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大住参考人 新潟大学におります
大住でございます。
私の方からは、先月の暮れに公表いたしました
PHP総合研究所の「
日本の
政府部門の
財務評価」につきまして御報告させていただきたいと思います。基本的には、
加藤先生の言われた趣旨に沿って私どもも
PHP総合研究所におきまして
試算作業を行ってきたわけです。
そもそも
日本の
政府の
財務の
状況が客観的に見てどうなのかということがよくわからないわけです。その理由は単純であります。
現金主義会計で、毎年毎年の
フロー、
経済活動の
フローのみを押さえている、こういうところに原因があるからです。今
現状、
政府が
税収などを使いまして
公共サービスを供給しているわけですけれども、その結果、今何があるのか、こういうことは全く、全くとは言いませんけれども、ほとんどわからないわけです。したがいまして、私も、一
研究者といたしまして
PHPのこのプロジェクトに参画をいたしまして、勉強しながら、とりあえず
試算をしてみた、つくってみたということでございます。
お配りいたしております
資料がございます。実はおわびを申し上げる必要があると思いますけれども、
二枚目以降の
図表がやや不鮮明であります。私、新潟に住んでおりますので、ファクスで送りましたところ、どうも不鮮明な形で
コピーがお配りされているようですので、恐縮ですが、
調査室の方で作成をされております「
公会計の
在り方に関する
関係資料」の中の十二ページ以降をあわせてごらんいただきながらということでお願い申し上げたいと思います。
そもそも
公会計改革の
目的でございますけれども、これはまさに
アカウンタビリティーの
確保であります。直面する課題といたしまして、
財政危機が進行しているというような何となく漠とした感覚があるわけですけれども、
財政危機がどの程度深刻なものなのか、果たしてこのままいくと
財政が維持可能なのか、サステーナブルであるかどうか、こういうことがよくわからないわけです。さらに、
個々の、個別の
政策につきましても、その
政策の
コストが、
費用がどのぐらいかかり、それがどのような効果を上げているのか、こういうことがよくわからないわけです。
そもそも
政府の
経済活動といいますものは、
財政学的な
観点に立ちますと、
租税、
国民の皆様から
税収を集めて、それを
もとに
公共サービスを供給しているわけですから、少なくとも
財政の
実態については明らかにすること、さらに、
政府の
経済活動が適正であるかどうか
説明をする、
国民に対して
説明をしていく、こういう義務があろうかと思います。
そういう
観点に立ちますと、
公会計改革の
目的は、先ほど私は
アカウンタビリティー、
説明責任の
確保だと申し上げました。これはまさに
二つの
観点でございます。
PHPの
報告書におきましては、
狭義の
アカウンタビリティーと広義の
アカウンタビリティーということでまとめておりますけれども、第一の
狭義の
アカウンタビリティー、これはまさに
財務状況を開示することであります。
現金主義会計の
もとで見ますと、
ストックに関する
情報が全くありません。こういう
観点から、
複式簿記、
発生主義会計へ転換することで、
フロー、
ストック両面から
財政状況がどのようになっているのか、
債務がどのぐらいあるのか、あるいはどういう
資産がどの程度あるのか、こういうことを開示していく必要があろうかと思います。
これは、
財政の
制度を客観的に見ますと、
国民からの
租税を
もとに
経済活動をしているわけですから、
租税負担との
関係で
財政がどうなっているのか、維持可能なのかどうか、こういうことを示す、こういうことであります。
第二が、先ほど申し上げました、ある
意味での
政府の業績に関する指標を出していくことであります。
会計情報から出てまいりますものは、これは
当該年度の
行政コストがどのぐらいかかっているのか、こういうことであります。
機関別に見ますと、
政府全体という
観点も重要なんですけれども、建設省なりあるいは運輸省なり、
個々の
省庁がどれくらいの
行政コストをかけて
サービスを提供しているのか、
公共サービスを生産供給しているのか、こういうことを示していくということであります。当然、
