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1999-04-28 第145回国会 衆議院 法務委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年四月二十八日(水曜日)     午前九時三十分開議   出席委員    委員長 杉浦 正健君    理事 橘 康太郎君 理事 八代 英太君    理事 山本 幸三君 理事 山本 有二君    理事 坂上 富男君 理事 日野 市朗君    理事 上田  勇君 理事 達増 拓也君       荒井 広幸君    岩永 峯一君       奥野 誠亮君    加藤 卓二君       小杉  隆君    左藤  恵君       菅  義偉君    西田  司君       能勢 和子君    保岡 興治君       渡辺 喜美君    北村 哲男君       佐々木秀典君    福岡 宗也君       細川 律夫君    漆原 良夫君       安倍 基雄君    権藤 恒夫君       木島日出夫君    保坂 展人君  委員外出席者         参考人         (中央大学総合         政策学部教授) 渥美 東洋君         参考人         (國學院大學法         学部教授)   新倉  修君         参考人         (弁護士)   田中  伸君         参考人         (慶應義塾大学         法学部教授)  平良木登規男君         参考人         (大阪市立大学         法学部教授)  高田 昭正君         参考人         (弁護士)   岩村 智文君         法務委員会専門         員       海老原良宗委員の異動 四月二十八日         辞任         補欠選任   加藤 紘一君     岩永 峯一君   河村 建夫君     能勢 和子君   笹川  堯君     荒井 広幸君   枝野 幸男君     細川 律夫君   福岡 宗也君     北村 哲男君 同日         辞任         補欠選任   荒井 広幸君     笹川  堯君   岩永 峯一君     加藤 紘一君   能勢 和子君     河村 建夫君   北村 哲男君     福岡 宗也君   細川 律夫君     枝野 幸男君 四月二十八日  児童買春児童ポルノに係る行為等処罰及び児童保護等に関する法律案参議院提出参法第一四号) 同月二十三日  子供視点からの少年法論議に関する請願石井郁子紹介)(第二七四五号)  同(佐々木憲昭紹介)(第二七四六号)  同(辻元清美君紹介)(第二七四七号)  同(北側一雄紹介)(第二八〇三号)  同(濱田健一紹介)(第二八〇四号)  同(濱田健一紹介)(第二八一一号)  同(松沢成文紹介)(第二八一二号)  同(石毛えい子紹介)(第二八三八号)  同(木島日出夫紹介)(第二八三九号)  同(北村哲男紹介)(第二八四〇号)  同(瀬古由起子紹介)(第二八四一号)  同(辻第一君紹介)(第二八四二号)  同(中西績介紹介)(第二八四三号)  同(原口一博紹介)(第二八四四号)  同(吉井英勝紹介)(第二八四五号)  外国人登録法抜本改正に関する請願平野博文紹介)(第二八〇五号)  裁判所速記官制度を守り、司法充実強化に関する請願佐々木秀典紹介)(第二八三五号)  組織的犯罪対策法制定反対に関する請願木島日出夫紹介)(第二八三六号)  定期借家権制度を創設する借地借家法改正反対に関する請願北村哲男紹介)(第二八三七号) 同月二十八日  テロ事件再発防止に関する請願小川元紹介)(第二九三〇号)  同(堀込征雄紹介)(第三〇二八号)  子供視点からの少年法論議に関する請願石毛えい子紹介)(第二九三一号)  同(藤木洋子紹介)(第二九三二号)  同(土井たか子紹介)(第二九九八号)  同(土井たか子紹介)(第三〇二七号)  裁判所速記官制度を守り、司法充実強化に関する請願坂上富男紹介)(第二九三三号)  同(坂上富男紹介)(第二九九九号)  民法改正による選択的夫婦別制度導入に関する請願草川昭三紹介)(第三〇二六号) は本委員会に付託された。 四月二十七日  少年法改正反対に関する陳情書外七件(第一一八号)  選択的夫婦別姓導入など民法改正に関する陳情書(第一一九号)  除籍簿、除かれた戸籍の附票保存期間の延長に関する陳情書(第一二〇号)  法曹一元制度の実現に関する陳情書(第一二一号)  子供性的搾取・虐待をなくすための立法措置に関する陳情書(第一二二号)  法務局職員増員に関する陳情書(第一二三号)  裁判官増員に関する陳情書(第一二四号)  札幌高等裁判所、旭川・釧路・札幌函館地方裁判所の各裁判官増員に関する陳情書(第一二五号)  福岡地方裁判所福岡高等裁判所裁判官増員に関する陳情書外三件(第一二六号)  組織的犯罪対策法案立法化反対に関する陳情書(第一七八号)  大阪地方裁判所大阪高等裁判所裁判官増員に関する陳情書外一件(第一七九号) は本委員会参考送付された。 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  組織的な犯罪処罰及び犯罪収益規制等に関する法律案内閣提出、第百四十二回国会閣法第九二号)  犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案内閣提出、第百四十二回国会閣法第九三号)  刑事訴訟法の一部を改正する法律案内閣提出、第百四十二回国会閣法第九四号)     午前九時三十分開議      ――――◇―――――
  2. 杉浦正健

    杉浦委員長 これより会議を開きます。  第百四十二回国会内閣提出組織的な犯罪処罰及び犯罪収益規制等に関する法律案犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の三案を一括して議題といたします。  お諮りいたします。  各案につきましては、第百四十二回国会におきまして既に趣旨の説明を聴取いたしておりますので、これを省略するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 杉浦正健

    杉浦委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。     ―――――――――――――  組織的な犯罪処罰及び犯罪収益規制等に関する法律案  犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案  刑事訴訟法の一部を改正する法律案     〔本号末尾に掲載〕     ―――――――――――――
  4. 杉浦正健

    杉浦委員長 本日は、各案審査のため、まず午前の参考人として中央大学総合政策学部教授渥美東洋君、國學院大學法学部教授新倉修君、弁護士田中伸君、以上三名の方々に御出席いただいております。  この際、参考人各位委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。  渥美参考人新倉参考人田中参考人の順に、各十五分程度意見をお述べいただき、その後、委員質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。  それでは、まず渥美参考人お願いいたします。
  5. 渥美東洋

    渥美参考人 既に皆様に、今おしかりを受けましたけれども、わかりにくいレジュメをお渡しいたしました。まず、この三法を制定するに至りました基本的な構想、コンセプトについてお話を申し上げます。  このような考え方世界で動き始めましたのは、ここでも書いてありますように、アメリカジョンソン大統領の偉大な社会構想というものから始まります。その当時から私は世界の動きを見てまいりましたが、それにおくれること約三十数年、四十年、今に至ってもなお、日本は新しい社会へ向かって刑事法をどのように活用するかという道を探し得ていないということに大きなショックを受けます。  まず、各国で考えられてまいりました基本的な構想と申しますのは、かつての刑法ならず者対策であったのに対して、現在では、それらのものまで含めて、富裕や上層、中産階級個人利益を断片的に保護するということだけではなくて、国民全体が安心できる生活を営むことができる基盤をどのように整えるか、そのために刑法刑事法というものはどのような役割を果たすことができるかというところに目が向けられました。むしろ、犯罪の発生した後の摘発というよりも、それに先手を打って対処するような方法各国で選ばれるようになりました。その重要なものには、共同体での警察といいますか、コミュニティーポリシングと言われるようなものがございます。  ところが、その後の、特に冷戦の崩壊後に、経済的な権益を求めて活動する人々犯罪を伴って暗躍するようになりまして、ボーダーレスに活動することが目立ってまいりました。そのため、各国における治安状況は非常に悪いものになりました。そうすると、安心して生きるという基本的な権利皆さん脅かされるわけでございます。そういうものでないところにどうやって我々の社会を誘導するかということを考えなければなりません。  次に、このような継続的、反復的、計画的に行われる諸活動というものを、刑事法ではなく、民事法あるいは行政法で規律すればいいじゃないかというような議論がありますが、民事法領域にありましては、財産法領域では、まず最初に同意を得て、対価を払って次の行為をするというような対処の仕方をしますが、このような対処の仕方、これを財産原則と申しますけれども、これによってこういう事態を収拾することはできません。  第二番目に、実際に行いました活動の後でその損害分を支払う、あるいは租税としてそれを払うというような措置がございます。これを損害賠償あるいは租税引受原則というふうに民事法租税法領域では申しますが、この原則を用いることも、このような反復的、継続的な活動によって劣化され崩壊されてしまった被害者の家族の復活それから地域社会の安全の回復のためには役に立ちません。  したがって、各国では、刑事法制度を用意する、それと同時に他方で、より犯罪が発生しないような安全な社会を築いていくための多くの方策を練っていくことになります。その一つ前提にしかすぎないということになります。  さて、ジョンソン大統領の偉大な社会構想というものを受けて、その後社会不安が高まりました、特にIRAの活動等がございました、あるいは炭鉱労働者争議等がございましたUKにおいて、サッチャー首相が同じような構想を持ち出しました。その後、現在に至るまで、ブレア政権もこのような法制をより積極的に進めていく提案をし、実際にそれを行っております。また、ドイツにおいても、現在、シュレーダー・カンツラーがこのような方向に向かっての立法を進めていくことを考えております。  つまり、個々的な犯罪というものよりも、計画的に練られております犯罪行為をなくすことによって、人々の安心を確保する基盤をつくり上げていく必要が今の社会においては非常に高い、しかも、それは低層、中層の人々にとって非常に高いということに目を向けなければならないと思います。したがって、この法律は、通常人の目の高さで物事を見ているのであって、有産者無産者から財産剥奪を受けるとか攻撃を受けるとかというものを考えに入れた立法ではございません。  次に、したがって、検討がされました歴史は非常に長いので、検討期間が短いのではないかというような新聞報道等がございますけれども、私にとっては極めてショックであります。私がこの問題を扱いましてから既に四十年を経ておりますが、日本は、私がいろいろなことを書きましても、一向に何の反応もしない。報道機関も何の反応もしない。それほど日本治安が安定していると言えるのだろうか、その点を考える必要があると思います。特に、オウムの事件等が発生しまして、そこに巻き込まれた被害者たち生活の状態は大変ですけれども、それについて、皆さん、どれだけの関心を寄せられているか。そのことを思うと、余りにも立法の遅さに、残念で仕方がございません。  さて、三法の特徴でございますが、第一に、この法律団体規制立法ではありません。つまり、破壊活動防止法のような法律ではございません。継続的、反復的に、計画的な、組織的な活動が表に行われて、それが犯罪行為であるというときにだけ処罰をする。したがって、思想とか宗教とか、そういうものをせんさくするものではございません。  これは、アメリカでマッカーシズムの例等を経験したもとで、RICO法と申しますが、御存じだと思いますが、ラケッティア・インフルーエンスト・クラプト・オーガニゼーション・アクトというものがございますけれども、この法律でとりました手法が同じでございます。  さて次に、刑罰加重が選ばれておりますが、全住民の脅威という違法性の強度が非常に高いものでありますから、したがって刑の加重が行われるということになります。  次に、法というのはシステムでございます。したがって、あるところで処置をすれば、あるところに影響を及ぼすという観点から申しまして、新しい制裁として、犯罪収益剥奪というものを導入いたしました。これは、一方で犯罪をペイさせてはいけないということと、もう一つは、そういう方法をとることによって、犯罪活動を将来行うことができず、しかもその組織体質を改善することができ、そこで得られた収益被害者に簡便に回復することができる、こういう考え方に基づくものでございます。  それから次に、今度は、創設された違法度の高い犯罪、これを前提犯罪、プレディケート・オフェンセスと申しますが、この犯罪は実際に行われたら犯罪なのですが、組織的に、密行的に行われた場合には、大きな影響力を及ぼすにもかかわらずその解明ができない、となれば、絵にかいたもちでございます。  このような対処の仕方では、社会の安全を壊しながら、多くの収益を得る寄生虫のような人々をこの世の中からなくすことができない。したがって、現実に行った場合には、それに対する摘発を効果的に行わなければならない。通常方法によっては摘発をしにくい場合が多いので、しかも現在いろいろなサイバースペースが用意されておりますから、それらによって連絡が行われるのを、基本権制限をすることなく、デュープロセスの原則を十分に考慮に入れながら事実の解明を図るという対処がどうしても不可欠でございます。  それから、本三法は、それぞれ対象が違い、内容が違いますので、三つのところに分かれてまいりますけれども、基本的な構想は同じでございます。これはアメリカで行われております、アクトというものを定めた後で、それを分解して各法律に分けていくのと同じやり方の一つでございます。  さて、基本三法の持つ問題点と、それについての私の見解を申し上げます。  刑の加重の問題でございますが、それからまた、組織活動であると見られているのに、個人の犯行に加重をするのはおかしいではないかというような御議論がございます。ところが、これについては、組織体質改善には収益没収権利剥奪を行いますが、組織の頭脳だけとして働く人間、自然人と、手足となって活動する人々、それらが悪質な活動を行う意図を十分に持っている場合には、この犯罪の持っている社会に及ぼす影響度の強さを比較して、加重をするという措置をするのは当然のことであろうと思います。この法律は、組織それ自体を処罰する法律でないことは、先ほど申し上げたとおりでございます。  次に、収益剥奪、凍結と無罪推定の問題でございますが、これは、収益剥奪科刑量刑でございます。量刑領域には無罪推定原則は働きません。それから、捜索押収活動無罪推定原則は働きません。このことは皆さんよく御存じのとおりであります。公判の審理における証明の構造をどう考えるかに関して無罪推定原則というものはあるのです。  さて、ところで、このような活動は、行われたときから実はその者の収益にはならない。その者には法律上の権限が与えられてはならないものです。  よく、不可罰的事後行為ということが言われますが、これは、泥棒などの場合に、物をとって食べてしまったという場合は、それに対して刑罰を科せば、当然その刑罰がその行為までも吸収して評価しているからそういう言葉でたまたま呼ぶだけでありまして、さらに一層の犯罪を行うとか、それによって不当な収益を獲得するというような者を処罰しないで放置していいという考え方は、刑法ができまして以来一度もあったものではございません。そのこともよく御承知だと思います。行為が行われた段階でその者の財産上の権限がなくなるということですから、その段階から押さえておく必要がある。そうしないと、それが分散して、善意の者を通して社会に環流させてしまうことによって、犯罪者が利得を得ることを防がなければならないからでございます。  多くの者が法という制度を守り、社会の秩序を守って生きているのに対して、一部の者だけがこの安全なインフラを壊して利益を得るというのは、無賃乗車活動です。いわゆるフリーライダー活動です。これは、いずれの刑法考え方によりましても、適切な処罰がされてしかるべき犯罪行為であることは明らかでございます。  次に、電子監視問題点について取り上げてみます。  憲法十三条は、公共福祉限定がございます。生きる権利一定の質の生活をする権利というのは、人間のこの世の中で生きる基本的な権利です。したがって、生きる権利を妨害してはならない、殺してはならないというのが基本的な社会義務です。それを放置していいわけはないです。したがって、これが公共福祉の要請にかなうことは明らかであり、その限度で十三条の幸福追求権制限をされる。  これは、幸福追求ということを言いましたいわゆる幸福功利主義人々、ベンタムから始まって現在に至るまで、社会全体の利益を考えるのですから、利益効用をすることによって、ユーティリティー、効用一定限度に高めるために不当な活動制限するという利益効用手法を用いることを当然のことと考え、公共利益を優先させるという考え方功利主義立場がとっているのは、皆さんよく御存じのとおりでございます。  次に、今度は、二十一条との関係ですが、これは、検閲禁止との関係から申しまして、事前の抑制はできないが事後規制はできるのは当然のことであります。したがって、犯罪が発生したということがわかるか、あるいはもうすぐに犯罪が発生しようとしているときに、大きな被害が発生するのを手をこまねいて待つというようなことが許されていいはずはございません。したがって、通信傍受との関係で、事後的な規律を行うことについて問題はないと考えなければなりません。  それから次に、今度は、明示性要求でございますが、この点が非常に問題なんです。  家ですと、あるいは物ですと、それを非常に限定することができますが、これから将来行われる会話というのは、明示すること、限定することが難しゅうございます。そこで、その点についてかなり周到な立法をしなければならない。そこで、傍受期間限定であるとか中間報告であるとかということを講じて対処をしなければならないのです。外国におきましては、通常三十日以上の有効期間がありますが、日本の今度の場合には十日にしましたのは、十日後のときに、中間報告によって次の令状発付の際に限定を加えることができるようにという配慮、つまり中間報告をもっと公然と社会的に明らかにするということでございます。  それから、将来の傍受についての疑問がございますが、捜索押収というのは、その捜索押収が行われたその時点で、要件があるかどうかの同時性が問題になるのでありまして、その点もほぼ問題はないと言わざるを得ません。  さて、マネーロンダリングについてですが、これは、収益剥奪しましても意味がなくなってしまうので、こういうものが定められていることになります。  証人の保護は、こういう生活を営んでいる方々がさらなる第二次的な危険を受けること、犯罪者による第三次的危険を受けること、こういうことを避けるためにどうしても必要であると考えます。  さて、立法をさらに展開していただきたい点を申し上げます。  現在、被害者に帰属するものの没収は行いませんが、被害者帰属財産も国の手で没収していただきたい。そして基金を設けていただきたい。そして簡便に被害者に補償が行き渡るような方法を考えていただきたい。それから、マネーロンダリングは、もっと有効に働くように考慮していただきたい。さらには、収益剥奪限定すべきでなく、国際的な犯罪が広く行われますので、国際共助を十分にしていただきたい。それとマネーロンダリングに関してですが、金の流通関係というものを、やはり疑わしい場合には報告する義務金融機関に与えていただきたい。そういう要望を申し上げて、私の簡単な意見を表明させていただきました。(拍手)
  6. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。短くて恐縮でしたが、質疑の際にまた十分お願いをいたします。  次に、新倉参考人お願いいたします。
  7. 新倉修

    新倉参考人 新倉です。  私は、お手元にレジュメをわかりやすくワープロで打ってきました。しかし、これは包括的なものではなくて、骨子の程度です。  法案は、今、渥美参考人の方から御紹介ありましたように、もともとは一つであったのが三つに分かれたということですけれども、それぞれについて疑問があるということで私はお話ししたいと思います。  この法案は、もともとは、法務省の資料でも明らかなように、アルシュ・サミットでの……(発言する者あり)私はちょっときょう持ってきて、向こうに預けて、コピーをとっていただいて……
  8. 杉浦正健

    杉浦委員長 では、順序を変更させていただいて、先に田中参考人からお願いしたいと思います。どうも恐縮です。  では、田中参考人、よろしくお願いいたします。
  9. 田中伸

    田中参考人 それでは、突然ですけれども、何とかやります。  私は、弁護士立場から意見を述べさせてもらいます。  レジュメをあらかじめ配付していただいておると思いますので、それを参考にしていただきたいと思います。  まず結論的に言いますと、ぜひこの三法案を通していただきたいというのが結論です。  それに至る主だった道筋、考え方ですけれども、一つは、日本においても諸外国と同様に、一般犯罪とは違った組織犯罪法案では組織的犯罪というふうに書かれていますけれども、私は組織犯罪というふうに呼ばせてもらいます。それが日本でももう既に発生している。今後もその発生の可能性がある。組織犯罪というのは、個人及び社会について極めて危険性が大きい。だから、これは一般犯罪とは違って、組織犯罪に対する捜査、検挙、処罰、これについては新たな立法日本で必要なんだということを述べたいと思います。  現在国会に提案されている三法案必要最小限度組織犯罪対策法案であって、実際にはもっと幅広い組織犯罪対策が可能なのでありますけれども、この最低限度のものをぜひ通していただきたい。一部修正がなされても、制定がなされるべきだということです。  私が主張する組織犯罪というのは、以下のような事件です。  一つは、暴力団抗争事件です。この暴力団抗争事件というのは今なお続いているわけですね。現実に、私が住んでいる京都でも、警察官の人が誤認で暴力団員によって殺されたんですよ。そういう事実があります。平成九年には、オリエンタルホテルで歯医者さんが殺されているんですね。そういう事実があります。だから、暴力団抗争事件は終わっていない、これを銘記していただきたいと思います。  また、企業対象暴力事件、企業が何ゆえ暴力団あるいは総会屋、そういう組織に金を出すのか、これを考えていただきたいと思います。  一つは、企業の倫理観が麻痺しているということもあるでしょう。けれども、大きな理由は、やはり犯罪組織というその脅威、これがあるんだろうと思います。この恐ろしさゆえに、企業は多額の金を出している、高島屋にしても、暴力団員にお金を出し続けてきたわけですね。  その次に、薬物、銃器密輸事件、これも考えていただきたいと思うのです。  新聞にも最近出ておりましたけれども、ことし一月、浜田沖で、海上保安庁が何と百キロ押収した。それから、平成十年八月の高知県沖では三百キロ、これは押収はされていませんけれども、三百キロの自供があるわけですね。毎年こういう覚せい剤が密輸されているということはもう明らかだろうと思うのです。  百キロの覚せい剤というのはどのくらいの害悪かということを私考えてみたのですけれども、刑事裁判で問題になるのは、一回の使用量が〇・○五グラムというのが多い方だろうと思うのです。〇・〇三グラムという例もあります。それでいくと、百キロだと、結論的にいいますと二百万回ですよ。一人が一回使ったら、二百万人の人がこの害を受けるわけです。社会が壊されてしまうのです。現実に百キロ挙がったのですよ。これはほんの一部だと思いますよ。私は、もっと多くのものが密輸されていると考える方が素直じゃないか、だから、この対策をどうしてとらないんだということを思います。  それから、オウム真理教事件も言われていますけれども、私は実感します。同僚の弁護士が殺されているのです。私は、職務上やむを得ないという、やむを得ないことはないけれども、職務をやっていたらそういうことはあり得るというふうに思っています。しかし、本人だけでなくて奥さんも子供も殺されたのですね。これはやはり組織犯罪だからできることなんですよ。単なる個人では三人も拉致して殺せないですよ。こういう組織犯罪というのを見過ごすんじゃなくて、日本でも起きているということで取り組まないといけないというふうに私は思います。  この種の犯罪はやはり特色があるわけです。どういう特色かというと、組織により行われるのです、組織のために。それから反復、継続して行われるわけですね。非常に深刻な被害というのを起こすわけです。しかもプロによる犯行で、なかなか摘発しにくい。手口が専門化しているわけです。役割分担して、練りに練ってやってくるわけですからね。オウム事件でも明らかだろうと思いますし、密輸事件でもそうですし、警察官が殺された事件でもそうです。プロの犯行なんです。それで、組織維持のために利益追求行為というのが必ず行われるわけです。そういう特色のある一群の犯罪がある。これを一般犯罪じゃなくして、特別の対策をとって取り締まっていかないと、この日本社会は危うくなる。  私は、実際に暴力団相手に訴訟を起こしたり、交渉したりするときに思うのですけれども、あれだけ無法なことをやっておいて、刑罰が甘過ぎる、それから取り締まりがなかなか摘発されない、これはどういうことだと。私は、法を守る法治国家の一員として、刑罰が緩く、その手段も限られているということだったら、やる気を失ってくるんですよ。だから、こういうことはいけない。やはり秩序を守る、そのためには、きちっとした刑罰を事前に用意して、それで捜査をして、裁判でも、迫害を受けるようなことのない適正な裁判を実現しないといけないと思うのです。  そのために、今回の三法案は、刑罰の準備という意味では、犯罪収益没収について手当てしています。それから隠匿、収受、マネーロンダリングについてもやっております。それから刑の加重ということで、違法性の高いものは重くする。そういうふうに、あらかじめ組織犯罪に対する刑罰を用意しているわけです。  なおかつ、それを捜査をするのに従来の捜査手法ではだめだ、やはり通信傍受という新しい手法を入れないと組織犯罪には切り込めないということで、通信傍受が提案されているわけですね。最後に、裁判で、傍聴席にずらっと暴力団員が並んでいるようなところで発言などできないのですよ、証言などまともにできない。そういう状況を一歩でも改善するために、証人保護ということが提案されている。非常に時宜にかなった必要最小限度の提案がなされているのです。だから、これはぜひ通していただきたい。  それで、次に若干各論で、通信傍受については非常に議論があるので、この点について意見を申し述べたいと思います。  通信傍受は、先ほど言ったように、組織犯罪に対しては非常に有効なのです。なぜなら、捜査というのは犯罪行為から入っていかないとだめなんです。暴力団ということで捕まえられないのですよ。その人の属性で捕まえてはいけないのですね。行為があってそこで初めて捜査が始まっていく。そうすると、行為をした者だけでとまってしまうのですね。組織というのは必ずそこの防御線を張っていますから、末端の者だけが捕まる。幾らやっても摘発できない。  たびたび京都で申しわけないのですけれども、京都府警の人と話をしていても、なかなか組長まで捕まえられないと言うのですよ。それはなぜかというと、犯行の末端の組員がそれ以上しゃべらないのですよ。どうやって捜査するのか、こういう問題があるわけですね。背後まで切り込むためには、必ず首謀者、上部とその行為者の間に意思連絡があるわけです、ここを切り込む。だから通信傍受というのが必要不可欠なのです。  現実に具体例で考えてみても、きょう挙げておきましたけれども、密輸事件、これは現場を特定しないと立件は難しいですね。現場を特定するのは非常に困難なのです。それはやはり海外から来る組織と国内組織とが連絡をとり合っている。それは携帯電話で連絡をとっている場合がある。そうなると、一つでも二つでも挙げることができる可能性があるのですよ。一つ挙がったら百キロですよ、二百万回。そういう可能性があるのです。だからぜひ、銃器とか覚せい剤、そういうものに対して通信傍受を認めないといけない。  それから、暴力団抗争事件でも組同士は頻繁に連絡をとり合うわけです、それぞれの組織同士で。上から指令が来てそれぞれ行くわけですね。京都の警察官が殺された事例でいきますと、警察官の人は後ろから三発けん銃を撃たれているのです。確実に殺すという、訓練されたヒットマンによって殺されているわけですね。そういうヒットマンに上層部が命令しているわけなのですよ。だけれども、上層部は刑事事件でも捕まっていないのですよ。そういうところの問題点があります。だから、こういう危険な組織に切り込むためには通信傍受というのがどうしても要るということです。  それで、通信傍受で得られた証拠というのは人権保障にも資する面がある。これは特色として、非常にクリーンな証拠というふうに言われているのです。というのは、加工のしようがない。ライブで入っているのですよ。警察官が自白を強要したり、そういう余地がないのですよ、生なのだから。だから、冤罪が起きる可能性も防ぐことができる。クリーンな証拠だから、事案をすごく解明できるということがあります。だから、そういう通信傍受で得られた証拠の有用性ということも十分に考えていただきたいと思います。  ただ、通信傍受の場合はいろいろな憲法上の権利との衝突がありますから、それは十分にコントロールしなければいけない。現にこの法案ではコントロール手段が設けられていると思います。それはもう既に論議されているということで、省略します。  時間もなくなってきましたので、最後に、まとめのことを言わせてもらいます。  私が言いたいのは、犯罪組織にはコントロールがきかない、民主的コントロールがきかない、彼らは生の暴力を持っているのです。よく皆さん考えてください。暴力団が、一人けん銃を一丁持っていたら、八万人で八万丁あるんですよ。そんなにないかもしれないけれども、彼らの暴力というのは潜在力はすごいのです。私はだから恐れています。いつやられるかもしれないということを常に警戒しております。暴力は甘く見ません。警察官が二十六万人ですから、二十六万丁対八万丁ということも比喩的に考えれば、いかに暴力団員の数が多く、しかもけん銃が蔓延して、覚せい剤も蔓延しているかということがわかると思うのですけれども、そういうコントロールのきかない組織に対して何も武器なくして立ち向かうのか、捜査機関がそれでいいのか。  私たちは、確かに、表現の自由とか通信の秘密とかプライバシーとかそういう権利を持っています。でも、その権利をみんなの幸せのために一部譲ってそういう犯罪対策をやりましょう、そういう意思でやはり法案をつくっていただきたいというふうに私は思います。そういうことであくまで組織犯罪対策ということを進めていただきたい。それがほかの問題に転化されてはいけない。警察の権限拡大というような問題じゃない。組織犯罪対策をどうするのか、これを皆さん審議していただきたいというふうに思います。  以上で終わります。(拍手)
  10. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  先ほどは失礼しました。新倉参考人お願いいたします。
  11. 新倉修

