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2000-05-18 第147回国会 参議院 法務委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十二年五月十八日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  五月十六日     辞任         補欠選任      山本  保君     魚住裕一郎君      阿部 幸代君     橋本  敦君  五月十七日     辞任         補欠選任      岸  宏一君     竹山  裕君      森下 博之君     阿部 正俊君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         風間  昶君     理 事                 北岡 秀二君                 国井 正幸君                 竹村 泰子君                 魚住裕一郎君                 平野 貞夫君     委 員                 阿部 正俊君                 岩崎 純三君                 竹山  裕君                 服部三男雄君                 松田 岩夫君                 吉川 芳男君                 江田 五月君                 小川 敏夫君                 角田 義一君                 橋本  敦君                 福島 瑞穂君                 中村 敦夫君    衆議院議員        修正案提出者   北村 哲男君    国務大臣        法務大臣     臼井日出男君    政務次官        法務政務次官   山本 有二君    事務局側        常任委員会専門        員        加藤 一宇君    政府参考人        法務省民事局長  細川  清君        労働大臣官房審        議官       石本 宏昭君    参考人        学習院大学法学        部教授      前田  庸君        日本労働組合総        連合会労働法制        対策局長     熊谷 謙一君        社団法人経済団        体連合会経済法        規専門部会長        新日本製鐵株式        會社取締役    西川 元啓君        全国労働組合総        連合幹事        全日本金属情報        機器労働組合書        記長       生熊 茂実君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○政府参考人出席要求に関する件 ○商法等の一部を改正する法律案内閣提出、衆  議院送付) ○商法等の一部を改正する法律施行に伴う関係  法律整備に関する法律案内閣提出衆議院  送付)     ─────────────
  2. 風間昶

    委員長風間昶君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る十六日、山本保君及び阿部幸代君が委員辞任され、その補欠として魚住裕一郎君及び橋本敦君が選任されました。  また、昨十七日、森下博之君及び岸宏一君が委員辞任され、その補欠として阿部正俊君及び竹山裕君が選任されました。     ─────────────
  3. 風間昶

    委員長風間昶君) 理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い現在理事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 風間昶

    委員長風間昶君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事魚住裕一郎君を指名いたします。     ─────────────
  5. 風間昶

    委員長風間昶君) 政府参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  商法等の一部を改正する法律案及び商法等の一部を改正する法律施行に伴う関係法律整備に関する法律案の審査のため、本日の委員会労働省大臣官房審議官石本宏昭君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 風間昶

    委員長風間昶君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  7. 風間昶

    委員長風間昶君) 商法等の一部を改正する法律案及び商法等の一部を改正する法律施行に伴う関係法律整備に関する法律案を一括して議題といたします。  両案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  8. 角田義一

    角田義一君 民主党・新緑風会の角田でございます。  商法改正案が主な議題になっておりますけれども、御承知のとおり、憲法秩序そのものにかかわる重大な発言総理が行いまして、それに対する質疑も昨日参議院の本会議で行われました。私どもこれは看過できないというふうに思っておりますと同時に、法務大臣役割というのは、もちろん他の大臣も大事でございますけれども、殊のほか憲法秩序をどう維持していくかということについては閣僚の中で総理をある意味では助け、ある意味ではいさめ、そして憲法秩序というものをしっかりやっていけるんだということの非常に重責を担っておる大臣であるというふうに私は認識をいたしてございます。したがいまして、そういう観点からまず法務大臣に幾つかお尋ねいたします。  御案内のとおり、総理が十五日の神道政治連盟議員懇談会の結成三十周年の記念祝賀会で演説をされました。私は、その内容新聞等で見、あるいはニュース等で聞きましてもう驚いて飛び上がった、何ということを言う総理であるか、日本国憲法の何たるかを、申しわけないが全く理解をしていない総理ではないのかと。  しかも、昨日の参議院における本会議では、誤解があれば、誤解が生じたとすれば申しわけないことであっておわび申し上げると、こういうことなんです。自分信念は変わらぬということですから、自分発言は撤回をしないということですから、おまえたちが誤解をしたのは、誤解した方が悪いんだ、こういうことでございますね。これも恐れ入った話なんであって、では私は率直に大臣にお尋ねしますけれども日本国天皇中心とする神の国なんでございますか、どうなんでございますか。
  9. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 今、委員質問いただきました森総理大臣の御発言につきましては、新聞等を通じて私も承知をしているのでございますけれども、昨日、参議院会議におきまして総理自身から発言の御真意について述べられましたように、総理大臣主権在民信教の自由、そういったものを含む基本的人権の尊重という憲法基本的理念及び憲法上の天皇の位置づけというものを十分理解しておられると、そうしたものを踏まえた上で、昨今の少年による相次ぐ重大凶悪事件というものを大変憂慮しておられて発言をされたものというふうに伺っておるわけでございまして、天皇が神であるというよう趣旨で御発言されたものではない、このよう理解をいたしております。
  10. 角田義一

    角田義一君 私がお尋ねしているのは、法務大臣は、日本という国は天皇中心とする神の国であるというふうに一国の総理大臣が言っているのですが、ではあなたもそういう御認識なんでございますか。これは間違いである、主権在民を言っている憲法からいったら、この日本国天皇中心とする神の国である、こんな発言は明らかに憲法違反をしている、憲法を無視している、あるいは憲法を敵視している、こういう発言であると、こういう御認識はお持ちになるんでしょうか、お持ちになっていないんでしょうか。そこを聞きたいです。
  11. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 今私からお答えをいたしましたとおり、日本国憲法というものが発布をされましてから半世紀以上たっているわけでございますけれども日本国民の中には主権在民考え方あるいは信教の自由、そういった物の考え方というのは定着しておりますし、私は、先般の記者懇のときにもちょっとお話をしたわけですが、天皇陛下に対する敬愛の念、そういったものを総理流お話ししていただいたのではないか。先ほどお答えをいたしましたとおり、総理大臣がそうした認識を持っていることはないという御発言でございますので、私もそれを信じたいと思います。
  12. 角田義一

    角田義一君 ちょっと、大臣、的確に答えてくれませんか。  私は全然誤解していないんですよ、あの総理発言を。日本天皇中心とする神の国であると彼は言ったんだ、はっきり。そして、それを撤回しないんだから、信念で言っているわけだよ。いい悪いは別にして、それは彼の信念なんだ。だから、私は全然誤解していないんです。  臼井法務大臣は、日本天皇中心とする神の国である、こういうことについてどういう認識を持っているのかということなんです。この総理と同じ認識を持っているのか、いや、それは総理の言ったことは違いますよ、間違っていますよ、とんでもない話だと、こういうふうに思っておられるのかどうかを私はお尋ねしているんです。
  13. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 先ほど来からお話し申し上げておりますとおり、私は天皇陛下象徴天皇として御尊敬を申し上げております。(発言する者あり)
  14. 角田義一

    角田義一君 商法じゃない。商法の前に憲法があるからやっているんじゃないですか。何を言っているんですか、憲法秩序にかかわることじゃないですか。(発言する者あり)とめるの。委員長のちゃんと許可をもらって質問しているんだよ。(発言する者あり)
  15. 風間昶

    委員長風間昶君) 静粛に願います。
  16. 角田義一

    角田義一君 委員長許可を得て質問しているんですよ。  くどいようですけれども、もっと端的に答えてくれませんか。(「もう終わったよ、きのう、そのことは」と呼ぶ者あり)終わっていませんよ。(発言する者あり)
  17. 風間昶

    委員長風間昶君) 静粛に願います。
  18. 角田義一

    角田義一君 もう一遍聞きます。(「何遍も同じことを聞いてもしようがないよ」と呼ぶ者あり)何を言うか。
  19. 風間昶

    委員長風間昶君) 静粛に願います。
  20. 角田義一

    角田義一君 大事なことだから私は何回も聞いているんです。国民の多くは非常に驚愕もし、一体日本はどうなるかと思っているんですよ、一国の総理大臣がこういうことを言うんだから。  だからもう一遍聞きます。日本天皇中心とする神の国であるということについてあなた自身はどう思っているのかということなんです。
  21. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) その御発言は私の発言ではございませんで、私は今申し上げましたとおり、天皇陛下象徴天皇として御尊敬申し上げておる、こういう私の気持ちをお述べいたしたのでございます。
  22. 角田義一

    角田義一君 これは法務大臣として、あなた、もっとはっきり物を言ってもらわないと困りますよ。  もう一つ聞きます。  「天皇中心にしている神の国であるということを国民皆さんにしっかりと承知していただく。」、こう言っているんだ。これは、天皇が国の中心であって神の国であるということを国民皆さん承知していただく。これで三十年やってきたというわけだ、森さんは。それはそれでいいですよ、本人政治信条ならね。しかし、総理大臣たる者がこのことを言うということはどういうことなんでしょうか。日本天皇中心とする神の国でないと思っている人だってたくさんいるわけだ。現に私もそう思っていないからね、今の日本憲法のもとでは。だから、統制、これは思想の一種の統制ですよ、精神的な自由をこれは認めないということなんですよ、この総理の言っておる発言は。これはどう思いますか。
  23. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 主権在民民主主義国家日本において天皇をどう考えるか、あるいは宗教というものをどう考えるか、これはまさに国民一人一人のお考えによるもの、こういうふうに私は理解をしておりまして、そのような御心配はないように思います。
  24. 角田義一

    角田義一君 御心配はないといったって、あなた、総理大臣国民承知してもらいたいと言っているんだよ。(「法務大臣に聞いたってしようがないじゃない、こんなこと、何遍も何遍も」と呼ぶ者あり)ちゃんとして、あなた、後を聞きなさいよ。(発言する者あり)  これ、その首相の思想、森さんの思想、それはあれじゃないですか、憲法上の精神的な自由というものを否定するおそれがある発言だとは思いませんか。法務大臣として、この発言、そのまま見過ごしていいんですか。どうですか。
  25. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) そのことについては、昨日、先生もお聞きのとおり、参議院の本会議場において、総理大臣の御発言趣旨というものは十分にお話をいただいているものと理解をいたしております。
  26. 角田義一

    角田義一君 もう一つ大事なことを聞きます。  このスピーチの最後にこう言っているんです。「神社中心にして地域社会は栄えていくということを、皆が勇気を持ってしっかりやることによって二十一世紀が輝ける時代になる。」、これはえらいことを言っている、この人は、この総理は。  いいですか、地域社会という中には、もちろん神社の氏子さんもおるでしょう、仏教徒もおるでしょう、キリスト教徒の中にはカトリックもプロテスタントもおるでしょう、創価学会の会員の方もおられるんですよ、また無神論の人もおられるんですよ。それで地域社会というのは成り立っておって、その地域社会をどうしようかというのはみんなで議論をして治めていこう、発展をさせていこうというのが民主主義原理じゃないですか。  これを見ると、「神社中心にして地域社会は栄えていく」、こう言うんだよ。これは戦前の神道、要するに祭教一致神道国家、この思想そのものですよ。こんなことで今の現代社会、この発言が許されると思いますか、総理大臣として。そして、あなたは法務大臣として閣僚の一人でいるわけだ。この総理大臣発言を看過できないでしょう。どうですか。
  27. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 私も今、委員指摘のとおりだと思います。  ただ、御承知のとおり、この総理大臣発言というのは、神道政治連盟という一つ団体の中に御招待をいただいて発言をしたものでございまして、したがいまして、本来でございますれば、今、先生指摘のとおりいろいろな立場の方々おられるわけでございまして、それはその方々のそれぞれのお考えでもってお歩みになるということは、それは当然のことでございますけれども、この神道政治連盟の活動とか、あるいはその経緯を紹介する、そうした趣旨の中で申し上げたものなので、あえてそこのところだけお話をいただいたのではないか、これは私の推測でございますが、そういうふうに感じております。
  28. 角田義一

    角田義一君 どこであれ、言っていいことと悪いこととあるんですよ。憲法秩序というものをきちっと守らなきゃいかぬ、憲法を遵守しなきゃならぬというのは総理大臣としての最大の任務でしょう。その総理大臣が、それは今あなたがおっしゃるとおり、神道政治連盟に呼ばれたかもしれないけれども、まず第一にそこへ行くことがいいか悪いかという問題があるんですよ、私に言わせれば。一国の総理大臣がそういうところへ行っていいか悪いかということだって問題になるんだ。行って、言ったせりふがこのせりふですよ。彼はこのせりふも撤回しないわけだ。信念としてこれは言っているんだ。リップサービスなんというものじゃないじゃないですか。日本の国のありよう地域のありよう、この人はこういう発想日本総理大臣として治めていくんですか。そのもとに法務大臣としてあなた、お仕えするわけですか。どうなんですか。あなた、いさめて、これ撤回させるなりしたらどうですか。
  29. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) もう長くなるのでお読みすることはこの際控えさせていただきますが、ここに国会における陳謝の要旨というものを私、手に持っておりますが、(発言する者あり)これは発言において、御発言いただきました内容というものは昨日の参議院会議場における御答弁の中でもって御理解をいただけるように、総理大臣のみずからの言葉でもってお答えをしているものと思います。
  30. 角田義一

    角田義一君 大臣、私は率直に申し上げるけれども、あなたはこの一連の総理発言を聞いて、あなたは身の処し方をどうするかというと、二つしかないと思うんです。一つは、総理に向かって、この憲法秩序に敵対をする、憲法遵守義務に明らかに違反をする、(発言する者あり)こういう発言をまず撤回させて陳謝をし、そして内閣総理大臣をやめるかどうかということを迫る。そのくらいの法務大臣の気概がなかったら法務大臣やれませんよ。そして、それを迫ってなお総理が拒否したら、あなたは法務大臣の職を辞する、このくらいの信念を持ってもらわなかったら、憲法秩序の番人としての法務大臣役割は私は務まらぬと思うが、どう思いますか。これが最後質問だよ。
  31. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 先ほども御答弁申し上げましたけれども、昨日の参議院会議における総理からの御答弁の中で、日本国憲法に定める主権在民信教の自由についてこれを尊重遵守する、このことについては御本人もそのとおりであるということでお話ししておりまして、もしそういう点に疑問を持たれるということがあるならば申しわけないということで陳謝をしているところでございます。私はこれをもって総理のお考え理解できたと思っております。
  32. 角田義一

    角田義一君 最後。  あなた、そういう発想でいたら、あなた、総理大臣、森さんと同列と私どもはみなさざるを得ない。森さんの責任をあなたも一緒にかぶってもらう以外にありませんな。どうですか。
  33. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 先ほど来、委員も申し上げましたし、私も申し上げましたように、そうした信教の自由、それは一人一人の国民の心の中にあるものでございまして、森総理大臣と私臼井とは別個のものでございます。私は、私の信念に基づいてこれからも活動していきたいと思います。
  34. 角田義一

    角田義一君 一応終わっておきます。
  35. 江田五月

    江田五月君 やはり森内閣総理大臣の神の国発言というのは、総理大臣じゃなくてほかの大臣がやったら、それはもう任命権者によって更迭される、もちろんそれは、自発的に辞任をするということを迫られる場合もあるでしょうが、そういう種類のものなんですね。ところが、言った人が任命権者なものだからこれはどうにもならないというので、どうにもならないで済ませるわけにはいかないんで、私ども森総理辞任を求めなきゃならぬと思いますが、それを閣議の中でどの閣僚もお求めにならないということになったら、もう閣僚も皆同じ責任を負ってもらわなきゃならぬ。私ども、厳しくこれは追及をしていかなきゃいかぬと思っております。  今、角田委員から追及をさせていただきましたが、本来ならそういう内閣、そしてその一員である臼井法務大臣を相手に質問できないとでも言わなきゃならぬところですが、そういう気持ちでおるということをひとつおわかりいただいた上で質問させていただきます。  商法等の一部を改正する法律案、この質問を聞きたいと言われた方が出てしまって、私これから質問しますよと言いたいぐらいですが、法務大臣に伺います。  昭和五十年に「会社法改正に関する問題点」として七項目。第一が企業社会的責任、第二が株主総会制度改善策、第三が取締役及び取締役制度改善策、第四が株式制度改善策、第五が株式会社の計算・公開、第六が企業結合合併分割について、第七が最低資本金制度及び大小会社の区分、こういう七項目を挙げたと。  昭和五十年から今日まで二十数年、この五十年の方針に従って、以来五十六年、六十一年、二年、五年、九年、十一年、十二年とずっと作業が続いてきたというわけですが、これは五十年のときに会社制度について大きく改革の方針を出してそれを逐次実現してきたということなのか。あるいはそうではなくて、大きな方向は示したけれども、やっていくうちにいろんなものがだんだん見えてきて、また新たなテーマが加わってというようなことになっているのか。  この二十数年の間に市場のあり方、会社を取り巻く状況、これは国内外問わず大きく変化をしてきたと思いますが、この間ずっと行ってきた、何回にも分けて行った会社法全面的改正理念あるいは目的、これは何だったのか、途中でどう変わったのか、これをまずお伺いします。
  36. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 会社法というものは、会社の成立から消滅に至る諸段階につきまして、団体及び構成員である株主等の内外の法律環境を規律する法律でございますが、会社を取り巻く社会経済情勢は刻々と変化をするのでございますので、見直し必要性の有無については絶えず配慮をしてまいる必要がございます。  昭和四十九年の商法改正の際に、会社法の大幅な見直しを要求する国会附帯決議がございまして、このことを契機といたしまして、法務省におきましては同年から会社法の基本的な諸問題につきまして検討を開始いたしました。昭和五十年六月には、委員指摘のとおり、企業社会的責任株主総会制度改善策等内容とする「会社法改正に関する問題点」の取りまとめをいたしまして、以後、これに基づきまして緊急性の高いものから順次七回にわたり改正を行ってまいっております。今回が八回目に当たるのでございます。
  37. 江田五月

    江田五月君 五十年のときに大きな枠は見えたと。それに従って、いろんな状況変化に応じて会社というものが経営者経営判断を実現していくために会社組織もいろいろと再編できるようにしていかなきゃいけないというので、持ち株会社も解禁をしたりあるいは株式の交換であるとか合併のことであるとかいろいろやってきて、今回分割と。  これでもうでき上がりですか、まだこれからもいろいろ出てくるということになるんでしょうか。
  38. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 先ほど申し上げましたとおり、基本的なものにつきましては既に方向性をつけて今日まで来ているのでございますが、その間、緊急性ということにつきましてはその時代の背景によっていろいろ変わってきているように思います。今後も、社会情勢の大きな変化の中で改正すべきものはしっかりとやっていくべきだと思います。
  39. 江田五月

    江田五月君 すべきものというのは、今は何か企業再編ということについてはまだこれが残っていますというようなことはありますか。
  40. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 近年、会社合併法から始まりました改正、今回の会社分割法をもちまして一応私どもとしては所定の緊急性のあるものにつきましては手続を済ませた、このよう理解をいたしております。
  41. 江田五月

    江田五月君 再編関係では一応これで終わりと。今後の変化によってまた何か出てくるかもわからない、しかし今見通せているわけではないと。  そのほかに、再編だけじゃなくて、会社が行き詰まった、さあどうするというので倒産法制をどう整理するかとか、あるいは会社の中の動かし方、透明性の問題であるとか、いろいろなことが周辺にはまだまだ残っていると思いますが、企業再編ということでは今私が申し上げたよう理解、これは、法務大臣、同じ理解でいいんですね。
  42. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) そのとおりでございます。
  43. 江田五月

