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2000-11-14 第150回国会 衆議院 科学技術委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十二年十一月十四日(火曜日)     午前九時開議  出席委員    委員長 古賀 一成君    理事 奥山 茂彦君 理事 塩崎 恭久君    理事 高市 早苗君 理事 水野 賢一君    理事 樽床 伸二君 理事 平野 博文君    理事 斉藤 鉄夫君 理事 菅原喜重郎君       岩倉 博文君    木村 隆秀君       河野 太郎君    田中眞紀子君       渡海紀三朗君    林 省之介君       松野 博一君    村上誠一郎君       近藤 昭一君    城島 正光君       津川 祥吾君    山谷えり子君       江田 康幸君    吉井 英勝君       北川れん子君    中村喜四郎君     …………………………………    科学技術政務次官     渡海紀三朗君    参考人    (上智大学法学部教授)  町野  朔君    参考人    (京都大学医学部教授)  西川 伸一君    参考人    (ノンフィクションライタ    ー)           最相 葉月君    参考人    (奈良県立医科大学助手) 御輿久美子君    科学技術委員会専門員   菅根 一雄君     ————————————— 委員の異動 十一月十四日  辞任         補欠選任   村上誠一郎君     河野 太郎君   山名 靖英君     江田 康幸君 同日  辞任         補欠選任   河野 太郎君     村上誠一郎君   江田 康幸君     山名 靖英君     ————————————— 十一月十三日  脱原発への政策転換に関する請願(石井郁子紹介)(第一二一七号)  同(大森猛紹介)(第一二一八号)  同(木島日出夫紹介)(第一二一九号)  同(穀田恵二紹介)(第一二二〇号)  同(中林よし子紹介)(第一二二一号)  同(矢島恒夫紹介)(第一二二二号)  同(吉井英勝紹介)(第一二二三号)  同(今川正美紹介)(第一二八九号)  同(中西績介紹介)(第一二九〇号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  ヒトに関するクローン技術等規制に関する法律案内閣提出第七号)  ヒト胚等作成及び利用規制に関する法律案近藤昭一君外三名提出衆法第八号)     午前九時開議      ————◇—————
  2. 古賀一成

    古賀委員長 これより会議を開きます。  内閣提出ヒトに関するクローン技術等規制に関する法律案及び近藤昭一君外三名提出ヒト胚等作成及び利用規制に関する法律案の両案を一括して議題といたします。  本日は、両案審査のため、参考人として、上智大学法学部教授町野朔君、京都大学医学部教授西川伸一君、ノンフィクションライター最相葉月君及び奈良県立医科大学助手御輿久美子君、以上四名の方々に御出席をいただいております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。両案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。  次に、議事の順序でございますが、町野参考人西川参考人、最相参考人御輿参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、御発言はすべてその都度委員長の許可を得てお願いいたします。また、参考人委員に対し質疑ができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。  それでは、まず町野参考人にお願いいたします。
  3. 町野朔

    町野参考人 町野でございます。  私は、科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会、それからヒト胚研究小委員会委員として、また途中から、科学技術会議生命倫理委員会委員としても、先般この委員会において参考人として意見を述べられました岡田善雄先生、本日の西川伸一先生などと御一緒に、クローン問題の法的規制に関する審議に関与してまいりましたので、これらの審議の経緯を踏まえながら、法的規制必要性、そのあり方等に関して、若干の意見を述べさせていただきたいと思います。  人クローン個体等産生禁止されるべき行為であるということは、だれもが認めるところでございますけれども、議論出発点は、これを法律、特に刑罰によって規制すべきかということでございました。例えば、現在では産科婦人科学会幾つかの重要な会告を出しております。このような科学者医学者等研究者集団自主規制にゆだねることで十分であるという見解もあり得ました。しかし、多くの人たちは、それだけでは十分でないと考えておりました。クローン小委員会では、行政的なガイドラインによる規制だけで十分であって、それ以上に法律によってあえて介入する必要はないという見解もかなり有力でございました。  しかし、人クローン個体等産生を有効に禁止しようとするのなら、やはり強制力を持つ法律によらなければならないと考えられます。人クローン個体作成は、設備としてもそれほどのものを必要とするわけではなく、技術的にもかなり容易であるというぐあいに伺っております。しかも、実際にこれを実行しようとする人たちが公然と名乗りを上げている状況でございます。法的規制は、かなり急がれている状況であると思われます。外国から日本に来た人たち日本国内のアウトサイダーの人たちには、自主規制には期待することはできませんし、行政指導も恐らくは効果がないと思われます。また、このような生命倫理の根幹にかかわる問題は、国民の意見を集約すべきこの国会が法律によってやはり規定すべきことであって、行政庁に任せてそのガイドラインの運用によるということでは不十分であるというぐあいに思われます。  このようなことから、クローン小委員会は、クローンキメラハイブリッド個体産生目的とする行為法律によって処罰することとし、それに連なり得る行為、つまりクローンキメラハイブリッド胚及びこれに類似する胚の作成については、行政的指針による規制を行うにとどめることとしたわけです。  後からほかの先生方によっても説明されると思いますが、これらの胚、これは政府案では四条一項の特定胚と名づけられていますが、その作成使用は、医療技術的に多くの有用性があると思われます。これを一律に禁止することなく、行政規制によって倫理的に妥当な範囲科学研究を進めようとするものでございます。  もう一つのさらに重要な問題は、これらの個体産生を法によって禁止、処罰することが許されるなら、それはどのような理由からであろうかということでございます。  およそ、倫理的に不当であるという一事をもって、法によって行為禁止し、さらに処罰することはできません。法と倫理とはやはり違います。行為が人々の利益侵害するときに初めて、法による禁止の問題となります。したがいまして、いかなる被害を理由として、別の言葉で言いかえますと、行為のいかなる反社会性理由として、その行為を法によって禁止するのか、禁止することが許されるのかということでございます。そして、この点についての考え方の相違が、禁止、処罰されるべき行為範囲にも影響を持つことになります。  本日の、ヒトに関するクローン技術等規制に関する法律案、以下これを政府案と呼ばさせていただきます。それと、ヒト胚等作成及び利用規制に関する法律案、以下これを民主党案と呼ばさせていただきますが、その両者の対立の要点は、ここにあるのだと思われます。  クローン技術によって生まれてくる子供たちには障害が生ずることが予想されます。また、このような手段による人の生命の誕生は、親子関係家族関係にも混乱をもたらすことが必至であると思われます。さらに、特定の人と遺伝的形質を同じくする人間を意図的につくり出し、人を育種するという優生学的理由乱用されるおそれがあります。これは人間を専ら手段として扱うことであり、憲法十三条の保障する個人尊重理念に反することです。  これらの弊害あるいは反社会性は、遺伝子工学人間への適用、他の生殖補助医療技術乱用によっても生じ得るものでもあります。しかし、ヒトクローン産生には、特定個人遺伝的形質を複製するということによって個人尊厳侵害するという、この行為に特有の問題があります。  およそ個人は、独自の人格を持った一回限りの存在として尊重されなければなりません。憲法十三条、二十四条の言う個人としての尊重個人尊厳も、当然にこのことを含むものと考えられます。人為的に特定個人遺伝的形質が同一の人をつくり出そうとする行為は、両者個人の持つ尊厳侵害する行為でもあります。そして、このような事態を放置する国では、個人尊厳という理念が守られていないということにもなります。国家がこの理念尊重しようとするのなら、人クローン個体をつくろうとする行為禁止しなければならないというぐあいに思われます。  キメラハイブリッドについても以上と同様のことが言えます。しかし、これら個体作成には、人とそれ以外の動物との限界をあいまいにするという、さらに大きい問題があります。社会人間が構成するという建前で存在いたします。人と動物とのキメラハイブリッド作成する行為は、この境界線を崩し、人間の種としてのアイデンティティーをあいまいにしようとする行為であり、やはり許容することはできないと思われます。クローンキメラハイブリッド個体産生が、人間尊厳に反する等々といたしまして、近代生命医療技術のもたらし得る最大の害悪とされる理由も、実はここにあるものと思われます。  クローン小委員会報告も、クローンキメラハイブリッド個体産生害悪を以上のようなものと考え、その産生行為を核心とした法的規制を行うべきだとしたものでした。生命倫理委員会もこの報告を是認いたしました。  そして、政府提案も、これら個体産生の試みを処罰される行為といたしまして、これは三条、十六条でございますが、そこまでに至らない特定胚作成使用、管理については、行政的な監視を行うにとどめました。これは四条以下です。  また、いわゆる受精卵クローン作成行為は処罰しないこととしています。政府案では、受精卵クローン胚ヒト胚分割胚として特定胚に含まれています。これに対しまして、民主党案では、これを処罰するものといたしております。このようなものは、いわば一卵性双生児を人為的に作成する行為でありまして、その倫理的妥当性に問題を生じさせることはありますけれども、政府案では、存在する個人をコピーするというクローン人間作成行為ではないと考えたからであると思われます。  さらに、ヒト同士キメラあるいはハイブリッドというものも、これはハイブリッドについては当然のことですが、処罰することといたしておりません。これは、先ほど申し上げましたとおり、人と動物とのキメラをつくるというのは人という種のアイデンティティー侵害するからであるという考え方ですから、ヒト同士キメラを処罰しないということにしたのは、このような理由からでございます。  クローン小委員会においても、生殖医療補助技術規制あるいはヒト胚保護観点から広く問題を考えるべきであって、クローン個体等産生だけを考えるのは問題を矮小化するものだという意見がございました。民主党案が、人の生命萌芽であるヒト胚保護人配偶子の提供の規制を主張いたしまして、クローンキメラハイブリッド個体産生を処罰し、生殖補助医療及び生殖補助医学研究におけるヒト胚作成及び利用規制に関して、附則におきまして三年以内の検討を促しているというのも、このような考え方によるものだと思われます。  もっとも、生殖医療補助技術規制の問題とヒト胚保護の問題とは違う次元に属します。クローンキメラハイブリッド個体産生も、人の生命侵害するものではなく、むしろそれを創造する行為だと言えます。キメラハイブリッド個体作成のときにはヒト胚侵害を伴うこともありましょうが、クローン個体産生についてはそのようなことはありません。そうすると、これらの個体産生規制は、ヒト胚保護観点からではなく、生殖補助医療規制観点によらざるを得ないことになります。民主党案クローン個体等規制ヒト胚保護とは別のものとして扱っているのはこのためでありましょう。  また、ヒト胚をみだりに作成する行為自体は、ヒト胚という生命を生み出す行為ではありますが、その生命を毀損する行為ではありません。ヒト胚生命は、そこからES細胞作成するなど、それを使用する場合に初めて侵害されるのです。そのために、幾つかの国の法律は、単なるヒト胚作成ではなく実験目的ヒト胚作成する行為禁止しているのです。  しかし、民主党案は、生殖補助医療目的の場合だけでなく、それに係る医学研究目的でのヒト胚作成には規制を加えず、その使用にも制限を設けていません。これは、ヒト胚保護という原則からは外れているということになります。もし、前者、すなわち生殖補助医療目的での胚の作成が自由でなければならない以上、後者、すなわちそのための研究目的での胚の作成もそうでなければならないと考えたとすれば、生殖医療規制の問題とヒト胚保護の問題との混同があるということにもなります。  さらに、そもそもこの両者法的規制根拠とすること自体にも大きな問題があります。  人工授精等生殖補助医療に関して、何らの法的規制も現在日本では行われておりません。この状態クローン等産生だけを処罰しようとするならば、それに他の生殖補助技術には存在しない固有の反社会性利益侵害があるということでなければならないと思います。そういたしますと、それはクローン小委員会生命倫理委員会考え方にほかならないということになります。  他方、クローン等産生だけでなく、それ以外のすべての不当と思われる生殖医療補助技術を処罰すべきだとするのならば、さらに議論を続けなければならないと思います。それは先の話で、今はまだ、まずクローン等だけを規制しようとするのなら、さきに述べましたとおり、クローン個体産生等に固有のやはり不当性ということを明らかにしなければならないというぐあいに思います。  また、ヒト胚は人の生命萌芽であるからそれを乱用してはならないという理由でそのような行為を法的に規制、処罰することにも、現在の我が国法律状態では妥当性を欠くように思われます。  御存じのように、我が国では母体保護法指定医による妊娠中期までの中絶は事実上自由です。もちろん法的には、多くの人工妊娠中絶母体保護法の要件を満たしていない違法な行為だとも言えましょう。しかし、幼い胎児生命侵害されている状態が国によって放置され、あるいは甘受されているということには変わりはありません。そのような状態をそのままにしておいて、胎児と言えるまでにも育っていないヒト胚侵害生命侵害として新たに処罰することは、到底フェアなこととは言えないように思われます。そうかといって、母体保護法を厳格に執行して、違法と思われる人工妊娠中絶をすべて刑法上の業務上堕胎として処罰すべきだとすることは、到底できないことだろうと思います。  ヒト胚を恣意的に操作する、それを毀損するなどの乱用を法的に禁止すべきだとしたなら、それは、当該具体的な人の生命侵害がそこにあることだけが理由ではなく、それがおよそ人間生命尊厳に対する不当な態度であるということしかあり得ないと思われます。そして、それが本当に法による対応が必要な犯罪なのかということについては、さらに議論が続けられなければならないと思います。  以上で、私の話を終わりにしたいと思います。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)
  4. 古賀一成