    新倉参考人 二回しゃべる機会をいただきまして、ありがとうございます。  レジュメが行っていると思います。  先ほどの続きですが、要するに、一つの案が三つ法案になったということですけれども、もともとのゆえんは、一九八九年フランスで行われたアルシュ・サミットでの、国際的な組織犯罪に先進国が協調して取り締まりをやろうということ、それが起因だったわけです。そういう観点から見ていきますと、今回の法案のねらいは一体、そういう国際的な問題を扱っているのかというと、どうもそうではないわけで、では一体何を対象にしているのかという点で、私たち刑法の研究者七、八十人で意見書を出して法制審議会に再考を求めたわけです。  もちろん、今お二人のお話にあるように、犯罪に対する闘争といいますか戦いというのは果敢でなきゃいけませんし、それに対して断固として戦うという姿勢を示すということは非常に大事だと思うんです。しかし、今お二人のお話にあったように、今まで何も手段がなくて、この法案ができれば、非常に最小限であるというお話がありましたけれども、最小限であっても組織犯罪に対してこれで初めて戦いが組めるのだというふうに、もしそういう御印象を今お持ちだとしたら、それは少し違うのじゃないかなという感じがするんです。既に国会ではたくさんの法律が通っておりまして、暴力団対策ということを銘打った法律もありますし、それから基本法としては刑法がもちろんあるわけです。そういうものとの関連で、この新しい法律がなぜ必要なのか、そこをやはり立法府として十分審議していただきたいということなんですね。  それで、いろいろと外国の資料も含めて検討していくと、私がよくわからないのは、この組織犯罪というのは一体何を対象にしているのかというので、国際的な要請と今回出てきた案にかなりギャップがあるのではないかと思うわけです。  この組織的犯罪というのは、これは日本で言われている言い方で、外国では組織犯罪とかビジネスとしての犯罪ということが問題にされているようなのですね。そこでの主なイメージは、国際的な、例えばマフィアですとか非常に大がかりな、あるいは国ぐるみと言っていいかもしれませんけれども、それの麻薬犯罪、これにどういうふうに先進国は対処していったらいいかというお話なのです。  ところが、今回の法案はそういう国際マフィアを対策にしているわけではありませんし、また、国際的な麻薬組織を、国境を越えて日本の政府が何かしようという話では必ずしもないわけです。そういう意味で、専ら国内的な問題としてこれをとらえ直しているという点で、どうしてもやはり対象のギャップというのが出てくるのではないかというわけです。そのギャップというのは、それで果たしていいのか。いいのかというのは、要するに、今までの法律ではどこが不十分なのか、そこが十分明らかになっているのだろうかという点が、私としては疑問に思うわけです。  組織犯罪ということでいいますと、対策として、先ほど最小限とかせめてこの程度というようなお話がありましたけれども、とりわけ大きな改正ではなくて、個人責任を追及するという範囲でやるというふうなお話になっているわけですけれども、組織犯罪個人責任の追及というのは、要するに目的と手段という関係です。それがうまく適合しているのかという感じがします。  また、組織犯罪ということであれば、先ほどお二人のお話にもありましたけれども、まさに組織として行うわけですから、組織に対する直接的な制裁というのをなぜ考えないのだろうかということが大きな疑問として残ってくるわけです。法人処罰を直ちにやれということではございませんけれども、もう少しやり方がいろいろとあるのではないか、その辺の検討が必要なのではないかということが言えます。  また、現行の刑法との関係でいいますと、組織として行われた犯罪は特に重くするということですけれども、その場合、共犯との関係で、現行法のやり方とどこかそごが生じるのではないかという点について十分検討しなければいけないということなのです。  とりわけ、レジュメに書いてありますけれども、組織的な犯罪ということに対して、これを法案はどう定義しているかということなのですけれども、これを読んでみても、直接的にはやはり組織的な犯罪に対する定義というのはないわけで、定義の一として挙げているのは「団体の活動」ですね。「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。」「団体の活動として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたとき」ということが刑を加重する場合の要件として挙げられているわけで、これを少し整理して考えると、組織的犯罪というのはこういうものを指すのかというふうに了解できるわけですけれども、法案全体は、別に刑の加重規定だけではなくて、後に書いてありますけれども、さまざまな手段を盛り込んでおりまして、それぞれ少しずつ対象がずれてくるという感じがするわけです。  さらに言えば、我々は盗聴法と呼んでいますけれども、正式には犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案というのも組織的犯罪に必ずしも限定していないということで、一体この対象を全体としてどうとらえたらいいのかという点について、やはり十分吟味する必要があるのではないかというふうに思います。  それからまた、対策として幾つか挙げられているわけですけれども、重罰化という点でいいますと、確かに重罰化は必要なものがあるのかもしれません。しかし、それも現行の法定刑の枠内で賄えると思えるようなものが多々あるわけで、そういう意味で、重罰化とは一体何を求めているのか。現在の法律ではヒットマンによる殺人は十分処罰されていないというならば、それはどうしてなのか、そこら辺の検討がなければ組織的犯罪として行われたものを重罰化するということを決める十分な理由にはならないのではないかというふうに思うわけです。  さらに、一つ一つ犯罪を重くするだけではなくて、未遂の場合それから予備を場合によっては処罰するということで、これは刑法の言葉で言いますと、法益保護の早期化というふうに言われる現象なのですね。これは未遂を、既に処罰しているもの以外にさらに処罰しようということですけれども、これは要するに、実際に法益侵害が行われる前に処罰が発動する。処罰が発動するということは、同時に警察の捜査も行い得るということになっているわけですけれども、実際、こういう規定が本当に必要なのだろうかという点についても十分検討する必要があるのではないか。  さらに犯人ですね。組織的犯罪にかかわった犯罪者を蔵匿した場合に、それに右に倣えして、加重処罰が行われるわけですけれども、これは要するに、一種の事後的な共犯に対して、対策の網の目を広げよう、こういうことで、あえて言えば、横への拡大という現象だと思います。その場合も、十分気をつけなければいけないのは本犯ですね。実際は、組織的犯罪として行われたものに対する刑罰よりも、その犯人を蔵匿したということによって処罰される刑が重くなってしまう。軽い犯罪をやった犯人をかくまった人は、犯人が処せられる刑よりも重く処罰される。これは我々の普通の平等感といいますかバランス感覚からいうと、やはりちょっと行き過ぎではないかという感じがするわけです。  それから没収も、犯罪組成物件とか供用物件を現行刑法よりもさらに広げて没収できるようにしよう。  これは犯罪収益の問題とも若干絡むわけですけれども、さらに重要なのは、犯罪収益関連行為処罰化ということで、犯罪収益を使って事業等を支配しようとする罪を新たに処罰するとか、あるいは犯罪収益の隠匿行為あるいは収受行為とか、それから国外犯を処罰するとか犯罪収益に関する没収とか追徴、それからここで法人の処罰も可能な両罰規定が出てくるわけです。かなりこれは、先ほど最小限と表現されましたけれども、最小限以上に広がったものになっているわけですね。  これは国際的にも、マネーロンダリングということで、犯罪収益をいかに剥奪するか、剥奪することによって、そういう組織的な犯罪活動を弱めていこうという、そういうねらいを持つものなのですけれども、ただ、気をつけなければいけないのは、正常な経済活動に伴うものとそれとの区分けというのは十分できるのだろうかという疑問がやはり依然としてあるのではないかと思うわけです。  とりわけ混和財産個人の正当に取得した財産と一緒になってしまった場合は、そのものについても没収できる。没収だけではなくて、後で出てきますけれども、没収保全命令ということで、事前に、刑罰の言い渡しがある前に、保全という手続で、持っている人から取り去ることができるという形になっているわけで、これが実際には経済活動を著しく困難にさせてしまう危険性が多々ある。この点をどう考えるのだろうかということです。  それから、疑わしい取引の届け出というのがありますけれども、これについても若干コメントしますと、例えばスイスでは、銀行には届け出ということを課しているわけですけれども、スイスの学者に言わせると、届け出というのは、義務づけするというシステムと、それから銀行の権利という構成の仕方と、二通りあると。スイスでは権利だという形にした。つまり、それは権利行為だということによって、銀行の守秘義務を解除するということになりまして、銀行としては届け出するということを進んで協力できるようになるわけです。  日本では、それを義務づけるというわけですから、もっと強く銀行に協力を求めるという形になるわけですけれども、それが銀行にとってはやや不名誉な扱いを受けるということで協力は得にくくなるんじゃないかということで、スイスではむしろ、義務づけというよりも協力するための権利という扱いにした、そういうような工夫もめぐらした方がいいんじゃないかというふうに思われます。  国際共助というのは、先ほどの国際的な組織犯罪に関連して日本でも協力しようということで、これ自体としてさらに検討する必要があるわけです。というのは、我々が知っている情報は実は法制審議会までの状況で、そこではこの国際共助の問題は必ずしも十分検討されていなかったように思いますし、先ほどの渥美参考人の方もこの規定ではまだ不十分だというような御意見もおありなようなので、この点についても、唐突にここで一気に国際共助のあり方というのをこういう形で決めてしまっていいんだろうかという疑問が残るということです。  それから、これは意外と法制審議会の議論でもなかったと思うんですけれども、資格制限がある。附則の形で拡大しているわけです。つまり、組織的犯罪にかかわった人は一定の資格を当然に法律上奪われるということになっているわけです。フランスでは、例えば資格制限も、司法処分としてオートマチックに資格制限をすることによって社会復帰を著しく困難にすることを防ごう、あるいは場合によっては、資格制限刑罰にかわる処分というふうにして、資格制限をするだけの制裁を科せば十分な場合にも対処しようというような工夫をしているわけです。日本ではその点が相変わらず法律で当然に資格が制限されるという形になっているので、ここも一考を要するのではないかと思われるわけです。  もう時間がないのですけれども、犯罪捜査に関する通信傍受に関しては、渥美参考人とか田中参考人の御意見にもかかわらず、私としては、これが余りにも広範過ぎるのではないか。  それから、通信手続の問題性ということで言えば、やはり憲法の通信の秘密、これは事後規制だからいいんだというふうに渥美参考人はおっしゃっているようですけれども、実際は、法案をごらんになればおわかりのように、これは過去に行われた犯罪に関する証拠を収集するという手続だけではなくて、事前傍受も含めて、かなり広い傍受手続が可能な仕組みになっているわけです。  もしその点について再考するというのであれば、改めてまた、通信の秘密に事後規制はオーケーなのかとか、それから憲法三十五条の令状の明示性の問題について、渥美参考人みずからも、いや問題ありというふうにされているわけですけれども、これについても本当に三十五条をクリアできるような法案の内容になっているのかということについて、私は依然として強い疑問を持っている。  救済手続も非常に不十分であるという点が否めないというふうに思います。  それから、証人の保護についても、先ほど法廷に暴力団員がずらっと並んだら発言しにくくなるというお話がありましたけれども、そういうことを防ぐために、例えばこういう証人の保護というのは十分対応する措置として言えるんだろうかということがやや問題でありますし、法案ではその点の配慮というのは若干めぐらされているわけですけれども、つまり、弁護権の保障ということを一応配慮している形になっていますけれども、それで十分だろうかという点についてやはり慎重に御審議いただきたいというふうに思います。  以上です。(拍手)
  12. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  以上で参考人意見の開陳は終わりました。     ―――――――――――――
  13. 杉浦正健

    杉浦委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山本有二君。
  14. 山本有二

    山本(有)委員 三先生、どうも御苦労さまでございました。大変貴重な御意見をちょうだいいたしまして、感銘を受けました。  私は、自由民主党、そしてこの三法を早期成立させて、早く日本を安心して生活の送れる社会にしたい、日本人に本当に安心の治安を提供したいという責務を感じておる一人でございますが、その観点から御質問させていただきたいと思います。  渥美先生にまず御質問させていただきます。  我々は、憲法三十一条で、すなわちデュープロセス、さらには三十五条で令状主義、あるいは基本的人権をここで守るというような大事な問題を憲法はうたっておって、それを保障しているわけでありますが、そして、そこのところの根本的な思想の中に、一人の無辜をもしあやめるならば、百人の犯罪者を逃してでもその一人の無辜を救えというような基本的な思想があるだろうというように思います。  先生の御意見で、組織犯罪対策治安というものをどんどん推し進めていくと、こういった根本の思想とは少しずれてしまうのではないかというような点も危惧するわけでありますが、この点に関してはいかがでしょうか。
  15. 渥美東洋

    渥美参考人 その点は十分なほど十分な吟味が行われてまいりましたし、今度の法案によりましても、具体的な行為が行われていることが合理的な疑いを入れない程度まで証明されなければいけませんし、継続的、反復的、計画的であることが立証されなければなりませんので、したがって、通常の場合と全く変わりはない。  組織的に行われるということは、今までごく末端の者たちだけの活動が取り上げられて、社会全体がこれほど危なくなっているかということを皆さん実感できなくなっている。その点を表に出そうというだけです。一つ一つ活動について、組織全体をくくってしまおうというんじゃなくて、その行為通常の刑事手続に従って要件ごとに処罰しようということですから、今の御懸念はもっともですが、それについては十分な従来どおりの配慮がされている。行為責任が問題になっているということはそういうことであるというふうに私は思っております。
  16. 山本有二

    山本(有)委員 日本刑法には共犯という規定がございます。必ずしも一人一人が実行行為をしなくても、特に共謀共同正犯説というものに立って、その上で、全く実行行為にかかわらない、しかしその犯罪に対する重い役割を担っている者は、実際判例法上罰することができるというような観点に立ったとき、組織犯罪法を置かなくても、共犯のこの共謀共同正犯論をさらに敷衍して、重要視して判決を下していただくならば、この立法は要らないのではないかというような説もありますが、これに対してはどうですか。
  17. 渥美東洋

    渥美参考人 継続的、反復的、計画的に行われるかどうかという点で根本的な違いがございます。  共謀共同正犯はそれにも何とか対処しようという苦肉の策でございますけれども、単発的に共犯活動が行われる場合、その場合が現行法の予定しているところです。  継続的、反復的、計画的に行われる場合には、社会生活基盤皆さんの生きる生活基盤が根本的に壊されます。それが掘り崩されます。そのインフラの掘り崩しというところに目を向けなければならないという点で、今度問題にしております対象と、それから従来の個別的共犯、スポットの犯罪とは全く性質を異にするというふうに考えております。
  18. 山本有二

    山本(有)委員 刑法犯罪を取り扱う上においては、基本はすべて個人の、人の行為だ。動機があって実行行為があるわけでありますが、それも故意に基づいて、違法性を持って、責任がなければならぬというような、一つずつ個人行為を分析的に考えていくのが刑法の根本思想であります。  そうしましたときに、組織というものの犯罪性を問うということになった場合に、この理論が崩れはしないかというおそれを感じております。この点においては、どう考えますか。
  19. 渥美東洋

    渥美参考人 既にその点は、刑法上のそれ自体が大分変わってきていまして、例えば間接正犯というのは一体どうするんだ、共謀共同正犯というのはどう見るんだという問題に、近代の立てました原則が余りにも絵にかいたもちで当てはまらないということがはっきりしているのです。ですから、近代刑法ができ上がりましたときから、その問題はずっと厄介な問題として取り上げられてまいりました。  今度の場合は、計画的、反復的、継続的に犯罪行為が行われることを一人一人が分担して行いますが、その分担行為それ自体をきちんと立証しますし、それから、背後にある者との連絡があることも立証します。本当の責任者がだれであるか、本当の起因者がだれであるかということを解明しようとするものです。その点で、従来の間接正犯等々でくくってきたものよりは、はるかに処罰をする根拠が明確になりますし、それから加重の理由も、刑を重たくする理由も明確になる。  今までの日本刑法は、余りにも裁判官に刑の幅を多く与え過ぎて、裁量的な処理がされ、国民に、一体なぜこれを我々が危険と見なければならないかという意識を失わさせているという点があることを考えなければいけないと思います。
  20. 山本有二

    山本(有)委員 通信傍受に特化してお伺いいたします。  これは、憲法三十一条、三十五条、デュープロセス及び令状主義、この典型的な原則からすると、やや違ったものじゃないか。すなわち、令状ですから、予告をして、そして特定をしなきゃならぬ。さらに、告知、聴聞の機会を与えるというような考え方でいきますと、会話や通信に対して、当事者に予告した場合、目的の会話や通信は絶対とれない。そのジレンマの中にこの通信傍受があるわけです。  そうしたときに、先生は、三十五条の令状主義の明示性、これをどう解釈されるのか、お聞きいたします。
  21. 渥美東洋

    渥美参考人 これについて歴史的経過がございまして、まず一つは、無体物については、アメリカ合衆国憲法の第四修正、日本の三十五条に関係するものですが、これは適用されない。ほかの国でも、無体物については適用されないというふうに考えましたので、昔は、無体物である会話については、令状規制とかデュープロセスの原則は当てはまらないというふうに考えられてまいりました。  ところが、無体な活動であっても、特に電話の場合、その当時は電話が問題だったわけですが、家の中で話しているのと同じような守秘性と申しますか、そういうものがございますので、したがって、家の中で行われた会話と同じように、有体物の中で、守られるべき人の権利を保障すべきだという考え方が生まれてまいりました。  そうしますと、今先生御指摘のように、今度は、無体物になりますと、犯罪関係ある部分がどこだということを限定することが有体物より難しくなります、難しくなるだけです。有体物の場合にも、やはり場合によれば、その犯罪と関連する一切の資料というふうな形で明らかにしなければならないような場合が、組織犯罪の場合にはございます。そういう場合と比較したときにどうであるかという問題が出てくる。  それを限定するのに、明示するのにいろいろな工夫をしようじゃないかというので、当初、アメリカ人が考えましたものが、一九六八年の法律の中に体現いたしました。  これができる段階から、私はアメリカ人との交渉を一緒にしたことがあるので非常に深く記憶に残っておりますけれども、彼らは大変な工夫をいたしまして、時間の制限犯罪に関する話がされる可能性があるときに限定するとか、あるいは通信、会話の機器に対する限定をするとか、さらには、会話を聞きましたらば、その会話を全部封印してとっておくとか、それから、責任者を明確にするための種々の方策を講ずるとか、種々の考慮が行われることによって、普通の無体物を、昔は放置して憲法上の保護の対象になかったものを、今度は保護の対象に入れていく。と同時に、今度はそれに見合った明示性の保障を十分にしていく、こういう配慮を行っているわけです。何も配慮がなされていないというわけではございません。  難しゅうございますが、今まで経験が既に各国において三十年以上ございますので、それをかりれば十分明示性要求を充足することはできる、私はそう思っております。
  22. 山本有二

    山本(有)委員 ありがとうございました。これで終わります。
  23. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、北村哲男君。
  24. 北村哲男

    北村(哲)委員 民主党の北村でございます。  お三人の先生方、参考人方々、どうも本日は御苦労さまでございます。  民主党は、この三法案についての最終結論はまだ決めておりません。私自身は、個人としてはやや批判的な立場であります。  特に本日は、いわゆるマネーロンダリングの問題について先生方にお伺いしたいと思っておりますが、まず田中参考人渥美参考人の方に、相互にお伺いしたいと思っております。  田中参考人は、お出しになったメモの中で、多少の修正はあってもというふうなお考えを最初と最後に述べておられます、ぜひ成立させてほしいと。私は、先生のお立場である、犯罪は最大の人権侵害であるとか、あるいは渥美先生のおっしゃった、犯罪に対する民主的コントロールはきかない、これは全く至言である、そのとおりだと思っておりますし、その対策自体は必要なんですが、罪刑法定主義という面から、この法案についてやや疑問の目を持っております。  まず、一番最初に申しましたように、田中参考人が、冒頭と最後にレジュメの中で、多少の修正があっても早急に制定されるべきであるということを言っておられます。事実、この法案は提出されたときからもう修正含み。何か修正はないかというお話があったし、出されたときも、自民党もある程度見切り発車しておられるわけですけれども、我々も、ではどこを修正すればどうなるかという点は今模索中であります。あるいは、修正すれば完成するものなのか、修正してもやはり難しいのか。私は、その焦点は、やはり罪刑法定主義の問題も相当大きいと思っております。  その点からですが、田中参考人には、まずマネーロンダリングの問題に限って、修正可能な部分はあるかどうか、まずお伺いしたいと思います。
  25. 田中伸

    田中参考人 マネーロンダリング問題点として、その前提犯罪が多過ぎるのではないか、この点が審議されるべきだろうと思います。  広く犯罪収益没収するという観点からいくと、広いほどいい。しかし、正常な取引、経済活動があるわけですから、その隠匿、収受の前提犯罪のところをどの辺で線を引くか。これは十分御議論いただくべきではないかというふうに考えます。
  26. 北村哲男

    北村(哲)委員 簡単で結構ですが、渥美先生はいかがでございましょうか。
  27. 渥美東洋

    渥美参考人 人々基本的な生活影響を及ぼすようなものが何であるかということを基軸にしてお考えになられる必要があると思います。権益を拡大するとか、あるいは大きな利益を収受する、人々の日常生活上の財産的な生活の基礎というものを大きく危うくするもの、その点では、限定すべきもののほかに、つけ加えていただきたいものもあるのです。  これは、大型詐欺罪と言われますものをどういう形で定めたらいいかという問題になりますが、こういう活動をもっと規律すべきですし、それから、いわゆる市場としてみんなの共通物であるものをおかしく使うことである人々に大きな損害を与える、証券取引法違反とか銀行法違反とか、そういうものに組織的に介在してきて、多くの人々生活が害される場合があります。それらについて、どこまで取り組んでいいのか、どこまで取り込んでいけないのかということを十分御審議賜ればありがたい、そう思います。
  28. 北村哲男

