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参考人(
矢内原巧君)
矢内原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
本日、
不妊治療の
実態についてということで話をするように御要望を受けました。近年の
生殖医療の進歩、その
治療の
多様化、
対象患者のそれに伴う
拡大等で、現在、社会的にも倫理的にも、またある意味では法制の問題上
幾つかの
問題点が生じております。
限られた時間でございますので、本日、ポイントを
四つぐらいに絞って、
資料に従って
お話をさせていただきたいと思います。
資料の
説明でございますが、テーマ、
項目に従いまして
四つに分けてみました。一番目は
不妊治療を受けている
患者数、
推定でございますが、これは
資料一になっております。二番目に
不妊の
原因及び
治療ということで、
資料二の一、二、三という三枚を用意させていただいております。三番目の
項目といたしましては、
不妊治療にかかわる
費用ということで、これは
資料三の一、二というところに記載をしております。また、
不妊治療の現在の
問題点を
幾つか列記してみました。それを
資料四とさせていただいております。
また、話の中で
幾つか専門的な
用語が出てまいりますので、その他の
参考資料といたしまして三枚用意させていただいております。
一つは
略語でございます。たくさん書いてございますが、上の
四つほどを知っていただければ大体の話はおわかりいただけると思います。それから、
参考資料の二番目は、これは
用語の解説でございます。いろいろ
配偶子の
組み合わせ、また出産する母親の
組み合わせ、現在の
生殖医療の中では考えられる
組み合わせはたくさんございますので、それを書いてみました。また、
参考資料の三番目は、いわゆる
生殖補助医療、
ARTと申しますけれども、
体外受精を中心としたものの現状を簡単にまとめてございます。
数値は
平成八年度分の
報告でございます。
それでは、最初の
項目から
お話をさせていただきます。
まず、
不妊治療患者数の
推定でございます。
一般には結婚した夫婦の十組に一組ということが昔から言われておりますが、その
根拠は、二年間通常の
性生活を行った場合に九〇%が
妊娠をするということからそう言われております。ただ、我が国の
実態におきましては明らかないろいろな
報告がございません。
本年の二月から三月にかけまして、
厚生省の
科学研究費補助金厚生科学特別研究の中に
生殖補助医療技術に対する
医師及び
国民の意識に関する
研究班がございます。
主任研究者として私がやらさせていただきまして、
分担研究としては山梨医科大学の
保健学第二講座の山縣然
太朗先生に集計その他をお願いいたしまして、それによった
不妊治療を受けている
患者の推計でございます。
これは
一般の
国民約四千名を
対象にいたしました。
回答率は七〇・四%ですので、二千五百六十八名からの
回答でありまして、その結果から、
年代別に書いてございますので、人口にその率を掛けて
患者数を
推定いたしました。
二に結果が書いてございます。
一つの
カラムがありますけれども、横の
カラムは
治療を現在受けているというものであります。これは
重複がございます。ただ、縦の
カラム、現在
治療を受けている、また過去に受けた、
治療して
子供が生まれたというものは
重複をしておりません。これから考えますと、現在
治療を受けているという一番上の
カラムの一番
右側の
数値、二十八万四千八百名という数が
推定されます。
この数は
二つの点でかなり
信憑性のあるものではないかと思っております。
一つは、
体外受精児の
平成九年度までの
累積出生数というのが出ておりますが、これは
学会の
登録の中で
報告をしていただいておりますが、
平成八年度まで、これは
参考資料三に書いてありますが、二万七千二百六十一名
体外受精児が生まれております。それから、昨年度、一昨年度では約七千名ほど生まれておりますので、その二年分を足しますと四万近い、三万九千ぐらいの方が生まれたということになります。それが
根拠の
一つであります。
もう
一つは、
厚生省の
心身障害研究の中に
不妊治療の
在り方に関する
研究というものがございますが、
平成九年度の
報告で、三百二十七
施設、これは
生殖医療を専門にやっている
施設と
医育機関を
対象にしたアンケートを行いました。百六十六
施設から
回答がございまして、その一年間の
