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参考人(永瀬伸子君) お茶の水女子大学の永瀬伸子でございます。
本日は、お招きいただきましてどうもありがとうございます。当
調査会にて
参考人として
意見陳述できることを大変光栄に存じます。
本日は、
男女共生のための税・
社会保障制度について、大枠で三つの問題についてお話ししたいと思います。
一番目の問題は、
女性の雇用市場における
能力活用及びパート労働者と正社員の問題。二番目の問題、
子供の
保育の質と多様性の
確保の問題。三番目の問題、
子供コストの負担と
社会保障のあり方です。この三つとも大変大きな問題でございますが、問題点の指摘、そして
変化の方向についてお話ししたいと思います。
まず、お手元のレジュメに沿ってお話をいたしまして、最後の時間でOHPを使いまして、配付した
資料について御
説明したいと思います。
まず、最近の
女性の
就業と
子供の養育がどうなっているか、その現状
認識を申し上げたいと思います。
女性の
社会進出といったことは、私たちは毎日新聞で見ますけれども、実は、これは実態をやや伴わない点がある。第一子出産後の専業主婦比率は、実は労働経済を専門としている私
自身が驚いたのですが、若い世代の方が上がっております。若い人が集まる都会ほど専業主婦比率が高く、しかも四十代と比べると、今の三十代、二十代の世代では、第一子を出産した後の
労働力率を比較しますと、大体、大都会では一五%ぐらいしか
仕事は持っておりません。残りの八五%は専業主婦をしております。
これは、事前配付いたしました東洋経済のエコノミックスの私の拙論をごらんいただきたいのですが、国立
社会保障・人口問題研究所の「出生動向
基本調査平成九年」を用いた比較、配付した
資料の十八ページあたりに書いてございますけれども、そのようなことなのです。
そして、
育児休業制度、これが九二年に施行されまして、九五年には中小企業にも及びました。また、さまざまな改善もされてきました。ところが、九五年以降の出産者を見てみますと、その中で
育児休業を利用した人というのは一割です。勤め続けている人の中で利用した人はふえていますが、
育児休業そのものを利用した人というのは大変少のうございます。妊娠中は働いていても、出産をめどに退職する人が多うございます。
女性の高学歴化、雇用
就業化、あるいは
意識変化、これはほかの先進国でも
進展しておりますが、若い世代で専業主婦化が進むという
変化は、実はほかの国では見られておりません。ほかの国では、
子供が幼い間は短時間
就業が増加しておりますが、では
日本ではどういう
変化がこの二十年にあったのかと申しますと、
結婚しない、
結婚を遅延する、そうでなければ、専業主婦で
子供を見て、その後パート労働に出るという、そういう二極化が進んだのでございます。
このように、近年、むしろ専業主婦中心の
育児が強化されております。これは望ましいことだというふうにおっしゃる識者の方もいらっしゃいますが、それは恐らく現代の
子育てという現場に立ち会っていらっしゃらないからではないかという気がいたします。狭いマンションの中で
子供と主婦のみが
向き合い、夫は夜遅くでないと帰ってこず、その中での密室
育児での過剰な保護、あるいは虐待といった問題、主婦の
育児不安や取り残されたような思いは、さまざまな近年の研究が指摘しております。
その一方で、
育児休業を取得し正社員として復帰した
女性はどうかというと、そのストレスも大変なものでございます。家事
育児負担、職場で要求される
仕事水準に伴うストレス、残業ができないことに対する同僚への気兼ね、時間の足りなさなどでございます。聞き取り
調査を行いますと、おばあちゃんと同居している世帯はかなりうまくいっているのですが、そうでない世帯では非常にストレスが強い。そして、そのおばあちゃん資源というのは若い世代ほどなかなか利用できなくなっております。
夫の家事
育児参加が諸外国と比較しても
日本で特段に低いこと、帰宅時間が大変遅いことは皆さん御承知のとおりでございます。一方で密室
育児と閉塞感、もう一方で長時間
保育とゆとりのない
育児、父親不在、このどれも、
子供のためにも母親のためにも、また父親のためにも望ましいこととは私には思えません。働き方及び
子育て支援の人的資源のあり方の変更が今望まれております。
一たん離職した
女性は、パート労働者として末子年齢の上昇とともに雇用市場に戻ることが多いのですが、パート労働者の賃金水準が低く、また昇進が限られたものであることは広く知られているところです。この正社員と非正社員の賃金格差、あるいは昇進ルートの格差は非常に大きな問題だと思います。短時間のより良好な雇用
機会がつくられることが重要と思われます。
また、
保育園の
充実に厚生労働省が旗振りをしておりますが、都会に住む者の実感としては、相変わらずなかなか入れないのです。これは後ほどOHPをお見せいたします。
