○
参考人(
高橋進君)
日本総研の
高橋でございます。よろしくお願いいたします。
それでは、お
手元のA4横の資料に沿いましてお話をさせていただきたいと思います。
私は、少しアプローチの仕方を変えまして、足元の景気
情勢からということで入らせていただきたいと思います。
まず、一ページ目をごらんいただきたいと思います。
足元の景気の
情勢でございますけれども、もう皆様よく御承知のように、輸出が急激に落ち込むということをきっかけとしまして
企業部門の激しい落ち込みが続いております。私は、年度内はマイナス成長はもちろんのことでございますけれども、来年度につきましてもかなり厳しい
状況が続くだろうというふうに見ております。
と申しますのも、
アメリカの景気の回復がテロの
影響もございましておくれるであろうということ、あるいは
国内要因で見ましても、小泉
改革の負の作用というものがことしから来年にむしろ出てくるというようなことを考えれば、そう簡単には景気は持ち上がっていかないということでございまして、二年連続のマイナス成長は不可避ではないかと見ております。
ただし、短期的な、いわゆる景気の循環ということで見てみますと、私は、来年後半ぐらいになりますと
アメリカの景気が持ち直してくるということで、これをきっかけにして
日本の輸出も辛うじて持ち直してくるということから、景気の
悪化には一応の歯どめがかかるのではないかというふうに見ております。ただし、中期的に見て、
日本経済が成長軌道に乗っていくというふうなことではございませんで、とりあえず短期的な
悪化に歯どめがかかるという
程度のことではないかというふうに見ております。
続きまして、二ページ目をごらんいただきたいと思います。
こういう中で、景気がどんどんスパイラル的に
悪化していくんではないか、いわゆるデフレスパイラルに陥ってしまうんではないかという懸念も
現状ではございますけれども、私は、大きくは二つの理由から当面のデフレスパイラルは避けられるのではないかというふうに見ております。
まず第一の理由でございますけれども、
企業部門が今回の不況期では打たれているわけでございますけれども、
企業のいわゆる設備投資の落ち込みというのはそれほど激しいものではございませんで、むしろ今後を展望しますと、比較的堅調に推移すると見てもよろしいのではないかということでございます。
理由は大きくは二つございます。
一つは、図表の2でお示ししてございますけれども、こちらは
製造業の
生産能力でございますけれども、ずっと過去数年間、
企業はリストラを続けていわゆる設備の過剰というものの解消に取り組んでまいりました。こういった
状況でございますので、足元で景気が悪くなったからといって急激に設備を大幅に落とさなくてはいけないということではないということ。
二つ目に、
IT不況と今言われますけれども、いわゆるソフトウエアも含めました
IT投資というのはそこそこ出ておるということでございます。図表の3にお示ししてございますが、今後三年間にどんな
IT投資をしますかというようなアンケートをとりますと、引き続き五割近い方が経営
改革タイプの
IT投資をされるということを回答されておられまして、こういった
IT投資というのがまだまだ
日本の景気を根っこで支えているということでございます。
デフレスパイラルが避けられると見ます大きな二つ目の理由でございますが、これは
金融のセーフティーネットの
整備ということでございます。
足元でも不良債権の問題が随分深刻ではございます。しかしながら、三、四年前の前回の不況期のときに比べますと、はるかに
金融システムにつきましては
整備が進んできております。私、これで不良債権の問題が解決したと申し上げるつもりはございませんけれども、当時、このことが問題になって消費ががくんと落ちていったという経緯と比べますと、今回ははるかにまだまだ健全だということでございます。ただ、逆に申し上げれば、この問題の
処理を誤りますと、スパイラル的な
悪化を引き起こす懸念は残っておるということではないかと思います。
以上、短期的な景気につきましては、当面、かなり深刻な調整が不可避でございますけれども、来年後半ぐらいから何とか循環的にはよくなるだろうという形で申し上げました。
続きまして、三ページをごらんいただきたいと思います。
こういう中で小泉さんの