    江田五月君 五十年のときの七項目の第一、今ちょっと大臣がおっしゃいましたが、これは企業社会的責任が挙げられております。一方、この二十五年間の社会経済変化は非常に激しい。  例えば、昨年二月の政府経済戦略会議の答申、「日本経済再生への戦略」、この中では、その第一ページで「日本経済現状認識」に、日本経済の成長の足かせ要因として、「第一に、雇用・年金の先行きに対する不安、財政赤字の急膨張など国民の将来不安の高まりが景気の無視できない抑制要因となっている。こうした不安は、日本型の雇用賃金システムや手厚い社会保障システム制度としてのサステイナビリティー(持続可能性)を失いつつあることに起因しており、新しいセーフティ・ネットの構築が急がれる。」、こういうことが書いてあります。  そこで、西暦二〇〇〇年というこの時代企業社会的責任を踏まえて、今回の会社分割法制の創設に際して、商法上、労働者あるいは雇用、こういうものの保護についてどのような配慮をしたのかお答えください。
  44. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 今回の会社分割法制の創設に当たりましては、労働者の権利が不当に害されないようにするため、商法改正案につきましても最大限の配慮をいたしているところでございます。  まず、会社分割の対象を営業単位とするということによりまして、その営業が解体され、そこで働く労働者の労働の場が奪われるということのないように配慮をいたしているのでございます。次に、分割計画書等によりまして労働契約を記載することによって、営業に従事する労働者もその営業とともに新しい会社に引き継がれるということにいたしておりまして、労働者の雇用が確保されるようにいたしているのでございます。また、分割により承継されるものとされております労働契約というものは承継会社にそのまま引き継がれるのでございますので、労働条件が不利益に変更されるということはございません。さらに、分割後の双方の会社が債務の履行の見込みがなくなるよう分割というものは認められないのでございまして、赤字部門の切り離しにより労働者の雇用が脅かされるということがないようにいたしております。また、未払い賃金債権、社内預金債権等を有する労働者につきましては債権者保護手続の対象とされるのでございまして、その債権の弁済等が確保されるように配慮をいたしているところでございます。  以上、申し上げましたように、会社分割法制の創設に際しましても、商法上も労働者の保護につきまして十分配慮はなされているものと考えております。  なお、会社分割に伴う労働者の保護につきましては、商法で対応できない部分につきまして別に法律で定めることとし、これを受けまして本法と同時に労働者契約承継法案が提出されておるところでございまして、同法案は会社分割により労働者の意思に反して従前の職務から切り離されることがないよう配慮をいたしているのでございます。
  45. 江田五月

    江田五月君 私どもも、こうした内外の客観状況変化に伴って企業再編というのは必要だろうと。それは日本経済を動かしていくために不可欠であって、そのための法制度が古い法制度でいいとは思わないので、新しいさまざまな法制度をつくっていく上で我々も知恵を出すし、またいろいろ提案された知恵について十分に吟味し、必要なものはむしろ積極的にその確立のために努力をしていくという態度でこれまでやってまいりました。  そして、時代が変わってきますと、その企業に働く者が若いときに一遍ある企業雇用の場を持つと、後はもう生涯少なくとも定年までそこにずっと居続けることが大前提だというわけでもなかろう。いろんな労働移動というものも労働市場の中で出てくる時代が来ているだろうという理解も持っております。ただ、そのためにはそういう労働者の労働移動が安心して行えるようにいろんなセーフティーネットが必要だということです。それがまだ十分でないということが現にある。  そうしたことも踏まえ、しかも同時に、そうは言ったって、労働者はやっぱり一遍職場に入りますと、そこが自分の労働生活の場であり、同時にそこで労働することによって得られる対価で家族を養う、社会生活を行う、家庭生活を行う、そういう生活関係ができるわけですから、これは言葉は悪いですが、企業再編の勝手で労働者をどうにでもできるということがあってはいけない。リストラその他についてやっぱりいろんな、会社経営者のためあるいは株主のためだけじゃなくて社会的責任というのが言われるのはそういうところですよね、そこに働く者のものでもあるわけですから。  それを考えますと、この累次の企業再編の中で働く者の保護というものが十分行われてきていないじゃないかというので、その都度国会でも附帯決議などでちゃんとそのことは考えなきゃいかぬということを言ってきているわけです。  今回、大変私たち残念なのは、企業分割、これは我々も積極的に考えましょうと。しかし、企業分割に伴う労働契約の保護、労働契約承継だけでは足りないので、もっといろんな企業再編の中で行われる労働者に対するしわ寄せ、それを総体としてやっぱりなくしていかなきゃならぬ、企業再編に伴う解雇、再編を理由とする解雇、そんなものがあっちゃいけないということで我々は労働者保護法というものを衆議院で出させていただいた。残念ながらその理解を得られず、これは実現するに至らず、今参議院に労働契約承継法が来ている、そういう状況で私どもはこの商法改正についてもいろいろ検討しているわけです。  そこで、具体的に今労働者の保護についての配慮をいろいろおっしゃいましたが、どうも政府案だけではまだ十分でないというのでいろんな折衝をさせていただいた。これは法務省皆さんともさせていただいたし労働省の皆さんともさせていただき、政府部内でも両省いろいろ協議をしながら折衝に応じていただいたと思います。  また、与党の中でも、これは商法ですから、これは労働法ですからを越えて、垣根をどのくらい取っ払えたかわかりませんが、取っ払いながら対応していただいた。我々民主党内の方も、ここは商法の人間ですから、ここは労働法の人間ですから間に垣根がありますよということでなくて、両方協議をしながら対応してきて、対応の結果ぎりぎりの修正というものが衆議院で行われたと思っております。  そこで、修正案の提出者に伺いますが、どういう修正をされましたか。その間の苦労、まだここが足りないんだというようなことも含めてちょっとお答えいただければと思います。
  46. 北村哲男

    衆議院議員(北村哲男君) 修正案提案者の一人の民主党の北村でございます。  修正については二点でございまして、一点は、一番大きな問題は、附則の五条の一項というところにいわゆる労働者との事前協議を定めたということでございます。これは、民法の六百二十五条、すなわち普通の労働者が移転する場合には労働者の同意を必要とするという条項がありますが、この分割法では包括して移転する場合はそれが排除されております。その民法六百二十五条を補完する、あるいはその代償措置として労働者との事前協議を設けました。  もう一点は、分割によって設立する会社、これは三百七十四条の一項五号でございますけれども分割によりて設立する会社分割をなす会社より承継する債権債務、あるいは雇用契約その他の権利義務に関する事項というふうにして、単に権利義務ではなくて、その中に雇用関係というものを明確に入れたという、この二点でございます。  苦労と申しましても、特に最初に申し上げました労働者との事前協議義務を入れたことは、これは画期的なこと。すなわち、先ほど申しましたように、六百二十五条が排除されていることに対する代償措置としての、いわば商法の中に風穴をあけた、労働者の保護を明確にしたという点で重要な事項でございました。大変苦労いたしました。
  47. 江田五月

    江田五月君 修正の前に、もともと政府の案、閣法として出される案が閣議決定される前にもういろんな折衝をやってきたわけです。そして、例えば分割に伴う労働契約の保護に関しては別途法律をつくるというようなことをこの商法改正案の中に入れたんでしたね、たしか。そういうようなこともあったりとか、これは我々がその閣議決定の前にいろんな折衝をしていなければそういうことができたものではなかったんだろうと思っておりますが、そういう御努力を大変多としたいと思うんです。  分割計画書などの中に雇用契約のことをあえて書き込む、これはもともと当然だといえば当然だけれども、確認的、念押し的にあえて書き込んだということで、その点は労働者に対する配慮だということだろうと思うんです。  それともう一つの、今の附則五条一項の労働者との事前協議ということですが、労働者といえば一人一人の労働者ですが、個別に一人一人でなければだめなんだというお考えなのか、あるいはそうでなくて、一定のルールのもとに代理をする者、一人一人の労働者を代理する者、その者が個人の場合もあろうし団体の場合もあろうし、そういういろんなあり方が予定されているということなんでしょうか。提出者に伺います。
  48. 北村哲男

    衆議院議員(北村哲男君) まず、会社会社分割に伴う労働契約の承継に関して個々の労働者との協議を義務づけるものがこの改正案であります。しかしながら、労働組合との協議を義務づけるものではないけれども会社が自発的に労働組合と協議することは一向に構わないというところが一つあります。  もう一つは、これは個々の労働者を対象としておりますが、任意代理の代理人の資格については民法上、商法上特に制限がございませんので、労働組合が個々の労働者から代理権を与えられている場合には会社はこれと協議をしなくちゃならないということになりますので、その代理権を与えられた場合は協議義務が生ずるということになります。
  49. 江田五月

    江田五月君 今のお答えは、これは法務省としてもそれでよろしいですね。
  50. 細川清

    政府参考人(細川清君) ただいま提案者から御説明があったとおり、民法、商法上におきましては任意代理の代理人について資格等の制限がございません。したがいまして、提案者の御指摘のとおりでございます。
  51. 江田五月

    江田五月君 制限はないんですが、しかし代理についての一般論というのがありますね。双方代理であるとか利益相反であるとか、いろんなことがあります。例えば労働者と会社とが協議をする場合に、その労働者の代理人の委任を受けた会社と協議する者が会社の管理監督をする者、人事部長などなど、こんな者であったらこれは協議にそもそもならないので、そういう制限というのは当然働くと考えていいんですね。
  52. 細川清

    政府参考人(細川清君) 代理人に関する民法上の制限がこの場合にも適用になることは御指摘のとおりでございます。したがいまして、御指摘の民法第百八条で当事者双方の代理人になれないということを言っているわけですから、その点についても当然適用があるわけでございます。
  53. 江田五月

    江田五月君 その双方代理の法理といいますか、会社の管理監督の立場にあるような者、会社の一補助者として会社に働く者たちを管理監督するような立場にある人、こういう人は、仮にその協議のときに、会社の代理としてという立場でなくたって、やっぱり会社のそういう立場にある者が従業員を代理して会社と協議をするというのだと、その委任、代理についての一般法理からしてやっぱりそれは妥当でないということは、これはいいでしょうね。
  54. 細川清

    政府参考人(細川清君) 会社側の代理人に労働者が代理権を与えるということは余り想定できないことなんですが、一般論としてはそれは適当ではないということは言わざるを得ないと思います。
  55. 江田五月

    江田五月君 いろんなことが、もうびっくりするようなことが起きますから、やっぱり余り想定できないなどとおっしゃられると、霞が関から見ているだけだということになると思いますよ。  さてそこで、組合の場合、もうこれは確認ですけれども、労働組合の場合であってももちろん労働者の代理として会社と協議をすることはできる。その場合に、もちろん適法な代理権の授与行為が必要だと。その適法な代理権の授与行為というのは、例えば労働組合の規約に会社分割のときの協議は組合が従業員の委任を受けて行いますというようなことが入っておって、そしてそういう規約を前提に組合に加入した人、そういう人は、これは当然に労働組合がその場合に事前協議の衝に当たるということになると、こう解してよろしいですか。
  56. 細川清

    政府参考人(細川清君) 御指摘ような場合には、その当該労働者は当該の労働組合に代理権を与えた趣旨と認めるのが相当であるというふうに考えております。
  57. 風間昶

    委員長風間昶君) 時間をオーバーしていますので、簡潔にしていただきたいと思います。
  58. 江田五月

    江田五月君 はい、わかっています。もうやめます。  その他、今のどういう場合が正当なあるいは適法な代理権授与であるかと、これはいろんな具体例があると思いますので、今後現場でいろいろな折衝が行われることと思います。どうぞ円滑な運営が行われるよう法務省としても指導していただきたいとお願いして、私の質問を終わります。
  59. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 公明党・改革クラブの魚住裕一郎でございます。  今、江田委員からお話しございましたけれども昭和五十年からということでございますので、足かけ二十五年、四半世紀たってようやくというような思いもするわけであります。冷戦終結後の、特にボーダーレス化した現在の経済の中で国際的な競争力をつける、これが今回の会社分割のある意味ではねらいであるというふうに言われているところでございますが、この会社分割法制が何ゆえ競争力アップに寄与するのか、ちょっとその辺について御教示をいただきたいと思いますが、法務大臣、お願いします。
  60. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 今回の会社分割法制の整備というものは、平成九年の会社合併法制の合理化、平成十一年の株式交換制度の導入に続くものとして、企業内組織の再編のための法整備の一環として行われるものでございますが、企業がその組織の再編成を行うことを容易にするということがその経営の効率性や企業統治の実効性等を高めることに資するものでございまして、これによってその競争力を強化することができると、そういうことによるものでございます。
  61. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 分割ということで、あっちのものを切ってこっちにくっつけたり、新たに会社をつくってという形になるわけですが、会社だけがひとりで存立しているわけではなくて、いろんな利害関係人という者がいるわけであります。  そこで、会社法というのは、商法の中で特に会社の部分については商取引の法主体としての会社の基本法になるわけで、その株主でありますとか会社債権者をどう保護していくかということが主眼になって構成されておりますが、この会社分割についてどのように株主あるいは会社債権者の保護を図られているのか、簡略に御説明をいただきたいと思います。
  62. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 会社分割は株主及び会社債権者に対して重要な影響を及ぼすものになるため、これらの保護を次のとおり図ることといたしております。  まず、株主や会社債権者に対して、これらの者が権利を行使するに際しての判断資料を提供するため、取締役は、分割計画書等を株主総会の会日の二週間前から会社分割後の六カ月を経過する日まで、また分割に関する事項を掲載した書面を分割の日から六カ月を経過する日まで、それぞれ本店に備え置きまして、その閲覧に供すべきことといたしているのでございます。  その上で、株主の保護に関しましては、まず分割計画書等について、株主総会の特別決議というものによる承認を要求することといたしておりまして、また分割に反対する株主に対しましては、資本投下の回収という経済的救済を与えるため、自己の有する株式分割の承認決議がなければ有したであろう公正な価額で買い取るべき旨を請求することができる権利というものを付与することといたしておるのでございます。さらに、事後的な救済方法といたしましては、株主を分割無効の訴えの提訴権者に含めるということにいたしたのでございます。  また、会社債権者の保護に関しましては、債権者に異議を述べる機会を与え、異議を述べた債権者に対しては分割会社等が弁済、担保の提供等を行うべきものといたしておりまして、さらに、事後的な救済方法といたしましては、分割を承認しなかった債権者を分割無効の訴えの提訴権者に含めることといたしておるのでございます。
  63. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 そういうような形で株主あるいは債権者の保護というような形になるわけですが、重要な要素として、やはりそこで働く従業員という問題があります。  私は、先ほど申し上げたように、商法、この会社法というのは大事な商取引における会社組織の基本的なあり方を決めるものであって、ある意味では従業員、労働者の保護という社会立法的な要素というのは基本的には入り込む余地がないんではないかというふうに考えておるんですが、この従業員の保護という点につきまして特に配慮した点がございましたら、重複になるかと思いますが、簡略に御説明をいただきたいと思います。
  64. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 委員、今御指摘をいただきましたとおり、会社分割法制の創設に当たりましては、会社の従業員の権利が不当に害されるということがないように、商法改正案につきましても最大限の配慮をいたしているところでございます。  まず、会社分割の対象を営業単位とすることによりまして、その営業が解体をされ、そこで働く労働者の労働の場が奪われることのないように配慮をいたしているのでございます。  次に、分割計画書等が労働契約を記載することによりまして、営業に従事する労働者もその営業とともに新しい会社に引き継がれることといたしておりまして、労働者の雇用が確保されるようにいたしているのでございます。  また、分割により承継されるものといたしましては、労働契約につきましても承継会社にそのまま引き継がれるものでございまして、労働条件が不利に変更されるということもございません。  さらに、分割後の双方の会社が債務の履行の見込みがなくなるよう分割は認められないということにいたしておりまして、赤字部門の切り離しにより労働者の雇用が脅かされることのないように配慮いたしているのでございます。  また、未払い賃金債権、社内預金債権等を有する労働者は、債権者保護手続の対象とされ、その債権の弁済等が確保されるように配慮をいたしております。  なお、さらに労働契約承継法案によりまして、会社分割により労働者の意思に反して従前の職務から切り離されることがないように配慮をいたしております。  以上のように、会社分割法制の創設に際しましても、商法上も労働者の保護について十分配慮がなされているものと考えております。
  65. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 今御説明の中で労働契約の承継というようお話がございました。法文上、会社分割に基づく権利義務の承継というのは包括承継だというような形で構成されておりますが、今の従業員の雇用契約あるいは会社側の、債権者の一環かもしれませんけれども、下請企業とか、ずっと継続的なその企業だけで成り立っているような下請もあるわけでございまして、その労働者と同じぐらいというか、あるいはそれ以上に会社分割に直接の利害関係を有するような下請企業がございます。包括承継というふうに構成することによって、従業員であるとかあるいは下請企業の不安は解消されるのかという点でございますが、いかがでしょうか。
  66. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) 先ほど私は、会社分割による権利義務の承継が営業単位としたものでありまして、これは包括承継とされていることから従業員の地位というものは確保できるんだというお話をしたわけでございます。あわせて、下請企業との間の継続的な契約関係というものも、分割計画書等に記載することによりまして、営業とともに承継会社等にそのまま承継されるということになっているのでございまして、このよう商法改正法案というものは、分割の対象を営業単位とすることによりましてその効果を包括承継とすることにより、分割をする会社と継続的な契約を有する従業員や下請企業の保護にも配慮したものになっているのでございます。
  67. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 今、御答弁の中で営業というように構成したというお話も出てまいりましたけれども、どうも営業という概念が私にとって難しいなというか、イメージとしてはわかるんですけれども、権利義務に分解をして法律考えていく場合に、営業というと何か固まりといいますか、そういうことはもちろんあらわすわけですが、その営業概念ということについて今ここで確認したいということと、承継の対象となった権利義務が営業とは評価できないような場合についてはどうなるのか、お尋ねをしたいと思います。法務当局で結構です。
  68. 細川清

    政府参考人(細川清君) 改正法案におきます営業の意味は、商法の他の部分に出てきます営業と同じ意味でございます。そして、これにつきましては昭和四十年の最高裁の大法廷の判決以来、判例が確立しているわけでございます。これによりますと、営業とは、営業用財産であるもの及び権利だけでなく、これに得意先関係、仕入れ先関係、販売の機会、営業上の秘訣、経営の組織等の経済的価値のある事実関係を加え、一定の営業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産というふうに定義されていると考えております。  二番目の御質問といたしましては、営業と構成することはできない権利義務が分割の対象とされた場合はどうかという御質問ですが、その場合には、分割計画書に記載された権利義務が先ほど申し上げましたような有機的一体性を有しないわけでございますから、分割自体の無効原因となるということでございます。
  69. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 近時、規制緩和とか事後的なチェックという形で私的な私人間の紛争といいますか、あるいは会社とか海外も含めていろいろ紛争というのがふえてくるわけでありますが、例えば仮に契約関係にトラブルが生じていた場合、会社分割をしているときはどこにクレームといいますか、分割会社なのかあるいは承継会社というか設立会社に行くのか、どちらを相手にしてクレームを言っていくのか、この点についてはどうでしょうか。
  70. 細川清

    政府参考人(細川清君) 会社分割による権利義務の承継は、魚住先生指摘のとおり、合併と同様の包括承継に当たるものでございますので、分割計画書、分割契約書の記載に従ってそのまま承継されることになります。したがいまして、紛争が生じている契約関係であっても、それが承継の対象として分割計画書に記載された場合には、分割の効力が生じた後は分割によって設立された会社あるいは吸収分割した会社を契約の相手方とするということになるわけでございます。
  71. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 今まで包括承継というとまとまって全部移動するイメージというか、そういう概念ですよね。だから、相続みたいな場合は、親に相続原因が発生して子の方に権利義務が移っていくという話になるわけです。もちろん相続人が複数いたら株分けのような形になるわけだろうというふうに思うわけですが、前の権利者がいなくなってしまうわけですね。合併の場合も、いろいろな形がありますけれども、複数のものが一つになるようなそういう形になるわけです。今度は一つのものが二つになるとかそういう方向性になるわけで、実はその前の権利者が存続しているということになるわけです。  例えば、今、だれに対してクレームを言っていくかといった場合、民事訴訟が係属している、そういうときに分割された場合どうなるのか。相続だったら訴訟が中断しますね。これ整備法でこの民事訴訟法が入っていないんですが、これはどのよう考えていったらいいんでしょうか。ちょっと御説明をいただけますか。
  72. 細川清

