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浦野参考人 ただいま御
紹介にあずかりました
浦野でございます。
私は、三十五年間、有害な
化学物質関係の研究、教育を行うとともに、
環境庁の
PRTRパイロット事業を初め、国や
地方自治体の
行政にも携わってまいったものでございます。また、
企業との有害
化学物質対策についてのいろいろな
共同の仕事もたくさんやってまいりましたし、市民との
関係、特に正しい知識の普及などにも努力してまいりました。
これらの経験を踏まえまして、現在、
政府及び民主党から提案されております
法案に対しまして、私、
専門家の
立場として、二十一世紀の日本の
国民あるいは
産業や
行政のよりよい形での発展のためになる
法律の制定を願って、主に次の四点について
意見を述べさせていただきます。
お手元に資料を事前にお配りしてございますので、それを
参考にしていただきたいと思っております。
お話しすべきことは、
地方自治体の主体的関与がぜひとも必要である。地方分権あるいは今後の、
企業と地元住民との
関係等のトラブルの削減等についてもこの点が必要である。それから、個別
情報が利用しやすい形で
国民に公開される保証が必要である。それから、
営業秘密審査の公正さを担保し、中央官庁の権限強化や縦割りの弊害を避けるようなことが必要である。それから、内分泌攪乱性、いわゆる
環境ホルモンと言われるものなど
情報が不足しているものでも、
国民不安の大きいものについては
国民意見を取り入れる
制度が保証される必要がある。その他ということでお話をさせていただきます。
初めの
地方自治体の主体的関与についてでございますが、現在の
政府案でも、
技術的支援あるいは
リスクコミュニケーションに自治体等も関与することは書いてございます。
この点でございますが、特に規模の小さ目の
事業所あるいは化学系でない製造業や、全く製造していない非製造業も今回の
対象になります。これらのところでは、
化学物質についての知識が非常に乏しいところもございます。特に複雑な
化学物質の片仮名で書いた名前や報告の
方法というのは、かなり面倒なところもございます。
これらに対して、地元自治体の
化学物質担当者、この人材が有効に機能することが保証された
制度とすることは、
事業者の
負担を少なくし、正しい
PRTR報告あるいは適切な有害
物質管理を効率的、経済的に進める上で非常に重要だと考えております。
また、
化学物質といいますのは、
経団連さんが
調査をしたところは多分かなり大
企業が多いと思いますが、そういうところだけではなくて非常に小さなところでも大変たくさん出ております。
環境庁のパイロット事業でも、規模と
排出・
移動量との
関係というのはほとんどない、非常に小さい規模でもたくさんのものが出ているということがわかっております。
この
制度が正しく機能するためには、
制度の
理解を十分進めて
情報が確実に集まること、それから
情報が正しいというこの二点がないと、
PRTR制度そのものが
意味を失ってしまう。これを周知させるためには、事業官庁が外郭団体や
業界団体等を通じてPRをしていただくことは大変いいことでございますが、これだけでは
全国津々浦々の
事業者に対して指導助言を徹底することはなかなか難しい、自治体の、都道府県等の人材を有効に活用するべきであると考えております。
特に、報告率の高さと公正な、誤りの少ない報告ということが非常に重要で、今回の
法案でも罰則がついておりますが、これをチェックする機能というのが全く明記されておりません。アメリカでTRIが
実施されてから既に十年以上たつわけですけれ
ども、いまだに違反で高額の罰金を受けるケースもございます。日本の中でも、できるだけ正しい報告を集めるためには、自治体の主体的な関与、指導助言と同時に、不明な場合、
調査あるいは悪質な場合の勧告等をする
責務と権限が自治体に与えられる必要があるというふうに考えております。
このことについては、
中央環境審議会の自治体からの公述人
意見で神奈川県の森谷技監が、埼玉、千葉、東京、岐阜、
愛知も入っておりますが、大阪、横浜、川崎、北九州の
意見を聞いた上で出された資料にも、
