを考えれば、そう簡単には景気は持ち上がっていかないということでございまして、二年連続のマイナス成長は不可避ではないかと見ております。  ただし、短期的な、いわゆる景気の循環ということで見てみますと、私は、来年後半ぐらいになりますとアメリカの景気が持ち直してくるということで、これをきっかけにして日本の輸出も辛うじて持ち直してくるということから、景気の悪化には一応の歯どめがかかるのではないかというふうに見ております。ただし、中期的に見て、日本経済が成長軌道に乗っていくというふうなことではございませんで、とりあえず短期的な悪化に歯どめがかかるという程度のことではないかというふうに見ております。  続きまして、二ページ目をごらんいただきたいと思います。  こういう中で、景気がどんどんスパイラル的に悪化していくんではないか、いわゆるデフレスパイラルに陥ってしまうんではないかという懸念も現状ではございますけれども、私は、大きくは二つの理由から当面のデフレスパイラルは避けられるのではないかというふうに見ております。  まず第一の理由でございますけれども、企業部門が今回の不況期では打たれているわけでございますけれども、企業のいわゆる設備投資の落ち込みというのはそれほど激しいものではございませんで、むしろ今後を展望しますと、比較的堅調に推移すると見てもよろしいのではないかということでございます。  理由は大きくは二つございます。  一つは、図表の2でお示ししてございますけれども、こちらは製造業生産能力でございますけれども、ずっと過去数年間、企業はリストラを続けていわゆる設備の過剰というものの解消に取り組んでまいりました。こういった状況でございますので、足元で景気が悪くなったからといって急激に設備を大幅に落とさなくてはいけないということではないということ。  二つ目に、IT不況と今言われますけれども、いわゆるソフトウエアも含めましたIT投資というのはそこそこ出ておるということでございます。図表の3にお示ししてございますが、今後三年間にどんなIT投資をしますかというようなアンケートをとりますと、引き続き五割近い方が経営改革タイプのIT投資をされるということを回答されておられまして、こういったIT投資というのがまだまだ日本の景気を根っこで支えているということでございます。  デフレスパイラルが避けられると見ます大きな二つ目の理由でございますが、これは金融のセーフティーネットの整備ということでございます。  足元でも不良債権の問題が随分深刻ではございます。しかしながら、三、四年前の前回の不況期のときに比べますと、はるかに金融システムにつきましては整備が進んできております。私、これで不良債権の問題が解決したと申し上げるつもりはございませんけれども、当時、このことが問題になって消費ががくんと落ちていったという経緯と比べますと、今回ははるかにまだまだ健全だということでございます。ただ、逆に申し上げれば、この問題の処理を誤りますと、スパイラル的な悪化を引き起こす懸念は残っておるということではないかと思います。  以上、短期的な景気につきましては、当面、かなり深刻な調整が不可避でございますけれども、来年後半ぐらいから何とか循環的にはよくなるだろうという形で申し上げました。  続きまして、三ページをごらんいただきたいと思います。  こういう中で小泉さんの構造改革が始まったわけでございますけれども、私なりに構造改革意味合いというものを申し上げたいと思います。  お手元の図表の4をごらんいただきたいと思いますけれども、これは中期的に見ました日本経済の成長の姿でございます。八〇年代に四%成長を確保していたものが、九〇年代に入って一%かつかつというところまで落ち込んでいる。さらに九〇年代後半だけを見ますと、景気が悪くなるとすぐにマイナス成長に落ち込んでしまう、こういう構図でございます。  やはりここまで日本経済の成長率が落ちてきましたのは、人間の体に例えれば、日本経済自体が成人病に陥っている、あまつさえ不良債権ですとか財政赤字といったがん細胞が体の中に出てきている。こうした体質の悪化というものが今表面化してきているということではないかと思います。したがいまして、こういった事態を放置しておきますと、日本経済は過去の蓄積を使い果たしてどんどん縮小均衡に落ち込んでしまうということではないかと思います。  そういう中で、縮小均衡プロセスを改善すべく行うということが構造改革意味だというふうに思います。したがいまして、かなりの手術をしなくてはいけないということになってまいります。当面は、この手術の影響もございまして、日本経済はかなり低い成長を覚悟する必要があるということは言われておるとおりでございます。  ただし、改革だからさらに景気が悪くなるということで痛みに対する懸念が強いわけでございますけれども、私は、むしろ、改革をやらなくても日本経済はもう相当の痛みを覚悟せざるを得ないところまで体質が悪化してしまっておる。私は、バブル崩壊に始まった日本経済悪化というのは、むしろ今までのツケが一挙に破裂したことでございまして、足元は日本経済全体が調整プロセスにある、そういう中で改革を進めることによってもう一度体質を改善させようと、こういう動きに入ったというふうに理解しております。  したがいまして、グラフの右側でございますけれども、当面は集中調整期間ということである程度の成長鈍化は覚悟せざるを得ないわけでございますけれども、ここの部分の処理がある程度進んできて負の遺産の処理ということが進展していけば、私は、日本経済は黙っていても一%ぐらいのベースラインには復活できるだろうというふうに考えます。さらに、アメリカの例に見られましたように、新しい分野、新しい産業の開拓ということで成果が上がってくれば、潜在成長率をさらに二%、三%に引き上げていくということも十分可能ではないかと思います。  ただし、問題は時間でございます。足元で、後ほどまた申し上げたいと思いますが、日本の貿易黒字、経常黒字がここのところ急速に縮んできております。これは、私は、日本経済が過去に蓄えた蓄積を今使い果たすプロセスに入ってしまっているということではないかと思います。そういう意味では、日本経済にまだ余裕があるうちに構造改革を進めていくということが必要なのではないか。そういう意味では、十年、二十年かけて日本の体質を改善していくんだというような時間は今なくなってきている。今、余裕があるうちに早く構造改革プロセスに着手すべきではないかという考えを持っておるところでございます。  続きまして、四ページをごらんいただきたいと思います。  今申し上げたような危機感につきまして、私なりにその構造改革の中で幾つか問題点を絞りまして論点を展開させていただきたいと思います。  今でもまだ改革景気回復かということで、その優先度合いについては御議論があるところでございますけれども、私は、そうしている間にも日本経済の体質が着々と悪化しているということを申し上げたいと思います。  まず、その象徴的な事例がやはり産業空洞化ということでございまして、それは貿易黒字、経常黒字の縮小ということにあらわれているのではないかというふうに思います。  お手元の図表の5をごらんいただきたいと思います。これは、棒グラフが日本の経常黒字でございます。それから折れ線グラフ、黒い四角を結びましたものが生産の動向でございます。過去二十年ぐらいを見てみますと、この黒字の拡大あるいは縮小と生産の動向には奇妙な相関関係がございます。日本の景気が非常によくなるというときには輸入がふえます。そして、逆に今度は悪くなるときには輸出ドライブがかかるということで、いわば景気がよくなって生産がふえると貿易黒字が縮み、経常黒字が縮む、そして景気が悪くなると黒字がまた膨らむと、こういう経験則がございました。  ところが、ごく足元、二〇〇〇年以降の二年間をごらんいただきますと、急激に鉱工業生産が落ち込んできておる。まさに今不況の様相になっておるわけでございますが、ところが、この間、経常収支はということで見ますと、景気の拡大期に縮小した後、景気の後退期に入ってもさらに縮小を続けているということが見てとれるわけでございます。  これは、結論的に先に申し上げれば、日本産業空洞化していることの結果として悪い形での黒字縮小が起きているのではないか。日本経済の開放度が高まって黒字が縮小しておるのであればよい黒字縮小でありますが、私は足元の黒字縮小は悪い黒字縮小ではないかと考えます。  この背景でございますけれども、やはり中国中心としたアジア諸国技術水準向上、これが日本の輸入の拡大ということにつながり、ひいては日本製造業基盤の縮小ということが加速しているということではないかと思います。  お手元、図表の6に輸入の浸透度ということで、国内で販売されておりますもののトータルの中での輸入品の比率というものを見てございますけれども、一番上のバツ印、非耐久消費財、食料品ですとか衣料品でございますが、こういったものの比率が極めて高い。あるいは、下から二番目でございますが、白い四角を結びましたのが耐久消費財、自動車ですとか家電でございますが、こういったものについても近年急速に輸入浸透度が上がっているという状況でございます。  こういった形で構造的に黒字が縮小し始めておりますので、もし輸出の伸びが余り期待できないというようなことで私どもが試算をいたしますと、貿易黒字が今後数年以内、例えば五年以内に縮小しても不思議ではないというところまで来ているのではないかと思います。貿易黒字が縮小するということは結果として何を招くかというふうに考えますと、私は、急激な円安、それから資本流出に伴います金利高、そして日本産業の衰退、その結果としてやってくるハイパーインフレということで、国民生活水準日本の黒字の縮小とともに落ちていくという事態になっていくのではないかという懸念を持っております。  続きまして、五ページをごらんいただきたいと思います。  こうなってきますと、先ほど植草さんの御指摘にもございましたけれども、国内で出てきておりますのがいわゆる中国脅威論でございます。しかしながら、私は、中国脅威論を振りかざすことというのはやや行き過ぎではないかと思います。  理由は三点ございます。  一つは、こういった日本の輸入の拡大、それを間に入って仲介しておりますものはむしろ日本企業であるということ、日本企業がデフレ対策として外に出ていって、その結果、逆輸入がふえているということでございます。  二つ目に、海外から安い製品が入ってくるということは、反面で国内の消費者の購買力の向上に寄与しているということでございます。  お手元の図表の8をごらんいただきたいと思います。これは個人消費の中身につきまして品目別に消費の動向を見たものでございますが、中ほどに生活必需品というのがございます。これはいわゆる衣料品、食料品でございますが、これが九九年あたりから家計の中での支出金額が急激に減っております。これは、消費者がこういったものに対する消費を抑制しているというよりは、価格が下落することに伴ってこういったものに対する支出が減っているという結果ではないかと思います。そして、ここである程度家計に余裕が出てまいりますので、ここで出てきた余裕がその上の選択的支出、旅行ですとか娯楽、あるいはぜいたく品、こういったものに向かっていくという余力が出てきているわけでございます。  賃金・雇用情勢が非常に厳しいと言われる中で消費が二極化している、あるいはそこそこ堅調であるということの背景には、私は、こういった物価下落、あるいはそれをもたらしております日本産業構造変化ということがあるのではないかと思っております。  それからもう一つ、脅威論は避けるべきであるという理由の三番目としまして、日本から中国への輸出もふえておるということでございます。そういう意味では、決して日本の輸入がふえるという形で縮小均衡しているわけではないということでございます。  そして、こうした表面的に見られます日本産業空洞化本当の原因というのは、私は、日本の高コスト体質、まさにここにあるのではないかということでございます。したがいまして、中国の問題というよりは、問題は日本国内に内在しているというふうに考えます。その一つが、図表の7でお示ししました賃金水準の国際比較でございます。明らかに日本は名目で見まして高過ぎる水準まで行ってしまっている。これを今是正するプロセスが始まっているということでございます。  さらに、こうした産業空洞化と表面的に言われますものにつきましては、私は、基本的に黒字が縮小すること自体は先進国の宿命であるというふうに思います。したがいまして、当然、先ほどのお話にもございましたけれども、日本産業構造をさらに高度化させていくということで対処すべき問題だと思います。そういう意味では、国内投資を活発化させて内需主導の輸入大国にしていくということと、その一方で非常に競争力のある製品を引き続き生み出していく、こういった拡大均衡型の黒字縮小を目指すべきではないかと思います。  ちなみに、日中貿易で申し上げますと、中国がWTOに加盟することに伴いまして最も恩恵を受ける国は日本だろうと言われておるわけでございまして、日本は今、中国による日本市場の浸透ということが懸念されていますが、その一方で、拡大する中国市場が私どもの目の前にあるというふうに考えることも可能でございます。  以上が、まず構造問題に伴います産業空洞化に関連しまして私が申し上げたいことの第一点でございます。  続きまして、第二点としまして、これと関係いたしますけれども、日本企業課題ということでお話を申し上げたいと思います。  六ページをごらんいただきたいと思います。  今申し上げましたように、足元で日本製造業基盤の縮小、いわゆる物づくりが危機にあるということでございますけれども、ただし、こういった表面的な現象の裏で、実は日本企業の体質改善というのはかなり進み始めているというふうに私は理解しております。  幾つかデータをお示ししたいと思いますが、お手元の図表の9をごらんいただきますと、売上高経常利益率ということでごらんいただきますと、八〇年代の水準に対しまして、九〇年代、随分水準は下がりました。しかしながら、足元三、四年をごらんいただきますと、九九年あたりを底にしまして経常利益率が改善し始めております。あるいは非製造業で申し上げればもうちょっと前から始まっております。足元、楕円形で結んでおりますところは景気が悪くなっておりますので一時的に体質改善がとまってむしろ悪化しておりますけれども、しかしここ数年間、企業のリストラ努力によって利益率の向上が傾向的に見られるということが第一点でございます。  続きまして、横の図表の10をごらんいただきたいと思います。長期債務対キャッシュフロー倍率ということで、いわば企業の長期の借金、これと企業の持っておりますキャッシュフロー、これを比べたものでございます。  御承知のとおり、バブル崩壊後、日本企業のこの借金体質というのが極めて悪化して、例えばピーク時ではキャッシュフロー倍率が八倍近いところまで借金体質に陥ったわけでございます。ところが、その後企業のリストラ努力が続けられて、結果としてかなりこの数値につきましても改善傾向が見られます。とりわけ、細い線でお示ししてございますが、建設、卸、小売、不動産、いわゆるリストラがおくれておると言われる業種を除きますとかなりの水準まで低下しております。例えば、八〇年代のこういった除く産業種で見ますと、八〇年代の水準というのは四倍弱でございますが、足元ではかなりの程度まで下がってきていると。これも繰り返しになりますが、足元では景気が悪化していますので若干逆戻りしていますが、それでもトレンドとしてはかなり改善を示しているということでございます。  続きまして次の七ページをごらんいただきたいと思います。もう二つ資料をごらんいただきたいと思います。図表の11でございます。  こちらは設備投資の収益率、設備投資をした場合にどのくらいの収益が見込めるかということでございます。これにつきましても、過去二十年間、傾向的に日本は設備投資をしてももうけるのが難しくなってきておるという現象でございます。体質悪化だと思います。ただし、これにつきましてもごく最近、この三、四年で見ますと、ようやく改善トレンドが始まっております。まだまだ低い水準からではございますけれども、改善傾向が見られているというようなこと。  あるいは、お隣の図表の12、こちらはいわゆる賃金コストということでございますが、さまざまな形での賃金改革雇用改革が今進んでおるということの中で、名目賃金指数がようやくトレンドとして落ち始めているということでございます。  こういった、今私は日本企業の体質の改善が見られるということを申し上げました。ただ、改めて繰り返させていただきますと、過去数年間、日本企業構造改善努力はかなりの成果を上げております。しかしながら、どの数値を見ましても私はまだ八〇年代の水準までには戻っていないということで、そういう意味では企業部門の収益体質改善は道半ばなんではないかということでございます。  したがいまして、ともすれば景気が悪化しますとさらなるリストラということで、どうしても企業部門は縮小均衡に向かいがちでございます。足元でもそうした傾向が強いわけでございますけれども、私は企業部門課題ということで申し上げれば、やはりこういった中でいかにして中国と戦いアメリカと戦っていくかという意味で、苦しい中で新しい成長基盤をつくる、そのための投資を苦しいけれどもしなくちゃいけないというところになってきているんではないかと思います。  そういう意味で、一つ中国に勝てるようなコストの引き下げと。日本はこれだけコストが高いにもかかわらず中国と戦うためのコスト引き下げに取り組んでおられますが、もう一方でやはり中国に追いつかれないための技術力の強化とそのための投資ということが必要なんではないかというふうに考えております。  以上が二つ目の課題でございます。  続きまして、八ページをごらんいただきたいと思います。  こういった企業部門改革が進んでいきますと、私は、そのあおりを食いますのがやはり個人部門ということでございまして、痛みがこれから個人部門に出てくるという気がいたします。その典型的な例が、やはり雇用調整圧力という形で痛みが出てくることではないかと思います。もちろん、賃金が伸び悩むという、あるいは賃金がカットされるということも想定されますが、やはり大きいのは雇用調整圧力ではないかと思います。  お手元の図表の13で私どもなりに試算をいたしました。図表の左半分でございますが、これから起きるであろうプロセスというのが、日本構造調整あるいは構造改革が進んでいきます中で、不良債権の処理財政改革、あるいは中国との競合のための企業部門強化といったようなことが続きますと、当然のことながら痛みとして失業が出てまいります。私どもの試算では、横に①という形で棒を引いてございますが、黒三角で百五十万とお示ししてございます。今後数年間でこういった雇用調整圧力は百五十万人ぐらいに達する危険性があると思います。ただし、これそのものが調整のプロセスでございます。  もう一度左を縦にごらんいただきますと、こういった改革の結果、日本経済の体質の改善ということがあらわれてくれば、それによって成長率が回復してまいります。そうしますと、例えば一%成長が今後数年間可能になれば、それによって、②でございますが、百二十万人余の雇用が生まれてまいります。これでも失われるものよりは少ないわけですが、さらにその先、左側を下にごらんいただいて、成長率をアメリカのように二%、三%に引き上げていくというための政策が奏功すれば、そこでさらに数十万人の雇用は優に生まれてまいります。そうすれば、日本経済は中期的に見てまた労働不足の経済になっていくわけでございます。  ただし、問題は、この百五十万人がきのう、きょうとどんどん失われていくことに対して、雇用を創造する方、創出する方はそう簡単には進まない、その間ラグが生じるということでございます。消費者に無用な心配を与えて、不安を与えて消費を落とさせないためにも、やはり雇用面での重層的な対策が必要であろうということで、ここに幾つかメニューをお示ししてございます。緊急的な雇用対策に加えまして、下の丸でございますが、やはり日本雇用システムを変えていくということも必要でございますし、あるいはこの間、生活水準が落ちる方を支えるために基礎生活コストを引き下げていくとか、あるいは医療、年金の面での不安を解消していく、こういった広い意味でのセーフティーネットの構築ということも求められるのではないかというふうに考えております。  続きまして、構造改革の論点につきましてさらに申し上げたいと思います。九ページをごらんいただきたいと思います。  財政健全化ということで申し上げたいと思います。  この必要性につきまして、あるいは景気か改革かという順序は足元では御議論がございますが、ただし、やはり長期的に見まして、私は日本のプライマリーバランスを改善させていくということが必要なんではないか、かつそれを改善させるためには長期的な取り組みが必要であるということでございます。  お手元の図表の14で私どもの試算をちょっとお載せしてございます。改革をしなければ財政赤字は、例えば国民所得対比で見まして、現状維持ケースでごらんいただきますように、また拡大していく危険性がございます。そういった一方で、例えばこれから十年ぐらいかけて二〇一〇年までに財政を健全化させるということで、例えばプライマリーバランスを均衡させるという観点に立ちますと、これから十年の間にGDP比で見まして五%、六%の水準にある赤字を縮めていかないといけないわけでございます。これは相当の努力だと思います。  例えばGDP比五%としましても二十五兆円あるわけでございまして、これを単純に十年間でカットするとすれば、毎年二・五兆から三兆円の赤字幅を削減していかないといけないという計算になります。これは非常に大きな金額で、かつ継続的な努力が必要だということでございますので、私はやはり財政健全化を途中でやめないという政治の決断というのが非常に重要だと思います。  なおかつ、上の四角の中で一番下の行に、ここにこのケースを想定するに当たりまして試算で前提を置いてございますが、私どもの試算ではこれは名目成長率が二・五%ぐらい維持できればこういう絵をかけるということでございまして、足元で深刻なデフレ下にあるということを考えますと、こういった絵をかく、かいた絵を実現する、これさえも非常に難しいということでございまして、やはりデフレ下で歳出をカットしていくということは、その影響を最小限に押しとどめようとすれば相当の財政の質的な転換、支出を減らしても国民経済影響が出ないというような対策を講じることが必要なんではないかというふうに考えます。  続きまして、次の十ページをごらんいただきたいと思います。  私は、やはり財政改革というのはこれはしょせん結果でございまして、そのこと自体が自己目的ではないと考えます。そういう意味で、プライマリーバランスを均衡させるに当たっては、やはり歳出をカットする中で民間の活力をそれと一緒に引き出していくという考え方がどうしても必要だと思います。したがいまして、ここでは四つのメニューをお示ししてございます。  一つは、やはり規制緩和を推進していって民間の競争原理がさらに貫徹する環境をつくって、高コスト体質の是正を促進していくということ。  二つ目に、公共投資を中心に効率化の圧力が極めて強くなってまいりますので、したがいまして、名目の公共支出を減らしても必要な事業ができるようにということで、PFIの活用ですとか配分の見直し、こういったことを通じて公共投資の生産性を引き上げるということが不可欠だろうと思います。  加えまして、ハにつきまして、社会保障のシステム、これにつきましても、高齢化社会の中でいかに歳出を抑制していくかという観点に立てば、ある程度競争原理の導入、医療・介護システムへの競争原理の導入というのも不可欠だろうと思います。  さらに四番目としまして、足元で税収が落ち込む中でなかなか減税というのは難しいわけでございますけれども、企業活動を活発化させる、あるいは消費を活性化させるという観点に立てば、あえてこの際、必要に応じて減税をする、インセンティブを与えるための税制、税制改革というようなことも必要ではないかというふうに考えております。  以上が財政でございます。  続きまして、六番目としまして、次の十一ページ、不良債権の問題について私も一言申し上げたいと思います。  不良債権の問題につきまして私として強調させていただきたいのは、やはり足元でなかなか不良債権が減少しないということについての問題点でございます。これは、やはり銀行の経営改善努力がおくれをとったということが根因にあるかと思いますけれども、さらに足元で不良債権の増加がとまらないということの背景には、日本経済体質が今悪化してきて、その調整プロセスが始まっているということでございます。したがいまして、産業調整、経済調整のプロセスで不良債権がさらに発生するということが見込まれる点でございます。  そういう意味で、不良債権の問題を解決しなければ日本経済が再生しないというのは事実でございますが、やはり産業企業をどう再生させるかという観点での取り組みが行われませんと、なかなかこのジレンマといいますか、堂々めぐりから抜けられないんではないかという感じがいたします。そういう意味で、これは経済全体につながることでございますが、企業産業の再生ということに取り組むことがこの問題の抜本的な解決に必要ではないかというふうに考えます。  続きまして、最後の十二ページをごらんいただきたいと思います。  今まで構造改革の論点ということで幾つか申し上げましたけれども、最後に、私なりに考えます、構造改革にいわば相対するものといいますか、視点を別にしたものとして少し主張させていただきたいと思います。  小泉さんの改革あるいは構造改革が、官と民との関係で官の改革という形で広く進んでいくわけでございますけれども、私は、経済政策あるいは改革を進めるに当たって、やはり二十一世紀の日本をどうつくるかという観点から、人々の生き方とか暮らし方とか働き方、こういったものを根本から問い直す生活者視点構造改革、こういったものも意識していいんではないかというふうに思います。とりわけ今、地方経済地域経済空洞化しておりますけれども、従来型の成長至上あるいは産業振興という観点ではなかなか今の地方の苦境を救うことはできないんではないか。むしろ、やはり町づくりという観点から、生活者の視点から物を考えながら政策を打っていくということがこれから必要なんではないかというふうに思います。  そういう意味で、幾つかここにメニューをお示ししてございますけれども、基本的には経済政策のあり方を、成長とか産業振興ということに加えまして、町づくりという観点から見直してみる、そして生活者を、いかにしてその人生を楽しみ豊かにしてもらうかという観点から政策をつくりかえていく、あるいは都市空間をつくりかえていく。そういった観点に立てば、従来の公共事業とか福祉、教育等々の政策につきましてもいろいろまだ見直しの余地が大きいんではないか。  そして、こういった政策を進めていく主体は、当然のことながら生活に密着した地方自治体でございます。したがいまして、今の分権のプロセスをさらに進めていく、あるいは生活者に密着した自治の仕組みをつくるというようなことが必要なんではないか。あるいは同時に、行政領域を縮めていく、そして従来行政が担っていた部分をNPO、NGOに移していって官あるいは行政の肩がわりをさせるといったようなことも当然のことながら必要だろうと思います。  こういった町づくりという観点に立って政策を問い直していきますと、世代間の不公平の問題であるとか、あるいは世上言われます教育の荒廃であるとか環境の問題、こういったものにもより取り組みやすくなるんではないかというふうに思います。そういう意味で、今始まりました構造改革、小泉さんの構造改革お上から、上からの改革だとすれば、それの受け皿となるべき国民意識の改革あるいは国民自身の改革、こういった観点もこれから考えていく必要があるんではないかというふうに思っております。  それから最後に、口幅ったいことではございますが、政治あるいは国会ということについて一言だけお話をさせていただきたいと思います。  短期的には景気か改革かというような議論がエコノミストの間では随分行われますし、議論もございます。しかしながら私は、やはり長期的に見ましたときに、日本をどう変えていくかということについての取り組みが今必要な時期だというふうに思います。そういう意味では、短期的なことに振り回されずに、いかに国民に長期的な改革が必要であるかということをぜひとも国会の場でお示しいただきたい。特に参議院につきましては、長期的な観点からさまざまなビジョンを比較しながら、あるべき姿というのを国民にお示ししていただきたいというふうに思います。  私からは以上でございます。
  6. 勝木健司