また、無業の主婦層に対する
子育て支援は進められておりますが、本格的というよりは追加的な位置づけです。ファミリー・サポート・センター、すなわち無業の主婦が働く
女性を
支援し一時的に
子供を預かろうという発想のサポート・センター事業も始まっていますが、これも、預かってほしいという側は多いけれども、預かりたいとする側は余り多くないという状況があることを聞いております。つまり、全体に
仕事と働くことのバランスがとれる
社会へのかじの
転換はまだなされていないのです。
ここでレジュメの2に移りまして、出産、
子供の養育と
就業とをどう
社会保障の中で位置づけるか、より広い目で少し考えてみたいと思います。
女性の
就業環境の
整備は、現実的には
子供の養育の問題とまさに表裏の関係にあります。八六年の
男女雇用機会均等法が成立した後に入社をした総合職
女性の多くがやめていきましたが、これは、
法律が雇用を中心に考えられていて、
家庭生活への
視点が弱かったためだというふうに私は思います。
高齢者や
子供へのケア
活動。これらは、従来は見えないもの、国政で話し合わないもの、
家庭内で私的に当然のこととして行われるものでした。しかし、
社会保障の
充実によって、
高齢者へのケア
活動、
高齢者への仕送り、これが国レベルで行われるようになり、
家族機能の一部を国が行うようになるにつれ
家族の形が変わってきました。あるいは、
家族の形が変わったのでそうした
社会保障の
充実が必要だったとも言えます。
子供の養育、
介護といったケア
活動を国がどう暗黙に
社会保障制度の中で位置づけるか、ジェンダーの
視点からセインズベリーは福祉
国家の類型化というのをしています。それを多少書きかえたのがレジュメに示しました三つの類型であります。①のタイプというのは、世帯の主な稼ぎ手への所得保障をする、そして世帯の主な稼ぎ手の
仕事を保障し老後の年金を保障することを通じて暗黙に妻に保証をする。つまり、ケア
活動を暗黙に担う妻を、世帯主を保障することで保証するというのが①のタイプです。②のタイプは、ケア
活動そのものに対して
社会保障を給付するというものでございます。そして③のタイプは、
男女の雇用を前提とした上で、それが可能になるような
保育や
介護を
充実させるというタイプです。
この②と③の違いですが、②は、無償労働に対して、つまりケア
活動など無償で行われている
活動に対して年金受給権や所得給付などをいたしますが、ある
意味では
女性の無償労働がある程度前提とされております。その有償化を
社会保障の中で図るというのが②のタイプです。③のタイプは、無償労働の
社会化を図ります。③では最も
女性の
労働力率が高くなるというふうに言われております。
この暗黙の税制、年金のあり方によって福祉
国家のタイプは分かれており、
女性の
就業や賃金構造、ケア
活動の
男女負担に大きな
影響を与えるということが指摘されております。
私は、
日本は今現在①ではないかというふうに考えております。第三号被保険者の制度は①の派生ではないかと。妻名義の年金が八五年改正で出ることになったことは
進展ではありますが、②には行っていないために現在さまざまな問題が起こっております。
②に行っていないというのは、例えば、被用者の妻でなければその無償の
活動が年金権につながらない、自営業、母子
家庭、フリーターの妻では免除の恩典というのがないという点です。また②では、例えば、
子供を育てるために離職したことに対して手当を出す国などもございます。③の方の国では、
男女とも働くことを前提に年金制度等が組まれておりまして、ただ
介護活動等が
社会的に行われるような仕組みをつくっているような国でございます。
②に行くのか、それとも③に行くのか。
日本の
方々の
意識等を考えますと、当面はまず②への移行かなというふうに思いますが、少子
高齢化、そして人口減少
社会を考えますと、方向としては③に行かないと
社会がもたないのではないかという気がしております。
日本の現状の制度、つまり私の解釈では①に基づく制度というのは、これがいいと思われる方が年輩の方に、あるいは中年の方にいたとしても、もたないだろうと思います。既に現実に主な稼ぎ手になれるだけの賃金を得られないフリーターが若者にふえていますので、たとえこの①の制度を維持してほしいと頑張っても、現実問題としては難しいでしょう。
フリーターが年間二千時間働いたとして、これは全くのフルタイム労働なのですが、年収は百六十万から二百万程度です。二百万程度で妻子が養えるでしょうか。今のままでは、主な稼ぎ手となれる、労働市場に入れる
男性が減っているので、これに付随して、将来、より合計特殊出生率は低下するのではないか。つまり何らかの手を打つ必要があるということを
感じます。
次に、レジュメの4に移ります。
これからの方向性ですが、レジュメの①に「「妻」優遇から「
