運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1999-06-04 第145回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年六月四日(金曜日)    午後一時十四分開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         村上 正邦君     理 事                 岡  利定君                 山本 一太君                 石田 美栄君                 魚住裕一郎君                 井上 美代君                 田  英夫君                 月原 茂皓君                 山崎  力君     委 員                 加藤 紀文君                 亀井 郁夫君                 佐々木知子君                 塩崎 恭久君                 常田 享詳君                 馳   浩君                 若林 正俊君                 今井  澄君                 櫻井  充君                 内藤 正光君                 高野 博師君                 吉岡 吉典君                 田村 秀昭君                 島袋 宗康君    事務局側        第一特別調査室        長        加藤 一宇君    参考人        毎日新聞論説委        員        重村 智計君        コリアレポー        ト編集長     辺  真一君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「二十一世紀における世界日本」のうち、  朝鮮半島情勢について)     ─────────────
  2. 村上正邦

    会長村上正邦君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  国際問題に関する調査を議題といたします。  本調査会は、調査テーマを「二十一世紀における世界日本」として、参考人方々からいろいろと今日まで御意見を承ってまいりましたが、本日は朝鮮半島情勢について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、毎日新聞論説委員重村智計参考人及びコリアレポート編集長辺真一参考人に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本調査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。  忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞ御遠慮なく、ひとつ大胆な御発言を心よりお願い申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず重村参考人辺参考人の順にお一人二十分以内で御意見をお述べいただいた後、三時四十分ごろまでをめどに質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いいたします。  なお、意見質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、重村参考人から御意見をお述べいただきます。重村参考人
  3. 重村智計

    参考人重村智計君) 重村でございます。本日はお招きいただきましてありがとうございます。  きょうお話しすることは、事前にお断りしておくことは、実は私は毎日新聞論説委員をしておりますが、毎日新聞意見というよりは私個人の取材と意見でございますので、皆さんの御参考になればと思ってお話ししたいと思います。  お話の中身は、今北朝鮮の中でどういう状態になって何が行われているかということを、我々ふだん取材している中で確認したことをお話ししたい。  実は、日本のいろいろな北朝鮮政策とか北朝鮮論議の中で一番欠けているのは、北朝鮮の中で何が起きているかというのは余り確認できずに、こういう状態じゃないか、ああいう状態じゃないかという推測と憶測、時には推理小説みたいな形でいろんなことが語られている。それをなるべく現実に即して、北朝鮮の特に指導部の中がどういう状態にあるかということをまずお話しして、その後で外交関係、特に日朝関係の最近の動向について御説明したいと思います。  まず、北朝鮮が今どういう状況にあるかといいますと、すべて労働党党大会待ちという状況でして、党大会がいつ開かれるかということが最大の注目の的になっている。  なぜ党大会が注目されるかといいますと、党大会が開かれると新しい人事、党の新しい幹部人事が決まるものですから、それが決まらないと北朝鮮のいろんな政策が始まらないんですね。  例えば日朝関係にしますと、現在、党の対日担当責任者というのは事実上空席状態です。それから、北朝鮮外交部の、今は外務省ですね、外務省日本局長それから日本課長、これはいずれも空席です。そういう形で対日政策が基本的にできない状況にある。これができるようになるためには、党大会が開かれて、党の幹部の中でだれが対日関係担当するのか、それからそれに従って外務省人事が決まることによって動き出すということになっております。  これまでのところ北朝鮮は、政府と軍の人事、それから最高人民会議人事はすべて終わりまして、政府と軍は一応本格的に機能しているんですが、党はまだ新しい人事に手がつかないために、いわゆる全体が機能していない状態機能停止ではないんですけれども指導部だけが一応の動きをしているという状況にあります。その中で、特に北朝鮮労働党の中で一番今決定権を握るのが、党の中心本部党という組織がありまして、これは外には大っぴらになっておりませんけれども、ここがすべてを決めている。それからもう一つは、この前の最高人民会議で決められた国防委員会、この二つでもっていろんなことを決定しているというふうに考えております。これはまあまず間違いないだろうと思います。  それでは、なぜ北朝鮮労働党大会がそれほどおくれているのかといいますと、最大の理由は、党の幹部の間に韓国スパイ北朝鮮風に言うと南朝鮮スパイがいるんではないかと。スパイの摘出、それから南朝鮮韓国側工作員にいろいろお金をもらったり、やられている人がいるのではないかと、その調査がなかなか終わらないんですね。  最近行われた大きな調査一つが、韓時海とそこに書いてありますけれども、祖国平和統一委員会書記長ですね、実質上の委員長ですけれども、書記長が逮捕されまして、彼が韓国のいろんな工作機関からお金をもらっていたとか接触があったということが明らかになりまして、本人も自白をしまして、この調査が大々的に行われている。日本でもよく知られる金容淳さんという書記もこの事件に関して三月、四月に取り調べを受けたと言われている。  それから、最近では、朝鮮総連の問題に関連して、朝鮮総連代表団が行ったときに金正日書記からかなり叱責を受けた。三時間にわたって、朝鮮総連の内部の問題をきちんと報告しなかった、それから改革に手がついていない、いわゆる朝鮮銀行の不良債権問題もほとんどきちんと報告していないというようなことで相当叱責を受けたと言われていまして、その改革一つの問題になっている。  そういう今の流れの中で我々が一番関心を持っているのは、金容淳書記が果たしてどういう担当になるのかということが今最大の関心事でして、彼の担当は一応統一戦線部なんですが、統一戦線部担当を継続するのかどうか、あるいはほかの部署に変わるのかということが対日関係では一番大きな問題ではないだろうかと思います。  次に、外交問題、対中、対米関係について御説明したいと思います。  ちょうど今、金永南最高人民会議常任委員長中国を訪問している時期でありまして、なぜ中国をこの時期に訪問したかといろんな憶測が出ているんですが、外交的には、秋からの本格的な党大会以後の外交活動の始まりではないかというのが一つ見方ですね。  それからもう一つは、実は中国北朝鮮の間で逃亡者送還、いわゆる犯罪人が逃げた場合には送還するという協定ができているんですが、約束ですね、これがなかなか守られていないということで、このためこれの確認に行ったというもう一つ情報があります。  これは、実は最近、北京北朝鮮大物工作員といいますか、中枢情報を知る人間が行方不明になったということで、北朝鮮は総力を挙げて今捜索中でありまして、かなり多額のいわゆる懸賞金もついていると言われています。中国側にも頼んで捜索しているんですけれども、これはまだ見つかっておりません。これが一時、日本あるいは韓国に逃げたのではないか、あるいはアメリカに逃げたのではないかという情報も流れたのですが、どうもまだ中国の中にいるのではないか、このために金永南常任委員長が出かけてこの問題の解決を求めるというのがもう一つ目的ではないかと。  それから、コソボ問題あるいは日本のガイドライン問題で米中関係悪化している状況の中で、中朝関係の回復をねらっているのであろうというような観測が流れています。  いずれにしろ、そういう総合的な目的でもって多分出かけているのであろうということは間違いないと思います。  最近、中国北朝鮮への食糧石油、コークスなどの支援がことしに入ってから急増しておりまして、中国北朝鮮に対する関係改善のシグナルを送っていると言われておりますが、多分そういうことであろうと思います。  ただ、北朝鮮外交は、冷戦時代から、いわゆる中ソを競わせて自分がそこから利益を得るという外交が基本ですから、中朝関係を回復するということが、中国側に完全に北朝鮮が傾斜していくということではなくて、中国アメリカを競わせて北朝鮮としては自分たちがとれるものをとる、そういう外交をしていくことになるだろうと思います。  これに関して言いますと、現在、北朝鮮に対してアメリカ米朝対話米朝交渉というのをやっておりますけれども、日本韓国がまだ北朝鮮との交渉窓口ができていない。韓国はこの二十一日に北京でいわゆる肥料問題と離散家族問題で南北対話を再開しますけれども、これはまだ本格的な南北対話ではなくて前哨戦のようなものです。こうした日米韓三国を相手にする場合に、北朝鮮の基本的な外交のやり方というのは、同時に良好な関係といいますか、同時に交渉を継続するということはほとんどしないんですね。逆に、アメリカならアメリカとだけ交渉を続けて、日本韓国を牽制して、日本韓国が近づいてくるようにする。あるいは、その三つのうちの二つ、例えばアメリカ韓国とだけ対話なり交渉を持って、日本は少しのけものにして、日本が焦って近づいてくるようにする。これが北朝鮮の基本的な外交戦略ですので、これをある程度頭の中に入れておいていただければ、北朝鮮対応というのは理解しやすいのではないかと思います。  ただ、米朝関係というのは実はまだ非常に時間のかかる問題でして、米朝正常化が実現するのは簡単ではないんです。北朝鮮核開発をきちんと放棄したり、人権問題を解決しない場合には、アメリカの議会が非常に厳しい態度をとっておりますので、米朝正常化を簡単に認めることはないだろうと思います。  続きまして、日朝関係について一つ御説明したいと思いますが、実は、皆さんにお配りしている資料の中で、最近の日朝関係の中で一番注目されたのは三ページ目にございます。三ページ目をあけていただきたいと思いますが、北朝鮮アジア太平洋平和委員会備忘録というのがあるんですが、備忘録の三ページ目の上から六行目から七行目なんですが、朝日正常化交渉を中断したというふうに記録があるんです。前から読みますと、「後に至っては、ありもしない「ミサイル」発射と「地下核施設疑惑」までわめき、朝日国交正常化交渉を中断して、」、こういう実は表現があるんです。  我々の理解といいますか日本側理解からしますと、日朝正常化交渉をこの間ずっとやっていないんです。やっていなかったにもかかわらず、北朝鮮公式文書朝日国交正常化日朝国交正常化交渉をやっていたということにしているんです。  ここがどうしてそうなっているかといいますと、外務省北京北朝鮮アジア太平洋平和委員会の下の階級人たち接触をしていたんですが、この接触北朝鮮国内ではアジア太平洋平和委員会朝日国交正常化交渉を行っているというふうにどうも説明していたようなんです。それがうまくいかなくなったもので、その責任日本側に全部押しつけるためにこの声明文をどうも出したようである。  この声明文がどうしてできたかといいますと、実はこの声明文自身日本に対するというよりも国内向け声明文であろうというふうに我々は読んでいまして、国内で、アジア太平洋平和委員会日朝交渉をやっていると言いながら、なかなかうまくいかない、成果が出ないということで相当な批判を受けたと言われておりまして、その批判に対して、実は悪いのは北朝鮮側でなくて日本側なんだということをどうも記録に残すためにやったようなんです。  この声明の後、基本的には日朝関係はとまったままになっているというのが現在の状況でありまして、日本側はこれまで日朝関係接触を、特に政治家皆さんアジア太平洋平和委員会とその担当者である金容淳書記中心に行ってきたんですが、実は去年の秋ぐらいから金容淳書記がなかなか日本人と会わなくなった、あるいは対日関係発言がなくなってきた。そのことから、対日関係を外されたのではないかという観測がずっと出ておりまして、これはいまだにはっきりしておりません。ただし、どうもこれまでの行動からしますと、対日担当を外されたというよりも凍結されているんではないかという見方が今は出ております。  それから、御存じのように、衆議院議員中山議員が一月十七日に北京アジア太平洋平和委員会黄哲さんという指導員接触したり、それから三月に訪朝をしたりしましたけれども、この間にも金容淳さんには会うことができなかったんです。  日本は三月にシンガポールで外務省アジア局長北朝鮮鄭泰和さんという前の日朝交渉の大使が会談しましたけれども、この席で日本側は、テポドンを二発目を撃っては困る、二発目を撃ったら、KEDOの支援もできない、あるいは食糧支援もしませんよというかなりの通告をするんですが、北朝鮮側は全く応じず会談は決裂したということになっております。  四月に北京北東アジア課長と先ほどの黄哲さんらが会談したということになっているんですが、この会談は実は北の外務大臣白南淳さんに連絡せずに行ったと言われていまして、外務大臣が相当激怒したというふうに伝えられております。  日朝関係で実は一番の問題は、日本に対する窓口北朝鮮が常に金容淳書記中心とする統一戦線部中心にやってきたということでありまして、これは、対日政策外交というよりはどちらかというといわゆる工作、対南工作の一環としての対日政策であったということであるように我々は考えております。そうしますと、やはり対日外交日朝関係というのはどうしてもいびつになってくる。それを実際に外交関係外務省同士のきちんとした関係外交官同士接触に実は戻さないとなかなか難しいのではないかというふうに考えております。  もう時間が来ましたので、残りのいろんな問題、もしこのレジュメに書いてあります問題でも御質問いただければ、後でお答えしたいと思います。  ありがとうございました。
  4. 村上正邦

