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2000-11-16 第150回国会 参議院 法務委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十二年十一月十六日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         日笠 勝之君     理 事                 石渡 清元君                 久野 恒一君                 佐々木知子君                 江田 五月君                 魚住裕一郎君     委 員                 阿部 正俊君                 岡野  裕君                 鴻池 祥肇君                 竹山  裕君                 小川 敏夫君                 竹村 泰子君                 角田 義一君                 橋本  敦君                 福島 瑞穂君                 平野 貞夫君                 斎藤 十朗君                 中村 敦夫君    衆議院議員        発議者      麻生 太郎君        発議者      杉浦 正健君        発議者      谷垣 禎一君        発議者      漆原 良夫君        発議者      高木 陽介君    国務大臣        法務大臣     保岡 興治君    政務次官        法務政務次官   上田  勇君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局家庭局長   安倍 嘉人君    事務局側        常任委員会専門        員        加藤 一宇君    政府参考人        警察庁長官官房        犯罪被害者対策        室長       安田 貴彦君        警察庁生活安全        局長       黒澤 正和君        法務省刑事局長  古田 佑紀君        法務省矯正局長  鶴田 六郎君        法務省保護局長  馬場 義宣君        文部省生涯学習        局長       崎谷 康文君        厚生省児童家庭        局家庭福祉課長  萩原 英俊君        厚生省年金局長  矢野 朝水君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○政府参考人出席要求に関する件 ○少年法等の一部を改正する法律案衆議院提出  )     ─────────────
  2. 日笠勝之

    委員長日笠勝之君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  政府参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  少年法等の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会警察庁長官官房犯罪被害者対策室長安田貴彦君、警察庁生活安全局長黒澤正和君、法務省刑事局長古田佑紀君、法務省矯正局長鶴田六郎君、法務省保護局長馬場義宣君、文部省生涯学習局長崎谷康文君、厚生省児童家庭局家庭福祉課長萩原英俊君及び厚生省年金局長矢野朝水君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 日笠勝之

    委員長日笠勝之君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  4. 日笠勝之

    委員長日笠勝之君) 少年法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  5. 久野恒一

    久野恒一君 自由民主党の久野恒一でございます。  私は法律のことはよくわからないでこの委員会に入っているわけでございまして、質問の内容が素人じみた質問になろうかと思います。また、各先生方に過去二回でもってほとんど専門的なところをやられてしまったわけでございまして、そういう意味では、私の質問というのは、むしろ国民の意見を代表したと言うとオーバーかもわかりませんけれども、そういうような平たい質問になろうかと思います。お気軽な気持ちでもってお答えをいただければ幸いだと思います。  早速、質問に入らせていただきます。  まず、単純な質問で申しわけないのでございますが、ノーマライゼーションということで、健常者はもちろんなんですけれども、身体障害者精神障害者あるいは感染症をお持ちの方、いろんな方々が世の中には生活するわけでございます。それによって社会保障というものを、そういう費用全体を落としていこうというのがねらいだそうでございますけれども、そういう意味で、精神異常の方は罪を犯しても無罪になるケースがある、そういうものに対してどのような解釈の仕方をしたらよろしいのかまず御質問したいと思いますので、よろしくお願いをいたします。障害をお持ちの方が罪を犯しても無罪になる、無罪と言ってはあれですけれども、犯罪を問われない、そういうケースがある。法務省の方に。
  6. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 御指摘のように、精神障害のために物事よしあし判断しあるいはその判断したところに従って行動する能力がない、こういう場合には法律非難を加えるわけにはいかない、そういうことで無罪ということになるわけでございます。  こういうことで無罪になった人についてどういうふうな措置がとられるかということでございますが、現行法上は、検察官から都道府県知事に通報をいたしまして、精神衛生上の、例えば入院でありますとか、そういう措置がとられるということになっております。
  7. 久野恒一

    久野恒一君 まずそこから入りましたのは、精神障害者の場合にもそういうことがあり得るということでございまして、私は、今の子供たちというのは割と罪の意識がなくて、正しいことをやっているとまではいかないまでも、何だかわけがわからないうちに罪を犯してしまう、そういうケースもあろうかと思います。そういう意味では、ある意味では精神障害なのかもわかりませんけれども、それを意識していない、そういうケースもあろうかと思うわけでございまして、精神的に未熟である。  そういう意味におきまして、自分で全然罪の意識を持っていないのにある犯罪を犯してしまった、そういう少年に対してどうお考えになっておられるのか、法務省の方にお願いいたします。
  8. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 先ほど申し上げましたいわゆる精神障害によって無罪となるというケースの場合は、病気とかそういうことで物事判断をする能力というのが失われてしまう、あるいは判断したところに従って行動する能力というのが失われてしまっているという場合でございます。  御指摘のように、年少者などの場合には、もちろんある程度いい悪いとかそういうことはわかっている、しかしながら自分の欲望のままでふと何かをやってしまうということもこれまたあるわけでございます。そういうことから、刑法上は年少者に対していわば非難を加えると申しますか刑事法責任を問うことができる年齢というのを決めておりまして、現在は十四歳以上についてそういう責任を問うということにしてあるわけです。  ただいま委員指摘の件は、罪の意識がなくてやってしまうというよりは、いい悪いはわかっているはずなんだけれども、言ってみればその重さというのをきちっと感じていないというふうな問題ではなかろうかという気もするわけです。こういうことでありますと、少なくともいろんな意味での能力という意味では、いい悪いということを判断する、あるいはそれに従って行動しなければならないんだということはわかっている、ただその重さというものの自覚がどうも乏しいのでそういう行動に出てしまう、そんなようなケースが想定される。これはいわゆる精神障害とかそういうものとはやや違った問題であろうというふうに考えております。
  9. 久野恒一

    久野恒一君 ありがとうございます。  確かに、そういうよしあしはわかっているのは大体見当がつきます。しかし、罪の重さといいますか、その判断がつかない。そういう意味で、十四歳以上の方でもよしあしはわかっていて、それである犯罪を犯してしまった、これはある程度ペナルティーというものが課せられても仕方ないと、そういうふうに思います。  そこで、罪の重さ、そこまではわかっていないが、やはり自分のやってしまったことに対して、その責任能力といいますかペナルティーの重さを、やってみて初めてああそうだったかというときには、そのペナルティーの重さというのは後になってわかるものだと思います。それに対して、微妙な判断能力といいますか、そういうものが多少現実とずれていた場合、その責任能力というものをどのように判断して子供に科したらいいのか、その辺のところをどうお考えになっているのか、法務省の方にちょっとお尋ねいたしたいと思います。
  10. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) ただいま委員お尋ねの件につきましては、やはり何らかの意味で未熟さがあって、判断能力あるいはその判断したところに従って自分をコントロールする能力とでも申しましょうか、そういうものがいわば大人に比べてやや足りないということであろうと思うわけですけれども、そういうことを考慮して、少年については現在少年法によって保護処分というようなことを原則といたしまして、そういうふうな能力の成熟を図るということを考えているわけでございます。  ただ、そうは申しましても、少年法自体でいわば刑罰を科するということも認めているわけでございまして、その考え方にはいろいろあろうかと思われるわけですが、先ほど委員からも御指摘がありましたように、実際にペナルティーといいますか、刑を科されて初めて自分のやったことの重さについての自覚が生ずるということもこれまたあり得ることでございます。ただ、その場合にも、刑につきましては成人と比較していろんな意味で緩やかな刑を科す、そういうことによっていわば未熟さのゆえに犯した犯罪について法律上考慮することを決めているというふうに理解しているわけでございます。
  11. 久野恒一

    久野恒一君 ただいまその人個人個人によって対処の仕方が違うようなニュアンスのお答えがございました。そういう意味では、その個人個人判断というものがどの程度までペナルティーに耐えられるか、その人の感受性のあれもありますけれども、そういう判断基準というのは何かあるんでしょうか。例えば、保護観察官みたいな方がこうした方がいいとかああした方がいいとか、相談員みたいな方がおられまして、その人の指示によって多少対処の仕方が違う、そういう判断基準というものですか。大臣、よろしくお願いします。
  12. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) 今、久野先生がいろいろ御質問のことは、やはり少年非行犯罪あるいは成人の場合も非常に重要なテーマだと、先ほど問題を取り上げられた視点を私は大変敬意を表して伺っておりました。  最近の犯罪は、成人の場合も精神障害に起因すると思われる犯罪も多いわけです。そして、少年の場合も同様な傾向が見られないことはない。ただ、先ほどから刑事局長が申し上げているように、刑法上は、刑事責任能力というと、無責任というのは全く判断能力を欠くというようなケースであって、それは例えばもう精神分裂みたいな状況、幻覚というか妄想、そういったことなどで全く人間としての判断ができない状況にあるというような極端な場合は刑事責任能力がないから無罪になる。無罪になった場合は措置入院などで、こういう重大な犯罪を犯した、例えば殺人とか放火というのもあるわけです、精神障害者犯罪に、そういう場合に措置入院などで一般病院対応というか処置をゆだねるというようなことが、非常にこれは大きな問題でございます。  従来、そういう場合には保安処分ということを一時法務省考えて、提案というか刑法改正の案としてまとめようとした経緯もあるんですが、これは精神学者とか、また人権の配慮を強く求めるというか、その点についての懸念を表明されて、弁護士会などに反対があったりして、これは実は実現しなかった経緯があるわけでございます。私は詳しくは存じませんので、今申し上げたことが全く正確であるかどうかはちょっと自信が持てないが、私の記憶ではそういうことでございます。  そういうことを含めて、少年犯罪の場合ももちろん少年鑑別所心理学者とかあるいは精神医学専門家がいろいろ少年犯罪に至った原因を幅広く調査し、専門的な観点から検討するわけですね。そういうことは行われているんですけれども、少年院においてはそういう精神障害で無責任であればこれはもう処分できませんから、先ほど申し上げたように、措置入院精神病院にゆだねられるという仕組みになっているんですけれども、多少なりとも刑事責任能力はある、しかし精神障害者とかあるいは精神にいろんな問題があるというような方の少年院における処遇において、そういう心理学精神医学専門家を配してもっと充実しなきゃならないんじゃないかとか、あるいは少年刑務所においてもそうだし、また医療少年院における精神障害者に対する対応の強化とか充実とかこういったこともあるだろうと思いますし、成人における受刑者精神障害という観点からの治療とか対応、こういったものに専門スタッフを強化する、あるいは施設を強化するなど、対応すべき問題が我々に課せられた大きな課題としてある、そういう認識でおります。
  13. 久野恒一

    久野恒一君 大臣、大変御丁寧な答弁、ありがとうございました。  一般病院に関しましてはまた後で触れさせていただきたいと思います。  そこで、もう十四歳となりますと、昔も今もそうかもわかりませんけれども、立志式というのを今でもやっております。中学校の二年生のときですね。私もそういうところへ出まして、昔の元服だからもう一人前になったんだよなんていうあいさつをしたこともございます。そういう中で、しかし一方ではまだ中学二年生でございますから、過保護と言ってしまえば過保護かもわかりませんけれども、やはり精神的に未熟な面もあろうかと思います。また、感受性も高くてちょっと傷つきやすい点もあろうかと思います。  そこで、矯正施設についてお尋ね申し上げたいんですが、矯正施設医療体制ですが、今、精神心理学者もいるし、あるいは心理学者精神分析者もいるという大臣からの御答弁だったんですけれども、そういう意味矯正施設医療体制はどんなふうになっているのか、ちょっと私知らないもので、お聞きしたいと思います。
  14. 鶴田六郎

    政府参考人鶴田六郎君) お答えいたします。  矯正施設における医療体制ということで概略申し上げたいと思いますけれども、まず少年の場合におきましては、少年院における医療体制としては、一般少年院におきましても医務課というものがございまして、医師等を配していろいろな疾病治療に当たっておりますけれども、心身に著しい故障がありまして一般少年院では十分な治療が実施できないというようなことになりました場合には、専門的、集中的な医療措置を必要とする少年について、医師看護婦等医療関係職員が複数配置されている医療少年院に移送しまして、そこで治療を行うという体制になっております。  他方刑務所につきましてですが、刑務所におきましても、大きい刑務所には医務部という部がございますし、またそれ以外の刑務所には医務課というものがありまして、それぞれそこに医師等を配置して受刑者治療を実施しているわけでございますけれども、刑務所で十分な治療ができない患者につきましては、より専門的、集中的な治療を行う医療刑務所というものがございますので、そこでそういった治療を実施する体制をとっておりまして、それぞれ少年矯正成人矯正の場におきまして疾病にかかった被収容者が十分な医療措置が受けられるよう努力しているところでございます。
  15. 久野恒一

    久野恒一君 矯正施設では間に合わないところは医療少年院あるいは医療刑務所といいますか、そういうところでもって対応すると。大体医者の数とか看護婦の数なんというのは十分そろっているんでしょうか。
  16. 鶴田六郎

    政府参考人鶴田六郎君) お答えいたします。  現在の現状について申し上げますと、少年院関係医療少年院も含めて、また一般医療職員も含めて、お医者さんの数は七十四名です。他方刑務所等のいわゆる成人矯正を預かる施設におけるお医者さんの数ですが、これは医療刑務所及び一般刑務所も含めて二百二十四名のお医者さんがおられます。
  17. 久野恒一

    久野恒一君 思ったよりもお医者さんの数が多いということで、十分にいっているかどうかは別といたしましても、本当に十分そろっているのではないかなというふうに今拝聴いたしました。  そこで、お医者さんはそろっていらっしゃいますけれども、その中で専門性のある心理学者精神分析医、そういう方々もいるというふうに判断いたしますけれども、十分に間に合っていらっしゃるというふうにお考えなんでしょうか。
  18. 鶴田六郎

    政府参考人鶴田六郎君) お答えいたします。  精神的に障害のある受刑者あるいは少年院在院者という者に対する治療につきましては、先ほど申し上げましたように、専門的、集中的な治療を要する場合は医療少年院あるいは医療刑務所対応するわけですけれども、その治療には、専門的な精神医のほかに、それを補助する心理学あるいはそういった専門的知識を有する職員による治療的な対応といいますか、そういうことも必要でございます。ある程度の数はおりますけれども、より治療を充実したものにするためにはそういったものも今後強化していくというか、充実していくように努力していかなければならないなというふうに思っております。
  19. 久野恒一

    久野恒一君 これからは十四歳という小さな少年が入っていくわけでございますので、その場合、刑務所じゃないですけれども、十分に温かい見守りをぜひしてあげてほしいなというふうに思うわけでございます。  さてそこで、そこに入っている人の治療費なんですけれども、大抵犯罪を起こす前は十分な医療費というのは納めていたと思うんです。入った後は、お世話になった後は医療費というのはどこで支給されるのか、保険で適用されるのか、あるいは国で面倒を見ていただけるのか、その辺をちょっとお聞かせ願いたいと思います。
  20. 鶴田六郎

    政府参考人鶴田六郎君) お答えいたします。  矯正医療にかかる費用はすべて国が国の予算でやっております。
  21. 久野恒一

    久野恒一君 そこで、一般的な病院の話になっていくわけなんでございますが、その医療刑務所や何かでもって対処し切れなかった場合、例えば手術を要する、途中でもって脳腫瘍になって頭の手術をやる、あるいはおなかの手術をやるようになる、いろんなケースがあろうかと思います。  そこで、医療刑務所あるいはそういう施設内の医療施設で十分に対応できない場合にはどういうふうな方向になっていくのか。一般民間病院あるいは国立病院に移る場合もあろうかと思います。その場合どういうふうに対応しておられるのか、お尋ねいたします。
  22. 鶴田六郎

    政府参考人鶴田六郎君) お答えいたします。  これまで申し上げたように、原則として被収容者治療施設医師が行うこととしておりまして、より専門的な治療が必要だということになれば、医療少年院なり医療刑務所で専門的、集中的な治療を行うという体制になっております。  ただ、委員が今お尋ねになりましたように、緊急に医療措置を施す必要があったり、あるいは医療少年院医療刑務所に移送するいとまがない場合とか、あるいは特殊な疾病であるとか特殊な医療技術を必要とする、そういった事情があるため矯正内の医療専門施設で適切な医療を施すことができない場合もございます。そういった場合には、外部専門医師の診察を受けさせ、あるいはまた一時外部病院入院させるといったようなことで医療措置に万全を期しておる、そういうことでございます。
  23. 久野恒一

    久野恒一君 ありがとうございます。一般医療施設にも移り得る、その場合には国費でもって治療費は面倒を見るというお話でよろしゅうございますね。  そこで、今までは家庭に入っておりまして扶養されておったわけでございますが、ある長期、終身刑といっても有限なんでしょうけれども、そういう場合、家庭では子供さんを面倒見ないというとおかしいですけれども、子供さんが家庭にいないで少年院鑑別所あるいは少年刑務所に入っている、その場合にいわゆる扶養控除というのがあるのかどうか、ちょっとお聞きしたんですけれども、大蔵省の方はきょうはIT革命の方の会議でもって答弁者がいないということで御答弁願えなかったんですが、扶養控除はされないということをはっきりと委員会でも伝えてくれと言われたもので、ここで発表いたしますけれども、片方では少年院あるいは少年刑務所に入っている、片方では終身刑で入っていないのにもかかわらず、それなのに扶養控除をされているというのはおかしな話じゃないかということを申し上げたかったんですけれども、きょうは大蔵省の方がいらっしゃらないので、そういうことで。  また、勤めているサラリーマン扶養になっている場合には医療保険も入っているわけでございますから、そこでお聞きしたかったわけでございますが、この問題は、ただ、今言ったように扶養控除はなしになるということでもって答えておいてくださいませんかということで、そこの点は一応伝えるだけは伝えて、そのかわりに国でもって面倒を見るという医療保険制度でいいんじゃないかなというふうに思っております。  次に、二十を過ぎるとすべての国民年金を納めるようになります。国民基礎年金でございますけれども、そういう年金はすべての国民が二十以上になったら納めるということが原則でございます。これが服役を終えて社会に出ます。そうすると、三十歳、四十歳になって出る場合もあろうかと思いますけれども、かなり年金の支払いがおくれてしまうのではないか、その場合には老齢基礎年金に支障を来すのではないかなというふうに思うわけでございます。年金制度について、ある程度服役した、少年院あるいは少年刑務所に入って十年、十五年過ぎて、出てきたときにはかなり掛けるお金が不足している、そうすると老齢基礎年金にも影響してくるんじゃないかな、そういうふうに思うわけでございまして、これは厚生省に。
  24. 矢野朝水

    政府参考人矢野朝水君) お答え申し上げます。  国民年金は二十歳以上の方が強制加入ということになっておるわけでございます。これは刑務所などに入っている場合も当然適用対象になるわけでございまして、刑務所に入っている間にも手続をとっていただいて保険料を納めていただく、あるいは収入がないということであれば免除の手続をとっていただく、こういうことになっております。  それから、こういった手続を講じていないというケースもあろうかと思います。そういった場合、三十歳あるいは四十歳になって初めて社会に出てくる、この場合どうなのか、こういう問題があろうかと思います。これにつきましては、社会に復帰してから、サラリーマンであれば厚生年金、それから自営業ですとか無業の方、こういった方は国民年金に加入する、こういうことになっているわけでございます。そして、老齢年金受給資格というのは二十五年でございます。したがいまして、三十歳で社会に復帰されて、今六十歳までということになりますと、期間が三十年あるわけでございますので、そのうち二十五年加入していただければ受給権が生じるということでございます。それから、六十歳でまだ受給権が生じていない、こういった方は六十五歳なりあるいは一番最長の場合は七十歳まで加入できるという道もございます。したがいまして、その間に二十五年の受給資格を満たすということはそう難しい話じゃございませんので、年金受給権を得るということについては問題はない、そういう判断をいたしております。
  25. 久野恒一

    久野恒一君 この問題はこの法務委員会では余りやらない方がいいと思いますので、この程度でやめさせていただきますけれども、これにもいろいろと問題があろうかと思います。  そもそもノーマライゼーションというものが、いろんなところでもって障害が来るんだということを私はこの法務委員会に入りましてよくよくわかったわけでございます。そういう意味では、少年院あるいは少年刑務所に入っているときに手続をとると。子供ですから、その手続のとり方もわからない、そういう場合もあろうかと思います。二十になってから手続をとるといってもうっかり忘れてしまう、こういう場合もあろうかと思います。そういうことで、自動的にそういうものが、後でもって、刑期を終えて出てきてから、社会復帰してから納めればいいんだということをやっていただかないと、これはいつまでたってもおくれてしまいますので、そういう点をよろしくお願いしておきたいと思います。  そこで、それをやっておかないと、将来、社会復帰してから医療、福祉が一割負担になってしまいます。今までは家族の場合だと三割負担だったのでございますが、これがにわかに独立すると一割負担になってしまう。老後、そういうときに二十五年支払っていればよろしいという矢野局長からお話がございましたけれども、この六万何千円かで、一割負担でやっていけるのかどうか。これは別問題としてディスカッションする場がまたあろうかと思いますので、きょうはやめておきます。  いずれにいたしましても、そういう基盤整備というものを、二十になったら自動的にもう将来掛けますよということを言っておいていただかないと、いつまでたっても、社会復帰してからも掛け忘れてしまう。また、こういう方々社会復帰した後就職できるとは限りません。できない場合の方が往々にして多いんじゃないかなというふうに私は思います。そうなりますと、余計老後もみじめな思いをしなければならないんじゃないかなというふうに感ずるわけでございまして、そういう意味では、そういう基盤整備というものを、二十になったならばもう掛けるということを、簡単な同意書ぐらいでもって代理人に年金の掛け方の申請をしておく、そういうことも基盤整備の一つとして大事なことではないのかなというふうに思っております。  世の中に出てそういう温かい目で迎え入れられないと、社会でもって迎え入れられないと、その人は余計また犯罪を犯す原因になってしまうんじゃないかなと危惧するわけでございまして、そういう基盤整備というものをしっかりとしておいていただきたいなと。もしどなたか、社会保障制度についてそういうものをつくっていただけるルールというものをやっていただければありがたいと、こういうことでございます。年金局長、申しわけないんですけれども、もう少し温かい制度づくりというものをしておいてほしいなというふうに思うわけでございますが、もう一度よろしくお願いします。
  26. 矢野朝水

    政府参考人矢野朝水君) 先ほど年金の場合について御答弁申し上げたわけでございますけれども、それ以外の医療保険、それから介護保険、そういったほかのいろんな社会保障施策につきましても、今お話がございましたような刑務所等に収容されていた方、こういった方については一切不利益な取り扱いはしておらない、一般国民の方と全く同じような取り扱いになっておるわけでございます。  健康保険につきまして申し上げますと、これは一般の方と同様に、これは退所後でございますけれども、サラリーマンであれば健康保険に加入していただく、自営業とかあるいは無職といった場合には国民健康保険に加入していただくということでございまして、これは繰り返し申し上げますけれども、一般の方と全く同じ取り扱いでございます。  それから、介護保険でございますけれども、これに加入していただく方は四十歳以上の方ということになっておるわけでございます。したがいまして、三十歳とか三十五歳とか、要するに四十歳未満で社会復帰された方につきましては介護保険に加入する必要はないわけでございます。それから、収容期間がかなり長期になるということで四十歳を過ぎて社会復帰された、こういった場合には医療保険に加入することによって介護保険の第二号被保険者となるわけでございまして、これは一般の方と全く同じ取り扱いでございます。  それから、先ほどこういった医療保険などの自己負担なり保険料負担なりについての御指摘もあったわけでございますけれども、こういった問題につきましても一般の方と全く同じ取り扱いになっているわけでございまして、刑務所等に収容されておったからといって不利な取り扱いがされておるわけではないということでございます。
  27. 久野恒一

