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参考人(森
恵美君) 御紹介いただきました
千葉大学看護学部の森でございます。
まず、若輩者であります私にこのような
機会を与えていただきましたこと、まことに光栄なことと感謝申し上げたいと思います。
さて、私の専門は母性看護学というものでございます。母性看護の目的は次代の健全育成、次の世代が健全に育成するということを目的とした看護学でございます。ですから、母性看護の対象者ですが、将来母親となる
女性、今母親である
女性、そして母性を継承していく
女性並びに母親と
子供、それから
女性を取り囲む家族を看護の対象者としております。母性看護学は、母性の健全な成長発達を促し、健康の保持増進、発達
課題の達成を促すために
女性、
子供の健康生活をヒューマンケアの立場から支援する応用的な看護学の一領域です。
これからお話しいたしますリプロダクティブヘルス・ケアは母性看護学の領域のケアと非常に重なりますし、母性看護学
教育プログラムで
中心課題とされ、助産婦
教育プログラムではさらに実践的な面でより多くのことを
教育している次第です。
そこで本日は、母性看護学を
教育研究する立場から、このリプロダクティブヘルス・ケア、この
課題について述べさせていただき、提案をしていきたいと思っております。
レジュメをごらんいただけますでしょうか。
まず最初に、
日本の
リプロダクティブヘルス・ライツの
現状と問題ということで
現状を
幾つか掲げて、その中から主要な
課題を四つほど導き出してお示しいたしました。
一つ目には、大きな
課題として、望まない
妊娠が多い、十代で非常に望まない
妊娠がふえているというような
状況があります。(OHP映写)
先生方のお手元の方には資料としてカラーの図を御用意していると思います。図1を御参照ください。これはそれと同じものです。一九七〇年、昭和四十五年の当時の
人工妊娠中絶件数が七十万件ございました。その時期の十代の
人工妊娠中絶率はこの折れ線グラフであらわしております。こちらがその値です。この実数に対して十代がどのぐらいの
中絶率であったかというのを示した棒線グラフです。
平成十年の結果では、全体として
中絶件数は減ってきておりますが、十代の
方々の
人工妊娠中絶率、全体に見る率ですが、一〇%以上とふえてきているという状態です。
望まない
妊娠というのが
日本は諸外国に比べて非常に高い。
妊娠した人の四分の一は
中絶に至っているということは
先進国では本当に珍しい
状況にあります。それから、望んだ
妊娠が三分の一にすぎないというのも本当に珍しい
状況。それと、十代の
人工妊娠中絶率がどんどん上がっている。十代の
性行動の開始が非常に早まっていることと、その十代がそのまま
避妊行動がよく身につかないままに二十代、三十代というふうになっていきますと
人工妊娠中絶を繰り返す危険性も高いというふうにも
考えられます。
それから二番目には、
不妊夫婦のさらなる
増加とそれによる問題でございますが、
不妊原因となります
性感染症、クラミジア感染症も
増加しております。これは十代、二十代の
性行動が活発だと言われる世代で
増加しているというのが特徴的です。それは
不妊原因につながるということ。
女性の場合はクラミジア感染症の自覚症状がございませんで、初めその自覚がないですから重症化してからわかるというようなことで
不妊症になってしまうというようなことになります。
それからあと、ストレスによる性機能
障害や拒食症、十代の拒食症が非常に問題になっていますが、そういうふうな月経
障害などによって
不妊の原因となる疾患が
増加しているというのも特徴的です。そのように
不妊夫婦、
不妊カップルが今後さらに
増加するだろうということは予想される問題です。
また、
不妊夫婦になりますと、
日本の産めて当たり前、
女性は産んで当たり前という
社会の圧迫がございますので、どうしても
生殖医療に頼って
不妊治療をするという夫婦もふえるだろうというふうに
考えられます。費用は非常に高額、
体外受精に関しては一回五十万以上かかりますので
不妊の当事者は非常に経済的にも
負担ですが、精神的な悩みも深くて孤立化しやすいというような問題もございます。
それから三番目ですが、子産み子育ての困難性の増大です。これは、少子
社会に至って、先生方もう十分
御存じだと思いますが、ここで強調したいことは、高齢
出産がふえたということだけではなくて、
生殖補助医療技術によって
妊娠した
女性がふえていて、多胎
妊娠が非常にふえているということ、それだけ濃密な医療とケアの必要な妊産婦がふえている。
出産する人の数は減っておりますが、濃密な医療とケアの必要な妊産婦がふえているということと、その
人たちが産んだ赤ちゃんがすべて濃密なケアとか医療が必要な状態になっております。それが図2でございます。(OHP映写)