    会長村上正邦君) ありがとうございました。  次に、辺参考人から御意見をお述べいただきます。辺参考人
  5. 辺真一

    参考人辺真一君) 本日はお招きいただきまして大変光栄に思っております。  先ほど重村さんから大方の北朝鮮状況についての説明がありましたけれども、私は朝鮮半島の当事者の一人として、内から見た北朝鮮、また北朝鮮の今後の対応などについてお話を申し上げたいと思います。  私の基本的な情報というものは、御承知のように韓国には北朝鮮からたくさんの亡命者が行っております。公式発表によりますと、昨年だけでも五十八人が行っております。かつてのように貧しい労働者だけではなくて、今やエリート、中枢階級まで亡命しております。私は、そういう中で、恐らく北朝鮮からの亡命者にたくさん会ってインタビューしたいわば数少ないジャーナリストの一人だと自負しております。  もちろん、亡命者ですから発言真偽については慎重に対応しなくちゃなりませんが、要はその真偽を看破する能力が問われるわけですけれども、私は、かつて北朝鮮系新聞社に十年在職していたというそういう一つのベースに基づいて、彼らの証言真偽をできるだけ冷静に見きわめようと努力してまいりました。そうしたいろいろな情報に基づいて、今の北朝鮮現状と、それから北朝鮮が今後どこに向かおうとしているのかというお話をしたいと思います。  まず、先ほどマクロ的な視点から重村さんからお話がありましたけれども、若干今の北朝鮮現状をミクロ的にお話し申し上げたいと思います。  御承知のように、経済というのは今、北朝鮮は大変ひどい状況にあります。それは統計的にも、昨年もマイナス経済成長ということで、これで九年連続マイナス経済成長です。私は北朝鮮のGNPは少なくとも二百億ドルぐらいはあると見積もっておりましたけれども、今回の最高人民会議発表によりますと、何と昨年は九十億ドル、そしてことしは九十二億ドルという国家予算でした。日本に四十七都道府県ありますけれども、せんだって私は福岡県で講演をしましたけれども、福岡県の予算が約百五十億ドルと伺っておりますが、福岡県のいわば三分の二にも満たない状況ということですね。まさに日本そのものを比較した場合はもう話にもならないというような状況です。  そういうような九年連続マイナス経済成長のために、今、食糧事情というものは大変ひどい状態である。一時、九五年、九六年にかけては一人当たり百グラムの配給と言われておりましたけれども、百グラムと申しますとお茶わんの三分の二で終わりということで、国連の飢餓防止最低量が四百五十八グラムですから、その四分の一ということ。カロリーも百グラムで三百五十キロカロリーということで、人間は少なくとも二千六百キロカロリーが必要だというわけですけれども、全く及ばない。  そういうような食糧悪化によって当然餓死者が発生してしかるべきだというふうに私たちは思っておりますが、今日、北朝鮮は今もって餓死者というのは認めていません、もちろん何らかの形の病気を併発して、そして病死ということは言っておりますけれども。亡命者の話によりますと、北朝鮮はやっぱり体面上餓死という形の発表はできない、少なくとも餓えの因果関係によるほかの疾病によって亡くなったということです。  この統計については、御承知のように韓国に一昨年亡命した黄長ヨプ書記は、九五年で約五十万人、恐らく九六年には百万人だろうと推定をしておりましたけれども、この点については韓国情報機関NSP国家安全企画部は、現在は国家情報院と呼んでおりますが、過去四年間で三百万人が亡くなったと発表しております。この点に関しては真偽は定かでありませんが、少なくとも私が韓国でいろいろな亡命者、多数の亡命者方々の話を聞きますと、その方々の周りで多くの方が飢えて亡くなったと、そういうような証言で共通しておりました。  この食糧問題については、ことしも約百六十万トン不足していると言われております。昨年の生産量が約三百八十九万トンで、五百五、六十万トンは必要というふうに需要を言われておりますけれども、百六十万トンが足りないということであります。  農業問題については、いろいろ農業政策の失敗だとかあるいは水害問題など云々されておりますけれども、北朝鮮というのは本来農業国家ではないということで、農業にはどちらかというと適していない。私、先ほど百グラムと言いましたけれども、多分今は若干回復されて、ことしはもう少しいいのではないかなと見ております。  そもそも北朝鮮配給量というのは、歴史的に見てみますと、一九七一年に故美濃部東京都知事北朝鮮を訪問して金日成主席会談した際に、金主席北朝鮮の国民に約四百グラムを供給していると言っているわけですね。ですから、基本的に、配給量が七〇年代においても少なかったということは言えるのではないかと思います。  食糧問題と同時に、やはりエネルギー事情が大変悪化しております。北朝鮮エネルギーというのは石炭電力石油で賄ってきましたけれども、これまではパーセンテージは石炭が七〇%、電力一〇%、石油一〇%、これがエネルギーの三大源となっております。  石炭そのものは、目標は一億二千万なんですが、実際には半分に満たない五千万トンしか生産できないというありさまです。また、電力も基本的には水力発電です。水力発電ということは、もうあの国は冬になりますと水が凍結して発電できない。ちなみに、北朝鮮首都ピョンヤンは、日本からしますと仙台あたりの気候ということになります。石油自体は、かつて旧ソ連やあるいは中国からそれぞれ二百万トンずつ、合わせて四百万トン、八〇年代までは友好価格支援を受けておりましたが、御承知のようにソ連が崩壊し中国市場経済に向かったことによって、その後は四分の一に落ちたというふうに聞いております。四分の一といいますと約百万トン。若干中国支援があってやや上向きの方向にありますが、北朝鮮が仮に年間百万トンということであれば、ちなみに韓国年間一億トンを消費しているということで、まさに天地の差ほどのギャップがあるということです。  こうしたエネルギー事情悪化というのは、もはや北朝鮮のいろいろな亡命者、特にその中でも、三年前でしたでしょうか、ミグ19のパイロット、飛行士韓国に亡命した際に、ガソリンがなくて、油がなくて飛行訓練もできないと。韓国調査によりますと北朝鮮飛行訓練韓国飛行訓練の十分の一だったということで、大変な状況にある。  本来であれば、北朝鮮は米やあるいはガソリンなどは外国から買ってきたんですけれども、それを購入する外貨が決定的に不足している。今、外貨が底をついただけでなくて、実際に北朝鮮は各国に対外債務を負っている。対外債務の総額は約百十九億ドル。日本だけでも恐らく八億ドル程度になるのではないかと思いますが、ちなみに、日本など西欧諸国に対して四十五億ドル、それから中国、ロシア、東欧に対して七十三億ドル以上ということで、対外債務も大変な負担になっているということです。  そうした外貨獲得のためにいろいろな知恵を絞っている。まさに北朝鮮配給という制度が崩れた。社会主義体制ということを言っておりますけれども、米が社会主義共産主義であるという金日成主席の教示がありますが、実際的にはそれが配給できないということは事実上今の社会主義体制が崩れたということで、それを何とか奪回しようということで、ありとあらゆる方法で外貨獲得に奔走しております。  そうした中には、例えばフランスやあるいは西ドイツから廃棄物を輸入する、例えば廃棄物西ドイツから月十万ドルとか、あるいはフランスからもと、そういうふうに言われております。ちなみに日本からも、御承知のようにアルミ残滓とかあるいは古タイヤとか、それがある新聞調査によりますと九五年で約八千六百トン、九七年に一万六千トン、タイヤは九六年に十六万本、九七年に七十二万本。まさにお金のためには手段を選ばないということで、台湾から核廃棄物まで導入しようというような動き皆さん方も周知のとおりだろうと思います。  時間の関係上若干飛ばしますけれども、そういうような状況にあって、それでもなおかつ北朝鮮が、皆さん方は大変不思議だと思うんですけれども、つぶれない。金日成主席が亡くなったときは二年、三年ももたないのではないかというふうに韓国でも言われておりましたけれども、今なおかつ金正日体制が続いているというところは、やはり今の金正日体制が非常に強固な体制を堅持している。その最大の要因は、完全に軍事体制、いわば軍事国家に変貌しつつある。  軍事国家、軍事体制というのは何をもってそういうことが言えるかと申しますと、金日成体制の時代にはトップ十位の中に軍人、いわば制服組は一人しかおりませんでしたけれども、今回の最高人民会議の序列を見て私自身も驚いたんですが、何と十位の中に軍人さんは四人含まれていたと。ちなみに国防委員の九人は上位十四位の中に全員入っていたというようなこと一つをとっても言えるのではないかと思います。  そういう状況の中で、金正日体制が安定しているかどうかということについては、後ほどそういう質問をしていただければお答えしたいと思います。  では、北朝鮮が今こういうような状況の中で何を目標に掲げて、そして日米韓の包容政策、あるいはアメリカの一括妥結方式とか韓国の太陽政策にどう対応しようとしているのかということについて触れたいと思います。  北朝鮮の当面の目標は、いわば社会主義体制の維持、これに尽きると思います。別な表現を言うならば、東ドイツ化を避けるということ、極論的に申しますと瓦解を防ぐということに尽きると思います。東欧が瓦解し、東西冷戦が崩れ、本家共産主義ソ連が崩壊した後にも、北朝鮮は依然として我ひとり社会主義で孤塁を守るというような姿勢を堅持しております。  四月二十五日の労働新聞の社説、これは朝鮮人民軍創建六十七周年に際して発表されたものですが、一言引用させていただくならば、我々の革命勢力は今も世界帝国主義の連合勢力と単独で立ち向かい、社会主義の偉業を強固に守護しているというふうに言っております。すなわち、社会主義体制を引き続き守っていくというのが北朝鮮の目標です。  当面の目標は、ここ数年内に強盛大国をつくるということです。強盛大国を築く、日本語でいきますと富国強兵という言葉です。富国強兵国家にしてみせるというふうに言っております。私は、今のような経済状況で果たして北朝鮮がそういうような富国強兵の国家ができるのかどうか大変疑わしく見ておりますけれども、北朝鮮の労働新聞は、ことし二月十六日、金正日さんの誕生日に際して発表した社説の中で、ここ数年の間にこの地に世界じゅうがうらやむほどチュチェの強盛大国を築くだろうと。  この強盛大国という意味はどういうことかと申しますと、実に簡単な言葉で、国が小国であっても、思想的に軍事的に大国になれば、大国になるということなんです。この思想大国、軍事大国という意味は、思想的には、まさに金正日書記、国家に忠誠を尽くす、すなわち自爆あるいは自決も辞さないというような忠誠心を各軍隊から国民まで持つということ。それから、軍事国家、軍事的な大国という意味は、私が解釈するところによると、ひょっとすると例の核及びミサイルではないかな、こういうふうに考えますが、それに関する確固たる証拠はありません。  二つ目は、そういうような状況で、とりあえず南北のバランスを回復しようということで、北朝鮮外交バランス、経済バランス、軍事バランスの維持に今後努めていくのではないかなと。もう既に北朝鮮の認識は、朝鮮半島のバランスは崩れた、均衡は崩れたとみなしております。  外交的には、日米が北を承認しない段階で中ソが南を承認してしまったということ、さらに東西冷戦が崩れて東欧が瓦解したということです。  経済バランスは、先ほども申しましたけれども、現在のGNPあるいは一人当たり国民所得、どれをとっても北朝鮮韓国に及ばない、及ばないどころかはるかに及ばない。例えば、韓国はGNPが約四千三百七十四億ドル、一人当たりの国民所得は九千五百十一ドル。これに対して北朝鮮は、GNPが先ほど申しましたように二百億ドルにも行っていない、国民一人当たりの所得は七百四十一ドルというところですから、話にならない。  それから、軍事バランスにおいては、御承知のように、南北の軍事力の面に関しては北朝鮮の方が装備の面に関して数の上では圧倒しております。しかし、既に南と北の軍事費という側面からするとこれは大きく崩れて、八一年の段階で逆転しております。八一年の段階で韓国は二億五千万ドル、北朝鮮が二億三千万ドルと、八〇年に入って南北の軍事費は経済の比較と同時に逆転した。そういう意味で、北朝鮮が軍事力のバランスを引き続き優位を維持する、あるいは今後も維持する上で、やはり核とミサイルという問題がひょっとすると提起されているのではないかな、こう思います。  金大中政権の太陽政策について北がどういう対応をとっているかといいますと、基本的には非常に警戒心を持っています。太陽政策北朝鮮の体制瓦解がねらいである、これが北朝鮮のスタンスです。  労働新聞が昨年、太陽政策に対して、これは新たな反共和国・反統一・対決宣言であるというふうに言っております。これを平たく申しますと、ことしの二月二十日の労働新聞では、太陽であれ包容であれ、本質において祖国統一三大原則に完全に背を向ける偽りの統一政策で、永遠に実現されることのない妄想の中の妄想であると、けちょんけちょんに金大中大統領を酷評しております。これは、北朝鮮からしますと、太陽政策も北風政策も本質的には社会主義のよろい、すなわち社会主義のマントを脱がすという上では変わらないというような受けとめ方です。むしろ北風よりも太陽の方が手ごわいというふうに極度に警戒しております。  金大中大統領は太陽政策の中で北朝鮮改革・開放を求める、私たち北朝鮮改革・開放の方向に誘導しようというふうに言っておりますけれども、基本的に改革とは、これは北朝鮮からすると一党独裁体制をやめて民主化する、すなわち多党化するということですね。それから、開放というのは、これは市場経済へ、すなわち資本主義経済への移行を意味しておりますので、これが北朝鮮からすれば体制瓦解への道だというふうに受けとめております。  御承知のように、北朝鮮は、金日成主席のチュチェ思想を唯一思想体系に、また朝鮮労働党すなわち共産党の指導を唯一指導体制にしておりますので、多党制などの西側の民主化、民主システムを取り入れるということは基本的にはこれは自殺行為に値する、こう思っております。  それから、金大中大統領の三段階による一括妥結方式。第一段階は、北の核とミサイルの問題を解決して米朝関係改善を実現させる。二段階は、北朝鮮の開放と市場経済を誘導させ、南北相互軍縮を実現させる。三番目は、平和統一のための南北共存を実現する。これが金大中大統領の三段階の南北共存に向けての方式ですが、これについても北朝鮮はことしの二月二十一日、先ほどお話がありました金容淳日担当書記が一括妥結方式はだれにも歓迎されないだろうということを言っております。  この点に関して北朝鮮の立場は、いかなる場合にあっても階級的な原則での譲歩はすなわち死である、したがって帝国主義とは非妥協的に最後まで闘うというのが北の方針です。すなわち、一歩譲歩をすれば二歩、三歩譲歩させられ、ひいては武装解除につながる、そういう警戒論を持っているということです。  しかし、さてそうは言いながらも、先ほど申しましたようにこの今の疲弊した経済を何とかしなくちゃならない。そこで、太陽政策について北朝鮮は、これにブラインドをかけよう、ブラインドをかけて、少なくとも太陽を太陽ではなく、北朝鮮にとっては心地よい、暖かい、そういうようなものとして受け入れよう。これすなわち、民間経済を交流し、そして経済実利を追求するというやり方です。平たく申しますと、開放はしないまでも、窓をあけてもそこに網戸をかけるとか、あるいは蚊帳をかけるとか、そういうことでいわば窒息した状態を少しでも楽にしよう。しかし、西側の文化あるいは思想、そういうようないわば北朝鮮からすれば害虫、虫はとにかく入れないというような、選別的な段階的な政策をとっていくのではないかな、こう思います。  時間が参りましたでしょうか。対日問題については触れることができませんでしたけれども、皆さん方の質問の中でお答えしたいと思います。  ありがとうございました。
  6. 村上正邦

