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浦野参考人 横浜国立大学の
浦野でございます。
私は、
日本でほとんど
フロンが問題にならなかった二十四年ぐらい前からずっと
フロンの問題を研究、あるいは社会的にもいろいろなことをやってまいりました。
本日は、長年主張をし続けてまいりましたけれ
ども、はっきり言いまして、国の
行政の体制、あるいは業界の
地球環境問題に対する対処姿勢などがおくれていたというふうに私は思っております。この時点になりまして、国
会議員の
皆様方が
フロンの
排出防止のための法
整備に動いていただきまして、私を
参考人としてお呼びいただきましたことを、大変うれしく思っております。
今まで私は、
フロン問題の改善のために、国、自治体、関連業界団体、市民団体などと、幅広い
方々といろいろ交流、
協力をしてまいりました。これらの
方々には、それぞれのお
立場や主張がございまして、いろいろなことを私も聞いておるわけですけれ
ども、本日、私は、あくまでも中立の
立場で、
日本が世界に恥じない
フロン対策をどのようにすべきかということを、
日本の
現実を踏まえながら、専門家として
意見を述べさせていただきたいと思っております。
お手元には
資料を二つ用意しておりますが、一つ、白い方が本日の陳述の概要でございます。もう一つは、私が代表を務めておりますエコケミストリー研究会というところが発行しております「化学
物質と
環境」という情報誌でございまして、ことしの一月号に、
フロン対策についての多方面の
方々の御
意見、特に、
現状と法制度の確立への期待、あるいは実効ある
対策を行うための注意点などが述べられてございますので、
参考資料として配付させていただきました。
それでは本題に入らせていただきますが、まず、大変恐縮ですが、もう皆さん御存じだと思いますが、基礎的なお話として、
オゾン層破壊の
現状のごく簡単なところから話をさせていただきたいと思っております。
太陽からは非常に強い紫外線がたくさん来ておりまして、これが地球上に参りますと、ほとんどの生命は死滅すると言われるぐらい強いものでございます。これが成層圏という、およそ二十キロぐらい上のところ、車で行くとすぐ行けるような高さでございますが、ここに薄い層がございまして、そこの成層圏の
オゾン層が
破壊されます。この
破壊の原因は、
フロン及びその類縁
物質に含まれます塩素や臭素ということになっております。
オゾン層が
破壊されますと、紫外線がふえまして、皮膚がんがふえるというのはよく御存じだと思いますが、比較的、そのほかにも、年齢がたつとかなりの方が白内障になられるわけですけれ
ども、白内障がふえる、あるいは皮膚角化症になるとか、あるいは農業
生産が
影響を受ける、あるいは生態系も
影響を受ける、いろいろなことがわかってきております。
特に南極のオゾンホールに象徴されますように、ことしも最大になりました。昨年も最大ということでしたが、ことしさらに更新をしました。北海道の上空でもオゾンの減少が観察されるようになってきております。これは北極の方のオゾンホールが若干でき始めて、それが
影響するということですが、このオゾンホールは、二〇一〇年から二〇二〇年ごろまで拡大傾向にあるというふうに予想されております。
資料の図の1、これはUNEPが予測しました
大気中の塩素と臭素の濃度の経年変化の予測でございます。
フロンが工業的に
生産されましたのは一九三〇年代でございますけれ
ども、このころに戻るということを考えますと、二一〇〇年、要するに、これから二十一世紀ですけれ
ども二十二世紀を超えてもまだずっと戻らない、そういう
状況にあるんだということをぜひ認識していただきたい。すなわち、我々が便利な思いをして、あるいはだれかがもうけて、
フロンを野放しに放出し続けてきたことが、孫、ひ孫どころか、そのさらに先の先まで
影響を与え続けるという認識が必要であるというふうに私は思っております。
その中で、
フロンはどこの国が多く使ってきたのかといいますと、アメリカが一番なんですが、
日本が第二位でございます。
日本は第二の
フロン使用大国でありまして、その
責任というのも非常に重要でございます。
日本は、世界の約一二%の
フロン類を使ってまいりましたことから、
オゾン層破壊については約八分の一の
責任があります。ですから、
オゾン層破壊をした八分の一は
日本の
責任である。例えば、世界で二万人ぐらい皮膚がんがふえてくるというような試算もございますけれ