    古賀委員長 ありがとうございました。  次に、西川参考人にお願いいたします。
  5. 西川伸一

    西川参考人 京都大学西川です。  レジュメクローン法についてというのをお渡ししていると思いますけれども、これに基づいてお話ししたいと思います。  それで、まず全般的な問題ですが、私は科学者立場を主に強く押し出した視点でちょっと述べてみたいと思います。  例えば遺伝子組み換え技術のように、今まで技術そのもの人類の健康や安全に脅威を及ぼすと考えられていた問題があって、こういうものは当然規制の対象となって論議されてきたわけです。ところが、今回のクローン法の問題を考えてみますと、例えば人類全体に対する安全性懸念ではなくて、医学生物学の成果、あるいはその活動そのものがこれまでの社会規範といったものに脅威となるという可能性について、しかも、科学者社会懸念を共有したという部分特徴があるのではないかと思っています。  もともと生物学研究というものは、私から見ても生命操作と切り離すことができないという特徴を持っています。ですから、今回の法案の最も重要な点というのは、特に科学者側から考えて、それぞれの活動社会開示する仕組みをつくるという、その一点にあるのではないかと思っています。  まず、このクローン法案がどのようにして考えられてきたか。日本だけではなくていろいろな国で考えられてきたわけですけれども、その歴史的な問題について若干述べたいと思います。  クローン法に至る最も大きな契機になったのは、ロスリン研究所のウィルムットさんがクローン羊が可能であるということをネーチャー報告した時点です。しかも、大事なポイントは、この報告があった同じ号のネーチャーで、専門家がこの技術社会に対する問題点に対して指摘をし、しかも懸念を共有しているということなんですね。ですから、たまたまパブリケーションされたものに対してアーギュメントがされたんじゃなくて、科学者がまずそのインパクトについて認識して、それを社会に提示したという一つの例ではないかと思っています。  今後も、新しい技術がどんどんと生命科学から生まれてくると思いますけれども、私、不遜と言われても、この問題を最初に議論するのは、当然その専門家と言われている人間ではないかと思います。ですから、こういうことが予想される社会においては、自分自身活動社会に対するインパクトについて自発的に開示するということが、その専門家あるいは研究者に対して一番重要な倫理規範として提示されるものだろうと思います。  それで、今回のクローン法日本クローン法について考えますと、確かに、ヒト胚の扱いについて法的な取り組み各国で異なっておったという問題で、さまざまな違いが出たために、日本イギリスあるいはドイツという形で一見取り組みが異なるように思われますが、体細胞クローンという問題がこれまで私たちが文化として持ってきた社会規範に対して脅威になるという点に関しては、各国とも脅威として懸念を共有するところになっているわけです。  一応クローンの歴史的な問題はこれで終わりまして、次に、では生殖医療全体を包括的に扱った方がいいのかどうか。特にこれは民主党案で強調されている点だと思います。  残念ながら我が国には、イギリスのHEF一九九〇年アクトと言われているような基礎となる法案はありません。これが現在の議論における不幸の始まりであることは言うまでもないと思います。しかし、今回、先ほど私が述べましたように、一つ社会規範に対する脅威として受けとれる範囲を明確にするという目的をこのクローン法案に付与するとすると、例えば現在行われている生殖医療を包括するような内容をつけ加えることが本当に可能かどうかというのは、私自身は、かなり疑問ではないか。特に、一万例も体外受精が現在も行われているということを考えると、難しいような気がします。  振り返ってみますと、イギリスの一九九〇年アクトというものを持たない私たち一つの反省は、なぜかといいますと、まず試験管ベビーが可能になったときに、医者を含む専門家がこれに関する問題を提起しなかったことはもう明らかであります。さらに、社会そのもの専門家に対して不信を持ったまま、しかしこれが医療として行われたために、プライバシーの壁に阻まれて、専門家に対してなかなかプロセス開示を要求できなかったという点も、不幸な歴史だというふうに考えて、痛烈に反省すべきであろうと思っています。  しかし、今回のクローン法に伴う指針策定のときに、幸いにも、私自身が見た限りでは、このヒト胚を用いる研究についての情報開示のワンステップというモデルはでき上がると思います。もちろん、これがすべてを包括するものではありませんので、生殖治療あるいはさまざまな可能性についてこれからも考えていく、さらに必要とあれば法案にしていくというプロセスが次に必要だろうとは思いますが、今回、先ほど述べたような目的クローン法案のために、包括的にすべてをこの中に押し込むことによって、例えば、今生殖医療で一番問題になっているような借り腹の問題とか、そういう重要な問題の議論が難しくなっていくというふうに考えます。実際にどのぐらい進んでいるのかわかりませんが、厚生省で審議が進んでいるという部分もあるのではないかと期待しております。  次に、これは政府案民主党案もなんですが、これは個人的な意見とお聞きいただきたいと思いますが、ヒト胚についての倫理的な配慮あるいは基本理念が可能かという問題について、若干お話ししたいと思います。  ほとんどの国の報告及び今回のクローン法ヒト胚保護法に関して言いますと、ヒトの胚は生命萌芽であるという認識をコンセンサスとして決めております。しかし今、私自身は、これ自身は問題があるのではないか、こう決めつける根拠を私たちは持つのかということを問い返したい。  ヒトの胚は我々と同じ人格を持った存在であるという意見と同時に、ただの細胞の塊であるという意見まで、幅広い意見存在する社会に私たちは住んでいるのであるということを考えるべきではないかと思います。したがって、実際には基本理念を明確にできない。コンセンサスがないところで、しかしそれでも民主主義を守るかどうかという問題が、多分今後問われていくのではないかというふうに思います。  次に、では禁止指針の問題ということで、時間がないので四番を飛ばしまして、五番の「母体への移植について指針規制分」について、若干意見を述べたいと思います。  私自身にとっても、このクローン問題というのは、科学が自発的に開示する仕組み、それからそれのきっかけとして、社会規範への脅威という範囲を明確に規定することが多分一番重要ではないかと思っているのですが、ではどうしてすべて禁止しないのかという問題が出てくると思います。  しかし、これに関しては、例えばイギリスの最近のドナルドソン・レポートでありましたようなセラピューティッククローニング、すなわち医療目的としたクローニングというものが、ひょっとしたら将来可能になる。技術的には可能ですけれども、重要な方法として、あるいは生殖医療一つの方向として取り入れられる、社会が認める可能性があるかもしれない。  そういう意味で、この新しい可能性については専門家が今後も提起していく必要があるという意味で、範囲を規定するという部分において今回どこかに線を引けたということでは、それを象徴的に示す意味で、禁止指針規制区分が見えるということが重要ではないかと思っています。  それで、ちょっとこれはレジュメにも書いていませんが、先ほどちらっと思いついて、極端な例として考えますと、例えば日本の民族が、環境ホルモンや何らかで男性が完全に不妊になってしまったというような状況で、文化的にそれを処理しようとすると、それはコスモポリタンになっていけばいいわけです。しかし、それを例えば民族的、遺伝的に処理しようとすると、違う方策を考えるということすらあると思いますから、今、何となく自分自身の気持ちや自分自身のクライテリアに合わないからといって、規範の線をあいまいにするということは、かなり問題があるのではないかというふうに思います。  最後に、許可制と届け出制の問題について、少なくとも私個人という科学者はどう考えるかという問題についてお話ししたいと思います。  これは、レジュメの一番最初に「どちらをとるかは思想の問題」と書いてしまいましたが、基本的に、この問題が云々される一番大きなベースに医者あるいは研究者に対する不信というものがあることは、私も理解しております。  実際に、私から考えますと、届け出制というものは、みずからの活動を見せるための能動的な開示仕組み意味します。一方、許可制というものは、あくまでも受け身の仕組みなわけです。多様な価値が共存しますポストモダン社会では、しかもその中で民主主義を守っていくためには、それぞれの集団がほかのグループの懸念に耳を傾けて、みずからの活動をどのように開示するかということでしか、多分、民主主義は守れないのではないかと私自身個人的には思っています。  ですから、確かにこれまで医者、学者あるいは会社といったものが、自発的に情報公開を行わない、あるいは閉ざされたものであるということが社会に考えられておって、事実そうであったことも認めざるを得ません。しかし、この状況からスタートしてしまう、すなわち信用できないというスタートラインからすると、結局は許可制しかないと思います。それでは専門家自身がみずからを開示していくという仕組みはつくれない。ずっと許可制のイタチごっこを繰り返すように私自身は思います。  ですから、科学者自身が変わるという意味で、この届け出制と許可制というものは、一見同じように見えても、将来の日本科学の情報公開という問題にとって極めて重要な試金石になるのではないかと思っておりまして、あらゆる点で、許可制ではなくて届け出制を私自身は主張していきたいと思っています。  以上です。どうもありがとうございました。(拍手)
  6. 古賀一成

    古賀委員長 ありがとうございました。  次に、最相参考人にお願いいたします。
  7. 最相葉月

    ○最相参考人 クローン羊ドリーの誕生から約三年が過ぎまして、ようやくここに一つの結論と言えるべきものが示されたと思います。この間、クローン技術、その周辺技術の取材をさせていただきまして、法案作成の過程を傍聴させていただきました一取材者として、発言させていただきたいと思います。  生命倫理委員会は、一言で言いますと、消化不良のまま、後味悪く終了したという印象であったと思います。クローン小委員会ヒト胚研究小委員会の二つの委員会報告書で重要なことは、これだけのことが決定されたということではなくて、むしろ、こんなにたくさんのことが棚上げされてしまったということではないでしょうか。  それは、受精卵とは何か、命の始まりとは何かといった根本問題と、受精卵を用いた研究が既に行われている生殖医療について、生命倫理委員会は踏み込んで議論できなかったということです。今そのことを話し合っておかねばならないとする意見はありましたが、そんなことを議論していては時間がかかり過ぎるという意見に押し切られた形になりました。今回の法案に最終的に賛成された委員の中にも、時間切れでクローン人間禁止の単独法案をつくらざるを得ないが、生殖医療に関する包括的な法整備は緊急に必要だという意見をお持ちの方はおられたと思います。  報告書の中で注目すべき部分は、ヒト胚研究小委員会報告書の最後のページ、参考資料として配られたこの分厚い報告書の百九十四ページに示された「おわりに」、このページだと思います。さまざまな意見がありましたが、結局、ヒト胚全体の議論はなされなかったこと、しかし、百九十四ページの最終行にありますように、「ヒト胚研究全般について、生命倫理委員会において幅広い観点からの議論を早急に開始するべきである。」と述べられています。三月に行われた委員会の最終日でも、ヒト胚の包括的な議論を行う委員会を早々につくるという約束がなされました。  しかし、まだその委員会は行われておりません。もし、ヒト胚について審議が今少しでも進んでいたならば、政府案への信頼は、前国会の時点とは多少異なるものであったのではないかと思います。  先日、大島長官が、欧米と日本では文化的、宗教的背景が違うから規制の仕方が違うといった趣旨の発言がありましたが、文化的、宗教的背景というのであれば、日本のそれがどうであったかを考えてみなくてはいけないと思います。審議会では全く議論されませんでしたが、この政府案日本の文化的、宗教的背景からでき上がったものだとするのは当たらないのではないかと思います。  日本に受精卵について考える文化的、宗教的背景がなかったというわけではなく、欧米のように口に出して大声で議論をしてこなかっただけであって、そこに何の価値観を持たなかったわけではないと思います。  不妊治療についても、非配偶者間体外受精を行ったクリニックの問題が明るみに出るまでは、実態は判然としませんでした。もう約半世紀にわたって行われている非配偶者間人工授精さえ知らない人も多かったのです。代理母によって生まれた子供が百人を超えるというのも、九八年の新聞記事で明らかになりました。  お配りした最相資料のグラフをごらんください。この十年間の生殖医療に関する報道の件数の推移です。九七年に急上昇しているのはドリーの誕生、九八年には根津クリニックの一件がありました。最初はクローン技術の報道の方が多いのですが、途中から不妊治療の方がふえています。つまり、ドリーをきっかけに、クローン技術と不妊治療が相互関連し合いながら報道されてきたわけです。もう家庭の中で解決できるものではなくなってきた。言葉にしないではいられなくなってきた。今ようやく日本でも、受精卵について公的な場で議論するための材料が手元にそろったのだと思います。生殖医療を法規制することについて、国民的コンセンサスがないのではなく、コンセンサスを得られるかどうかを知るための材料が今ようやく出そろったのだと思います。  ことし三月、科学技術会議が行ったアンケート調査がありましたが、受精卵を人として絶対侵してはならないという三割の回答よりも、わからないと答えた二九・四%の方が注目に値する数字だと思います。わからないのが当然です。そんなことこれまで口に出して話し合ったことなどなかったのです。でも、だからといって、ないがしろにしていたわけではありません。子供を養育する年代に比べて、十代や七十歳以上のように子供と多少距離のある年代が低いのは当然だと思いますが、二、三十代でわからないと答えた人も、もし自分が妊娠や出産に向き合えば考え方が変わるのではないでしょうか。臓器移植のときに言われたように、一人称で語られる受精卵と三人称で語られる受精卵では全く意識が異なるような気がします。  つまり、クローン人間は、私たちが命の始まりを考えるためのきっかけであり、切り口にすぎないということです。法案は、皮肉なことに、クローン人間だけではない、それ以外のことを浮き彫りにすることに貢献したと私は考えます。  デンバー・サミットの合意が繰り返されますが、日本は欧米諸国におくれて何年もかけて、クローン人間だけを禁止する法案しかつくれなかったことを重視すべきです。私は、この法案は非常に暫定的なものであって、決して世界に大手を振って発信できるようなすばらしい法案だとはとても思えません。むしろ、自嘲気味に、さまざまな議題を棚上げした過渡的な法案であると謙虚にならねばならないと思います。  そうした前提で、以下二点に絞り意見を述べたいと思います。  まず第一に、ヒト胚全体の保護必要性です。今回、政府案民主党案とも生殖医療技術を除外してしまったので、争点がわかりにくくなってしまったことが大変残念です。ただ、一人称の受精卵への想像力、つまり受精卵をヒトへとはぐくむ能力を持つ女性への配慮、許可制、審査委員制度、国会への報告義務、包括的な生殖医療規制への道筋を示しているという点で、民主党案の方がはるかに救われるものと思います。政府案は、言葉遣い一つとっても、ヒト胚や、特にその提供者と言えるカップルへの配慮が見られず、技術の細部に走り過ぎ、将来のヒト胚全体の規制への道筋もなく、全くの科学技術規制法案になってしまっています。  生殖医療との調整に時間を要することは認めます。ただ、現段階では少なくともES細胞は法の土台に上げるべきだと私は考えます。なぜ政府案ES細胞が含まれなかったのか、なぜ将来的に商業化が進む可能性のあるものに法ではなく行政指針を適当とするのか、その根拠は理解できません。同じ受精卵を用いるものなのに、クローンキメラハイブリッドは法で規制し、ES細胞は行政指針規制、また、そのほか生殖医療の現場で受精卵を用いる研究は、学会などの自主規制にゆだねています。同じ受精卵の規制のレベルがそれぞれ別個にあるという不可解な状態になっているのです。  しかも、生殖医療については、ここへ来て事態が急変しました。一昨日、十二日に厚生科学審議会の生殖医療に関する最終報告案が発表されましたが、これに関連して、この政府案との整合性について二点だけ申し上げます。  一点は、第三者が受精卵を提供することを認めた点です。つまり、同じ受精卵が一方で不妊のカップルに提供されて子供になり、一方では研究材料として破壊される。扱う省庁も違い、規制はばらばら。クリニックの現場で受精卵をとり合うような混乱が起こらないとも限りません。それでも、生殖医療との調整は要らないということでしょうか。このような状況は、研究にも支障を来し、結果的に国益を損ねることになりはしないでしょうか。  二点目は、受精卵の提供を受けられない不妊のカップルには、提供された卵子と精子を使って新たに受精卵をつくって提供することまで認めた点です。つまり、カップルではない男女の精子と卵子を体外受精させて受精卵をつくり、第三者に提供することまで認めたわけです。  ことし九月の新聞報道によりますと、ES細胞から卵子や精子のもとになる始原生殖細胞をつくることにマウスの実験で成功しています。ES細胞から卵子や精子をつくることも原理的には可能なわけで、採卵のつらい過程を経て提供された卵子を使用するよりは、ES細胞から卵子や精子をつくり、そこから受精卵をつくることの方が提供者の負担が多少は軽減されるという議論が、近い将来起きてもおかしくはありません。研究利用ならば、その方が可能性は高いのではないでしょうか。  ES細胞人間個体になる可能性はないから法規制しないという話でしたが、今や技術ES細胞から卵子や精子をつくり出せる直前まで行っており、ES細胞からつくった卵子や精子で胚をつくることも可能性としてはあるわけです。個体になるかどうかは別としても、ES細胞の扱いが法律ではなくてもいいと言える根拠は余り明確ではないように思います。  厚生省の報告案では、法規制を含めた規制は三年以内に整備せよとあります。今回の政府案が五年以内というのは、余りに状況に対して悠長過ぎます。こんなおかしなちぐはぐな状況は一刻も早く解消し、生殖医療全体の包括的な法規制を行うために、法案を、三年や五年と言わずもっと頻繁に、憲法に準ずる最重要法案であるという認識を持って見直していっていただきたいと思います。  以上、ヒト胚全体の保護についての意見を述べさせていただきました。  さて、第二点目は、生命倫理委員長の適格性です。研究の直接的な利害に関係する研究者倫理委員であった場合には、議論に参加するのはよしとしても、決議には参加しないことが公平を保つ条件ではないでしょうか。  受精卵を用いた研究目的一つは再生医療です。これは、日本では神戸市を中心とする関西圏で行われます。神戸市の医療産業都市構想は一九九八年に始まっていますが、その十月に、医療産業都市の中核として先端医療センターを設置するための神戸医療産業都市構想研究会が発足しています。研究会の会長は、科学技術会議生命倫理委員長の井村裕夫先生です。井村先生が病院長を務めておられる神戸市立中央市民病院は、その先端医療センターの重要な連携病院となっています。  また、本年二月十日には、先端医療センターと連携する理化学研究所の発生・分化・再生総合研究センターが神戸に建設されることが決定しました。この研究センターはミレニアムプロジェクトの一環ですが、センター長の人選には、井村先生も科学技術会議の議員として加わっておられます。  さらに、ヒト胚研究小委員会ES細胞研究報告書をまとめたのは三月七日ですが、三月十七日には、先端医療センターの施設運営を行うための神戸市の財団法人先端医療振興財団が発足し、井村先生はその財団の顧問にもなられました。  こうして羅列的にしゃべっても御理解いただくのは難しいかと思いますが、つまりは、これほど再生医療に密接な関係を持たれた力のある方が、同時に国の生命倫理委員長であって、果たして客観的で公平な判断ができるのだろうかと疑問を持つのです。委員会審議法案作成過程にこうした背景が影響を来したのではないか、パブリックコメントの期間が十分とれなかったのはこういう計画があったからではないかなどと思われてもやむを得ないと思います。これは、個人を批判するものではありませんが、そのような人事が何の疑問も持たれず通用してしまう現在の日本倫理委員会のシステムには問題があると思います。  イギリスでは、審議会をつくるときには、デクラレーションインタレストといって、委員になろうとする人物が財団理事などの利害関係を持っていれば、あらかじめそれを申告しなくてはならず、人事に影響します。また、アメリカでも、研究施設内の倫理委員会は、三分の一以上が専門外の委員でなければなりませんし、男女のバランスは当然です。また、自分の研究に利害関係のある委員は、議論には参加できますが、審査からは外れることになっています。  日本生命倫理委員長の適格性については、世界的に権威のあるイギリス科学ネーチャーネーチャー・メディスン三月第六号でも、科学技術会議生命倫理委員長井村裕夫氏のインディペンデンシーに疑問があると指摘されております。  つまり、クローン人間規制する法案をつくって国際協調を図るというのであれば、倫理委員会のシステムについても国際協調を図るべきではないでしょうか。委員会のシステムを整備し、公平で民主的な議論が構築されてこそ、日本立場を世界に発信し、諸外国と意見交換できるのだと思います。  以上、申し上げたいことは多々ありますが、短い時間ですので、そのうちの一部について意見を述べさせていただきました。  クローン人間を法規制するということは、現在の社会状況から見ればやむを得ません。しかし、早急に生殖医療を視野に入れたヒト胚全体の法規制を行うべく取り組んでいただくことをお願いしたいと思います。(拍手)
  8. 古賀一成