    北村(哲)委員 今の御理解だと、最低限今のままでいいというふうなお考えになるんですかね。
  29. 渥美東洋

    渥美参考人 今のものでも、一つずつ検討されて、それが大きく影響を及ぼすものであるかどうかということを議員の方々の目で御検討願いたいと思います。
  30. 北村哲男

    北村(哲)委員 田中参考人に、引き続いてお伺いしますが、今、前提犯罪限定の話を言われましたが、今までの麻薬特例法では、不法収益については処罰をするという犯罪類型を設けている。いわゆる不法収益等の隠匿と、それから不法収益収受という二つの類型を規定しておるんです。今度の法律ではさらにもう一点、株主の地位を取得して事業支配をするということを入れてあるんですけれども、この犯罪を加えたということについてはどのようにお考えでしょうか。
  31. 田中伸

    田中参考人 ちょっとレジュメにも書きましたように、犯罪収益は競争力が強い、こういう言葉で言っていいかわかりませんけれども。要するに、経費が少ない、なおかつ税金とか社会保険料を払っていないですね。だから、そういうお金が合法企業に向かった場合、これは非常に社会にとって脅威になる。だから、単に隠匿、収受を防ぐだけでなくて、健全な企業に対する投資、そこも規制の目を向けていかなければいけない。  例えば、山口組が一部上場企業株を買い占めたという騒ぎが起きたことがあります。それは、犯罪組織は、摘発を免れるため、合法企業に侵食しようとする傾向があるわけです。だから、企業そのものを支配しようという、そこを押さえておかないと、単に隠匿、収受だけでは十分でない。だから、役員の変更という場合に限って今回企業投資の処罰を設けている、これは必要なことだろう、犯罪組織の非合法から合法企業へ、犯罪組織の得た収益の特性、そういうものを考えて、ぜひ必要な立法だろうと私は思います。
  32. 北村哲男

    北村(哲)委員 確かに、例を出されれば、けしからぬ問題だから処罰をしなくちゃいけないという対象になるかもしれませんけれども、不法収益で株主の地位を取得して、さらにその株主たる地位でもって役員変更するというふうな、非常に長い経過でもって、結論が悪いから、しかも目的罪という形で禁止しているわけですね。それを見てもちょっと、随分経過があって、しかも目的罪という形で、構成要件として非常に幅広いような感じがして、どこで歯どめをするかというのが非常に難しいような感じがします。  私は、今の、不法収受でもって株主の地位を取得する行為とか、あるいは法人等に対する債権を取得する行為とか、あるいは不法収益で法人の株主に対する債権を取得する行為そのものが既にマネーロンダリング、すなわち隠匿罪になるのではないか。そのあたりで押さえれば、それ以降の行為というのは、これはもう無限に広がるわけですから、一つだけ、支配する目的で役員を首にするとか、そういうものの類型を設けてここにつくるということは法律として非常に不自然な気がするんですけれども、そのあたりはいかがなんでしょうか。
  33. 渥美東洋

    渥美参考人 その点は、確かに、最終的な目的まで立証しようとすると、犯罪捜査も大変ですし、実際に働きません。だから、それよりも、個別的な行為を規律して処理する方が有効であるというのはおっしゃるとおりです。アメリカでは、その部分についての規定はありますけれども、ほとんど働いておりません。だから、その分は削ったって、今おっしゃるようなものを処罰するということをおやりになればよろしいと思います。
  34. 北村哲男

    北村(哲)委員 ありがとうございました。まさに、私の説がやっと通ったような感じがします。  もう一つの点ですが、例えば、平成八年に出された警察学論集の十月号、これは渥美先生も大論文をお書きになっているんですけれども、この中で、先生の論文じゃないんですけれども、人見信男さんという、これは警察庁の方なんですけれども、その方が言っておられるのは、組織犯罪が手を出しそうな犯罪類型に拡大すべきであるというふうな言い方をしておられる。その例として、賭博罪とか銃器密売とかのみ行為、これが非常に組織犯罪が手を出して、お金を集めて、さらにそれを使う、そのことにやはりターゲットを絞るべきであるというふうな言い方。  あるいは、浦田さんという方の論文でも、どの行為処罰するかは各国の経済取引の実情に応じて取り締まる必要がある、すなわち、日本型の経済取引はヨーロッパと違うんだというふうな言い方をしておられますよね。そういうふうに見ると、何もかも欧米のシステムの平行移動はよくないと。  今回の法律を見ますと、アメリカ型みたいに、がさっと持ってきておられて、すべてを処罰されるようにしておる。だから、犯罪類型でも、今言うように、むしろ日本組織犯罪がやりそうなもの、そして、日本型のものというふうな形でマネーロンダリング処罰すべきであると言っておられるんですけれども、今回の法律は、まさにアメリカ型をそのまま受けているような気がするんですけれども、そのあたり、いかにお考えですか。
  35. 渥美東洋

    渥美参考人 その点、非常に苦労をするところです。日本型のものと向こうのものと、具体的に違っているからどうするかということになりますと、日浅からずして暴力団が違った方法をとるという場合にどうなるだろうかということがございます。ただ、警察の活動としては、日本特有なものというものにマニュアルをつくって限定をしていく、そういうことはぜひとも必要です。  ですから、捜査規範等々をつくったり、内部のマニュアルをどういうふうにするかというのは、各国の実情に合わせて処理をすべきだという警察担当者の言われることはよくわかります。しかし、それを個別的に細かく定めるということになると、これは非常に苦労をいたします。それだけ申し上げます。
  36. 北村哲男

    北村(哲)委員 アルシュ・サミットのもとに設けられているFATF、金融活動作業部会の勧告では、九〇年では、四十項目の勧告の中で、前提犯罪を麻薬犯罪から重大犯罪に拡大するというふうに言っているんですけれども、特に、それを麻薬犯罪に関連する重大犯罪というふうに九〇年では言っておって、しかも、九六年かなんかにその改正の勧告が出されて、そういう限定なしに一般のというふうにやるという、そういうふうに解釈していいと思うんですけれども、しかし、それだからといって、日本では、やはり麻薬特例法では麻薬に特定した。  そして、日本犯罪類型、いろいろな犯罪の形を見てみても、先ほどの田中先生なんかの例を見られても、やはり一定犯罪類型に限定を加えて、そして徐々に拡大していくという方が、罪刑法定主義、あるいは、そのほかの一般に広げることによる問題点を克服できるというか、問題を出さないような気がするんですけれども、その辺は田中先生はどのようにお考えでしょう。
  37. 田中伸

    田中参考人 私自身は、やはり数を減らして、まず、大方の合意が得られるもの、麻薬とか銃器とか、そういうものから徐々にやっていくという考え方に賛成しております。だから、網羅的に最初にたくさんやるというのは、捜査機関のなれといいますか、運用をなかなかし切れないだろうと思うので、やはり最初は限定して出発した方がいいというふうに考えています。
  38. 北村哲男

    北村(哲)委員 私も非常に同感なんですけれども、田中参考人、例えばそれはどういうものですか。私が先ほど、銃器、賭博、のみ行為、それから、もちろん麻薬はそうですけれども、あと、どういうふうなものが考えられますか。
  39. 田中伸

    田中参考人 暴力団の資金源になっているもの、典型的なものであと考えられるのは、外国人の密入国です。これはすごく利益が上がっているんじゃないかというふうに推測されています。だから、暴力団員がかかわっていそうなもので利益を生じるもの、これに注目して考えてみればいいのではないかというふうに考えています。
  40. 北村哲男

    北村(哲)委員 ちょっと別項に移りますが、第五章に「疑わしい取引の届出」という規定がございます。先ほどもお話になりました。しかし、これについては、その実効性が極めて少ないとの報告があります。  しかも、先ほどの警察学論集を見ますと、これは若干古い、二年前のものですけれども、麻薬取締法におけるその報告というのは、施行されてから三年間のうち、たった一件という報告もあります。その後は多少あるようですけれども。それから、銀行の実務からいっても、建前は理解できるけれども、金融機関が個々的取引についての判断を求められてもとてもできない相談だというふうに言われて、すなわち実効性が非常に薄いんだということが一つあります。  もう一点では、やはり個人のプライバシーの問題。非常に幅を広げれば広げるほど、自分の財産がどこかに通報されているという個人の心配と、取引の安全という問題があります。  特に私が指摘したいのは、ことしの三月二十五日の産経の夕刊で、アメリカが通報義務化を撤回、資金洗浄、市民及び業界の反発を受けてという大きな記事が載っております。「米金融当局は、その防止策の一環として進めてきた金融機関に資金洗浄の疑いのある取引の通報を義務付ける計画を撤回した。」すなわち「「プライバシーを侵害する」との人権団体や金融業界の猛反発に遭ったもので、国際的な取り締まりの流れに影響しそうだ。」云々。そして最後に、しかも、金融界では「「銀行にとって新たな負担が生じる上、顧客の信頼も損なう恐れがある」と導入に反対してきた。」経過がある。この結果、ことし「六月にドイツで開かれるケルン・サミットでは、再び対策の見直しを迫られる可能性が出てきた。」という論評が載っておりますけれども、大体、この疑わしい取引の規定というのは、そもそもいろいろな問題があるようです。  一つ言うと、法制審議会を通らずに、大蔵省あたりの要請からきた、いわゆる行政監督的な立場から規定されたものであるから、刑事法としてはおかしいのではないかとか、あるいは、刑罰が全然規定していない、何かおかしいのではないかとか。しかし、刑罰規定がないにしても、性格からいうと、もし、これを黙って見過ごしたら、これはマネーロンダリングの共犯なわけですから、行く行くは、立法化されれば、これは犯罪から出てきたお金だと思っても、金融機関が当局に黙っていたら当然共犯になりますから、これは銀行にとっても大変な問題だと思うのです。  そういう性格のものを、処罰もなしにぽんと、行政取り締まり的な届け出義務として規定することの問題と、それから、今の業界と市民団体との反発とか、それについてはどのような御意見をお持ちでしょうか。
  41. 渥美東洋

    渥美参考人 そこで、それに対応する方法としては、極端な二つの方法、やり方がございます。  一つは、一定金額のもの、それについての報告をさせるということです。それ全部を集めまして、それが同じところから出所しているかどうかということを明らかにする。それから、もう一つは、資金の流れを明らかにして、集まっていくところが同一であるかどうかについての報告を一定金額についてさせる。こうなりますと、ニュートラルに処理できます。  それから、もう一つは、明らかに犯罪だと思われるようなものについて、それを無差別的に無視して処理をする銀行の活動、この活動処罰する。  この二つの方法対処すれば、そう問題は多くなく対処できるんだと思います。前者については行政上の処理だけ、後ろについては刑罰つきの処理をするというやり方がございます。恐らくケルンでもそういう提案が出てくるんだと思いますが、ただ、途中の中間的な金融機関についてどうするかというのは、これは大変な難しさがございます。  だけれども、実際に、資金洗浄を行うことによって国際的に覇権を握るような、我々がコントロールできない、そういう大きなやみの集団がある。それが政治も動かすし、経済も動かす、それから日本経済に対してヒットするというような現実がございますので、それらは十分御参酌の上で御検討を願えればと思います。
  42. 北村哲男

    北村(哲)委員 そこは、考えれば考えるほど難しい問題だと思います。  最後に、新倉先生、先ほど、スイス銀行がこれを権利としてとらえるとか、あるいは義務化というお話がありましたけれども、これに関連して、今のアメリカ措置とか、それから銀行は、果たして銀行に対するこの「疑わしい取引の届出」ということがどういうふうな意味合いを持つかについて、もし御意見があればいただきたいと思います。
  43. 新倉修

    新倉参考人 要するに、犯罪といかにともに戦うかということをどうつくるかという問題だと思うのです。  義務化というのは、非常にある意味では安易にできるわけですけれども、実際、その義務をちゃんと履行しているかどうかというのはどうやってチェックするんだという問題は常に出てくるわけですよ。  そういう点で、だから、単に義務化すればいいという問題じゃなくて、やはり銀行が、先ほどの渥美参考人の御意見ですと、コミュニティーの一員であって、社会の安全について自分たちも責任があるんだという立場を自覚するようなことを仕組みとして設けないと、うまくいかないんじゃないかと思うのです。  そういった意味では、スイスのやり方は必ずしも万全ということじゃありませんけれども、スイスには長い守秘義務の伝統がありますから、それから少なくとも解除してやるというのは、スイスにとっては非常にいいやり方ですし、それから、名誉を重んじるスイスの銀行としては、権利行為としてこれをやるんだということでうまくいっているというふうに聞いていますけれども、日本ではまたいろいろな事情がございますでしょうから、いろいろと検討した方がいいと思いますけれども、やはり情報の公開とか、そういうものと含めてやっていかないとうまくいかないと思います。
  44. 北村哲男

    北村(哲)委員 もう時間もありませんが、田中参考人に。  情を知って犯罪収益を受け取った者は収受罪に当たるわけですが、弁護士会なんかの資料を見ますと、弁護士は大体犯罪人を相手にしていますね。弁護料を取ったらこれが適用されるんじゃないか。  ちょっと調べてみたら、アメリカなんかはまさにそのためにこれをつくったような感じで、アメリカには組織のブレーンとなっている弁護士とか会計士がいる、その検挙のために非常にこの法律が役に立っているという報告があります。  でも、翻って日本を見ますと、ずばりと言いますか、例えば、例としていいかどうかわかりませんが、和歌山の保険金詐欺事件がありました。強烈な弁護団が捜査陣と対抗しました。しかし、千何百万円という弁護料を先にもらっているという報告もありましたね。どう見ても、これは保険金詐欺から出てきた金だとしか思えないのです。そうすると、それを押さえちゃえば、まず弁護活動はばかっとできなくなりますよね、すぐに。それについてはどのようなお考えでしょうか。
  45. 田中伸

    田中参考人 弁護士の職業利益を代弁するわけではありませんが、確定的に犯罪収益ということを知っていないとだめだというふうに私は理解しています。だから、単に疑わしいというだけでは犯罪収益の収受罪に当たらない。アメリカ弁護士にも私はその点聞いたことがあるのですけれども、弁護料は先払いで必ずもらいなさい、後になると犯罪収益だということがはっきりしてくる場合がある、そうなると後でもらうのはやはり故意がある、ところが先にもらっている場合はわかりませんという。そういうことで、私は、構成要件的に犯罪収益だということを知っていないとだめだ、そこで当たらないんじゃないかというふうに理解しております。
  46. 北村哲男

    北村(哲)委員 これは何も弁護士に限らず、一般的な収受罪はすべてそうだというふうにお聞きしてよろしいわけですね。わかりました。  終わります。
  47. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、上田勇君。
  48. 上田勇

    ○上田(勇)委員 公明党・改革クラブの上田勇でございます。  きょうは、三先生方にはお忙しいところ御出席いただきまして、大変貴重な御意見をちょうだいすることができまして、まことにありがとうございます。三名の先生方のお話を伺いまして、それぞれ見方に対する程度の差はあるものの、基本的な視点ではかなり共通している部分が多いのではないかというふうに感じた次第です。  一つは、三先生方とも暴力団等の犯罪組織による今の社会への脅威というのは非常に深刻になっているという理解は共通されております。その対策がまた必要になっているということは共通されていたというふうに理解いたしました。また一方、この対策が行き過ぎる余り、通信傍受などでよく問題になっておりますけれども、直接そういう犯罪組織にかかわりのないところまで権利の侵害があってはならないといったところについても、ほぼ同じようなお話だったというふうに理解しております。  もちろん、それの両方のバランスというのでしょうか、程度については若干の意見の食い違いがあったがゆえに、今回の提出されている法案についての評価も分かれていたのではないかというふうに思います。私どもも、今申し上げました二点について、そのバランスがどうあるべきかといった点が今党内での議論の焦点になっておるわけであります。  そこで、今伺いましたお話の中から、それぞれの先生方にちょっと御質問させていただきます。  まず、新倉先生にぜひお伺いしたいのですが、先生のお話の中で、今回、法案導入されます通信傍受捜査手法について、その対象が余りに広過ぎるというお話がございました。そこで、その対象といっても、それはいろいろなものがあると思うのですね。傍受の対象になる人の犯罪組織との関係性の問題であるとか、もちろん対象犯罪の問題であるとかいろいろな手続の問題であるとか、そういったいろいろな点があると思うのですが、先生のお考えからして、この通信傍受の対象、余りに広過ぎるということでありましたけれども、どの範囲ならば認められるというふうにお考えなのか、ちょっとその辺をお聞かせいただければと思います。
  49. 新倉修

    新倉参考人 大変際どい御質問で答えに窮しますけれども、私が申し上げたかったのは、つまり、対象犯罪をどうとるかということも確かにありますけれども、そもそもは、通信の傍受ということは、渥美参考人のお話にもありましたけれども、事前に対象となる通話を特定するのは非常に困難だということなのですね。だから、捜査する側からすれば、何でもできるというふうにしてもらいたいという気持ちはすごく強いということはよくわかるのですよ。何でも聞ける、その中で好きなものを証拠として使える、こんなすばらしいことはないということにもなるわけですね。  現に、アメリカではかなりの広いことがやられて、そのために大変膨大なお金をつぎ込んでいるわけですよ。ところが、実際その効果としてどうかというと、実際法廷でうまく使えるのは非常に限られている。  そういう点で、フリーハンドを与えて費用をかけて効果が上がるかという点から考えても、そこはやはり難しい問題があるのではないかという感じがしますし、それから、通信機の特定というだけでは済まないわけで、通話者の特定も必要だということになると、氏名が不詳な人との通話ということにも及ばざるを得ないわけですし、その中には当然、普通の人といいますか犯罪とは関係ない人が含まれている可能性が多々あるわけですね。  実際に、札幌地裁であった件については、傍受された通話のうちほとんどは恋人との会話であった、それほど関係ない会話が捕捉されてしまうということですね。つまり、プライバシーをそういう形でこっそりと侵害されるといったことに対する不快感、これをぬぐい去るのはやはり非常に難しいのではないか。だから、これはやはり対象になる犯罪限定すれば解決するということではないのではないかというふうに思うのですね。  さらに言えば、先ほどの繰り返しになりますけれども、法案では、直接過去に起こった犯罪について関係のある通話の傍受だけではなくて、この通話は傍受するに値するかどうかということを調べるための傍受とか、たまたま聞いているうちにほかの重大な事件の証拠となるような発言があったというような場合でも続けて傍受ができるとか、これはやはりどんどん広がるわけで、広がるというのはまさに、効果を求める捜査のあり方といいますか、あるいは通信傍受という捜査手段そのものの持っている宿命じゃないかと思うのですね。だから、それをいかに限定するかというのは、はっきり申し上げて、私の立場からは困難と言わざるを得ないわけです。
  50. 上田勇

    ○上田(勇)委員 次に、田中先生にお伺いいたします。  田中先生のこれまで暴力団事件に対する取り組みというのは、お話を伺いまして非常に敬意を表するものでありますが、今回の法案の中で、いろいろな慎重論の立場からのお話の中では、一つは、例えば通信傍受などについては必ずしも犯罪組織による行為であるというところまでは特定されていない。例えば暴力団対策法みたいな形での明らかに犯罪組織であるといったことまで特定をせずに、数人の共謀というような要件になっているわけでありますけれども、例えばこれを暴力団対策法のようなもっと明確にした形での対象を絞るということになった場合に、現在いろいろ取り組まれているような暴力団関係事件だとか犯罪組織関係事件に対して有効性が失われるのかどうか、その辺は御意見があればちょっと伺いたいというふうに思います。
  51. 田中伸

    田中参考人 この通信傍受の場合は、私は十分限定されているというふうに考えております。というのは、一つは対象犯罪限定されている、それから罪が犯されたと疑うに足る十分な理由、それからほかの方法では著しく困難だという補充性の要件、そういう実体的な要件もありますし、それから手続的にも、捜査機関に封印だとか提出だとか報告だとか、そういうことが事細かに規定されています。だから、広がるとは私は考えておりません。  それで、あと暴力団対策法との関連で、行為でなくて、行為者で通信傍受限定してはどうか、そういう御議論もあろうかと思いますけれども、近代刑法原則行為主義、何人であろうと犯罪に触れる行為をした者を捕らえていく、ここの大原則を崩してはいけないと思うんです。  暴力団対策法は行政法なんですね。まだ犯罪が行われてもいないものに対して行政的に中止命令をかける、それに対して、中止命令に違反した者に対して罰則を加える、そういう二重の構造になっているわけです。だから、これは刑罰法規ではないわけですね。  犯罪組織かどうか明らかになったものだけ通信傍受しなさい、そういうことではいけないんじゃないか。人によって決めてはいけない。つまり、暴力団であっても、こういう通信傍受の今の要件に該当しないような通信をしている場合がありますね。暴力団だから何でもかんでも聞いていい、それは乱暴な議論だろうと思います。  だから、そういう方向で考えるんじゃなくて、あくまでもその行為者がどのような行為をしているか、またそれが疑うに足る理由があるのか、他の捜査方法でできないのか、そういう要件を吟味していって決める。だから、今のこの提案されている通信傍受法のやり方が正しいというふうに私は考えております。
  52. 上田勇

    ○上田(勇)委員 あと、済みません、渥美先生にお伺いをさせていただきます。  今回、この法案を勉強するに当たりまして、いろいろ過去の文献等読ませていただきました。先生は本当に、先ほどおっしゃったように、私の手元に九二年六月の論文があるんですが、そういう意味では、もう長くこの問題については検討してきたということは、全くおっしゃるとおりで、全く敬服する次第でございます。  今私のところにコピーをいただいた論文の中でも、先生が通信傍受について、憲法二十一条、三十五条あるいは電気通信事業法などいろいろな角度から分析されていて、結論として、通信傍受法律上認められるけれども、おのずとそれについては厳しい条件が課せられ、実施に当たっても制約が加えられるんだという結論になっているわけであります。  先ほど伺いましたお話の中で、今回の法案についてはその辺は十分措置がされているという御意見だったというふうに思います。もちろん条件も細かく定められておりますし、あるいは不当に行われた場合についての抗告等の措置もとられているんですが、ただ、ここで、私、実際的な問題を考えるときに、もちろんこの法律上は権利侵害に対して十分な措置を講じられているという御意見だと思うんですが、実際に一般の市民が捜査当局によってそういった権利侵害を受けた場合に、法律で定められていたとしても、なかなか実際にはそれは対抗できなくて、時間もかかるしお金もかかる、弁護士さんも頼まなきゃいけないという中で、法律上はそういう対抗措置が定められていても、結果的には泣き寝入りになってしまうというようなこともあるのではないかというふうに思うんです。  ちょっと抽象的な言い方で申しわけないんですが、その辺まで含めて、それは法律で十分保障されているのか、あるいは、そういったことについて捜査当局としてどういった点を留意すればいいのか、それについて御意見を伺えればと思います。
  53. 渥美東洋

    渥美参考人 非常に細かい問題についてどう対処するかということですが、これは、最初行った行為が適法であるということを明らかにすること、それから、違法な活動が行われた場合に、その者の責任が追及できるようにすること、それから、自分が何を聞かれたかということを事後になってはっきりわかるようにすること、この三つ基本的に大切です。  これらについて、この法律で定められたもののほかに、ほかの国で行われていますように、それぞれの法執行機関がかなり詳細なマニュアルを作成します。そのマニュアルと、各省庁で検討したものが、こういう、ほかの国では国会に相当するところの委員会で審議をされるというようなことが行われます。日本ですと、法律法律、あとはこれというので分けてしまいますけれども、いろいろな御工夫をなされればよろしいと思います。マニュアルの作成に至るまでは、具体的事例がないにもかかわらず、知らないにもかかわらず細かくつくってしまうということは無理ですから、それらについての措置を講ずること、これが大事だろうと思います。御工夫をぜひ願いたい。  それからもう一つ問題は、被害を受けた者に対する通知ですけれども、これは封印をすることによって、聞かれたと思われる者はいつでもそれを申し出ることができ、それについて情報の自由を認めて、それに対して接近することを、ある一定の要件があれば求めることができる手続を定めるべきだろうと思います。  さらには、一定の疑いが内部で起こってまいります場合、好みのためにそれを聞いているとかなんとかということがある場合に、それらに対する内部的な規律を十分行うような制度を設けなければならない。そのために、請求者とそれから上司との間の関係が明確になっておりますが、事後的にそれをどうするかということについても各国の例を見ながら配慮する必要があると思います。  いずれにせよ、いろいろな工夫が具体的事例についてはございますけれども、それを法案として出したものと、それから実際にマニュアルとしてつくり上げるものとの間に違いがあっていいと思います。最高裁判所は、あるいは裁判所はこれを判断して、法律に書いてあるけれどもそれの限界を超えているという場合には適用違憲の判断を下せばいいんですから。裁判所に御努力いただければ処理ができますので、それを、現在想定できる範囲に限定して法律をつくるというのは少し早計であろう。いろいろな方法を考えられるとよろしいと私は思っております。
  54. 上田勇

    ○上田(勇)委員 時間が参りましたのでこれで終わります。ありがとうございました。
  55. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、達増拓也君。
  56. 達増拓也