    会長勝木健司君) ありがとうございました。  以上で参考人意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑は午後四時ごろまでをめどとさせていただきます。質疑を希望される方は、挙手の上、会長の指名を待って質疑を行うようお願いいたします。  なお、時間が限られておりますので、質疑に際しましてはお一人十分以内程度で行っていただけますよう御協力をお願いいたします。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  7. 山東昭子

    ○山東昭子君 植草参考人金融システムの問題点について、私の考え、そしてまた御意見をお伺いしたいと思います。  日本金融システムの最大の欠陥は、ディスクロージャー制度が極めていいかげんではないかと私は思っているんです。米国においては、この制度が厳格に守られるようにSECが厳しく監視の目を光らせておりますし、そして投資家の方も、開示された情報に誤りがあれば損害賠償の請求をしてきますが、日本においてはなかなか、そういうことが問題にされることはほとんどありませんし、もちろん損害賠償の訴訟をすることもありません。  このような制度の実質的な違いから、やはり米国における株式の購入というものは、その企業内容を十分に知った上で資金を提供できるという意味で投資となりますけれども、我が国における株式の購入は、馬券や宝くじを買うのと同じような感覚で、ちょっと当たるか外れるかというような運任せの投機的な行為になっているんではないかなという気がいたしております。  そのために、私自身も閣僚のときに経験がございますけれども、閣僚になった途端に日本の新聞記者たちが、あなたは株をやっていますかというようなことで、株式というものに関してまるでそれが悪であるかのように追及されるというようなこと、そしてまた政治家の中には、胸を張って私は今まで一度たりとも株などに手を染めたことはありませんというようなことを答えている人がいるのは非常に残念なことでございます。そして、過去においても、我が国における大蔵大臣経験者の中にも、余りにも株に対して無知な人が何人か存在したことも事実でございます。  そのためかどうか存じませんけれども、日本金融市場というものが大変、税制の問題その他いろいろな問題を含めて、何か外国から見ましても非常に魅力のないマーケットになっているというようなことがあると思います。  そしてまた、ペイオフの問題なんかもございますけれども、やはり銀行による正しい情報の開示がなければ、預金者から見てどれがいい銀行なのか、怪しいのかというようなことがなかなか判断できにくい部分もございます。  ですから、現在の不完全な銀行の開示を容認している制度のままでは、ペイオフだけを解禁しようというようなことは筋違いじゃないかなと思うのでございますけれども、それに関していかがお考えなのか。いろんな問題を含めて、日本のこうした金融制度システムというものの改革すべきことというようなことをお聞かせ願えればと思います。
  8. 植草一秀