    会長村上正邦君) ありがとうございました。  これより質疑を行います。  前回同様、本日も自由に質疑を行っていただきます。多くの委員が質疑できますよう、各位におかれましては御協力をお願いいたします。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  7. 山本一太

    ○山本一太君 五分ということなので、手短に二つお聞きしたいと思います。  ゴールデンウイークに韓国に行ってまいりました。非公開の半潜水艇を見て日本の部品が使われているということを確認したのと同時に、一つ発見したことは、太陽政策については韓国の内部で非常に温度差があるということで、軍部とか外交通商部はどちらかというと慎重で、金大中大統領を中心とする青瓦台の方がむしろ太陽政策を推進しているという感じがいたしました。  先般、統一部長官が康仁徳から金大中の側近の林東源さんにかわったということは、恐らく金大中大統領がこれから本格的に本来彼の意味する太陽政策を展開する基盤をつくったんじゃないかと思うんです。私の感覚ですと、林東源が統一部長官になって、ここ何日か一生懸命中国にどうも北朝鮮が近づいているということを踏まえて、何らかの金大中大統領の新しい外交イニシアチブが林東源さんから出てくるんじゃないかと、何となくそんな感じがするんですが、そこら辺についてどう思われるかをお二人にまず一つお聞きしたい。  もう一つは、この間のペリーの訪朝なんですが、重村さんや辺さんがおっしゃったパッケージディール、アメリカの包括的政策韓国の太陽政策というのは実は違うんじゃないかという感じを最近持っております。ですから、ペリーの訪朝のときも、ペリーは交渉ではなく説明に行くというふうに随分これをプレーダウンしていたわけなんですけれども、韓国のいわゆる包容政策と今アメリカが進めている一括方式、パッケージディールというものが違うということについてどういうふうに思われるか。  この二問をお聞きしたいと思います。
  8. 重村智計

    参考人重村智計君) それでは、御質問にお答えします。  韓国の統一相が林東源さんにかわって、ニュアンスは前任者の康仁徳さんより少し変わってくると思うんですが、大きく前進することはまずないだろうというのが我々の展望なんです。  それはどういうことかといいますと、実は韓国には対北政策をめぐって御指摘のように保守派と革新派の対立が常にありまして、前の康仁徳さんはどちらかといいますと保守派の代表であったわけです。保守派の代表が入っていたために保守派からの攻撃は非常に弱まった。今回の場合ですと、金大中大統領の側近の林東源さんが、これは革新派の代表でありますけれども、入るということで、韓国の保守派の攻撃が物すごく高まると思うんです。それに対してどうするかということで、逆にまた足かせをはめられる可能性が非常にある。  それからもう一つは、実は韓国の対北政策の基本は統一相が握っているのではなくて、青瓦台と国家情報院、前の安企部、ここで決定するものですから、実際上は統一院のフリーハンドというのはほとんどない状態ですので、それからしますと、林東源さんがかなり懸命にやろうとしても少し難しいところがあるんではないか。  じゃ、林東源さんにかわってどうして今回北京で南北の会談が二十一日から開かれるようになったかということなんですが、これは、前から北朝鮮は康仁徳さんの解任を求めていまして、一応解任されたということが一つの理由になるものですから、北朝鮮側の要求が受け入れられたということで会談が始まる。そういう意味では一つの前進ではあるんですが、会談の中での一番の問題はいわゆる離散家族の再会問題でして、北朝鮮はこれまで応じていなかったんですね。今回は一応応じるというふうに言っているようなんですが、実際の具体的な交渉の中で、どういう形で離散家族の再会が実現するかをめぐって交渉が必ずしもうまくいかないかもしれない。ですから、とりあえずは今回の二十一日から行われる交渉がどういうふうに進むかによって事態がある程度わかるんじゃないか。ただ、北朝鮮はことしの初めから、ことしの後半から、ですから秋からは南北対話を始めるということを表明しておりますので、いずれにしろ、秋になれば何らかの形で対話の進展というのが見られるのではないだろうかと思います。  それから、いわゆるアメリカの包括政策と金大中さんの太陽政策との違いは、基本的にアメリカは包括政策をやる気がない、やりたくなかった。ただ、韓国側が包括政策を言ってくれないと困るというので、名称だけパッケージディールというふうに、包括政策にしたんですね。  金大中さんが考える包括、パッケージディールは、米朝正常化まで全部一緒に入れて、一括で妥結してすぐ米朝正常化してほしいと、こういういわゆる包括交渉なんですが、アメリカ側は全部入れた包括交渉は事実上できないんです。議会も反対しますし、アメリカの保守派も反対しまして。  そうしますと、一括政策といいながらどういうことをやるかといえば、とりあえず核とミサイルの問題をパッケージにして、その問題を解決するところまでやってくれたらこういう対応ができますよというところを出して、その後の問題は、正常化の過程はこういうふうになりますよというロードマップといいますか、道筋を示すというのが一つですね。それからもう一つは、もし北朝鮮がそういう形で核開発を継続したり、あるいはミサイル開発を継続した場合にはこういう不利益がありますよということで不利益を羅列する。  この三点を示すことによってパッケージディール、包括交渉というふうに言っているのがどうもアメリカ側の対応のようで、そこに違いがあるというふうにお考えいただければと思います。
  9. 辺真一

    参考人辺真一君) 一点目の韓国の統一長官の解任問題については、基本的に重村さんと見解を同じくしております。  後者の、韓国の太陽政策とペリーの包括案とどう違うのかということで、まず韓国の太陽政策ですけれども、基本的に韓国は太陽政策以外に選択肢がないという結論に達しています。現実問題として、韓国は対北政策で三つの点が考慮されました。一つは封鎖政策です。二つ目は北朝鮮問題に関する不介入政策。三点目が包容政策です。  このアメリカの議会あるいは共和党の中にも出ていました封鎖政策ですが、韓国政府及び金大中大統領は、この封鎖政策の場合は北朝鮮の崩壊が差し迫っているという前提に立てばこの政策は実効性がある、しかし北朝鮮の政権、金正日体制の崩壊が差し迫っているというふうにはみなしていないということが一つです。それから、仮に封鎖政策をとったとしても、キューバやイラクの例を見るように、崩壊を誘導するのが大変難しい、逆に独裁政治を長期化させて国民の苦痛を加重させる結果を招くおそれがある、ひいては北朝鮮が一か八かで三十八度線を突破するというようなおそれがある。それが封鎖政策を排除した理由です。  では、不介入政策はどうかと申しますと、基本的に、日本の場合は海で北朝鮮とは離れておりますのでこの政策は可能かもわかりませんが、現実問題、韓国の場合は御承知のように北朝鮮から潜水艇が入ってきたり潜水艦が入ってきたり、いろいろな形の介入、関与があるということで、これを放置あるいは無関心ではいられないということ、さらに、北朝鮮の今の飢餓状況食糧危機の状況をやはり同じ同胞というような見地から放置するわけにはいかないということ、これがこの封鎖と不介入政策韓国が選択しなかった理由です。  ペリーさんのいわば包括案との大きな違いは、朝鮮半島でいかなる場合があっても戦争を起こしてはならないというところが違うと思います。もう少し極論的に申しますと、北朝鮮に対してあめ及びニンジンを提供するが、そのニンジンとあめを北が選択しない場合はむちもしくはこん棒も辞さないというアメリカの一括妥結案と違って、韓国の場合は、どのような場合があってもこん棒もむちもちらつかせてはならないというところが大きな違いではないかと私は見ています。
  10. 内藤正光

    ○内藤正光君 きょうはどうもありがとうございました。私は、両先生にごく手短な質問を一つさせていただきたいと思います。  交渉において北朝鮮は、韓国日本を余りにも重要視しなさ過ぎている、ほとんど重要視していない、特に日本については、何か支援を引き出すことができればそうしようというような態度で臨んでいるかと思うんです。私は、日本はそのままでいいかといえば、やはりアジアの安定、平和ということを積極的にやっていく責務があるかと思います。そんなことで、日本がこれからどういうような方向でこの対北朝鮮問題に当たっていくべきなのか、両参考人にお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  11. 重村智計

    参考人重村智計君) お答えします。  これは、実は難しいといいますか、御説明するのになかなか御理解いただけるかどうかと思うんですが、日本側北朝鮮に対して何か貢献したい、あるいはアジアの平和と安定のために何かしたい、こういう善意といいますか好意があるんですが、北朝鮮側は必ずしもそういうふうには考えていないという両者のアンバランスとギャップがあるんです。それがいつも実は問題の発端になる。  それはどういうことかといいますと、まず北朝鮮日本に対する理解が我々の理解とはかなりかけ離れていることを前提にしていただきたい。北朝鮮は、日本アメリカの部下である、手下であると考えておりまして、アメリカ交渉して話がまとまれば日本アメリカの言うことを聞く、だから米朝交渉が先だと、こういうのが一般的な見解です。  ただ、それに対して、じゃなぜ日朝交渉が始まるのかというと、それに反発する人たちが、どちらかというと日本担当している人たちが、いや、そうではなくて日本はやっぱり独自にできるんだと主張できるケースが時々出てくる。その場合に、じゃ日本もやってみようかと。やってみるとまた失敗する、また後退するという、実はこれの繰り返しをやっているんです。  それからもう一つは、日本側は、今御指摘のようにアジアの安定と北東アジアの平和のためにと、こういう考えなんですが、北朝鮮側の立場からすれば、日本が補償すべきだ、いわゆる過去の償いをすべきだ、そこからすべてが始まるんだという基本的な考えがあるものですから、なかなかその理解と認識が一致しないんです。  じゃ、どうやって日本がこれに対応していくかということになりますと、朝鮮半島における問題は韓国北朝鮮といいますか朝鮮人、韓国人が決めるべきであるということを基本に、韓国北朝鮮人たちが、自分たちが話し合って、自分たちが方針を立てて、しかもどういうふうにしたいということが明らかになったらそれはお助けしましょうというのが我々の基本的な立場であるわけです。ただし、その中で我々が何ができるかといえば、基本的には、先ほど辺さんからもお話があったように、朝鮮半島で戦争は起こさない、戦争は絶対に起こしては困るということを常に言い続けるということが日本の主張であろうと思うんです。  それからもう一つは、食糧問題にしろ人道問題にしろ、お困りであれば日本はいつでもアジアのためにお助けしましょうという立場は常に鮮明にしていくという、この原則をはっきりした上で個々の問題に当たるというのが一番大切であろうと思うんです。それをせずに、韓国なり北朝鮮はこうすべきだああすべきだという形で、あるいは日本の押しつけがましい形で出ますと、かなりの反発を受けることになる。  それから、外交における日本のアジアあるいは朝鮮半島に対する姿勢の原則は何かということをはっきりさせることがまず一番最初に大切であると。さらにその上で、朝鮮半島の人々あるいはアジアの人々に、いつでもお助けする用意があります、いつでも協力する用意がありますということをはっきり宣言する。しかも、さらに日本は、アジア同士が戦うとか、アジアとアメリカが戦うとか、アジアにおける戦争は基本的には反対ですということを言っていくのが外交の基本ではないだろうかというふうに考えております。
  12. 辺真一