地方公共団体を通じてできれば報告をすることが望ましい、あるいは立入検査、立入
調査等を行うことが不公正さをなくすためには必要であるという
意見が述べられております。
実際に
環境庁が二年間パイロット事業を行ってきましたが、この場合は説明会等をかなり多数行いまして、助言指導、問い合わせあるいは督促等も行ったにもかかわらず、報告率はおよそ五〇%。この報告率と申しますのは、
事業所の名前あるいはどういう業をやっておるという程度のごく簡単な、様式一というものでございますが、これでも半分ぐらいしか戻ってこない。従業員数三百人以上の大きな
企業でも出されないところがかなりの数ありましたし、実際に間違いも非常に多かった、かなりの間違いと思われることがありました。
これらのことを今度は
法制化してきちっとやらなければいけないわけで、このときに正しい
情報あるいは高い報告率がなければ、非常に熱心に報告した
企業だけが、あるいは熱心に報告した
地域だけが
環境汚染をたくさんしているというふうに見られて、正直者がばかを見るような
制度になりかねないので、これらを避けるためにも、
地方自治体の
調査、勧告等の
責務と権限を明確にする必要があると考えております。
また、
PRTRの報告のチェックが今非常に明確でないわけでございまして、
政府案ですと明確でないものですから、このまま
情報が公開されますと、当然、市民団体がチェックをするという
役割を果たすことにならざるを得ない。そうしますと、国や
地方自治体、
業界団体あるいは個別
企業に対して市民団体だけが
問題点のチェックをするということは、対立的
関係をむしろ助長するおそれがある、このことは地元住民にとっても、地元
企業にとっても余り好ましいことではないというふうに私は思います。そのためには、自治体が助言指導と同時に何らかの
調査、チェックする機能を持つということが必要であるというふうに考えております。このことは、今後の、地元の住民、
企業と一体になった地方自治が発展するためにも必要であるというふうに考えております。
また、OECDの勧告あるいは地球サミットの宣言等にも書いてございますが、市民団体にも十分な
情報と
責任を持たせることによって、むしろ、
地域住民や一般
国民の正しい
理解を促し、
行政や
企業との相互
理解を深める、いわゆる
リスクコミュニケーションの
役割の一部を担ってもらうことも必要であるというふうに考えております。
またもう一方、
全国の
地方自治体が現在、
規制を中心にした、いわゆる基準値を守らせるという
規制を中心とした
環境行政を従来はやってきたわけですが、この
PRTR制度は、
規制ではなく、
関係者全体が
協力して予防的に
化学物質の
管理をする
制度でございます。こういったことが必ずしも
地方自治体でも
理解を十分されていないのが現状でございます。もちろん、
愛知県、神奈川県等進んだ
地域ではかなりの
理解が得られておると思うわけですが、
全国大変広いわけでして、いまだに、
規制をする、基準を守らせることが中心だと考えておる自治体もあるわけでございます。
そういう
意味では、この
PRTR制度を
地方自治体が主体的に
参加をする形、
情報をもらってそれを公開する、あるいは国のやることに対して
意見を述べられるということではなくて、主体的に
参加することが、
規制中心でない
環境行政を定着させる、
規制で動く
企業活動でない形をつくる、あるいは
地域住民と自治体と
企業との
コミュニケーションを
促進する上で、今後、日本の新しい自立した日本社会を築くためにも非常に重要であるというふうに考えておるわけでございます。すなわち、
PRTR制度を、
地域住民、
国民の安全を守る形で定着するには、
地方自治体の関与が非常に重要であるということです。
二番目のことが、個別
情報が利用しやすい形で
国民に公開される保証が必要であるということでございますが、これについてはかなり、
政府案もインターネットでやれるというふうなことは
近藤先生がおっしゃいましたので、それが保証される、無料あるいは非常に安価にできることが保証されれば、それは非常にいいことだというふうに考えております。
また、この分野の科学技術は非常におくれている状態にありまして、学術
審議会等でもこの分野の