構造改革が始まったわけでございますけれども、私なりに
構造改革の
意味合いというものを申し上げたいと思います。
お
手元の図表の4をごらんいただきたいと思いますけれども、これは中期的に見ました
日本経済の成長の姿でございます。八〇年代に四%成長を確保していたものが、九〇年代に入って一%かつかつというところまで落ち込んでいる。さらに九〇年代後半だけを見ますと、景気が悪くなるとすぐにマイナス成長に落ち込んでしまう、こういう構図でございます。
やはりここまで
日本経済の成長率が落ちてきましたのは、人間の体に例えれば、
日本経済自体が成人病に陥っている、あまつさえ不良債権ですとか
財政赤字といったがん細胞が体の中に出てきている。こうした体質の
悪化というものが今表面化してきているということではないかと思います。したがいまして、こういった
事態を放置しておきますと、
日本経済は過去の蓄積を使い果たしてどんどん縮小均衡に落ち込んでしまうということではないかと思います。
そういう中で、縮小均衡プロセスを改善すべく行うということが
構造改革の
意味だというふうに思います。したがいまして、かなりの手術をしなくてはいけないということになってまいります。当面は、この手術の
影響もございまして、
日本経済はかなり低い成長を覚悟する必要があるということは言われておるとおりでございます。
ただし、
改革だからさらに景気が悪くなるということで痛みに対する懸念が強いわけでございますけれども、私は、むしろ、
改革をやらなくても
日本経済はもう相当の痛みを覚悟せざるを得ないところまで体質が
悪化してしまっておる。私は、
バブル崩壊に始まった
日本経済の
悪化というのは、むしろ今までのツケが一挙に破裂したことでございまして、足元は
日本経済全体が調整プロセスにある、そういう中で
改革を進めることによってもう一度体質を改善させようと、こういう動きに入ったというふうに理解しております。
したがいまして、グラフの右側でございますけれども、当面は集中調整期間ということである
程度の成長鈍化は覚悟せざるを得ないわけでございますけれども、ここの部分の
処理がある
程度進んできて負の遺産の
処理ということが進展していけば、私は、
日本経済は黙っていても一%ぐらいのベースラインには復活できるだろうというふうに考えます。さらに、
アメリカの例に見られましたように、新しい分野、新しい
産業の開拓ということで成果が上がってくれば、潜在成長率をさらに二%、三%に引き上げていくということも十分可能ではないかと思います。
ただし、問題は時間でございます。足元で、後ほどまた申し上げたいと思いますが、
日本の貿易黒字、経常黒字がここのところ急速に縮んできております。これは、私は、
日本経済が過去に蓄えた蓄積を今使い果たすプロセスに入ってしまっているということではないかと思います。そういう
意味では、
日本経済にまだ余裕があるうちに
構造改革を進めていくということが必要なのではないか。そういう
意味では、十年、二十年かけて
日本の体質を改善していくんだというような時間は今なくなってきている。今、余裕があるうちに早く
構造改革プロセスに着手すべきではないかという考えを持っておるところでございます。
続きまして、四ページをごらんいただきたいと思います。
今申し上げたような危機感につきまして、私なりにその
構造改革の中で
幾つか問題点を絞りまして論点を展開させていただきたいと思います。
今でもまだ
改革か
景気回復かということで、その優先度合いについては御議論があるところでございますけれども、私は、そうしている間にも
日本経済の体質が着々と
悪化しているということを申し上げたいと思います。
まず、その象徴的な事例がやはり
産業空洞化ということでございまして、それは貿易黒字、経常黒字の縮小ということにあらわれているのではないかというふうに思います。
お
手元の図表の5をごらんいただきたいと思います。これは、棒グラフが
日本の経常黒字でございます。それから折れ線グラフ、黒い四角を結びましたものが
生産の動向でございます。過去二十年ぐらいを見てみますと、この黒字の
拡大あるいは縮小と
生産の動向には奇妙な相関
関係がございます。
日本の景気が非常によくなるというときには輸入がふえます。そして、逆に今度は悪くなるときには輸出ドライブがかかるということで、いわば景気がよくなって
