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原科参考人 お手元の
資料をごらんいただきたいと思います。「
土地収用法改正案に関する
意見」ということでまとめさせていただきました。ちょっと
資料が多くて恐縮でございますが、頭のページを順に目で追っていただきたいと思います。
五つのポイントを書いてございますが、収用手続と申しますのは、お三方御
説明のように、
事業計画が長期にわたりますが、最近では平均十年ぐらいかかるということが先ほどございましたけれども、その最終
段階のものでございまして、通常は、この手続は、最終
段階、収用には半年あるいはトータル一年
程度で終わるものだと思います。ですから、期間全体では一部ではございます。
では、こういった収用手続が必要なものがどの
程度生じているかと考えてみますと、実は極めて例外的であるということでございます。
これも御
承知のとおりでございますが、「「
土地収用法の一部を
改正する
法律案」について」という参考
資料がございます。これを今回いただきましたけれども、これにも出ておりますけれども、収用手続、年二百件前後でございます。では、着手している
公共事業は全体でどのぐらいあるかこれは正確な統計はございませんが、最近の
公共事業見直しの
議論の中で五万から七万件という数字が出ておりますから、それを十で割れば五千から七千でございましょうか、あるいは、十年というのは平均ではないかもしれませんので、一万件
程度かもしれません。そうしますと、いずれにしても、二%とか、数%も行かない、極めて制限的なんですね。しかも、そのうち強制収用まで至るものは実際三、四件なんですね。ですから、今御紹介いただきました
日の出の例のようなものは、極めて例外中のまた例外でございますということをまず考える必要がございます。
公共事業の
効率化を図るという観点、これは極めて重要でございまして、
森地先生のおっしゃったとおりなんですが、そのためには、まさにこの収用手続に入る前の長期にわたる
事業計画の
プロセス、ここの部分の合理化を図らなければ、
公共事業の
効率化にならないわけです。ですから、観点をしっかり見詰めないと、これはおかしなことになってしまうんですね。これを申し上げます。
なぜ例外的な事情の収用手続に手間取るか。これも既にもう皆さん御
発言のとおりでございまして、
事業の
公益性が争点になるということで時間がかかってしまうわけですが、それが十分社会的に
合意が得られていないんですね。
日本のシステムは、その点で大変欠陥がある。これは、この中にも、あるいは建設省、現在の
国土交通省も、例えば建設白書の中にはそれが書いてございます。
そういった問題点を明確に指摘しておられますので、そのような
認識の
もとに
収用法の
改正ということを御
提案しておられるわけですが、しかし、これは対象を間違えておられるようでございまして、それであれば、
事業の
計画段階の
住民参加、
情報公開を徹底しまして、ここの
効率化を図れば、まさに一、二年の短縮は十分可能でございます。これは、私は
住民参加の研究で実際にやってまいりましたので明確に申し上げますが、これは可能でございます。ですから、そういった観点で見るべきであるかなと。
そして、三番目に書きましたが、では
現行法の意味合いは何か。これは、私は安全弁として機能していると思います。つまり、極めて例外的な事例でございますから、それには何らかの問題があるわけです。
公益性に関する疑念があるわけですね。そういうことを示すシグナル
効果があるんですね。しかも、非常に例外的ですから、
公共事業全体の中でいえば、それにかかる社会的
費用というのは非常に小さいわけですよ。
そんなことを考えますと、こういった安全弁としての機能がある今の手続、これを変えてしまうことは、むしろ社会的には大きなリスクを生じる可能性があるということを申し上げておかなければなりません。
先ほど
横島参考人が
土地収用法の限界ということでメモをお示しになっておられますが、理想的な
トラブル対応法であるとおっしゃっておられます。しかし、非
効率な
事業推進と言われました。それは、極めて例外的な事例に関して目を当てるからそうなるのでありまして、トータルシステムについて見ますと、これはそうじゃないんですね。
つまり、社会システム安定のためには、こういった非常に問題が大きいものに関しては、こういったことは起こり得ますけれども、それは非常に少なくて、一千分の一、一万分の一ぐらいです。むしろこのような例外的な
ケースには、
国民の声に耳を傾けるべきなんです。
小泉内閣はその意味ではまさに
構造改革を言っておられますから、
構造改革のための
情報提供の
一つのツールなんですよ。この点はしっかり見きわめるべきだと私は思います。ですから、
現行法の
改正はむしろリスクが大きくなると思います。
例えば、手続の簡素化ということでございますが、それはむしろ
国民の反発を生みまして、結果的には時間的に手間取ってしまって、コストが余分にかかる可能性が出てまいると思います。
では、
欧米ではどうなっているか。先ほど
フランスの例を御紹介になったとおりでございます。前
段階でしっかり時間をかけて
情報公開と
住民参加をやっております。アメリカはどうか、アメリカはまさにその最先端でございまして、ですから収用手続が非常にスムーズですね。
前段に時間をかけているからです。これが極めて重要なんですね。しかも、アメリカの場合には、司法
制度がしっかりしておりますから、
前段で、
国民的に
合意された
公益性に対応した判断を
事業者がしない場合には、裁判で、
行政訴訟で訴えられるんです。この両面があるんですね。
ですから、
公益性を、
国民的
合意を得た上で、これに対して適正な判断をしたかどうかの確認も、そういったチェックができる。チェック・アンド・バランス機構がきちんと機能しているわけでございます。ですから、収用手続にそんなに手間取らないんですね。