受診者総数は十一万七千余名ということであります。そのときの
体外受精を施行した数から逆算いたしますと、その
倍プラスアルファの数がその
推定患者数ということになります。そうしますと、約二十三万から二十四万ということになります。したがいまして、現在ほぼ三十万近い方が
不妊治療を受けているということになります。
二番目でございます。その
不妊の
原因と
治療でありますが、
資料二の一をごらんいただきたいと思います。
妊娠の条件といたしましては、御存じのように、
男性側に
障害がある場合と
女性側に
障害がある場合と
二つございます。
男性側としては、
性交能力があるかないか、または
精子の量及び質が問題になります。また、
女性の側といたしましては、
妊娠に必要な
排卵、それから卵を輸送する
卵管、そして
妊娠した卵が着床する
子宮というふうな分類が一番多く用いられておりますが、その
男女両方がぐあいが悪いという場合とか、免疫学的に
精子を拒否するというようなことも
原因に含まれております。
これも
先ほど申しました
心身障害の
不妊治療の
在り方というところの十一万七千名からの分析でございますが、
男性のみに
原因がある場合が二五・九%ということになっております。
女性のみに
原因がある場合が六五・三%。そして、
両方とも
検査した限りにおいては
原因がわからない、これを
機能性不妊という言い方をしておりますが、これが二一・五%を占めております。
男性側、
女性側両方に
原因がある場合が
重複しておりますので、この値は
重複ありということになります。
下段の
カラムにそれぞれの頻度を書いておりますが、
女性側の
原因としては
排卵障害が最も多く、三三%を占めているということになります。この値は、WHOが一九九六年に七千名のカップルからの
報告書を出しておりますが、
男性のみの
原因が二四%、
女性のみが四一%という
報告に非常に近い値でございます。
資料二の二に移ります。
不妊の
検査、
治療でございますけれども、いろいろな
検査を行いまして、そして
原因を究明した後で
治療方針を決定しております。
上段に
男性不妊、
下段に
女性不妊というふうに書いておりますが、
矢印の先が
検査の結果行う
治療でございます。それぞれ下の段のところに
星印がついておりますが、これは
保険診療ではございませんで、現在のところ
自費診療ということになっております。
AIH、
IVF、
AIDというような
略語が書いてありますが、
AIHは御
主人の
精子を用いた
人工授精であります。
IVFというのは
体外受精であります。また、
AIDというのは御
主人以外の
男性、つまりドナーの
精子による
人工授精を指しております。
下段の方の
女性不妊ということでありますが、これも同様に基礎的な
検査がいろいろございます。
基礎体温から始まって
子宮内膜日付診、組織の
検査でございますが、こういうものを一通り行いまして、その
原因がどこにあるかということを
検査いたします。さらに
特殊検査としては、
子宮鏡、
腹腔鏡等がよく用いられております。
それぞれの
原因がわかりました場合に、これも
矢印の先に示してありますが、一番
左方の
卵管性の下を見ていただきますと、マイクロサージェリー、
機能回復を行う
手術でございますが、
卵管が詰まった場合の
手術方法、または
卵巣性でありますと、これはほとんどが
卵巣を調節しております中枢、つまり脳から出てくるホルモンの異常によることが多いのでありますが、その場合の
排卵誘発、それから
子宮に奇形があった場合にはその
手術等の
治療法に移行いたします。
そして一番
下段に、これも最終的にこういう
方法ではだめな場合に行う
IVF、
体外受精または
人工授精等が書いてございます。これも
自費診療になっております。
ここで注意していただきたいのは、従来、
先ほどから出ております
体外受精・
胚移植、つまり
IVF―
ETという
手法は、本来はこの
卵管性の
不妊に関して
適用があるものであります。ただ、
日本産科婦人科学会の基準といたしましては、
難治性、つまりどうしてもこれらの従来の
方法で
妊娠しない場合には
IVF―
ETを使ってもよろしいというガイドラインができております。
資料二の三に移ります。これは
体外受精・
胚移植の
手順を示しております。かなり専門的になりますが、御
参考になればと思って出させていただきました。
左方の
採卵というところがございますが、その前に
排卵誘発というプロセスがございます。これが十日から二週間ほどありますし、
採卵そのものは、
精子の採取と違いまして
