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参考人(
後藤仁君)
後藤でございます。
国会におきまして、特に現在はこの参議院におきまして
国民を代表する議員の
皆様によりまして
情報公開法案の
審議が進んでいることに私としては大変な期待を持っておりまして、
敬意をあらわすものでございます。その
審議の
参考にということでこうして
意見を述べる
機会を与えられ、大変光栄に存じます。
本日は、
文書管理ということに焦点を合わせまして私の
意見を申し上げたいと思います。なお、せっかく与えられた
機会でございますので、多少我が田に水を引きまして、公
文書館の仕組みについて触れさせていただきますが、お許しをいただければと思います。
さて、
情報公開をめぐります
法律、そして法の
制度ということと、もう一つ
行政機関におきます
文書管理の実務のシステムということとは車の両輪に位置するものと思います。もしこの両輪がうまくかみ合いませんと、この
制度の
趣旨は生きないということになります。
情報公開法が
成立すればいろんな効果と
影響が予想されるわけですが、その最大のものの一つは、恐らくは政治の言葉と
行政の仕事に対する市民、
国民の不信が解消し、信頼が回復するということではないかと思われます。
市民が
行政当局へ参りまして、こういう
文書を見たい、こういう
情報を知りたいということで
閲覧の
請求をいたしますれば、
行政機関の方はその
開示請求にこたえまして、法に基づく義務としてこの
開示を自分にとって都合の悪いものであってもしなければいけないというのが
情報公開の
法律、
制度でございますが、そういうことになりますと市民の方は都合の悪い
情報も出るということで信頼回復のきっかけになるわけです。
ところが、そうやって
請求に行きまして実際に
請求権を行使する段階で、いや実はその
文書はちょっと見当たりません、ございません、どうもなくしました、あるいは捨ててしまいましたという返事がもし続出するといたしますれば、これはかえって不信は増すわけでありまして、
制度の
趣旨とは反し逆の効果が生まれてしまう。どうしても
開示請求にこたえるためには、その場になって急にではなくて常日ごろから
文書の
管理についてきちんとした仕組みをつくり上げ、機能させておかなければいけない、さもなければ
制度は生きない、こういう関係になると思います。ということは、裏側から申しますと、日ごろから
文書管理についてきちんとした
制度をつくっておけば、いざ
開示請求があったときに慌てないできちんと
開示請求にこたえられるということでもあります。
もともと
文書というのは自分たちの仕事の、業務の
記録でございますから、その業務の
記録についてきちんと
記録をとって、それを
保存し、
開示請求にこたえられるように整理をしておくということになりますと、それは結局仕事の進め方についても
影響を与えるわけであります。
説明がつく仕事をやっていく、市民とか
国民に対して
説明がつかない仕事については廃止したりあるいは改革を加えたりして公務の改革を進める、そういうきっかけにも、実は
情報公開の
法律の方が実務に
影響を与えるというふうになると思います。
そうしますと、市民は実際に
開示請求権を行使しなくても、
開示請求権というものを手中に確保していることによって
行政の仕事の進め方について牽制を加える、あるいは制御を加える、コントロールをするということが可能になるわけで、これがまた積み重なってきますと、
行政、政治、市民の間の信頼関係の構築に役立ってくる。こういうことで、うまく循環をしますと
文書管理の仕組みと
情報公開の法
制度というものが非常に好循環でかみ合っていくわけでありますが、そのためにはやはりそれなりの努力をしなければいけない。
文書管理の仕組みをきちんとこの段階で整えて、
情報公開法の円滑な運営を助けていかなければいけないということが現段階の仕事ではないかと思われます。
その
文書管理の仕組みについて、三つほどポイントがあると思います。
第一は、あらゆる
情報の媒体、メディア、それから
情報の表現形態を通じまして、すべての
文書について統合したマネジメントのシステム、
管理のシステムを考えなければいけないということだと思います。
特に、これから電子
政府ということで、
電子情報、デジタルメディアに入りました
情報が
行政機関の仕事におきましても公務におきまして非常に大きな役割を果たすことになると思います。今度の
法律案はその点で非常に
配慮の行き届いた
法律になっていると思いますが、この実務の仕組みとしても
電子情報を含めたすべての