民間企業で行っております
発生主義会計のフレームを使うことで、
行政サービスを供給する
コストが厳密に出てまいります。
コストが出てまいりますと、それは
資産活用を効率化する。例えば、
政府の中にも遊休
資産あるいは非効率な使い方をしている
資産があろうかと思います。そういった
資産の
コスト、年度当たりの
コストをはじき出していくことで、
資産運用の効率化へのインセンティブを与えることになるということであります。
もっと言いますと、
民間企業で使われている
会計的な発想を導入するわけですから、
コストの官と民の比較、官民比較、こういうことがある程度可能になってまいります。ひょっとすると、
コストが
民間の方がはるかに安いということになりますと、
民営化すべきだという議論にもなりますし、あるいは、
民営化とまではいかなくても、
民間委託などの疑似的な、広い
意味での
民営化の手法を使うこともできますし、あるいはPFIといった社会資本の整備に
民間の資金を活用する、こういったこともより効率的に実施できるはずだろうと思います。
実は、
公会計改革の国際的な潮流を見ますと、
二つの考え方、
二つの潮流があると言われております。英国・ニュージーランド型と米国型であるということであります。これはとりもなおさず、先ほど私が申し上げました、
公会計改革の
目的は
二つあるわけですけれども、どちらにウエートを置いているか、そういう違いになっているわけです。
少し
資料をごらんいただきたいと思います。少し不鮮明で恐縮でございますが、お配りしております
資料の方の三ページをごらんください。
英国タイプと言われるもの、これは広義の
アカウンタビリティーの達成を重視するということであります。
英国の
行政改革の歴史を振り返りますと、保守党政権、サッチャー、メージャー両政権の
もとで、公的企業の
民営化を初め、さらには広義の
民営化と言われる
民間委託の手法、強制競争入札などというような
仕組みを導入したりとか、あるいは、九〇年代に入りまして、もう御案内のとおり、独立
行政法人の手本になっております、やや違いますけれども、手本になっておりますエージェンシー、ネクスト・ステップス・エージェンシー、こういったものを導入する、これも疑似的な
民営化の手法の一つであろうかと思います。こういうことを厳しく推進をしていったわけです。さらには、PFI、こういったものですね。
こういう広義の
民営化の背景、幅広い
民営化手法の導入の背景には、当然、
コストをはじき出していこう、官と民の
コストを厳密に比較をして、同じ
サービスを供給するならば、たとえ社会資本整備であっても
民間の方がはるかに安い
コストで供給できるとすれば、
民間に任すべきだ、こういう発想であります。
幾つかの考え方があるわけですけれども、例えば、
会計学の議論の中で、時価評価をすべきか、特に固定
資産の扱いですけれども、時価評価をすべきなのか、あるいは取得原価、かかった
費用でいいじゃないか、こういう議論、両者両様あるわけです。
英国の場合ですと、時価評価。固定
資産の評価も、再調達価格というふうに書いていますけれども、原則、時価評価なんですね。時価で判断をしましょう、今つくれば幾らかかるのか、こういう発想なんですけれども、こういう形で評価をしていくということであります。
これを、例えば
公共投資、社会資本などの分野を考えますと、十年前につくった道路と今つくった道路、今デフレですから微妙ですけれども、通常であればインフレですので、恐らく物価上昇がある、そうしますと、同じものであっても今つくった方が
費用が高い、こういうことが推定されます。ところが、十年前につくったものであっても今現在つくったものであっても、同じ道路であれば同じ便益を住民は享受できるわけです。そういったものはやはり時価で評価がえをすべきだ、こういう発想に立っています。
ところが、米国タイプですとそうではないのです。米国ですと、第一の
狭義の
アカウンタビリティーを重視しますので、実際に
租税負担をお願いする
国民負担との
関係で見ていくわけです。かかった
費用を世代間でどう配分していくのか、どう
負担していくのか、こういう
観点を重視します。したがって、歴史的原価と書いていますけれども、取得原価なんですね。かかった
費用で表示をする、こういうことになっております。
こういうことが