    参考人植草一秀君) 御質問がいろいろな点にわたっておりますので、十分お答えし得るかわかりませんが、幾つかお答えさせていただきたいと思います。  日本の不良債権問題が非常に深刻化しているわけですが、先ほど申し上げた中で一番私なりに重要視しておりましたのは、マクロ経済状況悪化、景気低迷の長期化、地価株価下落、これが日本の不良債権問題を時間の経過とともに深刻化させておりまして、特にここ三、四年の間は、いわゆるバブルと全く無縁の企業がこの問題に巻き込まれております。ですから、バブルの問題とは比較的距離を置いて、比較的健全であった地域金融機関も急速に状況悪化させている、こういう実情があると思います。  したがいまして、金融の問題の根幹にはマクロ状況悪化にいかに歯どめをかけるか、それに連動しまして株価地価下落にいかに歯どめをかけるか、これが最も重要だということを先ほどは強調させていただきました。  ただ、それ以外に、今御指摘ありましたように、特に金融機関の財務状況に関するディスクローズに大きな問題があるというふうに私も認識しております。特に問題は、金融機関の保有しております債権について、その債権がどの程度悪化しているか、不良債権の認定、金融機関に対する資産の査定を行っておりますけれども、この査定が実情を十分に反映していないのではないかという疑念が非常に強く存在しております。それから、金融機関の資産内容の査定に伴いまして、適正な将来発生する損失に対する備え、つまり貸倒引当金の積み立てということが求められているわけですけれども、これが十分に行われていないのではないかと。  その結果としまして、金融機関の経営の安全性をはかる尺度として、いわゆる総資産に対する自己資本の比率、自己資本比率というものが一番重要視された尺度になっておりますけれども、表向き、銀行はすべて自己資本比率の規制を満たしている、資本注入もそういう前提のもとで行われておりますが、市場の専門家の意見を総合しますと、こうした公式見解を信じている人はほぼ一人も存在しないというのが実情だと思います。厳格に資産査定を行い、適正な引き当てを行いますと、ほとんどの銀行が資本過少あるいは債務超過という状態に陥っている。ところが、その部分が適正に査定が行われず、情報開示が行われていない、これが現状だと思います。  現時点におきましてそれを厳格に運用し、その運用結果に基づいて国有化ですとか破綻処理に入りますと、金融機関の破綻整理が大量に発生する。そのこと自体はさまざまな混乱を日本経済に引き起こすというふうに予想されますので、今直ちにそれを行うべきかどうかについては意見が分かれるところだと思います。私は、むしろマクロ経済状況の改善を優先させて、その上で情報の内容、事実関係の把握をし、それに基づいた処理をある程度の時間の中で進めていくべきだというふうに考えております。  そういう視点からいたしますと、先ほど御指摘にありましたように、金融機関の財務状況の実態が国民に知らされぬ中でペイオフだけを解禁するということになりますと、いわゆる利用者の側から見ますと、金融機関の実情がわからないのに突然みずからの預金に損失が発生するという事態も考えられます。自己責任を問うために最も重要な条件は、完全な情報開示が行われる、これが大前提でありますが、残念ながら、現状におきましてはこの情報開示が行われているとは考えられないわけでありますので、そうした状況のもとでペイオフの実施だけがひとり歩きしている現状は、私は適正さを欠いていると思います。  そのときにどうしたらいいのか。今直ちにすべて事実を明らかにするのがいいのか。そうなりますと、見てはいけないものをすべての人が見ることになりますので、それよりは、事態を改善させて、少しふたをあけても異臭が漂わない状況をつくり出してからふたをあける方が賢明、生活の知恵といいますか賢明な対応ではないかなというふうに思います。そういう意味では、ペイオフの論議だけが先行しているということについてはバランサーを欠いているというような印象を私は持っております。  それから、株式について一言だけ触れさせていただきますと、株価は個別に見ますとさまざまな動きをしますけれども、日経平均株価とかTOPIXのような株価の全体水準を見ますと経済活動と完全に連動しておりまして、一般的に理解されていないことも株価は適正に見抜いている。この点の詳細な御説明はとりあえず割愛させていただきますけれども、株価は非常に適正に時日の経過を見抜いているというふうに私は判断しております。  株式市場の低迷は、株価というのは現在から将来、企業が生み出す価値の現在価値と考えますと、株価が低迷しているのは市場の魅力が低下していることではなしに日本経済の魅力が低下している。つまり、経済運営なのか経済活動なのかわかりませんが、日本経済の長期低迷を反映しているのが株価の低迷でありまして、株式市場の活性化のために最も必要な政策は、日本経済そのもの活性化するということではないかというふうに感じております。
  9. 山東昭子

    ○山東昭子君 どうもありがとうございました。
  10. 内藤正光

    ○内藤正光君 民主党・新緑風会の内藤でございます。  きょうは、植草さん、高橋さん、本当にありがとうございます。そこで、私からは両先生に同じ質問なんですが、二問させていただきたいと思います。  まず第一点。私は、今後労働市場がどういうふうに変化していくのかについて大変興味があります。そして、そういった青写真を描いて国としてどう今から手だてを講じておかなければならないのか、これを知るためにぜひお伺いしたいわけなんです、これから労働環境はどう変わっていくのか。  具体的に言いますと、高橋先生もおっしゃったように、日本の賃金水準世界に比べて、アメリカに比べても大変高い、しかしグローバル競争という観点を考えれば当然強力な下げ圧力が働いてくる。つまり一人当たりの賃金水準は今後ますます下がっていくわけです。そうなってくると、日本もやはり夫婦共働きを前提とした働き方になってくるだろうと。そうなった場合に、今の社会保障とかいろいろなさまざまな制度の見直しが迫られるわけでございます。そのほかにもIT化の進展だとか、あるいはまた少子高齢化等々がございまして、こういったものが日本人の働く環境をがっと変えていくんだろうと思います。  どういうふうに変わっていくのか、それに対して国としては今からどういう手だてを講じておかなければならないのか、ぜひ御示唆をいただきたいと思います。  そして二点目。実はこれ、先週同じ質問を省庁の方々にしたんですが、どうも何かしっくりする答えが出なかったのでぜひ両先生にお答えいただきたいんですが、両先生とも、産業構造の転換が必要だということをおっしゃっております。私もそのとおりだと思います。  私も、昨年の九月以降、精力的に世界IT先進国と言われる国々を回ってまいりました。インド、シンガポール、韓国、アメリカ、そして最近ではフィンランドを回ってきました。こういった国々、いずれも言えるのが、九〇年代、早いところで九〇年代初頭、韓国のようなところでは九七年だと思いますが、がくっと経済危機を迎えた、財政危機を迎えたと。しかし、その後比較的短期間で産業構造ががらっと入れかわって、そして景気が見違えるほど回復をしているわけでございます。  例えば、具体的にアメリカはというと、私が行ったのはテキサス州のオースティンとコロラド州のデンバーなんですが、そういったところは今まではエネルギー産業が主力産業だったと思うんですが、それが八〇年代半ばぐらいにどうも何か思わしくなくなった。そこで、そういったところはITに目をつけて、産業構造転換に向けて努力したと。今では、私は第二のシリコンバレーと呼んでもいいんじゃないかと思うんですが、テキサス州オースティンだとかコロラド州デンバーはもうアメリカを代表するIT都市になっているわけでございます。  同じようなことがフィンランドについても言えるわけなんです。八〇年代まではその主力産業は木材、パルプだったかと思いますが、それが九〇年代初頭、バブル経済が崩壊したりだとかソビエトが崩壊したりして、フィンランドというのはどどんと落ち込んだ。ところが、もう今では世界で最も競争力を持つハイテク立国にまでフィンランドは成長したわけなんです。片や、我が国はというと、もう十年来、不況にあえいでいるわけでございます。  そこでお伺いしたいのは、何が違うのか、日本とそういったよみがえった国々とで。日本にできないのか、あるいは何か足りないのか、そういったことをちょっとぜひ御示唆いただきたいと思います。  以上、二点でございます。お願いをいたします。
  11. 植草一秀

    参考人植草一秀君) まず一問目の問題でありますが、今後、日本経済状況が大きく変化していく中で、労働市場にも大きな変化が生じると思います。これは二番目の問題とも密接にかかわってくるかと思いますが、IT革命はかつてのイギリスにおきます産業革命と似た側面を持っていて、ITを導入することによって事務労働を機械が代行する。つまり、コンピューターによって事務労働者が職を奪われると、こういう側面を非常に強く持っております。  一方で、中国中心としましたアジアの生産力、技術力が向上し、安くてよい製品がどんどん日本に入ってくる。これは製造業から波及し始めましたが、非製造業分野におきましても順次価格競争激化している。そうしますと、経済の一物一価ですとか、あるいは要素価格均等化というような原理によって価格が国際標準化されていく。これが必然の流れでありますので、そうしますと、日本の労働者の所得水準が低下せざるを得ない側面を強く持ってくる。  アメリカの例でいいますと、GMで三万五千ドル程度年間所得を得ていたホワイトカラー労働者が、このIT革命の進行で職を失い、新たに職を探すと、スーパーのレジに立つか、あるいはファミリーレストランでウエイターをするか。そうしますと、確かに職を得るわけですけれども、年収が一万五千ドルとか二万ドルになる、こういう例が非常に多く生じたわけです。その中で、一定の生活水準を得るためにはほとんどの家庭が共働きにならざるを得ないと。今、先生が御指摘になられたような状況が生じてきた。恐らく、日本におきましても多くの労働者層におきましてこういう現象が生じていくことになるだろうと思います。  そうしますと、これは日本の今後の労働供給をいかに確保するかということともかかわってまいりますけれども、女性の社会進出をいかに後押しするか、それが家庭における生活水準の維持にも不可欠な要素になってくると思います。そういう点で私が一番重要と思いますのは、女性の社会進出を支えつつ、一方で少子化問題にいかに対応するか。日本の中長期の最大の問題は、私は少子化問題だというふうに考えております。女性が社会進出するのはいいんですけれども、それに伴いまして一段と出生率が低下するということになりますと、やがて日本には人がいなくなってしまう、こういう問題が発生しますので、国を挙げて今取り組むべき課題はこの少子化への対応と。  したがいまして、女性の社会進出を促進しつつ出生率を維持するあるいは向上させるための施策が最重要の施策で、その具体的な事例は例えば保育所の整備と。認可保育所を整備する施策が今とられているわけでありますが、それよりも早いのは、民間の無認可の保育所に対する認可基準を緩和して認可保育所を一遍に大幅に拡大する。  それから、産前産後の休暇につきまして、これは企業負担ということになりますと、企業サイドにおきましてはどうしてもそういう対象者を採用したくないというインセンティブが働いてしまいますので、こうした産前産後の休暇に伴う経済負担を国家が助成すると、こういう仕組みをとりませんと、企業におきましてはそういう問題にかかわる人々を雇用するインセンティブが低下してしまう。これは具体的な方策でいろいろと検討の余地はあるかと思いますけれども、女性の社会進出を促進しつつ出生率を向上させるための本格的な政策対応、これを検討することは非常に重要ではないかと思います。  それから、二点目の問題点でありますが、米国で九〇年代、見事に経済の復活を遂げたプロセスは、まず第一段階におきましては、企業が積極的にリエンジニアリングを進めた。このリエンジニアリングというものについて私の理解でありますけれども、近年、急速に発達しておりますITを全面的に活用すると。そのねらいは何かといいますと、企業生産性の向上であります。  とりわけ、先進国におきまして最も重要な課題価格競争力をいかに確保するかということでありまして、労働コストをいかに引き下げるか。つまり、ITを活用し、いかに人を削減できるか、ここが最大のポイントでありまして、十人でやっていた事務労働をITを全面的に活用することによって例えば二人でできるようにすると。事業プロセスを全面的に見直しITを最大限活用し、生産の効率を大幅に上げる、これがリエンジニアリングのプロセスで、米国はこうした行動が非常に大胆に進んだと、こういうふうに思います。  ただ、これは裏を返しますとホワイトカラー労働者の大量失業というものを意味するわけで、現実米国におきましては九二年ごろにかけて失業率の急上昇というのが生じております。ところが、アメリカはその後、幾つかの条件がありますが、政策景気回復誘導というところに最優先順位を与えた。景気回復を誘導し、九三年ごろから三%ペースの経済成長を実現しました。これがまず一つの条件であります。  同時に、米国におきましては、企業が必要に迫られれば人を減らせる、賃金を下げることができる、こうしたリストラ権を付与されておりますので、企業はかなり自由にリストラを行った。短期的にはこれは失業の増大という問題を生みましたけれども、逆にそのことによって企業競争力向上は短期間で実現したということがあります。  もう一方で重要でありますのは、そうした失業者をどういう産業部門が吸収していったかといいますと、先ほども少し触れましたけれども、一番大きかったのは情報通信部門、ここが大きく雇用を吸収しました。それ以外に、小売、外食、ヘルスケアと、こういう部門拡大していったわけでありますけれども、そういう意味では、新しい企業、新しい産業が生まれることを後押しする仕組み、あるいは新しい企業、新しい産業が生まれるベンチャーマインド、こういうものが存在していたことがアメリカの調整を早めたということが言えるわけであります。  同時に、米国の場合には、九〇年代に急速な発展を遂げましたハイテク部門、情報通信部門の、例えばコンピューターのCPUであるとか、あるいはコンピューターの基本ソフトであるOS、あるいはインターネットの基本システム、そのハイテク産業のコアの部分をアメリカがほぼ制圧してしまった。ハイテク産業部門は非常に大きな産業でありますが、その重要部門アメリカが先行的に制覇してしまったためにここで大きな雇用吸収力を生んだと。これがアメリカにおいては非常によい条件だったというふうに思います。  これを、翻って日本に置きかえてみますと、日本の場合には、日本の労働行政が企業におけるそうしたリストラを非常に強く制限しておりますので、企業部門自身がもう少し効率を上げられる手だてを知りながらそれを実行できないと、こういう問題があります。  一方で、雇用を吸収すべきハイテク部門のよいところを既にアメリカにかなり制覇されておりますので、その部門でどれだけ新しい雇用を吸収し得るかはっきりしない。それからもう一つは、先ほど言いました流通にしろ、あるいは外食にしろヘルスケアにしろ、新しいビジネスを起こす動きというものが米国等に比較しますと依然としてまだ鈍い、こういう条件からこうした構造調整がなかなか進んでいない。  そういうことで、先ほど申しましたように、離職者を支援する体制整備した上で企業に対するリストラをもう少し認めるような制度変更、それから新しい企業、新しい産業を生み出すための側面支援政策、そして戦略的な産業部門に対する政府からの強化措置、こうしたものを全面的に展開していくということが重要ではないかと思います。
  12. 高橋進

