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参考人(
辺真一君) 本日はお招きいただきまして大変光栄に思っております。
先ほど
重村さんから大方の
北朝鮮の
状況についての説明がありましたけれども、私は
朝鮮半島の当事者の一人として、内から見た
北朝鮮、また
北朝鮮の今後の
対応などについて
お話を申し上げたいと思います。
私の基本的な
情報というものは、御
承知のように
韓国には
北朝鮮からたくさんの
亡命者が行っております。
公式発表によりますと、昨年だけでも五十八人が行っております。かつてのように貧しい
労働者だけではなくて、今やエリート、
中枢階級まで亡命しております。私は、そういう中で、恐らく
北朝鮮からの
亡命者にたくさん会ってインタビューしたいわば数少ないジャーナリストの一人だと自負しております。
もちろん、
亡命者ですから
発言の
真偽については慎重に
対応しなくちゃなりませんが、要はその
真偽を看破する能力が問われるわけですけれども、私は、かつて
北朝鮮系の
新聞社に十年在職していたというそういう
一つのベースに基づいて、彼らの
証言の
真偽をできるだけ冷静に見きわめようと努力してまいりました。そうしたいろいろな
情報に基づいて、今の
北朝鮮の
現状と、それから
北朝鮮が今後どこに向かおうとしているのかという
お話をしたいと思います。
まず、先ほどマクロ的な視点から
重村さんから
お話がありましたけれども、若干今の
北朝鮮の
現状をミクロ的に
お話し申し上げたいと思います。
御
承知のように、
経済というのは今、
北朝鮮は大変ひどい
状況にあります。それは統計的にも、昨年も
マイナス経済成長ということで、これで九年
連続マイナス経済成長です。私は
北朝鮮のGNPは少なくとも二百億ドルぐらいはあると見積もっておりましたけれども、今回の
最高人民会議の
発表によりますと、何と昨年は九十億ドル、そしてことしは九十二億ドルという
国家予算でした。
日本に四十七都道府県ありますけれども、せんだって私は
福岡県で講演をしましたけれども、
福岡県の
予算が約百五十億ドルと伺っておりますが、
福岡県のいわば三分の二にも満たない
状況ということですね。まさに
日本そのものを比較した場合はもう話にもならないというような
状況です。
そういうような九年
連続マイナス経済成長のために、今、
食糧事情というものは大変ひどい
状態である。一時、九五年、九六年にかけては一人当たり百グラムの
配給と言われておりましたけれども、百グラムと申しますとお茶わんの三分の二で終わりということで、国連の
飢餓防止最低量が四百五十八グラムですから、その四分の一ということ。カロリーも百グラムで三百五十キロカロリーということで、
人間は少なくとも二千六百キロカロリーが必要だというわけですけれども、全く及ばない。
そういうような
食糧悪化によって当然
餓死者が発生してしかるべきだというふうに私
たちは思っておりますが、今日、
北朝鮮は今もって
餓死者というのは認めていません、もちろん何らかの形の病気を併発して、そして病死ということは言っておりますけれども。
亡命者の話によりますと、
北朝鮮はやっぱり体面上
餓死という形の
発表はできない、少なくとも餓えの
因果関係によるほかの疾病によって亡くなったということです。
この統計については、御
承知のように
韓国に一昨年亡命した
黄長ヨプ元
書記は、九五年で約五十万人、恐らく九六年には百万人だろうと推定をしておりましたけれども、この点については
韓国の
情報機関NSP、
国家安全企画部は、現在は
国家情報院と呼んでおりますが、過去四
年間で三百万人が亡くなったと
発表しております。この点に関しては
真偽は定かでありませんが、少なくとも私が
韓国でいろいろな
亡命者、多数の
亡命者の
方々の話を聞きますと、その
方々の周りで多くの方が飢えて亡くなったと、そういうような
証言で共通しておりました。
この
食糧問題については、ことしも約百六十万トン不足していると言われております。昨年の
生産量が約三百八十九万トンで、五百五、六十万トンは必要というふうに需要を言われておりますけれども、百六十万トンが足りないということであります。