生産がふえると貿易黒字が縮み、経常黒字が縮む、そして景気が悪くなると黒字がまた膨らむと、こういう経験則がございました。
ところが、ごく足元、二〇〇〇年以降の二年間をごらんいただきますと、急激に鉱工業
生産が落ち込んできておる。まさに今不況の様相になっておるわけでございますが、ところが、この間、経常収支はということで見ますと、景気の
拡大期に縮小した後、景気の後退期に入ってもさらに縮小を続けているということが見てとれるわけでございます。
これは、結論的に先に申し上げれば、
日本の
産業が
空洞化していることの結果として悪い形での黒字縮小が起きているのではないか。
日本経済の開放度が高まって黒字が縮小しておるのであればよい黒字縮小でありますが、私は足元の黒字縮小は悪い黒字縮小ではないかと考えます。
この背景でございますけれども、やはり
中国を
中心とした
アジア諸国の
技術水準の
向上、これが
日本の輸入の
拡大ということにつながり、ひいては
日本の
製造業基盤の縮小ということが加速しているということではないかと思います。
お
手元、図表の6に輸入の浸透度ということで、
国内で販売されておりますもののトータルの中での輸入品の比率というものを見てございますけれども、一番上のバツ印、非耐久消費財、食料品ですとか衣料品でございますが、こういったものの比率が極めて高い。あるいは、下から二番目でございますが、白い四角を結びましたのが耐久消費財、自動車ですとか家電でございますが、こういったものについても近年急速に輸入浸透度が上がっているという
状況でございます。
こういった形で
構造的に黒字が縮小し始めておりますので、もし輸出の伸びが余り期待できないというようなことで私どもが試算をいたしますと、貿易黒字が今後数年以内、例えば五年以内に縮小しても不思議ではないというところまで来ているのではないかと思います。貿易黒字が縮小するということは結果として何を招くかというふうに考えますと、私は、急激な円安、それから資本流出に伴います金利高、そして
日本の
産業の衰退、その結果としてやってくるハイパーインフレということで、
国民生活の
水準が
日本の黒字の縮小とともに落ちていくという
事態になっていくのではないかという懸念を持っております。
続きまして、五ページをごらんいただきたいと思います。
こうなってきますと、先ほど
植草さんの御
指摘にもございましたけれども、
国内で出てきておりますのがいわゆる
中国脅威論でございます。しかしながら、私は、
中国脅威論を振りかざすことというのはやや行き過ぎではないかと思います。
理由は三点ございます。
一つは、こういった
日本の輸入の
拡大、それを間に入って仲介しておりますものはむしろ
日本の
企業であるということ、
日本の
企業がデフレ対策として外に出ていって、その結果、逆輸入がふえているということでございます。
二つ目に、
海外から安い製品が入ってくるということは、反面で
国内の消費者の購買力の
向上に寄与しているということでございます。
お
手元の図表の8をごらんいただきたいと思います。これは個人消費の中身につきまして品目別に消費の動向を見たものでございますが、中ほどに生活必需品というのがございます。これはいわゆる衣料品、食料品でございますが、これが九九年あたりから家計の中での
支出金額が急激に減っております。これは、消費者がこういったものに対する消費を抑制しているというよりは、価格が
下落することに伴ってこういったものに対する
支出が減っているという結果ではないかと思います。そして、ここである
程度家計に余裕が出てまいりますので、ここで出てきた余裕がその上の選択的
支出、旅行ですとか娯楽、あるいはぜいたく品、こういったものに向かっていくという余力が出てきているわけでございます。
賃金・
雇用情勢が非常に厳しいと言われる中で消費が二極化している、あるいはそこそこ堅調であるということの背景には、私は、こういった物価
下落、あるいはそれをもたらしております
日本の
産業構造の
変化ということがあるのではないかと思っております。
それからもう
一つ、脅威論は避けるべきであるという理由の三番目としまして、
日本から
中国への輸出もふえておるということでございます。そういう
意味では、決して
日本の輸入がふえるという形で縮小均衡しているわけではないということでございます。
そして、こうした表面的に見られます