    政府参考人(細川清君) 御指摘のとおり、会社分割による権利義務の承継は包括承継ではございますが、合併の場合とは異なって、訴訟における従前の当事者である分割会社分割後存続しておりますので、従来の訴訟がまず中断するかどうかという問題になりますが、ただいま申し上げましたように、分割会社はそのまま存続しておりますので中断事由にはならない、現行法の解釈でそうなるわけでございます。  今度は、そういった場合に訴訟物たる権利関係分割によって承継された場合、それはどうなるかということですが、これにつきましては、これを承継した設立会社等が参加承継するかあるいは相手方が引き受けの申し立てをするということによってその当事者の地位を引き継ぐことになるということでございます。
  73. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 そうしますと、訴訟といいますけれども、訴訟に先立って、例えばよく法務省で御説明いただいたんですが、鉄道会社が違った部門の工場をやっていたと、工場の重要な機械に対して例えば債権者が仮差し押さえしたと、こういう場合はどういうような形になるんでしょうか、その工場の部分が分割された場合。
  74. 細川清

    政府参考人(細川清君) 分割によって不動産に関する所有権が承継された場合、これと第三者の関係はどうなるかという御質問かと思います。  この場合、民法百七十七条は、物権の得喪、変更については登記をなされなければこれを第三者に対抗することができないという規定になっておりますので、分割の場合にも、これは得喪、変更に当たるものですから民法百七十七条の適用があるというふうに考えられると思います。  ですから、承継をする場合でも、承継をした後に登記を経ていれば、それは承継会社として権利を主張することができますが、承継の登記をする前に第三者が分割会社のものだとして差し押さえをしたような場合には、それは承継会社が承継したものというふうに対抗することができないということになるわけで、これは取引の安全の観点からはこのような結果にならざるを得ないものと考えております。
  75. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 今、登記とおっしゃったから、恐らく不動産とかあるいは自動車とか、そういうことなんでしょうけれども、あれはどうなりますか、機械みたいな場合、工場にある機械。動産ですね。
  76. 細川清

    政府参考人(細川清君) 動産につきましては、民法百七十八条は若干百七十七条と文言が違っておりまして、「譲渡」と書いてあるわけです。ですから、その場合は承継は包括承継でございますから当然には譲渡に当たらないわけですが、法律関係の利益状況考えますと、やはりこれは対抗関係によって解決するのが取引の安全を保護するために必要であると考えます。したがいまして、動産についても同様に対抗関係が必要だということになるわけでございます。
  77. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 いろんな細かい規定も考えておられるようですが、分割会社が負っているとされた債務に関して民事訴訟が係属しているという場合に、知れたる債権者になるわけですが、訴訟が起こっているにもかかわらず、各別の催告がされなかった場合、分割会社も弁済をするというよう責任を負うわけでありますけれども、この場合に分割会社が負う責任法律的な性格、あるいは訴訟の相手方というか債権者というか、その場合、訴訟上どういうような措置をとる必要が考え得ますか。  先ほど何か、引き受けとか参加とかおっしゃいましたけれども、各別の催告をされなかった場合には当然もとの会社分割会社責任を負うわけですから、特に何もしなくても当たり前といいますか、そのまま訴訟を係属すればいいのかなというふうにも考え得ますが、いかがでしょうか。
  78. 細川清

    政府参考人(細川清君) この改正法案の第三百七十四条ノ十第二項が定める弁済責任は、各別の催告を受けなかった債権者を保護するために認めた特別の法定責任でございます。  この場合には、従来の訴訟において訴訟物になっていた債務とは理論的には別のものだということになります。したがって、訴訟の相手方である債権者は分割会社を相手方としてそのまま訴訟を維持することはできないわけですが、しかし、この特別の弁済責任も訴訟物である債務とは関連性があって、その請求の基礎には同一性がありますから、民事訴訟法第百四十三条が適用になりまして、訴えの変更によって分割会社に対する訴訟を維持することが可能だということになると考えております。
  79. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 そうすると、訴えの変更が必要だということは、新たに新しい訴状を出さなきゃいけないということですね。つまり、相手方は同じ、ただ法的性質が違う、けれども新たに印紙を張りつけなきゃいけないということですか。
  80. 細川清

    政府参考人(細川清君) 訴えの更改的変更は、要するに請求原因等の請求の趣旨、多分この御指摘の場合には請求の趣旨は変わらないと思いますが、請求原因は変わるということですから、新たに訴えを提起する必要はないわけでございまして、訴えを変更するということですから、提訴に必要な印紙等を新たに貼付をする必要はないわけでございます。
  81. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 今の法的責任というような言い方で御説明がございましたけれども、これは吸収分割というような場合、一方の会社が催告を怠った、一方は催告をきちっとやったといった場合、両者の間で非常にアンバランスが生じないのかと。つまり、受け取っても責任を負うし、非常にその辺、不公平な形になりはしないかなと思いますが、この点はいかがですか。
  82. 細川清

    政府参考人(細川清君) この点は、御指摘ような問題がありますので、立案過程でも相当議論があったところでございますが、検討の結果を申し上げますと、この弁済責任は各別の催告を受けなかった債権者との間においてこれを保護するために認めた特別の法的責任でございます。  御指摘ような場合には、他方の会社にも責任を負わせることといたしませんと、債権者の保護は図られないということで、結果的には一方の会社が催告手続を怠った場合には催告をした方も特別責任を負うということになるわけです。そういう場合には、御指摘のとおり、不公平が生ずるんではないかという問題が生ずるわけですが、分割の当事会社の内部関係では、債権者保護を怠った会社に対して、債権者保護手続をきちんとした会社から不当利得返還または損害賠償請求という形で求償がされることによって、最終的にはその御指摘の不公平が解消されるというふうに考えているわけでございます。
  83. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 もう時間がなくなってきましたけれども、また最初の方に戻るんですが、国際的な競争力をつけるというようなねらいがあるわけでございますけれども、普通なら大企業ということなんでしょうけれども、ただ我が国はほとんど中小企業でございまして、逆に日本の今後の活力を考えた場合、中小企業に頑張ってもらうというか、そこに創造性の源もあるんではないかと私ども考えておるんですが、やはり中小企業にとっても今回のこの会社分割法制というものを利用する価値が出てくるんではないかというふうに思うところでありますが、このような観点から、この改正法案において特に配慮したというような点がございましたら、法務大臣、お尋ねしたいと思いますが、いかがでしょうか。
  84. 臼井日出男

    国務大臣臼井日出男君) この会社の組織再編を容易にするための会社分割法制の創設というものは、委員指摘をいただきましたとおり、これにより経営の効率性を高め、また株主間の紛争を解決するという観点から、中小企業にとっても必要なものであるということでございまして、中小企業団体からも強い要望があったものでございます。  このような要望を受けまして、本改正法案は、株式会社だけではなくて、有限会社についても同様の会社分割法制というものを創設することといたしたものでございます。
  85. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 終わります。
  86. 橋本敦

    橋本敦君 今度の商法改正法案、労働関係承継法案がこれまでの独禁法の改正あるいは商法改正、一連の経過の上に立って、いわば最終的な総仕上げとして、企業の競争力強化あるいはリストラの一層の促進ということに資するという法案であることは、その実体的なねらいと内容からいって間違いないと思うんですね。  そこで、私は労働者の権利という問題を一体この法案はどういうよう考えておるのかという問題で、その点に絞って質問をしたいと思うんです。  まず第一の問題ですけれども、民法六百二十五条では、労働者の移籍については労働者の同意なしにできないという大原則がある。会社分割に際して、労働者は全然連れていかなくて、そして企業だけ分割をするということで、労働者の移籍は一切認めないよということになると、そのこと自体がまた労働者の権利を重大に阻害することもありますから、だから労働契約を承継するということ自体が、それ自体が私は悪いとは言っていない。そういう手続をするについて、基本原則、大事なことは当該労働者の同意がなきゃできないという、この民法六百二十五条の大原則をどこまで生かすのかということですね。  だから、会社分割に際して、包括的承継だから新たな労働契約はそっちへ行きますよ、首にはなりませんよ、こういうことを労働者保護として大臣先ほどおっしゃるんだけれども、それよりもその新設される分割会社については、先行き不安もあり、いろいろな状況を判断して、私の生涯はこの会社におりたいということで判断をしたいので行きたくないという、労働者が同意したくないという場合に、一切その同意を認めないというのはこれは民法六百二十五条を実質的にはもうないものにしてしまうわけですから、そういうことでいいのかという問題を私は提起したいんです。  その点について、営業譲渡の場合は民法六百二十五条の適用がある、労働者の同意なしには移籍できない、しかし今度の会社分割についてはこれは包括承継だから六百二十五条の適用がないよと、こういうことを衆議院でも当委員会でも言ってこられたんですが、そういう截然とした区別というのは法解釈として果たして合理的理由があるのかどうか。民事局長、改めて聞きたいんですが、どうですか。
  87. 細川清

    政府参考人(細川清君) 営業譲渡は契約による個々の権利義務の移転でございますが、会社分割による権利義務の承継は合併における場合と同様、分割の登記を行うことによって法律上当然に生じるいわゆる包括承継に当たるものでございます。  したがって、使用者が労働者に対する権利を個別に譲渡する場合に関する民法第六百二十五条は会社分割の場合には適用されることにはならないというふうに私ども考えておりまして、この点につきましては、一体として提出された労働契約の承継法案におきましても明文で定められているところでございます。
  88. 橋本敦

    橋本敦君 労働契約承継法案で明文で定められていると、こう言いましたが、その承継法案が明文で定めなければ、あなたがおっしゃっているような解釈だけで間違いなく六百二十五条は会社分割に適用しないと、こう断定できるような裁判例とか、そういうものはありますか。
  89. 細川清

    政府参考人(細川清君) 承継法案がない場合についてでございますが、その場合に民法六百二十五条の類推適用があるかどうかという御質問だと思います。  その場合について、会社合併の場合には、これは当然承継になりますので六百二十五条は適用がないんだというのは考え方としては異論のないところだと思いますが、分割については、それは私どもとしては六百二十五条は適用がないというふうにして考えて立案したんですが、後ほど解釈法論としてどんな解釈が出てくるかということになりますと、従来これについて裁判例等があるわけではございませんので、そこは議論の余地があるのかもしれません。
  90. 橋本敦

    橋本敦君 おっしゃるとおりですね。裁判例でないんですよ。包括承継の場合は民法六百二十五条の適用はしない、労働者の同意権はなくてもよいという裁判例はないんです。  だからこそ、企業組織変更に係る労働関係法制等研究会報告というのがありますが、この研究会報告でも使用者側の意見として、「「会社分割に際し、本来、民法第六百二十五条が当然適用されるところ、労働契約の承継等に関する法律により、はじめて労働者の個別同意が不要となり、労働契約は原則として当然に承継される。」というのであれば、このよう法律会社分割を簡易・迅速にするものとして理解できる。」、こう使用者側は言っておるわけです。使用者側の意見でも、そういう特別法での規定なしには六百二十五条というのがやっぱり適用される、そういうことになりますよということは否定し切れないということを言っているんです。  衆議院参考人で出ていただいた和田肇教授は、法規制や手続から見ますと確かに会社分割は営業譲渡とは異なっておりますけれども、営業の全部あるいは重要な一部譲渡と会社分割とは実態面において、とりわけ労働者の保護の必要性という点から見ますと似た状況にありますと、こう言って、六百二十五条の労働者の同意権を取ってしまうということについては問題があるという指摘をされているのは、私は当然だと思うんです。  そこで、包括承継ということで六百二十五条の個別労働者の同意権を取ってしまう合理的理由がどこにあるのか。これはどこにその理由があるんですか、民事局長。
  91. 細川清

    政府参考人(細川清君) 会社分割法制が成立した場合には、分割を行う場合には基本的には会社と労働者との間で承継に関して協議が行われるということになろうかと思いますが、その協議がまとまらない場合のぎりぎりのルールがどちらがいいかという問題だろうと思っておるわけです。  そして、会社分割は営業を単位として行われるため、承継される営業に従事した労働者の労働契約は分割計画書等の記載に従って営業とともに承継されることとなります。したがって、これは従来の職場が別の法人格を持つように至ったということ、比喩的に言えばそういうことになるわけですから、その場合には、労働者はほとんどの場合、分割前と同じ職務につくものとなるわけでございます。また、会社分割が包括承継でございますので権利義務の内容分割によって変わらないわけでございますので、同一性を保ったまま承継会社へ移転されるため、分割によって労働条件が変更されることはないことになります。  こういうことからいたしますと、協議がまとまらない場合には承継されるという方がむしろ労働者に不利益を与えることにならないのではないかというのが私ども考え方でございます。
  92. 橋本敦

    橋本敦君 それは民事局長、働く立場、労働者の立場から見るのと根本的に違う意見なんですよ。経営者の立場から見ればそうなんです。  当然承継されるけれども、労働者との協議が法案で修正された、そのこと自体は私たちは労働者と協議するというのは当然だと思いますよ。協議が調わなかった場合に、労働者の反対意思や異議いかんにかかわらず、包括承継で当然に分割会社としてそっちへ全部労働契約が行くんだと、そういうことは労働者の利益を守るんじゃなくて、分割を簡易迅速、合理的にスピードアップして進めていくということで経営側の利益に全く沿うものだということは、そのこと自体は明白じゃありませんか。  さっき指摘したように、使用者側の意見として、労働契約は原則として当然に承継されるというのであれば、つまり個々の労働者が異議の申し立てをする、六百二十五条で私はだめよといって同意しなかったらその労働者はもとの会社に残さなきゃならぬ、行く人はいいですよと、こういうことになると会社分割ということについて経営者考えている方向に速やかに行かないわけですから、だから使用者は正直に、労働契約は当然に承継されるというのであれば、そのよう法律会社分割を簡易迅速にするものと理解できる、こう言って賛成しているんですよ。この側面はあります。簡易迅速にできるという側面で使用者が賛成する側面はある、これは間違いないですね。  そういう意味で、民事局長の労働者側の利益になるというお話があったけれども、必ずしもそうではない。むしろ、それは経営者側の利益になる、そういう方向で基本的には法構造としてはあるんだよということを私は指摘せざるを得ないんです。  それでは、労働者側としては、この労働契約承継法案に対してどういう要求をしているのかということを考えてみましょうか。  この研究会報告をもとにして考えますと、労働契約の承継について、労働者側の意見としては、この報告書で摘示している「労働者側意見の概要」、「営業譲渡、合併会社分割等の企業組織の再編に際して、労働者の雇用や労働条件の保護を図る必要がある。」という原則の上に立って、次のように言っています。  「企業組織の再編に際して、労働契約並びに労働契約に基づく権利義務は、原則としてすべて承継されるものとすること。ただし、本人の同意がない場合は、原則として、それまでの契約が継続する」、つまり六百二十五条、この立場をきちんと原則として労働者の権利の一つとして確認せよ、こういうことですね。「企業組織の再編を理由とする解雇等は禁止されるものとする」、それは当然でしょう。それから、「企業組織の再編に際して、賃金、労働時間などの労働条件は、原則として承継される」、これも承継を承認する労働者にとっては当たり前のことでしょう。それから、退職金その他の問題について、労働債権についてこれを保護する、これも当たり前でしょう。要するに、こういう問題について企業組織の再編に際して事前の労使協議が必要だと、行うものとするということを強く要求しているわけです。  そして、この労使協議においては、協議を誠実に進めかつ合理的に進めていくために、労働者側から見れば企業組織の再編に関する情報公開が十分なされていないとできませんから、労働者側の要求としては、労働者並びに労働者代表に企業組織の再編に関する情報提供が行われるものであること、こういう要求をしているわけです。  この研究会で使用者側意見、労働者側意見がありますが、基本的には使用者側意見は法案としては出てきているんですが、こういう労働者側の研究会で示された意見は十分に反映されているのかどうかということが次に問題なんですが、この点は労働省にお聞きしましょうか。  こうした労働者側の意見は、この法案及び労働関係承継法でもいいですが、十分に受け入れたのかどうか、説明してください。
  93. 石本宏昭

    政府参考人石本宏昭君) ただいまの労働側の意見が必ずしも十分に反映されていないではないかとの指摘についてでございますが、私ども、この研究会におきまして御案内のとおり労使からいろいろ御意見を賜りまして、学識経験者の方々に御努力いただきまして報告書をまとめ、またその後、法案にいたすまでにさまざまな検討をいたしまして策定いたしました。  また、衆議院におきまして審議の結果、必要な修正、また附帯決議等が付されておりまして、相当程度のものが入っているものというふうに理解しております。
  94. 橋本敦

    橋本敦君 説明は抽象的で全く具体的でないので、私が指摘した個々の問題について、きょうは時間がありませんからこれから追及していきたいと思いますけれども、労働者側の意見は十分に反映されたとは到底思えません。  もう一つ労働省に聞きますが、この報告書の中におきまして、会社分割における労働関係の承継について、分割に際して労使が留意すべき事項などについて法律に基づく指針を策定する、こういう記載があります。この指針について、どういう内容のものでいつごろどう策定するのか、労働省はどう検討されておられますか。
  95. 石本宏昭

    政府参考人石本宏昭君) ただいまの御指摘の指針は、本承継法案第八条におきまして、労働契約及び労働協約の承継に当たって分割会社及び設立会社などが講ずべき具体的な措置について盛り込むこととしております。  現時点では、例えば三つ例示させていただきますと、一つは、承継される営業に主として従事するあるいは従として従事する労働者の具体的な判断方法、これは省令で基準を示し、指針で具体的にどう判断していくかということを決めてまいりたいと思っております。  また二点目は、分割計画書などにおきまして承継させる労働者の範囲というものを特定する必要がございますが、この記載の方法につきましては、全員の氏名を書くということになりますと膨大な数になります。要するに、労働者の方々が個別に確定されればいいわけでございまして、その書き方、記載の方法。  それから三点目は、衆議院附帯決議がございまして、一方的な労働条件の不利益変更はできないんだといったことをこの指針に盛り込むようにという御指示でございまして、私どもとしてはそれも含めて現在考えております。できるだけ速やかに指針を考えてまいりたいと考えております。
  96. 橋本敦

    橋本敦君 その指針の中に、私が先ほど指摘した、労働者側の要求である労使協議の前提として情報開示ということで、分割に必要な会社関係の経営実態を含めた情報を開示するということを入れますか入れませんか。
  97. 石本宏昭

    政府参考人石本宏昭君) 衆議院におきまして、労働者の理解と協力を得るものとするといった観点の修正がございまして、私どもとしては、この修正を受けまして、省令におきまして、事前の労働組合との協議といったものを省令で書くことを考えております。  その内容として、分割計画書に係ります経営の全体像等についてどう書いていくのかといったことにつきましては、御審議いただいています商法改正案における問題と関連してまいりますので、法務省とよく御相談しながら考えてまいりたいというふうに思っております。
  98. 橋本敦

    橋本敦君 もう時間がありませんから、最後に民事局長、今労働省の方は、この指針について、今言った会社実態の情報開示を労働者側にやるかやらないかは法務省とこの商法改正案、関係があるからよく協議したい、こうおっしゃっているんですが、御意見はいかがですか。
  99. 細川清

    政府参考人(細川清君) 会社分割を円滑に実施するためには、その会社で働く労働者の理解と協力を得ることが必要でございます。したがいまして、理解と協力を得る前提として情報を開示するということは必要になってくるであろうと考えますので、労働省とよく協議の上で相談させていただきたいというふうに考えております。
  100. 橋本敦

    橋本敦君 時間が来ましたので、きょうはこれで終わります。  以後の問題は、次の委員会に譲らせていただきます。
  101. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。  まず、会社分割法問題点についてちょっとお聞きをいたします。  「商事法務」千五百二十五号、一九九九年五月五日号に、「会社分割法制のあり方」として座談会が載っております。その中で、会社分割に対する我が国の企業のニーズとして四点挙げられております。法務大臣官房参事官がその立法理由、立法のニーズについて言っているわけですが、そこをちょっと御指摘したいというふうに思います。  まず、内閣国会に法案を提出する際には、法案提出の理由というか立法の必要性というものを提示しなければならないわけです。分割法制に関する立法のニーズとして、一、企業グループ内の重複部門を分離、集約すること、二、リスクの非常に高いベンチャー的な部門を分離して失敗を会社全体に影響させないこと、三、不採算部門を分離処分すること、四、各事業部門ごとの採算と責任を明確化することが挙げられております。  問題があると考えるのは、不採算部門を分離処分することがこの立法の理由、企業のニーズとして挙げられていることです。不採算部門を分離処分するというと、一見ビジネスライクに聞こえますが、労働者の立場からすれば、これは不採算部門に属する労働者はリストラをされるということが非常にあるわけです。  それから次に、同じようなものが随所にいろいろあるわけですが、「金融財政事情」、一九九九年六月七日号と十四日号なんですが、この中で、「会社分割制度の研究」というものがあります。分社と分割はどこが違うかということを、これは都銀懇話会、都の銀行の懇話会が述べているわけです。  銀行における企業分割のニーズの一つである不良債権の分離については、リスクを遮断することが本来の目的であり、親子関係の残る分社化ではその目的を達成することができない。つまり、分社ですと親会社責任追及されるということがあるわけですが、会社分割にはこういうメリットがあるというふうに答えているわけです。  不採算部門を分離処分することがこの会社分割法の立法趣旨として挙げられていることはどうなんですか。
  102. 細川清