    達増委員 自由党の達増拓也でございます。  まず、田中参考人に質問させていただきたいと思います。  この組織犯罪関連法案の中でも最も重要なポイントが通信傍受だと思いますけれども、その通信傍受につきまして、田中参考人暴力団対策にとってはもうこれは必要不可欠であるということで、末端の行為者と組長との、上層部との連絡の把握でありますとか組同士の連絡、また密輸の現場特定等、そういう必要不可欠である理由を述べられました。  暴力団関係のそういう通信、連絡がどの程度行われているのか、今現在そういうのを包括的に通信傍受をしてないわけですので、警察あるいは政府の方でそこを正確に把握することは、これはだれにも今できない状態なわけでありますけれども、先ほどの麻薬の取引の量ですとか銃の既に入っている数字等を聞くと、そういう組織犯罪にまつわる通信というのは実際にかなり行われているようでもある。そういうところを、現場の感覚と申しましょうか、実際いろいろ取り組んでみて、どのぐらいそういうことが広く行われていると感じていらっしゃいますか。
  57. 田中伸

    田中参考人 私は民間人でありまして、捜査機関ではないので詳しいことはわかりません。だから、正確なことは申し上げられませんが、ただ、民暴対策で警察の人と懇談する機会がありまして、そこで警察官の捜査の苦労というのを聞いたことがあります。  それで、密輸事件は特にそうだ。必ず密輸の場合は国内の組織も動く、それから外国組織も動く。しかも、百キロというようなことでしたら多額の金を動かすわけですね。そうすると、国内で必ず動きが生ずる。そうすると、警察としてはそこを察知して、検挙しようというふうに警察も動きを開始する。ところが、できないのは現場を押さえられない、こういうお話なんです。  なぜ現場を押さえられないのかというと、国内組織の方もダミーを使って幾つか地点をごまかすというか、巧みにすり抜けるわけですね。それを携帯電話で連絡をとり合っている例がある。そうすると、彼らはそれでピンポイント、この地点というふうにできるのですけれども、警察の方は特定できないがために、せっかく国内の動きをつかみながら逃してしまう例がある。だからすべてできるというふうに私は申し上げるつもりはないのですけれども、そういう例があるなら、それ一つでも挙げたら百キロ挙がるかもしれないのですね、そうしたら二百万回助かると。私はそういう具体的な数値は持ち合わせておりませんけれども、そういう例があるということを聞いております。
  58. 達増拓也

    達増委員 組織犯罪は、本質的にその行為者や指示者との間での連絡がある、そうした連絡の部分を押さえなければ組織犯罪の全貌がつかめないということで、まさに通信傍受が不可欠ということになると思うのです。他方、通信傍受、実際やると、その組織犯罪には無関係な通信、プライベートなものを多く傍受してしまうという指摘もなされておりますけれども、引き続き田中参考人に伺いたいと思いますが、その指摘についてはどのようにお考えでしょうか。
  59. 田中伸

    田中参考人 もちろん、それは十分に考慮しなければいけないことだろうと思います。だから、法案で、プライバシーとか通信の秘密とか表現の自由とか、そこに極力配慮するというのはだれしも認めるところだろうと思います。  では、プライバシーに反するから一切いけないかというと、そういうことではない。必要最小限度でやりなさいということが必要なので、例えばアメリカでも、八割は無関係な通信で、二割が犯罪関係する通信だというようなワイヤータップ・レポートがあります。だから、無関係な会話が聞かれるということはあるのだろうと思います。  しかし、ここで皆さん考えていただきたいのは、通信傍受は何でもかんでも認められていないのですよ。前提犯罪が極めて限定されている。つまり、生命、身体、安全、それから社会全体の利益、そういう点で罪名がごく限定されている。しかも、十分な理由がないとだめなわけですね。  だから、そういう意味で、非常に限定した場合に、プライバシーを侵害することが、それはあるでしょう。だけれども、そういう場合は、法は、やはり生命を救うんだ、社会の安全を救うんだ、百キロの覚せい剤を防ぐんだ、そういうところで――私も、プライバシーを侵害されたら嫌だと思います。自分の個人的な会話を聞かれたら困ると思うけれども、そういう非常に危機的なことが問題になっている犯罪捜査の場合は、その場合は譲るべきだというふうに整理をすべきだと考えます。一〇〇%防ぐ法律はできないだろう、しかし、極力プライバシーの侵害等を最小化することはできる、そういうふうに努力していくべきだと考えます。
  60. 達増拓也

    達増委員 究極的に、個人の生命を守るために、他の個人のプライバシーについてある程度犠牲にする、そうしたことを社会的コンセンサスとして持ちながら、社会全体として組織犯罪と戦う。  それで、渥美参考人に質問いたしますけれども、そうした社会的な合意のもとに政治決断をして取り組んでいる例が、イギリス、ドイツについておっしゃられました。イギリスもドイツも労働運動の発祥の地であり、かつメッカであり、労働争議の歴史も深い。そういう意味で、そういった立場からはかなりの反対もあってしかるべきですけれども、現在の社会民主主義路線の政権が非常に強力にこの組織犯罪防止についてコミットしている。その政治的な背景、社会的背景についてもう少し伺いたいと思います。
  61. 渥美東洋

    渥美参考人 その点、非常に重要なところです。かつては、ならず者対策が警察の対策であり、刑法の対策だったのです。ところが今は、みんなが安心して社会生活を営めるかどうかということが一番重要な点になってきたのです。政府がその役割を果たさなかったら、一体だれが果たすんだという関心が非常に強くわいてまいりました。  もう一言申しますと、生きる権利、殺してはいけない義務というのですか、生きる権利というのは、今、多くの法哲学者によって、切り札となる権利と言われます。利益衡量される権利じゃないのです。これが示されたらほかのものはもうとまらなければならないというほど重要な権利であると言われます。  労働党の人々や中道左派の人々が考えられましたのは、まさに今、安心した生活を営めるようなところまで来た人々、それらの人々の無知につけ込んで、あるいはその人の中に入り込んで、その人たちを一定の過激な活動に引っ張り込むとか、あるいは財産を奪ってしまうとか、そういう活動が非常に広く行われるようになってきたからです。それらの人の立場を代表すれば、中道左派の人々、労働組合を背景に抱えておられる方々は、その人たちの一定の質の権利の保障が必要だ。健康で文化的な生活を保障するのには、最低限度犯罪からの、生活を壊されない権利を保障する必要があるというコンセンサスが生まれてきたのです。  これは哲学的に考えてみても、ほかのものと比較考量すれば何とかできるものと、それから、人間が自分の生活を奪われてしまったらばそれ以上何も残らないというものとの間に区別があるのが当然で、それを法哲学者の多くは切り札になる権利と呼んでおります。  そのような安心した社会というものをつくり上げて、その上でみんなが自分のいろいろな主張を十分展開できる、そうすれば自由はより豊かなものになる、こういう考え方が今、中道左派の人々によっても強く支持されるようになった理由であると私は聞いております。
  62. 達増拓也

    達増委員 以上で私の質問を終わります。ありがとうございました。
  63. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、木島日出夫君。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
  64. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。三人の先生、ありがとうございます。最初に、三人の参考人皆さんに同じ質問をしたいと思います。  私も、暴力団抗争や銃器、麻薬、あるいはオウムの事件などに見られるように、組織犯罪が今日の我が国社会において放置できない重大な問題になっているということは、そのとおりだと思います。  問題の核心の一つは、そのための対策、手段、方法が本当に妥当であるかどうかだ、有効であるかどうかだということだと思います。とりわけ通信傍受、盗聴とも言われますが、この方法捜査機関に与えることが、現代社会のもう一つの大きな基本的な価値である私生活の自由、プライバシー、この保護との関係で妥当かどうかだということだと思うのです。突き詰めますと、警察、捜査当局によって、市井、市民生活が監視される社会になるおそれがこれによって出てくるのではないかという問題の詳細な吟味が必要だということではないかというふうに思います。  そこで、渥美先生からは明示性の問題とも言われました、田中先生からはアメリカの話もありましたが、私も、最近、アメリカの自由人権協会副理事長のバリー・スタインハードさんの講演を直接お聞きいたしました。  細かいことははしょりますが、犯罪に関連ある傍受すべき通信と、犯罪に関連ない傍受すべきでない通信との区分けが基本的には不可能だという、通信の本質にかかわる問題が提起されました。そして、アメリカ政府のデータでは、田中先生からもお話がありましたが、犯罪関連通信の数は、一九八四年から一九九四年までの十年の間に、二五%から一七%に減少した、一九七〇年代初めには五〇%であったと。彼は、六軒に四軒が犯罪関係がない傍受をされている、私生活が盗まれていると。彼は、最後の締めくくりとして、私は、日本が、我が合衆国の轍を踏まないことを切に希望します、こう結ばれたわけであります。  この基本問題についての、三先生の基本的見解と認識をお聞きしたい。
  65. 渥美東洋

    渥美参考人 お答えします。  その問題が一番重要なことです。  他方、今、木島先生もおっしゃいましたように、それでは善良な市民が暴力団あるいは組織犯罪のえじきになってよろしいかというと、そうじゃありません。  そこで、先ほど申し上げましたように、生きる権利との関係で問題を考えなきゃなりませんが、アメリカがそうなりました理由の一つというのは、マフィアがほとんど動けなくなってしまった。そこで、最近入ってくる情報が、マフィアに関係しないもの、つまり犯罪関係しないものが多くなってきたということを、私は直接この問題を扱っておりますスミスという女性の検事から聞きました。  それで、確かにおっしゃるような点がございますので、かなり謙抑的に運用さるべきであることは当然です。したがって、その電話によって犯罪的な会話が行われる蓋然性が高いかどうかについて、裁判所による十分慎重な事前の審査を行わなきゃならないし、それから、行った結果を十分封印して残しておくべきだ、それで、責任追及された場合にはそれを明らかにすることができるような措置を設けておくべきだというふうに思っております。
  66. 新倉修

    新倉参考人 状況の認識については、多分、今の渥美参考人と私も同じように考えたいと思いますけれども、先ほど、関係ない通話が八割、関係のある通話二割、これでも我慢できるというような御発言もありましたけれども、要するに、どこでみんなは我慢ができるかということについては本当に合意はできるんだろうか、そこがやはり一番肝心じゃないかなというふうに思います。  それから、盗聴というのは事前には限定できないわけですし、令状という手続を踏むことによって辛うじて、裁判官にそこはきちっとチェックしてもらおうという仕組みになっていますけれども、現状で裁判官にそういう重い仕事をやってもらえるような状況というか条件があるんだろうかということを、私としては非常に危惧しております。  つまり、裁判官は、令状の申請があった場合、それが犯罪関係あるかないかということを判断する資料をほとんど持っていないんじゃないかというふうに思います。ですから、最終的にはやはりそれは事後的なチェックということで、どこの国でもそこへ話がいくと思うんですけれども、それも現在の法案では非常に不十分で、事後的なチェックによって通信傍受の濫用を防ぐということは難しいと言わざるを得ないわけですね。  さらに言えば、通信傍受捜査手段とする場合に、これは、捜査側に対する国民の信頼というのはやはり不可欠だと思うんですけれども、そういう捜査機関に対する国民の信頼をいかに築くかということが、盗聴問題を考える前にまず問われるべきじゃないかというふうに思います。
  67. 田中伸

    田中参考人 私も、先ほど申し上げましたとおり、プライバシー、通信の秘密、表現の自由、これは民主主義社会では最大限保障されなければならないということを認めます。  けれども、一方では、先ほど渥美参考人も言われましたように、生命、身体、安全が害されて表現の自由は保障されない、通信の秘密は保障されない。生命が絶たれたところには次の議論はないんです。だから、そういう危機的な場合を想定して、文明国家として最終手段を設けておかないといけないんじゃありませんかというのが問題提起なんです。  例えば、皆さん考えていただいたらわかると思うんですけれども、企業の取締役の子供さんが誘拐された、犯人間では連絡をとり合っていることがどうもわかったと。それで、この電話を通信傍受すれば、その子供さんの安全について一歩でも二歩でも前進するかもしれない。結果的に、通信傍受という制度がなかったために捜査機関は犯人間の電話を通信傍受できなかった。その結果、捜査がおくれてその子供さんが亡くなった。  つまり、通信傍受ができないことによって一人の命が失われるということはあり得るわけですね。そのときに、表現の自由、通信の秘密のために人一人が亡くなってもいいんだ、私はそういう結論はとれない。そういう場合には、やはり通信傍受を認めた法律があってしかるべきだというふうに私は考えております。
  68. 木島日出夫

    ○木島委員 時間がありませんから、本法案にはたくさんの論点はあるんですが、一点だけお聞きします。  法案基本構造として、傍受そのものは、令状が発せられますと捜査官に基本的にゆだねられて、立会人の基本的なチェックや中断権はないわけであります。  それで、問題の一つに、犯罪に無関係であって傍受された通信の取り扱いでありますが、そうしますと、基本的にその場合は当事者に通知されないんです。だから、当事者は全く通知もされないまま、捜査官憲によって自分のプライバシーなり会話が盗聴されたまま放置されるという基本的な仕組みになっているわけですね。救済の手段が全くとられていない。この問題について、もうあと時間がありませんから、これは渥美先生だけにお聞きしましょうか、どう考えられますか。
  69. 渥美東洋

    渥美参考人 この点は、まず、とりました記録はそのまま残しておくことと、それから、それを一切その後使えないように封印すること、さらに、今おっしゃられたような事態について通知を行うべきかどうかについては、審議される価値は十分あると思います。  もう一つ、ついでながら申しますと、ACLUは、この法律とほとんど似ておりますRICO法、それが通信傍受を用いることを当然予定しておりましたけれども、それに対して反対しませんでした。賛成しました。つけ加えます。ACLUというのは、先ほどお話しになられたアメリカの団体です。
  70. 木島日出夫

    ○木島委員 まだ時間があるので、では、一点だけ先生に。  確かに、記録は封印され、保存はされる。しかし、捜査官憲から捜査に全然関係ない一市民の会話が盗み聞かれたという事実は残るんです。それで、その盗み聞かれた市民に対して、そのこと自体は通知も行かないんです。国会に報告されるのは恐らく数だけでしょうから。全くその市民の権利は、一〇〇%救済されない、救済どころか知らされもしない。ここは基本的な問題だと思って私は先生にお聞きしたんですが、その点についてどうですか。
  71. 渥美東洋

    渥美参考人 その点について、先ほど申しましたように、封印をし、しかもそれが悪質な場合にどう対処するかについては御工夫願いたいというふうに申しました。  一々全部報告をしろというふうになりますと、犯罪に関する会話でないものというのは相当多くございまして、それを全部通知しておりましたら、これは事務量上も大変なことになります。したがって、封印をして絶対使えないようにすることというのが、組織的な決定として一番重要なことだろうと思います。  悪質な場合についてどうするかということは、皆さんで御検討願えればというふうに思います。
  72. 木島日出夫

    ○木島委員 時間の関係でもうやめますが、盗み聞かれた情報が捜査官憲によってどう利用されるか、それを食いとめる担保が全くないということが問題だと思うんですね。  次の問題について、三人の参考人の先生にお聞きします。  法案は、いわゆる予備的傍受、あるいは別件傍受も認めておるわけであります。これは、日本犯罪捜査の担い手である刑事警察機構が、刑事司法警察あるいは予防警察から、警備や保安などを目的とするいわゆる行政警察へと質的に変化、変貌するのではないか。民主主義国家の基本として、刑事司法基本として重大問題ではないかという根本的批判があるわけでありますが、これに対する三人の参考人基本的な見解をお聞かせ願いたいと思います。
  73. 渥美東洋

    渥美参考人 簡単に申します。  予備的だとおっしゃいますが、犯罪関係するかどうかということを調べるために、聞く範囲を限定するために聞くんですから、それをやめろといったらば、全部聞いてしまえということになりますので、それは少し乱暴な議論だと思います。  それから次に、将来の会話とおっしゃいますけれども、それは、犯罪が行われたときには要件は整っているわけですから、憲法で要求しているのはそれだけですから、犯罪を行ったときに要件が整っていなかったらば、その行為は前に令状が出ていても違法です。その点をよくお考えになっていただきたいと思います。  それからもう一つは、合法に聞いている場合にほかのものが入ってきたときどうするかというのは、これは逮捕に伴う捜索押収の場合と全く同じです。現に権限があって入ったところは合法に開かれた場所です。合法に開かれた場所はこういう場所と同じです。そこで犯罪が行われているものを放置するという人はいるでしょうか。それを別件だとかなんとかというふうにおっしゃられるのは、それはおかしいと思います。意図的に最初からそれを考えたら別ですけれども、そうではなくて、合法的に活動をしている目の前で犯罪が行われているのを放置するなどということは考えられません。憲法できちんと書いてあります。したがって、その限界を超えているものとは全く思いません。
  74. 新倉修

    新倉参考人 渥美先生とはそこの点が全く見解が違うわけですけれども、通信の傍受というのは、今お話にあったように、実際は、やはり聞いていればいろいろな話が入ってくるわけですし、それが犯罪関係ありそうだといってそこで打ち切るということは、実際あり得ない話なのですね。だから、一カ所認めれば大体このぐらいの範囲になるだろうというふうに思われるわけで、その点で、プライバシーということが取りざたされていますけれども、私の立場では、やはりそこをクリアするだけの国民的合意はまだできていないのではないかということで、反対したいというふうに思います。
  75. 田中伸

    田中参考人 日本で今提案されている通信傍受法案は、私はまさに刑事司法手続の法案だと思います。裁判官がチェックをして、それで、要件、手続、それが厳格に定められているのです。私、イタリアのマフィア対策で実際に行きました。そこでは行政傍受ができるわけです。これは犯罪の嫌疑なしに、マフィアと見込んだらできるのです。日本のはそういうものと全然違う。厳しく要件、手続が限定されている。だから、これを行政傍受だというふうに言うのはおかしい。刑事手続の正当な手続が定められているというふうに私は理解しております。
  76. 木島日出夫

    ○木島委員 時間ですから終わりますが、まさに予備的傍聴か別件傍聴か否かは、徹底的にこの法務委員会で審議がされるべきだと思うのです。  私は、令状発付の要件として、本来の目的である捜査対象にしたい犯罪でないものがあった場合も想定しているとか、将来の犯罪がなされるであろうことを想定して令状発付がされるということは、もう紛れもない、予備的・別件傍受を認める法案体系になっているということを指摘して、それはしっかりこの委員会で審議しなければならぬ課題でありますので、時間ですから終わります。
  77. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 保坂展人君
  78. 保坂展人

    ○保坂委員 社会民主党の保坂展人です。  まず、渥美先生に伺いたいのですが、少しやわらかい質問からいたします。  ちょうど今、エネミー・オブ・アメリカというアメリカ映画が公開されています。これが、試写会を見に行きましたら、アメリカでテロ対策として、通信システムの保安とプライバシー法というのが議会に提案されて、それに頑固に抵抗し反対する下院議員が何と殺されてしまう。国家安全保障局から殺されてしまうのですが、そこが偶然撮影されていて、そのテープの争奪戦をめぐって、撮影テープを受け取った弁護士が、最新のハイテク追跡装置、いわば衛星から場所を特定する、携帯電話から位置を調べる等々のハイテク機器で、サスペンス映画としても十分楽しめるのです。さて、これが、映画の中の話だからといって、多くの日本国民は見て、こんなふうになるのかなと思いながら出てくる方もいるかもしれないのですが、実は、そこで使われている機器は実際に使われているものだそうなのですね。  実は、この前、バリー・スタインハードさんというアメリカの自由人権協会の副理事長をされている方に国会に来ていただきまして勉強会をしたわけなのですね。そうしますと、やはりアメリカの盗聴もだんだん制約が外されてきていまして、特にデジタル技術の飛躍的向上によって従来の盗聴が不可能になるということで、デジタル通信会社に盗聴装置を置くことを義務づけたり、あるいは、先ほどの映画にもちょっと関連しますが、携帯電話の位置を特定する方策ですか、こういうものをしたり、相当に今進化しているということなのですね。  さらに驚いたのは、映画と同じなのですが、国家安全保障局の中にECHELONという通信調査の組織、スーパーコンピューターがあって、あるキーワード、例えば大統領とか、何だントンという言葉があるとヒットして、そのヒットしたものを調べるというシステムまであると日本に来て証言されているのですね。アメリカの盗聴なり監視社会化に対する反省が生まれているのではないかと思うのですが、その点、いかがでしょうか。
  79. 渥美東洋

    渥美参考人 それについては、私は世界で一番最初にオーウェリアン・ソサエティーというものを生むべきではないということを書いた者として、おっしゃられることはよくわかります。私のものを引用しないでオーウェリアン・ソサエティーになるということを書く人が多いのですが、世界で最初に言ったのは私です。  そういう社会にしてはいけないことは確かなのですが、アメリカの場合にそれが出てくるのは、先ほど田中さんがおっしゃった行政的な傍受なのですよ。ナショナルセキュリティーに基づく傍受なのです。日本ではそれは今度は提案されておりませんし、そういう範囲まで広げて考えるべきではないと思います。それから、映画ではそうだといっても、実際にそれを使われる可能性というのは幾らでもあるのですよ。  それから、もう一つ考えなければならないことは、皆さんにお考えいただきたいことは、日本で、本当に必要なこういう暴力団犯罪対策、先ほど申しましたように、ACLUも反対されなかったようなRICO法の運用の場合以外の場合に、私人が勝手に聞くこと、それから私人が勝手に盗聴機器を買うこと、その部品を買うことが放置されている、こういう国は非常におかしいです。ですから、本当に必要なものについては厳しくして、暴力団が連絡をとるときには勝手にやっていいというような、こういう国、聞いたことがない。  おっしゃる懸念はよくわかります。アメリカの場合の轍を踏まないように、日本で行政監視というようなことを、あるいは国家安全保障を中心に考えるようなものに安易に向かうべきではないという保坂委員のお考え方には僕も賛同です。
  80. 保坂展人

    ○保坂委員 それでは、続けて、ちょっと先ほど北村委員から御質問あった点なのですが、要するに、バーミンガム・サミットでFIUを設立していこうということで、疑わしい取引、これを金融機関に届け出義務を付すという、これがアメリカ議会に、FRBの発表によると、数十万通の投書があって、プライバシー侵害だということで、結局計画を撤回してしまった、今回、ケルン・サミットでも大幅な見直しを迫られるだろうという報道があるのですが、このあたりはいかがでしょうか。
  81. 渥美東洋

    渥美参考人 その点は、従来は銀行だけでよかたのですよ。銀行だけに義務づければよかったのです。ところが、日本で言われておりますいわゆる金融ビッグバンということになりますと、中間的な金融機関が全部関係してくるのです。それを全部網にかけようとしたからみんなは困るよということを言ったのです。ですから、それについてどう対処したらいいかということは非常に難しいです。恐らくそれについて限定的な対処をケルンでは行うのだと思いますが、基本的な金融機関による届け出義務と、それから無差別的な放置をした場合に故意犯として処罰するというような、判例でとられた考え方は依然として認められていくものだというふうに私は見ております。
  82. 保坂展人

    ○保坂委員 この点は、法制審の中にも入っていなかったことなので、大きく課題を呼ぶと思います。  次に、では、田中参考人お願いしたいのですが、通信傍受における会話というのはクリーンな証拠である、生ものというのですか、まさに生でとれるというお考えだと思うのですが、実は、暴力団の中にこの法案に対する対策研究チームというのが当然できているだろうと推定するわけですよ。犯罪専門の人たちはそういうことは考えるわけですね。  そうしますと、こういうことが起きてこないか。つまり、携帯電話やあるいは電話によっていわゆるおとり犯行計画を裏打ちする。それで、残るわけですね、クリーンな形で。それによってその指揮系統がまさに物証になるわけですけれども、しかしそれは実はおとりであって、実際の、本物の方は組事務所かアジトか何かでこそこそやっているというと、やはり室内盗聴までやらないとこれはいかぬのじゃないかという話になってきませんか。
  83. 田中伸

    田中参考人 確かに、設例を仮定しますと、裏の裏をかくというかそういうことはあり得るだろうというふうに思います。  御指摘の点は、本当に役に立つのか、単なる通信傍受、電話回線、携帯電話にしても、それだけで役に立つのか、室内会話まで、バギングまで認めないとだめじゃないか、こういう議論もあろうかと思います。  しかし、犯罪組織の実態として、この辺、私捜査官でないんでそこまでわかりませんけれども、聞いた話では、伝聞で証拠能力がないかもしれませんけれども、犯罪組織は意外と古典的な手法を用いている。電話というのはコンピューターと違ってすぐ操作可能ですね。しかも、どこにでもあるということで、これを用いやすいんですよ。だから、今の携帯電話、その傍受ということは、これは有効な場合が出てくる。全部の犯罪組織が進化して裏の裏をかいていくというようなことは、私は考えられない。特に犯罪を行っているときですから、彼らも緊急事態なんですよ。そこまで余裕があるかなというのもあります。だから、そういう危機的な場合に一つでも役に立つのを設けておくべきだ。先生御指摘のように、すべて効果があるということは私は言えないと思うんです。
  84. 保坂展人

