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参考人(
草刈秀紀君) WWFジャパンの
草刈です。座らせて陳述させていただきます。
私は、
財団法人世界自然
保護基金日本委員会、WWFジャパン、御存じのように、あのパンダのマークのWWFジャパンの
自然保護室に勤めて
おります。
WWFは一九六一年に設立されました
世界最大の民間の
自然保護団体でございます。スイスに本部がございまして、
世界に四百五十万人と約一万社または団体の会員や寄附によって支えられて
おります。
世界二十七カ国に各国
委員会がございまして、五カ国に提携団体、二十二
地域にプログラムオフィスがございます。今回、そのWWFを代表して、私の
経験談を交えて
意見陳述をさせていただきます。
まず、WWFとしては、今回の改正案については反対でございます。
当会がこの改正案に対する反対の
理由でございますが、先ほど
自然保護協会の
吉田さんがほとんど網羅されて
おりますので、改めて細かいところには触れません。
野生生物の
保護管理を進める地方の
体制が整わない
状態で、自治体に十分な受け皿がないまま捕獲許可権限を移すべきではないということでございます。
WWFジャパンはその事業の
一つとして、国内の草の根の団体や
研究者などの
自然保護活動に対して助成金を出して
おります。WWFジャパンが助成して
おります団体が事務局をして
おります
鳥獣保護法改正を考えるネットワーク、その
アンケート調査で今回の改正案の問題点がほぼ明らかになりました。(OHP映写)
このネットワークが全国の都道府県の担当部局に
アンケート調査をしまして、すべての
鳥獣保護業務を
都道府県レベルで行うことは二十八件が困難であると。その
理由としては、財政的、人員的、調査能力的に非常に難しいという回答が出て
おります。
すべての鳥獣ということですが、これは
環境庁の資料ですけれども、これからは地方分権一括法で、今までは五百六十五種が、六十三種、都道府県知事という形が、今後地方分権が行われますと、五百三十一種が都道府県知事の
対象というふうなことで、すべての鳥獣を都道府県に任せていくことになると言っても過言ではございません。
さらに深めて、市町村
レベルでやることはということについては、実に三十八件が困難であると。それも先ほどと同じように、財政的、人員的、調査能力的にも難しいというアンケートの回答をいただいて
おります。
では、既に今やっているところでどういった
駆除個体についての
情報をとっているかと。とっているところは二十三件あるんですけれども、そのとっているところというのは、ヒグマとか
シカとかツキノワグマとか猿とかそういった部分だけでありまして、ほとんどの鳥獣についてはデータをとっていないという
状況でございました。
それから、担当部局に野生鳥獣の
生態や分布、
被害の実態について総合的に
把握している専門家、担当官はいるかということで、担当官がいるというのはわずか三件でありまして、ほかは、十件は委託しているとかそういった
状況でございます。
では広域的な
調整の仕組みができているかというふうなことでも
一つ挙げてありますが、できているというのはわずか八件でありまして、十二件ができていない、二十件が検討中である、そういったアンケートの結果が出ました。
ということでございまして、
個体数管理を中心とした
科学的、
計画的な
保護管理を優先する
被害防止を
駆除に頼った改正案では、
農林業被害等の問題の根本的な解決にはならないと思います。また、
駆除にかかわる捕獲技術者が専門官ではなくスポーツハンターであることは、
野生生物保護の観点から望ましいことではないと思います。
先ほど
吉田さんが指摘されたように、都道府県の権限による猟期の延長や
捕獲数の
増加などにより人身事故が
増加する可能性もございます。また、
野生生物保護や
保護管理に対する国や自治体の責任が明確になっていないという問題点もございます。改正案には
農林業者の経済的損失を解消するための
被害補償
制度もありません。さらに、十五日の審議でもございましたが、散弾銃や鉛弾による鉛中毒が問題にされている中、空気銃の規制緩和という、さらに鉛を自然界に放出することは到底容認できません。今回の改正案等については、アメリカのシエラクラブやレインフォレスト・アクション等の環境NGOも反対を表明して
おります。
さて、全国的に
保護管理計画を進めるというふうなことで動いて
おりますが、
一つ例を取り出しまして、四国における
シカの
保護管理計画について、その可能性について先日
保護管理を進めている専門官のコメントをとりました。四国には、徳島を中心とした
個体群と高知を中心とした
個体群が
生息して
おります。四国は地形が複雑であり、広葉樹林は調査しにくい環境にあります。各県に
林業試験場があり、
被害が大きいところは
担当者を置いて
おりますが、専門的なことがやれない
状況にあり、モニタリングは無理とのことでございました。したがいまして、四国における
保護管理計画策定については、地方自治体が自前の
研究機関を持たない限り、
地域に根差した
野生生物保護の
管理業務はできない、
現状では大変難しい
状態であり、全国的展開で論議をする必要があるという答えをいただきました。
さて、反対のもう
一つの
理由でございますが、それは
合意形成についてでございます。
まず、これまでの改正案が出てくる流れの中での
合意形成の問題点でございます。
平成九年六月から平成十年四月まで
環境庁は、クローズド、非公開の検討会、鳥獣
管理・狩猟
制度検討会を七回にわたり行い、平成十年四月にその報告書をまとめました。その間、非公開で、一切NGOに対する
意見は求められて
おりません。また、この検討会のメンバーの中にはNGOが入って