    参考人高橋進君) まず、労働市場につきましては、恐縮でございますが、私のお手元の資料の八ページをごらんいただきたいと思います。八ページの図表の13の右側をごらんいただきたいと思います。  私、先ほど数年間で百五十万人ぐらいの雇用が失われる危険性があるということを申し上げました。やはりこの雇用市場の悪化というものが労働市場を大きく変えていく方向にプレッシャーを与えていく、調整圧力を高めていくと思います。具体的には、お話のございました賃金水準の下方修正という形でコストを削減するための動きが出てくると思います。こういった中でこれにどう対処していくかということであれば、お話が出ましたように、共働きであるとか、あるいは女性それから高齢者の社会進出をどんどん促していく、そういった観点からの改革が必要だろうと思います。  右側に楕円形で丸を三つお示ししてございますが、一番下の丸をごらんいただきますと、雇用形態の多様化、それから労働移動の中立型システムということで、従来の年功序列、終身雇用制の雇用慣行というものをもう少し労働市場に対して中立型のシステムに変えていく必要があるだろうということでございまして、そういうことの中で、例えばワークシェアリングであるとかそういったことを考えていくべきことなのではないかというふうに思います。  それからもう一つ、この賃金引き下げ圧力につきましては、私が一つ恐れますのは、賃金が下がることによって消費の水準がさらに下がってしまうと。そうしますと、結局、国民経済そのものが縮小均衡に陥ってしまう危険性があるわけでございまして、これを回避していくためには、一人で働いていた分を二人で働くとかそういったこともございますけれども、同時に高コスト体質の是正ということも必要なのではないか。  再び恐縮でございますが、お手元の五ページをごらんいただきたいと思います。五ページの図表の8をごらんいただきたいと思います。  これは先ほどごらんいただいた図でございますが、消費の中身について見たものでございます。御注目いただきたいのは一番下の生活必需サービスでございます。これは例えば公共料金、公共サービスですとか、あるいは医療とか教育へのこういった支出でございます。ここをもっと下げることができれば、ある意味では私は選択肢的な支出をふやし、消費水準そのものを維持していくということが可能なのではないかと思います。  名目賃金が伸びないということはこれからは不可避なんですが、そういう中で実質生活水準を維持できれば構わないわけですから、そういう意味では、よりまだまだコストの高い部門をさらに下げていくということによって私どもの生活水準を維持することはできるのではないかというふうに思います。  それから、二つ目の御質問の産業構造の転換でございますけれども、私はアメリカの事例なんかも含めまして幾つ日本はやり得ることがあるのではないかというふうに思います。  まず、アメリカとの関連で申し上げますと、先ほどテキサスあたりの事例の御紹介もございましたけれども、私はなぜテキサスであるとかあるいはジョージアですとかこういったところでシリコンバレーに次ぐ成長があったのかというふうに考えますと、こういったところというのはいわゆる地方経済でございまして、従来、中央にいた企業がどんどん生活コストの安さであるとかそういったものを求めて地方に出てきたということと同時に、地方サイドも、例えばテキサスであれば代表的でございますが、産学協同の仕組みを物すごく強化していった。その中に教育ということも当然入りますけれども、こういったものが非常にうまくいったというようなこと。この中には、単純なる高等教育だけではございませんで、いわゆる高校生レベルの教育の水準向上なんかも入っていると思います。こういった産学協同の中でベンチャーを初め新分野が生まれていったということ。  それからもう一つは、やはり政府の中小企業とかベンチャー支援がうまくいったということがあるのではないかと思います。  御承知のとおり、TLO、いわゆる技術移転ですとか、それからSBIR、中小企業への資金供給あるいはプロジェクトの発注、こういった仕組みを使いましてうまくアメリカ発展した地域というのが生まれてきたと。そして、その地域発展アメリカ全体のハイテク化といいますかIT化をサポートしていった、こういう構図になっていたのではないかと。したがいまして、日本にとりましても、こういったところというのは非常にまだまだ施策として学ぶ余地は大きいのではないかというふうに思います。  それから、産業構造転換の二つ目のポイントとしまして、私は経済のソフト化ということがあると思います。  ハード、いわゆる製造業、引き続き日本製造業に立脚していくということは非常に重要でございますけれども、その一方で、例えばでございますが、個人向けサービスというのは随分成長性が高いんではないか。私、先ほど労働市場のところで申し上げましたが、共働きがふえるとか女性や高齢者の社会進出がどんどんふえていくということは、逆に言いますと、介護ですとか、それから大工さんのお仕事だとか左官屋さんのお仕事だとか、こういったいわゆる個人向けにサービスを提供する仕事というのはむしろどんどんふえていくんではないか。  要するに、ありていに申し上げれば、共稼ぎしなくちゃいけないような世帯というのはいろんなことをする時間がないということになってまいりますので、いわば時間を金で解決するということになってくれば、そういう個人向けサービスの業種というものは私はどんどん伸びていくと。このことは、例えば大工さんとか左官屋さんが、ある意味でまた仕事として高度化していくことの一つのきっかけにもなるというふうに思います。  物価がこれだけ下がっていく中で、単に安いということだけではなかなかお客さんはつかないわけで、例えば大工さんがどういった総合的なサービスを提供するかといったようなことが、私たちが仕事を発注する場合の基準になってまいります。そういう意味では、単純作業、単純労働と言われることの中にも高付加価値のネタというのはたくさんあると思います。  それから、もう一つ私は有望だと考えますのは、やはり中国市場でございます。  中国は、御承知のように、潜在的には消費の市場が非常に大きいと言われながらなかなか今まで大きくなっていないと。むしろ中国でできたものが日本に入ってくるということで、そのことばかりが言われておりますけれども、逆に中国はすさまじい勢いで今発展しておりますので、例えば日本ではもう役に立たなくなった技術あるいは捨てられた市場、例えばで申し上げますと、もう日本はDVDのマーケットにどんどん移行してしまっていますけれども、今や中国ではDVDよりはむしろビデオテープ、こういったマーケットが非常に大きくなっているということであれば、日本とまだまだ落差がございます。かつ、そこのところが非常に大きくなっています。  そういう意味では、ローテクの部門あるいは労働集約型のマーケットではもう中国には勝てないとしても、ミドルテクノロジーの分野であるとか、あるいは生活水準が急激に高くなっているがゆえに中国の一部の富裕層を対象にする高付加価値、ハイテクのマーケットなんかは日本は結構まだまだ売れるんではないかと。そういう意味では、十三億余の人口を抱える中国の中というのは非常に発展水準が多様でございますし、かつ生活水準が急激に上がっていますので、まだまだ日本製造業としては開拓する余地は大きいんではないかというふうに思います。  そういう意味では、私は、産業構造転換というのはもうぜひとも必要でございますし、それをしなければ日本はいずれ貿易黒字が消滅してしまうということになると思いますけれども、まだまだ日本は物づくりあるいはそこの部分を超えてソフト化という部門で攻める余地、広げる余地は非常に大きいと思います。  マクロ経済的に見ましたときに、そういった攻める余地が大きいと思われますことの一つの左証が、やはり日本がまだ貯蓄が非常に高いということでございまして、日本はこの貯蓄を、今は非常に流動性の高いものに偏っていますけれども、この貯蓄を投資市場に回すあるいは消費市場に向けるというようなことができればまだまだ国内市場の開拓ももちろんできるということでございます。  こういった産業構造の転換がなぜ日本で進まなかったのかということで考えますと、私はやはり日本の高コスト体質、これが新産業を生むのを阻害してきた、あるいは硬直的なシステム、規制、これは単に官の規制だけではございませんで、民民規制と言われるような競争制限的な慣行であるとかそういったものも入っていると思います。  ところが、この数年間見てみますと、グローバルな圧力の中で、こういった高コスト体質の是正であるとかそれから硬直的なシステムというのも徐々に壊れ始めているという感じがいたします。私、ここを壊して日本製造業が新たな地平線を見出すまでにはまだ数年かかると思いますけれども、しかし、私はその調整プロセスは別に小泉さんの構造改革を待たなくてももう始まっている、市場の力で始まっているというふうに思います。ですから、あとはいかにこの圧力が自然と日本経済の中に浸透していくかということが重要なんだろうと思います。  ただし、その浸透していく過程では、ともすれば景気がすとんと悪くなって縮小均衡に陥る懸念がありますので、そういう意味では構造改革を進めながらも景気が急激に落ち込まないような配慮をしていく、そういう意味での経済政策での下支えというのは常に必要なんではないかというふうに考えております。
  13. 内藤正光

    ○内藤正光君 どうもありがとうございました。
  14. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 御苦労さまでございます。無所属の会の松岡滿壽男です。お二人の参考人に二点お伺いしたいと思うんです。  まず第一点が、国と地方との仕組みの問題です。スリムで効率的な仕組み日本全体をつくりかえていかなきゃいかぬところで、やはり国民の意識を変えるためには制度をいじるしかないと思うんです。ようやく国会でも道州制の導入についての議論が始まりましたし、第二十七次地方制度調査会でもこれもテーマになっておるんです。しかし、今のところ小泉総理も片山総務大臣も、まず地方の合併が先だと。三千二百ある市町村を与党三党合意では千と、それから小沢さんあたりは三百と、こう言っているんですけれども、お二人ともこの問題にちょっと触れておられますけれども、ニュアンスが高橋参考人植草参考人でちょっと違うような感じがするんですが。斎藤精一郎教授のあれを見ますると、道州制を導入することによって十八兆円の節減ができるという試算も過去においてあるんですけれども、この国、地方の仕組みについてもう少し詳しくお二人の参考人から第一点お伺いしたいと思います。  それから第二点が中国との問題です。  これもやはり我が国が生き残りをかけて何とか対応していかなきゃいかぬというところに追い詰められておるんですけれども、先ほど高橋参考人はいわゆる高コスト賃金の問題、これは自然に改革せぬでも下がっていくんだよと、それはもう民間は生き残らなきゃいけませんから自然にそういう形になっていきますね。これはしかし、どんどん、賃上げをあきらめた組合もありますし、実質的にはベースアップがないということは五十五歳以上は減っていくわけですね、賃下げと。これが大体どういう方向に向かっていくのか。  それと、植草参考人の方は国際分業化。確かに、中国日本の得意な分野ですね、自動車用鋼板とかあるいは産業用ロボットとか高級繊維素材とかそういう部分については日本がやって、組み立てについては向こうへ任せるとか、そういう分業というものがやはり必要だろうというふうに思うんです。合理化努力とか高付加価値化、確かに技術立国日本ですから、そういう面では何とか生き残っていけるんだろうと思うんですけれども、この辺につきましてもう少し詳しくお聞かせいただきたいと思うんです。  高橋参考人は、WTOに中国が加盟したことはむしろ日本にとっては恩恵だというふうなことをおっしゃいました。植草参考人はこの問題をどのようにとらえておられますか、それをお伺いいたしたいというふうに思います。よろしくお願いします。
  15. 高橋進

    参考人高橋進君) まず第一の国と地方との関係について申し上げます。  私も基本的に制度改革が必要ではないかというふうに思います。常にこの問題の議論が進まない、あるいは堂々めぐりに陥ってしまうことの原因の一つが、やはり制度そのものが大きく変わっていかないということにあると思いますので、やはり思い切って制度を動かすという方向にシフトさせていくべきだと思います。  それから、それとの関連で申し上げますと、私は制度を変えていくということと同時に、やはり足元で現内閣が打ち出しておりますような市町村合併を通じた改革というのも一緒にやっていくことが非常に効果があるんではないかというふうに思います。私は、押しつけられた市町村合併というよりは、もう少し前向きの市町村合併というものを考えてもよろしいんではないかと思います。どうしても行政コストを減らすという観点から市町村合併を考えがちでございますけれども、ところがその一方で地域経済活性化ということを考えてみますと、私は何かその地域一つのことをやるためにみんなで集まって広域行政体をつくるというような意味での市町村合併というのがむしろ望ましいんではないかと。  具体的には、例えば地域経済というのは今どんどん空洞化が進んでおりますので、これからやはり新しい産業地域の中から生まないといけないわけでございます。そういう意味で、雇用につきましては介護だとか看護だとか医療とか教育、こういったものが地方自治体の仕事になりますので、そういったところの雇用は生まれてくるんだと思いますが、肝心の付加価値の源泉になるような産業がなかなか生まれてこないというのが私は地方の問題だと思います。  したがいまして、それを本当に細かい市町村だけでやっていくということは非常に難しいと思いますので、ある程度行政単位を広域化していって、その中から産学協同の仕組みをつくっていくとか、あるいは生活者の視点に立って何か豊かさとか、そういうものを問い直す一つのきっかけとして行政の広域化を図っていくということが望ましいかと思います。ですから、単にコストということだけではなくて、経済産業活性化という観点からも市町村合併を通じた行政領域の広域化ということが必要なんではないかと思います。ですから、そういう意味では制度を変えることを進めて、制度を変えることによって自治体に対して自立、競争を促すと同時に、自治体の中からも自助努力によって生き残るための改革を生み出してくる、そういう両サイドからのアプローチが必要なんではないかと思います。  それから、二つ目の御質問の中国との関連でございますけれども、私は日本の賃下げの動きというのは当面続くと思います。やはり日本のコスト構造が極めて高いわけですから、これを下げざるを得ないと思います。  ただ、現時点で見ますと、賃金というのは、多分中国日本の賃金を単純比較しますと二十分の一ぐらい中国の方が安いわけでございまして、じゃ日本を二十分の一にしなければ中国と競合できないのかといえば決してそうではございませんで、企業にとりましてはあくまでも賃金というのは生産コストの一部にすぎないわけでございますから、そういう意味では日本産業が生き残っていく一つの手としてコストを引き下げる、もろに競争している部分については労働コストを下げるということが一つの手段でしょうけれども、生産コスト全体を下げるという観点に立てば、まだまだいろんなことをやり得るんではないか。流通を効率化するとか、あるいは技術面で値段の高さをカバーするとか、そういったことをすればどんどん引き下げられていくということではないかと思います。  ただ、いずれにしましても、結論的に申し上げますと、私は当面は賃下げ圧力というのは数年間にわたって続くんではないか、それがいわば高コスト体質是正のプロセスではないかというふうに見ております。  それから、WTOとの関連で申し上げますと、日本中国をそれぞれ一国同士で貿易収支を比べてみますと日本赤字がどんどん膨らんでいるように見えます。ところが、中国に香港を含めまして、要は日本の輸出というのは香港経由でも出ておりますので、香港と中国を一体にして、これと日本との貿易収支を比べますと意外と拡大均衡しております。貿易収支とんとんぐらいでございまして、輸出、輸入ともに膨らんでおります。これはやはり中国市場が開放されていって国内市場がオープンになる、あるいは中国産業の高度化のプロセスで日本のものを必要にするということではないかと思います。  よく言われますのは、家電製品であればあれを全部分解してしまえば中国は似たものがつくれるとよく言われるわけですが、ところが、分解しようもない素材の分野なんかで日本は非常に強いわけですから、中国産業が高度化するということは、日本の高付加価値化が進んでいけば中国向けの輸出もふえるということでございますし、同時に、WTOに入ることの一つの意義というのが中国の消費市場がオープンにされるということでございますので、私は日本産業構造の高度化に努力して、かつコスト引き下げを続けていけば中国との間の拡大均衡というのは可能なんではないか、そういうふうに考えております。
  16. 植草一秀