    政府参考人(細川清君) 御指摘の「商事法務」の記事でございますが、これは学者、実務家等により今後の会社分割法制のあり方について議論するという座談会でございます。  御指摘の部分は、当局担当の官房参事官が法案を担当する実務の立場から、分割法制の必要性について当時経済界等から一般に言われていたことを整理して述べた箇所でございます。アメリカでのことを紹介したというふうに理解しております。  分割法制の創設につきましては法制審議会において検討を重ねてまいりましたが、その検討の過程において、不採算部門を分離処分するための会社分割を認めることは労働者の保護の観点から適当でないという意見が強く出されましたため、債務の履行の見込みがなくなるよう分割はできないこととしておりますので、指摘されているような目的は今回の法案の目的とはされていないわけでございます。
  103. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 今回、この歯どめとしてどのようなものが設けられているのでしょうか。
  104. 細川清

    政府参考人(細川清君) 先ほどの他の議員からの質問大臣からもお答えがございました。多々ございますが、不採算部門ということに限りますと、法案においては債権者に対する債務の履行の見込みがあることを分割の要件としておりますので、そのような見込みがないものは分割をすることができないということとしております。そういうことでこれに対する対応を図ったわけでございます。
  105. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 私が非常に懸念を感ずるのは、ずっと財界あるいは「商事法務」といったところで、大きな柱の一つとしてこの不採算部門を分離処分することが、この法律を非常に強く要求したと言われている財界サイドからも非常に言われていることです。  ですから、今回、今、民事局長がおっしゃった各会社の負担すべき債務の履行の見込みがあること及びその理由を記載した書面を本店に備え置くこと、そのことが果たしてこのリストラを目的とする会社分割を防ぐことができるのかどうかと大変思います。  これ以降、例えば六カ月後、一年後、会社分割をしようと思う、不採算部門はできれば将来的には清算をしたい。今の段階ではそれほど債務の履行の見込みがないとかあるとかいうレベルではないけれども、どうも業績が余りよくない。そういう場合に、一たん会社分割をした後、六カ月後、一年後にその部門を倒産させて閉鎖するということは十分できるわけです。その歯どめはあるのでしょうか。
  106. 細川清

    政府参考人(細川清君) 債務の履行の見込みがあることは分割の要件でございます。したがいまして、分割時に存在する個々の債権者に対する債務をそのそれぞれの弁済期に支払う見込みがあることを要件としているわけでございます。  したがいまして、分割当時において分割する会社あるいは分割によって営業を承継する会社、いずれにつきましてもそういった要件が欠けている場合、例えば債務超過になっているような場合につきましてはこの分割は許されないということになるわけでございます。  その以後の問題は新しく会社を設立した場合と同じでございまして、当該会社経営者や労働者がいかにその事業を盛り立てていくかということにかかるわけでございます。
  107. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 結局、将来については何の担保もないというのが今のお答えだと思います。  つまり、今余り業績がよくない、でも債務の履行の見込みがあるということは多くあると思うんですね。つまり、一たんは分割をその段階でする。将来、半年、一年後に会社が業績が非常に悪くなった、あるいはよくよく計算書を後から見ると、粉飾決算などもよく企業はありますから、その六カ月後、一年後に倒産に追い込まれるということはあると思うんですね。  つまり、分割の段階において単に各会社の負担すべき債務の履行の見込みがあることのみを書けば会社分割ができるので、一番初めにこの法律が所望された理由の大きな一つ、不採算部門を分離処分することの歯どめにならないと思いますが、いかがですか。
  108. 細川清

    政府参考人(細川清君) 先ほど申し上げましたが、債務の履行の見込みがあることは、これを判断する上では財産の価額と債務の額との比較に加えて会社の収益予測等も重要な要素になるわけでございます。  したがいまして、分割時点で債務超過にならなかったということだけで直ちに将来の債務の履行の見込みがあるということにはならないわけでございます。ですから、弁済期が一年先であれば一年先に弁済ができるということが要件となっているわけでございまして、私どもとしては、債務の履行の見込みがあることと、それからその理由を詳細に記載するということが法律上要求されておりますので、これによって御指摘ような問題に対処することができるものと考えているわけでございます。
  109. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 分割の際に見込みがあることの立証さえすれば分割ができると。  もともとこの法律は、不採算部門を分離処分する、別の言い方をすれば不採算部門に属する労働者の人はリストラをされてもそれはしようがないということが立法理由の大きなニーズとして掲げられて、四つの柱の一つとして掲げられていたわけですから、会社分割が起きた後に、さっきの話でも、新会社ができたのと全く同じであるからそれについては新しい会社が頑張ってやっていただきたいということですから、何の歯どめにも実はならない。歯どめとして非常に弱いのではないかと思います。  先ほど来、民法六百二十五条との関係質問が出ております。私自身は納得をしていないので、再度お聞きいたします。  民法六百二十五条は、「使用者ハ労務者ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ第三者ニ譲渡スコトヲ得ス」としております。これがなぜ重要かといいますと、配転、出向などの労働判例で、個別的承諾、抽象的承諾は別にしても、常にどこで働くかといったことが変わることについては労働者の同意というのを判例は非常に必要というふうにしてきました。  ところが、会社分割をやればもう全然そういう同意が要らないわけです。先ほどから相続と合併の場合は包括的承継であるから同意は要らないようにこのケースも要らないというふうに説明がされております。しかし、そこにはごまかしがあると思うんですね。  相続と合併の場合は、労働者にとっては、相続はそのまま権利義務を承継いたしますから、自分がどこで働くか、どういうことで働くかということについての変更を受けません。  合併についても、大きいところに吸収されればいいんですが、労働者にとって酷なのは、例えばあるメディアがあったとします。テレビ局とラジオ局と広報、いろいろ、例えばカルチャーセンターがあったとします。自分はテレビ局で働きたいと言っていたのに、カルチャーセンターにたまたまそのとき属していて、そこで不採算部門として切り離されるということがあるかもしれません。自分はテレビ局で働きたい、ラジオ局で働きたいと思っていたのに、カルチャーセンターで一生働くということに決まるわけですね。  それは相続あるいは合併ということとは違う。つまり、分割合併と逆で切り離していくわけですから、そういう意味ではこの民法の規定との整合性について再度御質問します。
  110. 細川清

    政府参考人(細川清君) 民法六百二十五条は、使用者が使用者の地位を譲り渡すときに適用ある規定でございます。したがいまして、包括承継についてはこれを適用しないというのが民法の一般的な解釈であると思っておりまして、私どもは、それが最終的には事案の問題解決としては適当ではないか、適当であろうというふうに考えているわけでございます。  その理由でございますが、やはりこれは会社分割に至っては労使が、労働者と会社が協議するわけですが、その協議がまとまらない最終的な場合にはどうしたらいいかという問題でございます。そのときには、これは従来の職場が営業という形で一体として別法人になるわけでございますので、その職場に従事した人がそのままその労働契約の契約条件も同一のままに承継されるということが、最終的には労働者のより不利益にならない、むしろ利益になるであろうというふうに考えたわけでございます。従前の会社に従来の職務と関係なく残りますと、それはかえって従来の職場と切り離されたということになるわけでございます。  なお、先ほど不採算部門の切り捨てがこの法案の目的だというふうに言われましたが、それはそういう御要望があったことは事実ですが、法案をつくるのは政府でございまして、政府としてはそういうことを目的としているわけではございません。
  111. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 先ほど橋本委員質問に対して、包括的承継に関して民法六百二十五条が適用されないとする判例はないというふうにお答えなさったと思うんですね。民法の六百二十五条の立法趣旨は、労働者は立場が非常に弱いという観点から、その労働者の承諾がなかったら第三者に譲渡をすることができないと決めたものです。  問題を立てかえて、会社分割の場合に、労働者にとって利益の場合もあるかもしれませんが、ほとんどの場合は切り離されていくわけですから労働者にとって大変不利益な場合が生じます。ですから、六百二十五条の立法趣旨からして、会社分割の場合に包括的承継であるから民法六百二十五条は適用にならないというのは、民法六百二十五条の趣旨会社分割制度意味ということからとり得ない見解だと考えますが、いかがですか。
  112. 細川清

    政府参考人(細川清君) 会社合併ように、包括承継の場合に民法第六百二十五条は適用ないというのは、これは通説の考え方だと私ども考えております。そして、今回はその点についても、労働契約承継法案におきましても明文で明らかにしているところでございます。  民法第六百二十五条の趣旨でございますが、これは明治時代に制定されてそのまま残っている規定でございまして、基本的な立法趣旨は、要するにこの労働契約というものが個人的色彩があるもので、そのまま同意がなく個別的に承継するのは適当ではないという、そういう考え方だと思います。  今回の会社分割法案におきましては、分割される営業はそのまま全体的、有機的一体として承継されるわけですから、そこに働く労働者の労働環境と契約条件というのはそのまま承継されるということで、その変更はないというふうに考えておるわけで、先ほど来申し上げておりますように、私どもとしてはこれが適当な解決であるというふうに考えているわけでございます。
  113. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 子会社、下請会社の労働者の保護についてお聞きをいたします。  四月二十日、臼井大臣は、「分割により、下請企業との間の契約関係は営業とともに承継され、理由なく一方的に解除したり契約条件を変更したりすることはできない」というふうに衆議院で答えていらっしゃいますが、下請中小企業の場合も会社分割によって否定的影響を受けることはないと認識してよろしいでしょうか。
  114. 細川清

    政府参考人(細川清君) 会社分割による承継の対象は営業でございます。したがいまして、分割会社とその下請会社との間の契約関係が、当該営業が有機的一体として機能するために欠くことができないものである場合にはこれを除外することはできず、そのまま承継されます。また、これも分割自体によって契約条件が不利益に変更されることはないわけでございます。  また、営業を有機的一体として構成するものでないという場合にはこれは承継されないわけですが、承継されない場合には従来の契約関係分割する会社とそのまま継続するわけでございます。  また、下請会社分割時において分割会社に有する債権については債権者保護手続の対象となっておりますので、こういったことから下請契約関係についても保護が図られているものと考えているところでございます。
  115. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 会社分割は、例えばみずほグループがまず使うのではないかと報道されておりますが、実は会社分割法は中小企業もいろんなところで使えるわけです。中小企業が使った場合に、またそこでいろんな問題が起きるのではないか。  日産の再生計画の中で下請系列会社千百五十社を三カ年間で半分の六百社に整理淘汰する、しかも六百社に対して取引単価を二〇%切り下げることが条件になっているなど、今系列の中での切り捨てのようなものがとても産業界の中で進んでおります。  ですから、きょうはもう余り時間がないんですが、この点については引き続きまたちょっと質問させてください。  現行法制による会社分割と異なり、検査役による調査を必要としない理由について教えてください。
  116. 細川清

    政府参考人(細川清君) 会社分割は、合併あるいは株式交換、株式移転等と同様の組織法的な行為でございますので、株式交換、合併等の場合と同様に、分割会社から承継会社に承継される純資産の額を基準として承継会社の資本増加の限度を定めることとしておるわけでございます。  この場合、承継される純資産の評価については御指摘のとおり検査役による調査を必要としていないものでございますが、承継される営業の価値に関しては、分割会社における各年度の決算の過程で、監査役、会計監査人、取締役会、株主総会等によって審査されること等から、適正な評価がされるものと考えております。  また、合併の場合と同様に、事前開示の対象となる分割計画書は、その会社の財務状況を示す貸借対照表等、そういった開示すべきものを法定しておりますし、債権者保護手続を設けている、そういうことでございまして、さらには分割無効の訴えの提訴権者に株主のほか債権者が加わるというようなことから、実質的に資本充実の原則にこたえることといたしているわけでございます。
  117. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 分割合併、営業譲渡を理由とする解雇を禁止する規定を設けることなくして労働者の保護が図れるのでしょうか。
  118. 細川清

    政府参考人(細川清君) 労働者の保護というものは基本的には私どもの所管とややずれたところがございますが、従来から政府といたしましては、整理解雇に関する四原則が判例上確立しているので、そういったことを周知徹底することによって対応が図られるのではないかという考え方でございます。
  119. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 整理解雇の場合の四原則は判例で確立をしておりますが、最近の労働判例の中では四原則がかなり崩れてきておりまして、整理解雇についての労働者保護が十分に、こんな御時世で経済が悪化しているので仕方ないとして整理解雇が非常に認められる傾向が強まっております。  まだまだ聞きたい点があるんですが、時間ですので、また次回お願いします。
  120. 風間昶

    委員長風間昶君) 午後二時に再開することとし、休憩いたします。    午前十一時四十七分休憩      ─────・─────    午後二時開会
  121. 風間昶

    委員長風間昶君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、商法等の一部を改正する法律案及び商法等の一部を改正する法律施行に伴う関係法律整備に関する法律案を一括して議題といたします。  本日は、両案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、四名の参考人の方から御意見を伺います。  本日御出席をいただいております参考人は、学習院大学法学部教授前田庸君、日本労働組合総連合会労働法制対策局長熊谷謙一君、社団法人経済団体連合会経済法規専門部会長新日本製鐵株式會社取締役西川元啓君及び全国労働組合総連合幹事全日本金属情報機器労働組合書記長生熊茂実君でございます。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  参考人の皆様から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の法案の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますけれども、まず前田参考人、熊谷参考人、西川参考人、そして生熊参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員質疑お答えいただければと存じます。  なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長許可を得ることとなっておりますので、よろしくお願い申し上げます。また、各委員質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いできれば幸いでございます。  なお、参考人の方の意見陳述、また各委員からの質疑及びこれに対する参考人の方々の答弁とも、着席のままで結構でございますので、よろしくお願いします。  それでは、まず前田参考人からお願いいたします。前田参考人
  122. 前田庸

    参考人(前田庸君) 会社分割法制の創設のための商法改正法案につきまして、意見を述べる機会を与えられましたことを大変光栄に存じております。  会社分割法制の創設は、平成九年の商法改正による合併法制の合理化、平成十一年商法改正によります株式交換・株式移転制度の創設とともに、企業再編のための法整備の一環をなすものであります。  現行法のもとにおきましても、営業の譲渡または営業の現物出資等の方法によって会社分割することができないわけではございません。しかし、現行法のもとで会社分割するにはいろいろな問題が存在します。  まず、営業の譲渡の方法による会社分割におきましては、譲り受ける会社の側で営業の譲り受けの対価としての資金を用意する必要があります。これは、大規模な会社分割においては容易ではないという問題が存在します。また、営業の現物出資の方法によりますと、対価として新株が発行されますので、譲り受けのための資金を用意するという必要はございませんが、裁判所の選任する検査役の調査等の現物出資の手続が必要とされ、その対象が営業といういろいろなものによって構成される複雑なものにつきましては相当の期間と費用を要するという問題がございます。  そしてまた、営業の譲渡の方法によるにしましても営業の現物出資の方法によるにしましても、分割する会社の負っている債務を承継する場合、それが会社分割の通常の例でございますが、それにはその債権者全員の個別の同意を得なければならない、このことは債権者が多数の場合には困難であるという問題がございます。  このたびの改正法案は、このような問題を解消しようとするものでありまして、会社分割を円滑に実現するためにぜひとも必要な改正であるというふうに考えております。そしてまた、改正法案における右の問題の解消のための方法というものも適切なものであるというふうに考えます。  まず、改正法案におきましては、会社分割法制は、合併と同様に権利義務の個別的な承継手続ということを必要とせず、権利義務の包括承継の効果を伴う組織法上の行為というふうに理解しております。具体的には、合併の場合には、消滅会社からその権利義務を包括的に承継し、かつその対価として株式が発行されますが、改正法案における会社分割におきましても、営業の全部または一部を包括的に承継する、かつその対価として株式が発行されるという点で合併と共通します。合併と同じ組織法的な行為として理解されるわけであります。そして、このような包括承継の対価として株式が発行されますので、その対価の資金を用意するという必要はないことになるわけでございます。  そしてまた、会社分割の手続につきましては、合併と基本的に同様の手続によるということとされております。具体的には、原則として株主総会の特別決議というものを要件とし、反対株主に株式買い取り請求権を付与する、債権者保護手続を要求する、また小規模のものにつきましては株主総会の特別決議を必要としない簡易な手続を認める等、合併と同様の手続が必要とされ、かつそれで足りるということになっているわけでございます。  したがいまして、合併法制につき現物出資の調査手続が要求されていないというのと同様に、会社分割法制につきましてもそれが要求されないということになるわけでございます。このような方法によりまして、先ほど申し上げましたような現行法における問題点、対価としての資金を用意する必要とか、現物出資の調査の必要等の問題を解消したというのは適切であるというふうに考えるわけでございます。  改正法案は、債権者保護手続につきましては合併の場合よりも厳重な手続を要求しており、このことも適切であるというふうに考えております。債権者の立場から合併の場合と会社分割の場合とを比較しますと、債権者の債権回収に影響を与える可能性というものは会社分割の場合の方が大きいと言わざるを得ないと思います。といいますのは、合併の場合には消滅会社の権利義務の全部が存続会社に承継されます。これに対して、会社分割の場合には、分割計画書または分割契約書に分割する会社から承継する権利義務に関する事項が記載されまして、その記載に従って分割する会社の権利義務が承継されるということになっておりますので、分割する会社が負っている債務を分割する会社と承継する会社のいずれが負担するかということもこの記載によることになります。  したがって、分割する会社がそれまで負っていた債務を免れて承継する会社がその債務を負う、いわゆる免責的債務引き受けというものもその記載によって生ずることになります。このことによりまして、先ほど申し上げましたような債権者全員の同意を得なければならないという問題を解消しているわけでございますが、その結果、債権者の債権回収に影響を与える可能性が合併の場合よりも大きいことになるわけでございます。しかし、改正法案はその点につきましてもこれから申し上げますような適切な対応をしているというふうに考えております。  まず、会社分割の場合には、各会社の負担すべき債務の履行の見込みがあること及びその理由を記載した書面を事前に備え置くということを要求しております。合併の場合には、これは要求されておりません。債権者としましては、この書面を閲覧することによりまして、会社分割による債権回収の可能性に対する影響について判断をし、場合によっては、次に述べる債権者保護手続において異議を述べるという機会が与えられることになります。  そこで、このようにこの書面は重要なものでありますので、私としましては、債務の履行の見込みがあること及びその理由を記載した書面につきましては、その正当性を担保するために、第三者的、専門的な立場にある者の意見書を添付するということが望ましいというふうに考えております。しかし、これを法律上強制する必要はなく、会社の自主性にゆだねればよいというふうに考えており、この点につきましても改正法案は妥当なものであるというふうに考えます。  債権者保護手続につきましても、合併よりも厳しい手続が要求されております。すなわち、債権者に異議を述べる機会を与える方法としまして、合併の場合には、会社が定款で公告方法として定めた日刊新聞紙に掲載をすれば債権者に対する個別の催告は不要とされておりますが、会社分割の場合には、知れたる債権者に対しては個別の催告を要求するということにしまして、個別に異議を述べる機会を与えております。そして、個別の催告を受けなかった債権者、それは、会社に知られているにもかかわらず会社が催告を怠ったために催告を受けなかったという債権者だけではなく、会社に知られていないために会社が個別の催告をすることができなかった、そういう債権者も含まれますが、そのような債権者に対する債務につきましては、分割計画書では一方の会社しか債務を負わないという旨の記載がある場合にも、他方の会社もその弁済の責めに任ずるものとされております。  改正法案は、このような手当てをすることによりまして、債権者の個別の同意を得ないで包括的に会社分割をすることを可能にしておるということでありまして、適切なものというふうに考えるわけでございます。  最後に、雇用関係会社分割との関係につきまして若干の意見を述べさせていただきます。  改正法案は、労働者保護につきましても必要な配慮をしているというふうに考えております。まず、会社分割の対象を「営業ノ全部又ハ一部」というふうに規定しております。ここで営業とは何かということが問題になりますが、これは学問上は経済的価値のある事実関係が含まれるというふうに言われているわけでございますが、そこには当然に労働関係も含まれるというふうに考えられます。したがって、営業の承継により、分割計画書の記載に基づいて労働関係も承継され、労働関係の承継を一般的に除外するようなものは営業の譲渡とは言えない、改正法案のもとにおける会社分割法制には含まれないというふうに考えられます。その結果、労働者にとって労働の場が確保されるというふうに考えられるわけでございます。  また、先ほど申し上げましたように、各会社の負担すべき債務の履行の見込みがあること及びその理由を記載した書面というのが事前開示として要求されております。このことは、分割する会社につきましても承継する会社につきましても、債務の履行の見込みがなくなるよう会社分割は認められないということを意味いたします。したがって、分割による倒産、その結果労働者が職を失うというふうなことを防止しようとしているわけでございます。  また、債権者保護手続につきましても、先ほど申し上げましたように充実したものとなっており、それにより未払い賃金、社内預金債権、既に勤務した期間に対する退職金債権等の労働債権の保護が図られております。  また、附則で、会社分割に伴う労働契約の承継に関連して必要となる労働者保護については別に法律で定めるものとされまして、このたび会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律案が提案されておりますが、これも労働者保護に資するものというふうに考えております。  また、衆議院におきまして修正決議がなされておりますが、その内容も労働者の保護に対する配慮があらわれたものというふうに考えられます。  以上によりまして、改正法案には賛成でありまして、その早期の成立をお願いしまして、意見陳述とさせていただきます。
  123. 風間昶

