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参考人(
大野則行君)
航空安全
推進連絡
会議の
大野でございます。
本日は、当
委員会の
審議に当たり、私どもの
意見を述べる機会を与えてくださいましたことを厚く御礼申し上げます。
私ども
航空安全
推進連絡
会議は、管制官、気象予報官、それからパイロット、
航空機関士、客室乗務員、運航管理者、
整備士など、
航空の
現場で働く労働者二万二千名を
組織する六十二組合の団体でございます。昭和四十一年の例の羽田沖の全日空機
事故、それからカナディアンパシフィックの羽田空港での
事故、それから翌日起きました富士山頂付近でのBOAC機墜落
事故、そのような連続した悲惨な
事故が
発生いたしまして、その重大さを目の当たりにした
航空労働者が集まってつくった
組織でございます。ことしで三十五年目になります。
活動の
目的は
事故の絶滅を図ることでございます。そのために各方面にいろいろな提言や要請その他を行っております。
今般、一月三十一日に
発生いたしました
日航機同士のニアミス
事故については、一瞬の差で六百七十七名の命が海に散ったところを何とか生還したというものでございます。改めて
日本の空の不安全さを国民が
思い知ったということですが、私
たちは、このような
事故が二度と起こらないようにするために、ぜひとも科学的で公正な
事故調査によって
原因を
究明し、
再発の防止を一刻も早く確立する必要があると考えております。まさにこれは国民の安全の問題でございます。そのために、現在この
事故の
調査に当たっている
事故調査委員会の
活動に注目をし、
期待しておるところでございます。ただ、過去の
航空事故における
調査報告書を拝見いたしますと、必ずしも満足のいくものとなっていないというのが
現場で働く者からの率直な
意見でございます。
数多い例の中から申し上げれば、例えば
武田先生が
委員長時代に起こりました一九八五年八月十二日に
発生した
日航機一二三便の御巣鷹山での墜落
事故でございます。五百二十名という命が失われた
事故ですが、この
報告書に書いてある推定
原因の金属疲労による隔壁の破壊については、労働者としては大いに疑問を持っております。隔壁が破壊されれば一瞬のうちに機内は低酸素、低気圧状態となりますけれども、運航乗務員の音声記録や生存者の証言などからそのような状態になったとは考えにくい。
事故調査委員会の実施した低酸素実験についても、被験者の話と
報告書に記載された内容とは大きなずれがある。こういうことで、
航空安全
会議としては低酸素症実験を
公開で行うよう今でも要請を行っております。
また、その
報告書の中にあります運航乗務員の音声記録装置の解読についても大きな誤りがあるのではないかと疑いを持っております。例えば、オールエンジンと言っていると
報告書には記載されておりますが、これはどうもボディーギアと言っているのではないかと。オールエンジンでは全体の
事故推定
原因とのかかわりがつじつまが合わなくなってまいりますが、ボディーギアというふうに読み取れば、それは一定の推定
原因と関連がつけられるというふうに考えております。この部分は
事故の
原因に直接かかわるところであり重要なところでございますけれども、当時の
調査に当たられた
方々の中にこのボーイング747型機の運航の
経験を有しておられる方がいなかったという致命的な欠陥が指摘されております。
この一二三便、御巣鷹山の
事故は、当時、
事故調査委員会も全精力をつぎ込んで増員もされ予算も大幅につけられた中で、メンバーの
方々も人並みならぬ御苦労があったと伺っておりますが、なぜかその
最終報告書はその苦労に報いるものになっていないと言わざるを得ないものでございます。十五年前には解明できなかったことも現在の
技術では解明できるかもしれない。そういう
意味で、今すぐにでもこの再
調査をするべきであるというふうに私どもは主張しております。
航空事故調査は
再発の防止を
目的とする観点から行われるものであります。決して過去の出来事の記述に終わってはならない。この一二三便
事故も、同型機が現在も飛んでおります。もし
原因に
機体構造上の問題があるのなら、今すぐ飛行をとめて点検しなければならない。
航空事故調査は現在の問題であり、国民を
事故から守る非常に重要な国家的責務であるというふうに考えております。この責務を果たすためにも、
事故調査委員会の機能を見直すべきであると考えます。
お
手元に配付させていただきました
航空安全
会議製作の
資料に基づいて御説明いたしますが、「一、
事故調査委員会の
機関としての機能を充実させる具体的方策の検討を求める。」ということで、(1)から(5)まで書いてございます。
専門委員または
専門委員に準ずる者として、
航空の実情または
事故調査に精通した者を加えるよう取り計らっていただく。(2)、予算を一層充実していただきたい。(3)、
意見聴取会を
原則として開催することに改めていただく、及び公述人を広く採用するよう取り扱っていただきたい。(4)、再
調査の手続を法令に明記していただきたい、及び再
調査実施の要件については
事故調査委員会の裁量にゆだねられる部分を極力客観的な要件となるように変更していただきたい。(5)、
事故調査技術マニュアルを作成して、
事故調
設置法の下位規定として位置づけていただきたい。
こういうことを考えますと、
事故調査機能の充実を図るためには各政府
機関から独立が保障される必要があるだろうと考える次第でございます。
そして
最後に、
事故調査と
警察による
犯罪捜査とのかかわりについて触れないわけにはまいりません。
航空事故が起こると、
事故調査権と
犯罪捜査権が競合いたします。この二つの権力の競合を事前に調整するために、
事故調査委員会設立の前の昭和四十七年二月、当時の
警察庁長官と
運輸省事務次官とで覚書が交わされております。この内容は、
調査権が競合するものについては
警察の
犯罪捜査を
事故調査よりも明確に優先するというふうにされております。また、
警察は押収した物件のうち、
事故航空機のコックピットボイスレコーダーもしくはフライトレコーダー等早期の解析を必要とするものについては、押収後できる限り速やかに
事故調査委員会に対して鑑定嘱託の手続をとるものとするというふうに明記されております。
しかしながら、先ほども
お話に出ました国際民間
航空条約の第十三附属書によれば、そうは書いてございません。
事故調査委員会が入手したすべての口述やボイスレコーダー、フライトレコーダーの内容は、その後の懲戒、民事、
行政及び刑事上の処分に不適切に利用される
可能性がある。もしこのような
情報が流布されると、
調査官に包み隠さず明らかにされるということがなくなるかもしれない。このような
情報を入手できなくなると、
調査の過程に支障を来し、
航空の安全に著しく影響を及ぼすことになると書いてございます。
これは、加盟国の主権である司法政策に介入することができないものの、
ICAOとしてはこの条約において
事故調査を
処罰に優先させることを求めているものでございます。
航空法第一条は、この
法律は国際民間
航空条約に準拠して定めると書いてございます。現行の
事故調査委員会設置法第十五条第一項には、「
委員会は、国際民間
航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、
航空事故調査を行なうものとする。」と書いてございます。
国会で
審議されて成立して施行されている
法律の内容を、
行政官同士の覚書がその内容を逆転させるということはあってはならないのだと私どもは考えております。
事故調査委員会の中の
方々についても、その点で大分御苦労なさっているとも漏れ伺っております。今回の
事故調査委員会設置法改正に伴い、この
警察庁との覚書も当然見直されるべきであると考えております。
犯罪捜査が
事故原因究明の
技術調査の障害とならないことを明確にした新たな覚書の締結を私どもは望んでおります。
以上、御清聴ありがとうございました。