    参考人植草一秀君) まず、国と地方の関係につきまして四点申し上げたいと思います。  まず第一に、地方行政の効率化あるいは地方行政に係る経費の削減ということでありますが、この余地は非常に大きいと。私は特定の試算とか数値を持ち合わせておりませんけれども、先ほども御指摘にありましたが、三千二百ある地方公共団体を統合することにより大幅な経費削減が可能だと思います。  私は、国会の議員の数が多いとか少ないとかいうことを考える一つの尺度として、地方議会との比較ということを考えますと、私は国会の議員数が多過ぎるということを強く思っておりませんけれども、日本全体で地方議会の議員及び地方の首長を合わせますと、少し前の数字ですが約七万人ということでありますが、我々が本当にその七万人必要としているのかどうか、一から見直す必要があるんではないか。仮に、その三千二百の地方公共団体、もし三百、総選挙の区割り程度になったとしたらどれぐらい必要なのか。  これは、当然それに地方行政に係る公務員数といったことともかかわってまいりますが、よく日本では、公務員は人口当たりそれほど多くない、だからこれ以上もうリストラの余地はないということを言われますけれども、この公的部門でもいわゆるリエンジニアリングといいますか、IT化を進め、事務の効率化を行えば大幅な人員削減は可能だと思います。  そういう意味で、これ国と地方のあり方ということと直接かかわる問題でありませんが、地方行政の効率化を大きく推進すべきだというふうに思います。  それから二番目に、仕組みということで申しますと、日本で地方自治というふうに言われておりますけれども、私は地方自治の余地は非常に小さいと。よく財政当局が説明しますのは、支出が地方から幾ら行われているか、国から幾ら行われているか。つまり、最終的な財政支出の窓口が国か地方かということで言えば、これは七割程度地方が窓口にはなっております。ただ問題は、そういう問題の本質はそこには存在せずに、地方の例えば財政活動で言えば、地方の財政活動の意思決定がどこで行われているか、ここが非常に重要でありますけれども、ほとんどの財政支出はいわゆる縦割りの構造になっておりまして、中央で決めたものの一部負担を地方が行っていると。ですから、意思決定の大半は中央でありますし、公的な建造物一つとりましても、国からの補助金がおりるためのさまざまな規格、条件があるために、どこに行きましても似たような建物しかつくられない。  こうしたいわゆる中央集権の非常に強い仕組みを私は地方分権に変えるべきだと思います。その要諦は何かといいますと、予算決定における意思決定の権限を地方に渡すと。ですから、国から地方に対しては、いわゆるひもつきでない使途自由な資金を、これは財源調整ということになりますけれども、付与し、その支出については大半を地方にゆだねると。ただ、これを現在の都道府県にゆだねるということは私は必ずしも強い合理性を感じておりません。日本を十ぐらいの地域に分割し、それぞれの地域財政活動についての意思決定をそれぞれの地域にゆだねる。  同時に、これは教育のカリキュラムにつきましても、そのカリキュラム編成にかなり地方の意思決定権を持たせて、一つの試験問題に対して模範解答が複数存在するような、言ってみれば若干混沌ということでもありますけれども、試験問題に対する模範解答が複数あるような社会を目指すべきではないか。つまり、今の日本は、一つの試験問題に対し模範解答はただ一つと、ただ一つ価値観のみがよいものとされる風潮が強いわけですけれども、さまざまな価値観を共存させるために、その教育カリキュラムの決定権などについても地方にある程度ゆだねると。予算の編成権と教育についての主たる意思決定権を地方に渡すという意味での分権化を行うべきではないかと思います。  それから三つ目に、制度としまして、日本の制度はすべての行政活動が縦割りになっておりますけれども、米国などにおきましては、連邦政府が担当する仕事、それから州レベルが担当する仕事、それから地域のカウンティーが担当する仕事と、仕事の種類によってこのレベルが分かれている。  つまり、横割りといいますか、機能別というような構造になっておりますので、私は、身近なところで行う行政と、国レベルで管理する、社会保障のシステムなどは国レベルになろうと思いますけれども、その行政事務の内容に照らして段階を分けていくと、こういう横割りの構造に変えるべきではないかというふうに思います。  それから四点目に、もう一点だけ申し上げますと、現在進んでおります地方に対する見直しというのは、主に地方交付税制度などの見直しということになっておりますが、これは小泉政権の改革全体に共通する大きな流れであります。  私の印象として、やはり財務省の影響が非常に強い。財務省のいわゆる財政再建のターゲットになっている御三家が地方と公共事業社会保障と。この御三家の一つとしての地方という見直しが今起きていて、要するに地方交付税をいかに減らせるかという話になってしまっておりますが、そういう視点からの地方の見直しではなしに、真に地方の自治権を確立するための地方の見直しという視点が必要で、私は、財源調整は同じ日本にいながら一定の公共サービスを受ける権利を保障するという点において強い合理性を持っていると思いますので、この安易な見直しといいますか、安易な切り込みということについては慎重な対応が必要ではないかなと思っております。  それからもう一つ中国の問題がありました。一つ触れさせていただきます。  私、それぞれ国の発展段階の相違によりまして、国際分業体制は時間の経過とともに変わると思います。日本はかつて製造業中心発展を遂げてきましたが、製造業が輸出を伸ばし国が発展を遂げてきた。その日本発展を支えたのは日本の、当時でいいますと、相対的に低い賃金とそして一ドル三百六十円という為替レートであった。現在生じておりますのは、逆に中国がかつての日本と同じような立場で産業発展を遂げていて、これはそういう意味ではなかなかとめられない流れで、分業体制変わると思います。  そうしますと、日本においては、外に行くものをとめる手だてはないわけですが、それにかわる重要な産業国内にいかに整備できるか。  これは先ほど申しました二通りの行き方があると思いますけれども、一つは、戦略的な産業部門、先ほど言いました情報通信、知的所有権、バイオテクノロジー、金融環境ビジネスと、こういう戦略部門をいかに強化できるか。非常に大きな課題ですが、残念ながら、この十年間を見ますと、それに米国成功日本が対応できなかったと。これが非常に大きな今の日本課題だと思います。  それからもう一つは、先ほど高橋さんも指摘されておりましたが、我々の身近な生活に関連したサービス業、ここがかなりの雇用を吸収していかざるを得ない分野になろうと思いますが、そういう意味では、小さな、スモールビジネスであるとか新しい産業が生まれるようなことをどう支援するか、ここが非常に重要な取り組みだと思います。  WTOそのものにつきましては、特に知的所有権というのは非常に重要な産業部門になっておりますが、中国のWTO加盟によりまして、国際間におけるこの知的所有権をめぐる紛争に一定のルールがしかれるという意味で、非常に大きな意義を有するのではないかというふうに考えております。
  17. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 ありがとうございました。
  18. 日笠勝之

    ○日笠勝之君 公明党の日笠勝之でございます。  二年ほど前に、労組、連合の幹部の皆さんと、ワークシェアリングについてどうお考えですかと、もちろんワークシェアリングの定義はなかったんですけれども。その際、全く反対でございます、賃金が減るだけですと、こういうことでございましたが、昨日の小泉総理と労組、連合の会長との話し合いでは、今後、政労使でこのワークシェアリングについて検討していこうと。ただ、労組、連合の会長は、経営者と私たちは同床異夢というふうなこともおっしゃっておりましたけれども。  さあこれから、日本版のワークシェアリングということが大きくクローズアップされてくるし、先ほどからの雇用の多角的、多様的な形態ということから見ても、真剣にこれを考えざるを得ない。  兵庫県は県庁職員に残業を少しカットして、その分で、一人当たり三百万円でございましたか、雇用するというワークシェアリングをやっておるようでもございます。そういう意味では、日本型のワークシェアリングというのはどういうものが望ましいのかなということを二人にお伺いしたい。  もう一点、雇用を吸収していくべきものにNPOがあるんだろうと思います。高橋参考人の一番最後のところにも、非営利事業の活動領域を育成し云々ということが出ておりましたが、認定NPO法人ということでこの十月一日から寄附金の税制措置を施行しておるわけでございますが、NPO法人が約六千近く今許可になっております。ところが、認定NPO法人の申請数が、始まってまだ二カ月ですが、たった二件なんですね。税制優遇してもらえるんですが、六千分の二、申請がまだ二でございます。  ということは、何か認定NPO法人になるのに阻害要因があるのかなということを思うわけでございますが、もしこういうことをクリアすれば認定NPOがさらにふえるんじゃないかなと、お考えがあればお聞かせ願いたいと思います。  これはお二人に、それぞれ簡単で結構でございますので、お願いしたいと思います。
  19. 植草一秀

    参考人植草一秀君) まず、ワークシェアリングでありますけれども、二つ申し上げたいと思います。  日本企業現状を踏まえますと、労働コストをいかに削減するか、これが非常に重要な課題であって、しかも現在のようにデフレ経済ということになりますと企業の売り上げが減少する。賃金が名目で固定されております実質的な賃上げが生じている状況で一段と競争条件が悪化する。したがって、この賃金率を下げなければいけないという意味で人を減らすのか、人は一緒にして一人当たりに払う量を減らすのか、幾つかの方策があると思います。  現状では、ワークシェアリングというのは人を一定に保ち賃金を減らすということでありますけれども、問題は、それが賃金率を下げるのか。時間に比例して賃金が減るのであれば賃金率は一定ですけれども、賃金率が一定ということは必ずしも企業にとりまして競争条件の大幅上昇につながらないという側面も考え得ると思います。  もう一つは、全体の雇用者所得が減少することになりますけれども、これは発想として言えばいわゆる縮小均衡、雇用は確保されるけれども全体のパイが縮むということを意味しますので、中期的には、ある産業部門で人が少なくて済むということであれば、その人材が別の産業部門で活動し、別の生産活動に従事する、こうなると、全体のパイは確保されて、ある産業部門雇用が減ると。ですから、私は、中期的にはこちらの姿を目指すべきではないかと。  アメリカの場合には、それを市場を通じて行ったというのは、一たん失業者として労働市場にその人たちが戻り、そこからもう一度新しい産業に吸収されていった。ですから、一たん失業という痛みを伴うわけでありますが、最終的にはそれによりまして効率のとれた従来の産業と新しい産業が生まれると。最終的には私はこちらを目指すべきだと思いますが、過渡期の対応としましては、生活の安定を確保するという面で、これは一つ方策だと思います。  もう一つ方策は、先ほど私が申しましたように、離職者に対する支援体制を大きく整備し、いわば安心して失業できるそういう体制を整える。その上で、失業者が次の仕事を少し時間をかけてじっくり探せるような体制整備する、これも私は一つの行き方だというふうに思います。  そういう点で、日本的な雇用の安定の重視ということからしますと一つの選ぶべき道ではありますが、これによってどこまで企業競争力を回復できるかという問題と、それから中期的に目指すべき新しい産業構造の転換と就業構造の転換にかかる時間はむしろ拡大してしまう懸念はないのか、そのあたりを考えて、逆に一たん労働市場を通じて調整を行うような、いわば荒療治ではありますが、その際に離職者支援制度をしっかり整備して、市場を通じてそういう調整を行うのがいいのか、いろいろと検討すべきではないかと思います。  それからNPOにつきましては、私は、実は直近で出しました本の中でもそれを少し項として説明しているんですが、高齢者の再雇用という問題が非常に大きな課題になってくると思います。現状におきましては、どうしても高齢者の再雇用は三Kの仕事、危険、汚い、きつい、こういう仕事にならざるを得ない。それは高齢者にとりましてもなかなか働きがいの持ちにくい仕事であります。NPOが行うような、例えば環境美化であるとか寺社仏閣の整備とか、あるいは養護とか介護とか、こういう仕事をNPO活動が行うとすれば、そういうNPO活動に国が公的助成を行って、そこに従事する高齢者が働きがいのある仕事をしながらお小遣い程度の所得を得られるような環境整備するということは非常に望ましい姿ではないか。  医療費ですとか介護の費用を削減するために最も重要な施策は、高齢者が年をとっても元気で生きていけるという状況でありますので、そういう意味で、NPOを活用した高齢者の、就業というのが適切な表現かわかりませんが、高齢者の就業機会の創出、これをいわば政党助成金のような形で国がNPOに資金を提供し、お小遣い程度の支払いができるような体制をつくる。雇用対策で出ておりました六カ月とか一年の時限の雇用創出というのは本当に目先だけの政策になってしまいますので、むしろ民間NPOを積極的に活用し、そういう高齢者の優良な就業機会を創出するということを私はぜひ検討していただきたいと思います。  そういう意味では、それが実際に運用されるような仕組みをつくるということによって六千分の二が六千分の六千に向上していくのではないかと思います。
  20. 高橋進

    参考人高橋進君) まず、ワークシェアリングでございますが、私は、ワークシェアリングというふうに大上段に振りかざさなくても、もう既に日本労働市場は実質的なワークシェアリングが始まっているのではないかという気がいたします。  例えば、今の日本企業を見ていますと、正社員をパートに置きかえるという動きが相当活発化しておりますので、これはある意味では、私は、もうワークシェアリングと申し上げてもいいような形になりつつあるのかなというふうに思います。そして正社員のパート化が進めば進むほど、同一労働、同一賃金というようなお話まで出てきておるところでございまして、そういう意味では実質的な意味でのワークシェアリングというのは進み始めているという気がいたします。  例えば、外資系のある航空会社がテロ事件をきっかけにしてワークシェアリングを正式に導入したとか、交渉事だったんでしょうけれども、そういうことをしたとかという話はございますが、私は実質的な意味では進んでいると思います。  ただし、プロパガンダということでこのワークシェアリングをもうちょっと前向きに考えるのであれば、先ほどお話がございましたが、単に一つ仕事を二人で分けるということではなくて、どうも働き過ぎの日本人の残業を減らすとかあるいは夏休みをもっとふやすとか、その部分をほかの人で賄うとか、そういった働き過ぎ社会、苦しい労働社会を変えようということで楽しい社会をつくる一つのことにできないのかなと、そんなことまで考えます。  いずれにしましても、私は実質的な意味でワークシェアリングは進んでいくと思いますので、そのための労働市場改革というのはいろんな意味で進めていくべきではないかと思います。  それから、NPOのお話でございましたが、六千分の二がなぜかということについては私、明確なお答えを持っておりません。税制改革があるとしても、例えば運用が厳しいとか条件が厳しいということでまだちゅうちょされているのかもしれないです。それはちょっと私はわかりません。  ただ私は、基本的にはやはりNPOというのは二つの意味で非常に重要なことではないか。一つは、行政の受け皿に民間がなるということで、行政改革そのもののプロセスとしてとらえられるということ。それからもう一つは、地域社会を生活者に優しい社会に変えていくというときに、NPOというのが極めて大きい潤滑油になる。そういう意味では、行政改革をぎりぎり進めていってもNPOがあればある意味で非常に助かるということでございまして、そういう意味で今の日本改革はいわば公の改革ですね。今まで日本人が余りにも官とか公にお世話になり過ぎた。官助それから公助の色彩が強過ぎたと。これを今どうも日本競争社会にして自助の社会にしていこうと、公助から自助へという流れが物すごく強いんですが、実は私は真ん中に共助という考え方があるんじゃないか、ともに助けるという考え方があるんではないかと。ともに助けるという考え方というのは、すなわち日本地域社会、コミュニティーを再生していくと。その再生していくというプロセスを進めていきますと、その中で教育、それから犯罪の問題、それから産業の問題あるいは雇用の問題、いろんなことが解決できるんではないかと。私、そういう意味ではもっともっと積極的に行政がNPO育成ということでやってもいいんじゃないかと思います。  ただし、私は、行政が取り組む場合に、あくまでも行政がお金を出してその延長でNPOをつくるということについては、また新たな補助金の仕組みをつくるということになりかねないので、その辺は少し慎重にすべきだとは思うんですけれども、やっぱりマーケットの中から自然発生的に出てくるような仕組みを促すということは必要なのではないかというふうに思います。
  21. 日笠勝之