    古賀委員長 ありがとうございました。  次に、御輿参考人にお願いいたします。
  9. 御輿久美子

    御輿参考人 私は、ここ一、二年、関西の幾つかの大学での特別講義とか幾つかの公民館などでの市民学習の場で、クローン技術の問題について話す機会がありました。いずれの場合も、主催者側からクローンについて話をしてほしいという要請がありました。このクローンの問題について、国民の関心というのは結構高いのです。そして、その講義を通じて得た印象では、ほとんどの人がクローン個体産生は、体細胞クローンに限らず、どのようなクローンであれ個体産生には反対である。さらに、研究自体もやめてほしい、そういう声が非常に多くありました。  ですから、この政府のクローン法案は、国民の意見を反映していないということをまず申し上げたいと思います。ぜひ公聴会等を開いて、国民の意見を広く収集して法案に反映していただきたい、そのように思います。  次に、政府法案問題点を具体的に指摘したいと思います。  本日お手元にお配りした資料に、大まかに五つ問題点を箇条書きにしてございます。その資料に沿って若干の説明を加えさせていただきます。  なお、民主党の法案は、政府法案の対案として出されたものと思われますので、問題点の説明の後に検討を加えたいと思います。  まず、お手元の資料を見ていただきたいと思います。  まず、問題点の第一、クローンの定義及びクローン技術の定義に関してですけれども、この科学技術庁から出された法案の定義は非常に奇妙です。科学的に、普通、クローンを定義しますと、そこに私の資料にありますように、クローンとは、遺伝的に同一のもの、同一の個体とか細胞の集合を指します。ですから、クローン技術というのは、人為的に、遺伝的に同一のものを多数つくる、そういう手法ということが言えると思います。  そして、哺乳類、特に家畜とかにおいては、遺伝的に同じものを多数つくる方法として、受精卵を二つとか四つに分割する胚の分割及び核の除核卵への移植。これには、受精卵の卵割の進んだ胚から核をとってくるいわゆる受精卵クローン、それとドリーに象徴される体細胞クローンの二種類がありますが、そういう方法によってクローン個体がつくられております。  胚の分割では最高四つぐらいまでしか得られませんので、多数を得る方法としては、核移植、受精卵クローンという方法がとられてきております。ですから、現在では、畜産とか哺乳類の動物実験においてクローン技術といえば、核移植技術を指すということになっています。  資料の二ページ目に、農林水産省のホームページでのクローンの説明と、それから科学技術庁のホームページで「クローンって何?」というのがあるんですけれども、それの説明です。そこでも、クローンとは、遺伝的に同一である個体細胞の集まり、そしてクローン技術というのは、受精卵クローン体細胞クローンとある、そのようになっております。それから、文部省の用語の説明でも、クローンとは、核が同一のものである、そしてクローン技術とは、そういうものをつくる核移植の技術であるというふうに説明されております。  この政府法案の、クローンとは体細胞の核を移植したものであるという定義というのは、ですから非常に奇妙です。そのような定義というのは、多分科学的には受け入れられないというか、意図的にほかのものを外しているというふうにしかとられません。ですから、これは定義からしてもう一度検討し直す必要があると思います。  それからもう一つ体細胞クローン個体は無性生殖であるからいけない、受精卵の核移植による受精卵クローンの場合には有性生殖であるからいいというようなニュアンスの説明がありますけれども、これにも若干無理があります。  受精卵、受精胚でも、ある程度卵割が進んでそれぞれの器官になる分化の方向づけが決まったそういう細胞は、体細胞とほとんど同じ。ですから、受精卵からとったから、だから有性生殖の核で、本質的に体細胞と違うんだとは言えないんです。それから、もう一度それを核移植する、二回核移植をする。そうしますと、その二回目のは完全に無性生殖です。そういうふうに考えますと、有性生殖、無性生殖という分け方自体、無理があるというふうに思われます。  ですから、この法案の第二条の定義、ここはかなり大幅な修正が必要と思われます。  次に、問題点の第二ですけれども、クローン胚をつくるには未受精卵が必要なんです。受精卵でやった場合、ネズミでも成功しておりません。  ここで、卵子、未受精卵についてちょっと説明をしたいと思うんです。お手元にあるヒトに関するクローン技術等規制に関する法律案参考資料、十三ページから図示が始まっているんですけれども、十四ページのところに、右側に生殖細胞の説明があります。  右側、卵細胞なんですけれども、普通、女性の卵巣から排卵された卵子というのは、この一番最後ではなくて最後から二つ目、第二卵母細胞というこの状態なんです。この第二卵母細胞が、要するに排出された卵子。これが一番左下にある精子と受精して、受精することによって、その後の第二分裂が進行して卵細胞になるのです。ですから、ここで一番下のところで、卵細胞、未受精卵と書いてありますが、これは、この段階ではもはや受精卵です。ですから、この図も、国民が見ると混乱を起こすという図です。  この一番最後の受精卵、この受精卵の核を抜いて他の核を移植してもうまくいきません。牛やマウスで行われているのは、その前の段階、第二卵母細胞、あるいはその前の段階、未成熟卵細胞と言いますけれども、そのもう少し前の段階の未受精卵を使って行われております。  ですから、ヒトクローン胚をつくろうとするならば、未受精卵の使用。それは、体外受精に使うとするならば、採卵のときに二割程度、体外受精に使えない未成熟卵がとられると言っています。その未成熟卵を使って実験が行われると思います。  そうなりますと、卵の採取のときに、本来とらないような未成熟なものまでとられる。ですから、卵子の過剰採取といいますか、それが起こります。それから、この未受精卵というのは、生殖能力があるのが二十四時間なんです。ですから、実験をやろうと思うときには、常に新鮮な未受精卵が必要になります。というと、卵子の提供、実験への提供ということが行われるようになります。それに対する歯どめというのは全く考えられておりません。  ですから、この点は、現在、卵の採取がどうなっているのか、そして未受精卵として捨てられているような卵子がどのくらいあって、それがどのように使われているのか、あるいは廃棄されているのか、そういう実態の把握。それから、卵を採取される女性の体の保護、それについての検討がまず必要です。女性がそういうふうな実験目的での卵子の採取、使用等についてどう考えているのか、女性の意見をぜひ聞くべきだと思います。  次に、問題点の三番目です。  この政府法案の、九種類ほどの非常にいろいろな種類の胚を並べてあるのですけれども、ヒト胚というときには、個人はAさん、Bさんまぜてあってもヒト胚ヒト成分一〇〇%ならヒト胚。そして、動物の除核卵にヒトの核を入れた場合は、これはヒト性胚というふうに分類し、動物の核をヒトの卵子の除核卵に入れた場合を動物性胚というふうにしております。核がヒト由来であればヒト性、核が動物由来であれば動物性というふうな分け方をしております。  ところが、卵細胞自体細胞自体というのは、そうしたら全くヒトの要素なりがないかというと、そうではなくて、人間の女性の除核卵に動物の核を入れても、これは動物の方の、その核の方の動物の子宮に戻しても着床する可能性はないですけれども、人間の方の子宮に入れれば着床の可能性があります。  このように、細胞質、それから細胞質にあるミトコンドリアのDNA、そういうことに関しては、何もわかっておりません。何もわからないのに、核にだけ人間の遺伝的特性を与えている、そしてそういう分け方をしている。これはかなりの無理があると思います。  特に、まだわかっていないから、そうしたら細胞質にどれだけ人間の要素があるのかということは言えませんけれども、女性としては、そのような、女性の卵子に動物の核を入れる、それが動物性胚と言われるということに関しては、非常に心理的抵抗があると思います。これは、国民感情、女性の感情では絶対に受け入れられない定義だと思われます。  そして、法案にありますけれども、動物性の融合胚。動物性の融合胚は、ヒトの女性の除核卵子に動物の核を入れたもの。これに関しては、子宮へ戻すことが禁止対象になっておりません。ですから、法案の第二条の定義と第三条の禁止行為、これを修正する必要があると思われます。  それから第四点、ヒトヒトとの集合胚、これを子宮に戻すこと。ヒトヒトとの集合胚というのは、あるカップルの胚、受精卵と別のカップルの受精卵、これをまぜるというか、集合技術によって、いわゆるキメラ胚ですけれども、つくることができます。そのキメラ個体産生禁止項目に入っておりません。  動物と人はだめだ、それは当たり前です。でも、人と人、人というのは、個性のない一つヒト属という動物種ではなくて、それぞれが個性を持つ個人なんです。ですから、個人個人になり得るその二つをまぜて、そしてそれを子宮に戻して個体を発生させることを禁止しないというのは、これはおかしいと思います。  そういうことをまさかやらないだろうと思われるかもわかりませんけれども、例えば、代謝性の疾患とか遺伝子疾患の場合、正常な胚とキメラをつくれば、それで一応治療効果を上げることができるというような、そういう遺伝治療の一つとしてこれは十分に考えられることで、もしも治療目的キメラ個体をつくることをガイドラインで認めたとしたら、そういうキメラ個体が誕生する。これは、ヒトクローンよりはむしろ非常に可能性として高い。ですから、これこそ早急に禁止しなければいけないものなのに、そういうものは禁止項目に入っておりません。ですから、法案の第三条禁止行為、これにも修正が必要です。  それから、他人の卵子、受精卵になる前ですね、卵子の核を抜きまして、例えばその方が高齢であったとしたら、核を抜きまして若い人の卵子、核を抜いた卵子にその高齢の女性のを入れる。これは、要するに卵子の若返り法。これはもうアメリカなどでは実験されております。そうした卵子の核移植をして、その後精子を受精させる、これに関しては何の検討も加えられておりません。これは実際に生殖補助医療の一環として、アメリカで日本人の研究者の手によってやられておりますから、早急に検討するべき問題です。これはこの法案では全く入っていないので、何も規制の対象にすらならないということだと思います。  それから、ミトコンドリア異常症というのがありまして、科学技術庁は、ミトコンドリア異常症では、核を入れかえることによって、異常なミトコンドリアを受け付けない子供をつくることができると。ミトコンドリア異常症の次の世代への伝播防止、だから次世代に対する治療であるというようなことで図示されて、しかももう効果があるような説明がインターネットのホームページに載っております。  ところが、これは、そのように考えられるというまだ空想の世界でして、動物でも全く何の実験もやられていない。しかも、ミトコンドリアDNAというもの自体よくわかっていないのです。  ミトコンドリアDNAは卵の細胞質にありまして、もしも精子の方のミトコンドリアが入ったとしても、それは排出されていきます。そして、ずっと母親由来のミトコンドリアDNAが受け継がれていくことになっています。遺伝子の種類としては多くないですけれども、ミトコンドリアというのは細胞の発電所と言われ、エネルギーをつくるところで、エネルギー生産の必要な細胞では非常にたくさんあって、その数と配置というのは物の見事に合目的的になされています。ですから、核とミトコンドリアの間に何らかの密接な連関がない限り、そのような細胞の働きというのはあり得ません。  このミトコンドリアDNAに関しては、何にもわかっていないと言っていいと思います。何もわかっていないのに、それを全く遺伝的には、遺伝的特徴として重視しない。そして今度は、治療効果があるということで、ミトコンドリアDNA治療のためにはクローン人間はいいと思えかねない、そのような説明をホームページで科学技術庁がやっている。これは行き過ぎであると思います。  それから五番目。個体産生を防止する手段として、子宮に戻すことの禁止だけでは不十分。  これは本当に禁止しようと思ったら、研究自体禁止しないことには、意図的、非意図的に子宮に戻してしまう、間違って戻してしまう。卵にそれぞれ特徴があって、名前が書いてあるわけではないので、間違えて戻すということもあります。どこで実験をするのか。ヒトの卵細胞ですから、生殖医療の現場で採卵したのを、隣の部屋で同じ顕微授精でやる。同じマニピュレーターでひょっとしてそういう操作をしたら、これは完全に間違えます。そういう間違いもあります。ですから、本当に個体産生を防止しようと思えば、研究自体も防止するということを考えなければ、早晩そういうことが起こると思います。  次に、民主党の法案ですけれども、この問題点から考えますと、民主党の法案は、ヒト胚に関して、これは全体の生殖医療の流れの中で考えようということで、ヒト胚保護ということを考えられていると思うのです。そして、クローン胚に関しては、人の属性を有する胚ということで、その個体産生禁止するということです。体細胞クローンだけではなくて全部のクローン個体産生防止ということで、それは評価できると思うのです。  ただ、どうしてクローン胚をつくることを禁止しないのだろうか。外国、欧米でも、日本の文部省でもクローン胚の作成自体を、これはガイドラインですけれども、禁止しております。その辺で、法律をつくられたところに流れる基本的な理念が、何か混乱しているようなというか、見た者に混乱を起こさせるところがありますので、そのあたりはもう少し検討していただけたらと思います。  長くなりました。どうも失礼いたしました。(拍手)
  10. 古賀一成

    古賀委員長 御輿参考人意見陳述をいただきました。  以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。     —————————————
  11. 古賀一成

    古賀委員長 これより参考人に対する質疑を行います。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。河野太郎君。
  12. 河野太郎

    河野(太)委員 自由民主党の河野太郎でございます。  政府から提案されましたこの法律案には、幾つ問題点があるのだろうというふうに私は思っております。そのうちの一つが、人または動物の胎内への移植を禁止した第三条で禁止されている部分と、そうではない、指針禁止をするのだ、そういう区別がなされている点にあるのだろうというふうに思います。  クローン技術利用して有用な実験ができるということもまた事実であろうと思いますし、胎内へ戻す前段階でそうした実験をやるというのは、非常に有効なことなのだろうと思います。しかし、いずれにしろ、ここで特定胚として名前が挙げられている各種類の胚から新たな生命が誕生するということは、倫理上含め、いろいろな問題点が起こってくるのであろうと思います。  いずれにしても、胚の研究特定胚をベースにした研究は、有用なものであって反社会的でなければそれは認める。しかし、そうでなくて、それをベースに生命が誕生するところというのは、まず一度法律できちっと縛っておいて、本当にこれは胚の実験がうまくいって、なおかつ有用性があることが確認された上で、必要ならば法改正をして胎内への移植を認めるというのが筋であろうと思いますが、そうなっておりません。私は、ここに非常に疑問を感じる次第でございます。  町野参考人西川参考人に、この点についてのお考えをお伺いしたいと思います。
  13. 古賀一成