資料の方の図2に、
出生数と二千五百グラム未満児の
出生率、これも一九七〇年、昭和四十五年から追っております。左側が
出生数です。
出生数は棒グラフであらわしていまして、
出生数が本当に減ってきたのがよくわかると思うんですが、この
出生数に対して二千五百グラム未満の赤ちゃんがどのぐらい生まれているかというのを折れ線グラフであらわしました。その値がこちらにございますが、一九七〇年代では六%ぐらいだったのが、今、一九九八年、
平成十年をとらせていただきましたが、一〇%以上の赤ちゃんが二千五百グラム未満で生まれている。すごくそういった面で育てにくい、育てるのにお母様方が苦労する赤ちゃんがふえているということが言えると思います。
それから四番目には、リプロダクティブヘルスの健康
障害の拡大と連鎖。これは一番から三番までの問題が非常に重なってきている問題だと思っております。
それは、十代で望まない
妊娠をする、あるいは
性感染症がふえているということから、今度、次の世代、十代の
人たちが産んだ赤ちゃん
たちが感染をもらってしまう、感染症にかかるというような危険性が高まっている。あるいは薬物やアルコールなどによる先天異常などもふえる可能性があるんではないかというような危惧もしております。
それから、それ以外に
女性の健康という面では、
女性の食生活が欧米化したために乳がんが非常にふえている。それから、中高年の
女性の骨粗鬆症による問題。骨粗鬆症によって骨がもろくなりますので、転んだときに骨折をしやすいんですね。それで、大腿骨を骨折しやすいものですから、大腿骨を骨折することによって寝たきりになってしまうというような、高年、七十歳以降の
女性が寝たきりになったときに、やはり健やかな老後というのは望みにくくなるんではないかなというふうにも
考えられます。
それから、一人の
女性の生涯にわたる連鎖ということで例を書きましたが、望まない
妊娠、そして
中絶。
中絶が次の
妊娠を流産させるということもございます。そういうふうに繰り返していますと
不妊になるというようなこともあり得ます。それから、
不妊になったことで
生殖補助医療技術によって
妊娠する。今の
状況では双胎
妊娠になる可能性も非常に高いですから、双胎の赤ちゃんを育てるというような
課題を
女性は背負わなくてはいけない。その子育ては、二人の赤ちゃんを三十代後半の
女性が育てていくというのは非常に大きな育児労働になります。特に、
生殖補助医療技術で四十代で二人の
子供を抱えたとなると、かなりな周りのサポートが必要となります。それから、やっと子育てをし終えたら今度は更年期
障害の問題がやってくるということで、一生にわたって健康の問題にさらされるのは
女性なのではないかなというふうにも
考えられます。
二番目の、
日本のリプロダクティブヘルス・ケアの
現状についてちょっとお話をしたいと思います。
今挙げましたリプロダクティブヘルスの問題に対応してリプロダクティブヘルス・ケアがございます。定義としては、
男女の性と
生殖に関する健康を守り増進するためのヘルスケアで、内容としては、このような①から⑧というような非常に多岐にわたるような対応をしていくことになります。
下線の事項は、看護職の中でも特に助産婦、助産婦というのは、
法律的に助産と妊産褥婦、新生児の
保健指導ができるという立場にあります。それから、他の看護職に比べまして受胎調節実地指導員の資格を有する者が多数です。この受胎調節実地指導員というのは、受胎調節、
避妊に関する指導ができる。実地に
コンドームあるいは先ほど芦野先生もお配りいただきましたいろいろな
女性コンドーム、ああいうものは受胎調節実地指導員が配付する、実地に指導して、それを販売する資格も有しております。ですが、
銅付加IUDは、そのような器具に関しては
医師がやるということになっています。それから、
ピルに関しては、医薬品ですので、今のところ受胎調節実地指導員にはその資格はございません。ですが、多くの部分で
避妊に関する指導を担当することができるというふうに
考えられます。
それから、先ほど申し上げましたが、
妊娠、
出産に伴うリスクはかなり
増加している、高度な医療やケアが必要なお母様方、妊産婦の
方々がふえているということをお示ししましたが、少子化
社会だからそんなに、マンパワーは大丈夫なんじゃないかということを思われると思うんですね。
確かに
出生数は減ってきております。(OHP映写)赤が助産婦、そして緑が産婦人科の先生方の数を示した年代別のグラフです。そして青が
出生数です。
出生数は非常に減ってきております。この数をごらんになれると思うんですが、産婦人科医の数は変わっておりません。助産婦数、一九七〇年の年はまだ助産所で分娩する
人たちがいた。昭和三十五年、
家庭分娩とそれから
施設内分娩がちょうど半々だった年からほぼ十年たった時点での助産婦の数なんです。そういうふうに地域で開業して、助産所あるいは