    久野恒一君 済みません。法務委員会矢野年金局長質問し合うとは思わなかったんですが、いずれにいたしましても、私はそちらの方ばかり考えておったもので、こういう結論になって申しわけございませんでした。  話は違いますけれども、先日、結婚式へ行ったわけでございます。そのときに、相手の方が中学校の先生でして、校長先生と教頭先生がそこに主賓で来ておられました。その学校は卒業式のときに国歌を歌わせないんですよ。変なところもあるものだなと思って、私はちょっとその校長先生に聞いたんです。先生、少年法が改正になるけれども、先生はどう考えますかと私が聞いたら、その先生いわく、しようがないですね、今のままでは手の打ちようがないんですよ、何かしてもらわないとどうしようもない、そういう答えでございました。  そこで、その先生がおっしゃるように、やはり何かしらここでもって区切りというか歯どめというものをかけておかないと、世の中はますます荒廃してしまうんじゃないかなというふうに思うわけでございまして、この少年法というものをやった以上は、やはり温かい気持ちでもって世の中全体が受け入れる体制づくり、そして何か歯どめ、すなわち少年法の改正をやるべきだと思っております。  次に、ここに十一月二日の日経新聞のコピーがございますけれども、これを見ますと、児童虐待相談、そういうものが一万件を超す、何と去年の倍ぐらい児童虐待がふえているわけでございまして、こういうのも親の責任なのかな、そういう意味では教育問題も含めてやはり我々が考えていかなくちゃならない問題がたくさんあろうかと思います。  そこで質問なのでございますが、児童虐待に対して、親に対する対応、これを文部省ではどういうふうになさっておられるのか。これがやっぱり少年犯罪につながっていくんではないか、ちょっとうがった見方ですけれども、つながっていく可能性もある、そういう意味を込めまして、親に対してはどのようにこれから対応していこうとなさっているのか、文部省の方にお答え願いたいと思います。
  28. 崎谷康文

    政府参考人崎谷康文君) お答え申し上げます。  最近、家庭教育の機能が非常に低下をしているということを指摘されておりまして、児童虐待が起こるというのもその一つのあらわれかと考えております。  文部省としては、家庭教育というのはすべての教育の出発点であるというふうに考えておりまして、基本的な生活習慣、他人に対する思いやり、善悪の判断などの基本的な倫理観、社会的なマナーなど、人間として生きる力の基礎的な資質、能力を育成する非常に重要な役割を果たすものでございます。しかしながら、都市化、核家族化、少子化等に伴いまして、過保護、過干渉、育児不安の広がり、しつけへの自信の喪失などの家庭の教育力の問題というのがございます。  子供のしつけのためには、幼少時期は特に家庭が中心に、そして学校へ行くようになると学校と連携をして取り組むことが重要でございますが、家庭教育を支援する取り組みとしまして、親の悩みや不安にこたえるための家庭教育の相談体制の整備、それから特に父親が家庭教育に参加していくようにさまざまな講座等をやっております。そのほか、広く家庭教育に関する学習機会の充実に努めております。また、各県に委嘱をしまして、子育てサポーターというような方を配置して子育ての支援のためのネットワークの形成などをやっております。  昨年からは乳幼児や小中学生を持つすべての親に対して家庭教育手帳、家庭教育ノートというものを配付しておりまして、会話をふやして家族のきずなを深めるというようなこと、しつけや家庭のあり方について愛情を持って育てることなどについて盛り込んでおるところでございます。  今後とも家庭教育の支援施策の充実に努めてまいりたいと考えております。
  29. 久野恒一

    久野恒一君 そういう手帳を通じてこれから家庭教育というものを充実させていってほしいと思います。  最後に、大臣発議者の皆様方にちょっとお答え願いたいと思うんですけれども、学級崩壊あるいは登校拒否、あるいはいわゆるかぎっ子、帰ってきてもお父さん、お母さんは働きに出ている、そういう子供たちがたくさんいるわけでございまして、教育全般に関する問題が大きくクローズアップされているのではないかなと思います。  そこで、少年を縛る、縛るとは拘束するという意味ですけれども、こういう法も一つの犯罪抑止には役立つとは思いますけれども、やっぱり子供が悪いことをしようとするのを見ていてそれをしかる大人がいないというのも甚だ残念なことでございます。  そういう意味を含めて、これからの社会づくりをどんなふうに持っていこうとしているのか、少年法を改正させることによって社会づくりというものを総合的に考えていかなくちゃならないんだという御決意を大臣発議者の代表の方、麻生先生でも結構でございますが、でもじゃなくてぜひお願いいたしたいと思うわけでございます。よろしくお願いします。
  30. 麻生太郎

    衆議院議員(麻生太郎君) 少年法が改正されたことによって久野先生指摘の数々の社会的情勢の変化が起きて、それによって今起きております少年犯罪が激減するというほど甘く簡単なものではない、私どももさように理解をいたしております。  したがいまして、これは厳罰化と言われておりますけれども、少なくとも人をあやめる、殺すというような極めて非倫理的なことをした場合は、家庭環境とか社会環境とか学校のいじめとかいろいろな条件を考えて、それは確かに同情すべき点がなきにしもあらずとは思いますけれども、しかしそれだからといって許されるものでもない、さように思っております。したがって、その点だけは、過失とかいうのではなくて、故意にそのようなことが起きた場合にはきちんと処罰されるべきというのが私どもの今回の問題であって、刑事責任と刑事処罰年齢とを一致させた背景がそれです。  しかし、これだけでできるわけではないのであって、先ほど文部省の方からお話がありましたように、愛されて育っていない子供は親になっても子供の愛し方もわからぬじゃないかとか、いろいろ御指摘になっておるところはもう先生もよく御存じのとおりでして、こういった問題を含めまして、幅広くと言うと恐ろしくいいかげんに聞こえますけれども、文化とか社会とか学校とか地域とかそういったようなさまざまな方面からこの種の問題はきちんとやっていかなきゃいかぬということはもう基本だと思っております。  ただ、いろいろ時代が変わってきておる中にあって、昔は何となく社会の規範みたいなものがうっすらとではあれきちんとしたものがあったんだと思いますけれども、何となくそういったものが少し崩れてきておるというのも事実であります。私どもの学生時代は学校の帰りがけにどこかで買い食いしただけで譴責処分とか言われる対象でしたけれども、今は子供が学校の帰りにそば屋に入ったって別に何ということはないというような、それは明らかに我々の時代とはもう全然規範が違ってきておると思いますので、それを昔並みにすべてやればいいというほど単純なものでもないと思います。  これは本当に正直これだけ挙げればずっと幾つでも出てくるんだと思いますが、そういったもろもろのことを考えて、これはどこどこの役所でやるとか法務省でやるとか文部省でやるというだけの話ではないことだけははっきりしておりますので、こういったものは今後幅広く考えて、私ども議員としては、こういった問題を真剣に多方面から考えて取り組むべき大変大事な課題だと理解をいたしております。
  31. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) 先生がいろいろ少年非行犯罪あるいは問題行動を幅広い観点から御議論されてこられまして、私も法務省責任者といたしまして、これまでも少年非行防止対策としていろいろな所管に関する努力を尽くしているところでございますけれども、今度の少年法の改正などは非常にそういう対応に一助たり得ると評価してこの成立を期待しているところでございますが、同時に、おっしゃるように、教育とか文化とか社会福祉とかいろんな一般的、総合的な行政施策というものが充実されてくる、強化されてくるということがとても大切なことだと思っております。特に少年の保護者、あるいは少年を取り巻く地域社会を初めとする国民全体の幅広い理解、不断の努力が必要だということでございます。  また、そういうものをつくり上げていく上では、先ほど麻生提案者からも御説明があったとおり、今、関係省庁との密接な連携のもとに青少年の非行等問題行動の防止に関する青少年対策を総合的、効果的に推進するための青少年対策推進会議というものを設置しているわけです。ここでいろいろな施策を今検討してまいっているところでございますが、私は、今回この少年法改正をめぐって、特に国会での御議論などは幅広い観点から貴重な御指摘などがたくさんありますから、こういう成果をこの関係省庁の連絡会議につないで、そこで少年法改正案の成立を機会に新たに施策の充実強化を図る努力が非常に必要だ、そういうふうに認識しております。  それからまた、先ほどのにつけ加えさせていただきたいのは、先生が精神障害者少年犯罪や広く成人についても御意見がおありのようなことでございました。  私は、先ほども若干触れましたが、刑事責任能力がないということで措置入院で、放火や殺人とか非常に少年としても問題の事件を起こして、それが病院に単にゆだねられるということで、これは非常に重要な問題を投げかけていると思います。したがって、そういういわゆる触法患者に対する適切な専門的な施設を設けて、そこに司法判断によって入退院を決定していく、そして一般の患者の中にも実は自傷他害のおそれのあるという、こういう犯罪に結びつきそうな患者さんもおられるわけですが、そういう方々治療などを総合的に考えなきゃいかぬと。  しかし、それには前提があると思うんです。私は、精神障害者に対する医療体制といいますか、診療報酬体系にしても医療体制にしても他の国に比べて極めて貧弱きわまりない、こう思っているんです。医者一般の科目と比べて半分でいいとか、三分の一でいいとか、医者の数が少ないんです。ところが、心の病というのは人間の本質に迫る非常に難しい問題を含んでいる医療だと思うんです。しかも、グループで対応しなきゃならない、非常に専門的な対応の必要な分野なんです。盲腸を切ったとか縫ったとか、そういうものとは違った難しさがある。そういうことに着目した新しい精神障害者に対する医療体制医療保健福祉体制、こういったものを総合的に絵をかいて、その中に触法患者を位置づけてその処遇を考えていくという観点に立たないとこの問題は解決しないと思っています。  法務省ももちろん所管の一部でございますし、厚生省ともよく相談をして、今後できるだけ早い機会にこういった動きが政府の中にも国会の中にも起こるように私はしていくべきだと考えているところでございます。
  32. 久野恒一

    久野恒一君 どうもありがとうございました。
  33. 江田五月

    ○江田五月君 おはようございます。  少年法改正案について質問をさせていただきます。  実はさっき、小川敏夫さんに、裁判官出身ですので聞いてみたんですが、少年審判を裁判官としてやった経験はないということで、そうすると、私は恐らく国会議員の中で少年審判を裁判官としてやった経験を持っている唯一の議員かなと思ったりいたします。  保岡大臣質問通告していませんが、裁判官はやられたことがありますが、少年審判をおやりになったことはありますか。
  34. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) ございません。
  35. 江田五月

    ○江田五月君 そんなことで、私自身、千葉家庭裁判所で三年間勤務をした当時、すべて家裁ではありませんが、家裁事件、特に少年事件には相当情熱を傾けて、まだ若きころですがやったことがありまして、その他、その経験というだけでなくて、少年のことについては随分心も痛め、いろいろ発言もしてまいりました。そういうことをずっと思い出しながら、どうも少年法改正案については思いの方が先行しまして、なかなかいい質問の組み立てができなくて困っているところでございます。  この間の経過をずっと振り返りながら、私、実は毎晩自分のインターネットのホームページにその日の活動日誌を書き込んでおるんですが、これを今プリントアウトしてずっと読み返していたんです。  九月二十二日に、求めているのは厳罰化じゃないんだという、そういう皆さんの集会がございまして、行きました。私どもの考え方も率直に申し上げて、若干きつい言葉が飛び交ったりして、批判もされたかなと思ったりしました。その日の夜、これは一緒に出た方もおられますが、テレビに出演をしていろいろ申し上げたりしました。  そうしましたら、ある家庭裁判所調査官の方からメールが来まして、ショックを受けた、大変失望させられたというようなことがあって、その方にメールで返事を書いたんですが、そこに書いてあるのをちょっと読んでみますと、「私は何とかして、少年法の理念や家裁の役割を、最大限守りたいと思っています。戦後日本が、他の先進国のような少年犯罪の激増に見舞われなかったのは、やはり少年法と家裁が頑張ってきたからだと思うからです。そして今の不憫な少年たちの最後の理解者は、家裁関係者だと信ずるからです。」。これは後で聞きます。「しかし今、状況は非常に厳しくなっています。社会もずい分変化し、複雑になりました。少年たちに、法律の穴を突き、反逆する傾向さえ見られます。「少年保護」に理解の深い人々がもっと増えれば、心配ないのかもしれませんが、残念ながら、少年法も家裁も、国民の確信に支えられているとは言えなくなっています。関係者の議論だけで満足しているわけには行きません。」と。そんなことも考えながら、私たちなりにこの少年法の改正にも取り組んでまいりました。  きのうもこの参考の本を読んでおりまして、団藤重光先生、森田宗一元家裁判事の「新版少年法第二版」と言うんですが、これを見ていましたら、はあと思ったんですが、「新版のはしがき」のところでこういうのもあるんですね。これなんかはもう少年保護関係者がいわばいつも手元に置いていなければ審判できないという、そういう重要な本だと思っておるんです。  「執筆を進めてゆくあいだに、解釈論ではいかんともすることのできない法の不備とおもわれる箇所にしばしば出会った。かような場合には、一応の解釈論と運用の指針を示すと同時に、不備の点を指摘しておいた。近時、少年法の改正の問題が大きくクローズ・アップされて来たが、その骨組みを動かすような根本的な改正については十分に慎重な考慮を要するけれども、個々の規定について整備の必要があることはあきらかだとおもう。」と、昭和四十二年、一九六七年に団藤先生、森田さんが書かれております。改正にみんなで知恵を絞るという、それは今私たちも必要なことだと思っております。  そこで、何を改正しなきゃならぬか。すればいいという話じゃないので、何か世間ではとにかくやれやれ、すればいいんだというそんな感じもちょっとあるんですが、それは何をすればいいという話じゃない。これは私たちも与党の皆さんと立場は共通していると思います。三点あると。被害者保護、それから事実認定能力、そして今の少年の現状に対して、年齢問題も含めこれでいいのかという対応、その三点がある、私どももそう思っております。  そこで、通告の順序と全然順序が変わってしまうんですが、お許しいただきたいんですが、まず被害者保護、これはこの少年法が被害者保護の点で欠けているところがあるというのはもう疑いないことだろうと思います。与党案は被害者の保護に関して前向きの取り組みをされておる、この点は私は全く賛成でございまして、一つこの点だけ今回成立をさせてもいいかなと、そんなふうにさえ思うようなところでございますが、しかしこれだけでは多分足りないんだろうという気もいたします。  例えば先日、被害者保護法というくくりで刑事訴訟法を改正した。そのときに、弁償ができるように、弁償についての約束ができたときにそれを公判調書に書き込めば債務名義になるというような改正もしましたよね。しかし、今回はそういうものはない、その他もろもろ。  そこで、この被害者配慮の改正、これには全く賛成をするのですが、さらにこれ以上に何か必要なことを考えておいでなのか、おいででないのか、提案者に伺います。
  36. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 答弁いたす前に、江田先生が感懐をお述べになりましたが、私もあえてそうさせていただければ、私どももそういう思いで臨んでおると思います。  私は付添人として十回に満たないぐらい少年審判にかかわっただけなんですが、あのころはよかったという思いがございます。家裁調査官の方のメールを御紹介いただきましたが、その後半に少年たちが変わってきたという引用がありました。まさに私どもは、変わりつつある少年、その背景にある社会状況、そういった状況の中でどう対処したらいいかというところから出発してこのような改正の議論をスタートさせたんだと、こう思っております。  一例だけ申し上げますと、今の少年法においては家裁の裁量の範囲が非常に大きいと思うんです。それは今まではよかったんでしょう。いい時代だったと言えば言えたかもしれませんが、必要的逆送というようなのを入れましたのも、そういう裁量の大きい家裁の運用の中で、やっぱり社会情勢の変化に応じてもう少し裁量の中に社会状況とか民意の動向とか、そういうものを取り入れられるような仕組みを入れた方がいいのではないかというような心情がございまして入れたわけでございまして、根本的な構造の変更とは思っていないわけですが、提案させていただいているところであります。  被害者への配慮についても、私どもはこの少年法の改正の範囲内で可能な限り被害者に対する配慮を加えようということで、これは被害者の会の方々、多くの方々からいろんな御意見を賜りました。そういった皆様方の思いを反映させようということで、廃案になりました政府原案には少年審判の結果等を通知する制度しかなかったわけでありますが、そういった被害者に対する配慮を求める声の高まりを踏まえまして、もちろん少年の健全育成に対する配慮との調和を図りながらですが、被害者等の申し出による意見聴取とか被害者等による記録の閲覧、謄写の制度を取り入れたものでございます。  少年法としてはこれが限度かもしれませんが、しかし被害者に対応する問題としてはこれで十分だとは毛頭考えておりません。精神的支援、経済的支援など多岐の分野にわたっておりますので、今後、広く政府においても、また我々においても検討していくべき課題だというふうに思っております。
  37. 江田五月

    ○江田五月君 誤解があってはいけませんが、ただいま紹介したのは調査官の方から来たメールを紹介したのではなくて、私が答えに書いたものを紹介したので……
  38. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) それは失礼いたしました。
  39. 江田五月

    ○江田五月君 それと、古い話で、最近は違っているのかもしれませんが、私は現場を多少知っている人間として、家庭局長もお見えですけれども、今の家裁の体制の皆さん方で家庭裁判所の審判の調書に示談ができてそれを書き加えれば債務名義になるとするのはちょっと危ないなという危惧を持っておりますが、先ほど言ったのはそういう提案をするという意味ではありませんので、そこは誤解のないようにしていただきたいと思います。  保岡大臣、被害者保護について今回議員立法でこういう提案をされましたが、これで十分と思われますか。さらに被害者保護を、前回の被害者保護法制がございますが、もっと進めなきゃならぬとお思いですか。どちらでしょうか。
  40. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) 犯罪被害者の保護の問題については、これはいろいろ多岐にわたる分野に関係する問題で、政府としても、関係省庁にいろいろかかわる幅広い問題なだけに、これを密接な連携のもとにさらに強化していく方向で努力すべきものだと思います。それが最近非常に高まってきた被害者の保護に関する国民の関心にこたえるゆえんであり、また刑事政策上も非常にその点が重要なテーマになってきていると存ずるところでございます。
  41. 江田五月

    ○江田五月君 被害者の保護については、私たち民主党は犯罪被害者基本法案というものをつくりました。既に国会に提出し、廃案になりましたが、また新たに提出の用意を今しているところです。  これはいろんな手続の中で被害者のことを十分考える、被害者の声を反映させる、それだけじゃ足りないので、やっぱり犯罪被害者の本当の救済というものは心の問題、これを抜きに考えられない。PTSD、ポスト・トラウマティック何とやらということも今議論されていて、加害者と対話をさせながらとかいろんなことが今言われているわけですが、犯罪被害者基本法、これを今後制定するお考えはありますか、どうですか。私どもと一緒に知恵を絞ろうじゃないですか。提案者の方々、いかがですか。
  42. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 民主党の北村先生外三名の犯罪被害者基本法案は拝見いたしました。先生方の御努力に対して敬意を表する次第であります。  私ども自民党の方ではまだこういう検討をいたしておりませんが、しかしいずれかの時期にはこういった検討が必要であろうと思っておるところでございます。  ただ、犯罪被害者、不測の被害をこうむった方なんですが、不測の被害をこうむった方というと、台風だとか地震とか犯罪以外の不測の被害をこうむる国民もおられるわけで、例えば経済的支援ということになりますと、地震なんかは阪神・淡路のときにああいう支援をいたしましたが、そういう問題も含めて幅広い見地からの、お互い被害をこうむった場合助け合うという点からの検討が必要だと思います。  今、警察庁の方で例の犯罪被害者、長い名前ですが、法の改正を検討しておるようですが、あの補償法は要するに通り魔だとか加害者を特定できない人たちに対する救済を主として考えてできておるわけでありまして、あの改正だけでは経済的補償には届かない犯罪被害者が多いと思います。  広い角度から、精神的ケアの面につきましても検討する必要があると思うんです。ざっと法案を拝見させていただいて、その方向といいますか理念と申しますか、それには大いに賛意を表するわけですが、実際、法律として基本法を制定するについてはまだまだ検討すべき問題点が多々あるだろうというふうに思っております。  この間、奥様を殺されました弁護士の岡村先生ですか、お話をお伺いしたときに、岡村先生の心配の一つは、犯人は無期懲役になったんですが、無期懲役は出所してきますが、そうした場合にまたねらわれるんじゃないかと、あの公判廷の様子から見ると。それに対する措置もないんじゃないかと。自分の命が惜しいとかいうことではなくて、そういった面も含めて幅広にお互い検討すべきことではないかというふうに思っております。
  43. 江田五月

    ○江田五月君 岡村弁護士のことですよね。今、犯罪のことのほかにも災害のこともあるじゃないかというようなお話でしたが、いずれのときにかというようなことではないだろう。やはりこれは私たちの社会の質の問題なんですよね。犯罪はない方がいい。もちろん災害もない方がいい。だけれども、犯罪がない方がいいからといって、どうやって犯罪を抑え込んでいくのか、とことん抑え込むといったらどこまでいくのか。  そうじゃないんですよ。犯罪も起きるんです。例えば精神障害の人たち、それは精神障害の人たちをどこかへ閉じ込めてしまっておけばその方が社会は安心だと。そうじゃないんです。そうじゃなくて、精神障害の人たちもみんな一緒に社会をつくろうと。そういうようにしてみんなでここで生まれてきたんだから。しかし、もうどうしようもないというときには、それは隔離ということもあるでしょう。しかし、なるべくみんなで一緒に社会をつくっていこうと。その結果、いろんな不測の事態が起きたときにはみんなで助け合おうと。そういう不測の事態で被害に遭った人たちは社会からちゃんと手当てを受けていくという、そういう権利があるんだと。これが今国連なんかでも大きな流れになっているわけで、私はこれは私たちの日本社会の質の問題、もっと質の高い寛容な社会をつくろうじゃないかということだと思うので、ぜひとも前向きに犯罪被害者基本法のことは考えてほしい。保岡大臣、いかがですか。
  44. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) 今、杉浦提案者からもお話しになったように、さらに被害者保護を今後強化するのにどういう努力が必要かということを考えたら、すぐに今お話にも出てまいりました犯罪被害者等給付金制度の拡充強化、これは今警察庁で鋭意検討しているところと聞いております。  それにまた、法務省では出所情報、加害者が施設から出てきた場合、お礼参りその他のそういったまた再び犯罪につながるような、被害者に大変迷惑のかかるような、そういうことを防ぐ出所情報、これは少年については多少特別な配慮を要するものと考えていますが、そういうことや、あるいはこれもお話に出てまいりました心理的ないろんな心のケアの問題なども少し考えなきゃいけないだろうというふうに思います。  そういった施策をさらに強化していく幾つかの柱がありますが、非常に多岐にわたる分野を、そのように個々の問題について具体的にできるだけの努力をその問題の特質に応じて最大限政策の具体化をしていくということがまずは大事だと思います。しかし、基本法みたいなものでどういう理念やどういう施策の遂行についての裏づけをするかということについては、やはりそういう基本法が役に立つという部分もあれば、例えばその際に刑事手続上の別な要素の配慮、これは杉浦提案者がお話しになったようなことや、他の損害を受けた方々に対する補償との均衡とか、そういったことなどもありますので、基本法を、民主党も提案されているし、また今、杉浦提案者のお話だと与党でもそういうことを考える可能性もあるような示唆をするようなお話もありましたが、その検討自体は非常に意義あることだと思います。ただ、検討するに際しては、問題によっては慎重な検討を要することがあるだろうという認識を持っております。
  45. 江田五月