    古賀委員長 それでは町野参考人西川参考人にお答えいただきますが、今後の質疑で、質問されるときに、できればあらかじめどなたの先生というように御指摘いただいた方が、参考人の皆さん方にとっては都合がいいかと思いますので、よろしくお願いします。  今の質問に対しまして、町野参考人西川参考人の順番でよろしくお願いします。
  14. 町野朔

    町野参考人 御質問、どうもありがとうございます。  御質問の趣旨をよく理解できたかどうかわかりませんけれども、基本的な考え方は、私が理解しているところでは、クローンキメラハイブリッド産生は、絶対にこれは禁止されるべきである、これを許容する事態ということは絶対考えられない。したがいまして、これを着床させて出生に至らせるような行為というのは、これを禁止する。  それ以外のものについては、かつては恐らくこれも科学技術的に余り意味がないと考えられた時期もありますけれども、現在、かなり事態が変動してきておりまして、それを完全に禁止するということは恐らくできないだろう。そして、許可制にするということまでも恐らくできないだろう。そのために、ある範囲特定胚という名前をつけて、行政的な監視のもとに置くということにして、徐々にその成果等を見ていくということで、その範囲では、これはいわば科学技術者集団の自主規制及び倫理的な規制ということにゆだねたものだというぐあいに私は理解しております。
  15. 西川伸一

    西川参考人 質問の問題なんですが、先ほど私の意見陳述でも述べましたように、これ自身は、科学的というか技術的な可能性と、それからそれが社会に触れたところでどこで線引き、例えば、もうこれは明らかにこの可能性自身、成功すること自体に問題があるかどうかの線引きをする作業だと思うんですね。  ですから、明らかな線引き作業が、例えば私たち一つ一ついろいろな可能性を考えてリストアップした問題に関して、やはりここにしかないと。例えば、今おっしゃるように、すべてのもっとずっと下のところにしか線引きがないということを明確に社会側の規範として述べられるのであれば、それは仕方がないことだというふうに思っています。  ただ、先ほどから申し上げていますように、私たち幾つかのクライテリア、すなわち、今の社会でこういうことが必要とされるかどうか。それから、クローンがなぜいけないか。一回性の問題であるとか、そういうものもすべて勘案したときに、多分クリアに線が引けるのは、ここではないか。将来、実際に、先ほどの問題のミトコンドリア症の治療であったり、それからヒト集合胚ですら生殖医療の中に入ってくる可能性はあるし、そこで禁止するかどうかはもちろんここで判断される問題ですけれども、そういう問題として一応残したというのが、リストアップする、ここで線を引いた最大の理由だと私は思っています。     〔委員長退席、平野委員長代理着席〕
  16. 河野太郎

    河野(太)委員 西川参考人に、もう少し明確にするためにもう一度お尋ねをしたいと思うんですが、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚並びにヒト性集合胚、この四つは法律で胎内に戻すことを明確に禁止するというのが政府案でございますが、それ以外の五つのものに対して、例えばヒト胚の分割胚であるとかヒトの集合胚、あるいは動物性融合胚、集合胚というものについては、戻すことは法律では禁止していない。  その禁止した四つと、禁止されなかった、指針でコントロールする五つの、その差というのは明確に何であるのか、もう一度お答えをいただきたいと思います。     〔平野委員長代理退席、委員長着席〕
  17. 西川伸一

    西川参考人 九番についてはちょっとおいておきまして、ヒト分割胚、それからヒト胚核移植胚、ヒト集合胚についてお話ししたいと思います。  ヒト分割胚、例えばたくさんの受精卵がとれない患者さんの場合、可能性として、生殖医療で子供を得る可能性をふやすために四分割するという操作が入ることはあり得ると思います。  それから、ヒト胚核移植胚に関しては、やはりミトコンドリアの発症予防、それからミトコンドリア病の根絶という問題に理論的にもつながるし、研究は進むと僕は思います。これも、実際に治療として子宮に戻される可能性を予想します。  それから、ヒト集合胚ですが、先ほどキメラであるというふうにおっしゃいましたが、例えば、血液の遺伝的な病気を持っていて、集合胚の段階で、もう既に分化した血液だけを入れて血液だけを治すという技術が想定されます。そういう場合に、前もって血液を入れておいた胎児を子宮に戻して、血液だけが置きかわった、しかしほかのところは一個の個体であるということが、理論的には可能です。実際にネズミでもそういう実験は行われていますから、そういうことが社会としてオーケーになった場合に、多分子宮に戻すという治療が行われるだろう。  そういうふうに社会的に可能性があるものを、私たち科学者の側から今の社会はこうだろうという形で線を引いていいのかどうかが問題になるということで、可能性がよりあって、ひょっとしたら受け入れられる可能性があるものという形で区別した。それより前のものに関しましては、少なくとも一回性の問題等々でかなり線が引けるのではないか。  最後に、九番の問題で、動物性融合胚というのは意味があるかどうか。これはもう明らかに、ほとんど意味がない。すなわち動物の核を人間の卵に植え込むということですから。ただ、そういうこと自身が今の社会としてほとんど考えられないぐらいばかげているという社会的な意味もここに入っていて、ですから、この線引きというのは、今の社会を私たちがどう考えるかというところが問題になったというふうに理解していただけませんでしょうか。
  18. 河野太郎

    河野(太)委員 ありがとうございます。  今の御意見のとおり、将来的な有用性可能性があるというのは私もよく理解するところでございますが、同様に、先ほど御輿参考人がおっしゃいましたように、それはあくまでも理論上想定されるものであって、まだ何も研究に着手されているものでもないというのも、相当程度あるわけでございます。  かつて、臓器移植が理論的には可能であるし、諸外国でも行われていた。しかし日本では、臓器移植法が成立するまで、そうした確立された技術社会的に受け入れられなかったということに照らし合わせてみましても、私は、この政府案には重大な問題がある。この第三条で禁止した四つの特定胚だけではなくて、残りの五つの特定胚の取り扱いについても、第三条と同様、とりあえず法律でしっかりと禁止をする。  将来的に、今の西川参考人のお話も将来的にというお話でございましたので、まだそこへ行き着くまでには相当程度時間はあるんだろうと思います。時間がたちまして、そうしたことが可能になり、しかも社会的にも、これはいいことであると。ミトコンドリア症の治療、あるいは不妊の治療、あるいは臓器移植のもとを提供する、臓器をつくる技術として、これは有効な技術一つであるということが認められて初めて、国民の声を代弁する国会で議論をして法改正をしてゴーサインを出すというのが、このクローン技術に関するあるべき姿であると思いますので、私は、きょう御出席科学技術委員会委員の皆様に、広くこの部分の修正をお願いする次第でございます。  さらに、最相参考人意見陳述の中に、メンバーの適格性について疑いがある、あるいは疑いがあると海外のメディアにも報道があったという御意見がございました。そこで、このメンバーであられました町野参考人並びに西川参考人に、そうした問題をあらかじめ認識されていたのか、あるいはそういう問題があるよということがどこかでおわかりになったのか。あるいは、先ほどの最相参考人の御意見についてどう思われるかということを、お二人にそれぞれお伺いをしたいと思います。
  19. 町野朔

    町野参考人 先ほどの最相参考人による御指摘は、きょう初めて知ったというのが事実でございます。しかし、私自身は、それは問題とは思っておりません。なぜかといいますと、倫理委員会等のそういう審議会というのは、すべての利害関係を離れた完全に自由な人間というのは、私はあり得ないことだろうというぐあいに思います。そういうところにコミットしている人間が、公正な立場で発言し、それから審議をするということを十分期待してのものだというぐあいに私は理解しております。
  20. 西川伸一

    西川参考人 私自身も、先ほどお話に出た神戸市の先端医療センター、それから理化学研究所の発生・再生科学総合センターにかかわっておりますから、このいきさつに関してはよく存じています。井村先生がなぜ倫理委員会委員長になられたかというところに関してはもちろんわかりませんが、このいきさつから考えましても、先ほどから私が言いますように、両方のプロセスが明らかにリンクしていることは事実です。それは多分、認めた方がいいのではないかと思います。  それが、先ほど私たちが言います、当事者からどういう形で開示をしていくかという問題の一番重要な部分ではないかと思っていまして、もし開示が足りないということであれば、率先して開示していくという形でやっていくというふうに私自身は思っていますし、その意味でも、両方が並行して行われるということに関しては、私自身は、何ら不思議はないというふうに思っています。
  21. 河野太郎

    河野(太)委員 きょうは、政府の方から政務次官も、委員会に御出席でございます。委員の一人として御出席でございます。政務次官を通じて申し上げたいことは、何度か科学技術庁からこの件について御説明をいただきましたが、この問題については全く触れられておりませんでした。私も、先ほど最相参考人の述べられた意見で初めて知った次第でございます。  実は、私、遺伝子組み換え食品の問題を何年かやっておりましたけれども、そのときに、役所側が都合の悪いことは全部隠して、都合のいいことだけを出してくるという経験をいたしました。そういうことをやると、結局その役所の説明全体が、ちょっとおかしいんじゃないかと疑いの念を持たれ、最終的には、食べ物そのものに何か隠されているんではないか、そういうことがあると思います。薬害エイズの問題では、そうしたことが引き金になって、いまだにいろいろな禍根を残しているわけでございますし、現実に亡くなられた方も出ているわけでございます。  ぜひ、そうした問題がある、あるいは問題があるよという意見があるならば、速やかにそれを開示して、本当に問題があるのかどうかきっちりと議論をする姿勢を、やはりこういう新しい技術に関しては、とっていくことが一番必要なことだろうと思います。  時間がなくなりそうでございますので、駆け足で参ります。  これは西川参考人にお伺いをしたいと思いますが、先ほど御輿参考人の方から、胎内へ戻すことだけを禁止するのは不十分である、こっちで研究をやっていて、隣で胎内に戻す生殖治療をやっているんだったら、それこそ、卵に名前が書いていないんだから、何かの手違いで戻ってしまうのではないか。特に最近は、医療の現場での手違いということが頻発しているような報道もあるわけでございます。  先ほど御輿さんがおっしゃったように、こうした特定胚研究をやるところは、生殖医療をやっている部門、要するに胎内に戻すという活動をやっている部分と物理的に遠く離れたところでやる、そういう規制が必要なのではないかと思いますが、いかがお考えでございましょうか。
  22. 西川伸一

    西川参考人 ヒト胚委員会では、かなりその部分に関しての議論がありました。もう一つ、卵から個人情報を切り離すという問題も含めて、隣で授精をしている現場で卵をいただいてきて、それを、現在ここで禁止をしようとしておったり、それから先ほど問題になったES細胞を樹立するというようなプロセスに使うという形が起こらないようにということで、ディスカッションをヒト胚委員会で延々とやっています。  ですから、今おっしゃったように、全然違った場所で管理される卵が、しかもフレッシュじゃないとだめとおっしゃいましたが、実際にはフレッシュな卵でやるということはないと思います。すなわち、一定の開示期間といいますか、調査期間を置いた後、凍結卵についてのみそれを認めるという形で、しかも個人情報を切り離して行うということに、議論はそこで煮詰まっておりましたから、多分、インフォームド・コンセントの方も含めて、おっしゃるような趣旨での仕組みができるというふうに私自身は思っています。
  23. 河野太郎

    河野(太)委員 そうしますと、特定胚の実験をする場所と生殖医療で胚を胎内に戻すという場所は、指針においても切り離される、そういうものができるというふうに解釈をさせていただきたいと思います。  先ほど、届け出か許可かというお話が西川参考人からございました。臓器移植法案のときも、厚生省が省令で脳死の基準を決めるのはおかしいのではないか、本来ならば死を決めるのは医者であるわけですから、医者が医者の組織の中で死の定義というのを決めて、それに基づいた医療行為を行っていけばそれでいいのではないかという議論がございましたが、残念ながら、今の日本に医師全体の組織というのがございません。医師会というようなものもございますけれども、全部を網羅しているわけでもありませんし、医師の資格まで踏み込んで倫理その他を議論して、必要ならば最悪除名をして資格を失わせてしまうというような自律的な力を持った組織が、残念ながら医療の現場にはないのが現実でございます。  本当に届け出制でやるというのであれば、まず医師及び研究者が、そうした本当に強い、すべてのメンバーを網羅した自律的な組織をきちっとして、そこでルールを決める、それに基づいて届け出制で行政に届け出をするというのならば理解ができるわけでございますが、そうしたものがない現状で許可をとらないというのは、やや心配な点があるのではないかと思いますが、西川参考人、いかがでございましょうか。
  24. 西川伸一

    西川参考人 おっしゃるとおりだと思います。そういう仕組みをぜひつくりたいと思います。  私たちは、学界という中で、リライアブルナレッジといいますか、ピアレビューされた信用できる知識を醸成して、それを社会に提示するということだけやってきたわけです。しかし、その知識というものは、もう一度、今社会学の方でアイボリータワーからアゴラへと、ギリシャでいいます議論をする市場みたいなものですが、アゴラで、もう一度社会にそのナレッジをたたいてもらわないかぬということは、多分間違いないと思います。  ですから、今河野先生がおっしゃるような形での仕組み専門家側の発議でどうつくっていくかということが、これから最も考えたいと思っているところで、しかもアイボリータワーの中ではなくて、こういう問題ですから、どうして私たちのナレッジをアゴラに上げていくかという仕組みをぜひつくりたいと思います。
  25. 河野太郎

    河野(太)委員 ありがとうございました。  持ち時間が終了いたしましたが、科学技術委員会委員の皆様に、第三条で禁止している部分をきちっと、すべての特定胚に拡大されますよう再度お願いを申し上げまして、私の質問を終わりにさせていただきたいと思います。  四人の参考人の皆さん、ありがとうございました。
  26. 古賀一成

    古賀委員長 城島正光君。
  27. 城島正光

    ○城島委員 きょうは、早朝より四人の参考人の皆さん、本当に御苦労さまでございます。大変重要な法律案、しかもその根底に、倫理観を含めたさまざまな大変大きな影響を与える法律案だというふうに認識をしながら、我々今まで審議をしてきておりまして、きょうはそれぞれの立場から貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。  今も河野委員からも質問があって、西川先生もおっしゃいましたので、後で西川先生にちょっとお尋ねしたいのですけれども、まず、町野先生にお願いします。  いわゆる許可制と届け出制の関連でございます。これは法的な問題という観点からもありますけれども、前のクローン小委員会提出された報告書を丹念に読ませていただきましたけれども、率直に申し上げますと、この報告書の中では、私は、人クローン胚の作成を国の許可制で規制する案というふうに読み取れました。我々民主党も、基本的には、幾つ問題点を指摘されておりますけれども、この点についてはこの小委員会報告された案にかなり沿っているのではないか、こう思っているわけであります。  そういう中で、今回、この報告書とはちょっと違った形で、政府案がいわゆる届け出という形になってきている。これについて、中心的にお書きになった、最初にそう書かれておりますけれども、町野参考人にこの辺の考え方についてお尋ねをしたいと思います。
  28. 町野朔