典型的にあるわけですけれども、英国タイプと米国タイプを比較しますと、英国タイプですと、
公会計の分野を限りなく企業
会計に近づけよう、
公会計の特殊性、こういうことは余り考えない、極限まで
民間の企業
会計の考え方を導入し、
政府の
コストを明示し、効率化を図る、こういう道具に使おう、こういうことであります。
米国タイプ、これは
公会計の特殊性をある程度考慮しているわけですね。といいますのは、
政府は、
民間企業とは違い、利益を
目的にしません。これは当然であります。そんなことをしてはいけないわけですし、また、利益を上げるにも、
費用を徴収しておりません。いわゆる
公共サービスですので、
民間の私的な
サービスとは違う、私的財とは全く違うのだ、この
二つの
観点で
公共部門の
経済活動は特殊だ、こういう
観点を比較的重視しております。そういう考え方を米国タイプではある程度取り入れているわけです。
租税、税
負担、
国民の
負担と、実際にでき上がった
資産あるいは
国債などの
負債、こういったものを明確に表示していく、こういう
観点に立っているわけです。
PHP総合研究所がまとめました
バランスシートでございますけれども、
最初のレジュメにお戻りください。
バランスシートが全くないか。
日本にはない。いや、
バランスシートがないということは正確ではないのです。
バランスシートらしきものは、実は経済企画庁が公表しております
国民経済計算にございます。
国民経済計算の
制度部門、五つの
制度部門があるわけですけれども、一般
政府というカテゴリーがございます。中央
政府と
地方政府と社会保障基金をまとめたものなんですけれども、こういうくくりで実は貸借対照表、
バランスシートが存在はしております。ただ、極めて不完全なんですね。
PHP総合研究所のアプローチは、ゼロからスタートするということではなくて、
国民経済計算の一般
政府を
もとに、これを組みかえよう、組みかえ推計をしていこう、不十分なところを直していこう、こういうことでつくりました。
どこをどう変えたかということなんですけれども、先ほど
加藤先生の
お話にも多少出てまいりました。私どもの作業で申し上げますと、二点ほどにまとめられようかと思います。
発生主義会計の
典型的な修正ポイント、これは、固定
資産、特にインフラなんですね。インフラ
資産の減価償却
費用、毎年毎年、企業であれば減価償却
費用を積み立てています。これを計上していこうということであります。今回の推計で、統計的な制約がございましたので、最もインフラ
資産の中で大きなウエートを持つと言われております道路について減価償却
費用を計上しております。
もう一つ、これは人の面であります。
政府は
公務員を雇用しておりますので、
公務員共済の
公務員の
部分の年金の将来
債務について、少なくとも
政府が積み立てる必要がある。恐らくほとんど積み立てておりませんので、これを積み立てますと、
政府の
バランスシートは悪化するということになります。
もう一点、
公務員の
退職金の将来
債務、これを計上しよう。
退職金というのは、
退職年齢に達したならば支払われるわけですけれども、何も、例えば六十歳なら六十歳という定年に達した時点で発生するわけではなくて、雇用されている
期間、毎年毎年発生しているわけですね。そういう
部分の
債務を計上する、こういうことであります。
推計結果でございますけれども、
数字をごらんいただこうと思います。
調査室でおつくりいただいております
資料の十六ページをごらんください。こちらの方が写りがよろしいですので、ごらんいただきやすいかと思います。
SNAで一般
政府の
バランスシートの帳じりのところ、
正味財産がございます。これが九六暦年で四百二十四兆円というかなりのプラスの額だったわけです。
ところが、今回の組みかえ推計、修正作業をいたしましたところ、九六年度ベースで二百十二兆円という形で大きく減少しております。これは、先ほど申し上げました修正した
部分の影響であります。インフラ
資産の減価償却
費用及び
公務員共済、
退職金の将来
債務の計上、こういうことであります。
多少減ったけれども
資産が
負債よりも多い、したがって健全だ、こうお考えになるかもしれません。しかし、よく考えてみますと、
政府の
資産、これは大半が売却できないものであります。
負債があるからといって
資産を売って
