○
参考人(
鹿嶋敬君)
鹿嶋です。どうぞよろしくお願いいたします。私の方は
レジュメを提供いたしましたが、多少
レジュメからはみ出すような話もするかもいたしません。
私
自身は、昨年、
日本経済新聞に入りましてちょうど三十年
たちまして、そのうちの二十五年が
生活問題、
女性、
男性の
ライフスタイル、
家族、
女性の
労働といったような問題を
取材してまいりました。その中から今回の
参考になるような、
共生社会に関する
社会づくりの中で
参考になるような話ができればというふうに思っております。よろしくお願いします。
レジュメに沿って話をするつもりでございますが、まず小冊子の方は、昨年、
日本経済新聞の方に書きました記事の一部、それから、これは大分古いんですけれども、一九八九年と九三年に私が書きました
岩波新書の前書き、その一部を掲載、抜粋させていただいております。後でお目通しいただければ幸いです。
レジュメに入りますが、私の方は特に
女性の
労働が
現場でどういうふうになっているのかといったような話を
中心にしてみたいと思うんです。少し
レジュメを飛びまして、
レジュメの②の最後に「
総合職が辞める
理由」ということを挙げておりますが、まずここから話をしながら全体を構成していきたいというふうに思っております。
実は、昨年、私は五年ぶりに
取材の
現場に戻りまして、特に
総合職が今どういうふうになっているのかと。なぜ
総合職がどういうふうになっているかに関心を持ったかといいますと、私
自身は、
男女雇用機会均等法が国会で議論され、制定され、施行されといったような一連の流れをずっと
取材記者として見てまいりまして、その
総合職という
言葉は特に
日本が
機会均等社会を実現する上での非常に象徴的な存在だというふうに思っておりますので、彼女
たちが今職場の中でどうなっているのかといったような
取材をしてまいりました。
結論を先に言えば、
大半の
女性たちが実はやめております。今やめていない
総合職の
女性たちはどういう
女性かといいますと、
未婚かあるいは
子供がいないという
女性たちでありまして、特に
結婚をして
子供を持つ
総合職の
女性の方は
大半が実はやめていると。一九八六年に
男女雇用機会均等法が施行されましたが、一九八〇年代に入った
総合職女性はほとんどがやめているというのが実態であります。
なぜやめたのかというのを少し
ケースで御紹介いたします。
まず最初の
女性は、
総合重機・
機器メーカーに勤務していた
女性ですが、この人は
結婚後一年間共働きを続けましたが、
仕事が忙しくて
主婦らしい
仕事が何もできなかった、夕食を準備する時間がないのでおかずなどを
コンビニで求めた、やがて夫から
コンビニから買ってきたような食事をさせられるんじゃ何のために
結婚したのかわからないといったような苦情が出まして、彼女の方も体調を崩して微熱が続いた、顔に出た湿疹を鏡で見て退職を決意しましたという人が一
ケースです。
彼女の場合は、
仕事は
大変やりがいのある
仕事をしていたということなんです。一九九四年から九八年に在職したんですが、
女性総合職としてアジアに出張し、
輸出業務を一手に、もう全部責任を負わされまして彼女が全部そういう
交渉もした、一件の商談が何千億
単位、
相手国の
交渉相手も新聞に登場するような大物で
大変やりがいがあったということだったんですが、結局やめた
理由というのは
家庭との両立ができないという、これまた極めて伝統的な
主婦といいますか、
主婦らしい
理由でやめざるを得なかったということであります。
あと二、三件、
ケースを紹介したいというふうに思っております。
もう一人の
女性は都銀に勤務していた
女性であります。この
女性は育児休業を一年間とった後、職場復帰をしたそうです。
子供をどこの保育園に預けるかいろいろ調べたけれども、結局どこも帯に短したすきに長しということで
子供を預ける場所が見つからなかったと。彼女は実は埼玉県に住んでおりますが、復帰後は秋田県に住む母親に
子供の世話をしてもらった、ウイークデーは母に
子供の世話を頼み、その母は週末に秋田に帰るという厳しい
生活だった、母に迷惑はかけられないと思い復帰後三カ月で退職したという
女性であります。この
ケースもやはり
総合職女性が、特に
子供を産んで
仕事と
家庭の両立が不可能だったということがやめた直接の引き金になっているということが理解していただけるというふうに思います。
それから、社内
結婚をした
総合職の
女性はどうだったか。これも都銀の
ケースです。
総合職の
男性と
一般職の
女性の社内
結婚はオーケーだそうです、そこの
会社は。しかし、
総合職同士はどちらかがやめなければならないという不文律があったと。また、夫は支店長に目をかけられ、
結婚相手なども紹介されたりしていたので、そういう中で私と夫が
結婚したので、