    町野参考人 御指摘のとおり、いわば試案といいますか、たたき台として出しました案ではそのような考え方でとらえておりまして、その時点で私がなぜそのように考えたかということをまず説明いたしますと、その規制の対象はクローンキメラハイブリッド胚に限られていて、今の特定胚よりははるかに狭いものであったということが一つでございます。そして、このような胚を利用して何か科学的に実験をするということは、あり得るとしてもそれほどたくさんあるわけではないだろうというのが当時の考え方だったわけです。  そういたしますと、何も許可も得ずしてそういうものをつくるということ自体禁止しても、それほど不都合はないだろうというぐあいに考えたために、そのようにしたわけでございます。当時としては、かなりこれらの行為についてネガティブな態度があったことは、私などはそうであったわけでございます。  しかし、政府案が、それが変わったということは、先ほどもちょっと述べましたように、かなり科学技術の進展が激しくて、いろいろな有用性等が認められるようになってきたということと、同時に、クローンキメラハイブリッド胚だけに限っていたのでは、生命倫理的に見てかなり問題があるだろう。さらに、これらの、それ以外の胚、先ほどの分割胚のようなものについても、あるいはクローン作成に至り得る可能性すらあるということがあったために、規制範囲を広げた。  そして同時に、今のように医療技術の進歩、科学技術の進展に伴い、そしてさらにそれにつけ加わって、医療者集団のこの点についての自律に期待するということで、結局このような届け出制ということになったんだろうというぐあいに思います。そして、私はそれは妥当であったというぐあいに思います。
  29. 城島正光

    ○城島委員 今の御答弁、ちょっと問題があるかなと思いますのは、ということは、ちょっと確認なんですけれども、この報告書を出されるまでのクローン範囲というものについて、大きく変更になった。この報告書を作成される段階では、かなり限定された、まさに中心的な、体細胞を中心とした、今おっしゃった三種類ぐらいのところを念頭に置いて論議されていて、その後の段階でかなり対象の範囲を広げて、したがって規制範囲を広げたということ、それでよろしいのかということが一点。それから、最後におっしゃいましたけれども、やはり研究者のある面でいうと倫理観、自己規制にかなり期待するところがあったと。これは大変重要な発言なので、この二点をちょっと確認させていただきます。
  30. 町野朔

    町野参考人 規制範囲が広がったというのは、結果的にはそのとおりでございます。  ただ、先ほど先生が言われました、私たち報告書のときについては、あれはクローン等について法的な規制をするのはどのようなことが考えられるかということでございまして、規制範囲というものは、最初から私たちにゆだねられたのはその範囲であったということがあります。そして同時に、ごらんいただければおわかりのとおり、最初の段階ではクローンキメラハイブリッドというだけに限って、しかも、先ほどもおっしゃいましたとおり、許可制という非常に厳しい考え方をとっていたわけです。しかも、それを処罰するという格好で、行政的なそれだけではなかったわけです。  しかし、それがクローン委員会等におきまして、そこまで厳しく、つまり、クローン胚、キメラ胚、ハイブリッド胚をつくったということだけで処罰するというのは、やはりちょっと行き過ぎではないだろうかという考え方が強まりまして、そして今のようなところに落ちついた。同時に、そのようなことから、クローンキメラハイブリッド胚ばかりでなくて、その周辺の胚についても、その考え方、いわば行政規制的な考え方で対応するという考え方になったということでございます。  そして、その今のように緩められたということは、どうして緩められたのかといいますと、科学技術者の法的な規制のあり方について、やはり深刻な議論があったということでございます。クローンキメラハイブリッド産生については、禁止してもそれは不当ではないだろう、しかし、そのほかについて一律に禁止、あるいは無届けでつくったらすべて処罰するというのは、少し行き過ぎだと考えられたということがあるわけでございます。
  31. 城島正光

    ○城島委員 私の見解とはちょっと違うのでありますが、先ほど西川先生が、そういう面では大変含蓄のある言葉だと思うんですが、許可制と届け出制という中で能動的、受動的とおっしゃいました。受け身の仕組みだと。どちらかというと、能動的な姿勢になる方がいいんじゃないかというふうに私には聞こえました。  それは研究という立場からすると、確かにそういうことが言えるかもしれませんが、ここは大きく意見が違うところかもしれませんけれども、例えば、一昨年でしょうか、韓国でヒトクローンをつくろうという、研究段階はちょうど二年前だったでしょうか、新聞報道されました。彼の発言の中で、まさしく僕はそこが大変重要だと思うんだけれども、科学者としての好奇心というものと、もちろん治療という、両方を彼は挙げていた。  そうすると、こういった問題についても大変危惧するところは、一方でアメリカなんかは、最近相当広く卵の売買が行われていますね。今相場が大体五百万ぐらいでしょうか、平気でそういうことが行われる。これがまさしく商業化していく。場合によっては、ドリーのときもそうでありますけれども、ゲノムの解析と同時に、企業が特許を囲い込むことによって、ある面でまさに企業の商業化をどんどん推し進めていくという流れが、一方でこれは大変大きくある。そこに、意識するしないにかかわらず、研究者が加担をしていくことになってしまう流れが、あるいはおそれが今ある。  そういう中で、先生は、この分野についても能動的な立場をとる方がいいとお考えなのかどうか。いま一度お聞きしたいと思います。
  32. 西川伸一

    西川参考人 私は、原則としてそうだと思っています。能動的な仕組みをどういう形で保障するか。まず、理学部、医学部の学生さんが、そういう能動的に物事を開示することが大事であるという教育が今なされていないですね。ですから、それは、許可があると、例えば許可制とか禁止であると、科学者は考えなくなると思います。  わかりやすい例を挙げますと、きっちり調べたわけではないですからひょっとしたら間違っているかもしれませんが、例えばイギリスとドイツを比べます。イギリスでは、科学者がエキスパートグループをつくって、いろいろなプロポーザルを出して、それを議会がフリーボートでアプルーブするという形ができ上がっています。それで、そこは専門家がいる。ところが、例えばヒト胚保護法がきちっとあるようなドイツでは、科学者は、そのヒト胚保護法をやめてもらうか、あとは考えないかのどちらかになってしまうわけですね。  ですから、基本的に、国が能動的な仕組みをとるのか、受動的な仕組みをとるのかということを科学者に対してはっきり見せることによって、逆に科学者の将来のアティチュードというものが変わってくるのではないかと僕は思っていますので、原則としてぜひそう言いたいのです。
  33. 城島正光

    ○城島委員 ここが実は、私はあえて研究という立場というふうに前提をしましたけれども、一方で、それを受ける国民的立場というとちょっと語弊がありますけれども、その立場と、大きくやはり違いがあるんじゃないか。今、特に日本では。  先生も先ほど御指摘になったと思いますけれども、こういった生命倫理に関する問題については、日本の場合は、欧米に比べるとやはり論議そのものもどちらかというと非常に浅かったし、その部分においては先生も、専門家の領域としても、自己批判みたいなことも含めてでありますけれどもされましたね。それはそのとおりだと思います。でも、それは別に専門分野の方ばかりでなくて、我々政治家もその一端を担わないかぬというふうに思っているわけです。したがって、こういった問題についての議論の蓄積あるいは国民的な合意形成への取り組みが極めてまだ弱いということは、日本においてはそのとおりだと思うわけであります。  とすると、また、これから離れて今の医療現場の実態を見ても、大変多くの不信感が残念ながらある。そういうことを含めて見ると、特にこの分野については、ある面では非常に畏敬の念を持ちながら、慎重に一歩一歩階段を上っていくような取り組み日本においては特に欧米よりは慎重な姿勢があるべきではないか。そういう今の日本の現状から見ると、私は、全体からすると許可制ということをとる中で、先生のおっしゃるような研究者立場や姿勢も、そういう方向に一方で努力していくということは、私は必要じゃないかというふうに思っております。そういうことを、ちょっと時間がないので意見として述べさせていただきます。  もう一点、西川先生にお尋ねしたいのは、先ほど御輿参考人からも指摘がありましたし、実はこの委員会でも随分論議になっておりますけれども、有性生殖か無性生殖かというこの区分け、この辺についてはどういうふうにお考えになっているのでしょうか。
  34. 西川伸一

    西川参考人 生物学的な性の定義を話させていただきますと、DNAのレベルでの情報の交換があるかどうかが生物的な性の定義なんですね。  ですから、実際には性と生殖というのは違いまして、例えばAという個体とBという個体が、まあ私自身は父と母から遺伝子をもらってきているわけです。それは、私の体細胞の中では決してまじり合うことはないわけです。ところが、生殖細胞の中ではそれがまじり合うわけですね。ですから、新たな染色体が生まれるわけです。すなわち、私の両親の染色体のそれぞれが入れ子状態になったものが生まれるわけです。それが性の意味なんですね。ですから、有性生殖か無性生殖かというのは、私自身はそれほど重大な問題になるとは思っていません。  例えば、これは将来、クローン法の一番問題になるだろうと私自身が考えるのは、体細胞の減数分裂を誘導する技術ができるとします。そうすると、有性生殖がほとんどクローン技術で可能になるわけですね。精子をつくり卵子をつくるのと同じことを生物学的につくることができるわけです。生物学意味も全く一緒なんですね。それはしかし、技術クローンであるからいけないのかという問題が問われたりしますので、ですから、余り言葉にこだわる必要はなくて、実際に情報の交換が行われるような個体の生産がされるか、個体の発生がされるかどうかという形で考えていただきたいと僕は思っています。
  35. 城島正光

    ○城島委員 わかりました。  それから、西川先生、大変恐縮ですが、もう一つお尋ねしたいのですけれども、これも先ほどお触れになりましたけれども、研究者という立場からだったらそうかもしれませんが、あえて、人の命ということについての御見解をお尋ねしたいのです。  例えば、私自身の今の人間としての存在を考えると、出発点は、大体一般で言えば、受精から始まり、胚の段階を経て、胎児から生まれてくるわけですから、そのどこかの段階が途切れても私の今の存在はない。単純に考えても、それはまさに、胚というものが生命萌芽であるという表現は私は、含蓄があるし、そのとおりだと思う。それを人というふうに断定できるかというと、大変難しい問題があるかもしれませんが、少なくとも、そこから今の私なら私の人間としてのプログラムのスタートが切られていることは、間違いないわけなのであります。  そういう点でいうと、生命萌芽というものをいかに大切に扱っていくかという、その具体的な、それを法案の中にどう盛り込むかというところは、率直に言って我々民主党の方も悩んだところであるし、そういう認定をするのであればきっちりと具体的な形として入れたいということで、随分と苦吟して今の法体系をつくったわけです。そういう点でいうと、最相先生からまだ不十分だという点もありましたけれども、我々としては、そういう点をかなり重要視したつもりであります。  先生は先ほど、ある学者から見れば、胚というのは単なる細胞の塊だと。それは確かにそのとおりかもしれないけれども、命という観点から見たときに、やはり生命萌芽であるという見方は、私は少なくともそんなに間違っていないのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。
  36. 西川伸一

    西川参考人 もちろんおっしゃるとおりです。ただ、ヒト胚委員会でも議論しましたが、ポテンシャルと運命というものがある。すなわち、私の一生に関してもポテンシャルと運命、運命が制限されていくというプロセスだというふうにも考えられます。  その際、私が細胞の塊であるという考え方があるというのは、その前に、その胎児が人として育っていって、しかもいろいろな社会の中で新しい精神的な活動を蓄積していくというプロセスを、要するにとめてしまう。すなわち、もう捨てるという意思が、少なくとも卵のドナーであるとか人工流産を決意したお母さんによってされているわけですね。  ですから、そこの意思というものを見たときに、それはポテンシャルが閉ざされた、すなわち可能性が閉ざされたという判定が既に下ってしまっているわけですから、その判定そのものの内容はともかくとして、判定が下ったときには、その細胞は、生きていてもやはり細胞の塊でしかないのではないかと私自身は思っています。
  37. 城島正光

    ○城島委員 そういう先生の見方というのは、かなり学者の中では一般的にあるようです。私も、実はこの分野の研究をやっている教授と随分論議を、先週もしたのですけれども、彼も全く同じようなことを言っていたのです。  けれども、少なくともこの法案のもう一つの重要な意味があるとすれば、この法案を通して科学技術というものに対して社会がどういう規制をすることができるのか、あるいは社会がどういう意思を持つのか、そこを大きく、この法案がどういう形になるかで示すことになるというふうに思うのですね。  今、先端医療の急激な進歩の中で、我々自身が翻弄されているような部分がいっぱいあると思うのです。したがって、社会の意思という前に、本当は一人一人が、こういう問題について自分なりの考え方とか哲学みたいなものを持つことが大事だと思うのですけれども、少なくとも、この法案を通して私は、先端医療も含めた科学技術に対する社会規制というのはどういうことが可能なのか、そういうことを示すことになると思うのです。  そういう点からすると、これも先ほど河野議員もおっしゃいましたけれども、私も、実はヒト胚分割胚とかを含めて、どうも理論的に考えられるいろいろな研究方法というのが、ある程度許可になっている。言い方は悪いけれどもオンパレードで、今申し上げた一番大事な、こういう問題に対して社会的にどういうふうに考えていくのか、我々の日本という国はどういう意思を持つのか、こういうところに対する姿勢というのが残念ながら政府案では余り感じられないな、そういう感じが僕自身はすごくしています。  特に、昨今、人の命みたいなことに対して危惧する事件とか、そういうものが多い風潮の中で、少なくともこの法案が、そういうものに対しては、逆に、人の命を大事にするというところにつながっていかなければいけないなというふうに思っています。  そういう点で、私は、最相参考人がおっしゃいましたけれども、政府案はもう少し全体として包括的な法案にすべきだったのではないか、そういう観点で民主党は、そういう法案として提出をしたということを申し上げて、時間が来ましたので終わりにしたいと思います。  参考人の皆さん、どうもありがとうございました。
  38. 古賀一成

  39. 江田康幸

    江田委員 公明党の江田康幸でございます。  本日は、参考人先生方、御苦労さまでございます。クローン技術という最先端のテクノロジーでございますので、国民にはなかなかわかりにくい審議かと思います。本日は、その分野の専門の先生方でございますので、わかりやすい言葉でどうぞ国民にメッセージしていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。  ヒト胚保護につきましては、多面的に問題をとらえる必要があると思っております。ヒトの胚を生命萌芽として大事にしていかなければならない、このことは多くの日本人が共有するものでございます。しかし、同じ胚であっても、生殖補助医療にこれから使われるものと、もはや生殖補助医療に使われずに廃棄される運命にあるもの、いろいろな状態がございます。それらのすべての状況を把握し、何が問題なのか、いかなる事態を防止する必要があるのか、全体を視野に入れた議論をしなければならないときだと考えます。  例えば、ヒト胚保護するということは、極端に言えば廃棄ができないことを意味しております。それは、生殖補助医療における女性の権利ともぶつかる事態も想定されます。  そこで、まず御輿先生にお聞きしたいと思います。ヒト胚保護と一般に言われておりますが、生殖補助医療の現場で何が問題となっているのか、具体的にお答えいただきたい。また、どんな規制をかける必要があるのか、再度でございますが、具体的にお話をお願いいたします。
  40. 御輿久美子

    御輿参考人 体外受精を受けた何人かの方から伺ったのですけれども、まず運よく成功したとして、そうすると余剰胚というのが出てきます。そうすると、これはどうしますか、ではもう要らないです、要らないですね、ごみ箱にぱんと捨てられる。待ってくださいといって、あんまりだからといって、もらって帰って家の庭の木のもとに埋めた。それを聞くと、そのお医者さんは、あははと笑ったと。命かどうかという議論はこれは非常に難しいですけれども、子宮に戻せば胎児になって赤ちゃんになるかもしれない。そうすると、女性にとっては、それを廃棄する、廃棄しないのならば実験に使う、それが非常に抵抗感がある。  それからもう一つ、余剰胚ではなくて不良胚と言われて、使えないというものが出てくるのですね。これも、実際にどうされているかわからない。本当に成功した方だけを見ていけば、それはあれなんですけれども、十個の卵がとれたとして、三個使われて、赤ちゃんとして生まれるのは一人か二人です。あと残りはどうなっているのか。それもすべてヒトの遺伝子を持ち、ヒトの胚になる卵子なんです。それに対して何一つ、どのように廃棄し、どのように取り扱ってということはされていない。  それから、卵の採取にしましても、本人はわからないのですね。超音波でお医者さんがとっていくだけです。ですから、本当に適切にとっているのかどうか。それはお医者さんによると思うのですね。ですから、そのあたり、女性は本当にまないたのコイになっています。そういうところで、女性に対する保護というのが何も考えられていないというところにあると思います。
  41. 江田康幸