    委員長風間昶君) ありがとうございました。  次に、熊谷参考人にお願いいたします。熊谷参考人
  124. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 連合の熊谷でございます。  本日は、商法等の一部を改正する法律案及び商法等の一部を改正する法律施行に伴う関係法律整備に関する法律案について意見を述べる機会をお与えいただきまして、まことにありがとうございました。  我が国では、近年、人員削減をねらいとした大規模な企業リストラが進行し、完全失業者数が三百万人を超え、史上最悪の完全失業率が記録されるよう状況となっております。  その中で、この間、純粋持ち株会社の解禁や産業活力特別措置法の制定など、雇用や労働条件に直接影響する企業組織の再編を加速する法改正やその検討が続いております。しかしながら、これらに対応する労働者保護の法制はこれまで極めて不十分なものでありました。  欧州連合、EUでは、一九六〇年代から一九七〇年代にかけて企業組織の再編と移転をめぐる労働問題が多発いたしましたが、それらの経験を経て、民法、商法の修正、労働者保護法制の整備などが進められました。一九七七年には、欧州法とも言えるEU指令として、営業譲渡における労働者保護について欧州レベルの法制が整備をされています。しかしながら、我が国では法制度整備が行われることなく、企業組織再編をめぐる労働問題に直面した職場や労働組合は裁判に訴えることを軸に苦しい取り組みを続けてきたわけでございます。  このような背景がある中で、企業分割を導入するための商法改正案が本国会に提出されたわけであります。法案の内容は、これまでの企業再編法制の総仕上げとも言えるものであります。このため、全国の勤労者は雇用と労働条件の不安定化がさらに進むことを強く懸念いたしました。これにより、本法案の修正と労働者保護法の制定を求める国民、勤労者の声が起こり、職場や地域で各種の運動が展開され、また現在、展開されているわけでございます。また、地方自治体では、東京都、大阪府、愛知県、北海道を初めとする都道府県の議会で、本法案の修正と労働者保護法の制定を求める全会派一致の意見書が採択されております。  こうした背景なども考慮されまして、衆議院では、本法案をめぐり労働者保護のあり方についての厳しい論議が行われ、法案修正が行われ、附帯決議が採択されるに至ったものと考えております。その内容は、分割計画書に記載すべき承継する権利義務事項に雇用契約が含まれることの明記、分割をする会社の労働者との事前協議義務規定の新設であります。また、法案提出段階では、労働者保護の法制とのリンク規定が附則に追加をされました。これらの修正等については、労働者保護の観点から、一定の評価ができるものと受けとめております。  しかしながら、事前協議の対象が労働者と規定され労働組合が明記されていないという問題、さらには労働者保護法制の整備が不十分であるという大きな課題を残しております。したがって、本法案並びに修正案の審議においては次の事項に特段の御配慮をお願いしたいと思っております。  まず、労働者保護対策の強化の問題から述べさせていただきたいと思います。  第一の課題として、労働組合との事前協議の実質性を確保することがあると思っております。労働組合は、憲法に根拠を持ち、労働組合法に定められた組織であり、その主たる目的については労働組合法に、「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること」と明記されております。  会社分割は、通常、労働者の労働条件と地位に重大な影響を与えるものであります。したがって、労働組合が会社分割に関して十分な事前協議を行うことは、会社分割に際して労働者の保護を行うために基本的に必要な事項であり、社会的にも要請されるものであると考えております。  また、労使協議制が、会社における労使の意思疎通を図り、合意の形成を進めることを通じて、我が国において産業や企業における安定した労使関係を築くための基本的な機能を果たしてきたことは明らかであり、この意味からも、労働組合との事前協議は本制度の適切な運営に不可欠であると考えております。  このためには、会社分割に際して労働組合が本法案の修正案に定められている労働者との協議を行うことを通じて、その本来の機能としての事前協議を行うことができることを明確にすることが必要であると考えます。また、労働者との事前協議が適切に行われるよう十分に配慮することが必要であります。  個々の労働者は事業主に対して弱い立場にあることから、法制度上のサポートをする必要があることが労働に関する国の施策の根幹であることは国際的にも確立した考え方であります。したがって、本法案並びに修正案に規定された労働者との協議を適切に実施するためにも、行政として会社分割に際しては、通常、労働組合との事前協議が行われるべきものであることを示し、これを促進する施策を行う必要がある、こう考えております。  また、協議の問題で忘れてはならないことは、労働組合が組織をされていない、いわゆる未組織事業場での労働者との協議の問題です。私ども連合は、労働組合のある職場とは異なり、労働協約で諸課題を扱うことのできない未組織の事業場の問題を重視しておりまして、そのための法制度整備に関する提言を続けてきております。  今回の労働者との協議について、未組織の事業場ではそれをバックアップする労働組合が存在しないため、労働者との協議が形式的なものとなるおそれをなしとはしません。このため、未組織の事業場において労働基準法上の労働者代表と位置づけられている労働者が、労働者との協議について必要な委任を受け、労働者のサポートなどを行えるようにする必要があるのではないかと思っております。  なお、労働基準法では、労働者の代表に選出される者は管理または監督的地位の労働者であってはならないとされています。これは、名目的には労働者の代表と位置づけられていても、人事課長などの職責にある者は不適切であるとの判断によるものであります。したがって、本法案における労働者との協議に関しても、労働者から委任を受ける労働者がそれらの職責を持つ者とならないような配慮が必要ではないかと思っております。  また、労働者との協議は会社分割を行うための主要な手続であることを明確にし、周知すべきであると思います。このためには、労働者との事前協議を行わない会社分割は無効であることを明らかにし、周知すべきであります。同時に、労働者との協議が労働組合にゆだねられているときには、労働組合との協議を行わない会社分割についても無効であることを示すべきではないかと思います。  労働者保護に関する第二の課題は、会社の組織の再編成を理由とする解雇の禁止の問題であります。  解雇については、合理性要件並びに整理解雇の四要件が判例として確立をしております。しかしながら、多くの労働事件の現実が示すとおり、判例では十分な解雇の防止と禁止を行うことは不可能であります。また、多くの識者が示すとおり、社会的ルールとすべき確立した判例は、立法府が責任を持って立法化すべきものではないかと思います。したがって、本来は解雇の禁止が法に盛り込まれるべきものであると考えております。  衆議院の審議では、解雇の禁止が法定されるには至りませんでしたが、本法案並びに修正案の採択に当たり、附帯決議において、会社分割制度が労働者解雇の手段として利用されることがないよう会社の組織の再編成のみを理由として労働者を解雇することができないとする確立した判例法理について周知を図ることというものが確認されました。また、労働契約承継法案並びに修正案の採択においても同趣旨附帯決議が採択されております。  ここで重要と思われることは、判例の周知を行う場合には、法に近い効力を持ち得るような徹底的かつ具体的なものでなければならないということであります。そのためには、事業主団体や業界団体を通じて、さらに各種メディアを通じて判例の周知を行うべきであります。また、周知の状況について客観的な把握を行うことにより、これを徹底させる必要があると思います。  また、企業組織の再編においては、本人の同意あるいはその意思の尊重が極めて重要な課題であります。企業を移籍する労働者については本人の同意が必要であることは、民法第六百二十五条に規定されており、我が国の労働における基本的なルールの一つであります。したがって、会社分割に際しても、企業を移籍する場合には、本来は労働者の同意を前提とするべきものと考えております。したがって、本法案並びに修正案に規定される労働者との協議については、できる限り本人の同意を得る方向で進められるべきものであると思います。  この意味で、衆議院附帯決議で、本制度が労働者の意思を尊重する趣旨であることの周知に努めることとしていることは重要であり、解雇の禁止と同様、具体的かつ徹底した周知が必要であると考えます。また、さきに述べましたとおり、労働組合との事前協議を行うことにより、個人では弱い立場にある労働者本人の意思の尊重を図ることが必要であると考えております。  続いて、会社分割の手順等に関する若干の問題に触れさせていただきたいと思います。  本法案に基づく会社分割に関して最も懸念されてきた問題の一つは、いわゆる不採算部門や将来性に問題のある部門等の分割であります。不採算部門の整理を目的とする分割について、本法案は法制審議会での確認段階から、分割に当たり取締役は、各会社の負担すべき債務の履行の見込みがあること及びその理由を記した書面を備え置くことが義務づけられており、この意味で不採算部門の分割はできないとされております。  しかしながら、過日、全国紙と言われる新聞が社説の中で、会社分割制度の導入により不採算部門の整理が容易になるとの説明をしておるなど、本法案については不採算部門の清算を主要な目的の一つ理解して、あるいは誤解しているものがあります。したがって、不採算部門の清算のための分割は認められないとすることの具体的内容を周知徹底し、法の悪用を防止する手だてを尽くす必要がある、こう考えております。  また、将来性に問題のある部門などの分割の場合には、分割の時点では問題が表面化しなくても、分割後それほどの時期を経ずして倒産し、多くの雇用が失われるおそれもなしとはしません。このような事態を防止するために、適切な行政指導と労使の十分な事前協議が必要であることは論をまたないことと思います。  また、本法案では分割契約書の備え置き書面の閲覧権、分割無効の訴えの当事者適格などに関して、退職金にかかわる債権を持つ労働者が債権者としてそれらを行うことができることが確認されており、手続面での労働者の役割には一定の配慮が行われていると受けとめております。これについて、他の債権者保護手続と同様に活用が図られるよう制度の周知を含む適切な配慮が必要であると考えております。  今回の商法改正案は、労働者保護の問題を中心に多くの論議が行われ、各種メディアが連日の報道をするなど、多くの国民、勤労者が国会審議を注視しており、これからの商法のあり方への関心を高めております。  ここで指摘させていただきたいことは、今回は企業分割を対象とする整備が行われましたが、企業組織再編の有力な手段である営業譲渡については具体的な法的措置が一切行われていないことであります。これにかわり、衆議院法務委員会、労働委員会附帯決議が行われましたが、労働委員会で採択された決議では、営業譲渡、合併における労働者保護の法的措置の検討を行うことを示しております。  これは労働法制にかかわる問題だけではなく、商法のあり方を含め、法務行政にかかわる事項が少なくないと思っております。営業譲渡についても、労働者保護を含みその適切なあり方を確立するために、法務委員会での十分な検討が今後行われるよう強く要請したいと思います。  最後に、制定百余年を迎える商法に関して、今回の審議が商法の二十一世紀における新しいあり方を検討するきっかけとなることを期待していることを申し上げておきたいと思います。  商法は、会社組織のあり方を規定するものであり、その意味国民生活の基本法の一つでありますが、これまでその改正には幅広い国民的関心が向けられていたとは言いがたいと思います。その点、今回の改正案では労働者保護の条文が新設されておりますが、これは商法の歴史の中では画期的なことであろうと思います。二十一世紀商法は、労働者とその組織の位置づけ、さらに情報公開や環境保全の問題を含め、また諸外国の動向等も踏まえつつ再構成することが期待されていると思います。  本委員会におかれまして、二十一世紀商法のあり方を念頭に置かれつつ、本法案並びに修正案に関する充実した審議が行われることを御要請申し上げ、私の陳述とさせていただきます。  どうもありがとうございました。
  125. 風間昶

    委員長風間昶君) ありがとうございました。  次に、西川参考人にお願いいたします。西川参考人
  126. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) 経済団体連合会におきまして経済法規専門部会長を務めております新日本製鐵の西川でございます。  本日は、参議院法務委員会におきまして、参考人として意見を述べる機会をお与えいただきまして、まことにありがとうございます。  それでは、会社分割法制の導入を柱といたします商法改正法案につきまして、これを全面的に支持する者として意見を述べさせていただきます。  グローバルな競争に直面している我が国企業にとりまして、国際競争力を維持強化していくためには、組織再編を通じて経済環境の急速な変化に対応して事業の選択と集中を行い、効率的な経営を行っていくことが極めて重要であると認識しております。しかし、我が国におきましては、諸外国にあるような組織再編に関する法制が長い間十分には整備されてこなかったのでございます。  しかるに、平成九年に至りまして、経済界が五十年間にわたって主張し続けてまいった独占禁止法改正による純粋持ち株会社の解禁がなされ、また商法改正による合併法制の合理化が行われたのを皮切りといたしまして、平成十一年には商法改正による株式交換・株式移転制度の導入が行われたところでございます。この制度は昨年十月に施行されたわけでありますけれども、この四月までに既に四十五件の株式交換がなされております。また、株式移転につきましては七件が行われているという状況でございます。また、同じく平成十一年でございますけれども、産業活力再生特別措置法が制定され、分社化を容易にする制度が創設されるなど、企業の組織再編に関する制度整備が相次いで急速に進んでまいったのでございます。これも経済社会の激しい移り変わりに対応して、我が国企業が諸外国の企業と競争する場を国際的に遜色のないものにし、国際システム間競争をリードしようとする国会議員の皆様を初めとする政策立案や決定に当たる方々の御英断のたまものと理解しているところでございます。この機会に、経済界を代表いたしまして、御関係の皆様に対しまして厚く御礼申し上げる次第でございます。  また、本日の審議事項であります会社分割法制に関しましても、平成十一年三月三十日の閣議決定の規制緩和推進三カ年計画におきましては、平成十二年度をめどに結論を得ることとされていたところでございますけれども、産業競争力会議等における経済界の要請などを故小渕前総理にお受けとめいただき、法制審議会においては一年間の前倒しで結論を出していただいたところでございます。経済界といたしましては、小渕前総理のリーダーシップに敬意を表しますとともに、他の法案に先んじまして本法案を御審議いただいております本法務委員会先生方に対しまして厚く御礼申し上げる次第でございます。  それでは、ここで会社分割法制の活用方法につきまして御説明申し上げます。  御高承のとおり、本商法改正法案からいたしますと、会社分割として、人的分割と物的分割、新設分割と吸収分割、これを単独で実施する場合と他社と共同で実施する場合、こういう組み合わせがありますし、また一部は人的、一部は物的等といろんな類型が想定されるわけでございますけれども、ここでは四つの事例について御説明をいたしたいと思います。  まず第一でございますけれども企業の既存の子会社群の再編成の利用でございます。企業によりましては千社を上回る子会社を有するところもあるわけでございまして、この中には長い歴史の中で複数の子会社が同じような研究をしておりましたり、同じような事業を行ったりといった重複が生じてきております。このような場合に、人的分割型の吸収分割、これを活用すれば重複している研究開発でありますとか事業を、A会社にはA′関連、B会社にはB′関連といった具合に、キャッシュを伴うことなく選択と集中による子会社群の並列化、これが可能となるわけであります。  現行制度のもとでは、このよう再編成というのは人的分割制度が存在しておりませんのでそもそもできないのでございます。また、前田参考人からるる御説明のあったところでございますけれども、現行法上は会社の債務を他の会社に移転するには債権者の個別の同意を得なければならない。しかしながら、会社分割法制が利用できるようになりますればこの個別の同意は不要となります。企業にとっての事務負担が大幅に軽減されることとなるということでございます。  日本興業銀行、第一勧業銀行、そして富士銀行が、統合により、みずほフィナンシャル・グループを構成しようとしておりますけれども、まず株式移転によって三行の親会社として純粋持ち株会社を設立し、その後に部門ごとに事業を機能的に再構築するということでございます。この場合にこの会社分割法制が活用されることとなると考えているのでございますけれども、万が一商法改正法の成立がおくれることとなりますと、かかる金融再編がおくれ、ようやくその兆しが見え始めた我が国の景気回復にも大きな影響を与えかねないと危惧するところでございます。  第二番目の利用でございますけれども、経営効率を高めるためにある事業部門を切り出して子会社を設立するといういわゆる分社化、これが物的分割型の新設分割の利用によりまして簡便にできるようになるということでございます。すべての事業部門を切り出すことによる純粋持ち株会社化も容易にできるようになるということであります。  現状の現物出資、事後設立または財産引き受けといった分社化の手続では、先ほど申し上げましたように、債務を個別に移転する手続が必要であることに加えまして、現物出資による会社設立の手続が完了するまでの間営業を停止しなければならない、また裁判所の選任する検査役の調査が必要とされており、時間がかかり過ぎる、あるいはどのくらいの時間がかかるのかわからない、スケジューリングができない、こういった問題があるわけでございます。今回御審議中の会社分割法制では、営業を停止する必要がない、検査役による調査が不要となる、そういうことからこの問題が解消されることとなるわけであります。  法案が成立、施行されれば、現行の手続で行われております分社化の多くは会社分割の手続で行われることになるものと思います。特に、分割の規模が小さい場合には、株主総会に付議することなく分割が可能となる簡易分割制度も採用されておりますので、この傾向が強まるものと考えます。  第三番目の利用でございますけれども、他社からある事業部門の営業を譲り受ける場合に、物的分割型の吸収分割、これを活用することによりまして、現行の営業譲渡法制に比べまして、現金の支出が不要であり、また債務の移転手続が簡便になることから、この方式も多く経済界において利用されることとなると思われます。  最後に、第四番目でありますけれども、既存会社がみずからを分割して相互に資本関係のない状態にするものでございます。先ほど申し上げましたように、これは現行法上不可能でありますけれども、このたびの法案にあります人的分割型の新設分割、これを活用すればこれが可能となるのでございます。  多数の事業部門を抱えている企業の中には、優良部門がその他の部門に埋没して企業価値が低く評価される、いわゆるコングロマリットディスカウントなるものが生じているというようなところがある、こういうふうに言われております。市場の選別にさらされ、株主重視の経営が定着する中で、相互にシナジー効果のない事業部門にあっては、成熟産業を切り離し、将来性のある事業を継続させる、またはその逆を行うということでコングロマリットディスカウントを解消しようという企業が今後あらわれてくるものと思います。  また、同族経営の企業でございますけれども、特定の親族の独立を円滑に行う、また場合によっては同族株主間の紛争を解決するため、あなたはこの事業を行う会社の株主に、私はその他の事業を行う会社の株主になるといったぐあいに会社分割を行うことも考えられます。こうしたケースは比較的小規模な会社において考えられるわけでございますけれども商法改正法案では有限会社分割法制の手当てもなされており、このような中小企業のニーズにも十分配慮したものとなっているところでございます。  先ほどから参考人の方々からいろいろ意見が出ているところでありますけれども、労働者保護法制につきまして一言申し上げたいと思います。  現在御審議中の法案は、衆議院におきまして労働者保護の観点からの修正がなされました。すなわち、会社分割に伴う労働契約の承継に関しては、分割をする会社は労働者と協議をすることが義務づけられたことでございます。会社分割に当たりましてこうした協議を行うということは、雇用を含めた社会的責任のある企業としてむしろ当然のことであり、それを法律で明確化することについては異存のないところでございます。  協議の時期でございますけれども取締役会で分割を決議する前にこれを実施する、これは不可能でございますけれども、修正案は、分割計画書または分割契約書を本店に備え置くべき日までに、すなわち株主総会の二週間前までということでございますけれども、となっていることから、実務上の対応も十分に可能である、こういうふうに考えております。この協議は労働者の同意までをも必要とするものではないとのことでございますけれども、経営としては、従業員の理解と協力を得るよう誠実に努める、それは申すまでもないことでございます。  以上、会社分割法制の導入につきまして賛成意見を述べさせていただきましたけれども、今回の商法改正法案のその他の二点につきましても賛成でございます。簡易営業譲り受け制度、この導入につきましては経済界のかねてよりの要望でございましたし、子会社の計算による利益供与禁止規定についても当然のことと受けとめております。  ここで、会社分割につきまして、この場をおかりして、商法以外の分野における幾つかの今後の課題について若干申し上げたいと思います。  商法のみを手当てしていただくだけでは円滑に会社分割を行うことは困難なのでございます。税制、上場規則といった関連諸制度整備が不可欠でございます。  まず、税制でございますけれども会社分割を行いますと資産の譲渡益課税等の問題が生ずる可能性があります。しかしながら、企業の組織形態の選択に対する税制の中立性を確保する、こういう観点から、会社分割法制を活用した場合には、課税の繰り延べをしていただきたく、税制上の手当て、すなわち資産の簿価譲渡の許容でありますとか、引当金、準備金の承継の許容でありますとか、株主への課税繰り延べでありますとか、登録免許税、不動産取得税の減免等、これをお願いいたしたいと思います。  また、今回の商法改正法案におきましては、経済界が要望してまいったスプリットオフ、スピンオフといった米国型の間接分割方式についての規定が設けられておりませんけれども、これは立法措置をとるまでもなく、解釈上これを認め得る余地がある等の理由によるものであるとされておるところであります。しかし、既存の子会社株式を株主に分配するといったこの間接分割につきましても、課税繰り延べ等の税法上の手当てが整いませんと現実にこれを実行することはできないのでございまして、かかる措置を講じていただければと思っているところでございます。  さらに、税制の問題では連結納税制度の早期の整備が求められております。先進諸外国の大部分は、何らかの形で企業グループが一体として納税する制度整備しているのでございまして、先ほど申し上げましたとおり、企業組織選択への税制の中立性、これを確保する観点から、また国際システム間競争という観点からも、ぜひとも連結納税制度を早期に整備していただきたく、この場をかりてお願い申し上げます。  また、上場規則に関しましても、株主段階からの人的分割を行った場合には、株主は既存の会社の株と新しい会社の株、これを持つことになるわけですけれども、この新しい会社株式が売買できなければ会社分割の実効性というのは大きく損なわれることとなるわけであります。人的分割によっても、分割前に公開企業であった会社はその公開が維持できる、また分割によって新設された企業はその公開が迅速にできるよう証券取引所等の規則の見直しが必要となるわけでございます。  さて、会社分割法制が整備されますれば、組織再編法制は一応完了すると言われております。しかし、グループ経営の充実の観点から商法でさらに手直しをお願いしたいものがございます。  例えば、子会社取締役、従業員に対して親会社株式のストックオプションを与えること、それから事業部門や子会社の業績に連動する株式、いわゆるトラッキングストックと言われていますけれども、これをお認めいただきたいこと、キャッシュ・アウト・マージャー制度の導入、あるいは有限責任事業組合制度、米国ではLLP、LLCと言われておりますけれども、といった新しい事業遂行組織の導入でございます。こうしたグループ経営を充実させる諸制度につきましても、今後の課題として御検討いただければと存じます。  また、会社分割もそうなのでありますけれども合併株式交換、株式移転といった組織変更を行うためには、簡易な案件を除きましては株主総会の特別決議が必要でございます。しかしながら、株式持ち合いの減少、外国人株主の増加、年金による株式の保有、そういう事情によりましてその定足数の確保が極めて困難な状況になってきております。この特別決議に関する定足数のあり方につきましても、諸外国の法制等を研究しつつ、その見直しを早期に御検討いただきたく、この場をかりましてお願い申し上げるところでございます。  以上、商法改正法案の一刻も早い成立を切に希望いたしますとともに、関連諸課題の達成に向けたお取り組みをお願い申し上げ、私の意見陳述を終わらせていただきます。  どうもありがとうございました。
  127. 風間昶