結婚相手には絶対やめさせろ、そうしないと君の出世はないと支店長に夫が言われたということであります。昇進、転勤などは支店の場合支店長の裁量事項でございますので気に入られるかどうかで出世も決まる、それに逆らってまで私が働き続けることは不可能だったということで彼女はやめたと。
この人は
家庭と
仕事の両立というよりはむしろ社内に残っている
結婚したらやめるという不文律、こういうことは条文で書いている
企業はないわけですが、まだまだそれがあるということがこういう
取材の一端からうかがえるというふうに思います。
それから、もう一件は転勤であります。
この
総合職の
取材をして感じるのは、やめる
理由に大きく二つあります。
一つは
仕事と
家庭の両立が不可能である、もう
一つは夫の転勤であります。
総合職の
女性たちは全国転勤の可能性のある夫
たちと
結婚するという
ケースが非常に多くて、この
ケースも転勤であります。相手はニューヨーク時代に知り合った人ですと。彼女もニューヨークに勤務していたんです。私は帰国することになったので
夫婦が
日本と米国と離れ離れになる
生活は嫌だった、また、別に働き続けなくてもキャリア形成がゼロになるわけではないと思って退職したがちょっと甘かったかもしれない、
総合職の場合
夫婦双方が転勤する可能性があるわけだが、
仕事を続ける上で子育て以上に大きな問題であるというふうなことを言っております。
実は彼女
たちは、やめてからの
生活なんですが、自律神経失調症にかかるとかほとんどの人がやめたことを後悔しております。ただし、後悔しても、では
仕事が両立して続けられたかというとなかなかできないという、そういう非常に厳しい
現実というのが
総合職、
男性と一緒に基幹
労働力として働けるという
男女雇用機会均等法当時まさに脚光を浴びたそういう
女性の存在がやはり消えざるを得なかったという
現実が浮かび上がってくる。実はこのあたりに今の
企業社会、
男女共同
参画といったようなキーワードで
企業社会を見た場合の大きな矛盾が含まれているんではないかというふうに私には感じられてならないというふうに思います。
さらに、
レジュメの②の「
正社員の問題点」ということで、まずそこから御説明いたしますが、
正社員の場合、
総合職はそういう実態。
男性と同じような
労働時間帯で働かざるを得ない、ところが、家事、育児、責任は一手に彼女
たちが担っているという
現実。そういう中で続けることが難しいんですが、では
一般職の
女性はどうかということなんですが、
一般職もやはり有形無形のどうも肩たたきがあるような気がいたします。
そこに掲げた
ケースは総合商社の
ケースでありますが、二十五歳の
総合職の年収が五百四十万円です。一方で
一般職の
女性は四百四十万円と二十五歳の時点では格差はありませんが、四十五歳になりますと
一般職が五百五十万円と、百万円しか年収は上がっておりません。実は、
総合職がこの時点で幾らになるかというのは
取材ができませんでした。ただし、この倍以上は行っているというふうに理解していただければいいと思います。それから、五十五歳で五百七十万円。五十五歳といいますと総合商社の場合は残っていればもう役員ですからこの人
たちの年収というのは二千万円を多分超えてくるだろうというふうに思われますが、この
程度の昇給でしかない。定昇は年に千円くらいというのが実は総合商社で
取材をした結果であります。
総合商社の
一般職の
女性たちは大体三年ぐらいいてくれればいいということになっているということで、このかぎ括弧で書いてあるのはその
取材した
女性の
言葉をそのとおり引き写しているものですが、一年目は
仕事の研修である、
仕事を覚えるのに精いっぱいだと。二年目は、ですから全力投球しなければなりません。これはもう
会社として当然のことながらここで成果を上げてもらわないと困るわけです。三年目に入ると次の新人に対する引き継ぎといいますか、このあたりが少し始まるそうで、四年目に入って退社するということが彼女らに期待される職場の人生であるというふうなことが言えるんだろうということであります。
やはり
一般職の
女性たちは
未婚で、若さといいますか、若いということが大きなポイントになっておりますと。こうなってきますと、
女性が職場の中で職業人としての形成を図るということがまだまだできていないような
現実が
一般職の方でも浮かび上がってくるというふうに感じております。
正社員はそういうふうな問題点を抱えているんですけれども、では女子
労働全般を見た場合にどうなのかということで、
レジュメの①に戻っていただきたいんです。
実は「
正社員比率」というのが出ておりますが、この
正社員比率は
男性の場合はここ十年ほどほとんど変わっておりません。
正社員比率が八九・七%というのは九八年度の数字でありますが、一方、
女性はもう既に六割を切っております。それで、
女性が六割を切った分どちらの方に流れているかというと、パートであり、あるいは派遣社員であり契約社員でありといったようないわゆる周辺
労働力の方に