農業問題については、いろいろ
農業政策の失敗だとかあるいは水害問題など云々されておりますけれども、
北朝鮮というのは本来
農業国家ではないということで、
農業にはどちらかというと適していない。私、先ほど百グラムと言いましたけれども、多分今は若干回復されて、ことしはもう少しいいのではないかなと見ております。
そもそも
北朝鮮の
配給量というのは、歴史的に見てみますと、一九七一年に故
美濃部東京都知事が
北朝鮮を訪問して
金日成主席と
会談した際に、
金主席は
北朝鮮の国民に約四百グラムを供給していると言っているわけですね。ですから、基本的に、
配給量が七〇年代においても少なかったということは言えるのではないかと思います。
食糧問題と同時に、やはり
エネルギー事情が大変
悪化しております。
北朝鮮の
エネルギーというのは
石炭、
電力、
石油で賄ってきましたけれども、これまではパーセンテージは
石炭が七〇%、
電力一〇%、
石油一〇%、これが
エネルギーの三大源となっております。
石炭そのものは、目標は一億二千万なんですが、実際には半分に満たない五千万トンしか生産できないというありさまです。また、
電力も基本的には
水力発電です。
水力発電ということは、もうあの国は冬になりますと水が凍結して発電できない。ちなみに、
北朝鮮の
首都ピョンヤンは、
日本からしますと
仙台あたりの気候ということになります。
石油自体は、かつて旧
ソ連やあるいは
中国からそれぞれ二百万トンずつ、合わせて四百万トン、八〇年代までは
友好価格で
支援を受けておりましたが、御
承知のように
ソ連が崩壊し
中国が
市場経済に向かったことによって、その後は四分の一に落ちたというふうに聞いております。四分の一といいますと約百万トン。若干
中国の
支援があってやや上向きの方向にありますが、
北朝鮮が仮に
年間百万トンということであれば、ちなみに
韓国は
年間一億トンを消費しているということで、まさに天地の差ほどのギャップがあるということです。
こうした
エネルギー事情の
悪化というのは、もはや
北朝鮮のいろいろな
亡命者、特にその中でも、三年前でしたでしょうか、ミグ19のパイロット、
飛行士が
韓国に亡命した際に、
ガソリンがなくて、油がなくて
飛行訓練もできないと。
韓国の
調査によりますと
北朝鮮の
飛行訓練は
韓国の
飛行訓練の十分の一だったということで、大変な
状況にある。
本来であれば、
北朝鮮は米やあるいは
ガソリンなどは外国から買ってきたんですけれども、それを購入する
外貨が決定的に不足している。今、
外貨が底をついただけでなくて、実際に
北朝鮮は各国に
対外債務を負っている。
対外債務の総額は約百十九億ドル。
日本だけでも恐らく八億ドル程度になるのではないかと思いますが、ちなみに、
日本など
西欧諸国に対して四十五億ドル、それから
中国、ロシア、東欧に対して七十三億ドル以上ということで、
対外債務も大変な負担になっているということです。
そうした
外貨獲得のためにいろいろな知恵を絞っている。まさに
北朝鮮は
配給という制度が崩れた。
社会主義体制ということを言っておりますけれども、米が
社会主義、
共産主義であるという
金日成主席の教示がありますが、実際的にはそれが
配給できないということは事実上今の
社会主義体制が崩れたということで、それを何とか奪回しようということで、ありとあらゆる方法で
外貨獲得に奔走しております。
そうした中には、例えば
フランスやあるいは
西ドイツから
廃棄物を輸入する、例えば
廃棄物を
西ドイツから月十万ドルとか、あるいは
フランスからもと、そういうふうに言われております。ちなみに
日本からも、御
承知のように
アルミ残滓とかあるいは古
タイヤとか、それがある
新聞の
調査によりますと九五年で約八千六百トン、九七年に一万六千トン、
タイヤは九六年に十六万本、九七年に七十二万本。まさに
お金のためには手段を選ばないということで、台湾から
核廃棄物まで導入しようというような
動きは
皆さん方も周知のとおりだろうと思います。
時間の
関係上若干飛ばしますけれども、そういうような