ども、そうしますと、
日本人が約二千五百人を皮膚がんにした罪がある。もちろんがんだけではありません、ほかの問題もございます。
そういう認識の
もとに、ちょっと前後して恐縮ですが、三ページ目の表1を見ていただきたいと思います。
フロン類には、従来から使われてまいりました
CFCというもの、それから水素がつきましたH
CFC、いわゆる
CFCの代替として使われてきたもの、それからさらにその代替として使われてきます
HFCというものがございます。これは名前が非常に似ておるのでわかりにくいのですけれ
ども、こういったもの、あるいはPFC及びその仲間のSF6というものな
どもございます。このほかに消火剤のハロン類というのもございまして、それらが
オゾン層破壊ないしは
温暖化にかなりの
影響を与えているものでございます。
これらの種類があるということはもう皆さん御存じだと思いますが、紛らわしいので、少し整理してここに書かせていただきました。
二ページ目の図がございます。この図は、図2から6、同じような図でございます。これらは、冷蔵庫、ルーム
エアコン、
カーエアコン、業務用
冷凍空調機器の
冷媒、いわゆる物や空気を冷やすために使われている
フロン類の
回収が必要になる量、その推移を示したものでございます。言いかえますと、ほうっておきますと
大気中に放出されてしまう量でございますが、これは
環境庁が試算したものに私が
HFCのところを書き加えたものでございます。
これを見ましても、
冷媒だけでも、
日本は大量の
フロンを
廃棄し続ける形になることがわかります。特に
CFCは、今までかなりの量が放出されてしまいまして、二〇一〇年ごろまでにはほぼ放出され尽くしてしまう。ぜひ急いで
対策をとるべきだというふうに思います。H
CFCの方は、今どんどんふえている
状況で、二〇〇五年ごろにピークになり、これが二〇二〇年ごろまで続きます。二〇二〇年になった後は、
HFCがずっとかわりにふえてまいりまして、二万トン以上になる。これは
冷媒だけですが、こういった形になります。
このほか、右下に文章でちょっと書いてございますが、PFC、これは
大気中寿命が一万年とか五万年とかあるという、
大気中に出たままである
物質ですが、こういったもの、あるいはSF6、断熱材の中の
フロンなどがまだ大量に
日本に残っている、あるいは使われている
状況でございますし、ハロン類も、
日本ではかなりの量が貯蔵されております。四百年分ぐらいあると言われていますが、その管理の徹底と
破壊を進める必要があるというふうに思っております。
御存じだとは思いますが、米国、ドイツ、フランス、イギリス、デンマーク、スウェーデンなどでは、既に
フロン類の
回収義務や放出禁止の法律がございますし、
モントリオール議定書締約国会合で、二〇〇一年七月までに各国は
CFCの管理戦略を提出する必要があることになっております。
ぜひ
皆様方の見識で、
日本が世界に恥じない政策をとっていただきたいというふうに思っております。
次に、
フロンの地球
温暖化への
影響と
対策の一体化ということについて述べさせていただきます。
先ほどの三ページの表1にも示してございますが、
フロン類は、二酸化炭素、いわゆる
温暖化の代表的な原因
物質ですが、これの、少ないものでも九十三倍、多いものですと一万一千七百倍もの地球
温暖化効果があります。
環境庁の地球
温暖化ガスの
排出量の推計では、
HFC、いわゆる
オゾン層は壊さないものですが、これだけでも、一九九八年度で、
日本の地球
温暖化ガスの
排出量の一・四八%、PFCとSF6を合わせますと三・五%にもなっております。これは
冷媒だけではなくて、H
CFC22をつくるときの副生品で出てくるものな
ども入っております。
これらのうち、
冷媒用の
HFC、すなわち冷蔵庫とか
カーエアコン等に入っているものですが、、先ほどの図6というのが全体の
冷媒用の
HFCですけれ
ども、ことしあたりから
排出量というか、
回収対象量というのが急増し始めまして、二〇一〇年ごろには基準年の
日本の地球
温暖化ガス
排出量の一・四%、二〇二〇年には基準年の二・九%にもなると予想されています。
したがいまして、
フロン対策は、
オゾン層保護だけではなく、地球
温暖化防止
対策としても極めて重要になっています。
また、先ほど
西薗先生からもお話がありましたけれ
ども、
CFCやH
CFCと
HFC、これは非常に名前もややこしいんですが、これらの
利用機器はほとんど同じでございまして、