    委員長風間昶君) ありがとうございました。  次に、生熊参考人にお願いいたします。生熊参考人
  128. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) きょうの法務委員会で意見を述べる機会を与えていただきましたことにお礼を申し上げたいと思います。  私は、全国労働組合総連合の幹事であると同時に、全日本金属情報機器労働組合、産業別組織の書記長をやっております。  私たちの労働組合は、略称をJMIUというふうに申しますけれども、鉄鋼から金属製品、一般機械、電機、自動車、精密機械、いわゆる大金属というふうに言われるような産業別の労働者を対象とし、またコンピューター関係を組織している労働組合です。  一九九二年の夏からいわゆるリストラというものが始まってきたわけですけれども、それ以降、私たち労働者の雇用と権利を守るために頑張ってきたわけですけれども、最近も次々に新手のリストラというものが行われてきています。私たちの労働組合がその中で多分相当大きな経験をしてきているんではないだろうか、その多くを経験しているんではないだろうか、このように思っているところです。  まず最初に、労働者の職場あるいは権利、その実態を踏まえて十分な審議をお願いしたいということを最初にお願いしておきたいと思うんです。  本法案は、会社の組織の再編成を容易にするために会社分割制度を創設するというふうにされています。本案とは別に、労働契約承継法案が審議されているわけですけれども会社には必ず労働者がいるわけです。会社組織の変更が労働者の権利や雇用や労働条件に全く無関係であるということはあり得ないわけです。この二つの法案はまさに一体なものだというふうに思いますので、この会社組織再編成が労働者にどんな影響を与えるのか、この実態を踏まえて審議されることを要望しておきたいと思います。  二つ目に、それでは、企業組織の再編成によって今どんなリストラが進められているんだろうか。今の職場の実態に基づいてお話をしてみたいというふうに思います。  まず第一に、高見澤電機、これは東証二部上場企業ですけれども、その例を挙げたいと思います。  親会社が富士通というところで、資本金の五三%を有しています。その子会社である高見澤電機の信州工場の労働者に次のような提案がされて、いまだに紛争が続いております。  信州工場の業務、リレーというふうに申しますけれども、いわゆる継電器、電気が通電するかどうかを制御する部品でありますけれども、これを子会社の千曲通信、つまり富士通にとっては孫会社ということになりますけれども、そこに営業譲渡をする。二百十八人の労働者はその孫会社への転籍、賃金四〇%ダウン、労働時間が年間二百時間も延長される、この条件での延長を求められました。残る百三十五人は余剰人員として希望退職に応じることを強要された、こういうことです。  労働組合は二つありました。一つの方の従業員組合、これは、営業譲渡で仕事がなくなる、そのためにやむなく転籍に応じるということになりまして、転籍百八十六人、希望退職が五十九人という大変多くの犠牲を背負いました。  私たちは、高見澤電機の信州工場を存続するための協議、例えばそのための条件はどうするのか、このことについての協議を申し入れましたが、全く拒否されたために、私たちの組合員百人は、転籍も希望退職も受け入れずに高見澤電機に残留して働いて、工場存続と企業の再生を求めて闘い続けています。  今、高見澤電機の信州工場は、私たちはベルリンの壁というふうに言っているんですけれども、高見澤電機と千曲通信というこの二つの会社が工場の中に共存し、壁で仕切られております。そのために、こんなむちゃな企業組織変更のためのリストラのために、優秀な技術者が仕事を奪われる、技術や技能も分断される、クレームや不良品が続出をして、企業の経営と物づくり基盤に深刻な悪影響を与えています。  こういう事例からもわかりますけれども、営業譲渡という形で仕事が奪われてしまえば、労働者は本当に首を覚悟で、腹をくくって闘わない限り、雇用の確保のことを考えれば転籍や労働条件の大幅切り下げに応じざるを得ない、こういう状況に置かれます。こういう問答無用の企業組織の変更によって労働者に一方的に犠牲が強要されることのないような保護措置が必要になっていると思います。  また、この事例の場合は、労働組合の弱体化を図るという不当労働行為も背景にあります。今後、信州工場を切り離してスクラップにする、こういう流れの中で会社分割などが悪用される危険はないのか、私たちは強く懸念を持っています。  二つ目に、アジアエレクトロニクスというところの例です。  これは親会社が東芝です。この九〇%の仕事を占めていた半導体の試験機事業をアドバンテストという会社に営業譲渡しました。そして、その子会社のアドバンテスト・テクノロジーに労働者は仕事とともに転籍をしてくれ、二百二十五人です。不採算部門の電子機器事業に八十三人を残す、百七十六人は希望退職。四月一日に私たちの抗議を無視して強行しました。  その結果、半導体試験機部門の営業譲渡で仕事がなくなり、不本意であっても転籍に百八十人が応じるという事態も生まれました。希望退職は百三十人。アジアエレクトロニクスには今百六十九人の労働者が残って、雇用と仕事の保障を求めています。  この場合も、営業譲渡というやり方はとられていますけれども、実際には会社分割とも言えるものです。利益を生む主力部門が譲渡をされ、採算がとれない部門だけ残した会社の将来展望を見出すということは極めて困難だというふうに思います。  入社するときに会社を選ぶのは本人です。しかし、どの部門で働くのか、それは会社の意思によって決められます。会社が一体のときは、不採算部門も含めて全体として雇用を維持する努力をし、その責任が問われると思います。しかし、会社分割されれば、不採算部門を会社ぐるみの形でなくすこともでき、整理解雇の四条件は形骸化することになりかねないというふうに思います。  三つ目に、西神テトラパックというところの例です。  これは、外資のテトラパックの日本法人、日本テトラパックの子会社で、兵庫県の神戸市にあります。牛乳パックなどを製造しています。もう一つの製造子会社が静岡の御殿場にある御殿場テトラパックです。この二つの子会社を一たん解散して御殿場に新会社をつくる、神戸の労働者も転籍をしてくれというものです。  雇用を守ると言いますけれども、この施策が強行されれば、神戸から御殿場へ移るということは事実上不可能です。二百人もの労働者が失業することになりかねません。  ある家族は、この大不況の中で一家の大黒柱である主人の仕事がなくなったらどう生きていけばいいのか、病気の両親を残して新工場の御殿場に行くことはできない、子供にもせっかく友達がたくさんでき楽しい保育園生活を送っているのに、また一から新しい友達をつくらなければならないのは大変かわいそうでなりません、とても耐えがたいものだ、このように訴えています。  このような場合も、会社分割の手法をとって進められたら、分割計画書に記載された労働者は遠隔地へ行くということも含めた転籍も本人の同意が不要になり、実際には自己退職が強制されることになる危険が大きいというふうに言わなければならないと思います。  こういう例を見てもわかりますように、一つは、やっぱり大企業というものが必ず背景にあるということ、それからもう一つは、実際に今このような営業譲渡や分社化とかさまざまな形で行われているリストラが、会社分割法が成立したらこれを利用してもっと激しいリストラが進むのではないか、そういう危険を私たちは強く感じております。  もう一つ述べたいことは、私たちはこのような不当なリストラと闘って、労働者の雇用と権利を守るために闘ってきましたけれども、リストラでは企業の再生も日本経済の再生もできないということです。既にリストラによる失業者の増大や生活と雇用不安による消費支出の低下が四年連続、不況から脱出できない、それは既に共通認識になっているというふうに思います。  もう一つ重大なことは、リストラによる人減らしによって手抜きや検査不足、あるいは人間の体に備わった技能の流出、成績主義管理により職場で助け合う関係がなくなって、技術や技能を後輩に教えない、こんな風潮も広がっています。このことが今、日本の物づくり基盤を揺るがしています。  昨年十一月、奥田日経連会長が記者会見でお話しになった、物づくりの国の日本として非常に致命的な問題で、危機感を感じる、それにはそういう背景があると。私たちも、立場は違いますけれども同じよう認識を持っているところです。  最後になりますが、その上に立って、会社分割法案、あるいはそれと一体のものとして私たちが考える労働契約承継法との関連も含めて意見を述べたいと思います。  まず第一に、十五日の参議院会議における審議で、不採算部門を切り離す分割の問題については、債務履行の見込みがあることが要求される等々、そういう心配はないということが言われました。しかし、それはどこで担保されるんでしょうか。株主総会の議決事項ですらなく、その文書を備えなければならないということにすぎず、その信憑性も問題になりかねないと思います。  後で問題が起きて、労働者が失業して、その後で無効だというふうに唱えてみてもそれはもう遅いのです。もしそういう心配がないというならば、分割会社、設立会社、双方が連帯保障、連帯責任で労働者の雇用と労働条件を保障することが必要ではないでしょうか。今、連結決算ということで企業同士の連結が強化をされます。そういう面からもこの連帯保障ということは大変大事ではないかというふうに思います。また、労働者に分割無効の提訴の権利も認めるべきだと思います。  二つ目に、会社分割に伴う分割計画書に記載された労働者の転籍は、先ほどから申し上げましたように、会社の将来やあるいは遠隔地への異動も含む転籍など、労働者の暮らしと雇用にかかわる重大な判断が求められるものです。そういう点では、民法第六百二十五条一項に規定されているように、転籍に関する本人同意は絶対に必要であるというふうに思います。  三つ目に、今の問題と関連をしますけれども、一定の労働者を従たる営業に従事する労働者から主たる営業に従事する労働者へ配置転換するということがあり得ます。例えば、分割する会社にその労働者を移そうとしたときに、その前に配置転換をしておくということもあり得るわけです。いずれにしろ、すべての労働者の転籍同意を外すことは許されないというふうに思います。職場で起こる問題はまさに生き物です。法律で予定をしていないものでも起こりかねない。そういう点での保護が必要だというふうに考えております。  四つ目に、労働協約については、無条件に承継されなければ、長い間かかって築き上げてきた労働条件や労働者、労働組合の権利、労使慣行などが一夜にして崩される危険があります。  五つ目に、会社分割が進めば、持ち株会社が経営の実権を持つということが広く存在することになります。持ち株会社責任を明確にして、持ち株会社と各事業会社の労働組合との団体交渉権も保障することが必要だというふうに思います。  六つ目に、会社分割は労働者の雇用と労働条件に大きな影響を与えることは明らかです。そういう点で、労働組合との、少数の労働組合も含む事前協議と同意、これを義務づけることがどうしても必要だというふうに思います。同意がどうしてもできないというならば、事前協議の間は一方的に実施をしない、そういう項目も必要だろうというふうに考えております。  七つ目に、労働者の雇用と権利を守る上で、最低でも今述べましたような条件が必要だというふうに考えています。これらの条件を満たさない会社分割法案は、逆に人減らしリストラを推進することになりかねないというふうに考えております。このままの状態ではこの法案の成立には反対であり、廃案を求めたいというふうに思います。  最後になりますけれども、今必要なのは、今回触れられておりません営業譲渡や合併の問題も含めて企業組織の変更にかかわる労働者保護法の制定だというふうに思います。また解雇規制法の制定だと思います。労働団体では連合、全労協、全労連、すべての労働団体がこの労働者保護法の制定を求めています。日本共産党と民主党がそれぞれ既に法案も提出をしています。その成立を私たちは心から望んでいるものです。  以上で私の陳述を終わりたいと思います。  ありがとうございました。
  129. 風間昶

    委員長風間昶君) ありがとうございました。  以上で参考人の意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  130. 北岡秀二

    ○北岡秀二君 自由民主党の北岡秀二でございます。  四人の参考人の皆様方、大変貴重な時間、そしてまたなおかつそれぞれのお立場で貴重な御意見をいただきまして、まことにありがとうございました。  私の方からは、それぞれに基本的な領域での御見解を、基本的な分野での御意見をお伺いしたいと思います。  まず、前田参考人にお伺いをいたしますが、経済社会をめぐる変化に伴い、商法改正がここ数年間、毎年のように行われてきたというようなことでございます。今回の改正でこれで一段落したというような見解をお持ちかどうか、そしてまたなおかつ、一段落したかどうかということに関連してなんですが、会社再編に伴う親子会社とその株主や債権者との関係など、新たな問題も発生するんじゃなかろうかということも予想されるわけでございますが、今後もなお見直しが必要だとお思いでありますかどうかということをお伺いします。
  131. 前田庸

    参考人(前田庸君) お答えいたします。  とりあえずの基本的な枠組みは、合併法制、持ち株法制、それから会社分割法制、これで一応再編のための基本的枠組みはできたとは思いますけれども、まだその中で取り残されている問題というのも存在するかと思います。  例えば、先ほども御指摘ありましたように、持ち株法制のための商法改正の際に、親子会社における親会社の株主は、今まで直接会社の株主として会社に対して意見を述べられたのが、株式交換・移転によりまして親会社の株主になってしまう。その結果、子会社の株主ではなくなって、今まで意見を述べていたのが親会社の株主としてしか意見を述べられなくなる。その点について、親会社の株主の立場をどう保護すべきかというような問題は持ち株法制の際にも議論されたところでありますが、この点は今後継続して審議をするということで持ち株法制の創設の改正がなされたということでございますので、そのときからまだそういった問題は残っているというふうに私としては理解しております。  今後そういった問題についてさらに審議を継続すべきではないかというふうに考えております。  とりあえず以上でございます。
  132. 北岡秀二

    ○北岡秀二君 続きまして、西川参考人にお伺いをいたします。  先ほどお話の中で、さらに商法改正に関連して望むべき事柄、そしてまたなおかつ法整備関連を含めてなんですが、お話をされましたので、実はこれをお聞きしようかと思ったんですが、もう一つの分野で、先ほどから労働界のお話がございます。企業の社会的な責任というか、使命の一つに、やっぱり労働の場の確保というのがあるわけでございまして、これから経済界の進行していく方向ということを考えてみますときに、国際的な大競争時代にさらにこれから突入していくであろう。そしてまた、なおかついろんな技術革新によってとにかくいろんな意味で競争力をさらにつけていかなければならないという宿命というのはもうずっとついて回るだろうと思います。  労働界から御心配されていらっしゃる部分の社会的な責任としての雇用の場の確保は、今、前段に私が申し上げたような環境の中にあって、今後、基本的に企業サイドとしてどういうふうな雇用の場の確保ということに対するお考えを持ちながら競争力をつけていくのかというのを、これは総論で申しわけないんですが、基本的なお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  133. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) お答えを申し上げます。  お答えを申し上げますと申し上げましたけれども、極めてお答えが難しい御質問だろうと思います。  まず、社会的責任としての雇用の確保というのはほとんどの経営者が持っているところだろうと思います。なるほど会社においては転籍等の事例がたくさん出ておりますけれども、転籍と申しましても、あくまでも今まで勤めていた会社から別の会社に籍を移すということでございまして、その間に生ずる給料の差額等の問題がありましたら、多くの会社においてはその補てんをしている、勤める会社が変わっても雇用の実質的な条件は維持されている、こういうふうに努めていっているところでございます。  しかしながら、すべての会社がそういうことを維持できるかどうかということになりますと、これは国際競争の中で極めて厳しいことも事実でございます。まさにそういうことをするがゆえに会社自身が倒産してしまうということもあるわけでございますので、会社というのはもちろん従業員のためにも存在するわけでございますけれども、株主の出資にこたえるということでございますので、そういうことでの労働条件の確保が最後までできるかということになりますと、競争場裏では難しい場合も出てくるだろう。これはもう分割法制に絡む、組織再編に絡む問題では全くございませんけれども、一般的にはそういうことが言える。  あとは、そういう事態が生じたときの雇用のセーフティーネット、これを国としてどういうふうに持っていくのかということが重要なんだろう、そういうふうに考えております。
  134. 北岡秀二