おりますが、それは鳥類に関する団体でありまして、哺乳
動物を
保護の観点から
意見を述べられる団体は入って
おりません。また、同検討会の報告書を踏まえて、平成十年五月から十二月まで、
自然環境保全審議会野生生物部会が三回、同部会内に
設置された野生鳥獣
保護管理方策小
委員会が六回開催されました。その結果が十二月十四日の答申にまとめられました。しかしながら、その間、一般の傍聴は認められましたが、NGOに対する
意見を聞く試みは一切されませんでした。
さらに、つけ加
えさせていただければ、昨年八月二十七日と二十八日、これもクローズドなワークショップとして
ニホンジカ保護管理ワークショップ、これは自然環境
研究センター主催で開かれましたが、全国の
鳥獣保護行政官と
研究者が主体で、これに呼ばれたNGOは
自然保護協会とWWFジャパン、野鳥の会だけでありまして、他の団体や一般の
方々が聞けない
状況でした。
さらに、今回出された改正案にある
合意形成の問題点でございます。
聞くところによると、既に特定鳥獣
保護管理計画策定のためのガイドラインの作業が進められているようですが、これについて何らコメント、助言は求められて
おりません。また、特定鳥獣
保護管理計画策定に当たって
合意形成機関が従来の
公聴会しか位置づけられて
おりません。
ことし六月、環境
影響評価法が施行されますが、今までなかった方法書や準備書に対する国民からの
意見が反映され、先進的に行われているところでございます。環境
影響評価法の第八条に、環境
保全の見地から
意見を有する者に
意思決定過程に参加する権利が与えられて
おりますが、本改正案には利害関係者としか位置づけられて
おりません。
このようなわけでして、
合意形成がない背景でさまざまなことが進められ、改正案が出てきたわけでございます。なぜ事前にさまざまな方面から
意見を取り入れる場がなかったのか残念でございます。
しかしながら、
現実には野生鳥獣により
農林業被害が起こっていることも事実でございます。私自身これまで野生鳥獣の
林業被害に関与してきて
おりまして、
経験談ではございますが、昭和五十年代に長野や岐阜、滋賀県といった
地域で特別天然記念物であるニホンカモ
シカが植林木の苗木を食べることで社会問題として取り上げられ、先ほど
吉田さんが話されましたカモ
シカ食害
防除学生隊に参加しました。中央の団体が
日本の天然記念物であるニホンカモ
シカを守れと一方的に言うのではなく、ニホンカモ
シカも守り
日本の
林業も守る方策はないかと検討したわけでございます。
ニホンカモ
シカによる食害は主に冬場に発生します。下
草刈りをした植林地に雪が降りますと植林木だけが出て
おります。植林地に出てきたカモ
シカがこれを食べるわけでございます。杉やヒノキといった木はその成長点、先端でございますが、これを食べられない限りは木が真っすぐ伸びるということで、苗木一本一本にポリネットといいまして、キオスクで売られているミカンとかが入っているポリエチレンのネットでございますが、このネットをかけてビニタイ、針金の入ったビニールのひもでございますが、それでとめるわけでございます。これを秋にかぶせに行って春に外すという作業をボランティアで行って
おりました。同時に、
被害状況の調査も行って
おりました。
被害防除ネットで
被害が防げることがわかったのでございますが、人手の少ない
地域では有効ではないという問題がございました。
また最近では、ツキノワの会、これもWWFジャパンが助成している団体でございますが、埼玉県の秩父で広葉樹の植林や国有林における
被害対策をボランティアで活動して
おります。これも私が手伝いました。植林や
被害防除作業は、急峻な
日本の山間部では苗木の束を担いで斜面を上り
おりする、これは大変な作業でございます。埼玉県の国有林は
シカによる
被害が出て
おります。ほとんどの植林が丸坊主の
状態で、いわゆる
被害の激甚地でございます。実際には、植林をした後、
被害が出てあわてて
防除作業をしている
状況でありまして、埼玉県ではポリネットやツリーシェルターというプラスチックの食害防止のチューブを使って防止をして
おります。
現実問題として、
被害が出て
防除しているというモグラたたき的なことをやって
おります。効果的に
被害防除をする
システムができていないのでございます。植林をして翌日このツリーシェルターをすることによって九割食害が防げるのでございます。
さて、提案でございますが、法改正反対といっても、実際には多くの
農林業被害が出て
おり、今回の改正につきましては、審議員の
方々や多くの
研究者の
方々が努力されてきているわけでございます。
保護管理の重要性もわかりますが、私としては次の提案をしたいと思います。
今回の改正案を見送りとして、
環境庁が音頭をとって、例えば
農林業及び
野生生物保護のための方策検討会をつくって、その検討会には官民、NGO、まさにここにおられる環境議員の
方々や
農林業者の代表、環境NGO、
環境庁、林野庁、農林水産省、文化庁それから都道府県の関係者、
研究者、文部省等の教育関係者がひざを交えて、今回の改正案を土台として十分な
合意形成を図りつつ再検討することでございます。
鳥獣保護法を狩猟法と
野生動物保護法に分け、抜本的な改正の中に鳥獣
保護管理計画も位置づけるのでございます。
このように一、二年後の
鳥獣保護法の抜本的な改正を目指して検討することこそ、将来環境省となる
環境庁のためにも禍根を残さない最善の方法と考えます。それまでは現行法内で
保護管理計画を進め、
被害が出ているところはやむなく
有害鳥獣駆除で対処するしかないと考えます。
長くなりましたが、
鳥獣保護法改正について
世界に恥じない公正な判断をしていただきたいと思います。
また、本日、
参考人として推薦していただきましたことをこの場をかりてお礼申し上げます。ありがとうございました。