回収・
破壊あるいは社会
システムも全く分別できないものでございますので、法律上もこれらを一体として扱うということが必要だと思っております。
また、いわゆる家電
リサイクル法でも
HFCの
回収が義務づけられておりまして、他の機器でこれらが抜けると、家電品以外は
温暖化に
影響するガスを放出し続けてもいいという、非常に不公平なおかしなことになるというふうに思っております。
次に、現在の
回収・
破壊の
現状と
問題点について述べさせていただきます。
オゾン層保護法ができて既に十二年を経過しておりますけれ
ども、四ページ目の表3に示してございますように、
冷媒の
CFCのみの
回収率でございますが、それでもこのような低レベルにございます。
ここで、先ほ
ども西薗先生が御指摘されたように、
回収可能量を基準にしているということでございますが、私がそこに
回収対象量というのを加えてございますけれ
ども、これよりもかなり小さくなっております。その点について、先ほど
西薗先生が御指摘したとおりですが、特に
カーエアコンについては
回収可能量が過小に見積もられているというふうに私は思っております。
また、先ほどのお話もございましたけれ
ども、年間の
破壊量は合計で一千トンぐらいでございまして、私
どもの
調査では、そのうちの七百トンが
CFC、H
CFCが約三百トンぐらいかなというふうにアンケート等でとったのですが、
環境庁の方の
調査では約半分ずつということでございます。いずれにしましても、
回収対象量を基準にとってみますと、
冷媒の
CFCの
回収率は一〇から一五%ぐらい、それからH
CFCの
回収率は三から五%ぐらいしかない。
HFCについては
回収・
破壊の実績が余りない、あるいはその
状況把握を国も全くしていない。今後このような情報の
収集と公開ということも進める必要があるというふうに考えておりますし、断熱材についての
回収・
破壊の
促進及び情報公開も必要だというふうに考えております。
また、
フロン類の種類別
生産量、あるいは種類別、用途別の使用量、
フロン使用
製品の
排出量につきましても、廃
製品の発生量と言った方がいいですか、そういったものにつきましてもきちっとした情報が入手できない
状況にあります。したがいまして、
環境庁等でいろいろな推計をする場合にも非常に不明確な
部分が残ってしまいます。こういったものの情報の届け出あるいは公開といったものが必要だというふうに考えております。
技術的な
問題点につきましては、
回収装置についても、かなり最近は進歩しておりまして、いいものができておるんですが、古いものあるいは安いもので非常に性能の悪いものもございます。また、作業性が非常に悪くて、あるいは作業を正しくしないため、あるいは、黄色い方の冊子に書いてございますが、故意に
回収をしていないという事例も実はたくさんございます。こういう状態でありますので、何らかの認証制度、あるいは
回収した、
破壊したということの証明をきちっとしていく
システムをつくる必要があると思います。
また、
破壊の方も、技術的にはかなりの完成度を持っておりますが、
環境庁がガイドも出しておりますけれ
ども、ガイドに書いていないものもどんどん市販され、使われてきている
状況で、一部
フロンが放出されたり
ダイオキシン類の生成が心配されるものもございます。したがいまして、何らかの評価と認証が必要だというふうに考えております。
最後に、以上のことを踏まえて、
フロン対策に関する法律にぜひ入れていただきたい事項について述べさせていただきます。
まず、対象とする
物質ですけれ
ども、用途によらず、
環境中で分解しにくい
フロン類とその類縁
物質全般を入れるということが本来の姿だというふうに私は思っております。これは、
冷媒以外にも
フロン類とその類縁
物質が
日本に大量に蓄積し、
排出され続けているということからです。
しかし、諸般の事情で、技術的あるいは社会的事情で、当面それが全部入れられないと仮にいたしましても、少なくとも最も
回収しやすい
冷媒用途の
CFC、H
CFC、
HFC、これらはすべて入れるものというふうに考えられますし、これに、さらにその他政令で定めるものというような項を加えて、断熱材その他の用途のものについても順次柔軟に、社会情勢、技術情勢を踏まえて追加できるようにすることが最低限必要だ、そういうものがないと何も
努力がされないというふうになると私は思っております。
それから、経費負担については、当然、先ほどお話がありましたOECDの