女性の
労働力が流れているという実態がございます。
表を添付してあります。表は、日経連が一九九五年に発表した「新時代の「
日本的経営」」という中で、これからの従業員をどういうふうに区分していくかということがこの表の中から理解できるというふうに思います。
一つは、
長期蓄積能力といいますか、言ってみればこれは基幹
労働力であります。この人
たちは、その
会社で中枢の
仕事をし、将来管理職になってほしいといったような人
たち。この人
たちには、いわゆる有期
雇用ではなくて終身の、期間の定めのない
雇用契約をしていくということでこういうグループがある。
もう
一つのグループは、高度専門能力活用型グループ、これはいわゆるスペシャリストの
分野だと思います。この
分野は、もう既に昨年の派遣法の改正と同時に、いわゆるコンピューターの関係の派遣社員がかなり出てきておりますが、そういう人
たちを有期
雇用の契約、いわゆるプロジェクトが終われば契約を終了するといったような形で雇うという
ケースが高度専門能力活用型グループ。
従来、
女性が担ってきたような職域はどういうふうに区分されているかといいますと、
雇用柔軟型グループに入ると思います。この人
たちは、いわゆる定型的な
労働業務でありまして、この人
たちを今後いわゆる有期
雇用の形で雇っていくということだと思います。
私も、こういうふうな
日本的な経営が今後かなり浸透せざるを得ないというのは、
日本の大変厳しい
経済環境を考えますと、これはある意味では仕方がないのかなという感じがする一方で、非常に不安定な
雇用に入っている
大半が
女性であるという
現実を考えますと、職場の中でもいわゆる
性別役割分業というのがどうも定着してきているのかなという感じがして仕方がありません。
今、私が所属しております
男女共同
参画審議会の中で、いわゆる固定的な
性別役割分業をどういうふうに崩すかというのが大変大きな
課題になっているんですが、職場に目を転じますと新たな
性別役割分業、いわゆる
男性が
正社員、基幹
労働力を担い、
女性がパート、契約社員といったような形で補完的な
労働力で下支えしていく、そういうものがより明確に出てきているのではないか。となってきますと、
男女共同
参画社会の
基本理念である、あらゆる
分野にみずからの意思で
参画していくという文言も、机上の空論のような響きを持たざるを得ないのではないかといったような感じがいたします。
次に、
レジュメの③の方に参ります。
レジュメの③の方は、「周辺
労働力の問題点」として、
レジュメの③、
レジュメの④で一、二と分けまして指摘をしております。
まずパートワンの方ですが、特に有期
雇用がかなり進展しているということであります。パートは現在約千百万人おりますが、そのうちの四割弱が有期
雇用であります。
それから、この有期
雇用、いわゆる
雇用期間の定めのある
雇用形態はどういう
企業に多いかといいますと、従業員が五百人以上のいわゆる
企業規模の大きいところがかなり有期
雇用で雇っているという
ケースが見られます。
企業規模が小さいところは、そのあたりはあいまいにしながら
雇用契約を続けているのかなという感じがいたします。
これは、非常に厳しい見方をすれば
労働力のジャストインシステムで、すぐに調達できるということで非常に
企業にとって便利だとはいえ、一方で、働く側の人権といいますか、それをどういうふうに確保していくかといいますと、非常に問題点も多く含んでいるということが言えると思います。
客室乗務員にいわゆる契約社員制が導入されたのは一九九四年だったはずです。今、客室乗務員さんがどういうふうになっておりますか、下はその分類であります。
客室乗務員は、「沈まぬ太陽」という山崎豊子さんの大ベストセラーの中に客室乗務員さんの話が出てまいります。あそこに出てくる客室乗務員の年収は一千万円を超えております。今、一千万円を超える年収の客室乗務員は、新たに職場に参入する客室乗務員ではほとんどありません。ほとんどではなくてまず皆無に近いのです。大体が三百万円弱というのが客室乗務員の年収であります。それから客室乗務員は、例えば羽田に勤務する場合は空港から四十キロ圏内に住むということになっております。通勤時間が九十分以内。羽田周辺の四十キロ圏内というのは極めて住宅費が高いということが言えると思います。一方で、年収三百万円というのはかなり契約社員の中でもベテランの方でございまして、新人ですと月収が約十万円強といったような
ケースが大変多いわけです。そういう中で客室乗務員は親に頼って、しかも客室乗務員の
仕事をするという形態がどうも定着しているような感じがいたします。
客室乗務員の
仕事をもう少し具体的に言いますと、
正社員というのは従来から入っている客室乗務員さんでありまして、これはもう今は三十代を過ぎております。それから契約社員の客室乗務員さん、これは一九九四年から導入されたもので、いわゆる有期
雇用の典型例であります。それから新