    江田委員 今お話をお伺いしますと、ヒト胚保護の問題というのが、クローン人間の誕生を阻止するという観点とは別の観点からの問題であって、生殖補助医療のあり方、あるいは医療現場における患者の権利の保護といった別な観点から、この点に関しては掘り下げた議論が必要かと思います。  次に、町野先生にお聞きいたします。  ヒト胚保護するのであれば、より生物学的に個体に近い胎児は、もっと大切にすべきという議論になります。民主党案では、ヒト胚を無許可で使用するなどの行為は懲役五年以下とされておりますが、現行の堕胎罪が懲役一年以下、業務上堕胎でようやく懲役五年以下の刑とされていることとは整合性がとれるのかどうか。この件に関しては、さきに我が党の斉藤委員の方からも別途質問がございましたが、よろしくお願いします。
  42. 町野朔

    町野参考人 かなり難しい問題だと思います。政府案では、ヒトクローンをつくろうとする行為が十年まで今度引き上げられております。これは、堕胎よりもむしろ重いので、整合性がないのではないかという議論もまた出てくるように思います。つまり問題は、単純にヒト生命保護ということを超えまして、それプラスやはり生命倫理的な人の命に対する不当な挑戦と考えられる点が考慮されて刑が重くなっていると考えることはできますから、その点では、民主党案について、私は必ずしも大きな矛盾はないというぐあいに思います。
  43. 江田康幸

    江田委員 次に、政府案の焦点であります、クローン人間作成禁止する際にどのような方法が望ましいかについて、参考人先生方の御意見をお聞きしたいと思います。  クローン技術については、移植などの医療技術への適用など、人類利益につながる側面もございます。このような生命科学研究の推進と規制とをどう調和させていくか。大変重要なことだと考えております。  そこで、刑法学者である町野先生にお聞きいたします。  民主党案では、例えばクローン胚の定義はドイツの胚保護法と同様でございますが、体細胞クローンが実現する前に制定されたドイツの規制理念をそのまま日本に持ち込むことは、妥当と考えられますでしょうか。また問題点はありませんでしょうか。
  44. 町野朔

    町野参考人 私の承知している範囲では、ドイツにおいて胚保護法ができた段階では、とにかく中絶との関係が非常に重要な問題だったということが一つあります。そのために、胎児、それ以前の段階の生命保護が焦点になり、それにプラスいたしまして遺伝子工学規制ということ、生命医療への応用の規制ということが問題になったというぐあいに思います。  当時におきましては、やはり科学に対する悪夢というものがかなり強うございまして、その当時としては、これはやむを得なかった考え方であったと思います。しかし、ごらんのとおり、非常に広い規制を加えておりまして、政府案と比べてみますと、例えば受精卵同士のクローン、それも禁止するし、恐らくかなり多くのものが禁止されていて、すべて五年以下の懲役というぐあいになっております。  私は、クローンキメラハイブリッドを処罰するということであるとするならば、先ほども申し述べましたとおり、やはり生命への畏敬という点、すなわち個の尊重という観点及び人の種としてのアイデンティティー保護するという極めて基本的なところを問題にすべきだというぐあいに思います。生命自体保護するという観点クローン等個体産生の問題とは違います。  したがいまして、ドイツのそれを日本に持ってくるのが妥当かということは、私は少しわかりませんが、私としてはそうすべきでないというぐあいに思っております。
  45. 江田康幸

    江田委員 では、さらに、この分野に関連した研究で多くの成果を出されております西川先生にお聞きいたします。  研究面におきましては、ドイツではいろいろ矛盾、混乱が生じていると聞いております。先ほども少しお話がございました。科学者立場で、ドイツの胚保護法の概念を持ち込むことについて研究を進める上で問題点はないか、具体的にお願いいたします。
  46. 西川伸一

    西川参考人 もちろん、ドイツの研究者は胚を使った研究はできないという意味で、制限があるという意味で問題があると思います。実際にドイツでも、この制限については意識されているのではないかと思います。  例えば、私、七、八月とドイツにおりましたけれども、ちょうどイギリス専門家レポートが出た後、ドイツのマスコミの論調は、例えばシュピーゲル、ベルト、ほとんど新たに、ドイツは取り残されていくという論調で物を報道していました。そこで書かれていたので、実際にドイツがそういうディシジョンを下したかどうかわかりませんが、ES細胞は使うけれども胚保護法は残すとか、かなり矛盾のあるようなことがされようとしています。  それから、もう一つ例を挙げさせていただきますと、これはドイツではないですが、オーストラリアのビクトリア州にもそのような法律があります。実際にオーストラリアでは、今、ヒトES細胞を使った研究が物すごく進んでいます。これは、シンガポールでES細胞を樹立してオーストラリアで研究をしているという矛盾が起こってきていることは事実です。  ですから、こういう問題はグローバリゼーションに伴う必然的な問題なのかもしれませんけれども、やはり国として全体の整合性を保つという意味では、難しい問題がいっぱい出てくるというふうに私自身は感じています。
  47. 江田康幸

    江田委員 ありがとうございました。  刑事罰をかけて、ある行為規制していくということは、我が国の法制上は相当抑制的に行っていかなければならない。特に、生命倫理のように社会見解が必ずしも一つに集約されないというような問題に関しては、幅広く規制をかけて法律で一律に禁止していくという方式には問題も多いと私は思います。単に研究を阻害するということだけではなくて、国民の価値観それから心の問題に踏み込んでいくという、時間の長くかかるようなことでございます。  そこで、町野先生、西川先生、両方にお聞きいたしますが、クローン技術規制について言えば、無精生殖によりある人の遺伝的コピーを生み出そうとすることと、有精生殖によるヒト胚を分割し人為的に一卵性双生児を生み出すような行為とは、きちんと分けて考える必要があると私は思っております。  つまり、自然に存在する一卵性双生児の存在に疑問が呈せられるような規制は乱暴ではないか。また、クローン人間を生み出すことと、動物の体にヒトの要素が一部入る、これは例えばヒト由来の血液成分を産生する動物を生み出すことが、民主党案にある社会的に同じ刑罰に処せられる行為とは私はとても思えません。  民主党案において、すべての人の属性を有する胚の母胎、これは動物も含みますが、それへの移植を一律に法律で十年の刑としていることについて、どう考えられるか、刑法学者並びに研究者としての御意見をそれぞれお伺いしたいと思います。
  48. 町野朔

    町野参考人 刑罰をかけて禁止するということは、人を犯罪者とすることですから、それだけの実質がなければならないというぐあいに思います。  御指摘の中の例の受精卵クローンの問題について申しますと、例えばおなかの中で幾つかの、最初分割して出てくるわけですけれども、それは、既に存在する個体のコピーではない。同一のものがたくさん出てくるということです。  それ自体は、SF小説の中にもありますとおり、それが大量に行われることになりますと、かなり問題があることは確かだろうと思います。しかし、やはり問題なのは、現に存在する一回限りの人間をわざわざコピーしようとする試みが問題なのでございまして、それとは質的に異なることは明らかでございます。  したがって、気持ちが悪い、あるいは生殖医療技術乱用であるということだけで、直ちにそれを処罰するということは行き過ぎだろうと私は思いますし、ましてや、人クローン個体産生と同等の刑罰を科すということは、私はできないだろうと思います。
  49. 西川伸一

    西川参考人 大まかな点は町野参考人と同じ意見です。  ただ、もう少し科学的な面でいいますと、先ほどから述べていますように、実際に行われる可能性がある。例えば、そういう可能性があるということがある患者さんにわかって、それをやりたい、何としてもやりたいという形で、日本でないところでやられたとしても、法律で罰せられるときには、研究やその仕組み自体が問題にされるだけではなくて、今まで一番問題になってきた実施される側のプライバシーまで、例えば警察によって調べられたりとかいういろいろな問題が出てくるので、少なくとも、余り強い法律的な縛りはかけない方が、可能性があるものに関してはかけない方がいいんではないかと思っています。
  50. 江田康幸

    江田委員 私も、以前研究を長く続けてきましたので、研究が阻害されるような安易な刑法の設定というものに関しては十分に考える必要があるかと思っておりますので、以上のような質問をさせていただきました。  時間がなくなってきましたので、最後ですが、研究に対する規制のあり方というのがまた重要でございます。西川先生からもその説明がございました。一方では、研究者というのが、ともすれば情報の開示については学会などの仲間内で済ませてしまう、閉じ込めてしまうというような傾向にもございます。  そこで、西川先生にお聞きいたしますが、政府案によれば、研究の届け出が必要となっております。このような仕組みが導入されることによって、研究者取り組みは変化をしてくると思われますが、その兆しがあるのかどうか、また、研究者が積極的に自分の研究活動社会に示していくようにするためには何が必要か、その点についてお聞かせ願いたいと思います。
  51. 西川伸一

    西川参考人 私たち研究社会に開かれる接点は二点あると思います。  一つは、ほとんどの研究者が政府からお金をもらう。アメリカでもそこの部分規制をかけたり、それから自由度を与えたりします。  それからもう一つは、研究報告する。今問題になっているのが多分研究報告なんですが、基本的に、科学者というのは自分の成果を公表するために仕事をしているわけです。しかしながら、今おっしゃいましたように、仲間内での公表ということだけが中心になって、それが、もう少し社会的な意味での、先ほど言ったアゴラの中で検証されるというプロセスがないわけです。  それがもう問題になってしまうということは、少なくとも、お金が政府から来ている、あるいはいろいろな企業から来ている。それからもう一つは、日本も参加しようとしていましたが、例えばアメリカの高速加速器の問題がとんざしたり、それから、先ほど河野委員がおっしゃいました組み換え植物の問題。そういう問題で、すなわち仲間内の知識だけで話が終わっていたんでは結局は物事が終わらなくて、しかも研究もいつかはできなくなる。そういうことが多分徐々に研究者もわかってきているんではないか。  今この時期に、もう一つ研究者が積極的に自分を開示する仕組みを何とかつくりたいというのが、私自身が思っているところです。
  52. 江田康幸

    江田委員 ありがとうございました。  さらに研究者自主規制を進める、強めるというのは、私も非常に必要な気がします。そういう意味で、科学者会議専門家会議か、社会的にも広くオープンにされたそういう会議の場で、具体的に監視体制を検討して、それを作成してガイドラインとするということが必要かと思いますので、さらに議論を続けていっていただきたいと思います。  時間が参りましたが、以上お聞きしてまいりました。生殖医療ヒト胚ということについては、やはり幅広い考えが混在している、非常に重要な、深い問題であるかと思います。ただ、国民的な合意も、またこういう委員会での合意も、なかなか得られないという状況でございますが、まずはその反社会性が問題視されているクローン人間、その作成禁止する法案を法制化するということが、もう既にヒトクローンがつくられているような状況でございますので、私は最も必要なことだと思います。どうぞよろしくお願いいたします。  以上でございます。
  53. 古賀一成

  54. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 自由党の菅原喜重郎でございます。  きょうは、参考人の方々の出頭に対しましては、心から敬意を表します。  まず最初に、町野参考人に御質問させていただきます。  一応きょうは、法的規制必要性あるいは法的規制根拠政府案民主党案について御意見を開陳していただきました。私は、今回のこのクローン法案審議するに際して、こういうクローンの問題にかかわった論議だけでは不十分だ、その前にどうしても人間の基本的、倫理的、尊厳的な問題の法案と一緒に整備していかないといかぬなというふうに感じてきたわけですので、そういう点では、生命倫理委員会にも関係している町野参考人に特にお聞きしたいと思うのです。  こういう日本の今の法体系の中で、生命倫理法というものを、こういう科学の進展に合わせてもっと法体系を充実していくといいますか、正確に対応した法にどんどん変えていかなきゃならぬとも私は思っているのですが、この点についての御意見をお伺いしたい、こう思います。
  55. 町野朔

    町野参考人 先ほどから、生命倫理の問題についていろいろ幅広い意見があるということでございましたけれども、私は、それほど大きく違っているのだろうかということは実は思っております。  やはり人の命は大切である、人の命の萌芽である胚もやはり大切にしなければいけない、それはすべての人が認めるところだろうと思います。しかし、どのような方法をもって今のような政策を実現したらいいのか、あるいは政策を強行することが妥当なのかということについて、考え方が分かれているのだろうというぐあいに思います。  そして、この問題を考えるときには、先ほども申し上げましたとおり、我が国のこれまでのやり方、それから研究者先生方研究の問題、それらを考慮しながら進めていかなければならないだろうと思います。  そして、やはり日本で一番大きな問題というのは、母体保護法によりまして、かなり早い時期から事実上中絶が自由になっているという事態でございます。このことをどのように評価するかということは、やはりもう一回考えなければいけないのでございまして、ヒトの胚は生命萌芽である、人の命の萌芽である、だからこれを保護しなければいけない、だからこれを乱用する者はすべて処罰するということだけでは、私は決着はつかない問題ではないかというぐあいに思います。
  56. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 次に、西川参考人に、また同じような質問になってきますが、お聞きしたいと思います。  今回のクローン法を論議しておりまして、やはり根底には、生命萌芽生命の始まりをどこに一線をつけていくか。ここがあいまいだと、こういうクローン法ヒト胚問題をいかに論議したって、根拠規定、法的規定をしっかりしていないとどうもこれは意見がかみ合わないな、このように思っておるわけです。  それで、先ほど西川参考人は線引きの問題という指摘もされましたが、そういう先生のお考えの中で、私は、今、町野参考人にも質問したように、これは生命倫理法というものと一緒にいわゆる法体系を整備して、準備してといいますか、日本の法全体が時代に合ったように運営させていく、まず根拠を決めておかぬといかぬなと思っているわけです。  そういう意味で、こういう私の考えに対して、もし生命倫理法というものの新しい法改正とか提言とか、そういうことがございますなら、先生の立場での御意見を聞かせていただきたいな、こう思います。
  57. 西川伸一

    西川参考人 僕は、生命倫理法という形で解決できるということでは考えておりません。  それで、一番今、私自身が考えていますのは、先ほどから申し上げていますように、一つコンセンサスがとれない、極めて広い意見が混在する中で、どういう形で民主主義を守るかという仕組みをつくることが一番大事で、それは生命倫理法ではないのではないか。  生命プロセスにかかわるいろいろな、例えば経済活動であるとか医療活動であるとかが問題になって、それが、あるその時代の基盤でいろいろな判断をされていくということはあるのですが、生命倫理法一括という形で考えるのは、私自身は、やはりかなり難しいのではないか。それよりは、違った意見をいかに民主主義につなげていくかという仕組みを何か考えていきたいなというふうに考えています。
  58. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 次に、最相参考人にお聞きします。  先ほどの意見陳述の中で、この法規をつくるのに対して、論議が非常に不十分なままに、いわゆる法の規制といいますか、こういう審議がなされているというようなことを陳述されました。  ここは立法府ですから、法律を時代の流れに適合して常に改廃していかなければならぬ責任を持っているのですが、しかし、法を改廃していくとき、反社会的なものが生まれてきたときに初めてそれに対応するのは速くて、いいことのためにつくっていくというのは、どうしても遅いようなのですね。そういう意味で実はお聞きするのです。  それから、この問題は、やはり具体性がありませんとどうにもなりません。ヒト胚全体の保護必要性ということを強調されておりますが、このヒト胚全体の保護必要性について、具体的に、こういうことのためにぜひこういうことをしなければならぬという、ノンフィクションライターとしての最相参考人ですから、御自分が受けた何かそういう事例でもあったら教えていただきたいな、こう思います。
  59. 最相葉月