日本の
産業空洞化の
本当の原因というのは、私は、
日本の高コスト体質、まさにここにあるのではないかということでございます。したがいまして、
中国の問題というよりは、問題は
日本の
国内に内在しているというふうに考えます。その
一つが、図表の7でお示ししました賃金
水準の国際比較でございます。明らかに
日本は名目で見まして高過ぎる
水準まで行ってしまっている。これを今是正するプロセスが始まっているということでございます。
さらに、こうした
産業空洞化と表面的に言われますものにつきましては、私は、基本的に黒字が縮小すること自体は
先進国の宿命であるというふうに思います。したがいまして、当然、先ほどのお話にもございましたけれども、
日本の
産業構造をさらに高度化させていくということで対処すべき問題だと思います。そういう
意味では、
国内投資を活発化させて内需主導の輸入大国にしていくということと、その一方で非常に
競争力のある製品を引き続き生み出していく、こういった
拡大均衡型の黒字縮小を目指すべきではないかと思います。
ちなみに、日中貿易で申し上げますと、
中国がWTOに加盟することに伴いまして最も恩恵を受ける国は
日本だろうと言われておるわけでございまして、
日本は今、
中国による
日本市場の浸透ということが懸念されていますが、その一方で、
拡大する
中国市場が私どもの目の前にあるというふうに考えることも可能でございます。
以上が、まず
構造問題に伴います
産業空洞化に関連しまして私が申し上げたいことの第一点でございます。
続きまして、第二点としまして、これと
関係いたしますけれども、
日本企業の
課題ということでお話を申し上げたいと思います。
六ページをごらんいただきたいと思います。
今申し上げましたように、足元で
日本の
製造業基盤の縮小、いわゆる物づくりが危機にあるということでございますけれども、ただし、こういった表面的な
現象の裏で、実は
日本企業の体質改善というのはかなり進み始めているというふうに私は理解しております。
幾つかデータをお示ししたいと思いますが、お
手元の図表の9をごらんいただきますと、売上高経常利益率ということでごらんいただきますと、八〇年代の
水準に対しまして、九〇年代、随分
水準は下がりました。しかしながら、足元三、四年をごらんいただきますと、九九年あたりを底にしまして経常利益率が改善し始めております。あるいは非
製造業で申し上げればもうちょっと前から始まっております。足元、楕円形で結んでおりますところは景気が悪くなっておりますので一時的に体質改善がとまってむしろ
悪化しておりますけれども、しかしここ数年間、
企業のリストラ努力によって利益率の
向上が傾向的に見られるということが第一点でございます。
続きまして、横の図表の10をごらんいただきたいと思います。長期債務対キャッシュフロー倍率ということで、いわば
企業の長期の借金、これと
企業の持っておりますキャッシュフロー、これを比べたものでございます。
御承知のとおり、
バブル崩壊後、
日本の
企業のこの借金体質というのが極めて
悪化して、例えば
ピーク時ではキャッシュフロー倍率が八倍近いところまで借金体質に陥ったわけでございます。ところが、その後
企業のリストラ努力が続けられて、結果としてかなりこの数値につきましても改善傾向が見られます。とりわけ、細い線でお示ししてございますが、建設、卸、小売、不動産、いわゆるリストラがおくれておると言われる業種を除きますとかなりの
水準まで低下しております。例えば、八〇年代のこういった除く
産業種で見ますと、八〇年代の
水準というのは四倍弱でございますが、足元ではかなりの
程度まで下がってきていると。これも繰り返しになりますが、足元では景気が
悪化していますので若干逆戻りしていますが、それでもトレンドとしてはかなり改善を示しているということでございます。
続きまして次の七ページをごらんいただきたいと思います。もう二つ資料をごらんいただきたいと思います。図表の11でございます。
こちらは設備投資の収益率、設備投資をした場合にどのくらいの収益が見込めるかということでございます。これにつきましても、過去二十年間、傾向的に
日本は設備投資をしてももうけるのが難しくなってきておるという
現象でございます。体質
