○松本善明君 私は、日本共産党を
代表して、ただいま
議題となっております
主要食糧の
需給及び
価格の安定に関する
法律等の一部
改正案について、
総理に
質問をいたします。
本
法案は、米の
関税化、つまり米の
輸入自由化実施
法案であります。それを、
政府は四月一日に実施するとしております。日本の主食であり、日本の文化でもある米の
輸入完全自由化をこんな短時日の間に強行しようとすること自体、
国民と
国会をないがしろにする重大な暴挙であります。(
拍手)
この本
会議場で、当時の細川内閣に対して、与野党を問わず、米の
関税化は認められないと主張したのは、わずか五年前であります。自民党も、現在の森幹事長が
関税化反対の
質問演説を行いました。さらに、この場では、三度の米
輸入自由化反対の
国会決議が
全会一致でなされました。米
輸入自由化問題の審議には、まさにこの
国会の歴史と権威がかかっているのであります。
国際的には、
我が国を初め百八十カ国が参加した九六年の
世界食料サミットの
世界食料安全保障のためのローマ宣言は、すべての人は十分な
食料に対する
権利及び飢餓から解放される
権利を有することを再確認すると厳かに宣言をしております。
総理、
食料に対する
権利は人間の最も
基本的な
権利であり、
国民にその
権利を保障することは、
政府の
基本的な責務であります。日本、そして
世界の
食料問題でもある米の
輸入自由化の是非については、
国民の意見を酌み尽くす十分な審議が当然不可欠のことではありませんか。
総理の責任ある答弁を求めます。
政府は、米
関税化強行を正当化しようと、主として三つの根拠を挙げています。その一つ一つを、以下具体的に
質問いたします。
第一は、米
関税化によって
ミニマムアクセス数量が削減できるとしている点であります。
しかし、これは増加率の削減ができるということであり、
関税化されても、米の義務的な
輸入数量がこの二年間拡大されることに変わりはありません。削減される量も、
現行に比べ、九九年度でわずか三万八千トン、二〇〇〇年度で七万六千トンにすぎません。一体、こんなメリットなるもので、米
輸入自由化という日本の将来にかかわる重大譲歩を合理化することができるのか、
総理の明確な答弁を求めるものであります。
しかも、重大なことは、
ミニマムアクセス数量の増加率削減自体についても、その保証があるのかという問題であります。現在、
政府は、
WTO事務局に通報した米
関税化実施を前提とした
高率関税の
譲許表の
改正について、
WTO事務局からの確認書の送付を待っております。しかし、この
高率関税の
譲許表改正について、他国から
関税率が高過ぎると
異議申し立てがなされれば、
WTO事務局から確認書の送付はなされず、その結果、
国会に対して
譲許表改正の提出ができなくなります。
そのことは、現在の
ミニマムアクセス数量を記載した
現行譲許表が残ることになり、それが有効なものとして機能することを示しております。言うまでもなく、
譲許表は
条約であり、たとえ本
法案を
改正したとしても、
国内法より優先するものであります。
総理、他国から
異議申し立てがあったとしても、
ミニマムアクセス数量の増加率の削減ができるのか、できるとするなら、その国際法上の根拠はどこにあるか、明確にお答えいただきたいと思います。
第二は、高い
関税率の設定によって、米の
輸入を抑制するとしていることであります。
しかし、
関税化は
関税率の削減が大前提になっており、アメリカなどから公然と
関税が高過ぎるとの圧力が寄せられております。数量制限をなくし、
関税によってのみ
輸入を抑制しようとする場合、高
関税のみが生命線であります。
関税化に当たって、
政府は、当初従価税を打ち出していましたが、アメリカの圧力がかかると、高い
価格の米に有利な、つまりアメリカに有利な従量税に簡単に転換いたしました。
こんな日本
政府のアメリカに対する弱腰
姿勢で、どうしてアメリカの
関税引き下げの圧力に抗することができるのか、はっきり御答弁をいただきたいと思います。
関税化の
農業に与える影響については、九一年の牛肉の
関税化で既に明白であります。牛肉の
関税率は、
関税化当初七〇%で、その後次々に引き下げられて、
現行は何と三八・五%であります。この結果はどうでしょうか。農林中金総合研究所は、九四年に、今後の米問題を
考える参考として、牛肉
関税化の影響調査を行い、大多数の小規模
農家を
中心に、肉牛等畜産経営からの脱落、離農が急速に進んだと
結論づけたのであります。
現に、牛肉の
関税化以降、肉用牛の飼養
農家は、九〇年の二十三万二千戸から、九七年は十四万三千戸へと減少し、三八%、四割に近い八万九千戸の
農家が離農に追い込まれたのであります。牛肉の
自給率は、九〇年の五一%から、九七年には三六%にまで下落をいたしました。
自民党の閣僚経験もある
農政幹部も、九三年の衆議院予算委員会で、私は抜かったと思うことがある、それは、牛肉・オレンジの自由化、十年やった、今にして思うと、