    ○保坂委員 それでは、もう一度渥美参考人お願いしたいんですが、先ほど、むしろ対象範囲を、例えば大型詐欺罪、証取法違反、インサイダー取引だとか、広げるべきだというお話もあったと思うんですが、私、社民党の議員というのは実に金に縁がありませんで……(発言する者あり)いや、私はないですよ、本当に。私はないですね。政治献金なり、ちょっとマネーロンダリングと疑われるような心配というのは余りないんですね。余りというかほとんど、残念ながらないんですけれども。  そうしますと、政治家に対する政治献金、例えば政治資金規正法などにもマネロンの枠をはめるべきだとお考えにはなりませんか。
  85. 渥美東洋

    渥美参考人 これは憲法上の投票権に関係する議論で、一人一票制という投票制を認めている以上は、憲法構造上の基本的に重要な、自由民主的な社会を規律する上での要件であるというふうにアメリカ合衆国最高裁判所は判断しました。そうなりますと、そこで行われるような活動、その権利を壊していくような活動、そういうものをどう取り扱ったらいいかということが問題になります。実際、RICO法にはそれに類したものが入っています。  日本の場合にそこまでいくべきかどうか、これは日本の実情に合わせて御検討さるべきでありまして、日本個人献金が十分に集まるほど国民が政治に習熟していないとか、あるいは政党の方々の御努力が足りないとか、我々の支援が足りないとか、いろいろな面がございます。そこへいっていない段階で、急に政党活動限定するような方法を用いていいかどうかは、まさにこれは政策的判断だと思います。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
  86. 保坂展人

    ○保坂委員 今回のマネーロンダリングの規定は、犯罪収益の収受であるとか、あるいは該当する犯罪に触れた場合には政治家とて対象外にはなっていないということは、ぜひそこは押さえて、委員皆さんも知っていただきたいと思うんです。  新倉参考人に最後にお聞きいたしますが、ジャーナリズム出身、フリーでジャーナリストでやっていたんですが、最も犯罪情報が寄せられる機関というのは、ある意味で、新聞社に匿名の電話がかかってくる、あるいは警視庁のクラブにかかってくるということはあり得るわけですね。そしてまた、警察の中で、どこでどういうふうに情報が行くのか、新聞記者と捜査官の情報争奪戦もあるわけですね。そういう意味で、ジャーナリズムの危機ということも当然、ジャーナリストは外されていないわけですから、あり得るわけですね。何か起こったときに、例えば犯行声明だとか匿名電話等最もかけやすい機関であることも事実ですね。そういうあたりの問題点、ジャーナリズムと盗聴の問題点お願いします。
  87. 新倉修

    新倉参考人 まさに御指摘のとおりの問題があるというふうに思います。  ジャーナリズムというのは、一応憲法上は報道の自由ということで厚く保護されているように見えますけれども、盗聴法との関係では恐らく同じように扱われるということになっていますので、当然そこまで及ぶだろうというふうに思います。  ただ、どうしたらいいかというのは、むしろ私の方からお聞きしたいという感じがしますので、そういうことです。
  88. 保坂展人

    ○保坂委員 では、同じ点をもう一度渥美参考人に伺いたい。  たしかドイツの例だとかもそういう議論があったと思うので、少しそこいらも踏まえながらお願いします。
  89. 渥美東洋

    渥美参考人 その場合に、憲法上の問題として、先ほど申し上げましたように、生きる権利というものと、それから今度は表現の自由、報道の自由というのがありまして、その次にそれを入手するための方法保護する、取材の自由の保障をする、その次取材源の秘匿の問題を考える、そのときに、憲法では一体どこまで保障しているんだという議論がございます。  世界じゅうどこでも報道機関の報道の自由までは認めておりますが、あと、取材の自由については限定が加わっているのが大部分ですし、情報、取材源の秘匿について、それを認めている国はまずありません。これは全体のバランスをとる上からだと思います。  まさにここで問題になっているのは、人間一定の質のいい生活を営むかどうかということにかかわるものだけですから、それ以外のことに関係ないわけです。それについては報道機関は御自由に活動ができる。その点をよく御検討なされる必要がある。  傍受というものも、今度の場合は、ほかの国に比べますと日本は随分限定的なんです。こんなに限定的でいいんだろうかという気が私はしているんですが、その点も十分にお考えになった上で、本当に人間が危なくなってくるような活動について、むしろ報道機関は、そこに情報が寄せられた場合に、社会のメンバーとしてほかの者たちとチームワークを組みながら、ある人が殺されそうになっている、ある人が弾圧されそうになっている、ある人が大型詐欺に遭おうとなっているときに、それに対してどういう有効な対処をするかという義務を果たすことこそ重要だ、私は逆にそう思っています。
  90. 保坂展人

    ○保坂委員 アメリカでは移動盗聴が認められて、特定の私の電話じゃなくて、私が行きそうなところ十数カ所、その電話すべてが盗聴できるというふうになって、例えばグリコ・森永事件のような劇場型犯罪があって、特定の新聞社に犯行声明第一弾があった場合にはそういうこともあるのかなというふうに思って、大変この論議、本当に奥が深いと思いますが、時間になったので終わります。どうもありがとうございました。
  91. 杉浦正健

    杉浦委員長 以上で午前中の参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。     午前十一時五十九分休憩      ――――◇―――――     午後一時三分開議
  92. 杉浦正健

    杉浦委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  第百四十二回国会内閣提出組織的な犯罪処罰及び犯罪収益規制等に関する法律案犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の三案について、午前に引き続き、参考人から御意見を聴取いたします。  午後の参考人として、慶應義塾大学法学部教授平良木登規男君、大阪市立大学法学部教授高田昭正君、弁護士岩村智文君、以上三名の方々に御出席いただいております。  この際、参考人各位委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。  平良木参考人、高田参考人、岩村参考人の順に、各十五分程度意見をお述べいただき、その後、委員質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。  それでは、平良木参考人お願いいたします。
  93. 平良木登規男

    ○平良木参考人 平良木でございます。  私は今度の法案に賛成の立場にありますが、これは以下のような理由に基づくものであります。  私は一九九一年の秋から九四年三月までドイツのケルン大学におりましたが、留学するその前の年にドイツはいわゆる旧東ドイツを併合して、徐々にではありますが、経済力に陰りが見え始めたという時期のことであります。この東西の壁が崩壊するとともに、外国人、専ら東欧でありますけれども、これが流入してきたということでありまして、それとともに麻薬が多量に流れ込み始めました。当時の新聞の報道によりますと、私のおりましたケルンがその中継基地になっているということでありまして、急性の麻薬中毒による死者が、ケルンだけで年間二百人に上っている、そしてドイツ全体では二千人を超えているという状況にあったということであります。  ドイツでは、失業者の増大と治安の悪化というのは、これは外国人が増大したせいであるという意識が強く、いわゆるアウスレンダーハスといいますが、外国人排斥運動のことでありますが、この風潮が高まってきた時期であります。同時に、ネオナチがばっこして外国人を急襲し始めたという時期でありました。例えば、刃物で有名なゾーリンゲンではトルコ人が焼死する事件が起こりました。私の近所のドイツ人は、これはトルコ人同士の内紛に違いないということを言っておりましたけれども、実はそれがネオナチの犯行によるものだということがわかって、大変なショックを受けたというような状況にあったわけであります。  このような風潮に対して、ドイツは一体何をしたかといいますと、まず最初に、当時の大統領でありますワイツゼッカー大統領がテレビ等を通じて、このアウスレンダーハスの風潮は恥ずべきことだという趣旨の大演説を行いました。何と驚くべきことに、その演説を契機に市民レベルの外国人に対する態度が変わり始めた、そういう時期でありました。確かに、ワイツゼッカー大統領は元首という立場にありましたけれども、一人の政治家の発言がこれほど大きな影響力を持つということに、私は大変な感銘を受けたのであります。  そのような状況のもとで、それでは一体、そういう犯罪に対してドイツが何をやったかといいますと、これはもう皆様既に御承知のことであろうかと思いますが、まずネオナチを非合法化いたしました。それとともに、麻薬犯罪組織犯罪の撲滅のために徹底的に法律の整備を行ったということであります。もちろん、このとき出されました法案につきましては、学界とかあるいは実務界からも実は反対があったわけでありますが、国は断固とした態度で麻薬犯罪及び組織犯罪の撲滅のための法律制定したわけであります。それと時を合わせて、徹底した取り締まりを行っております。当時の雑誌には、顔を隠した警察官が自動小銃を構えて麻薬取引の現場を急襲するという写真が掲載されております。  また、ケルンの都心には、我々が知っているだけでも五組のすりの集団がおりました。それ以外にもたくさんすりがいたわけですが、これに対する徹底的な取り締まりを行ってそれを一掃したのであります。多分、ほかの都市、パリとかローマに逃れていったのではないかと思いますが、いずれにしましても、ドイツの国民性を考えますとその徹底さは十分に御理解いただけるのではないかと思われます。  また、ケルンで、麻薬の密売人がたむろしていると言われるノイマルクトという場所がありますが、ある夕刻、警察が一斉の取り締まりを行った。その結果、百人近い密売人を検挙したというのでありますけれども、新聞の報道によりますと、その二時間後にはそれまでと変わらない数の密売人が出ていたということであります。ドイツは、とにかくそのために大変なエネルギーを傾注したわけでありますが、残念ながら、この麻薬の根を断つというところまでは到底できなかったわけであります。  言うまでもないことでありますけれども、犯罪が深刻なものになればなるほど、それに対する徹底した立法と徹底した取り締まりの必要が出てきます。国民に対する大きな制約を必要とする前に、そうならないうちにできる限り早目に立法をしてくださるように私は望むものであります。  さて、そこで今度は、今回の法案について、具体的に問題点と思われるところを申し上げます。これは私は賛成の立場にありますけれども、これまで論文等によって明らかにされた反対論というのを見てみますと、若干そこのところに答えておかなければいけない必要性というものがあるように思われます。  まず、通信の傍受そのものは、現行刑訴法のもとでも、これを肯定する裁判例が幾つか出されております。現行刑訴法のもとで電話等の通信の傍受を行えるのであるならば、新たな立法の必要はないんではないかということであります。加えて、私は訴訟法学者の端くれでありますが、この立場からしますと、これもしばしば問題になっているように、この法案は従前の捜査の概念を超えるんではないか、こういう疑問も出てくるわけでありまして、これにどのように答えるかということであります。  やや講学的な説明になりますけれども、捜査目的の通信等の傍受は、現行法上、検証として認めるというのが判例であります。しかし、通信の内容は、これを傍受してみなければわからないというところがあります。その意味では、通信の内容が該当する事項であるかどうかを探さなければならない、つまり捜索的な要素が入ってくるということも否定できないところであります。通信の傍受捜索・差し押さえを根拠にすべきだと言われる一つのゆえんになっているところでありますが、このような事情もあって、学界では、少なくとも立法によって根拠を明確にすべきではないかという意見が有力に主張されているところであります。  私も、通信の傍受は刑訴法の検証を根拠に行うことができると考えておりますけれども、しかし、先ほども申し上げましたように、捜索を伴う検証ということになってしまって、実は、刑訴法ではずばりとこれを予定しているものではないということも言えるわけです。その意味では、複合的な形で認めるべきだということになってきます。ぎりぎりの解釈論によって認められるというように言った方がいいのかもしれません。  電話等の通信の傍受が現行法で許されるかといった場合に、このような立場から否定するという見解も有力でありますので、そのように根拠にさえ争いがあるという現状を踏まえるならば、むしろ立法によってその争いを絶っておくことが必要であるというように思うわけであります。  次に、捜査概念との整合性ということでありますが、私も「捜査法」という学生向けの本を出しております。そこでは司法警察と行政警察の区別、捜査の概念ということについて述べておりますが、本当に正直に申し上げますと、通信の傍受に関する今回の法案が出てきたときに、将来発生する犯罪についての令状の発付を認めておって、実は困ったなというような感じがしたということも事実であります。  しかし、考えてみますと、現行法の解釈がそうなっているんだということだけであって、これを超えた立法が可能であるか不可能であるかということとは別の議論である。むしろ、立法を制約するものは憲法しかあり得ないんじゃないかというように考えたわけであります。今度の法案は、むしろ従前の捜査の概念の訂正を迫るような内容を持っているというように現在では考えるに至っております。その意味で、私は、今改訂版の準備をしておりますが、そこでは早速、この部分を入れた内容のものを準備しているところであります。  三番目に、要件の整備ということでありますが、先ほど、ドイツでは九〇年代に入って徹底した法の整備を行ったというように申し上げましたけれども、ドイツの刑事訴訟法は、そのはるか以前から電話等の通信の傍受を認める条文を持っておりました。刑訴法ではその要件を厳格に定めていたわけであります。我が国の裁判例も、今回の法案の前に、ドイツと非常によく似た要件のもとに実際上の運用を図ってきております。  しかし、考えてみますと、裁判は、非常に深刻かつ重大な事態に遭遇したときに、全体のバランスとの関係から、手続的な瑕疵を救済する方向に向かう可能性があります。その意味では、いつまでも抑制的であるという保障がないわけであります。むしろ、立法によって限界を設けておくことがベターではないかというように思うわけであります。  次に、プレインビュードクトリンと書いてありますが、これは緊急差し押さえのことであります。通信傍受法案の十四条、これがしばしば問題になりますが、この法理に近い法理を認めております。  現行刑訴法は、確かに緊急逮捕は認めておりますけれども、プレインビュードクトリンにつきましては、これを否定しております。例えば、捜索している際に、当該事件と全く関連性を有しないほかの事件の有力証拠が発見されたとしますと、まず法禁物を所持しているのであればその者を現行犯人逮捕して、その上で差し押さえるということになります。それから、法禁物でないものにつきましては、これを任意提出させて領置するか、あるいは裁判所まで行って新たに差し押さえ令状を発付してもらう、こういう方法しかないわけであります。  しかし、緊急を要するときに、今申し上げました令状を発付してもらうというのが実際的でないことは明らかであります。裁判例を見ますときに、これをめぐってしばしば問題が生じているということが明らかになっております。  さて、そこで、通信の傍受を令状によって開始したところ、とんでもない内容が飛び込んできたというときに、これを無視しなければならないかということでありますけれども、少なくとも、通信傍受令状によって適法に傍受を開始したというものであります。そういうことを前提に、逮捕でいえば、緊急逮捕というよりも、むしろ現行犯人逮捕に近いものを傍受するというものでありますから、刑事手続で問題にされる一般のプレインビュー原則よりもはるかに抑制的な場合に限定されていると言うことができるんではないかというように考えているわけであります。  通信の傍受で問題なのは、捜査に使うということではなくて、単なる情報収集のための電話傍受、こういうことが問題なんだろうと思われます。  例えば、アジアの国の中には、検察庁の中に全国の電話を傍受することの可能な設備があると言われております。これはやはり国情にさまざまなところがあって、もし最悪な事態が引き起こされるということになりますと、それを無視すること自体が大変な失態につながるということから、ほとんどこれに反対する者はないという状況にあるんだと言われております。  現に、覚せい剤取引等が電話等の通信機器で行われているときに、これを取り締まれないということはないはずであります。犯罪に聖域を残しておくことは断じて避けるべきであると思うわけであります。  次に、組織犯罪対策法案及び刑訴法の改正案について若干言及をいたします。  集団犯罪あるいは組織犯罪に限らず、複数の者による犯罪が重く処罰されなければならないというのは、まず、赤信号みんなで渡れば怖くない式に違法性の意識が鈍磨することであります。その中では、逆に犯罪遂行の意思が強化される、結果の実現の可能性が増大するということであります。また一方では、個人に比べて企業の方が利益を上げられるということでありまして、犯罪組織化することによってとてつもない不正な利益を生み出し、それがさらに利益の再生産につながっていくという悪循環に向かうということであります。  このような兆候が見えたときに、だれの目にも明らかになったときには、実はこれは手おくれであることが多いのでありまして、立法に当たっては、集団犯罪等においてこれまで生じた事案、あるいは考えられる事案等を取り締まりの対象にすることにならざるを得ないというように思います。  それに加えて、あらゆる手を打たなければならないということでありますが、これはこれまで、昭和三十三年に、例えば暴力団に対するものとして、凶器準備集合罪が新設されております。このときの経過を見ますと、これが場合によっては濫用にわたる危険性がないのかということから、附帯決議がなされております。そういうことでこの立法がなされ、これだけではなくて、あわせて証人威迫罪とか、あるいは手続法の観点から保釈の除外事由あるいは取り消し、そしてさらには被害についての給付に関する法律、こういうものができていっているわけであります。  こういうように、あらゆる手だてを講じて、こういう犯罪を撲滅するという方向に向かうのでなければならないだろうというように思うわけであります。  簡単でありますが、以上であります。(拍手)
  94. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、高田参考人お願いをいたします。
  95. 高田昭正

    ○高田参考人 御紹介をいただいた高田でございます。最初に、組織犯罪対策立法につきまして、慎重な審議を重ねてこられました先生方に対して、心よりの敬意を表させていただきたいと存じます。  さて、私の専門は刑事訴訟法であります。そのために、組織犯罪対策立法のうち、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案が持つ問題点についてだけ、意見を述べさせていただきたいと存じます。  最初に結論を申しますが、私は、捜査上の強制権限として通信傍受導入することには反対するという立場でおります。  法案が許そうとします通信傍受について、私が最も懸念しておりますのは、裁判官によるコントロールが不十分であるという点にあります。  将来の通信を対象とします盗聴は、もともと、だれが、いつ、どのような通信手段を使って犯罪に関連する通信をするのか、事前には特定すること、予測することが難しいものであります。このために、法案につきましても、通信傍受の対象については、犯罪関連通信だけに厳格に限定することができずに、いわゆる該当性判断のための傍受というものを認めざるを得ませんでした。すなわち、犯罪に無関連な通信も、必要最小限の範囲ですけれども、該当性判断のための傍受の対象になるといたしました。  ちなみに、法案では、傍受の対象を被疑者自身が発受信する通信に限定してはおりません。被疑者が不明であって、被疑者を割り出すための通信傍受さえ認められております。そのために、この該当性判断のための通信傍受は広い範囲で行われることが予想されます。  しかし、そもそも犯罪と関連しない通信は、本来は傍受される理由も必要もないものであります。それゆえに、この無関連通信の傍受まで許す問題性、その権利侵害性というのは、まことに重大だと言わなければなりません。  それにもかかわらず、法案では、無関連通信の傍受の範囲あるいは当否が、犯罪関連通信自体の傍受の適法性、相当性にどう影響するのかという点について、裁判官が特に判断するということを求めてはおりません。例えば、集会、結社の自由など表現の自由といった憲法上の権利行使にかかわる通信が、該当性判断のための傍受、つまり、予備的、選別的な傍受の対象になる蓋然性があるというような場合、通信傍受が不相当なものになることもあります。  しかし、法案では、そのような点をチェックすることが裁判官の課題とは、少なくとも真正面からはされておりません。裁判官のコントロールが不十分な問題があると思います。  第二に、同じ根っこを持つ問題ですけれども、法案では、通信傍受中に偶然聴取した別事件、別犯罪に関連する通信について、別件傍受というものを許しております。この別件傍受については、傍受可能犯罪の範囲が極めて広いものにされております。  しかし、それにもかかわらず、その傍受後、直ちに裁判官が要件をチェックし、本当に別件で傍受する理由や必要性、相当性があったのかどうかを判断して、事後的であっても令状を発付するというような制度にはなっておりません。それゆえに、別件の通信傍受による権利侵害性の大きさに対する懸念というよりも、通信傍受による検挙の効率性に対する配慮の方が法案では強過ぎると言わなければなりません。  第三に、通信傍受の実施中における裁判官のコントロールというものも、法案では考えられておりません。  言うまでもありませんが、通信傍受というのは、事前に特定することが難しい将来の通信を長期間にわたって傍受し続けて、それにより、憲法上の権利、例えば通信の秘密やプライバシーの権利の侵害を繰り返す、そういう性質の強制処分であります。こういう通信傍受の性質にかんがみますと、裁判官は、傍受に先立って令状を一通発付しておけばその責任あるいは責務を果たしたということはできないと私は考えます。  もともと、捜査上の重大な権利侵害については司法機関である裁判官こそが第一に責任を負うんだというのが憲法の考え方であります。それが、強制処分について事前の令状主義を採用した憲法の基本的な考え方であります。そして、盗聴による権利侵害の広さと深さについては事前に予測することが難しいものでしたから、通信傍受については、その実施中についてまで裁判官のコントロールが及ばなければならないというものであります。  この点から法案を見ますと、法案では、通信傍受の終了後に実施状況を裁判官に報告するだけで、傍受実施中の報告は行われません。そのような傍受実施中の報告を命令する権限裁判官にはありません。したがって、そのような中間報告に基づいて途中で通信傍受を取り消すとか終了させるという権限も、法案では裁判官に与えられておりません。法案によれば、通信傍受を中止するか否かは、専ら捜査機関の裁量にゆだねられております。ここでも、通信傍受に対して裁判官のコントロールを貫くというより、通信傍受の効率化に対する配慮の方が強いと言わなければなりません。  第四に、法案では、通信傍受令状を発付した裁判官自身が通知義務とか報告する義務を負わないという点も、裁判官のコントロールを不十分なものにする危険につながっております。  その意味は、こうであります。  裁判官は、権利侵害性の重大な、しかも、どうしても処分対象を限定しにくい、そういう問題がある通信傍受をあえて命令いたします。そのような裁判官は、通信傍受権利侵害性と実効性について常にみずからがこれを監視して、みずから令状を発付した意味とその結果について継続的に検証すべき責任があると言わなければなりません。通信傍受のような強制権限をあえて許す裁判官は、一人一人がその令状発付の重い責任を担わなければならないと思います。そして、この責任を果たす重要な方法が、裁判官に通知義務、報告義務を課すことだと思っております。すなわち、傍受の対象犯罪傍受方法期間などを、裁判官自身が傍受された者に通知して、あるいは公的にも国会などに報告をするということが必要だと考えます。  もちろん、関連して、通信傍受の頻度がどうであったか、傍受により所期した成果を実際にも達成したのかどうかを捜査機関に詳細に報告させることも、裁判官自身の通知義務、報告義務前提として可能とすべきものであります。盗聴の経過や結果を常に吟味して、通信傍受を命令したみずからの判断が正しかったのかどうか、裁判官は常に確認すべきものであります。  しかし、法案では、通知義務、報告義務は、専ら捜査機関が負うものとされております。通信傍受の強制処分権限を担うべき主体は裁判官でありますけれども、その手続上の責務は軽いものになっていると言わなければなりません。私は、その裁判官の責務の軽さが通信傍受令状の安易な発付につながらないかと懸念いたします。  このように見てまいりますと、法案構想では、通信傍受に対する裁判官のコントロールは不十分であると言うほかないように思われます。それは、通信傍受の濫用を深く懸念させるものです。では、この裁判官のコントロールの不十分さ、つまり通信傍受に対する司法的抑制の不徹底というものをもたらした原因は何なのでありましょうか。  このように問題を立てた場合、私には、法案のもう一つ、正確には二つの特徴が重要だと思われます。  それは、第一に、通信傍受の対象犯罪法案では極めて広いという点であります。法案は、組織的犯罪対策としての通信傍受を標榜いたしますけれども、組織的な犯罪処罰等の法律案が掲げない犯罪類型を独自に盗聴対象犯罪といたしました。例えば、刑法の内乱罪や外患誘致などであります。それらは、いずれも警備公安警察が情報収集活動の対象とする類型の犯罪です。傍受対象犯罪が単に広げられたというだけでなくて、警備公安警察の情報収集対象の犯罪をカバーするものに通信傍受がなっている点が重要だと思われます。  第二に、法案は、将来に発生が予測される犯罪まで通信傍受の対象にしたという点であります。  もともと、将来の犯罪に対する警察の調査活動は、情報収集目的の警備公安警察活動という機能、性格を持つものであります。ですから、将来の犯罪捜査として通信を傍受するというのは、客観的に見ますと、将来の犯罪に対する警備公安警察の情報収集活動、すなわち情報収集目的の警察盗聴の結果を後に司法の場で利用するということにほかなりません。  このように、客観的、即物的に見ますと、本来我が国では情報収集目的の警備公安警察の調査手段として通信傍受が許されていないのに、その警察活動を将来の犯罪捜査だと表現し直すことによって、情報収集目的の警察盗聴を許そうというものにほかならないと思います。  法案のこのような特徴にかんがみますと、法案通信傍受につきましては、捜査目的の司法盗聴という形式のもとで、実は情報収集目的の警察盗聴の実質というものを最大限実現しようというものになっていると思われます。立法者の意図がそうだというのではなくて、法案の客観的な内容がそうなってしまっているというものであります。この基本的な法案の性格あるいは特徴のために、結局、先ほど申しましたように、通信傍受に対する裁判官のコントロールはどうしても不十分なものにとどまってしまうことになると思います。  このように法案の内容を評価しますために、私は、本法案による通信傍受捜査権限導入につきましては、強制捜査権限をコントロールするという重要な責務を裁判官に負わせた日本国憲法、特に憲法三十五条の趣旨に反するものになっていると考えております。  通信傍受の強制捜査権限につきましては、通信の秘密を例外のない形で保障した憲法二十一条の趣旨にも反すると考えておりますけれども、時間的制約もありますので、詳細を説明することは控えさせていただきたいと思います。  いずれにせよ、本法案のような形での通信傍受立法については反対せざるを得ないというのが私の意見でございます。  どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
  96. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、岩村参考人お願いいたします。
  97. 岩村智文