充実がうたわれ、また
政府案、民主党案でもその旨述べられておるわけですが、この分野の科学技術を有効に進歩させるためにも、
情報の利用が自由に、加工できるような形で、安価にあるいは無料で入手できることが極めて重要であるというふうに、私
ども科学
関係者、いろいろな学会で既にこの準備に入っている
状況にあるということもお知らせしておきたいと思っております。
また三番目は、
営業秘密の件でございますが、現在は
政府案では所管大臣が
審査をするということになっております。これは、所管大臣といいますのはコーチあるいはマネージャーでございまして、コーチやマネージャーが審判をするというのは、仮に不正がないとしても周辺からはやはり不正を疑われる非常にまずい
制度だというふうに私は思っております。ぜひ、第三者による
審査会で
審査をしていただきたい。そのことが、
企業がもし
営業秘密を認められないときの
異議の申し立ても、担当のお役人さんに申し出るというのではなくて、きちっとした組織に申し出られるということが必要だというふうに考えております。
また、
事業所管大臣に出すということでございますが、こういったことは世界的には例のないことでございまして、スウェーデンがヨーロッパ十三カ国にアンケートしたものでも、ほとんどの国、アイルランドと英国以外はすべて、
地方自治体と国、あるいは
地方自治体経由で国という形の、しかも
環境行政に報告をするという形になっております。アメリカでも国と
地方自治体に、
地方自治体というか州に、両方に報告するようになっておりますし、韓国でも自治体に委任をしております。台湾でもそうでございます。そういった形で、
地方自治体が報告を受け取るという形が非常にこの
制度を
充実するためには必要であるというふうに思っております。
四番目は、新しい
制度でございますので、非常にまだ不明確なところが多い。
国民の不安がある
物質は、
対象とするようにしなければいけない。
規制でない、予防的なものであるということもありまして、
国民不安のあるもの、
国民の
意見を聞いて、
対象物質あるいは
対象事業所、含有量等のすそ切りも決めていく必要があるかと思いますが、
政府案の中では余り明確にされていないということで、この点をさらに明確にする必要がある。
それから、非常にたくさんの
化学物質の有害性についての
情報が非常に不足しておりまして、今後さまざまな
情報が次々と追加されてくる可能性がある。あるいは、
制度も社会の大きな変化に合わせるために、
法律の見直し期間も現在、
政府案は十年となっておりますが、五年ないし七年程度で見直す必要があるのではないかというふうに思っております。
その他としまして、非点源の
移動量というのが、
環境庁の
PRTRパイロット事業では推計しておるのですが、今回の
法案には抜けておる。この点についても、非常に今後重要なことなので、何らかの処置が必要であろうというふうに思っております。
また、取扱量等の報告、これはパイロット事業で昨年度行ったのですが、余り
事業者の抵抗もございませんでした。また、誤った報告のチェックには非常に有効でございました。これはアメリカも韓国もこれを報告させておるわけで、こういったことも今後検討をしていただきたいというふうに思っております。
以上、今回の
法律を、
地方公共団体に
PRTR報告の受け取りやチェックの
責務と権限を与えられ、個別
情報の公開を無料または安価とし、公正な
営業秘密の
審査を行い、
事業所管官庁の裁量権限の強化を避けて
国民の
意見を反映する
法律とすることが、今後二十一世紀の日本の発展のために不可欠であり、
行政改革あるいは地方分権、
情報公開、国際化の
促進といったことにも非常に重要であるというふうに考えております。議員の皆様方が真に
国民と国の将来を考えて、この
法案の
審議を行ってくださることをお願いいたします。
なお、
参考のため、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の社説等及び日本弁護士連合会の
意見書をつけさせていただいておりますが、主要な論点、主張はほとんど私の述べたものに近いというふうに考えておりますので、御
参考にしていただきたいと思います。
以上です。