悪化だと思います。ただし、これにつきましてもごく最近、この三、四年で見ますと、ようやく改善トレンドが始まっております。まだまだ低い
水準からではございますけれども、改善傾向が見られているというようなこと。
あるいは、お隣の図表の12、こちらはいわゆる賃金コストということでございますが、さまざまな形での賃金
改革、
雇用改革が今進んでおるということの中で、名目賃金指数がようやくトレンドとして落ち始めているということでございます。
こういった、今私は
日本企業の体質の改善が見られるということを申し上げました。ただ、改めて繰り返させていただきますと、過去数年間、
日本の
企業の
構造改善努力はかなりの成果を上げております。しかしながら、どの数値を見ましても私はまだ八〇年代の
水準までには戻っていないということで、そういう
意味では
企業部門の収益体質改善は道半ばなんではないかということでございます。
したがいまして、ともすれば景気が
悪化しますとさらなるリストラということで、どうしても
企業部門は縮小均衡に向かいがちでございます。足元でもそうした傾向が強いわけでございますけれども、私は
企業部門の
課題ということで申し上げれば、やはりこういった中でいかにして
中国と戦い
アメリカと戦っていくかという
意味で、苦しい中で新しい成長基盤をつくる、そのための投資を苦しいけれどもしなくちゃいけないというところになってきているんではないかと思います。
そういう
意味で、
一つは
中国に勝てるようなコストの引き下げと。
日本はこれだけコストが高いにもかかわらず
中国と戦うためのコスト引き下げに取り組んでおられますが、もう一方でやはり
中国に追いつかれないための技術力の
強化とそのための投資ということが必要なんではないかというふうに考えております。
以上が二つ目の
課題でございます。
続きまして、八ページをごらんいただきたいと思います。
こういった
企業部門の
改革が進んでいきますと、私は、そのあおりを食いますのがやはり個人
部門ということでございまして、痛みがこれから個人
部門に出てくるという気がいたします。その典型的な例が、やはり
雇用調整圧力という形で痛みが出てくることではないかと思います。もちろん、賃金が伸び悩むという、あるいは賃金がカットされるということも想定されますが、やはり大きいのは
雇用調整圧力ではないかと思います。
お
手元の図表の13で私どもなりに試算をいたしました。図表の左半分でございますが、これから起きるであろうプロセスというのが、
日本の
構造調整あるいは
構造改革が進んでいきます中で、不良債権の
処理、
財政の
改革、あるいは
中国との競合のための
企業部門の
強化といったようなことが続きますと、当然のことながら痛みとして
失業が出てまいります。私どもの試算では、横に①という形で棒を引いてございますが、黒三角で百五十万とお示ししてございます。今後数年間でこういった
雇用調整圧力は百五十万人ぐらいに達する危険性があると思います。ただし、これそのものが調整のプロセスでございます。
もう一度左を縦にごらんいただきますと、こういった
改革の結果、
日本経済の体質の改善ということがあらわれてくれば、それによって成長率が回復してまいります。そうしますと、例えば一%成長が今後数年間可能になれば、それによって、②でございますが、百二十万人余の
雇用が生まれてまいります。これでも失われるものよりは少ないわけですが、さらにその先、左側を下にごらんいただいて、成長率を
アメリカのように二%、三%に引き上げていくというための
政策が奏功すれば、そこでさらに数十万人の
雇用は優に生まれてまいります。そうすれば、
日本経済は中期的に見てまた労働不足の
経済になっていくわけでございます。
ただし、問題は、この百五十万人がきのう、きょうとどんどん失われていくことに対して、
雇用を創造する方、創出する方はそう簡単には進まない、その間ラグが生じるということでございます。消費者に無用な心配を与えて、不安を与えて消費を落とさせないためにも、やはり
雇用面での重層的な対策が必要であろうということで、ここに
幾つかメニューをお示ししてございます。緊急的な
雇用対策に加えまして、下の丸でございますが、やはり
日本の
雇用システムを変えていくということも必要でございますし、あるいはこの間、生活
水準が落ちる方を支えるために基礎生活コストを引き下げていくとか、あるいは医療、年金の面での不安を解消していく、こういった広い