    ○岩村参考人 御紹介にあずかりました岩村です。お時間をいただきまして、ありがとうございます。  私は、日弁連の意見書、これは衆議院調査局法務調査室がまとめられた冊子に記載されておりますが、その日弁連の意見書と、あと、きょう皆様に配付させていただきました日弁連の四冊のパンフレットを踏まえて発言をしたいというふうに思います。  通信傍受という言葉は、国語辞書を見ても出ておりません。傍受という言葉は出ておりまして、これは無線通信を受信するということになっておりまして、有線通信というものを傍受するというのは、通常、盗聴とか、あるいは警察では秘聴という言葉を使っておりますので、私は、これから述べる中で盗聴と言ったり傍受と言ったりする点がありますが、同じ意味ですので、その点をよろしくお願いしたいというふうに思います。  盗聴の本質を考える上では、共産党の幹部である緒方さん宅盗聴事件を考えるのが最も適切と思われます。  東京高等裁判所の認定によりますと、少なくとも九カ月間、一九八六年二月十四日ごろから十一月二十七日ごろまで緒方さんの家の電話が盗聴されています。裁判所が認めましたとおり、この間盗聴され録音された通話の内容は、緒方さんの政治的な会話だけではなく、個人的な会話、さらには、専業主婦であった奥さんの電話を利用したさまざまな会話、クリスチャンであった母親の教会関係者や友人との会話など、家族全員のあらゆる会話に及んでいるわけであります。  高等裁判所は、このことにつき、だれとの、いつの、いかなる内容の通話が盗聴されたかを知ることもできない被害者の受ける被害は甚大であると述べました。まさにそのとおりでありまして、知らないうちに聞かれるということが盗聴の問題の本質であります。  それだけではありません。人と人との会話を聞くということは、私たちの日常的な経験でもおわかりいただけますとおり、対話者の癖なり物の考え方なり、発想の仕方といいますか、そういう、ある意味ですと、その人のそのものがつかまえられる、そういう特色を持っているわけであります。ですから、知らないうちに自分の人間としての特色がだれかにつかまれてしまう、このことが非常に危険なものだ、盗聴の恐ろしさというのはここにあるということをまずつかまえていただきたいと思っております。  もう一つは、この事件は、盗聴した警察の対応の問題を、深刻な問題として提示しております。  訴訟前に行う裁判所の証拠保全という手続があるのですが、警察は、裁判所も認定していますとおり、この緒方さんの事件の場合は、この裁判所の手続を妨害しました。そのために、裁判所としての検証が行えなかったという事態が発生しております。また、裁判そのものが始まった後にも、実行者である現職警察官は出頭しませんでしたので、結局、裁判は十分な審理を行うことができないという状況にも立ち至ったわけであります。  そのほか、警察独自で家宅捜索を行ったわけですが、これの中で数十本の録音テープが押収されておりまして、これが検察庁に提出されておりますが、その音声は、いつ消されたかわかりませんが、すべて消されておりました。  裁判所が神奈川県警の組織的犯行と断定した後も、警察は盗聴の事実を認めようとしておりません。過去も現在も電話盗聴はしていないというのが国会での答弁だというふうにも言われております。そうしますと、盗聴した警察は、裁判所、検察庁、国会にも協力しないで、真実を述べようとしていなかったということになります。こういう警察に盗聴する権限を与えてよいかということが、立法に当たって十分に検討されるべき課題であります。  また、この法案が、法案に基づく限り、どのような人が、例えば、ある目的を違えた立場の人が、あるいは警察であっても、そういう人が盗聴しようとも、その対象となる人や会話の内容が限定されるような仕組みになっているかどうか、だれが聞いても限定される仕組みになっているかどうか、そういうことを検証する必要があるというふうに考えております。  そういう立場から法案の仕組みを見てみますと、傍受対象となる通信は電話に限られておりません。法案の第二条によれば、ファクシミリ、コンピューター通信も含まれます。ファクシミリなどは、一部分、犯罪関係する部分だけがとられるのではなくて、すべて捜査官の手に入る仕組みになっております。犯罪に関連している内容のファクシミリかどうかというのは関係ありません。盗聴される電話機には、また不特定多数の人が使用する公衆電話も含まれております。そういう意味でも、広くいろいろな電話機が対象になるということであります。  法律が成立した場合の実際の運用は、各条文が組み合わされて運用されるわけですから、どのように組み合わされて運用されるかを考えてみながら、盗聴される内容が制限できるかどうかを検討する必要があると思います。  十三条の該当性判断のための傍受と、三条一項二号、三号の、将来犯罪にまで傍受できるというシステムと、十四条の他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受を組み合わせて考えてみましょう。  犯罪関係する通信を傍受するといっても、会話はまだ存在していないわけですから、関係するかどうかは、試しに聞いてみなければわかりません。それが該当性判断のための傍受です。予備盗聴とも言われております。試しに聞くわけですから、どこまで聞くのかの範囲は定かでありません。聞く者の姿勢で、その範囲は大きく変わらざるを得ません。法案は必要最小限の範囲と言っておりますが、必要最小限の範囲の基準ははっきりしておりませんし、その範囲を判断するのはだれかということも問題になります。法案では、結局、判断する者は、傍受している、盗聴している警察官その人が判断することになります。これでは、職務熱心の余り範囲が広がってしまうのではないでしょうか。  本来なら、犯罪に無関係なことを聞きそうになったら、ストップをかける第三者も必要なわけですが、法案十二条の規定する立会人には常時立ち会っている必要性もなく、無関係な会話を切断する権限もありません。それどころか、九条一項によると、立会人には犯罪内容を示す被疑事実を知らせないでいいことになっております。そうしますと、立会人は、何を聞いていいかという令状の中身もわからないまま立ち会っているということになるわけでありまして、これでは第三者によるチェック機能は働きません。  通信傍受令状は、既に発生した犯罪だけでなく、まだ発生していない犯罪にも発付されますので、試しに聞く必要最小限の範囲はますます広がります。もしかすると引き続き違う会話があるかもしれないということをついつい思いますよね。そうしますと、どんどん広がっていく、こういうふうになる。  別件盗聴あるいは緊急盗聴と言われているものも同じです。他の犯罪の実行を内容とする通信傍受ができるとなっておりますから、試しに聞くときにほかの犯罪のことが話されるかもしれないということで、これも広がるおそれがあります。  こうした組み合わせの運用を考えてみますと、法案の仕組みでは、盗聴する内容の限定は極めて難しいということになります。  盗聴する内容の限定が困難な上に、傍受令状の対象となる犯罪組織犯罪限定されておりません。組織犯罪という形で限定しなくても、犯罪組織が犯す犯罪、これは絶対犯罪組織しか犯さないという犯罪限定されているかというと、そういうふうに限定されているわけでもありません。組織的犯罪対処するための法案というのなら、その工夫があってしかるべきと思われます。  そのほか、法案十六条によれば、通話が始まったら直ちに通話相手の電話番号はすべてが逆探知されます。通話をしている人が犯罪関係しているかどうか全く関係ありません。通話を通して、その対象となった家族の交友関係、交際関係がすべてわかる仕組みになっております。  盗聴でプライバシーを最も侵害される人は、犯罪に無関係の人です。いつの、だれとの、どのような会話を聞かれるかがわからないことほどプライバシーが侵害されるものはありません。犯罪と無関係の人を保護するシステムが法案にはあるでしょうか。法案には残念ながらありません。二十三条は、こういう人には通知しないというふうになっております。無関係の会話をされた人には通知されない、犯罪関係ない限り通知されない、こういうようなシステムが果たして正常でしょうか。  また、十九条によれば、傍受通常二つのテープで行われます。一つは裁判所に提出し、一つは警察が保管することになっております。ここに問題が幾つか発生します。犯罪に無関係の記録が本当に警察で消されるかということ。これを確かめる方法はありません。また、警察ではそのほかに複製を幾つもつくる心配はないのかということ。二十二条四項の規定を見ると、幾つかつくりそうな規定になっております。さらに、盗聴した録音を刑事手続に使用しないで別の目的に流用するおそれはないのでしょうか。その不安は消せません。それなのに、法案には流用禁止規定がありません。  また、犯罪を犯した者に対する通信傍受に対しては通信傍受令状が必要ですが、これはもう当然この法律で定められておりますけれども、この法律に定める以外のやり方で盗聴することはすべて禁止するという規定がありません。当然だから規定しないというのはおかしな話で、当然なら禁止規定を設けるべきではないでしょうか。  法案には、令状なしで盗聴し、あるいはこの法案の手続に違反したときの罰則が不十分もしくは存在しておりません。二十六条三項三号の規定によりますと、重大な手続違法でなければ多少の違法は構わないというふうに読めます。これでは法の厳格な運用をすることにはならないのではないでしょうか。  国会に対する報告にも問題があります。盗聴にかかった費用が報告されません。物的な費用に加えて、盗聴に携わった捜査官の数、捜査官の人件費も含め報告しなければ、盗聴の対費用効果、これだけ予算をかけても効果が上がったかということを検証できません。納税者の立場からしてもこの点は重要で、国会が国民の立場から監視する機関であることを没却してはならないというふうに思います。  こういった点から考えまして、今度の盗聴法案にはさまざまな問題があるというふうに思っております。  組織犯罪のほかの法案にも触れたいと思いますが、時間になりましたので、この点で終わりたいと思います。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)
  98. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  以上で参考人意見の開陳は終わりました。     ―――――――――――――
  99. 杉浦正健

    杉浦委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山本有二君。
  100. 山本有二

    山本(有)委員 三先生、本当に御報告ありがとうございました。大変傾聴に値するいい御意見でございました。  まず、三先生それぞれに共通に御質問をさせていただきたいと思います。  我が国で通信傍受法律は現在ありません。しかし、現実に判例で許されております。これは平良木先生からの御指摘もございました。この点、この判例の、理由も含めまして、これを支持されるかどうか、この判例のありようを支持されるかどうか、お聞きいたします。
  101. 平良木登規男

    ○平良木参考人 私は、かつて裁判所に二十年近く勤務しておりましたので、これはもう当然のことだと思っております。
  102. 高田昭正

    ○高田参考人 結論だけ申しますと、支持いたしません。  一番簡単な理由は、例えば令状の提示を、捜査の必要のためにネグレクトしてもいい手続保障だというふうにしてしまったことです。令状の提示は、本来、憲法の要求する市民的権利の内容だと思いますので、判例ではそれを解釈でもって認めてしまったという問題があるというふうに私は思っております。
  103. 岩村智文

    ○岩村参考人 私は、令状主義といいますか、令状ですべて強制捜査をやるということを判例が逸脱したというふうに考えております。  ですから、本当にこの法案が必要かどうかということをここで慎重に審議して、判例が認めた厳格な規定以上に厳格な要件が必要かどうか、またそういう法律を成立させることができるかどうか、そういった点も慎重に検討していただきたいというふうに考えております。
  104. 山本有二

    山本(有)委員 高田先生の、憲法違反で、判例は許されないという御意見の中身は前後の御報告からもよく理解できるところであります。  しかし、この高裁の判例をつぶさに見てまいりますと、非常に慎重にこの判決を下している。特に、覚せい剤取引の専用電話である疑いが極めて強くというように対象犯罪限定されておられますし、また無関係な会話が傍受されるおそれがほとんどないとか、あるいは傍受の時間が限定されるとか、あるいは無関係の通話について立会人に直ちに傍受機器の電源を切断させられるというような、要件を厳格にしてこれを認めているということにおいて、私は、今回のこの通信傍受法案の行方を示唆しているというように思うわけであります。  そこで、反対の高田先生にお伺いいたしますが、先生の御報告の中に若干ありました、特徴として、対象犯罪が極めて広いから、これは刑事警察のみならず、公安警察に資するように、意図されてないにしろ、しかし、立法化の後にはそういう運用がなされるのではないかということでありますが、まさにこれを、対象犯罪を究極に限定したという場合に許されないものかどうか、高田先生にお伺いします。
  105. 高田昭正

    ○高田参考人 まず、判例の立場は、確かにかなり要件は限定しております。しかし、法案は実は判例の要件をさらに緩めているということは押さえておかなければならないというふうに思うのです。だから、判例に対する評価と本法案に対する評価とは違ってくるということもあろうかと思います。  それから、仮に究極に盗聴対象犯罪限定した場合に、憲法違反という問題がなお起きるのかという御質問であったかと思います。  それは、本来、法案の盗聴対象犯罪は極めて広いものですので、いわば法案に対する評価ということではなくて、一般論として申し上げますと、私は、それでも盗聴については問題があると思います。それは、将来の会話を盗聴の対象とするという盗聴自身の性格によっております。将来の通話というのは、それ自体どうしても特定できない性格を持っておりますので、そういう通信を対象とする以上、盗聴については、特に通信の秘密を絶対的な形で保障した憲法二十一条に反するという疑いはぬぐえないのではないかというふうに思います。
  106. 山本有二

    山本(有)委員 午前中の参考人質疑で、京都の弁護士さん、田中先生が、会津小鉄会という地元の暴力団と対峙したその経験の中から、このいわゆる通信傍受で得られた証拠というのはクリーンビューだ、すなわち非常に清らかな証拠である、こう言われました。私も耳を一瞬疑ったんですが、実際、確かに、拷問による自白強要というような、そういう比較論からするとクリーンかもしれない。あるいはまた、欺罔して、だましてとった、別件逮捕等々ではない。  さらに、プライバシーという個人の私生活対もし人命だという比較考量論に立つ場合には、このクリーンビューというのはまさにそのとおりの表現だというように私は感銘を受けたわけでありますが、この通信傍受によって得られた、すなわち強要のない任意の会話、そこに、生の会話というものの生々しさからくる証拠価値というものを認められるかどうか、まず平良木先生から、共通にお伺いします。
  107. 平良木登規男

    ○平良木参考人 私は、この証拠につきましては、言ってみると、物によっては直接証拠的なところが出てくるものでありますので、極めて証拠価値は高いものというふうに考えております。
  108. 高田昭正

    ○高田参考人 私は、証拠価値は高くとも、そもそも証拠とする資格がないというふうに考えます。生の形でまさに個人の真情を吐露するあるいは個人生活の上で必要な会話をするということについて、それが秘密に警察によって聴取されることは極めて重大なプライバシー侵害であって、市民生活の正常な運営のために大きな障害になるものと考えるからです。
  109. 岩村智文

    ○岩村参考人 証拠価値という言い方がいいかどうかわかりませんが、証明力という点では強烈なものを持っていると思います。  ただ、問題はそのクリーンさでありまして、とる方が、捜査機関側がクリーンなのかという問題が逆に残るわけでありますから、その捜査側の手続的な問題性、先ほど私が述べた生身のままのものが出てくるというのは、逆に言えば、犯罪関係ない場合には生身の人間の本質そのものがつかまれてしまうわけですから、そういったものとの関係で、証拠としていいかどうかというのは、別の問題として判断すべきだというふうに考えております。
  110. 山本有二

    山本(有)委員 岩村弁護士さんにお伺いいたします。  弁護士会の冊子、私も読ませていただきましたし、先生の御意見、傾聴に値するし、非常に細かく議論をいただいて感謝するわけでありますが、現実犯罪の中に身の代金誘拐罪というのがございます。この身の代金誘拐罪の特徴は、営利目的が主でありまして、特に財産的なものを代償にしておるわけであります。すなわち、その身柄の安全性と金銭という対決であるわけであります。そのときには政治的なもの、公安的なもの、そういうものは全く含まれないと思います。  特に、この身の代金誘拐罪においては、被害者、誘拐される側の被誘拐者というのは大概が弱者であります、子供であります。吉展ちゃん事件を筆頭に、戦後、この身の代金誘拐罪が現実に、現在多発しております。そして、グリコ・森永に見られるように、また富裕者等々、これはもう必ず、被害者の周辺の人間、殺されたら困ってしまう親御さん、あるいはこの人がいなければ困るような会社等に、相手がわからないような形で郵便物及び通信がなされるわけであります。  もうこの犯罪の過程が典型的に決まっておるんです。それをみすみすわかりながら、この通信さえ傍受できたらこの犯人がどこにいるかわかるよというようなときの身の代金誘拐罪というものに対するこの証拠力というのは大変なものがあるというような、そんな犯罪類型からして必要だと私は考えておるわけですが、この点についていかがですか。
  111. 岩村智文

    ○岩村参考人 今の御質問に直接お答えすることになるかどうかわからないんですが、設例がなかなか難しくてわかりにくいんですけれども、通常、身の代金誘拐の場合には、被害者側の同意があれば傍受する、今もう現にしているわけです。そういうシステムになっておりまして、この法案が成立するしないにかかわらず、傍受は可能であるというのが現実の運用ですので、それ以外の何か特別な例かは私はわかりませんので、申しわけございませんが、この法案がなくてもできるのではないかというふうに考えております。
  112. 山本有二

    山本(有)委員 終わります。
  113. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、細川律夫君。
  114. 細川律夫

    細川委員 民主党の細川でございます。私の方は、通信傍受法案についてお伺いします。  まずは、憲法との関連についてお伺いをいたします。先ほど高田先生の方からは、三十五条に違反するのではないかという詳しいお話がございましたけれども、二十一条との関連についてお伺いをしたいと思います。  二十一条の二項は、「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と、ずばりそういう規定になっております。したがって、今回のこの通信傍受法案、この二十一条二項との関係でどういうふうに参考人皆さんはお考えになっているのか、それぞれまずお聞きをいたしたいと思います。
  115. 平良木登規男

    ○平良木参考人 私は、憲法二十一条の通信の秘密というものは大変重要なものだと考えておりますけれども、これを絶対的なものであるとは考えておりません。すなわち、例えば公共福祉による制約があるのでありまして、現実に、刑訴法の中にも一部制約するような、つまり通信に関するものを差し押さえるような規定があることも事実であります。
  116. 高田昭正

    ○高田参考人 通信傍受と憲法二十一条の関係ですけれども、今御指摘のように、憲法二十一条は、通信の秘密を絶対的な文言でもって保障しております。もちろん、平良木先生がおっしゃいましたように、公共福祉を理由とする内在的な制約はあるだろう。つまり、通信の秘密が憲法改正を待たないで、例えば法律により違法に制限される場合もあるだろうというふうに考えられることも有力であります。  しかし、私は、内在的な制約があるという場合、例えばこの程度の例外的な権利制限であれば当然憲法上も予定されているだろうというような、そういう場合にやはり限られるべきだろうと思います。しかし、通信傍受、盗聴というような重大な秘密の制限権利侵害を伴う処分まで憲法の立案者が当然に予定していたというふうに解するのはやはり無理だろうと思います。  通信傍受を許すには、憲法二十一条自身の改正を待たなければなりません。ドイツでも一九六八年に盗聴が許されるんですが、その場合、憲法二十一条に相当する憲法規定がドイツにもあるんですね。ドイツでは、その憲法規定自身を改正して、法律の留保を許すという改正を行った上で盗聴規定を置いております。  あと、第二点ですが、刑訴法は、確かに百条で郵便物の押収についても規定しております。ただし、これは、仮に憲法の二十一条の内在的な制約の一つの場合が郵便物の押収だというふうに考えるのであれば、それは、いわば限界事例だというふうに言うべきであります。  過去に発信された通信物を対象とすることとか、被告人が発受信する郵便物を押収するとかいうのが基本的には刑訴法の百条の規定でして、この点は、盗聴についてはそういう制約はありませんので、盗聴はやはり憲法の内在的制約を超えるものだろうというふうに思っております。
  117. 岩村智文

    ○岩村参考人 通信の秘密が絶対かということについては、やはり絶対ではなくて、内在的制約があるだろうというふうには考えております。  ただ、ここで考えなければいけないのは、通信の持つ現代的意味でありまして、現代の社会では、過去以上に、通信というものが個人のコミュニケーション、社会を成り立たせる上で非常に重要な要素になっている。そういう社会になってきているところでの制約というのを考えると、それは、逆に言えば、非常に慎重に検討をしなければならない、そういう結論になるのではないかというふうに思っております。
  118. 細川律夫

    細川委員 それでは、次に、被疑者のプライバシー保護ではなくて、第三者のこの侵害についてどのように考えられるのかということについてお伺いしたいと思います。  これは、被疑者については、本法案によりますと、令状をもって、それで通信が傍受をされる。しかし、その被疑者との相手方、あるいは家族とか、そういう者たちの通信が侵される、これは当然だろうと思います。  先ほど岩村先生の方からはその点についてお話がございましたけれども、そういう第三者の通信の秘密の保護ということについて、この法案はその課題については余り規定されてありませんけれども、これについて一体どのようにお考えなのか。  岩村先生はもう御意見ありましたから、お二人にちょっとお聞きしたいと思います。
  119. 平良木登規男

    ○平良木参考人 私は、これは被疑者が専ら問題になると思いますが、場合によっては、第三者についても、これが犯罪にかかわるという意味で問題が出てくることがあるだろうと思います。  しかし、犯罪に関連するものである限り、先ほども申し上げましたけれども、プライバシー保護を理由にそれが捜査できないというのは、これは何か本末転倒のような感じがちょっとしております。  したがいまして、この法案自体が犯罪捜査のための傍受ということを前提にしている限り、第三者についても及ぶ場合があり得る、あっても構わないだろうというふうに考えております。
  120. 高田昭正

    ○高田参考人 本来、盗聴というのは、通信ですので、二人の、例えば被疑者であれば被疑者と第三者、あるいは第三者同士の犯罪関連通信というものを傍受するもので、どうしても第三者というものが盗聴の対象に入ってまいります。そもそもそういう大きな問題を持っているという点が一つであります。  もう一つ、あと、いわゆる犯罪に関連しない通話の傍受を行わないという点で、私は、通話の当事者と、それから通話内容のモデルとか典型というものを盗聴の目的との関連で予想して、具体的に執行するというような制度にせめてなっておく必要があるんじゃないかと思います。  しかし、現実には、盗聴を開始してしまいますと、途中で通話当事者が交代しないかとか、通話内容が変更されないか、どうしても試験的にあるいは確認的に聞いてしまう。結局、盗聴の対象が広く及んでしまうというのが、例えばアメリカの実務の趨勢だというふうに聞いております。実務では、無関連通話の傍受の完全な十分な排除は現実には非常に難しいというふうに聞いておりまして、その点でも、第三者の権利保護については非常に危ういものがあると言わざるを得ません。
  121. 細川律夫

    細川委員 次に、それでは、一緒に三点ばかりお聞きをいたします。  この法案には、盗聴についての一般的な禁止規定というものがございません。電気通信事業法などにはそういう規定がありますけれども、罰則は軽い。公務員を特に重くするという規定もないわけでございます。  さて、こういう法案が提出されるならば、その前提となる、通信傍受をしてはならないという、盗聴はしてはならないという、そういう禁止規定あるいはプライバシー保護の一般的な規定というものを当然規定をしなければいけない。これは岩村先生もそういうふうにおっしゃっていたわけなんですが、私もそういうふうに思いますけれども、この法案の中に書くのが難しいということになれば、別の法律できちんと一般則を設けるべきだというふうに思います。そういう通信傍受、盗聴の一般規定を設けるべきではないか、こういう点が一つでございます。  それから、この法案で、いわゆる令状に基づく通信を傍受するという、令状なしに傍受をした場合、これの罰則規定を特に定めなければいけないんじゃないか。令状違反の捜査官に対する罰則規定、これを規定すべきではないかというふうに思いますけれども、これはどのようにお考えなのか。もし罰則規定を設けるならば、どの程度がいいのか。三年とか五年とか十年とか、いろいろありますけれども、どの程度かというのが二番目です。  それから、通信傍受、盗聴が禁止、こういうことになるわけです。そうしますと、今現在は、盗聴の機器類というのが、製造あるいは販売がいわば野放しの形で、市中に出回っているわけでございます。これらについてもきちんと取り締まりの、禁止の規定も設けるべきではないかというふうに思いますけれども、どういう御意見か。  この三つについて、それぞれお聞きをいたします。
  122. 平良木登規男

