○濱田健一君 私は、社会
民主党・市民連合を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
職業安定法の一部を
改正する
法律案及び
労働者派遣法の一部を
改正する
法律案に対し、小渕
総理並びに甘利
労働大臣にお尋ねいたします。
職業安定法の一部を
改正する
法律案は、批准を予定している
ILO百八十一
号条約の
内容を踏まえつつ、公的
職業紹介機関と
民間の
職業紹介事業等について、
労働力需給調整機能の強化と
求職者の利益
保護を図る
観点から、必要な
整備を行うこととしております。底割れ懸念さえある現在の
雇用失業情勢を好転させるためにも、文字どおりこの
目的を追求できるのなら問題はありません。しかしながら、
求職者の利益
保護の面で十分なものになっているのか、心配が残るのも事実でございます。
同条約は、その
規定の枠組みにおいて、
民間職業紹介事業所の
運営を認め、そのサービスを利用する
労働者を
保護することにあると明確にうたっています。つまりは、
民間と公的
職業紹介の共存を前提に、
派遣事業や多様な
民間雇用サービスに適切な規制を加えて弊害を除去し、新たな
状況に
対応した
労働者保護を定めることにこそ、力点が置かれていると言えます。
個人情報の
保護については、罰則
規定を含め、格段の前進が図られたものと評価するものですが、差別的待遇の
禁止などに関し、どのように
実効性が
確保されているのか、甘利
労働大臣にお伺いいたします。
次に、
労働者派遣法の一部を
改正する
法律案についてお尋ねいたします。
直近のデータになる二月の
完全失業率は四・六%となり、過去最悪の水準を
更新したばかりではなく、
完全失業者数も初めて三百万人を超えるなど、
雇用情勢の厳しさが一段と鮮明になってきました。
公共事業の追加や公的資金による貸し渋り
対策等で、辛うじて支えられているとも言える現状の景気においてすら、この深刻さです。
十三日に発表された四年制大学生の
就職内定率も、これまた初めて九割を下回りました。このままでは、
経済対策の息切れと遅行性を持つ
雇用情勢の一層の悪化が、最悪のタイミングでぶつかり合う事態すら想定しておかなくてはならない正念場を、我が国は迎えようとしていると言わざるを得ません。
このような
雇用情勢の推移を展望するならば、
派遣法の見直しを今強行することが果たして時宜を得ているのか、私
自身は疑問を覚えざるを得ないのであります。
政府は、有料
職業紹介や
派遣労働の
自由化によって、新たに六十万人程度の
雇用創出効果が生まれると見込んでいるとも聞くところです。しかし、
自由化による副作用も冷静に推しはかった上での数字となっているかどうか。以下の諸点も踏まえて、小渕
総理にお伺いしたいと存じます。
第一に、
派遣労働の
自由化は正規
雇用に取ってかわるものではないと、幾ら
労働省が強調したところで、未曾有の長期不況下、
企業の経営状態の深刻化の度合いに正比例する形で、正社員の
リストラ誘因として働きかねないという問題です。とりわけ、デフレ
経済の進行を伴う不況下においては、大胆なコスト削減策こそが至上命題となるために、少なくとも現局面における
自由化は、正規
雇用の代替機能としての側面を、不幸にして持たざるを得ないのではないでしょうか。
また、
自由化は大きな
経済効果を生むという確信を
政府は持っておられるようですが、そのような大団円を本当に迎えることができると言い切れますか。現局面における
自由化が正規
雇用の代替として機能するならば、低賃金層の増大による消費停滞の一層の拡大すら懸念されると言わなくてはなりません。要するに、
政府が講じてきた
経済対策にとっては、
自由化による規制緩和効果よりも、萎縮効果の方が大きくなりかねない点が第二の問題点となります。
当然、このような負の作用も比較考量しなければならないと思料するところですが、本見直しが時宜を得ているかも含めて、小渕
総理の明快な答弁をお願いいたします。
以下、甘利
労働大臣にお尋ねいたします。
日本経済の発展の支えとなってきた終身
雇用制度等に代表される
日本的雇用慣行を、どのように
位置づけ、評価した上での
派遣労働の
自由化となっているのか、まず明らかにしていただきたいと思います。また、このような我が国固有の
雇用慣行を評価し、堅持する立場をとるならば、見直しに当たっては、九六年
改正の
労働者保護ルールの検証も含めて、諸外国にまさる、より厳格な法規制こそが要請されているとも考えざるを得ないのですが、御見解をお示しください。
産業界等の規制緩和の大合唱の前に
自由化を急ぎ過ぎた
政府原案のままでは、肝心の
労働者保護がなおざりにされ、使い勝手のいい