    ○江田五月君 大臣がここでやりますと答えるとやらなきゃならぬことになるから、なかなか答弁は大変だと思います。お察しをしますが、繰り返すようですが、社会の質の問題なので、犯罪にしてもその他のことにしても、私たちの社会はいろんな問題を抱えた社会なんです。それはそういうものなんです。それをみんなで引き受けていくという度量がないといけないということです。  これはちょっと言葉じりをとらえるみたいで申しわけないんですが、保岡大臣が本会議答弁をされている言葉の中に、少年非行の芽を摘み取るという言い方があったんですね。私に言わせたら、摘み取っちゃいけないんだという思いがあります。本会議で、「おっしゃるとおり、いじめが非行に結びつかないように、家庭や学校、地域などが連携して非行の芽のうちにそれを摘むという、保護者などの相談を受ける窓口、その他の工夫がいろいろ大切なことだ」と、まあ言葉じりですからいいんですけれども、摘むというのじゃなくて、とにかくそういういろんなものを大切に抱えながら、温かい社会、みんなが本当に思いやることができる、気持ちを通わせることができる、そういう社会をつくっていくという発想が大切だろうと思います。  犯罪被害者のことは、個別の施策の根本に犯罪被害者はそういうことを社会に求める権利があるんだと、これが今国連でも樹立された一つの考え方であって、そのことを大切にしようじゃないか、こういうことを申し上げているわけで、摘み取るという発想で、とにかくずっとなくしていくという発想ですととんでもない差別社会になってしまうと。言葉じりのことはもういいので、私の言っていることはおわかりいただけていると思っております。  さて、犯罪被害者のこと、これが一つ。もう一つは事実認定、ここでどうも今の少年法はちょっと弱いということがありまして、家庭局長、その事実認定のところで弱いのでというようなことも含め、今の少年保護体制について裁判所側からこんなことをしてもらえたらいいなと思っておるということを三点挙げておられますよね。あれを簡単にでいいですからちょっと挙げてみてください。
  46. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。  事実認定の問題につきましては、大方の事件においてはそう問題なくこれまで運用上の努力でやってきているというふうに認識しているわけでございますけれども、しかしながら非行事実を激しく争うような事件におきましてはいろんな面で困難にぶつかっているというのが現状でございます。  今、委員から御指摘のあった三点ということで申し上げますと、まず第一は、裁判所内部においてその多量の証拠でありますとかあるいは証言等についての多角的な吟味を行う必要があるんじゃないか、こういったことでございまして、それに対応するものとして裁定合議制の導入をお願いしたいというのが裁判官の意向でございます。  第二の点でございますが、これは裁判所内部というよりはむしろ少年の述べていることについての多角的な吟味の場を設けることが必要だろうということでございまして、少年の弁解等について、少年の立場からの資料を収集することはもとよりでございますけれども、その少年の立場とは違う立場から吟味する必要もあるだろうと。こういった観点からは、裁判官が一人二役を兼ねることはなかなか難しい面があるものですから、検察官に審判の協力者として関与いただくことを考えてはどうだろうかというのが第二の点でございます。  第三の点は、事案が難しくなってきた場合には観護措置期間に非常に苦労があるということでございまして、現在四週間ということでございますけれども、証拠調べを行うような必要がある場合におきましては四週間以内に適切な事実認定の審理を行うことは難しいという状況にあるわけでございまして、そういった面での観護措置期間の延長をお願いしたいと。  以上三点が家裁の裁判官の大多数の要望であるというふうに申し上げてよいかと考えておる次第でございます。
  47. 江田五月

    ○江田五月君 その三点についてそれぞれに問題点を検討していきたいと思っておりますが、私どもは、事実認定は確かに今の少年法は弱いところがあると。もちろん事実認定の困難に逢着する事件というのは全体の事件からいうと本当にもうわずかなことですけれども、その点は何か考えなきゃならぬというので、私たちの考え方は対審構造というメニューをここへもう一つ用意をしたらどうなんだろうかということでございます。これは後ほど。  そして三つ目、これは今の少年の変化。変化といっても、人間が他の動物よりも著しく早産で生まれてきて、そしてずっと長い年月をかけてだんだん個体に育っていくという、そのことは何も変わっていませんね。人間のDNAが何か変わったとかいう、そんな話は聞いたことがないので、変化の面と変わっていない面と、そこはよく見なきゃいけないと思いますが、いろんな変化があることは確かです。  しかし、少年が変わってきた変わってきたといって、我々大人の方は何の変化もないんだ、大人は依然として立派な大人で、少年が最近ひどいから何とかしてやろうという、それもちょっと違うのかなと。ひょっとしたら少年の変化というのは大人の社会が反映をしているので、保岡大臣少年非行社会の鏡だと答弁でもおっしゃっておられますが、むしろ私たちは今の少年のいろんな問題行動の前にたじろがなきゃいけないかもしれない、私たち自身がむしろ考え込まなきゃいけないのかもしれない、そういうことだと思いますが、それはそれで置いておいて。  私たちの方は、成人年齢というものを十八歳まで引き下げて、十八歳以上は大人の仲間だと。選挙権もあるいは民法上のいろんな権利も、もちろん刑法上の権利も義務も十八歳からはもう大人と、これもそういう法案を用意しております。そのほか、刑事処罰可能年齢の十四歳への引き下げ、あるいは命を奪った犯罪についての取り扱い、こうしたことについて与党の方が提案をしておられまして、それについても我々なりの検討を進めてまいりました。  現代社会の重要課題の一つである少年問題。しかし、決め手となると我々も悩みました。処方せんを見つけることはなかなか難しい。しかし、悩んでじっとしているわけにもいかないというので、今申し上げたような提案をしながら、与党案についての修正、これもまとめました。そして、昨日、少年法改正案について与党の提案者の方々あるいは参議院の方々と私ども修正協議をさせていただきました。  少年のことですから、政党が違うから、政局がどうなるか、選挙がすぐそこ、ここはひとつ選挙のことを考え、そんなことじゃなくて、幅の広い合意を国会の中でどんなに苦労があってもつくろうという努力を私たちもしたいと思っていますので、ぜひ修正協議には真剣に対応していただきたいと思っております。  私たちの修正案の概略は、十四歳への引き下げ、これについては後でもっと申し上げますが、引き下げて刑事処分、十四、十五の少年も刑事処分の道を開くが、しかしその場合には刑事裁判の当事者としての能力が十四、十五は足りないので、必要的弁護ということが要るのではないか。さらにまた、十四、十五については刑の執行も教育に配慮した執行にすべきであって、何か少年院刑務所とがわけがわからないようになるというのは困るのではないかと、そんなようなことで修正。  それから、十六歳以上の少年については、故意の犯罪行為で死亡の結果が生じたと、これは先ほど麻生さんは大変重大なことなんだと。確かに重大なことではあります。しかし、犯罪としての悪質性ということで見ると、故意の犯罪行為の結果、人の死に至った場合というのはさまざまなものがある。一発ぽんと殴って当たりどころが悪くて結果として死んでしまった。殴ることについては故意ですから、暴行の故意で傷害をさせるつもりもない、ただ殴る暴行の故意。しかし、それで結果として死んでしまったら、これは傷害致死に当たるんですね、この与党案では。あるいは、絶対殺すと大変強い決意を持って犯罪行為に入念に取り組んで行為に及んだ、しかし幸い死ぬところまで行かなかった、そうするとこれは当たらないんですね、与党案では。  それはそうじゃありませんか。いかがですか。
  48. 麻生太郎

    衆議院議員(麻生太郎君) それを判断されるのが裁判所だと思っていますので。同じ殺人の条件の中においても、故意の場合も未必の故意の場合も、いろいろな場合があるとは思いますけれども、それを判断するのは裁判所なのであって、この裁量の中に幅広く認められているのであって、明らかに故意に殺そうという意識を持って殺した場合とそうじゃない場合と、同じ殺人でもその裁量の範囲というのは、これはいろんな形で、裁判所がその段階で保護観察処分にするのか少年院送りにするのか、もしくはいわゆる刑務所に送るのかいろいろ、少年刑務所に送る等々の判断は最終的には一つ一つの条件が全部違いますので、それに基づいて判断を裁判所がする裁量はこの法律の中でも同じように与えられていると思っております。
  49. 江田五月

    ○江田五月君 今のお答えは、部分的にここは重要なことを言ったなというところがございます。それを大切にしたいと思いますが、故意がなくて殺人ということはないんですよ、故意がない場合の人が死んだ結果というのは傷害致死とかいうことになるので。  ですから、私が聞いたのは、与党案は、故意で殺人行為に及んだけれども死ななかった、この場合は入りませんねということを聞いたんですが、いかがですか。
  50. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) その場合は原則逆送のカテゴリーには入らないことは明らかでございます。
  51. 江田五月

    ○江田五月君 ですから、まさにそれは麻生さんおっしゃるとおりで、個別のケースがそれぞれあるから、だからやっぱり個別に判断をしながら裁判所の裁量で最適の処遇を判断していかなきゃならぬというのはもう基本の基本だと思いますね。  それはそれでいいですね、麻生さん。
  52. 麻生太郎

    衆議院議員(麻生太郎君) 結構です。
  53. 江田五月

    ○江田五月君 そういうことで、私どもただいま申し上げましたような修正案を用意しております。  さてそこで、実は私もきのうの夜いろいろ質問考え、私のところの政策秘書もいろいろ徹夜で考えて、朝、政策秘書と打ち合わせをすると、政策秘書の方の質問項目が七十二項目ありまして、到底この八十分では足りないと思うんですが、もっともっと質問をしなきゃいかぬと思っておりますが、まあ前へ進めます。  審判のやり方について改正をされるということですね。私どももこれはこれでいいかなとも思いますが、今の二十二条一項「審判は、懇切を旨として、なごやかに、これを行わなければならない。」ということを変えて「自己の非行について内省を促すものとしなければならない。」と。もちろん「懇切を旨として、なごやかに、」は当然。  これは、なぜこういうことを加えなければならぬとお考えになったんですか。
  54. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 「審判は、懇切を旨として、なごやかに、これを行わなければならない。」と、こういう規定がございますのは、少年審判の手続というものが少年を保護して教育する場である、こういう考え方から「懇切を旨として、なごやかに、」という規定が入っておりまして、そして少年の年齢や性格に即して、わかりやすく、少年あるいは保護者の信頼を得られるような雰囲気のもとで審判を行えと、こういう趣旨だろうと思うんです。  しかし、少年の保護をしながら健全育成を図っていくということが少年法の目的であるとしても、少年に真摯な反省を促していく必要があることは否定できない。したがって、そういう必要性のある場合には毅然とした態度で臨むことはやはり必要な場合がある。むしろ当然のことだろうと思うんですね。しかしながら、二十二条の現行規定の文言ではこの点が必ずしも明らかになっていない場合があるのではなかろうかと。  非行のある少年にとって審判は健全育成を図るための教育の場であるということを明らかにする趣旨からこういう規定を入れさせていただいたということでございます。
  55. 江田五月

    ○江田五月君 ということは、現在の少年審判の場が自己の非行について内省を促すものになっていないという判断でこういう規定が要るというふうにお考えになったわけですか。
  56. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 審判のありようというのはいろいろだろうと思います。  ただ、私どもは、今回の全体の改正の中で、教育あるいは少年の健全育成、保護を図っていく場合にも、場合によっては規範に直面させ、あるいは自分の行った事実に直面をし、そして被害者の感情等に思いをはせる、こういうようなことがやはり必要であろうと。今の少年全体の傾向を見ますと、家庭教育あるいは学校教育、社会の秩序の中で規範というものが必ずしも内在化していないというところに一つ問題があるのではなかろうかと。  したがって、保護ということを前提としながらも、この法律の上にその内省と、内省ということを通じて自分の犯した行為あるいは規範、こういうものに直面させる機会が必要ではないかと、こういう考えで設けたわけでございます。
  57. 江田五月

    ○江田五月君 私が聞いたのは、今の審判でそういうことが行われていないという認識のもとにこういう改正をやられようと考えたのかということです。
  58. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 今までの規定自体、和やかに行う、懇切を旨とするという規定の中にこういう真摯な内省を旨とするということが含まれていないとは思っておりません。今までの審判の中にも、当然今までの規定の上でもそういうことが行われてきたのであろうと思います。  しかし、先ほど江田委員がおっしゃいましたけれども、私も少年審判の場というのはほとんど経験がございませんので、個々がどうであったかということを聞かれますと、個々の運営の中身については詳細に申し上げる知識は持ち合わせておりませんが、全体の少年の傾向を見ますとこういうことが必要であろうという判断で入れたわけでございます。
  59. 江田五月

    ○江田五月君 家庭局長、どうですか、今現実に家裁の審判で自己の非行について内省を促す、そんなことはやっていないんですか。
  60. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 家庭裁判所の審判の具体的場面におきましては、これは個々のケースはあろうかと思いますけれども、基本的には、裁判官といたしましては、少年自身が自分の犯したことについて十分内省を深めて、そして立ち直りのきっかけを与えるような教育的な働きかけを行っているのが一般であろうと承知しておるところでございます。
  61. 江田五月

    ○江田五月君 それはもう当然なんだと思いますね。  国家の刑罰権の発動の一つの態様として、一方では刑事裁判というものがある、しかし他方で保護手続というものがある。虞犯がありますけれども、虞犯は例外として、非行事実が認定できなかったらそういう刑罰権を国家は持つことができないわけですから、そういう刑罰権というものが背景にある手続で、そこへ子供が立たされる、そうすると、どうしてもそれはもう手続の性格上厳しいもの、いかめしいもの、たじろぐもの、そういうものにならざるを得ない。  しかし、それではいけないというので、この団藤、森田氏の御本によると、「「懇切を旨として、なごやかに」とは、少年審判の有する性格の一面をとくに強調して表現したものである。」と。そういう特別の強調が必要だからあえてこう書いてあるわけで、内省を促すとかというようなことはもう当たり前なんです。  審判のやり方、ここにいろいろなことが書いてありますが、「事案の内容や少年の心情に応じて工夫する必要があることはいうまでもない。人違いの有無、年齢の確認、事案の内容等について聴く場合にも、ケース・ワークにおける面接の技術、人と人との微妙な出会いの心理を深く心得ねばならない。」云々ということで、これはそのとおりだと思います。  あるいは、「その場合、審判に当たる裁判官の人柄と心構え、その誠意と余裕のある態度が、重要な要素となる」と、こういうことを書いて、審判に当たる者は本当に気をつけなきゃならぬということを書きながら、同時に、「したがって、まず少年が自己の非行と今までの生活態度について反省し、とくに反規範的な行為や行状に対する社会責任自覚したうえ、将来どのような態度をとって環境に対処し自己を律してゆくべきかを、深く自己洞察するようにし向けることが肝要である。」と。これは書いてあるだけではなくて現実に行われていることだと私は思います。  そこで、ではなぜ与党案はこういうものを入れたか。それは、私に言わせれば、善解するんです、皆さんの心をおもんぱかって言っているので、間違っているかどうか聞きたいんですが、社会がそう思っていない部分があるから、何か少年保護とか言って少年審判というのはまあ子供を大切に大切にとやっているように社会が思っている向きがあって、それは誤解ですよということを社会に対してメッセージとして政治から発信するためにあえてこういうことを書いた、要は家裁はそういうことをやっているんだということを世間の人に知っていただくために書いたんだと私は善解しておるんですが、いかがですか。
  62. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 善解していただいて大変ありがたいと思うんですが、内省を求めるとかいうのは当たり前のことで、ここに書いてあるのは別な面を強調しなければいけないからだと、こういうふうに江田先生はおっしゃいましたけれども、私どもは当然のことであっても法律に規定することに意味がないとは考えておりませんし、またもう一つ、これはあるいは私個人の考え方になるかもしれませんが、やはり内省とかそういう面が少し弱くなっている社会風潮が私はあると思います。裁判所自体の運営がどうかということとは別に、いろいろな問題について内省をするということが少し希薄になっているのではないかというふうに私は感じることがございますので、こういう規定を加えていくということは無意味なことだとは考えておりません。
  63. 江田五月

    ○江田五月君 だから、私も無意味だと言っていないので、実際に家庭裁判所ではそういう運営をしている。家庭裁判所の審判の運営を変えろという意味じゃなくて、それはもちろん家裁の中だっていろいろな裁判官がいますから、それはさまざまのものがあるでしょう。こういう審判はどうかなということもそれはあるかもしれませんが、そこへ何かを言っているんじゃなくて、むしろ世間に対してこの少年保護というものについての納得を得るために、もう一度、少年保護というのをみんなで大切にしてくださいね、こういうことで行きますからということを言うために、世間の納得を得るためにこういうことを入れたんじゃないんですかと。助け船です。
  64. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 助け船を出していただいてありがとうございます。  ただ、これはやはり法律でございますから、世間一般に向けられているだけではなくて、もちろん裁判官にも向けられている。だから、私は、先ほどから繰り返し申し上げておりますように、当然のことを書き加えた、今までの法の中にこういう精神がなかったとは思わない、当然前提とされていたんだろうと思いますが、当然のことを書き加えた、こういうふうに考えております。
  65. 江田五月

    ○江田五月君 押し問答してもしようがないので。  当然のことならなぜ書き加える必要があるのか。私に言わせれば、当然なことだけれども書き加える必要があった、それは社会少年審判というものについて誤解をしている面があるからということだろうと思うんですが、よろしい。  総じて今度の改正案について私がやっぱり疑問なのは、今のことでも、明らかでないのか、私は明らかだと思いますが、皆さん方は、少年審判、少年保護の現場のことを、こう言ったら申しわけないけれども、十分踏まえて出されているというよりも、むしろ世の中が少年審判について持っているイメージ、それに何かある意味では引きずられたのじゃないか。もっと善解でいい言い方で言えば、世間が少年審判に持っているイメージを変えていただこうと、そういうことでお出しになっている。  だから、例えばさっきの原則逆送の話でも、麻生さんは、家裁がケースごとに裁量で判断するということはそのとおりでいいんだと。現に今そうやっているわけで、現に今逆送のケースももちろんたくさんあるわけです。しかし、世間から見ると、人を殺したのに家裁はただ少年を守って守って、でも世間は恐ろしい少年がいっぱいその辺にうろうろしてもう怖くてしようがないというふうに見ている面が一部ですけれどもあるので、それについてそうじゃないということを言わなきゃいけないからああいうことを書いたというように、それでもちょっと善解をし切れない面があるから私たちはさらに修正しろと言っているんです。  さて、それは置いて、冒頭ちょっと申し上げましたが、私は戦後、今日までの少年法と家裁による少年保護、これはもちろんいろんな問題を抱えながらではありますが、総体としては、全体としては合格点じゃないのかなと、やっていることは。世間に支えられていないという面があるからこれは何かしなきゃいけないんですが、世界じゅうの、特にいわゆる先進国、先進工業国で、もう至るところで少年の暴走が見られているわけです。  アメリカなどというのは、銃社会ということもあって大変な事件が次々起きて、そしてアメリカでもいろんな努力をする。重罰化、それが功を奏したのか奏しないのか。重罰化にしなかったら犯罪はもっとふえていたんじゃないかとこの間麻生さんもお答えになったりしていましたが、その点もまた議論しなきゃならぬかもしれませんが、大変です。学校の中に制服を着たお巡りさんが入ってこなきゃいけないというような事態も起きている。スクールポリス、それも一つの対応かもしれません。  そのように、もう世界じゅうの先進国でいわば少年の暴走というのが起きているが、日本は、大人の方もそうですが、比較的治安良好で、大人では暴力団や麻薬や銃やいろいろありますが、少年の方は、そうはいっても我が国の少年犯罪の現状というのは世界のそういう国々と比べたら平穏に推移をしている、多少の増減はあっても。これはやっぱり家裁関係者、少年保護関係者の大変な努力があったからで、この皆さんには我々は拍手を送ってあげなきゃいけないと思いますが、いかがですか。
  66. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 江田先生のおっしゃった家裁の裁判官、調査官等の皆さんの努力を我々は評価していないわけではありません。ただ、ここ近時の少年の変化、その背景には、親の問題もありますし社会の変化もありますが、凶悪な年少少年による犯罪が続発している、そういうものに対する対応がし切れていないんじゃないかという面があるんじゃないかと思うんです、システムとして。  自民党少年法委員会ではもう随分長い間多くの議員が参加して議論をいたしました。先ほどの谷垣先生に対する御質問にもあるわけですが、そういったたくさんの議員の方々の気持ちの中に広くあったのは、最近の家裁は少年に対して処分が甘過ぎるんじゃないかという認識があったのは間違いないところであります。  和やか云々の改正、二十二条の改正に落ちついたんですが、一番最初は第一条を改正すべしと、理念を。健全育成と同時に、少年にルールを守れ、規範意識を持てというのを加えろという議論からスタートいたしました。議論した結果、少年の健全育成の中にはルールを守れという意味も入っているであろうという議論が大勢を占めまして、一条の修正はしないことになったんですが、それならば、それはそれとして、ではここの二十二条を変えようというふうに移っていった。三党協議でもいろいろ議論したところでありますが、そういう流れがあったことは事実でございます。  そういう議論の中で、家裁の現状については私ども具体的にどういう審理をされているか詳細な知識は持ち合わせておりませんが、少なくとも家裁を中心とする少年に対する司法システムに少し少年に甘過ぎるところがあるんじゃないのという多くの議員の感覚から議論が始まってこういう結果になっていったということは御認識いただいてよろしいかと思います。
  67. 江田五月

    ○江田五月君 冒頭申し上げましたように、私が家裁で審判を担当していたのは一九七二年から七五年の一時期なんですが、一生懸命やりましたが、今考えてみたら本当に赤面の至りのような気もする、自分の至らなさばかりが思い出されるんです。あるとき調査官に、少年があの裁判官は嫌いだと言っていましたよと、こうちょろっと言われたことがありまして、今でも思い出すんですが、調査官の少年とのコミュニケーション能力と私のそれとの格段の違い、そしてそれを何とか若い裁判官に悟らせようという調査官の思いやり、そんなことを思い出すんです。もう一遍、家裁で審判をやりたいなと思ったりもしますが。  何が一番少年審判で大切かというと、やっぱり内省を促すのにお説教だけじゃなかなかうまくいかない、少年たちの心のひだに分け入る、自分自身の心の中ものぞかせる、そういう刑事事件とは全く異なる営みなんですね。  成人の刑事事件は心のひだだとかそんなことは余計なことなんで、余りそんなことをやってほしくない。罪を償えばいいんだろう、罰を受ければ、もうそれ以上何か言われる筋合いのものじゃないと。いわばそれがある種の基本的人権の保障でして、だから罪刑法定主義とか予測可能性のこととか法的安定性とか言うわけですが、少年の場合はそうじゃないところがあるので、ある意味では非常に危険な営みを、しかし非常に重要な営みを少年保護というものはやるので、だから刑事司法よりももっともっと奥が深い、そのことをみんなやってきたわけです。  さて、そういうことをやる一番重要な立場にいるのは家裁の中でだれかというと、調査官なんですね。調査官を本当に大切にしてきたかどうかということなんですが、これは伺いますが、八条の調査、これは家庭裁判所調査官によるものですかどうですか、あるいはそういうふうにしておられますかどうですか。まず、刑事局長、法の解釈ですから。
  68. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 八条の定めておりますことは、家庭裁判所は審判に付すべき少年があると思料するときは事件について調査しなければならない、二項で、家庭裁判所調査官に命じて少年等について必要な調査を行わせることができると。したがいまして、法文上は、原則は裁判所がするというのが一項の趣旨なんだろうと思われるわけです。それを、八条二項に書いてありますような少年、保護者または参考人の取り調べその他の調査を調査官にさせることができるという、法律上はそういう仕組みになっています。  ただ、その運用の問題といたしまして、調査官の役割とかそういうふうなことから、調査官を考慮して家庭裁判所は適切に運用されるということを恐らく法は期待しているものと思われるわけです。  実際の運用の問題につきましては、これはちょっと私どもの方では必ずしもよく把握できませんので、最高裁の方からお聞き取りいただければと思います。
  69. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 今お尋ねの第八条の調査ということについては、その趣旨は刑事局長が説明されたとおりだと思いますが、要保護性に関するいわゆる社会調査という分野につきましては、事柄の性質上、そのための調査を行う専門職である家裁調査官が置かれておりますので、多くのケースにおいては家裁調査官に調査を命じまして、その調査官が少年、保護者等の面接を通じてその少年の持っている問題、環境の持っている問題等の調査を行っているというのが現状だろうと承知しているところでございます。
  70. 江田五月

