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新倉参考人 二回しゃべる機会をいただきまして、ありがとうございます。
レジュメが行っていると思います。
先ほどの続きですが、要するに、
一つの案が
三つの
法案になったということですけれども、もともとのゆえんは、一九八九年フランスで行われたアルシュ・サミットでの、国際的な
組織犯罪に先進国が協調して取り締まりをやろうということ、それが起因だったわけです。そういう観点から見ていきますと、今回の
法案のねらいは一体、そういう国際的な問題を扱っているのかというと、どうもそうではないわけで、では一体何を対象にしているのかという点で、私たち
刑法の研究者七、八十人で
意見書を出して法制審議会に再考を求めたわけです。
もちろん、今お二人のお話にあるように、
犯罪に対する闘争といいますか戦いというのは果敢でなきゃいけませんし、それに対して断固として戦うという姿勢を示すということは非常に大事だと思うんです。しかし、今お二人のお話にあったように、今まで何も手段がなくて、この
法案ができれば、非常に最小限であるというお話がありましたけれども、最小限であっても
組織犯罪に対してこれで初めて戦いが組めるのだというふうに、もしそういう御印象を今お持ちだとしたら、それは少し違うのじゃないかなという感じがするんです。既に
国会ではたくさんの
法律が通っておりまして、
暴力団対策ということを銘打った
法律もありますし、それから
基本法としては
刑法がもちろんあるわけです。そういうものとの関連で、この新しい
法律がなぜ必要なのか、そこをやはり
立法府として十分審議していただきたいということなんですね。
それで、いろいろと
外国の資料も含めて
検討していくと、私がよくわからないのは、この
組織犯罪というのは一体何を対象にしているのかというので、国際的な要請と今回出てきた案にかなりギャップがあるのではないかと思うわけです。
この
組織的犯罪というのは、これは
日本で言われている言い方で、
外国では
組織犯罪とかビジネスとしての
犯罪ということが問題にされているようなのですね。そこでの主なイメージは、国際的な、例えばマフィアですとか非常に大がかりな、あるいは国ぐるみと言っていいかもしれませんけれども、それの麻薬
犯罪、これにどういうふうに先進国は
対処していったらいいかというお話なのです。
ところが、今回の
法案はそういう国際マフィアを対策にしているわけではありませんし、また、国際的な麻薬
組織を、国境を越えて
日本の政府が何かしようという話では必ずしもないわけです。そういう意味で、専ら国内的な問題としてこれをとらえ直しているという点で、どうしてもやはり対象のギャップというのが出てくるのではないかというわけです。そのギャップというのは、それで果たしていいのか。いいのかというのは、要するに、今までの
法律ではどこが不十分なのか、そこが十分明らかになっているのだろうかという点が、私としては疑問に思うわけです。
組織犯罪ということでいいますと、対策として、先ほど最小限とかせめてこの
程度というようなお話がありましたけれども、とりわけ大きな改正ではなくて、
個人責任を追及するという範囲でやるというふうなお話になっているわけですけれども、
組織犯罪と
個人責任の追及というのは、要するに目的と手段という
関係です。それがうまく適合しているのかという感じがします。
また、
組織犯罪ということであれば、先ほどお二人のお話にもありましたけれども、まさに
組織として行うわけですから、
組織に対する直接的な制裁というのをなぜ考えないのだろうかということが大きな疑問として残ってくるわけです。法人
処罰を直ちにやれということではございませんけれども、もう少しやり方がいろいろとあるのではないか、その辺の
検討が必要なのではないかということが言えます。
また、現行の
刑法との
関係でいいますと、
組織として行われた
犯罪は特に重くするということですけれども、その場合、共犯との
関係で、現行法のやり方とどこかそごが生じるのではないかという点について十分
検討しなければいけないということなのです。
とりわけ、
レジュメに書いてありますけれども、
組織的な
犯罪ということに対して、これを
法案はどう定義しているかということなのですけれども、これを読んでみても、直接的にはやはり