関税化というものがいかに怖いものであるかということを今つくづく私は反省すると感慨を込めて語っているのであります。
総理、米
関税化の
国内農業に与える影響は、日本のほとんどすべての
農家に影響を与える点でも、日本の
農業の根幹に深刻な打撃を与える点でも、その広がりと深さで、牛肉の比ではありません。米の
関税化で、長期的に高い
関税率を維持できる保証がありますか。
関税率の低下で、米
輸入が進展しないと保証できるのですか。牛肉
関税化のような
状況にならない保証があるのか、明確にお答えいただきたいと思います。(
拍手)
第三は、今回の
関税化前倒し
受け入れのメリットとして、
次期農業交渉で日本がより強いポジションで
交渉に臨めるとしている点であります。
大体、
政府は初めから、
WTO農業協定の字句やフレームの変更は困難との前提に立って、
関税化を強行したのではありませんか。
交渉に有利だなどといっても、自由化を先に決めておいて、一体何を
交渉するというのですか。
国民によくわかるように、はっきりした答弁をいただきたいと思います。
WTO農業協定には、その前文に、
食料安全保障、環境保護の必要その他の非
貿易的関心事項に配慮しと明記され、
次期農業交渉についても、二十条で、非
貿易的関心事項を考慮して行うことが明記されております。また、
WTO設立
協定第十条は、
協定の
改正を提案する
権利を
加盟国に保障し、
加盟国の三分の二の賛成で
改正ができることを明記しております。
農業協定を、公正な、
食料安全保障をはっきり
位置づけたものにするために、正々堂々と積極的な提案を行うことは、日本
政府の当然の
権利であり、責任ではありませんか。また、これこそが
外交交渉を成功させる正道ではありませんか。
総理の
見解を求めるものであります。
もともと
WTO農業協定は、アメリカなど農産物
輸出国と、巨大穀物メジャーなど多国籍アグリビジネスが、みずからの利益を最優先するため、気候や地理的条件の制約を強く受けて生産される農産物の特性を無視して、一律に貿易自由化を押しつけたものであります。ですから、
自給率の保障をその枠組みに何ら組み込まず、日本のような
自給率の極端に低い国の
輸入規制や
国内助成まで一律に禁止あるいは削減を迫っているのであります。
食料自給率を向上させることは、
食料自給率わずか四一%の日本自身の
食料の安全保障の上で不可欠であるとともに、
世界的な
食料危機を回避する上からも重要であります。それは、
世界食料サミットが
各国に
食料の大幅増産を呼びかけただけではなく、多くの国際機関が二十一世紀にはさらなる
世界的な
食料不足が避けられないと予測をしているだけに、一層切実であります。
日本共産党は、真の
食料安全保障を確立するためには、次の三点について
WTO協定の
改正がどうしても必要であると
考えております。
それは、第一に、
食料自給の根幹をなす米を自由化の
対象から外すなど、実効ある
輸入規制が行えるようにすることであります。第二に、
各国の生産拡大への助成
措置を一律に削減、禁止する条項を削除することであります。第三に、環境保全のための施策に、アジアモンスーン地帯などでの、手間をかけて水田を維持する
農業生産を加えることであります。この三点について、
政府が改定を求める
考えがあるかどうか、
総理の明確な答弁を求めるものであります。
農協組織が行った新たな農産物貿易ルールの実現を求める請願署名に、一千万人を超える
国民が賛同の署名を行いました。米を守れ、
農業を守れは、
農業者だけではなく、広範な
国民の声であります。また、
輸出国の利益に偏重した
WTO農業協定を、
各国の
食料主権を尊重した公正なルールに
改正することを求める動きは、日本だけではなく、
世界各地に広がっております。
八十カ国、二千五百組織が参加した
食料サミットNGOフォーラムの声明では、
各国とも、みずからが適切と
考える
食料自給と栄養
水準を達成するための
食料主権を持つとして、
WTO農業協定の
改正を求めました。アメリカを含む家族
農業者の組織、消費者運動、環境保護団体などにもその声は広がっております。
政府は、
農業の再建と
食料自給率の向上、八億人の飢餓
人口のある
世界的な
食料問題の解決のために、
WTO農業協定の改定を求める国際世論の高揚と、それとの連携に最大限の努力をすべきであります。
総理は、この内外の
協定改定を求める世論をどう見ているのか、明確な答弁を求めるものであります。
私は、日本
国民に安全な
食料を安定的に供給し、日本の国土と日本人が生存するために必要な環境を守るために、この
法案を撤回し、
食料自給率の引き上げを国政の
中心課題に
位置づけることを強く要求して、
質問を終わるものであります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小渕恵三君
登壇〕