    ○江田五月君 多くのケースにおいてはというお話ですが、確かに八条一項では裁判所が調査をしなきゃならぬ、二項では家裁調査官にそれを命ずることができると。しかし、現実に少年保護事件の核心部分というのは、今の少年とのコミュニケーション、あるいは社会的な環境の整備その他いろいろ、これはやっぱりその専門職である家裁調査官に行わせると。  多くの事件とおっしゃいましたが、もちろん鑑別所も調査をしますね。そっちもあることを踏まえてですが、家裁調査官による調査をしない事件というのはあるんですか。
  71. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 非行事実の存否について問題がある、こういった場合については調査官の調査をしないで済ませることがもちろんあるわけでございますが、ただその少年の処遇を選択する必要がある、要保護性を判断する必要がある、こういった事案については調査命令を行うのが通常だろうと思うわけでございまして、私が申し上げている趣旨は、個々の事案についての裁判官の判断に係るものでございますから、必ず行っているというふうに申し上げることはいかがなものだろうかという趣旨でございます。
  72. 江田五月

    ○江田五月君 家庭局長はそれぞれの個々の裁判官の独立ということがあるから物が言いにくいというのはよくわかります。それはよくわかるので、ここでどこまで家庭局長答弁を求めるかというのは私としても難しいところなんですが、それをわかりながら聞くんですけれども、今の非行事実に問題がある、争いがある、しかしその非行事実が要保護性につながっている面もありますよね。これは強くあるので、非行事実についても調査官は調査をしますよね。なぜこういう非行、犯罪を犯したの、あなたこれ本当にこうやったの、そのときどんな気持ちだったのなどというところから心に分け入っていくわけですからね。  だから、私は、現実には明らかに年齢超過とか、あるいは罪となるべき事実が書いてないとか、あるいは十四歳未満だとか、十四歳未満の場合は多少いろいろあるかと思いますが、という本当に例外的な場合を除いて、現実には全国の家庭裁判所で調査命令を出して調査をしておる。私自身の経験でいっても、もう一週間後には年齢超過になるという場合でも、とにかくそれでも家裁で何かをやるということはしなきゃいけないというので、もうとにかく調査命令を出して、調査官にただ記録だけでも見て家裁調査官的判断を示してくれと。  家裁調査官は調査したら処遇意見を出すことになっていますね、規則でしたかで。それはもうある種の必要的調査ぐらいの運用をされているんじゃないかと思いますが、いかがですか。
  73. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 実際の基本的運用は委員今御指摘のとおりだと承知しております。
  74. 江田五月

    ○江田五月君 さてそこで、今度の改正案二十条二項ただし書きの調査ですが、これはどうもよくわからないところがあるんです。今までの御説明ですと、八条の調査がすべてにかかってきて、そしてその八条の調査と別に二十条二項ただし書きの調査があるわけではないという、これはそういう解釈でよろしいですか、提案者。
  75. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) それで結構だと思います。
  76. 江田五月

    ○江田五月君 そうすると、二十条二項ただし書きあるいは二十条二項の原則逆送と言われる、原則とまでいうような運用を考えているわけではないよという声も与党側から聞こえてきて、それならもっと表現の仕方があるんじゃないのという気もするんですが。  いずれにしても、この逆送については、これは先ほどからいろいろ家庭局長とのやりとりでおわかりのとおり、特殊な例外を除いて調査はちゃんとやるんですね、そのことを提案者としては予定されているんですね。これはいかがですか。
  77. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) それで結構だと思います。  先ほどの御議論の中にあるように、具体的には裁判官の裁量になると思いますけれども、原則として調査が行われるということを予定しておる、こういうことでございます。
  78. 江田五月

    ○江田五月君 だめ押しの確認ですが、その調査は家庭裁判所調査官の調査ですね。
  79. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) はい、先ほどから御議論がいろいろございますが、そうでございます。
  80. 江田五月

    ○江田五月君 その原則、例外、これは余り詰めてもしようがないんですが、原則逆送ということにしたんだとおっしゃるので、原則、例外というのは数の比較でいくんですか。  わかりますか。つまり、その範疇に入る事件のうちで逆送になったのが何%で逆送じゃない保護処分になったのが何%だからこれは原則ということが守られているとかなんとか、そういう判断をされるんですか。
  81. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 私どもは必ずしも数で考えているわけではありません。この規定はやはり死という重い結果を生んだ場合どうなるのかということの原則をはっきり示したということで、この運用の結果、数字がどうなってくるかというのはまた別のことでございます。
  82. 江田五月

    ○江田五月君 そうですよね。家裁の裁判官が裁量で決めていくときにこういうことを大切にしてくださいねと、そういう趣旨だと理解をしたいと思います。  さて、時間がだんだんなくなってまいりましたが、いっぱい聞くことがあるのでどれを聞こうかと思っておるんですが、先ほど家庭局長は事案複雑、証拠も多岐にわたってなど、子供ですからあっちへ行ってちょろちょろ、こっちへ行ってちょろちょろ、しかも大勢でいろいろ夜の夜中に走り回って大変だと、これはどうしても合議で三人でやらせてもらわなきゃとても手が回らぬと、こういうことだというふうにおっしゃったんですが、私はこれは聞きようによっては、裁判官は何を言っているんだというようにも思うんですよ。証拠がたくさんあって、事実もたくさんあって、あっちのスーパーマーケット、こっちの自動販売機、やれ向こうの学校へ忍び込んでなどといっぱいあって、だから裁判官三人で分担するんですか。合議制というのは分担制なんですか。
  83. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 合議は分担ではございませんで、その記録あるいは証人を調べた場合の証言の内容、これにつきまして三人の裁判官がそれぞれの経験を踏まえて、英知を集めて、その内容についての吟味を重ねていって心証を形成していく、こういうものと承知しております。
  84. 江田五月

    ○江田五月君 そうなんですよね。一人一人の裁判官が事件全体についてちゃんと審理をして自分判断を持たなきゃいけない。それを寄せ集めて、そしてお互いに議論し合って、なるほどこれはこうだね、こうだねと。その議論をするときに、自分の持っている結論をそのまま墨守するんじゃなくて、お互いに影響し合いながら結論をつくっていくというのが合議で、事案が複雑だから、たくさんあるから、あっちへ行っていっぱいやってきているから、だから三人でやらせてほしいというのは裁判官としての覚悟が問われるんじゃありませんか。
  85. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 合議を必要とするということで裁判官がいろいろ申し上げている趣旨は、たくさんの事案があるから合議にしてほしいということではございません。  例えば一つの事実関係につきましても、今、委員から御指摘がありましたとおり、少年については共犯事件が大変多うございまして、その共犯者の証言が相当複雑に錯綜する場合が少なくないわけでございます。そういった意味において、一つの事実をめぐって提出されている、あるいは得られた証言等、これを多角的な角度から吟味する必要がある、こういったところから合議の必要性が言われているものでございます。  裁判官一人一人はもちろん自分の裁判官としての経験を踏まえて、精魂込めて事実認定に当たるわけでございますが、やはりその面についての客観性をより高めていく必要がある、それがひいては少年の納得につながるでありましょうし、国民の理解にもつながるだろう、信頼確保にもつながるだろう、こう考えておる次第でございます。
  86. 江田五月

    ○江田五月君 頭から合議制を否定しているわけじゃないけれども、いろいろ裁判官はこう思っているんだということを家庭局長の方から聞くと、何か私どもが裁判官をやっていたときと随分少年も変わったかもしらぬけれども、裁判官も変わったな、どういう覚悟で裁判をやろうとしているんだと、そういう一喝を食らわさなきゃならぬなという、そんな思いもするんですよ、本当に。やっぱり真剣にそこのところは考えていただきたいと思います。  さて、検察官関与なんですが、検察官関与によって今の少年審判の基本的な構造、基本的な思想、これが変わるわけではない、そういう御説明で、それはそれでそうだと私は思います。思いますが、それなら余計困るんじゃないかと。つまり、刑事訴訟の一つの概念で嫌疑というのがありますよね、サスピション。最初に事件を認知する、そこから始まって警察段階で捜査がなされて次第に嫌疑がだんだん固まっていく、それを検察官が引き受けて、さらに法曹資格者の目から見てきっちりと嫌疑を固めて、そして普通ならそこで起訴するか起訴しないかの判断を検察官が加えて、起訴状一本主義で、嫌疑は裁判所へ移るんじゃありません、その段階は起訴状一本主義で何もない、白地の裁判官のところへ持っていって裁判をしてくれと、そして検察官と弁護人とがちょうちょうはっしをやって裁判官の心証をつくっていく。  しかし、家庭裁判所はそうじゃない。そうじゃなくて、その嫌疑を一件記録ごと家裁へ持ってきて、そして裁判官がそれを読んで嫌疑を、いわば家庭裁判所の裁判官がしっかり頭の中にたたき込んで審判に臨むという構造なんです。その嫌疑をずっとここまで固めて持ち運んできたのは、その主導をしたのが検察官で、その人が事実認定の手助けのためにその審判構造の中に入ると、少年はどう思いますか。わかりますか。
  87. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 江田先生がおっしゃるのは、起訴状一本主義で区切れていない、予断排除の原則もない中でこういう構造をとるのは問題ではないかという御指摘なんだろうと思います。  ただ、少年審判というのは、江田先生にイロハのイみたいなことで非常に申し上げにくいんですが、やはり保護ということで、職権主義的な構造をとって、そこで裁判官が保護をし健全育成を図っていこうという仕組みですから、なかなかそこは欧米法で言っているような当事者主義のような構造にはなりにくいんだろうと思いますね。  それで、そういう基本的な仕組みの中で、これも何度も申し上げていることでございますけれども、裁判官だけではなかなかやりにくい場合がある。例えば、事実を少年に明らかにしていかなきゃならない場合に、余り裁判官ががんがん言うと少年との意思の疎通も途切れてしまうというようなこともあり、そこではやはり検察官に関与していただく必要があるんではないか。こういうことでつくられているわけですので、なかなかそこは、当事者主義構造をとったときのようにきれいに、きれいといいますか、そちら側にぽんと移れるわけではない中でこういう仕組みを設けたということだろうと思います。
  88. 江田五月

    ○江田五月君 これはもっともっと議論をしたいところですが、本当に時間がなくなりました。  十四歳にまで刑事処分可能年齢を引き下げるという話なんですが、私たちもそれはそれなりにある種の理由があるかなというふうにも思っておるんですが、ただ一つ、なぜ刑法は十四歳で少年法は十六歳となっておるか。同じ刑罰と言っているのに基準が二つあって法の中で分裂しているじゃないかというダブルスタンダード、そういうお考えについては、私は一つは行為時のことを言っているんだと思う。行動したとき、犯罪を犯したとき十四歳。もう一つは送致時ですから、送致をされてその後審判というか刑事裁判を受ける、そのときのことを言っているので、そこの違いというのがやっぱりあるんだろうと。  つまり、十四歳というのは刑事責任年齢ですから、いい悪いはわかる。是非善悪弁別能力というんでしたか、そういう能力、いい悪いぐらいはもう十四歳になったらわかるよという話です。それより小さい子供はやっぱり十分わからないので、それはそれで別の措置の仕方をしなきゃならぬというので、児童相談所、児童自立支援施設というようなものがいろいろございます。家庭裁判所だって、都道府県知事やなんかから持ってこなきゃいけないとか、いろんなことがありますが、十四歳以上はそういうこと。  十六歳以上というのは、是非善悪弁別能力じゃなくて、刑事裁判の中で自分がこういうことを言えばこういうふうにそれが報いとして返ってくる、報いである場合もプラスになる場合もそれはありますが、そういう当事者として自分自身の裁判の中での行動がどういうことになっていくかという判断をする能力、当事者能力、その違い、それが行為時と送致時の違いということで出ているんじゃないかと。  したがって、十四、十五というのは、これはやっぱり刑事裁判を受ける、その場合はもちろん無罪をかち取る権利もあるんですよ、そういう刑事裁判の当事者となる能力が限定的にしかないよと、だからこういうことになっているので、今十四歳までそれを引き下げると、十四、十五のそういう刑事裁判を受ける当事者としての能力は、ではこの立法したときと今とで変わって、今はもうそういう能力があることになったと判断されるんですか、そうじゃないんですかと、そういう問題に突き当たるんです。  私たちはそういうことも考えて、十四、十五の場合は送致以後の段階でこれは必要的弁護にした方がいいと。そうでなかったら、例えば略式の説明なんか受けたって、十四、十五の子供に略式の説明をして、おまえこれでいいだろうなんて言ったら、自分のいいですと言ったことがどういう結果になるかなどというのは判断させられないですよということを言っているんですが、いかがですか。
  89. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 刑法四十一条の刑事責任能力というのはもう先生の今おっしゃったとおりだと思うんですね。  そこで、現行少年法の二十条ただし書きで十六歳を基準時としていることの意味、先生は今当事者能力という観点からではないかとおっしゃったんですね。私これができたとき一体どういう理由でできたのかというのをちょっと調べてみたんですが、当時の政府の提案理由書にも具体的には書かれていない。当時の議論も余り記録に残っていないので、当時どういう議論だったのかよくわからないんですが、私、考えてみますと、当事者能力というのもあるいはあるのかもしれませんが、というよりも、結局この年齢にはどういう処遇をしたらいいのか、教育的な処遇、保護的な処遇が必要なのか、それとも刑事罰というか刑事過程にした方がいいのかという、どういう処分をした方がよいのかということが主眼であったのではないかと、これは私の推測を交えた議論でございます。
  90. 江田五月

    ○江田五月君 おっしゃるとおり、これは立法過程の中ではなかなかわからない。ただ、私は、これはたしか衆議院段階で刑事局長お答えでしたかね、いろいろ調べたけれどもわからないと。いろいろ文献を調べてもわからなかったからわからないと言うのもどうも情けない話だなと。自分考えればいいじゃないかという気がしますよね。どうも最近の教育というのはそういうふうになってしまった、私なども含めてですけれども、という気がしますが、置いておきます。  私たち民主党は、少年法に対する社会的要請に最も的確にこたえる方策というのは、一つは家庭裁判所の充実強化、もう一つは少年問題に対する地域的ネットワークの構築なんだと、こう思っております。  きのう、補導委託先、二十五条の二項でしたかね、補導委託先の数というのはどうなっているんですかと。平成十一年で全国で三百幾らでしたかね、十年ほど前も大体そんなものだと。では二十年前は、三十年前はと聞いたら、わかりませんと言うんです。補導委託先をどの程度全国の家庭裁判所が持っているかということさえきっちり把握をしていないというようなことで地域的ネットワークの構築なんということが言えるんだろうかと。  家庭裁判所というのは司法的機能と同時に社会的機能を持つ、これもこの本に書いてあるんですよ。そういう社会的機能を持った裁判所だというのは非常に重要なことです。ですから、例えば愛知の五千万円恐喝のあの事件でも、家庭裁判所へ何かおかしいんだといって飛び込んだら、家庭裁判所がその相談を受けつけて、そしていろんなことができるような、家事の方では家裁相談窓口がありますが、少年の方にもそのくらいの窓口をつくるとか、そういうようなことをちゃんとやらなきゃいけないんじゃないかと思います。  いずれにしても、もう山ほど質問があるのでまだまだやりたいんですが、そういうことを含めながら、法改正はただそうしたすべてのことのほんの一歩にすぎない、ほんの一つのことにしかすぎない。その他のこともすべて与党の皆さんとも力を合わせてやりたいということを申し上げ、そして同時に、その一歩を踏み出す少年法改正について大きな合意をこの立法府の中でつくっていただくよう私たちも努力をしますので、皆さんも努力していただきたい。  その要請はそれでよろしいですね。それを最後に伺って、質問を終わります。
  91. 麻生太郎

    衆議院議員(麻生太郎君) 結構だと思います。
  92. 江田五月

    ○江田五月君 大臣、いかがですか。
  93. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) 少年法改正は今度は議員立法で出されたわけでございますが、今後さらに問題をいろいろな角度から検討し、時代の流れや変化、そういったものがさらに明確になって、そういったことを踏まえた将来の改正の可能性というものもあり得る、そういう場合には法務省としても適切に対応したいと存じます。
  94. 江田五月

    ○江田五月君 終わります。
  95. 日笠勝之

    委員長日笠勝之君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時十六分休憩      ─────・─────    午後一時三十分開会
  96. 日笠勝之