    ○北岡秀二君 今の質問の全く裏返しで、労働界の熊谷参考人、生熊参考人に裏返しの質問をしたいわけでございますが、企業が維持発展をされていく過程の中で労使協調というのが当然必要になってきます。先ほど申し上げましたとおり、これからの企業を取り巻く環境ということを考えてみたときに、当然国際的な競争力、そしてまたなおかつ技術革新に伴う対応というものも必要になってくる。  そういうよう状況の中で、労働界として、そういう企業のいろんな将来的な変遷に対して、労使協調という観点に立ってどういう姿勢でお臨みになられるのか。熊谷参考人並びに生熊参考人に同じ質問をさせていただきたいと思います。
  135. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 今、御質問をいただいた点でございますけれども、私ども連合は、ドイツに同じようなカウンターパートの組織がございます。そこの状況等は日本から見れば企業組織の再編は大変先行しておりますので、いろいろ交流あるいは状況の把握に努めているところでございます。  大変感心しておりますのは、ドイツでは企業組織再編については大変進行しておりますが、まず再編全体をカバーする商法会社法としてのコンツェルン立法というのが整備されて、今度は企業グループに対応する労働法制というのがそれにタイアップして整備されている。同時に、従業員の代表法制ができて、それに対しての従業員代表、労働組合の発言のチャンネルが中小零細事業場、これは一名というわけにはいきませんけれども、零細事業場を含めて確保されているということでございます。  したがって、労使の話し合いのチャンネル、そしてその中での企業組織再編への企業の活動の活性化、産業の活性化を前提としながらの、あるいは労使の対話を前提としながらの法制度整備が進んでいるところを見ますと、そういうよい面というのは我々も大いに勉強するべきではないかと考えております。  また、最近経済の活性化等でいろいろ議論になっております英国でも、営業譲渡に関する新しい労働者保護立法と、それから経済の活性立法が相まって動いているという話を、イギリスにある連合に当たる英国労組会議から聞いております。  したがって、私たちもそういう似たよう状況にある先進諸国のことを検討しておりますけれども、産業の活性化、労使の話し合い、いい意味での協調、そして保護、これは両立するものだというふうに考えております。
  136. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) 技術の革新に基づいて雇用がどうなっていくのか、労働者がそれに対応できるのかという問題は、今確かに起こっていると思います。私は、その中で必要だと思っていることが二つあります。  一つは技術に関する教育、これをやっぱり徹底していくという問題だと思います。これは大企業、中小企業を問わずに、必要な技術革新が進んでいるもとで、それに対応する力を持っていく上での教育、これが必要だというふうに思っています。  それから二つ目には、中小企業の保護育成だというふうに思います。  中小企業の場合は、技術革新のもとでついていけない、実際にそういうことが起こり得るわけです。資本力もない、技術開発力もないということが起こっています。こういう中小企業をどのように育てていくのか。この点での施策が必要になっているのではないかというふうに思います。  こういう場合に職場の中で、企業の中でどうしていくのか。基本は私は労使協議と同意だというふうに思っております。いろんなことがありますけれども、必要な企業施策はやらなければならないという側面があります。その場合に、いろいろ意見が違ったとしても、その中で協議をしていけばある一致点というものはつくられるというふうに思います。その一致点の中で労働組合も納得をして進められる企業施策というものは非常に大きな力を発揮するのではないか。  そういうことを無視した一方的なやり方、こういうところがやっぱり今、こういう技術革新の中で新たな雇用をつくり出していく、あるいはそれに伴う労使関係をつくっていくという点での障壁になり得るのではないだろうか、このように思っています。
  137. 北岡秀二

    ○北岡秀二君 終わります。
  138. 小川敏夫

    ○小川敏夫君 民主党・新緑風会の小川敏夫でございます。  きょうは参考人の方々にお越しいただきまして、本当にありがとうございます。  民主党・新緑風会はこの法案に対しまして賛成の立場でございますが、なお私は、この法案が実際に施行された段階で、これで大丈夫かなと、こう思う点もございますので、それで質問させていただきます。  まず一つは労働者との事前協議の点でございます。  これは、既に十分お述べいただいた参考人の方もいらっしゃるんですが、私考えまして、労働者と経営者といいますか使用者側が協議するといいましても、日常的に労働者はやはり使用者側から指揮命令を受けている立場でございますし、また、会社分割になった後もどちらかの経営者からやはり指揮命令を受けるという立場にありますと、どうも協議をするといってもなかなか対等な立場でといいますか、労働者の気持ちが十分に反映できるような中身のある協議がされるんだろうかという点で私若干の不安を持っておりますが、労働者との協議、これを実質的な、労働者の意見も十分生かされるよう内容にしていきたいという私は気持ちを持っているんですが、その点、参考人の方々、四参考人、順次、もう一度お考えをお聞かせいただければと思っております。
  139. 前田庸

    参考人(前田庸君) これは法律問題と言えるかどうかということはございますが、私としましては、先ほど西川参考人もおっしゃったように、会社分割をする際に労働者と協議をしない、あるいはそれについて事実上労働者との間で合意が成立しないで突っ走るということは、その後の会社の運営にとって大きなマイナスになるのではないかというふうに理解しますので、そういう意味で、よき経営者であれば必ずいい協議をするのではないか。そういう経営者であるということを期待したいというふうに思います。  そういう意味で、協議をするということが入ったのは、労働者の保護のあらわれというふうに考えておる次第でございます。
  140. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 事前協議の問題は今回の議論の一番中心的な問題だと私ども考えております。そして、特にこの委員会にお願いを申し上げたい、諸先生の御議論をお願い申し上げたい点は、今回の労働者との協議、これを明記していただいたことを受けて、労働組合との協議のぜひ実質を私どもとしては確保する方向を出していただきたいということであります。  労働者との協議といいましても、例えば千名、二千名の企業で一人ずつ順次協議をしていくということについて、しかも分割に関するすべての事項について協議をする、本来はこれは労働組合が扱う労働条件等の問題についても逐一個別に協議をしていくということは極めて実際的でないことでございます。これについて、民法上は労働組合に委任をするということが法律上可能であると私どもは判断をしております。したがって、労働組合が協議をすべき事項については、労働者との協議の規定を受けて、労働組合が委任をされてこれを協議する、そういう形で労働組合の協議を実現する、行うということがこれは労使双方にとって一番望ましいことではないか、こういうふうに思っております。  また、これをめぐってはいろいろな課題はあるかと思いますけれども、私どもは、この協議が事実上労働組合との協議、それが弱い立場の労働者の協議の弱い面を十分サポートする形で、なおかつ分割をいい意味で成功させる、こういう機能を持つ協議をぜひ実質を確保していただきたい。  労使協議自身は、今までのところ大企業ではかなりの普及をしておりまして、今までの成果ということは産業界の中でも大変大きなことだというふうに思っております。この成果を分割にかかわるすべての事業所に生かすためには、実質的な労働組合との事前協議の確保、これが重要だと思いますので、繰り返しになりますけれども、ぜひよろしくお願いしたいと思っております。
  141. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) お答えを申し上げます。  先ほど申し上げましたように、労働者、労働組合との事前協議というのはかなり多くの施策においてなされているわけでございます。何を事前ととらえるかという問題があるわけでありますけれども、最終的な経営判断というのは、あくまでも取締役というのは、株主のためにまずなす判断でございますから、最終的な決定というのはもちろん取締役会が行うものでありますけれども、そういう決定をいかにスムーズになし遂げるかというのは、労働者、労働組合の十分なる協力と理解がなければこれは進められないわけであります。前田参考人がおっしゃいましたように、理解なくしてこういう事業再編がうまくいくはずがない、こういうふうに認識しております。  当社は、この前、シームレス鋼管設備を来年の三月に休止するということを決定いたしました。これによって雇用の問題というのは約二百名生じてくるわけでございます。それ以外に協力会社雇用の問題が二百名あるということでございます。こういう問題、設備をとめる、会社の組織再編をいかにする、組織を変える、こういう問題はもちろん事前に労働組合と合意を得て進めるというものではございません。まず会社が決めます。しかし、その後、労働者の問題をいかに適切に対処していくのか。これはもう十分な協議を進めて、何度も何度も議論をして、そういう施策についての遂行の協力についてお願いを申し上げてやっていっているわけでございます。  そういうことで、実質が伴わないんじゃないかとの危惧に対しましては、すべての会社がそうだという見識は私は持ち合わせておりませんけれども社会的責任のある会社、そういうふうに認識している経営者にとっては当然のこととして、形式的なお話し合いじゃなく、実質的な議論をして協力を得ていくということだと思います。  以上です。
  142. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) 私、この協議を実質上どう保障するかは、非常に大事な問題だと思っています。そういう面では、一つは労働者及び労働組合との協議というふうにすべきではないか。労働組合との協議は、少数組合も含む協議とすべきではないかというふうに思っております。しかも、その協議を誠実にする。そういう誠実にということが入れば、それは一方的には実施しないということはその裏側になるわけで、そういうふうな文言が入れば私は非常にいいんではないだろうかというふうに思っています。  それからもう一つは、そういういろんな異議を唱えたりあるいは協議の中で会社施策と違った場合の労働者に対する不利益扱いをしないということを明確にすることではないかというふうに思います。そういうものが実質上の協議を担保していく、そういう面で大事なんではないか、私はそういうふうに考えています。
  143. 小川敏夫

    ○小川敏夫君 では、西川参考人にお尋ねします。  完全切り離し型の分割ということで、不採算部門とそれから将来性豊かな部門とを切り離して再編成ができるというお話をお伺いしました。私考えまして、不採算部門の方に組み込まれてしまった関係者、債権者から労働者、株主と、利害関係人三者おるんですが、債権者を見ますと、もともと不採算部門との事業で取り引きしていた債権者だから特に不利益はないなと。それから株主の場合にも、不採算部門のいわば株式価値を持っていたわけですから、それは切り離されたって別に何の損もないと。そうすると、労働者はどうかと思いますと、労働者は会社に入るときにはもともとの会社に入ったわけでして、いわば業務上の必要性でどちらかの部門に配転されたと。たまたま配転されて行ったところが不採算部門のところに行ってしまって切り離されてしまったとなると、本来労働者の意思でもないし責任もないんだけれども、結局、将来伸びる会社とちょっと置いていかれそうな会社と分かれて、置いていかれそうな方に入ってしまった労働者は何か気の毒じゃないかという気持ちを持つんですが、そんな私の気持ちに対して参考人はどうお考えでしょうか。
  144. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) お答えを申し上げます。  先ほど私が例示として申しましたのは、不採算企業と成長部門、不採算部門と成長部門と申し上げたのではなくて、成熟した部門と今後成長の見込める部門と、こう申し上げたわけでございますけれども、よしんばそれは不採算部門ということでございますと、今先生から御指摘がありましたように、債権者は問題ないんだろうと、すなわち債務の履行の見込みがなければ会社分割ができないわけですから問題ないんだろうということでございますけれども、労働者につきましても、その労働者としての地位というのは債務の履行の見込みがある会社においては今後とも保全されるだろうという見込みでやるものですから、あとは全体としては何とか生きていきそうな、成長しそうな会社がどうも成熟産業に残っちゃって、ちょっと夢がないなと思われる従業員の方もおられるかもしれませんけれども、それはまたそういう中で安定した生活をしていくというのも一つだというふうに思われることじゃないかと思います。  なお、債務の履行の見込みの問題でございますけれども、債務の履行の見込みがあるということを取締役会で判断してそういう企業分割を行うわけでございますけれども、万が一にして見込みが余りにもずさんであったというときには、当然取締役なる者が直接債権者から訴えられたり株主から訴えられたりすることがあるわけですから、そんなずさんないいかげんなことをするはずはない。取締役として、将来のA社、B社分割したときの状況をよく考えてやっていくだろうと思いますので、労働者個々の夢ということについて、私はどういうふうに皆様が思うかということについては申し上げられませんし、そういう中でちょっと夢を失ったなということで、かわいそうだなということを思い、これは従業員もそうですし、こっちにいる取締役、成長産業にいる取締役、これも同じ問題でございまして、ひとしく会社に奉職する者として同じようなポジションであるわけであります。  ちょっと長くなりましたけれども、そういう感想でございます。
  145. 小川敏夫

    ○小川敏夫君 じゃ、熊谷参考人はどうでしょうか、そこら辺のところでもし御意見があればお聞かせください。
  146. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 不採算部門のことでございますけれども、これは先ほど私の陳述の中で述べさせていただきましたように、一番心配される点でございます。ですから、これは法制審議会の段階から連合として、これは鷲尾会長が委員をさせていただいておりますけれども、この問題について最重要な課題の一つとして議論に参加をしてまいりました。その中で、先ほど申し上げたような幾つかの施策が出てきまして、これについては一定の評価ができるものというふうに考えてはおります。  ただし、先ほど申し上げましたように、全国的な新聞に、不採算部門のスピーディーな清算ができるのだというようなことが一番新聞で目立つところに載っている。こうなりますと、審議会での確認も吹っ飛ぶのではないかと一瞬心配をしたわけでございます。したがって、不採算部門について会社を清算して、しかもそこに多数の労働者、社員が乗り込んだまま沈没してしまう、こういうことがないようにするには幾つかのポイントが必要である。  一つは、今までの確認が適切に実行されることでありますし、また分割無効の訴えその他、これも先ほど申し上げました労働者との協議を担保するような措置、これを明らかにすることによってこれをきちんと防いでいく、そのような手だてをこの委員会でもぜひ強化していただきたい、そういうふうに思っております。
  147. 小川敏夫

    ○小川敏夫君 終わります。
  148. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 公明党・改革クラブの魚住裕一郎でございます。  まず、前田先生にお願いをしたいんですが、ようやくこういう分割制度が出てきたわけでございますが、古くは昭和四十三年ですか、経団連の「産業再編成のための企業分割合併に関する意見」、それから、昭和四十九年の商法改正を受けた後、法制審議会の方で会社法改正に関する問題点、これは参事官室でやったわけですが、商法部会も議論をしてきたと思うんです。それからしてみても二十五年たつわけです、四半世紀商法の大家として前田先生はいろいろ携わってこられたと思いますが、何でこんなに時間がかかったのか。この分割の問題がここのところに来てばたばたっと企業再編とかしてきていますが、その辺の商法学会における雰囲気というのはどういうものだったんでしょうか。
  149. 前田庸

    参考人(前田庸君) お答えいたします。  実は、前から会社分割の問題については検討の必要があるということでございましたけれども、その前提として合併法制というのを合理化する必要があるのではないかということで、合併法制を先行させようということで、これも時間がかかったということは御指摘のとおりでありますが、そこで平成九年にやっと合併法制の合理化というのが実現したということになりまして、企業再編のためにまずやるべきことは合併法制の合理化だということで、それに集中してきたわけでございます。それで、合併法制についてああいう形で改正が実現しましたので、それ以降は基本的にはそれに倣った形で持ち株会社法制、株式交換・移転法制、それから分割法制ということで進行してきたということでございます。  ですから、合併法制が合理化された、改正が実現したということで、そのままスムーズに進行できたというふうに理解しております。  以上、お答えします。
  150. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 この会社分割制度とはちょっと離れるんですけれども、余りにも時間が長くかかっているという感じを持っているんです。法制審議会の審議が始まると、十年先とか二十年先をすぐ思い浮かべて、じゃ議員立法が必要かというような雰囲気を持つんですが、その辺のスピードアップというような観点からはどういうような思いをなさっているか、お伺いします。
  151. 前田庸

    参考人(前田庸君) 御指摘の面は否定しがたいと思います。商法の場合にも、最近のこととしましては昭和五十六年、平成二年、平成五年、平成六年、平成九年、法制審議会で会議をしたのでも、そういう形で十一年、十二年、こういうふうにしてきておりまして、法制審議会商法部会としてはその時々にいろいろと審議してきたつもりでございますが、合併法制ないし分割法制というのを、それだけを取り上げて見ますと、大分前から問題になってきたことが実現できなかった、長い間、時間がかかったということは否定しがたいと思います。  ただ、それなりにその時々に応じていろいろな審議をしてきたということは御理解賜りたいと思います。
  152. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 それでは、西川参考人。  先ほど、活用方法というんですか、何点かお教えいただいたわけでございますが、確かに大企業でいろんな世界的活動をする場合、競争力の強化ということで、そうだなと思うんですが、これは中小企業考えた場合、この分割法制の活用法というのはどういうふうなことが考えられますか。
  153. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) お答えを申し上げます。  中小企業の場合には極めて多くの株主を抱えているというふうな状況は想定しにくいわけでありまして、株主間の話し合いによって結構いろいろなことができる。所有と経営が完全に分離しているという状況ではございませんから、経営者かつ株主という形でかなり柔軟なことが全株主の同意ということでやっていけるわけでございまして、中小企業においてはこの分割法制において実際に、じゃ、どういう利用をしようかということになりますと、大企業に比べると利用の頻度は薄い、少ない、こういうふうに思います。  しかし、先ほど申し上げましたように、のれん分けをしなくちゃいかぬとか、お兄さんと弟さんが経営方針をめぐって争いになったというふうな事態になったときに、いかにしてその事業を分けて会社分割をしていこうかと、そういうニーズがあるものだろうと思います。  もちろん、大企業で言われております分社化であるとか営業譲渡であるとか、これは中小企業の場合も今までよりも手続が簡単になるものでございますから、そういう手続の簡素化という面での利用は進むだろう、こういうふうに思っております。
  154. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 熊谷参考人にお願いいたします。  ことしの二月二十二日に、法制審議会での改正案の了承に関して連合としての談話を発表されました、事務局長笹森さんの談話でございますが。ここにいろいろ書かれてありますが、今般、衆議院で修正が出され、あるいは附帯決議がなされ、実質を確保していくというこれからの闘いになるわけでございますけれども、この談話を踏まえながら、修正なり附帯決議というのは連合としては、達成度といいますか、ほぼオーケーということで理解してよろしいでしょうか。
  155. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 今の御質問お答えを申し上げますけれども、私の陳述で申し上げさせていただいたところで、今回の修正等については労働者保護等の観点から一定の評価ができるものと受けとめております、こういうふうに申し上げました。これが私どもとしての考え方でございます。  特に、この商法改正案、昨年から動いてまいりましたけれども、当初は営業単位で移れるかどうかという基本的なところもまだわからない段階がございました。これは大変なことになる可能性があるということでいろいろな形で、組織内でも検討しまた職場の声を踏まえて取り組んでまいりましたけれども衆議院で修正が二点、それから重要な確認あるいは附帯決議等が行われております。  したがいまして、現在の私どもの評価としては、修正等があったわけですから、この法案については基本的に不十分ではあるけれども賛成という立場で、評価をしております。
  156. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 終わります。
  157. 橋本敦