    参考人辺真一君) 私は、やはり日朝国交正常化の機を九〇年の段階で逃したのではないかなと思っておる一人です。すなわち、金丸・田辺訪朝のときの金日成の決断を日本は非常に過小評価し過ぎたのではないかなと。  どういうことかと申しますと、この金日成という人物は、御承知のように抗日パルチザンで日本の植民地時代に抵抗した人で、まさに反日の権化的な存在である。あの李承晩さんですら、李ラインで最後まで日韓国正常化に関して反対した。恐らく、金日成さんは山の中でゲリラ活動をしたというんですから、李承晩さん以上に日本に対しては複雑な感情を持っていただろうと。この方が、金丸さんが行かれたときに突然日朝国交をやろうと。これは当時、日本で大変大きな衝撃、韓国にとっても衝撃でした。というのは、よもや北朝鮮が国交正常化を求めるとは夢にも思っていなかった。と申しますのは、日朝国交正常化朝鮮半島の永久分断化、すなわちクロス承認は朝鮮半島の永久分断化につながるということを北朝鮮が言ってきた、そういういきさつがあって大変に驚いたということです。  その際に、皆さん方は多分もうお忘れになったと思いますが、金日成主席がこういうことも言っておりました。日本経済大国だが政治大国にもなっている、ここまで来たのは日本政策が正しかったのだと思うと。こういう人物が日本のこれまでの戦後の歩みをこれだけ評価したということは、大変な意味があることだろうと。  もう一つ、あえて言わせていただくならば、この金丸・田辺訪朝前に当時のシェワルナゼ・ソ連外相がピョンヤンを訪問したときに、今中国に行っている金永南外相との会談韓国を承認することを通告したわけです。その際に金永南は、もしソ連がそういうことをやるならば我々は今後北方領土の問題で日本の立場を支持するということを言ったということなんです。  これはどういうことかと申しますと、簡単に申しますと、敵の敵は味方ということで、恐らく日本との関係を打開することによって外交的に孤立を免れようというような金日成さんの判断かもわかりませんが、同時に、北朝鮮という国は御承知のように金日成さんのツルの一声で動くというようなお国柄だということで、北朝鮮からすれば本当にこのとき日本と国交をやろうとしていたと。  それでスタートしたわけですが、その後は皆さん承知のように、国際情勢など、あるいは核問題とか日本韓国とのいろいろな関係で結局できませんでした。しかし、御承知のように、今回は韓国日本に対してフリーハンドを与えております。日本北朝鮮に対して前提条件なしに国交交渉をやるということをこれまで一貫して言ってきましたけれども、現実問題として、韓国の盧泰愚政権は金丸さんに対して、日本に対して、北朝鮮と国交交渉する場合の条件として、例えば南北対話に応じるとか、国連に加盟するとか、テロを放棄するとか、あるいは核査察を受け入れるとか、いろいろな形の条件をつけてきたわけです。しかし今回、そういう意味ではフリーハンドになっておりますので、タイミングとしては悪くない。  ただし、北朝鮮が対日不信を持つ背景には、先ほど申しましたように、日本の方は前提条件をつけないということを一貫して言っておりますけれども、少なくとも日本の世論の対北の感情を考えたときにはこういうことをしてもらいたいということで拉致の問題を含めていろいろ出してきたわけですが、それをすべて、北朝鮮の方からすれば日本はそもそも北朝鮮と国交正常化する意思がないということで突っぱねてしまった。特に今は最悪の状況にありまして、御承知のように、周辺事態法が通過したことに関連して北朝鮮は、これによって日朝は交戦状態に入ったというような大変険悪な、そういうような感情をむき出しにしております。  この日朝問題は、二十世紀に起きたことは二十世紀中に解決するというようなスタンスと、それから原点に戻って再度交渉する必要性、特に日本からすればやはり二十世紀に起きた戦後の処理を独自にやるという姿勢で臨むことも重要ではないか。そうすることによって、やはり北朝鮮の対日不信を解消していくという努力が望まれるのではないか、私はこう思います。
  13. 重村智計

    参考人重村智計君) 今の辺さんの意見に対してちょっと補足的に説明しておきたいんですが、北朝鮮に対して、前提条件なしに無条件に日朝国交正常化を再開しますということは、日本政府としては一度も言ったことはありません。これを言ってきたのは、いわゆる与党訪朝団なり四党宣言の宣言文の中に無条件で国交正常化を再開するというふうに書かれておりまして、これを北朝鮮がいつも日本が国交正常化を再開しないときの非難の理由に挙げているんです。  私、個人的には、外交というのは始める前にたがをはめるべきものではないので、無条件で国交正常化をするという条件はつけるべきではないと。それは外交の駆け引きの問題ですから、最初から日本側が無条件で国交正常化を再開するというような約束をするべきではないだろうというふうに考えております。
  14. 内藤正光

    ○内藤正光君 ありがとうございました。
  15. 常田享詳

    ○常田享詳君 きょうはありがとうございます。  先ほどお話がありましたことで一点と、そのほかに一点、お尋ねしてみたいと思います。  南北のバランスの問題が先ほどあったと思います。ちょっと視点を変えて、辺参考人がおっしゃったことと逆説的になるかもしれないけれども、私は、南が優位に立って北が下位に立ったバランスを前提としていた今までと違って、逆に最近の状況を見るとむしろ北朝鮮の方が、私もおととし行ったんですけれども、おととし行った時点よりも以降の方が状況はよくなってきているんではないか。それは、我々の目はいわゆる経済的な側面だけでその国を見ているけれども、先ほど来お話があったように、あの国はまさに富国強兵、現体制をどうやって維持するかということを中心にやっている国ですから、町を歩いても、若者たちが国のために死すというような旗を掲げて歩いている。そのことを私どもも見てきたわけですけれども、そういう国であるということからいけば、最近の韓国状況、例えば不良債権の問題、失業の問題、それから連立政権であるという現政権の不安定な状況等を見ますと、むしろ韓国の方にも大変バランスを欠くような状況が生まれてきているんではないか。  そこでお尋ねしたいんですけれども、金永南最高人民会議常任委員長が今訪中されたということで、中国がこれから南北問題に相当かかわってくるのではないかなというふうに思うわけでありますが、中国のかかわりが今後南北のバランスにどう影響してくるのか、そのあたりをお尋ねしたい。  それから二点目は、北朝鮮外貨不足の問題がありましたけれども、最近日本に入ってくる覚せい剤は、昨年の高知の三百キロ、それから先般の鳥取境港の百キロ等々、北朝鮮製の覚せい剤が非常にふえてきておる。これは数百億というような単位になってきていて、これがマネーロンダリングで日本国内で浄化されて北朝鮮に戻っているんではないか。それから、もしそうであれば、日本に滞在していると言われている工作員たちの資金源になっているのではないかなというような心配もしているわけでありますけれども、その辺に対して何か情報がありましたらお教えいただきたい。  以上二点でございます。最初の話は両先生に、後の話は、もし何かそのことの情報があれば、どちらからでも。
  16. 辺真一

    参考人辺真一君) 私たちが一番心配しているのは二つあります。一つは、朝鮮半島有事のときに中国がどうかかわってくるのかということです。それから、今の金正日体制に対する中国の今後のてこ入れです。  まず最初の朝鮮半島有事の際に中国がどう出るかということなんですが、私、個人的な考えとしますと、一九六一年でしたでしょうか、北朝鮮との間で交わした中朝相互援助条約、これを破棄しない限りにおいては、中国は恐らく北朝鮮の後方基地として朝鮮半島有事の際には物資の、あるいは何らかの形の支援は当然やるだろう、こう見ております。  もちろん、五〇年から五三年に起きた第一次朝鮮戦争、あのときのいわば解放軍、人民義勇軍を送るというようなことはないと思いますが、少なくとも、この中朝友好・協力及び相互援助条約の中の第二条、すなわち、一方が第三の国家または国家連合から武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、もう一方は力を尽くして速やかに軍事的援助及びその他の援助を提供すると。既に御承知のように、ロシアは北朝鮮に対してこの条項を破棄して新たな条約を結ぶことになっております。中国はこの点に関して、一応日本に対してはこれは既に無効だというようなことを示唆しておりますけれども、現実問題としてはこれはなおかつ有効そのものであるということをあえてつけ足しておきたいと思います。  それから、中国は現実問題として北朝鮮と千三百キロ以上にわたって国境を接しているということです。それから、中国とはやはり抗日パルチザンあるいは朝鮮戦争をともに戦ったという点、さらに、同じように社会主義を目指しているというところ、ここが、北朝鮮ソ連とのイデオロギー的な兄弟国と、そして中国北朝鮮との大きな違いだということです。  したがって、私は、中国北朝鮮金正日体制が反中政策をとらない限りにおいては北朝鮮の体制を引き続き強力に支援していくのではないかな、こう見ております。
  17. 重村智計

    参考人重村智計君) お答えします。  辺さんとちょっと意見を異にするんですが、実は中朝両国は我々が考えている以上に仲はよくない。お互いに嫌っているんです、本心は。お互いにばかにし合っているといいますか、特に軍事関係北朝鮮の軍と中国の軍人さんの関係というのは決してよくありませんので、中国が全面的に北朝鮮支援するということはまずあり得ない。  それから、朝鮮戦争について中国がどういう歴史的評価を下しているかといいますと、これは中国の内部文書で既に明らかになっているんですが、朝鮮戦争に出兵したのは大失敗だったというのが今の中国幹部の歴史的反省でして、それはなぜ失敗だったかといいますと、朝鮮戦争に出兵したために、あるいは朝鮮で戦争を起こさせたために台湾の解放がおくれた、これがもう歴史の最大の失敗である、二度としてはいけないというのが中国側のいわゆる朝鮮半島に対する一つの軍事政策の原則であります。中国側は、北朝鮮に対して、北朝鮮が南に攻めるような場合には絶対に支援しませんとはっきり言い渡していますから、何らかの形で自分たちの国境が侵されるという危険がない限り、軍事的に支援に出ることは極めて少ない。  それから、中国にとって一番今何が大切かといいますと、朝鮮半島で戦争を絶対に起こさせないということでありますから、もし何らかの形で北朝鮮が軍事的な行動に出る、あるいはそういう戦争にしようということになった場合には、金正日政権を取りかえても何らかの対応をするということになるだろうと思うんです。  それからもう一つ、今回の金永南常任委員長の訪中に関連した意味なんですが、御存じのように、中国韓国が国交正常化して以来、中朝関係というのは非常に冷え切っていまして、金永南さんが外務大臣のときに北京を経由して外国を訪問する場合に、北朝鮮の特別機から北京の空港で一歩も出なかったことも何回かあるんです。そうした関係を今回修復して一応もとの関係に戻すということになったわけですけれども、しかし原則として、現在のところ中国としては、やっぱり経済的には韓国の比重が非常に重くなってきているというのは事実ですし、北朝鮮との関係でさらに強固な同盟関係を持っていくというのはまずない。  ただ、中国が一番心配するのは、朝鮮半島のバランスが崩れて、北朝鮮が非常に不安を感じて何らかの過激な行動に出るのではないかというのが一番心配です。そのためには、北朝鮮に対して、そうではなくて一応中国としては北朝鮮支援しますよ、必要な限り支援しますよというメッセージを送らないといけない。ただし、北朝鮮に対するいろんな経済支援、軍事支援にしろ、北朝鮮が戦争を再開できるような限度、あるいは北朝鮮中国に対して反抗するような力をつけるような形の限度までは絶対送らない。その前でとめるというのが中国側政策の原則でありますので、そういうことはまずないだろうと思います。  ただ、中国は、朝鮮半島は歴史的に見て中国の影響下にあったと考えているものですから、その中国朝鮮半島に対する影響力を維持するための政策は常にとりたい。ですから、南北朝鮮の両方に対して、常に対話ができて影響力を行使する立場をとりたいというのが中国の方針であるというふうに考えていただければと思います。
  18. 辺真一

    参考人辺真一君) 基本的に、北朝鮮が三十八度線を突破して韓国に攻め込むといういわば北の南進の場合には、私も当然中国北朝鮮支援することは一〇〇%ないと思います。私が申し上げているのは、少なくとも、アメリカ及び多国籍軍が例えばイラクあるいはコソボのような形の空爆という事態に陥った場合のことを申し上げております。  それから、中国北朝鮮関係に関しては、内部的に金日成がおもしろいことを言っておりまして、これは一般に公開されておりませんが、中国はいまだかつて我々にこうしろああしろということを一回も言ってきたことがない、言える立場にもないというような意味深長な言葉を言っておりました。  御承知のように、北朝鮮の核問題あるいはミサイルの問題について中国はほとんど影響力を発揮できなかったということを考えますと、少なくとも、北朝鮮中国の影響下にあって、そして中国の言うことによって右に左に左右されるというような期待を持つのはいかがなものかなと私は思っております。
  19. 山崎力

    ○山崎力君 一つは、これは事実関係なので、もし御存じであればということなんですが、最近、九四年のノドンのミサイル実験のときに、単に日本海に落ちたのではなくて、複数弾で、この間のテポドンのように日本を通過して太平洋にまで飛んでいっていたんだというのがちらちら聞こえてきます。そういったことについて情報をお持ちかどうかということです。  それから、それに関連して、いわゆるテポドン二号といいますか、第二のテポドンを発射するのかしないのか。アメリカ側からすれば、それが米本土に届くようなものであっては絶対に困る、そしてなおかつ弾頭部が核であったら本当に困る。そこが一番北朝鮮自体が困った事態になるところで、その辺のところの腹の探り合いが今、米朝間での一番の問題であろう。ただ、これを全くゼロにしますと北側も対米交渉力を失うと思っているわけで、その辺で暴発防止のやり方が非常に瀬戸際といいますか、塀の上を走りながら、タイトロープの上を渡りながらということになってくるんじゃないか。その辺の見通しをどのようにお持ちかという点を二点目にお伺いしたいと思います。  最後に、これは先ほど重村参考人の方から出たかもしらぬのですが、私は、個人的には、もう朝鮮半島問題に関して我が日本は積極的に一切出るべきではない、お手伝いすることがあれば何かさせていただきますと、自分から言わずに消極的に、非常に弱腰かもしれませんが、その方がむしろいいのではないかなと思っているんですが、その辺、両参考人から一言ずつで結構ですから御意見を伺えたらと。  以上でございます。
  20. 重村智計

    参考人重村智計君) 多分九三年のノドン・ミサイル実験のことであろうと思いますけれども、実際に日本を越えていったといういろいろな情報があるんですが、確認はされていません。北朝鮮側情報の中にも、実はあれはテポドンであった、こう言う人もいますけれども、これも確認は実はされていません。ですので、我々今考えているのは、どうもあれは基本的にはノドンの成功であったんではないかというふうに考えております。  それから、テポドンがもう一度発射するかどうかということなんですが、北朝鮮側情報ではテポドンはあと二基残っていると言われておりまして、本当は発射したかった、あるいは発射したいというのが現実だというんですが、実際にはなかなか発射できない状況にある。それは、日本がいろんな警告を出したりあるいはアメリカが警告を出したりしたこともあるんですが、多分もし次に発射するとすれば、この前のテポドンの場合も事実上最高人民会議のいわゆる打ち上げ花火だったものですから、今回の場合も、党大会前に、党大会の祝賀用の打ち上げ花火でまた人工衛星を打ち上げるということになると思うんです。その際には、この前の教訓から、一カ月なり一週間前に打ち上げを多分予告することになると思うんですね、人工衛星を打ち上げますよと。  そうした場合、日本アメリカは、じゃどういうふうに対応するのかという問題を多分迫られることになると思うんですが、基本的には、もしテポドンをもう一回打ち上げると日朝関係が非常に大変なことになりますよ、あるいは米朝関係も大変なことになりますよというメッセージは金正日さんのところまで届いているものですから、それはかなり影響されているというふうに聞いております。  後の問題は、消極的という言い方はなんなんですが、基本的には私もそう考えておりまして、基本的には朝鮮問題を解決する、朝鮮問題をどうするかというのは韓国人と朝鮮人が決める問題でして、日本の方がああすべきだこうすべきだという問題ではないだろうと思うんです。ただ、日本側はいずれにしろ、どんなことがあっても必要であればいつでも協力しますよ、何でもおっしゃってくださいということが一番大切ではないだろうかというふうに考えております。
  21. 辺真一