    ○最相参考人 具体的な事例といいますと、クローン研究ES細胞研究も、ヒトの胚ではまだ認められておりませんので、日本で具体例があるというわけではないのですけれども、例えば、昨年だったかと思いますが、十一月に東京農業大学で、牛の胚に、核を抜きまして、人間の核をそこに移植するというような、文部省の指針に違反しました事件がございました。それは新聞でも非常に大きく報じられたものだと思います。  私が恐れますのは、今回のような解読するのが非常に難しい法案であった場合に、それを誤読したり、理解がなかなか行き届かなかったり、一つの言葉に対するコンセンサスが得られる、その過程をきちっと得られるのかどうか、そういうことが一番気になることでございます。  それからもう一つは、ES細胞。既にマウスの研究で具体的にいろいろなことがわかってきているわけです。もう既に、人にこうすればこうすることはできるだろうと。実際に今、たしか東京大学の医科学研究所と大阪大学だったかと思いますが、ESを研究したいという利用の申請が大学の倫理委員会に出ているはずです。もう目の前にそのような事態がありますので、慎重にも慎重を期して、今の段階では、少なくともES細胞につきましては、受精卵を起点とするわけですから、そちらへの保護をお願いしたい、そういうことでございます。
  60. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 次に、御輿参考人にお聞きします。  今回の政府案には、定義からして不明瞭な点が多いこと、また、いろいろな御意見を陳述されました。私も、今までこの委員会で閣法、衆法、双方について質問してきたのですが、閣法について、人クローン胚等の研究に有用なものがあるので、それを規制したのではこれから人類の福祉を向上させるためにもブレーキになるんじゃないか、そういうことで、有用な研究まで抑制してはならない。しかしそうはいっても、やはりどうしても規制をしなければならない問題も出てくるので、この線引きを政府はどう考えているのか、こういう質問もしております。  それで、御輿参考人は、人クローン胚等の研究に有用なものがあるということについて、これをどのように伸ばしたらいいのか、やはりこれも最初から規制の対象にしていかなければならないのか、この点について、遺伝子疾患の治療等もちょっと漏らされたようですので、御意見がありましたらお聞かせいただきたい、こう思います。     〔委員長退席、樽床委員長代理着席〕
  61. 御輿久美子

    御輿参考人 有用性といいますけれども、これは理論的、生物学的に考えたら可能性があるというだけのことで、まだ雲をつかむような話で、普通は、動物実験で有用性がかなりの程度確かめられてから人への適用ということで始めると思うんですね。  現段階で私が考えますのは、クローン実験は、人では行う必要はないと思います。実際に文部省のガイドラインクローン胚の作成は禁じられておりますけれども、別に何の不都合も、だれからも文句は出ておりません。人に対して行わない、動物実験だと限定することによって、むしろやりやすくなるということはあると思うんです。  研究者というのは立派な人ばかりではありませんし、立派な人でも、やはり目の前でかなりの有名になるようなチャンスがありましたら、かなり倫理観というのはそのときには低下いたします。たった一人でもそういうことを破ったら、やはりこれは研究者に対しての、研究者倫理観それから評価、信頼性というのはなくなるものです。  ですから、五年や十年禁止したって何にも今困らなくて、禁止してその間動物実験をやって、有用性が考えられたものに関してもう一度議会で議論していただいて、そしてこれはしていいというふうにしたって、その方がかえって研究者としてはやりやすくなるんではないかと思います。  それから、遺伝子治療に関しましては、あれは全くきかなくて、もう見直しになっていて、だから、あれも実験で完全に失敗したというものです。
  62. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 御輿参考人には、忌憚のない御意見を開陳していただきまして、どうもありがとうございました。  以上で私の質問を終わります。     〔樽床委員長代理退席、委員長着席〕
  63. 古賀一成

  64. 吉井英勝

    吉井委員 日本共産党の吉井英勝でございます。  四人の参考人の皆様、きょうは本当にお忙しい中、ありがとうございます。  私、最初に西川参考人に伺いたいと思いますが、非常に初歩的なところでまず伺っておきたいのですが、体細胞クローンなり受精卵クローンなりで人クローン個体をつくったときに、特定の人と一〇〇%同一の遺伝子構造を持つものとなるのか、生物学的にそう言い切れるのかどうか。あるいは、一〇〇%近く、つまり近似的に同一の遺伝子構造になり得るということなのか、この点をまず伺っておきたいと思います。
  65. 西川伸一

    西川参考人 ちょっとややこしいですが、例えばDNAに、いわゆる核の中にしまい込まれた情報がそのまま移るかどうかということに関しては、もちろん一〇〇%同じものをつくるという形での理解をしています。  ただ、体細胞というのは、例えば皮膚の細胞であったり血液の細胞であったりして、その形が全く違うわけですね。それになるためには、膨大な染色体の一部ずつが閉じられ、またあるところはあいているような仕組みになっているわけです。その核を卵に戻したときに、もう一度、リプログラミングといいますが、もとに戻るということが科学者にとっては驚きだったわけですね。  ですから、そういう意味で、実際の研究を見ますと、ドリーも含めて一〇%ぐらいの成功率しかない。それから、生まれてからかなり死亡率が高いという意味で、先ほどから申し上げていますように、DNAは同じなんだけれども、これは遺伝学ではエピジェネシスと呼んでいますけれども、後遺伝的な部分で違うのではないかというふうなことが考えられています。  それから、エピジェネシスでもう一つ重要な問題は、私たちは生まれてから要するに精神活動を始めるわけです。これが最も大きなエピジェネシスの問題で、例えば、一時マスコミが、クローンができると百人のヒトラーができるという形でおっしゃいましたけれども、どんなことがあっても百人のヒトラーができることはないと僕は断言できるぐらい、私たちの、人間の全体にとってのエピジェネシスというものの重要性はありますから、生物学的にも違いますし、それから、今言った精神構造でも違うというふうに私は理解しています。
  66. 吉井英勝

    吉井委員 次に、国会でせんだって質疑をやったときに政府の方から示されたのは、法律上は、人クローン胚をつくってもこれを胎内に移植するということを禁止ですから、人クローン胚をつくり、胎外で培養して胚盤胞からES細胞をつくることは法律上可能だ、もちろん基準を設けての上ですが、そういう御答弁がありました。通常は、着床開始というのは受精後六日目ぐらいからという説明がありますし、そして胎盤形成の開始から胎児として説明しているわけですが、法律ガイドラインとして今考えられているのでは、凍結期間を除外して十四日以内のヒト胚使用を認めるという考え方に立つということを答弁の中では言っておりました。  そうすると、胚盤胞のままで、これ以上卵割は不可能となる期間というのは大体何日ぐらいなのか、あるいは何分割までは卵割が可能となるのかということが一つお聞きしておきたい点です。それから二つ目に、初期の胎児段階までかなり分割が進んだ、胎内でありますとそれはもう胎児ということになりますが、培養している場合、胚盤胞で胎外で培養すれば、ES細胞というのはどの発展段階のものまでが採取可能ということになるのか。この二点について西川参考人に伺いたいと思います。
  67. 西川伸一

    西川参考人 分割卵に関しましては、人間で、もちろん子宮に戻して最後まで確かめたという実験はありませんからわかりませんが、培養実験等から、四分割、うまくいっても八分割で、多分四分割だと結論していいのではないかと思っています。  それからもう一つの問題なんですが、ES細胞。これは今の技術では、内部細胞塊と言われているものと生殖細胞になったもの、この二つの細胞から樹立可能です。ところが、人間で、アメリカで両方ともつくられまして、いわゆるES細胞というものと生殖細胞由来のEG細胞というのがつくられていまして、外側を見た限りでもまるっきり違う細胞です。もちろん、両者ともいろいろな細胞に分化できるという能力が既に確認されていますから、今の御質問に関して、ではどこまで、どういうステージまでそれが採取可能かということに関しては、はっきり言うとわからないというのがお答えでないではない。もし許されれば、例えば十四日をさらに過ぎてやる人がおれば、ひょっとしたらできるかもしれない。多分、ネズミあるいは牛でそういう実験はされますから、そういう実験でわかったときに、きちっとしたお答えができるのではないかと思っています。
  68. 吉井英勝

    吉井委員 次に、御輿参考人にお伺いしたいと思います。  ミトコンドリア病治療についての議論がずっとあるわけですが、ミトコンドリアといえば、細胞質中に多数分散して存在して自己増殖する。そういう点では、先ほど発電所のようなものとおっしゃった意味もなるほどなと思ったのですが、母方の生殖細胞の核をとり出して別の女性の除核卵細胞に移植する、このときに新しい核と除核卵中のミトコンドリアの相互作用がうまくいくのかどうかということ、相互作用の点で一つお聞きしたい。  二つ目に、操作技術の問題が一つあろうかと思うんです。つまり、除核するとき、操作のときに、ミトコンドリアなどの流失などが全くない、細胞のエネルギー生産にかかわる力を与えるこの発電所の能力が低下するということはないということが言い切れるのかどうか。あるいは、細胞膜なり核膜なり、ミトコンドリアとかゴルジ体とか小胞体などが傷つくようなことはない、そこまで操作技術はもう確立していると見てよいのかどうか。  この二点について伺いたいと思います。
  69. 御輿久美子

    御輿参考人 ミトコンドリアと核の相互作用、ミトコンドリアの増殖それから調節。  ミトコンドリアは、ずっと細胞質遺伝というか母系遺伝なんですけれども、生まれてから、やはり老化がミトコンドリアの老化と関係すると言われています。非常に重大な疾患に至るような遺伝的な異常もありますけれども、結構いろいろ突然変異も起こっているらしい。ですから、ミトコンドリアに関しては全然わかっていない、研究の宝庫なんですね。ですから、別の人の核を入れてとかいうのをやりますと、本当にそれが核とミトコンドリア相互作用とかを調べる実験になります。しかもそれがミトコンドリア病の治療とかいうような大義名分がありましたら、それは飛びついてやる人はたくさんいると思います。  ただ、それはあくまで基礎的実験をずっと人でやるということですので、何も人でやらなくても、先に動物でちゃんとやってから人でやってほしい、そのように思います。
  70. 吉井英勝

    吉井委員 この点では西川参考人にも、先ほどミトコンドリア病治療への応用の可能性もおっしゃっておられましたので、同様の二点の質問。とりわけ、ミトコンドリアについてどこまで解明が進んでいるかという問題と、今も二つ目に質問していましたが、操作技術について、大体もう一〇〇%確立しているというふうにみなしていいものかどうか、その辺を伺っておきたいんです。
  71. 西川伸一

    西川参考人 ミトコンドリアのゲノムの情報はほぼわかっておりますから、研究は進むと思います。  相互作用とおっしゃったのは、ミトコンドリアがふえるためにはいろいろな必要な情報があるのですが、その情報の一部は核の中にあるんですね。ですから、そういう意味で、核がないとミトコンドリアもふえられないし、もちろんミトコンドリアがないと細胞もふえられないという、一種の寄生システムをつくっているというふうに考えていただいていいのではないかと思っています。  次に、例えば移植したミトコンドリアがどのくらいふえるかどうかということに関しては、今研究がどんどん進んでいます。これは、今、御輿先生がおっしゃったように、もちろん人間ではなくて動物で、マーキングができるようになりましたから、ミトコンドリアの増殖が違う環境でどのように進んでいるかという研究がどんどん進んでいっている。もちろん、その延長線上で、ひょっとしたらミトコンドリア病の治療の可能性が生まれてくるのではないか。  もう一つ大事な技術的な進歩は、ミトコンドリアの遺伝子をマニピュレーションできる方法が開発されようとしています。そうしますと、ネズミでですが、モデル実験系ができます。そうしますと、例えばある遺伝子がなくなって脳の疾患が起こるようなミトコンドリア疾患を、核移植で治せるかどうか。こういうものは、研究人口さえあればかなりのスピードで進むのではないかと私は思っています。
  72. 吉井英勝

    吉井委員 次に、町野参考人にお伺いしたいと思います。  ちょっと角度を変えまして、人間尊厳とは何か、どういう扱いをしているかという問題ですが、法律上の扱い、倫理上の扱い、あるいは医学生物学上の扱いとしては、これは委員会等での議論も含めてどういうふうに考え、どう扱っているかということを伺いたいと思います。
  73. 町野朔

    町野参考人 人間尊厳という言葉はいろいろ使われまして、その使う人によって意味はさまざまであるというぐあいに思います。  私が人間尊厳理由として、人間尊厳侵害することを理由として、クローン等個体産生を処罰することは可能だ、そうすべきだと考えた理由というのは、先ほどもありましたとおり、クローンによって生じた個体というのは、複製元のそれと遺伝的にも全く同じということは言えないし、しかも、人格が異なっているということはこれまた明らかです。その限りでは完全なコピーはないということはこれは確かです。しかしながら、やはり日本憲法下での我々の、日本国の建前といたしまして、我々国民は一個の個人として、かけがえのない一個の固有人格として尊重されなければいけないということがある。そのことのコピーをつくろうとするということは、以上のいわば日本憲法の基本的な精神に真っ向から挑戦するものである。その限りでは、人格尊厳侵害というのは今のような意味で理解すべきであるということでございます。  もちろん、例えばフランスの方の生命倫理委員会報告書にあったように、いわば無性生殖といいますか、偶然ではなくて最初からセットされた状態で一個のそれが生ずる、それが人格尊厳に反するというような考え方もあり得ますが、しかし、果たしてそう言えるだろうかということは私は疑問でございます。
  74. 吉井英勝

    吉井委員 実は、私がこれをお聞きしましたのも、確かに人の尊厳というのは人によっていろいろとらえ方はあると思うのですが、ただ、法律の第一条の中で、「人の尊厳の保持、人の生命及び身体の安全の確保並びに社会秩序の維持」というふうに規定するわけですから、やはり法律でつくる以上、大体この法律上の定義をどうしておくかとか、そこはやはり大事なところじゃないか。将来、解釈それぞれで困ってくるのじゃないかということがありまして、質問しているわけです。  今のこととあわせて、社会秩序の維持というのがあるんですね。社会秩序の維持をどのように定義するかということも、ある程度きちっとしておいた方がいいのではないか。  つまり、戦前の日本ですと、社会秩序の維持ということは、治安維持ということでもって民主主義の抑圧にまで発展してしまっているわけですから、研究者の学問研究の自由というものを尊重もし、同時に、社会秩序の維持と言われていることもやはりきちっとなされていくには、もう少し、内容そのものについてどういうふうに定義をしておくかということがあろうかと思うのです。この点、御専門の立場から、町野参考人にあわせて伺いたいと思います。
  75. 町野朔

    町野参考人 まず、法律の中には人格尊厳の定義がない、そういう問題でございますけれども、先ほど申しましたとおり、例えば分割胚の、それによる受精卵クローンを処罰しないということからもおわかりのとおり、先ほどのように、存在する個体としての人格、それのコピーをつくることがやはり人格尊厳侵害だという考え方に立っているから、今のようなことになるのだろうと思います。  社会秩序の混乱についても、一般的に生殖医療、不当な生殖医療が行われるのがよくないという考え方ではなくて、親子関係家族関係、それが非常に混乱してくることが当然のこととなっているわけでございます。その限りでは、確かに法律上は明確に規定されておりませんけれども、全体として見ると理解できるようなものになっているのかなというぐあいに思います。
  76. 吉井英勝

    吉井委員 時間が迫ってまいりましたので、最後に、最相参考人にお伺いしたいと思います。  クローン研究について、許可制にするか届け出制にするかというのは、両案のいわば一つのポイントにもなってこようかと思うのですが、学問研究の自由について、どこまで自由な発展を尊重するか、あるいはどういうルールを設けるかということともかかわってくるかと思いますので、この研究についての許可制、届け出制というものについて、御意見を伺っておきたいと思います。
  77. 最相葉月

