○伊藤英成君 私は、民主党を代表して、ただいまの
地方分権一括法案の
趣旨説明に対して、
総理及び
関係大臣に
質問いたします。
豊かな成熟
社会の到来とともに、市民と
地域の自律的なネットワークが
社会の活力を形成する
時代を迎えております。また、都市や
地方の
住民が国境を越えて直接世界と結びつく
時代でもあります。このような新しい
時代には、
地域の
自主性と市民自治のエネルギーが、
社会のソフト面での重要な基盤を構成することとなります。二十一
世紀の新しい国づくりの
基本は、このような
観点に立った
分権改革を大胆に進めることにあると私は考えます。
分権改革とは、単なる
制度改革や
行政システムの再編を
意味するものではありません。
国民、
住民の納める税金の使い道や
行政サービスのあり方について、
住民の監視が行き届き、
住民がその決定に
関与できる仕組みや
環境をつくり上げることこそ重要であります。
つまり、
分権改革の
目的は、
地域の自己決定と自己
責任という自治の基盤をつくり出すことにあります。これらの視点を欠いたまま国、
地方の形をあれこれといじり回してみたり、効率優先の画一的な
制度改革を上から押しつけるような議論は、見せかけの
分権あって自治なしという
状況をもたらすだけであって、今日求められている
分権改革とは、全く異質のものと言わなければなりません。
さて、
地方分権改革のための
取り組みは、周知のように、一九九五年の
地方分権推進法の
制定によって新たな一歩をしるしました。この
法律によって発足した
政府の
地方分権推進委員会は、九六年十二月に提出された第一次
勧告で、
機関委任事務の廃止と、国と
地方との間の対等、協力
関係の確立を高らかにうたい上げました。これはまさに明治
近代化以来の
中央集権システムを根底から変革する可能性を秘めた
改革の始まりである、我々は、そのように大いに期待をしながら、
委員会の
取り組みに注目し、これを積極的に応援してまいりました。
しかしながら、今般提出されましたいわゆる
地方分権一括法案の内容は、余りにも期待外れのできばえと言わざるを得ません。
そこで、まず、
総理の姿勢について
お尋ねいたします。
総理は、今回の
分権一括法案の取りまとめについて、一体何かイニシアチブを発揮してこられたのでしょうか。
昨年秋に提出された公共
事業見直しについての
委員会第五次
勧告は、中央
省庁がこぞって
見直しに強く抵抗したために、国の直轄
事業の縮減などについては具体的な
改革案を盛り込むことができないという無残な結果に終わりました。この第五次
勧告は、
分権を通じて国の
省庁を
スリム化したいという橋本前
総理の指示を受けて、急遽検討に着手したものでしたが、後を受けた小渕
総理が中央
省庁の役人や与党
議員の抵抗を抑えようとしなかったために、このような結果を招いたと言われております。
また、
委員会で中心的
役割を果たしてきた東大教授の西尾勝委員が、このことに抗議して昨年暮れに
行政関係検討グループの座長を辞任するという事態も招きました。
私は、
総理が昨年夏に就任して以来、この
分権改革について何か積極的な
役割を果たしたという事実を、寡聞にして存じ上げません。私は、冒頭申し上げましたような
地方分権の
意義、
改革のビジョン、本
法案の
到達点、残された
課題について、
総理がどのように認識をしておられるか、まずお聞きしておきたいと思います。
次に、具体的に
法案の内容について
お尋ねします。
本
法案の主な柱の
一つは、
機関委任事務制度の廃止と、それに伴う
事務の再編成であります。
一八八八年の市制、町村制に端を発し、
中央集権型行政システムの象徴となってきた
機関委任事務制度を廃止し、それらのほとんどを、いわゆる現住所主義に基づいて自治体の
事務と位置づけたことは、それだけでも百年ぶりの大転換であり、自治の
時代への大きな一歩と評価したいと思います。
しかし、その自治体の
事務の
自治事務と
法定受託事務への区分については、
省庁の頑強な抵抗によって、
原則として
自治事務という
考え方からは著しく後退を余儀なくされ、半分近い
事務が
法定受託事務と区分され、また国の直接執行
事務と区分されたものも少なくありません。
総理は、このように半分近い
事務が
法定受託事務に区分されたことについて、どのようにお考えでしょうか。
仮に、ひとまず
法定受託事務に区分するとしても、数年間の期限を付し、その時点で引き続き
法定受託事務に区分する必要があるか否かを再度
国会で審議するというような形にして、できるだけ
法定受託事務を減らして
自治事務にしていくという努力をすべきではありませんか。
法定受託事務の定義そのものについても、
法案に
規定された内容は、
委員会の
勧告や
政府の計画から大きく変更されております。
勧告では、
法定受託事務とは、「
事務の性質上、その
実施が国の義務に属し国の
行政機関が直接執行すべきではあるが、
国民の利便性又は
事務処理の効率性の
観点から、
地方公共団体が受託して行うこととされる
事務」と定義されていましたが、
法案では、そうした文言がどこかに消え去り、かわって、「国においてその適正な処理を特に
確保する必要があるもの」という文言が挿入されました。これは、引き続き国が、自治体の処理する
事務に対して広範に
関与することを予定する定義にほかなりません。
このように、
法定受託事務の定義を後ろ向きに変更したことについて、
自治大臣はどのようにお考えでしょうか。
また、
法案中、
法定受託事務の指定を政令にゆだねているものが、条文数にして二百五十件近くにも上ります。
法案を見ても、それが国の
事務なのか自治体の
事務なのか、
自治事務なのか
法定受託事務なのかがさっぱりわからないということでは、これからすぐに多数の
条例を
制定しなければならない自治体も困るのではないかと思いますが、
自治大臣、いかがでございましょうか。