    参考人辺真一君) 基本的に私どもはノドンは対日、それからテポドンは対米というふうに見ております。したがって、去年八月三十一日のテポドンで大変日本の世論は激高したわけですが、これについては、本来はそれ以前のノドンの段階でもう少し日本は声を上げるべきだったんじゃないかなと、私自身はそう思っております。そのノドンについては、韓国の方では、ちょっと地名は申し上げられませんが、ある地点に発射台九台を既に配備したというふうに言われております。  問題のテポドンですが、昨年八月三十一日のあのロケット物体を人工衛星ではなくテポドンというふうにとらえるか、人工衛星ととらえるかによって違ってきますが、仮に北朝鮮が人工衛星というふうにみなすならば、御承知のようにこの人工衛星、最後の衛星は軌道に乗らなかったわけです。最近も中国の人工衛星と北の人工衛星が大変に似ているということでアメリカがああいうような写真を公表しましたけれども、いみじくもアメリカは、北朝鮮があのロケット発射物体の頭に衛星をつけて飛ばしたということを認めるようなことになりましたが、あれが軌道に乗らなかったということは失敗に終わったわけですから、人工衛星ということであれば、当然成功するためにもう一回やるというふうに私は見ております。  逆に、これは人工衛星ではなくてあくまでテポドンであると、テポドンの頭に衛星をつけて飛ばしたというふうに考えていただければわかりやすいと思いますが。この点についても、先ほど申しましたように、北朝鮮はあと数年で強盛大国になるんだということを盛んに言っております。数年というのは金正日さんの六十歳の還暦の年に当たりますが、強盛大国というのは先ほど申しましたように軍事大国ですから、どう考えても北朝鮮が核とミサイルを持たない限りは軍事大国にならないというような前提に立てば、その可能性というのも否定できない。  特に最近私が注目しているのは、金正日書記が、国民がこれほど飢えて食糧に困っているにもかかわらずそちらの方に金を回したというようなことを言っておりました。私たちは、推定、少なくとも三億ドルから五億ドルぐらい、去年のあの一基で北朝鮮は製作から発射に至るまで使っただろうと。  これを換言して申しますならば、今の北朝鮮は、本来であれば軍事費やミサイルあるいは核のそういうような費用を十分に国民の食糧あるいは経済の方に回すことができる。あえてそれを犠牲にしてまでその開発を続けているということは、これは一言で申しますと、それが完成するまでは北朝鮮は恐らくそれを放棄することはないだろうと。  ただ、ボタンを押すタイミングですね。まだ完成していないのか、あるいはそれを発射する発射台ができていないのか、あるいは現在米朝交渉中でボタンを押すのを控えているのか、それは何とも申し上げられませんが、私は、今も申しました人工衛星及び数年内の強盛大国を目指すという北朝鮮のその目標が変わらない限りにおいては、その可能性というものは否定できないだろうと、こう見ています。
  22. 重村智計

    参考人重村智計君) ちょっと補足で御説明させていただきます。  核の問題が御質問あったんですが、核については、アメリカの国務省がミサイルに積めるような核兵器はまだ開発できていないという見解をとっている。それに対して国防総省とCIAは、いずれにしろなお核兵器開発を進めているという見解をとっている。それはどこが違うかといいますと、御承知のように軍事の常識上、核兵器を開発したらミサイルがないと意味がないわけですね。つまり、運搬手段がないと意味がない。  北朝鮮は、今のところ米朝の合意でもって核開発は凍結したことになっているんですが、その一方でミサイル開発はどんどん続けている。そうすると、ミサイル開発を続けるということは、ミサイルに通常爆弾を積んでも全く意味がないわけで、結局核兵器を積むための開発をしているのではないかというのがアメリカの軍事関係者の非常に強い疑念と推測なんですね。  これは必ずしも推測としては間違いでないだろうと思うのは、北朝鮮の立場からすれば、一応核凍結を約束して十年後に軽水炉二基をもらうことになっているんですが、もし十年後にアメリカ日本韓国が約束した軽水炉二基をつくらない場合には、一番ばかを見るのは北朝鮮であると。とすれば、その場合にいつでも再開できる準備はしておかなきゃいけない、これは常識だろうと思うんです。そういう形でもって実は核兵器開発とミサイルが関連しているんではないかという、アメリカの中にある重大な疑念というのは残っているということであります。  それから、もう一つミサイルに関して言えば、日本は実はこの前のテポドンに関して、テポドンを再発射するなとは言っているんですが、日本に届くようなミサイルを開発したり配備したら国交正常化しませんよということは言っていないんですね。私はそれははっきり言うべきだろうと思うんです。それは、北東アジアあるいはアジアの平和と安全のためにも、少なくとも日本がする発言としては、日本に届くようなミサイルを持たないでほしいということ、持つべきでない、あるいは持った場合には国交正常化しないという外交方針を明確に伝えた方がいいんではないかと思っております。
  23. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 重村先生にちょっとお伺いしますけれども、先ほどお話の中に、日朝の外交問題について日本との交渉の相手がいないというふうなことになると、それはこちらが幾ら外交交渉をやるにしても相手がいなければできないわけですから、その辺の整備、どういうふうな形での日朝交渉をやっていくのかというその時期、体制固め、そういったふうなこと。  それから、この前ここでも論議を交わされました例の日米防衛協力の新ガイドラインが通過しましたけれども、その問題について朝鮮としてはどのように受けとめているか。  この二点について、まずお伺いしておきたいと思います。
  24. 重村智計

    参考人重村智計君) 日朝外交担当者の問題については、北朝鮮の中では常に、ここ数年の間、外務省と党の金容淳さんの統一戦線部がどちらが主導権を握るかの競争をやってきたわけですね。  今回、北朝鮮で新しい内閣が発足して白南淳さんという人が外務大臣になったんですが、外務大臣を引き受けるときの条件として、外交の全権を外務省に渡してほしい、日朝交渉では統一戦線部が干渉しないようにしてほしいという条件を金正日に出したと言われていまして、金正日さんがこれをのんで、外務大臣についたということです。一応北朝鮮外務省の方に権限は移したことになっているんですが、それでも実は党の統一戦線部の方にはなお対日関係担当してきた人たちがいるものですから、どちらが主導権をとるかの主導権争いをまだやっているんですね。  そのために、それぞれの主導権を、自分たちができるんだということを見せるために成果を上げなきゃいけない。成果を上げるにはどうするかというと、日本から訪朝団を呼んだり、あるいは日本日朝交渉担当する人と交渉したり接触したりして、結局日本側自分たちの方を相手にしていますよということを国内で非常に宣伝しようと。そのために、盛んに一時期は日本に訪朝団を送ってくれということをやってきたわけですね。それがまだはっきりした決着がついていないというようなこと。  いつつくかといいますと、結局、先ほどお話ししましたように、党大会が終わって党の人事、それに伴う外務省人事が固まると本格的に始まる。ですから数カ月、我々はこの十月には党大会が開かれるのではないかというふうに考えているんですが、遅くとも年内には新しい体制が始まるだろうと。そこから本格的に対日交渉を進めることができる。  実は、白南淳外相はとりあえず日本課長に新しい人を持ってきたんですが、どうも使ってみたらなかなか使い勝手が悪いということで、この担当者は今KEDOの方の担当に回されておりまして、結局、日本課長が事実上空席になっている状態です。
  25. 辺真一

    参考人辺真一君) 簡単に申し上げますけれども、日本の一連の周辺事態関連法案に関する防衛論議、どの程度日本国民のテレビの視聴率が上がったか定かじゃありませんが、恐らく一番注目しているのは金正日さんを含む北の指導部ではないかなと。彼らの思考方式あるいは彼らの見方というのは、我々日本ではいかに日本を守るか、いかに危機に際して日本を防御するかという防御論議ですが、それが彼らには逆に攻撃論議に多分聞こえてくるだろうと、こういうふうに私は思っております。  それが、先ほど申しましたように労働新聞のあの勇ましい、これによって日朝は交戦状態に入ったなんというような表現を使っていると思います。残念ながら、何しろ日本北朝鮮はゼロサム・ゲームをやっているということで、日本がどういう形でアメリカに協力するかというようなその法案というのは、まさに北朝鮮からすれば、アメリカの戦争に加担するということを日本で議論しているんだと、そういうふうに彼らがとらえているということは北朝鮮の一連の報道やあるいは声明から十分に察知することができる、こう思っております。  これは、返すならば、少なくとも北朝鮮の国民に北朝鮮がこれまで言ってきた脅威論を正当化させることになってしまったというふうに私はとらえております。  北朝鮮の場合は、御承知のとおりに、韓国もかつてそうだったんですが、国内を統治するあるいはおさめる、あるいは若干いろいろな内部的な不満、例えば食糧の問題とか、そういう状況のときには必ず外敵というものが必要で、その外敵がかつてはアメリカであった、あるいは韓国の俗に言うところの軍事政権であった。それが多分今は日本が取ってかわっただろう、こういうふうに見ております。  すなわち、北朝鮮は常に、アメリカ交渉するときには逆に日本とはやらない、あるいは日本とやるときにはアメリカとはやらないということですね。先ほど申しました金丸訪朝のときも、金日成は金丸さんに対して、アジアの問題はアジアで解決すべきだと、これによってアメリカといわば裏切ったソ連を排除するという、ああいうようなニュアンスが含まれておりましたが、まさに今、かつて朝鮮戦争で戦ったアメリカ関係正常化しようとしている。まして、今の韓国の金大中政権は軍事政権ではない。もはや金大中政権のあの太陽政策を、現実に米が来て肥料が来ればなかなか思い切ってたたけない。そうすると格好の日本という、その日本がまさに有事議論をしたということで、ここぞとばかり今北朝鮮がそれを宣伝しているということを申し上げておきたいと思います。
  26. 重村智計

    参考人重村智計君) 辺さんの今のをちょっと補足しますと、日本では朝鮮半島有事といって北朝鮮が攻めてくる、こういうふうにいろんな論議があるんですが、北朝鮮の立場になって考えていただくと、北朝鮮の中では南が攻めてくる、韓国が攻めてくる、しかもそれに加担して日本が攻めてくる、こういう論議が常識的なんですね。  ですから、今御説明あったように、ガイドラインとかそういうのが出てくると、結局、日本アメリカ韓国が北を攻めるための準備を全部しているんだと、こういう発想に非常になりがちだ、そこでいろんな声明が出てくる、こういうことなんです。
  27. 吉岡吉典

    ○吉岡吉典君 大体答えが出ているようなことをもう一度お伺いすることになりますけれども、日本における北朝鮮をめぐる議論というのは大変な混乱状態にあると思います。  ことしの初めごろ読んだものの中に、日本のマスコミがアメリカの国防総省に行って北朝鮮武力攻撃のXデーは何日かという質問をして、相手からよっぽど君は好戦家かそれとも無知かと言われたという報道があったのを見て、こんなことを聞きに行くのがいるのかなと思いました。  それから、一カ月ほど前に東南アジアからやってきたジャーナリストの人に会ったら、日本で取材して歩いていると、あのテポドンが地上に落ちなかったのが残念だ、太平洋へ落ちないで日本の地上に落ちてくれれば問題が非常にはっきりしたのに、惜しいことをしたと言っている人がいてびっくりしたということを言っている東南アジアの記者がありました。  これは意図はいろいろうかがうことができるわけですけれども、いずれにしろいろいろな議論というのが、もとにあるのは北朝鮮というのがわからない国だと、とりわけ金正日は何を考えているかわからない指導者だということにすべての原因はあるんじゃないかという気がするわけです。  そこで、北朝鮮というのは先ほど社会主義体制を守るというのが国家目標だということでしたけれども、北朝鮮が国家目標として今努力していること、それと、今国民の間で疑問が起こるような出来事との関係、それから金正日というのは何を考えているかわからない政治家なのか、実際はわかっているけれどもわかりにくいのか、誤解があるのか。そこらを北朝鮮に詳しいお二人の方に説明していただきたいなと思います。
  28. 重村智計