    ○日笠勝之君 ありがとうございました。
  22. 西山登紀子

    西山登紀子君 日本共産党の西山登紀子でございます。  きょうは、お二人の参考人の皆さん、本当に御苦労さまでございます。ありがとうございます。  私は、まず第一に、お二人にちょっと御意見をお伺いしたいのは、本調査会テーマは、「真に豊かな社会構築」ということをテーマにいたしまして、調査会は三年間時間をかけてこのテーマで非常に積極的にやっていこうということで、私たちが選んだテーマが「真に豊かな社会構築」ということでございました。与野党もちろん意見の違いはいろいろあるんですけれども、そのテーマでやってみようというふうに思いましたのは、日本世界第二位の経済大国と言われているんですけれども、なぜか国民の皆さんは実際に豊かさを実感することができない、私たち自身も含めてなんですけれども。そういうふうな思いもあって一致したというふうに私は思っております。物やあるいはお金というのは、日本の場合は世界第二位の経済大国と言われるだけありまして、やっぱりある、あふれていると。しかし、なぜか一寸先は地獄のような、そういう非常に生活の不安があるというふうなことで私たちはそのテーマを選びました。  お聞きしたいのは、実はこの豊かさの問題については八九年に暉峻淑子さんが、きょう私もここに持っているんですが、「豊かさとは何か」という、岩波新書から出しまして、これは非常に反響を呼びました。十年前だったんですけれども、日本の豊かさについて国民の皆さんの中で何らかの大きな懸念が盛り上がってきたときにこの本が出たということも時宜を得ていたんじゃないかと思いますが、かなりヒットした本でございます。今も読まれているわけですが。そこには「豊かさへの道を踏みまちがえた日本」というような項がございまして、ドイツでの御自身の経験も踏まえて、同じ資本主義の国の中でも日本は非常に特殊な道を歩んでいるんじゃないかという問題意識がそこに盛り込まれております。  実は私も、たった一年ですけれども、家族でスイスのチューリッヒに住んだことがございます。そこでは、昼休みは二時間あるだとか、バカンスは一カ月ほどあって、もう町の中から本当に人がいなくなってしまって、郵便局も半日しかやらなくなってしまう。もちろん残業なんかございませんし、休みをとるときにほかの労働者のことを気にせずに、自分はいつからいつまで休むという、こういう決断もできると。私たちが仲間の労働者の方に、休みをいつからいつまでとるんですかと聞きますと、あなたはなぜそんなことを聞くのか、あなたの休暇だろう、自分で決めるべきだというようなことを言って怒られたりするような、そんな時代だったんですが、私も何かが日本は違うなというふうな思いを持って帰ってまいりました。  ですから、人間の生きていく上で、もちろん物あるいはお金、全く必要ではないというわけではありませんが、しかし、それだけを目指して競争社会、効率優先の社会ということでこういうふうに走ってくると、やっぱり何かを置き忘れてきたのではないかというふうな思いがいたします。  そこで、二人の参考人にお伺いしますけれども、なぜ日本国民が豊かさを、豊かな生活を実感することができないのでしょうか。世界第二位の経済大国というふうにいつも冠がついて日本の場合は言われるわけですけれども、しかし豊かさが実感できない。その原因は何というふうに思われるか。  それからもう一つは、これから三年間調査を進めていくんですけれども、真に豊かな日本社会構築していくという私たちの調査について、何か御示唆をいただければありがたいと思います。それがまず最初にお二人の参考人にお伺いしたいことでございます。  それから次に、植草参考人にお伺いしたいわけですけれども、参考人は、不良債権の問題につきましても、まずマクロ経済の改善が優先であると、景気回復の重要性ということを非常に強調されました。それから、六番目の財政構造改革のところでも、まず景気回復が優先だというふうなことも申されまして、九七年の橋本内閣のときの問題点にも触れられました。いただいておりました資料などを読ませていただきましたけれども、私も何か同じ問題意識や共通する内容もあるかなとちょっと思っております。  そこで、植草参考人にお伺いしたいんですけれども、九七年のときに消費税が五%に上がりました。もちろん私たちは反対をしたわけですけれども、上がった。それから、社会保障が二兆円、減税がなくなって二兆円、合わせて九兆円の負担増と、一気に負担がふえました。こんなことをやると不況が起こるのにということで、実は私も代表質問で反対をさせてもらったことがあるんですけれども、植草参考人は、九七年のその九兆円の負担増というものが今の日本経済の破壊的な悪化というか、そういうものにやはり大きな原因があるんじゃないかというふうなお考えをお持ちではないかと思うんですが、その点についてもう少し何か御意見をいただけたらと思います。  それから、今の景気回復、じゃ、景気回復策は何があるかということで、私は消費税の減税、三%せめてまずやろうじゃないかということを訴えているわけですね。まず家計消費を本当に温めないと、これは需要の拡大にならないという点からでございます。  参考人も、日経のインタビューに答えて、景気回復策として住宅ローン減税、時限的な消費税の引き下げもいいんじゃないかというふうなことを述べていらっしゃるんですけれども、まずこの景気回復策、そして消費税の減税の効果、こういったことについての参考人の御意見をお伺いできたらと思います。  それから、先ほどの少子化問題のことがございました。これは両参考人にお伺いしたい。お伺いというか、何か私は要望のようにも今御意見をお伺いしながらちょっと思ったんですけれども、実はこの調査会は過去三年間少子化問題をテーマにしてやってまいりました。私もこのメンバーでずっとその問題を追いかけてきた一人です。少子化の対策を進めるという国会決議がこの六月になされたわけですけれども、非常にこの少子化の問題というのは私も国民的な大きな課題だというふうに思っております。それで、それは単に女性の地位の向上だとか、あるいは保育所をつくって福祉をよくするだとか、そういう問題にとどまらない、やはり大きな経済問題があるというふうに思っています。  といいますのは、女性が出産や育児で将来的に失う機会費用というものをその調査のときに参考人の方から教えていただきましたが、その額は五千万から六千万。女性がいわば損をしちゃうというか、損得でないと言われればあれですけれども、実は女性が出産、育児をすれば、今の日本だとそれだけ損失が起きてしまうと。だから、子供を産まないとかそこまできちっと考えながら、結果的に少子化になっているということではないとは思うんですけれども、しかし、やっぱりきちっと認識するかどうかは別にして、そういうことを考えながら、今ここで仕事をやめると将来年金も低くなるし、大変だわねみたいな考え方もありまして、今、日本の女性というのは、働き続けると同時に、やはり男性と同じようにいい仕事もしたいし、生きがいも持っていきたいし、賃金的にもきちっとしたものを持ちたいという、そういう意欲が非常に高まってきております。  ですから、こういう女性の機会費用についての問題につきましても、私はこれを女性による機会費用ということにとどめておくならば、女性の進出が進んで、少子化というのはこれはもうなくならないだろうと。そこを女性の機会費用とするんじゃなくて、男女があるいは社会の、企業も一緒になった社会の機会費用として分担するというふうになれば、女性も仕事をしながら安心して子供を出産するということを選ぶかなと、将来ですね。  別に、これはもちろん個人の自由ではございますけれども、そういう選択が一つの選択肢として生まれるんじゃないかというふうに思っておりますので、参考人のいらっしゃる調査研究所ですか、そういうところで、もしこういうことについて研究されていらっしゃる成果などがございましたら御披露していただきたいし、もしなければ、ぜひこれからのテーマにも加えていただければ大変ありがたいなと思っております。  以上です。
  23. 勝木健司

    会長勝木健司君) この際、申し上げます。  なお数人の委員から質疑の申し出がございます。時間も限られておりますので、答弁はできるだけ簡潔に、お一人様五分程度にお願い申し上げたいと思います。
  24. 植草一秀

    参考人植草一秀君) まず、真に豊かな社会という、その豊かさの問題ですが、一番、一般的になりますけれども、豊かさを感じにくい原因は住環境だと思います。  この住環境整備、住環境向上というのは非常に大きな課題だと思いますが、これは持ち家の場合と賃貸の場合とあると思いますが、先ほど申しました市街化調整区域の活用というのは、例えば土地つきの一戸建ての住宅の取得の平均価格を大幅に引き下げる政策でありまして、市街化調整区域利用して優良な住宅環境整備というのが一つのやり方だと思います。  それから、住宅金融公庫を利用して家を建てるという人もこれまで多かったわけですが、これがなくなりますと長期固定金利の資金調達ができない、こういう人が大量発生することが予想されますので、安直な見直しというものについては慎重な対応が求められるというふうに思います。  それから、それ以外に、賃貸で暮らしをされる方も多いわけですけれども、その水平的な公平が確保されるように、持ち家の場合と賃貸の場合と、それぞれに住環境向上が図れるような施策を講じるべきだと思います。  それから二つ目は、社会の強さというのをロールズという社会学者が鎖に例えて、鎖の輪の一番弱い部分がいかにしっかりしているかというのが社会の強さを図る尺度だと、そういう表現がありましたが、改革というのは、ともしますと、痛みのない人の痛みのない人による痛みのない人のための改革になってしまう面がありますので、本当意味での弱者に対する配慮、これをしっかり講じていくということが重要だと思います。  日本の場合には、比較的敗者に対しては優しいわけですけれども、少数派、弱者に対する配慮が不足している、バリアフリーとか、さまざまな障害を持つ方に対する配慮という面で。ここが日本社会の弱さというふうに私は感じております。そこの部分に対する対策というのが非常に重要ではないかと思います。  それから、二番目の御質問で、九七年度の政策でありますけれども、九六年に日本経済バブル崩壊の後遺症を払拭して中期的な安定成長軌道に戻っております。暦年の成長率三・五%、消費も投資も拡大し、安定した景気拡大に移行しました。この景気拡大を維持していれば、今ごろはもうすっかり世の中明るくなっていたと思いますけれども、残念ながら近視眼的な緊縮財政、これも財政を再建しようとする将来の目標は私は正しかったと思いますが、手順としては近視眼的な、言ってみれば財政再建原理主義のようなものによりまして政策を進めてしまったために多くの被害者が出たともいうふうに私は思っておりますけれども、消費税で五兆円、所得税で二兆円、医療制度の改革で二兆円、さらに公共投資を四兆円減らしておりますので、十三兆円の負荷をかけた。これによりまして、せっかく実現した景気回復をすべて壊してしまった。  よく失われた十年と言いますけれども、本当意味で失ったのは五年であります。九〇年代前半の不況はバブル崩壊不況ですが、九七年以降の不況は政策不況でありまして、この政策の教訓に立てば、やはり近視眼的な財政再建を進めるよりはまず景気の安定軌道の確保ということが優先されるべき、そういう教訓を橋本元首相が示されたわけでありますが、残念ながらそれが今は生かされていないというのが現状だと思います。  そういう意味では、今景気を回復させる施策が重要だと思いますけれども、方法としては、公共投資が悪だという言われ方がありますが、私はこれも論理の飛躍で、下水道さえ整備されていない実情を踏まえれば、必要な社会資本はたくさんあると思います。公共事業の資金配分の見直しが重要だと思います。  それから、減税につきましては、私、先ほど高橋さんも触れられましたけれども、支出を促進する政策減税、設備投資の減税であるとか住宅投資を促進する減税、消費を促進する減税としまして、サラリーマンに経費を認める余地を拡大するとか、消費税の時限的な引き下げ、これは有効性を持っていると思います。こういう支出を促進する政策減税を検討すべきと思います。  それから三番目に、先ほど申しましたけれども、離職者に対する保障を拡充する。これから理不尽な時代に入ることに備えて、そういう離職者支援体制をとる。  それから四番目に、先ほど申しましたけれども、NPOを活用して高齢者に優良な生活の場、働く場を与える。そのためには財政資金をNPOに投入するということも私は検討に値すると思います。  それから五点目に、これも先ほど触れましたけれども、土地税制の抜本的な見直し取得保有譲渡に係る課税見直しが必要だと思います。  それから、少子化につきましては、これは先ほど私の御説明でも同じことを申し上げたわけですけれども、子供を産んで育てるということは、女性の問題ではなく、やはり国、国家ということですと、まあ共産党さんの表現にはよくないかもしれませんが、国全体にかかわる非常に大きな問題だと思います。  子供を産み育てるということは社会全体が重視すべき問題でありますが、一方で、女性が社内にいて、突然休みをとる。子育てのために休みをとりますと、企業としては、インセンティブとしては、そういう人に働いてもらいたくないというインセンティブが働いてしまいますので、その機会費用といいますか、企業負担する費用を社会か国が肩がわりする。つまり、公的助成によりまして子育てや子供を産むということを支援する制度的な対応が必要と。これは、単に女性のためということではなしに、日本のためということで、そのための政策を早急に打たないと手おくれになるんじゃないかなと思います。
  25. 高橋進