女性の体に負担のかかることでございます。
採卵から
胚移植まで全部で約二日間時間がかかります。この
手法は、
外来で行っている場合と、それから
入院して行う場合と、それぞれの
施設によってどちらでも行っているところがあるようでございます。詳しくなりますので、ここは
参考だけにさせていただきます。
三番目の問題でございます。
不妊治療にかかわる
費用、これは大変最近問題になってまいりました。と申しますのは、
自費診療が多いからであります。
検査または
排卵誘発及び
体外受精ということで、
資料三の一は
保険診療の
項目を挙げてあります。また、
資料三の二には
自費診療の
項目を挙げてございます。もちろん、これ以外に
先ほどの
検査の中にありました
基礎体温表等がございますが、主なものを列挙して
保険点数から換算した
費用を
右側に書いてございます。
この中で
排卵誘発及び
体外受精という二番目の大きな
項目がありますが、その中の下の方に超
音波検査という
項目がございます。これは三千五百円掛ける三と書いてございますが、間違いでございまして、第一回目は五千五百円、そして第二回目、第三回目、三回だけ
一周期で施行することが
保険診療上許されておりますが、第二回目と第三回目は四千九百五十円ということになります。したがいまして、超
音波を使った場合に若干のこの値の
費用の修正がございます。
いずれにいたしましても、
保険診療で
排卵誘発を行った場合には約二万円
程度の
お金がかかるということになりますし、その
方法によっては、その
下段に書いてあります
hMG、これは
排卵誘発剤でございますが、それを使った
排卵誘発では約三万八千八百円、四万円ほどの
お金がかかるということになります。
また
治療法の中には
卵管形成術、
卵管機能を回復する
手術でありますが、これは十二万九千円と書いてございます。
保険で
適用になっております。この値は片側だけでございますので、
両側閉塞の場合にはこの倍ということになります。最近では
腹腔鏡下の
手術がこれに
加味をされております。約十五万円ほどかかります。もちろん、これらの
費用以外に
入院、麻酔、
投薬等が加わることになります。
その二に行きます。
これは
自費診療で、現在の
生殖補助医療技術の場合には、かかわる
費用はほとんど
自費診療ということになってございます。一番上に
人工授精、
AIH、御
主人の
精子を用いた
人工授精でありますが、再診料から
精子処理料まで入れますと、これは
施設によって幅がございますが、私どもの
調査によりますと約二万円から三万数千円の
費用がかかります。
体外受精の場合には
大変金額がはね上がります。
自費診療ですので、それぞれの
施設によって
費用が違ってくることは当然でございますけれども、一応ここに書いてありますGnRHとか
hMG、これは薬剤の名前でございますが、
保険診療の
点数に換算した
値段を書いてございます。
体外受精の場合には、まず
採卵をしなければなりません。つまり卵をとるわけであります。そして、
精子と試験管の中で
受精をさせまして、そして
胚移植、
受精卵を今度
子宮に戻すという
手順を踏みます。その総額、これは
大変幅が大きくて恐縮なんですが、
調査したところでは約二十二万円から五十二万円ぐらいまでの幅があると思います。これも
外来で行った場合と
入院してこれらの
処置を行った場合では違いますので、当然
入院の
費用が
入院した場合には加算をされてくるということになります。
さらに、
精子の数が非常に少ない場合には、
顕微授精といって、卵を
一つ取り出しまして、その中に
精子を
一つ卵の中に直接入れる
方法があります。
一般にICSIという
方法が最近一番用いられておりますけれども、そういう
精子の数または質が悪いと判定された場合にはこの
方法が
体外受精に
加味をされてまいります。
そういたしますと、その
値段が約五万円から十五万円ぐらいの幅がございますので、
顕微授精による
体外受精を行った場合にはトータル三十三万円から約七十万円までの幅ということになります。これは
一周期にかかわる、つまり
一周期というのは一カ月と考えていいのでありますが、それにかかわる
費用であります。
それ以外に、最近は
余剰胚、つまり
受精卵をたくさんとることができますので、それをすべてお母さんに戻すわけではありませんで、凍結して次の周期に使うというような
凍結保存ということが行われております。いわゆる胚の
保存であります。それを行った場合には、次回は
採卵の
処置をしなくてもそれを用いることができます。その
費用が書いてございます。これもどのくらい