    ○最相参考人 先ほど西川参考人がおっしゃられましたように、届け出が研究者側の自主性を重んじているという御意見には、私もそうであると大変思います。  しかし、今回の法案の成立過程、それから論議などを傍聴しておりました過程、それから先ほども指摘させていただきました倫理委員会のシステム、このような法案成立に至るまでのさまざまな問題点を見ておりますと、現段階ではまだ届け出制にするには時期尚早であるのではないか、そのように思っております。  許可制となりますと、一たんは前段階として法で禁止をして、徐々に解除していくという方法であると思いますので、現段階では、まだ許可制でなくては、これまでの議論プロセスなどを見た形、それから実験等で指針違反が起こったりしている現状では、まだまだそこまで我々側からの信頼、一般国民の信用はかち取れないのではないか。  その前提として、先ほど西川参考人もおっしゃられました、自立した第三者機関の設置というのは私も同感でございます。
  78. 吉井英勝

    吉井委員 どうもありがとうございました。時間が参りましたので、これで質問を終わります。
  79. 古賀一成

  80. 北川れん子

    ○北川委員 きょうは四名の参考人の皆様、本当にありがとうございます。  初めに、御輿参考人の方にお伺いしたいのですが、この議論の過程では、ヒト胚、胚の方に重きを置いて論ずる面が多かったのですが、きょうの御意見の中で、核を移植する場合には未受精卵、いわゆる卵子の問題があるんだということをお伺いしまして、卵の問題については、私たちのこの委員会の中でもまだまだ取り上げられていなかった面だということで、お伺いをしていきたいのです。  体細胞クローンにしろ、受精卵クローンにしろ、どちらも核を抜くには未受精卵が必要だということで、その未受精卵自身も二十四時間しか生きないという面があるということなんですが、では、卵子を使用する場合、その卵の保護の問題、これは今現在どういうふうにお考えになっていらっしゃいますでしょうか。
  81. 御輿久美子

    御輿参考人 卵の保護ということは全く考えられていないのだと思います。これは、やはりヒトの組織、しかもただの組織ではなくて、後で胎児にまでなり得る組織、それをどうするのかという問題ですので、これはどこかの場できちっと論議していただいて、それなりにルールをきちっとやっていただかないと、過剰採卵、それから女性の体の健康被害というのが出てくると思います。
  82. 北川れん子

    ○北川委員 私たち自身が、ヒト胚自身もイメージできにくい、そして、それ以前の卵の問題がまだ解釈するに手前であるということが、今の委員会の中でも現状ではないかと思うのです。  先ほどいろいろな皆さんの議論の中にもあった、十二日の厚生省の専門委で、第三者の卵をとってもいいと。だから、卵を採取できる範囲を広げたという面も含めて、いま一度やはり卵というものに対して、これは凍結できないものですから、女性の体にかかる負荷ともども考えると、この法案の中に何か盛り込むということがいいのか、何らかの形でほかの法案規制をする方がいいとお考えになるのか。御輿参考人のお考えを一度お伺いしたいのです。
  83. 御輿久美子

    御輿参考人 難しい御質問で、私にも余りよくわからないのですけれども、ただ、そういう観点からの議論がどこでもされていないというのは確かだと思うのです。  ですから、先ほども生命倫理法とかそういうことが話題になっておりましたけれども、まず、クローン技術、それからヒト胚操作の技術、それから生殖補助医療技術、その周辺に関して一度問題点を洗い出して、何が検討されていないのかというのを議論してからだったらば、こういう法律が要るのではないか。まず、そういう議論の場自体がないのですね。ですから、早急にこのクローン法案の中にそれを入れたら済むという問題ではないと思うのです。
  84. 北川れん子

    ○北川委員 議論の時間がかなり不足しているということを御指摘いただいたと思うのです。  そうしましたら、きょうは、クローンの定義についても具体的にお答えいただきまして、過去、農水省や科学技術庁、そしてまた厚生省などが使っていたクローンもしくはクローン技術の定義を逸脱した形といいますか、同一のものではない定義を使うということに関して、修正が必要だというふうにお答えいただいたのですが、では具体的にどのような修正ができるかということを御輿参考人、もし御意見があればお伝えいただけますか。
  85. 御輿久美子

    御輿参考人 率直に申し上げまして、この政府法案クローンの定義、クローン技術の定義というのは、体細胞クローンだけをクローンとして、そして体細胞クローン個体の生成だけを禁止する、そういう目的に沿ってつくられたような定義であるというふうに私には感じられます。科学的ではない、別の意図でつくられたような定義であるというふうに思われます。  クローンの定義は、科学技術庁のホームページでも、農林水産省でも、それから文部省でも、しかもほかの国でも大体全部一定でして、クローンとは遺伝的に同一のものの細胞の集まりなり個体クローン技術というのはそういうものをつくる技術である。そして、哺乳類、実験動物とか家畜のクローン技術においては、核移植技術というのがクローン技術に当たると。  そのようにして書きかえて、そうしますと、政府法案のそれぞれの胚の名前のつけ方自体も、変えなければいけないというふうになると思うんです。ぱっと見ただけでも、定義の八、九のヒト胚核移植胚、これはヒト胚由来の核移植クローンですね、ヒト胚核移植クローン。それから十は、ヒト細胞由来核クローンとか、そういうふうになる。  何しろ一般の国民というのは、クローン禁止されている、そうすると、ここに出てくる定義としてはクローンというのはヒト体細胞クローンだけを定義してあるけれども、ではすべてのクローン禁止されているんじゃないんだろうかと、ほとんどの方がそう思っておられました。そして、実際はクローンというのはこれだけあって、それは禁止対象にはなっていないと聞くと、だまされたというふうにほとんどの方がおっしゃいます。それは一番国民の信頼を裏切る行為ですので、できれば科学的にきちっとしたクローンの定義に戻して、そうしてその上で、この体細胞クローンだけを禁止するとか、そういうふうな理屈があるのならば、それをきちっと議論した上でそれを書いて、そして法案に反映していただきたい。それがやはり誠実なやり方であろうと思われます。
  86. 北川れん子

    ○北川委員 土台自身がぐらついているということを御指摘いただいたと思うんですが、では最相参考人の方にお伺いしたいと思います。  きょうの十五分の中で、すべて三百六十度、棚上げしてきてしまった部分のことを御説明いただいて、すごくわかりやすかったんですが、最後に最相参考人は、でもやはり今、禁止法案をつくった方がいいという立場で御意見をまとめられたように私は受け取ったんです。すべて棚上げした部分を引いてさえも、今この禁止法案をつくった方がいいとする、一番の理由は何であるかということをお話しいただけますでしょうか。
  87. 最相葉月

    ○最相参考人 実はそこが一番難しい問題で、私も大変悩みました。クローン禁止してはいけない理由は何かということを見つける方が、やはり難しいんです。  それで、私は、九八年にロスリン研究所のイアン・ウィルムットが来日しましたときに二日間にわたってインタビューさせていただいたんですが、そのときにウィルムットがおっしゃったことは、この技術が我々研究者だけではなく大変な世界的な問題になることはわかっているから、どうかみんなで考えてほしい。特に人間クローンに対しては私は反対している、そういうことを言うためにこうやって世界を回っていると。説明責任ですね。非常にそれは感銘を受けたことです。科学者みずからがそうやって説明に世界じゅうを回っているという努力をされたことに、私は非常に感銘を受けて、この取材を今まで続けてきたわけです。  結果的に出てきた法案に対しては、私は政府案には大変疑問を感じておりますし、前国会の段階にもその意見を新聞で書かせていただきましたが、今提出されているままではやはり認めることはできない。それは、一番大きな問題は、将来的な生殖医療全体を包括する規制への道筋が一切開かれていない、この点はぜひ含めていただきたいということ。それから、見直しの期間が五年というのはやはりもう今の状況を全然わかってなさ過ぎるということで、五年以内といったらあしたもあるんだみたいな話がありましたが、そういう詭弁ではなくて、毎年必ずその場所を設けて、こうした国会の場で話し合えるような、非常に真摯に向き合っていただきたい。  そういうことをお約束いただけるのであれば、修正を加えた上で、ヒト胚保護全体への規制へ向かう過程であるという条件つきで、現在クローン人間禁止することに対しては私は、反対意見というのを現在の社会状況では述べることは難しいという結論に至っています。
  88. 北川れん子

    ○北川委員 私たち委員の苦悩もあわせて表現していただいて、本当にありがとうございました。  ただ、最相参考人がおっしゃるように、今の過程の中から戻って、もう一度そのヒト胚保護法云々、生命倫理の方の問題に行き着くというふうには、私が一人の委員としてこの委員会に参加している中でも、そういう合意を得ていないというのが前提であるというふうに私自身は思っています。  ですから、どちらかというと、この法案に人の尊厳という言葉が盛り込まれながら逆に五年、三年という見直し規定をするというところに、私自身は、尊厳を持ち込むならば、それはすべて、多くの二十一世紀へ向かう人類が、日本が決めたことということで、見直し規定など要らないようなものをつくって、ES細胞、生殖細胞、そしてクローンという技術の進化の度合いと法案とは、やはり分けながらリンクさせていく部分が必要だろうというふうに私は思うんですが、ヒト胚保護法にさかのぼるということがもし無理であるとするならば、最相参考人の御意見というのはいかがになるのでしょうか。
  89. 最相葉月

    ○最相参考人 ヒト胚保護法にさかのぼるのが無理というのはちょっと意味がわからないんですが、結局、見直し規定などを入れずにもう一度戻って最初から構築し直す方がいいのではないかという御意見ですね。私もそれがベストだと思います。それができるのなら、そうしていただきたいです。
  90. 北川れん子

    ○北川委員 どうもありがとうございます。そこが本当に難しい、出てきた法案に対して難しいのがそこであろうと思います。  では次に、西川参考人にお伺いしたいのです。  先ほどの御意見の中にもいろいろあったんですが、理化学研究所の発生・再生科学総合研究センターの中で、西川参考人は幹細胞研究、いわゆるES細胞研究についてプロジェクトのリーダーでいらっしゃるということが、お名前とともにお写真が載っているんですが、きょうお伺いしていまして、民主主義という言葉がよく出てきたんです。ずっとそれを聞いていると、私自身は、民主主義という言葉よりも、資本主義という言葉に置きかえてお話をお伺いするとわかりやすかった面があるんですが、その点に対していかがでしょうか。
  91. 西川伸一

    西川参考人 今モダン社会は、基本的には民主主義と資本主義で成り立っているわけですね。民主主義というのは、個人個人の質を問うわけです。ところが、資本主義というのは量を問うわけですね。実際に、一見したところ、極めて矛盾する仕組みが私たち社会を支えていることは事実なんです。  ですから、私の発言も、要するにモダン社会一つのリプレゼンテーションであるということでいえば、資本主義ともとれるし、それから先ほど質問にあった、例えばコマーシャリズムの問題にしても、今の社会を基本的には民主主義と資本主義、資本主義というとちょっと難しい問題があるんですが、そういうふうに、お金という量化するシステムで考える、この二つの仕組みで考える場合には、そうなる。もちろん、それの調整役として、多分社会民主主義なんかが機能するのかもしれません。  ですから、個人的な発言について、そういう形でどちらであるというふうにとられるのは、極めて心外であるというふうに言わざるを得ないのです。
  92. 北川れん子

    ○北川委員 極めて心外であるというお言葉があったのですが、事ほどさように、今回、この法案での定義の問題からして、言葉があいまいで始まっているということも含めてお許しをいただきたいと思います。  私が使った資本主義という言葉の中には、多くの人があいまいに理解している資本主義、多くの人があいまいに理解している民主主義の問題があったものですから、取り上げさせていただいたわけです。  現実に、参考人のお話に出てきた問題の中で、卵の提供にしろ胚の提供にしろ、無償ということになります。政府から多くの補助金が出る研究であるということもお話しになりました。先日の委員会でも出たのですが、そういうものに対しての特許の問題、そして、薬品等々に使われる場合、商業化へ行く場合の利益還元の面についての御所見をお伺いしたいのです。  もう一つは、提供について情報開示個人情報の開示との関連が難しかったというふうにお伺いしていまして、けれども、このガイドラインは、第三者を利用するということですので、個人情報はくっついて出ない。とめるということ、ブロックするということがうたわれているというふうに理解しているのですが、その場合、有用として認められた薬品にある段階でかなりの問題点が見つかった場合、個人情報をブロックした場合とのデメリット、メリット。今、少ない時間なんですが、お答えできる範囲でお話をお伺いしたいのです。
  93. 西川伸一

    西川参考人 後の方の質問からですが、デメリットがあっても、現在は個人情報をつけない。使う側からいえば、特に医療で使う側からいえば、実際にはとってくるといういろいろな問題もありますけれども、今度は使うという問題があるわけですね。例えばパーキンソンの患者さんが、この細胞を使われて、ひょっとしたらこの細胞はがんになる細胞かもしれない。そういう意味でいうと、明らかに情報がある方がいいのです。しかし、現在のところは、情報に関しては完全にシャットオフしよう、それで実際に、臨床応用をシャットした形でやっていこうというのが議論でした。  お金の問題に関しても、基本的には、まず利潤をほとんど生まない形でスタートしよう。しかし、先ほどから言いますように、それが定着したり、例えば実際の薬の開発に使われるようなシチュエーションになったときに、当然開示をします。開示してきたものに関して、もう一度議論するという形に多分なるのではないか。ですから、初めから利潤を生まない形で何かが行われていいとはもちろん僕は思いません。ただし、今は慎重にやろうと。  ですから、そこははっきり言うと、先ほどからの民主主義の定義で言いますと、私たちがどういう形で物事を開示したときに他人の懸念に関してある程度こたえたことになるかという、こたえ方の問題を今気にしているわけですね。ですから、かなり慎重にこたえるというこたえ方をします。しかし、そのこたえ方がずっと続くかどうかというのは、資本社会との関係でつくり上げていけばいいと僕は思っています。(北川委員「特許の問題」と呼ぶ)  特許の問題も、そういうことですから同じことです。
  94. 北川れん子

    ○北川委員 時間が来たのですが、最後にもう一つだけ。  そうしますと西川参考人、どうしてもそこが、資本主義での線引きですね。だから、幾ばくかの人がデメリットを受けても、メリットの人間が多ければ、デメリットの人たち、ごめんなさい、許してねという社会が、資本主義の多くの場面で見られますね、ちょっと我慢してと。そこに行き着くのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
  95. 西川伸一

    西川参考人 デメリットというのは、卵のドナーのことをおっしゃっているのだとすると、これは……
  96. 古賀一成

    古賀委員長 ちょっと説明をお願いします。
  97. 北川れん子

    ○北川委員 済みません、卵のドナーではなくて、もしそれを薬品や再生医療といいますか、オーダーメードの自分の臓器移植に使ったものとしての、そういう意味で使った側の。
  98. 西川伸一

    西川参考人 わかりました。  おっしゃるとおりで、もう一つ日本医療に欠けている仕組みが、実験治療という概念だと思います。もちろん、社会的な問題、例えばアメリカでは健康保険、いわゆる社会健康保険が完備していないとかいろいろな問題があって、いわゆる実験治療のあり方というのは国によってまちまちです。  それから、こういうことを言ったら問題があるのかもしれませんが、例えば、十五年ぐらい前にドイツでガンツウンテンという極めてセンセーショナルな本が出て、そこではトルコ人に化けたジャーナリストが、要するにどうやって薬が開発されているかという現場をレポートしているわけですね。ですから、例えばガストアルバイターがいるところでは、また違う形が行われる。ただし、日本に関しては、大衆医療と実験医療が全く区別されずにあるのですね。  ですから、もう一つ、これからの大事な改革のポイントは、インフォームド・コンセントのもとでリスクをしょうという形での実験医療仕組みをつくって、しかしそれは大衆医療とは違う、ですから厚生省も違う形でそこに参加していくというシステムが絶対に必要だと思っています。
  99. 北川れん子

    ○北川委員 本当にどうもありがとうございました。
  100. 古賀一成

    古賀委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。  きょうは、大変お忙しい中、当委員会にお越しを賜りまして、ありがとうございました。大変貴重な御意見を賜りましたことに、委員会を代表しまして、心から御礼を申し上げます。  次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時七分散会