    委員長日笠勝之君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、少年法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  97. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 公明党の魚住裕一郎でございます。  前回に引き続きまして質問をさせていただきます。  前回、事実認定の適正化というような観点で検察官の関与ということをお聞かせいただいたところでございますが、今般、検察官の抗告受理申し立てということが提案されております。上告受理申し立てというのは聞いたことがありますが、抗告受理申し立て、新しい考え方かなと思いますが、廃案になりました旧閣法では検察官の抗告権だったと思うんですが、この抗告権と抗告受理申し立ての違いというものをわかりやすく御説明をお願いします。
  98. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) 抗告権であれば、高等裁判所は常に抗告審として事件の審理を行い判断することになるのに対して、抗告受理の申し立てというのは、検察官に権利としての抗告権を認めるものではなくて、高等裁判所が相当と認めた場合に限ってその申し立てを受理して、抗告審として事件を審理するという格好になります。また、その決定は抗告受理申し立て書の送付を受けてから二週間以内に行わなければならないとされております。  したがって、高等裁判所がその抗告受理申し立てを不相当と認めた場合には抗告審には係属されず、少年は早期に解放されるということになりますし、またこのような抗告受理制度によって家庭裁判所の誤った判断があった場合には抗告審において適正に是正される機会を設けるというのが主な理由でございます。
  99. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 この前の閣法では抗告権、法制審議会を経てきたものが抗告権であったところが、なぜこの抗告権ではだめなのかということなんでございますが、また逆に、誤った判断をした場合ということが今ありましたけれども、一方で少年審判の手続の協力者というような立場であるわけでございますが、なぜこの抗告受理申し立てというものが必要なのかという点はいかがでしょうか。
  100. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) 今、委員指摘のように、検察官は職権主義的審問構造のもとで審判の協力者として少年審判に関与する、こういうふうになっております。したがって、当事者主義的な抗告権を検察官に認めるよりも、検察官は抗告受理申し立てができるだけで、これを受理するかどうかというのは全部裁判所の判断にゆだねる方がより職権主義的な趣旨に沿うというふうに考えております。  また、高等裁判所は原裁判所から抗告受理の申し立て書の送付を受けてから二週間以内に抗告を受理するか否かを決定しなければならないのでありまして、抗告審として受理が相当でないというふうな場合であれば早期に決着がつけられる、こういうことでございます。  なお、抗告受理の申し立ては、審判に検察官の出席が決定された場合において、保護処分に付さない決定または保護処分の決定に対して、当事者の非行事実の認定に関し、決定に影響を及ぼす法令の違反または重大な事実誤認があることを理由とするときに限って行うことができるというふうになっております。  また、今回の改正によって被害者の方の意見の陳述とかあるいは記録の閲覧なんかが認められるわけでございますけれども、被害者の方はこういう審判にある意味ではより関与することが認められることになりますから、より事件の推移について神経が集中する、どうなんだろうという気持ちが強くなる。そういう観点から見ましても、万一間違った審判がなされた場合に何も不服の申し立てができないような制度であれば、これまた被害者の救済という趣旨から見てどうなのかなと、そういう観点でも被害者救済の一助になるのではないか、こんな意味も含まれております。
  101. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 今おっしゃったように、この手続の協力者という立場を考えれば、確かに抗告権という当事者のような権利を与えるのは、それ自体ちょっと理論上どうなのかなというふうに思うところでございます。  ただ、抗告受理申し立て制度と提案がされておりますが、これは一部では抗告権を付与したのと同じではないかというような論者がいるわけでございますが、そういう論についてどのようにお考えでしょうか。
  102. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) この制度については、今、委員指摘のような批判もなされていることを十分承知しております。  しかし、先ほど申しましたように、抗告権ということであれば、これは高等裁判所は常に抗告審として事件の審理を行わなきゃならないという立場になります。抗告受理の申し立てでは、検察官に権利としての抗告権を認めるのではない、高等裁判所が相当と認めた場合に限ってその申し立てを受理して抗告審として事件を審理するという構造になっております。また、その判断も、受理申し立て書が送付されてから二週間以内になさなければならない、したがって抗告受理申し立て制度においては高等裁判所が不相当と認めた場合には抗告審には係属しない、少年は早期に手続から解放されることになります。したがって、抗告受理の申し立て制度と抗告権が同じだという考え方、これは私は全くその批判は当たらないというふうに考えております。
  103. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 確かに被害者側が一定の関与をするわけでございまして、そういうことまで配慮した上での御提案だということでございまして、私、なるほどというふうに納得するわけでございます。  続きまして、今度、保護処分終了後における救済手続の整備ということで、保護処分取り消し決定ということが盛り込まれているわけでございますが、そういう場合における当該少年の名誉回復というふうなものはどういうふうにお考えなのでしょうか。発議者の方、お願いをいたします。
  104. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 委員が今御指摘されました保護処分の取り消し、これは現行の少年法の第二十七条の二ですが、これだと、成人事件における再審の手続に近いものとして、少年事件の場合は保護処分の取り消し手続という非常救済手段があります。保護処分決定が確定した後で非行事実がなかったということを認めることができるような明らかな資料を新たに発見したときは家庭裁判所は保護処分を取り消すこととするものである、これは現行の二十七条の二に書かれております。しかしながら、現行の少年法上、この保護処分取り消しというのは、保護処分の継続中に限って、すなわち少年少年院に収容されている間や保護観察を受けている間に限ってだけ認められていました。  しかし、今回、事実認定手続の一層の適正化ということ、そういう観点から少年審判の手続を改正することから、これに合わせて事後的に、いわゆる終わった後、是正に当たる救済の手続も整備することとして、保護処分が終了した後においても、非行事実がなかったことを認めることができる新規明白な資料を発見したときは保護処分の取り消しを認めることとしたものであります。
  105. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 名誉回復ということで、確かに終了した後でも審判に付すべき事由が認められないというようなことで取り消しをするわけでございますが、これは「ただし、本人が死亡した場合は、この限りでない。」ということなんですが、これはどういう趣旨なんでしょうか。
  106. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 今、委員から御指摘があったように、今回の改正法におきましては、第二十七条の二第二項ただし書きで、本人が死亡した場合、保護処分の取り消しは認められておりませんけれども、保護処分と刑事事件において刑罰が科せられる場合、これを比較してみますと三つぐらい違いがあると思います。  まず第一は、刑罰というものは社会正義を実現して社会秩序を維持するための制裁として科せられるものであるのに対して、保護処分は本人に対する保護、教育的な措置としてなされるものであります。二番目は、刑事事件が公開法廷で審理されて、本人が犯罪を行ったということを広く知らされるということに対して、少年審判は非公開でなされます。また、少年を特定する事項についての報道制限規定がありますので、当該少年犯罪を行ったことが社会的に知られないように配慮されている。三番目の違いは、刑罰が前科として各種法律により資格制限がなされますけれども、保護処分にはこのような制限がない。このような三つの違いがあります。  したがって、このような保護処分の特質を踏まえて、保護処分終了後の保護処分取り消しについては、本人生存中は救済措置として、誤って保護処分を受けたため傷ついた本人の情操の保護、また回復を図ることとしたのが目的でありますので、死亡した場合にはこの規定を用いないといたしました。
  107. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 確かに刑事処分は制裁、応報、そういう刑罰の本質論といいますか、いろいろあると思いますが、ただ国家刑罰権というか、その一作用として刑事処分なり保護処分もあるんだろうと思うんですね。  つまり、国家が判断をして、刑罰権があるかないか、あるいは保護処分の事由があるかないかと判断しているわけで、審判に付すべき事由が認められないというふうなことがわかったということになりますと、その誤った判断をそのまま本人死亡後でもずっと維持しようということになりかねないのではないか。親御さんの気持ちとしてはそんなのはとんでもないというような思いもあろうかと思うんですが、これは旧閣法でもたしかこういうような条文だったと思うんですが、法務御当局はどういうふうな御判断でしょうか。
  108. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) ただいま提案者の方から御説明があったとおりのことでございますけれども、要するに少年の場合、保護処分が終了すれば法律的にはそれには何の効力ももはや残っていないことになるわけでございます。  したがいまして、ここで保護処分の執行終了後の取り消しということを考えるときには、先ほど提案者の方から御説明がありましたように、一番問題になりますことは、やはり少年が誤った判断を受けたということによって傷ついた心、これをどういうふうに回復するかということに最大の問題があるということから、それを回復するための措置としては本人が生存中であるということが適当であろう、こういう判断に至ったものでございます。
  109. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 今、刑事局長のお話がございましたが、高木提案者の方から非公開だ、あるいは六十一条ですか、報道等で本人が特定されないように配慮がしてある、こういうような御答弁があったと思います。  たしか衆議院の法務委員会だったと思うんですが、附帯決議で、少年の実名報道をどうするかということを検討しましょうというような、そういう趣旨の附帯決議が入っていたというふうに記憶をするわけでございます。司法判断がまたれるところでございますが、今最高裁にかかっているんでしょうか、そういう少年法の規定があるにもかかわらず実名あるいは顔写真を掲載した報道に対して今争いになっているところでございます。  そうすると、もし六十一条をちょっと変えていこうよ、実名報道を可能なようにしていこうよというふうになった場合にはこのただし書きはとれるというふうな判断でよろしいのでしょうか、刑事局長
  110. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 仮定の部分が大分含まれておりますので、今ここで確定的なことを申し上げるのは大変難しいと思うわけです。  非常に抽象的に申し上げれば、例えば逆送決定になって刑事裁判になった場合は例外にするとか、仮にそういうようなことがあれば、これは実は刑事の再審の問題になっていくわけでございます。  しかしながら、いずれにいたしましてもその辺は今の段階で何とも申し上げられることではありませんので、現時点ではこの六十一条に何らかの修正が加えられた場合にどうなるかということについては申し上げかねる次第です。
  111. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 この六十一条の趣旨なんですけれども、今、保護処分の取り消しの関連でちょっとお聞きしたんですが、もう一度六十一条の趣旨というものを御説明いただけますか、刑事局長
  112. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) この少年法六十一条の趣旨は、少年の健全育成という観点から、少年が犯した罪について、だれがやったのかというふうなことが特定されるような記事が社会の中に広がりますと、後の少年の更生、社会復帰の上で非常に大きな障害があると。少年というまだ人格形成途上と申しますか、可塑性のある段階でのそういう問題については、社会の方でそこはやはり少年社会復帰ということを重視する必要がある、そういう観点からつくられたものであると理解しております。
  113. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 わかりました。  確かにそういう観点からしてみると、悪質、重大であったとしてもそういうことは十分に配慮していく必要があるなというふうに思うところでございますが、なお司法判断が出ることを待ってさらに議論をさせていただきたいというふうに思っております。  続きまして、保護者の責任の明確化ということが一項目入っていたというふうに思いますが、保護者に対し訓戒、指導その他の適当な措置ができるようにするということでございますが、具体的に何を言っているのかなと。訓戒、指導、適当な措置というのは一体何なのか。具体的にそれは判決書きみたいに親御さんに文書で渡すのか。そもそも犯罪少年の親は裁判所へ呼び出しても来ないのではないか等いろいろなことを考えるところでございますが、具体的にどういうふうな形でお考えになっておられるんでしょうか。裁判所で結構です。
  114. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。  少年非行の原因や背景には親の養育態度でありますとか親子関係の問題があることが少なくないということから、少年の立ち直りというものを図るためには保護者自身がみずからの問題に気がつくことが肝要であろうというふうに考えるわけでございまして、こういった観点から、従来も家庭裁判所の中におきましては運用上の工夫において保護者に働きかけをしてきたわけでございます。  具体的にどういう方法があるのかというお尋ねでございますけれども、具体的には、やはり保護者自身がみずからの問題を自分の頭で考えてもらう、これが一番大事な点でございますので、ただ単に紙を渡すとかといったことではなくして、通常は面接を行いまして、調査官なりあるいは裁判官なりが面接を行う形によりまして、その過程で問題についての認識を深めていく、こういったことが一般的な運用になろうかと考えるわけでございます。  ただ、もとより事案によっては書面等を渡しまして裁判所なり調査官の思いをきちっと伝えるということもあろうかと思うわけでございまして、ケースによっての運用が期待されるところではなかろうかと考えている次第でございます。
  115. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 少年事件の場合は家庭に問題がある、確かに私もそう思うんです。裁判官なり調査官が面接をしてということでございますが、家庭裁判所に来てくださいと言って、来る親はいいと思うんです、それだけ子供の教育に関心があるというか。しかし、関心がない親といいますか、そういう場合も多いと思うんですが、その場合はどういうふうにお考えですか。引っ張ってくるわけにはいかぬと思うんですね。
  116. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 家庭裁判所といたしましては、やはり親がまず家庭裁判所に出向くという気持ちになることが一番肝要だろうと思うわけでございまして、それが出発点になろうかと思います。その意味におきまして、親に対して調査官なりの立場から裁判所に出向くように働きかけを相当程度行うということが予定されているところでございます。  ただ、親によってはなかなか出頭しにくい、またはいろんな事情で出てきにくい事情もあるという方もあるわけでございますが、そういった場合には調査官が自宅に出向いて面接を行うことも運用上されているように承知しているところでございます。
  117. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 この訓戒とか指導とかその他の措置というのは記録上どういう形になるんでしょうか。例えば、審判廷で行ったときに調書に記載をするとか、そういうことも考えておりますか。
  118. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) その行われる措置がどのくらい明確な形になるかということにもよろうかと思うわけでございますけれども、審判の中で行われたものについては、記載するとすれば、審判に調書はございますし、調査官が行った場合は調査報告書ということになろうかと思います。  どのような形によって記録化するかは、その事案事案に応じた対応になろうかと考えている次第でございます。
  119. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 そういう記録になって、後ほどまた民事裁判で被害者側から民事訴訟を起こされたといったような場合、家庭裁判所が、親はもっとこういうふうに指導すべきだったんじゃないですか、それにもかかわらず放置しましたねと、だから親の責任、民事上の責任もあるんですよみたいな、そういうような被害者側から訴えが提起されるのではないかというふうに思うわけでございますが、この保護者の責任の明確化が民事裁判に与える影響というものは発議者の方ではどのようにお考えでしょうか。
  120. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 保護者に対して民事上の損害賠償請求が行われる、こういうときは、保護者に監督義務を怠った過失があったか否か、そういうものを吟味するものであると思います。  それは個々の保護者の監督状況を具体的に審理して認定される必要があり、したがって少年事件の調査、審判の過程で少年の健全育成を図るために、また将来に向かってどのように対処をすべきかということを中心に保護者に対して訓戒や指導等の措置がとられたとしても、これは直接的には民事裁判に関係がないと考えております。  なお、今回の改正法の第五条の二による被害者等による閲覧、謄写等の対象となる事件の記録はその事件の非行事実に係る部分に限ることとされているので、非行事実と関係ない保護者に対する措置に関する記録は通常は閲覧、謄写の対象とはならない、そういうこともありますので、今回の委員質問の民事裁判に影響を与えるかというと、与えないというふうに考えております。
  121. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 後ほどその閲覧につきましてはお聞きしたいと思いますが、それはそれでわかりました。  次に、コピーの関係でございますが、この間新聞に法務省の方針として「少年事件 記録コピーし保管へ」というような見出しで、これは十一月六日の新聞に載っておりました。  検察庁においては、どういう趣旨でこのコピーをするのか、そしてまたその範囲とか運用はどのようにお考えなのでしょうか、御説明をお願いします。
  122. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 検察官が捜査の必要上捜査記録の写しを作成して保管しておくということは、これは成人事件でも少年事件でもしばしばこれまでもあることでございます。具体的にどういう場合に必要になるかと申しますと、典型的に申し上げますと、共犯者がいる、その共犯者について、まだ共犯者が検挙をされておらず後から捕まってくるなどというケースの場合、特に今必要性が高いことが多いわけです。  そういうことから、少年事件でありましても、捜査上必要があると考えられる場合には、その記録のコピーというのは検察官が保管するという場合がしばしばこれまでもあったわけで、今回、改めてその記録のコピーをつくるという方針を決めたというふうなものではないわけです。  また、特に少年事件につきましては、時には後ほど家庭裁判所から補充捜査の依頼を受けたりもするわけです。そういうときに記録がありませんとその補充捜査のポイントというのが非常につかみにくいとか、いろんな問題もあるわけです。  そういうことから、少年事件に対する対応をしっかりとしたもの、充実したものとするために、やはり記録のコピーについても、十分捜査の必要性を考えて、今後そういうふうな手持ち資料として作成しておかなければならないという場合がこれまでよりさらにふえてくる可能性がある、そんなような考えでいるわけでございます。  ですから、ただいま申し上げましたように、改めて何らかの方針を定めたと申しますよりは、やはり少年事件に一層充実した対応をするために今そういうことがさらに必要になってくる、そういう考えに基づくものでございます。
  123. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 これは新聞ですから、局長がおっしゃった方が正しいのかもしれませんが、ただこの新聞の書き方によれば、「コピーの対象となるのは、少年の供述調書と、警察から送られてきた捜査報告書となる見通し。」だと、それから「対象犯罪は、殺人や強盗殺人などの重大なものとなる」と。  今、刑事局長のお話だと、そういう罪種を別に限定しないんだよというような形でございますし、コピーの対象文書も今言った供述調書と捜査報告書以外にも考えているように感じますが、ここだとかなり限定的に書いてあるんですが、もうちょっとこれは御説明いただかないとよくわからぬのですが。
  124. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 先ほど申し上げましたとおり、捜査上何が必要かという観点からのものになるわけでございます。したがいまして、例えば関係者の供述調書などというのが必要になる場面が多いであろうと思います。  しかし、捜査報告書が一般的にそういう必要性が高いかというと、それは物によるわけでございまして、一概に捜査報告書だから高いとかそういうことにはならないと思われます。ですから、結局は個別の捜査の必要に応じて必要だと認められる範囲ということになっていくわけでございます。
  125. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 それでは次に、同じ謄写ということでございますが、今回、被害者側に少年審判の記録の閲覧、謄写ということを認める形になるわけでございますが、その認める理由、そしてまたどのような場合に認められるのか、あるいはこの範囲等について簡略に御説明をお願いします。
  126. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 保護事件の記録については、被害者が損害賠償請求訴訟を提起している場合に、その民事訴訟のために保護事件の記録を利用することを希望する場合などがあると思います。少年の健全育成等を害しない範囲でこれを認めることが相当な場合も考えられます。  この点、被害者等は少年審判規則第七条第一項によって家庭裁判所の許可を受けた場合には保護事件の記録の閲覧、謄写を認められることとされております。さらに、審判係属中の場合も含んで被害者等による記録の閲覧及び謄写を法律に明記することで、被害者等が閲覧、謄写をより希望しやすくするとともに、法の趣旨を踏まえた被害者等に対する配慮の徹底も期待され、一定の要件のもとに記録の閲覧、謄写を認めることを法律に明記いたしました。これが目的です。  具体的にというお話なんですけれども、正当な理由の存在のほかに、少年の健全育成に対する影響、事件の性質、調査または審判の状況等を考慮して相当と認めるときという要件が付されており、これを満たすことが必要になります。  正当な理由の具体例というのはどういうものかということですけれども、損害賠償請求権の行使のために必要があると認められる場合、また訴訟を提起するかどうかの判断資料としたり、民事保全または保険金の請求の資料に使用する場合、あと意見陳述の前提として事件の内容を知る必要がある場合が考えられます。ただ、被害者等が事件の内容を知りたいという場合には、それだけでは必ずしも正当な理由があると言えるかは問題で、実際はその背景として多くの場合民事訴訟の検討や意見陳述の検討の必要があると思われ、かつ真の意図が報復等のためでなければ正当な理由があると認められると考えております。
  127. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 前に月刊誌か何かに供述調書がそのままずらずらと載ったようなことがあったと思うんですけれども、今回、閲覧そして謄写を認めさせるということでございますが、マスコミ等に漏らした場合、どういうような対応をすることになっておるんでしょうか。
  128. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 今、委員の御指摘は神戸の事件の供述調書が月刊誌に載ったことだと思うんですけれども、私もあれを読んである意味ではびっくりしたというか、驚き、衝撃、いろいろありました。  ただ、今回の改正案で被害者が知り得た事項を用いてこれにより関係人が損害をこうむった場合、こういうときは民法七百九条の不法行為が成立いたしますし、また当該関係人の名誉を毀損した場合は刑法二百三十条の名誉毀損罪が成立する場合もあります。また、閲覧、謄写の依頼を受けた弁護士が御指摘のようなことをすれば懲戒の理由にも該当し得ると。あと、マスコミの方ですけれども、マスコミ自体がそれを請求することはできないわけですから、それはどこかから漏れるわけですね。マスコミの方の対応という形では、今回の法律では文章としてはこれがこうこうという形では書かれてはおりません。
  129. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 この第五条の二の第三項では、漏らしてはいけないというようなことが規定されているわけでございますが、その裏づけはそういう名誉毀損であるとか弁護士等の職務上の倫理に任せるというようなことになるんだと、何となく心もとないなという気も若干するところでございます。  この第三項のところに、「少年の氏名その他少年の身上に関する事項を漏らしてはならず、」ということでございますが、法務当局で結構ですが、少年の身上に関する事項というのは何なんでしょうか。つまり、非行事実のところしか謄写できないわけですから、少年の氏名というのは別に記載されていますから、戸籍謄本とかそういうのも閲覧できるということを意味するんでしょうか。
  130. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 先ほど申し上げましたように、少年の氏名その他少年を特定することについての先ほどの報道の禁止の問題と多少似通っているところもないわけではないわけですが、要するに本人の生い立ちとかそういうことで、事件そのものと直接かかわりのないような問題、これはやはり少年の生い立ちなどの中でそれが知られると少年社会復帰、今後の社会生活の上で非常に痛手になるというふうな事態なども考えられるわけでございます。したがいまして、そういう事件と直接にかかわりのない、粗っぽく言えばプライバシーにかかわるような事項とでも申しましょうか、そういう点についてはこれは適当ではない、こういうお考えであろうと思っております。
  131. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 いや、だから非行事実だけですよ、閲覧、謄写できるのはというふうになっているんだけれども、こっちの第三項の方になると、「少年の身上に関する事項」と載っているものですから、少年の身上に関する事項というのは、これは非行事実の範囲に入るのかなと思うところなんですね。
  132. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) いろんなケースがあるわけでございまして、全くその事件と無関係な場合も非常に多いと思うわけですけれども、事件の直接のきっかけがそういうところにあるような場合というのも、それもないわけじゃないわけです。そうなりますと、そういう部分というのは、これは非行事実に関する部分という中に含まれざるを得ない面もあるわけでございます。そういうことについての御配慮の結果であろうと理解しております。
  133. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 閲覧、謄写が三年以内という期限つきといいますか、これはどういうことなんでしょうか。
  134. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 被害者等による記録の閲覧、謄写の必要性は事件終結後時間の経過とともに減少するものであって、一定の期間が経過した後は少年の生活の平穏やまた関係人の名誉等の利益の保護の要請がこれに優越するものであると考えております。  先ほど申し上げましたけれども、不法行為による損害賠償請求の時効が三年とされていることだとか、また被害者通知制度の通知の可能期間を三年としていることなどを考慮して終局決定後三年間としたものであります。
  135. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 次に、被害者への配慮ということで意見の聴取ということが規定されるわけでございますが、被害者の会とかあるいはテレビ等でも被害者側の意見を何も聞いてくれなかったというようなことを、私もじかにお聞きしたことがございますし、そのとおりだなと。少年事件においては被害者側は忘れられた存在というようなことも言われたりしたところでございます。  この意見聴取でございますが、その時期とか方法はどういうふうにするものなのか。そしてまた、これはあえて意見聴取でございますが、意見表明権といいますか、そういうことまではお認めになっていないようでございますが、その辺はどういう理由からでしょうか。
  136. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 家庭裁判所は、被害者等から意見陳述の申し出があってその聴取を相当と認めるときは、みずからその意見を聴取するかまたは家庭裁判所調査官に聴取させるかを判断して、被害者にその旨を通知した上で意見を聴取することとなると考えております。  その聴取の時期、これは審判の状況等にかんがみ、家庭裁判所が適宜な時期に行うものと考えております。また、その方法については、家庭裁判所または家裁の調査官がこれを聴取することとなると思います。その聴取の場所については、審判廷外で行われることもありますが、適当と認められるときは少年等が在席する審判廷で行われることもあると考えております。  あと、意見表明権のことも今お尋ねになりましたけれども、改正少年法の第九条の二によれば、被害者等から申し出があるときは今申し上げました意見を聴取することとしております。したがって、その意味では意見表明を認めたと言っても過言ではないというふうに私たちは考えています。  しかし、被害者が多数の事件で多数の者が意見聴取を希望したりだとか、また暴力団同士の抗争事件などに絡んで意見聴取を認めることが相当でない場合、こういうこともあり得るところで、そこで例外的に事件の性質、また調査または審判の状況その他の事情を考慮して、相当でないと認めたときは意見聴取をしないことができることとしております。
  137. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 確かに、個別的にどうすれば一番よいのかということを裁判官に判断していただくという形で解決されたと思いますが、裁判所におかれては、ぜひこの被害者側の思いというものもよく酌んでいただきたいなというところでございます。  今回、通知制度というようなものができましたが、今までも犯罪被害者保護法制の中で取り組んでき、また実務上も取り組んできたところでございますが、少年事件に関して警察、そして検察の通知というものはどういうふうになっているんでしょうか。
  138. 黒澤正和

    政府参考人黒澤正和君) お答え申し上げます。  警察では、犯罪被害者対策といたしまして、被害者に対して事件に関する情報の適切な連絡などに努めておるところでございます。  具体的には、殺人、性犯罪、傷害等の身体犯等の事件の被害者あるいは御遺族に対しまして、支障のない範囲内で、捜査の状況のほか、被疑者を検挙した場合にはその旨及び被疑者の氏名、年齢、住所や起訴、不起訴の処分結果等について連絡することといたしております。少年事件の場合には、特にその特性にかんがみまして少年の健全育成を期する観点から、少年の健全育成を害するおそれがあると認められるときには、例えば被疑少年の氏名にかえましてその保護者の氏名の連絡にとどめたり、連絡の際に少年の健全育成の重要性について説明を行うなどの配慮を行っているところでございます。
  139. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 検察庁におきましても被害者等に対する通知制度を設けておりまして、少年犯罪を含め検察官が被疑者の取り調べなどを実施したとき、通知の希望の有無を確認して、希望する方に事件の処理結果等を通知申し上げているところです。  そのほかに、取り調べなどをしない場合でありましても、被害者が亡くなった事件あるいはこれに準ずるような重大な事件につきましては、検察官の方から積極的に連絡をとって通知の御希望の有無を確認した上で同様の取り扱いをしているところでございます。  通知内容といたしましては、少年事件につきましては、家庭裁判所送致などを含む事件の処理結果、それから逆送になってきた場合には、公判期日でありますとか刑事裁判の結果などを通知しているところでございます。
  140. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 だんだん時間がなくなってきたんですが、これは被害者側への配慮ということで、その中で意見を表明するとか通知をもらうとかいろいろあると思うんです。審判廷は非公開ではありますけれども、やはりどういうふうになって裁かれていくのかということは非常に大きな関心があろうと思うんですが、提案者の中で傍聴ということは議論をされなかったんでしょうか。そして、今回これは傍聴ということが入っていないようなんですが、なぜ入れなかったのか、御説明をお願いします。
  141. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 与党のプロジェクトチームで論議を進めてまいりましたけれども、そこで、委員指摘の被害者の配慮ということで、傍聴をどうするべきかと、これはかなり突っ込んで議論がございました。しかしながら、この傍聴に関しまして幾つか問題点があるんではないかなと。  まず一番目は、被害者に少年審判の傍聴を認めると、審判廷の構造、これは委員も御存じのように少年との間に感情的なトラブルが生ずる場合、そういうことが懸念されるんではないかと。  二番目に、少年や保護者等の関係者が、傍聴があるということでプライバシーに関する事項について発言することをためらったり、そういうことから逆に裁判所が必要な情報を得にくくなる、そうなると逆に適正な事実認定、さらには処遇の選択をすることが困難になる可能性もあるんではないかと。  三番目に、少年の情操の安定や反省の深化が妨げられる、いわゆる当事者、被害者がいるということでですね。そういう可能性なども考えられるため、今回この傍聴については導入することは盛り込まなかったと、そういう状況であります。
  142. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 確かに、同じ少年でも刑事処分相当で刑事処分になったら公開の法廷で、だれでも聞ける世界の中でやるわけでございますが、その辺の落差が大きいなという気もいたしますけれども、物理的にも可能であればまた今後議論をしていくべきではないかというふうに私は考えるところでございます。  今回、いろいろ被害者側へ配慮された提案になっているところでございますが、マスコミ等を通じて犯罪被害者の大変な状況が報じられているところでございますが、やはり治療費とか精神的な苦痛に対してどう償っていくのか。  先ほど江田理事の方からも社会の質というようなお話がありました。その点は全く同感でございまして、かつての新宿西口のバスの放火事件に端を発したと思うんですが、犯罪被害者給付金制度というものがあると思うんです。最近これについて拡充という声が大きくなってきていると思うんですが、この点の議論の推移、そしていつごろ、どのぐらいの額まで上がるのかというようなことがお話しできればお願いをしたいと思います。警察庁、お願いします。
  143. 安田貴彦

    政府参考人安田貴彦君) お答え申し上げます。  警察庁におきましては、昨年より犯罪被害給付制度の拡充につきまして検討を進めてきたところでございますが、八月十日には有識者で構成される犯罪被害者支援に関する検討会から犯罪被害給付制度の拡充に関して中間提言をいただいております。  警察庁といたしましては、この中間提言を重く受けとめ、支給範囲の拡大、そして給付金額の引き上げにつきまして、犯罪被害給付制度の拡充を図るべく準備を進めておるところでございます。
  144. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 項目的にはちょうどよくなってきたかなと思っておりますが、あと一問だけ。  我が公明党におきましては、被害者救済、そしてまた少年の更生、社会復帰という両方の観点から、修復的司法ということが最近マスコミにも取り上げられ、また弁護士会でも提唱され、また私どもも提唱をしているところでございます。  先ほど高木提案者の方から傍聴に関連して、確かにホットな状態の中で被害者側が審判廷に入ることはいかがなものかというようなことがあったんですが、ただ加害少年と被害者が落ちついた状態で協議をしていく、そしてそれぞれの事情というものを伝え合っていくということが大きくこの少年の更生に、また被害者の心の傷のケアになるんではないかということが言われており、また私もそう思うところでございます。専門家の立ち会い、そしてそのための施設でありますとか専門家の養成ということが大事になっていくというふうに思うところでございますが、こういうような修復的司法というものにつきまして大臣の御所見をいただければ大変ありがたいのでございますが。
  145. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) 日本の刑事司法の手続の中で、例えば被害者と和解するというようなことから、そのことを重く考えて起訴するかしないかを決めたり、あるいは裁判所においても、普通の争いのない事件は被害者と和解して被害者が宥恕しているかどうかが非常に弁論の中心になって、その量刑に当たっての事情を弁護士で整えていくという過程で、被害者に対するいろんな損害の回復、心理的ないろんな、宥恕の対応というもの、我が国は社会そのものがそういうことを求める社会の特質があって、それが生かされていると思うんです。  また同時に、今、先生が言われたような被害者の心のケアとか、少年が罪を意識して、そしてはっきりその被害者の気持ちや被害の状況、悔しさ、苦しさ、悲しさなど、そういったことを理解する機会を持つということは少年の更生、社会復帰にも非常に重要な役割を果たすと。  そういった意味で、さきに私、公明党の青少年健全育成等プロジェクトチームですか、浜四津敏子先生が座長の、総理に出された提言を拝見させていただきまして、その中に被害者・少年等協議プログラムの導入という項目があります。今でも矯正施設で、また保護観察所で保護観察を行う際にも似たようなことをやっていると思うんですが、先生の御指摘は、そういうものに専門家をもっと加味したりいろいろと補強、工夫を重ねて、もっと施設として何か拠点になるものを考えたらどうかとか、その施設といろんな国家のこれに関連する、あるいは地方公共団体等との連携をもう少し工夫したらどうかとか、いろいろ提言を拝見すると細かい内容のさらなる改善の工夫についての意見がそこに記されておりまして、私は非常に参考になるなと思っております。  今後どういう形でこういうことを具体化していくかということについては、いろいろな角度から、また財政当局とも相談しなきゃならない点もあるかと存じますが、できるだけ適切な対応をするように努めてまいりたいと考えております。
  146. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 終わります。
  147. 橋本敦