    参考人重村智計君) 吉岡議員が今お話しされた、質問しに行ったのはだれかと。私なんですよ。実はこれ、コーエンさんが日本に来たときにコーエンさんに随行してきた朝日新聞の記者が書いた記事だろうと思うんですが、日本で懇談会というか少数の新聞記者を集めて記者会見をしたら、その中で、アメリカ北朝鮮をいつ攻めるのかと質問したのがいたと。この質問が話題を呼んで、何で日本人というのはそんなに戦争が好きなんだというふうになったという記事を書いたんですね。  実は、それを私がなぜ質問したかといいますと、当時、日本ではアメリカ北朝鮮を攻めるというふうに主張する人がたくさんいたんですよ、名前を挙げると差しさわりがあるので挙げないんですけれども。つまり、北朝鮮への重油の供給がとまる、とまることによって米朝のいわゆる基本合意の枠組みが崩れて核開発を始めることになるとアメリカがピンポイント爆撃をする、こういう非常に荒唐無稽な論議をする人が実はかなりいたんですね。  これは、そんなことはありませんよと私はずっと言っていたんですが、私の周辺でもなかなか信用しないんですよ。しようがないなと思って、コーエンさんが来たのがちょうどいい機会だったものですから、じゃちょっと質問させてくれと。アメリカ北朝鮮をいつ攻めるんだと、こう聞いたら、コーエンは笑って、冗談じゃありませんよ、攻めませんよと。これはいろんな段階があって、今外交努力をしている段階だから私たち攻めることは全く考えていませんと。それは当然のことでして、その回答を報道させたいものだから実は質問したんですけれども。  事ほどさように、日本での論議と、実はアメリカでの論議、韓国での論議はことごとく違うんですね。日本での論議は、朝鮮半島有事論から、アメリカがピンポイント攻撃するから、非常に軍事的な論議だと。  この理由は、吉岡議員が今御指摘したようにいろいろ考えられるんですが、私、個人的に考えているのは、結局、日本人が感情というか心の底に持っている朝鮮人、韓国人べっ視であろうと思っているんですね。つまり、朝鮮人とか韓国人というのは何かわけのわからない人たちで、恐ろしいことをする人たちだと、非常にそういうべっ視感情がかなり通じやすい空気があるのではないか。  それが、例えば金正日さんなら金正日さんという人に集中して、どうも金正日というのはおかしなやつだから戦争するんじゃないかとかという論議になっている。それは金正日さんという言葉にかえていますけれども、実際上は日本人の中の論議の中では朝鮮人、韓国人という形での論議をしているんではないか、感情があってそういうふうになっているんではないかと。ですから、基本的には、いろんな過激な、非常に非現実的な論議が日本で起きる理由は日本人が持っている根深いべっ視感情であろうと。  これは、アメリカでも昔、実はいろんな論議がありまして、アメリカではアメリカ人がアジア人とか中東の人たちに持っているべっ視を通称オリエンタリズムと称するんですが、これは一九七八年にコロンビア大学のエドワード・サイードという人が欧米の人たちのそういったべっ視感情を非常に厳しく指摘しまして話題になったんです。私は、いわゆる朝鮮人、韓国人に対する日本的なオリエンタリズムが基本的に朝鮮問題をこんがらがらせていると。リアリティーをなくさせながら、実は非常にリアリティーのない論議なのにリアリティーがあるように日本人は考えてしまう。それが、朝鮮半島ですぐ有事が起こるとか、有事になったらどうしようかという判断になると思うんです。  会長を初め吉岡議員も私より大先輩ですから、私は人生の先輩の方にはよく申し上げるんですが、一九五〇年の朝鮮戦争のときに何があったかということをよく考えていただきたい。一九五〇年の朝鮮戦争のときに、朝鮮戦争が起きたんですけれども結局日本は有事ではなくて何が起きたかというと、有利だったんですね、利益を上げたんです、もうかっただけなんですね。それを実際、歴史の経験はみんな忘れて、朝鮮特需ということもすっかりみんな忘れて、朝鮮半島で戦争が起こると日本は大変なことになって火の粉に見舞われるようだというふうな心配に、非常に利己的といいますか矮小化した論議になっているんではないか、そこに問題があるのではないかなというふうに個人的には感じております。
  29. 辺真一

    参考人辺真一君) 韓国人の立場として発言しなくちゃいけないんですけれども、その点に関しては控えさせていただきます。  ただ私は、朝鮮半島の危機状況というのは、やはり木を見て森を見ず語ることなかれ、逆に、森だけ見て実際に木が燃えているのを察知できない場合はまた森が燃えてしまうということです。  私たちが一番懸念を表明したい一つの根拠は、九四年に一体全体何が起きたのかということなんですね。あのときに我々日本ではのほほんとしておりましたけれども、実際に私たち後で驚いたことは、今のペリー北朝鮮政策調整官、当時国防長官ですが、この方がやめられて、一昨年八月でしたか韓国で講演をされた際に、もう一時間カーター元大統領の電話がなかったら歴史が変わっていただろうというようなことを言っておりました。  これはどういうことかといいますと、あのときにカーター元大統領が金日成との会談北朝鮮との間で合意を見たと。すなわち、核凍結、軽水炉供与というところで合意を見たというそういうような一報が行かなかった場合は、恐らくクリントン大統領としても何らかの軍事増強を含めた対策、代案をとらざるを得なかったと。そういうふうになればどういう状況が起こったのかということで、ペリーさんはソウルで、もう一時間おくれたら歴史が変わっただろう、ひょっとすると戦争が起きたかもわからないというようなことを言っているわけです。  さらに驚いたことに、当時金泳三政権の大統領室長の方が、ことしに入ってでしょうか、アメリカはそういうような極めて重要なことを韓国側に全く通告がなかったということなんですね。すなわち、ホワイトハウスで北朝鮮の核凍結をめぐっていわば軍事的な強攻策、これは空爆を指して言っているわけではありません、軍事的ないわば封鎖ですね、封圧を加える、こういうような政策を決定するに当たって韓国との間で何の事前協議もなかったということですね。そういうようなことが現実に五年前にあったということなんですね。ですから、再び今回、地下の核疑惑が上がったときに我々はそういうような懸念を持ったということです。  それから、金正日さんがどういう人物かということなんですけれども、実際に日本でも直接お会いしてお話をしたとかお食事をしたという人がほとんどおらなくてよくわからないんです。私、金日成さんについては、実は金丸さんが北を訪問するときに事前に金日成という人物に関してレクチャーをして、訪朝後、金丸さんの事務所で北朝鮮での金日成の会談について話を伺う機会がありました。金日成さんについてはある程度説明ができる、しかし金正日についてはわからない。実際にだれもわからない。  たまたま私は、直接金正日書記に会った人物が何人か外国にいるということがわかりまして、そのうちの一人はイタリア、もう一人はロシア、そしてもう一人は中国と、三人に直接お会いしたんですが、そのうちの二人のエピソードを申し上げます。  このイタリア人は何とイタリアの貿易マン、いわば小さな貿易の実業家なんですね。私が大変驚いたのは、あの忙しいときに、すなわち金丸さんが行って、あるいはカーターさんが行って会いたいと言っても出てこなかった、しかし、イタリアの共産党の書記長でもなければイタリアの大統領でもない一介の民間人が北朝鮮に行って、そして金正日さんからクルージングに接待されてフレンチ料理をごちそうになって一緒に釣りまでやったと。一体全体どういう人物なんだろうということでお会いしたんですけれども、金正日さんが出てきた理由はよくわかりました。すなわち、この方は当時、イタリアのODAを一億ドル北朝鮮に拠出するところで役割を担ったと。早い話がお金を持ってきたということですね。  それからロシアの場合は、これはカピッツァさん、当時外務次官です、亡くなられましたけれども、この方がお会いしたと。二度お会いしたわけなんですが、この方いわく、金正日さんという人物は高い評価をこの方はしておりました。ただ、大変驚いたことは、とにかくリップサービスで言ったつもりが、後で、例えば食事をしたときにこの肉はおいしいですねと言ったらその肉を何と飛行機一機分ロシアに送ってきて、それで始末するのに困って、当時グロムイコ外相に半分持っていったとか。  これは同じようなことを言えるんですけれども、イタリアの実業家の方が北朝鮮で食べたマツタケですか、これが大変おいしいと言ったら、何と同じように飛行機一機分送ってきたということで、すなわち、とにかく褒められたら、あるいはいいことを言われたら大変喜ぶということ。それから、言ったことは必ず実行するというところに驚いたというようなことを言っておりました。  もう一つ、彼以外にお会いした人の中には、まだ表には出ていませんけれども、統一教会の文鮮明氏、あるいは韓国の現代財閥の名誉会長の鄭周永さん。御承知のとおりに、統一教会の文鮮明という人物は金日成さんを共産主義の悪魔と呼んでいた。逆に、北朝鮮は文鮮明さんのことをまさに反共のとりでという形でけちょんけちょんにやっていたのが、ある日突然、文鮮明氏がピョンヤンに入って金日成と手を握る。これに反抗したのは金正日さんなんです。  では、どうして入れたかといいますと、御承知のとおりに、北朝鮮に莫大な投資をするということです。韓国も金大中大統領のみならず金泳三前大統領も盛んに首脳会談あるいは金正日さんとの会談を呼びかけたにもかかわらず、だれにも会わず、一介の財閥の総帥、それも北朝鮮からすれば買弁資本家の頭目と言われた人物が北朝鮮に行って、何と金正日さんが出てきた。はっきり申しますと、金剛山観光の事業として六年間に九億ドルを供与する。金正日という人物は、これ一つとっても、非常に実用的な実利的な、悪く言いますと金銭主義ということになりますし、よく言いますと非常に実用主義者である。それは、今の北朝鮮の置かれている状況、先ほど申しましたように何よりも経済再建という、すなわち外貨がない、お金がないということに尽きるのではないか。  この金正日さんの考えのベースには実はこういうような言葉があります。それは金正日さんが、既に八四年の段階だったと思うんですけれども、人民生活の向上が朝鮮労働党の最高原則であるということを言っていたわけです。すなわち、今の北朝鮮の置かれている状況は、政治及び外交も重要ですけれども、いわば経済的な援助、経済支援、これに尽きると思います。  日本のテレビに、同情するなら金をくれというようなドラマがありましたけれども、今、北朝鮮の置かれている状況からして、意外や北朝鮮というのは現実的な政策をとるものだなということをこのエピソードを通じて申し上げられるのではないかと思います。
  30. 重村智計

    参考人重村智計君) ちょっと追加で御説明しておきたいと思います。  九四年の件に関して、戦争直前の危機があったというふうにワシントン・ポストのドン・オーバードーファーさんなんかが「二つコリア」という本に書いていますけれども、私は九四年当時ワシントンにおりまして、カーター訪朝の直前まで取材していたんですが、ワシントンではそういう空気はほとんど実はなかった。これはありていに言えば、オーバードーファーさんがカーターさんの役割を非常に強調するためにああいうふうに書いたんです。  それから、国務省の中では軍事行動に出るという考えは全くなかった。ただ、国防総省の一部では、もし北朝鮮がいわゆる核開発を放棄しないで話し合いに応じない場合には、最悪の事態を想定しなきゃいけないのではないかと。これは軍人さんですから、当然のことながら準備するということはあったんですがね。  実際には、戦争直前、あるいはそれからすぐに、カーターの話し合いが決裂したら戦争にいくということは外交上あり得ないのでして、なぜあり得ないかといいますと、朝鮮半島でもしアメリカ北朝鮮を攻撃する、ピンポイント爆撃をした場合に何が起こるかといえば、必ず北朝鮮韓国を攻めるわけですから、韓国が戦争する覚悟ができないとアメリカはピンポイント攻撃できないんです。では、韓国北朝鮮と戦争するその覚悟ができるかといえば、今はできないんです。  結局は、アメリカ側が幾らピンポイント攻撃をしようと思っても現実にはできないというのが朝鮮半島の現実でして、しかも私どもの取材からすれば、九四年当時に直前までいったという一つの小説ではあるんですが、事実ではないということだけ申し述べておきたいと思います。
  31. 馳浩

    ○馳浩君 ちょっと論点を変えて二点、お聞きしたいんです。    〔会長退席、理事岡利定君着席〕  二年前に黄長ヨプ氏が亡命されまして、これは共和国にとりましては大変思想的な問題として大きな衝撃だったのではないかと思いますが、その後の共和国内の思想体系に何か影響があったのか。そして、まさしく金日成総合大学の総長でもあった、そして金正日氏の指導者でもあったと言われる黄長ヨプ氏攻撃が始まったのか、それとも体系立てたと言われるチュチェ思想自体に対して何か変化があったのか。そういった面で、思想的な面で共和国内の影響がこの二年間にあったのかどうかということをまず一つお聞きしたいと思います。  二点目は、私は石川県選出の参議院議員なのですが、どうしても寺越武志さんの話を聞かざるを得ません。  十三歳のときに日本海沖でお父さん、おじさんとともに漁船に乗って漁に出て行方不明になって、死亡通知まで出したのが、数年前に戸籍を回復されて、もちろん共和国内にいるということが判明し、今現在はピョンヤンに労働党の高官として迎えられて非常に厚遇を受けているという状況もわかっておりますし、年に数度はお母さんのところに電話もかかってきております。お母さんの願いとしては一時帰国、その間の経緯はいろいろあるにせよ、それは言葉をのんで、とにかく一時帰国を願いたい、何としてでも一度祖国である日本に、戸籍も回復したことでもあるし、日本の土を踏んで石川県に一時帰国をしてということを願っておるわけであります。  これを実現させるために最良の方策として日本政府は何をしたらいいのか。ある意味で私は今回の村山訪朝団にも期待しておるところでありますが、拉致問題等々の政治的な問題もある中で、これは人道的な問題でもあると同時に、私はある意味では両国間の一つの突破口にもなるのではないかなと思って非常に注目しております。    〔理事岡利定君退席、会長着席〕  この寺越武志さんの問題、まずは一時帰国を実現させるための方途として考えられるべき方策があるのか、これについての現状のピョンヤンの政治的な動きを踏まえた上での御示唆をいただければありがたいと思います。  辺参考人の方にお願いしたいと思います。
  32. 辺真一