先ほど、
後段で随分時間がかかる場合がある、そのとおりなんです。それは極めて例外的ですから、全体のシステムで見ればそんなにしょっちゅう起こることではございません。
それで申し上げたいんですが、ちょっとお手元の
資料、二枚目、三枚目、四枚目、五枚目、用意しましたのでちょっと御紹介いたしますが、二枚目には、これは朝日新聞の「オピニオン」という欄に書きました。
土地収用法改正案の是非について
議論しております。
今、
事業認定手続に関しまして、
公聴会を義務づける、あるいは
説明会でございますが、これはもちろん必要なことでございますけれども、これは言ってみれば
住民参加のシステムの中の部品なんですね。
住民参加の本質は何かといいますと、そういった
公聴会とか
説明会による
情報提供を相互にやっていって、きちんとフィードバックすることです。
公聴会をやったのであれば、それに対して、
国民の
意見にきちんと答える、文書で答えるんですね。そういったフィードバックのシステムがなければ、これは有効には機能いたしません。ですから、今の
改正案は不十分でございます。
そして、しかも、安全弁として機能しています
後段の部分ですね。そこのところで手続の簡素化をしてしまいますと、これが安全弁でなくなっちゃいますから、先ほど申し上げたように、リスクが大きくなります。
意見はこれを読んでいただきたいと思います。
その次に、日刊工業に出ました記事でございます。
環境アセスメントというのは、例えばそういった意味で大変に具体的なわかりやすい例だと私は思いますが、
日本の
制度の中で、そういったフィードバックがきちんとできるもの、辛うじてそういった
仕組みになっておりますのは、唯一アセスメントの
制度だけでございます。つまり、ちゃんとレスポンスすることがシステムとしてできているんですね。
これをさらに進化させたものが、例えばアメリカのNEPAの
制度です。
次のページには、私、アセスメントの研究が専門でございますので、その私の拙著からちょっと引用させていただきましたけれども、NEPAの
制度をフローチャートでごらんいただきます。これだけ丁寧なフィードバック
プロセスがございまして、
意見を出して、それに対してパブリックコメント、これにレスポンスする。この場合、通常都合四回のフィードバックがあります。それだけの丁寧なやりとりをしますので、
公益性の判断ができるんですね。社会的
合意が成り立つわけですよ。ここまでのことをやらないで、最終
段階の
収用法だけいじってもおかしなことになってしまいます。
それから
最後に、これは朝日新聞の社説に出ておりますけれども、
公共事業の転換ということは、これはもう世論の大きな要請でございますから、
公共事業をまさに峻別するためには、そういった
計画決定手続にきちんと民意を反映させる、そのための手続を
整備することでございます。
具体的にどんなことがあるかということで、例えば長野県の廃棄物処理施設の問題ですが、中信地区で私が今関与しております具体例、これは最新の例でございますが、この検討
委員会はまさにそういった方向を志向したものでございますので、こういったものも
資料としてつけさせていただきました。
そのほかいろいろございますけれども、とるべき道について、
最後にまとめて申し上げたいと思います。
まず一点は、全体のシステムをトータルでとらえる視点を持っていただきたい。まさにこれは国会のとるべき道ですね。そのためには、まず
現行法の有しているプラスとマイナスを比較考量していただきたい。私は、社会システムの安全弁としての機能は大変大きい、それに比較して、コストは
公共事業全体で見たら非常に微々たるものであるということをまず申し上げます。
それから二番目に、むしろチェック・アンド・バランス機構をきちっと
整備するためには、
行政訴訟法の
改正ですね。例えば
事業認定に対して裁判が、これは疑義があるという場合に、今裁判している最中なのに
事業の執行がとまらないというようなことがあります。これは極めておかしなことですね。ですから、その期間は当然とめるべきです。
さらには、
公益性の判断というのは、
国民だれしもがこれに対して
意見を持っているはずでございますから、原告適格性を当然拡大するべきでございますから、こういった
行政訴訟法の
改正があって初めてチェック・アンド・バランス機能がきくわけであります。
それからもう
一つは、
事業の
計画の
決定過程での
住民参加システムの充実でございます。
このためのテクノロジー、私は社会工学をずっとやってまいりましたので、随分こういったテクノロジーの蓄積がございますので、そういったものを実際にこれから活用していっていただきたいと思いますけれども、そういうシステムづくり、これも早急にやるべきでありますし、そのための準備は、我が国も、我が社会も十分できていると思います。
そして、さらに言うならば、これにあわせて一般法としての
行政手続法の
改正でございます。
これは、一九九三年に
行政手続法ができましたけれども、そのときに大きな問題点が二つありました。
一つは、透明性を高める。
行政の裁量を減らそうということですね、手続をスムーズにする。
もう
一つあったんですね。これは、
行政立法とか
行政の
計画決定、これに関する
住民参加、
国民参加、この手続の
議論、随分されました。皆さんも御記憶かと思います。ところが、そのときは時期尚早という
議論でございました。
その後、
情報公開法がこの四月に全面施行されましたし、それからアセスメントの
法律も、これも二年前には全面施行されております。つまり、社会の
状況は変わってきたんですね。ですから、今こそ
行政手続法の
改正が可能になるということでございますから、そういったことをあわせてやること、これが私はとるべき道だと思います。
ですから、言うなれば
現行法の
改正は十年は早いんじゃないかと思いますね。まずこれはストップして、安全弁を残しておいて、そしてしかるべく措置をぜひとっていただきたい。
以上でございます。