    参考人高橋進君) 私は、真に豊かさを実感できない理由は三点あるのではないかと思います。  まず第一点は、日本のこれまでの成長志向の政策がやはりバブル崩壊をもって一つ終わったということではないかと思います。やはり経済合理性だけを追求していく、場合によっては高コスト体質さえも辞さずにやってきた。しかしながら、私どもは、バブルがあれだけ激しくなっていったときに、非常にもう既に高コスト社会に生きていたわけでございまして、あのときに年間の賃金の何倍という金を払わなければ住宅が持てないということだけではなくて、一般物価水準も非常に高かったわけでございまして、私、そういう意味ではバブルの崩壊というのは、やはり従来型の成長政策が一たん限界に来た、必然的に起こったことではないかと思います。  そして、その後の日本経済の長期低迷というのは、やはり従来型の成長至上の政策をどう変えていくのか。コストのことをもっと考える、あるいは本当の豊かさをもっと考えるということを今迫っている。そこがなかなか日本が変わりませんので長期低迷しているということではないかと思います。そういう意味で、私は、失われた十年どころか失われた二十年、日本経済は今、産みの苦しみをしている時期ではないかと思います。  ただ、私の冒頭の御説明の中でも申し上げましたけれども、そういう中で、産業界、企業はようやくその産みの苦しみの中で少しずつ再生の兆しというものが出てきておりますので、私は、とりあえず従来型の成長に限界が出たこと、このことが一つその実感できない理由だとは思いますけれども、再生に向けた苦しみが続いている間はなかなかその豊かさは実感できない、もう少したたないと新しいステージに移りませんので、そうするとまた変わってくるのではないかと思います。  それから、二つ目の理由が、やはりバブルの崩壊及び日本経済の少子高齢化あるいはグローバリゼーションという中で、従来型の日本のシステム、制度がいろいろ不安定になってきている。典型的な例は、やはり高齢化社会の中での社会保障システムだと思いますが、これが将来非常に私どもにとって見えないということが一つ豊かさが実感できない理由ではないかと思います。  個人個人で見ますと、千四百兆の金融資産に象徴されますように、現時点での蓄積は持っているわけですけれども、これが二十年、三十年先に本当に私の生活を支えてくれるのか、あるいはどれだけ官は私を支えてくれるのかというところが非常に今不安が強くなっている。このことが豊かさが実感できない二つ目の理由ではないかと思います。  それから、三つ目の理由でございますが、私は、ある程度生活者の水準がこれから落ちていく、あるいは貧しいとは申しませんが、今がピークだとしても、生活者がやっぱり自己決定している、あるいは自分の自己実現していけるという感覚があれば、また豊かさというものが改めて生まれてくるのではないかと思います。  そういう意味で、私のペーパーの一番最後のところで生活者起点ということに経済政策根本を変えるべきであるということを申し上げましたけれども、やはり少々生活水準が下がったとしてもコミュニティーの中で生きがいを見出せるのであれば、私は、真の豊かさというのを人々はそういうところから感じるのではないかと思います。  もっと具体的に申し上げれば、例えば会社員がリストラに遭ったとしても、その結果として収入が減ったとしても、コミュニティーの中で新しい自分の生き場所を見つけられれば、結局はその真の豊かさとかそういうものというのはかえって高まるという可能性も十分あるわけでございまして、そういう意味では政策の目標そのものも変えていく必要があるのではないかと思います。  それから、二つ目の御質問の少子化の問題でございますけれども、私、御指摘のとおりでございまして、やはり経済問題として考えたときに、まだまだこの問題についての取り組みの余地は大きいと思います。  一つは、御指摘のございました女性の機会費用の問題でございまして、結局、このことが非常に高いので女性がなかなか労働市場から退出したがらない、それから逆にもとに戻れないということになっておりますので、やはり自由に社会に必要なときに出て、あるいは出産のときには戻る、育児のときには家庭に戻るというような柔軟な仕組みをつくっていく必要があるんだろうと思います。  ちなみに、私どもの研究所で申し上げますと、私どもの研究所はいわゆる調査活動が中心でございますので、女性につきましては、その人自身の調査活動が個人的な調査活動でございますので、少々ブランクがあっても実際には不利にならない仕組みになっております。  したがいまして、共働きどころか一番多い人では四人子持ちがいらっしゃって、この方はまだ三十代途上ですけれども、うちで十分ハッピーに仕事をしていただいています。それ以外にも、私ども調査部の四十名の研究員の中で五、六組、もう既に複数の子供をもうけていらっしゃる、お母さんとして働いている方がいらっしゃいます。  そういう意味では、研究所というのは割かし機会費用は高いのかもしれませんが、子育てと仕事が両立しやすい、そういう職場なんだろうと思いますけれども、十分工夫次第ではできるのではないかと思います。  それからもう一つ、私、経済問題として、やはり少子化の無視できない問題の一つに教育コストの高さあるいは子育てコストの高さということがあるのではないかと思います。一人の子供をこれから大学を出すまでに一体幾らお金がかかるんだろうかということを考えますと、どうしても二人、三人と持つことについてちゅうちょしてしまうと。どんどん生活水準が上がり豊かになればなるほど、高等教育あるいは非常に人間として付加価値を高めないといけない、そのコストが非常に高いもので何人も持つことにちゅうちょしてしまうということもあるのではないかと思います。  そういう意味では、子育て・教育コストを下げるということも少子高齢化対策として経済的には非常に有効なのではないかと思います。  以上でございます。
  26. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 自由党の森ゆうこでございます。きょうはありがとうございます。  現状の認識は、お二人の参考人とも要するに改革をしなければならないというところでは一致していらっしゃると。特に、植草参考人指摘していらっしゃるのは順番が違うということで、私もどちらかというとそちらの意見に賛成でして、まず順番が違うということなんですが、先ほど景気回復がまず最初にというお話がありましたが、その中で具体的な項目を言われましたが、私はそれに加えて、まず最初に、民間の市場が新しい雇用を受け入れられるように規制撤廃の方を最優先にすべきだというふうに考えているんですが、その件に関して御意見を伺いたいということと、あと、高橋参考人が言っていらした経常黒字消滅というタイムリミットまで時間的余裕がないから急がなければいけないということに対して、御意見に対しての感想がございましたらお願いいたします。  そして、高橋参考人には、橋本政権以上の失政になり得るという批判が今あるわけですけれども、それに対する反論をお願いいたします。  そして、時間がありましたら、今まるでもうそれが目的のようになってしまった国債の三十兆円枠ということに関して、一言ずつお二人の参考人にお願いいたします。
  27. 植草一秀

    参考人植草一秀君) まず、私は、改革というのを先ほど戦後日本体制の刷新ということで申しましたが、言ってみれば、改革というのは今までの仕組みを変える、やり方を変える、制度を変えると。別の言い方をしますと、ミクロの政策であります。制度をどうするか、仕組みをどうするか、あるいは考え方をどう変えるか。これは直ちにどんどん進めていいと思います。  ただ、今進んでいる改革と呼ばれている政策は、そのような仕組みの変更について話し合いはしていますが、具体的には余り動いていないという理解です。具体的に進行しているのはマクロの政策としての緊縮政策ですから、国民の医療費の負担を三割にするとか、地方に対する支出を切るとか、公共事業を減らすとか、あるいは家を建てる人に対する利子補給を切るとか、こういう緊縮は確実に動いておりまして、これは私の理解では、改革と緊縮は似て非なるもので、改革ではない。改革をうまく進めていくためには、マクロの政策で安定を促進して、ミクロの改革を進めるべきだと思います。  ところが、現在の政策は、マクロの政策で不安定を促進しておりますので、ミクロの改革は立ち往生と。言ってみれば、手術をするときに、非常に血圧も下がって栄養も不足している患者、ただがんを持っている、このがんを切らなければいけないときに、普通は輸血と点滴をして栄養を高め、血圧を上げて、少し体力が出た時点でがんを切り取ると。これがよい手術ですけれども、この患者に断食を勧めて、血を抜き取って切り込むということになりますと、これは手術でなく殺人になってしまいますので、どうも今進んでいるのは殺人に近いようなことになってしまっているんではないか。  そういう意味で、私は、ミクロの仕組みを変えるということはどんどん進めていくべきだと思いますけれども、それをうまくやるにはマクロで安定を確保すると。日本経済には生産の能力がありますので、今存在する日本生産能力をうまく生かして、二%なり三%の成長を実現するというのは直ちに可能な状況にあります。これは九六年も成功していますし、昨年も半分成功しかかりましたが、ここで血を抜き取るとか、あるいは断食を勧めたためにまた体力低下に陥ってしまっていますが、これはやはり修正すべきと思います。  それから、経常収支は今のところGDP比約二・五%で、黒字の減少が今とまり始めていると思います。黒字が今減ってきた理由は米国経済の変調で輸出などが大きく落ちた、これによって黒字は減ってまいりましたけれども、ここに来まして内需も著しく停滞し始めておりますので、輸入も落ち始めているために黒字の減少は今とまりつつあると。ですから、いずれ将来、年齢構成によりまして日本の経常収支が赤字に転換するということはあると思いますけれども、まだ時間的余裕は相当大きいと、こういうふうに思います。  それから、三十兆の枠でありますけれども、私は、中期的に財政再建は非常に重要だと思いますが、ことし、来年三十兆というのは余り意味がないと。  三十兆赤字を出しているから緊縮じゃないというのは経済学的にはナンセンスでありまして、前の年の赤字が十兆で次の年三十兆になれば、これは超積極財政になりますけれども、前の年の赤字が五十兆あって次の年の赤字が三十兆になれば、これは超緊縮財政なんです。ですから、政策が緊縮であるか拡張であるかというのはあくまで前年比で見ていくものでありますので、赤字が三十兆だから緊縮でないという言い方自体は経済学的には理解不能なことであります。  現実に、政策の動きを見ますと、今年度の第二次補正予算で追加が行われますが、これNTTの売却益などを充てるということで見かけ上三十兆の公約を確保するという言われ方をしておりますけれども、これはバランスシートというのを知っている人はだれしもわかりますが、借金をふやすことと資産を売ることはネットの債務の増加において全く同じ意味ですので、そういう言葉遊びのようなものは私はやめた方がいいのではないかと。もし国債をふやさないということで財政再建だとすれば、例えば来年度当初予算で政府資産を三十兆売れば国債の発行ゼロになるんですね。それをもって本当財政再建と理解する人は一人もおりませんので、実質上三十兆という公約は崩壊したと思いますし、また二〇〇三年度以降はこれにとらわれないということは、実質上この公約は消失したと、こういうふうに私は理解しております。
  28. 高橋進

    参考人高橋進君) 順番が違うという議論は、実はこれは民間も官もそうだと思いますが、エコノミストの間では非常に大きな二つの意見の違いとなってあらわれておりまして、特に足元のような景気の悪化していく状況になりますと、このことについては、どっちが正しいのかということについて私が正しいというふうに申し上げられるほど自信を持って言えるわけではなくて、やはり非常に難しい問題だとは思います。  ただ、あくまでも私の見解ということで申し上げれば、確かに景気が悪い中で物事を荒療治をすればそれが縮小均衡を招いてしまう危険性は多分にございます。そこは気をつけないといけない。  ただし、ではなぜもともと景気が悪いのか、あるいは橋本さんや小泉さんが改革を言い出さざるを得なかったのかということを考えますと、この二十年余りの間に日本経済の体質が悪化してしまった、そこに手をつけないで需要だけをつける、景気対策だけをやった、やり続けてきたとしても、結局経済体質の悪化はとまっておりませんので景気対策が一段落すればまた景気が落ち込んでしまう、あるいはたまたまアメリカ向け輸出が伸びたから事なきを得たけれども、それが落ちればまた悪くなってしまうということで、私は、景気をよくすればそれで日本経済の体質が一緒によくなっていって解決できるということではないんではないかと。やはり構造改革を進めていくことで体質を強化していくということが不可欠なところまで来てしまっている、そこまで日本経済は傷んでしまっているというふうに思います。ですから、構造改革の努力というのを継続的に、景気がよかろうが悪かろうが進めていかなくてはいけないということだと思います。  ただし、足元の循環的に景気が非常に悪くなっておりますときに需要のことを無視してどんどん改革を推し進めれば、本当にデフレスパイラルということで縮小均衡になってしまうおそれがあります。したがいまして、私は、体質強化を優先しつつも、やはり景気あるいは需要の落ち込みに対しては目配りをしていくということが必要なんではないかと思います。  したがいまして、例えば三十兆ということで申し上げますと、まず最初にやるべきことは、これから十年かけて財政健全化をどう進めていくかということについてきちっと一貫性のある政策を打ち出すと。ただし、足元で景気が落ち込んでいくようなときには、その一貫性を一時的にとめてでも柔軟性を出させる、発揮するという形で対処していく、一貫性と柔軟性の組み合わせが大事なんではないかと思います。  したがいまして、特に足元で景気が悪いという中では、やはり財政構造の質的な転換ということを手を抜かないでどんどんやっていく、しかし三十兆ということについては、結果としてそれがオーバーしたからといって、それに対して政治的にも経済的にも目くじら立てる必要はないんではないかと。そういう意味では、構造改革を優先しつつも、三十兆のことについてこだわるのは経済合理性は私はないと思います。そういう意味では、早く財政健全化の仕組みを大きな絵をかいた上で、足元について必要に応じて柔軟な政策をとっていくということではないかと思います。  それから、これもよく人間の体に例えるわけですが、確かに、病気あるいは弱っている人を百メーター競走させれば死んでしまうということでございますけれども、ただし、そもそもなぜ人間が肥満体になってしまったのか、体質悪化してしまったのかという根っこのところに手をつけない限り、私は、幾ら対症療法してみたところで、結局は緩慢な死を迎えてしまうんではないかと。そういう意味では、ある程度景気の悪化を、悪化を覚悟しつつというのは少し語弊があるかもしれませんが、低成長を覚悟した上でもやはり改革に取り組まざるを得ないところまで私は追い込まれてしまっていると思います。  そういう意味で、橋本さんの過去の政策について糾弾することは余りよくないのかもしれませんが、やはり余り性急に財政のしり合わせに走ってしまうと急激な縮小均衡圧力がかかりますので、必要な改革を進めつつも財政のしりについてはある程度柔軟にやっていくと。そういう意味では、むしろ小泉さんは橋本さんの失敗から学ぶべきなんではないかというふうに思いますけれども。
  29. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 ありがとうございました。
  30. 松あきら

    ○松あきら君 植草先生、高橋先生、本日は本当にありがとうございます。公明党の松あきらでございます。先ほどからお二人の先生の示唆に富んだお話、それぞれのお話をまさにうなずきながら聞かせていただいておりました。  今の日本経済の衰退あるいは政治の混迷、社会の混乱、国民の廃退など、こういう言葉ではあらわしたくございませんけれども、まさにそのどれもが合っているということでございます。  私は、先ほどから伺っておりまして、何よりも最大の失敗は、今、小泉内閣の話も出ましたけれども、やはり橋本内閣の九六年の日本経済がやっと軌道に乗ったばかりのところであのような緊縮財政をしてしまった、合計で十三兆円のデフレプレッシャーがかかってしまったということで、これは否定できない事実だというふうに思うわけでございます。  今回も改革改革は大事でございますけれども、そこで手術している病人が死んでしまっては何ともいかんともしがたいというまさに思いでございます。私自身も、住宅金融公庫の廃止あるいは医療費の本人負担増、また女性の社会進出を大義名分に配偶者控除も言われておりますけれども、実は私は、二十一世紀というのは性差から個人差の時代になる、まさに男女両方ともが社会を支えていかなければならない時代であると思っておりますので、この配偶者控除の廃止というのは実は反対じゃないんです。反対じゃないですけれども、それにかわる手当てもきちんとしていかなければいけないと、こういうふうに思っているわけでございます。  私は、もう何人か質問者いらっしゃると思うので、ちょっと伺いたいと思ったことはいろんな先生が伺ったので、一つだけにいたします。  私自身、やはり今のこの大変な日本状況を変えていかなければならない。製造業というものがもう日本では立ち行かなくなってしまった。そこで、一点だけにいたしますけれども、非製造業ということを考えますと、先ほどまさに、真に豊かな日本の暮らし、こういったようなお話が出ましたけれども、文化というのがある意味では景気回復に非常に役立つのではないかというふうに思っている一人でございます。このたび、文化芸術振興基本法が衆議院を通過しまして、参議院でもうじき通過をすると思いますけれども、やはり私は、これからはさらに物より心の時代になっていかなければいけないと、こういうふうに思っております。  フランスでは、御存じのように、文化に日本の九倍の国家予算が入れられているわけで、アメリカでは寄附金の優遇策があるために文化事業の個人の寄附金は一兆円を超すほどでございます。今アメリカは、九月十一日の同時多発テロでああいった大変な状況にございます。しかし、一九三〇年代の大恐慌のときにルーズベルト大統領は、ニューディール政策によっていわゆる五千人を超す美術家を政府が直接雇う、あるいは数万人の芸術家に職を与えた、こういう例があるわけですね。やはりニューディール政策といいますと、どうしてもダムをつくったり、あるいはテネシー渓谷開発公社とか土木事業中心というイメージがあるんですけれども、しかしもう一方、実は文化芸術というのに非常に力を入れたと。連邦美術プロジェクト、あるいは連邦音楽、連邦劇場、連邦作家、歴史記録調査、五つのプロジェクトを設けたわけでございます。まさに五千三百人の美術家を政府が直接雇用した、あるいは二千五百カ所の公共建築物を使用した壁面制作、また一万八千の彫刻をつくる等々となっておるわけでございます。また、教育という面では十三万二千人の老若男女が毎週音楽教育を受けるとか、こういう徹底した文化芸術政策を遂行したわけでございます。  そして、そのことが実は、不景気で沈んでいたアメリカ国民の心に明るさを取り戻して、やるぞという気持ちを起こさせたという、こういうことがあるわけですね。  今、第二次世界大戦後の芸術の中心がパリからニューヨーク、ブロードウエーに来たということもございます。また、ハリウッドでは映画産業が非常に繁栄したということもあります。  やはり、心豊かに暮らすという点から見ても、また新たな産業という観点から見てもこういった文化という政策に対して、両先生の御見解を伺いたいと思います。
  31. 植草一秀