意味でのセーフティーネットの
構築ということも求められるのではないかというふうに考えております。
続きまして、
構造改革の論点につきましてさらに申し上げたいと思います。九ページをごらんいただきたいと思います。
財政健全化ということで申し上げたいと思います。
この
必要性につきまして、あるいは景気か
改革かという順序は足元では御議論がございますが、ただし、やはり長期的に見まして、私は
日本のプライマリーバランスを改善させていくということが必要なんではないか、かつそれを改善させるためには長期的な取り組みが必要であるということでございます。
お
手元の図表の14で私どもの試算をちょっとお載せしてございます。
改革をしなければ
財政赤字は、例えば
国民所得対比で見まして、
現状維持ケースでごらんいただきますように、また
拡大していく危険性がございます。そういった一方で、例えばこれから十年ぐらいかけて二〇一〇年までに
財政を健全化させるということで、例えばプライマリーバランスを均衡させるという観点に立ちますと、これから十年の間にGDP比で見まして五%、六%の
水準にある
赤字を縮めていかないといけないわけでございます。これは相当の努力だと思います。
例えばGDP比五%としましても二十五兆円あるわけでございまして、これを単純に十年間でカットするとすれば、毎年二・五兆から三兆円の
赤字幅を
削減していかないといけないという計算になります。これは非常に大きな金額で、かつ継続的な努力が必要だということでございますので、私はやはり
財政健全化を途中でやめないという政治の決断というのが非常に重要だと思います。
なおかつ、上の四角の中で一番下の行に、ここにこのケースを想定するに当たりまして試算で前提を置いてございますが、私どもの試算ではこれは名目成長率が二・五%ぐらい維持できればこういう絵をかけるということでございまして、足元で深刻なデフレ下にあるということを考えますと、こういった絵をかく、かいた絵を実現する、これさえも非常に難しいということでございまして、やはりデフレ下で歳出をカットしていくということは、その
影響を最小限に押しとどめようとすれば相当の
財政の質的な転換、
支出を減らしても
国民経済に
影響が出ないというような対策を講じることが必要なんではないかというふうに考えます。
続きまして、次の十ページをごらんいただきたいと思います。
私は、やはり
財政改革というのはこれはしょせん結果でございまして、そのこと自体が自己目的ではないと考えます。そういう
意味で、プライマリーバランスを均衡させるに当たっては、やはり歳出をカットする中で民間の活力をそれと一緒に引き出していくという考え方がどうしても必要だと思います。したがいまして、ここでは四つのメニューをお示ししてございます。
一つは、やはり
規制緩和を推進していって民間の
競争原理がさらに貫徹する
環境をつくって、高コスト体質の是正を促進していくということ。
二つ目に、公共投資を
中心に効率化の圧力が極めて強くなってまいりますので、したがいまして、名目の公共
支出を減らしても必要な
事業ができるようにということで、PFIの活用ですとか配分の
見直し、こういったことを通じて公共投資の
生産性を引き上げるということが不可欠だろうと思います。
加えまして、ハにつきまして、
社会保障のシステム、これにつきましても、高齢化
社会の中でいかに歳出を抑制していくかという観点に立てば、ある
程度の
競争原理の導入、医療・介護システムへの
競争原理の導入というのも不可欠だろうと思います。
さらに四番目としまして、足元で税収が落ち込む中でなかなか減税というのは難しいわけでございますけれども、
企業活動を活発化させる、あるいは消費を
活性化させるという観点に立てば、あえてこの際、必要に応じて減税をする、インセンティブを与えるための税制、税制
改革というようなことも必要ではないかというふうに考えております。
以上が
財政でございます。
続きまして、六番目としまして、次の十一ページ、不良債権の問題について私も
一言申し上げたいと思います。
不良債権の問題につきまして私として強調させていただきたいのは、やはり足元でなかなか不良債権が減少しないということについての問題点でございます。これは、やはり銀行の経営改善努力がおくれをとったということが根因にあるかと思いますけれども、さらに足元で不良債権の