    ○橋本敦君 続いて、私から質問させていただきます。  最近の少年犯罪、重大な事件がありまして、私ども国民ひとしく心を痛めているわけでありますが、そのためにどう対応していくかということが社会責任として問われているわけであります。  まず第一に被害者の皆さんに十分な補償並びに情報開示等、適切な対応が必要であることは言うまでもありませんが、本法案ではまだまだ不十分であり、さらなる改善が必要だということは既に申し上げました。  それと同時に、少年をどのように育成、健全化させていき、犯した行為についての厳しい反省から社会にどう巣立っていく、その道筋をたどっていくかという少年法本来の教育的、保護的、福祉的理念というものはこれは堅持をしていかなくちゃならぬ。そういう意味で、最近の事件が耳目を引くのが多いというそのことから厳罰化へ急いでいくということについては、これは慎重でなくてはならぬ、こういう立場であることは既に申し上げました。  そういう点で厳罰化には反対するということで、二十条の改正による原則逆送の問題は私は大変大事な問題、重大な問題だということを前回指摘したんですが、きょうはその厳罰化の第二の問題として、十四歳、十五歳の幼い少年に対して刑事裁判に付するという、この問題について質問をしたいと思います。  最初に、法務省に伺いますが、刑事裁判適用年齢を十四歳、十五歳に下げる、この問題について法制審では何らかの議論があり結論が出ていますか。
  148. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 法制審議会でただいま御指摘のような問題が審議に付されたということはこれまでございません。
  149. 橋本敦

    ○橋本敦君 この問題は少年の健全育成という少年法の基本的な理念にかかわる重大な問題ですよ。  しかも、十四歳、十五歳といえば紛れもなく義務教育下にある中学生でしょう。その中学生が大人と同じように公開の法廷で、裁判官の前で、そして多くの傍聴者がいる前で裁判に付せられるという、そのことの精神的重圧にどうして耐えられるか。そのことの意味を本当に自覚的に前向きにみずから判断をして人格形成に役立てるというような、そういうことができるのか。それどころか、私はむしろ社会的威嚇のもとにさらされる、そういう危険があるというように思うんですね。だからこそ、少年法が施行されて今日まで五十年の間、十四歳、十五歳の少年に対しては刑事裁判に付さないで専ら教育的措置を施すということでやってきたんじゃありませんか。  そして、そのことは法制審でも議論されていない、結論も出されていない、こういうことでしょう。それを法制審にもかけないで、突然議員立法で少年に対して刑事裁判にかけるという大変革をやるということは、私は、まさに拙速どころか、法をつくるという国会のあるべき姿でない重大な問題だと思いますよ。  こんな重大な問題を法制審にかけなくてよいと法務大臣はお思いですか、どうですか。
  150. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) この点はもう既に先生に何遍もお答えを申し上げたと思いますが、法制審も諮問に基づいて検討するわけでございますので、諮問のいきさつ等から検討をしなかったというだけで、決して改正すべきでないから、あるいは議論する価値がないからもうその議論は一切しなかったのではないと、そう承知しております。  なお、法制審議会を経てこういう重要なテーマは立法すべきだというのも一つの考え方とは存じますけれども、私は、再三繰り返して申し上げているとおり、衆議院におけるさきの通常国会の最終段階で立法措置を含むあらゆる角度から少年非行対策について対応すべしという趣旨の決議をいただいていること、あるいはその結果与党において真摯な努力をして、最近のいろいろな年少少年犯罪動向とか各分野で起こっているいろんな貴重な意見を踏まえた上で、かつ選挙を通じてかなり国民と接する機会のあった国会における立法府の議員たる責任においてこの年齢問題も取り上げて今度の改正法案に盛り込まれたものと承知しておりまして、そういう与党の真摯な努力による改正案については、私は法制審議会にあえて付すこととすることは考えずに、与党の対応にゆだねたということでございます。
  151. 橋本敦

    ○橋本敦君 まことに与党の大臣らしい答弁ですよ。  国民の意見を聞くと言うなら、慎重を期すべきだという意見はいっぱいあるんですよ。そういう意見に対して真剣に耳を傾けないこと自体は整合性がないですよ。十四歳、十五歳というのは言うまでもなく義務教育年齢です。そして、この義務教育年齢の子供に、例えば労働基準法さえ御存じのように五十六条では労働の禁止をして、まことに大事な教育という問題を専念的に受けさせる体制を労働法の分野からだって確保しようとしているんですよ。当たり前でしょう。  そういう子供たちが裁判に付せられ刑に処せられる、そういうことになった場合に、一体子供の教育を受ける権利の問題、そして国の方から義務教育を施すという国の義務の問題、これはどんなふうに提案者は考えているんですか。
  152. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 御答弁申し上げる前に、議員立法でこれを提案したことがあたかも悪いような、法制審にかけなければこういうことをやっちゃいかぬような趣旨で御発言されたんではないかと思うんですが、私どもは国権の最高機関であり唯一の立法機関である国会に属する議員として、現下の社会情勢を考えまして我々の責任で議論をし立法するということをやったわけでございまして、議員のおっしゃるような法制審にかけなければけしからぬというような言い方はいかがかと思っておることをまず申し上げさせていただきます。  その上で、十四歳、十五歳の問題でございますが、十四歳、十五歳というと中学生でありますが、もし仮に実刑を受けた場合に、教育を与えない、義務教育をしないということになりましたら憲法違反の問題が生じるかと思いますが、少年刑務所においても必要に応じて教育を施すことは可能であります。  現実に松本の刑務所には義務教育を施せるような体制ができておりますけれども、さらに今回の少年法改正案におきましては、懲役または禁錮の言い渡しを受けた少年に対しては十六歳に達するまで少年院において刑を執行し、矯正教育を行うことができるものといたしておりますので、義務教育を受けることには支障が生じないと思います。そのように配慮をいたしておるところでございます。
  153. 橋本敦

    ○橋本敦君 その問題は後でもっと聞きましょう。支障が生じないなどと言えるような問題じゃないですよ。  それで、次の問題として、十四歳、十五歳の少年による犯罪の最近の傾向についてまず検討してみましょう。  法務省に資料をいただいたんですが、年少少年、中間少年、年長少年とこう区別していただきました。年少少年というのは何歳から何歳までですか。
  154. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 十四歳、十五歳のことを通常、年少少年と呼んでおります。
  155. 橋本敦

    ○橋本敦君 その年少少年の最近三、四年の殺人事件の検挙人員を教えてください。
  156. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 年少少年について申し上げますと、殺人の検挙人員は、平成元年から六年までは毎年十人未満でございましたけれども、平成七年以降、毎年十人を超えており、平成五年を底として増加傾向にあると認められます。
  157. 橋本敦

    ○橋本敦君 平成十一年で十六件ということですが、間違いありませんね。
  158. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 平成十一年は御指摘のように十六件でございます。
  159. 橋本敦

    ○橋本敦君 年長少年は五十件ですが、間違いありませんね。
  160. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 御指摘のとおりです。
  161. 橋本敦

    ○橋本敦君 それで、交通関係業過を除く年少少年刑法犯の罪名別の検挙人員数もいただいておりますが、平成七年を見ますと、総数が五万三千件余り。このうち圧倒的多数が窃盗で三万六千、横領で八千三百六十、恐喝で二千六百十七、傷害で三千七十八、こうなっておりまして、そういう圧倒的多数の何万件という中に比べて殺人は十一件、平成七年。平成八年も十一件。  こういう現状であることは、これも数字の上で間違いありませんね。
  162. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) 御指摘のとおり、年少少年の事件の非常に多数は窃盗でございます。
  163. 橋本敦

    ○橋本敦君 それで、今度は裁判所にお伺いいたしますが、家庭裁判所の処理として、今までの数字で結構ですが、家庭裁判所の終局された事件で年少少年の殺人の関係がどうなっているかわかりますか。
  164. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。  家庭裁判所において終局いたしました年少少年についての殺人事件の件数でございますけれども、平成元年から平成十一年までの間いろいろ増減を繰り返しておりまして、一番多い年で十五名、一番少ない年で三名ということでございまして、この十一年間の平均は五・八名というふうに承知しております。
  165. 橋本敦

    ○橋本敦君 その数字を見ても、少年の刑事事件は本当に少ないものであることがわかる。私は少ないからいいとは決して言いません。殺人を犯すということは絶対に許されない。  しかし、私が指摘するのは、わざわざ法二十条を改正して、これらの少年について大人と同じ刑事裁判にかけるという、そのことを今改正しなきゃならぬというそれだけの具体的必要性があるのかということと、少年の保護、健全育成を図らなきゃならぬという少年法本来の理念との均衡をどう考えるかという重大な問題があるという、そこですよね。  そこで、次の質問に移っていきたいと思うんですが、諸国の例を見てみたいと思います、諸外国の例。十四歳、十五歳という年少少年は人間的な感情やその能力あるいは精神的な発達段階、そして総体的に未熟であることは否めませんね。したがって、こういう少年たちにこそ反省と自覚、そこから立ち直っていくという教育的、要保護的措置というのがまさに家庭裁判所と少年法の任務になってくるわけですが、これらの少年はまた若いだけに可塑性が大きいから、指導、矯正教育の効果も上げることができるんです。これはもう一般的な原理として、当然少年法の理念に基づいて我が国でも実践し、諸外国でもそういう観点対応してきたと思うんですね。  そこでお尋ねしますが、世界の重立った国々の中で、十四歳、十五歳の少年刑法上の刑事責任を問うという建前とは別に、実際現実に刑事裁判、刑罰を科する、そういうことでやっている国というのは、重立った国々の中で多いんですか少ないんですか。具体的に説明してくれませんか。
  166. 古田佑紀

    政府参考人古田佑紀君) すべてを網羅的に御説明するのは困難でございまして、外国の事情でございますので必ずしも正確ではないかもしれませんが、当方で把握している限りで申し上げますと、アメリカにつきましては刑事罰を科し得る年齢、これは刑事責任年齢という意味ではなくて刑事罰を科すことができる年齢ということですが、十四歳以上とする州が多いように考えております。中には十三歳以上という州もございます。  イギリスにつきましては十歳以上、カナダにつきましては十四歳以上、ドイツについては十四歳以上、フランスについては十三歳以上、イタリーは十四歳以上と、私どもとしてはそのように承知しております。
  167. 橋本敦

    ○橋本敦君 私の手元の資料では、今おっしゃったイギリスの場合は、刑事責任年齢は十歳以上だけれども、実際に成人刑法が適用され執行対象にあるというのは十八歳以上ではないかというように見ていますね。  それから、ドイツの場合も、これも刑事責任年齢は日本の刑法と同じ十四ですが、実際に刑法が適用される、執行されるというのは、ドイツの場合は十八歳以上です。そして、イギリスの場合も今言いました十八歳以上ですが、フランスも十八歳以上、ギリシャ十八歳以上、イタリアは十八歳以上、そしてユーゴスラビア十八歳以上。そして、北欧に行きますと、ノルウェーも十八歳以上。スイスは十五ないし十八ですが、これは段階的です。それからさらに、オーストリアへ行きますと十九歳以上ということで、いろいろばらつきはありますけれども、総じて言うならば大体十八歳以上、あるいは十六歳以上というのが世界の諸国の中では多いんです。  こういう状況であるということについて、提案者の方はいろんな資料その他で実証的な研究、検討されたという経過はあるんですか。
  168. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) ただいま先生が十八歳以上とおっしゃったのはどういう趣旨でおっしゃっているかわかりませんけれども、私どもは、主として法務省から実情を聴取いたしましたが、実際に刑事罰を科されている子供たちということになりますと、ごくごく少数でございましょうが、今、刑事局長が申したような年齢から刑事罰を科し得るようになっておる、科された例もあるというふうに承知をいたしております。
  169. 橋本敦

    ○橋本敦君 それで、はっきりお答えになれないような状況が諸国でそれぞれあるというのは、まさにそれぞれの国でこの問題に対する対応について、大変な少年の問題についての配慮をやっているからなんですよ。なぜ刑罰の具体的な執行年齢が十四、十五というのが総体的に言えば少ないかということは、今日の子どもの権利条約その他の国際的規範からいっても、それはもう国際的常識になってきていると私は思うんです。  例えば、子どもの権利条約を見てみましょう。  子どもの権利条約の四十条というのがありますけれども、この四十条一項では、「締約国は、刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定されたすべての児童が尊厳及び価値についての当該児童の意識を促進させるような方法であって、当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し、かつ、当該児童の年齢を考慮し、更に、当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める。」、こう言っているわけです。  これで大事なことは、刑法を犯したと申し立てられた児童にあっても、社会に復帰し社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法、この方法によって扱われるべきだというんです。このことを素直に解釈するならば、刑務所送りを簡単にやってはならない、そういう謙抑的配慮が働いていると言わなきゃならぬと思うんです。  それからさらに、この子どもの権利条約が制定される前、一九八五年ですが、少年司法運営に関する国連最低基準規則というのができました。提案者も御存じのとおりです。ここでも少年司法について言われているんですが、ここで言われていることは、「児童がこの条約において認められる権利を行使するに当たり、」ということから始まって、「児童について法的に責任を有する他の者が」、父母等ですが、「その児童の発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示及び指導を与える責任、権利及び義務を尊重する。」、つまり児童だけの責任を追及してはいけない、保護者を含め社会の要保護的責任、そのことも追及されねばならぬ、このことが指摘されているわけです。  こういうような国際的規範というものは、今日、国際社会において憲法で言うなら名誉ある地位を占めたいという我が国においては当然尊重すべきだと思うんです。  この点について、この問題にも関連をいたしますけれども、一九九八年の六月に児童の権利に関する委員会から日本政府に対して条約第四十四条のもとでの締約国により提出された報告の審査ということが行われて、児童の権利に関する委員会の最終見解として日本に対して勧告がなされております。  その勧告の二十七を見ますと、少年司法の問題が言われています。少年司法の運営に関する状況に関して、「北京ルールズ、リヤド・ガイドライン、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則との適合性は、委員会にとって懸念事項である。特に、委員会は、独立した監視及び適切な不服申立手続が不十分であること、最後の手段としての拘禁及び裁判前の拘禁の使用に対する代替手段が不十分であることを懸念する。代用監獄の状態も懸念事項である。」というように日本に勧告をしています。  これは少年が逮捕され警察に留置されるという問題、代用監獄の問題も含んでおります。それと同時に、この少年司法の運営に関して言うならば、まさにここで指摘されているのは、拘禁は最後の手段である、最後の手段としての拘禁、その使用に対する代替手段があってしかるべきだが、それがまだまだ不十分ではないのかということが日本に対して勧告されているでしょう。  四十八項を読んでみましょう。委員会は「条約及び少年司法の分野における他の国連の基準、例えば、北京ルールズ、リヤド・ガイドライン、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則の原則及び規定に照らして、少年司法制度の見直しを行うことを考慮することを勧告する。」、こう日本に言っています。  つまり、十四歳、十五歳の少年成人と同じ刑事罰を与える、刑事裁判に付すということは、私が指摘したこういった国際原則から見て、それは国際原則に適合しないおそれがある。こういった国際的な原則については、この基準については、締約国として十分に少年司法制度の見直しを含めて検討することを、考慮することを勧告するとまで言っているわけです。だから、こういう国際的な規範からいっても、十四歳、十五歳の少年に刑事罰を大人と同じように受刑者として与えるということは国際規範に照らして問題があるというこの問題はどのように検討され、どのように理解されておるんですか、提案者は。
  170. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 先生のおっしゃったうち四十四条に基づく勧告云々の件は通告がございませんでしたので調べておりませんが、私どもは、現行の少年法も私どもの改正案も、児童の権利条約、少年司法運営に関する国連最低基準規則、いわゆる北京ルールズと言っておりますが、これに沿って立法いたしているものと理解をしております。
  171. 橋本敦

    ○橋本敦君 真剣な考慮が私はまだまだ足りないんじゃないかということを心配します。  今、私が指摘した国連の最低基準規則にしても、少年刑務所収容は最後の手段である、しかもそれは長期になってはならない、こういうことを厳密に言っているわけです、最後の手段だと。こういうことを国連が言うというのは、もう一つ、少年矯正について刑務所に送るという重大な問題をはらんでいるわけです。国連のガイドラインは、逸脱者、非行少年、非行予備軍という烙印を押すと、かえって青少年の好ましくない行動を持続させるおそれがあるんだと。犯罪の要因として、ある少年にそういうレッテルを張る、いわゆるラベリングですが、こういう問題が少年矯正、それから更生に逆に障害になるという重大な問題があると。  それはそうでしょう。少年院帰りと言われるだけでも大変なのに、刑務所帰りと言われる、受刑者だと言われる、前科者だと言われる、そういうことを言われるというレッテルを成長期の十四歳、十五歳の子供に張っていいというようには、私はそれは社会的正義の観念からいっても教育的観念からいっても到底思えないと思うんですね。こういった基準についてもっと真剣に考える必要があると私は思うんですが、こういう基準に照らして、この十四歳、十五歳の刑罰化という問題は本当に検討しなきゃならない重大な問題だ、そういう認識を大臣はお持ちでしょうか。
  172. 上田勇

    政務次官(上田勇君) 今、橋本先生から御指摘のありました少年司法制度の見直しの勧告について、その第四十八パラグラフの中で先生から今お話があったような内容の勧告が述べられているのは承知しているところでございます。  その上で、この後段に書かれている部分について、正確に何を示しているのかが判然としない部分も若干ございますけれども、私どもといたしまして、現行の少年法あるいは今回改正を提案されている少年法につきましても、北京ルールズ、リヤド・ガイドライン、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則の原則及び規定に沿ったものとして運用されているというふうに理解しているところでございます。  その中で、特に先生の方から今御指摘がありました拘禁の代替措置についても、成人事件に比べますと少年事件についてはその拘禁の割合がずっと少なくなっているところでございます。また、この勧告の中で書かれております拘禁の代替措置の確立、監視についても、我が国では少年審判手続においても基本的には在宅処理が原則になっておりますし、観護措置をとる場合でも、少年鑑別所への収容のみならず、家庭裁判所の調査官の観護に付することができるようにされておりますし、またかつ家庭裁判所はいつでも観護措置を取り消すことができるというようなことになっております。  また、この勧告の中でも言及されております不服申し立てについては、現行法上は家庭裁判所に観護措置の取り消しを申し出ることが可能であるほか、今御議論いただいております改正案並びにさきに提出されておりました内閣提出の法案におきましても、観護措置に対する異議申し立てを認める規定が盛り込まれているところでありますので、私どもとしては、現行の少年法も、また今回御提案になっております改正案につきましても、こうした国際的な基準にのっとっているものだというふうに考えております。
  173. 橋本敦

    ○橋本敦君 私は少年刑務所に送るというそのことに絞って聞いているんですよ。審判手続全体について聞いているんじゃないんですよ。  そこで、教育の問題に触れますが、この受刑をしなきゃならない少年は、少年刑務所には十六歳までは絶対に行かないんですか、必ず少年院に行くんですか。少年刑務所に行くこともあるんですか、提案者。
  174. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 法律上は少年院で刑を執行することができる、こういたしております。あとは処遇の問題に相なると思います。
  175. 橋本敦

    ○橋本敦君 できるというだけなんですよ。だから、少年刑務所に入れることも法律上は、これは法律違反にはならないんですよ。  では、少年院に行った場合に、受刑少年であることと保護少年であることとは、そこでは一切区別されないんですか。簡単に言ってください。一切区別されないのかどうか。
  176. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) それも処遇の問題に相なると思いますが、もちろん義務教育は少年院に入った子についてはやっておるわけでありますけれども、刑の執行として少年院へ収容するわけでありますから、いわゆる少年院送致の子たちと同じ内容の教育、やったことに対する反省とか、いろいろな意味における矯正教育と同じものもありましょうし、またその子の行った犯罪の内容によっては、罪の意識の覚せいを図る、犯罪の重大性を認識させる、生命のとうとさを認識させる等、豊かな人間性を取り戻してもらうようなメニューは入るかもしれません。  これは少年院の処遇にかかわることだと思いますが、私どもも少年院を見てまいりましたけれども、あそこは懲役とか禁錮にする場所じゃございませんので、少年院に収容された少年と同じ施設の中で刑の執行にふさわしい、ある部分では共通、ある部分では別個のメニューできちっとした処遇がなされるということを期待しておるわけであります。
  177. 橋本敦

    ○橋本敦君 ある意味では教育、ある意味では受刑者というような処遇、その区別を同じ少年院において、一方は保護少年、一方は受刑少年、そういう差別を少年院の中で持ち込まざるを得ないというような状況が生まれるんですよ。そういう差別が許されていいのか。  義務教育を受ける権利を保障すると言うけれども、学校に通い、多くの科目、多くの先生から教育を受ける、そういう社会的な教育を受ける権利なんというのは、とてもじゃないがそこでは保障されないんですよ。  時間がありませんから次に行かざるを得ませんけれども、そういう教育を義務教育として保障するという国の責任をどう果たすか、これは重大な問題ですから、裁判所にも、一体どうするか、そのことの検討を聞きたいんですが、裁判所、お答えできますか。義務教育をどうやって保障するのか。
  178. 安倍嘉人

    最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) ただいまの御議論の問題は執行機関においてどのような処遇をするかという問題にかかわることでございまして、裁判所といたしましては刑事処分に付された少年について刑事裁判で刑罰を科する、そのことだけに尽きるかと考えている次第でございます。
  179. 橋本敦

    ○橋本敦君 何とも答えにならないでしょう。裁判所はそういう判断なんだと。  それでは聞きますが、その少年院に送られている受刑少年が保護少年と仲よくなって、二人で逃げようよ、こういって逃げた場合、それぞれの少年は一緒に逃げたんですよ、責任はそれぞれどうなるんですか。提案者、わかりますか。簡単に言ってください。
  180. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 逃走罪の適用は受刑者には適用されるように決められております。
  181. 橋本敦