負債の返済に充てる、こういうことができません。したがいまして、この二百十二兆円という
数字がどういう
意味を持つのかということをよく考えてみますと、微妙な面を持っております。
したがいまして、もう一つ別の概念をつくりました。
政府可処分正味
資産と言われるものであります。つまり、
政府の
資産の中で売却ができない
資産、売却不可能な
資産がございます。こういった
資産を取り除いていこう、そうするとどうなるのか、こういうことをやったわけです。そうしますと三百六十八兆円の赤字、こういうことです。ジャーナリスティック的な表現を使いますと、ひょっとすると
債務超過ということになるわけです。
政府の保有している
資産を売っても
債務が返済できずに三百六十八兆円残ってしまう、こういうことです。
仮に、これは簡単な
試算なんですけれども、
現状で
債務超過の三百六十八兆円を返済しようとしますと、例えば消費税に直しますと、七%の追加が必要である。この前提としまして、二〇二五年までで完遂する、ゼロにする、こういうことで簡単な計算をしたわけですけれども、こういう結果になるわけです。
問題点が細かい
部分ではかなりあります。ただ、とりあえず
試算をまとめてみたわけですけれども、今回の作業を通じまして、何となく
公共部門における
バランスシートの作成の意義と限界というものがわかってきた感じがいたしております。
まず、意義でございますけれども、
財務情報の開示ということがある程度できるということであります。
政府の
財務状況の健全性をチェックする有効な素材を提供する、こういうことは評価していいと思います。
ところが、
現状の
政府全体あるいは中央
政府、
地方政府、こういう大きいくくりで今回つくったわけですけれども、これだけで一体何がわかるんだろう、こういう疑問がやはりわいてくるわけです。それは二点ほどございます。
先ほど
加藤先生の
お話にもございましたけれども、やはり
連結会計的な発想が必要なんだということであります。今回の
PHPの推計作業、これは
国民経済計算の一般
政府の
制度部門を出発点としております。したがって、ある
意味でこれが限界になっているんです。はっきり言いますと、第三セクターを初め
特別会計で独立採算的な運営をしているもの、あるいは公的企業、公営企業のようなもの、こういったものが抜け落ちております。しかし、例えば
地方自治体の
財政状況を見ますと、第三セクターの破綻が問題になっておりますし、あるいは、公営企業の抱える
債務の問題、これも非常に大きな問題としてクローズアップされております。したがいまして、こういった
部分も
連結をした
情報を提供する必要があるのではないか、こういう考えを持っております。ただ、今回の作業では、基礎統計がなかったのでできなかったということであります。
三番目のところなんですけれども、
バランスシートだけではやはりこれは不十分であります。
政府の業績評価に活用するということを申し上げました、広義な
アカウンタビリティーだということを申し上げましたけれども、これは
二つの点で不十分だろうと思います。
今回つくっております
バランスシートですけれども、一般
政府ですとか、あるいは霞が関の中央
政府ですとか、
地方自治体の全部ですとか、こういう形でくくっております。実は
政府はいろいろな
サービスを供給しているわけです。こんなことは申し上げるまでもございません。ですから、
サービスカテゴリーごとにどれぐらいの
行政コストがかかったのか、まさに先ほど
加藤先生の御
説明にございましたけれども、米国におきましてとられているような
行政コストの原価計算のようなもの、こういう
資料を添付することは不可欠であろうと思っております。
第二点ですけれども、少なくとも純粋な
会計的な
情報では、
行政の
コストしか、
費用しか出てまいりません。確かにこれはこれで非常に重要な
情報でありますけれども、やはり
行政の生み出した
サービスそのものの評価を加える必要がどうしても出てくるだろう。したがいまして、
行政評価と
公会計改革が車の両輪であるという
お話がありましたけれども、まさに私もこの点は重要だと思います。
コストのみでは評価できないわけですね。ですから、そういう点で、今回まとめました
PHP総合研究所の
バランスシートをきっかけに、こういった将来の展望も含めまして議論が進めばということを期待しております。
以上でございます。(拍手)