    ○平良木参考人 一般的な禁止規定がないということでありますけれども、確かにこの法案自体には盛られておりません。  しかし、ほかの関連の法律で既に前提となっているといいますか、一般に禁止されているということが前提になって、この部分だけをこの法案によって解除していこうというように解釈されることになるのではないかというように考えております。  それから、二番目の点でありますが、令状なしに傍受した場合に罰則がないじゃないかということであります。  確かにそのとおりでありますが、これがもし捜査目的ということでありますと、恐らく重大な違反ということでありますから、証拠上、これを裁判では使うことができないということになるだろうと思います。まず、そういうことによって排除されることになってくるであろうし、そのほかにも、民事の損害賠償による請求ということも考えられます。それから、さらには刑法規定の適用ということも場合によっては考えられるんじゃないかというふうに思いますので、ここら辺の罰則がないこと自体が、必ずしもこの法案の致命的なところというようにはならないように思われます。  それと、もっといろいろ規制の対象があるのではないかといいますと、実はそのとおりでありまして、まだまだ恐らく広げることは可能であるだろうと思います。私も警察の現場サイドの方と何人か話したことがありますけれども、そのときに、これでは不十分だろうということを言っている人がおりました。そういうように、すべてこれで十分というものではありませんけれども、恐らくその後に、場合によっては手直しということを考えていくのが筋ではないかというように考えております。  盗聴の問題に関しましては、これは今捜査のために捜査の機関が行うということでありますから、そこは必ずしも関連するものではないだろうというように思います。
  123. 高田昭正

    ○高田参考人 私、基本的には細川先生の三つの御指摘に賛同いたします。  特別に補足することもないのですけれども、基本的には、先ほど意見として述べさせていただきましたように、法案では裁判官の令状によるコントロールが弱い、不十分であるというふうに思いますので、盗聴について、違法な盗聴捜査になってしまう危険性が強いというふうに考えますので、特別な罰則ないし違法収集証拠として排除する規定を設けるのがベターであるというふうに考えております。  それ以外は先生の御指摘のとおりだと思っております。
  124. 岩村智文

    ○岩村参考人 私も細川先生のおっしゃるとおりだというふうに思います。  一般禁止規定を設けるということは、ある意味でいうと、この法律をどういうふうに運用するかという立法者の意思をきちんと示すわけですから、そのことは非常に重要な点だと思います。  それと、令状なし傍受をした場合に罰則を設けるべきではないか。これも日弁連としては、五年以下の懲役という重いものを提起しております。  ただ、私はもう一つ、違法な盗聴をしたその捜査官の個人の責任というものをどういうふうに組み立てていくかという、民事の損害賠償もそうですが、結局職務熱心ということで、その個人は国賠の中で責任を負わないという仕組みになっております。アメリカなどでは、検察庁の方からマニュアルを出しているときに、もしこの法律に違反して盗聴した場合にはあなた個人の民事責任も問われますよということを伝えているのですね。これはなかなか非常に重要な点で、心構えとして、現場にいる人たちがそういう心構えを持つという仕組みになるのではないかというふうに考えております。  あと、市中の盗聴等については、もう少し検討して厳しく当たるべきだということには賛成であります。
  125. 細川律夫

    細川委員 次に、裁判官の令状についてお伺いをいたします。  先ほど、高田先生の方からは、裁判官令状発付について、いろいろ責任がとれるかどうかというような観点からこの法案を批判されておられましたけれども、この法案そのものは、裁判官傍受令状を発する、こういうことで濫用の抑制を図っているということなわけです。しかし、これにつきましては、裁判官が令状を出す場合、これまでのいろいろな刑事手続におきます裁判官の令状の発付状況を見ますと、ほとんど検察官あるいは警察官の言いなりに発付をされているのが現実ではないか、こういう声もよく聞くわけでございます。  この裁判官令状発付がほとんど言いなりの形で発付されるということになりますと、この通信傍受、盗聴の濫用の危険性というのは大変大きくなるのではないか、この危険性を抑制できないのではないか、こういうことになろうかと思います。そういう意見も強く言われているわけなんですけれども、これについてどのように御意見がおありか、お三方にお聞きをいたしたいと思います。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
  126. 平良木登規男

    ○平良木参考人 私は、先ほど二十年間裁判官をやっているというふうに申し上げましたけれども、恐らく私だけではなくて、やはりその令状については慎重に判断しているのだろうというように思います。  しかし、もし仮に言いなりになっているという批判が当たるとするならば、それはそれで確かにおっしゃられるようなことになるだろうという、その危惧も出てこないわけではないと思います。しかし、この令状の審査というものは事前的なものでありますし、事後的なチェックというのは十全の、例えば刑事裁判手続におきましてもそれ以外の国家賠償におきましても、いろいろな形でできるものでありますので、その点の事後的な救済ということも恐らく可能であろうというように考えております。
  127. 高田昭正

    ○高田参考人 確かに、捜査段階裁判官の令状審査について批判があります。強制捜査の請求の却下率が極めて低いというのは事実であります。被疑者を勾留する請求につきましても、その却下率は千に一つ、〇・一%ぐらいにとどまっております。ただし、請求権者の捜査機関側あるいは検察側が縛りをかけているという評価もございますし、基準が客観化しているというような評価もあって、確かにこの点はちょっとなかなか評価が難しいところではあろうかと思います。  ただ、繰り返しますが、現実に極めて請求却下率が低いという事実については、裁判官の令状審査が形骸化しているのではないかという批判を現実には免れないものだろうと思います。  私が意見で述べさせていただきましたのは、アメリカなどではそうなんですが、強制処分権限の主体である裁判官が、みずからの個人責任として、いわば市民に対する権利侵害を命令したみずからの行為についてきちんと責任を持つ、そのための詳細な資料を捜査官側に事前にも事後にも要求して、みずからの裁判の正しさというものを事前にも事後にも確認するという手だてをとっております。  そういうような立場、態度というものを我が国の裁判官も、例えばこの盗聴、通信傍受についてとるべきである、そのための具体的な立法措置は少なくとも必要ではないのかというふうに考えております。
  128. 岩村智文

    ○岩村参考人 裁判官の令状審査に問題があるのではないかというのは、本日配付させていただきました「座談会」と称する冊子をお読みいただければおわかりいただけると思います。その中でも問題になっておりますが、結論的に言いますと、捜査側が作成した資料を見て裁判官が判断するので、その裁判官としては、慎重に検討しても一方的な資料のみで判断せざるを得ない、そういう仕組みの中にいるんだということをやはり認識しておかなければならないというふうに思います。  私は、そういう中で、現実傍受をする場合の第三者の役割というのは非常に重要になる。ですから立会人とかそういうシステムの要素が重要になるというふうに考えておりまして、日弁連としてもいろいろ検討して、第三者に裁判官がというわけにすぐいかないでしょうし、それが適当かという問題もあるというふうに考えますと、何か別の機関をつくってそういう現実傍受活動をチェックするというようなシステムも本当は検討すべきではないかというふうに考えております。
  129. 細川律夫

    細川委員 次に、この法案の第三条の傍受の要件についてお聞きをいたしますけれども、その中で、犯罪類型が三つありまして、第二、第三類型につきましては、過去だけではなくて将来の犯罪についても傍受を認めているわけなのです。これは、犯罪の予防、情報収集を目的とする行政警察活動でありまして、捜査概念を著しく拡大をするという批判もございます。特に第三類型は、過去の犯罪と将来の犯罪とが同一でなくて、もう過去の犯罪がこの法案犯罪対象でなくてもよいということで、この規定が濫用される可能性がある、こういう指摘がなされております。  これについて、もう時間もありませんから、簡単に、どういうふうにこの点について考えられるのか、お聞かせをいただきたいと思います。簡単で結構です。
  130. 平良木登規男

    ○平良木参考人 この点は、確かに規定の文言、内容からしますと、そのとおりでありますけれども、この程度のことでありますと、現行の裁判例の中でも恐らくここは許容されるんじゃないかというふうに考えております。  ただ、その許容した場合に、過去の犯罪ということを前提に現行法では組み立てることになりますけれども、そういったときに、その盗聴した内容自体が公訴提起されるという、いわばねじれ現象があるので、そのねじれを正すというのが恐らくこの真意ではないかというように考えております。  したがいまして、この程度のことは現行法の解釈のもとでも当然許される範囲じゃないかというふうに考えております。
  131. 高田昭正

    ○高田参考人 時間の制約がありますので、原則的なことだけ申させていただきますが、法案は、確かに将来の犯罪に対する捜査、盗聴、通信傍受を認めております。  私は、本来、刑事手続における強制処分というのは、具体的な証拠的基礎というものを持つ過去の犯罪事実、その主張との関連で命令されるものでなければならないと思います。具体的な証拠的基礎が現にあるという、そういう点に内在的に限定された過去の犯罪事実の主張と関係しなければなりません。ここから、刑訴法上の、刑事手続上の強制処分の範囲もおのずと限定されることになります。しかし、予測による将来の犯罪捜査についてはそういう内在的な限定が働きません。したがって、将来の犯罪を対象とする通信傍受による権利侵害性というのは歯どめなく大きなものになってしまう危険を持つというふうに懸念しております。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
  132. 岩村智文

    ○岩村参考人 私は細川先生御指摘のとおりだというふうに思います。  ここで一言、違った点から申し上げておきたいんですが、今度の法案、三法案全体が事前予防的な色彩が極めて強い法案になっております。安全ということで、事前に予防していこうという方向に一歩踏み出した法案というふうに思っておりますので、今後のこういう刑事罰等を考える場合に、事前予防的な方向にこの刑事体制が向かっていっていいのかどうか、社会というものを事前予防で、先手先手を打って、安全のためになら先に何かを抑制していくという、規制していくというやり方がいいのかどうかという点が、今度の法案に問われているのではないかというふうに考えておりますので、その点の角度からもよろしく御審議いただきたいと思います。
  133. 細川律夫

    細川委員 三人の先生方、お忙しいところをおいでいただきまして、御参考意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。終わります。
  134. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、漆原良夫君。
  135. 漆原良夫

    ○漆原委員 公明党・改革クラブの漆原でございます。  きょうは本当にありがとうございました。  まず、平良木参考人からお聞きしたいと思うんですが、先生がドイツにいらっしゃるときの経験を話していただきました。麻薬と犯罪組織撲滅の立法と取り締まりをドイツが強化して成果を上げたというふうな話でございましたが、今回の通信傍受法案との関連で見てみますと、今回は麻薬に限られていないということで、非常に広い犯罪が対象になっているということが一つと、それから、二人以上の共謀があればいいということで、組織性も要求されていないという、この点について先生の御意見があればお聞かせ願いたいと思います。
  136. 平良木登規男

    ○平良木参考人 確かにそのとおりでありますけれども、しかし、これは考えてみますと、先ほど早口で申し上げましたけれども、やはり複数による犯罪危険性と、それから、特に通信というのはそういうときに使われる可能性が極めて高いということも考えていきますと、その必要性が出てくるだろうというように考えております。  先ほど特にこれは申しませんでしたけれども、ドイツの立法につきましては、組織犯罪ということが重要なターゲットになっているところであります。それに対する徹底的な取り締まりのために、例えば秘密捜査官の制度が前からあるというような非常に思い切った制度をとっているというようなところもあります。  以上であります。
  137. 漆原良夫

    ○漆原委員 三人の参考人の先生方に共通してお伺いしたいんですが、今回の通信傍受法案では将来の犯罪に対する傍受が認められております。  現行法では、犯罪が発生した後に捜査が行われるということが刑事訴訟法上の大原則となっておるわけでございますけれども、将来犯罪のための通信傍受が認められるということで、司法警察と行政警察との境界があいまいになるのではないかという指摘もなされております。この点に関して三人の参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
  138. 平良木登規男

    ○平良木参考人 これも先ほども申し上げたところと若干重複することになるかもしれませんけれども、確かに、この文言からすると、将来の犯罪というように読むことが可能でありますし、これをめぐって例えば学界でも非常に反対があるということは事実であります。  しかし、それでは、翻って考えてみて、将来の犯罪というのはなぜだめなのか、そのための捜査がなぜだめなのかというと、私は、これは恐らくこの対象の不特定さ、不明確さということにつながってくる危険性があるからだというふうに考えております。  ところが、今度の法案を見る限りでは、これは極めて抑制的であります。その意味では、将来の犯罪ということが非常にクローズアップされて、どうもひとり歩きし過ぎているようなところがありますけれども、そういう、先ほど申し上げたような観点からしますと、ここの限度はまだこの立法として可能であろうというように考えております。  また、司法警察と行政警察という点に関しましても、私も従前は、今、先生がおっしゃられたように考えておりました。しかし、最近、この司法警察と行政警察の区別というのが概念的には非常にはっきりしますけれども、しかし、例えば職務質問一つとってみても、これが本当に行政警察なのか、あるいは捜査の端緒になることなのかという区別が実は不明なところがあります。  そういうことを考えていきますと、ここのところを金科玉条のように守っていくというよりも、むしろもう少し観点を変えた立場から考え直してみるのがいいのかなということで、先ほど私は本の改訂を考えているということを申し上げたものであります。  以上であります。
  139. 高田昭正

    ○高田参考人 行政警察活動の重要な目的の一つ犯罪の予防であります。将来の犯罪に対する警察の調査活動がこの犯罪の予防のためであれば、情報収集の警察活動の結果というものを犯罪の抑止に結びつけることによって、警察活動は全体として行政警察の枠の中でいわば完結することになります。  これに対して、将来の犯罪捜査として行われる通信の傍受については、そもそも犯罪の予防にはなりません。むしろ犯罪の発生を待つものとなります。犯罪を予防してしまいますと、検挙すべき対象がなくなってしまいますので、もはや捜査とはいえないという関係にあります。  しかし、先ほど申しましたように、将来の犯罪に対する警察の情報収集活動が行われた結果、関係犯罪の検挙に結びつくということはあるでしょうけれども、そして、その情報収集活動の結果が刑事司法の場で利用されるということはあるにしても、それだけのことだろうというふうに思います。両者を厳格に区別すべきだと思います。  それだけでなくて、将来の犯罪に対する捜査というものを認めてしまいますと、先ほど申しましたように、目の前に犯罪が起きているのを警察官としては手をこまねいて待たなければならないという、犯罪の予防という、それ自体極めて重要な行政上の課題がなおざりにされてしまう、そういう不正常さも持っているところです。  法案はやはり、先ほど申しましたように、むしろ情報収集目的の警察盗聴の実質というものを不当に司法活動、警察活動の中に持ち込んでしまうことにならないかという懸念を、私は持っております。
  140. 岩村智文

    ○岩村参考人 司法警察が行政警察と違う一つの特色は、令状によって強制力を持つということですね。身柄を拘束する、あるいは捜索・差し押さえをする、こういう強制力を持ちます。  そうしますと、行政警察と強制力を持つことのできる刑事警察の境界があいまいになって、予防的な方向にも入っていくということは、逆に言うと、この強制力が行政警察の分野までどういう形で及んでいくのか、そういう問題にかかわってくるわけですから、この点はよほど慎重に考えて、やはり峻別する方向性を目指すべきだというふうに考えております。  以上です。
  141. 漆原良夫

    ○漆原委員 高田参考人にお尋ねしたいと思うのですが、先ほど、裁判官によるコントロールが不十分ではないかという観点から、別件傍受の問題とか実施中におけるコントロールの問題とかをお話しいただいたわけでございますが、この別件傍受の際、あるいは実施中におけるコントロール、具体的にどんなことを御提案されるのか。その辺、御提案の内容をお聞かせいただければと思いますが、よろしくお願いします。
  142. 高田昭正

    ○高田参考人 別件傍受の問題につきましては、裁判官が事後に、別件について通信を傍受すべき理由と必要性あるいは相当性が本当にあったのかどうかチェックして、事後であれば令状を発付するという手続が必要であろうと思います。通信の当事者に通知がなされる限りで不服申し立てという手段もございますけれども、すべての別件盗聴について、少なくとも事後に裁判官が令状を発付してコントロールを強く及ぼすべきだろうというふうに思います。  それから、令状の執行中ですけれども、例えば、令状の執行中についても逐一リアルタイムで傍受の経過、結果について裁判官に報告しなさいというふうに義務づけるような措置が私は必要であろうと思います。その結果に基づいて、通信傍受を取り消すといった具体的な権限裁判官に与えるべきであろうと思います。  関連して申しまして恐縮なんですけれども、例えば、法案では、十日間の通信傍受期間の経過後に、さらに十日ないし二十日といった限度で再傍受というものが認められております。この再傍受の件につきましても、結局、十日間通信を傍受した結果、何の成果もなかったというふうなケースで再傍受が求められてしまうということになるわけですが、こういうケースは本来もともと傍受すべきケースではなかったにもかかわらず、必要があれば再傍受が許されるというような非常に抽象的な要件で裁判官は令状を発付しなければなりません。  盗聴の要件があれば、それだけで令状を発付しなければならないという、これは逆に、裁判官のコントロールというものが十分には機能しないということを前提にしてしまったものではないか。少なくとも、十日間の期間なぜ傍受が実効性がなかったのかというようなことをきちんと報告させるといったことをやらなければ、裁判官のコントロールというものは十分に機能しないだろうと思います。
  143. 漆原良夫

    ○漆原委員 岩村参考人にお尋ねしたいのですが、通信傍受の要件として、犯罪の高度の嫌疑あるいは通信の蓋然性あるいは補充性、いろいろな要件が条文上書いてあります。この要件が、きちっと裁判所が、令状発付の際にこの要件を守っていけるかどうかな。今までの捜索・差し押さえ令状の却下率が〇・一%だということを聞いておりますが、幾ら厳密な要件を課したとしても、その要件が守られなければ、裁判所によるコントロールというのはないわけですから、長年の弁護士経験から御判断いただいて、裁判所が果たしてこの要件を厳格に守っていける体制かどうか。どうお考えか、お知らせいただきたいと思います。
  144. 岩村智文

    ○岩村参考人 この点が非常に厳しいわけでありまして、私どもが弁護士の目から見ておりますと、裁判官として考えてみても、厳しい要件があった場合、捜査機関からある資料が提出されて、令状発付を求められる。それに対して、足りないといったときに、そのまますぐそこでだめというふうに言えるかという問題なんですね。足りないからもっと出しなさいというふうになると、結局、捜査機関がいろいろ資料をそろえて持ってきて、ああ、やはり犯罪が起きそうだというふうに思う方向にその気持ちが働くといいますか、機能が働いてしまう。そういうことになっているということを非常に危惧しておりますので、法案で要件だけを厳しくしたから十分だ、安心できるというふうにはならないと考えております。  したがって、ほかの面でチェック機能をどういうふうに働かせるかということを、やはり慎重に見ていかなければいけないというふうに考えております。
  145. 漆原良夫

    ○漆原委員 岩村参考人に引き続いてお尋ねしたいのですが、今回、立会人について切断権を認められておりません。そういう意味では、検証令状よりも後退をしたというふうに言われておるところなんですが、実際にこの通信傍受令状が非常に幅広く申し立てられることになっておるわけですけれども、その幅広い犯罪対象に、果たして立会人に相当かどうかの判断ができるだろうか。  立会人という人は、通信手段を管理する管理者という立場の人が立ち会うわけでございますが、この管理者が果たして本当に、捜査令状の内容を判断してストップをかけるかどうかを、そういう大きな判断にそもそもたえ得るのかどうか、そういう判断をこの管理者という立場の人に与えていいのかどうか。この辺はいかがでしょうか。
  146. 岩村智文

    ○岩村参考人 先生のおっしゃるとおりだというふうに思います。  この傍受の範囲が非常に幅広くなって、将来犯罪とかそういう問題の関連性まで考えるとなると、通常の立会人にその判断をせよというのは過酷であり、やはり無理があるというふうに考えております。したがいまして、もしこういうシステムをとるのでしたら、その犯罪というものをどれほど限定するかですとか、あるいはその立ち会う人を適切な形態に変えるとか、そういうシステムにしなければ有効性が発揮できないのではないか、そういうふうに考えております。
  147. 漆原良夫

    ○漆原委員 最後にもう一点だけお聞きしたいのですが、岩村参考人でございますが、今回の法案では、違法収集証拠の排除が厳格な意味では使われていない。捜査機関は、やはり必然的に捜査を拡張していくわけですから、場合によっては、無意識においてものりを越えてしまう危険性もある。しかし、弁護人の立場から見ると、そこのところが違法収集証拠全部排除ということになれば、それが結局、翻って捜査機関の通信傍受を抑制する結果になるのではないか。そういう意味で、今回の法案は厳密な違法収集証拠排除の原則が適用されていないことについて、私は若干の疑問を持っておるのですが、参考人の御意見をお聞きしたいと思います。
  148. 岩村智文

    ○岩村参考人 おっしゃるとおりでありまして、先ほども述べさせていただきましたが、法案の中で二十六条三項というところで、普通の違法、普通の違法というと変ですが、重大でない限りはそれを証拠とすることの道が開かれておりますので、この点はやはり重大な問題があるというふうに考えております。
  149. 漆原良夫

    ○漆原委員 質問を終わります。三人の参考人の方、ありがとうございました。御苦労さまです。
  150. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、達増拓也君。
  151. 達増拓也

    達増委員 自由党の達増拓也でございます。  平良木参考人に質問いたしたいと思います。  冒頭、賛成の根拠として、ドイツにおける経緯、麻薬について、幾ら売人を押さえても、組織犯罪としてその背景を押さえない限り、イタチごっこのような格好で結局問題は根絶しない、組織犯罪のそういう特殊性にかんがみ、やはりそれに対応した専門の立法をする必要があるという趣旨と理解したんですけれども、そういうことでよろしいでしょうか。
  152. 平良木登規男

    ○平良木参考人 そのとおりであります。
  153. 達増拓也

    達増委員 そこで、通信傍受法案立法の必要性についてでありますけれども、裁判例との関係ということで現行法上対応できるケースもある、しかしやはり新しい立法が必要であるという必要性について、もう少し敷衍してお話をいただきたいと思います。
  154. 平良木登規男

    ○平良木参考人 先ほども申し上げましたように、裁判例によって通信の傍受というのは一定限度で認められているわけであります。しかし、その根拠につきましては、これは非常に多岐に分かれていて、肯定する側においても見解の対立がある、もちろん反対もあるということであります。そして、そのことを前提に、今度は要件を考えていくということになると、その前提によってさらにその要件が異なってくる可能性が出てくるということであります。  そういう争いがあるのだとすると、むしろ根拠を明らかにすることがまず大事であって、そしてそれに基づいて厳密な要件を定めていくということが、結局は電話傍受の限界を明らかにすることになるという意味でも必要なことだと思うというわけであります。
  155. 達増拓也

    達増委員 さらに平良木参考人に質問いたしますが、根拠の明確化と要件の整備ということで、もう少しそこを敷衍して説明していただきたいと思っていたんですけれども、今回の法案、まさに組織犯罪を列挙することによって根拠を示し、それに対応した要件ということを出していると思うんですけれども、やはり組織犯罪の外縁といいますか、どこまでを入れるかということについていろいろな議論があると思うんですが、そこの基準をどのように考えればいいとお考えでしょうか。
  156. 平良木登規男

    ○平良木参考人 もうひとつ御質問の趣旨が明確につかめないのでありますけれども、例えば要件を考えていった場合に、これは例えば、だれが請求して、あるいはどの日数で傍受を認めるかという問題が出てまいります。そういったときに、そこのところはまず一般の令状、つまり検証なら検証、捜索・差し押さえなら捜索・差し押さえの限度で認めるということにならざるを得ないわけであります。御承知のとおり、裁判例は今のところ非常に抑制的であります。  しかし、これはどこまで認めるかということになりますと、これは具体的な事案を通じて認めていくということになるわけでありますから、ここのところの要件というのは、例えば諸外国の要件を前提にしてこれを慎重に検討した上に個々具体的に定めていかなければいけないところだろうというように思います。  そしてまた、この犯罪対象につきましても、確かに限定する方向ということも考えられるわけでありますけれども、しかし、逆にこれでは足りないという問題も当然出てくるだろうと思います。そういったときに、諸外国立法傾向を見ていきますと、まず法定刑によってこの限度であるというように定めている立場と、それからもう一つは、日本のように、犯罪を具体的に特定してこの限度だというように定めている、そういう双方のやり方があるわけであります。  そういったときに、その程度で十分かといいますと、これも先ほどちょっと申し上げましたけれども、警察の現場サイドで問題にしたのは、例えばのみ行為を電話で広くやっている、こういうときに、電話一本で何千万というお金を動かしている、これを盗聴できないじゃないか、これは盗聴できなければ恐らくほとんど検挙不可能になってしまう、こういう問題があるんだということを指摘されております。しかし、ここのところは、現実の問題として盗聴の対象になっていないというわけであります。  そういうように、どういう犯罪を対象にするかということについては、これはまだいろいろ考える余地があるだろうと思われますけれども、ここは恐らくいろいろな形で今後の課題になるんじゃないかというようにも考えているところであります。
  157. 達増拓也

    達増委員 では、続いて高田参考人と岩村参考人にこれは同じ質問をさせていただきます。  先ほどから取り上げられております司法警察か行政警察かという、将来犯罪に関する通信傍受というものの性質についてなんですけれども、組織犯罪の特殊性として、犯罪の継続性といいますか、繰り返し同じパターンの犯罪が行われ、かつその一つ一つ行為者が違う行為者であったとしても、同じ人物なり組織なりから命令が出ていて、そうした背後を押さえない限りきちっとした捜査にならないという問題点があると思うんです。そうした組織犯罪の特殊性という観点から、伝統的な捜査概念というものに疑問が突きつけられているところもあると思うんですけれども、その点について、御意見を高田参考人と岩村参考人に順番にお聞きしたいと思います。
  158. 高田昭正

