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国務大臣(
谷津義男君) 古賀議員の御質問にお答えをいたします。
まず、
農業者年金の破綻の根本原因と反省すべき点について、この認識についてのお尋ねでございます。
農林水産省は、
農業者年金制度を設計、運営する立場にあるため、不断に
農業者年金をめぐる
財政状況等について整理、点検をし、必要な制度改善を行いながら、健全な制度運営を図っていく責務があると考えております。
このため、これまでにも、五年ごとの
財政再計算等を契機に、その置かれた農政上、
年金財政上の課題のもとで、加入
促進、
給付体系の見直し、保険料引き上げ等で、できる限りの運営改善を図るための制度
改正を行ってきており、その過程では
国会での御審議をお願いしてきたところでございます。
しかしながら、新規
加入者の激減、保険料収納率の低下等が続き、
平成十二年の
財政再計算の結果を見ると、過去行ってきたような
現行制度の継続を前提とした制度改善では
年金財政の破綻を免れることはあり得ないと認識するに至ったものであります。
このような経緯の中で、農林水産省がその置かれた
状況のもとでできる限りの制度改善努力をしてきたとしても、結果的に見れば、
農業構造の
変化や年金
加入者数等の見通しが十分でなかった面があったと認識せざるを得ないと考えております。
今般、
国民の皆様や
加入者、
受給者の方々に
負担をおかけし、その御協力を得る形で抜本的改革を進めざるを得ない事態に至ったことにつきましては、率直に申し上げて、申しわけなく思っております。
また、新しい
農業者年金制度の
加入者数の見込みについてのお尋ねでございます。
新しい
農業者年金制度は、我が国
農業の担い手を幅広く
確保する観点から、加入資格を緩和し、農地の権利名義を有しなくとも
農業に従事する者であれば加入できることとしております。
このため、新制度移行後の当面の
加入者数については、
現行制度からの移行予定者として、保険料継続的支払い者等の約二十五万人に、新制度に新たに加入する者として、
現行制度未加入認定
農業者等の約四万人を加え、全体で約三十万人を見込んでおります。
今後、新制度の基本的な仕組み、メリット等を
農業者の方々に御理解いただけるよう制度の普及に努めてまいります。
続いて、
農業者年金の破綻は予測可能であったのに放置してきたとのお尋ねがございました。
先ほど御答弁申し上げましたとおり、農林水産省は、これまでにも、五年ごとの
財政再計算等を契機に、その置かれた農政上、
年金財政上の課題のもとで、加入
促進、
給付体系の見直し、保険料の引き上げ等、できる限りの運営改善を図るための制度
改正を行ってきたところであります。その過程で
国会にも御審議をお願いしたところでもあり、関係団体による運営改善努力とも相まって、収支均衡が図られるものと見通していたところであります。
しかしながら、新規
加入者の激減、保険料収納率の低下等が続き、このままでは
年金財政の破綻を免れないと認識するに至ったところでございます。
このため、新しい
農業者年金制度においては、これまでの反省に立って、長期的に安定した制度となるよう、
財政方式を賦課方式から積立方式に変更するとともに、幅広い
農業者の
確保に資するよう、加入資格を緩和し、農地の権利名義を有する者から
農業に従事する者であればだれでも加入できることとし、こうした改善
措置を講ずることにより、二度と同じ轍を踏まぬよう努力する考えであります。
次に、既に裁定を見た受給金額を減額するのは憲法が保障する
財産権の侵害に当たるのではないかとのお尋ねがございました。
一般に、
財産権は基本的人権として保障されていますが、
公共の
福祉を実現しあるいは維持するために必要がある場合には、
法律により合理的な範囲内で
財産権に制約を加えることは憲法上許容されるという基本的考え方が、累次にわたる最高裁判所の判例により示されております。
このうち、昭和五十三年七月十二日の最高裁判所大法廷判決は、
財産権の事後的な制約について、原則的な
基準を示しております。
すなわち、この判決では、
法律で一たん定められた
財産権の
内容を事後の
法律で変更しても、それが
公共の
福祉に適合するようにされたものである限り、これをもって違憲の立法ということができず、その場合、当該変更が
公共の
福祉に適合するようにされたものであるかどうかは、一たん定められた
法律に基づく
財産権の性質や、その
内容を変更する程度、さらには、これを変更することによって保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該