組織的な
犯罪に対する定義というのはないわけで、定義の一として挙げているのは「団体の
活動」ですね。「団体の意思決定に基づく
行為であって、その効果又はこれによる
利益が当該団体に帰属するものをいう。」「団体の
活動として、当該罪に当たる
行為を実行するための
組織により行われたとき」ということが刑を
加重する場合の要件として挙げられているわけで、これを少し整理して考えると、
組織的犯罪というのはこういうものを指すのかというふうに了解できるわけですけれども、
法案全体は、別に刑の
加重規定だけではなくて、後に書いてありますけれども、さまざまな手段を盛り込んでおりまして、それぞれ少しずつ対象がずれてくるという感じがするわけです。
さらに言えば、我々は盗聴法と呼んでいますけれども、正式には
犯罪捜査のための
通信傍受に関する
法律案というのも
組織的犯罪に必ずしも
限定していないということで、一体この対象を全体としてどうとらえたらいいのかという点について、やはり十分吟味する必要があるのではないかというふうに思います。
それからまた、対策として幾つか挙げられているわけですけれども、重罰化という点でいいますと、確かに重罰化は必要なものがあるのかもしれません。しかし、それも現行の法定刑の枠内で賄えると思えるようなものが多々あるわけで、そういう意味で、重罰化とは一体何を求めているのか。現在の
法律ではヒットマンによる殺人は十分
処罰されていないというならば、それはどうしてなのか、そこら辺の
検討がなければ
組織的犯罪として行われたものを重罰化するということを決める十分な理由にはならないのではないかというふうに思うわけです。
さらに、
一つ一つの
犯罪を重くするだけではなくて、未遂の場合それから予備を場合によっては
処罰するということで、これは
刑法の言葉で言いますと、法益
保護の早期化というふうに言われる現象なのですね。これは未遂を、既に
処罰しているもの以外にさらに
処罰しようということですけれども、これは要するに、実際に法益侵害が行われる前に
処罰が発動する。
処罰が発動するということは、同時に警察の
捜査も行い得るということになっているわけですけれども、実際、こういう規定が本当に必要なのだろうかという点についても十分
検討する必要があるのではないか。
さらに犯人ですね。
組織的犯罪にかかわった
犯罪者を蔵匿した場合に、それに右に倣えして、
加重処罰が行われるわけですけれども、これは要するに、一種の事後的な共犯に対して、対策の網の目を広げよう、こういうことで、あえて言えば、横への拡大という現象だと思います。その場合も、十分気をつけなければいけないのは本犯ですね。実際は、
組織的犯罪として行われたものに対する
刑罰よりも、その犯人を蔵匿したということによって
処罰される刑が重くなってしまう。軽い
犯罪をやった犯人をかくまった人は、犯人が処せられる刑よりも重く
処罰される。これは我々の普通の平等感といいますかバランス感覚からいうと、やはりちょっと行き過ぎではないかという感じがするわけです。
それから
没収も、
犯罪組成物件とか供用物件を現行
刑法よりもさらに広げて
没収できるようにしよう。
これは
犯罪収益の問題とも若干絡むわけですけれども、さらに重要なのは、
犯罪収益関連
行為の
処罰化ということで、
犯罪収益を使って事業等を支配しようとする罪を新たに
処罰するとか、あるいは
犯罪収益の隠匿
行為あるいは収受
行為とか、それから国外犯を
処罰するとか
犯罪収益に関する
没収とか追徴、それからここで法人の
処罰も可能な両罰規定が出てくるわけです。かなりこれは、先ほど最小限と表現されましたけれども、最小限以上に広がったものになっているわけですね。
これは国際的にも、
マネーロンダリングということで、
犯罪収益をいかに
剥奪するか、
剥奪することによって、そういう
組織的な
犯罪活動を弱めていこうという、そういうねらいを持つものなのですけれども、ただ、気をつけなければいけないのは、正常な経済
活動に伴うものとそれとの区分けというのは十分できるのだろうかという疑問がやはり依然としてあるのではないかと思うわけです。
とりわけ混和
財産、
個人の正当に取得した
財産と一緒になってしまった場合は、そのものについても
没収できる。
没収だけではなくて、後で出てきますけれども、
没収保全命令ということで、事前に、