    参考人植草一秀君) 例えば、個人消費のあり方も時間の経過とともにどんどん変わってまいります。人々が求めるものもハードウエアからソフトウエアに変わる。それから、欲求するもののレベルも変わってくると思います。  そういう点で、先ほども今後拡大する産業として衣食住にかかわるサービス産業ということを申しましたけれども、小売であり外食でありと、いろいろ申しましたが、その一つの重要な部分がやはり生活文化という産業だと思います。  生活文化というのもいろいろあると思いますけれども、旅行であるとか教養を高めるとか、各種の文化活動、これが恐らく今後拡大していく部門、それから一方で大きな問題になりますが、地球環境という問題がありますので、環境に対する負荷をいかに低くし、かつ生産を高めるかという点でいいますと、やはりこういう無形の産業活動というものの重要性が非常に高い。  そういう点では、例えば社会資本の整備のあり方につきましても、アメリカでは国立公園が非常に高い水準整備されていて、また無料で使えるようなキャンプグラウンドもたくさん整備されている。高速道路もフリーウエーと呼ばれるように全部無料なんですが、どうも日本社会資本整備を見ますと、かなり社会資本の私物化といいますか、役所の建物だけきれいになるとか、道路はつくっても全部有料であるとか、こういうところを変えていく必要があると思います。  そういう点では、私も文化を創出するということについて、特に例えば不況対策の資金の使途として、これは国民に対する一種の実物給付、キャンプグラウンドが整備されるのも文化的な環境を整えるのも、それによって人々がその利益を享受できればそれが現物給付という効果を持ってまいりますので、私は先生の今の御意見には賛成するものであります。
  32. 高橋進

    参考人高橋進君) 文化ということの前に一つだけ、橋本内閣のときのお話について少し付言させていただきたいと思います。  景気が軌道に乗りかけたところで橋本さんがだめにしたということがございますけれども、私は、じゃ橋本さんが内閣につく前に日本経済が回復軌道に乗っていたのかということについては極めて悲観的でございます。そもそも橋本さんのときに悪くなったのは金融システムの問題が火を噴いたからでございまして、そういう意味では私は、日本経済は橋本さんのときにもう既に体質悪化のプロセスにあって、一時的に景気がよくなったにすぎなかったのではないかと思っております。  そういう意味で、やはり構造改革必要性というのは、どうもこの調査会で私は余り旗色がよくないようでございますけれども、構造改革は必要だと思います。  それから、非製造業でございますが、こちらにつきましてはもうおっしゃるとおりではないかと思います。  日本はこれから何で生きていくかということを考えましたときに、もちろん日本のベースにございます物づくりということを引き続き考えていくということは必要でございますけれども、同時にやはり非製造業が余りにも弱過ぎるということが問題だと思います。  例えば、先進国の中で観光収支がマイナスの国というのは私は日本だけだと思います。アメリカもフランスも物すごく努力をして観光立国になっているわけでございまして、あのフランスでさえすさまじいお金をつぎ込んで海外から旅行者を呼び込んでいるというのが現実だと思います。  そういうことで日本を見てみますと、もう御承知のとおり、日本人の海外旅行熱はすさまじいわけでございまして、それは日本の生活水準がそれだけ高くなったということで海外に行くということもあると思うんですが、ただその一方で、なぜ日本にこれだけ入ってくる人が少ないのかということを考えますと、やはり日本が非常に魅力のない国だということではないかと思います。  そういう意味で、特に今、アジアが非常に発展のプロセスにございますので、日本とのアナロジーで申し上げれば、これから数年の間にアジアの人たちが日本に入ってくる数というのが十倍ぐらいに膨らんでも全く不思議ではないと思うんですね。日本はオリンピックのときに一挙に海外に行かれる方がふえましたので、そういう意味では私はアジアの観光客を中心日本に取り込む潜在的なマーケットはあるんではないかと思います。  それから、日本人が今回のテロのことをきっかけにして国内回帰をしているということも、そういう意味では一つチャンスなんではないかと思います。例えば、日本観光地へ行きますと、山の中でありながら一律にお刺身が出てくるとか、こういうことではなくて、やはりその各地域の文化であるとか、それからその魅力、これの組み合わせ、単なる観光業ということではなくて文化まで含めた魅力ある町づくりだとか、あるいはその組み合わせ、こういったものでいかに日本人を引きつけ、かつアジアの人たちを呼んでくるか、こういった政策が私は非製造業として必要なんではないかと思います。  観光というには余りにも狭過ぎますので何か別のネーミングが必要だと思うんですけれども、文化、観光まで含めた何かそういうカルチャーを象徴するような言葉でもってキャンペーンをやるぐらいのことが必要なんではないかというふうに考えております。
  33. 松あきら

    ○松あきら君 ありがとうございました。
  34. 辻泰弘

    ○辻泰弘君 時間もございませんので簡単にお聞きしたいと思います。  マクロ経済政策についてですけれども、植草参考人、いろいろとお話をいただきましたが、要は公共投資、公共事業関係費、それについては予算ベースでマイナスとすべきではない、伸ばすべきだと、その点についてどうお考えかということをお聞きしたい。  それから高橋さんには、景気悪化を防ぐための経済政策の下支えということで柔軟性を持つべしというような御指摘があったと思いますが、それは具体的には何をすることになるか、そのことについてお聞きしたいと思います。
  35. 植草一秀

    参考人植草一秀君) 私は、昨年の年末からことしの年初にかけまして、これは自民党の機関でありましたが、二十一世紀の公共事業を考える有識者会議に出席させていただいて、公共事業のあり方もいろいろ勉強させていただきました。  日本の公共投資をGDP統計で見ますと、一九九六年をピークにしまして着実に今減少しております。九七年以降減少して、ことしの落ち込みが恐らく一番大きくなると思いますけれども、唯一小渕政権下で九九年に四・九%、金額にしまして二兆円程度ふえただけで、あとは九七年以降公共投資は着実に減少の一途をたどっております。ところが、現実に世の中では小渕政権も森政権も公共事業をばんばんふやして景気対策をやったような風説が流布されておりますけれども、まずそういう事実関係を確認するということも重要だと思います。  私は、一概に公共投資をふやすべきかどうかについては明確なものを持っておりませんが、ただ短期的な景気状況を考えますと、この景気の状況を無視して単に減らせばよいという発想は危険だと思います。  一番重要なことは、先ほども申しましたけれどもむだな公共事業、最近ではダムとか干拓とか可動堰がその代表に挙げられておりますけれども、こうしたものは積極的に見直していくべきだと思いますが、一方で、先ほど申しましたが、例えば下水道さえ整備されていない、産業廃棄物の処理もできない、バリアフリーもない、それから都市の渋滞解消のための環状道路の整備もおくれていますし、地方にとりましてやはり非常に重要な基幹道路、新幹線につきましても地方によって非常に重要性を持っているものもあると思います。  あるいは、高齢化に対応した施設、本当に必要なものもたくさんありますので、今むだがどれだけあるのか、本当に必要なものがどれだけあるのか、そこをじっくり調べるというのが先決で、そうしたことをせずに単に減らせという大合唱で減らしていくというのは、私は危険ではないかなと、そういうふうに感じております。
  36. 高橋進

    参考人高橋進君) 柔軟性につきましては、現時点では新規国債発行額三十兆ということで、しりにいわばその目標がはまっておるわけですが、私は、景気が悪いときにはしりではなくて、例えば歳出総額をコントロールするとか歳出総額を着実に減らしていくということで、目標を変えるということも一つ柔軟性を付与する手段ではないかというふうに思います。  それからもう一つ、公共投資につきましては、私は公共投資の投資金額というのはこれからずっと減り続けざるを得ないと思います。そういう中で、金額を減らしても事業を減らさないということを考えていく、このことも柔軟性を確保する一つの手ではないかと思います。  よく言われますのがいわゆるPFIでございますけれども、これはイギリスあたりでは地方自治体のもう一〇%以上がPFIで行われているということでございますので、逆にすれば、一〇%公共事業金額をカットしたとしても、公共事業そのものはトータルでは維持できるということにもなってまいりますので、やはり質的な転換を進めていけば、私は、まだまだ必要な公共事業をやりながら、かつ公共事業を減らしていくということは十分可能なのではないかというふうに考えております。
  37. 中島啓雄

    ○中島啓雄君 中島啓雄でございます。  時間が参りまして恐縮でございますが、まず植草参考人にお尋ねしたいと思います。  当面の経済対策についていろいろ議論があったわけですが、景気対策を優先すべきだということの反論として、そもそも財政対策をやってみてももう効き目がないじゃないかと。ここ十年間で百三十兆ぐらい、これはグロスの話ですが、つぎ込んできたけれどもGDPは一%台しか成長していないと。それから、国債の消化の制約というのもあるんじゃないかと思いますが、そろそろ国債の消化が困難になってくる。現にスタンダード・アンド・プアーズできょうはまたレーティングを下げたようでございますけれども、そういった効き目と国債消化の今後の問題といったことに関連して、財政対策の有効性についてどんなふうに考えておられるか。  それから、財政の裏側の面として金融政策があるわけですが、金融政策もリクイディティートラップというようなことでもう効き目がなくなっているという説と、デフレ退治のためには十兆円ぐらいもっとマネタリーベースをふやせばいいじゃないかという意見もありますが、その辺のお考えを聞かせていただきたい。  それから、高橋参考人には、中国の脅威というようなものもありますが、日本の賃金水準が高過ぎるというのはそのとおりだろうと思いますが、一つの手段としてはやっぱり為替レートの問題があって、プラザ合意以来、かなりアメリカ主導型の円高が維持されてきたのではないかと思いますが、為替レートの水準についてどんなふうにお考えか。もう簡単で結構でございます。
  38. 植草一秀

    参考人植草一秀君) まず、よく言われる、これまで何度も大がかりな景気対策をやったけれども、確かに一時的によくなるけれども、時間がたつと結局もとに戻って、財政赤字が残り、むだな事業が残る、そして人々には悪くなると政府に依存する甘えの心が広がる、これでは国は立ち行かないと、こういう話が流布されておりますが、実は今の話の中に一カ所真っ赤なうそが含まれております。それは、景気対策を打つとよくなるけれども時間がたつと悪くなる、これは実はうそであります。  その点を明らかにするために、九月二十日に、参考資料の最初に、九月に「現代日本経済政策論」という本を出しましたが、その「はじめに」という序文にそのあたりの経過を要約しておりますので、もしお時間がありましたらぜひお読みいただきたいんですが、九六年、一たん日本経済は非常に安定的かつ持続力のある景気回復軌道に入りました。これは高橋参考人と見解は少し違うのかもしれませんが。ただ、それを九七年の施策でつぶしてしまった。これがまず第一回目の失敗です。小渕政権がやはり景気回復を重視して、昨年株価を二万円まで回復させ、景気は軌道に乗る直前まで行きましたが、実は昨年後半から、データで見ますとはっきり出てまいりますが、緊縮財政が始まり、金利引き上げという、私はこれは常軌を逸した政策と呼んでおりましたけれども、こういう政策がとられて、再び今沈下しております。つまり、時間がたつと悪くなっているのではなしに、少し元気になるとジョギングの指示が出たり寒中水泳の指示が出たりして、政策の逆噴射によってすべてむだにしている、巨額の財政資金によって得た効果をすべて水泡に帰している。  我々が目を向けなければいけないのは、実はこの九六、七年の失敗と二〇〇〇年の失敗。逆に、失敗した人からしますと、ここに人々がいかに目を向けないようにさせるかが重要でありますので、毎日のように何度も打ったけれどもよくならなかったというのを流しているわけですね。そうすると、知らない間に人々はマインドコントロールされてしまう。実は、この九〇年代後半の日本経済悪化の事実関係を明らかにする、この歴史事実の確認ということが私は非常に重要で、そこをきちっと調べれば過去の政策は極めてよく効いたということが判明しますし、事態が改善したところでとられている時期尚早の緊縮政策に問題があると。  もう一点申しますと、これは二番目の問題とかかわりますけれども、私は財政再建は非常に重要な課題だと思いますけれども、財政再建の手順としては、まず経済をある程度の軌道に誘導し、しかるべき後に思い切った改革をすると。これも本の中に書いてありますので、できましたら読んでいただければと思いますが、アメリカ現実に、まず景気を回復させ、次に改革をやったことによりまして、六年間で三十兆の赤字を黒字転換させております。八年かけて五十兆円収支を改善しております。ですから、私は、景気回復を優先することによって、より早く財政再建の絵をかくことは可能と。  国債のレーティングが下がるのは、赤字がふえたという現象そのものではなしに、日本政策運営能力に対する格付、このような政策を続けている限りは経済の回復も財政の再建もない、その格付の低下が進行していると。政策能力を高めるということが国債の評価を上げる一番重要な施策だというふうに思います。
  39. 高橋進

    参考人高橋進君) 為替政策について申し上げます。  足元で若干円安に振れるということは、私は日本製造業にとって息をつけるという意味では有効ではないかと思います。ただし、それでは、じゃ百五十円とかあるいは二百円とか、大幅な円安になればなるほどその効果も大きいように思うんですが、私は大幅な円安というのはやはり逆に弊害が大きいのではないかというふうに思います。かつ、その効果も少ないのではないかと思います。  足元の日本の輸出の構造を見てみますと、例えば高付加価値の製品の輸出の中のシェアというのがだんだんとまってきております。例えば工作機械が典型なんですが、日本の輸出の稼ぎの中で工作機械のシェアというのが、今まではぐっと上がってきていたんですが、最近それがとまってしまっている。これは、価格競争力が落ちたというよりは、やはり製品の高付加価値化がおくれているということが基本だと思います。  そういう意味では、価格の問題ではございません。価格がどんなに高くても、あるいは逆に円高であるから価格が高かったとしても、必要なものであれば海外は買うと思いますので、そういう意味では私は、究極の産業強化策というのは、円安というよりはやはり高付加価値化を進めていく、それによって日本しかつくれないものをつくっていく、そのシェアを伸ばしていくということが究極の解決策だと思います。  逆に、弊害の方、余り大幅な円安にすることの弊害で申し上げますと、やはりそうした体質改善の努力をおくらせてしまうということと、それから、もちろん円安の場合、大幅な円安になれば当然資本流出が起きますので、株安それから債券安、そういう中で物価が上がってきますので、産業基盤の流出、それに伴います生活水準の低下と、こういったスタグフレーションといいますか、悪い円安になってしまう危険性がございますので、そういう意味では、戦術的にはある程度円安は使えると思うんですけれども、抜本的な日本経済の体質改善という意味では、使い方についてはもろ刃の剣ではないかというふうに思います。
  40. 勝木健司

    会長勝木健司君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  植草参考人及び高橋参考人には、御多用の中、本調査会に御出席いただき、まことにありがとうございました。  本日お述べいただきました貴重な御意見は今後の調査参考にさせていただきたいと存じます。本調査会を代表して厚く御礼を申し上げます。  ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後四時九分散会