    参考人辺真一君) 黄長ヨプさんの亡命については、北朝鮮が受けた心理的な影響は大変なものがあったと思います。  それは、その後、韓国に亡命したたくさんの人たちの私自身のインタビュー、直接インタビューというよりもどちらかというと事情聴取に近い形だったんですが、それを通じてもよくわかります。逆に、黄長ヨプさんの韓国亡命の評価、すなわち、それ自身を北朝鮮が無視しようとすればするほど、逆にそれだけのウエートを占めていたということもよくわかりました。  北朝鮮が黄さんについては一言で言いますと背信者、裏切り者という形で一刀両断で片づけたんですが、実際に労働党やあるいは軍やいろいろな機関での学習を通じて、黄長ヨプ自身は大した情報を持っていかなかったとか、あるいは国家機密を持っていかなかったとか、彼一人が韓国に亡命したからといってがたがたするような体制ではないとかいうことを盛んに強調していたわけですけれども、それを一つ裏返しをすれば、それほど影響があったということが言えます。  具体的にどういう影響があったのかといいますと、これはたくさん時間がかかりますから簡単に申し上げますと、少なくとも北朝鮮における高官が、高官と向こうは呼びません、高位幹部と呼びますが、統計的に申しますと、九〇年以降昨年末まで、高官五十人を含めて約七百五十人が粛清されたというふうに聞いております。その七百五十人の中には、むしろ私が黄長ヨプさんよりも大変に注目をしている人たち、黄さんだけじゃなくて労働党書記農業担当書記が失脚した、あるいは社会主義青年同盟、いわば青年同盟の委員長までが失脚した。  社会主義青年同盟というと、はっきり言いますと、労働党の準党員、すなわち将来の労働党員の卵ですね。具体的に軍人の一兵卒というのはほとんどが労働党ではなくて社会主義青年同盟のメンバーなんですが、この委員長というのは本来、平時は委員長ですが、有事になれば俗に言う司令官です。簡単に申しますと青年隊の司令官です。社会主義青年同盟のメンバーは約五百万人います。ですから、五百万人の司令官と言っても過言じゃありません。  この方は少なくとも十数年、社会主義青年同盟委員長の立場にあったんですが、この方が不正蓄財あるいは韓国に抱き込まれたという、先ほど重村さんの報告の中でありましたが、南の情報機関によって抱き込まれた、あるいはわいろをもらったとか、さまざまな理由で失脚しました。それから、それを取り締まる国家情報部の第一副部長、部長はおりませんから、第一副部長が逆にお縄をちょうだいしてしまったということ。さらに朝鮮労働党調査部長、調査部長といいますと、韓国に例えますと旧KCIA、これの情報部長ですね。日本でいいますとそういう部署があるかどうかわかりませんが、その人物がソ連のKGBのスパイだというような容疑をかけられて失脚した。  ということで、たくさん失脚という、それは古今東西どの国でも例えば人事交代ということはありますが、社会主義ですから我々失脚という言葉を使っていますけれども、そういうようなことが現実に起きたということをつけ加えておきたいと思います。  それから、寺越さんの問題なんですけれども、この寺越さんの問題は、北朝鮮の方ではかねがね、もし今回労働党の訪日団が行く場合は寺越さんを同行させるというようなことを言明しておりました。それは、昨年の二月でしたか、日本人妻一時里帰りが二回で中断しましたけれども、あれが順調にいっていれば、少なくとも北朝鮮から労働党代表団がやってくるはずだった。そのときのメンバーの一人として寺越さんを入れるということを北側の方で言っておりましたので、この問題は、今後の日朝間ではある程度一時里帰りの問題に関しては解決可能ではないかと。拉致問題については、また別に機会があればお話ししたいと思います。
  33. 高野博師

    ○高野博師君 二つだけお伺いしたい。  一つは、金容淳書記の件で重村参考人にお伺いしたいんですが、かつてはこの人が対日関係のキーパーソンだったと思うんですが、日本が米の無償援助を五十万トン供与したときとかその前後では日本政府高官あるいは政治家と相当の接触があった。今回というか、いつごろからか対日関係で外されたということなんですが、どういう理由で、というのは朝鮮総連問題とかで叱責を受けたとかいうんですが、何が問題でこの金容淳さんが外れたのか。北朝鮮との関係ではそこが一つの何かかぎになるのかなという気がするのです。  もう一つは、拉致問題で日本側はどういうアプローチが考えられるのか、あるいはどういうアプローチをすべきとお考えか、お二人にお伺いいたします。
  34. 重村智計

    参考人重村智計君) 金容淳さんのケースについてはいろんな情報がピョンヤンの中から流れてくるんですが、基本的に言われているのは、金容淳さんとそれからいわゆる長老グループの対立が基本にあったと言われていまして、長老グループが金容淳さんに対して非常にいい感情を持っていなかった。反金容淳グループというのが長老グループだと。結局それが追い落としをいろいろやっていたというふうに言われていますね。  ただ、それではどうしてあんなに影響力を持って長い間いわゆる権力の中枢にいたのかということになりますと、金正日さんの妹さんの金敬姫さんという方がいらっしゃるのですが、その方と非常に個人的に親しくて、金敬姫さんの保護を受けてずっと影響力がある地位にあった、こういうふうに言われてきているのですね。  北朝鮮の内部では、いわゆる金容淳さんが担当している統一戦線部と先ほど辺さんがおっしゃった国家保衛部というのと常に対立状況にありまして、国家保衛部が実は先ほどのスパイ事件なんかでやられる、やられると統一戦線部が上がる、今度は統一戦線部が問題にされて統一戦線部の副部長が責任をとらされると保衛部が上がる、こういう対立関係にあって、結局最終的に、先ほどお話ししましたように韓時海さんという祖国平和統一委員会書記長が逮捕されたときに金容淳さんの関係をめぐるいろんな事実関係も明らかになって、それで調査を受けたという形でどうも立場が弱くなったんではないかとの推測があるんです。  もう一つは、実は対日政策金容淳さんは、日本から米を五十万トン持っていった後、日本からさらに米を持っていくと同時に日朝正常化交渉を再開するということを常にピョンヤンの中で幹部に対して言い続けてきたんです。あるいは金正日書記に対しても言い続けてきたんだろうと思うんですが、それが何年たっても実現しない。実現しないために今度は批判されるわけですね、約束したのはどうなったと。そういうのが底流にあって、いろんな金正日さんに対する忠誠競争の中で、ピョンヤンの中のいわゆる政治闘争に少し敗れたのではないかというのが我々の観測なんです。  そういう形で影響力を失う。特に対日担当をずっとやっていて、また後でどうしてそういうふうになったのかというのは御質問があれば御説明しますけれども、対日担当を実は金容淳さんがずっとやってきたために、日本のいろんな日朝の正常化交渉外務省外務省接触ではなくて政治家同士の接触だけに済んでしまう、それがかなり日朝正常化を事実上おくらせてしまったのではないかと我々は考えているんです。  それから拉致問題なんですが、基本的には日本政府が拉致問題を言い続けるしか私は手がないと思うんですね。つまり、日本政府日本国民の生命、財産について最大の関心を持っており、その保護をする義務があるということを日本国民に対しても国際社会に対しても言い続けることが、基本的に日本政府に対する信頼を高めることである。それは、言い続けるということと交渉の中でいろんな駆け引きをするというのはまた別な話なんですが、しかし、その看板をおろしたら実は駆け引きもできなくなる。ですから、日本対応としては、その拉致問題を解決しないと日朝は正常化できませんよということをスローガンとして常に掲げて交渉していくというのが一番だろうと思うんです。
  35. 辺真一

    参考人辺真一君) 金容淳さんについて一言申し上げます。  私は、金容淳さんは今もなおかつ健在だというふうに思っております。ただし、重村さんがおっしゃられたように、少なくとも軍の情報機関によって査問を受けていたことは間違いないと思います。それは金容淳さんに限らず、党幹部を含めて全員が査問に遭いました、軍の情報機関によって。一応それが解けているということを私は聞いております。彼は、祖国平和統一委員会の副委員長というポストにあります。この委員長空席になっておりますが、私が聞くところによると、この委員長金正日書記であるというふうに聞いております。まだ確認はとれておりません。  それから拉致問題は、これは大変に難しいんですけれども、要は、もちろん今の段階では拉致疑惑ということですが、これは私は引き続き北朝鮮側に対してやっぱりテークノートさせるべきではないか。  この一連の問題に関して、行方不明者という形で北朝鮮側に捜してもらいたいというところまではよかったんですが、それの回答を日本側が求めた、その回答を北朝鮮がその該当者はおりませんという形で答えてきた、それに対して日本はそれは納得できないというような段階に至っております。これは、少なくとも北朝鮮も当該機関、当該機関という言葉ははっきり申しますと、実際に捜したかどうかはさておきまして、いわば国家権力、警察を指すわけですから、そこがいないというようないわば最終通告的なものを寄せてきた段階では、これはひっくり返すのは大変難しいと。ですから私は、一連の交渉の過程で日本がテークノートさせる上においては、ああいう回答を私は引き出すべきではなかった。少なくとも北朝鮮の回答がそういうふうに出てくることはもう前もってわかっている段階においては、さらに日本がテークノートさせる、引き続きその問題を持ち出す上では、最終回答というのは、はっきり言いまして、彼らが見つけてそして送還させるということが日本にとっての大きな目的であるわけですから、ああいうような対応というのは私自身は若干問題があるなと思います。  では、この問題をどうすべきかということなんですが、大変難しいですが、私は、やはりこれをテークノートさせるべきだということは、今、重村さんがおっしゃられたように引き続き要求すべきだろうと。これは御承知だと思いますが、日朝交渉が始まった段階に、外交問題、外交関係の設定問題、二番目に補償問題、三番目に北の核問題、それから四番目ということで李恩恵の問題などが討議されましたけれども、やっぱりこういうような場で日本は要求すべきである。ただし、その前提条件ということがどうかというような議論になってくると思いますけれども、確かにこの問題を入り口ということでやればなかなか日朝の問題は難しいと。  ちなみに、韓国の例を一つ申し上げるならば、韓国中国と国交正常化するときに、またソ連と国交正常化するときにどういうことが問題になったかといいますと、中国のときには朝鮮戦争のときの中国の参戦です。少なくとも、中国が百万人以上の義勇軍を送ってきたということで、韓国は大変な被害を受けている。もしあのときに中国が参戦しなければ、今ごろ韓国によって朝鮮半島は統一されたと。したがって、中国に対して朝鮮戦争参戦のその責任、いわばその謝罪をとろうという声が上がりましたが、基本的には、それはいわば後回しといいますか、結局のところ、その議論が政治的判断でなくなりました。ソ連のときにも同じような声が出ました。  現実問題として、拉致問題の場合はそれとはまた質が違いますから、いずれにしてもこれはやっぱり日朝交渉の過程において解決すべき、現実的にそれ以外に方法はないんではないかなというふうに私は思っております。
  36. 今井澄

    ○今井澄君 いろいろお話を聞いていてもういいかなとは思ったんですが、御指名をいただきましたので発言させていただきます。  先ほどの重村さんの御発言でちょっと気になることがありました。今後日本がどうすべきかということに関連して、核開発あるいはミサイル開発、こういうものに強い警告を出すべきだ、それでもしそういうことをやるならば国交正常化しないというふうなメッセージを送るべきだというお話だったんですが、それはちょっと誤解を受けるような発言だったんじゃないかなと私は実は思っております。  先ほどからのお話の中でも、やはり北朝鮮というのは、少なくとも今の世界のいわゆる社会主義と言われる国を含めて、中国とかキューバなんかを含めてもちょっと常識では考えられない国で、全く違った価値観を持っていると思うんです。私はかつて極左過激派でしたし、帝国主義というのはもう絶対悪だというふうに思っていたわけですから、その思考方法はよくわかるわけなんです。  去年のテポドンで私もちょっと頭にきたものですから、朝鮮総連との会合には出なかったんですが、ことしの正月に出てみたら、そこで一枚新聞が配られて、先ほどの強盛大国ではありませんけれども、とにかく軍事的にもう鉄壁な国を築きつつあるんだ、いつでもかかってこい、我々は反撃する、そういうのを正月のときに配るわけです、朝鮮総連が。朝鮮総連かなり厳しい状況の中でそれをあえて配ったと思うんですけれども、やはり彼らは孤立すればするほどそういう態度をとってくるんだと思うんです。  ということは、要するに価値観が全く違うものが、非和解的な対立というか、どうにも解けないなぞのときに、エスカレートすればするほどおかしなことになっていくということを私たちは十分注意した上で、やはり言うべきことは言いつつ、先ほどの拉致事件のお話は大変参考になったんですけれども、最終的なところへ追い込まないようにするにはどうするかということがやっぱり一番大事なんじゃないかと思うんです。  そういう意味で、北朝鮮の側の核開発とミサイル開発というのは、軍事的な大国になって、彼らが攻めてくる、アメリカなりなんなりが攻めてくるときにそれに備えるとなったらそれ以外に方法はない、そうすると絶えずその努力は続けるだろうと思うんです。ですから、イタチごっこみたいな形の核疑惑、査察ということはあれだし、テポドンを今度は人工衛星の実験だよと事前通告してでもやるかもしれないと私は思うんです。そういうときに、やはり適切にきちっと言いつつも、追い込まない、あるいは決裂に至らないようにすることが大事なような気がしているものですから、そういう意味では、先ほどのように、こういうことをやったらもう国交正常化しないよとか、こうなったらもうおしまいだぞ、何もしないぞというふうになるとまずいんじゃないかなと思っているんですけれども、その辺は重村さんの本意はどういうところにあるんでしょうか。
  37. 重村智計