    ○橋本敦君 片方少年は逃走罪が適用され、片方少年はされない。子供たちはそんなことを考えないで仲よく逃げただけなんですよ。そういう差別が起こってくるんですよ。  そして、最後に聞きますけれども、そういうようなことを実際に起こして一体教育的に効果があるか。それで、十四歳、十五歳の少年少年院に送って、更生するために、反省をしなさい、立ち直りなさい、教育効果を高めて社会人として立派にやり直しなさいと教育するんでしょう。十六歳になった途端に、今度は刑務所へ送るんでしょう。刑務所へ送ったら刑の執行ですよ。一日も早く社会に立ち直らせようとして十四、十五歳を教育するのに、二年が済んだら今度はあなたは刑務所送り、刑務所へ行っちゃう。この接ぎ木的な体制というのはもう全くの矛盾ですよ、少年法の教育的理念からすれば。  こんな矛盾があることについて裁判所は解決する自信があるんですか。あるいは法務省でもいいですが、法務省責任を持つのは提案者じゃなくて、執行するのはそっちでしょう。答えてください。提案者の意見は要りませんよ。
  182. 鶴田六郎

    政府参考人鶴田六郎君) お答えいたします。  今回の改正案につきましては、十六歳に達した場合、少年院収容受刑者につきましては少年刑務所に移送するという取り扱いになっております。そういったことになりますので、したがいまして少年院受刑者の処遇につきましては、少年院収容時から、先ほど提案者の方からもお話がありましたけれども、教科教育のほか、例えば犯罪の重大性を認識させ罪の意識の覚せいを図ること、生命のとうとさを認識させ豊かな人間性を涵養することなどに重点を置いた処遇計画を策定いたしまして、少年刑務所移送後もこれを引き継ぐことによって一貫性のある処遇を行うことが肝要であるというふうに考えております。
  183. 橋本敦

    ○橋本敦君 終わりますが、理念の違うところに一貫性なんてないんです。
  184. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。  前回の分の補充と、それから検察官関与、原則逆送、リストラティブジャスティスについてお聞きをいたします。  立法理由がまだよくわからないんですね。前回、法務大臣は、愉快犯、確信犯が出てきたのでこの改正が必要である旨、発言をされました。愉快犯とはおやじ狩りをする少年のことであると。確信犯について、どの事件があるためにこの立法を是認されるのでしょうか。
  185. 保岡興治

    国務大臣保岡興治君) この間も申し上げましたとおり、私がここで一つ一つの事件を挙げて、類型化してそれを立法の理由に結びつけるような答弁は、またこれは事務的にできるだけ詳しく説明ができる範囲内で求められればしたいと思いますが、基本的には、厳罰化しても何の効果もないよ、害悪だけであるよという、そういう論旨でいろいろ御質問があったことに対して、必ずしもそうじゃないと。最近の犯罪の傾向には、愉快犯というのか遊び犯というのか、もう遊び気分、楽しみのために犯罪を犯す、あるいは少年であれば刑事処分など厳しい処分は免罪符があるというような錯覚、これはあくまでも錯覚ですが、誤解のもとに犯罪を行うというような、そういった間違った確信に基づく犯罪なども見られると。  そういうようなものについては、おやじ狩りだけじゃないですよ。例えば、頭にぱっと思いつくのは、人を殺してみたかったから殺すとかいう犯罪もありますね。あるいはまたテレビゲームとか、またいろいろバーチャル世界というものに巻き込まれやすい現代の子供が、社会性とか人間性とかそういうものを喪失したり、また規範意識が麻痺したりする、そういう側面もあるだろうと。そういったことに対して、やはり非常に重大な犯罪については、例えば人をあやめるような取り返しのつかない犯罪については、少年といえどもそういったことについて厳しい規範意識を持ってもらうという手だてはあっていいだろうと。そういう意味で、少年犯罪について、処分というんでしょうか、刑罰を含めた、保護処分も含めたそういう対応の選択の幅を広げるということは私は意義のあることではないかと申し上げているわけでございます。  そしてまた、被害者に対する感情とか、一般予防に対する、刑事政策あるいは刑事司法というものに対する社会の信頼を少年の事案といえども守るという、そういう要素もあるということは委員も当然お知りのとおりでございますが、そういう観点も加味した立法だと承知しております。
  186. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 少年犯罪が軽いので犯罪を犯したと答えた少年の割合はとても低いですし、それからおっしゃるとおり、もし社会性、人間性が未熟なために犯罪を起こすのであれば、この少年法はどこまで届くのだろうかというふうに思います。  次に行きます。  検察官関与の問題なんですが、前回、草加事件のことについてお聞きをいたしました。草加事件は、御存じのとおり、物証とその対象とされた少年たちの血液型が全く一致をしなかったケースです。しかし、これについて、きちっと少年たちの血液型も調べながら、警察、検察はそれを家庭裁判所に出しませんでした。遺留された体液その他はAB型で、少年たちはOとBでした。検察官は、被害者のA型のあかとそれから少年のBの唾液がまじり合うとABの反応をするという非常にむちゃくちゃな報告書を出しております。そのAとBが足されるとAB型になるという、これで有罪認定が使われて、民事ではそれが逆に非常に問題になったわけです。明らかに物証が合わなかった。  ですから、検察官がこの草加事件の場合むしろ証拠を出さなかった。AB型はAとBを足せばABになるといったむちゃくちゃなものを出していると。検察官が関与をすることで果たして真実の発見に近づくのだろうかという疑問を大変持ちますが、いかがでしょうか。
  187. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 今、委員指摘の草加事件のことについて、私も細かいことまでは存じ上げていないんですけれども、今のお話によりますと、その一例を挙げて、検察官を関与させることはもうだめなんだと、こういうように何か聞こえるんですけれども。  よしんばそういうような一つの事例があったとします。しかしながら、今回私どもが立法したその目的の中で検察官を関与させようというのは、事実認定を明確にしようと。今までもいろいろな刑事裁判というのがあって検察官が関与してきたことがあると思います。それはあくまでも、今そういうような例に挙げられたのが、私も細かいことまでわからないんですけれども、事実かどうかという部分でうそを言っていると。逆に言えば、そういうことを検察官が今後もしやったとしたら、それは大変な問題となりますし、逆に委員は、検察官はそういうふうにうそを言うものなんだというような大前提でお話をされているんではないかな、そんなふうに聞こえるんですけれども、事実認定を明確にさせていくということで、あくまでも協力者としてやっていただこう、こういう考え方で検察官関与を認めることにしました。
  188. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 では、もう一例出します。  質問通告しておりますが、綾瀬母子殺人事件におきまして、アリバイ証言をした証人を警察側が事実上監禁して、ずっとそのアリバイを撤回するようにということを言い、検察官を呼んで調書をとろうとしたということがあります。これも検察官の関与はどの程度かわかりませんが、警察、検察がむしろ証拠隠しをしたという事例ですが、いかがでしょうか。
  189. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 個別の問題で言っていくともう切りがないと思うんですけれども、そういう考え方でいきますと、もう警察官及び検察官は捜査ができないという、事件を解明していく、捜査をして事実を解明しながらその事件を明確にして裁判を行っていくということが不可能になるんじゃないんでしょうか。
  190. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 いえ、そうではないんです。捜査をきちっとやることは検察官はできるわけですから、公判廷に検察官が出る、関与することで事実認定がどうなるかというところを問題にしているわけです。  では、お聞きをいたします。  検察官を関与させた場合、家裁の審判は職権主義なんでしょうか、当事者主義なんでしょうか。
  191. 高木陽介

    衆議院議員(高木陽介君) 職権主義です。
  192. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 検察官と付添人がその少年に対して発問をするわけで、これは当事者主義ではないんですか。
  193. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) 審判に関与する検察官も、それから少年に付き添う付添人も、いずれもこれは審判の協力者という立場になります。付添人も現在は独立の立場ではなくて協力者ということで入っていますから、同じ立場で、裁判官の訴訟指揮のもとで審判の協力者として審理に協力するという立場は変わらないと思います。
  194. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 いえ、そうではないと思うんですね。つまり、非行事実を認定するための審判の手続に検察官が出席し、発問をしたりするわけです。付添人がいて検察官がいて、非行事実が極めて争われているときにこれをやるわけですから、この辺を見ればこれは対審構造ではないんですか。
  195. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) 事実認定裁判所みたいな考えであればまさにそうなると思うんですが、今我々の出しているこの法案はあくまでも裁判官の指揮に基づいて行うという点では対審構造ではない。また、対審構造にならないように現場の裁判官、そしてまた検察官も努力していく。なるべく対審構造にならないように、法構造はそうなっているし、現実の運用においても対審構造と同じような格好にならないように努力をしていく、努めていく、こういうふうになろうかと思います。
  196. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 努力と努めるというのがよくわかりません。ある意味で、今回の検察官関与の審判構造は職権主義の悪い面と当事者主義の悪い面が両方出てくるのではないかというふうに考えます。  つまり、裁判官は伝聞排除の原則やさまざまな証拠法則とは無関係にすべての記録、一件記録を読んでいるわけです。全部それを持っている極めて職権主義的な、ある意味で戦前の日本の刑事裁判のような形をとります。職権主義的です。そこでまた検察官が出てきて、付添人が出てきて、事実認定が極めて争われている中でそれぞれ発問ができると。そうしますと、少年は裁判官の職権主義的なものにも対応しなくてはいけませんし、検察官の発問に対して攻撃、防御を尽くさなくちゃいけない、二人を相手にやらなくちゃいけないという点でダブルの負担を強いられると思いますが、いかがですか。
  197. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) 予断排除の原則、伝聞証拠が適用にならないという御指摘、そのとおりだと思います。しかし、これは現在の少年法でもそうなっておるわけでございまして、これはまた別な観点から、職権主義にしたということとあわせて少年の早期解決、早期保護という、こういう法律の要請から伝聞証拠あるいは予断排除の原則をとらないで、国親という思想でもってこの職権主義的な審問構造が今とられているというふうに理解しております。したがって、検察官が入る、付添人があるからということでこの職権主義的な構造がなくなるということには私はならぬと思います。
  198. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 検察官が出席し、事実認定が争われているケースで、非行事実が争われているケースで発問をし質問をしていくわけです。二十二条、審判は懇切を旨とし和やかに行うというふうになっておりますが、改正案でもこの部分は生きておりますが、これは可能なんでしょうか。
  199. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) 事実関係が大変鋭く争われている事件で和やかに行うというのは難しいんだろうなというふうに思っております。ただ、これは少年にできるだけ精神的負担を与えないように、少年に心を開かせるという意味もあると思いますので、これはやっぱり関係当事者が努めていかなければならない問題だと思っております。  現在、少年の早期保護、早期解決という観点から家庭裁判所が審判を主宰する、ある意味では柔軟で非定型的な手続家庭裁判所審判を行うわけですね。当事者主義というのはまさに今現在の刑事訴訟法のように形式、手続でやるわけですから、そこのところは柔軟かつ非定型的な手続で行われる家庭裁判所の審判構造というのは、これはやっぱり職権主義的審判構造が維持されているというふうに思っております。
  200. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 私は全く無理だと思うんです。  漆原さんも弁護士ですから、事実関係が厳しく争われている、無罪を争っている刑事裁判において検察官と弁護士と当事者の間でどれだけ緊張した法廷が展開されるかということはよく御存じだと思います。  そこで、懇切を旨としということはできない、和やかにおとなしくというこの家裁の審判構造は実はもうこれは検察官が関与することで家裁の審判廷ではなくなるのだと考えますが、いかがですか。というのは、さっきから運用面でとかおっしゃるけれども、どうやって担保するんですか。
  201. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) そこは何回も申し上げておりますように、家庭裁判所の裁判官の指揮のもとで行われるというふうに思っております。
  202. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 いや、それは刑事裁判だって裁判官の指揮のもとに行われていますよ。
  203. 谷垣禎一

    衆議院議員(谷垣禎一君) 今の御議論を聞いておりまして、当事者主義と職権主義のいろんな特徴があると思うんですが、やっぱり当事者主義の一番の粋は、何が事実か認定するというのは、これは起訴状一本主義ですね。その後、証拠を提出して立証する責任はすべて検察官が負っている、こういうことだろうと思うんです。防御するのは弁護人が防御する。しかし、この少年法の構造はそうではありません。事実を認定してどういう証拠を収集してやっていくかという責任はやはり裁判官のもとにあるんだろうと思います。  ですから、基本的な構造はあくまで違うので、早期認定をして少年の保護をやっていくには職権主義の方が適しているという判断のもとにこういう構造がつくられております。  ただ、今度、検察官を参加させるのは、今までの裁判官だけでやっていく場合にやはりいろんな限界があったからで、確かに若干当事者主義的な要素が入っているかもしれませんけれども、あくまで職権主義の枠内であるわけですから、検察官が関与することによって福島先生のように悪いところだけ出るというお考えも若干あるかもしれませんが、両々相まってよいところを出すように運用していくという考え方、我々はそちらの方の考え方に立っているわけです。
  204. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 杉浦先生がいらっしゃったらそこは率直にどう考えるかをお聞きしたいんですが、職権主義と言われても、当事者主義で対審構造をとるわけですから、やはりそこは難しいのではないかと思います。  それで、漆原先生、ちょっとお聞きしますが、検察官が関与して家庭裁判所の審判でがんがんやる、職権主義もあり、検察官も関与して事実の認定をする、そして原則逆送です。事実関係が激しく争われるようなケース原則逆送。つまり、成人だと一回で済むところが、子供家庭裁判所で検察官の尋問にさらされ、もう一回普通の裁判所で尋問にさらされるわけです。二回負担なんです。期間も長期化します。これはいかがでしょうか。
  205. 漆原良夫