労働力を
確保したいという、
企業のいいとこ取りに終わってしまうと、強く警鐘を鳴らさざるを得ないのであります。
派遣法は、
派遣事業の
あり方のみを定めているのではありません。
派遣で働く人々の
雇用と
労働条件を保障して、人間としての尊厳を守るための
法律でもあります。
今回の見直しが
期待する
労働力の
流動化が、
労働力需給の
ミスマッチを解消するための重要な要素の一つとなることは、私も否定するものではありません。しかし、一方で
労働市場は、物や金の市場とは全く違う性格を持つものであることも、明確に意識する必要があります。
労働力という商品は、人間の肉体と不可分であり、その肉体的、精神的諸
能力の総体です。人間は二十四時間単位で生活している生き物ですから、その生活の
範囲でしか
労働の提供は行えません。また、
労働力は継続的に売られる必要があります。例えば、職場の安全管理が悪くてけがをすれば、
労働力商品の価値が失われます。したがって、
労働者が、
労働条件、職場の安全や衛生管理などについて発言するのは当然の権利となります。
さきに触れた
ILO百八十一
号条約が求めている、
求職者や
派遣労働者の利益
保護は、このような考えに立脚するものであることは論をまちません。今回の見直しが、この
世界標準に合致する
内容になっているのか、残念ながら私は、心もとなさを禁じ得ないのであります。
派遣労働の
自由化とは、市場原理にゆだねること、つまりは、仕事の仕方も
労働条件も、自己
責任あるいは
労使の自主的話し合いに任せるという点に、実質的な意味があります。ここで求められる自己
責任とは、社会や職場にあるさまざまな矛盾までもを、みずからが引き取ることにほかなりません。
ところが、悲しいかな、
派遣労働に係るトラブルを見ても、
日本の
企業は、その行儀の悪さを厳しく指摘されても仕方のないような実態レベルにある例も散見できます。例えば、特定
業務派遣という
法律の規制や
契約を無視して、自社社員のように
契約外の仕事を強いる違法行為が横行してきたのは、周知の事実であります。
このような違法実態の
改善が、新たに採用される
申告制度や、
申告を行った者に対する
不利益取り扱いの
禁止等によって、どの程度図られるとお考えなのか、お答えください。
最大の問題は、新たな
派遣は一年を限度とするが、これを超えて
雇用を継続しようとする場合の
派遣先の
雇用責任がはっきりしないことであります。見直し案では、正社員として雇うようにという
努力義務にとどまっています。その上で、履行を怠ったケースにおいては、雇い入れ勧告及び
企業名の公表という
措置を講じることになっています。
労働省は、フランスやドイツのように、
期間制限を超えた場合の
派遣先の雇い入れの
義務化を行わなくても、同等の効力を有すると強調しておられます。その言に偽りなきを期すならば、なおのこと、
労働側が求めている
派遣先の雇い入れの
義務化を、
法律上明記した方がすっきりするのではないでしょうか。また、
企業側の論理としても、そこまで囲い込みたいほどの有能な
派遣スタッフならば、常識的には正社員として採用したいという意欲が強まることの方が自然です。
このような
企業の行動原理を踏まえるならば、
企業側が雇い入れの
義務化に抵抗する論拠は、極めて薄いものになるのではないでしょうか。なぜ、
義務化ではなく努力
規定にとどめざるを得ないのか、その説得的な
理由をお聞かせください。
プライバシー
保護は、
派遣労働者の権利擁護の根幹をなすと言えます。
労働省においても異論のないところだと思われますが、そうであるからこそ、
環境整備の充実にとどまらない罰則
規定が求められているのではないでしょうか。しかし、一方で、他の
労働法制との均衡上、個別法としての
対応には無理があるという
労働省の判断も、私
自身は尊重したいと思っています。
ただ、それゆえにこそ、
労働省が率先して包括的
個人情報保護法の早期成立に取り組むべき責務を負うことになると考えますが、制定に向けた
労働省の不退転の決意を明らかにしていただきたいと存じます。
日本経済発展の礎ともなってきた終身
雇用制等のなし崩しにつながりかねない危険性も含めて、ことほどさように多くの課題を包含する
派遣法の見直しです。いやしくも、
日程優先の拙速
審議は厳に慎まなければなりません。
派遣労働の
原則自由化に係るすべての懸案、懸念が解決、解消するまで、つまりは、単なる見直しのレベルから、
改正というにふさわしい
内容にまで高められるように徹底
審議を尽くすという方針を、小渕
総理に自民党総裁の立場から明確にお示しいただくことをお願いして、質問の締めくくりといたします。(
拍手)
〔内閣
総理大臣小渕恵三君
登壇〕