刑罰の言い渡しがある前に、保全という手続で、持っている人から取り去ることができるという形になっているわけで、これが実際には経済
活動を著しく困難にさせてしまう
危険性が多々ある。この点をどう考えるのだろうかということです。
それから、疑わしい取引の届け出というのがありますけれども、これについても若干コメントしますと、例えばスイスでは、銀行には届け出ということを課しているわけですけれども、スイスの学者に言わせると、届け出というのは、
義務づけするというシステムと、それから銀行の
権利という構成の仕方と、二通りあると。スイスでは
権利だという形にした。つまり、それは
権利行為だということによって、銀行の守秘
義務を解除するということになりまして、銀行としては届け出するということを進んで協力できるようになるわけです。
日本では、それを
義務づけるというわけですから、もっと強く銀行に協力を求めるという形になるわけですけれども、それが銀行にとってはやや不名誉な扱いを受けるということで協力は得にくくなるんじゃないかということで、スイスではむしろ、
義務づけというよりも協力するための
権利という扱いにした、そういうような工夫もめぐらした方がいいんじゃないかというふうに思われます。
国際共助というのは、先ほどの国際的な
組織犯罪に関連して
日本でも協力しようということで、これ自体としてさらに
検討する必要があるわけです。というのは、我々が知っている情報は実は法制審議会までの状況で、そこではこの
国際共助の問題は必ずしも十分
検討されていなかったように思いますし、先ほどの
渥美参考人の方もこの規定ではまだ不十分だというような御
意見もおありなようなので、この点についても、唐突にここで一気に
国際共助のあり方というのをこういう形で決めてしまっていいんだろうかという疑問が残るということです。
それから、これは意外と法制審議会の
議論でもなかったと思うんですけれども、資格
制限がある。附則の形で拡大しているわけです。つまり、
組織的犯罪にかかわった人は
一定の資格を当然に
法律上奪われるということになっているわけです。フランスでは、例えば資格
制限も、
司法処分としてオートマチックに資格
制限をすることによって
社会復帰を著しく困難にすることを防ごう、あるいは場合によっては、資格
制限を
刑罰にかわる処分というふうにして、資格
制限をするだけの制裁を科せば十分な場合にも
対処しようというような工夫をしているわけです。
日本ではその点が相変わらず
法律で当然に資格が
制限されるという形になっているので、ここも一考を要するのではないかと思われるわけです。
もう時間がないのですけれども、
犯罪捜査に関する
通信傍受に関しては、
渥美参考人とか
田中参考人の御
意見にもかかわらず、私としては、これが余りにも広範過ぎるのではないか。
それから、通信手続の問題性ということで言えば、やはり憲法の通信の秘密、これは
事後規制だからいいんだというふうに
渥美参考人はおっしゃっているようですけれども、実際は、
法案をごらんになればおわかりのように、これは過去に行われた
犯罪に関する証拠を収集するという手続だけではなくて、事前
傍受も含めて、かなり広い
傍受手続が可能な仕組みになっているわけです。
もしその点について再考するというのであれば、改めてまた、通信の秘密に
事後規制はオーケーなのかとか、それから憲法三十五条の令状の
明示性の問題について、
渥美参考人みずからも、いや問題ありというふうにされているわけですけれども、これについても本当に三十五条をクリアできるような
法案の内容になっているのかということについて、私は依然として強い疑問を持っている。
救済手続も非常に不十分であるという点が否めないというふうに思います。
それから、証人の
保護についても、先ほど法廷に
暴力団員がずらっと並んだら発言しにくくなるというお話がありましたけれども、そういうことを防ぐために、例えばこういう証人の
保護というのは十分対応する
措置として言えるんだろうかということがやや問題でありますし、
法案ではその点の配慮というのは若干めぐらされているわけですけれども、つまり、弁護権の保障ということを一応配慮している形になっていますけれども、それで十分だろうかという点についてやはり慎重に御審議いただきたいというふうに思います。
以上です。(拍手)