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大橋参考人 本日は、この
国会で発言の
機会を与えていただいたことに感謝をいたします。
私は、
廃棄物による
環境問題で日々悪戦苦闘している各地の住民運動の一員として、本
法案に対する率直な
意見を申し述べたいと思います。短い時間に少しでも多くのことを聞いていただくため、少し早口になるかもしれませんが、お許しください。
現在、
全国の
廃棄物紛争は、私たちが知っているだけでも六百五十地域以上に及んでおります。その中には、はかり知れないほど深刻な
環境汚染問題を引き起こしているところが少なくありません。多くの人々が、悲痛な思いで一日も早い
解決、それも根本的な
解決を求めております。
廃棄物問題の根本的な
解決には、
資源循環型社会への転換が不可欠だと言われてきたことは大方御
承知のとおりであります。
平成五年、
環境基本法ができ、その翌年、
環境基本計画が策定されました。それより前、
平成三年には、
廃棄物処理法の二十年ぶりという大
改正があり、同時に、再生
資源利用促進法が制定されていました。その後、
平成七年には
容器包装リサイクル法の制定、九年には
廃棄物処理法の二度目の大
改正もありました。
しかしながら、事態は一向に改善されず、むしろ
廃棄物問題は深刻の度を増していると思わざるを得ません。なぜでしょうか。それは、
環境基本法その他の関係
法律が、うたい文句だけで実効性を持たなかったからではないでしょうか。とりわけ、
資源消費の削減と
廃棄物の
発生抑制という根本治療がなされてこなかったことであります。私たちは、このことに強い不満を持ち続け、何年も前から
資源循環型総合
法制の樹立を求めてまいりました。
したがいまして、このたびのような
法制化のうねりそのものは大いに望むところであります。しかしながら、
法案の名前だけがよくて、相変わらずの対症療法であったり、実効性の期待できないお飾り
法案であるなら、もうたくさんだと言わざるを得ません。
この
循環型社会形成推進基本法案をよく読ませてもらいました結果、そして
環境基本法その他の関係個別法とよく見比べました結果、これでは、残念ながら根本治療
法案とは言えないし、実効性の期待も持てないと感じたところであります。
今まで、
環境基本法は、
考えようによっては立派な
法律であると思います。しかし、その効果があらわれない
法律であれば、立派なことがむしろむなしくなるのではないでしょうか。
ところで、この
法案は、驚くほど
環境基本法の内容と多くの条文が似ております。ちなみに申し上げますと、全条文三十二カ条中、実に二十五カ条が何らかの形で
環境基本法の中の条文にそっくりか、よく似ているのであります。条文の行数で見ましても、全二百十八行中、百一行が大変よく似ております。このようなものを、わざわざ
環境基本法とは別に、
基本法として立法化するまともな
意味があるのでしょうか。これは、見方によっては
環境基本法を愚弄しかねない、品位に
もとるものだと思います。
本
法案は、
環境基本法の
もとに位置づけられる
基本法だと説明されていますが、
我が国に数知れないほどたくさんある
法律のうち、
基本法と名のつくものは、内閣
法制局によると、わずか十六ほどだそうです。私も六法その他で調べてみました。その中には、今回のようないわば二階建ての
基本法は一組もありません。先般、本
委員会における
環境庁説明では、中小
企業基本法とものづくり基盤
技術振興
基本法の関係がこれに類しているやに言われましたが、中小
企業庁の担当課では、この二つの
基本法は全く性格の別な、それぞれ独立したものだと言っております。自分でも読み比べてみましたが、そのことは明瞭であります。
さきに申し上げましたような、全条文の七八%も
環境基本法から条文を持ち出して先例のない二階建て
基本法をつくるより、
環境基本法を
改正することが本筋ではないでしょうか。
この
法案の
国会への出し方にも私たちは大変驚いております。この種の
法律は、世の中の仕組みと
国民のライフスタイルを変える、いわば世直し法であります。
幾つもの重要
法律を束ねる枠組み法と言われるくらいですから、
法案化するまでの過程が最も重要だと思います。
国会提出以前に、広く
国民の声を聞くべきであります。
先般の
環境庁の説明では、
中央環境審議会で
検討をしてきて、その中で有識者や
国民の
意見を聞いたとのことですが、それは、
環境庁長官の諮問方法が
法案化までを前提としたものではありませんでした。諮問書にも、
審議会の
答申書といいますか、まとめにも、
基本法をつくるとは書かれておりません。それが証拠には、
審議会の
答申が出た昨年三月以来、十一月に与党間で
法律づくりの協議が始まるまで、
環境庁は
答申を受け取ったまま、
法案づくりなどしなかったではありませんか。
では、
環境基本法のときはどうだったでしょう。
平成四年七月、当時の中央公害対策
審議会と自然
環境保全審議会に、「
環境保全の
基本法制の
あり方について」という明快な諮問がなされました。その後、七月二十八日、八月四日、六日、十二日の計四回にわたり
審議会における外部からのヒアリングが行われ、
各種五
団体、関係五省庁、一自治体が
意見を述べたのであります。
審議会は計二十回に及び、その間、ヒアリングとは別に
全国各方面の十四