児童ケア」優遇へ」と書いたのは、被用者の一定収入以下の妻に与えられている配偶者控除、配偶者特別控除、第三号被保険者の制度を、ケア
活動を実際に行っている者に対する恩典に組みかえて、ケア
活動に従事していない場合には、
基本的には雇用市場への参加を考えるということです。この組みかえが、単に
社会保険料や税額の免除あるいは控除という消極的評価のみでよいのかどうかですが、
子供のケアコストの負担はより積極的に、例えば給付の増加などに反映させるべきだろうと思います。
片働き世帯に限らず、
子供のコスト負担者に対する
社会保障給付の積み増しは共働き世帯にもされるべきと思いますが、共働き世帯により重要なのは
子供ケア施設の
充実ですので、共働き世帯に対してはこちらへの補助に比重を置くべきかと思われます。これが②に書きました「多様な
児童ケア施設の供給
体制の
整備、助成の拡大」でございます。
保育園が足りない分、現在無認可
保育園がふえております。もちろん、よい無認可
保育園もあるとは思いますが、
子供の育つ環境として到底足りないところも多いと思われます。助成が全くない中で
子供を預かり、都会で借りる高額な家賃まで出そうとすれば、アルバイト比率を高めざるを得ません。
子供の育ちを見守るというよりは、とりあえずけがをしないように預かる所がふえることは想像にかたくありません。しかし、それでは
子供の育ちには不十分です。
高齢者の年金は、新規裁定の厚生年金で見ますと月二十万円を優に超えております。また、厚生年金の積立金も十分あります。そして、実際に年金を受給された
高齢者の年金のかなりの部分は貯蓄に回っています。それなのに、財源がないということで、将来の年金の担い手である
子供が不十分な施設に預けられているという場合も多いのです。
また、
子育て中で所得が低い、例えばフリーターの夫婦も年金保険料が賦課されております。さらに、そのような現状を見込んで
子供をなかなか産まない、
子供が生まれないということは大きな問題ではないだろうかと思います。厚生年金の積立金の自主運用が
検討されているそうですが、
子供施設の
充実に運用の一部を回すべきなのではないでしょうか。
妻優遇の制度を廃止すべきということは先ほども述べましたが、これは、労働市場に戻る三十代以上の
女性が働くインセンティブを弱めることを通じて低賃金を助長しているからでもあります。そのメカニズムについては、事前配付いたしました「
日本労働研究雑誌」二〇〇一年四月号掲載予定の論文をごらんください。
私の感触では、末子年齢が上がるにつれて、例えば末子が八歳から十歳程度くらいでこの壁に突き当たる人が多いように思います。しかし、単に妻優遇の恩典を取り去るだけでは不十分です。こうした人々が積極的に労働市場に戻れる
政策をとらなくてはなりません。
私は、
一つは短時間公務員の制度はどうだろうかというふうに思います。公務員でなくてもよいのでしょうが、ファミリー・サポート・センターの
充実、
家庭、
保育園のネットワーク化などについて、
本当に
子育ての現場を知っている者が、特に供給側の主婦のサポートができる人材が
仕事に当たる必要があると思います。経験の長い保母の技能を生かすということもありますでしょうし、また、主婦層から人材を登用するということがあります。年功賃金の必要はありませんが、アルバイトではない形で、
責任がありまた評価もされる形で、さらに登用と昇進が可能な形で
女性の
視点を行政に生かすことが必要です。
最後に、働いていない主婦からは保険料が取れないという議論があります。私は、これは雑駁な議論なのですが、時間提供でもいいのではないかと思います。現在、夫の扶養から外れて健康保険、
介護保険、基礎年金の保険料を
自分が払うとしますと、最低で大体月二万円程度かかります。これは大体四日分の
仕事、収入と考えれば、
社会保険を払えない働いていない者の場合には、月四日役務提供するのでもよいように思います。役立つ
仕事は多くございます。そして、そのかわりに、それ以上に働きたい人に対しては年金保険料を払うことで将来年金の給付がふえる制度とするべきです。
御存じのように、現在の形では、サラリーマンの妻が年収百三十万円以上働きますと、大体の計算で、自治体によって違いますが、年間二十四万円程度の保険料負担が必要となりますが、年金給付あるいは健康保険、こういったものは被用者年金に入れない限り給付の方はふえないのです。
男女共生社会に向けての
政策は、既に
結婚、出産、離職、再就職などの
選択を行っている世代と、これから行う世代を対象としたものでは少し異なったものになるのではないでしょうか。三十歳代から四十歳代以上、つまり出産等の決定は既に行ったが、まだ老年期にまで間があり、今後の
選択を変え得る世代については、
子育て支援を
充実する一方で妻の身分を優遇する現状の制度を、より
個人の努力が反映する制度とし、妻の
能力をより活用し、雇用労働市場へ、また
社会へのより