    参考人重村智計君) 実は、追い込むとまずいというのは日本人に非常にわかりやすい論理なんです。追い込んで清水の舞台から飛びおりるとか、追い込むと堪忍袋の緒が切れるとかよく言うんですが、実は堪忍袋の緒を持っているのは日本人しかいないんですね、国際的に。みんな追い込まれる前に言いたいことを全部言うんですよ、韓国の人もアメリカの人も北朝鮮の人も。これが外交なんですよ、実は。  北朝鮮日本に届くようなミサイルを配備したりあるいは開発したら国交正常化はしないよというふうに言えというのは、だから何も交渉しないということではなくて、しないと言うこと、つまり宣言することから実は交渉が始まるんです。  実際にこの前、北朝鮮がテポドンを発射した後、日本は制裁措置をとり、あるいは国会では非難決議が出たんですが、あれは国際的なルールからすると現実的にはルール違反なんです。なぜかといいますと、テポドンを発射する前に、北朝鮮がミサイルを開発していることはみんなが知っていたんです。だけれども、その前に日本政府も一切警告を出していないんです。つまり、日本に届くようなミサイルを開発したり、日本海にミサイルを出してはいけませんよと警告を出していればそれはいいんですよ、制裁措置をしようが非難決議をしようが。しかし、それをしないでおいてやるというのはやはり国際的にはルール違反なんです。  そういう意味からしますと、やはり日本としては、日本の原則はこれなんだということをはっきり言うべきであって、はっきり言うことから外交交渉が始まる。  それから、外交交渉というのは何も、決裂したらみんな一緒にがけから飛び込むわけではないんでして、この辺は朝鮮人といいますか韓国人の人たちはみんなもう何百年の歴史を、中国交渉したり大国と交渉して歴史を持っているものですから、実際にそう決裂してがけから落ちるよと言っても決して落ちない技術を持っているわけです。そこをやっぱり我々は理解しながら交渉していくということをしないと、日本人というのは非常に生まじめなものですから、何か原則を宣言すると原則どおりに何でもしゃくし定規にやらなきゃいけないというふうに考えがちだが、そうじゃなくて、原則を言うということはそこから交渉が始まるんだというふうに、これが国際社会なんだというふうに考えていただければと思うんです。
  38. 今井澄

    ○今井澄君 済みません、ちょっと。もう一つ質問がありました。いいですか。
  39. 村上正邦

    会長村上正邦君) 簡単に。
  40. 今井澄

    ○今井澄君 かつては、北朝鮮はいずれ崩壊するだろうと、いろいろな分析でそう見てやってきたけれども、今はもう当分崩壊しないだろうと見ているわけですね。それで、先ほど死者が三年間で三百万人、これは人口の一〇%を超えるわけですね。そんな事態が起こっているのになぜ崩壊しないと見ているのか、その辺の見方の変化はどうして起こったのか。
  41. 重村智計

    参考人重村智計君) これは、実は一九九四年に金日成さんが亡くなった直後、日本では崩壊論というのが非常に、アメリカでもそうなんですが、広まったんですが、まず崩壊しませんと継続して言ってきたのは私と慶応大学の小此木先生なんです。  結論の部分からまずお話ししますと、実はアメリカのペリーさんのいろんな新しい報告の理由も、なぜああいうふうにペリー報告を出さざるを得なくなったかというと、それまでのアメリカ政策というのは北朝鮮が崩壊することを前提に全部やってきたわけです。つまり、KEDOの約束にしても米朝の新しい枠組みにしても、どうせ数年したら北朝鮮は崩壊するんだから約束したって最後までやる必要はない、だから核問題も凍結さえしておけば核開発はできないという話でずっと来て、その前提でやってきたら、どうももう五年たってみたんだけれども崩壊しそうもないと。崩壊しないということを前提に政策を立てないといけないということでペリー報告が出てきたわけです。今、日米韓三国、それぞれみんな当局者も含めて、しばらく崩壊しないということになっている。  では、どうして崩壊しないかといいますと、それは国内的要因と国際的要因を考えていただければ、かつての東欧とかロシアの場合と違って、周辺諸国は今だれも崩壊させたいと思っていないんですよ。特に崩壊した場合に北朝鮮を抱えなきゃいけない韓国は、とんでもないと。これで北朝鮮がある日突然崩壊して韓国が抱えなきゃいけないことになったら、韓国経済はこれはもう完全にオシャカになる。極端な言い方をすれば、韓国自身が崩壊するかもしれないという状況になります。  これは数字的にいいますと、余り数字を出すのはあれなんですが、韓国の今のいわゆるGDPは、IMFで大分落ちたこともあるんですが、ざっと約四十兆円と考えていただきます。日本のGDPは五百兆円ですね。ドイツ統一をしたときの西ドイツのGDPが三百兆円。三百兆円の西ドイツが統一した後、今、毎年十兆円の金を東ドイツに出している。およそ四十兆円のGDPの韓国北朝鮮を突如崩壊して統一した場合に、では予算から一兆円も出せるかといったら出せないんですね。韓国国家予算はせいぜい八兆円ぐらいの予算ですから出せない。そうしますと、抱えた状態経済再建をするというのはもう不可能に近いことですね。そうしますと、しばらくこのままで自助努力していただいた方がいいというのが韓国の考えです。中国ももちろんそうですし、日本もそうですし、アメリカも。そうすると、周辺諸国はどうしても崩壊だけは避けたいとなるとみんな食糧支援をせざるを得ない、こういう状況です。  それから、国内的には、基本的に朝鮮半島の中にいる人々の基本的な考え方として、周辺諸国が常に自分たちをいじめているという、自分たちがいじめられやすい立場であるという概念が非常に強いものですから、中でもっていわゆる反体制をつくったり金正日さんに抵抗していこうという意識がなかなかできにくい。それから、実際の今の体制からして、国内でクーデター未遂計画というのが何回かあったんですけれども、物理的に金正日さんに対抗するだけの勢力がない。すると、内部的にも外部的にも崩壊させる要因が非常に少ないということが原因なんです。  ですから、しばらくの間、金正日さんが生きている限りは北朝鮮のこの体制は続くであろうと。たとえ金正日さんがある日突然倒れたりクーデターが起こったとしても、それは北朝鮮が崩壊するのではなくて、新しい政権がしばらくできるというのが現実的な考えではないだろうかというふうに考えております。
  42. 田英夫

    ○田英夫君 きょうはありがとうございました。  時間が余りないようですから、簡単にお聞きします。  一つは、今、金永南さんが団長になった大型の代表団中国を訪問している。日本的に言えば、総理大臣、外務大臣、国防大臣という主力閣僚を含めて五十人という超大型代表団だと。今まで中国との関係というのはもう冷え切っていたということを私も承知していますが、ここでこういう大型代表団を送ったというか行ったということは、一つ注目すべきだとは思うんです。  これで、アメリカとの関係は今比較的順調に交渉は進んでいる、次に中国との関係を修復する、その延長線上で日本との関係はどういうことになるのか。私は大体お答えはわかるんですが、すぐに日本との関係を修復するというところへ来ないんじゃないかという気もします。秋の党大会ということ、重村さんがおっしゃった。その体制が整うまではないんじゃないかとは思うんですが、その辺の見通しをどう持っておられるか。これはお二人に伺いたいんです。  もう一つは、重村さんにお聞きしたいのは、私がこういう質問をするのはおかしな話なんですが、村山訪朝団ということに対してどう思われるか。  これも大体お答えはわかっているのですが、社説に書いておられました。あれはもう重村さんがお書きになったと思うんですが、私も実を言うと同感なのであります。私は、実は当然その代表団に入っているんだろうと言われて弱っているんですが、お断りしておりまして、時期がちょっと違うんじゃないかと思っております。この点について重村さんに御意見を伺いたいと思います。  以上です。
  43. 辺真一

    参考人辺真一君) ちょっと先ほどの件で一言だけつけ足させていただきたいのです。  まず、北朝鮮の崩壊については二つありまして、一つは国家の崩壊と体制の崩壊です。国家の崩壊というのはまさに東ドイツを指すんですけれども、それはないと思いますが、体制の変化というのは私はあり得ると思います。それは金正日さんが死ぬまでという言葉を言っていましたけれども、私は、現状を放置すれば体制の変化というのは起こり得る可能性はあると思っております。  それから、その場合の人民蜂起及びクーデターということですけれども、今の段階というのはまさにその人民蜂起の可能性というのは極めて少ない。それは私が言わなくても、もう黄長ヨプさんが韓国で言っておりますので。とても人民蜂起をやれるような状況じゃない。もう一つはクーデターということですが、このクーデターの可能性も大変少ないと思います。  私、北朝鮮を語るときに韓国をいつも例に出すんですけれども、これはいわば南北一卵性双生児ですから、韓国は十八年の朴正煕政権の後にクーデターが起きました。このクーデターというのは、全斗煥、盧泰愚元大統領含めて、五十歳そこそこで、いわば一万人を動かす師団長クラスで、こういう五十歳そこそこの一万人を動かす師団長、軍団長、延べ二十三人が総決起して起こしたのがあのクーデターです。軍が核となってそれだけの同じような集団行動を起こせるかというと、今の段階というのは大変不可能に近い、こう思っております。  それから、先ほど私、金正日さんは軍事政権と言っておりますけれども、これも考えれば韓国の例をとってもわかるように、朴正煕政権から金泳三政権になるまで、一九七九年からソウル・オリンピックが終わった八九年まで、金泳三大統領は九二年に大統領になりましたけれども、朴正煕大統領が暗殺された七九年から、そしてソウル・オリンピックを経て九二年の金泳三氏になるまでの全斗煥、盧泰愚という軍事政権が少なくとも十数年続いたということです。そう考えますと、金日成さんが死んでかれこれ五年になりますが、今なおかつ金正日さんが国防委員長というそういうポストを堅持して軍事国家をやっているということは、いわば韓国の例をとってもこれは十分にわかる、すなわちもうしばらくこういう体制が続くだろうと思います。  それから、今の田先生の御質問なんですが、ことしは御承知のように中朝国交樹立五十周年という節目に当たるというようなことで、金永南さんが団長になって出かけた。この規模の大きさ、これがいかがなものかということですが、これは御承知のとおり九一年に金日成主席中国を訪問したときとほとんど大して変わらない。私は、これはいわば北朝鮮中朝関係回復のいわば象徴外交ということだと思います。すなわち、これを機に中朝の首脳交流を始める。  金日成さんの時代は何と一年に一回はお互いに交流していたということですから、むしろ金正日書記が行かなかったというところの方がやっぱり注目に値するわけであって、果たして中国の方が、この次は金永南さんに値するいわばナンバーツー、すなわち李鵬さんが行くのか、あるいは金正日さんの訪中のいわば前ぶれとして江沢民主席が先にピョンヤンに行くのか。いずれにしても、この次だれが行くのか、これによって金正日さんの訪中というものが現実にことしあるいは来年にあるかどうかということが判断できるのではないかな、こう思います。  中国とこの北朝鮮のいわば関係改善といいますか、かつてのような唇と歯の関係とかあるいは血に塗られた関係という表現は使われていないにせよ、いずれにしても伝統的友好関係というのは、韓国中国とのいわばパートナーシップよりも一段ランク上の関係であることは間違いないだろう、こう思います。
  44. 重村智計

    参考人重村智計君) 御質問について、今の金永南さんの訪中は辺さんがお話ししたとおりなんです。一つは、北朝鮮の内部で、中朝の首脳交流とかあるいは大型代表団を送れなかった国内事情が大体解消してきた、それが整ったということだろうと思うんです。ですから、この後の江沢民主席の訪朝なりあるいは金正日さんの訪中なりのいろんな予定が立ってきたことだろうというふうに考えております。  それから、村山訪朝団については、社説のお話が出たのですが、社説は実は私が書いているわけではなく、皆論説委員会で論議して書くことになっておりますので、私の意見ということではないんですけれども。  個人的に意見を言わせていただければ、北朝鮮側は、何で来るのだろうかというふうに非常に疑問に思っているというか、理解できないというのが状況なんです。何のために来るのかな、何を持って来るのかな、じゃ来るのならばお土産は当然あるんだろうなと、こういうふうになるわけです、北朝鮮側の考えからすれば。そうすると、そのお土産というのは食糧なのかあるいは国会決議したことを謝りに来るのかどっちかだと、こういう話になるんです。ですから、どうも迎える方も何のために来るのかわからない。  そうすると、我々の一番の心配は、日本政府北朝鮮に対してテポドンを理由に制裁をしたわけです、それから国会でも非難決議をしたわけです。そうすると、村山さんが小渕さんの親書を持って行ったら、あの制裁はどこに消えちゃうんだということになるわけです。外交の一貫性というのはどこにあるんだろうか。じゃ、それならそれで早く、外交は失敗しましたと外交敗北宣言を僕はすべきだと思うんです。それなしにやみくもに訪朝団を出して何かうやむやにするというのは、基本的に日本外交というのは何だろうなと外から見ると思われるのが一つです。  それからもう一つは、もし今回のように大型代表団を出すということであれば、金正日さんと直接会われて、金正日さんに拉致問題を初め日朝間の問題、こういう問題があるんですよと直接伝えられるのが一番いいわけですが、これがどうもできないようだ。どうもできないということは、その下の金永南さん、あるいは洪成南さんという首相に会うというのがせいぜいではないだろうかと思うんです。では、会ったことによってどういうことができるのかということなんです。そうしますと、どうも北朝鮮側もまだ政策担当者が決まっていないですし、新しい対日対応ができませんし、結局、何か知らないけれども訪朝してきたからいろいろ言い合って終わりになったと、こういうことになるんだろうと思うんです。  北朝鮮側のもともとの理屈が、例えば拉致問題に関しては、日本はかつて朝鮮人をたくさん徴用して日本に連れていって殺したじゃないか、この補償はどうしてくれると、こういう言い方をまたどうせしてくるだろうと思うんですね。そのときに、じゃ村山さんはどういう対応をするのかということも問われるでしょうし、そういう準備なしに行くと実は大変なことになりますよ、それはわかっていますねということを、特に新聞の視点からいきますと、もし村山さんが行かれて拉致問題も言わなかった、ミサイルも言わなかったとなりますと、日本の国益というものを政治家はどう考えているのかということを多分言われるんではないだろうかと、老婆心というのか、非常に人のいい村山さんですから、そこを非常に心配するんですね。
  45. 村上正邦

    会長村上正邦君) 時間も参りましたので、本日の質疑はこの程度といたします。  両参考人におかれましては、大変貴重な、適切的確な御意見を賜りまして、おかげさまで大変有意義な質疑を行うことができました。  両参考人の今後のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後三時三十一分散会