財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって判断すべき旨、判示しております。
今回の年金額の引き下げ
措置について、この最高裁判決で示された
基準に沿って検討しますと、年金額引き下げの対象となる年金は
経営移譲年金のみとしていますが、これは、老後の生活の安定への寄与のみならず、
農業経営の
近代化や
農地保有の
合理化といった
農業上の政策目的の達成という特別の性格を有し、その財源を専ら国庫助成で賄っているものであること、年金額引き下げの水準は、月額二千円から四千円で、高齢夫婦世帯の消費
支出の一%程度にとどまり、
農業者の老後の生活の安定が直ちに脅かされるものではないこと、年金額引き下げ
措置を講じることによって、
加入者の
負担能力の限界を超える保険料の大幅引き上げや、
国民一般の
負担のさらなる増加を避けることができることから、今回の引き下げ
措置は、
財産権に対する合理的な制約として、憲法第二十九条に照らしても許容されるものと考えております。
次に、既裁定の年金減額の論拠として、昭和五十三年最高裁大法廷判決を引用することについてのお尋ねがございました。
昭和五十三年七月十二日の最高裁判決は、国が買収により取得した農地を、自作農の創設等の目的に供しなくなり、もとの所有者に売り戻す場合の対価について、農地法上は買収の対価相当額となっていたものを事後の
特別措置法において時価の七割に改めたことが憲法第二十九条で保障する
財産権の侵害に当たるかどうかが争われた事案に関するものであります。
今回の
農業者年金の既裁定年金額の引き下げ
措置にかかわる
財産権は、この最高裁判決で争われた事案における
財産権と具体的な
内容等は異なるものの、この判決は、
財産権を事後に変更することによって保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該
財産権に対する合理的な制約として容認されるかどうかという論点の原則的な判断
基準を示したものであることから、この
基準自体は今回の
措置にも適用できるものと考えております。
また、農政全般に関するお尋ねとして、
農業再生に向けた政治のリーダーシップについてのお尋ねがありました。
我が国
農業につきましては、経済
社会情勢の著しい
変化等の中で、食料自給率の低下、
農業就業人口の減少と
高齢化の急速な進展といった問題が生じているところであります。
こうした
状況を踏まえ、今後の我が国農政の基本理念を明確に示すため、
平成十一年七月に食料・
農業・農村基本法が新たに制定され、さらに、翌年三月には、新基本法の理念を具体化するため、今後十年間の農政のビジョンともいうべき基本
計画を策定したところであります。
また、本年一月の中央省庁等改革において、新基本法に対応して、食料政策、
農業政策及び農村政策のそれぞれを効率的に
推進し得るよう、農林水産省の内部部局の抜本的な再編を行い、大臣、副大臣及び大臣政務官の指揮のもと、食料・
農業・農村政策を効率的かつ強力に
推進する
体制が
整備されたところでございます。
このような新たな政策理念、組織
体制のもと、私みずからが先頭に立って、二十一世紀における我が国
農業の持続的な発展と農村の振興を通じ、
国民に対する食料の安定
供給の
確保と多面的機能の発揮が十分に図られるよう、食料自給率の向上に向けた取り組みを初め、各種の施策を総合的かつ積極的に
推進していく考えであります。
あわせて、有明海のノリの不作に関連して、諫早湾干拓堤防の開門についてのお尋ねがございました。
今般の有明海のノリの不作の原因につきましては、現時点では明らかではなく、まず予断を持たないで徹底的に調査を行うよう
事務方に指示したところであります。私としては、調査のために設置した第三者
委員会の結論を最大限に尊重して対応してまいりたいと考えております。
最後に、減反政策を撤廃して余剰米をもみで貯蔵する、アジア食糧安全保障構想についてのお尋ねがございました。
米の生産調整は、需要に応じた
計画的生産を行い、米の価格の安定を図り、稲作経営の安定を実現していく上で必要な
措置でありまして、引き続き
推進していかなければならないものと考えております。
議員御指摘のアジア食糧安全保障基地構想は、多額の費用を要すること、我が国稲作
農業の構造調整にはつながらない等の問題点があるのではないかと思います。
しかしながら、国際的な食糧安全保障の立場からは検討すべき課題であり、昨年決定したWTO
農業交渉日本
提案におきましても、開発途上国の食糧安全保障上の要請に対応する観点から、二国間
援助のスキームを補完する手法として国際備蓄の枠組みを検討すべきであるということを
提案しているところでございます。
以上でございます。(
拍手)
〔
国務大臣坂口力君
登壇〕