状況にあって、それでもなおかつ
北朝鮮が、
皆さん方は大変不思議だと思うんですけれども、つぶれない。
金日成主席が亡くなったときは二年、三年ももたないのではないかというふうに
韓国でも言われておりましたけれども、今なおかつ
金正日体制が続いているというところは、やはり今の
金正日体制が非常に強固な体制を堅持している。その
最大の要因は、完全に軍事体制、いわば軍事国家に変貌しつつある。
軍事国家、軍事体制というのは何をもってそういうことが言えるかと申しますと、金日成体制の時代にはトップ十位の中に軍人、いわば制服組は一人しかおりませんでしたけれども、今回の
最高人民会議の序列を見て私自身も驚いたんですが、何と十位の中に軍人さんは四人含まれていたと。ちなみに国防委員の九人は上位十四位の中に全員入っていたというようなこと
一つをとっても言えるのではないかと思います。
そういう
状況の中で、
金正日体制が安定しているかどうかということについては、後ほどそういう質問をしていただければお答えしたいと思います。
では、
北朝鮮が今こういうような
状況の中で何を目標に掲げて、そして
日米韓の包容
政策、あるいは
アメリカの一括妥結方式とか
韓国の太陽
政策にどう
対応しようとしているのかということについて触れたいと思います。
北朝鮮の当面の目標は、いわば
社会主義体制の維持、これに尽きると思います。別な表現を言うならば、東ドイツ化を避けるということ、極論的に申しますと瓦解を防ぐということに尽きると思います。東欧が瓦解し、東西冷戦が崩れ、本家
共産主義の
ソ連が崩壊した後にも、
北朝鮮は依然として我ひとり
社会主義で孤塁を守るというような姿勢を堅持しております。
四月二十五日の労働
新聞の社説、これは朝鮮人民軍創建六十七周年に際して
発表されたものですが、一言引用させていただくならば、我々の革命勢力は今も
世界帝国主義の連合勢力と単独で立ち向かい、
社会主義の偉業を強固に守護しているというふうに言っております。すなわち、
社会主義体制を引き続き守っていくというのが
北朝鮮の目標です。
当面の目標は、ここ数年内に強盛大国をつくるということです。強盛大国を築く、
日本語でいきますと富国強兵という言葉です。富国強兵国家にしてみせるというふうに言っております。私は、今のような
経済状況で果たして
北朝鮮がそういうような富国強兵の国家ができるのかどうか大変疑わしく見ておりますけれども、
北朝鮮の労働
新聞は、ことし二月十六日、
金正日さんの誕生日に際して
発表した社説の中で、ここ数年の間にこの地に
世界じゅうがうらやむほどチュチェの強盛大国を築くだろうと。
この強盛大国という意味はどういうことかと申しますと、実に簡単な言葉で、国が小国であっても、思想的に軍事的に大国になれば、大国になるということなんです。この思想大国、軍事大国という意味は、思想的には、まさに
金正日総
書記、国家に忠誠を尽くす、すなわち自爆あるいは自決も辞さないというような忠誠心を各軍隊から国民まで持つということ。それから、軍事国家、軍事的な大国という意味は、私が解釈するところによると、ひょっとすると例の核及びミサイルではないかな、こういうふうに考えますが、それに関する確固たる証拠はありません。
二つ目は、そういうような
状況で、とりあえず南北のバランスを回復しようということで、
北朝鮮は
外交バランス、
経済バランス、軍事バランスの維持に今後努めていくのではないかなと。もう既に
北朝鮮の認識は、
朝鮮半島のバランスは崩れた、均衡は崩れたとみなしております。
外交的には、日米が北を承認しない段階で中ソが南を承認してしまったということ、さらに東西冷戦が崩れて東欧が瓦解したということです。
経済バランスは、先ほども申しましたけれども、現在のGNPあるいは一人当たり国民所得、どれをとっても
北朝鮮は
韓国に及ばない、及ばないどころかはるかに及ばない。例えば、
韓国はGNPが約四千三百七十四億ドル、一人当たりの国民所得は九千五百十一ドル。これに対して
北朝鮮は、GNPが先ほど申しましたように二百億ドルにも行っていない、国民一人当たりの所得は七百四十一ドルというところですから、話にならない。
それから、軍事バランスにおいては、御