均等な参加を可能とするようなことを前提とする制度に是正することを私は提言いたします。
一方、より若い、これから
選択を行う世代については、
仕事と
育児、
家庭生活のバランスを
男女ともにとることが通常の労働者にとって可能であり、そうした生活に魅力が
感じられる
社会に向けての
環境整備を提言いたします。つまり、非常に
子供が健康で、非常に
自分も健康で、もうどこまでも働ける人しか
仕事と
家庭が持てないのではなくて、普通の人がそれを持てることが必要だということです。
幾つか実態をお示しするために図表を持ってまいりました。これらはさまざまなプロジェクトの中で再集計を行ったものが多く、知られていない部分が大きいと思いますし、多少
説明が必要ですが、時間がなくなりましたので、質問の中でもお答えいたしたいと思います。(OHP映写)
簡単に申し上げますと、まず
最初の図1、表1、これはお手元にお配りしましたものですけれども、表1の方では左側が税額と
社会保険料になっておりますが、これは家計
調査の一九九五年の再集計でございますけれども、税金に比べて
社会保険料の負担が大変高いこと、そして、
社会保険料は
基本的には世代間の助け合いになっているにもかかわらず、
子供が多い世帯に対する考慮が全くされていないことが示されております。
上の図は、実線は私的な保険の累積保険料、波線は
社会保険の保険料、
子供数別にプロットしてあります。これで見るとおわかりになりますように、定義からして当然ですが、
子供数によっても
社会保険料はほとんど変わりません。一方、私的負担というのは、私的保険に加入できるのは
子供の少ない人でございます、加入累計が高いのはですね。
次の図に移りたいと思います。図3でございます。これは一九九六年の
調査でございます。なお、添付
資料に、どこからとったものであるかというのはOHP
資料としてつけてありますのでお断りいたしませんが、これは、
社会保障の経済的な分析研究会というか、私も入っておりましたので、全自治体にアンケート
調査をしたものから書いたものでございますが、待機
児童がどこで高いかというのを見ますと、関東1、これは東京圏です。それから近畿1、これは大阪圏です。つまり大都市、若い人がどんどん集まってくる大都市の
仕事のあるところで待機率が、特にゼロ歳、一歳、二歳あたりで高いということが示されております。
次の表2をごらんくださいませ。これは首都圏のA自治体の例とスウェーデンと対比したものです。一九七〇年代あるいは八〇年代の
子供数に対する
保育園入園者の割合をごらんください。スウェーデンでは七五年に一〇%、A自治体では八〇年に九%と、ほとんど差がございません。ところが、その後の十年で、スウェーデンは九〇年に四〇%、A自治体は一三%。そして、九〇年からさまざまな少子化
対策がとられ
充実が叫ばれはしたのですが、スウェーデンはその後も九〇年から九六年にかけて五七%に上昇しておりますが、A自治体では一三%から一四%に上がっているだけです。もちろんA自治体も努力はしているのだと思いますが、
充実が
本当に進んでいない状況というのがおわかりになると思います。
その下にあります一九九六年七%、二〇〇〇年一二%というのが、入れないで待っている人の入っている人に対する割合です。それから、その下の一九九六年六%、二〇〇〇年一一%というのが、入っている
子供に対する無認可
保育園に行っている
子供の割合です。この四年間でも、
子供が入れない、あるいは無認可に行くという状況がふえていることがおわかりになると思います。
最後のOHPは省略いたしますが、実はそのほかに幾つかOHPをつくってまいりました。時間の関係もあると思いますので、もしも質問がございますればですけれども、図5は、末子年齢が一歳上がるごとにどの程度
女性の
労働力化が進むかというものでございます。
図6は、第三号の妻と夫の収入の関係が上側、これ無業の場合。そして、末子年齢でどう
変化しているかということですけれども、ここで特に強調したい点は何かというふうに申しますと、今、第三号被保険者に保険料を賦課した方がいいという議論がございますが、夫の所得が高い層で無業が多いということは実際にあるのですが、それだけではなくて、
子供の幼い世帯での無業も大変多いということです。なので、それを一律に考慮しないわけにいかないということです。
次に、大変汚くて申しわけありませんが、図9は、これは第一号の妻と夫の年収、収入との関係でございます。妻の年収が百万以上百五十万未満の世帯、つまり妻が第一号になる可能性が高い世帯なので一応第一号と書いたのですが、これは夫年収が低い世帯に高いことを示しています。特に、
子供が十五歳以上の世帯等で見ますと、夫が被用者であるとすれば、夫の年収が低い世帯で第一号の保険料が妻によって負担されており、これは垂直的な公平性が保たれない状況というふうになっております。
簡単でございますが、御傾聴、長いことありがとうございました。