○佐藤道夫君 私も
条約の関係については特別意見はありません。
現在、アメリカのカリフォルニアで行われている、ある幾つかの裁判の例を取り上げて
外務大臣の御所見を承りたいと、こう思っております。法律家としてとても
理解できないような裁判が行われている、そうとしか言いようのない問題であります。
この裁判の原告というのは、第二次大戦で
日本軍の捕虜となって強制労働をさせられたというアメリカ人、カリフォルニア在住なんでしょう、それから
日本軍によって強制連行されて
日本でやっぱり奴隷労働を強いられたという
中国系、朝鮮系のアメリカ人、同じくカリフォルニア在住の者だと思われます。この者たちがカリフォルニアの裁判所に損害賠償請求を起こしておると。
被告になっているのは、彼らを奴隷労働させたという当時の
日本の大企業、三井、三菱系の財閥系の企業それから旧八幡製鉄、今は新日鉄ですか、それの関連の在米企業が被告になっておって、一人当たり数百万ドルとかという相当膨大な何か損害賠償を請求されておると、こういうふうに新聞でも
報道されております。
実は、一昨年と昨年、カリフォルニア州は州法を
改正しまして、民事訴訟の時効を延長したんです。この対象となった事件というのは、第二次大戦中にナチスドイツ、その同盟国、これは
日本のことですけれ
ども、これが犯したホロコースト、大虐殺ですね、
日本の場合には南京の大虐殺なんかが対象になっておるようであります。それから、
日本軍の捕虜となった、あるいは強制連行されて
日本の企業から奴隷労働を強いられた、こういう人たち、これの時効を延長しようという発想なんですね。
実はこれのきっかけになったのが、アグネス・チャンではなくてアイリス・チャンという
中国系のアメリカ人女性の書いた「ザ・レイプ・オブ・ナンキン」、南京の強姦事件というやつで、これはアメリカで大変な評判になりまして百万部近くも売れたと。これは南京虐殺を取り上げて、
日本軍は本当にひどいということをリアルに書いておる。それを読んだアメリカ人たちは大変憤激しまして、たまたまカリフォルニア州にその犠牲者あるいは相続人たちがいるものですから、何か
日本政府から謝罪の
言葉でも受けたのか、あるいはまた慰謝料をもらっておるのかということを聞いたら、何もそんなことは、びた一文受け取っていないし何のあいさつもない、本当にひどいものだということになって、そうか、それならカリフォルニア州としてこの問題を取り上げて
日本政府を追及しよう、とりあえず在米の企業あたりがどうだろうか、日系の企業はどうだろうかということで時効を延長するという法律をつくったんですね。
しかし、時効を延長するというのは、ある権利がありまして、これをずっといろんな人が行使してきた、それでことしいっぱいでこの時効が来る、そこでやむを得ず二〇一〇年まで、あるいはもう少し延長しようというのが時効延長の考え方なんですけれ
ども、もともとこんな権利はだれも考えていなかったんですね。にわかに時効を延長するよと言われても、一体そんなことが本当に権利としてあるのかどうか。だれもよくわからないし、そもそもアイリス・チャンの南京虐殺に関する
報道、
日本の研究家たちによれば大変いかがわしい、なかなか信用できない、客観的な証拠は一切ない、こんなことも
指摘されておる。その本がきっかけになってこんなものをつくって、そして日系企業を訴える。そのうち
日本政府も訴えるということになるのかどうか知りませんけれ
ども、そういうことが果たして許されるのかどうなのか。
それと、もう
一つ大きい問題ですけれ
ども、これは実は国対国の問題なんだろうと私は思うわけであります、本当にそういう犠牲者がおるとすれば。それを一地方団体が、アメリカの州というのは特殊な
立場、地位は持っておりますけれ
ども、それでも国際的な問題を取り上げてこれを扱うということが州として許されるのかと。やっぱりアメリカ
政府を通じて
日本政府と
交渉して
解決すべき問題だろう、こういうふうに思われるわけでありまして、それを時効を延長すると一言だけで、昔々の五十年前のそういう大問題というのか、こっちから言わせれば何にもなかった、
向こうから言わせれば大変な問題だ、そういう争いのあるようなケースを取り上げて、一州が裁判をすることができるんだろうかという疑問が法律家としてあるわけです。
そこで、外務省にお尋ねしたいのは、今何件ぐらいこういう事件が提起されておって、被告となっている
日本企業にはどういう会社があるのか、それから金額的にはどれぐらいになっているのか、総計すれば。その辺のところを概略ちょっと
説明していただければと思います。