団体から
意見書も寄せられ、
審議の
参考とされました。
答申は十月に出されましたが、政府部内及び与党の
法案作成作業が翌
平成五年三月まで続き、改めてそこでまとまった
法案要綱が
審議会に諮問され、
答申を受けたのであります。その直後の三月十二日に、
答申内容をほとんど盛り込んだ
環境基本法案が
国会へ提出されました。今回の
法案のつくり方、
国会への出し方とは余りにも違うではありませんか。
国会へ出された後も、ここにつけ加えて言いますと、この
環境基本法を
審議する
国会は、相当に多くの人たちの
意見を聞いたり、公聴会をやったり、合同
審査をやったり、しかも、公聴会は、中央、地方それぞれでやる、きょうのような
参考人招致も行う、こういったことを
国会の場でもやっておりました。
私たちは、こんなことでは、肝心な
国民や自治体や産業界の理解と協力が得られないと思います。何のためのこのように拙速な
法律づくりなのでしょうか。
本
法案の取り扱いには以上のような重大な疑問と不満がありますので、正直申し上げて
法案の内容を論ずる意欲が弱くなってしまうのですが、象徴的なところだけ問題を指摘させていただきます。
今まで
法案作成関係者から、
法律の実効性を目指しているのだとしばしば言われてきましたが、この
法案の内容自体には、先輩格の
環境基本法と同じように、実効性を期待できるものはほとんどありません。実効性を本気で言うのなら、関係の七つの個別法を、
法案化の過程で同時に連合して協議すべきです。個別法が
基本法とどうリンクするのか、何の担保もなしに実効性をなぜ期待できるのでしょう。実効性のない
法律ならもう既にいろいろある。これ以上実効性がないということのわかるような
法律は必要ないわけです。
なお、この
法案の重要な条文のほとんどは、例えば第十一条第三項に見るように、難解かつあいまいで、抜け穴だらけと言わざるを得ません。
時間がないので読み上げませんけれ
ども、実は抜け穴ということでは、
法案作成過程のある
段階で私が得た情報の一つに、見過ごせない問題がありました。それは、次のような条文が一度は作成されたということなのです。すなわち、その当時の条項で言いますと、第二十条の二。これはもしかすると二十条第二項なのかもしれない、まあその辺はちょっと細かいことですから。この条文の内容は、例によって非常にわかりにくい言い回しをしていますから、ちょっとよく聞いてください。
「国は、
廃棄物の排出の抑制又は
循環資源等の
循環的
利用等を促進するため、
循環資源等を発生させる者に適正かつ公平な
経済的な負担を課すために、次に掲げる
措置を講ずるものとする。」一号、二号あるいは三号もあるかもしれませんが、一号は省略しまして、第二号、「
製品を販売する際に、その価格に一定の金額を加えて販売しその
製品が
循環資源等となった場合に、当該
循環資源等を発生させた者が、その
循環的な
利用等を行なう者に適切に引き渡すことと引き換えに、当該一定の金額が払い戻されることにより、
循環資源等を発生させる者が、
循環的な
利用等が特に必要な
循環資源等を、その
循環的
利用等を行なう者に引き渡すこととなるように誘導するために必要な
措置」、聞いただけじゃ、恐らく十回ぐらい聞いてもわからないと思います。
要するに、この条文は、明らかにいわゆるデポジット制、私たちもかねてから強く求めているデポジット制の極めて実体的な規定となっております。現在の
法案のような理念規定、訓示規定ではありません。このような条文が一時的にせよ本
法案にあったということは、当時の
法案ではかなりの数の条項に実効性を期待できるものがあったと
考えられます。
これらはなぜなくなってしまったのでしょう。不可解であるとともに、今の
法案が、このような条項を消させた人たちにとっては大変都合のよいものに仕上がったと喜ばれているような気がいたします。そういう
法案に、私たち住民運動をしている
全国の
NGOは賛成できません。
以上、時間のない中でいろいろ申し上げましたが、私の結論は、本
法案を政府が取り下げるか、
審議未了で廃案にしていただき、改めて、十分な事前
検討と
国民の声を聞いた上で、超党派の議員提案による
環境基本法の
改正案という形でやり直してくださるよう、切に
お願いするものであります。
なお、つけ加えさせていただきますと、現在、
基本法十六本中、制定後十年以上たった
法律は十一本あります。このうち二本を除く九本は、制定から
最初の
改正まで十年以上を経過しております。うんと長いのは五十年というのもありますが、
基本法というものはそういうものだと思います。十年未満に制定されている最近の
法律でも、まだ
改正されたものはありません。
環境基本法も七年になると思いますが、まだ
改正のカの字もうわさに出ておりません。
このように、
基本法というものは、一度制定されてしまうと、個別の法のように必要に応じてちょくちょく
改正するということがない性質の
法律だということを
考える必要がある。
私は、せっかくいろいろ御
審議いただいてまいりましたけれ
ども、そのような、一度決まってしまうと十年やそこいら直すわけにもいかぬというようなジレンマに陥らないために、潔くこの
法案を取り下げていただきたいと思います。ありがとうございました。(
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