保存しておくかということによって
値段も違ってくると思いますが、
調査した段階では約十万円から三十万円ぐらいの幅があるようでございます。
いずれにいたしましても、これら
自費診療で
ARTを行っているという
金額は、かなりの
金額を
治療を受けておられる方は負担しているということになります。
最後に、
不妊治療の現在の
問題点を挙げてみました。
資料四をごらんいただきたいと思います。
問題点を
二つに分けて考えてみました。
一つは社会的な問題でありますし、これには法的な問題も一部絡んでございます。また、
二つ目は医学的な問題であります。
まず、医学的な問題の方から御
説明をさせていただきます。
第一に挙げましたのは、
排卵誘発、
体外受精・
胚移植による
多胎の
増加であります。
参考資料三を見ていただくとおわかりになると思います。
下段に
グラフが載っております。三本の線が載っておりますが、一番上の線、一九七五年から一九九五年までの間に、ちょうど一九八六、七年を境にいたしまして急激に
多胎が、三
胎以上、三つ子以上の
多胎がふえていることがわかります。
真ん中の線は、これは
生殖補助医療実施施設でございます。これも一九八五年から九五年までの間に非常にたくさんの
施設が
本邦では
登録をされております。ちょうどこの
二つが極めてよく並行しているということであります。
一番
下段の三本目の線がこの
医療によって生まれた
子供の数でございます。この
数値は、
上段の
参考資料の
グラフの上の
カラムの中に書いてありますが、
平成八年度、これは昨年、
平成九年度に
報告されたものでありますが、一年間に七千四百十名の
子供が生まれているということになります。また、
本邦でこの
技術が導入されてからの
累積の
出生児数は二万七千二百六十一名ということになっております。年々
増加をしているとともに、
問題点の
一つとして
多胎妊娠が、特に三
胎以上がふえているということに御注目をいただきたいと思います。
これに伴いまして、
卵巣刺激を行うために
卵巣過剰刺激症候群ということで腹水がたまったり血液が濃縮したりして、時には非常に重篤な
状態になる場合もございます。また、
多胎になりますと、生まれる
子供が早産になったり、非常に体重の少ない
未熟児が生まれるということになります。これを回避するために、問題になっております
減数手術、または
減胎手術と申しますか、そういうことが
一つの社会的な、また医学的にも問題になっております。
医学的な問題の二番目でございますけれども、これは昨年、一昨年と大変問題になりました。遺伝的な疾患を回避、重篤なものを回避するという目的を含んでおりますけれども、
体外受精・
胚移植の胚を移植する前に
遺伝子診断を行って移植するということ、また、生まれる前に
ダウン症候群その他を含めた児の
状態を診断しようといういろいろな手技が行われております。この
適応または
応用について今議論を呼んでいるところであります。
最も私が気になっておるところは、いわゆる
ART、
生殖補助技術の
適応とその
臨床応用であります。現在ではあたかもこれが最良の
治療法であるかのごとく言われておりますし、そのような方向に進んでいることも事実であります。
適応をしっかりしているかどうかということを
医師または
施行者が自覚をしなければいけないということであります。それに伴いまして、現在、
学会ではこれらの
施設の認定と
臨床報告の義務づけを行おうとしておりますし、さらに将来には諸
外国にありますようなクオリティーコントロール、
施設の質の
調査ということもしようかと思います。
最後の問題は、これはいろいろありますが、現代の
医療技術がどこまで進むかわかりません。したがいまして、それをいかに
臨床応用にまで持っていくかということが今後の大きな課題になっていると思います。それには一番目の社会的、倫理的、法的な問題が
加味されております。
最後になりますが、社会的、倫理的、法的な問題としては、そこに書いてありますように、昨今問題になっておりますこれらの
生殖補助技術を用いました
配偶子や胚の
提供、それに関しましては、出児の
権利、出児を知る
権利、
提供者または
依頼者の
権利、これらなどがまだ決まっておりません。また、これらの
不妊治療が
商業化をしていくということも大きな問題かと思います。本日の話の中の三番目にありましたそれにかかわる
費用、これも大きな問題になろうかと思います。
限られた時間でございましたので
言葉足らずなところがあったかと存じますが、以上、私の
報告を終わらせていただきます。