拡大生産者責任のように、製造
メーカーが
廃棄まで
責任を負うというのは国際的な流れで、勧告もされる
状況になってきておりますので、当然
フロンメーカーあるいは
フロン含有機器、
製品の製造
メーカーが基本的には
責任を負うということになろうかと思います。
ただ、その分が当然最終的には
利用者の負担にもなるわけですが、個別の
利用者や
事業者の意思に任せるというふうな
状況ではなかなかうまくいかないというのが今までの実績でございますので、前払いのデポジット制に類似の制度あるいは基金といったようなものを社会的にきちっと位置づけて、公平な経費負担が定められることが必要だというふうに思っております。
また、経費の問題ですけれ
ども、
回収して再
利用した場合には、それは再
利用したものを売るというのが
目的ですので、これはまた少し別に扱う必要がございます。
また、
製品そのものを、廃冷蔵庫なら廃冷蔵庫を運ぶという問題は、
フロンだけのためではございません。
フロンを
回収しないでも運んだりするわけですから、
フロンの
回収作業にかかわる
部分について支払うべきだというふうに思いますが、ただ、これは
廃棄の費用、
破壊の費用だけではなくて、
回収作業、ボンベの
収集、
運搬等にかかる費用が
フロンの
破壊そのものの費用の数倍から多い場合には数十倍にもなっております。逆に言いますと、
破壊費用というのは非常に安いものでして、
回収作業とかボンベの
運搬管理の方が費用がかかる。したがいまして、これらの費用をトータルとして考えなければ、実際的には
回収・
破壊は進まないというふうに考えております。
また、一方で、
民間事業者の
努力、競争や技術の進歩を促すということも必要ですので、適切な経費の額というものを決めないと、非常に高い経費で
回収しましたということで請求に来られてもやはり困るという問題がございます。
さらに、代替
物質、代替技術の導入を
促進するべきですし、特に断熱材やエアゾールなど
回収・
破壊が非常に難しい用途については、使用の制限も考えるべきだというふうに思っております。
また、使用
フロンの種類と含有量の表示の義務づけ、あるいは、先ほど申しましたが、
フロンの種類別の
生産量あるいは
利用量、その
製品の
廃棄量等の届け出と情報公開といったことが必要だというふうに思っております。
また、
回収装置、
破壊装置の認定と同時に、記録の保存とか定期的な報告、あるいはその情報の
収集と公開、これは
行政の方になるかと思うんですが、こういったものも明確にしておくことが、
回収・
破壊が確実に行われていることのチェック
方法としてきちっと規定される必要があるというふうに思っております。
このほか、社会的に現在かなり業界団体も
行政も自治体もいろいろ
努力をしておりまして、そういった既にできている社会
システムを最大限に有効に
利用するということが必要ですので、これは若干
西薗先生と違うんですが、余り細かな資格認定とか許認可をふやし過ぎないということも私は必要であるというふうに思っております。
それでは、それをどう担保するかといいますと、やはりきちっとした情報
収集、届け出であるとか報告であるとかいうものを出して、あるいは目標値を定める、あるいは計画を定める、それを公表する、それらの数値をすべてチェックする機能、それを学識経験者等を主とした公開の
委員会でチェックし、情報公開をする。基本的には、
フロンの流れをしっかりと把握して、それを公開していく、それを皆さん方がチェック・アンド・レビューをしていくという体制が非常に重要ではないかというふうに思っております。
その他、必要な場合には、悪質な場合には、当然、自治体等が立ち入りであるとか勧告、指導等ができるということも必要であるというふうに思っております。
また、H
CFC、
HFCについては、私はきちっとした
排出管理が行われれば再
利用は認めることがよいというふうに思っております。それは、再
利用すればそれだけ本来の
生産が減りますので、最終的に
排出量も減ってくるという考え方です。ただ、
CFCについては、もう余り再
利用することは認めないのが原則だというふうに思っておりますので、それらはむしろ代替物、代替技術への転換に対して補助をしていくという形で対応するのがよろしいかと思います。
最後に、地方公共団体の条例等との整合性を持たせる、あるいは必要な上乗せ、横出しが認められるような配慮が必要だというふうに考えております。
以上が私の話でございます。どうもありがとうございました。(拍手)