正社員というのは、契約社員の中でも契約を三年ぐらい更新しまして、その中で大変優秀な人は
正社員として雇うということになっておりまして、その人
たちを新
正社員と言います。ただし、従来型の
正社員と新
正社員の間には大きな年収格差がございます。それから再
雇用契約社員という
女性たちがおります。一たん客室乗務員をやめまして、それから再
雇用契約されたということであります。
それから、派遣法がほぼ自由化されましたので、今後は派遣の客室乗務員さんが出る可能性があるということになりますと、
一つの機内の中にいろんな身分の客室乗務員の方がいる。それほど多様化しますと、有事の際に本当にまとまった、一致団結した働きができるのかなという心配が、我々いわゆる乗客としては心配事としてあるんですけれども、実態がこうなってきている。これはやはり客室乗務員の人件費の削減というのが航空
会社の大きな柱になってきているからこういうような多様化が出てきているんだろうと思うんです。
客室乗務員を例に引きましたが、今後こういう形の多様化、複雑化はさらに進展するんだというふうに思っております。
契約社員、有期
雇用の場合ですと、御承知のように上限が原則一年であります。一年の契約更新というのは非常に厳しいものがある。さらに実態を言えば、一年ではなくて半年、三カ月といったような形で更新を繰り返しているというのが実態であります。更新のたびに条件が悪化してくる。とにかく今は
仕事の割には人は余っておりますので、要するに時間給にしても更新のたびに悪化する。さらに、更新をしてほしければという形でセクシュアルハラスメントの問題がそこに発生してくるといったような非常に深刻な問題が出ている。
さらに
労働法の中でも、育児休業法などはいわゆる有期社員は対象外でありますから、こういうふうに多様化する中では
労働法の見直しも今後検討していく必要があるのだろうというふうに思っております。
時間がだんだん迫っていますのでさらに早口になるかもしれませんが、御容赦いただきたいというふうに思っています。
次のページ、
レジュメの④であります。
レジュメの④の方はパートタイマーの問題でありますが、やはりこれだけパートタイマーに
女性が多くなり、基幹
労働力に
男性が多いという実態は、やはりそれは間接的な差別であろうというふうな見方もできてくるのだと思うのです。
男女共同参画社会基本法の第三条には、国会でも議論いたしましたが、性差別の禁止が入っておりまして、その中には間接差別も入るんだというふうな
政府の答弁をしておりますけれども、では間接差別とは何かということを、これはまだ附帯決議になっておりますが、ぜひ定義していただきたい。
間接差別を持っているのはどういう国があるか。EUは七六年のEC指令で間接差別の禁止を明文化しております。それから英国も、これは主にパートの
賃金格差をするときの法理として登場いたしますが、間接差別の禁止が入っております。それから米国は、
賃金に関する裁判で、間接差別の法理は登場しませんが、基本的人権の問題の中には間接差別という問題が入っています。
というような形で、
日本もこの間接差別の議論を少し活発化する必要があるのではないかという感じがいたします。
複合就労というのは、要するに
女性たちの
賃金破壊が相当進んでおりまして、特に今は、離婚とかシングルで生きていくような
女性たち、なぜ
会社をやめないかというと、やはり派遣になると自立、自活できないというような言い方があるわけですけれども、一方で、派遣社員、パートで働く人
たちは
一つの職種では当然食べられません。ですから、その中で複数の
仕事を持って
労働に当たるという実態が一方で出てきているわけです。これなども、調べてみますと、年間三千時間働いて年収が三百万円といったような実態が見えてまいりますので、非常に厳しいというふうに思っております。少なくとも、今後、
家庭と
仕事の両立ができるような
社会づくりといいますか、それが私は必要であろうというふうに思っております。
転勤、配転をめぐる裁判についてはちょっと割愛いたします。これは後で説明のときに少し補足したいと思います。
「ファミリーフレンドリーな
企業文化の育成」、これは、
労働省が昨年秋からファミリーフレンドリー
企業に対する表彰
制度を設けましたけれども、こういういわゆる
企業文化を育成する必要があるだろうというふうに思いますし、そういうことができなければ少子化は私はとまらないというふうに思っております。
「「
女性の自立」が掛け声倒れにならない
社会の形成」というものをあえて
男性の私が最後の
レジュメにとどめましたのは、私も二十五年間、
女性の自立は必要だろうというふうに新聞に書いてきた手前、どうも自立が危うくなりますと今まで書いてきたことが全く無に等しくなりますので、やはりこういう
社会の形成が今後必要であろうという意味を込めまして、この
レジュメの最後にこういう文言を入れさせていただきました。
以上でございます。