家庭分娩をしていた助産婦さん
たちが非常に減ってきて、そして今はこれだけの数に減ってきています。
ただ、先ほど言ったように、非常にケアが必要な妊産婦がふえておりますので、どうしてもリプロダクティブヘルス・ケアのところの⑦安全な
出産と
出産前後のケア、⑧乳幼児
保健について、助産婦が非常に重点を置いてケアをやっていかなければいけないというような
状況です。そういうふうな、本来でしたらリプロダクティブヘルス・ケアすべてを担当したいという思いがみんな助産婦はあるんですが、どうしても⑦と⑧をやらざるを得ない、そちらが優先事項だというような状態です。
ですから、
日本のリプロダクティブヘルス・ケアにおける問題として少し
考えてみたいんですが、さきに挙げた四つの
課題に対応するようなヘルスケアが十分に準備され、機能することが必要だというふうに
考えますと、ヘルスケアにおける
課題というのは
幾つかに焦点が絞れるんではないかというふうに
考えまして、三つほど挙げさせていただきました。
一つは、生涯を通じた全人的かつ系統的な性
教育の場がないということです。
これは、誕生や死が
家庭から病院に移ったことによって、生命の営みが日常生活から、私
たちの前から見えにくくなったというような現象にもよっていると。これはいろいろな
専門家の
方々が言っていることですが、私もそのように感じます。そういった意味で、いろいろな場で全人的な
教育、全人
教育が叫ばれて久しいんですが、性
教育についてもそのような場として使っていくということが必要だと思っております。
先ほど芦野先生から御紹介あったとおり、
ピル初め有用な
避妊法が認可されたにもかかわらず、
避妊法の正確な
情報が提供されていないというのが大きな問題としてこの背景にはあると思います。
情報としてははんらんしておりますが、自分にとって必要な
情報を取捨
選択して獲得していく能力もなかなかまだ国民の皆さんの中には培われていないような印象も持っております。
それからもう
一つは、学校
教育の中でやはり全人
教育、命の
教育、性
教育などが系統的に行われていない。一部、群馬県あるいは高知県の開業助産婦さん
たちが小学校で命の
教育というのを行っております。これは命の大切さを教える出前授業として非常に話題を持っておりまして、
子供さん方あるいは学校側から好評であるというふうに伺っております。そのような活動をもっと全国的につなげていけたらいいなというふうに
考えております。
それから命の大切さ、自分も他者をも尊重するという、人間として生きていくのに必要な理念から始まるこのような系統的な性
教育が行われていくということも必要だというふうに
考えています。
二番目には、各世代、各年代の
女性にとってリプロダクティブヘルスに関連したトータルな健診・健康
教育機能を
中心としたケアの場がないということも問題だと思っております。
若年
女性、働く
女性、子育て中の母親、中高年
女性が気軽に受診、
相談できる場がありません。
女性の健康は臓器別、
子宮がんは産婦人科、乳がんは外科、胃が痛いと思ったら内科というようにいろんな臓器別で行われていますので、
女性の健康をトータルに診るような場がございません。それから、カウンセリングを受けるところもございませんし、
情報を得るところもなかなか得られておりません。そういうような点で、
女性の生涯にわたって健康を診てくれるホームドクターのような方が必要だと思っております。
三番目には、リプロダクティブヘルス・ケアを行う
専門家の不足ということで、ここの
レジュメに示させていただきましたが、助産婦が非常に不足しておりますので、そのような点でぜひふやしていくような方策、対策をとっていただきたいと思っています。
最後に
提言ですが、三つのことを提案させていただきます。
一つ目には、
保健所、
保健センター、
女性センター、市町村の看護職として助産婦の常勤採用枠を定め人材を確保し、地域や学校、企業におけるリプロダクティブヘルス・ケアの場を整備すること。ここに挙げたように一番、二番のことです。それから三番に、
男性へのリプロダクティブヘルス・ケアの推進が挙げられると思います。これは、
男性の理解と協力なくしては
女性の健康は保てないというふうに
考えているからでございます。
二番目には、助産婦養成数の
増加と助産婦の質の向上です。ここに掲げています四つの事項についてぜひ推進していただくようによろしくお願いしたいと思っています。
三番目には、リプロダクティブヘルス・ケア推進のために、学校、国公立
保健医療機関、民間医療福祉機関、産業
保健等の連携・協同システムと、地域住民のネットワークを
構築、整備するということでございます。
以上、三つのことを提案させていただきます。
ちょっと長時間にわたりまして御迷惑をおかけしましたことをおわび申し上げます。
どうもありがとうございました。