情報メディアについて統合されたマネジメントシステムを考える、これが第一のポイントだろうと思います。
第二は、全
文書の全ライフサイクルということを考えた
管理の仕組みが要るということでございます。
文書も人間と同じように生涯というのがあるのでありまして、生まれまして、あるいは取得されまして仕事の過程でいろいろ手を加えられ、あるいは
保存され、最後には使命を終えて
保存期間が満了し、かなりのものは
廃棄されるわけでございます。この生まれてからの
文書の一生にわたって、全生涯にわたってやはり統合したマネジメントの仕組みを考える必要があるということでございます。
第三に、あえて本日申し上げておきたいのは、現用を終えた非現用の
文書につきましても、現用と一貫した
管理の仕組みをぜひ考えていただきたいということでございます。
といいますのは、その公務におきまして任務を終えた
文書といいましても、それを全部すぐに捨てられると歴史が中断してしまいます。後世の世代に対する
説明責任というものが果たせなくなるわけでありまして、私たちは失敗を犯すと思いますが、もし犯した失敗について誠実に
記録を残しておけば、後世の人たちは少なくとも私たちと同じ失敗を犯す可能性が少なくなるわけです。もし私たちがそれを隠してしまいますと、後世の人が同じ失敗、過ちを犯す可能性が高くなります。そういうことで、自分たちの仕事の
記録については、これを現在の世代の市民、
国民に対して
開示するだけではなくて、歴史的に重要なもの、自分たちの仕事として重要なものは後世に引き継いでいく必要がある。そうしますと、
保存期間を過ぎた
文書をすぐ捨ててしまわないで、あるものは後世に対する資料として残していかなくてはいけない。
そのためにあるのが実は公
文書館の
制度でございます。国の方にも国立公
文書館という
制度が現在ございますが、これにつきまして何もかも
情報公開法で一気に盛り込んでという欲張りなことを私は申し上げませんけれども、
情報公開法というものが
成立した曉には、この
情報公開法というのは現在使っております
文書についての
法律になると思われますので、現用
期間を過ぎて歴史のものになっていく非現用の
文書についてはぜひ充実した公
文書館
制度を確立できますように、現在、公
文書館の
法律とそれから国立公
文書館の設置法についてもお考えがあるようですが、それらのことでぜひいい
制度をつくっていただければと思います。
この歴史的な
文書を残すということが、実は現用の公
文書をきちんと
管理する上でも大きな刺激になるといいますか、材料になるわけです。
一般に、
文書については三つの
基準を区別して、かつ組み合わせて適用していかなければいけないと思います。
その第一は、
文書の
保存基準といいますか、
保存期限
基準であります。
仕事で使っている
文書を、あるものは一年間、あるものは三年間、あるものは五年間、あるものは十年間、あるものは長期、三十年間というふうに一年、三年、五年、十年、三十年と期限を切りまして、その
期間はきちんと
保存する。しかし、その期限が切れたところでは
文書を
作成した当局から
文書の
管理権を一応取り上げまして、その後どういう
文書を歴史的な扱いにするか公
文書館
制度で
検討するということになるわけですが、そういう
文書の
保存基準というものをひとつはっきりさせる必要がある。
ただし、この
保存基準と全く同じでないのが
開示の
基準でありまして、
開示、不
開示という
基準。一年の
文書、短い
文書、十年の
文書、長い
文書、三十年の
文書、その
保存期間の長短にかかわりなく、あるものは
開示請求権に応じて
開示しなければいけませんし、
開示が
原則ですが、しかしあるものについては
原則不適用で不
開示ということもあるわけです。
開示基準というのは、直接に
保存基準とイコールではありません。この区別をしていただくということが大事だと思います。
次は、もう一つ
基準がありまして、これは現用を終わったところで、
保存期間が満了になったところで、これを歴史的に残すかそれとも
廃棄するかという選別と
廃棄の
基準です。これも、一年だから全部捨てていいということにはなりません。
一般に、長期
保存の
文書ほど歴史的にも価値あるものが多いと思いますが、一年
保存のものでも残すべきは残すべきなのです。
そのことを考えて、
文書の
保存基準、
開示基準、そして選別
基準というものを区別し、かつ組み合わせてぜひいい
文書管理の仕組みというものを
情報公開法を
機会に国においても
整備されることを私としては心から期待しているところでございます。それで、僣越ではございますが、あえてきょうはその点に絞って
意見を申し上げたところでございます。
どうもありがとうございます。