次に、
法案の二番目の柱である、国の自治体に対する
関与のあり方について
お尋ねいたします。
法案は、
機関委任事務の廃止に伴って、これまでの国から自治体に対する包括的な指揮監督を
見直し、国から自治体への
関与を
地方自治法に一般ルールとして
規定するとともに、
自治事務に対する国の権力的
関与を
原則として否定することとしております。
ところが、その
地方自治法自体が、
自治事務の処理について各大臣から是正の要求があった場合に、自治体に是正改善の
措置を講ずることを義務づけることとしております。このような
自治事務についての自治体の是正改善義務は、現行法上存在せず、
委員会の
勧告等にも、もちろん何ら盛り込まれていなかったものであります。
今回新設されようとしている
地方自治法のこの
規定は、明らかに
自治事務に対する国の
関与を現状よりも強化するものであり、
地方分権推進の
趣旨に全く逆行するものと考えますが、
自治大臣の見解を
お尋ねします。
また、
法案は、
関与の
基本原則の中に、個別法上の
関与の
規定を
必要最小限度のものにするために限定を設けておりますが、
自治事務についての国による代執行については、できる限り自治体が代執行を受けることとすることのないようにしなければならないと、極めてあいまいなルールゆえ、例えば建築基準法
改正部分では、現行法上も存在しなかった国の直接執行
制度が新たに設けられることとなっております。
このような
自治事務に対する過度の
関与規定や、これを許すあいまいな一般ルールは改めるべきと考えますが、
自治大臣の見解を
お尋ねします。
さらに、
法案では、国の自治体に対する
関与について、自治体の執行
機関が、新たに創設される第三者
機関である国
地方係争処理
委員会に
審査の
申し出を行い、
勧告等を受けることができることとされております。しかし、
法案のような内容では、この
機関の位置づけは十分な独立性を持つものとは言えず、またその
権限も、
勧告という権威を欠くものにとどまっていることは否定できません。
私は、この
機関を少なくとも国家
行政組織法の三条
委員会に格上げするとともに、
分権推進委員会で検討されていたように、
勧告ではなく裁定を行う
権限を持たせるなど、組織、
権限の強化を図ることが必要と考えますが、
自治大臣の見解を
お尋ねいたします。
次に、
権限移譲、税
財源移譲問題について
お尋ねします。
法案では、本来、
地方分権の大きな柱の
一つであるはずの、国から
都道府県、
都道府県から
市町村への
権限移譲については、狂犬病予防法などわずか三十五
法律の
改正にとどまっております。
とりわけ大きな問題は、冒頭でも述べましたように、
委員会の第五次
勧告で検討
課題となった国の直轄公共
事業の範囲の限定について、著しい後退を余儀なくされていることであります。今回の
法案では、わずかに運輸省
関係の港湾法
改正部分で第五次
勧告関連の
改正項目が盛り込まれたにとどまっており、それとても、直轄
事業を明確に限定したものとは必ずしも読めません。
国は、全国的な
規模でもしくは全国的な視点に立って行わなければならない
施策及び
事業の
実施等を重点的に担い、
住民に身近な
行政はできる限り
地方公共団体にゆだねるとした今回の
地方自治法改正の
趣旨との間に、著しい乖離があると言わざるを得ません。
国のひもつきでない統合補助金
制度の創設などを含め、国の公共
事業の大幅な
見直しを速やかに行うべきと考えますが、この点について
総理の御見解を
お尋ねいたします。(
拍手)
国から
地方への税
財源の移譲については、これまた大蔵省などの抵抗が強く、今回の
法案では全く触れられておりません。国、自治体間の租税収入と歳出総額の乖離を縮小する方向で、個人所得課税を初めとする基幹税目について
税源配分を抜本的に
見直しし、
地方の
充実した自主
財源の
確保を図ることが今後の大きな
課題であると考えますが、
自治大臣の見解を
お尋ねいたします。
最後に、
地方事務官問題について
お尋ねします。
法案では、戦後五十年以上にわたって暫定的に
地方事務官が従事するとされてきた
社会保険と職業安定に関する
機関委任事務を廃止し、これらを国の直接執行
事務とすること、そして
地方事務官を廃止し、国の職員とするとしています。
しかし、これらを国の直接執行
事務とすることは、
地方分権の
推進に逆行し、中央
省庁の
スリム化に反するものと考えます。
社会保険
行政など
住民に身近な
行政サービスは、
地域住民の利便性
向上を一番に考えれば、身近な自治体で行うべきと考えます。
現在、全国三千三百の自治体の窓口と三百十二の
社会保険
事務所で行われている
社会保険
事務を、専ら
社会保険
事務所だけで行うとすれば、結局、国の出先
機関を拡大しないと対応できないのではないでしょうか。また、保険料未納や
制度未加入による
国民年金の空洞化が、一層進むことも大いに懸念されます。
行政サービスの低下や
住民の利便性が著しく後退することが心配される今回の国の直接執行
事務について、果たしてどこが
地方分権の
推進で
行政改革なのか、
総理の御見解を伺います。
また、国の直接執行
事務により、具体的にどのように
行政サービスが
向上し、
住民にとってどのような利点があるとお考えか、厚生大臣の答弁を求めます。
以上申し上げましたとおり、本
法案は、
地方分権推進にとって半歩前進をもたらすものであることは率直に評価申し上げますが、いずれにせよ、その内容は、本来の
分権改革という目で見れば、著しく不十分と言わざるを得ません。今後、その個別法
改正部分も含めて十分な
国会審議を行い、よりよいものに仕上げていくことが
国会の使命であることを申し上げて、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小渕恵三君
登壇〕