    ○高田参考人 組織的犯罪の中核の一つであるのが薬物事犯なんですけれども、確かに薬物事犯については反復性あるいは組織性があるというふうに言われます。ただ、反復性、組織性があるというふうに言われます場合、逆に、既に過去の犯罪についての嫌疑があるということも言えるわけでして、過去の犯罪捜査という枠の中で検挙の実を十分に上げることも可能であろうというふうに思います。反復性、組織性、それ自体が将来の犯罪に対する捜査それ自体を必要とさせるというか、多分そういう関係にはないのだろうというふうに考えております。  先ほど申しましたように、刑事手続上の権利侵害の処分と申しますのは、現実に存在している具体的な証拠に基づく過去の犯罪を根拠にするという形で内在的にその侵害の範囲というものが決まってまいりますので、刑事手続上の権利侵害というのは極めて強いかつ深いものにならざるを得ませんので、今申しましたような、過去の犯罪捜査限定するという形で、許される強制処分の内容について厳格な縛りを、あるいは絞りをかけていくということが必要であろうというふうに思っております。
  159. 岩村智文

    ○岩村参考人 繰り返し同じ犯罪が行われるということを御指摘になりました。覚せい剤事犯は確かにそうだというふうに思います。この法案でいいますと、第三条一項の二号のイというのは、これは今おっしゃられた犯罪なんですが、ロは若干これに近いことは近いんですが、少し違っております。  三号は、明らかに違う形態の将来犯罪を目指しているものでありまして、この通信傍受の対象となっておる犯罪ではないんですが、ある犯罪が行われたときに、その犯罪捜査機関はつかんだんだけれども、これは将来殺人をするための前提犯罪だ、したがって泳がせておいて、殺人をするという確証を電話傍受でとろうというものなんですね。起きた犯罪について電話傍受をとろうというのではなくて、次にやる殺人という犯罪の証拠を裁判になる前にそろえておこう、こういう、犯罪が発生する前に証拠をそろえるという不思議な形態になっているんだということもちょっと申し上げておきたいと思います。  したがって、そういう意味では、捕まえられるのは泳がせておいて、その後ろにいるのを何とか探りたいというための手法、泳がせというふうによく言われておりますが、そういうものだということが一つの特色であります。  それともう一つ、令状が発付されて、今まで覚せい剤事犯でいろいろ捜査が行われたわけですが、事実としては、大物は捕まっておりません。それで、法務省等が事例として出している、電話が使われたという事例であっても、本当に盗聴があればその事案は防げたのか、あるいはもっと的確な捜査ができたのかということについては、法律ができていない限りはそういう定かでないことは言えないというのが今まで法務省が私どもに説明してきたことの内容でもありますから、そういった点で、こういった点の検証というのは非常に難しいというふうに考えております。
  160. 達増拓也

    達増委員 私の質問、これで終わります。ありがとうございました。
  161. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、木島日出夫君。
  162. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。三人の参考人の先生方、本当にありがとうございます。  私も通信傍受に関して集中的に聞きたいのですが、この問題の一つの大きな問題は、やはり刑事警察としての日本の警察のあり方から、行政警察への変質、変貌だというふうに思っているわけであります。  まず、平良木参考人にお聞きしますが、先ほども御答弁になりました。捜査概念の修正を迫るものだとおっしゃられました。恐らくそれは、司法警察から行政警察への変化という意味のことであろうかと思います。  そこでまず、先生がお使いになっている、このレジュメにある司法警察の本質は何か、行政警察の本質は何か、両概念の基本的違いは何かという点をお聞きしたいのです。  これに対して、先ほど岩村参考人から、その違いの一つの中心は、令状が発付されて、強制力を持った警察活動になるか否かだという点が指摘されました。私もまことにそのとおりだと思うのです。事実上、司法警察という名をかりて、強制力を令状でもって、やっていることが行政警察だ。行政警察というのは本来、市民、国民の理解と同意の上にやるべき性質の警察活動だと思うので、やはり峻別が必要だと私も思うのです。先ほどの岩村参考人立場と私も同じなのですが。  そういうことも踏まえて、この問題に先生としてはどういう立場なのか。両基本概念の違いと峻別が必要ではないかという指摘に対して、先生、どう答えられるのか、お聞かせ願います。
  163. 平良木登規男

    ○平良木参考人 おっしゃられるとおりでありますが、私も従前は、捜査というものは、嫌疑があって、その上で犯人と証拠を捜査するというのが本来でありまして、それが司法警察の役割だというふうに考えておりました。また、別に、犯罪を予防ないしは鎮圧するというものは、これは行政警察の範囲に属するものというように理解しておりまして、その点はまことにそのとおりなわけです。  そこで、さて、そのことを前提にいろいろ考えていきますときに、いろいろなことがあります。例えばオービスIIIという、高速道路で車がスピード違反をしたときにぱっと光ってやるものがあります。あれは捜査のために使われることが非常に多いわけでありますけれども、実は、犯罪があることを前提にあらかじめ備えているものではないかということであります。さらに、例えば、違法なデモが予想されるというときに、警察の方で、私は裁判でたくさん扱ってきましたけれども、採証班というのをつくりまして、カメラを構えて待っております。そういう、待っている行為というのが、これは実は犯罪前提にしているものではないわけでありますけれども、これができないかということなのであります。  そうすると、いわゆる司法警察というのは、確かに捜査ということが前提になって、しかも捜査というのは、従前は嫌疑があるということを前提に現行法は組み立てられておりましたけれども、今の現状というのは、もうそこを超えてしまっているものが幾つか入ってきているんじゃないかということであります。  このことを肯定するかどうかということが改めて我々に突きつけられる問題ではないか、そこの延長の上で今度の法案も考えなければならないということでありますけれども、今度の法案に関しましては、確かに表現はそのとおりであります。しかし、これは、もともと従前のやり方に幾つか問題があると言われていたところとも関連しまして、今の検証の方式でやるということになりますと、確かに過去に生じた犯罪前提に行っております。その意味では、これは現行法にかなったやり方をやっているわけであります。しかし、実際の公訴提起というものを見ますと、その検証の根拠になった被疑事実が起訴されているわけではなくて、現実に盗聴されたそのものが起訴されているということがあるわけであります。  これも、なぜそうなるのかということについて幾つか理由が考えられますけれども、そのことはともかくとして、そういう現状が悪くはないということになるとすると、それはむしろ今のようなやり方を前提にするというよりも、もう一つ見方を変えて、その限度で電話の傍受を許すというのも一つの考えじゃないかというように変わってきたということであります。
  164. 木島日出夫

    ○木島委員 今の件に関して、先ほど参考人は、司法警察と行政警察の区分けの問題に関して、憲法の制約に触れなければ、法律がきちっとできれば、行政警察的な活動に対しても令状を発付して強制処分してもいいのではないかというお考えだと思うのですね。しかし、きょう配付されております日弁連からの「よくわかる通信傍受法・組織的犯罪対策法」の八ページのところにありますが、憲法三十五条を指摘しておりまして、これは将来犯罪に対して盗聴できるという問題に対する意見なんですが、「憲法三十五条は、令状は「正当な理由」に基づいて発せられなければならない、と規定」している。「「正当な理由」に犯罪の発生を読みこむ立場に立つと、発生前の捜査を認める法案のこの規定は憲法違反の規定」となるという文言があります。  改めて憲法三十五条を見てみますと、これは捜索押収の規定でありますが「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」要するに、明示性という問題がやはり根本問題としてあるわけです。  午前中の参考人の一先生からも、明示性というのはやはり大問題だという指摘がありました。まさにこの通信傍受法、きょう時間がないから細かく私は述べませんが、この明示性が非常に崩れているという大問題があるわけですね。憲法三十五条の捜索だと先生もおっしゃられますが、捜索的要素があると。そうすると、やはり明示性という問題は避けて通れない。それは単なる法律をつくればいいものじゃなくて、憲法三十五条のこの制限、制約をクリアできなければ、やはり違憲だというそしりを免れないと思うのですが、参考人の御意見、どうでしょうか。
  165. 平良木登規男

    ○平良木参考人 おっしゃられるとおりであります。私も基本的にそのように考えております。  ただ、一つは、憲法の規定を見る場合に、令状主義と言われるものには、対人的なものとして三十三条があります。そしてもう一つは三十五条があります。三十五条の文言というのも、これは三十三条の文言との兼ね合いで考えていかなければならないだろうと思うわけです。  そういったときに、三十三条は、確かに犯罪の嫌疑ということを、これはどう見ても前提にしております。しかし、三十五条は必ずしもそういう文言を使っておりませんで、先ほど先生がおっしゃられたとおり、「正当な理由」ということで言葉を置きかえているわけであります。もし、これが必ず、絶対にいわゆる嫌疑ということを前提にするならば、そのことを前提にするということもあってよかったのではないかという気がいたします。  そのことはともかくとして、先ほど先生、明示性の問題だとおっしゃられましたけれども、私も全く同様に考えております。そういったときに、将来発生する犯罪について令状を発するということにつきましては、一般的にそのような問題が生じてきます。したがいまして、私もそれはできないと考えております。  ただ、今度の法案を見ましたときに、これは極めて限定があるんだ、例えば過去に同じような犯罪があるとか、そういうことが前提になっている限りは、これは明示性に特に欠けるところはないのではないか、その限りで、この法案は肯定できるのではないかというように考えているということであります。
  166. 木島日出夫

    ○木島委員 その問題で岩村先生のお考えを聞きたいのですが、二つ聞きたいのです。  一つは、今、限定があると平良木先生おっしゃいましたが、それに対しての岩村先生のお考えと、先ほど平良木先生の方から、刑事司法警察と行政警察の峻別、区分けが現実の問題としては境界線があいまいになっているではないか、スピード違反の問題しかり、ほかの問題しかり、そういう現実を肯定するかどうかがこの法案によって問われているんだという指摘がありました。こういう指摘に対して、岩村先生は、先ほど峻別が必要だというお立場でしたが、どう考えているのか、お聞かせ願いたい。  後者の問題を、高田先生、どう考えているのか。高田先生の先ほどの陳述をお聞きしますと、警備公安警察の活動司法の場を利用して与えてはならぬという立場だと思うので、やはり峻別しなければいかぬという立場だと思うのですが、改めて、今平良木先生から提起されたその問題についてのお考えを聞かせてください。
  167. 岩村智文

    ○岩村参考人 憲法三十五条によりますと、結局、物の特定と場所の特定というのが必要になってくるわけですが、この盗聴法で難しいところは、物というのを特定できるか、そもそも会話というものは特定できるかという、これはもうまず大前提にあるのです。会話そのものがこれから起きることですね。ですから、これから起きることを特定できるのか、これは普通はなかなか至難のわざだ。その人が何か、これほどやっていたんだから今度もやるだろうということで、ようやっと何か少しおぼろげに、会話があるかなという限定が来る程度で、会話の性質としては、特定というのはかなり困難だ。  その特定が困難な上に、今やっている犯罪でない、今度それから発展するかもしれないしやるかもしれないという将来の犯罪についてまた特定しろというふうになると、二重三重にこういうふうに抽象的になっていくわけですから、物の特定という意味でも非常に厳しい。  場所の特定でもそうですね。電話といいますけれども、電話というのはいろいろな人がかかわってくる。物で考えますとアパートの一室というふうになるわけですが、電話がかかって、四六時中聞くとなると、その場所というのは一体何なのだ、携帯電話になったら場所とは何なのだという問題になってくるわけでありまして、そういう意味でも非常にあいまいだというふうに考えております。  それともう一つ、行政警察と刑事警察の点であいまいになってきて、最近、行政警察の方面で、人に対して、信頼と合意というふうにおっしゃられましたが、そうではなくて、ある意味で強制力を用いる場面が時々出てきて問題になっております。そういうときに、そういうものがあるから、ある意味でいうと、刑事警察と行政警察の峻別をやめて、その垣根を外して少しルーズにしていいんだという方向に行くのか、そういう危険な事態も一方であるから、峻別をもう一度きちんとした上で、刑事警察は刑事警察、行政警察というのは市民と一緒になっていろいろな日本社会の安全を守っていくんだ、こういう形の二つの峻別をもう一度やり直すということをしないと、逆に危険なのではないかというふうに考えております。以上です。
  168. 高田昭正

    ○高田参考人 御質問の御趣旨は、例えばオービスIIIですとかあるいは車中のすりのいわゆる迎撃捜査というふうに申しますが、そういった捜査活動が行政警察と司法警察の峻別論では説明できないじゃないかという、多分、それを峻別論の立場からどう説明するんだという御質問であったかと思うのですけれども、私は、問題にされているケースは、いずれもいわば事実上現行犯逮捕、現行犯でないと検挙できない、あるいは検挙が非常にしにくいケースなのですね。ですから、そういうケースが前提になっているということ。かつ、行政警察活動として行われている警察活動の延長線上に、流動的な形で犯罪の検挙、捜査司法警察活動に発展していくというようなケースがある。  私は、車両のすりの迎撃捜査にしてもオービスIIIにしても、結局はそういうものだとして理解すべきだろう。やはり途中までは、法的にはあるいは権限の上では行政警察活動として許されていることであり、行政警察活動として許されている権限しか認められていないのですね。  ただし、犯罪の特殊性からして、捜査に変わるときには、変わる時点があるのですが、それはいわば現行犯として逮捕してしまうというときしかなくて、そうすると、行政警察活動がある時点から突然に司法警察活動に変わるということは、やはりこれは現実にはある。行政警察活動というものの懐の広さに由来することですけれども、そういう事態があるからといって、私は、両者の峻別論が意味を持たないものとは思っておりません。両者の峻別論は、あくまでも行政警察ないし司法警察における警察の権限の違いというものを法的に区別し説明するための理論であって、この理論の持つ意味はなお大きいというふうに考えております。
  169. 木島日出夫

    ○木島委員 ありがとうございました。終わります。
  170. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、保坂展人君
  171. 保坂展人

    ○保坂委員 社会民主党の保坂展人です。  まず、高田参考人お願いしたいのですが、午前中の質疑で、渥美東洋参考人アメリカの最新の例を伺いまして、バリー・スタインハードさんが最近来て、日弁連でアメリカの状況を語っていただいた中に、例えば、デジタル技術に通信が変わっていく中で、デジタル通信社に盗聴装置を義務づけたり、あるいは携帯電話にその携帯電話の場所を特定できるシステムを組み入れていく、あるいは移動盗聴といって、まさに私なら私の家の電話じゃなくて、私の事務所の電話だったり、あるいは党の電話だったり、あるいは関連する友人の事務所、つまり、使うだろうという電話すべて盗聴できる、かなり拡大をし続けているということについては非常に懸念を示された。渥美参考人も懸念を示されたわけなのです。  つまり、デジタル技術の飛躍的な向上ですね。昔なら考えられないことですけれども、例えば、今一軒の家の会話を驚くほど小さな容量のチップにおさめるということも、日ごとに向上していますから、先ほど参考人がおっしゃった、対象犯罪が広い中で、例えば内乱罪というのがあって、警備公安警察が、その対象であれば、市民団体、労働組合、あるいはNPOなども対象として、すべて聞き続ける、いわばそういう危険があるのじゃないかということをおっしゃったと思うのですが、技術の飛躍的な拡大と絡めて、そのあたりをもう一言お願いします。
  172. 高田昭正

    ○高田参考人 一般論としまして、科学技術の進展による捜査活動の広がり、あるいは科学技術の進展による捜査技術の進展に伴う権利侵害の広さ、深さというのは現代的な問題として非常にあるところであります。  私は、むしろその点については、基本的には憲法の制約というものがかかってくるというか、憲法の制約をどこまで厳密に考えるかということに基本的にはかかってくるだろうと思います。我が国の場合、ドイツに比べてもアメリカに比べても、盗聴に対する憲法的規制というのは一番厳しいんですね。  と申しますのは、ドイツについては先ほどちょっと申しましたけれども、憲法二十一条に当たる規定というのがございます。ドイツではそれに法律の留保がついております。つまり、法律制定すれば通信の秘密を制限してもいいということが明文で、憲法を改正して定められております。日本ではそれがありません。絶対的な規定です。ただし、ドイツでは憲法三十五条に相当する規定がないんですね。  アメリカでは、むしろ憲法三十五条に相当する規定があります。憲法二十一条に相当する規定はございません。そのために、アメリカでは傍受対象の特定とかいうものが問題になっておりますが、アメリカの場合、蓋然的な理由があれば盗聴してもいいというような憲法的規制がかかってまいりますので、どうしても広くなるんです。しかし、この蓋然的な理由というような文言は、日本の憲法三十五条にはありません。要するに、日本の憲法の盗聴に対する規定が一番世界でも厳しいんです。  私は、この憲法の規制が日本が一番厳しいということを、やはりこういう盗聴法案を考える際にも基礎に置くべきことだろうというふうに思います。
  173. 保坂展人

    ○保坂委員 次に、平良木参考人お願いしたいんです。  この法案の中で、いわゆるマネーロンダリングに関する部分なんですけれども、例えば、窃盗ないし別の犯罪によって収益を得た、これは隠匿した場合にまた隠匿罪ということで、今までは不可罰的事後行為というふうに処理をされていたものが、隠匿罪と。隠匿罪というのは具体的に考えてみてどうですかという議論を一昨年ほどしたんですけれども、例えば、押し入れの中に置いておくというのは隠匿に相当せずに、押し入れの屋根裏に置いたら隠匿かと。つまり、非常にあいまいなんですね。  さらに、このあたりは突っ込んだ議論が必要かと思うのは、混和財産という規定がございます。この混和財産というところは、犯罪収益と正当な事業活動収益がいわばまじったものですよということですよね。  そうしますと、例えば、暴力団の組員が正業に戻らなければならないというふうに、いわば足抜けして、市民社会に戻るために店を開く。焼き鳥屋でもいいですよ。その場合に、組長からせんべつをもらった、百万円なら百万円もらった。それは果たして犯罪収益なのか、その組の一定の事業活動によって得た収益なのか、なかなかわかりませんよね。  あと、時効の問題もあると思うんですね。公訴時効、例えば窃盗なら七年と。ところが、その後、押し入れの屋根裏にそのお金を隠しちゃうと、あるいは預金すると、もう一回これは隠匿罪というふうになる。あるいは、情を知って七年前に窃盗で得た金をもらう、そうすると犯罪収益収受罪がまたそこで成立するというふうになると、際限なく訴追できていく。  ということは、確かにそれは厳しくなりますが、結果として、日本暴力団などをさらにマフィア化させてしまうんじゃないか、いわゆる治安はより悪くなるんじゃないかと私どもは心配をしているんですが、そのあたりはいかがでしょうか。
  174. 平良木登規男

    ○平良木参考人 マネーロンダリングの点でありますが、これは確かに隠匿というところは問題にされております。  しかし、例えばこの隠匿というものにつきましても、金銭ではありませんけれども、犯罪あるいは証拠、こういうものが対象になることがありますので、ここら辺がどこまで認められるかということにつきましては、これはもう具体的な事例が起きて、それに当てはめて、そして、そういう集積を待つ以外にないだろうという気がちょっといたします。  問題は、例えば混和財産とか、それ以外のものについて没収することができるかということであります。これは従前、少なくとも現行法の解釈でありますと、犯罪事実ということに非常に厳密に限定されているわけでありますけれども、逆に、そこら辺の規定が非常に厳しいために、少し混和してしまうともうできないということが指摘されていたところであります。  私が裁判官の当時やった事件の中に、のみ行為があります。こののみ行為によって例えば収益が何千万ということでありますけれども、現実に起訴された事実との関係で、これが極めて限定されてしまう。そういう収益があることがわかりながら、現実没収できないということがあったわけであります。  こういう組織犯罪の場合に、利益を上げようというように考えているところでは、そういう利益を上げることを徹底的に根絶しなければいけないということでありますから、何らかの方法によって逃れる方策をあらかじめ断っておく必要というのは、これはあるんだろうと思うわけです。  ここら辺の立法につきましては、これは我が国だけではなくて、ここまでいくと、刑事手続ではなくて、むしろもっと民事的な考え方導入すべきだという考えさえあるようであります。その意味でいいますと、暴力団の資金源になるようなものを野放しにすることはむしろマイナスになってしまう、そのための方策を徹底的に考えるという意味では、まだこれでも手ぬるいという考え方も恐らく出てくる余地はあるだろうと思います。
  175. 保坂展人

    ○保坂委員 それでは、最後に岩村参考人に伺います。  私ども、これはもう日本の刑事政策を根本的に転換する大法案だ、したがって本当に徹底した審議も必要だということで、ここ二年間ずっと議論してきた。今の点なども含めて、例えば、隠匿自身が罪になるんだったら、窃盗で得た収益は飲み食いで使い果たして遊興しちゃった方がいいというふうにも言えるんですね。だって、預金したり隠したら、もう一回そこで時効も切れちゃうわけなんで。そういうことがどういうふうに整理されて体系化できるのかという問題。  さらに、本当の意味で組織犯罪対策という要件がかけていないわけですよね、マネーロンダリングも、それから通信傍受も。組織犯罪対策とついていますけれども、組織は別に条件じゃないということを見ると、どうもこういった手法を我が国に取り入れていくためには、今の警備公安警察というのを大改革しなければならないんじゃないか。  最近、グリーンピースの垂れ幕を下げたという事件がありましたけれども、これなども、グローバルスタンダードとよく法務省も言うんですけれども、日本だけとめ置かれて十日間勾留されて、さらに、名簿、振り込み伝票の一切を押収したんですね。これは世界のグリーンピースは驚いているわけですよ。日本というのは何という国なんだ、警察国家か、こういう声も上がっているので、そういうことについて一言岩村さんの御意見お願いします。
  176. 岩村智文

    ○岩村参考人 直接どうお答えしていいか、なかなか難しい問題なんですが、今回の三法案自体が、今までの日本刑法考え方刑事訴訟法考え方を根本的に変えるまず第一歩になるという点は間違いないというふうに思っております。  ですから、例えば、今までは窃盗というものは十年以下という非常に重い懲役になっている。罰金もないわけですね。その理由としまして、一つには、窃盗をして、その後使ったり、その金を使っていろいろするということも含めて窃盗というものを処罰するんだ、こういう概念で、財産犯というものはそういうふうにして言い切ってきたんです。これからはその後ろも処罰されるというふうになると、今までの窃盗というものは一体どうなるんだという、学者がどう考えるかだけじゃなくて、現実に、今までの処罰範囲というのが、これからは一体何を根拠に処罰するんだという問題が出てくる。  また、先ほど来から議論されています予防の問題、刑事法が予防法的な方向に行っていいかという問題とか、そういうものがさまざまありまして、この法案は、これからの日本刑事法のあり方、ある意味でいうと人権を抑えてでも社会の安全を守るという方向に思い切って進み出すのか、社会の安全とは一体何なんだということが問われてくる時代になるのではないかというふうに考えております。
  177. 保坂展人

    ○保坂委員 一点だけ、平良木参考人に伺います。  午前中も聞いたのですけれども、アメリカのFRBは、いわゆる国際的な合意であった、疑わしい取引を見た場合に金融機関が届け出る義務というものを法制化しようとして、数十万通に及ぶ投書、プライバシー侵害だ、それからそれぞれの金融機関等はやってられぬという声もあって、これは撤廃したという報道があるのですね。これによって大きく六月のドイツ・サミットでの議論も動く、つまり前提を欠く話になるだろうということもあるので、その点についてだけ、簡単に伺います。
  178. 平良木登規男

    ○平良木参考人 私は、この届け出義務につきましては十分に検討をしておりませんが、しかし、疑わしいものについて、例えばこれをそのまま放置しますと、全然だれの目にも触れないということであります。  例えばドイツでは、私が留学したときに少しまとまったお金を持っていったことがありましたけれども、これもやはり銀行独自で調査して、その結果を届けるんだというようなことを言われております。  これはやはりある意味では慎重にしなければならないところがあるだろうとは思いますけれども、しかし態様というのが恐らく非常にさまざまいろいろありますので、具体的にどうだということではなくて、一般的に認めておくということもある意味ではやむを得ないかというように考えております。
  179. 保坂展人

    ○保坂委員 この議論をリードしてきたアメリカが国内立法を撤回する、こういう段階なので、私どもは、こういう法案はもう法制審差し戻しで、徹底的にもう一回出し直すべきだという主張であります。  参考人皆さん、ありがとうございました。終わります。
  180. 杉浦正健

    杉浦委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)  橘康太郎君。
  181. 橘康太郎

    ○橘委員 議事進行について発言を求めます。(発言する者、離席する者多し)  ただいま議題となっております各案審査のため、その審査中、参考人出席を求め……(発言する者多く、聴取不能)……(聴取不能)
  182. 杉浦正健

    杉浦委員長 ただいまの動議に賛成の諸君の起立を求めます。(発言する者、離席する者多し)     〔賛成者起立〕
  183. 杉浦正健

    杉浦委員長 起立多数。よって、動議は成立いたしました。  次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後三時二十三分散会