承知のように、南北の軍事力の面に関しては
北朝鮮の方が装備の面に関して数の上では圧倒しております。しかし、既に南と北の軍事費という側面からするとこれは大きく崩れて、八一年の段階で逆転しております。八一年の段階で
韓国は二億五千万ドル、
北朝鮮が二億三千万ドルと、八〇年に入って南北の軍事費は
経済の比較と同時に逆転した。そういう意味で、
北朝鮮が軍事力のバランスを引き続き優位を維持する、あるいは今後も維持する上で、やはり核とミサイルという問題がひょっとすると提起されているのではないかな、こう思います。
金大中政権の太陽
政策について北がどういう
対応をとっているかといいますと、基本的には非常に警戒心を持っています。太陽
政策は
北朝鮮の体制瓦解がねらいである、これが
北朝鮮のスタンスです。
労働
新聞が昨年、太陽
政策に対して、これは新たな反共和国・反統一・対決宣言であるというふうに言っております。これを平たく申しますと、ことしの二月二十日の労働
新聞では、太陽であれ包容であれ、本質において祖国統一三大原則に完全に背を向ける偽りの統一
政策で、永遠に実現されることのない妄想の中の妄想であると、けちょんけちょんに金大中大統領を酷評しております。これは、
北朝鮮からしますと、太陽
政策も北風
政策も本質的には
社会主義のよろい、すなわち
社会主義のマントを脱がすという上では変わらないというような受けとめ方です。むしろ北風よりも太陽の方が手ごわいというふうに極度に警戒しております。
金大中大統領は太陽
政策の中で
北朝鮮に
改革・開放を求める、私
たちも
北朝鮮を
改革・開放の方向に誘導しようというふうに言っておりますけれども、基本的に
改革とは、これは
北朝鮮からすると一党独裁体制をやめて民主化する、すなわち多党化するということですね。それから、開放というのは、これは
市場経済へ、すなわち資本主義
経済への移行を意味しておりますので、これが
北朝鮮からすれば体制瓦解への道だというふうに受けとめております。
御
承知のように、
北朝鮮は、
金日成主席のチュチェ思想を唯一思想体系に、また朝鮮
労働党すなわち共産党の指導を唯一指導体制にしておりますので、多党制などの西側の民主化、民主システムを取り入れるということは基本的にはこれは自殺行為に値する、こう思っております。
それから、金大中大統領の三段階による一括妥結方式。第一段階は、北の核とミサイルの問題を解決して
米朝関係改善を実現させる。二段階は、
北朝鮮の開放と
市場経済を誘導させ、南北相互軍縮を実現させる。三番目は、平和統一のための南北共存を実現する。これが金大中大統領の三段階の南北共存に向けての方式ですが、これについても
北朝鮮はことしの二月二十一日、先ほど
お話がありました
金容淳対
日担当書記が一括妥結方式はだれにも歓迎されないだろうということを言っております。
この点に関して
北朝鮮の立場は、いかなる場合にあっても
階級的な原則での譲歩はすなわち死である、したがって帝国主義とは非妥協的に最後まで闘うというのが北の方針です。すなわち、一歩譲歩をすれば二歩、三歩譲歩させられ、ひいては武装解除につながる、そういう警戒論を持っているということです。
しかし、さてそうは言いながらも、先ほど申しましたようにこの今の疲弊した
経済を何とかしなくちゃならない。そこで、太陽
政策について
北朝鮮は、これにブラインドをかけよう、ブラインドをかけて、少なくとも太陽を太陽ではなく、
北朝鮮にとっては心地よい、暖かい、そういうようなものとして受け入れよう。これすなわち、民間
経済を交流し、そして
経済実利を追求するというやり方です。平たく申しますと、開放はしないまでも、窓をあけてもそこに網戸をかけるとか、あるいは蚊帳をかけるとか、そういうことでいわば窒息した
状態を少しでも楽にしよう。しかし、西側の文化あるいは思想、そういうようないわば
北朝鮮からすれば害虫、虫はとにかく入れないというような、選別的な段階的な
政策をとっていくのではないかな、こう思います。
時間が参りましたでしょうか。対日問題については触れることができませんでしたけれども、
皆さん方の質問の中でお答えしたいと思います。
ありがとうございました。