    橋本敦君 きょうは参考人皆さん、それぞれの立場で貴重な御意見ありがとうございました。時間が少ないのですべての参考人皆さんにお伺いできないかもしれませんが、順次お伺いしていきたいと思います。  最初に生熊さんにお話を伺いたいんですが、実際に今、産業界、経済界で進んでいる産業再編あるいはリストラの実態を踏まえて具体的な例示をしながら御意見をいただきまして、それとの関係でこの法案審議をどう進めるか、大変参考にさせていただくことができました。  いろんな例をお話しいただいたんですが、レジュメにもございましたけれども、一般紙にも出ておりまして私も大変関心を持っておるんですが、IBM、日本NCRの例ですね。新聞では、労働者を座敷牢に入れたということで人権侵害問題としても大きく報道されたんですけれども、こういう実態と今度の法案との絡みでどういうようにお考えになっていらっしゃいますか。
  158. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) IBMの場合は、総務とか経理とか人事、そういう部門ごとに分社化をされました。従来と同じ場所で同じ仕事をしているわけですけれども、その会社に転籍をすると賃金は四五%ダウンということになります。あるいは日本NCRの場合は、保守サービス部門、いわゆる銀行のATMとかスーパーマーケットのPOSシステムとか、そういうところのサービスをするわけですが、やはりこれを分社化してそこに労働者に転籍を求める、賃金は三〇%ダウンになる。生涯賃金で見ると四十五歳ぐらいの人だと四千万円以上減収になるという話も聞いております。  ただ問題は、この転籍については、この場合は分社化ですから本人同意なんですが、その転籍を強要するために、座敷牢という言葉はこれはNCRで行われたわけですが、その転籍に応じなかった労働者を非常に狭い事務所に、電話も二十人も三十人も入っているところに一台しかない、あるいは仕事は奪われて、本を読め、技術を学べ、こんなことで閉じ込める。あるいはIBMの場合は、これは市中引き回し。座敷牢とか市中引き回しというともう江戸時代じゃないかという気がするんですが、その市中引き回しというのは、これまでSE、プログラムを組んでいたような労働者をいわゆるアルバイトがやっているような郵便物を社内に配達するところに配転をする、転籍に応じなかった労働者を。それを市中引き回しなんて言っているんですけれども、そういう人権侵害が行われているわけです。  これは法務省にもお願いをして人権擁護委員会にも申し立てるなどのことをしてきていますけれども、労働省の方でガイドラインをつくるというような話もありましたけれども進んでおりません。  リストラの裏側にこういう人権侵害とかあるいは労働組合つぶしというようなことが実際に起こっているわけで、こういうものをどう規制するのかということを抜きに、やっぱり分社化がもっと簡単になっていくというふうになった場合に、今度はもう本人の同意が要らない、主たる事業や業務をやっていても本人の同意が要らないということになるわけですから、そのことに対して全く異議も言えない。異議を言えば自分でやめるしかないというふうなことに追い込まれるというのは、とても承服しがたいというふうに思っております。
  159. 橋本敦

    橋本敦君 先ほどの生熊さんのお話の中で、会社分割される、その分割された会社がしばらくして採算が成り立たなくなって倒産して労働者が解雇される、そういう心配が現実の状態からしてもないとは言えないということで、分割会社それから設立会社、それで連帯責任で労働者の雇用と労働条件を保障するという仕組みが必要じゃないかというお話がございました。  それができれば労働者にとっては大変安心だし、それができるというシステムがあれば労使の協議も円滑に進む可能性の条件も深まるわけですね。そういった連帯責任ということで、労働者の権利を守るという仕組みをこの法案との絡みでもぜひ検討してほしいという御意見はなるほどと思って伺ったんです。  それともう一つの問題としては、仮にそういう連帯責任ということまでいかなくても、あなたがおっしゃるように、分割無効の提訴が具体的に速やかにかつ効果的にできるという仕組みがもう一つあれば、これもまた個々の労働者にとっては権利を守る支えになります。そういう意味で、分割無効の提訴を権利として認められたいという御意見について、具体的にそれがどういう現実の労働者の権利を守る上で効用があるとお考えなのか、そこら辺の説明をもう少しやっていただけますか。
  160. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) 分割無効の訴えというのがどういう効力を持つかということになるんですが、実際問題として、この分割無効の訴えをしたときにそれがとまるかどうかということは問題があります。今この法案の中でも、さまざまな債権者やそういうところの分割無効の訴えも、結局はその無効が認められたときに後で損害を補償するというものにすぎないというふうに思います。  ただ私は、こういう中で、今の法案の中には労働者というものが入っていないわけですけれども、それが、さまざまな問題について社会的に明らかにし、そして会社と言ってみればもっと公の場でいろんな問題を明らかにすることができるというものは、そういう面で一方的にやる、あるいは会社分割にかかわるさまざまな疑問や不安やそういうものをどう公の場で守っていくのかという点では、私は有効ではないかというふうに思っています。
  161. 橋本敦

    橋本敦君 もう一つ、西神テトラパックの例のお話で私もちょっと深刻に受けとめたんですが、政府の方としては、修正案もできたと、それから包括承継で労働関係の契約が承継されますから、だから、分割会社の設立でそこでは首を切らないんだから労働者保護ができているよという考えがあるんですね。  しかし、お話ように、はるか遠隔地へ行く、先ほど西川さんからもお話があったんですけれども、ということで個別的な労働者の会社が変わるということ自体が大きな障害の問題であると同時に、遠隔地へ今までの住居、家庭環境が離れていくということについてそう簡単に同意できないというのは、これは私は労働者の生存権にかかわる権利としては当然あり得ると思うんです。  そこらあたりについて、労働契約関係が承継されるから労働者保護はできているよという一般論的な考え方についてどういう御批判をお持ちですか。
  162. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) 私たち、雇用を守るということは、単に首を切らないとか退職を強要しないでは足りないんではないかというふうに思っています。  普通、リストラを進める場合も大体雇用を守るということは言われるわけですが、実際にそこから出てくる施策は、例えば遠隔地への配転であるとか、例えば今度の場合の、会社分割によって場所がどこになるということは全く規定をされていないわけですから、要するに家族とともに生活できなくなるという問題が起こります。  そういう面では、雇用を守るということは、首を切らないとかあるいは退職強要しないというだけではなくて、やっぱり家族とともに安心して生活ができるという条件が必要だというふうに思いますし、それからもう一つは、これまで労働者が身につけてきた技能や技術というもの、そういうものを生かしていく。全く無用な仕事と言ったらまたちょっと口が滑って申しわけないんですけれども、とてもじゃないけれどもこの仕事ではやれないというふうなところへ配置転換をして、それで首を切りませんと言われても、自分でやめざるを得なくなるという問題があります。それから四つ目には、労働条件の問題です。賃金を半分にするから首を切りません、雇いますと言われてもそれはできないわけですから、そういう四つの点をきちっと考えていかないと、それが保障されるかどうかということがやっぱり雇用を本当の意味で守るということになるのではないかというふうに考えています。
  163. 橋本敦

    橋本敦君 生熊さんに最後のお尋ねですが、リストラでは企業日本経済も再生しないというお話がございました。私も大事な提起だと思うんですね。奥田日経連会長のお話も引用されました。  この点について言いますと、そのとおりなんですが、熊谷参考人もお述べになったように、EU等々考えて、我が国の労働者保護立法体制なり規制法のおくれが非常に大きいわけですね。だから、そういう意味で我々は、日本の産業界、資本主義の中で、労働者保護も含めたもっと市民的な民主的なルールを持たなきゃならぬじゃないか、そういうルールなしには、今おっしゃったリストラ、これを一方的に進めていくということを強行しますと、ますます企業日本経済も再生しないという、そのことはもう本当に達成できないようになるんじゃないかと。いわゆるルールなき資本主義と私たち言いますが、そこらあたりはどうお考えになっていますか。
  164. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) 今お話がありましたように、企業組織の変更や労働者の雇用の問題については、少なくともEUの諸指令などに保障された水準を、経済のグローバル化というもとですから、せめてそれぐらいのグローバルスタンダードは労働者の権利、雇用の問題でもやっぱり必要だというふうに思いますし、あるいは私はちょっと口が過ぎるかもしれませんが、仁義なきリストラとかあるいは仁義なき競争というのが物すごい勢いで今始まっているんです。余り直接的な名前は出しませんけれども、ある業界では、トップ企業がもう二番手以下の企業はつぶすんだと、そういうもう体力勝負のもとでのダンピングや非常にすさまじいことが行われています。  そういう面では、働くルールと同時に、資本主義の企業としての最低のルール、最低の競争の公正さが担保されるようなルール、そこがやっぱりないといけないんではないだろうかというふうに思っております。
  165. 橋本敦

    橋本敦君 時間がなくなってきて申しわけありませんが、熊谷さんにお話を聞きたいと思います。  大変御意見を参考にさせていただきましたが、その御意見の中で私はなるほどと思ったのは、労働者との協議、労働組合との協議を重視されていらっしゃるんですが、そういう協議がない場合あるいは誠実に協議を尽くしたと言えない場合、そういう場合はそれ自体で分割無効だというぐらいのけじめといいますかルールといいますか、そういう点をはっきりさせる必要があるんじゃないかというお話を聞きまして、私も確かにそのとおりだなと。  つまり、修正されて労働者との協議、これは一歩前進ですが、それを実効あらしめる誠実な協議を担保するために、そういう誠実な協議を欠いた分割というのは無効だよということがはっきりすれば、これは非常にいいことだなという感じでお話を受けたんですが、もうちょっとそのおっしゃった趣旨をお述べいただけますか。
  166. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 今お話のあった点ですけれども、私どもの一番の関心事項の一つでございます。特に、商法の附則に書いてある労働者の協議の場合は、例えば労働法制のような形での監督あるいは罰則、それとは異なる形でのきちんとした担保措置がなければ、これは法律には書いてあるけれどもいざというときに使えない、こういう形では現場に対して我々は責任を持って、こういう法律をぜひ使おうという形で伝えられないということで、いろいろ検討いたしまして、またこれまで衆議院で続けてこられた質疑内容についても詳細に私どもなりに分析をしてまいりました。  その中で、私どもとしては、やはり分割無効の訴え、特にこの附則第五条に基づく労働者との協議を誠実に行わない、あるいはある会社分割をしたけれども全く協議を行っていなかったではないか、この分割は無効になるのかどうか、これについては、基本的にそういうよう分割は無効であるという方向は示されていると思います。そう判断して先ほどようなことも申したわけであります。  したがって、ぜひこの委員会でも御確認をいただきたいと先ほどお願いした点でありますし、また、労働組合が民法上の委任を受けて労働組合としての協議をこの附則第五条の労働者との協議の代行をして行う場合に、そういうルールがあるにもかかわらずこれを一切無視された場合、これも分割無効の訴えを提訴して、それが分割無効として認められるものである、そういうふうにこれは判断をしております。ぜひこういう点についての御議論をお願いできたらと思っております。
  167. 橋本敦

    橋本敦君 よくわかりました。  ありがとうございました。
  168. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 きょうはお忙しいのに本当にありがとうございます。  まず、西川参考人にお聞きをいたします。  商事法務やいろんな雑誌の中で、会社分割のニーズについて、企業ニーズについて書かれているんですが、その一つに、例えば不採算部門を分離処分することというのが書かれております。この点についてどう思われますか。
  169. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) お答え申し上げます。  その商事法務で書かれている方がどなたなのか私は認識しておりませんし、恐らくそれは私が関与している問題ではないと思いますけれども、不採算部門を処分するために会社分割法制を使うという経営者はいないだろうと思います。それをすることによって、債務の履行の見込みがないにもかかわらずやるということを言っているわけですから、自分の個人財産でもってかけてやるということですから、そういうふうな決断をされる経営者というのは考えられない、こういうように思います。
  170. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 引き続き西川参考人にお聞きします。  先ほどスプリットアップ、スピンオフなどの話をちょっとされましたけれども分割の種類を新設分割と吸収分割の二種類に限定し、消滅分割や間接分割方式、アメリカ方式をとらず大陸方式をとったのはなぜなんですか。
  171. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) お答えを申し上げます。  これは私よりも前田参考人の方からお答えしてもらった方がよろしいんでありますけれども先ほど申し上げましたように、間接分割方式というのは経済界が要望していたところでございます。  先ほどのスプリットアウトというやつでありますけれども分割した後みずからが解散するという方式につきましても、今度は分割をした後別途清算決議を行う、解散決議を行うということで、決議は一つから二本になるという程度のことですから、実務上はもう問題なくできるだろう、こう思っております。  それから、間接分割方式ですけれども、今回の大陸型の場合にはあくまでも同時に新会社をつくるないしは吸収分割をかけるとともに株主に移転していくということなのでありますけれども、既に既存の子会社を持っている、その既存の子会社株式を株主に配当または自己株式消却の対価として与えたいと、こういうニーズは経済界にはかなりあるわけでございます。  これが今回の法制において採用されなかったのは、解釈でできる、新たな立法措置をとらなくても解釈でもできる余地があるということでございますので、ああわかりました、経済界としてはわかりましたということになったわけでありますけれども先ほど言いましたように、あくまで税制の措置というのが伴いませんと絵にかいたもちにはなってしまうかもしれないということでございます。
  172. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 前田参考人にお聞きいたします。  今回の会社分割法が非常に急がれた理由の一つにみずほグループのことがあるというふうに言われております。みずほグループに関しては、私、名前が一緒なので非常に親近感を持っているんですが、みずほのために頑張ると、何のことかと思うと、この会社分割法が急がれる理由としてみずほの名前が非常に出てくるんですね。それも一つ考え方ですが、同じ名前で親近感を持っている割に変なんですが、一つの大きな会社、メガバンクのために会社分割を急ぐというような立法のやり方が政策論として果たしていいのかと思うんですが、商法学者としてどうでしょうか。
  173. 前田庸

    参考人(前田庸君) 私としましては、分割法制の審議に参画していたときに、みずほ銀行のためにやっているという意識は全くありませんでした。会社分割法制というのは緊急にとにかく現在の日本社会にとって必要であるということで、先ほど申し上げましたように、合併法制ができ株式交換・移転法制ができた、この次は分割法制であるというふうに、これはぜひ現在の企業再編の必要が高まる中では極力早くやらなくてはならない、そういうつもりで審議に参画したということでございます。
  174. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 熊谷参考人にお聞きをいたします。  先ほど来労働者の保護について話をしてくださっているんですが、分割合併、営業譲渡を理由とする解雇を禁止する規定がなければ、判例法理で整理解雇の四原則などありますけれども、非常に心もとない。労働者の保護が図れるのか。つまり、判例はいつでも判例変更というのがあり得るわけですから、労働者の保護の面についてもう少し話をしてください。
  175. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 今お話のあった点ですけれども、これは私の陳述の中でも申し上げたポイントの一つでありまして、解雇について労働者保護法制のポイントの一つとしてぜひ明確に規定していただきたいというのが私どものお願いでございます。  したがって、現在これはこの委員会あるいは労働・社会政策委員会で労働契約承継法が議論をされております。そういう中で、この解雇の禁止を実質的にどういうふうに担保していただくのかということで議論が続いているというふうに聞いておりまして、特に、今回は法文の修正というのが衆議院ではそういう形ではございませんでした。しかし、附帯決議の中であるいは確認の中でこの判例について、ただ周知するだけという言い方はちょっと失礼かもしれませんが、そういうことではなくて具体的に徹底的に行うんだと、そういう方向は出されたのであるというふうに思っています。  ですから、今の段階でお願いを申し上げているのは、これをできるだけ法律に近い形で実効性があるように、例えば周知徹底というのをより具体的に、こことこことここにこういうふうに周知をして、その周知がどのぐらいいっているかどうかを客観的に、例えば何年後にはどのぐらい周知が進んだかというようなことも含めて、徹底してぜひ進めていただきたい、それが現時点でのお願いでございます。
  176. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 次に生熊参考人にお聞きをいたします。  この会社分割法は、法を利用できる事業主について全く限定をしておりませんし、将来どういう結果が起きるのか予測できる面とできない面と両方あります。それで、下請中小企業の取引関係なんですが、御存じのとおり、今下請が非常に切られているとか統合が行われているというのがありまして、会社分割が行われることによって下請が非常に切られていくんではないかという不安を大変持っています。その点についてもう少し話をしていただけますか。
  177. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) 今お話がありましたように、特に関連企業あるいは下請関係を非常に整理していくというのが今大変進んでいます。その中で、例えば会社分割が行われた場合に、こういうことがやっぱり一つのきっかけとなって、あるいはそういうことを理由として、そういう面では下請関連の整理というのはもっと進む危険があるだろうというふうに思っています。  最近の事例でいいますと日産自動車がそうでしたけれども、これは直接会社分割ではなくて、いわゆる工場閉鎖等に伴うものですけれども、東京の村山工場だけでも約千百四十五社あった関連を六百社以下にする、つまり半分ぐらいにしてしまう。大変そういう面では、下請関連企業関係でも今、もうこれ以上やっていけないとか、そういう声を私たちも聞いております。この会社分割とかあるいはこれにかかわるようなリストラの中で、そういう下請関連企業の整理が進む危険は大いにあると私も思います。
  178. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 それをどうやって食いとめるか、法律をつくるかどうかについてちょっと意見を述べていただけますか。
  179. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) 今、中小企業関連の下請二法というのがありますけれども、特に下請振興法の下請振興基準ですね、これをやっぱり法律にするということが必要なんではないかというふうに私は思っています。これ当面の措置ですけれども、下請振興基準には、これを守っていけば相当中小企業が守れる、中小企業の経営基盤を擁護できるという要素がたくさんあります。しかし、私たち通産省とよく交渉するわけですけれども、これは基準だから指導できないんだ、基準だから守らせることはできないんだという形になっておりまして、そういう面では、下請二法の中での下請振興基準をどう法律にしていくのか、これを法制化すれば大変一つ有効な手段が持てるんではないだろうかというふうに思っています。
  180. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 同じ質問を熊谷参考人にお願いいたします。
  181. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 大変恐縮ですが、もう一度お願いできますでしょうか。
  182. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 下請中小企業の保護についてです。
  183. 熊谷謙一

    参考人(熊谷謙一君) 下請中小企業の保護の問題、特に分割になりますと、それぞれに下請中小企業とつながっている部分のいろいろな権利義務関係とか債権債務がどうなるか、これは大変基本的な問題だということで、これについては審議会段階から幾つかの議論、確認あるいは実態調査等をしてまいりました。しかし、現在の段階でそれが十分に担保されているかどうかということについてはまだ明らかではないというふうに思っています。したがって、この下請関係の権利義務関係について、最大限この中で配慮できるような形でぜひお願いしたい、そういうふうに思っております。
  184. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 西川参考人にお聞きいたします。  会社分割のメリットということで、例えば検査役による調査を必要としないということを先ほど挙げられましたけれども、それで大丈夫かというか、検査役がいないことでどうお考えでしょうか。
  185. 西川元啓

    参考人(西川元啓君) お答えを申し上げます。  株主総会の特別決議にかからしめていること、債権者保護手続が十分になされていること、このあたりを考えますれば検査役の調査なくしても十分だろうと思っております。  具体的には、前田参考人からお話がございましたように、実際の資産の移転でございますから、弁護士でありますとか公認会計士でありますとか、そういう方々のアドバイスを得ながらやっていくことになるだろうと思いますので、実務上そういうふうに遂行していくことによって株主の了解を得ようということでございますから、裁判所の関与なくしても問題はないだろう、こういうふうに理解しております。  以上です。
  186. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 労使紛争を抱えている企業会社分割をすべきでないんではないかというふうにも思うんですが、その点について生熊参考人いかがでしょうか。
  187. 生熊茂実

    参考人(生熊茂実君) そのとおりだというふうに思います。  労使紛争がある場合に、会社分割をしてどこが責任をとっていくのか、両方が責任をとっていくのかということになるわけですから、そういう面では、労使紛争を抱えたりあるいは不当労働行為で命令が出ているとか、そういうふうな企業に関してやっぱり一定の規制をしていくことが必要ではないだろうかというふうに思います。
  188. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 前田参考人にお聞きをいたします。  会社分割が不当労働行為に基づいて行われることが明らかな場合、これは無効となるのでしょうか。
  189. 前田庸

    参考人(前田庸君) 不当労働行為といいますと、例えば組合に入っている者について特に不利な取り扱いをするというような問題と関連すると思いますが、今度の会社分割法制で不当労働行為になるというのは、組合員になっている人だけは特別どっちかに移すとか残すとか、そういう問題かと思いますが、分割無効の訴え、無効権については法律に特に規定がありませんけれども、今のような場合、個別的な場合について、組織法的な行為についてそれを解消してしまうというよう分割無効の訴えの対象になるというふうに解釈するのは、これは先ほどから申し上げますように、法律には規定がありませんので解釈になるわけですけれども、よほどひどいような場合でない限りは分割無効の訴えの対象にはならないというふうに言わざるを得ないのではないか。  分割無効というのは、会社法上の問題として一たん分割したものを覆していくということはやはり慎重な考えが必要だと、私としてはそういうふうに理解しております。
  190. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 時間が来ましたので。  四人の方々、どうもありがとうございました。
  191. 風間昶

    委員長風間昶君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人の方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、本当にお忙しいところ大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時一分散会