    衆議院議員(漆原良夫君) 二回の負担というふうにおっしゃいましたが、今申しましたように、一回目というのは検察官は審判の協力者として参加するだけであります。そして、逆送された場合にもう一回あるじゃないかとおっしゃるんだけれども、これは現行の手続の中においても、逆送されれば当然、刑事裁判ですから検察官の関与のもとで公開法廷で行うわけですから、それはそれで現行の少年法の中でも同じことが行われる。  もう一つ、前段階における検察官関与というのは、先生がおっしゃったような対審構造という考えではないわけですから、二度の負担にさらされるというふうには私は考えておりません。
  206. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 杉浦さん、検察官を関与させるのは両方が攻撃、防御を尽くすことによって事実がより明らかになるということではないんですか。
  207. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 私はそうは思っていないんです。  先ほど最高裁の方から言っておられたんですが、今までの家裁の審判は単独であって、裁判官が一人何役、弁護人の役も検察官の役も裁く役も一人三役を兼ねてやっておられたわけでございます。今度は弁護人も参加するわけです。検察官が出るところには弁護人も出るわけですけれども、裁判官の主宰する審判手続の中でそれぞれ検察官、弁護士が裁判官の足らざるところを補って、一人三役の一部を担って、相担ってと言ってもいいかもしれませんが、適切な事実解明を行っていくということができるのであって、対審構造ではございませんから、真実の発見、事実を適正に認定していくという面では大変プラスになるんじゃないか、こう思っておる次第です。
  208. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 前回、杉浦さんはこうおっしゃっています。中村敦夫さんの質問に対して、「むしろ凶悪な事件を通常裁判に預けることで、その原則逆送の分だけ審判とかやる業務が減るわけですから、その分だけまたそうでない事件の調査とか保護処分に家裁の労力が割けるという意味で、私は機能が減衰するとか減退するとかいうふうには毛頭考えておらないところであります。」というふうに発言をされております。私はこれを聞いて驚きました。  原則逆送のケースは審判とかやる業務が減るんですか。
  209. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 言葉が足らない点があって誤解をされたとするとおわび申し上げますけれども、逆送された分だけボリュームが減るのは間違いないと思います。
  210. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 私はむしろ重い犯罪をする少年少年法のまさに対象としている子供たちだと思うんです。つまり、それだけ非常に問題を抱えているわけですから、なぜそういうことが起きるのかということにきちっと向き合って、心の中にまで入っていってそれを解決しない限りはだめなわけです。むしろ、一見大人から見て重いとされている犯罪をしている子供こそ少年法でケアをすべきだというふうに思うので、なぜボリュームが減るんですか。
  211. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 見解の相違だと思いますけれども、私は何が何でも故意の犯罪行為によって被害者を死に至らしめた子を全部逆送しろと現時点で申し上げているわけではございませんで、法律の中にも、要保護性を十分に調査されて保護処分相当と、刑事処分以外の措置が相当という場合には逆送しないでも済む規定がちゃんとあるわけですから、そこは家裁においても十分調査されるのは当然のことでございまして、その結果送られない場合もある、一般論として言えば送られる場合もあると。  何が何でも凶悪重大な罪を犯した子を全部家裁が抱え込んで家裁の中で処理するということは現在の少年法ですら想定していないわけですから、刑事処分相当の場合は逆送できるとしておるわけですから、先生のお考えというのはいささか理解できないところがあります。
  212. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 いや、こちらの方が理解できないんですね。つまり、凶悪な事件については家裁の負担が減るということは、凶悪な事件についてはどうせ逆送されるんだから家裁は単なる通過点だということじゃないですか。
  213. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 何かそういうふうな言い方をされますと悲しくなってまいるわけですが。  凶悪重大な事件を起こした子が送られてくる、その事件を家裁において十分調査されて、原則逆送になっておりますから、例えば殺人事件が送られてきたら十分調査をされる。それで、いや、この子は保護処分の方が適当だと、ケースによって違うと思うんですが、と判断されれば、それはもちろんそういう事件ですと恐らく検察官が立ち会い、弁護人も入って事実認定がされると思うんですけれども、そういうときには家裁で最もその子の更生に必要な処分をする、できるというふうにしておるわけですから。  そういう言い方をされますと、どういうふうに御説明したら御理解いただけるかと思うわけであります。
  214. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 杉浦さんは凶悪な事件を通常裁判に預けることでボリュームが減るというふうにおっしゃっているわけですね。私自身は原則逆送をしようが原則逆送でなかろうが家庭裁判所の負担は変わらないというふうに思うんですね。そこがやっぱり違う。  それから、私は実はこの委員会の中で審議をしていて、ああこれは少年法改正案ではなくて少年法廃止法になるんではないか、少年法は形式的には残るけれども、一条も改正しようと思っていたという話も出ておりますが、少年法の非常に大事な部分、家庭裁判所の機能、少年審判の構造のおまんじゅうのあんこの部分が何か崩れていってしまうんではないかというふうに思います。  杉浦さんにお聞きします。  保護処分は甘くて、刑事処罰は激しいものなんでしょうか。
  215. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 私はそんなことは一言も申しておりませんが、家庭裁判所で今、年間二十何万人送られてきて処分がなされておることはもう数字の上で明らかであります。全国の家庭裁判所で裁判官初めみんな奮闘しておるわけであります。そのうち凶悪事件と言われる件数は、二十数万件、三十万件弱のうち、数字を見ますと二千数百、三千件足らずであります。そういう事件のうち、さらに故意による犯罪行為の結果被害者が死に至った事件というのは何件あるか、私、正確に件数を調査したわけではありませんが、それよりも小さいことは明らかでございます。  そういう事件が最近ふえる傾向にあり、しかも世間の耳目を聳動するような事件が多発しているという実情にかんがみまして、世間もびっくりしておりますし、ある意味では恐れておりますし、何とかしなきゃならないんじゃないかと。その背景には少年の変化もある、社会情勢の変化もあるわけでございまして、対応をしなきゃならないのじゃないかと、こう思っておるわけでございます。  ですから、原則逆送というのは、家裁に送られる全事件のもうほんの一握りについて、私どもの原則を定めたこの改正法において故意の犯罪行為によって人の生命を奪ったというような重大な事件については、大変これは反倫理的なことでありますし、これについては原則として逆送すべきだという観点から原則逆送という規定を盛り込んだわけでございまして、そのような二十何万件という、窃盗からもっと軽いものからいろいろ少年の非行に基づいて家裁へ送られてくる事件について、それぞれの少年について要保護性、犯罪を犯したとすればその犯罪についてよく家裁が調べて、そういう子たちが反省して更生の道を歩んでいく措置をとるという重大な責任家庭裁判所は担っておるわけでありまして、それが減衰するとかなんとか言われると御返事のしようがなくなってしまうわけであります。
  216. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 反倫理的だとなぜ原則逆送にしなければいけないんでしょうか。
  217. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) そういう御質問にも返事のしようがなくなるわけですが、先生はまさか故意の犯罪行為によって人を死に至らしめたような行為は反倫理的でないとお考えになっているわけじゃないでしょうね。
  218. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 いや、私は反倫理的か反倫理的でないかという論争をしているのではなくて、なぜ反倫理的だと原則逆送しなければいけないかと聞いたわけです。
  219. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 私どもは反倫理的だから原則逆送にしようとは一言も申しておりませんし、法律もそうはなっておりません。  故意の犯罪行為によって人を死亡させる、重大な事件であります、それに絞って原則として逆送すべしと。それについても要保護性等を家裁が十分に調査されて、これは保護処分の方がいいという御判断が出されたのであれば逆送しなくてもいいような仕組みも設けまして、適切な運用を家庭裁判所においてなされるということを期待しておるわけでありますから、私どもの申し上げていることを正しく御理解いただきたいとお願い申し上げたい次第であります。
  220. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 重大な事件であればなぜ原則逆送にしなければいけないんですか。
  221. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 私どもは重大な事件であれば逆送するというような法律にもしておりませんし、そういうことも一言も申し上げておりません。前の御質問のときに申し上げたとおりであります。
  222. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 お答えを聞いていると、なぜ原則逆送なのかというのがよくわからないんですね。今の少年法でも逆送はできるわけですし、裁判官は裁量を持っているわけです。その裁量を縛る形での立法なので御質問をしているんです。なぜなんですか。
  223. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 私どもの議論の経過については前の審議のときに申し上げたと思いますが、現実に殺人事件ですら二〇%から三〇%しか逆送されていないという現実がございます。そして、殺人という行為は故意に人を殺すということですから、相当罪責は重い。成人であろうと少年であろうと変わらず重いわけでありますから、私どもは、なぜ家庭裁判所が殺人事件ですら二割か三割しか逆送されないんだろうかと。つまり、少年法の規定におきましては、死刑、懲役、禁錮という規定がありますが、その中において刑事処分相当と考える場合には逆送しなければならないという規定があるにもかかわらず、なぜ逆送されないんだろうかという疑問から出発いたしておるわけであります。  先ほどもちょっと江田先生の感想に対して申し上げましたが、つまり家裁の裁量権は物すごく大きいわけであります。こういう変化しつつある時代、社会情勢、少年、ここ四、五年急激に変化が起こっておると私どもは感じておるわけなんですが、戦後五十年、日本が右肩上がりの経済の時代には、つまり私が弁護士として付添人で家庭裁判所に行ったころは大変うまく機能しておったと感じておりました。しかし、このところちょっとおかしいぞという感じが正直言っていたすわけであります。  ですから、家庭裁判所五十年という長い運用実績がありますから、そういう運用の中で、その裁量権の適切な行使について、私ども社会人から見てちょっと緩過ぎるんじゃないですか、殺人事件だったら、事件の具体的な内容のことはわかりませんが、罪責が重いものについてはむしろ少年法の本旨に従って逆送されたらどうだろうかという素朴な疑問があるわけであります。それで、審理を遂げた結果、これは保護処分の方が相当だと思えば、五十五条でまた家裁へ移送できるんですね。そういう規定があるんです。あるんですが、これが働いていない。  しかも、家裁の審理は密室でありまして、どういう審理をされているか中身はわかりません。被害者の方からは大変な不満が噴き出ております。何をやっておられるかわからない、結果についても知らされない、意見を言おうと思っても言わせてもらえない、結果が不服だからといって控訴といいますか抗告はできません。おかしいんじゃないですかというようなところから、素朴なところから私どもの議論はスタートいたしました。  したがって、家裁の非常に大きな裁量権の中に、せめて大変重大な凶悪な犯罪、故意によって人を死に至らしめたような事件については原則として逆送する、公開の法廷で裁く。裁判官が裁かれるわけでありますから、結果は保護処分相当ということで戻ってくるかもしれませんが、その大きな家裁の裁量権を少し我々の常識から見てノーマルな方にしたらいかがでしょうかというのが、わかりやすい表現をするとこの提案の柱でございます。
  224. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 私の質問意味はこういうことです。例えば、佐賀のバスジャック犯人が刑事処分を受けなかったのはおかしいという旨の発言も杉浦さんはたしかされたと思います。さっきも人を殺した凶悪な事件が逆送されないのはおかしい、それからそれは緩いのではないかという発言がありました。ですから、私は、杉浦さんは保護処分は緩くて刑事処分が真っ当というか厳格、厳しいというふうに考えているというふうに思っているわけです。  それで、さっきからなぜ逆送か、なぜ刑事処分かという答えには、凶悪な殺人事件だからと言います。でも、私は、少年法一般刑法とは違う、要するに子供刑法子供版刑事訴訟法ではないのだと。ですから、一般であれば一般的効果、威嚇をしたりして処罰をしていく、心の中には入っていかなくて応報刑でやっていく。しかし、少年の場合は、一見凶悪重大な犯罪を犯した少年もむしろ問題を抱えているかもしれない、問題を抱えている可能性がある、だからこそ精神的な面に入って個別にケーススタディーでやっていくのだと。少年法刑法、刑事訴訟法の手続は全然違います。でも、おっしゃることを聞いていると、少年法の中に刑法と刑事訴訟法が入ってきて食い破っていくという、そんな気がします。  ですから、少年法改正案ではなくて、凶悪重大な犯罪をした人間は逆送すべきだ、刑事処分を受けないのはおかしい、そうならないのは緩いという考え方はやはり少年法の一条あるいは少年法の根本理念を実は打ち砕いていくものだという気がいたします。  この次についてはまた御質問をしたいと思います。リストラティブジャスティスについては次回また聞かせてください。  時間ですので、以上で終わります。
  225. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 いろいろ細かい議論もありますけれども、今回の改正法は三つの特徴があると思うんです。一つは刑事罰の年齢引き下げ、もう一つは凶悪犯罪原則逆送、もう一つが被害者対策ですね。この三番目の被害者対策という点は私も同意します。ですから、それのみを改正法の中に入れる、あるいは別建てで法律をつくるなり規定をつくるなりするということはあり得ると思います。  しかし、刑事罰の年齢引き下げと原則逆送ということが法律の中ではっきりと書き込まれてしまいますと、これは教育や更生というものを基本理念にしている少年法、そしてそれをつかさどる家裁というものの整合性がなくなってしまう、つまり家裁の権限と権威の分譲となってしまうんじゃないかということだと思うんですね。制度的に分譲してしまいますと、少年法の本来の理念というものが崩れざるを得ない、法との整合性がなくなるんじゃないかということを私は今までの議論で感じているわけです。  こうしなきゃいけないという根拠として、何度もお答えいただいているようですけれども、やっぱり家裁じゃ判断が甘い、だめだということだと思うんですね、はっきり言って。だから変えなきゃいけないということが基本的な理由というふうに聞こえますが、私はこれは甘いとか辛いとかという問題で考える問題じゃないと思うんですね。要するに、家裁が適切にやっているかどうかということが重要なのであって、甘い辛いの問題ではない。  そもそもこういう法律問題が出てきたということの背景には、やはり世論というものが大きく影響していると思うんですね。世論というのはどういうふうにして犯罪の場合できてくるかというと、これはやっぱり報道なんですよ。ですから、報道によって、凶悪な少年犯罪がふえている、何かしなければ大変だというキャンペーンがかなり張られて世論もそうなってくる。そうすると、政治は黙っていられない、特に政権与党は何かしなきゃいけないということの中でこういう形の法律改正の案が出てきたんだというふうに私は見ているんです。  それでは、その世論をつくったマスコミ報道という問題を少し述べてみたいと思うんですけれども、最初にマスコミ報道、要するに少年の凶悪犯罪キャンペーンというものが盛んになったきっかけはやっぱり一九九七年の酒鬼薔薇事件ですね。十四歳の少年が小学生の首を切ってしまったという非常に猟奇性のある衝撃的な事件、あれは確かに今までにない形でした。  そうしますと、マスコミとしてはこれははっきり言って商売になるネタなんですよ。要するに、売れなくなるまで書きまくっていく、あるいは放送するということによって、もちろん真実追求という役割もあると同時に、マスコミも商売ですから、そういうふうにマスコミというのは動くわけですね。私はマスコミの側にいましたから、とにかく売れるネタはどんどん売り尽くす、では次は何かないかということになって、結構連続的にやるという傾向があるわけなんです。特にいろんな、何というんですか、売り物というかタイトルが必要になってくるんです。  例えば十七歳の少年がたまたま数多ければ、十七歳はすごいというような話に持っていくことができるわけですけれども、それは基本的に偶然なんです。十七歳が犯罪を連続的に犯したのは昔もあったわけですね。社会党の浅沼さんを殺したときの十七歳も、あの当時も十七歳ははやったわけですから、そういう傾向があります。極端な犯罪があれば、次々と必要以上にそれを強調していくというマスコミの流れがあります。  大体、報道量の多かったものはどのぐらいあるかということを考えますと、参議院の法務委員会調査室が作成したメモがあります。これは「少年による最近の主な凶悪事件」というタイトルの表でございまして、二十二件挙げています。酒鬼薔薇事件以来、大体三年弱の中の事件なんですね。  これはもう少しあるんじゃないか、これは下げた方がいいんじゃないかというそれはあるとしても、おおよそ私がファイルしている少年事件と大体合致しますから、まずこの二十二件の報道によって、この三年の間に世の中に凶悪な少年犯罪がふえている、どんどん異常になっているという、不安をあおるそういう世相というものができ上がったということは確実でありますし、それならばこの二十二件というものは本当にそうなのか、この二十二件に対して家裁が適切な処理をしなかったのかどうかというふうに具体的に考えると物事の本質はわかるんじゃないかと。  凶悪犯罪というのは普通、殺人、強盗、強姦ということを言いますね、暴行は粗暴犯というふうに分けられていますけれども。その極端な殺人ですら、実際問題としては百件を超える数字が多少長い間移動しているだけで、実際に激増しているというようなデータにはならないんですね。それで、凶悪犯罪がふえているというのはデータの読み方だというような答弁になりますと、データは何にもならなくなってしまう。ですから、もし本当にふえているのであれば、数字的にだれもがそれを認めるようなものになっているはずです。殺人が三百件、五百件となれば、これは確実に変わっていますね、世の中が。そして、これはもうデータの読み方だとは言えないという、それがデータの読み方だと思うんです。  そこで、この二十二件の凶悪犯罪と呼ばれているものも、ただ凶悪だという一つの言葉でくくることができないんですね。いろいろ違うと思うんです。ですから、私なりに大体三つの分野に分類してみたわけです。  一つは古典的な犯罪です。動機だとか犯罪形態が今までもあった非常にわかりやすいもの。もう一つは感情的な問題、情念とか感情にまつわるような、かっとなってやったか、あるいはずっと恨み続けてあるときに爆発してばっというようなタイプの、利害とは余り関係ないような犯罪。もう一つは人格障害とか精神病理学に属するような、そういう非常に難しいわかりにくい犯罪。  だから、同じ凶悪犯罪といっても一つの言葉であおっちゃいけないと思うんですね。政治家だとか法律家だとかは、世論の感情的なものにあおられて、ただ報復しちまえという短絡的な発想から物事判断してはいけないというふうに私は感じています。だから具体的にこの二十二件ですよ、一番特徴的だったのは。法務委員会調査室は時系列で並べていますが、私は三つに分類しました。  この中で最初のもの、要するに理解しやすい犯罪、それは昔からあるタイプの犯罪ですね。これは二十二件のうち大体十件なんです。そのうち暴行殺人というのは四件あります。  これは、平野議員も述べた最初の、九八年の岡崎事件というものです。これは要するに十四歳の子供のけんかなんですね、そもそもが。ただ、加害者の少年が同情されて嘆願書まで出たというようなことがありまして、被害者が非常に困惑したと。しかし、警察から一切何が起きたのかというのを知らされていないと。被害者の両親は、相手の少年を恨んではいないんだ、厳罰も求めていないんだ、ただ事実を知りたいということで問題にしている事件なんです。ですから、ここでは保護観察という、十四歳の普通の子供のけんかが殺人になってしまったということに対して処置があるわけです。むしろ警察が被害者に対していろいろな情報を提供しなかったという問題があるだけなんです。  もう一つは、栃木のリンチ殺人事件。これは十九歳です。これは四人に二カ月間連れ回されてリンチを受けたわけです。それで最終的に殺されてしまったと。これも警察の対応が非常に悪かったということで有名になった事件ですけれども、これはもう逆送されて無期懲役を食らっていますね。  それから、狭山市のリンチ殺人事件。これは二〇〇〇年。十六歳の少年が主犯ですけれども、この少年というのは大体ずっといじめられていた側だったんですが、あるときにいじめの側に回って、四人で一人の少年を殺してしまったということで、これはいろいろ考慮されて中等少年院に、更生可能だという判断でしょう、送られたわけです。  それから、那覇の高校生殺人事件ということがあります。これは完全に暴行していじめるということでしたから、今逆送されて裁判中になっている。  それから、強盗殺傷では大阪の寝屋川の老人殺人事件。これは十四歳の少年の殺人なんですけれども、地検の判断で初等少年院に送られたというふうになっていますね。これは十四歳であって、非常に子供じみた動機だったということが審判の材料になったんだと思います。  それから、夢の島強盗殺人事件というのが二〇〇〇年。これは十五歳なんですが、審判中ですね。これも野球部で非常に明るい少年だったのが中学三年になって突然ぐれ出したということでございます。  それから、久里浜の脱走少年強盗事件。これは十九歳。これは審判中ですが、金欲しさにやったわけですし、これも逆送の可能性がこれからあるのではないか。これは軽くて済むわけはないだろうというふうに想像できますね。  それから、山口県の母子殺人事件というのがあります。これは強姦殺人ですから、十八歳の少年ですけれども、これはもう逆送されて無期懲役です。これは母親を強姦して子供まで殺してしまったという悪質なものですね。無期懲役。  それから、名古屋の五千万円恐喝事件というのは、これは十五歳の少年を中心に不良少年たちがどんどんどんどん一人の家庭から金をおどし取って、遂に五千万円になってしまった。その間一体どうしていたんだという社会責任というものもありますけれども、これは中等少年院に送られています。  そしてもう一つは、これはシンナーですね、薬物による影響で精神状態がおかしくなって、堺市の通り魔殺傷事件として有名になりましたけれども、これは逆送されて懲役十八年ということなんですね。  こうして見ますと、この十件の中で逆送されているのは四件あるし、もう二つぐらいふえると大体六件ぐらい逆送になるんじゃないかということで、この家裁の判断というのは数字的に言ってもその処理の仕方においても私はおおむね妥当だと思うんですよね。  これで甘いとか辛いじゃなくて、適切かどうかということで、わざわざ法律を改正して、家裁はだめだからやっぱり原則逆送にしなきゃいけないんじゃないかという理由は、この一番わかりやすい事件の中でも言えると思うんですが、そのことについて御感想を伺いたいのです。
  226. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 今、個々の事件についていろいろ御評価をなさいまして御所見を述べられたわけでありますが、私も衆議院の委員会でバスジャック事件について具体的な名前を挙げて言及しましたところ、各方面からおしかりを受けまして、法務委員会の場で個別具体の事件を取り上げて当否を論じることは問題があるんじゃないかというおしかりを受けたわけなんです、委員のお立場で御指摘されたことをどうこう申しているわけじゃございませんけれども。  いろいろな意見はあり得ると思います。ただ、御指摘の最初の十件のうち逆送されたのは四件、逆送されなかったケースが六件ということなんですが……
  227. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 審判中が二つです。
  228. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 審判中を含めましてね。四件は逆送されていない。逆送されていない事件については詳細なことは公表もされませんし、形だけで結果を見て原因や犯罪行動が理解しやすいかどうかとかいうようなことで評価するのはいかがかと思います。だから、なおさらのこと家裁の処分が適当であったとか適当でないとかというふうに論ずるのはいかがかと思うのでございますが。  先生の御質問の趣旨から若干外れますけれども、私どもこの挙げられた二十二件についてだけ申せば、この中で、数字ではっきりしておりますが、二十二件のうち十四歳、十五歳の少年が加わっているのが八件ある。これは今改めて数えてみたんですが、事実であります。これは客観的な事実であって、十四歳、十五歳の少年がほかにも凶悪犯罪を犯していると、ここに出ないようなところにもですね。  そういうことも、マスコミの報道もさることながら、マスコミに報道されないデータとしても、例えばいわゆる凶悪事件とされておりますうち、殺人事件は横ばいだけれども、強盗事件はここ数年増加傾向にあるという数字もございます。マスコミの報道等にも時々出てまいりますが、その強盗事件の中で中学生の強盗事件がふえていると。一番典型的なのはコンビニ強盗なんですが、遊ぶ金欲しさにコンビニに強盗に入るという中学生がふえているというような報道もございました。中村先生のおっしゃる極端な世間の耳をそばだたせるマスコミのそういう報道ももちろんさることながら、さまざまな社会事象が大小報道されております。客観的な数字になって出ております。  そういった中で、年少少年、十四歳、十五歳の少年で凶悪犯罪を犯す子たちがふえておるという実情に私どもはある意味では危機感を持って、これは何とかしなきゃならないんじゃないかというふうに思ったわけでございまして、家庭裁判所の処分がどうこうと、甘いことはないんじゃないかという御質問には直接お答えはできませんですけれども、先生の御説明になった具体的ケース、この二十二件をざっと拝見して、そんな感想を持つ次第であります。
  229. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 あるときは殺人は罰せられるべきだということを主張される、あるときは強盗だと。つまり、だったらどこのところでその家裁の権限まで削ってしまわなきゃならないほどの法律改正が必要なのかということで、はっきりしないんですよね。  ですから、私が今分類しているのは、凶悪と呼ばれているもののもう典型的なものですね。しかも、それによって世論がつくられたということなんですね。今挙げた十件というのは結構わかりやすいですよね、これ妥当かどうか。逆送されなかった事件が妥当かどうかわからないというお答えですけれども、それはまあいろんな報道があるんです。細かい報道が随分出ていますよ。そういうことを考えると、大体もともと報道が根拠なんですから、やはり報道に基づいて、なるほど家裁はよく考えたんじゃないかなというふうに私は考えているんですね。  二番目のケースになりますと、これはもう非常に感情的なものですね。怨念だとか発作的なものとか、かっとしてなっていくものですね。それも凶悪犯罪というふうに報道をされているわけですね。  九八年の黒磯市女性教諭殺人事件なんかは、別段不良でもない少年が注意されてかっとなって先生を殺してしまったという話ですが、これは教護院に送致されています。十三歳の子供ですね。  それから、愛知県女子高校生ストーカー事件というのが九九年にありまして、これは十七歳。これは恋愛の怨念というんですか、振られた腹いせにやったということで、これは懲役五年から十年の不定期刑で、逆送されています。  それから、岡山金属バット殴打事件。これは十七歳。これは野球部でいじめられて、それで暴れて、家へ帰って母親とトラブルを起こして、つい金属バットで殺しちゃったと。これも余り計画的なものではないし、どちらかというとよい子で、後、一生懸命自転車で逃げ回って世間の同情を買ったという話ですけれども、これはやっぱりいろいろ判定されて特別少年院に入れられていると。  大分の一家六人殺傷事件というのは鑑定留置中ですね。これは十五歳。下着泥の疑いをかけられて、もうしようがないから暴れたというけれども、それにしてはちょっとやり口が異常であるということで鑑定中なんだと私は思いますね。  だから、やり口だけ見たらすぐにこれは逆送になってしまうようなケースですよね。しかし、やっぱりこの異常性というものはきっちり鑑定してやらなきゃならないと。そういう手続が吹っ飛ばされるんじゃないかと私は思うんですよ、この法改正によって。  それから、新潟県の老女金づち殺人事件。これは十九歳。これも逆送されました。しかし、このケースは非常にわかりにくいんですね。不良少年でもありませんし、とにかく自殺願望で、相手を殺して自分も死にたいという、非常にわかりにくい、どちらかというと思考的に非常に未熟な子供ケースで、こういうものも結構多いと思います。  それから、ことしの山口県の金属バット母親殺人事件というのがありました。一生懸命アルバイトしてお父さんのいない家庭で助けていたんだけれども、お母さんとのトラブルというものがあって、いきなり母親を殺してしまったというケースですよね。しかし、事件性だけ見たらこういうケースも逆送になるという可能性は非常に高くなってしまうんですが、これは中等少年院に入れられていると。  それから、大阪児童殺人事件。十七歳なんです、これは女性ですけれどもね。児童養護施設にいて、もうここの生活が嫌になったということで、いきなりそこにいた三歳の女の子をベランダから突き落としてしまったという発作的な事件なんですね。これも非常に難しいので中等少年院に入れられたと。  それから、愛媛教師刺傷事件というのがございましたが、これはもう年じゅう恐喝されて、それが怖くて逃げ場がないから刑務所に行こうとして教師を刺したという、またこれも未熟思考というのが非常に原因になっているわけですね。  私は、こういうタイプというのはやはり犯罪の形態だけで判断するのではなくて、非常にデリケートな扱いをして、再犯の可能性とか、またはもともとそういう悪的な気質を持っている人間じゃないとか、いろいろデリケートに調べて家裁というのはこういうふうに処置していると思うんですよ。ですから、こういうケースが非常に難しいですね。  ここでは逆送は二件なんですね。でも、やはり逆送があるということなんですが、こういうケースについてはどうお考えでしょうか。
  230. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 先ほどのお答えと同じことになるわけですが、中身は同じになりますが、八件のうち逆送されたのは二件、それから鑑定留置中一件ということですから、逆送されていない事件が大部分でありますが、マスコミの報道とはいえ実際どういう中身であったのかは正確には知り得ないところだと思うんですが、マスコミの報道で先生がそういう判断をされたとすれば、それは先生の御判断だろうと思うんです。  この二番目の女子高生ストーカー事件というのは私の選挙区でございまして、ちょうど選挙の直前に判決がありました。この二十二件のリストをごらんになればわかりますとおり、平成十二年には十三件発生していますね。こういう事件が連続して起こるさなかの判決でございまして、この刑、これは逆送されて実刑になったという判決なんですが、軽過ぎるんじゃないかということを、私は弁護士であり、少年法の問題をやっていることもあったんでしょう、国政報告会、いろんなところで地元の方からいろいろと言われましたというのは、これは事実でございます。  私ども、先生の御見解に対してどうこう申し上げるつもりはございませんが、現在の少年法においても、一定の事件について刑事処分相当という場合には逆送しなければならないと決められておるわけですね。結局、子供を育てるのは親の責任なんですが、もちろん少年法はその責任を果たせない親にかわって国が親になって矯正保護を図ろうということを定めた、もろもろ定めた法律でございますが、その法律の世界で処理し切れない刑事処分相当という場合には、つまり罪責が重いがゆえに少年であっても相応の責任を負わせた方がいい、それが適当だと考えられる場合には刑事処分に付する、検察官に逆送するという規定が厳然としてあるわけなんですが、しかしこのところの、この件の全部を見てもわかりますが、人を殺していながら逆送されていない。逆送されていない以上、先生は適当だとおっしゃるけれども、いやそうでないよと言う人も世間にはいらっしゃる。それで本当に適切な刑事処分相当でない、いや本当に刑事処分相当なのはあるのではないだろうかという疑念を、少なくとも我々議員の間で議論している中で相当疑念に思っている議員は多かったですね。
  231. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 人を殺したらみんな逆送しなきゃいけないというふうに聞こえるんですけれども、やはりプロが非常にデリケートな手続を踏んでこういう結果を出して、客観的に見ても、あおった報道自体がこういう決着ということを報道しているわけですよね。  そうしてまた、凶悪と言われる中の三つ目の一番難しい問題です。これは人格障害とか精神病とかにまつわるような大変難しいところですけれども、これはもともと酒鬼薔薇事件、神戸の中学生ですね、この十四歳の少年医療少年院へ行ったと。これは専門的な検査が必要だということはだれだってわかるような事態ですから、これも適切な処置だったと思いますし、またその後、それに触発された愛知県の豊川市で主婦殺人事件というのがあります。これは六十四歳のおばあさんを殺したんですけれども、これは人を殺す体験がしてみたかったという非常に摩訶不思議な、これはやっぱり普通ではない。小説の世界なんかでは「罪と罰」からずっと、これはもう昔からあるんですよ。こういうたぐいの哲学とか妄念とかに取りつかれてしまう傾向の人は出てくる。これも鑑定留置中ですよね。ですから、殺したんだからといって即逆送という話につながるようなケースでもないだろうと。  それから、最近の西鉄高速バスジャック事件、これも十七歳。これですら、本当は処置としてはあの場でなぜ射殺しなかったのかと。いろんなそういうケースもありますね。周りの危険性のことを考えたらそれはありますが、捕まえてしまった以上は、やっぱりこれを普通のただ粗暴犯がもっと極端に爆発して起こしたというような話ではないわけですよ。ですから、医療少年院に今送られているというケースです。  もう一つは、横浜の根岸線ハンマー傷害事件。これは十七歳の少年がいきなり夢に小さな子供が出てきて人を殺せと命令したのでやったというような話ですよね。これだってただの刑事事件として自動的に送るというようなことはできない。当然、医療少年院に送られているということがわかります。  ですから、これは大体極端な事件だけれども、いろんな事件の代表的なものですよね。そして、だから凶悪犯罪が物すごくふえたんだという話になってしまったと。現実にはそうではない。数字的にもそうではない。今度はそれが家裁がだめだから、だからもう検察にその権限を分譲していかなきゃいけない。この整合性というのが非常に無理なんじゃないかなと。  要するに、もっと事件の詳細なケースというものを研究していって、むしろどこがこの犯罪を防ぐのに大事だったのかとか、どっちみち防げなかったのかとか、そういうことを検証してから、しかも家裁が決断した背景というものが十分に妥当なものであるかどうかということをわかってやらないと、要するに余りにも報復主義ということで事件にふたをしてしまうというような、政治の側がそういう態度をとるということは私はちょっと安っぽいんじゃないかなと思うんですね。政治というのはもう少し理性的で奥深い調査とか政策とかというものを伴わないと、簡単に法律を変えてそれで終わりという話にはならないんじゃないかと思います。  時間が来ましたから、これを最後の質問にします。
  232. 杉浦正健

    衆議院議員(杉浦正健君) 人が死んだら即逆送とは私ども言っておりませんし、法律の規定もそうなっていないことは、誤解ですからまずお解き賜りたいと思います。  個々の事件についてどうこう申し上げるつもりはないことは重ねて申し上げさせていただきますけれども、先生は、例えばこの事件について、四つ挙げられた事件について家裁の処分が妥当だという前提でおっしゃっていたように感じられたんですが、それは、その事件の報道を聞いて、これは大々的に報道されましたから、聞く人それぞれ聞き方がある。ここに載っていない事件でもさまざまな形で少年事件は報道されております。それによって世間の方々がいろいろとお感じになっておられる。  これも偏っていると言われればそうかもしれませんが、世論という形で示されるとすれば、現在いろんな形で世論調査がなされておりますけれども、私どもの少年法改正案について、賛成が六〇%を下るものはございません。賛成が九〇%に近いものもございます。おおむね七〇%前後世論が賛成している、世間の方々が賛意を表してくださっているということは、世間の方々がそれなりに、新聞報道その他からあるいは身の回りから見て、やはり政治がこういうふうに対応することは結構といいますか、ぜひしてほしいと願っておられることではないかと私は受けとめておる次第であります。
  233. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 はっきり申し上げますけれども、世論というのは正しい場合もあるし、あおられてとんでもない世論になっていくというケースも多いわけですから、ケース・バイ・ケースで世論というものは判断しなきゃいけないということを申し上げたいと思います。  終わります。
  234. 日笠勝之

    委員長日笠勝之君) 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後四時十一分散会