増加がとまらないということの背景には、
日本の
経済体質が今
悪化してきて、その調整プロセスが始まっているということでございます。したがいまして、
産業調整、
経済調整のプロセスで不良債権がさらに発生するということが見込まれる点でございます。
そういう
意味で、不良債権の問題を解決しなければ
日本経済が再生しないというのは事実でございますが、やはり
産業、
企業をどう再生させるかという観点での取り組みが行われませんと、なかなかこのジレンマといいますか、堂々めぐりから抜けられないんではないかという感じがいたします。そういう
意味で、これは
経済全体につながることでございますが、
企業、
産業の再生ということに取り組むことがこの問題の抜本的な解決に必要ではないかというふうに考えます。
続きまして、最後の十二ページをごらんいただきたいと思います。
今まで
構造改革の論点ということで
幾つか申し上げましたけれども、最後に、私なりに考えます、
構造改革にいわば相対するものといいますか、
視点を別にしたものとして少し主張させていただきたいと思います。
小泉さんの
改革あるいは
構造改革が、官と民との
関係で官の
改革という形で広く進んでいくわけでございますけれども、私は、
経済政策あるいは
改革を進めるに当たって、やはり二十一世紀の
日本をどうつくるかという観点から、人々の生き方とか暮らし方とか働き方、こういったものを
根本から問い直す生活者
視点の
構造改革、こういったものも意識していいんではないかというふうに思います。とりわけ今、地方
経済、
地域経済が
空洞化しておりますけれども、従来型の成長至上あるいは
産業振興という観点ではなかなか今の地方の苦境を救うことはできないんではないか。むしろ、やはり
町づくりという観点から、生活者の
視点から物を考えながら
政策を打っていくということがこれから必要なんではないかというふうに思います。
そういう
意味で、
幾つかここにメニューをお示ししてございますけれども、基本的には
経済政策のあり方を、成長とか
産業振興ということに加えまして、
町づくりという観点から
見直してみる、そして生活者を、いかにしてその人生を楽しみ豊かにしてもらうかという観点から
政策をつくりかえていく、あるいは都市空間をつくりかえていく。そういった観点に立てば、従来の
公共事業とか福祉、教育等々の
政策につきましてもいろいろまだ
見直しの余地が大きいんではないか。
そして、こういった
政策を進めていく主体は、当然のことながら生活に密着した地方自治体でございます。したがいまして、今の分権のプロセスをさらに進めていく、あるいは生活者に密着した自治の
仕組みをつくるというようなことが必要なんではないか。あるいは同時に、行政領域を縮めていく、そして従来行政が担っていた部分をNPO、NGOに移していって官あるいは行政の肩がわりをさせるといったようなことも当然のことながら必要だろうと思います。
こういった
町づくりという観点に立って
政策を問い直していきますと、
世代間の不公平の問題であるとか、あるいは世上言われます教育の荒廃であるとか
環境の問題、こういったものにもより取り組みやすくなるんではないかというふうに思います。そういう
意味で、今始まりました
構造改革、小泉さんの
構造改革が
お上から、上からの
改革だとすれば、それの受け皿となるべき
国民意識の
改革あるいは
国民自身の
改革、こういった観点もこれから考えていく必要があるんではないかというふうに思っております。
それから最後に、口幅ったいことではございますが、政治あるいは国会ということについて
一言だけお話をさせていただきたいと思います。
短期的には景気か
改革かというような議論がエコノミストの間では随分行われますし、議論もございます。しかしながら私は、やはり長期的に見ましたときに、
日本をどう変えていくかということについての取り組みが今必要な時期だというふうに思います。そういう
意味では、短期的なことに振り回されずに、いかに
国民に長期的な
改革が必要であるかということをぜひとも国会の場でお示しいただきたい。特に参議院につきましては、長期的な観点からさまざまなビジョンを比較しながら、あるべき姿というのを
国民にお示ししていただきたいというふうに思います。
私からは以上でございます。